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【日本の病院の実力】脳疾患 顔面神経温存率100%を実現「虎の門病院」

脳の病気はいろいろだ。血管が詰まる脳梗塞、血管にこぶができる脳動脈瘤、良性でも命を脅かす脳腫瘍など、いずれも治療には高い技術が求められる。

そんな脳疾患の治療で高い評価を得ているのが、虎の門病院脳神経外科。脳腫瘍の手術実績は日本一。間脳下垂体腫瘍の開頭せずに行う治療では、世界屈指の実力を誇る。

 「脳の病気は多彩なだけに、血管内治療や間脳下垂体腫瘍治療の部門を分け、専門性を高めています。その間を埋めているのが脳神経外科。それぞれの部門が信頼関係を築き、連携の強いのも特徴です」

 こう話す同科の臼井雅昭部長は、脳腫瘍のエキスパート。中でも、聴神経腫瘍の治療でずば抜けた技術力を発揮している。

一般的に、聴神経腫瘍は良性の脳腫瘍なのだが、聴神経は顔面神経のそばにあり、外科的治療によって腫瘍を取り除くと、耳が聞こえなくなるだけでなく、顔面麻痺といった後遺症が残る。

しかし、臼井部長は、モニターを用いた手術方法で、顔面神経の温存率100%の実績を実現。

 「脳腫瘍は、良性であっても命にかかわるだけに、切除して命を助ければいいというのは、医師のおごりだと思います。治療によって麻痺などが生じて、その後の生活に支障が出るのを避けなければなりません。だからこそ、専門性を高める必要がある」(臼井部長)

 そんな同病院には、他病院から紹介された複雑な症例も集まっていた。患者のQOL(生活の質)を維持するために、どのような治療が適切なのか。良性腫瘍や脳血管疾患では、経過を見守りながら治療のタイミングを図ることも大切。専門分野に分かれても、独断で決めずに横の連携によってカバーしている。

 取材した日も、脳神経血管内治療科から臼井部長へ、カテーテル治療ではなく外科的治療が必要ではないかと、患者に関する相談の電話が入った。医師の信頼関係で築く最善治療の選択。それが、実績に結びついている。

 「私たちは、脊髄動静脈瘻(ろう)という動脈と静脈がつながって脊髄の虚血を起こす疾患も、整形外科の医師と連携して治療しています。その他に神経内科との協力体制も築いているのが強みといえます」(臼井部長)

 あらゆる角度から脳疾患を診る体制を作った臼井部長は、脳卒中センターを作りたいと思っている。今でも、救急患者を受け入れる体制はあるが、「充実させたい」という。「病院の評価は術数ではない」と断言する臼井部長は、患者にベストな治療を行うために今も奔走中だ。

<データ>2009年実績

★年間手術数(血管内/間脳下垂体を含む)660件

★脳腫瘍92件(内、聴神経腫瘍42件)

★血管障害34件

★下垂体部腫瘍(開頭以外)320件

★血管内治療111件

★病床数890床(内、脳外科関係45床)

〔住所〕〒105-8470東京都港区虎ノ門2の2の2(電)03・3588・1111

【日本の病院の実力】腰痛、椎間板ヘルニアなどに特化 板橋中央総合病院

つらい自覚症状はいろいろあるが、厚労省『平成19年国民生活基礎調査』によれば、男性の第1位は「腰痛」。中でも、足の激痛やしびれを伴う椎間板ヘルニアは代表的な脊椎脊髄の病気だ。

その痛みを取る、あるいは、根治的な治療で定評を持つのが、板橋中央総合病院脊椎脊髄センター。患者の増加に伴い2008年に同病院の整形外科からスタッフを専従させて新たにスタートした。

 「患者さんは痛みを早くなんとかしてほしいと希望されます。それに応えると同時に、迅速に行う適確な診断も必要。椎間板ヘルニアと思われていても、別の病気が潜んでいることがあるからです。それらのことが、センターの開設でより行いやすくなりました」

 こう話す中小路拓センター長は、都内では6人しかいない日本整形外科学会認定の脊椎内視鏡下手術・技術認定医の1人。椎間板から飛び出して神経を圧迫しているヘルニアを除去するには、腰の後ろを7センチほど切開する手術が一般的だ。

それを15ミリの小さな切開で内視鏡を挿入して腰椎の隙間から治療を行う。入院期間は4日程度。手術後の痛みも少なく、高齢者でも行えるのも利点といえる。 

その治療を行える数少ない医師の一人である中小路センター長だが、内視鏡手術にのみこだわっているわけではない。痛みを取るため、「持続硬膜外ブロック」という治療も積極的に行っている。5日間ほどの入院による疼痛の集中治療だ。

 「患者さんは歩けないほど痛くても必ずしも手術を望むわけではありません。『持続硬膜外ブロック』は根本的治療ではありませんが、ほとんどの患者さんの痛みは軽快し、約半数の人は、その後の再発もなく手術を行わずに済んでいます。

これは、患者さんを紹介してくれる診療所の先生方と“病診連携”の体制を取っているからこそ、行える治療法ともいえます」(中小路センター長)

 痛みの取れた患者は、再び診療所で定期的に状態を診てもらう。異変があれば、また脊椎脊髄センターを受診する仕組み。このような医師同士の連携は、信頼関係があるからこそ築かれたものだ。

その連携によって、椎間板ヘルニアの影に潜む解離性動脈瘤や脊髄変性疾患など、別の病気がセンターで見つかることもしばしば。腰の痛みは多様で、原因疾患を見極める診断技術も、センターでは確立している。

 そんな中小路センター長の夢は、「当院は臨床研修指定病院なので、脊椎外科専門医を少しでも多く育て、地域医療に貢献したい」。日々の診断・治療に加え、一人でも多くの専門医を育てるためにまい進中だ。(安達純子)

〈データ〉2009年実績

★整形外科手術総数608件

★脊椎外科手術115件(内視鏡を用いた腰椎椎間板ヘルニア摘出術18件)

★持続硬膜外ブロック30件

★病床数579床〔住所〕〒174-0051東京都板橋区小豆沢2の12の7
TEL03・3967・4275

【日本の病院の実力】「乳がん」内視鏡手術や凍結治療で世界トップに 亀田総合病院

乳がんで亡くなる人は年間1万1000人以上。乳がん罹患者はその3倍以上になり、30代から増加するといわれる。がんに加えて、乳房を切除するという精神的な苦痛は、家族にも暗い影を落とす。

そんな苦痛を緩和すべく、乳房の傷を最小限に抑えた内視鏡手術や凍結療法で、世界のトップに君臨しているのが亀田総合病院乳腺科だ。

 「小さな傷できちんとがんを治すのが内視鏡手術の目的です。従来から乳房温存療法はありましたが、それに適用されない患者さんも多い。美しい形を残しながら治療を行うことは、とても重要だと思っています」と同科・福間英祐部長。

 内視鏡手術は、1980年代に消化器系疾患を中心に広まった。しかし、内視鏡を使うには、消化器のような「腔(くう・空洞)」がないと難しい。その後、心臓や腎臓にも内視鏡手術は行われたが、乳房には乳腺が詰まっているため、腔を作る技術がなかった。

このような状況で、福間部長は美容外科で行われている豊胸術に着目。脇の下と乳輪の横の2カ所に穴を開け、腔を作る技術を新たに開発した。そして、95年には世界に先駆けて乳腺内視鏡手術を実施。通算手術数は世界一を誇る。

 「国内外のたくさんの医師に指導していますが、見よう見まねでは会得できない高度な技術のため、広く普及するにはまだ時間がかかるでしょう」(福間部長)

 加えて1センチ以下の乳がんに対しては、特殊な針を刺してマイナス168度で凍結する「凍結療法」を2009年から実施。通院で行えるのも利点だ。

 「これまで早期がんを発見しても、それに見合う治療がなかった。凍結療法は、その問題を解消できます」(福間部長)

 一般的には、早期がんでも、乳房を傷つけ、放射線治療なども必要。福間部長は、「命を守る」「乳房の形を守る」「仕事の継続など社会的な立場を守る」「ホルモン療法などで妊娠の機会を失うことを防ぐ」を信条に、新たな治療を開発してきたという。

 また、MRIの画像診断件数も日本一。診断と治療の選択肢をたくさん持ち、最適なものを提供するためにチーム体制も整えてきた。都内4カ所の医療施設と提携し、患者の通院にも配慮した体制作りを実現している。

そんな福間部長の夢は、「乳がんを治すだけなく、予防や美容にも力を入れたい」。今年11月開催の国際乳房腫瘍形成学会の会長を務め、乳房の再建の重要性を訴える。また、年内には、脂肪の幹細胞を用いた新たな乳房再建術にも着手する予定。新たな取り組みは今後も続く。(安達純子)

〈データ〉2009年実績

★乳がん手術件数324件(内内視鏡手術271件)

★非切除凍結療法14件

★内視鏡下乳房再建70件

★病床数925床

〔住所〕〒296-8602 千葉県鴨川市東町929(電)04・7092・2211

【日本の病院の実力】世界初の大動脈弁形成術を確立 東邦大学医療センター大橋病院

★自己心膜を使用した弁形成で血栓による脳梗塞など解消

心臓病の中でも高齢化に伴い増加しているのが、心臓弁膜症の一つである大動脈弁狭窄症。弁が石灰化して固くなり十分に開かなくなる状態だ。その結果、心肥大や胸痛、失神を起こし、心不全に至ることもある。

従来から、人工的に作った弁(人工弁)に置き換える手術は行われているが、人工弁には血栓がつきやすい。

血栓による脳梗塞や肺梗塞を防ぐため、血液をサラサラにするワーファリンという薬を一生飲み続けるが、脳出血・消化管出血など出血の合併症にも注意が必要だ。加えて、妊娠する可能性がある女性には原則として使用できない。

また、患者は、摂取できる食品が制限されるなど不都合があった。

 それらを解消する新たな治療法として、「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」を2007年に日本で初めて実施したのが、東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科だ。

 「患者さんから、異物である人工弁を入れずに治療してほしいという要望が多々あり、それに応える方法がないかと考えたのです」

 こう話す尾崎重之教授は、患者自身の心臓を包む心膜で大動脈弁を作ることを思いついた。そして、大動脈弁の形にも着目。正常な3枚の弁は、お椀状の立体的な形をしておりそれぞれの大きさが違う。

 人工弁は、大きさが3つとも同じで本来の弁とは本質的に異なる。そこで尾崎教授は、それぞれの弁の大きさ(交連部間距離)の長さを簡単に測れる「弁尖(べんせん)サイザー」という道具と、それに合わせて「自己心膜から弁を作るテンプレート」を考案。どの医師でも容易にできる世界初の大動脈弁形成術を確立させた。

 「患者さんにとっては人工弁を使用しない分、医療費が安くなり、ワーファリンを飲まずに済むため運動制限や食事制限もありません」(尾崎教授)

 3年間で累計174人がこの治療を受けているが、再手術をした人はゼロ。1年間に1%程度の再手術が行われる人工弁と比較すると好成績。また、88歳といった高齢者にも適応できる治療法であり、循環器学会で発表したところ大反響を呼び、少しずつ普及も始まっている。

 「私たちは、QOL(生活の質)をより高められる治療法と『からだにやさしい』手術を目指しています。そのための新たな治療法を開発することも、使命なのです」(尾崎教授)

 次の目標は「成長する弁」の開発。牛の心膜から細胞を取り除くと、枠組みだけのような状態になり、その枠に合わせて人間の細胞が再生される仕組み。身体の成長に合わせて弁も成長し、耐久性にも優れたものと期待されている。新たな世界初の治療法が、産声を上げるのは間近といえそうだ。

<データ>2009年実績

★自己心膜を使用した大動脈弁形成術66件

★人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術35件

★僧帽弁形成術32件

★大動脈瘤「腹」18件/「胸」20件

★病床数468床

 [住所]〒153-8515東京都目黒区大橋2の17の6
TEL03・3468・1251。

【日本の病院の実力】カテーテル治療は全国2位の実績…千葉西総合病院

心筋梗塞や狭心症では、一般的に、大腿部の血管から細い管を通して行うカテーテル治療が行われている。この治療で関東1位、全国2位の実績を誇るのが千葉西総合病院。

 「県外の患者さんは約7割で、全国のみならず海外からも来院されています」とは、心臓センター長も兼任する三角和雄院長。米国の医師格付け機関の「ベストドクター」に4年連続選出された実力を持ち、最先端技術を積極的に導入している。

 そのひとつが、ロータブレーター。動脈硬化が進むと、血管内にはコレステロールなどが石灰化した塊ができ、血流が悪くなる。その塊をカテーテルの先端に工業用ダイヤモンドでできた専用器具を付け、高速回転させながら削り取る新しい技術がロータブレーターだ。この治療実績は年間600件以上。

「透析中の患者さんなど、心臓の血管が固すぎて、バルーンによるカテーテル治療やバイパス手術ができない人がいます。そういう方々も、この治療で改善できます」(三角院長)

 さらに、血管内のエキシマレーザー治療、血管内腔の再狭窄を防ぐ薬剤溶出ステント(DES)術も行っている。加えて、昨年11月には、世界で8台しかない最新のフィリップス社製不整脈対応型256列マルチスライスCTという画像診断機器をアジアで初めて導入した。

従来のマルチスライスCTの検査は1分程度かかったが、256列マルチスライスCTはわずか3~5秒の検査時間。血管の詳細情報を得ることができるため、無駄なカテーテル検査を減らせるそうだ。

 「256列マルチスライスCTやロータブレーター、エキシマレーザーを組み合わせることで、心臓の冠動脈だけでなく首の頚動脈、閉塞性動脈硬化症といった脚の血管も、一度に治療することができます」(同)

 最先端技術の導入は、患者の身体負担を軽減するのが狙い。

 そんな三角院長は、「救急診療も断らない」という強い理念を持ち、心臓血管外科や小児科なども充実させてきた。そして、2011年には、608床の高度な医療設備を誇る新館を完成させる予定。そこには、最新設備で治療もできるドクターズヘリも完備するそうだ。

 「遠くからの車の搬送では時間がかかる。最新設備は、全て必要に応じて導入しているのです」(同)

 1人でも多くの命を救うために、三角院長の取り組みは続く。

【データ】2007年実績

 心カテーテル治療2133件▽ステント使用1961件(DES使用率81%)

 心臓手術290件▽バイパス手術93件▽胸部大動脈瘤・大動脈解離146件

 病床数408床

 〔住所〕〒270-2251 千葉県松戸市金ヶ作107の1 
TEL047・384・8111

【日本の病院の実力】進行がん治療、目指すは「早い」「うまい」「安い」 癌研有明病院

早期段階で見つかれば予後の良い胃がんや大腸がんだが、健診の進んだ今でも、進行した状態で見つかるケースは多い。その治療で、国内第1位の実績を誇り、世界トップの実力を持つのが、癌研有明病院消化器センターだ。

15室の手術室で年間約7500件の手術が行われ、緩和ケア病床25床も完備。そのため、難しい症例の患者が全国各地はもとより、世界各国からも集まっている。

 「私たちが目指しているのは、牛丼の吉野家のキーワードのように、『早い』『うまい』『安い』。がんの治療でも、重要です」とは、消化器外科部長の山口俊晴副院長。胃がんの名医だ。

 「早い」は、1週間以内の診断と2週間以内に治療を開始。「うまい」は、最高の手術手技、最高の内視鏡技術、最新の薬物治療。「安い」は、安全な検査と治療、安心できる医療のこと。

 それらを実現するには、患者を中心としたチーム医療が欠かせない。外来や病棟を共有し、医師チームや看護師チームの合同カンファレンスで情報交換を密にしている。また、5年ほど前から、大きな病院でありがちな大勢で患者を見て回る総回診は止めた。

 「チーム医療で大切なのは、機能的、合理的で、なおかつ、透明性が高いことです」(山口副院長)

 透明性を高めて安全性を確保するために、日本初の設置で、他病院の手本となっている「キャンサーボード」が重要。同センターのキャンサーボードは、消化器センターのスタッフのみならず、症例によっては呼吸器科や乳腺科、放射線科などの医師も集まり、難しいケースの治療方針を決定する。

それは、単に幅広い意見を集約するというのではなく、ここでの決定は拘束力を持ち、各診療科が勝手に変更はできない。監査機関の役割も担っているのだ。

 「複雑な症例の患者さん自身に、いろいろな治療法を説明して選択してもらうのは難しい。患者さんをよく理解し、病状や社会的な条件などをかんがみて、大勢の専門医がベストな治療法を選ぶ。このキャンサーボードの決定過程を患者さんに説明すると、喜ばれることも多い」(山口副院長)

 医師が集まって知恵を出し合う機会が多いだけに、新しい治療法も生まれやすい。たとえば、胃がんに対して、内視鏡と腹腔鏡をドッキングさせた新たな治療法「LECS」なども行っている。

 最先端医療を提供する山口副院長の夢は、「国内だけでなく海外からの患者さんも、より多く受診できるようになれば」という。世界の頂点としての取り組みに終わりはない。

 〈データ〉2009年実績

 ★胃がん手術617件(内腹腔鏡手術294件)

 ★大腸がん手術543件(内腹腔鏡手術354件)

 ★食道がん手術84件

 ★肝、胆、膵手術344件

 ★病床数700床

 〔住所〕〒135-8550東京都江東区有明3の8の31
TEL03・3520・0111

【日本の病院の実力】順天堂大学医学部附属順天堂医院食道・胃外科 最先端の食道がん医療で世界を牽引

わずか4ミリの薄い壁に生じる食道がんは、再発・転移を起こしやすい。

 5年生存率(TNM分類第6版)は、粘膜の表面にがんがとどまるステージIの全国集計で65%。粘膜の下に到達し、リンパ節転移も1-2個見られるステージIIBになると34%に下がり、

さらに進行したステージIIIは20%。頸部へのリンパ節転移も見られるステージIVになると6-14%で、非常に厳しいものとなる。

 そんな現状を独自の高度な医療技術で打開しているのが、順天堂大学医学部附属順天堂医院食道・胃外科。ステージIIBの5年生存率は65%、ステージIII50%、ステージIVは44%と、驚異的な数字を実現している。

 食道手術総数が全国トップレベルというだけでなく、化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的な治療で、世界も牽引(けんいん)中だ。

 「食道がんの治療は、5年生存率だけでなく、術後の合併症の施設間格差も非常に大きい。私たちは、合併症を1%前後に抑えながら、進行がんに対しては集学的な治療を行うことで、5年生存率の引き上げを実現しています。

食道がん手術の技術レベルの高さがなければ、化学療法や放射線療法の集学的治療も成り立たないともいえます」

 こう話す同科の梶山美明教授は、3000例以上もの手術経験を持つ食道がん手術のスペシャリスト。食道という臓器は頸部、胸部、腹部へと伸びるが、それぞれの食道と付随するリンパ節を取り除く「3領域リンパ節郭清(かくせい)手術」を梶山教授は得意とする。

 しかし、3領域の食道やリンパ節は、たくさんの臓器や血管、神経に囲まれ、特に頸部では、声に関わる反回(はんかい)神経まひ、胸部では肺の合併症、さらに縫合不全といったことも、一般的には起こりやすい。

 「外科医が高い技術レベルを持って、ひとつひとつ丁寧に行えば、80代の進行がんの方にも、合併症を防ぎながらの手術は可能です。きちんと医師が勝負を挑んでいるのか。

患者さんも手術に対して、覚悟をするわけですから、私たちはそれに常に応える必要があると思っています」

 梶山教授は、早期がんに対する内視鏡による治療も、全て同科で請け負っている。食道がんは、早期がんに見えても、リンパ節転移をしていることがあるなど、非常に病態が難しい。だからこそ、早期がんから進行がんまで、全ての食道がんに立ち向かうべく体制を整えているのだ。

 「常に新しいエビデンス(科学的根拠)を作ろうとしています。そうでなければ進歩はあり得ない。新たな手術前の放射線療法と抗がん剤治療の効果検証も、論文を発表したばかりです。

他の臓器へ再発転移した食道がんに対しても、全身的な治療の開発を行いたい」と梶山教授。

 100%の治療の確立を目指し、食道がんと闘っている。 

<データ>2012年度実績
・手術総数356件

・食道手術総数234件(食道がん手術138件)
・胃十二指腸手術総数213件(胃がん手術133件)
・病院病床数1020床
〔住所〕〒113-8431 東京都文京区本郷3の1の1 
(電)03・3813・3111

【日本の病院の実力】帝京大医学部附属病院・眼科 斜視手術は日本トップ、目の腫瘍には先進医療

眼の病気は山ほどある。加齢に伴い水晶体が濁る白内障、網膜や視神経の細胞が死滅あるいはダメージを受ける糖尿病網膜症や緑内障、視力の低下や失明に関わる病気だけでなく、左右の黒目が異なる方向を向く斜視(しゃし)、機能障害でまぶたがうまく開かなくなる眼瞼下垂(がんけんかすい)など広範囲に渡る。

 そんな眼の病気に対し、一般的な診断と治療だけでなく、特殊な技術を用いた医療の提供で全国的に名をはせているのが、帝京大学医学部附属病院眼科。斜視を治す手術は全国1位の実力を誇り、眼瞼下垂の治療や眼の形成手術も得意としている。さらに、遺伝的な難病疾患を始め、眼のがんに対して眼を残す治療など、守備範囲は広い。

 「眼の病気というのは、治療が確立されていない難病もたくさんあります。

判別が難しい病態もあり、正しい診断法や新たな治療法の開発、さらには、メカニズムを明らかにする基礎研究にも取り組まなければなりません。そういった特殊な病気も含めて、私たちは技術力を集結し向上に努めているのです」

 こう話す同科の溝田淳主任教授(56)は、網膜色素変性症や難治性視神経症など、視覚系難病の診断と治療を得意としている。

例えば、網膜色素変性症は、遺伝的な病気で、眼から入ってきた映像を脳へ伝える視細胞が変性していく。失明の原因となる病気だが、有効な治療法は今のところない。

 「一般的に、網膜色素変性症はひとつの疾患として解釈されますが、人によって視細胞、あるいは、色素上皮細胞など、たくさんの原因があります。

網膜電図検査(ERG)などを用いて、詳細な診断を行った上で、進行を遅らせることでQOL(生活の質)は維持できます。完治はしなくても進行を食い止めることも、重要です。そういった診断法や治療法の開発に取り組んでいます」

 溝田教授は、長年、眼腫瘍(がんしゅよう)の診断と治療も行ってきた。中でも、眼の中にできる悪性黒色種は、眼球を取り除くのが一般的治療法。しかし、義眼を避けて眼球を残したいと願う患者はいる。

そんな人々のため、約15年前から放射線医学総合研究所とタッグを組み、重粒子線がん治療装置を用いた新たな治療法を確立した。

 現在、先進医療として、全国の眼の悪性黒色種の年間患者数約3分の1に対して行うほど治療実績を積み重ねている。

 「重粒子線治療を行うマーキング手術は、私が最も多く手掛けています。10年経っても1・0の視力を維持できる症例もあります。転移に関しては、眼球摘出術と変わらない結果を得られています」

 特殊な治療にも取り組む姿勢で「ひとつでも新たな治療法を見つけ、次のステップに進む。その繰り返しです」。

 眼の難病治療の未来の扉を開けるため、尽力中だ。  

<データ>2012年度実績
・手術総数2958件
・白内障手術1378件
・斜視手術624件
・網膜硝子体394件
・眼瞼下垂126件
・病院病床数1154床
〔住所〕〒173-8606 東京都板橋区加賀2の11の1
(電)03・3964・1211

【日本の病院の実力】帝京大医学部附属病院・眼科 斜視手術は日本トップ、目の腫瘍には先進医療

眼の病気は山ほどある。加齢に伴い水晶体が濁る白内障、網膜や視神経の細胞が死滅あるいはダメージを受ける糖尿病網膜症や緑内障、視力の低下や失明に関わる病気だけでなく、左右の黒目が異なる方向を向く斜視(しゃし)、機能障害でまぶたがうまく開かなくなる眼瞼下垂(がんけんかすい)など広範囲に渡る。

 そんな眼の病気に対し、一般的な診断と治療だけでなく、特殊な技術を用いた医療の提供で全国的に名をはせているのが、帝京大学医学部附属病院眼科。斜視を治す手術は全国1位の実力を誇り、眼瞼下垂の治療や眼の形成手術も得意としている。さらに、遺伝的な難病疾患を始め、眼のがんに対して眼を残す治療など、守備範囲は広い。

 「眼の病気というのは、治療が確立されていない難病もたくさんあります。

判別が難しい病態もあり、正しい診断法や新たな治療法の開発、さらには、メカニズムを明らかにする基礎研究にも取り組まなければなりません。そういった特殊な病気も含めて、私たちは技術力を集結し向上に努めているのです」

 こう話す同科の溝田淳主任教授(56)は、網膜色素変性症や難治性視神経症など、視覚系難病の診断と治療を得意としている。

例えば、網膜色素変性症は、遺伝的な病気で、眼から入ってきた映像を脳へ伝える視細胞が変性していく。失明の原因となる病気だが、有効な治療法は今のところない。

 「一般的に、網膜色素変性症はひとつの疾患として解釈されますが、人によって視細胞、あるいは、色素上皮細胞など、たくさんの原因があります。

網膜電図検査(ERG)などを用いて、詳細な診断を行った上で、進行を遅らせることでQOL(生活の質)は維持できます。完治はしなくても進行を食い止めることも、重要です。そういった診断法や治療法の開発に取り組んでいます」

 溝田教授は、長年、眼腫瘍(がんしゅよう)の診断と治療も行ってきた。中でも、眼の中にできる悪性黒色種は、眼球を取り除くのが一般的治療法。しかし、義眼を避けて眼球を残したいと願う患者はいる。

そんな人々のため、約15年前から放射線医学総合研究所とタッグを組み、重粒子線がん治療装置を用いた新たな治療法を確立した。

 現在、先進医療として、全国の眼の悪性黒色種の年間患者数約3分の1に対して行うほど治療実績を積み重ねている。

 「重粒子線治療を行うマーキング手術は、私が最も多く手掛けています。10年経っても1・0の視力を維持できる症例もあります。転移に関しては、眼球摘出術と変わらない結果を得られています」

 特殊な治療にも取り組む姿勢で「ひとつでも新たな治療法を見つけ、次のステップに進む。その繰り返しです」。

 眼の難病治療の未来の扉を開けるため、尽力中だ。  

<データ>2012年度実績
・手術総数2958件
・白内障手術1378件
・斜視手術624件
・網膜硝子体394件
・眼瞼下垂126件
・病院病床数1154床
〔住所〕〒173-8606 東京都板橋区加賀2の11の1
(電)03・3964・1211

【日本の病院の実力】聖路加国際病院 感染症科 抗菌薬の早期・適正使用へ効果的なガイドライン作成

冬場は風邪の季節。身の周りには、体内での増殖を狙うウイルスや細菌などがウヨウヨ存在する。細菌に関しては、1928年、抗生物質ペニシリンが発見され、感染症の時代は終わったとまで言われたほど、抗菌薬は医療に貢献してきた。

 ところが、細菌類は次々に薬剤に対する耐性を獲得し、多剤耐性菌となり、免疫力が低下した人々を襲うようになっている。それは、院内感染に加え、市中にも蔓延(まんえん)。

たくさん存在する感染症を的確に診断し、適正な薬の使用で早期に封じ込めることが、現在、世界的にも求められている。

 そんな感染症の診断、治療、院内体制で、世界的にもトップレベルの実力を持つのが聖路加国際病院感染症科。独自のシステムを構築し、外来患者から入院患者まで幅広い医療を提供している。

 「これまで日本の教育では、呼吸器内科は肺に関わる感染症のように、縦割りで、他の臓器の感染症に関する知識が乏しかった。しかし、感染症は種類が多く全身に関わります。

また、薬剤の投与が不適切であれば、感染症は治癒せず、多剤耐性菌を新たに作ることにもなる。だからこそ、迅速かつ的確、早期に診断し、抗菌薬の適正使用を行う体制は、非常に重要だと思っています」

 こう話す同科の古川恵一部長(60)は、感染症の診断と治療のスペシャリスト。米国で感染症の臨床研究を行い、帰国後の96年、現職となって以来、これまでにない感染症に対する独自の医療システムを構築した。

 研修医にもわかるような「主な感染症に対する抗菌薬治療のポイント」といったガイドラインを作り、「主な感染症に対する抗菌薬」リストも策定。いかに適正に抗菌薬を使用すべきか、科を問わず、理解できるようにオリエンテーションなども行う。

救急外来にグラム染色などの細菌検査設備を整え、すぐに診断できるようにもし、研修医全員がその方法を学んでいる。

 「むやみに抗菌薬を投与するのではなく、細菌学的検査結果が出る前に、ある程度原因菌を推測して目安をつけ、抗菌薬を早期の段階から適正使用することと、原因菌に合った治療を行うことで、重症の感染症の患者さんも救うことができます。

幸い当院には、他科との壁がない。どの科に対しても、感染症患者のコンサルティングを行うことができます。主治医とともに入院患者さんを受け持つなど、理想的な体制が整っています」(古川部長)

 外来患者の中には、マラリアなど海外で感染した人もいる。輸入感染症の診断と治療も、古川部長は得意。加えて院内感染症、市中感染症までもカバーし、その技術と知識を若い医師の育成にも生かしている。

 「感染症を専門とする医師は、全国的に少ないのですが、当院を巣立った医師たちが少しずつ専門医療を広めてくれています。後進の育成にさらに力を入れたい」と古川部長。

 1人でも多くの感染症患者を救うべく奮闘中だ。 

<データ>2010年度実績
・感染症入院患者数277人
・他科との連携入院患者数年平均500人
・初診患者数4700人 ・病院病床数520床
〔住所〕〒104-8560 東京都中央区明石町9の1
(電)03・3541・5151

【日本の病院の実力】杏林大学医学部付属病院もの忘れセンター “認知症”早期発見に尽力★杏林大学医学部付属病院もの忘れセンター

国内では65歳以上の1割以上が認知症、あるいはその予備軍と言われる。記憶が欠落する認知症は、本人の自覚は難しく、家族が気づいたときには症状が進んでいることも多い。

どこの病院へ行けば良いのか、在宅介護はどうすればよいのか、さらには、本人が「病院へ行きたくない」と拒む場合はどうするか。家族には悩ましい。

 そんな患者と家族をサポートするために、全国でも珍しい取り組みを行っているのが杏林大学医学部付属病院「もの忘れセンター」だ。

 地域の専門病院や診療所、行政と関連する在宅介護支援センターなどが、約4年前に「三鷹・武蔵野認知症連携を考える会」を結成。中心となり動いたのが、同病院センター長の神崎恒一教授(52)。複数の機関の情報共有をスムーズに行うため、6つに分けた「もの忘れ相談シート」を新たに開発し、成果を上げている。

 「認知症は、早期に発見して医療機関や福祉が介入することで、徘徊(はいかい)や暴力などの、家族を悩ませる症状を食い止めることが可能です。各機関がシートを用いて情報を互いにやり取りし、情報共有を確実にすれば、早期発見と介入ができます」

 こう話す神崎教授は、長年高齢者の全身を診る高齢医学について研究し、診療に携わる。

 一般的に高齢者は生活習慣病、心臓病やその他の血管障害、運動器障害など、数多くの持病を抱える。複数の医療機関を受診し、たくさんの薬を処方されるケースがありがち。医療機関の情報共有がない場合、同じような薬が重複されることも。その解消にも、シートの情報共有は有効だ。

 「ご高齢の方は、身体の不調があると内に引きこもり、認知症がひどくなってしまうことがあります。心と身体のつながりは深く、悪循環を断ち切るためにも、各機関と情報連携を行って体操や趣味の活動に参加するなど、日中の活動性を高くすることが大切です」

 体調管理や薬の整理は診療所が行い、高度な医療が必要なときには専門病院、引きこもりの抑止や介護の介入は福祉など、情報共有による連携が行われている。

 さらに患者の家族の不安を解消するため、小グループの勉強会も実施。医師に言えない不安や悩みも、勉強会で解消できるようにしている。

 このような地域ぐるみで支援する新システムは、非常に注目されており、他の地域や医療機関からの見学もあるという。

 「ご家族の方に安心感を持っていただくことはとても大切です。地域によって医療機関や福祉の状況は異なりますが、その地域に合わせた連携システムを作ることで、高齢者医療は大きく変わると思います。

多くの若い医師にも、もっと高齢医学を学んでほしい。そういう教育システムも作りたい」と神崎教授。

 超高齢化社会で医療は行き詰まると言われる現状を打破し、新たな未来を築くために尽力中だ。

<データ>高齢診療科2010年度実績
・年間延べ患者数7926人績
・新規入院患者数401人績
・もの忘れセンター新規患者数633人(軽度認知障害136人、アルツハイマー型認知症116人、脳血管性認知症85人など)績
・病院病床数1153床

〔住所〕〒181-8611 
東京都三鷹市新川6の20の2(電)0422・47・5511

【日本の病院の実力】国立がん研究センター東病院血液腫瘍科 国内初ATL治療法確立へ2薬併用の臨床試験を開始

ウイルスに関連した病気は山ほどある。中でも「成人T細胞性リンパ腫・白血病(ATL)」は、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の感染が原因で、先進諸国の中では日本での発症が多い。

 もちろん、HTLV-1に感染した誰もが、この血液のがんを発症するわけではない。感染から40~80年の歳月を経て、キャリアの3~5%がATLになる。

 発症パターンは幾つかあり、急激に病状が進行して悪化するタイプには、現在、強力な化学療法や、ドナーの造血幹細胞を移植する同種造血幹細胞移植が行われている。

 昨年には「ポテリジオ」というがんを狙い撃ちにする新たな分子標的薬も登場。ただし、いずれの治療にも強い副作用が伴うため、進行の緩やかなATL患者には、病状が急変するまで注意深く経過観察を続け、悪化した段階で化学療法を行う「無治療経過観察」が標準治療となっている。

 この状況を一変させ、世界に先駆けた国内初の治療法の確立に向け、旗手役となっているのが国立がん研究センター東病院血液腫瘍科。昨年9月、長崎大学から着任した同科の塚崎邦弘科長(53)が、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)リンパ腫グループの代表として、先進医療B制度により、ATLに保険適用のない抗ウイルス薬の「インターフェロンα」と抗HIV薬「ジドブジン」を用いた臨床試験を先月、スタートさせた。

 「従来の治療法では、強い作用の治療法か、もしくはゼロ(無治療経過観察)という状態でした。それを改善するために、進行の遅いタイプの患者さんに対して、臨床試験をスタートさせたのです。

海外では16人のこのタイプのATL患者さんがこの併用療法を続けると、長年にわたり悪化しないという報告が過去にありました。

しかし、先進諸国では患者数の多い日本が、世界に先駆けて大規模な臨床試験を行う必要がある。結果として、新たな治療法が患者さんに役立てばと思っています」(塚崎科長)

 臨床試験では、進行の遅いタイプのATL患者に対し、まずは国立がん研究センター中央病院と東病院で、投与する人とそうでない人をランダムに分けて実施。2例について安全性を確かめた上で、全国約40カ所のJCOG参加医療機関で合計74人に対する臨床試験を行う。

 「2つの薬は、これまで単独使用で治療効果の実績はありますが、併用療法は国内では初めての試み。患者さんのご協力を得て、慎重に進めているところです」

 こう話す塚崎科長は、長年ATLの研究を行ってきた。母乳によって母親から乳児に移る垂直感染の予防や、2011年にスタートした妊婦健診も後押し、治療のみならず予防への道筋もつけた。

そして、新薬「ポテリジオ」の効果の検証も行う。「予防策がきちんと行われれば、国内のキャリアは増えません。そして、新たな治療法を確立し、生命予後を改善することで、ATLを封じ込めたいと思っています」と塚崎科長。

 世界初の治療の実現に向けて尽力中だ。 

<データ>2011年実績(新規患者数)
・リンパ腫140人
・白血病および骨髄異形成症候群16人
・多発性骨髄腫および形質細胞腫15人
・病院病床数425床
〔住所〕〒277-8577 千葉県柏市柏の葉6の5の1 
(電)04・7133・1111

【日本の病院の実力】肝がん 予後治療に尽力する世界のリーダー「日本赤十字社医療センター」

国内で年間3万3000人以上の命を奪っている肝がん。肝臓は消化管からの血液が流入している場所だけに、原発性の肝がんだけでなく、転移性肝がんも多い。しかし、肝臓の手術は難しく治療によって予後が大きく左右される。その外科的治療で世界に名をはせているのが、日本赤十字社医療センターだ。

 「標準治療では適応できない難しい症例の患者さんが集まっています。そういう方の予後をいかに確保するか。365日24時間、そのことを考えています」

 こう話す幕内雅敏院長は、肝胆膵外科における世界のリーダー。80年代に手術中にエコーを用いた「幕内術式」を世界で初めて開発し、安全性の高い手術を実現している。また、93年に世界初となる成人生体肝移植を手掛け、海外の科学雑誌で紹介された。

それまで大人から大人への肝臓の部分移植は、ドナーの危険が高いといわれていたが、これを実現したことで、多くの人の命が救われるようになった。

 幕内院長が現在まで手掛けた成人生体肝移植は、500例以上。「手抜きはできない」という真摯な姿勢で、“365日24時間”ドクターであり続け、肝切除や生体肝移植など長時間に及ぶ手術を今も行っている。

 加えて、2007年に就任した病院長としての手腕も発揮。同センターは、地域がん診療連携拠点病院であるだけでなく、救命救急センター、総合周産期母子医療センターなど、さまざまな機能を持っている。来年1月4日からは、同施設内の新病院に移転し、さらなる医療の充実を目指す。

 「新病院は、患者さんにとってはより利用しやすくなるでしょう。しかし、医療というのは、設備ではなく人材が最も大切。肝臓の手術は難しいのですが、日本はもとより世界中から医師がここに勉強に来ています」

 こう話す幕内院長が憂えているのは、日本全体の医療における外科医不足。救急救命医、産婦人科のみならず、外科医も近い将来激減するといわれているのだ。幕内院長のもとには、若い外科医が集まっている。とはいえ、全体的な底上げがなされないと、将来外科手術に支障が出かねない。

 「20年前に比べて外科の専門医を希望する人は3分の1に減っています。使命感だけでは、ハードな仕事に若い人は就かないでしょう。医療システムを変える必要があると思っています」

 “患者のために”を考え続ける幕内院長の取り組みに、終わりはない。(安達純子)

<データ>2008年実績

★がん手術件数942件

★肝切除172例

★膵頭十二指腸切除(PD)19例

★分娩件数2516件

★取扱救急患者数2万6480人

★病床数708床(2010年1月からの数)

〔住所〕〒150-8935東京都渋谷区広尾4ノ1ノ22(電)03・3400・1311

【日本の病院の実力】肺がん「縮小手術」での新境地開拓 大阪府立成人病センター   

国内で年間約6万7000人もの命を奪う肺がん。この治療で全国トップクラスの実績のみならず、世界に先駆けて新たな治療法に取り組んでいるのが大阪府立成人病センター呼吸器外科である。肺がんそのものだけでなく、他の臓器がんの肺転移についても、国内の単一施設としては治療実績第1位を誇る。

 「当センターはチームワークが完璧。技術レベルの高さと症例数で専門医を目指す医師が集まり、ここから育った医師たちが地域の病院でネットワークも作っています」とは、同センター児玉憲副院長。

 進行した肺がんに対しては、手術、抗がん剤、放射線を駆使して治療を行い、早期の肺がんや転移性肺がんで局所にとどまっている場合は、肺の部分切除を行っている。

 1980年代に児玉副院長が高出力のレーザーメスを用いた手術法を考案。安全な縮小手術を可能にし、「肺がん外科治療の新たなページを開いた」といわれたほどだ。

 「できるだけ小さな傷口で済む手術法は、患者さんの負担を軽減することになります。しかし、再発しては意味がない」

 90年代には、海外での大規模比較試験で縮小手術は再発リスクが高いとの報告がなされた。そのころ、同センター呼吸器外科では、再発防止の新たな治療法を開発。部分的に切除した肺の切り口の細胞をその場で調べる「術中迅速肺切離面洗浄細胞診」である。肺の切り口にがんが残っていないかを調べることで、取り残しをなくし、再発を防ぐ。この世界に先駆けた縮小手術法は、同科の強みといえる。

 「最近は画像診断機器の発達で、1センチ未満の小さな肺がんを見つけることができます。進行が遅い早期がんに対しても、縮小手術をすることで予後が良いことも確認しています」(児玉副院長)

 一般的に、肺がんは進行した状態で見つかりやすいといわれるが、2000年~09年の同科の患者は、およそ半数はリンパ節転移のないIA期肺がんで、その半数以上は2センチ以下の早期がん。そのがんの性質に合わせて治療を行い、完治を目指している。

 「肺がんは手ごわい敵です。がんの病態によって、縮小手術や拡大手術、放射線、抗がん剤などの治療を単独あるいは組み合わせて行うオーダーメード医療が不可欠といえます。患者さんによって、薬の効きやすさなどを調べて情報を保管し、それを治療に生かしています。将来は、採血をしただけで抗がん剤の効果や副作用の出やすさがわかるようになるでしょう」(児玉副院長)

 今年創立50周年の節目を迎え、病院の建て替えも決まった。新たな医療の構築に拍車が掛かることを期待したい。

 【データ】2008年度実績

 ★肺がん手術212件

 ★術中死亡0件

 ★転移性肺腫瘍56件

 ★術中肺切離面洗浄細胞診1131件(97年以降累計)

 ★病床数500床(呼吸器科60床)

 〔住所〕〒537-8511大阪府大阪市東成区中道1の3の3
TEL06・6972・1181

【日本の病院の実力】千葉県済生会習志野病院 日本人向け人工関節考案

高齢化社会に伴い股関節やひざ関節などの関節痛に悩む人が増えている。そんな関節障害に対して、独自の日本人向け人工関節を考案し、国内外に名をはせているのが千葉県済生会習志野病院千葉関節外科センターだ。

 「日本人は、股関節が浅く大たい骨がねじれているなど、世界の中でも珍しい骨格の特徴があります。そのため、従来のように諸外国で作られた人工関節を用いると、合わないことが多い。日本人に合った治療を行うために、人工関節の開発が不可欠だったのです」とは、同センター長を兼務する原田義忠副院長。

 ハーバード大学に留学中、人工関節の研究をしながら日本との違いを痛感した。そこで、帰国後、千葉大医学部准教授時代の1997年から、東京医科歯科大学や大阪大学、ヒューストン大の工学博士とのプロジェクトを発足し、日本人向けの人工関節を作り上げたという。すでに厚労省の承認も取り、臨床現場で幅広く活用されている。そして、今も次世代の人工関節をプロジェクトで考案中だ。

 「畳や正座といった日本人の生活様式で、人工関節を違和感なく使えるようにしています。日本人の医師と海外の工学博士がタッグを組んだのは初めてのこと。患者さんのQOL(生活の質)の向上をさらに上げることができるでしょう」

 こう話す原田副院長は、人工関節だけにこだわっているわけではない。関節鏡による治療や骨切り術による関節温存術も積極的に行い、その治療にも定評がある。

 「患者さんへのオーダーメード医療を心がけています。関節の故障は、高齢者の方ばかりではありません。若い方でも骨格の歪みやスポーツなどの影響、リウマチ疾患で関節を痛めます。患者さんとは長いおつき合いになりますが、私一人で患者さんを一生涯診ることはできません。そのため後輩の育成にも力を入れています」(原田副院長)

 股関節の治療は、一つ間違えると患者がうまく歩けなくなるなど、大きな支障を及ぼす。それを避けるには、外科医の手腕が問われる。原田副院長は、積極的に後輩の指導をすることで技術レベルの向上を図っているのだ。また、原田副院長の専門は股関節だが、千葉関節外科センターには、肩・上肢、下肢、スポーツグループのそれぞれ専門医がいるという。

 「次世代の医師へタスキを渡すために、もっと人材育成を強化したいと思っています。そして、世界トップレベルの技術を維持したい」(原田副院長)

 日本人特有の関節障害を封じ込めるために、今後も力を尽くすだろう。

〈データ〉2009年実績

★人工股関節113例

★人工股関節再置換術11例

★関節鏡による手術28

★寛骨臼回転骨6例

★内反骨切り術8例

★病床数45床

〔住所〕〒275-8580千葉県習志野市泉町1の1の1
TEL047・473・1281

【日本の病院の実力】心臓病 所沢ハートセンター「心カテーテル治療」では関東5指

国内で年間18万人以上もの命を奪う心臓病。心筋梗塞や狭心症などの発作がひとたび起こると、医療機関での迅速な治療を受けることが不可欠。しかし、大きな総合病院では、数の限られたICU(集中治療室)を脳神経外科など他科も使用しているため、循環器救急のために絶えずベッドを空けておくのは難しい。そんな状況を打開すべく、2005年に開院したのが所沢ハートセンターだ。

 「CCU(冠疾患集中治療室)や空きベッドの管理をして多くの患者さんを救命したかったのですが、以前勤務していた総合病院では名ばかりの心臓病センターで困難でした。循環器専門施設であれば、CCUや検査機器なども自由に使えます。専門の看護師や技師の体制も整えやすい。それで、開院することにしました」とは、桜田真己院長。

 同センターでは、24時間体制で患者を受け入れ、心筋梗塞や狭心症、心不全、不整脈などの循環器の病気を専門に治療している。心臓の冠動脈画像を外来で10分足らずの検査で映し出すマルチスライス(64列)CTなどの検査機器も充実。開院直後から患者は増加し、心臓の血管に細い管を入れて血流をよみがえらせる「心カテーテル治療」では、関東で5本の指に入るほどの実力を誇る。

 「対応が遅れると危険な患者さんを検査技師さんやナースが臨機応変に対応してくれますので、タイミングを逃さず治療できるのが利点です」

 こう話す桜田院長は、循環器専門施設の開院というひとつの夢を果たし、次なる目標に向かって突き進んでいた。そのひとつが、アンチエイジングセンターの開設。循環器疾患の早期発見・予防に特化して、2年後の開設を目指している。

 「心筋梗塞や狭心症は、動脈硬化が原因です。血管の内皮機能を調べる検査を導入していますが、若い人でも機能が落ちている人が多い。早期発見し予防する手段を考えています」

 もうひとつ、足の閉塞性動脈硬化症では、新たなレーザーを用いた治療法を開発した。20年前から研究を続けてきたそうで、今春には臨床試験をスタートさせる予定だ。

 「従来から用いられている血管を広げる金属のステントでは、足のように血管が外圧を受けやすい箇所では、ステントがつぶれやすいといった欠点がありました。それを解消したい」

 この治療法は、世界に発信できるメード・イン・ジャパンとして、初お目見えするという。循環器疾患を減らすため、桜田院長の取り組みに終わりはない。

 〈データ〉2009年実績

 ★心カテーテル治療818例

 ★ペースメーカー治療48例

 ★下肢動脈治療66例

 ★病床数19床

 〔住所〕〒359-1142埼玉県所沢市上新井2の61の11
 TEL04・2940・8611

【日本の病院の実力】脳疾患 顔面神経温存率100%を実現「虎の門病院」

脳の病気はいろいろだ。血管が詰まる脳梗塞、血管にこぶができる脳動脈瘤、良性でも命を脅かす脳腫瘍など、いずれも治療には高い技術が求められる。そんな脳疾患の治療で高い評価を得ているのが、虎の門病院脳神経外科。脳腫瘍の手術実績は日本一。間脳下垂体腫瘍の開頭せずに行う治療では、世界屈指の実力を誇る。

 「脳の病気は多彩なだけに、血管内治療や間脳下垂体腫瘍治療の部門を分け、専門性を高めています。その間を埋めているのが脳神経外科。それぞれの部門が信頼関係を築き、連携の強いのも特徴です」

 こう話す同科の臼井雅昭部長は、脳腫瘍のエキスパート。中でも、聴神経腫瘍の治療でずば抜けた技術力を発揮している。一般的に、聴神経腫瘍は良性の脳腫瘍なのだが、聴神経は顔面神経のそばにあり、外科的治療によって腫瘍を取り除くと、耳が聞こえなくなるだけでなく、顔面麻痺といった後遺症が残る。しかし、臼井部長は、モニターを用いた手術方法で、顔面神経の温存率100%の実績を実現。

 「脳腫瘍は、良性であっても命にかかわるだけに、切除して命を助ければいいというのは、医師のおごりだと思います。治療によって麻痺などが生じて、その後の生活に支障が出るのを避けなければなりません。だからこそ、専門性を高める必要がある」(臼井部長)

 そんな同病院には、他病院から紹介された複雑な症例も集まっていた。患者のQOL(生活の質)を維持するために、どのような治療が適切なのか。良性腫瘍や脳血管疾患では、経過を見守りながら治療のタイミングを図ることも大切。専門分野に分かれても、独断で決めずに横の連携によってカバーしている。

 取材した日も、脳神経血管内治療科から臼井部長へ、カテーテル治療ではなく外科的治療が必要ではないかと、患者に関する相談の電話が入った。医師の信頼関係で築く最善治療の選択。それが、実績に結びついている。

 「私たちは、脊髄動静脈瘻(ろう)という動脈と静脈がつながって脊髄の虚血を起こす疾患も、整形外科の医師と連携して治療しています。その他に神経内科との協力体制も築いているのが強みといえます」(臼井部長)

 あらゆる角度から脳疾患を診る体制を作った臼井部長は、脳卒中センターを作りたいと思っている。今でも、救急患者を受け入れる体制はあるが、「充実させたい」という。「病院の評価は術数ではない」と断言する臼井部長は、患者にベストな治療を行うために今も奔走中だ。

<データ>2009年実績

★年間手術数(血管内/間脳下垂体を含む)660件

★脳腫瘍92件(内、聴神経腫瘍42件)

★血管障害34件

★下垂体部腫瘍(開頭以外)320件

★血管内治療111件

★病床数890床(内、脳外科関係45床)

〔住所〕〒105-8470東京都港区虎ノ門2の2の2(電)03・3588・1111

【日本の病院の実力】千葉大学医学部附属病院・脳神経外科 新しい脳腫瘍の治療法「内視鏡下頭蓋底手術」で注目

さまざまな医療分野で活用されている内視鏡は、脳腫瘍の治療でも応用され始めている。

 脳の中心部に過剰に脳脊髄液がたまる水頭症の治療や、脳内血腫の除去に有用とされる。また、脳の下に位置してホルモンをつかさどる下垂体、あるいは、鼻腔とその奥にある頭蓋骨底部に位置する頭蓋底(ずがいてい)部疾患の治療では、鼻の穴から内視鏡を挿入し、頭を開くことなく手術が可能。

 そんな「内視鏡下頭蓋底手術」は、世界的にも注目を集める新しい治療法で、脳神経外科と耳鼻咽喉科がタッグを組み、普及に努めているのが千葉大学医学部附属病院脳神経外科だ。

 「下垂体腫瘍では、従来、顕微鏡を用いた手術が盛んに行われていました。10年ほど前に神経内視鏡によって、より低侵襲で患者さんの回復も早い手術を行えるようになり、治療の普及に努めているところです。

私たちは、もともと耳鼻咽喉科医と協同作業で治療を行っておりました。その重要性を痛感しています。それを世界にも広めたい」

 こう話す同病院脳神経外科の佐伯直勝教授(62)は、下垂体腫瘍や頭蓋底手術のエキスパート。開頭手術はもとより、顕微鏡を用いた手術、さらには神経内視鏡手術へと、常に新しい技術の向上に貢献。

国内のみならず、イタリアの内視鏡頭蓋底カンファレンスに4年連続、講師で招かれるなど、世界的にも名をはせる。

 「医療器具の進歩だけでなく、画像診断の医療機器も発達したことで、新たなアプローチ法を生み出すことができるようになりました。脳神経外科と耳鼻咽喉科の高い知識と技術を駆使することで、これまで低侵襲の治療が困難だった頭蓋底の病気に対しても、治療が行えるようになったのです」(佐伯教授)

 水頭症に対する神経内視鏡手術は、同科の村井尚之講師が得意とするなど、脳神経外科領域のスペシャリティーの高い医師をそろえているのも特徴。

佐伯教授は、後進の育成に力を注ぎながら、アジア諸国の医師への技術の普及など、国際貢献にも積極的だ。特殊な治療法としてではなく、安全で確実な神経内視鏡手術を幅広く普及させるために尽力している。

 「神経内視鏡手術の未来は、ロボットを用いた手術にもつながるでしょう。しかし、下垂体腫瘍などの頭蓋底疾患は、患者さんの数が他の病気と比べて少ないため、専用の新たな医療機器はなかなか開発されないのが現状。とはいえ、そこで止まっていては進歩しません。

耳鼻咽喉科との協調も含め、持てる力を発揮することで、患者さんにとって有益となる新しい治療法が生まれると思っています」と佐伯教授。

 常に挑戦者として壁を乗り越え、新たな治療法を広めるために邁進(まいしん)中だ。 

 <データ>2012年実績
 ・手術総数335件
 ・脳腫瘍136件
 ・神経内視鏡45件
 ・血管障害23件
 ・病床数29床(病院病床数835床)
 〔住所〕〒260-8677 千葉県千葉市中央区亥鼻1の8の1
 (電)043・222・7171

【日本の病院の実力】声を甦らせるための診断・治療、リハビリまでの技術確立 国内唯一「声」の医療機関★国際医療福祉大学東京ボイスセンター   

声を出す器官の声帯は、1~1・5センチの大きさで、1ミリ以下のごくわずかな変化によっても、声の質に影響を及ぼす。原因としては、声帯ポリープや喉頭がん、けいれん性音声障害などさまざまだが、喉頭疾患や音声障害の診断と治療で国内ナンバーワンの実力を誇るのが、国際医療福祉大学東京ボイスセンター。

2001年に国内唯一のボイスセンターとして開設され、国内外から患者はもとより、技術習得を目指す若い医師たちが集まっている。

 「米国では、各地にノドの診療を専門に行うボイスセンターがありますが、日本にはありませんでした。喉頭疾患は、耳鼻咽喉科疾患の1割にも満たないため、日本では専門機関が作られなかったのです。そこで、治療の研究や教育を考えて開院しました」と話すのは、同大教授の福田宏之センター長(72)。約50年前、慶應義塾大学医学部で開発された喉頭顕微鏡下手術を進歩させた喉頭疾患治療の第一人者である。

 「声帯ポリープは、がんと異なり命に関わる病ではありません。しかし、声を職業としている人にとっては、治療がその後の人生を左右しかねず、常に高い技術力が求められています」(福田センター長)

 歌手、アナウンサー、能・狂言などの文化継承者、キャビンアテンダントや学校の先生など、声が重要になる職業は多く、わずかでも声に変化があれば仕事ができなくなりかねない。その原因を突き止め、元通りの声を甦らせるための診断・治療、リハビリまでの技術を確立している。

 また、声帯に細かい腫瘍が生じる喉頭乳頭腫、声帯にでんぷん質がたまる喉頭アミロイドーシスなど、他の病院では稀といわれる病気の患者も多い。これらの病気は、進行すると気道が閉塞されるため、適確な治療が予後のカギになる。そんな難治性疾患にも、福田センター長は新たな治療を模索し続けていた。さらに、「委縮した声帯の治療も、まだ確立されたものがない。それをなんとかしたい」という。

 福田センター長の治療への情熱は常に注がれている。他の病院でレーザー治療を受け、物理的性質が変わった声帯を元に戻す「瘢痕(はんこん)切除」や、性同一性障害の人の性差ある声を性に伴う声にすることなどにも取り組んでいる。

 「専門医療機関だからこそ、研究できる課題は多い。将来、一人でも多くの患者さんの役に立てればと思う」と福田センター長。新たな治療の確立に向けてまい進中だ。(安達純子)

 <データ>2009年実績(新患数)

 ☆声帯ポリープ治療数88人

 ☆声帯結節200人

 ☆反回神経麻痺54人

 ☆喉頭がん24人

 ☆病床数75床

医療法人財団順和会 山王病院内。
〔住所〕〒107-0052東京都港区赤坂8の10の16
(電)03・3402・3151

【日本の病院の実力】「肝がん」早期発見&治療で医学界をリード 近畿大学医学部附属病院  

ウイルス性肝炎の影響で増え続けている肝がん。その治療では、特殊な針を刺してがんを焼灼するラジオ波焼灼療法や、がんにつながる血管を塞ぐ肝動脈塞栓術などが広く普及しているが、かつては外科的手術しか根治できなかった。

また、血管が張り巡らされた巨大な臓器ゆえに、早期の肝がんを見つけるのも困難。それを打破したのが、近畿大学医学部附属病院消化器内科だ。肝がんの早期発見と治療において、世界に先駆けた方法を開発し、リーダーとして君臨している。

 「最先端医療を行えば行うほど、問題点がはっきりと見えて、ふとアイデアが浮かぶのです」

 こう話す同科の工藤正俊教授は、これまで数々の診断法や治療法を生み出し、標準技術として世に広めている。たとえば、肝硬変が進んだ状態の肝がんを手術で切除する場合には、正常な肝機能をできるだけ残す必要がある。

どこまで切除できるのか。その肝機能の予備力を診断できる方法を見いだし、1989年にノーベル医学賞につながる米国核医学会バーソン・ヤロー賞を受賞した。

 また、99年には日本初のラジオ波焼灼療法を成功させ、これまで3000例以上に行っている。肝動脈塞栓術は4000例以上。肝がんの早期発見法として、2007年には新たな造影超音波検査法も開発した。

 「5ミリ程度の肝がんは、超音波だけでは見つかりにくい。07年に承認された造影剤を2回用いると、再発したがんだけでなく、小さながんも100%見つかる」(工藤教授)

 微小の肝がんを見つける方法はそれまでなかっただけに、学会で発表したところ大反響を呼んだという。今では、その造影剤を使える医療機器があれば、どこの病院でも行える検査法となっている。

新たに見いだした検査法や治療法を瞬く間に広めてしまう“工藤マジック”。昨年には、北米肝臓学会で日本人としては20年ぶりに講演を行うなど、国内外での活動で休む暇もないほど。しかし、工藤教授は、「診断も治療も現状に満足していない」ときっぱりいう。

 「今取り組んでいるのは、肝がんに対する分子標的薬です。がん細胞内のシグナル伝達を遮断する化学療法で、余命数カ月の肝がん患者さんを助けることができる。効く人と効かない人を見極めているところです」

 治療や診断で壁にぶつかっても、元気になった患者の笑顔を支えに、乗り越え続ける。肝がんで亡くなる人がゼロになるまで、工藤マジックに終わりはない。

<データ>2008年実績

★ラジオ波焼灼療法405件

★肝動脈塞栓療法332件

★動注化学療法102件

★造影超音波検査620件

★インターフェロン治療(新規導入件数)251例

★病床数985床

〔住所〕〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東377の2
(電)072・366・0221

【日本の病院の実力】心臓病 イムス葛飾ハートセンター   

高齢化や生活習慣によって狭心症や心筋梗塞などの心臓病は増加傾向。いつ何時発症するかわからない。そんな患者を救うために昨年3月にオープンしたのが、イムス葛飾ハートセンター。葛飾区、江戸川区、足立区を含めた東京北東部100万人の医療圏をカバーし、365日24時間体制で治療を行い、関東でトップテンに入る実力を誇る。

 「1人でも多くの患者さんを救うには、適確な診断と治療により、患者さんが早く元気に退院することが望ましい。その体制づくりを1年かけて行いました」とは、吉田成彦院長。

 もともとこの医療圏は、2000年に心臓血管外科と循環器内科を設置した新葛飾病院が担っていた。それまでカバーする基幹病院がなかったため患者は急増。そこで、急性期の患者の診断・治療を行いやすくするため、イムス葛飾ハートセンターが独立して開設された。

手術室2室、カテーテル室2室を設置し、救急車の搬送受け入れだけでなく、病院との連携によりドクターカーで患者を迎えに行くこともあるという。それも、東京に限らず福島県や北関東に及ぶ。

 「遠方の患者さんは、病院との“病病連携”。開業医の先生との“病診連携”もあります。連携があるからこそ、患者さんをスムーズに受け入れることができています」(吉田院長)

 さらに、ベッド数が50床の小規模ながら20人の医師が常勤。一般的に外科医不足が危惧されているが、若い医師も心臓血管外科技術を学ぶために集まっている。それでも吉田院長は、「循環器内科医をもっと増やしたい」という。

なぜなら、目指すは患者中心の医療だからだ。たとえば、狭心症や心筋梗塞では、血管カテーテル治療と手術の2つの選択肢がある。どちらの治療が良いのか、今も医師同士の活発なコミュニケーションで選択し、チーム医療を実現している。それをより強化したいというのである。

 「私たちの強みは患者さんを中心としたチーム医療。医師や看護師は、患者さんを家族のように思い、事務職のスタッフは1分1秒でも早く受診できるようにする。4月からまたスタッフが増えますが、それをより徹底したい」

 こう話す吉田院長は、母親が狭心症を患っていたことから心臓血管外科医を目指した。それだけに、患者に対して「家族のように」との思いは強い。そして、1人でも多くの心臓病の人を救うために、「将来的には病床数を増やせれば」という。取り組みは今後も続く。

<データ>2009年実績(2009年3月~12月)

★心臓手術総数449件

★冠動脈バイパス術158件

★血管カテーテル治療499件

★病床数50床

〔住所〕〒124-0006東京都葛飾区堀切3の30の1
(電)03・3694・8100

【日本の病院の実力】理想は「がんのよろず相談」 帝京大学医学部附属病院帝京がんセンター 

がん告知は患者にとって大きな負担となる。

 病気に対する不安や恐怖だけでなく、社会生活を維持できるかなど人生に影を落とす。しかし、従来は相談できる場所もわからず、孤独な闘いを強いられた人も多い。

そんな状況を一変させるべく、2008年に地域がん診療連携拠点病院に指定されたことを受けて設立されたのが、帝京大学医学部附属病院帝京がんセンターだ。

 院内がん登録をまとめ、化学療法を行い、がん相談支援室や緩和ケアチームによって患者をサポートしている。つまり、包括的にがん患者の診療・支援ができる体制づくりを実現した。

 「1人の患者さんに対して、院内のそれぞれの科の連携を良くするだけでなく、地域の連携も強めています」とは、江口研二センター長。

 現在、各診療科が集まって症例と治療法を検討する定期カンファレンスを実施しているのはもとより、化学療法についても、医師個人の考えではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいた治療を行う委員会を発足させた。

また、昨年4月からは、痛みなど患者の療養に大きな支障となっているケースについて、地域ぐるみでサポートできる緩和ケアチームの活動を開始。患者のさまざまな相談に乗るがん支援相談室も設置した。

 「がん患者さんの中には、ひとつの診療科では対応できない症例もあります。その方々が行き場を失うようなことは避けなければなりません。相談支援を充実させることは、不可欠といえます」

 こう話す江口センター長は、患者から直接相談されるケースも多い。しかも、他の病院で検査結果を聞いた患者が、「どうしたらよいのでしょう」という話だ。一般的に診療した医師が別の病院を紹介するケースは珍しくはないが、第三者的な立場で江口センター長は相談に乗っていた。

理想は、「がんのよろず相談」という。そのために、ひとつの治療に秀でた医師だけでなく、あらゆるがんに精通し、横の連携を取れる「がんの総合内科医」を養成している。

 「生活習慣病では、地域の医療機関から大学病院に紹介された患者さんは、その後、地域の医療機関に戻って診療を受けられる仕組みがあります。

しかし、がんにはそれがない。患者さんにとっては、地域で支える仕組みも必要です。そのため、全国のがん医療を地元で支える『コミュニティー オンコロジスト』を養成したい」(江口センター長)

 がん患者を支える取り組みは今後も続く。

 〈データ〉2009年実績

 (5月~12月末まで)

 ★外来化学療法のべ2510件

 ★がん相談支援のべ2171件

 ★院内がん登録室登録件数1282件

 ★腫瘍内科初診患者数201人

 ★腫瘍内科病床数20床/外来化学  療法20床

 〔住所〕〒173-8606 東京都板橋 区加賀2の11の1
TEL03・3964・1211

【日本の病院の実力】脳疾患 顔面神経温存率100%を実現「虎の門病院」

血管が詰まる脳梗塞、血管にこぶができる脳動脈瘤、良性でも命を脅かす脳腫瘍など、いずれも治療には高い技術が求められる。そんな脳疾患の治療で高い評価を得ているのが、虎の門病院脳神経外科。脳腫瘍の手術実績は日本一。間脳下垂体腫瘍の開頭せずに行う治療では、世界屈指の実力を誇る。

 「脳の病気は多彩なだけに、血管内治療や間脳下垂体腫瘍治療の部門を分け、専門性を高めています。その間を埋めているのが脳神経外科。それぞれの部門が信頼関係を築き、連携の強いのも特徴です」

 こう話す同科の臼井雅昭部長は、脳腫瘍のエキスパート。中でも、聴神経腫瘍の治療でずば抜けた技術力を発揮している。一般的に、聴神経腫瘍は良性の脳腫瘍なのだが、聴神経は顔面神経のそばにあり、外科的治療によって腫瘍を取り除くと、耳が聞こえなくなるだけでなく、顔面麻痺といった後遺症が残る。しかし、臼井部長は、モニターを用いた手術方法で、顔面神経の温存率100%の実績を実現。

 「脳腫瘍は、良性であっても命にかかわるだけに、切除して命を助ければいいというのは、医師のおごりだと思います。治療によって麻痺などが生じて、その後の生活に支障が出るのを避けなければなりません。だからこそ、専門性を高める必要がある」(臼井部長)

 そんな同病院には、他病院から紹介された複雑な症例も集まっていた。患者のQOL(生活の質)を維持するために、どのような治療が適切なのか。良性腫瘍や脳血管疾患では、経過を見守りながら治療のタイミングを図ることも大切。専門分野に分かれても、独断で決めずに横の連携によってカバーしている。

 取材した日も、脳神経血管内治療科から臼井部長へ、カテーテル治療ではなく外科的治療が必要ではないかと、患者に関する相談の電話が入った。医師の信頼関係で築く最善治療の選択。それが、実績に結びついている。

 「私たちは、脊髄動静脈瘻(ろう)という動脈と静脈がつながって脊髄の虚血を起こす疾患も、整形外科の医師と連携して治療しています。その他に神経内科との協力体制も築いているのが強みといえます」(臼井部長)

 あらゆる角度から脳疾患を診る体制を作った臼井部長は、脳卒中センターを作りたいと思っている。今でも、救急患者を受け入れる体制はあるが、「充実させたい」という。「病院の評価は術数ではない」と断言する臼井部長は、患者にベストな治療を行うために今も奔走中だ。

<データ>2009年実績

★年間手術数(血管内/間脳下垂体を含む)660件

★脳腫瘍92件(内、聴神経腫瘍42件)

★血管障害34件

★下垂体部腫瘍(開頭以外)320件

★血管内治療111件

★病床数890床(内、脳外科関係45床)

〔住所〕〒105-8470東京都港区虎ノ門2の2の2(電)03・3588・1111

【日本の病院の実力】脳疾患 顔面神経温存率100%を実現「虎の門病院」

血管が詰まる脳梗塞、血管にこぶができる脳動脈瘤、良性でも命を脅かす脳腫瘍など、いずれも治療には高い技術が求められる。そんな脳疾患の治療で高い評価を得ているのが、虎の門病院脳神経外科。脳腫瘍の手術実績は日本一。間脳下垂体腫瘍の開頭せずに行う治療では、世界屈指の実力を誇る。

 「脳の病気は多彩なだけに、血管内治療や間脳下垂体腫瘍治療の部門を分け、専門性を高めています。その間を埋めているのが脳神経外科。それぞれの部門が信頼関係を築き、連携の強いのも特徴です」

 こう話す同科の臼井雅昭部長は、脳腫瘍のエキスパート。中でも、聴神経腫瘍の治療でずば抜けた技術力を発揮している。一般的に、聴神経腫瘍は良性の脳腫瘍なのだが、聴神経は顔面神経のそばにあり、外科的治療によって腫瘍を取り除くと、耳が聞こえなくなるだけでなく、顔面麻痺といった後遺症が残る。しかし、臼井部長は、モニターを用いた手術方法で、顔面神経の温存率100%の実績を実現。

 「脳腫瘍は、良性であっても命にかかわるだけに、切除して命を助ければいいというのは、医師のおごりだと思います。治療によって麻痺などが生じて、その後の生活に支障が出るのを避けなければなりません。だからこそ、専門性を高める必要がある」(臼井部長)

 そんな同病院には、他病院から紹介された複雑な症例も集まっていた。患者のQOL(生活の質)を維持するために、どのような治療が適切なのか。良性腫瘍や脳血管疾患では、経過を見守りながら治療のタイミングを図ることも大切。専門分野に分かれても、独断で決めずに横の連携によってカバーしている。

 取材した日も、脳神経血管内治療科から臼井部長へ、カテーテル治療ではなく外科的治療が必要ではないかと、患者に関する相談の電話が入った。医師の信頼関係で築く最善治療の選択。それが、実績に結びついている。

 「私たちは、脊髄動静脈瘻(ろう)という動脈と静脈がつながって脊髄の虚血を起こす疾患も、整形外科の医師と連携して治療しています。その他に神経内科との協力体制も築いているのが強みといえます」(臼井部長)

 あらゆる角度から脳疾患を診る体制を作った臼井部長は、脳卒中センターを作りたいと思っている。今でも、救急患者を受け入れる体制はあるが、「充実させたい」という。「病院の評価は術数ではない」と断言する臼井部長は、患者にベストな治療を行うために今も奔走中だ。

<データ>2009年実績

★年間手術数(血管内/間脳下垂体を含む)660件

★脳腫瘍92件(内、聴神経腫瘍42件)

★血管障害34件

★下垂体部腫瘍(開頭以外)320件

★血管内治療111件

★病床数890床(内、脳外科関係45床)

〔住所〕〒105-8470東京都港区虎ノ門2の2の2(電)03・3588・1111

「7つのポイント」で選ぶ抗がん剤治療のいい病院

手術や放射線治療と同じように、抗がん剤治療も患者が医療機関を選ぶ時代になってきた。

 ここでは、いい抗がん剤治療を受けられる病院選びのポイントを七つ示した。

「(1)外来で抗がん剤治療が受けられる」
「(2)がん薬物療法専門医(中略)チームワークがとれている」
「(3)患者の希望を聞き、適切な方法を提案してくれる」、とくに再発がんや進行がんでは重視したい項目だ。
「(4)治療に腫瘍内科医がかかわる」ことも大事なポイントだ。

腫瘍内科医とはその名のとおり、がん治療に詳しい内科医だ。海外では抗がん剤治療のほか、全身管理や治療方針を決定するなど、がん治療のキーパーソンとなっている。また、その患者に合ったがん医療をコーディネートする役割も担う。

 そして、この腫瘍内科医の役割を主に担っているのが、日本臨床腫瘍学会が認定する「がん薬物療法専門医」だ。近畿大学病院腫瘍内科教授の中川和彦医師は言う。

「腫瘍内科ができたのは最近のことで、以前はその臓器を担当する外科医が抗がん剤治療も担当していました。いまもその流れは続きますが、近年は抗がん剤治療の進歩などもあり、専門性が増したことから、腫瘍内科に任せる医療機関も出てきています」

 現在、抗がん剤治療を腫瘍内科医が担当する場合、「主治医としてかかわる」パターンと、「主治医はがんのある臓器を専門にする外科医や内科医で、腫瘍内科医が一緒にかかわる」パターンがある。

 理想は腫瘍内科医が主治医となり、必要に応じて臓器専門の外科医や内科医が一緒に治療をすることだが、腫瘍内科医の数は限られている。それがむずかしい場合でも、後者のように腫瘍内科医が抗がん剤治療にかかわっていたほうがよい。

「抗がん剤治療に詳しい医師がいる医療機関とそうでないところとでは、抗がん剤治療の質が大きく違ってきます。抗がん剤治療は1回の通院で終わるものではなく、長期間付き合う必要のある医療です。そういうことも考えて、ご自身や家族でしっかり信頼できる医療機関を選んでください」(中川医師)

 手術と抗がん剤治療を別の医療機関で受けることは、めずらしいことではない。遠方で手術を受けた場合は、自分の住む地域に条件を満たした医療機関があるか、手術を受けた施設の腫瘍内科医やソーシャルワーカーに聞いてみるのも手だ。別の医療機関にいる腫瘍内科医に、セカンドオピニオンをとってもよいだろう。

 では、外科医の考えはどうなのか。消化器外科医から腫瘍内科医になった県立広島病院(広島市)臨床腫瘍科主任部長の篠崎勝則医師は、外科医から腫瘍内科医への橋渡し的な役割も果たす。

自身はがん薬物療法専門医の資格を持つが、資格がないまま抗がん剤治療を実施する外科医を多く知る。

「実は“専門の臓器については手術も、抗がん剤治療も詳しくありたい”と思って、抗がん剤治療を学んでいる外科医もいます。

しかし、抗がん剤治療の質を上げたり、充実したチーム医療の体制を整えたりするための時間が、外科医にはありません。結果的に、そこまで気配りができないのが現状です」(篠崎医師)

 このほかには、治療が長期間にわたることを考えると、「(5)自宅との距離が近いなど、苦痛なく通院できる」「(6)スタッフが寄り添ってくれる」医療機関を選ぶことも大切だ。

「(7)治験
をやっている」病院も、いい抗がん剤治療を受けるための参考になる。治療とは臨床試験のことで、新薬の有効性や副作用の状況を試験し、保険適用にするかを検討するためのものだ。

自分のがんに該当する治験があり、条件が当てはまっていたら、その治験に参加することができる。

 治験を実施するためには、施設環境やスタッフ数など、いくつかの基準を満たさなければならない。つまり、治験を受ける・受けないは別としても、抗がん剤治療を受ける施設としては、合格点をもらっていると考えていいだろう。

【日本の病院の実力】腰痛、椎間板ヘルニアなどに特化 板橋中央総合病院

つらい自覚症状はいろいろあるが、厚労省『平成19年国民生活基礎調査』によれば、男性の第1位は「腰痛」。中でも、足の激痛やしびれを伴う椎間板ヘルニアは代表的な脊椎脊髄の病気だ。その痛みを取る、あるいは、根治的な治療で定評を持つのが、板橋中央総合病院脊椎脊髄センター。患者の増加に伴い2008年に同病院の整形外科からスタッフを専従させて新たにスタートした。

 「患者さんは痛みを早くなんとかしてほしいと希望されます。それに応えると同時に、迅速に行う適確な診断も必要。椎間板ヘルニアと思われていても、別の病気が潜んでいることがあるからです。それらのことが、センターの開設でより行いやすくなりました」

 こう話す中小路拓センター長は、都内では6人しかいない日本整形外科学会認定の脊椎内視鏡下手術・技術認定医の1人。

椎間板から飛び出して神経を圧迫しているヘルニアを除去するには、腰の後ろを7センチほど切開する手術が一般的だ。それを15ミリの小さな切開で内視鏡を挿入して腰椎の隙間から治療を行う。

入院期間は4日程度。手術後の痛みも少なく、高齢者でも行えるのも利点といえる。 その治療を行える数少ない医師の一人である中小路センター長だが、内視鏡手術にのみこだわっているわけではない。

痛みを取るため、「持続硬膜外ブロック」という治療も積極的に行っている。5日間ほどの入院による疼痛の集中治療だ。

 「患者さんは歩けないほど痛くても必ずしも手術を望むわけではありません。『持続硬膜外ブロック』は根本的治療ではありませんが、ほとんどの患者さんの痛みは軽快し、約半数の人は、その後の再発もなく手術を行わずに済んでいます。

これは、患者さんを紹介してくれる診療所の先生方と“病診連携”の体制を取っているからこそ、行える治療法ともいえます」(中小路センター長)

 痛みの取れた患者は、再び診療所で定期的に状態を診てもらう。異変があれば、また脊椎脊髄センターを受診する仕組み。

このような医師同士の連携は、信頼関係があるからこそ築かれたものだ。その連携によって、椎間板ヘルニアの影に潜む解離性動脈瘤や脊髄変性疾患など、別の病気がセンターで見つかることもしばしば。腰の痛みは多様で、原因疾患を見極める診断技術も、センターでは確立している。

 そんな中小路センター長の夢は、「当院は臨床研修指定病院なので、脊椎外科専門医を少しでも多く育て、地域医療に貢献したい」。日々の診断・治療に加え、一人でも多くの専門医を育てるためにまい進中だ。(安達純子)

〈データ〉2009年実績

★整形外科手術総数608件

★脊椎外科手術115件(内視鏡を用いた腰椎椎間板ヘルニア摘出術18件)

★持続硬膜外ブロック30件

★病床数579床〔住所〕〒174-0051東京都板橋区小豆沢2の12の7
TEL03・3967・4275

【日本の病院の実力】末期患者の「組織縮小、進行抑制」 表参道吉田病院ヨシダクリニック・東京

手術、化学療法(抗がん剤)、放射線治療に続く「第四のがん治療」として注目される免疫治療。九州・熊本で、いち早くこのがん免疫治療に取り組んだのが表参道吉田病院だ。

 同院総院長の吉田憲史医師は、九州大学医学部を卒業後、熊本大学大学院でがん転移の抑制メカニズムや免疫細胞治療の研究を行う一方、臨床においてもその知識を生かしたがん治療に取り組んできた。

 中でも同院におけるがん治療の柱となるのが「活性化自己リンパ球・NK細胞免疫治療」。患者の血液から免疫細胞であるリンパ球を取り出し、増殖活性化させて再び患者の体内に戻すという治療法。勢力を取り戻した免疫細胞が、体内でがん組織を攻撃するというものだ。

 患者自身のリンパ球を使うためアレルギーや副作用等の危険性もない。安全で苦痛のない治療法として、近年全国でこれを導入する医療機関が増えている。

 そんな中で同院の最大の特徴は、診断、採血、リンパ球の増殖活性化、患者への再注入、そしてその後のフォローアップまでの全工程を、すべて院内で完結するという点だ。

 熊本の本院には大学の研究施設レベルのCPC(細胞加工センター)を持ち、専門スタッフが免疫細胞の増殖作業に当たっている。

 これについて吉田医師は、「免疫細胞の増殖活性化の速度は個体差がある。毎日見比べることで患者の体に戻すベストのタイミングを探ることができる」と、この工程を外部機関に出さずに、自院で行うことへのこだわりを見せる。

 主として手術や化学療法など従来のがん治療ができなくなった患者を対象としているため、状況的に厳しい段階で治療を始めることが多いこの治療だが、それでも同院のデータを見ると、全体の47%に「がん組織の縮小」または「進展の抑制」が見られている。普通であれば「あきらめる段階」の患者を対象としての数字だけに、この治療にかかる期待の大きさも頷ける。

 同院では東日本エリアの患者のために東京・中央区にサテライト機関「ヨシダクリニック・東京」を開設。ここで採血した患者の血液はその日のうちに熊本に空輸。本院と同じ工程で免疫細胞の増殖工程を経て、再注入の際は再び東京のクリニックに空輸されてくる。

 最近は韓国や台湾など海外からの受診者も増加。がんの脅威に国境はない。「第四のがん治療」に、国際的なニーズは今後さらに高まりそうだ。(長田昭二)

<データ>2009年実績

★外来患者数2万3188人、入院患者数1322人

★活性化リンパ球がん免疫治療受診者数94人(肺がん21例、乳がん14例、前立腺がん3例、胃がん5例、食道がん4例、大腸がん9例、肝がん3例、その他のがん35例)

★病床数122床(東京は無床)

■本院/熊本市北千反畑町2の5(電)096・343・6161

■分院/東京都中央区日本橋蛎殻町1の29の9

(電)03・3663・6688

【日本の病院の実力】脳卒中 埼玉医科大学国際医療センター脳卒中センター  

脳卒中には、血栓が詰まる、脳動脈瘤の破裂、脳内出血と原因はいろいろある。それを素早く確認して適切な治療を行うことが不可欠。そのために、理想的な医療技術と環境を整え、国内外のお手本になっているのが、2007年4月にスタートした埼玉医科大学国際医療センター脳卒中センターだ。脳血管内治療の実力は関東トップを誇る。

 「患者さんをなるべく傷つけない低侵襲治療を安心かつ安全に実現するには、人材育成に加えて環境整備も必要です。丁度、センターを新たに設立する機会があったので、その理想を形にしました」

 こう話す脳血管内治療科の石原正一郎診療科長(脳神経外科教授)は、同センターの設計を手掛けた。たとえば、手術室。マルチCTスキャン装置、脳血管造影装置、脳外科用顕微鏡を配し、脳血管内手術と開頭手術が必要に応じて行える「統合型手術室」で、患者はベッドから移動することなく検査や治療を受けられる。

 また、救急車が横付けされる1階の救命救急センター内にも、血管内治療室を設置。脳血管造影検査はもとより、くも膜下出血などの救急患者に対する治療も迅速に行えるようにした。さらに、病棟、外来、読影室、カンファレンスルームで、医師や看護師、技師などのスタッフが、いつでも手術状況を見ることができる工夫も。

 「クオリティーを上げるにはマンパワーも必要。手術をしていない医師やスタッフも、常に状況を把握することで、日頃から迅速な判断ができます。また、手技を検証することは、技術レベルの向上に役立つのです」

 こう話す石原科長は、かつて埼玉県内における脳血管内治療の少なさを解消したいと考えていた。医師もいない、医療施設も整っていない。もちろん患者は治療を選ぶことは不可能だ。それを同センター設立で一気に解消した。

 「地域のニーズに応えた医療の提供は非常に大切なことです。私はそれを医師である父から学びました」(石原科長)

 1960年代、まだ専門の皮膚科医がほとんどいなかった新宿区に皮膚科専門クリニックを開業した父親は、地域の人々から感謝された。その姿勢を心に刻み、脳血管内治療で石原科長は貫いていた。しかし、夢はグローバル。

 「地域医療といっても、私たちが取り組んでいることは最先端医療。海外でも、日本のクオリティーの高さを広めたい」

 情熱と高い志で誰もが認める世界トップの診断・治療を目指している。

〈データ〉

2009年実績

★脳血管造影検査700件

★脳血管内手術件数259件

★脳動脈瘤119件

★脳血管拡張術/ステント66件

★脳動静脈奇形38件

★病床数600床

〔住所〕〒350-1298埼玉県日高市山根1397の
1TEL042・984・4111

【日本の病院の実力】心臓病 イムス葛飾ハートセンター  

齢化や生活習慣によって狭心症や心筋梗塞などの心臓病は増加傾向。いつ何時発症するかわからない。そんな患者を救うために昨年3月にオープンしたのが、イムス葛飾ハートセンター。葛飾区、江戸川区、足立区を含めた東京北東部100万人の医療圏をカバーし、365日24時間体制で治療を行い、関東でトップテンに入る実力を誇る。

 「1人でも多くの患者さんを救うには、適確な診断と治療により、患者さんが早く元気に退院することが望ましい。その体制づくりを1年かけて行いました」とは、吉田成彦院長。

 もともとこの医療圏は、2000年に心臓血管外科と循環器内科を設置した新葛飾病院が担っていた。それまでカバーする基幹病院がなかったため患者は急増。そこで、急性期の患者の診断・治療を行いやすくするため、イムス葛飾ハートセンターが独立して開設された。手術室2室、カテーテル室2室を設置し、救急車の搬送受け入れだけでなく、病院との連携によりドクターカーで患者を迎えに行くこともあるという。それも、東京に限らず福島県や北関東に及ぶ。

 「遠方の患者さんは、病院との“病病連携”。開業医の先生との“病診連携”もあります。連携があるからこそ、患者さんをスムーズに受け入れることができています」(吉田院長)

 さらに、ベッド数が50床の小規模ながら20人の医師が常勤。一般的に外科医不足が危惧されているが、若い医師も心臓血管外科技術を学ぶために集まっている。それでも吉田院長は、「循環器内科医をもっと増やしたい」という。なぜなら、目指すは患者中心の医療だからだ。たとえば、狭心症や心筋梗塞では、血管カテーテル治療と手術の2つの選択肢がある。どちらの治療が良いのか、今も医師同士の活発なコミュニケーションで選択し、チーム医療を実現している。それをより強化したいというのである。

 「私たちの強みは患者さんを中心としたチーム医療。医師や看護師は、患者さんを家族のように思い、事務職のスタッフは1分1秒でも早く受診できるようにする。4月からまたスタッフが増えますが、それをより徹底したい」

 こう話す吉田院長は、母親が狭心症を患っていたことから心臓血管外科医を目指した。それだけに、患者に対して「家族のように」との思いは強い。そして、1人でも多くの心臓病の人を救うために、「将来的には病床数を増やせれば」という。取り組みは今後も続く。

<データ>2009年実績(2009年3月~12月)

★心臓手術総数449件

★冠動脈バイパス術158件

★血管カテーテル治療499件

★病床数50床

〔住所〕〒124-0006東京都葛飾区堀切3の30の1
(電)03・3694・8100

【日本の病院の実力】理想は「がんのよろず相談」 帝京大学医学部附属病院帝京がんセンター  

がん告知は患者にとって大きな負担となる。

 病気に対する不安や恐怖だけでなく、社会生活を維持できるかなど人生に影を落とす。しかし、従来は相談できる場所もわからず、孤独な闘いを強いられた人も多い。そんな状況を一変させるべく、2008年に地域がん診療連携拠点病院に指定されたことを受けて設立されたのが、帝京大学医学部附属病院帝京がんセンターだ。

 院内がん登録をまとめ、化学療法を行い、がん相談支援室や緩和ケアチームによって患者をサポートしている。つまり、包括的にがん患者の診療・支援ができる体制づくりを実現した。

 「1人の患者さんに対して、院内のそれぞれの科の連携を良くするだけでなく、地域の連携も強めています」とは、江口研二センター長。

 現在、各診療科が集まって症例と治療法を検討する定期カンファレンスを実施しているのはもとより、化学療法についても、医師個人の考えではなく、エビデンス(科学的根拠)に基づいた治療を行う委員会を発足させた。また、昨年4月からは、痛みなど患者の療養に大きな支障となっているケースについて、地域ぐるみでサポートできる緩和ケアチームの活動を開始。患者のさまざまな相談に乗るがん支援相談室も設置した。

 「がん患者さんの中には、ひとつの診療科では対応できない症例もあります。その方々が行き場を失うようなことは避けなければなりません。相談支援を充実させることは、不可欠といえます」

 こう話す江口センター長は、患者から直接相談されるケースも多い。しかも、他の病院で検査結果を聞いた患者が、「どうしたらよいのでしょう」という話だ。一般的に診療した医師が別の病院を紹介するケースは珍しくはないが、第三者的な立場で江口センター長は相談に乗っていた。理想は、「がんのよろず相談」という。そのために、ひとつの治療に秀でた医師だけでなく、あらゆるがんに精通し、横の連携を取れる「がんの総合内科医」を養成している。

 「生活習慣病では、地域の医療機関から大学病院に紹介された患者さんは、その後、地域の医療機関に戻って診療を受けられる仕組みがあります。しかし、がんにはそれがない。患者さんにとっては、地域で支える仕組みも必要です。そのため、全国のがん医療を地元で支える『コミュニティー オンコロジスト』を養成したい」(江口センター長)

 がん患者を支える取り組みは今後も続く。

 〈データ〉2009年実績

 (5月~12月末まで)

 ★外来化学療法のべ2510件

 ★がん相談支援のべ2171件

 ★院内がん登録室登録件数1282件

 ★腫瘍内科初診患者数201人

 ★腫瘍内科病床数20床/外来化学  療法20床

 〔住所〕〒173-8606 東京都板橋 区加賀2の11の1
TEL03・3964・1211

【日本の病院の実力】“泌尿器科”で最先端治療!選択肢の多さが強み★杏林大学医学部付属病院  

泌尿器科が扱う疾患はとにかく多い。加齢に伴ってほとんどの人が発症する前立腺肥大症、あるいは、前立腺がん、精巣がんや膀胱がんもある。さらには、腎臓の病気、腎臓の隣に位置してホルモンの分泌を行う副腎の病気、体質や食習慣に関わる尿路結石&腎結石など、挙げれば切りがないほどだ。

 病気の種類が多いだけに治療法も多岐にわたる。前立腺肥大症を高度な技術で切除する「内視鏡によるレーザー前立腺核出術(HoLEP)」や、小さな孔を数カ所開けて行う腹腔鏡下手術など、さまざまな新しい治療が登場している。

 そんな最先端の診断・治療・研究を行っているのが、杏林大学医学部付属病院泌尿器科だ。今年4月に前立腺がんに対して保険適用になったロボット手術も導入し、新たな治療に向けて弾みをつけている。

 「先端技術を駆使することで、患者さんへの身体の負担が軽くなるだけでなく、より安全で確実な治療を提供することができます。その治療の選択肢をたくさん持っていることが私たちの強み。腹腔鏡下手術やHoLEP(ホーレップ、前立腺肥大症の新しい治療法)の治療などでは、地域の先生方からも患者さんを常にご紹介していただいています」

 こう話す同科の東原英二教授(68)は、内視鏡治療のパイオニア。腎臓結石で内視鏡治療が世界的に導入され始めた1980年代、東原教授も国内で先陣を切り治療に取り組んだ。それまで腹部を切って腎臓から結石を取り出していたが、内視鏡治療により腹部へキズをつけずに済むようになった。

 その後の92年には、副腎の摘出で、世界に先駆けて腹腔鏡を用いた治療を実施。1年間かけて安全性を確かめ、新しい医療器具をメーカーの協力を得て作り、世界初の治療を行った。今もその情熱を持ち続けている。

 「内視鏡や腹腔鏡を用いた治療は、医療器具の進展で従来以上に安全に行えるようになりました。しかし、今は保険制度の縛りがあり、なかなか新しい取り組みを行うことができません。そのため、最近では、世界に先駆けた治療を開発しにくくなっているのです」

 とはいえ、最新の手術式だけにこだわっているわけではない。長年、難病のひとつで腎機能が低下していく「多発性嚢胞腎(のうほうじん)」の薬物治療でも、最先端の研究を行っている。

 また、片方の腎臓を摘出すると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるとの海外の報告を受け、開腹手術によりなるべく腎臓機能を残す手術も実施。最先端治療は、道具のひとつに過ぎない。

 「治療は世界レベルで日々進歩しています。私たちはそれを行う技術レベルを持っています。国内でも時差がなく、反映されるシステムができることを願っています」と東原教授。

 その取り組みに終わりはない。(安達純子)

<データ>2011年実績
・手術総数906件
・腎臓手術76件

・前立腺がん(腹腔鏡下手術による全摘)35件
・膀胱がん手術186件(内視鏡による切除を含む)
・尿路結石治療219件
・病院病床数1153床
〔住所〕〒181-8611東京都三鷹市新川6の20の2
(電)0422・47・5511

【日本の病院の実力】脳にダメージを与えない「頭蓋底手術」を開発 大阪市立大学医学部附属病院

脳腫瘍が生じやすいのは、脳の底面にある頭蓋骨の底(頭蓋底部)。神経や血管が複雑に密集しているだけでなく、生命の根幹を維持する脳の働きにも関わる。

 そんな脳腫瘍を取り除くには、かつては脳を強く持ち上げ、あるいは、一部を切除するのが当たり前だった。しかし、少しでも脳にダメージを与えれば、麻痺などの後遺症も引き起こす。

そんな手術を一新させたのが、大阪市立大学医学部附属病院脳神経外科。脳にダメージを与えない「頭蓋底手術」を開発し、この分野で世界の頂点を極めている。脳腫瘍だけでなく、脊椎脊髄疾患治療でも、日本の拠点病院として有名だ。

 「脳腫瘍は、生命の根幹に関わるだけに、良性であっても取り残してはなりません。そのために、あらゆる技術を総動員して取り組むことが大切。私たちは、その技術を集積しているのです」

 こう話す大畑建治教授(55)は、世界に名を馳せる脳神経外科医で、難しい症例の患者を数多く救い続けている。大畑教授の治療では、高度な診療機器を用いて診断を下すのは、最初の一歩に過ぎない。最高峰のエベレスト登山に挑むように、手術までの間、どのルートで腫瘍に到達し、取り除くのかをずっと考え続けている。

 「既成概念にとらわれずに、手術の前日まで考えていると、ふと新たな治療方法が浮かぶのです」(大畑教授)

 巨大で複雑な脳腫瘍に対しては、1回15時間に及ぶ手術を2回行い、完全に腫瘍を取り除き、機能温存も実現。患者の回復が、エベレスト登山成功の証となる。気が遠くなりそうな治療だが、大畑教授は妥協を許さない。

「最近は、低侵襲治療といって、機能温存のために脳腫瘍を取り残し、残った腫瘍に放射線を当てる治療も盛んに行われています。しかし、何年も経って再発する患者さんがいます。それを防ぐには、徹底的に手術で腫瘍を取ることが不可欠といえるのです」と大畑教授。

 その信念を裏付けるため、先頃、米国の権威ある学術誌に「多様的治療の時代における頭蓋底部髄膜腫に対する徹底切除の役割」と題した論文を発表した。20年以上前からのデータを調べ、再発がなく元気に過ごす患者のためには、手術の役割が大きいことを説いている。

 そんな大畑教授は、治療や研究に加え、若手医師の育成にも力を注ぐ。「エベレスト登山のような手術に挑む若い医師を増やしたい」。常に厳しい山道も、ベテラン医師のサポートで頂上へ。そんな道筋をつけながら、患者を救うべくまい進中だ。

<データ>2009年実績

★脳腫瘍手術総数123件

★広範囲頭蓋底手術29件

★脊椎脊髄手術83件

★脳血行再建手術3件

★病床数42床(脳外科病棟)

〔住所〕〒545-8585大阪府大阪市阿倍野区旭町1の4の3
(電)06・6645・2121

【日本の病院の実力】患者ごとに合わせたオーダーメード医療 関節リウマチ★東京女子医科大学附属 膠原病リウマチ痛風センター   

自己免疫で手足の関節を破壊してしまう関節リウマチは、かつてその進行を食い止めるのが困難だった。その治療に新たな道筋をつけ、最先端の研究を行っているのが、東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター。患者数は国内最大で、内科と整形外科などが一体となり、患者ごとに合わせたオーダーメード医療を提供している。

 「関節リウマチの患者さんは、おひとりずつ症状も薬の効き方も異なります。新薬が登場する一方で、その効果や副作用の見極めも大切。そこで、2000年から6000人の患者さんの協力を得てデータを集積し、治療に役立てています」

 こう話す山中寿所長(56)は、このセンターが開設された1983年から治療と研究に取り組んできた。当時、治療法が浸透していなかった痛風も、ガイドラインを作成して、一般のクリニックで患者が受診できるように道を開いた。そして、現在、最も力を入れているのが関節リウマチの治療である。患者の膨大なデータを分析することで、2000年時点では、薬によって症状が治まる寛解(かんかい)を迎える患者はわずか8%だったが、09年には33%にまで押し上げた。

 「私たちは、全国の関節リウマチ患者さんの100人に1人を診ている責務があると思っており、2~3年のうちに、寛解率を50%以上にしたいと思っています」(山中所長)

 およそ6000人の患者調査は、今年で11年目を迎えた。データ集積は、今なお進行中で、これほどの膨大なデータは世界的にも類を見ず、国内外の治療と研究の最先端を走り続けている。

 「患者さんには年に2回調査にご協力いただいています。調査結果の回収率は98%。患者さんから信頼され、期待され、臨床を大切にしている私たちと患者さんが一体となっていることが、新たな治療への扉を開くカギとなっていると思っています」(山中所長)

 患者数の多さと膨大な研究、それを支える65人以上の医局員。そこから関節リウマチ治療の明るい未来は見え始めた。しかし、山中所長が治療研究への手を緩めることはない。難病の多い膠原病の治療に道筋をつけるべく、今現在、果敢に挑んでいる。

 「膠原病は種類も多く治療法も不十分。これから新たな治療法を開発し、標準治療として確立していきたい」と山中所長。取り組みに終わりはない。

<データ>2009年実績

☆受診患者数合計12万8053人

☆1日平均患者数454人

☆新患者数4874人

☆外来患者内訳/リウマチ60%、痛風16%、膠原病16%、その他8%

〔住所〕〒162-0054 東京都新宿区河田町10の22
(電)03・5269・1711

【日本の病院の実力】「原発性免疫不全症」の早期発見に新生児マススクリーニングの普及★東京医科歯科大学医学部附属病院・小児科

 ヒトの免疫は、感染症やがん、膠原病(こうげんびょう)やアレルギーなどに関わり、非常に複雑だ。生まれながらの遺伝子の異常によって、ひとつの免疫の仕組みがうまく働かないと、重度の肺炎などの症状を繰り返して命に関わる。それを「原発性免疫不全症」という。原因となる遺伝子は約300種類もあり、症状が多彩ゆえに診断は難しい。

 そんな原発性免疫不全症に対し、国内の砦(とりで)となっているのが、東京医科歯科大学医学部附属病院小児科だ。最先端の研究、診断、治療を行い、全国の医療機関からの相談も受けている。

 そして、先頃、原発性免疫不全症のひとつ「先天性肺胞蛋白(はいほうたんぱく)症」の1歳の患者に、造血細胞移植による治療を世界で初めて成功させた。免疫細胞は骨髄で作られるため、移植がうまくいくと、肺胞蛋白症も改善されるのだ。

 「原発性免疫不全症は重症化すると、予後が非常に悪いです。今回のケースでは、臍(さい)帯血で骨髄の機能を回復させる臍帯血移植では、残念ながら効果が得られませんでした。そこで、お父さんの骨髄を移植することにしたのです。結果として、先天性肺胞蛋白症に対し、造血細胞移植で治る可能性について、明らかにすることができました」

 こう話す同科の金兼弘和准教授(54)は、原発性免疫不全症を簡便に検査する方法を開発するなど、長年、研究と臨床を行うスペシャリストだ。

 「免疫不全症の患者さんは、感染症などに冒されやすく、造血細胞移植は容易なことではありません。しかし、当科は、長い歴史と実績があり、熟練した医師や優秀な若い医師など、スタッフが充実しているのが強みです」

 原発性免疫不全症は、一見、治りにくい肺炎のような症状など、原因が見えにくく専門医でないと早期診断は難しい。しかも、患者数は全体で年間2000人程度と数が少ないので、一般的な医師が経験を積むチャンスも乏しい。そのため、金兼准教授は、開業医などの医師に対する啓発活動にも力を入れている。

 「肺炎などが重症化すると、予後に悪影響を及ぼします。当然のことながら、早期発見と早期治療が、原発性免疫不全症においても、非常に重要なことなのです。早期発見と治療で救える命があることを、より多くの先生方に、知っていただきたいと思っています」

 原発性免疫不全症は、生まれた直後に症状が出ないことが多い。そこで、金兼准教授は、出産直後の赤ちゃんの血液検査により、原発性免疫不全症を見つける新生児マススクリーニングを普及させたいと考えている。

 「早期発見には、新生児マススクリーニングが大いに役立つと思っています。また、将来的には遺伝子治療も開発されるでしょう」と金兼准教授は話す。希少で重篤な病を克服すべく、スタッフとともに奮闘中だ。 (安達純子)

 <データ>
 2015年実績
 ・入院患者数 954人
 ・造血細胞移植 9例
 ・実稼働病院病床数 711床
 〔住所〕〒113-8519 東京都文京区湯島1の5の45 
電話/03・3813・6111

【日本の病院の実力】東京大学医学部附属病院 免疫研究で世界を牽引 ワクチン開発で理想的な治療の可能性模索

 自分の免疫で関節組織を破壊してしまう「関節リウマチ」は、手足の痛みや変形のみならず、肺や血管などの全身の臓器に炎症を及ぼす可能性のある病気だ。

 かつては治療が難しかったが、20世紀の終わりに「メトトレキサート」という基本的な治療薬が登場し、その後、炎症物質をターゲットにした生物学的製剤が次々と開発され、炎症を抑えられる患者は増えた。

 しかし、新薬は高額なことに加え、全ての患者が絶大な効果を得られるわけではない。また、適切な使用が行われないと重篤な副作用にも結びつく。

 この状況を変えるため、免疫の研究で世界を牽引(けんいん)しているのが、東京大学医学部附属病院アレルギー・リウマチ内科だ。

同科の山本一彦教授(64)は、日本リウマチ学会理事長を務め、適正な診療の向上に努めると同時に、関節リウマチなどの免疫に関する数々の新しい研究成果を上げ、世界のトップランナーとなっている。

 「マウスなどの動物モデルの研究では、日本は世界をリードしています。しかし、マウスと人間の免疫の仕組みは異なるため、人間の免疫の研究方法を探すことから始めました。

人間の免疫の仕組みは複雑ですが、それをひもとくと、関節リウマチを含む自己免疫が関係する膠原病(こうげんびょう)、さらには、がんや感染症などとの関連など、さまざまなことがわかってきたのです」

 こう話す山本教授は、長年、人間の免疫を調べる技術開発や仕組みの研究を行い、関節リウマチに関する既報を含めた関連遺伝子を101個見つけて、2014年の論文で世界をあっといわせた。

 「なぜ関節リウマチが起こるのか、遺伝子解析で原因と結果の因果関係を明らかにしています。すると、1つの関連遺伝子が、複数の病気に関わることが見えてきたのです。

創薬には莫大(ばくだい)な費用がかかりますが、たとえば、かつてがんで開発されて効果のなかった薬が、膠原病には効果をもたらす可能性があることもわかりました」

 自己免疫が暴走する膠原病では、免疫力を抑えると感染症やがんが生じやすいなど、免疫機能の表裏を考えなければならない。遺伝子解析で原因と因果関係がつかめると、表だけを狙って暴走を抑えることが可能になる。

 そこで、山本教授が取り組んでいる有力な方法の1つがワクチンの開発だ。関節リウマチの炎症を未然に防ぐことができるワクチンならば、他の免疫機能に悪影響は及ぼさない。

これが完成すれば、関節リウマチにかぎらず、膠原病のワクチンの開発への道筋もつく。そして、患者にとっては、ワクチンの効果が得られると、長期間に渡って薬を飲まなくても済むようになるなど、恩恵は大きい。

 「正常な免疫の働きを維持しながら、暴走をコントロールする創薬は、私たちが開発した技術ならば可能です。理想的な免疫治療は応用範囲が広いため、その可能性をさらに広げていきたいと思っています」と山本教授は話す。革新的な医療を創造すべく前進中だ。 (安達純子)

 【データ】2013年度実績
 ・外来患者数 3133人
 ・入院患者数 361人
 ・病院病床数 1163床
 〔住所〕〒113-8655 東京都文京区本郷7の3の1 電話/03・3815・5411

【日本の病院の実力】がん治療に幅広い選択肢を持ち、患者のQOL向上もフォロー★日本医科大学付属病院・泌尿器科

泌尿器のがんは、前立腺がん、膀胱(ぼうこう)がん、腎がんなどがあり、治療法もさまざまだ。

たとえば前立腺がんの治療では、キズの小さなロボット支援手術(ダヴィンチ)、放射線を出す小さなカプセルを患部に留置する密封小線源療法、がんに集中的に放射線を当てる強度変調放射線治療(IMRT)、ホルモン療法、抗がん剤を用いる化学療法など、病態によってたくさんの選択肢がある。どの治療が適しているのか、見極めも非常に重要となる。

 そんな選択肢を幅広く持ち、身体への負担がなるべく少なくQOL(生活の質)を上げるため、いろいろな取り組みを行っているのが、日本医科大学付属病院泌尿器科だ。新たな治療法の開発にも積極的で、治験数が多いのも特徴である。

 「当院は、文京区にある地域がん診療連携拠点病院ですが、対象は足立・荒川・葛飾区といった東京の北東部になっています。というのも、当院は地下鉄南北線・千代田線・三田線からほど近いため、東京都の北東部の患者さんもたくさん受診されています。

そのニーズに応えるには、治療の選択肢をそろえなければなりません。既存の治療法では、予後改善の難しい方もおられますので、新しい治療法の開発にも力を入れています」

 こう話す同科部長(教授)を兼任する近藤幸尋(ゆきひろ)副院長(55)は、泌尿器がん治療のスペシャリストである。身体への負担の少ない腹腔鏡を用いた鏡視下手術で高い技術を発揮し、膀胱がんに関しては、オリジナルの治療も行っている。

 「膀胱がんは、表面の粘膜層に留まる早期がんであれば、内視鏡による切除で済み、膀胱を温存できます。従来は、粘膜層の下の筋層にがんが到達していると、膀胱を取らなければなりませんでした。

しかし、進行度合いによっては、筋層にがんが到達していても、内視鏡手術と抗がん剤治療などを組み合わせて、膀胱温存治療が行えることがあります。私たちはその見極めを得意としているのです」

 近藤教授は、がん細胞を調べる病理の医師らとタッグを組み、膀胱を温存できるかどうかを判断する独自の体制を整えている。

また、膀胱がんは再発しやすいため、新しい治療法として、免疫チェックポイント阻害剤の研究も行う。がん細胞は免疫細胞の攻撃を封じ込めるため、その動きを抑制し、免疫細胞が本来の働きをできるようにするのが、免疫チェックポイント阻害剤である。

 「新しい治療法の開発は、泌尿器系のがんに立ち向かうには欠かせません。そして、治療後のQOL向上のフォローも、大切だと思っています」

 身体へのなるべく負担の少ない治療で患者を救い、治療後のケアをするには、手間暇がかかる。しかし、近藤教授は時間を惜しまない。

 「診断と治療は現状を発展させることで、さらに進化できますが、治療後のフォローでは女性の患者さんのために、女医さんをもっと増やしたいと思っています」と近藤教授は話す。泌尿器がんを封じ込めるために邁進(まいしん)中だ。 (安達純子)

 【データ】2015年実績
 ・手術総数 717件
 ・前立腺がん手術数 82件
 ・膀胱がん手術数 143件
 ・密封小線源療法 41件
 ・病院病床数 897床
 〔住所〕〒113-8603 東京都文京区千駄木1の1の5 電話/03・3822・2131

【日本の病院の実力】「心房細動」治療に新技術取り入れ 医師がやりやすい方法模索 『筑波大学附属病院 循環器内科』

脳梗塞の原因の約3割を占める「心房細動」は、心臓の上部に存在する左右の心房で生じる。心房の電気信号が痙攣(けいれん)のような状態になることで一時的に血流が滞り、そこで生じた血栓が脳に運ばれて脳梗塞を引き起こしたり、心不全が生じる。

 そんな心房細動の治療のひとつに、血管から細い管であるカテーテルを入れ、先端についたペンのような医療機器で細胞の一部を焼いて、電気信号の乱れを正す「カテーテルアブレーション」がある。この医療機器が、最近、格段に進化している。

 カテーテルの先についたバルーン(風船)によって、患部を冷却する「冷却凝固バルーン法」は、2014年7月に保険適用された。また、バルーンを加熱する「高周波ホットバルーン法」は、今年4月に保険適用になる見込み。そんな最先端の心房細動治療を行うのが、筑波大学附属病院循環器内科である。

 2014年7月、冷却凝固バルーン法を国内で初めて成功させるなど、心房細動治療を牽引(けんいん)している。

 「心房細動による脳梗塞の国内状況は、近年増加しています。心房細動を早期に発見し、適切な治療を行うことで脳梗塞は防ぐことができます。しかし、従来のカテーテルアブレーションは、ペン先で患部を的確に焼灼しなければならず、高い技術が必要なため、一部の医療機関での治療に限られていました。バルーンの登場で、この状況が変わることを期待しています」

 こう話す同科の青沼和隆教授(64)は、心房細動を含む不整脈治療のスペシャリストである。カテーテルアブレーションはもとより、多くの医師がより治療しやすい方法を模索し、「バルーン法」などに取り組んできた。ペン先よりもバルーンの方が、治療範囲が広いため効率的なことも明らかにしている。

 「アイスバルーンとホットバルーンの登場で、より多くの医療機関で治療が行われるようになると思います。患者さんにとっては、安全かつ有効な早期治療を受けやすくなるでしょう。それは、心房細動を治し、脳梗塞を防ぐ上で非常に重要なことなのです」

 青沼教授は、さらに治療の選択肢を広げるため、今年6月に「経皮的左心耳(さしんじ)閉鎖術」の治験をスタートさせる。左心房にある耳のような凹みの左心耳は、血栓が生じやすい場所である。そこにカテーテルを用いて特殊な医療機器を運んで留置し、左心耳に蓋をしてしまう新しい治療法だ。日米同時スタートの治験で、日本では初の試みとなる。

 「バルーンなどのアブレーションの治療が無理で、抗血栓薬を飲み続けなければならない患者さんの新たな治療法として、福音になる可能性があります。30年前から変わらない心房細動による脳梗塞の状況が、新しい治療法で、少しでも治療法の選択の幅を広げることができればと思っています」と、青沼教授は話す。新たな治療法の開発で、ひとりでも多くの人を救うべく奮闘中だ。 (安達純子)

 【データ】2015年実績
 ・カテーテルアブレーション治療 675例(うち、バルーン治療約250例)
 ・病院病床数 800床
 〔住所〕〒305-8576 茨城県つくば市天久保2の1の1 電話/029・853・3900

【日本の病院の実力】がん細胞が死滅する夢の治療法 「NK4遺伝子」国内初の臨床試験

 アスベスト(石綿)が原因とされる悪性胸膜中皮腫(ちゅうひしゅ)は、肺を覆う胸膜(きょうまく)や横隔膜(おうかくまく)などに広がるがんである。広範囲ゆえに放射線治療が行いにくく、片肺などを切除する大がかりな手術も適用は限られる。頼みの綱の抗がん剤は、2種類程度と数が少なく、新たな治療法の開発が不可欠だ。

 この状況を打開すべく、昨年8月、千葉大学医学部附属病院呼吸器内科悪性胸膜中皮腫センターが、悪性胸膜中皮腫に対する国内初の「NK4遺伝子」を用いた臨床試験をスタートさせた。がん細胞の遺伝子にNK4遺伝子を届けて転写することで、増殖を防ぎ死滅させることが期待されている。

 「悪性胸膜中皮腫は、アスベストを吸ってから長い年月をかけて発症するため、国内のみならず諸外国でも患者さんは増え続けています。しかし、予後を改善する有効な新たな薬はいまだにないのが現状です。NK4遺伝子を用いた治療法で、ひとつの突破口が見いだせればと思っています」

 こう話す呼吸器内科の多田裕司講師(49)は、長年、肺がんや悪性胸膜中皮腫の診断・治療、新たな治療法の開発に力を注いできた。肺がんには、がんを狙い撃ちにする分子標的薬が幾つも登場しているが、悪性胸膜中皮腫には、それらはほとんど効果がない。そこで、多田講師が注目したのが、動物実験でさまざまながんに対する効果を発揮した「NK4遺伝子」だった。

 「無毒化してがん細胞だけに侵入するアデノウイルスが、NK4遺伝子を運びます。NK4遺伝子ががん細胞に入ると、NK4タンパク質を作り出すようになり、がん細胞は増殖できなくなる仕組みです。いわば、がん細胞自身がNK4遺伝子によって、自らを死滅する物質を作るようになるのです」

 理論上は、がん細胞だけが死滅する夢のような治療法だが、実際に臨床試験が行われるのは今回が初めてだ。多田講師は、長年の準備に加え、慎重に臨床試験を進めながら、その効果を見極めようとしている。また、別の全く異なる臨床試験も並行して実施し、ひとりでも多くの悪性胸膜中皮腫の患者を助けようと努力を重ねている。

 「悪性胸膜中皮腫は、診断そのものも難しいがんです。そして、既存の薬の効果も限られています。だからこそ、新しい治療法を見つけ出したいのです」

 一般的に、ウイルスに遺伝子を乗せてがんに届ける治療法は、手間暇がかかるために開発の進展は思わしくない。副作用も未知数だ。しかし、安全と有効性が明らかになれば、従来の薬とは異なる治療法として、がんに対する武器となりえる。

 「これからもさまざまな方法を確立することで、患者さんに貢献できればと思っています」と多田講師は話す。強敵を封じ込めるために邁進(まいしん)中だ。 

 【データ】
 2015年実績(呼吸器内科)
 ・総入院数 929人(2014年実績)
 ・肺がん新規患者数 約120人
 ・悪性胸膜中皮腫 約35人
 ・病院病床数 835床
 〔住所〕〒260-8677 千葉県千葉市中央区亥鼻1の8の1
 電話/043・222・7171

【日本の病院の実力】国内初、全診療科のゲノム診療サポート 国立がん研究センター中央病院・遺伝子診療部門

遺伝子解析技術の急速な進歩により、がんに関わるゲノム(遺伝子全体)情報が明らかにされ、医療の現場で活用され始めている。たとえば、米国女優のアンジェリーナ・ジョリーのような遺伝性のがんは、その遺伝子変異によってがん発症の予防措置(個別化予防)が推進されている。

 一般的ながんにおいても、遺伝子変異に関わる分子標的薬(がんの治療薬)の効果が明らかにされてきた。遺伝子を調べることで、薬が効きやすいかどうかがわかるのだ。そのため、個人の遺伝子に合わせた「個別化治療」が行われるようになっている。

 ただし、大腸がんや乳がんなど、異なるがんでも遺伝子変異が同じことがあり、薬の選択の広がりや、新たな治療法の開発などの課題も多い。ひとつひとつの診療科がそれぞれに取り組むよりも、全診療科を網羅してコーディネートすることが必要になってくる。

 そこで、全診療科のゲノム診療をサポートすべく、今年1月、国立がん研究センター中央病院遺伝子診療部門が開設された。品質管理された臨床ゲノム検査室を院内に設置して、日常診療に本格導入した体制は、国内初となる。

 「これまでも当センターでは、がんの遺伝子解析の研究を進めていました。新たなシステムの開発もあり、全診療科のゲノム診療をサポートする体制が整ったので、本格的な開設に至ったのです。この体制が、本当に有効なのかも含め、今後いろいろな研究を進めていかなければなりません」

 こう話す吉田輝彦部門長(57)は、長年、がんの遺伝子研究を行っている。国立がん研究センターでは、個別化予防の遺伝相談外来を1998年に開設した。また、2013年には、網羅的な遺伝子解析を用いた臨床研究プロジェクト「TOP-GEARプロジェクト」をスタートさせ、臨床効果や副作用を予測する遺伝子プロファイリング研究を行っている。さらに、検査情報をスムーズに解析できるラボ(研究室)を昨年11月に設置したことで、その基盤の上に、遺伝子診療部門を立ち上げた。

 「遺伝子を調べると、治療の効果判定などのメリットだけでなく、いまだ謎の多いがんの解明にも役立ちます。仮に皮膚がんと大腸がんのそれぞれの患者さんで、同じような遺伝子変異があっても、皮膚がんで効果の高い分子標的薬が、大腸がんの患者さんで効くとはかぎらないことがあるのです。その理由を調べていくと、薬の新たな組み合わせや創薬にもつながるでしょう。新しい医療のサポートができるのです」

 吉田部門長は、遺伝子異常とそれを改善する方法について、常に思いを巡らせている。その先に見ているのは、「がんになっても治せる」という新たな希望の光だ。

 「網羅的な遺伝子情報を活用した臨床研究を進めることで、次の段階に進めます。薬でがんは治るという未来に、近づければと思っています」と吉田部門長は語る。医療の新たな扉を開けるために、尽力中だ。 (安達純子)

 【データ】実績
 ・TOP-GEARプロジェクトの今までの解析131症例(うち、半数弱に治療選択に有効と考えられる遺伝子変異を同定)
 ・オリジナルパネルによる遺伝子異常検出の精度 99.2%(変異検出の精度)
 ・病院病床数 600床
 〔住所〕〒104-0045 東京都中央区築地5の1の1 電話/03・3542・2511

【日本の病院の実力】群馬大学医学部附属病院 核医学科 画像診断と放射線治療スペシャリストの集団

今やどんな病気にも活用され、欠かせないとも言える画像診断。放射線を応用したレントゲン、CT(コンピューター断層撮影)、PET(ポジトロン断層法)、放射線以外にもMRI(核磁気共鳴画像法)、超音波といった、さまざまな診断法がある。

 診断技術と装置の進歩に伴い、放射線を放出する薬品を投与して、診断のみならず治療も行うことを核医学と言う。

 そんな画像診断と治療に力を注いでいるのが、群馬大学医学部附属病院核医学科だ。

 核医学検査数は全国1位を誇る。血管から細い管を通すカテーテル治療や、直接患部に針を刺して治療を行うインターベンショナルラジオロジー(IVR)による治療も得意とする。

針を刺して熱でがんを焼くラジオ波焼灼術では、肝がんだけでなく骨の腫瘍の1つ「類骨骨腫(るいこつこつしゅ)」にも、臨床試験を実施。守備範囲は幅広く、数多くの特殊治療を行う。

 「医療機器の進歩は目覚ましいのですが、画像を診て診断することを専門とする画像診断医は、全国的にも不足している。高度な画像処理を行っても、画像診断医の技術レベルが高くなければ、重要な病態を見落としかねません。

きちんと診断できる医師を育て、さらに治療技術のレベルも上げていく。そのために、分業で若い医師を育てているところです」

 こう話す同科の対馬義人教授(50)は、画像診断のエキスパート。1984年、同病院に核医学科が開設されて以来、スペシャリティーの高い診断と治療に力を注いでいる。

 そのひとつが、樋口徹也准教授(46)が行う核医学治療の「悪性褐色細胞腫のI-131 MIBG治療」や「甲状腺がんのI-131治療」。

 「『悪性褐色細胞腫のI-131 MIBG治療』は、全国では4施設しか行われておらず、患者さんが全国から集まっている状況です。『甲状腺がんのI-131治療』も、診断と治療が同時にできるため、核医学としてはニーズが高い」(樋口准教授)

 一方、宮崎将也助教(37)が力を入れているのは、1997年に治療専用の医療機器として導入した「IVR-CT」による治療 (2007年機器更新)。レントゲン、CT、超音波の画像を組み合わせ、肝がんや類骨骨腫に対するラジオ波焼灼術や、針を刺して患部を凍結する「凍結治療」も腎がん、肝がん、肺がん、有痛性骨軟部腫瘍に対し行っている(腎がんのみ保険適応)。

 「IVRの治療では、同科はさまざまな最先端の治療法をそろえているのが強み。画像診断技術のクオリティーが高いため、正確な場所に針を置くことができ、治療に貢献しています」(宮崎助教)

 最先端の画像診断と治療を行う同科について、対馬教授は「全身をくまなく診て、先進的な技術を積極的に取り入れ、技術の向上を継続しています。この力を集結させることで、より発展させていきます」と意気込みを語った。

 精力的な取り組みに終わりはない。 

<データ>2012年実績
・CT検査数2万6973件
・MRI診断数1万3002件
・核医学検査8164件 
・IVR治療数865件
・病院病床数725床
〔住所〕〒371-8511 群馬県前橋市昭和町
    3の39の15 (電)027・220・7111

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