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日本の病院の実力】慶應義塾大学病院スポーツ医学総合センター 若い世代の肥満治療で様々な診療科が連携


国内男性の2人に1人は、メタボリックシンドロームの疑い、もしくは予備群と推計され、心疾患や脳卒中のリスクが高い。それを解消すべく、2008年4月から特定健診・特定保健指導が国を挙げてスタートした。

だが、対象は40歳以上。つまり、20~30代で体重増加の大きい人は、特定健診から抜け落ちる。

 近年、日本の食生活は1960年代以降に西洋化が著しく、40代以下の人たちは、欧米型の肥満であることがわかってきた。長年、体重の増加を放置すれば、将来的な病気に結びつく。

 そんな若い世代の肥満治療と研究を行っているのが、慶應義塾大学病院スポーツ医学総合センター。独自の食事指導や運動指導を行い、予防に重点をおいた医療を提供している。

 「若い世代の肥満は、糖尿病になりにくく、健診結果は放置されがちです。しかし、高血圧や脂質異常症が進行して動脈硬化は進み、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。この状況をなんとかしたい」と、勝川史憲教授(55)。

 内分泌代謝内科を専門とし長年、20~40代の肥満治療に取り組んでいる。

 同センターは92年に開設。スポーツ選手の治療やサポートの一方で、糖尿病の運動療法や、心疾患手術の後の心臓リハビリなども実施。整形外科、循環器内科、内分泌代謝内科など、さまざまな診療科の医師が集まって総合的な医療を提供している。

 「私の内科の診察室がたまたま糖尿病外来の横で、私が担当したのは糖尿病以外の肥満の人だったのです。

糖尿病の外来は、60~70代の方が多いのですが、私の診察室には、20~40代の比較的若い肥満の方が集まった。それが研究を進めるきっかけです」

 こう話す勝川教授は、外来や健診のデータを分析し臨床研究を行うことで、若い世代の欧米型肥満の特徴を明らかにした。

 若い世代は外食が中心で、多忙なうえに運動不足にもなりがち。体重は年々、増加の一途。意を決しダイエットに成功しても、しばらくするとリバウンドしやすいだけに、長期間にわたって体重が維持できるような取り組みが重要だと言う。

 「極端な方法は逆効果です。外食でいかに食事をコントロールすればよいか。

また、栄養士の先生に健康レシピも考えてもらいました。運動についても、(1)自主的に行い、(2)達成感があり、(3)周囲との関わりがある方法を考慮しないと長続きしません」

 勝川教授が着手しているのは、スポーツインストラクターなど医療従事者以外の人々と協力したダイエットシステム。職場や地域を取り込んだ新たな仕組みを開発中だ。

 「医師対患者さんという1対1の医療の枠組みは、特に予防の方策を提供するには限界があります。

広い範囲にアプローチし、楽しく運動や食事を続けられる仕掛けが必要。近い将来、その方法を確立し、多くの人々に提供できるようにしたい」と勝川教授。

 新たな仕組み作りに、揺るぎない姿勢で取り組み続けている。 

<データ>2012年度実績(スポーツ医学総合センター)

・外来患者数7605人 ・初診患者数499人

・再診患者数7106人 ・病院病床数1044床

〔住所〕〒160-8582 
東京都新宿区信濃町35

胃がん名病院ベスト50 「静岡がんセンター」1位のワケ


自分や家族ががんと宣告されたら、誰もが「助かる病院」を選びたいと思うだろう。その際、ひとつの目安となるのが「診療実績」だ。

急性期病院の診療実績比較サイト「病院情報局」のランキングによると、全国の急性期病院における「胃がん」の診療実績では、静岡県立静岡がんセンターが第1位だという。

東京の国立がん研究センターや、がん研有明病院といった「日本のがん治療の権威」を抑えての首位。その背景には何があるのか。

 調査をしたのは「病院情報局」(http://hospia.jp/)を運営する医療情報調査会社ケアレビュー。医療機関の患者満足度調査などを手がける同社では、同サイトで全国の病院の疾患別患者数などをランキングしている。

 元となるデータは、DPC(診断群分類包括評価)という医療費支払い制度を導入している医療機関が、国に提出する診療実績を元に弾き出した数字。

現在、有力な病院の多くがDPCを導入しており、同サイトの数字は「大きな視点で病院選びを考えるうえで役に立つ」(医療経営に詳しいジャーナリストの堀口直人氏)と評価されている。ここでは、胃がんの診療実績に注目してみた。

 同サイトによると、2011年4月から12年3月までの1年間における胃がんの診療実績で1位になったのは静岡県立静岡がんセンターで、退院患者数は1345人。

2位のがん研有明病院(1143人)、3位の国立がん研究センター中央病院(1075人)など日本のがん治療の中心的存在とされる病院を抑えてのトップだ。

 「静岡がんセンターは、02年開設の比較的新しいがん治療専門病院。開設以前の静岡県東部は、大学病院や全国的に有名な民間病院の集まる県西部と比較して、医療提供体制が薄かった。

がんのような重大疾患だと、新幹線で東京に通う人も珍しくなかった」(別の医療ジャーナリスト)

 そこに誕生した同センターは、県で唯一の陽子線治療施設を持つなど、最高水準のがん治療専門病院で、メディアで紹介される機会も多い。

 「開院以来のテーマは“がんを上手に治す”。

内視鏡診断と治療、腹腔鏡やロボット手術を含む外科手術、薬物療法、緩和ケアを取りそろえて実践してきた“多職種チーム医療”により、熟成した良質な医療の提供ができていると自負しています」(同センターの玉井直院長)

 ランキングでは、上位に大学病院が少ないのが特徴。1位から4位までは、すべてがん治療に専門特化した高機能病院だ。

 「大学病院は臨床機関であると同時に教育機関としての役割を担っており、がん以外の疾患にも相応の力を入れざるを得ない。

そうした事情をネットなどで知った患者たちは、大学病院より専門病院に向き始めているようです」(前出の堀口氏)

 糖尿病や高血圧などの基礎疾患を抱えている人であれば、大学病院や市民病院のような総合力で勝負する病院のメリットが生かせるケースもあるが、がんだけに目を向けた時、専門病院は患者の個別性に応じた医療を実践しやすいという側面がある。

今回のランキングの元となる数字は、胃がんで治療を受けて退院した人の数であり、手術件数だけではない。

胃がんは早期なら内視鏡による切除が可能だし、それより進んだ状態でも、腹腔鏡手術のように患者の体への侵襲が小さい治療法が選べる可能性がある。

また、病態によって外科と内科の担当が変わる場合もあるので、その双方で実績があり、診療科同士が密接に連携している病院が、総合的に診療成績も高まることになる。

 小野裕之副院長は、「外科医と腫瘍内科医の充実に力を入れる一方、治療に伴って生じる苦痛を取り除く支持療法や、がんが引き起こす痛みを除去する緩和ケアにも取り組んできました。

その結果、優秀で熱意のある医師が最新・最善の医療を提供できる環境が整備されてきたことが評価につながったのだと思います」と分析している。

 もうひとつの注目は、2、3位を挟み、4位に新潟県立がんセンター新潟病院がランキングされたことだ。

 「過去には胃がん手術症例数で3位になったこともあり、全国がん(成人病)センター協議会加盟病院を対象とする胃がんの5年生存率調査でも2位。今回の順位にも違和感はありません」と梨本篤副院長は自信を見せる。

 同病院では、胃がん患者に関しては必ず「胃がん専門医」が主治医になり、熟練したスタッフで構成されるチームで治療を進めている。手術だけでなく化学療法にも積極的に取り組んでいることなどが、4位の原動力となったようだ。

 「県民性もありますが、やさしくて思いやりのある医療が行われていると思いますよ」と梨本副院長。がんの専門医療については、地域間格差は解消に向かっているようだ。

 ランキングでは、上位に大学病院が少ないのが特徴。1位から4位までは、すべてがん治療に専門特化した高機能病院だ。

 「大学病院は臨床機関であると同時に教育機関としての役割を担っており、がん以外の疾患にも相応の力を入れざるを得ない。そうした事情をネットなどで知った患者たちは、大学病院より専門病院に向き始めているようです」(前出の堀口氏)

 糖尿病や高血圧などの基礎疾患を抱えている人であれば、大学病院や市民病院のような総合力で勝負する病院のメリットが生かせるケースもあるが、がんだけに目を向けた時、専門病院は患者の個別性に応じた医療を実践しやすいという側面がある。

「日本の病院」ランキングNo.1が決定! 2位の「聖路加国際病院」を抑えた1位は?【2021年版


テーマ:

●第2位:聖路加国際病院

●第1位:東京大学医学部附属病院

脳腫瘍の手術数ランキング全国トップになった病院 躍進の理由は?〈dot.〉


脳腫瘍とは頭蓋骨の内側にできる腫瘍全般の総称で、部位によってさまざまな種類の腫瘍が発生する。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から得た回答結果をもとに、手術数の多い病院をランキングして掲載している。今回、2019年の脳腫瘍の手術数が341件で全国1位になった森山記念病院(東京都江戸川区)。多くの患者や医療機関から選ばれる背景や診療体制について、同院の間脳下垂体センター長、山田正三医師に話を聞いた。

 2019年の脳腫瘍(しゅよう)手術数全国ランキングの上位3位は以下の通り(週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』)。

1位 森山記念病院 手術数341件
2位 東京女子医科大学病院 手術数309件
3位 虎の門病院 手術数303件
 
 森山記念病院は、2017年は関東圏ランキング15位(手術数99件)、2018年は全国2位(手術数296件)で、今回初めて全国1位になった。

 脳腫瘍は、腫瘍ができる場所や悪性度などによって、さまざまな種類がある。症状として、腫瘍ができた周囲の脳機能が圧迫されることで、麻痺やけいれん、視野や言語障害などが表れる。
 
 主な脳腫瘍として、下垂体(かすいたい)腫瘍や神経鞘腫(しょうしゅ)、髄膜腫などの良性の腫瘍と、神経膠腫(こうしゅ、グリオーマ)などの悪性の腫瘍がある。腫瘍の種類で治療方法も大きく変わるため、病院によって腫瘍ごとの手術数も異なっている。

 森山記念病院のランキングに貢献しているのは、下垂体腺腫(下垂体腫瘍)の手術数である。18年4月に同院に赴任した山田医師が、その手術を担当することが大きな要因となった。山田医師は次のように話す。

「私が赴任して下垂体腫瘍の手術数が増えて、ランキングに貢献したのは確かです。しかし、当院は、もともと、脳神経外科に力を入れてきた病院で、全国屈指の先生方がご活躍されてきたという素地があります。その上で、さらに治療設備やスタッフを強化できたことが大きいです」

 山田医師は、18年3月に虎の門病院を定年退職し、4月に、森山記念病院間脳下垂体センター設立と同時に赴任している。山田医師は41年間勤務した前任地の虎の門病院時代に、下垂体腫瘍の難症例の手術を数多く手がけ、「下垂体腫瘍の治療なら虎の門病院」と言われるまでになった。その実績に基づき、森山記念病院においても、下垂体腫瘍の手術数を増やしている。

 森山記念病院に赴任した当初は、慣れない環境のもとで、虎の門病院と同等の手術ができるのか、医療の質を担保できるのかといった点について、山田医師は不安に思うこともあったという。

「しかし、実際には何も困ることはありませんでした。当院は、最新鋭の治療機器や専門のスタッフなど、あらゆる面でとても充実しています。現在、私のもとには6人の医師がついてくれています。彼らには手術の指導をしていますし、内分泌の専門医を取得してもらえるようにしていますので、今後さらに充実した治療ができると考えています。内科の医師や病理の医師らと協力し、センター機能を発揮しながら集学的に診ることもできています」

 このような環境のなか、難治性、再発例、他院で対応に苦慮するような患者を次々に受け入れ、治療にあたっている。また、現在では、虎の門病院も山田医師の後進の医師たちが活躍しており、森山記念病院と虎の門病院とで、治療する患者をほぼ分け合っているような状況になっているという。

 下垂体腫瘍は疾患数の母数は変わっていないが、近年は脳ドックなどの検査により発見される機会は増えているという。

「今は患者さん自身がインターネットで情報を調べて受診される数は確実に増えていると思います」

 脳腫瘍の治療を受ける患者へのアドバイスを山田医師はこうくれた。

「ひと口に脳腫瘍といってもいろいろな病気があります。治療を受ける病院の得意分野をきちんと把握して受診してください。私は、下垂体腺腫に特化して数多く手術をしてきましたが、それ以外の腫瘍の患者さんについては、当院の別の先生、得意分野を持つ大学病院やがんセンターへご紹介しています。誤りのない情報をきちんと提供してくれる、病院間でのネットワークを持っている医師に相談することをお勧めします」

医者の「大丈夫」「様子見」「とりあえず治療」本当の意味


 医者は「大丈夫」と言ったが、症状は消えない。こういった場合の医者は、ヤブ医者か? 「知ってはいけない 医者の正体」の著者、二本松眼科病院(東京・平井)の平松類医師に聞いた。

 眼科領域でよく聞くのは、白内障手術後の不満だ。白内障は目の中の水晶体が濁り、見えづらくなる病気で、手術では水晶体を「眼内レンズ」に替える。医者から「手術でよく見えるようになる」と聞いていたのに、患者は「よく見えるようになっていない!」と怒る……。本紙記者は患者から不満を聞く一方、眼科医からも「手術は成功しているのに文句を言う患者が多い」といった不満を聞いたことがある。

「医者の『よく見える』と、患者さんが望む『よく見える』に差があるのが問題。医者は『手術前よりよく見える』と伝えているが、患者さんは『メガネが不要になる』『老眼がなくなる』などと捉える。医者の言葉は患者さんに伝わらず、結果的に患者さんに不満が生じるケースは、眼科に限らず非常に多い」

■納得いく治療のためには“自衛”が必要

 本来は医者がコミュニケーション能力を高めるべきだが、それを待っていたら患者はなかなか納得いく治療を受けられない。“自衛策”は、言い方の工夫だ。白内障の例なら「こう見えるようになりたい」「この見え方は困る」と伝える。

「冒頭の医者の『大丈夫』は、“自分が調べた範囲では問題がない”という意味で、“100%異常なし”ではありません。『ほかに考えられる病気は?』『ほかに受けた方がいい検査は?』などと聞いた方がいい」

「お変わりありませんか?」という医者の言葉も、医者と患者の認識のズレを生じさせやすい。患者は「症状が良くならない」という意味で「変わらない」と答えているのに、医者にとっての「変わりない」は「症状が悪化していない」の意味。何の手も打ってもらえない。具体的に「頭痛が続く」「不調が消えない」と伝えよう。

■医者の言葉をストレートに受け取らない

「様子を見ましょう」や「とりあえず治療しましょう」と言われ、戸惑ったり不信感を抱いたことはないだろうか? これらも医者の説明不足だ。正確には「今あせって治療をすれば、むしろ悪化する可能性がある。何もしないか弱い治療で様子を見よう」「現段階で原因は詳しく分からないが、症状があるのでとりあえずそれを抑える治療から始めよう/治療しながら病気を調べていこう」。こういった意味と知っていれば、前向きに治療に取り組めるはずだ。

 平松医師が以前、目薬をさす群を2つに分けて、一方は目薬の一般的な説明、もう一方は治療目的、目薬の効用など詳細な説明をし、効果の違いを調べる研究を行った。すると、後者の群の方が効果が良かった。

「つまり、治療の意味を正確に把握し臨む方が、同じ治療でも高い効果が期待できる。さらに、プラセボ効果(偽薬でも効き目があると思い込んで服用していれば効果が見られること)もあります。医者はコミュニケーション能力の問題に加え、専門用語を多用しがち。意味が分からなければ、医者や看護師さんに確認する。また、実力がない医者ほど、専門用語を多用する傾向があります」

 医者を質問攻めにしたら嫌われて治療がおろそかになるのでは……と考えて何も言えない人もいるだろう。しかし、そう考えることが、医者への信頼感がない証拠だ。

「別の信頼できる医師を探すことをお勧めします。確かに医者は多忙で、長時間かけて説明をする時間はない。しかしそれでも、何とか患者さんに病気や治療について理解を深めてもらおうとするもの。それができるのが、信頼できる医者です」

 納得いく治療を受けるために。

身近にいれば心強い かかりつけ医・家庭医のススメ


 子世代にとっては未知の部分が多く、ちょっとした不調でも戸惑う親の健康管理。相談できて、親のことを理解してくれる医療者が身近にいれば、どんなに心強いだろうか。今回、教えてくれた東京・多摩市のあいクリニック中沢・院長の亀谷学さんも、そんな地域医療を実践している家庭医(総合診療医)の1人だ。

「患者さんを臓器別に診察するのではなく、その人全体を包括的に診る。専門的な診察が必要な場合は専門医に紹介し、問題が解決したら、再びその後のケアまで担うのが家庭医です。幼児期から老年期まで長くつきあいながら、家族全体の健康相談、多剤併用になりがちな高齢者の薬の管理、終末期ケアまで継続的に診ます。

 アメリカの研究では、成人1000人の地域で1か月間に起こる健康問題は、大学病院に入院して専門医療を必要とする人は1人未満で、大半が風邪や腹痛などの日常病だと判明。つまり多くの病気は町のクリニックで間に合うということです。この研究は40年後にも再度行われ、また日本でも同様の調査がありますが、すべて同じ結果でした」

 家庭医は、世界中で定着している国が多い。日本では歴史はまだ浅いが、現在は学会認定の家庭医療専門医(総合診療医)が約700人いる。

「今後は新専門医制度の総合診療後期研修プログラムでトレーニングを受けた専門医が輩出されることになります」

 ところで、年代によって医療とのかかわり方は変わる。

「子供のころは風邪や腹痛などで頻繁にクリニックにかかります。思春期から40代ごろまでは比較的病気が少なく、医療機関にかかる機会が減るかもしれません。それが年齢を重ねるにつれて、メタボリック症候群やがんをはじめとする病気が増えてきます。

 そして高齢になると多臓器疾患を包括的に診ることが必要になってきます。人生のライフサイクルに沿って継続して診てくれる家庭医(総合診療医)のような、信頼できるかかりつけ医に託すのが健康管理のコツです」

病気の治療方針に不満 医師を代えるか、病院を変えるか


 病気になると、人は否応なしに選択を迫られる。病院の選び方、治療のやり方、薬の選び方など、ありとあらゆる決断をしなくてはならない。

「あの時、早めに病院に行っていれば」
「あの時、安易に手術を受けなければ」

 身体の異変に気づいた時、患者が冷静な判断を下すことは難しい。医者の言いなりになってしまったり、勝手な思い込みで行動してしまったり……。後々になってそれが重大な分岐点だったことに気付いても、後悔先に立たずだ。

 手術のやり方など主治医の治療方針に納得がいかない場合、同じ病院内で医師を代えるか病院そのものを変えるかの2択もあるだろう。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏は、こうアドバイスする。

「医師を代えるほうがハードルが低いと思う人がいるかもしれませんが、実際は逆。同じ病院の医師だと治療方針が同じケースが多いため、病院ごと変えなければ意味がありません。

 その際、ゼロからまた検査を受ける必要があるのかと心配する人がいるかもしれませんが、前の病院から『検査結果の資料』をもらえば、同じ検査を2度受けることはありません」

◆手術を受けるなら「若手医師」か「ベテラン医師」か

 手術を受ける際、執刀医は「体力がある若手医師」と「知識のあるベテラン医師」では、どちらのほうが成功率が高いのだろうか。

 それを調査した研究がある。ハーバード公衆衛生大学院の津川友介医師(現UCLA医学部助教授)は、アメリカの病院に勤務する4万5826人の外科医の手術を受けた89万2187人の症例を調査した。

 その結果、医師の年齢が40歳未満では患者の死亡率は6.6%、40~49歳では6.5%、50~59歳では6.4%、60歳以上では6.3%と、医師が高齢になるほど死亡率は低くなった。

「手術の技術向上には、経験が必要不可欠ということが示されたのでしょう」(研究を行なった津川医師)

 ただし、普段通っている病院の“かかりつけ医”となるとその逆となる。津川医師が内科医の年齢と患者の死亡率を比較したところ、「年齢が若いほど死亡率が低い」という、外科医とは逆の結果がでた。

「若い医師は医学部で習った最新の内容を治療に反映できるため、死亡率が下がったのではないでしょうか」(津川氏)

医師との相性が悪い!と思ったらやるべき3つの対策


病院に一定期間通っているうちに、担当の医師との相性が悪くて悩んだ、という経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか?いくら有能で人柄が良い医師であったとしても、人間同士には相性があります。医師との相性が悪いと病院に通うのも苦痛になり、それは治療に悪影響を及ぼします。

 とはいえ、「あなたとは相性が悪いので医師を代えてもらえませんか?」
と直接言うのは難しいでしょう。そこで今回は医師の立場から、こういう場面でどんな対策を取ればよいか、具体的に提案してみたいと思います。

 ◇曜日を変更する

仕事の関係で特定の曜日しか病院に通うことができない、という人を除いては、「曜日を変更する」というのは一つの手です。 病院では、曜日によって外来担当医が異なるのが一般的です。特に大きな病院では、月曜から金曜(あるいは土曜)までそれぞれ別の医師が外来を担当するのが普通ですから、曜日を変えれば医師が変わります。人が少ない科では、一人の医師が週に2回以上外来を行っているケースもあるため、事前に病院のホームページで外来担当表を確認するのがよいでしょう。

 曜日の変更に細かい理由は必要ありません。例えば「今、月曜に通っているのですが、種々の事情で都合が悪くなったので火曜に変更してくれませんか?」と言えばよいだけです。実際に、仕事の都合や家庭の事情で曜日変更を希望される方は珍しくありません。 なお、毎日同じ医師が診察するクリニックの場合は、もちろんこの手は使えません。

 ◇同じ曜日の別の医師に変更する

 曜日の変更が難しい方は、同じ曜日に別の医師が外来をしていないかどうか確認しましょう。これも、外来担当表を見れば簡単に分かることが多いはずです。人数が多い科では、同じ曜日に2人以上の医師が外来を行っていることがむしろ普通です。別の部屋で外来を行っている医師に変更してもらえば、自分のスケジュールを大きく変える必要がなくなります。

 「A先生の外来に通いたいのですが、よいでしょうか?」と担当の医師に直接伝えてもよいですが、抵抗がある方も多いでしょう。その場合は、外来看護師にその希望を伝えることをお勧めします。病院によっては、午前と午後で医師が異なるケースもあります。その場合は曜日を変えずに時間を変えることで医師を変えることも可能です。こちらも外来担当表を参照すると良いでしょう。

◇別の病院に変更する

 病院を変更してしまう、という方法です。開業医の先生が外来を行うクリニックではこの方法しかありません。また担当の医師だけでなく、病院全体の対応に不満がある、といったケースでは、違う病院に通いたい、という気持ちになるでしょう。この場合に決してやってはいけないのは、担当医師に何も告げることなくこっそり別の病院に行く、ということです。

 私は実際に別の病院からこのようにしてやってきた患者さんを診療することがあります。この際、それまで通っていた病院でどんな検査や治療を受け、どんな経過をたどったのか、どんな診断を受けているのかなどが全く分からず、困惑することが非常によくあります。

 ご本人は「これらの情報を自力で伝えることができる」と信じてやってきているのですが、まず的を射ない説明をされることがほとんどです。治療経過を正確に説明できるのは、その患者さんを直接診療した医師だけです。実際に患者さんを診療していない人は、たとえ医師でも治療経過を説明するのは困難です。よって、必ず診療情報提供書(紹介状)を書いてもらう必要があります。

 「別の病院に行きたい」と直接言うのは抵抗があるかもしれませんが、転居や、子供の送り迎えの都合、交通手段の変更、職場の変更など、実にさまざまな理由で病院を変更せざるを得ない人はいます。

 病院を変更したい旨を医師に伝えることに、さほど抵抗を感じる必要はないでしょう。くれぐれも、何の情報も持たずに病院を飛び出すことのないよう気をつけましょう。 なお、最後に「安易な医師の変更や病院の変更には一定のリスクがある」ということを述べておきます。

 医師や病院の変更が、必ずしも患者さんの治療にとってプラスになるとは限りません。これについては私のブログの「病院を変える時(転院時)やセカンドオピニオン外来時の注意点と準備すべきこと」という記事で詳しく説明しています。ぜひ、お読みいただければと思います。(了)

武矢けいゆう 医師。専門は消化器外科。月間30万人以上が利用する医療情報ブログ「外科医の視点」で、現役勤務医の立場から、患者さんの役に立つ情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医など。

プロ野球のスーパースター、王貞治氏の主治医としても知られる北島政樹氏は消化器外科の名医だ。「ミスター外科医」とも称されるその輝かしい経歴は、内視鏡手術をはじめ最先端医療へのチャレンジの連続でもあった。


「大腸がんは早期に発見し、治療すればまず治ります」。チクバ外科・胃腸科・肛門科病院を紹介するサイトに掲載された瀧上隆夫院長の一見何気ない言葉には自信がにじみ、見る者に安心感、信頼感を与えてくれる。肛門疾患と下部消化管疾患の専門病院として、同病院の名は広く知られる。

 1972年に開院。「肛門を専門にやっている医者は少ない。意義がある。父(竹馬浩会長)が恩師から、そう勧められたと聞いている」と竹馬彰理事長。以来、痔(じ)で悩む多くの患者にとって同病院の存在は福音となった。

 多い時は年間1500例以上もの肛門手術を実施してきたが、近年は1200~1300例程度で推移。「高齢化は進んでいるが、昔に比べ痔の患者が増えているという印象はない。温水洗浄便座の普及や、全般的な衛生環境の改善が寄与しているのでは」。竹馬理事長は分析する。

肛門疾患の診断・治療と並び、同病院への信頼を高めたのが、大腸や胃の内視鏡検査。現在、病院全体で年間1万3000例以上を実施している。

 瀧上院長は30代の初め、大腸内視鏡検査の手技を米国で活躍中の新谷弘実医師のもとで学んだ。当時の医学界では「検査時に大腸を動かさない」が常識。曲がりくねった腸管を「道なり」に調べていくしかなく、患者の苦痛は大きかった。

何時間もかかり、医師の側も敬遠しがちな検査だったが、新谷医師は違った。内視鏡を巧みに操作して腸管を動かし、見えないところを診ていく。検査時間ははるかに短かった。

 帰国後も研鑽(さん)を重ね、正確で迅速な手技を確立した。以来30年余。瀧上院長の大腸の検査実績は8万例に及ぶ。挿入した内視鏡を操って腸管をたくり、あるいはまっすぐ伸ばしながら、素早く、正確に診ていく。時とともに内視鏡など機器も進歩。必要があって計測したところ、最近の検査の盲腸到達時間は平均わずか3分6秒少々だった。

 「大腸検査で患者に苦痛を与えるのは全く無意味。絶対にいけない」とも語る。鎮痛剤を注射し、無痛で調べる。確実で、短時間で、痛くない。同病院が多くの検査実績を挙げていることは、病気の発見と治療を通じ、多数の命が救われていることを意味する。

 大腸、胃などのがんやポリープの切除をはじめ内視鏡・開腹手術の実績も病院として相当数に上る。キノコ状の病変に内視鏡でワイヤをかけ、焼き切るポリペクトミー、薬液で病変を浮かせて切るEMR、浅い早期がんを“剥ぐ”ように切除する新しいESDにも取り組んでいる。

消化管に原因不明の炎症が起き、下痢や腹痛、血便などに悩まされる潰瘍性大腸炎とクローン病。いずれも厚生労働省指定の特定疾患(難病)で、患者は増加の一途。10代、20代の若者が多い。

 潰瘍性大腸炎は名の通り大腸に、クローン病は消化管全体に炎症が起きる。下部消化管の専門病院として、チクバ外科も早くからこうした炎症性腸疾患に挑んできた。

 「若い方が最初は痔ではないかと来院し、診てみると何かおかしい。詳しく調べ、クローン病と確定するといったケースが多い」と竹馬理事長。初期には感染性腸炎などと見分けがつきにくい場合もあり、診断には慎重を要する。「衛生状態が良い先進国で患者が多い傾向にある。現代医学でも詳しい原因が分からない…」。悔しさと同時に、患者に寄り添おうとする姿勢が言葉ににじむ。

 根治療法はない。投薬で病気の進行を押しとどめ、患者ができる限り平穏な日常を送れるように。その思いを胸に、努力してきた。近年、生物学的製剤と呼ばれる薬が登場。患者にも、竹馬理事長にとっても光明となった。例えばインフリキシマブ(製品名レミケード)は炎症を引き起こすタンパク質「TNF―α」の働きを抑える。

 消化器外科医の竹馬理事長にとって、消化器内科専門医の垂水研一医師(内科部長)は、新たに現れた強い味方だ。今春、同病院に赴任した。炎症性腸疾患の診断・治療実績で知られる。

 「私が炎症性腸疾患に取り組み始めた大学院時代、クローン病患者は数カ月の入院、外来治療、また入院の繰り返しだった。今は入院が必要になるような患者はかなり減った」と治療の進歩を語る。透析のように血液を一度体外へ抜き、炎症を引き起こす活性化した白血球を除去し、再び体に戻すGCAP療法にも取り組む。同病院は医師、薬剤師、管理栄養士、調理師、ソーシャルワーカーらで「炎症性腸疾患チーム」を組織し、「レミケード・GCAP治療室」も備える。

 だが、健常人でも持っているTNF―αが、炎症性腸疾患ではなぜ異常な炎症を引き起こすのか、分からない。今も一筋縄でいかない困難な病気だ。「患者の病歴、症状の変化、各時点での診断、投薬治療の実際などを詳細に把握することが第一歩。その上で、炎症の状態や病状を診ながら、薬の種類や量、組み合わせを考えていく」。垂水部長の静かな言葉に、心の内で燃える静かな闘志を感じた。

 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院((電)086―485―1755)

【日本の病院の実力】地域トップの設備&サービス提供!免震構造、アメニティも充実★国際医療福祉大学三田病院


日進月歩の医学では、最先端の医療機器が生み出され、最新技術も導入されていく。そんな治療に関わる部分だけでなく、病院そのものも進化中だ。

 震度6の大地震でもビクともしない免震構造、停電しても72時間稼働する非常用電源設備、さらには、多床室から個室までさまざまなタイプの病室やレストランなど、アメニティも充実しているのが、今年2月に開院した国際医療福祉大学三田病院である。

 「東京都認定がん診療病院や二次救急医療機関としての役割だけでなく、この地域の災害時における防災拠点病院として機能を果たせるように、三田地区の病院では初めて免震構造を採用し、地震に強い病院設計にしました。玄関前には、一般の方々も自由に入ることができる公開空地を作り、いざという時の避難場所にもしています」とは、同大の武井徳司常務理事(61)。

 病院前の公開空地には桜などの木々が植えられ、ベンチにはビジネスマンが一休みしていたりする。病院と言えば、病気に関わらなければ足を踏み入れにくいものだが、11階には一般の人々も利用できるレストランフロアを設置。同フロアには、一般向け健康セミナーの会場にもなる250人収容可能な「三田ホール」があり、窓外には、東京タワーとスカイツリーが見えるなど眺望は抜群だ。

 「港区という土地柄、ビジネスマンの方のご利用が多いので、人間ドックも充実させています。最高水準の医療機器を駆使した正確な診断を行うだけでなく、受けられた方に、最上階のレストランでステーキ・魚をメーンとしたフルコースをご提供しています。また、入院される方には、眺望の良い個室をご用意しました。おかげさまで、とてもご好評です」(武井氏)

 病室は、3~4床室のほか、こじんまりとしながらもアメニティの充実したスタンダードなタイプ(2万7000円~)を中心に、A~I室までさまざまな個室を用意。特別室のS室(約73平方メートル)は12万円で、寝室、応接室、キッチンとダイニングルームがある。バスルームは広々とし、来賓者用も含めトイレは2つと、まるでホテルのスイートルームのよう。

 さらに、今年4月に創設した会員制の健康管理サービス「三田メディカルクラブ」では、1年間に1度受診できる人間ドックと健康診断に加え、24時間体制の医療サポートを受けられる。

 「大学の附属病院として、年間4000件以上の手術を行うなど、専門性に基づく高度な医療を提供しております。そのため、都内はもとより全国から患者さんが受診する診療科も数多くあるのです。どなたにも気軽にご来院いただける地域の医療機関を目指し、スタッフ一同尽力しています」と武井氏。

 最先端の医療はもちろん、地域トップの設備とサービスを提供すべくまい進中だ。(安達純子)

<データ>
・建物地上11階地下1階
・敷地面積7100m2
・診療科目36科/11センター
・東京都認定がん診療病院
 東京都指定二次救急医療機関
 72時間非常用電源設備を設置
・一般病床291床(ICU6床)
〔住所〕〒108-8329 東京都港区 三田1の4の3
(電)03・3451・8121

【日本の病院の実力】高度な技術とチーム連携でQOL考えた癌治療に臨む


脳の下から首にかけて生じる頭頸(とうけい)部領域のがんは、顔面や神経、声などに関わる病気だ。

患者数は、がん全体の4-5%と少なく、鼻の奥の副鼻腔(ふくびくう)などに生じる頭蓋底(ずがいてい)がんは、さらに患者数が少ない。

 しかし、がんそのものが原因となるだけでなく、治療によっても容姿や声などの機能は損なわれやすいのが、この領域のがんの特徴でもある。

がんをきちんと取り除き、なるべくQOL(生活の質)を損なわないようにするには、高度な技術とチーム医療が不可欠。

 そんな頭頸部領域のがんに対し、国内最高峰の実力を誇るのが、東京医科歯科大学医学部附属病院頭頸部外科。

元来、耳鼻咽喉科の一部とされてきた頭頸部外科を1999年、岸本誠司初代教授(現・特任教授)が独立した科とし、耳鼻咽喉科はもとより、脳神経外科や形成外科と綿密な連携を保ち、高い技術レベルの医療を提供してきた。

今年4月には、同世代でトップの実力を持つ朝蔭孝宏教授(49)が着任、新たなページを開こうとしている。

 「頭頸部領域のがんは幅広く、患者さんごとに症状が異なるために、定型的な治療が行えることはほとんどありません。治療後のQOLなども患者さんごとに考える必要があります。

だからこそ、他科と連携した集学的治療が重要なのです。その力を駆使し、QOLを高めるため、今後は、より低侵襲の治療にも取り組みたいと思っています」

こう話す朝蔭教授は、東大病院時代から最後の砦(とりで)として、難しい症例に挑み続けてきた。

新天地でもその意気込みが衰えることはない。副鼻腔のがんに対しては、耳鼻咽喉科の協力を経て、鼻から内視鏡による治療と、脳神経外科の開頭手術を組み合わせた新たな治療法などに取り組む。

 「なるべく大切な機能を損なわないような治療法を常に考えています。

のどの早期がんに対しては、当科の杉本太郎講師が、口から内視鏡を入れた低侵襲の治療で、国内のリーダー的な存在になっています。あらゆる力を結集した医療を提供する体制は、すでに整っているともいえます」

 朝蔭教授は、低侵襲治療でロボット手術も視野に入れている。が、それはまだ先の話。現在、「日本頭頸部癌学会」の診療ガイドラインの作成委員を務め、「日本頭頸部外科学会」の頭頸部がん専門医制度で後進の育成にも尽力中だ。

国内では、頭頸部領域のがん患者が少ないゆえに、専門的な技術レベルを持つ医師もまだ少ない。

放射線療法もあるが、再発してしまうと手術しか選択肢がなくなる。全国に存在する患者をいかに救うか。そのために、後進の育成は欠かせない。

 「当院は拠点として、当科で専門医を数多く育て、必要とされる地域へ人材を広げていきたいと考えています」と朝蔭教授。誰もがクオリティーの高い治療が受けられるように、力を注いでいる。 (安達純子)

【データ】実績
・頭蓋底手術数65例(朝蔭教授累積)
・頭頸部表在がんに対する内視鏡的治療数 170例(杉本講師累積)
・病院病床数763床
〔住所〕〒113-8519 東京都文京区湯島1の5の45 (電)03・3813・6111

【日本の病院の実力】抗がん剤の臨床試験 通院治療で創薬推進 国立がん研究センター中央病院・通院治療センター


 国内で年間37万人以上の命を奪うがんの治療では、新しい薬の開発は重要な意味を持つ。

創薬の過程でヒトに初めて投与する「第1相試験」では、効果のみならず、血中濃度なども慎重に調べ、副作用などの有無も見極めなければならない。そのため、第1相試験は1カ月程度の入院によって実施されるのが一般的。

しかし、第1相試験の対象となるのは、従来の治療法で効果がなかった患者で、入院生活を負担に感じることも少なくない。

 そこで今年3月、第1相試験でも外来でできる国内初の「第二通院治療センター」を開設したのが、国立がん研究センター中央病院通院治療センター。

 「抗がん剤開発では、海外ですでに用量や効果を確かめられた薬剤について、時期が遅れて日本で第1相試験が行われることが多い。このことにより、海外と比べて薬剤の承認が何年も遅れる『ドラッグ・ラグ』が問題になっています。

海外と同時並行的に創薬を行うことが重要で、そのためには、患者さんに負担の少ない通院治療での臨床試験は欠かせません」

 こう話す同センターの田村研治センター長(48)は、乳腺・腫瘍内科と先端医療科に所属し、創薬のためのさまざまな臨床試験を行うエキスパートである。

これまでも、第1相試験を数多く行っているが、自己負担の入院費や家族と過ごす時間の削減などで、患者が参加するのを諦めなければならないケースがあった。

 「通常の抗がん剤治療では、7-8割の方はすでに通院治療を受けています。社会生活を維持しながら治療を受けることは、とても重要なことです。

臨床試験、特に第1相試験であっても、検査体制や設備、不測の事態への対応体制などを整えることで、通院でも行うことができるのです」

 田村センター長は、米国で当たり前のように行われる通院による第1相試験を見ながら、国内への導入に力を尽くしてきた。開設された「第二通院治療センター」は、他施設の医療従事者の関心も高い。

 「当院には研究所が併設され、研究と臨床が両輪となって、新しい治療法の開発に取り組んでいます。ドラッグ・ラグをなくすというだけでなく、効果的な創薬を開発することが、私たちの使命だと思っています」

 抗がん剤は、現在、さまざまな作用機序の薬が開発されている。がんの種類によっては、劇的な効果を生み出すこともある。その流れを止めないためにも、臨床試験の万全な体制は欠かせない。

 「たとえ、抗がん剤でがんを完全に治すことができなくても、がんと共存し、誰もが平均寿命まで生きられる時代が来る。それが夢です。従来がん患者さんの社会生活のサポート体制に取り組んでいるのも、私たちの強み。

創薬でその後押しをさらに進めたいと思っています」と田村センター長。がん患者の誰もが、希望と夢を持って普通に暮らせるようにすべく、力を注いでいる。 (安達純子)

 【データ】2013年度実績
 ・化学療法(抗がん剤)件数2万5371件
 ・治験数245件
 ・第1相試験67件
 ・通院治療センター62床
 ・病院病床数600床
 〔住所〕〒104-0045 東京都中央区築地5の1の1 
 (電)03・3542・2511

主治医に内緒で受けたらダメ? 「セカンドオピニオン」の正しい受け方とは?


セカンドオピニオンとは、現在診てもらっている医師以外の医師に、第2の意見を求めることをいいます。

この考えが広がってきた背景には、医師が患者のすべてを決定するのではなく、患者自身も治療の決定に関わる医療に変わってきて、インフォームド・コンセント(説明と同意)が普及してきたことがあげられます。

どんどん新しい治療法が生まれている現在、その全てを一人の医師が把握しているとは限りませんし、医療機関によって患者に提供できる治療法は同じではありません。

現在示されている治療法が最善なのか、納得して治療を受けるためにも、他の医師の意見を聞いてみること、それがセカンドオピニオンです。では、受けるにはどうしたらいいのでしょうか?
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◆セカンドオピニオンを受けるための準備

セカンドオピニオンを受けるには、まずは、ファーストオピニオンで受けた不安や疑問などを整理してみてください。何を自分は一番聞きたいと思っているのかが明確になれば、どの病院に行けばいいのかもハッキリしてきます。

セカンドオピニオンには、最初に受診した検査結果や所見などを持参してください。そうでないと一般論になってしまうか、または、検査のやり直しをすることになります。
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◆別の医師の意見を主治医に持ち帰って伝える

ファーストオピニオンとセカンドオピニオンとで、全く違う意見がでることはあり得ます。別の視点から意見を求めているのですから選択肢が増えることにもなります。

そして、場合によってはサードオピニオンを取る必要があるかもしれません。
違う意見だからと遠慮などせず、主治医にフィードバックすることで、主治医もいろいろな話をしてくれるでしょう。
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◆主治医に戻るためのセカンドオピニオン

ある実例では、現在の医師では治らないので、名医を探して治療をしてもらったところ治ったというセカンドオピニオンが紹介されていました。しかし、本来のセカンドオピニオンは、主治医を変えるためのものではありません。

さまざまな経験をもつ医師の立場から自分の病状や治療法に対する意見を聞いて納得して治療に臨むためのものです。

セカンドオピニオンを受けたら、まずその結果を持って主治医のところへ戻り、話し合うのが本来の姿です。

ただセカンドオピニオンを受けた結果、主治医とも話し合って、別の治療法を受けるために医師を変える、ということはあります。先の実例ではこの方法を取ったと言えるでしょう。

◆遠慮せず主治医に相談しよう

今診てもらっている医師との関係が悪くなるので、セカンドオピニオンを取りたいと言えない、という声をよく聞きます。

しかし、自分の示している診断や治療を他のドクターがどのように判断するのかを知らせることは、主治医にとっても基本的にはプラスだと言えます。

そして、医師と患者で納得して治療を選択することで、信頼関係ができ、関係を築くことができます。

もし、プライドの高い医師で、セカンドオピニオンを申し出たときに、気分を害したり、突き放した態度を取ったなら、これからお付き合いしていくことも心配になりますので、むしろ患者としては、セカンドオピニオンをきっかけに、この医師と治療を続けるべきなのかどうかを考えなおす必要がでてくるかもしれません。
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◆治療の前に互いの信頼関係を築くためにも必要なこと

特にガンの診断や治療法については、セカンドオピニオンをぜひ聞いたうえで、納得して療養したいものです。長期になりますので、その際には、医師との信頼関係が大変重要です。

少しでも気がかりなことや不安なことがあったら、率直に伝えて、考えを伺いましょう。

隠し事をしたり、主治医に内緒でセカンドオピニオンを受けたりすると、今後の関係に影響します。医師としては、「自分を信頼しないで、勝手なことをするならば、どうぞ」というような突き放した気持ちになるのも当然です。

示された治療方法のメリット、デメリットをしっかりと受け止めて、納得して治療に向かいましょう。

<執筆者プロフィール>南部 洋子(なんぶ ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師
株式会社とらうべ社長
国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立
タッチケアシニアトレーナー

【日本の病院の実力】 特に得意とするのは胃がん。おおもと病院/磯崎博司院長


60代の女性に対する大腸がんの手術。執刀医は磯崎博司院長。2週間前に内視鏡で直腸の腫瘍を切除したが、病理検査の結果、がんが深く浸潤し、リンパ節転移の可能性があるため、この日、下腹部を約10センチ切り、リンパ節と直腸を切除した。

 真骨頂はその手技。直腸が標準より狭く器械で吻合(ふんごう)すれば狭窄(きょうさく)の恐れがあるため、直腸では難しいとされる手縫い吻合を選択。1時間半で無事に手術を終えた。

 おおもと病院(岡山市北区大元)は、岡山県を代表する消化器がんと乳がんの専門病院。磯崎院長の専門は、胃、大腸、肝胆膵(すい)など消化器全般に及ぶ。特に得意とするのは胃がん。

消化器の中でも、国内で年間約12万人がり患する最も身近な胃がんは、早期発見できれば5年生存率が90%を超える。それだけに、患者の術後のQOL(生活の質)が焦点になる。

 合併症がなく、順調に体力が回復し、良い日常生活を送れるという長期的な視点からQOL向上を目指すことが重要なのは言うまでもない。

 磯崎院長は、胃がんに対するセンチネルリンパ節診断によって切除を最小限に抑える手術の第一人者の一人。

「センチネルリンパ節を使った手術は術後の長期QOLを保つ切り札。低侵襲の腹腔鏡手術は短期的なQOL改善を図るものだが、われわれはもっと根本のところを目指している」と強調する。近年流行の腹腔鏡はほとんど行っていない。

 センチネルリンパ節とは、がんが最初に転移するリンパ節のこと。色素などを使って調べることができ、乳がんでは広く臨床で使われている。

全身麻酔をし、約12センチ切開。口から内視鏡を挿入し、病変の周囲4カ所に色素を注入する。5~10分後に病変周囲のリンパ管とリンパ節が染め出され、リンパ節の一部を採取し病理診断に回す。

そこでリンパ節に転移がないことが確認されると、胃の切除範囲を小さくする。

 一般的には、たとえ早期であっても胃の3分の2以上と周囲のリンパ節を切除するが、転移がないことが確認できれば、胃を2分の1から4分の3残すことができるのだ。

 最近、慈恵医大病院を中心としたグループによって胃の術後障害の程度を総合的にみる指標が定められた。

同病院の医師と磯崎院長が共同で、おおもと病院で行ったセンチネルリンパ節診断による機能温存縮小手術を指標に基づき評価した結果、食後のめまいや腹痛、消化不良、体重の減少などが非常に少ないことが客観的に裏付けられた。

 しかし、センチネルリンパ節診断による縮小手術は相当な経験が求められるため、岡山県内ではおおもと病院以外は実施していないとみられる。

 磯崎院長は「センチネルリンパ節診断の有効性が証明された意義は大きい。一般的な治療として普及してほしい」と話す。

 大腸がんでは、肛門に近い直腸がんに対する自然肛門温存手術(ISR)を実践する。肛門括約筋を温存して直腸を切除し、肛門で吻合する。今では一般的な術式だが、磯崎院長は岡山県内で最も早く取り入れたパイオニアの一人だ。

 一方、乳がんなどの乳腺疾患は、山本泰久理事長・名誉院長が岡山県内屈指の実績を築き、現在は磯崎院長、村上茂樹副院長、松本柱副院長、高間雄大医師らが治療の中心を担う。

 2010年に最新鋭のデジタルマンモグラフィーを導入。従来機器より画像がはるかに鮮明で診断が容易になった。

 乳がんは他のがんに比べ、抗がん剤やがん細胞だけに効く分子標的薬などの薬物治療、術前の化学療法や術後のホルモン療法など、治療法の選択肢が多く、がんの性質や進行度を見極め、どういう治療を組み合わせていくか、医師の力量が問われる。

 村上副院長は「岡山県内屈指の6千例近い手術実績に基づく豊富なデータの蓄積があり、的確な治療計画を立てることができる」と話す。

 最新鋭のマルチスライスCT(コンピューター断層撮影)も13年に導入した。消化器、乳腺を問わず、さまざまながんの判別や転移などを診断できる。

 複数のがん看護の専門看護師らが患者をサポート。乳がん患者が1981年に立ち上げた「おおもと会」では、医師、看護師、患者が年に一度集い、親ぼくを図っている。

 山本理事長は「当院は専門医の集まりだが、看護師ら全スタッフが協力し合い患者の人生を支えていきたい」と話している。

◇ おおもと病院(電)086―241―6888)

【日本の病院の実力】QOL配慮した直腸がん治療 東京大学医学部附属病院


大腸がんの中でも、肛門に近い直腸に生じるがん(直腸がん)では、従来、手術による排尿機能や性機能などの低下が伴い、QOL(生活の質)は下がる傾向にあった。

直腸が骨盤内に位置し、排尿機能や性機能などを司る自律神経が密集する場所にあるからだ。神経を傷つけることなく、直腸がんを切除するのは難しい。

 そこで、近年、患部を腹腔鏡で拡大し、キズも小さくて済む腹腔鏡下手術が広がりを見せている。

さらに、腹腔鏡に加えて、ロボットアームによって細部の手術が行いやすいロボット手術(ダヴィンチ)も登場。

ただし、直腸がんの腹腔鏡下手術は、全体の約半数にとどまり、ロボット手術も設備投資が必要なだけに、普及しているとは言い難い。

 この状況を変えるべく、腹腔鏡下手術はもとより、2012年からロボット手術も導入し、直腸がんの完治と機能温存に力を入れているのが、東京大学医学部附属病院大腸・肛門外科。

直腸がんに対するロボット手術は、101例(2014年12月時点)を実施し、国内第2位の実績を誇る。

 「人間の手で行う手術よりも、ロボット手術は手ぶれがなく、拡大鏡で自律神経の位置がはっきりわかるなど利点は多い。

今は自費診療で治療を行っていますが、健康保険と自費診療の併用可能な先進医療にすべく、厚労省に申請しているところです」

 こう話す副病院長を兼務する同科の渡邉聡明教授(57)は、大腸がん治療のスペシャリスト。長年、直腸がん治療に力を入れている。そのひとつがロボット手術。

ただし、直腸がんは、大腸の上部に生じる結腸がんよりも、同じような個所に生じる局所再発がおよそ4倍と高い。機能温存だけでなく、局所の再発防止も成し遂げなければならない。

そこで、渡邉教授は、術前に化学療法と放射線療法を組み合わせた「術前化学放射線療法」も、積極的に行っている。

 「術前化学放射線療法は、臨床試験でも局所再発を抑制し、有効性は確かめられています。しかし、私たちの研究では、放射線療法が効きにくい患者さんもいることがわかりました。

また、進行度合いや直腸がんの病態によっては、術前化学放射線療法が必要ではない患者さんもいます。その選別をより明確なものとするのが、今後の課題といえます」

 渡邉教授は、すでに放射線療法が効きにくい遺伝子を幾つも特定している。

また、抗がん剤やがんを狙い撃ちにする分子標的薬の研究も行い、どのような直腸がんに、いずれの治療が有効かについて明らかにしつつある。

 「手術、化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療法で、個別化医療を実現しています。

ロボット手術の医療機器も進化し続けていますので、技術進歩を取り入れながら、精緻で品質の高い医療をこれからも提供していきたいと思っています」と渡邉教授。

 より有効性の高い治療の開発に向け、邁進(まいしん)中だ。 

〈データ〉2012年度実績
 ・結腸がん開腹手術 83件
 ・結腸がん腹腔鏡手術 93件
 ・直腸がん開腹手術 30件
 ・直腸がん腹腔鏡手術 47件
 ・病院病床数 1163床
 〔住所〕〒113-8655東京都文京区本郷7の3の1
  (電)03・3815・5411

【日本の病院の実力】聖路加国際病院・心血管センター 先天性心疾患患者の継続治療ネット作り




心臓の病気には、心筋梗塞や弁膜症、大動脈疾患などさまざまな種類がある。手術の技術や細い管を血管に入れるカテーテル治療など、医療の進歩は目覚ましい。

生まれながらに先天的な心臓病を患っていても、現在は、およそ9割の子どもが健康を取り戻し、成長できるようになっているという。

 ただし、先天性心疾患の子どもは大人になっても、経過観察は不可欠なのだが、自治体運営の子ども病院では、18歳以上の受診が不可になることがある。

一般的な循環器内科を受診しても、先天性疾患の知識を持たない医師も少なくなく、継続医療を受けることが難しい。

 そんな「成人先天性心疾患」の患者を救うべく、循環器内科の中に2011年国内初の診療部門を置いたのが、聖路加国際病院心血管センター。

国内の旗手役となり、全国のネットワーク作りを強化している。

 「成人先天性心疾患の患者さんは、約45万人と推計されています。小児科から循環器内科への橋渡しの仕組み作りは、始まったばかりで、まだ十分とはいえません。

また、一般の方々の認知度も低い。この状況を変えたいと思っています」

 こう話す丹羽公一郎心血管センター長(65)は、先天性心疾患治療のスペシャリスト。小児から成人まで、数多くの患者の診断と治療を行っている。

 「一般的に、成人先天性心疾患の患者さんが、盲腸や胃潰瘍などになったときに、心疾患ゆえに治療を断られるケースもあります。

妊娠や出産も、専門知識を持った医師が診ないと難しい。そのため、患者さんは戸惑うことが多い。現在、この状況は少しずつですが、変わりつつあります」

 丹羽センター長は、成人先天性心疾患の心臓に関わる問題点だけでなく、他の病気や日常生活の支障など、患者の抱える悩みをひとつでも取り除くべく奮闘してきた。

 ドロップアウトした患者が、再び心臓が悪くなるケースもあり、1つの施設だけでなく、全国的なネットワーク作りの構築が不可欠と痛感している。

 「基本は47都道府県に1つの基幹病院を設けることですが、まだ33病院にすぎません。

それを広げたい。そして、ドロップアウトした患者さんにも、再受診がしやすい環境を作りたいのです」

 丹羽センター長は、同センターで、心臓に関わる病気のあらゆるスペシャリストの育成も後押ししている。

同病院は救急患者が搬送されることも多いだけに、総合力を駆使した医療を提供できるのが特徴だ。

 「当院は、診療科の垣根がなく、チーム医療を構築しやすい環境です。基盤のある中で、それぞれの得意分野を生かした高度な医療を提供できるのが強みといえます。

そのひとつに、成人先天性心疾患もあり、現在、全国から患者さんが来院しています。このチーム医療をさらに発展させたいと思っています」と丹羽センター長。

 行き場のない患者をひとりでも救うべく、力を注いでいる。 

 ■2012年度実績
・手術総数357件
・心臓カテーテル検査・治療総数1352件
・先天性心疾患手術16件
・病院病床数520床
〔住所〕〒104-8560 東京都中央区明石町9の1
 (電)03・3541・5151

専門医に聞け! Q&A ホームドクターの選び方


 Q:転勤のため東北の一都市に家族で引っ越しました。私は高血圧と糖尿病があり、ホームドクター的なお医者さんを探すつもりです。ホームドクター選びのポイントを教えてください。(42歳・生命保険会社勤務)

 A:ホームドクターは普通、開業医、つまり診療所の医師です。選ぶ要素は様々あるでしょう。腕がよければいいのですが、人間には相性というものがあります。風邪や軽いケガといった短期間の付き合いで終わるのであれば、さほど気にする必要はありません。 しかし、高血圧や糖尿病のような生活習慣病を抱えている人は、医師や病院と長い付き合いを余儀なくされます。そういう場合、医師と相性が悪いと、患者さんは非常に辛いことになるでしょう。不思議に思えるのは、さほど深い思慮もなく、あっさり病院や医師を選んでしまう人が多いことです。大切な命を預ける病院や医師を、「近いから」といった単純な理由で選びがちです。

●ホームドクター選びのポイント
 しかし、都市部なら、ちょっと足を伸ばせば病院や医師の選択肢が格段に広がります。近所にこだわる必要もないでしょう。以上のようなことを踏まえ、ホームドクター選びには次のようなポイントがあります。
 
(1)自分と年齢が近い医者を選ぶ…年がはるかに上の医者は、先に亡くなる可能性が高いからです。
(2)診療科目の少ない医者を選ぶ…専門分野を標榜している医者のほうが信用できます。
(3)専門医を紹介してくれる医者を選ぶ。
(4)質問にきちんと答えてくれる医者を選ぶ。
(5)患者さんの目を見て話す医者を選ぶ…目を見て話すことはコミュニケーションの基本です。

 日本人は、ある開業医で何度か受診すると、他の開業医をためらう人が少なくありません。しかし、義理立ては無用です。よくないと思ったら、他の開業医を探せばよいのです。また、自分や家族が病気になったとき、開業医に不安を持ったら、大病院での受診も選択肢に入れておきましょう。

中原英臣氏(山野医療専門学校副校長)
東京慈恵会医科大学卒業。山梨医科大学助教授、新渡戸文化短期大学学長等を歴任。専門はウイルス学、衛生学。テレビ出演も多く、幅広い知識、深い見解を駆使した分かりやすい解説が好評。

【日本の病院の実力】三半規管の異常による“めまい”で先端医療★聖マリアンナ医科大学病院・耳鼻咽喉科


ひどいときには日常生活にまで支障が生じるめまい。その半数以上は耳石器(じせきき)が関与した「良性発作性頭位めまい症」が原因である。

 耳石器は、耳の奥の内耳のほぼ中心付近に位置し、頭部の傾きや移動感覚を感受して、その情報を脳に送っている。この耳石器の中の耳石が、間違って三半規管に入り込むとめまいが生じる。

 三半規管は、頭部の回転に関する情報を脳へ与えることで目の動きと身体を平衡に保っているため、異常が生じると眼球の動きは乱れ、脳が混乱し、めまいへ結びつく。

 これらの仕組みを解明し、眼球の動きによって三半規管の異常を判定する診断方法と装置、さらには、リハビリ法まで開発して最先端の研究を行っているのが、聖マリアンナ医科大学病院耳鼻咽喉科だ。

 「どの三半規管に耳石が入り込んだのか。三半規管内の場所の違いによって、眼球が揺れる眼振(がんしん)の動きは異なります。また三半規管や神経自体に障害があることも、わずかな動きの違いで診断できます。手術や薬物療法が必要なのか、リハビリだけで済むのかも判断できるのです。それらをより精密に行うために、いろいろな取り組みをしています」

 こう話す同科の肥塚泉教授(55)は、めまいの診断と治療のスペシャリストである。1998年には、スペースシャトルコロンビア号で、宇宙酔いに関する実験を行い、無重力空間での耳石の機能変化について徹底的に調べ、世界的にも有名だ。この研究により、リハビリの重要性も高まっている。

 「良性発作性頭位めまい症は、頭位治療という一種の理学療法で、三半規管に入り込んだ耳石を取り除くことが可能です。また三半規管や神経に障害があっても、しばらくすると、脳は反対側の三半規管や目からの情報、筋肉や関節からの情報を基にバランスを修正することができます。そのため、リハビリを行うと、めまいが起こりにくくなるのです」(肥塚教授)

 リハビリと言っても、特別な機械は必要なく、目を動かす、または、散歩などで身体を動かす簡単な方法だ。同科のめまい外来を受診すると、平衡機能を調べるための眼振検査が行われ、原因がはっきりすればリハビリを実施。患者によっては、画像診断も行われず、薬の処方もないため、拍子抜けする人もいるが、多くの人がこの診断と治療で症状を改善している。

 「めまいのリハビリは、世界的には標準治療ですが、唯一、先進国では日本だけが積極的に行っていません。そして、一般的にも認知度は低い。この状況を変えたいと思っています」(肥塚教授)

 リハビリの指導には手間暇がかかり保険点数も低く、医療機関へのメリットが少ない。国民皆保険の日本では医療費財源の問題もあり、めまいのリハビリが普及する土壌ではないのだ。それでも肥塚教授は、リハビリの効果を判定する装置の特許を取得し、普及を後押しする新たな装置の開発に着手している。

 「笑顔で帰る患者さんの姿は、私の支えです。一人でも多くの人のめまいを改善したい」と肥塚教授。そのためにまい進中だ。

 <データ>2011年実績
・平衡機能検査(電気眼振図)306件
・平衡機能検査(重心動揺計)60件
・中耳手術数96件
・病院病床数1208床
〔住所〕〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生2の16の1
(電)044・977・8111

日本の病院の実力】“軟部腫瘍”の診断・治療・再建に定評★東邦大学医療センター大森病院整形外科  


悪性腫瘍は一般的に「がん」と呼ばれるが、別の名称で患者数も少ないゆえに、あまり知られていないがんもある。それが「骨肉腫(こつにくしゅ)」に代表される骨原発悪性腫瘍と、「軟部(なんぶ)肉腫」。

 骨肉腫は骨にできるがんで、軟部肉腫は筋肉や神経、血管など内臓や皮膚以外の軟部組織にできるがんの総称。肉腫については、不治の病とイメージする人がいるだろう。一方で「肉腫はがんじゃない」と思う人もいる。

 現代医学の進歩により、早期発見、早期治療により予後は格段に向上したが、肉腫に対する一般社会の認知度が低いゆえに、進行した状態で受診する人も少なくない。

 この状況を変えるべく、一般の人々への啓発に尽力し、診断と治療、再建に定評を持つのが、東邦大学医療センター大森病院整形外科だ。

 「骨や軟部組織に生じる腫瘍は、多くは良性です。ただし、診断が難しい症例もあります。骨軟部肉腫の発生はまれですが、大きくなると、がん細胞が血管に入って肺に転移しやすいため、放置していると生命予後が厳しくなる。

だからこそ、多くの方にこの病気の存在を知っていただきたい」とは、同科の土谷一晃教授(59)。長年、骨軟部腫瘍に取り組むエキスパートである。

 骨肉腫は、初期の病変は診断が難しいことがあるが、痛みが生じたときに整形外科でX線検査を受ければ、多くの場合に発見は可能だ。

しかし、運動習慣を持つ人などは、「ちょっとひねったかな。そのうち治るだろう」と放置しがち。それが進行に結びつきやすい。

 一方、軟部肉腫は種類が多く、痛みを伴わないしこりのことも多い。必ずしも大きいコブが肉腫とは限らず、逆に小さくても、皮下組織にがんが広がっているようなこともある。それを確実に診断するには、多くの経験と専門性が不可欠。

 そして、手術治療は運動機能に関わるためその機能を維持しつつ、いかに命を守りながら行うか、経験と技術が問われる。

 「三次元CTやMR画像を用いることで、手術のシミュレーションは行いやすくなりました。

患者さんごとに肉腫の発生する部位は異なりますが、再発を予防しながらの縮小手術をはじめ、腫瘍切除後に人工関節やご自身の組織を用いた再建を行っています。

形成外科の協力を得ることで、再建のアイデアは広がっています」(土谷教授)

 肉腫の治療は、骨や筋肉、血管や神経が複雑に絡み合う。

大きく切除すれば運動機能は失われるため、温熱処理や低線量の放射線療法、術中アルコール処置などいろいろな補助療法を併用しながらの創意工夫で、土谷教授は治療を行っている。

 「患者さんの年齢もさまざまで、お子さんや働き盛りの人もいます。

患者さんが安心して治療を受けるには、手術後のフォローなど、周囲の方々の理解や協力が不可欠です。
そのために、もっと多くの人に肉腫の治療の現状について知っていただきたい」と土谷教授。

 患者の生命とQOL(生活の質)を守るために、今も力を注ぎ続けている。

<データ>

2011年手術実績
・骨/関節外科390件
・脊椎外科210件
・骨折/外傷162件
・手の外科107件
・骨軟部腫瘍94件(骨腫瘍:良性26件、悪性7件、軟部腫瘍:良性54件 悪性7件)
・その他61件
・病院病床数972床

〔住所〕〒143-8541
 東京都大田区大森西6の11の1
 (電)03・3762・415

【日本の病院の実力】NTT東日本関東病院ペインクリニック科 「痛み」の最先端治療を導入


一般的に同じ姿勢の長時間労働により、腰や肩などに痛みを感じることはあるだろう。

ひと晩、休んで消えればいいが、日に日に痛みは増幅され、作業効率が落ちるだけでなく、眠れない、食欲がないなど、別の症状にも結びつくのは珍しいことではない。

 高齢者の場合は、長期的な痛みで行動範囲が狭まると、筋力や体力がますます衰え、寝たきりにもつながる。

ただし、痛みの原因は、椎間板ヘルニアのように骨の変性に関わるものだけでなく、関節リウマチ、三叉(さんさ)神経痛、帯状疱疹(ほうしん)などの病気も山ほどある。

 その原因を解明し、症状を劇的に緩和する治療は、近年、大きく変化した。単に鎮痛剤を投与したかつての治療から、神経へ局所的にアプローチすることで、長期的に痛みをコントロールすることが可能だ。そのアプローチ法もさまざま。

 そんな痛みの最先端治療を導入し、国内のセンター的な役割を果たしているのが、NTT東日本関東病院ペインクリニック科。

病状に合わせた薬剤や治療法の種類が豊富で、神経の痛みの信号を熱によって断つ高周波熱凝固法、神経の変性を防ぐため42度以下の温度の高周波によるパルス療法などを数多く実施している(治療器具)。

治療法はここで挙げきれないほど多い。

 「痛みは、例えば視力検査のように、点数化した客観的な評価は難しい。同じ原因の痛みでも、感じ方には個人差がある。また、痛みの陰に重篤な病気が潜む場合もあります。

そのため、多くの患者さんは痛みに対して不安を感じ、不安が痛みを増幅させる。それを払拭するには、原因をしっかりと診断し、痛みを取り除くことが不可欠。その方法をたくさんそろえているのです」

 こう話す同科の安部洋一郎部長(52)は、痛み治療のスペシャリスト。高校時代バレーボール部で手首を痛めたとき、神経ブロックの治療で痛みが瞬時に消えたことに驚き、医学部時にペインクリニック科の道を目指したと言う。

痛みに対する不安も、治るときの喜びも自ら体験しているだけに、最先端の診断と治療には人一倍、情熱を注ぐ。

 「1回の治療で痛みが消えて、治ってしまう患者さんもいます。

あるいは、痛みが軽減したことで、リハビリなどの別の治療に積極的になる方もいます。自身も治療に参加することで、高齢の方でも、日常生活が大きく改善するケースは多いのです」(安部部長)

 昨年6月、新たに「RACZカテーテル」治療を開始した。背骨の後ろにある神経と周りの組織の間の癒着(ゆちゃく)をはがし、神経の圧迫を取ることで、難治性の痛みを軽減する治療法だ。

 「痛みには個人差があるので治療のさじ加減が難しく、若いドクターの教育にも時間がかかります。臨床を行う一方で、より多くの医師も育てたい」と安部部長。痛みを取る治療をよりいっそう、普及させるため、この道の最先端医療を開拓中だ。 

 <データ>2012年度実績
 ・外来ブロック件数計3万6168件
 ・X線透視下神経ブロック2534件
 ・病院病床数665床

 〔住所〕〒141-8625 
東京都品川区東五反田5の9の22
 (電)03・3448・6031

【日本の病院の実力】脳神経外科が全国トップクラス…東京都立府中病院


「東京ER(救命救急室)」として年間6万人の救命救急患者を受け入れている都立府中病院は、東京都の脳血管障害治療の拠点病院となっており、同病院脳神経外科は、関東のみならず全国トップクラスの実績を誇る。

 その成績は華々しい。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤のクリッピング術の件数では、毎年関東圏で1~2位の実績を持ち、脳動脈の血管の壁がはがれて、くも膜下出血や脳梗塞を引き起こす脳動脈解離(解離性脳動脈瘤)では、全国のオピニオンリーダーになっている。

加えて、脳梗塞の原因となる頚動脈の動脈硬化を取り除く頚部頚動脈内膜剥離術(CEA)は全国1位。

 「無症候性未破裂動脈瘤のように、術前に無症状の方に対する手術では、2003年~08年の6年間で、299人中99.3%成功という治療成績を誇ります。しかし、私たちは、常に100%を目指しているのです」

 こう熱く語る同科の水谷徹部長は、脳動脈瘤治療の第一人者。脳梗塞予防のためのCEA治療も、先頭に立って普及に努める一方、後輩の育成にも力を注いでいる。

「100%の成績を目指すには、1人の医師の力ではどうにもならない。スタッフ全員の技術レベルの向上が不可欠です。それは、決して不可能なことではありません」

 手術室にパソコンを置き、院内LANにより手術の画像をリアルタイムで配信。

院内の脳神経外科医は、手術室にいなくても、手術の様子がいつでも見られる仕組みを作った。夜間の急患手術も録画し、手技のひとつひとつが検証されている。

 「技術が問われるのは、手術によってそれ以前の生活に支障が生じる恐れのある未破裂動脈瘤や良性腫瘍、顔面神経に近い部分に生じる聴神経腫瘍などです。無症状だった状態から障害が残る。それを我々は避けたい」

 常に検証される手術方法。その技術力の高さから、未破裂脳動脈瘤の全国主要病院の平均入院日数が26.4日であるのに対し、同科では13.3日と短い。

治療成績は、同病院のホームページで公開されているため、遠方から来院する患者も増えている。さらに、若いドクターも全国から集まってくる。

 「患者さんに選ばれることは誇りに思う。その期待に応えたい。それこそが、私たちの取り組みを後押ししているのです」と水谷部長。

 来年完成予定の新棟では、手術室を増やし、さらに技術を磨く。100%成功を目指す姿勢が、より高まりそうだ。

【データ】

 ■2008年実績

 ・脳神経外科年間総手術数587件

 ・動脈瘤クリッピング術125件

 ・頚部頚動脈内膜剥離術(CEA)74件

 ・血管バイパス術42件

 ・脳腫瘍摘出術67件

 ■病床数761床(このうち、脳神経外科専用50床+救急救命センター10床程度分を確保)

〔住所〕〒183-8524 
東京都府中市武蔵台2の9の2
TEL042・323・5111

【日本の病院の実力】E型のオピニオンリーダー東芝病院「肝炎ウイルス」


新型インフルエンザに注目が集まる昨今だが、ウイルスによる病気はいろいろある。中でも、重篤な事態に発展しかねないのが、肝炎を引き起こすウイルス。

A型、B型、C型、E型とあり、いずれの肝炎ウイルスの研究と治療においても、世界的に名をはせているのが東芝病院消化器内科だ。

 民間病院としては珍しい研究部を持ち、E型肝炎ウイルスが日本に存在していることも突き止めた。今やオピニオンリーダーとなっている。

 「日本中からE型肝炎ウイルスの検体は集まってきます。

また、他の肝炎ウイルスの研究や治療にも力を入れ、慢性C型肝炎のインターフェロン治療は、保険適用の1992年以前から治験などにより臨床を積み重ねています」と、同科科長も兼務慢性C型肝炎は、進行すれば肝がんになりやすい。

それを防ぐ第一歩が、インターフェロン療法によってC型肝炎ウイルスを排除することだが、すべての人に対しての効果はない。そのため、より効果の高いベグインターフェロンの治療を実施するなど、慢性肝炎に果敢に挑んでいる。

 さらに、肝臓がんに対しては、手術のみならず、肝がんへ栄養を供給している血管を塞ぐ「冠動脈塞栓術」、アルコールを直接注入してがん細胞を死滅させる「経皮的エタノール注入法」。

もうひとつ、同病院で定評のあるのが、特殊な針を肝がんへ刺して熱で焼く「ラジオ波焼灼療法」だ。新井副院長は、この治療のエキスパートである。

 「肝硬変が進んでいる肝臓がんは、手術が行えないケースも珍しいことではありません。一番有効な手段はなにか。患者さんにとってベストな治療法を常に考えています」

 こう話す新井副院長は、急性・慢性肝炎、肝臓がんの患者を数多く診てきた。そして今、“メタボ”に伴い増加している非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療にも力を入れている。

ウイルスのみならず生活習慣でも痛めつけられる肝臓。しかし、初期段階では自覚症状が乏しい無言の臓器だ。

 「肝がんは一度できると高率に再発します。他のがんのように5年経ったら安心とはいえません。

慢性肝炎や肝がんの患者さんとは、一生涯のおつきあいになります。そういう方々の力になりたい」

 【データ】2008年入院実績
 ▼肝がん118人▽ラジオ波焼灼療法/エタノール注入療法58人
 ▼慢性肝炎54人
 ▼肝硬変60人
 ▼内視鏡総数9391件
 ▼食道がん44人
 ▼胃がん46人
 ▼大腸・小腸腫瘍377人
 ▼病床数307床

 【住所】〒140-8522 
東京都品川区東大井6の3の22 
TEL03・3764・0511

「腕もみ」健康法、胃腸の不調から腱鞘炎まで治す


65歳以上の12人に1人と推計されている認知症。

原因は、脳の神経細胞が脱落するアルツハイマー型認知症をはじめ、脳の血管が詰まり神経細胞が死滅する血管性認知症、パーキンソン病と関係の深いレビー小体型認知症などいろいろある。

その診断は、早期の段階では難しい。見誤れば、当然のことながらその後の経過を左右する。

そんな認知症の診断と治療において、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センターのPET-CT認知症研究センターは、「もの忘れ外来」のみならず、2007年に国内初の「もの忘れドック」を開設し、オピニオンリーダーになっている。

 「認知症を引き起こす病態を早期に発見し、適切な予防と治療を行うことで、その後の認知症の進行を遅らせることが可能です。早ければ早いほど適切な対処ができる。

そのために、もの忘れドックを開設しました」と、同センター認知症臨床研究部の井関栄三部門長。

 一般的にも周知されつつある「もの忘れ外来」だが、すでに発症した人が受診するケースが多い。

 認知症の専門医として長年診断と治療を行ってきた井関部門長は、認知症発症以前の「軽度認知障害」の段階で、画像検査や認知機能検査などにより診断できる技術レベルを構築している。それを具現化したのが「もの忘れドック」だ。

1次ドックでは簡易認知機能検査、脳CT(コンピューター断層撮影)、診察によって、認知症の有無を判定。何もなければ3年間のフォローアップでその後の経過を見守る。認知症と診断されればもの忘れ外来へ。

「軽度認知障害」が判明すれば、2次ドックの検査が行われる。MRI(核磁気共鳴画像法)、PET(ポジトロン断層法)で脳の状態を詳細に調べるとともに、約7、8時間に及ぶ「複合認知機能検査」を実施。

これにより、認知症の原因はもちろんのこと、将来、どのように認知症が進むかもわかるそうだ。若年性認知症を心配して訪れる40~50歳代の人も多いという。

 「私たちは、治療研究センターで有効な治療法の開発も行っています。アルツハイマー型認知症に対するワクチンの治験なども行い、最先端の医療で認知症の進行を食い止めているのです」

 こう話す井関部門長は、発症すれば将来に暗い影を落とし続ける認知症に対して、明るい未来を築くために力を注いでいる。

 「認知症は、決してあきらめる病気ではありません」(同)

 今後も最新の診断と治療で、認知症に挑むことだろう。

 【データ】2008年実績

 ▼もの忘れ外来 約1500人/月

 ▼もの忘れドック

 ▽1次ドック 約300人/年

 ▽2次ドック 約100人/年

 ▼認知症専用病床数 120床

【住所】〒136-0075 
東京都江東区新砂3の3の20 
TEL03・5632・3111

【日本の病院の実力】山王病院 高級感あふれる施設で高度な専門医療を提供


国内にはさまざまな医療施設がある。優れた専門性を追求しつつ、アメニティーも充実し、受診者の心を和ませながら医療を提供する施設も増えてきた。

ホテル並みのエントランスホールや設備、サービスなどを備えた高級感にあふれ、プライベート・ホスピタルとも呼ばれる。

 その先駆的な存在として知られるのが山王病院。1937年の開院以来、「お産の山王病院」と称されて産婦人科のイメージが強かったが、2000年に現在の場所に新築移転後は、全科をバランスよくそろえて、

総合的な診療を行うほか、呼吸器センターや脳神経外科、東京ボイスセンターなどで、専門性の高い診療を行っている。

 「確かに今でも産婦人科系の医療に定評を得ています。しかし、当院は地下鉄の青山一丁目駅と乃木坂駅の間に位置し、ビジネスマンの方々も多い地域にあります。

ニーズに合わせた医療を提供するため、2000年以降、総合的な医療を提供すべく進化しているのです」と、弥永和義事務部長(60)は説明する。

 現在、13の診療科と4つのセンターを設置し、ベッド75床と診察室40室に対し、常勤医師70数人、非常勤医師60人が、日々の外来患者900人前後の診療に当たっていると言う。ベ

ッド数や患者数と比べて、医師の数が多いのも特徴だ。

 不妊治療などを行うリプロダクション・婦人科内視鏡治療センターには、その技術を学ぼうと海外の医師たちも見学に集まる。病院の場所柄、患者も外国人がいるため、英語の堪能なスタッフが常勤しているのも、山王病院ならでは。

 「総合的な医療を提供するには、今の建物では手狭になってきました。そこで、隣の土地約400坪に、来年11月完成予定で増築を行うことにしました。

最先端のロボット手術設備などを配置できる手術室や、小児の集中治療室などを完備し、高度な医療の提供だけでなく、待ち時間の短縮などより良い医療の提供を目指します」(弥永部長)

 現在の建物は免震構造の地上7階建て。また、1階のホールは7階までの吹き抜けで、中央には世界でも数少ないベーゼンドルファーのグランドピアノがある。

木目調の壁や、ゆったりとしたソファに腰掛けて、月に1~2回行われる無料のコンサートに耳を傾けていると、病院にいることを忘れてしまいそうな気分に。

 加えて入院は個室が中心。食事は有田焼の器で配膳(はいぜん)される。年始には、入院患者に干支を描いた有田焼の器をプレゼントするサービスもあると言う。

この高級感を新しく増築する建物でも踏襲しつつ、高度医療の提供を目指す。

 「青山一丁目駅前には、人間ドックや人工透析、婦人科疾患などに対応するグループ施設の山王メディカルセンターがあります。

今後も連携しながら、これまで以上に総合的に充実した医療をご提供することで、より多くの方々に愛される病院になることが目標です」と弥永部長。

 プライベート・ホスピタルの新たなページを開くため、さらに力を注ぐ。

<データ>2012年度実績
・外来患者数1日平均811人 ・入院患者数3642人
・手術総数1649件 ・病院病床数75床
〔住所〕〒107-0052 東京都港区赤坂8の10の16
(電)03・3402・3151

【日本の病院の実力】がん研有明病院・漢方サポート科 「統合医療」で西洋医学の限界を打破


国内では、年間およそ80万人が新たにがんと診断され、そのうち推計35万人が亡くなる。手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤/ホルモン療法)を駆使しても、がんはいまだに克服されていない。

 これらの治療がすべて無効となり、「お気の毒ですが医学の限界です」と通告された患者は、ネットやバイブル本で奇跡的な治療を求めてさまよう「がん難民」となる。

また、治療でがんは治っても、さまざまな後遺症や合併症に苦しむ患者は多い。患者中心の医療が叫ばれて久しいが、西洋医学の限界が立ちはだかっている。

 この限界をどのように打ち破るか。その答えが、がん研有明病院漢方サポート科にあった。

2006年に開設された、国内初のがん専門病院内の統合診療部門。西洋医学と漢方医学の「いいとこ取り」の統合医療によって、「治療法がない」とサジを投げられた数多くのがん患者を治療している。

 副作用や後遺症としての症状を和らげるのはもちろん、進行がん患者をしばしば延命させ、時には治癒させるなど、めざましい実績を重ねてきた。

 「手術後に体重が20キロも落ちて身体がだるく、『手術を受けなければよかった』と悔やむ患者もいます。

近年、がんの治療法は大きく進歩しましたが、治療の副作用や後遺症への対策が追いつかず、十分に対応できないのです。

漢方医学を中心とする統合医療は症状緩和に優れていますので、多くの場合、患者の状態は改善します」

 こう話す同科の星野惠津夫部長(60)は、米国消化器病学会フェローの肩書を持つ消化器内科のエキスパート。

一方で、漢方医学など西洋医学以外の治療学の造詣も深い。転移再発を起こした進行がん患者でも、西洋医学と漢方医学を巧みに組み合わせた治療により、症状や生命の予後が劇的に好転する場合は少なくないのだ。

 その手法や成果は、著書『がん研有明病院で今起きている、漢方によるがん治療の奇蹟』(海竜社)などで紹介され、患者だけでなく、がん診療に携わる医師や看護師の注目も集めている。

 「明治維新以降、わが国の医学は西洋医学のみとなり、『漢方医』はなくなりました。

しかし、西洋医学を学んで医師のライセンスを取り、さらに漢方医学を身につけて統合医療を行う医師が少しずつ増えてきています。このような両刀使いの医師が増えれば、『がん難民』はいなくなります」

 星野部長が理事を務める日本統合医療学会では、東京、仙台、大阪、福岡の全国4カ所に、統合医療センターを創設する準備を進めている。

西洋医学に加え、漢方、鍼灸、食事、運動、呼吸、温熱、宗教力など、さまざまな治療手段を駆使し、医師を中心とする多職種の協力による統合診療体制の確立を目指す。

 「進行がん患者には緊急の対応が必要です。医学的エビデンスが確立されるまで待つ余裕はありません。当面は、経験に基づいた治療を行うこともやむをえないでしょう。

現在は当科しかありませんが、将来はがん患者が、全国どこでも有用な統合医療が受けられる体制を作りたいと考えています」と星野部長。

 がん難民を救うための長い闘いが始まっている。 

<データ>2012年漢方サポート科実績
・年間外来患者総数約3500人
・月平均外来患者数約300人
・月平均初診患者数約30人
〔住所〕〒135-8550 東京都江東区有明3の8の31
(電)03・3520・0111

日本の病院の実力】“膵がん”で高度な診断・治療★防衛医科大学校病院 肝・胆・膵外科  


国内で年間2万8000人以上の命を奪っている「膵(すい)がん」は、胃や大腸などの他の臓器と違い、腫瘍の発見が遅れがちで、また悪性度が高いため最も治療が困難ながんといわれている。

 一般的に診断後の手術適用は2割程度にとどまり、その手術も、膵臓が他臓器や太い血管、幾つもの神経に隣接しているため非常に難易度が高い。

一歩間違えば患者は術中に命を落とし、一見うまくいったかに見えた術後にも激しい下痢や栄養不良に悩まされるといったことも起こる。膵がん患者の命とQOL(生活の質)をどう守ればよいのか。

 そんなハイクオリティーの診断と治療を行っているのが、防衛医科大学校病院の肝・胆・膵外科だ。

国立がんセンターやがん研有明病院時代から、肝・胆・膵外科の手術で高い評価を得ている山本順司教授(55)が2008年4月に赴任して以来、治療数を右肩上がりに伸ばし続けている。

 「膵がんは、診断された時点で局所に腫瘍が留まっていることが少なく、転移しているゆえに、いわば全身病といえます。

しかも、膵がんには有効な抗がん剤が少なく、また他のがんで効果のある分子標的薬も有効ではありません。

そのため、手術によって患者さんにメリットがあれば、あらゆる技術を駆使して行うことを心掛けています」と山本教授は言う。

 進行した膵がんに対して、患者に残されたわずかな希望をどう後押しするか。

3次元画像による手術計画を立てながら患者のリスクとベネフィット(治療を受けることで得る患者の利益)に思いを巡らす。

長年、そのせめぎ合いの中で山本教授は安全で確実な方法を模索し、常に持てる全ての技を駆使して難易度の高い手術に挑んできた。

 最近は高齢の患者も多く、合併症を持つ人も珍しくはない。難易度に加わる患者の合併症。しかし、山本教授はその中から治療への道を切り開く。

 「総合病院ゆえに他科と連携し、合併症を持つご高齢の患者さんでも安全に治療することが可能になっています。

それが専門病院とは異なる強み。また、海外などでは新たな抗がん剤治療で膵がんの予後が良くなったとの報告もあります。総合的な医療で1人でも多くの患者さんを救いたい」

 こう話す山本教授は、大腸がんなどによる転移性肝がんや原発性肝がん、胆管がん、胆嚢がんの手術も積極的に行っている。

決して技におごることなく、患者に対して真剣に向き合う。そして、「正直が一番」と笑顔を見せる。

 「今の願いは、若い医師が肝・胆・膵外科手術を受け継いでくれることです。外科医を志望する若い人が減る中で、特に私たちの分野は敬遠されがちです。

しかし、世界に誇れる外科治療技術を日本は持っています。それをぜひ受け継いでもらいたい。そのための教育にも力を入れています」

 治療困難ながんを治療可能に。山本教授の努力は尽きることがない。

<データ>2011年度
腫瘍切除実績
☆根治手術件数148例
☆膵がん31例
☆転移性肝がん32例
☆原発性肝がん27例
☆胆嚢がん6例
☆胆肝がん13例
☆病院病床数800床
〔住所〕〒359-8513埼玉県所沢市並木3の2 
(電)04・2995・1511

【日本の病院の実力】血管の総合診療に注力!“世界初”夜間の血圧を自動測定★自治医科大学附属病院


心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを高める要因はいろいろある。

中でも、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病がハイリスクになることは、一般的にもよく知られている。

それらの要因は、全身の血管を古い水道管のようなボロボロの状態にしてしまうため、1カ所の詰まった血管を治療しても、また別の血管が詰まることも起こりやすい。

全身の血管をどう管理するのか。

 「木を見ず森を見る」のトータル的な治療手腕が問われる。そんな全身の血管をターゲットに、包括的な取り組みを行っているのが、自治医科大学附属病院循環器センター循環器内科だ。

同フロアの心臓血管外科と連携しながら、診断と治療はもとより最先端の研究も行っている。

 「私たちのところには、心臓の血管に関わる患者さんがたくさん受診しています。また、末梢血管障害の人も多い。いずれも心筋梗塞や脳卒中のリスクも高まるため、全身の血管を評価することが必要なのです。

そのために、総合診療的な診断と治療に力を入れています」と、同科の苅尾七臣主任教授(50)。

 例えば、高血圧が血管にダメージを与えることは知られている。高血圧と診断されたならば、薬によるコントロールは欠かせない。ところが、本人も気づかぬ夜間に、血圧が急上昇するケースもある。

原因は、寝ている間に気道が塞がれ、呼吸が一時的に停止する睡眠時無呼吸症候群をはじめ、薬でコントロールできない治療抵抗性の高血圧などもある。

 「これまで夜間に急上昇する高血圧を調べるには、患者さんが眠っている間に、定期的に血圧を測定するしかありませんでした。しかし、ご本人には負担でしょう。

そこで、長年研究を続け、自動的に夜間の血圧をモニタリングできる装置を先月、世界で初めて開発しました」(苅尾教授)

 自動モニタリング血圧測定装置は「トリガー血圧計」といい、特許申請中の世界初の医療機器だ。苅尾教授がオムロンヘルスケア社(京都)と共同開発した。

就寝前にセットすると自動的に無呼吸発作の血圧を測定し、翌朝、データを同科のシステムへ転送。夜間と早朝のリスクを365日、モニタリングできるようになった。

 「いつどれだけ血圧が上昇するか。その原因は何か。トリガー血圧計によって診断を下しやすくなります。そして、適切な治療を行うことで、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを下げることは可能になるのです」

 さらに、薬物抵抗性の高血圧の治療にも力を入れている。

腎臓へつながる血管の周囲には、交感神経があるのだが、この神経が興奮すると血圧は急上昇しやすい。そこで、臨床治験として、神経を鎮めるための「腎デナーベーション」という治療法も約3カ月前に国内で初めて実施した。

 「最先端技術を駆使し、対症療法だけでなく、徹底した二次予防を行うことが大切だと思っています」と苅尾教授。

 新しい取り組みに終わりはない。

<データ>2011年実績
・心不全371人
・急性心筋梗塞193人
・弁膜症153人
・心房細動/心房粗動147人
・冠動脈インターベーション660件
・カテーテルアブレーション162例
・病院病床数1132床
〔住所〕〒329-0498 栃木県下野市薬師寺3311の1
(電)0285・44・2111

【日本の病院の実力】中性脂肪の吸収を防ぐメタボ対策で新薬研究 日大医学部附属板橋病院腎臓・高血圧・内分泌内科




近年、メタボリックシンドロームが、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めると注意喚起されて久しい。

だが、厚労省の「平成22年国民健康・栄養調査報告」によれば、男性のおよそ30%は肥満で、メタボと疑われる、あるいは、予備軍と考えられる人は約50%。男性の2人に1人は死亡リスクが高いことになる。

 もちろん、メタボを後押しする生活習慣病については、さまざまな薬などの治療法は開発され、適切なコントロールができている人もいるが、そうでない人も少なくない。治

療で改善されない肥満や生活習慣病では、身体の中で何が起こっているのか。それを解明すれば、新たな治療の道も開ける。

 そんな最先端の研究を行っているのが、日本大学医学部附属板橋病院腎臓・高血圧・内分泌内科。

外来医長を務める上野高浩准教授(51)は、2009年に世界初となるメタボに関わる内臓脂肪型肥満と時計遺伝子の働きに関する研究発表で注目を集めた。

 「体内では生体リズムによって、代謝や合成などが行われる仕組みになっています。

時計遺伝子は、その生体リズムに関わるのです。世界的にも時計遺伝子の研究が進み、動物実験で時計遺伝子がないと肥満になるとの報告がありました。

そこで、実際に患者さんの体内で何が起こっているのかを調べてみたのです」

 上野准教授は、標準体重と肥満の約80人を対象に、午前9時から午後9時までの時計遺伝子の働きを調査した。

標準体重の人の遺伝子は、朝が活発なのに、肥満の人はあまり変動がない。

 一方、体重約83キロから約63キロに減量した男性の遺伝子は、標準体重の人と同じパターンに戻っていたことを明らかにした。

 「生体リズムは朝陽を浴びることで整えることができますが、肥満の人は時計遺伝子の働きが悪いので難しい。

その結果、代謝が落ちて、肥満の解消ができにくいのです。減量で時計遺伝子の働きは正常になりますが、無理に急激な減量をすれば、リバウンドしやすい。

それを防ぐには、時計遺伝子の働きを正常に導く食材を食べながら、徐々に減量するのがなによりです。その食材の研究も現在進めています」

 さらに上野准教授は、文科省の助成金による「中性脂肪吸収阻害剤」の研究開発にも着手。

中性脂肪が高く、悪玉コレステロール値が高い脂質異常症では、動脈硬化が進行しやすく心筋梗塞や脳卒中に結びつく。

 食生活の見直しによる肥満解消が不可欠だが、やはり、体重を落とすには時間がかかる。

その間、動脈硬化を進行させないため、中性脂肪がたまらない新たな薬を開発しようとしているのだ。

 「日本人は欧米人と比べて、肥満度が低くても生活習慣病による生命の危機のリスクは高い。

それを回避するには、日本初の新たな治療法が必要だと思っています」と上野准教授。

 メタボ患者を救うため、研究と治療に没頭中だ。

<データ>月平均実績
・外来患者数約200人 ・脂質異常症患者数約100人
・肥満外来患者数約20人 ・病院病床数1037床
〔住所〕〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30の1
(電)03・3972・8111

日本の病院の実力】「正しい診断」と「薬の適正使用」 世界水準の治療を推し進める 帝京大学医学部附属病院


 皮膚科領域は幅広い。アトピー性皮膚炎や乾癬(かんせん)などの自己免疫に関わる病気や、水虫などの感染症、メラニン色素の異常増殖で生じる太田母斑など、さまざまな原因と症状が伴う。診断が難しい場合も少なくない。

 そんな皮膚科領域の病気に対し、他院の治療で症状の改善しない人々が多く受診しているのは、帝京大学医学部附属病院皮膚科である。世界水準の治療を推し進め、症状の改善に力を注いでいる。

 「薬というのは、副作用がつきものです。特に長期的な使用に関しては、皮膚への影響だけでなく他の臓器への影響も考えなければなりません。また、水虫と思われている症状が、実は違う病気だったりすることもあります。病気が異なるのに水虫の薬を使用しても、当然のことながら治りません。正しい診断と薬の適正使用は、世界的に推進されていることです。当科では、世界水準に照らした診断と治療を行うように心掛けています」

 こう話す同科の渡辺晋一主任教授(64)は、皮膚病治療のスペシャリストである。東大医学部から米国ハーバード大学で学び、太田母斑を改善する「Qスイッチ・ルビーレーザー」を1990年に国内で初めて取り入れるなど、世界水準の治療を日本に導入すべく奮闘してきた。

 また、水虫などの真菌症への造詣が深く、同科を皮膚真菌症治療薬の国内開発拠点にまで発展させている。

 「太田母斑は顔に生じるため、Qスイッチ・レーザー治療でキレイになったときの患者さんの笑顔は、私の原動力になっています。世界的に認められている治療法で、皮膚疾患の多くの患者さんを救いたい。その思いを持ち続けています」

 渡辺教授は、15年ほど前から国際協力機構(JICA)の依頼で、タイで講師として医療指導を行っている。そこには、中近東やアジア地区の医師も集まるため、常に最新の情報交換を行うことで、よりよい医療の提供を考え続けているという。

 「皮膚というのは、広範囲な臓器でしかも繊細です。特にアトピー性皮膚炎などは、適切な治療が行われないと治りにくくなってしまいます。当院には、そのような患者さんが全国からたくさん来られるのですが、その多くは不適切治療によるものです」(渡辺教授)

 研究レベルは世界トップレベルを誇る日本だが、海外の薬の国内承認が遅れると、日本以外の国(アジア諸国を含む)では安い費用で治療ができても、日本では高額な医療費がかかったり、治すことができなかったりすることになる。欧米人とは体格が異なるため、治療法に差が生じると思われがちだが、日本と体格が似ているアジア諸国の患者も、世界標準治療を受けている。よりよい医療の提供には、世界的な治療法も視野に入れることが必要だ。

 「日本の皮膚科医療を世界水準のレベルに、引き上げることができればと思っています」と渡辺教授は話す。難しい症状の人々を救うべく奮闘中だ。 

【データ】2014年度実績(皮膚科)
・外来患者延数 2万6421人
・入院患者延数 3019人
・病院病床数 1082床
〔住所〕〒173-8606 東京都板橋区加賀2の11の1
 電話/03・3964・1211

【日本の病院の実力】がん・感染症センター都立駒込病院外科 スキルス胃がん、手術前の化学療法研究


ピロリ菌の除去や内視鏡検査の普及などで、年々死亡者数も患者数も、減少傾向にある胃がん。早期に発見すれば、98%程度の人は治ると言われ、医学は確実に進歩している。

 ただし、胃がん患者の約1割を占める悪性度の高いスキルス胃がんは、早期発見がいまだに難しい。

胃の粘膜の下側、胃壁の中を、はうように増殖するため、粘膜の表面を映す内視鏡では発見しづらいのだ。

胃の形が土管のように変形し、エックス線検査(バリウム検査)で発見されたときには、進行が著しく、治療は困難を極める。

 そんなスキルス胃がんや、進行胃がんを克服すべく尽力しているのが、がん・感染症センター都立駒込病院外科(胃)。

厚労省がん研究助成金指定研究班を中心とした日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の胃がんグループの研究事務局でもあり、臨床試験を含む最先端の研究を行っている。

 「進行した胃がんも含めて、7割は治る時代と言われる中、スキルス胃がんは治りにくい。

この状況を変えるには、たった一人の力ではなく、オールジャパンの総合力で立ち向かうことが重要なのです。

その成果は現れつつある。スキルス胃がんと診断されても、決して諦めないでほしい」

 こう話す同科の岩崎善毅部長(53)=写真=は、胃がん治療のスペシャリスト。

傷の小さな腹腔鏡下手術も積極的に行い、術後の合併症を回避すべく、胃の出口の幽門(ゆうもん)を残す「幽門保存胃切除」などにも取り組む。

 一方で、病理部門に携わった経験もあるため、抗がん剤などの化学療法を組み合わせた治療の効果判定なども得意としている。

 そんな長年の胃がん治療の経験を生かし、JCOGでは、各メンバーとスキルス胃がんに対して、手術前に化学療法を行う臨床試験を進行中だ。

 「日本で開発された飲み薬の抗がん剤『TS-1』と、注射の『シプラチン』を組み合わせて手術前に投与することで、スキルス胃がんを治せる道が開かれ始めています。

進行がんの再発や、手術が不可能といわれた状態でも、新たな治療法が開発されつつあるのです」(岩崎部長)

 薬や医療機器の開発は、欧米が先行している。

しかし、胃がんについては、欧米の患者割合が少ないため、日本の胃がん治療は世界を牽引(けんいん)する力を持つ。

臨床試験で結果を出すには、多くの医師と患者の協力が不可欠。安全で確実な治療の確立のため、オールジャパンでステップアップ中だ。

 「近い将来、新たな治療法が標準治療となり、スキルス胃がんや進行胃がんを治せる時代が来るでしょう。

治せない病気をひとつでも治せるようにしたい。患者さんと一緒に克服できるようにしたいと思っています」と岩崎部長。

 命をつなぐために、あらゆる力を発揮して挑み続けている。 

<データ>2011年度実績
・手術総数277件 ・胃がん手術211件
・胃十二指腸良性疾患手術3件
・手術前化学療法約30件 ・病院病床数833床
〔住所〕〒113-8677 東京都文京区本駒込3の18の22
(電)03・3823・2101

【日本の病院の実力】“アトピー性皮膚炎”治療に実績!神経精神科と連携も★東京女子医科大学病院


アレルギー性皮膚疾患の一つ「アトピー性皮膚炎」は、およそ34万人以上が医療機関を受診し、乳幼児から大人まで多くの人を悩ましている。

 赤くただれ、強いかゆみを引き起こし、皮膚の広い範囲に炎症は広がりやすい。その炎症には、人間の皮膚の表面にある角質層というバリア機能が関与している。

 角質層は、細菌などの外敵が体内に侵入するのを防ぐが、アトピー性皮膚炎の人の角質層では、細胞間の脂質のセラミドが減少。組織が崩れて外敵の侵入を防ぐことができず、炎症を引き起こしやすくなっている。

 そのため一般的に、炎症を抑える薬や保湿剤などによる治療が行われるが、治ったように見えても、ふとしたきっかけでまた炎症を起こしやすい。この「再燃」には、皮膚の状態や外敵だけでなく、別の要因も絡んでいる。

 そんな重症例を含みアトピー性皮膚炎の診断、治療、研究実績を国内で最も多く持つのが、東京女子医科大学病院皮膚科。アトピー性皮膚炎のセラミド減少を解明したのも、同科だ。

 「アトピー性皮膚炎は、薬で炎症を抑え、保湿剤などで皮膚を保護することで、再び炎症が起こるのを防ぐことが可能です。

ところが、アトピー性皮膚炎の患者さんの中には、『掻く行為』を無意識のうちに行っている場合がある。ご本人は気づいていません。

その要因を明確にすることにも、力を入れています」とは、同科の川島眞教授(60)。

 アトピー性皮膚炎治療の第一人者だ。

ステロイド外用薬の適切な使用や、1999年に承認された免疫を調整するプロトピック軟膏、保湿外用薬、抗ヒスタミン薬などの治療で、多くの患者のアトピー性皮膚炎を改善してきた。

 ところがしばらくすると、またアトピー性皮膚炎に悩まされる患者がいる。

ハウスダストなどの抗原を除去しても、患者の皮膚は赤くただれ、強いかゆみを放つ。

そこに、無意識の「掻く行為」の関与を見出した。

 「診察中に患者さんを見ていると、手で何度も顔などを触っています。それをご本人に言うと驚かれることが多い。

つまり、気づいていないのです。どうして手で皮膚を触ってしまうのか、30~40分程度、患者さんと話しているうちに、心の問題、そして心を癒やすために触ってしまうことも見えてきます。

すると、治療の効果はドラマチックに変化する」(川島教授)

 短い診療時間でたくさんの患者の診察を行う皮膚科では、なかなか患者の心の奥まで踏み込むのは難しい。

しかし、川島教授は、十分な対話が必要なアトピー性皮膚炎患者にはあえて診察時間を割き、同病院の神経精神科と連携しながら治療を行っている。重症患者には、入院による教育指導も実施。

 「アトピー性皮膚炎は治らないと思っている患者さんはまだいます。引きこもってしまう人もいる。そういう人たちをゼロにすることが私の夢です」

 治らない病気の完治へ向けて、今後も挑戦は続く。

<データ>2011年実績
・皮膚科外来患者数4万8769人
・1日外来患者数173人
・アトピー性皮膚炎入院患者数(年間)57人
・病院病床数1423床
〔住所〕〒162-8666 
東京都新宿区河田町8の1(電)03・3353・8111

【日本の病院の実力】国立がん研究センター中央病院 創薬推進や新たな治療法 肝胆膵がん研究の最前線


国内のがん死因では、第4位が膵(すい)がん、第5位が肝がん、第6位が胆道がんで、いずれも治療は難しいといわれる。

肝がんは、原因となるB型・C型ウイルス性肝炎の治療法が進歩し、亡くなる人は減ってきてはいるが、ウイルス性肝炎とは無関係の肝がんは増加傾向。膵がんや胆道がんは、そもそも早期発見の診断技術が確立されておらず、効果的な薬も乏しい。

 この苦境を改善すべく、創薬の推進などで国内外を牽引(けんいん)しているのが、国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科。

膵がんについては、4つの抗がん剤を合わせた「FOLFIRINOX療法」が、日本人にも有効なことを他施設とともに明らかにし、昨年12月の承認への道筋をつけた。もうひとつ、効果を検証した新しい治療法も、近々承認される見込みだ。

さらに、胆道がんでは、世界初のがんを狙い撃ちにする分子標的薬の開発のため、今年3月に臨床研究をスタートしている。

 「肝・胆・膵の3つのがんには、たくさんの課題があります。それを克服するために、数多くの研究を行っています。

中でも、胆道がんは、欧米人の罹患(りかん)率が人口比で少なく、日本人は多い傾向にあるため、日本で薬を開発することが重要だと思っています」

 こう話す同科の奥坂拓志科長(52)は、肝胆膵がんの化学療法のスペシャリストであり、長年、新薬開発にも力を注いでいる。一般的に、肺がんや大腸がん、乳がんなどには、たくさんの新しい薬が登場しているが、肝胆膵領域のがんについては極端に数が少ない。

肝胆膵がんの増殖メカニズムが複雑で未知な部分も多く、既存の分子標的薬は、肝胆膵領域のがんには効果がほとんどないからだ。

 さらに、胆道がんは日本には患者が多いにも関わらず、世界的に患者数が少ないゆえに、積極的に新薬開発に力を注ぐ製薬会社が少ないことも原因となっている。しかし、肝胆膵領域のがんに苦しむ患者はいる。

奥坂科長は、基礎研究の後押しや製薬会社への働きかけなどを行いつつ、国内外の医師などと協力し、さまざまな研究を進めている。

 「患者さんの予後を改善するために、さまざまな努力をしています。

新薬だけでなく、がんを熱で焼き切るラジオ波焼灼(しょうしゃく)術や、がんに栄養を運ぶ肝動脈をふさぐ肝動脈塞栓(そくせん)術など、放射線科や外科とも密接に連携しながら、たくさんの専門スタッフで対応しています。治療が難しいといっても、光がないわけではありません」

 肝胆膵領域のがんでは、従来、患者が得られる情報も少なかった。

そこで奥坂科長は、7年前に病院内に患者向け教室を開設した。すると、全国の施設にも教室設立の動きが広がり、現在はこれらの施設の医療者とともに、専門家向けに年1回「がん患者教室ワークショップ」も開催している。

 「多くの方に病気や治療法について知っていただきたい。それが、患者さんのより良い予後を後押しできると思っています」と奥坂科長。山積の課題を一つずつ崩すべく、邁進(まいしん)中だ。 

〈データ〉2013年実績(初診患者数)
・肝細胞がん184人
・膵がん431人・胆道がん118人
・病院病床数600床
〔住所〕〒104-0045 東京都中央区築地5の1の1
 (電)03・3542・2511

【日本の病院の実力】杏林大学医学部付属病院 最先端のピロリ菌研究完全除菌へ“最後の砦”


★杏林大学医学部付属病院・消化器内科

胃潰瘍のみならず胃がんとも関係の深いヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の人々の除菌が、2000年に保険適用になって以降、胃炎などにも適用範囲は広がっている。

薬による1次除菌で、ピロリ菌が生き残れば2次除菌が行われ、約97%の人は退治可能。ところが3%の人は、ピロリ菌が生き延びてしまう。過去に風邪などで飲んだ抗生物質に対し、ピロリ菌が耐性を持って薬が効かないこともあるからだ。

 そんな難治性ともいうべきピロリ菌の第3次除菌で成果を上げ、さらに、ピロリ菌以外のヘリコバクター属と病気の関連など、最先端の研究に力を入れているのが、杏林大学医学部付属病院消化器内科。

 「胃がん予防として、ピロリ除菌は、国際的な常識となっています。

当院は地域の基幹病院のため、他院から2次除菌が成功しなかった患者さんを紹介されることが多いのです。3次除菌で効果的な薬を選択するために、菌を培養するなどの研究によって、成功率を高めています」

 こう話す同科の高橋信一教授(64)は、消化器系がんの診断や内視鏡治療を得意とし、ピロリ菌除菌のスペシャリストでもある。

2007年には、北里大学薬学部の中村正彦准教授との共同研究で、胃の中にいるヘリコバクター・ハイルマーニが、悪性リンパ腫の一種、マルトリンパ腫との関連が深いことも世界で初めて明らかにした。

 「ヘリコバクター属の菌には、いろいろな種類があります。それがどの病気と関連しているのか、明確にすることで予防に役立つと思っています」

 ヘリコバクター属の研究だけでなく、高橋教授は、小腸がんなど国内で患者数が少ない病気についても、診断と治療の研究を進めている。小腸を詳しく見るためのダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡も駆使。

さらに、自分の免疫で肝臓にダメージを与える自己免疫性肝疾患の治療など、守備範囲は広い。

 「当科では、食道、胃、小腸、大腸、肝胆膵のそれぞれのエキスパートを揃えています。難治性や希少な病気の患者さんも、数多く来院されるため、たくさんの先端医療を行っているのです」

 高橋教授は、内視鏡による身体へ負担の少ない治療にも積極的。また、がんについては、同病院の消化器外科、消化器内科、放射線科、麻酔科、病院病理部などのスタッフが集まり、定期的に意見交換のカンファレンスを行うなど、チーム医療を実現している。

 「消化器系がんは早期発見できれば、内視鏡だけで治すことが可能です。

そして、確実性の高い予防を行えば、そもそもがんにはなりにくい。ピロリ除菌はそのひとつです。これからも、早期治療や予防に貢献できるように、研究を進めていきたいと思っています」と高橋教授。難治性の壁を切り崩すべく奮闘中だ。 

〈データ〉2012年度実績
・胃潰瘍475人
・胆のう結石/総胆管結石200人
・大腸ポリープ138人
・自己免疫肝疾患56人
・病院病床数1153床
〔住所〕〒181-8611 東京都三鷹市新川6の20の2 (電)0422・47・5511

【日本の病院の実力】胃がん・食道がんに強い 内科・外科的治療の融合で健康な臓器残せる手術 慶應義塾大学病院腫瘍センター


 がんの疑いで大きな病院を受診すると、さまざまな検査の予約を入れて、結果が出るのは先というのはありがちだ。また、内科を受診した後に外科、さらに放射線科といくつかの科を巡ることもある。がんか否か、病態やステージ、治療方針などは、できることならスムーズにわかる方がよいだろう。そんなニーズに応え、包括的ながん医療を提供しているのが、慶應義塾大学病院腫瘍センターだ。

 2009年の発足以来、診療科の枠を超え、各専門医、専門看護師、専門薬剤師、理学療法士、歯科衛生士、ソーシャルワーカーなどがワンフロアに集まり、がん治療やがんに伴うあらゆる問題に対応している。

 「初診でなるべく必要な検査を行い、正確な診断を迅速に行う体制にしています。診療科の垣根がないため、内科的な治療と外科的な治療を組み合わせたハイブリッドな医療の提供も行っています」

 こう話す同センター長の北川雄光副病院長は胃がんや食道がん治療のスペシャリストで、身体に小さな穴を開けて行う胸腔鏡・腹腔鏡下手術の名手でもある。

 ハイブリッド治療は、早期胃がんに対する「腹腔鏡下センチネルリンパ節生検+NEWS(非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術)」が代表格。

 ごく初期の胃がんに対しては、口から入れる内視鏡的治療があるが、がんが胃壁の深い部分まで到達していると腹腔鏡下手術によって、胃と周りのリンパ節を切除するのが一般的だ。

 NEWSでは、この2つを組み合わせている。特殊な方法でがんが転移しやすいリンパ節(センチネルリンパ節)を見つけ出し、リンパ節への転移がなければ腹腔鏡下手術で胃壁に切り込みを入れて、がんを含む胃壁の一部を内側へ押し込んで縫合する。次にこれを内視鏡的治療で取り除くのである。

 「内視鏡の専門家と外科医の融合で、可能になった治療法です。がんをきちんと取り除きながら、なるべく健康な臓器は残した方がよいでしょう。腫瘍センターでは、そのための協力体制が整っているのです」

 北川副病院長は、食道がん治療ガイドラインの責任者であり、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の食道がんグループ代表者として最新の研究を統括している。腫瘍センターでは、食道がんに対する手術前の化学療法や放射線療法の多施設共同研究の一翼も担う。

 「医療は常に進化しています。食道がんも胃がんも、新たに開発した治療法で患者さんに貢献したいと思っています」と北川副病院長は話す。

 未来の扉を開くための治療に邁進中だ。 (安達純子)

 ■リンパ節転移の検査法を開発

 胃がんの手術では、リンパ節転移がなければ部分的な胃切除で済むことがある。このリンパ節転移の有無を調べるため、慶應義塾大学病院一般・消化器外科が開発したのが、「腹腔鏡下センチネルリンパ節生検」という検査法だ。

 特殊な粒子を病巣の近くに注入し、がんが転移しやすいリンパ節(センチネルリンパ節)を見つけ出して、手術中に転移の有無を判定する。2014年に「先進医療B」としての研究がスタートし、現在、保険収載へ向けた取り組みが行われている。がんを退治し臓器を守る。そのために積極的な同科では、最先端医療の研究を数多く行っている。

 〔所在地〕東京都新宿区信濃町35 (電)03・3353・1211

【日本の病院の実力】重度肥満症に3科チーム医療で好成績 東邦大学医療センター佐倉病院・消化器外科


肥満は生活習慣病などを後押しし、身体に悪影響を及ぼすのは周知のこと。しかし、100キログラムや200キログラムを超えた人が、食生活の見直しで減量に励むのは、容易なことではない。

そんな重度の肥満症に対して、今年4月、手術で胃を小さくする「腹腔鏡下胃スリーブ切除術」が保険適用になった。

 対象となるのは、BMI(体格指数=体重キログラム÷身長メートルの2乗)で「35」以上。腹部に小さな穴を開けて行う腹腔鏡による手術で、胃を袖状に大きく切除し、過食を抑えて減量を促すとともに、併存する生活習慣病の改善も図る。

そんな肥満の外科手術「メタボリックサージェリー」で定評を持ち、内科や精神科などとタッグを組んで、成果を上げているのが東邦大学医療センター佐倉病院消化器外科。

 「重度の肥満症の人は、食事制限そのものが難しい。また、無理に体重を落とそうとすると、メンタル面に悪影響を及ぼすことがあります。

メタボリックサージェリーを行うと、自然に食事が制限されて体重が落ち、糖尿病などの生活習慣病も改善します。もちろん、術後の管理も不可欠なので、内科と精神科とのチーム医療が役立つのです」

 こう話す同科の岡住慎一教授(55)は、食道がんの診断と治療のエキスパートでもある。食道がんは進行すると治療が難しく、再発リスクも高い。ただし、症状は人それぞれ。有効な治療を確実に行うため、新たな診断技術の構築に力を注いできた。目指すは「個別化治療」。

 一方で、母校の千葉大時代、1983年に川村功氏(元千葉大准教授・故人)が、日本初の「肥満症に対する減量手術」を執刀したときに立ち会った経緯があり、2008年に現職になってからは、消化器系のがんだけでなく、肥満症の治療にも力を注いでいる。

 現在は、キズの小さな腹腔鏡下手術が肥満症の手術にも導入され、患者の手術の負担は大幅に軽減された。

 「がんなどの手術でも、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術を行い、身体への負担の少ない低侵襲の治療を積極的に行っています。がん治療、低侵襲治療、そして、肥満症治療が、当科で行う3本柱となっています」(岡住教授)

 メタボリックサージェリーには、「腹腔鏡下胃スリーブ切除術」以外にも、いくつかの手術方法がある。どの治療法が、患者に向いているのか、保険適用外も含めて見極めなければならない。

糖尿病などの合併症を含めて内科がまずチェックし、メンタル面は精神科がサポート。その後、手術の適用となれば、2週間の減量を促してから、消化器外科が登場。術後は、3科と多職種のチームで患者を診ていくのが、同病院オリジナルの肥満症治療だ。

 「患者さんに適した治療法を提供していくことは、がんでも肥満症でも同じです。

そんな個別化治療では、チーム医療は不可欠といえます。多くの力を合わせ、フロンティア精神を忘れずに、今後もさまざまなことに取り組んでいきたいと思っています」と岡住教授。適切な医療の提供のために、尽力中だ。 (安達純子)

〈データ〉2013年実績
・手術総数752件
・腹腔鏡下手術353件
・肥満症手術16例
・病院病床数451床
〔住所〕〒285-8741 千葉県

【日本の病院の実力】慶應義塾大学病院・心臓血管外科 進化する大動脈疾患治療


心臓から全身に血液を供給する大動脈は、人間にとって要の大血管。

だが、加齢などに伴い血管壁がもろくなり、血液が流れ込むことで血管壁の一部がはがれ、あるいは、血液がたまってコブとなり、解離性大動脈瘤(りゅう)、胸部大動脈瘤、腹部大動瘤を引き起こす。

 高齢化社会で増加傾向にある病気で、血管壁が破裂して大出血になると突然死の原因となる。治療としては、手術によって人工血管に取り換える方法と、血管壁に血流が流れ込むのを防ぐため、

筒状のステントグラフト(医療機器)を血管内からカテーテルで置く方法があるが、いずれも大血管に関わるだけに治療は難しい。

 そんな大動脈疾患の治療で、国内トップクラスの実力を誇るのが、慶應義塾大学心臓血管外科。世界的に見てもオリジナリティーの高い治療法を生み出し続けている。

 「身体に負担の少ない低侵襲の治療に力を入れていますが、完全に治すことができなければ意味はありません。ステントグラフトは、血管内治療で身体にやさしい治療法ですが、デメリットもある。それを克服するため、さまざまな取り組みを行っているところです」

 こう話す同科の志水秀行教授(52)は、大動脈疾患治療のスペシャリスト。

胸部大動脈瘤の手術では、一般的に脊髄(せきずい)への血流不足で5-10%に麻痺などが生じるが、それを防ぐべく、2008年に世界初の治療法(脊髄虚血予防法)を開発した。

常に手術方法そのものを進化させる一方で、身体的に手術が不適応な人の治療法の開発も積極的に行っている。

 「血管が曲がった部分の弓部(きゅうぶ)大動脈には、脳へつながる3つの太い血管があります。

既存のステントグラフトを用いると、それらの血流が止まってしまう。手作りのステントで血流を確保するだけでなく、新たな血液の通り道となるバイバス手術を合わせたハイブリッド手術も行っています」(志水教授)

 通常の手術では、大きく胸を切開し、人工心肺を使って体を冷却し、血液循環を停止させなければならない。

高齢者で合併症のある人は、手術のリスクが大きい。ところが、ハイブリッド手術では、皮下の血管を治療する小さなキズで済み、人工心肺なども不要だ。

 「完全に治すことを目的としていますので、最適なデバイス(ステントグラフト)を選択するだけでなく、いくつかのハイブリッド手術を考案してきました。循環器内科などと協力したハートチームが構築されていることも、われわれの大きな強みとなっています」

 昨年10月に保険収載された大動脈弁を局所麻酔でカテーテルによって置き換える「経カテーテル大動脈瘤弁留置術(TAVI)」など、積み重ねた実績は幅広い。

 「手術とカテーテル治療の技術を融合させ、将来的にはカテーテル治療だけで、全ての大動脈疾患が根治できるようにしたい」と志水教授。目標に向けて着実に歩みを進めている。 

〈データ〉2013年実績
・手術総数約450件
・大動脈手術約150件
・弓部大動脈ハイブリッド手術約130件(延べ数)
・病院病床数1044床
〔住所〕〒160-8582東京都新宿区信濃町35
 (電)03・3353・1211

【日本の病院の実力】東京慈恵会医科大学附属病院・皮膚科 乾癬患者のQOL改善へ


働き盛りを襲う皮膚疾患のひとつ「乾癬(かんせん)」は、免疫異常が関与し、表皮が異常に増殖して炎症を引き起こす。

しかし、名称から感染症と間違われやすく、しかも、炎症部分の表皮がフケのようにはがれ落ちるため、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させる。

 従来、外用剤、光線療法や内服療法などの治療は行われているが、炎症が広範囲に渡ると改善が難しい。また、乾癬にはいくつかの種類があり、関節炎を伴うと、さらに治療は困難となっていた。

この状況を一変させたのが、2010年に保険適用となった「レミケード」や「ヒュミラ」(いずれも製品名)の登場だ。

 免疫細胞から放出され、炎症を引き起こすサイトカインという物質をターゲットにした「抗体製剤」で、今年は「ステラーラ」(同)も加わり、治療のバリエーションが増えた。

そんな乾癬の治療と研究で、国内トップの実力を持つのが東京慈恵会医科大学附属病院皮膚科。アトピー性皮膚炎や悪性黒色腫など幅広い皮膚疾患に対応し、難治性皮膚疾患の治療開発も行う。

 「乾癬はその症状のため、仕事をやめざるをえない人もいるなど、患者さんにとっては深刻な病気です。抗体製剤は効果が早く出やすく、関節炎にも効果があります。ただし、適応はきちんと見極めないとなりません。

当科ではさまざまな検査を駆使し、副作用を起こさないように、患者さんの症状に合わせたテーラーメード医療を提供しています」

 こう話す中川秀己教授(61)は、乾癬治療のスペシャリスト。長年、治療法の開発に力を注ぎ、一般的に認知度の低い病気であるがために悩む、患者の会もサポートしてきた。

 「乾癬の症状は、ストレスや暴飲暴食など、生活習慣の乱れで生じやすくなります。

効果の高い薬で症状を改善できれば、患者さんの生活習慣の見直しも後押しできます。結果として、糖尿病などの別の生活習慣病も改善できるのです。治療の効果を見ながら生活指導にも力を入れています」

 中川教授は、さらに効果的な治療法開発のため、新しい抗体製剤の臨床研究も行う。「レミケード」や「ヒュミラ」は、サイトカインの「TNFα」をターゲットにし、「ステラーラ」は、サイトカインの「インターロイキン12」と「インターロイキン23」にアプローチするが、新たに「インターロイキン17」を抑える薬が、来年か再来年には登場する予定だ。

欧米は日本よりも乾癬の患者数がはるかに多いだけに、新薬の開発にも積極的。最先端の治療を中川教授は研究し、臨床応用へ向けて尽力している。

 「抗体製剤は効きが良いのですが、高額医療になるのが欠点です。ただし、定期的な検査を徹底的に行うため、早期の肺がんが見つかるなど、別の病気の早期発見にも寄与しています。

乾癬はまだ根本的に治すことができませんが、生活習慣病のように、適切なコントロールで良い状態が維持できるように、今後も取り組んでいきたいと思っています」と中川教授。

 症状を封じ込めるべく奮闘中だ。 

データ〉2013年実績
・外来患者数約4万8000人
・抗体製剤治療患者数400人以上
・病院病床数1075床
〔住所〕〒105-8471 東京都港区西新橋3の19の18
 (電)03・3433・1111

【日本の病院の実力】筑波大学附属病院 整形外科 脊髄障害治療から骨再生まで最先端技術で国内医療を牽引


 脊髄(せきずい)が損傷すると、脳から「脚を動かす」といった信号が伝わらなくなり、下半身麻痺(まひ)などの障害に結びつく。ところが、弱いながらも信号は筋肉に届いているという。

その微弱な信号を皮膚の表面から読み取り、脚などを動かす「ロボットスーツHAL」が、1997年に筑波大学システム情報系の山海嘉之教授により、世界で初めて開発された。

 このHALを使い、山海研究室と共同で、脊髄障害の患者への新しいリハビリテーション治療の臨床試験を行っているのが、筑波大学附属病院整形外科。

HALのみならず、産業技術総合研究所と、骨折した骨をより確実に再生させるためのチタンピンについての共同研究、あるいは再生医療そのものなど、最先端の技術開発を行い、国内を牽引(けんいん)している。

 「HALについては、長期的な麻痺の続く慢性期症状の方への臨床試験に引き続き、現在、術後の急性期の患者さんへの新たな臨床試験をスタートしました。

HALによって脚を動かせるようになりますが、慢性期、急性期、難病の場合で、より的確な使い方を研究しているところです」

 こう話す同科の山崎正志教授(55)は、筑波大附属病院の副院長(国際総合戦略特区・スポーツ医学担当)と、未来医工融合研究センター長を兼任し、最先端技術開発の旗手として尽力している。

その一方で、再生医療にも力を注ぐ。そのひとつが、骨が破壊されて変形する「大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)」に対する「濃縮自家骨髄血(こつずいけつ)移植術」。

 患者本人の血液を採取し、遠心分離機で濃縮された骨髄血を患部に注入すると、壊死(えし)した組織が再生されるのだ。

 「人工関節を入れる手術を回避できるため、有効な治療法だと思っています。筑波大の整形外科は、濃縮自家骨髄血移植術について、国内最多の実績を持つため、全国から大腿骨頭壊死の患者さんが来られています」

 さらに、山崎教授は、脊髄損傷に対して「顆粒球(かりゅうきゅう)コロニー刺激因子(G-CSF)」という薬を用いることで、損傷個所に再生能力を持つ幹細胞が集まり、症状を改善する研究も長年行っている。

 「G-CSFとHALを組み合わせることができれば、これまでにない脊髄損傷への医療が提供できます。それを世界に発信したい」(山崎教授)

 自己再生能力を最大限引き出す研究は、応用範囲が広い。難病治療やトップアスリートの故障治療などでも役立つ。現在、同科ではさまざまな研究が同時進行中だ。

 「筑波大は、医学や工学だけでなくスポーツ領域でも優れた選手や指導者が多い。

現在、スポーツ医学・健康センターを新たに作ろうとしています。融合させた技術で、世界一を目指したいと思っています」と山崎教授。長年取り組み続けた最新技術は、大きく飛躍しつつある。 

 【データ】2013年実績
 ・手術総数802件
 ・脊椎外科手術149件
 ・股関節外科手術119件
 ・病院病床数800床
 〔住所〕〒305-8576 茨城県つくば市天久保2の1の1
 (電)029・853・3900

【日本の病院の実力】順天堂大学医学部附属順天堂医院 最先端技術で世界を牽引


手術が必要な子供の病気はいろいろある。腸の一部が途切れた「腸閉鎖症」や、尿の出口が通常の場所と異なる「尿道下裂(かれつ)」など、先天的な病気も多い。

放置すれば命に関わるだけでなく、尿道下裂のように、将来の性機能にまで影響を及ぼすこともある。いずれにしても、子供にとっては深刻な事態だ。

 しかし、成長過程の子供は、体格が小さいことに加え、身体の仕組みが複雑なだけに、手術は極めて難しい。

そんな小児の外科治療で、世界トップクラスの実力を持つのが、順天堂大学医学部附属順天堂医院小児外科・小児泌尿生殖器外科。1968年に国内初の小児外科学講座を開設して以来、国内外を牽引(けんいん)している。

 「先天的な小児外科疾患は、いくつかの状態が同時に生じるなど、教科書には載っていないケースも少なくない。

恩師の宮野武名誉教授より教わり、受け継いだ『不可能を可能にする』をモットーに、長年取り組んできました。単に治すのではなく、お子さんの将来も含めた治療を常に考えています」

 こう話す同科の山高篤行主任教授(56)は、小児外科のスペシャリスト。

 尿道下裂に対するオリジナルの「外精筋膜」を用いた形成尿道補強術は、世界的な教科書にも掲載された。また、さまざまな病気に対し、新たな治療法を考案し続けている。

同科では、刺しキズ程度の小さな切開の腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術も、20年以上も前に国内で先駆的に導入。その後、山高教授が牽引し、レベルの高さや安全性は世界的にも知られる。

 「腹腔鏡や胸腔鏡で手術をすると、お子さんは、通常の手術と比べて回復が極めて早い。身体に負担の少ない手術は、小児に大きなメリットがあると思います」

 ただし、山高教授は、腹腔鏡・胸腔鏡下手術にこだわっているわけではない。「いかに安全に治すか」を重視し、必ず通常の手術への切り替えもできるようにしている。特にこぶし大の小さな乳児の身体では、何が起こるかわからないからだ。

 「オペすなわち攻撃のリズムは、守りから作るようにしています。守りとは手術前の準備です。

これが手術の9割以上を占める。残りが手術中の気合と術後の再検討。不測の事態も、準備がしっかり整っていれば、それほど慌てることもありません」(山高教授)

 合併症を防ぐ上で、手術方法だけでなく、小児の体内に糸を残さないため、自然に吸収される糸を用いるなど、細心の注意を払っている。そんな徹底した仕事ぶりは、同科の医師たちにも浸透。2

4時間体制で、専門医を含む3人の医師が深夜でも待機し、年間1100-1300件に及ぶ手術を行っている。

 「ビシッと手術を決めないと、自分自身が納得できない。だから、徹底的に準備と勉強をするのです。

プライベートな時間でも、頭から離れない。当科では、若い人にもその意気込みを持たせています。人間国宝並みに、たくさんの修業をまだしたい」と山高教授。不可能を可能にする取り組みに終わりはない。 

【データ】2013年実績
・手術総数1072件
・腹腔鏡/胸腔鏡手術204件 (鼠径ヘルニアを含まない)
・腸閉鎖症25件
・尿道下裂66件
・病院病床数1020床
〔住所〕〒113-8431 東京都文京区本郷3の1の3
 (電)03・3813・3111

【日本の病院の実力】日本医科大学付属病院・心臓血管外科 心房細動を合併した弁膜症の難しい同時治療で全国トップ級


心臓にある弁の働きが障害される心臓弁膜症の治療で、手術を受ける人は国内で年間約2万人。

手術適応の弁膜症の人のおよそ半数は、心房が小刻みに震える心房細動を併発し、脳梗塞などの危険性も高い。弁膜症の手術の際に、心房細動の治療も行うと長期的な予後が良くなる。

 しかし、同時に2つの治療を行うのは難しい。心房細動の確実な治療が容易ではないからだ。そんな心房細動を合併した弁膜症の治療で、全国トップクラスの実力を誇るのが、日本医科大学付属病院心臓血管外科。

冠動脈バイパス術などの一般的な心臓大血管手術を数多く行う一方で、心房細動や心室頻拍(ひんぱく)など不整脈の外科治療では、世界的にも名を馳(は)せる。

 「弁膜症の代表的な僧帽弁膜症(そうぼうべんまくしょう)では、約8割の人が心房細動を合併しています。弁膜症の治療だけでは心房細動を治すことはできません。どちらも同時に治すことが大切なのです」

 こう話す同科の新田隆主任教授(59)は、約20年前に心房細動のラディアル手術を開発した。

心房細動に対する手術として、最初に開発されたメイズ手術は、心房の動きが悪くなる欠点があり、それを改良したのがラディアル手術だ。心房細動の電気信号の乱れを外科的な手技で解消する。

ただし、新田教授は、より身体への負担の少ない方法を約10年前に日本に導入した。高周波アブレーションという医療機器による治療である。

 「高周波アブレーションは、心房を切開縫合する代わりに、心房をはさんで高周波で細胞の一部を壊死(えし)させるだけなので、安全かつ容易に治療が行えます。

ただし、切開縫合では、乱れた電気を確実にブロックできますが、高周波アブレーションでは、その効果が不完全になりやすい。手術中に伝導ブロックの確認を行うことで、成功率を上げています」(新田教授)

 国内では、心房細動の患者は約80万人と推計されている。弁膜症を合併していない人では、手術ではなく、薬物療法やカテーテル治療が行われるケースが多い。

カテーテル治療は、血管の中に細い管を入れ、心房の内側から先端についた電極による高周波で、組織を焼いて伝導をブロックする方法。しかし、カテーテル治療だけでは治らないケースもある。

 「欧州では、心房の内側からのカテーテル治療と、外側からの高周波アブレーションを組み合わせたハイブリッド治療が行われています。当院でも、近々導入する予定です」

 治療は充実しているが、新田教授によれば、心房細動の乱れた電気信号については、まだ解明されていないことが多いそうだ。多様性を持つ症状を確実に封じ込めるには、総合力が不可欠となる。

 「100年以上も前から心房細動は研究されていますが、心房細動の仕組みは完全にわかっているわけでありません。取り組むべきことは、まだたくさんあります」と新田教授。新たな扉を開けるために奮闘中だ。 

 【データ】2013年実績
 ・手術総数約500件
 ・弁膜症手術約100件
 ・心房細動手術延べ500例
 ・病院病床数899床
 〔住所〕〒113-8603東京都文京区千駄木1の1の5
  電話/03・3822・2131
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