がんが見つかった場合、まずは公的医療保険適用の標準治療を受けるのが一般的だ。これらの治療は本来は高額だが、保険と高額療養費制度により患者の負担額は軽く済む。
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最初の治療法として選ぶべきは、エビデンスがある保険適用の標準治療だが、思うように効果が出なかったり、経過観察中、再発を恐れて“ほかに治療法はないか”と高額な自由診療を選択する人も少なくない。NPO法人「がんと暮らしを考える会」理事長・看護師の賢見卓也さんは、こう話す。
「自由診療の治療法だけに期待しすぎない、頼りすぎない、標準治療をしてくれている主治医とよく相談する──この3つのルールを守り、財力や体力、時間に余裕があれば、試す価値はあると思います。特に主治医との連携が大切。患者さんが勝手なことをすると、治療方針が揺らぐだけでなく、主治医との信頼関係も崩れてしまいます」
そのうえで標準治療の効果をさらに高めるため、自由診療による治療法を試す人もいるだろう。では、どのような治療法があるのか。最新情報を紹介する。
がん免疫療法:免疫力を強化するものとがんの妨害を防ぐもの
人の体内には、病原菌や異常な細胞を認識し、それらを攻撃することによって体を病気から守る免疫のシステムが備わっている。一方で、自分の細胞を攻撃したり、過剰な免疫が働いたりしないようブレーキの機能も持っている。
がん免疫療法とは、この免疫システムに働きかける治療法で、2種類に大別される。
1つは、がん細胞に対する免疫の攻撃力を強化する方法で、「樹状細胞ワクチン療法」「NK細胞療法」「6種複合免疫療法」などが挙げられる。
もう1つは、がん細胞が免疫の働きにかけているブレーキを解除することで、免疫細胞の働きを再び活発にしてがん細胞を攻撃できるようにする方法。皮膚がんや肺がんに適用される「オプジーボ」に代表される「免疫チェックポイント阻害薬」がこれだ。
2種類の治療法はいずれも高額だが、後者の「免疫チェックポイント阻害薬」は保険適用となり、また高額療養費制度も使えるので、金額面の負担は軽減される。
前者の免疫の攻撃力を強化する方法は、患者自身の免疫細胞を培養、あるいは、がん細胞を特異的に認識して攻撃するよう強化する方法で、自身の細胞を用いた治療のため、副作用がほとんどないのがメリットの1つだ。がんの治療はもちろん、再発予防として選択する患者も多いという。
とはいえ、ほとんどの治療法に保険が適用されないため、1クール(4~5か月)180万円以上かかる(医療機関によって異なる)。しかも1クールで終了するとは限らないことを覚えておきたい。
実際にこうした治療法を取り入れている「三番町ごきげんクリニック」院長の澤登雅一さんはこう話す。
「私は長年、がんの標準治療を行ってきましたので、標準治療のよい部分は充分に理解しています。しかし、治療効果だけでなく、副作用や栄養管理など、不充分と感じる点もありました。そこで、標準治療と併用することで、より効果的に標準治療を受けられるようなサポートができればと考えるようになりました」(澤登さん・以下同)
免疫を上げることでほかの治療との相乗効果が期待できる可能性が高いため、標準治療と自由診療の併用が基本だと考えた方がいいという。
「がんと診断されたら、標準治療を受けることが大前提です。クリニックには、標準治療を受けたくないという理由で受診される人もいらっしゃいますが、効果を期待できる治療を受けられる患者さんには、標準治療を受けるよう交通整理をすることも私たちの仕事です。その上で、主治医の了解のもと、副作用対策や相乗効果を期待して、標準治療以外の治療を併用することをおすすめしています」
主治医の承諾を受けて、連絡を取りながら治療を進められるのがベストというわけだ。とはいえ、高額を支払ってがん免疫療法を行っても、効果の出方は患者によって違うという。
「私たち医師は、治療効果を出すべく最善を尽くしていますが、それでも効果が見込めないケースはあります。その場合、治療を行わない、あるいは、よいタイミングでほかの治療を選択することも必要です」
治療を変更する可能性も考え、1クール分の治療費をまとめて請求する病院ではなく、受けた治療に対してその都度、費用を支払うシステムの病院を選ぶのも、自由診療を行う病院選びの基準になる。
●ガンマ・デルタT細胞:抗がん剤との併用で効果に期待
ガンマ・デルタT細胞とは、がん細胞を直接攻撃する免疫細胞の1つで、患者から採取した血液中のガンマ・デルタT細胞を体外で増殖させてから、再び点滴注射で患者の体内に戻す治療法だ。
「ガンマ・デルタT細胞は、多彩な受容体(刺激を受け取り、それを情報として利用できる構造)を持っていて、がん細胞の表面に発現するさまざまな分子をいち早く認識して、樹状細胞などの指令なしにがん細胞を攻撃できるメリットがあります。しかも近年、その殺傷力が非常に強いこともわかってきています」
抗がん剤治療などと組み合わせて行うことで、がん細胞への殺傷力をより高められると期待されているという。
ただし、このガンマ・デルタT細胞はT細胞の中の数%でしかなく、培養が難しいというデメリットも。
●アルファ・ベータT細胞療法:体力を失っていても免疫細胞を増やせる
免疫細胞には、直接がんを攻撃するタイプとがん細胞を発見して攻撃するように指令を出すタイプがあり、前者がNK(ナチュラルキラー)細胞とT細胞だ。
このT細胞の一種がアルファ・ベータT細胞で、この細胞を増やすことで免疫力を強化するのが、「アルファ・ベータT細胞療法」だ。
治療は患者から血液を採取し、2~3週間かけて血液中のアルファ・ベータT細胞を培養して増やす。その後、数百倍から数千倍に増えたアルファ・ベータT細胞を生理食塩水とともに点滴で患者に戻す方法がとられるという。
「がんを発症している人の多くは、健康な人と比べて免疫細胞の数が減少傾向にあります。しかし、アルファ・ベータT細胞は、免疫細胞の中でも比較的増殖しやすいので、免疫機能が低下して、血液中のT細胞が少ない患者さんでも受けられる、というメリットがあります」
また、免疫力を総合的に高めるので、抗がん剤治療の副作用の軽減にもなるという。
●NK細胞療法:免疫のパトロールと攻撃力を強化する
血液中に10%ほどあるNK細胞は、強い殺傷力を持つ免疫細胞の1つ。NK細胞は常に体内をパトロールしていて、がん細胞やウイルスに感染した細胞など、異常な細胞を発見すると攻撃する。
「NK細胞療法」とは、患者の血液からNK細胞を採取し、増殖、強化した細胞を点滴注射で戻すというもの。
「がん細胞には、がんだけが出している目印(がん抗原)があり、がんを死滅させる力の強いキラーT細胞は、その目印を認識して攻撃を仕掛けるのですが、なかにはその目印を隠しているがん細胞もあります。そうすることでキラーT細胞の攻撃を逃れようとするわけです。
そこで、これをサポートするのがNK細胞です。NK細胞は、目印を隠したがん細胞も、速やかに認識して攻撃します。
キラーT細胞の司令塔として働く樹状細胞を増殖させる『樹状細胞ワクチン療法』(以下で詳述)と併用すると、より高い効果が期待できます」
●樹状細胞ワクチン療法:殺傷力の強いキラーT細胞を操る
樹状細胞にはがん細胞を殺す能力はないが、殺傷力の強いキラーT細胞にがんの目印(抗原)を伝えて、攻撃の指示を与える役割を担っている。
治療の流れは、患者の血液から樹状細胞のもととなる「単球」を取り出してがんの抗原を教え、どの抗原を攻撃すべきかを指示できる樹状細胞に育ててから患者の体に戻す。
「樹状細胞にがんの抗原を教えるには、手術で切除した患者さんのがん細胞のほか、人工抗原を用いる方法があります」
この「樹状細胞ワクチン療法」は近年進化しており、現在では、「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法」の研究が進められているという。
「これまでの人工抗原は、がん細胞に多く発現しているものの、正常細胞にも発現するものだったため、正常細胞にもダメージを与えるデメリットがありました。しかし、ネオアンチゲンは、がん細胞にしか発現しない抗原なので、正常細胞が攻撃されないで済みます」
●6種複合免疫療法(BASIC):6種の免疫細胞を一斉に強化する
「免疫細胞は互いに連携しながら働いているので、患者さんの免疫力を高めるには、キラーT細胞、NK細胞、ガンマ・デルタT細胞、樹状細胞、ヘルパーT細胞(免疫を活性化させる)、NKT細胞(免疫の活性化や調整を担う)の、6種の免疫細胞の働きを一斉に高める必要があります」
そこで開発されたのが、6種の免疫細胞を同時に培養、活性化させるこの療法だ。
「私たちの体は、もともと備わっている自然免疫と、病原体や毒素などの異物と接触することで後天的に獲得した獲得免疫に守られています。この免疫療法は、前者の自然免疫を強化します。
手術などでがん細胞を除去しても、小さながん細胞が残っている場合も。それが血液やリンパの流れにのって転移することもあるので、その予防に検討していただきたい治療法です」
がん細胞の増殖や薬の副作用で弱った免疫力の回復を目的としているため、標準治療を終えた後の選択肢となるだろう。
●6種複合免疫療法(CSC):がん細胞の親玉・がん幹細胞も攻撃
「6種複合免疫療法(BASIC)」に「樹状細胞ワクチン療法」を付加したのが、6種複合免疫療法(CSC)だ。
「これは自然免疫と獲得免疫の両方を強化します。『樹状細胞ワクチン療法』に使う人工のがん抗原は、WT1ペプチドといい、これはすべてのがん細胞に発現するがん抗原の1つなので、さまざまな種類のがん治療に使えます。WT1ペプチドは、正常細胞にはほとんど発現しないので、正常細胞へのダメージも最小限に食い止められます」
しかも6種複合免疫療法(CSC)では、がん細胞だけでなく、がん幹細胞まで攻撃できるという。
「がん幹細胞とは、高い増殖力を持つがん細胞の親玉のようなもので、この幹細胞が死滅しない限り、がんは完治しません」
そのため、この療法はがん治療を受けている人にすすめたいという。こちらも標準治療との併用が基本。医師と相談しつつ進めよう。
【※「三番町ごきげんクリニック」では、上記すべての治療法を行っているわけではなく、同仁がん免疫研究所と共同で「6種複合免疫療法(BASIC)」と「6種複合免疫療法(CSC)」を行っている】
高濃度ビタミンC点滴療法:抗酸化作用でがん細胞を封じ込める
ここまでは免疫療法を中心に紹介してきたが、その他の治療法も紹介しよう。
「がんに対するビタミンCの研究は、1970年代から行われていましたが、実際に『高濃度ビタミンC点滴療法』が広く行われるようになったのはごく最近のこと。2005年に、アメリカ国立衛生研究所(NIH)から、ビタミンCががん細胞に効くメカニズムを示す論文が発表されてからです。その後、海外を中心に多くの臨床試験が行われています」
ビタミンCを大量に静脈内に投与すると、体内に過酸化水素が誘導され、強い酸化作用によってがん細胞が死滅する一方、過酸化水素を分解する酵素をもつ正常細胞はダメージを受けないことが示されたのだ。
「海外の臨床試験により、抗がん剤治療と併用すると副作用が軽減することも報告されていますし、放射線照射による皮膚の黒ずみも回復が早くなります」
澤登さんは、自由診療は標準治療との併用が効果的とするが、この療法の場合、単独でがんに効く症例もある。
「たとえば、リンパ腫や白血病などの血液疾患、KRASとBRAFの遺伝子変異が認められる大腸がんには、高濃度ビタミンCの効果が期待できるという論文もあります。この遺伝子変異は、日本人の大腸がんの患者さんの3~4割に見られます。また、子宮頸がんの一歩手前の状態である細胞の異形成にも効果があるようです」
高濃度ビタミンC投与により、がんの新生血管が減少し、増殖を抑制したという報告もある。
「がん組織には、新しい血管をどんどん作り、その血管からの栄養で増殖していく性質がありますが、私たちが行った研究では、ビタミンCにはこの血管新生を阻害する働きがあることがわかりました」
1回の「高濃度ビタミンC点滴療法」にかかる時間は1~2時間で、費用は2万円~。病状にもよるが、週に2回から始めて、週に1回、2週間に1回というように回数を減らしつつ、1年以上通う人が多いという。
温熱療法:熱に弱いがん細胞の性質を利用した治療法
がん細胞は、42.5℃以上で死滅するとされ、温熱療法は、その性質を利用している。東京ユニリバースクリニック院長の西田陽司さんが解説する。
「正常細胞に熱を加えると、周辺の血管が拡張することで血流量が増えて放熱するのですが、がん組織の血管はほとんど拡張できず、そのため熱を逃すこともできず死滅してしまうのです。さらに体を温めると免疫細胞も活性化するので、がん細胞にとって居心地の悪い環境となります」
主な温熱療法には「ハイパーサーミア」があり、これは、手術や放射線療法などとの併用に有効性が実証され、1990年に電磁波による局所温熱療法として保険適用された。しかし、1時間も同じ姿勢を維持しなければならず、患者の身体的負担が大きいという。そこで以下の方法も紹介する。
●ラドン温熱療法:低線量の放射線による療法
「ラドン温熱療法」とは、低線量の放射線を体内に取り入れることで、さまざまな健康効果を引き出そうというもの。
「人工的な高線量の放射線は、体に悪く、逆にがんを引き起こしかねないともいわれていますが、自然の鉱石から発せられる低線量の放射線は、体にいいとされています」(西田さん・以下同)
治療法としては、自然の鉱石から発せられるラドン(低線量の放射性気体)の蒸気を体内に取り入れるのだという。
「具体的には、カプセルの中でミストを浴びます。この方法はラドン温泉と同じ原理。秋田や鳥取、山梨などのラドン温泉地域の住民は、がんによる死亡率が低いというデータもあるんです」
この療法には、鎮痛効果やデトックス効果もあるという。
「がん治療には体内にため込んだゴミを出すデトックスも必要。そのため私のクリニックでは、温熱療法と併せて、ケトン食(糖質制限食の一種)や解毒効果のある食材などを取り入れるための食事サポートも行っています」
●GKO温熱療法:特殊な周波数のマイクロ波を照射
「GKO温熱療法」は、上記「ラドン温熱療法」に、SHTと呼ばれる温熱機器を用いた療法を併せて行う。それぞれの治療時間は20分ほどだという。
「この療法には、がん抑制、免疫向上、鎮痛、デトックス、ホルモンバランスの調整などの効果が期待できます」
SHTは、患部に直接、マイクロ波を当てる機械だ。
「特殊な周波数のマイクロ波を患部に照射することにより、体内にあるがん病巣の温度をわずか数秒で42~44℃にまで上げられます。ただ、すべてのがんに効くというわけではなく、熱の届きにくい子宮や卵巣、また、腹水がたまっている患者さんの場合は、治療が困難となります」
1回の治療費は約1万~3万円。通常は1週間に2回ほどの治療から始め、病状によって少しずつ回数を減らしていくわけだが、開始から3~4か月後の確認が、効果を判断するひとつの目安になるという。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2022年3月31日号