がんの手術が成功して、せっかく社会復帰を果たしても、体と心の用心を怠ると再発や転移のリスクが高まる。何より重要なのが「ストレス対策」なのだが…。
Tさん(64)は1年前に食道がんの手術を受けた。胃カメラ検査で見つかった早期がんを、内視鏡手術で摘出し、事なきを得たのだ。
さすがにTさんも、がんを経験してからは生活を改めた。酒は付き合い程度に控えるようにして、家では飲まなくなった。たばこは見事にやめて、それだけじゃなく、息子や仕事仲間にも禁煙を呼びかけている。病気は人を変えるのだ。
しかし、そんな彼にも変わらないものがある。性格だ。とにかく短気で怒りっぽい。ちょっとしたことで激高する。
車を運転していても、前の車の速度が遅かったり、信号が赤から青に変わってもすぐに発進しなかったりすると、クラクションとパッシングの雨あられ。これが原因でケンカになり、おまわりさんのお世話になったことも何度かある。
「まずは怒りっぽい性格を治すのが先決ですね」と語るのは、鹿児島県指宿市にあるメディポリス医学研究財団がん粒子線治療研究センター長の菱川良夫医師。その理由をこう説明する。
「がんは生活習慣が原因でおきる病気。だから酒とタバコを控えることは大事なことです。ただ、人は“体”と“心”からできているわけで、体だけを大切にして心のケアをおろそかにしたのでは意味がない」
菱川医師の経験上、がん患者にはクヨクヨする人や怒りっぽい人が比較的多いという。性格ががんという病気を呼び込んでいるのかもしれない。
「ストレスを抱えている人は、そうでない人より余計にエネルギーを使って免疫力を下げてしまう。そのため、せっかくがん治療が成功しても、再発や転移のリスクが高い状態が続くことになるのです」
腹を立ててがんが消えていくならいいが、逆にがんを引き寄せる危険性が高いんだから意味がない。腹が立ったら深呼吸をして、穏やかにやり過ごしましょう。そうすればいつか、がんも眠ってしまうかもしれませんよ。
行楽の秋である。旅も物見遊山でほっつき歩くならいいが、仕事が目的の出張となると話は違ってくる。窓外の紅葉を眺める余裕もなく、新幹線の中で資料を読むだけの旅-。旅情も何もあったものではない。
Mさん(35)は、それほど出張が多いというわけでもない。年に2、3度、1泊か2泊の国内出張に出かける程度。しかし、その出張のあとで、必ずと言っていいほどの確率で、かぜを引くのだ。
「家族や友人との旅行ではそんなことはないのに、会社の出張だと必ず体調を崩すんです」と不思議がるMさん。しかし、その裏には意外なストレスの影が見え隠れする。
「出張中は適度な緊張感が免疫力を高めているのです」と語るのは、大阪厚生年金病院の鈴木夕子医師。さらに詳しく解説してもらおう。
「よく“忙しいとかぜを引かない”といいますが、出張中がまさにそれ。人は多忙になると、肉体的にも精神的にも追い込まれて集中力が高まり、交感神経が優位になります。
これにより身体中心部の血液循環がよくなり、体温が上昇。結果として免疫力が高まるのです。そして、出張中もこれと同じ状態が体の中では起きているのです」
年中出張しっぱなしの人ならその生活が常態化してしまうが、年に2、3回のMさんにとって、出張は「非日常」。しかも片時も仕事が頭から離れない中で、体は無意識のうちに緊張状態に置かれているということなのだ。
「出張先から自宅に戻ると、緊張が解けて免疫力が下がり、身近な現実世界のストレスに負けて、かぜを引くのでしょう」(鈴木医師)
家族や友人との旅行では体調を崩すことがないのも、そうした旅行中は緊張をしないから。肉体面ではともかく精神的なストレスは感じていない。当然、旅行中に体が負う緊張感は小さく、免疫力の上がり下がりもない-ということなのだろう。
そんなMさんは近々、常務のお供で3日ほど出張の予定が組まれている。これはストレスの宝庫であり、考えただけでぐったりしてくるという。今回は、出張前から寝込みそうだぞ。
家電量販店に勤務するTさん(38)は、若いころからストレスがかかるたびに「口角炎」に悩まされてきた。唇の脇がひび割れて、いずれ裂けてくる。「特に冬場は多いんです」と嘆く彼はいま、おちょぼ口だ。
これまで何度となく口角炎を経験してきたが、その痛みや煩わしさに慣れることはないという。
「ものを食べたり飲んだりするときはもちろん、アクビや大笑いをしただけでも強い痛みが出るんです。
一番つらかったのが歯医者さんに行ったとき。さすがに痛くて口を大きく開けられないので、診察をキャンセルして帰ってきたこともあります」とうなだれる。
彼の口角炎ができるのは、決まってストレスがかかった時。特に彼にとってのストレス源は、不条理な客だ。
「クレジットカードが預金不足で使えないといっても、『客を信用できないのか!』と怒鳴られたり、商品がモデルチェンジすると『なんで勝手に変えるんだ!』と激高したり。そんなこと僕に言われてもねぇ…」
不思議なもので、その手の客が一人来ると、その日はクレームが連続する。そして翌朝、彼の口元は裂けている…。
「精神的な抑圧によって交感神経が緊張状態になり、唾液の分泌量が減ることでさまざまな症状を起こすことになりますが、口角炎もその一つ。
人によっては唇だけでなく舌が乾いてひび割れることもあります」と語るのは、東京・渋谷区にある片平歯科クリニックの片平治人院長。要はストレスから来るドライマウスが原因だったのだ。
同じストレス性の症状でも、狭心症や突発的な下痢などと比べれば、口角炎など軽いもの。でも、客商売のTさんにとっては、“話しづらい”という症状は重大な問題だ。
片平院長は、「当面は薬剤軟膏を塗り、刺激物をさけて、口を大きく開けないこと。口の中の粘膜や舌に異常があればカンジダ症を疑う場合もあるが、そもそも口腔は全身の健康状態を反映しやすい場所。栄養と睡眠を十分に摂り、ストレスをためない工夫が大切」と話す。
Tさんのひょっとこのような口元が、笑顔で広がる日はくるのだろうか。
ストレスは大抵の場合、体にとって悪い方向に影響する。血糖値もそう。「ストレスで血糖値が安定した」という人はいない。なぜなのか。キーワードは「カテコラミン」というホルモンだ。
Uさん(50)は以前から糖尿病を指摘され、食生活を見直し、運動も取り入れ、清く正しい生活を実践している。そのおかげもあって、血糖値の状態を示す「ヘモグロビンA1c(HbA1c)」は7前後を推移。これは「糖尿病ではあるものの、まあ比較的安定した状態」といえる数値だ。
そんなUさんに降りかかったストレスとは、妻の入院。健診で乳がんが見つかり、手術を受けたのだ。乳腺外科医の話では、彼女のがんは超早期。キズ口の小さな手術で切除でき、乳房の形状に大きなダメージを与えることもないという。
それでもUさんは不安だった。妻の入院中は食欲も落ち、ほとんど食べられない状態が続いた。なのに、その間の血糖値は普段の「7」から「9」へと2ポイントも上昇した。
「カテコラミンなどのストレスホルモンの影響でしょう」と語るのは、神奈川県厚木市にある「すずき糖尿病内科クリニック」院長の鈴木大輔医師。そのメカニズムを解説してもらった。
「精神的な抑圧はさまざまなストレスホルモンの分泌が促します。ヒトの体内で出るホルモンで血糖値を下げる作用があるのはインスリンだけで、それ以外の物質は総じて血糖値を高める働きがあるのです。当然ストレスホルモンも血糖値上昇に加担する。その代表格がカテコラミンです」
鈴木医師によれば、通常はストレスホルモンの作用に「ストレス食い」が加わり血糖値を高めることが多いというが、Uさんは食べていないので純粋にストレスホルモンだけが原因となる。
幸いなことに奥さんの手術は無事に成功し、転移の心配もなかった。妻の無事の生還を受けて、UさんのHbA1cの値も元の「7前後」に落ち着いた。結果として夫婦の愛情を血糖値が示した形になるわけだ。
「妻のためにも長生きしなきゃ」と、以前よりも血糖コントロールに熱心になったUさん。ぜひそうしてください。
ストレスを抱えて鬱になる-。これはまあ考えられることではあるが、中高年男性を襲う、もう一つの鬱症状の原因がある。「男性更年期」だ。男性ホルモンの低下が招く、深刻な悩みとは…。
Eさん(51)はIT関連企業の部長職。最近、どうにも元気がない。ストレスのネタは数えきれないほどあるが、それとは別の次元で、疲弊しているようなのだ。
「とにかくやる気が出ないんです。人間ドックでも、血圧と尿酸値が少し高めなこと以外、問題もないのに…」
出社してから夕方、帰るまで、数えきれない数のため息をつく。集中力が出ないので、会議の資料を読むのさえおっくうになる。電車ではひと駅の間でも座りたい。酒を飲んでもテレビを観ても楽しくない。
当然のことながら夜のお務めも長らく果たせていない。奥さん、美人なのに…。
「男性更年期の可能性がありますね」と語るのは、東京都新宿区にある飯田橋中村クリニック院長で泌尿器科医の中村剛医師。そのメカニズムを次のように説明する。
「女性が閉経によって女性ホルモン量が低下し、さまざまな不定愁訴を招くのが更年期障害ですが、男性も加齢とともに男性ホルモンの量が下がって、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
その代表的な症状が鬱症状で、Eさんのような“やる気の低下”“飽きっぽくなる”といった症状が顕著です」
鬱症状を感じた人の多くは心療内科を受診するが、男性更年期による鬱症状は、抗鬱剤や安定剤では効果が期待できない。逆に男性ホルモンの補充療法を行うことで、元気が出てくるケースが多いという。
「男性ホルモンが低下した男性全員が更年期症状を示すわけではないが、そこにストレスが加わることで発症したり、症状を悪化させたりすることは珍しくない。
また、鬱病のように神経質な人に多いといった傾向も見られない。心療内科的な治療で効果が見られない時は、男性更年期を疑ってみる価値はあります」と中村医師。
Eさんのような人は意外に多い。ホルモンの値は血液検査で簡単にわかるので、思い当たる人は一度、泌尿器科を受診してはどうだろう。
舌の先がピリピリ痛む。「口内炎?」と思って鏡を見ても何もない。実はこれ、「舌痛症」という症状の可能性がある。精神的な抑圧のかかった人に出やすいこの症状。心当たりがある人は歯科か口腔(こうくう)外科へ-。
Hさん(29)は口内炎ができやすいタイプ。唇の裏などに口内炎ができるたび、奇妙なしゃべり方になる。それを頻繁に繰り返すので、最近では奇妙なしゃべり方がすっかり板についてきたほどだ。
神経質で小さなことを気にするのでストレスは多い。繰り返す口内炎もそのせいだろうと、自分で半ばあきらめていた。
そんな彼が異変に気付いたのは2週間前のこと。舌の先にピリピリっとしびれるような弱い痛みを感じたのだ。これまで舌にできる口内炎のほとんどが“側面”だった。
「珍しいことがあるもんだ」と、早くも奇妙なしゃべり方モードに移行しつつ鏡を見ると、異常はない。翌日も翌々日も、「ピリピリ感」はあるのに、見た目の異常が現れないのだ。
「すわ、舌がん!」
あわてて病院の口腔外科を受診したHさん。いろいろと検査をしたが、診断は「異常なし」。一体これは何なのか。
「舌痛症と思われます」と答えるのは、東京医科大学口腔外科主任教授の近津大地医師。続けてこう解説する。
「名前の通り、舌に痛みが出る疾患。多くは検査をしても異常は認められません。亜鉛不足や電解質異常が原因の場合もありますが、メンタルの問題が誘因となって起きることもあります」
口の中は胃や腸と同様、粘膜に覆われている。ストレスで胃腸が荒れるなら、口の中が荒れても一向におかしくない道理だ。Hさんのケースも、何らかのストレスが症状を引き起こしていたと考えるのが妥当だろうと近津医師は推測する。
「多くは医師に『異常なし』と言われると安心して軽快しますが、精神安定剤を処方することもある。神経質な人ほど症状は消えにくい傾向があります」(近津医師)
トイレの鏡の前で、「これ、舌がんじゃないのかな…」と舌を引っ張って眺めているHさん。そんな心配してるヒマがあるなら仕事しなさい。
最近も小欄で「ストレスと片頭痛」について書いたが、ストレスで起きる頭痛は片頭痛ばかりではない。自分では片頭痛だと思っていても、実は別の頭痛であることも珍しくない。今回はそんな例の一つ、「後頭神経痛」のお話…。
Iさん(29)は、疲れたり多忙でストレスが貯まったりすると、頭が痛くなる。最近はかなり痛みも強くなってきた。
症状が出るのは決まって頭の後ろの左側。「これが世に言う片頭痛か」、と思ったIさんは、病院の「頭痛外来」を受診する。
問診の後にMRIで脳の画像を撮影。その画像を見ながら頭をさすったり、なでたり、揉んだり…。その結果、医師が下した診断は、予想した片頭痛ではなく、「後頭神経痛」という聞き馴れない病名だった。
「頭の片側が痛むので片頭痛と思い込んでいる人が多いが、調べてみると後頭神経痛であることは少なくない」と語るのは、仙台市宮城野区にある「仙台ペインクリニック」院長の伊達久医師。
後頭神経痛とはその名の通り神経痛の一種。首から後頭部、頭のてっぺんにかけて、時にキリキリ、時にズキズキと痛む。人によっては「耳の後ろが痛い」と表現する人や、神経痛だけに「雨の降り出す前に痛む」という人もいるという。
「後頭神経は、頭蓋骨の後頭部のほぼ中心から約2、3センチほど外側から皮膚の下に出てきて、頭頂部に向けて走行する左右1本ずつある神経。精神的ストレスなどで周囲の筋肉が緊張すると、この神経が刺激されて痛みが出ます」(伊達医師)
首と後頭部の骨の境目の、首の中心から左右2、3センチの辺りを指で押し、後頭部全体に大きな痛みが出れば後頭神経痛の疑いが大きいという。
「温めて筋肉が弛緩(しかん)してよくなる人と、冷やして炎症を取ると痛みが取れる人がいるので、効果のあるほうを選べばいい。鎮痛薬や患部のマッサージも効果的ですが、効かない場合は神経ブロックを行うこともあります。2、3回神経ブロックを行えば、多くは軽快していきます」
頭痛には命に関わる重大な病気が隠れていることもある。自分で病気を決めつけずに、まずは専門医に相談することが重要なのだ。
大昔、四足で生活していた人間は、二足歩行を始めたことで腰痛が始まったといわれる。しかし、腰痛がつらいからといって、四足に戻るわけにもいかない。しかも、現代人の腰痛の背景には、ストレスも関係しているというから面倒だ。
Gさん(32)は最近、腰痛で悩んでいる。ぎっくり腰のような激痛ではない。会社でパソコンに向かっていると、ジワーッと重さを伴って広がってくる典型的な腰痛。ご多分に漏れず姿勢は悪い。座っている時は基本的に“猫背”。おまけに目も悪いので、パソコンの画面との距離も近い。
しかし、そんなGさん、常に腰痛があるわけでもないという。精神的につらい時、ストレスがかかっている時に限って、その痛みに襲われるというのだが…。
「ストレスが腰痛を誘発することは珍しいことではありません」と語るのは、東京・六本木にある那須整形外科医院院長の那須耀夫医師。Gさんのような患者は多いという。
「検査をして椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のような重大疾患の可能性が消えた時、『ストレスはありませんか?』と聞くと、大抵が『ある』と答えるんです」と那須医師。精神的なストレスが腰痛を引き起こすメカニズムは解明されていないが、整形外科医の間ではストレスと腰痛の関係は周知の事実だという。
対策はあるのだろうか。
「週の単位と1日の単位でそれぞれ考えるんです。週の単位であれば、休みの土日には、仕事を忘れてスポーツなどをしてリフレッシュすることを考えましょう」
では「1日の単位」はどうなのか。
「午前と午後で最低2回ずつ、行きたくなくてもトイレに行くんです。そこでストレッチでもできればさらに効果的。要は、“ずっと同じ作業”から意図的に体と意識を遠ざけることが重要なんです」(那須医師)
どうせなら階段を使って別の階のトイレに行けば運動不足の解消にもなるし、コーヒーショップでサボったって、それで腰痛予防になるならいいじゃないですか。
そもそもこの欄に登場する人たちは、皆さん、マジメ過ぎますよ。
人に相談するほどの病気ではなくても、当人の受ける苦痛は深刻な症状というものはあるものだ。「口内炎」などはまさにその筆頭格。舌足らずな喋り方は、どんなイケメンでも“面白い人”に変えてしまう。当人にとってはストレスなのだが…。
化学品メーカーに勤務するRさん(30)は自称イケメン。周囲の評価は「ミスター・イヤミか堺すすむ」。かなりのズレがあるようだ。
日頃からファッションには人一倍、気を使い、普通の人には罰ゲームに見えるような派手なスーツで通勤。会社に着くと作業服に着替えなければならないので、そのギャップが周囲の笑いを誘うが、本人は真剣だ。
そんな彼を悩ませるのが「口内炎」。疲労がたまったり、精神的な悩みが重なると、すぐに口内炎ができる。舌の先や脇、唇の裏や頬の裏など、できる場所はさまざまで、ひとたびできると、まともにしゃべれなくなってしまう。
浅草演芸ホールの舞台が似合いそうなファッションで合コンに出かけるので、当然女性たちは警戒する。しかも口内炎が痛む彼のしゃべり方は、永六輔のモノマネ。よく知らない世代にもウケる。しかし、ウケればウケるほど、彼の心は沈んでいく。そのストレスで口内炎がまたできる。
「口内炎にもいくつか種類がありますが、Rさんの場合はアフタ性口内炎とよばれるもの。原因はよくわかっていませんが、ストレスとの関連性は高いと言われています」とは、東京都中央区にある二宮歯科医院の二宮健司院長。
「免疫の低下が関係していると考えられており、睡眠不足や過労、暴飲暴食などと同時に、精神的な抑圧が引き金になることが少なくありません」
多くは放置しても7-10日程度で軽快するが、Rさんのように再発を繰り返すケースでは、まれにだがベーチェット病という全身性炎症性疾患であることもあるといい、甘く見るのは禁物だ。
「ステロイド軟膏の塗布やレーザー治療など歯科医院で対応できるので、気になるなら一度相談してみては」と二宮院長。
いっそのこと、おもしろキャラで生きていったほうがストレスもなく人気者になれると思うのだが…。
中高年のお父さんが感じる「煩わしい症状」は数多くあるが、「おしっこが近い」というのはなかなか切実な問題。頻尿といえば前立腺肥大症を思い浮かべるが、実は心の悩みが原因で、おしっこが近くなることもある。
Mさん(45)の悩みは「頻尿」。多い時には朝会社に着いてから午前中に3回、午後に5回、計8回もトイレに行く。べつに何度行っても構わないが、そんなにおしっこがたまるものなのだろうか。
いや、実際には大してたまってはいない。尿意を感じてトイレに行き、いざ放水となると、チョロリと滴り落ちるだけ。まさに「すずめの涙」だ。
なのにまた1時間も経つと尿意を感じ、すずめの涙を流しにトイレに走る。実にばかばかしい。
しかも彼の症状、緊張やストレスを抱えている時に限って、顕著に現れる現象だという。そんなことってあるのだろうか…。
「あります」と即答するのは、東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科教授の関戸哲利医師。続けてこう解説する。
「ストレスから頻尿になるメカニズムははっきりしていませんが、“膀胱は心の鏡”といわれるように、精神状態が尿意に連動することは珍しいことではありません」
中高年の頻尿の要因となる病気には、高血圧や糖尿病、肥満など、いわゆる「メタボの因子」があるという。ストレスが引き起こすこれらの生活習慣病が頻尿を助長することがある。動脈硬化が進めば膀胱への酸化ストレスが高まり、排尿に関係する機能も悪化する。
「ストレスから来る頻尿については、頻尿の不快感がさらなるストレスとなって悪循環になることも考えられ、場合によっては心療内科的な治療が必要なケースもあります」(関戸医師)
治療法は、生活習慣病があれば、その改善が重要。頻尿症状を緩和する薬も各種ある。
「ただし、膀胱に重大な事態が生じている可能性もあるので、症状がひどければ泌尿器科で検査を」と関戸医師。
当人は何度もトイレに行くことを恥じているのだが、周囲は誰も気にしていない。必要以上に人の目を気にする、繊細なタイプだからこその悩みなのかもしれませんね。
顔の半分がピクピク動く顔面けいれん。程度が小さいうちは我慢もできるが、明らかに顔つきが変わるような大きな症状になると、当人はもちろんだが周囲も不安になる。症状の大小を左右する要因の一つが「ストレス」なのだ。
PR会社に勤めるYさん(34)は以前から顔面けいれんの持病があった。といっても、たまに気が付くとピクピクッとする程度で、症状が出ない日もある。ところが、時として容貌が変わってしまうほど、激烈なけいれんに見舞われることがあるのだ。
アガリ症のYさんは、人前で喋るのが苦手。しかし最近は立場上、得意先でのプレゼンテーションを仕切って行わなければならないことがあるのだ。対象の仕事が大きいほどけいれんの症状も大きくなる。
顔の右半分が、朝からピクピクではなくビクンビクンというレベルでけいれん。右目は開かずに奥歯で何かを噛み潰しているような、まるでポパイのような顔になってしまうのだ。ワーオ、なんてこった!
しかし、プレゼンが終わると表情が和らぎ、次第にけいれんも治まって元の表情に戻っていく。さよなら、ポパイ。
「もともと顔面けいれんがある人が、ストレスで症状を悪化させることはよくあること」と語るのは、日本医科大学千葉北総病院脳神経外科の梅岡克哉医師。
「顔面けいれんは、脳の中で血管が神経を刺激して、その刺激で神経が興奮して起きる症状。極度の緊張は神経を高ぶらせるので、症状が大きくなりやすい」
この症状を抑えるためには、薄めたボツリヌス菌を注射して神経の活動を抑える治療もあるが、効果が続くのは数カ月。根本治療となると、手術で治す以外に手はない。
「顔面けいれんは、放置しておいて自然に治る病気ではありません。働き盛りの年代で、仕事に支障が出ているのであれば、手術を視野に入れてもいいのでは…」
これが本物のポパイなら、ホウレン草を食べれば解決するのにね…。
日本のサラリーマンは「微熱」程度ではなかなか仕事を休めない。しかし、わずかとはいえ熱があればつらいし、仕事の能率も下がる。微熱がストレスに起因するものだとしたら、当人のしんどさも、また格別だ。
Kさん(37)の口癖は「ああ、熱が…」。何かというと、おでこに手を当てて、周囲の同情を引こうとするのだが、皆、慣れているので簡単には同情してくれない。
そこでKさんは薬局で体温計を買ってきた。いつものようにおでこに手を当てながら、腋の下に体温計を差し込むこと数分。そこに表示された彼の体温は「37・3」。何とも微妙な発熱があることが明らかになった。
確かにKさんは忙しいし、何より仕事には熱心だ。昔でいう「モーレツ社員」なのだが、一方で寂しがり屋でもあり、折に触れてチヤホヤしてほしい。
彼が微熱を発するのは、決まって面倒な仕事を押し付けられた時。得意とする領域の作業に没頭している時は、たとえ風邪をひいていても仕事に没頭できる。なのに、気の乗らない作業となると微熱が出る。なぜだ。
「ストレスで発熱するのは理由があります」と語るのは「秋葉原駅クリニック」院長の大和田潔医師。その理由とは…。
「精神的なストレスがかかると自律神経のうち交感神経が優位になり、エネルギー代謝が活発になるので発熱するのです。それが慢性化すると、今度は体が疲れてしまうため、微熱だけでなく逆に“冷え”を引き起こすこともあります」
こんな社員につける薬はあるのだろうか。
「常にアクセルをふかしている状態がよくない。気分を変えてリラックスすべきでしょう。朝の軽い体操やヨガなどは効果的だし、思い切って仕事を休んで温泉にでも行くとバッチリです。
ただ、この手の人は旅行となると、目一杯、スケジュールを詰め込みがち。せっかく出かけてものんびりできずに帰ってくることが多いのですが…」
大和田医師によると、カフェイン入りの飲み物や、たばこを多用するのも良くないとのこと。まずは体を休めて、箱根にでも行く計画を立ててみてはどうでしょう。
鬱症状が泌尿器絡みの症状を引き起こすことはよく知られている。EDなどはまさにその代表格。ところが、泌尿器絡みの病気が鬱症状を引き起こすこともあるのだ。「慢性前立腺炎」という病気。30~40代に増えているという。
Hさん(41)は1年ほど前、不眠に悩まされていた。日中は集中力も出ず、だるさが抜けない。心療内科で精神安定剤や睡眠導入剤を処方してもらっていた。
そうこうするうちに、脚の付け根の「そけい部」に痛みを感じるようになった。
消化器科を受診したが、そけいヘルニアではなかった。「もしかしたら」と泌尿器科に紹介され、検査の結果、ようやく「慢性前立腺炎」との確定診断を得た。しかも、それまでの鬱症状も、この前立腺炎が原因の可能性があるというのだ。
「慢性前立腺炎は、圧倒的に“座り仕事”の人に多い病気。長時間、座り続けることで前立腺が圧迫され、血流が悪化して炎症を起こします」と語るのは、飯田橋中村クリニック院長で泌尿器科医の中村剛医師。
陰嚢と肛門の間辺りに鈍い痛みや重さを感じることが多いが、病気が進展するとHさんのように症状がそけい部や脚に広がることもあるという。
しかもこの病気、単に前立腺の症状だけにとどまらず、精神的な症状に発展することもある。
「前立腺関連疼痛(とうつう)症候群と呼ばれるもので、いわゆる“鬱”の症状を併発することがあり、心理テストから前立腺炎が見つかることもある」と中村医師。持続する不快な症状が、徐々にメンタル面にダメージを与えていくのだ。
治療法は前立腺炎の治療に準じる。菌があれば抗生物質で排除。中村医師のクリニックでは、生薬なども効果的に用いた治療が行われる。
「アメリカなどでは“射精をすると効果がある”という意見もあります。ただ、射精をすれば治るというものではなく、“しないよりはしたほうがいい”といった程度」(中村医師)
Hさんがせっせと射精に励んだかどうかは不明だが、前立腺炎の治療が功を奏して、今では睡眠薬ナシで眠れるようになったという。
座り仕事の皆さん、くれぐれもご用心を。
Hさん(34)は、最近「手のしびれ」が気になって仕方ない。気になるからしびれるのか、しびれるから気になるのか。どちらにしても気の毒だ。
症状が始まったのは半年ほど前。会社の昇格試験を前に、深夜に勉強していた時だった。
「右の手首から先が、ジーンとしびれた感覚になっていたんです。以来、気が付くとこの症状が続いていて…」
ある日彼は、近所の整形外科を受診する。症状を聞いた医師は首のエックス線撮影をしたが、画像上に特に問題は見当たらない。
さらに精密検査を求めるHさんに対して、医師は「気のせいですよ」と冷たく言って、薬も出してくれなかった。
しかし、Hさんの右手には厳然と症状が残っている。それどころか、自分の訴えを理解してくれない医師への不満から、症状は増してさえいる。
【神経過敏…納得できる説明あれば】
こうした状況を専門家はどう見るか。医療法人高志会の整形外科医、村重良一医師は、「まず心配はいらない」と語る。
「手のしびれの原因を探るために首のエックス線を撮ったのは妥当な選択。糖尿病による末梢神経障害や、正中神経の圧迫で起きる手根管症候群なども考えられるが、頭部や頚椎のMRIなどの検査が必要なかったということは、神経学的な異常が見られなかったことを意味しており、安心していいということです」
ならば、今も残る手のしびれは何なのか。
「Hさんは病気への不安が強い性格のようです。昇格試験に対するストレスで自律神経の調節機能が破綻したことで“しびれ”という症状が出た。すると今度は、その症状に対して神経が過敏になり、次の“しびれ”を招いているのでしょう」
一方で村重医師は、Hさんにも気の毒な一面があると指摘する。
「相談を受けた医師がきちんと話を聞いて、Hさんが納得できる説明をしていれば、症状も消えていた可能性が高い。気のせいならなおのこと、十分な説明と精神面での配慮が大切です」
結局のところ大きな病気でもなかったわけだし、今回の一件で医者選びの大切さを学ぶことができたわけだから、Hさんも「得した!」と思えばいいのに…。まあ、そう思える性格なら、ストレスなんかたまらないか。
小さなイタリアンレストランを経営するRさん(38)。不況のあおりで経営が思わしくない。そのせいか最近、“毛”も思わしくない。伸び悩む売り上げ、伸びる前に抜ける毛髪…。どっちが先に、ギブアップ?
独立開店から数年。妻とアルバイトの3人で切り盛りできる小さな店だが、初めは好調だった。
ところが、この1年ほどで客足はガタ落ち。不況の影は深刻で、以前は会社帰りによく訪れたOLたちも、最近では来てもランチという状況。
店の家賃、食材の仕入れ費に加えて、自宅マンションのローンに子供の学費と、考えただけで頭が痛い。妻はランチが終わってから夜までパートに出るようになったが、現状では焼け石に水だ。
そんな中で、彼の“頭”に異変発生。この半年で急速に薄くなってきたのだ。全体的にではなく、頭頂部から後頭部にかけて、部分的な“完全ハゲ”が散発している。
「洗髪のたび、タオルで拭くたび、そしてブラシでとかすたびに、ごそっと抜け落ちていく。鏡で見えにくい部分なので、最初は無視していたんですが、今では触ると地肌の感触。その面積も日に日に大きくなっているようで…」
なんとも気の毒になる話だ。この状況を水戸済生会総合病院副院長で皮膚科医の飯島茂子医師が解説する。
「典型的な円形脱毛症。頭皮に栄養を送る血管が、ストレスなどが原因で攣縮(収縮)して血流不足に陥ると、その血管が支配する部分の髪の毛が抜け落ちてしまう。これが円形脱毛症。最初は10円玉大で、徐々に大きくなる。
人によってはそれがいくつかでき、一つひとつのハゲが大きくなって、つながってしまうこともあります」
生薬で免疫機能を高めたり、頭皮に刺激を与える治療が行われるが、ストレスを解消しない限り根本的な解決は難しい。
「脱毛という現象自体がストレスになっているので、すぐに治すのは難しい。時間をかけて改善していく姿勢が大切です」と飯島医師。
こういう時は発想の転換。いっそのことスキンヘッドにしてひげでも生やせば、イタリアンのマスターっぽく見えるかも。お金のかからないことから試してみて、悩むなら店のことで悩んでください。そっちが解決すれば、髪はおのずと生えてくるでしょう。
ストレスと疲労を抱えながらも仕事を終えた夜は、酒くらい飲んだってバチは当たらなかろう。ところが、そんな夜に限って変な酔い方をしたりする。ストレスフルなサラリーマンは、酒に逃げることも許されないのか。
雑誌編集者のFさん(47)は最近、かなり疲労困憊(こんぱい)。過労で睡眠時間も短く、目の下はパンダちゃんみたい。でもオジサンだからかわいくはない。
忙しいながらも、飲みには行く。仕事絡みで著者や取材相手と飲むことが多いが、たまに時間ができた夜、仲間と行きつけの飲み屋に行くのは至福の時だ。
大のビール党のFさんは、ひと晩で中ジョッキの生ビールを6-8杯飲む。これは学生時代から変わらない。9杯飲むことはないが、5杯で終わることもないのが彼の自慢だ。何の自慢にもなっていないが…。
ところが、最近この量に変化が出てきた。ひと晩で3杯しか飲めなかったり、2杯で泥酔したりするようになったのだ。明らかに酒に弱くなっている。
当人は「過労とストレスのせい」というのだが、本当なのだろうか。
東京都千代田区の秋葉原駅クリニック院長の大和田潔医師は、「関連はあるだろう」という。その理由はこうだ。
「ストレスは体にさまざまな老廃物質を蓄積させます。また、睡眠不足だと内臓が休む時間も短くなるため、肝臓の余力がなくなりアルコールの分解が遅くなる。結果として、酒に弱くなったように見えるのです」
Fさんの自己診断が当たっていたとは悔しい限り。大和田医師に対策を聞いてみよう。
「暴飲暴食を避けて、よく眠る-に尽きます。“肝臓にいい”というサプリやドリンクに頼るよりも、安静のほうがよほど効果が大きい。肝臓は解毒をしたり、栄養を出したり蓄えたりする臓器なので、何かを食べたり飲んだりすると、仕事量が増えるだけ。
栄養の出し入れを減らして、十分な睡眠で内臓に休息を与えれば、肝臓も元気を取り戻し、アルコール分解能力も回復します」
自分のストレスを発散するには、まず肝臓のストレスを解消してやることが先決だ。
日本の腰痛人口はじつに2800万人。そのすべてとは言わないが、かなり多くの人が、ストレスによって症状を大きくしている可能性がある。腰の痛みを治したければ、まずはストレス対策を講じるべきなのだが…。
Iさん(51)は長年の腰痛持ち。しかし、この半年ほどは、かなり症状が悪化している。
1年ほど前に整形外科を受診した際に、椎間板が少しズレていることが判明したが、手術をするほどではないので「様子見」が続いている。それが悪化したのだろうか。
再び整形外科を訪ねたが、画像診断の結果は「前回と変わらず」。そこで医師が発したのは、「ストレスが原因では?」という一言だった。
東京都医学総合研究所うつ病プロジェクトのリーダーを務める楯林義孝医師は、ストレスと腰などの運動器の痛みの関係をこう解説する。
「ストレスが痛みを発生させるというよりは、もともと痛みを生み出す原因があって、それをストレスが増幅する-ということでしょう。筋力が落ちていたり、Iさんのように椎間板ヘルニアがある人が、ストレスを抱えたりうつ病になると、元の痛みが強くなることは珍しいことではありません」
じつはIさん、腰痛が悪化する直前に、それまで勤めていた会社から関連会社に出向している。あまり社交的ではない彼にとって、50歳を過ぎての異動はつらかった。腰痛だけでなく、食欲不振や不眠など、
精神状態の不安定を暗示する諸症状に悩まされている。腰痛悪化の原因がストレスにあることは十分に考えられる。
「職場のミスマッチがストレス症状を引き起こしたり悪化させたりするケースは非常に多い。精神安定剤などで応急処置をしながらも、根本的な改善を目指すなら、職場の問題を解決することが重要」と楯林医師。問題の根は意外に深そうだ。
無口で人付き合いの苦手なIさんは、腰が痛くても周囲に愚痴をこぼす相手がいない。だから彼が腰痛に苦しんでいることを、誰も知らない。
彼の孤独な闘いはいつまで続くのだろう。
夜寝ていて、突然こむら返りが起きたらどうしよう。まあ、どうすることもできないのだが、そんな不安におびえながら暮らす人がいる。安らかであるはずの眠りを瞬時に打ち砕く激痛。夜明け前、寝室から聞こえてくるうめき声、ああ…。
1日を終えて布団に入る時、普通の人は安堵(あんど)の表情で眠りにつくもの。しかしMさん(49)は違う。恐怖におびえ、冷や汗をかきながら寝る毎日。何と気の毒な睡眠だろう。
Mさんは高校教師。以前は学校の近くのマンションで、奥さんと娘2人と暮らしていたが、痴呆が進んだ奥さんの父親の面倒を見るため、1年前に彼女の実家の近くに引っ越した。
片道2時間。朝の電車は座れるが、帰りはなかなか座れない。剣道部の顧問をしているため、家に着く頃には疲労困憊(こんぱい)。朝は6時前に家を出るので、寝るために帰るようなもの。しかし、その睡眠に恐怖が待っている。
明け方近くになると脚がつる。夢の中で気配を感じ、急いで目を覚ますのだが、何もできない。あっという間にふくらはぎがけいれんして、激痛にのた打ち回る。それでも妻を起こさないよう、ベッドの下に降りてからのた打ち回るあたりは、美しき夫婦愛だ。
「疲労がたまってけいれんが起きているのでしょう」と語るのは、川崎市麻生区にある麻生総合病院スポーツ整形外科部長の鈴木一秀医師。そのメカニズムを次のように解説する。
「脚のけいれんが起きる背景にはいくつかの理由が考えられます。乳酸の蓄積はもちろん、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質の低下でバランスが崩れても、けいれんは起きやすくなる。いずれも“強い疲労”がベースにあるのは明らか」
鈴木医師によると、気温が低い時のほうが起きやすいが、夏でも疲れや発汗、脱水などが原因で起きるという。対策は、脚の血流改善と電解質の補給だ。
「風呂でゆっくり脚を温め、寝る前にストレッチをして脚の血行を良くすると効果的。寝る時は脚を高い位置に上げたり、ふくらはぎを締め付けるストッキングを使ってもいいでしょう。またスポーツ飲料などの摂取も必要です」
いくらストレス社会とはいえ、睡眠中も不安から逃れられないなんて、あんまりだ。
ところで、「眉間を撫でると眠くなる」というのは、ときどき聞く話。子供の寝かしつけのとき、この方法を用いるという人もいるようだけど…どうして眉間を触ると眠くなるの?
ロフテーの快眠スタジオ睡眠改善インストラクター・山尾碧さんに聞いた。
「寝かしつけには、背中、おっぱい、足、おなかの上にのるなど、ボディータッチが多く用いられるという調査結果があります。眉間も、子供に対する安心感を与えるボディータッチの1つではないでしょうか」
また、ロフテーの睡眠文化研究所が行った「現代日本の眠り 小物に関する調査結果」によると、五感刺激とのこんな関連性が見られたのだそうだ。
「いちばん多かったのは、本・雑誌・マンガで、次に多かったのはCDラジカセやラジオなど。次いで、枕・クッションなどという結果が出ています。
特に、枕、クッション、ぬいぐるみ、布団などは、『抱くと安心する』『触ると心地よい』という人が大部分でした」視覚や聴覚に比べ、「触覚」に関するものは、小さい頃から長く使用しているものが多く挙げられていたという特徴もあるのだとか。
つまり、眉間など、顔のあたりに触れるものは、子供の頃から与えられてきた「安心感」でもある。さらに、考えられるのは、視界が遮られるという点。「眉間を触ると、目をあけていられなくなって、目を閉じますよね? 暗いことも眠くなる一因ではないでしょうか」
眉間を触られた反射で目を閉じることによる「適度な暗闇」と、顔の部分に温かくやわらかなモノが触れる「触角」とが、心地よい眠りを与える「眠り小物」になっているのかも。
世界中に3億8000万人、日本だけでも720万人の患者がいるといわれる「糖尿病」。現代人が最も警戒しなければならないこの病気にも、じつはストレスが関与するケースは少なくないのだ。
Mさん(55)は、3年前の健診で「糖尿病予備軍」と指摘されて以降、用心に用心を重ねた節制を続けている。
賛否両論ある「低カロリー」と「低炭水化物」の双方を多少考慮した食生活を送り、以前はバスに乗っていた駅までの1キロ半を歩く努力もしていた。おかげで大過なく過ごせていたのだが…。
今年に入ってから、彼の周囲には“変化”が多発する。同じ部署のパート職員が立て続けに辞めたことで、残業が増えた。
ほぼ時を同じくして、妻の乳房に早期のがんが見つかり、手術のため入院という出来事もあった。
妻の世話は娘と手分けして対応したが、残業はMさんがカバーするしかない。
肉体的にも精神的にも疲労を重ねた末に受けた今年の健診で、彼の血糖値は「予備軍」から「正患者」に昇格していたことが判明する。
「精神的なストレスは血糖値を高めます」と語るのは、大森赤十字病院糖尿病・内分泌内科部長の北里博仁医師。その仕組みをこう解説する。
「ストレスで交感神経が優位になると、副腎からアドレナリンやステロイドホルモンが多く出ます。
これが血糖値を高める働きを持っている。そもそも人間の体で“血糖値を下げる作用”のあるホルモンはインスリンだけ。
その他のホルモンは血糖値を上げるほうに働いてしまうのです」
Mさんの場合、過労もさることながら「妻の入院」が大きく影響していると北里医師は指摘する。
「夫婦のどちらかが入院すると、看病する側の夕食時間が遅くなる傾向が強まります。
病室に食事を持ち込んで、奥さんと一緒に食べられたらよかったのですが…」
ただし、Mさんのケースは、元の生活に戻せれば、一時的な投薬治療でコントロールは可能だと北里医師はいう。
奥さんの手術は成功し、体調も回復傾向だという。あとは仕事をやり繰りして、再び「予備軍」に戻る努力が求められる。
頭痛も腹痛もつらい症状であることに変わりはないが、「胸の痛み」は「心臓の異変」を介して「死」と直結するだけに恐怖感も大きい。そして、やはりここでもしゃしゃり出てくるのがストレスだ。今回は読んでいて、「胸が痛くなる物語」です。
早暁5時。静寂の中を突っ走る救急車に乗っているのはYさん(46)。IT企業の部長さんだ。
異変に気付いたのはN子さん。彼はバツイチの独身で、彼女は人妻。早い話が不倫の間柄だ。
搬送先の病院で検査の結果、「異型狭心症」と診断された。大森赤十字病院心臓血管外科部長の田鎖(たぐさり)治医師が解説する。
「心臓の表面を走る比較的太い冠動脈が、一過性に異常な収縮をすることで起きる狭心痛。一般的な狭心症と比べて予後はいいものの、急性心筋梗塞や突然死の原因になることもある」
田鎖医師によると、症状は一般的な狭心症と同じで、前胸部の激痛や圧迫感が5-15分ほど続くことが多いという。
原因はやはり肥満や高血圧、脂質代謝異常などが挙げられるが、田鎖医師が注意を呼びかけるのが、ストレスだ。
「ストレスで交感神経が優位になると、ノルアドレナリンというストレスホルモンが出て血管を収縮させます。
同時に血小板からセロトニンという神経伝達物質が出て、これが冠動脈を収縮させる働きを示すことも分かっています」と田鎖医師。
では、なぜYさんは異型狭心症を発症したのか。彼には彼なりのストレスがあった。
N子さんの夫は出張が多く、その隙に不貞を働いていたのだが、そこに伴う緊張感が半端ではなかったのだ。こういう時、女は大胆だが男は小心者。おそらく浮気がバレる夢でも見たのだろう。
田鎖医師によると、治療法は「生活習慣の是正」に尽きるとのこと。Yさんも3日間の精密検査の後、内服薬と定期的な通院を言い渡されて退院した。
しかし、1カ月後、彼女の夫の弁護士から「不貞行為に対する損害賠償請求」が届いた。今回の騒動で悪事が露見したのだ。
今度のストレスは大きい。近いうちに「胸の痛み」が再発するはずだが、自業自得だから仕方ない。
スポーツマンの汗は爽やかだし、若い女性の汗には色気が漂う。しかし、サラリーマンのワイシャツの色を変え、頭から湯気さえ伴う大汗には、好意的な印象は持ちにくい。もとより、湯気の発生源である当人の心痛は計り知れない。
Tさん(24)は入社2年目の営業マン。彼の悩みは、緊張すると尋常ならざる大汗をかくことだ。
通い慣れた得意先で通常の注文を取るだけなら問題ないが、クレームを受けた時や、初めて訪問する客先などでは、ほぼ必ず全身から大量の汗が出る。
得意先だけではない。自分の会社でも、仕事のミスで上司から注意されたり、普段顔を合わせることのない上級スタッフと偶然にエレベーターに乗り合わせたりすると、瞬時に滝のような汗が出る。
「精神的な緊張で自律神経のバランスが崩れたことで起きる症状の一つです」と語るのは、世田谷井上病院理事長の井上毅一医師。そのメカニズムをこう解説する。
「人間の体表には200万から500万のエクリン腺という汗腺(穴)があり、気温に応じて体温調節のためにここから汗を出します。
ところが緊張で自律神経のうち交感神経が優位になると、この機能に不調をきたす人がいて、必要以上の汗をかく人がいるのです」
井上医師によれば、この汗は、水分摂取量に関係なく出てくるという。もちろん気温にも関係ないので、真冬だって大汗をかくことになる。
「これとは別に、腋の下や股、足の裏などにはアポクリン腺という別の汗腺がある。ここが分泌する体液は悪臭を伴うのですが、ストレスで大汗をかきやすい人は、アポクリン腺からの分泌も誘引される傾向がある」
井上医師は外国人患者を多く診てきた。元来、欧米人より体臭の薄かった日本人も、食の欧米化により、体臭や汗の臭いも変化してきているようだと指摘する。
症状の出方は個人差が大きく、どんなに緊張しても涼しい顔をしている人もいれば、Tさんのように一瞬にして風呂上りのような「湯気男」になってしまう人もいる。
対策は「緊張しないこと」に尽きるのだが、それが一番難しい。暑くなるこれからの時期。Tさんの試練は続く。
一日の仕事を終えて家に帰り、風呂に浸かる瞬間というのは、えも言われぬ解放感があるもの。しかし、この解放感が新たなる厄介事を引き起こすこともある。今回のテーマは「片頭痛」。
Uさん(23)は今春、大学を出たばかりのフレッシュマン。会社ではまだまだ緊張の連続だ。
そんな彼の唯一の楽しみは“風呂”。日曜日にはスーパー銭湯巡りをするという、少々年寄りクサい趣味の持ち主。
「会社から帰り、自宅の風呂の小さな浴槽に身を沈める時の快感は何物にも替え難い」と、コメントも年寄りクサい。
ところが、そんな彼を悲劇が襲う。疲れて帰宅し、風呂に入ると頭痛に見舞われるようになったのだ。
頭の左側だけに訪れる「ドクン、ドクン」という拍動性の激痛。ひとたび痛み出すと、何もできない。
蛍光灯の灯りまでが頭痛を刺激するので、電気を消した真っ暗な部屋で、布団をかぶって痛みが引くのを待つ。明け方まで眠れないことも珍しくないという。
「典型的な片頭痛ですね」と語るのは、日本赤十字社医療センター脳神経外科の野村竜太郎医師。そのメカニズムを次のように説明する。
「収縮していた脳の血管がストレスから解放されると拡張し、血管周囲の神経が引き延ばされてズキズキと脈打つ頭痛を感じるのが片頭痛。
血管が収縮する原因はいくつかあるが、ストレスもその一つ。
ストレスを抱えている人が、帰宅して風呂に入ると緊張が解けるだけでなく温熱効果で血流もよくなる。それで片頭痛が起きるのは珍しいことではありません」
片頭痛の発症には食事も関係する。赤ワインやチーズ、チョコレートなどは、特に痛みを誘発する危険性があるという。また光の強さ、臭気、寒暖の差、天気なども、片頭痛の要因となり得る。
「発作時には薬で痛みを取ることになるが、市販薬では効果が期待できないこともある。
まだ診断を受けていないなら、まずは専門の医療機関を受診すべきです。
痛みの“前兆”を感じられる場合と、そうでない場合がある。ひと月に何度も痛みを自覚する方は、予防薬を使うことで症状を軽減することも可能です」(野村医師)。
それにしても、ストレス解消法のお風呂が、頭痛という次のストレスを生み出すなんて、考えただけでもアタマが痛くなる話です。
胃や大腸の内視鏡検査が好きだという人はいないだろうが、必要以上に緊張すると、余計な不安が生じることもある。胃カメラを飲んで「高血圧」が見つかったのではシャレにもならないぞ…。
Yさん(38)は胃の内視鏡検査を受けた。2年前にも受けたことがあるが、その時は大学病院だったため、経験の浅い若い医師による検査。麻酔もせず、それはそれは苦しい検査だった。
ただ、慢性的に消化器系の弱いYさん。特にこの数週間は深刻な胃痛と胸やけに苦しんでいた。会社の上司から、無痛検査をやっている内視鏡検査専門のクリニックを紹介されて受診した。
なるほど検査自体はまったく苦痛もなく、半分眠った状態で終えることができた。検査の結果、がんなどは見つからなくてひと安心なのだが、新たな不安が持ち上がった。
検査直前、検査台の上で計った血圧が、上が160、下が90と高かったのだ。それまで120前後で推移していた彼にとって、とてつもない高血圧。一体何なのか。
「白衣高血圧と呼ばれるものでしょう」と語るのは東京都港区にある三好内科クリニック院長で循環器科が専門の三好俊一郎医師。医師の前に出ることで緊張し、一時的に血圧上昇するストレス症状だ。
「個人差はありますが、一般的に自宅にいる時よりも診察室では5~10程度の上昇は見られるといわれています。
手術や、以前、つらい経験をしたことのある検査などでは、さらに上昇することもあるでしょう。明らかに血圧がおかしい時は、心拍数を測定して総合的に判断することもあります」
三好医師は、こうも付け加える。
「胃カメラの検査の直前で160程度であれば、まず問題ないレベルです。むしろ血圧が低すぎると、検査中に脳貧血になる危険性が出てくる。
また検査直前とはいえ220を超えるようだと、今度は検査中にさらに上昇することが考えられるので、先に血圧をコントロールする必要も出てきます」
検査が終わり、胃の炎症の説明を受けながらも、Yさんは血圧のことが頭から離れない。恐らくこの時点で血圧を測れば、いつも通りの正常値に戻っているはずなのだが…。
●胸焼けの原因は消化性潰瘍かも
胸焼けは、「消化性潰瘍」が原因で起こることもあります。消化性潰瘍とは、食べ物を消化するための胃酸や消化酵素によって、胃や十二指腸の粘膜が消化されてただれたり、えぐり取られたりする状態のこと。
潰瘍(粘膜組織の欠損)が起こる場所によって、「胃潰瘍」と「十二指腸潰瘍」に分けられます。
消化性潰瘍の代表的な症状は、上腹部やみぞおちの痛みですが、胃酸が多く出過ぎている場合は、胸焼けやゲップ、吐き気なども見られます。そこで今回は、消化性潰瘍が原因の胸焼け対策をご紹介していきましょう。
●消化性潰瘍が原因の胸焼け対策
ピロリ菌の除菌消化性潰瘍の最大の原因は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)への感染だと言われています。
ピロリ菌は、胃粘膜の表面に棲みつく菌で、アルカリ性のアンモニアをつくり出すことで、胃酸を中和し、強い酸の中でも棲息することができます。
しかし、ピロリ菌がつくり出すこうした物質は、胃の粘膜を傷つけ、潰瘍の原因になってしまうのです。
しかもピロリ菌は、一度感染すると、除菌するまで胃の中で生き続けます。消化性潰瘍による胸焼けを起こしやすい人は、ピロリ菌の検査を受け、必要に応じて除菌をしましょう。
ストレスを溜めないストレスを受け続けると、体のあらゆる機能をコントロールしている「自立神経」が乱れてしまいます。
すると、胃や十二指腸液の血流が悪くなって、抵抗力が弱まり、潰瘍を起こしやすくなってしまうのです。気分転換をしたり、たまにはゆっくり休んだりするなど、ストレスを溜め込まないように工夫しましょう。
●食生活での対策
胃に負担をかけないように、食事は毎日決まった時間に、規則正しく摂るようにしましょう。また、食事の量や回数が増えるほど、消化液が活発に分泌されるので、間食や暴飲暴食を控えることも大切です。
脂肪分やタンパク質の多いもの、辛いもの、熱すぎたり冷たすぎたりするもの、コーヒーや紅茶などのカフェインが多いもの、酸味の強いものなどは、消化液の分泌を促すので、胃などに負担をかけます。
これらの飲食物は、できるだけ控えるようにしましょう。
消化の良い食事は、胃での停滞時間が短いので、粘膜をあまり刺激せずに済みます。
かたい食材や食物繊維が多い食材は、細かく切ったり、すりつぶしたり、やわらかく煮たりするなど、調理方法を工夫して、消化しやすくしましょう。また、食べるときは、しっかりよく噛むようにすれば、消化しやすくなります。
(この記事の監修: 吉井クリニック 院長 / 吉井友季子 先生)
「喘息持ち」の人にとって平穏な生活とは、発作がない毎日。日頃の治療がうまくいっていれば穏やかな日々を送れるが、時に静寂を破って発作が襲い掛かることがある。背後に見え隠れするのはストレスの影…。
若い頃から気管支喘息を患っており、今も定期的に病院に通院中。きちんと服薬しているので、ここ数年は大きな発作もない。
ところがある日、異変が生じた。きっかけは仕事上の大チョンボ。出したつもりの請求書が、数カ月にわたって彼の引き出しの中で眠っていたため、部門の年間の売り上げに影響する額の入金が、期をまたいでしまうことになったのだ。
引き出しから請求書を見つけたMさんは顔面蒼白になり、膝から崩れ落ちると咳き込み出した。
少々芝居がかっている。しかし、その咳たるや、周囲の者が呆気にとられるほど激烈なもの。四つん這いになって、涙とよだれと、鼻水を垂らしながらゲッホンゲッホンする彼を、遠巻きに眺める社員一同…。
同僚が会社の車で病院へ搬送。吸入薬を使ってようやく落ち着きを取り戻した時には、全身が汗びっしょりだった。
「強烈なストレスから気管支が狭まったことでの発作でしょう」と分析するのは、神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科医長の萩原恵里医師。
普段は安定していても、精神的な抑圧から急激な発作に見舞われることがあると説明する。
「気管支の太さは自律神経の支配下にあり、副交感神経と交感神経のバランスが取れていれば安定しています。しかし大きなストレスが加わると、バランスが崩れて気管支が一気に狭まることがある。これが発作の原因です」
普段は治療でコントロールできていても、急激なストレスは発作を誘因する危険性があるということだ。
「病院で使ったのは気管支拡張作用のある吸入薬と思われます。Mさんのような人は、これを携帯すべきでしょう」と萩原医師。
ちなみに彼が抱え込んでいた請求書は、上層部レベルの話し合いで、期内の支払いが認められた。発作を起こす前に、上司に相談すればよかったのに…。
何事も「しっくりする」のはいいものだ。恋愛関係、仕事関係、労使関係…。相対するものが違和感なく調和のとれた関係を構築すると、ストレスは生まれない。
どうやら同じことが、「歯の関係」にも言えるようだ。
Aさん(54)はさまざまな不定愁訴に悩まされてきた。頭痛、腰痛、肩や首のこり、めまい、不眠、そして歯の痛みや歯ぎしり、顎(がく)関節症…。
これらがストレスとなってイライラは募り、深酒する。まさに負のスパイラルだ。
ところが、ひょんなことから、状況は一変する。
ある部分をわずかに修正する治療をしただけで、あらゆる症状が消えてしまったのだ。その「ある部分」とは「歯」だ。
Aさんの不定愁訴の原因は「かみ合わせの悪さ」から来るものだった。
かみ合わせが悪いと、本人は気付かなくても脳はそれをストレスと感じてさまざまな症状を引き起こす。
まさにAさんの諸症状がそれだったのだ。
「人間の脳は、100マイクロメートルのかみ合わせが変化しただけでも違和感を覚えるもの。
わずかなかみ合わせやあごのズレもストレスと感じ、これが続くと全身に影響が及ぶことがある」と語るのは、東京都渋谷区にある片平歯科クリニックの片平治人院長。続けて解説する。
「かむという行動は脳神経と特に深い関係があり、脳の全領域の中で“口の運動や感覚”が占める割合は全体の2分の1近くにも及びます。
そう考えると、かみ合わせの不具合が全身の症状を引き起こすということも納得できるのでは」
これらの問題を解決するには、咬合(こうごう)面をわずかに削るか、反対に専用素材を盛りつけたりしてかみあわせを調整する。
あるいは就寝中にマウスピースを装着してズレたあごの位置を矯正(きょうせい)する方法もある。今回Aさんは、マウスピースを付けて寝るだけで治ってしまった。
歯と脳の関係修復に成功したAさん。
今年は、それより前から冷え込んでいた夫婦関係の改善に乗り出す決意だ。夜ごと隣で眠る妻に、和平実現に向けた協議を呼びかけるAさんだが、今のところ妻の反応はない。
そんな時くらいはマウスピースをはずせばいいのに。
●胸焼けや胃痛が起こるのはなぜ?
一般的に、「胸焼け」や「胃痛」が起こるのは、胃酸の分泌が過剰になって、胃の粘膜が荒れたり、胃液が食道に逆流したりすることが原因です。
これは、暴飲暴食や刺激の強いものの食べ過ぎ、ストレスによる自律神経の乱れなどによっても起こるので健康的な人でも、胸焼けや胃痛がすることは、そう珍しいことではありません。
しかし、ある程度の期間、継続して頻繁に起こる場合は、胃腸の病気の可能性があります。
●胸焼けと胃痛が起こる病気
胸焼けや胃痛が起こりやすい病気には、次のようなものがあります。
【胃潰瘍・十二指腸潰瘍】
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸や消化酵素によって、粘膜が消化されることによって起こる病気です。
一般的に、胃潰瘍の場合は、食後しばらくしてから胃が痛むことが多く、十二指腸潰瘍の場合は、空腹時や夜間に上腹部が痛むと言われています。
ただし、どちらの場合も、症状が進行していると、食後や空腹時といった時間に関係なく痛むこともあるようです。
【慢性胃炎】
慢性胃炎は、その名の通り、慢性的に胃が炎症を起こしている状態のことで、日本人の成人の約半数がかかっているといわれています。
自覚症状がない人も多いようですが、自覚症状がある場合は、食後に上腹部に鈍い胃の痛みがあったり、胸焼け、ゲップ、胃もたれなどを感じたりすることがあるようです。
【機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)】
胃痛や胸焼け、胃の不快感などの症状が続くにもかかわらず、内視鏡検査で胃の粘膜を観察しても、何も異常が見当たらないことがあり、これを「機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)」といいます。
かつての胃酸過多症や神経胃炎なども、これに含まれます。
主にストレスや過労などによって、自律神経のバランスが乱れ、胃の機能が低下することで起こると考えられています。
●検査で原因をはっきりさせよう
ただし、胃痛が起こる病気は、ほかにもたくさんあり、中には、緊急を要するものもあります。症状が長引いていたり、激しい痛みが起こったりするときは、検査を受けて原因を明確にし、適切な治療を受けましょう。
(この記事の監修: 五本木クリニック 院長 / 桑満おさむ 先生)
前回はストレスが誘発する物忘れについて書いた。今回は「ストレスのせいと思っていたら、じつは違った」というケースの物忘れ。同じ「健忘症」でも、少しばかり深刻な内容だ。
Cさん(34)は、ある精密部品工場で働く臨時のアルバイト作業員。高校は出たものの定職に就くこともなく、この年になった。
途中、何度か警察のご厄介になったこともあるが、今は悪い仲間との付き合いも断ち、真面目に働いている。
そんなCさん、最近、深刻な「物忘れ」に見舞われている。上司から仕事の説明を受けても忘れてしまい、同じことを何度も聞いて煙たがられる。
「メモをしろ」と言われてメモをするのだが、メモしたことを忘れ、また尋ねる。
当人は「疲れのせい」と気にしていなかったが、会社から連絡を受けた親が心配して病院に連れて行かれた。
画像診断では異常は見つからなかったが、問診やテストを受けた結果、「若年性健忘症」と診断された。
「単純作業の人に多く見られる健忘症で、最近増えています」と語るのは、大阪厚生年金病院内科の鈴木夕子医師。その特徴を次のように説明する。
「20-30代で起きる健忘症で、画像上は異常がない点で、心因性健忘症と似ています。
原因として強いストレスもありますが、もう一つ、“頭を使わない”ことも大きな要因とされます。
自分の頭で考えたり計算したりせず、パソコンや電卓任せの仕事をしていると、リスクが高まるようです」
心因性健忘症と同様、若年性の物忘れも決定的な治療法はない。
ただ、頭を使って脳に刺激を与える、つまり「考える」ことは、予防だけでなく症状改善にも役立つ可能性があると鈴木医師は言う。
「本を読む、新聞を読む、そしてわからない言葉があれば人に聞くのではなく辞書で調べる-。
パソコンや携帯電話が普及するまでは当たり前にやっていたことが、若年性健忘症から脳を守ってくれます。
早い話が“人任せ”“機械任せ”が一番危険です」(鈴木医師)
60代後半なら「年のせい」とあきらめもつくが、30代でこんな症状が出たら要注意。
予防のためにも、仕事帰りには新聞を読みましょう。
●胸焼けの薬ってどんなもの?
胸焼けは、胃酸が食道に逆流することで起こりますが、こういった症状が起こる病気を総称して、「胃食道逆流症(GERD)」といいます。この胃食道逆流症の治療に用いられる薬には、2つに大きく分けられます。
胃酸の分泌を抑制して逆流を防ぐタイプと、胃酸が逆流しても粘膜が傷つかないようにするタイプです。そこで、それぞれの薬にどんなものがあるのかを見ていきましょう。
●胃酸の分泌を抑制して逆流を防ぐタイプ
●プロトンポンプ阻害薬(PPI)「プロトンポンプ」とは、胃酸を分泌する壁細胞にあり、胃酸の主成分である塩酸をつくっている分子です。「プロトンポンプ阻害薬」は、このプロトンポンプの働きを阻害することで、胃酸の分泌を抑制します。
胃食道逆流症を治療する第一選択薬として利用され、胃酸分泌抑制薬である「H2ブロッカー」よりも、効果がはるかに高いと言われています。
●H2ブロッカープロトンポンプが塩酸をつくるためには、いくつかの物質からのシグナルが必要になります。そこで、それらの物質の中でも、特に重要な役割を果たす「ヒスタミン」からのシグナルをブロックすることで、胃酸の分泌を抑制します。
H2ブロッカーは、プロトンポンプ阻害薬に比べて効果が弱く、毎日連続して利用していると効果が徐々に低下します。このため、プロトンポンプ阻害薬を補完する薬として用いられることが多いようです。
●逆流しても粘膜が傷つかないようにするタイプ
酸中和剤(制酸剤)胃酸を中和して、胃酸の働きを弱め、食道粘膜が傷害されるのをやわらげる薬です。
速効性がありますが、効果が1時間ほどしか持続しなかったり、便秘や下痢などの副作用が出やすかったりします。このため、プロトンポンプ阻害薬を使用し、たまに胸焼けの症状が現れた場合などに用いられます。
胃粘膜保護薬食道の粘膜を保護することで、逆流してきた胃酸から食道を守る働きがあります。
ですので、胸焼けの症状を一時的に抑えるために用いられることがありますが、胃食道逆流症への有効性が認められていないので、保険は適用されません。
(この記事の監修: 吉井クリニック 院長 / 吉井友季子 先生)
●胸焼けの応急処置に牛乳を
胸焼けは、胃酸が胃から食道へ逆流したときに起きますが、このときの応急処置として、牛乳を飲むという行為が効果的です。
なぜならば、牛乳を飲むことで、逆流した胃酸が洗い流されるだけでなく、食道の粘膜に牛乳の膜が貼れ、胃酸の刺激から食道を守ることができるからです。ただし、牛乳の温度が冷た過ぎたり、熱過ぎたりする飲み物は、食道や胃を刺激してしまいます。なるべく常温で飲むようにしましょう。
食道粘膜を保護する効果はありませんが、食道を洗い流すだけなら、常温の水でも構いません。「だったらお茶でもいいのかな?」と思う人もいるかもしれませんが、お茶には注意が必要です。
お茶の多くには、胃酸の分泌を促進するカフェインが含まれているので、かえって胸焼けが起きやすくなる傾向にあります。麦茶や杜仲茶など、カフェインを含まないお茶もありますが、成分表記が分からない場合は、水を飲んだほうが無難でしょう。
●チューイングガムで胸焼け予防
唾液は、中性の粘液を含んでいる液体なので、胃酸を中和する作用があります。
胃酸の逆流は、食後に起こりやすいので、胸焼けしやすいときは、食後にチューイングガムを噛んで、唾液の分泌を活発にしましょう。唾液の分泌が活発になれば、逆流した胃酸を中和できるだけでなく、食道を洗浄することもできます。
●胸焼けが辛くて休憩したいときは
胸焼けが辛いときは、思わず机に突っ伏したり、横になって休憩したくなったりする人もいるかもしれません。しかし、胸焼けが起こるということは、食道と胃の境目で逆流を防いでいる「下部食道括約筋」がゆるくなっている可能性があります。
そんなときに、前かがみの姿勢になると、胃が圧迫されて、食道への逆流が起こりやすくなります。
また、横になるときも、食道と胃が同じ高さになると、逆流が起こりやすくなるだけでなく、逆流物がそのまま食道の中に停滞してしまいます。横になるときは、背中に座布団などを敷いて、上半身が少し高くなるようにしましょう。
(この記事の監修: 吉井クリニック 院長 / 吉井友季子 先生)
肛門を他人に見せるのが恥ずかしくない人はあまりいない。ましてそこにイボなどがあれば、そっとしておきたいと思う気持ちもわかる。でも、それを気にし過ぎてストレスをためたのでは意味がない。
そのストレスが、イボを育ててしまうこともあるのです。
Rさん(42)が肛門の内部、それも出口の近くに“何か”があることに気付いたのは半年前のこと。排便後に水で洗浄し、紙で拭いたときに指が触った。小指の先ほどの小さな突起物が肛門から顔を出していた。プヨプヨと柔らかく、痛みはない。
しかし、それ以降、Rさんは気になって仕方ない。
「これが世にいうイボ痔(じ)なのか。困ったな…」
心配性のRさんは悩んでしまった。お医者さんにお尻を見せるのは恥ずかしいし、上司が昔イボ痔の手術をして、「死ぬほど痛かった」と話していたことも不安を助長させる。
「怖がることはありませんよ」とやさしく語り掛けるのは、東京・赤坂見附にある「マリーゴールドクリニック」院長の山口トキコ医師。イボ痔とその治療法について、次のように解説する。
「痛みや出血などの症状がなければ、様子を見て大丈夫。ただ、便秘などでいきんだりすると、その反動で出血したり、痛みが出ることもある。それでも薬で対応できることが多いので、まずは受診してみてください」
では、どんな時に手術になるのだろう。
「イボが大きくなって肛門から出てくるようになると、手術が必要になることがあります。
ただ、今は切除するばかりではなく、痔核(じかく)に薬剤を注入して小さくするALTA療法や、ゴム輪でイボを縛って壊死(えし)させる方法など、痛みの小さい治療法があります。切除するにしても、昔に比べると切る範囲が小さくなったので、“死ぬほど痛い”なんてことはありませんよ」
山口医師によると、痔を気にしてストレスをため、それが原因で痔が悪化することもあるという。
そもそも痔の専門医にとって、Rさんの小さなイボなんて珍しくもなんともない。恥ずかしがっていないで、早く診てもらったほうがいいですよ。
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1億総ストレス時代。誰もが心を病んでいる。時には「死にたい」と思うこともある。そんなピンチを乗り越えるには、当人だけでなく、周囲の的確なサポートが大きな役割を果たすことになる。「死」が絡む相談は、するほうも、されるほうも、命がけなのだ。
Iさん(44)は、心療内科のクリニックに通院中。病名は「鬱(うつ)」だ。
2カ月ほど前、彼は大学時代の友人から相談を受けた。居酒屋で会って話を聞くと、仕事がうまくいっていないらしく、会社では冷や飯を食わされているらしい。おまけに奥さんとの関係も悪化しており、会社にも自宅にも居場所がないと嘆く。
「死にたいよ…」とつぶやく友人に、かける言葉も見つからず、「そう言わずに元気出せ」と励まして、その日は別れた。
しかし2日後、友人は本当に自殺してしまった。奥さんと、まだ中学生の娘を残して。
Iさんは自分を責めた。「助けを求めてきたのに、俺は適当にあしらってしまった…」
今度はIさんが「死にたい」とつぶやくようになってしまった。
夕刊フジ月曜連載「心の健康相談室」でおなじみ、横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義医師は、「死にたい」と相談を受けたときの対応を、こうアドバイスする。
「まず、『よく話してくれた』と感謝の意を示す。その上で相手の立場に立って話を聞く、つまり“傾聴”に徹するのです。この時、『そんなこと言うなよ』と否定したり、『死んだら家族はどうなるんだ』などと説教するのはご法度です」
とはいえ、突然相談されたときに、うまく受け答えできるかといわれれば、誰だって自信はないだろう。そんな時には心療内科の受診を勧め、プロの力を借りる方向に導いてあげることが大切だ。
山本医師が24時間無料で行っているメール相談(横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンターのHPから送信可)や、厚労省が運営するサイト「こころの耳」なども役に立つ。
「最後の決断」を下す前に、こうしたサービスがあるということを、まずは知っておきたい。
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ストレスで下痢になる人は多い。その代表格が「下痢型過敏性腸症候群(IBS)」。多くの人は大腸の問題と思い込んでいるが、じつはその手前にある“小腸”が後天的な機能不全に陥っている可能性もあるという。
小腸は、臓器の中でも目立たない存在だ。同じ消化管でも、胃や大腸はストレスがかかるとすぐ悲鳴を上げる。食道なども、飲み過ぎや肥満で胃酸の逆流を受けては救助を求めてくる。そのたびにお父さんは、消化薬を飲んだり制酸薬を飲んだり忙しい。
一方、小腸は全長約6メートルと腸管の中でも最も長いにも関わらず、お父さんに手を焼かせることはない。「生まれてから1度も、小腸のことなど考えたことなどありません」という人は多い。
同様に医療界も、小腸のことを「よくわからないヤツ」と、あまり目をかけないできた。その証拠に、胃カメラは十二指腸まで、大腸内視鏡は大腸の入り口の盲腸あたりまでしか見ない。まん中の小腸については、「あそこはウチの営業範囲じゃないんで…」と、うやむやにしてきたのだ。
そんな不遇の臓器・小腸に、ついに光が当たる時代が訪れた。カプセル内視鏡だ。ごくんと飲めば1秒間に2回閃光(せんこう)を走らせ、隅々まで撮影するこのカメラの登場により、小腸の知られざる苦難が見えてきたのだ。
日本におけるカプセル内視鏡の第一人者、獨協医科大学の中村哲也教授が語る。
「精神的なストレスがかかると、小腸が十分に栄養を吸収できなくなることがあるようなのです。その結果、食べた物の消化が悪くなって下痢になる。下痢型IBSと思われている中には、じつは小腸のストレスによる機能低下が原因となっている可能性があるのです」
従来、小腸にはめったに「がん」はできない-といわれてきたが、カプセル内視鏡の普及で、結構小腸にもがんができることが分かってきたと中村教授は指摘する。
小腸は、長い苦難を耐え忍んできたのだ。小腸に感謝しないと、罰が当たって下痢になりますよ。 (長田昭二)
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仕事や学校があるときには、何度起こされてもなかなか起きられない。また、目覚ましをいくつもかけても、無意識のうちに止めてしまっているし、スヌーズ(再アラーム機能)も効果なし。
にもかかわらず、遊びのときになると、誰に起こされるでもなく、目覚ましもかけず、自然とスッキリ目を覚ますという経験はないだろうか。
「朝が弱い」と言いつつも、遊びのときだけ起きられるのは、結局、普段怠けているだけなのだろうか。ロフテー快眠スタジオの睡眠改善インストラクター・矢部亜由美さんに聞いた。
「脳は寝ている間に記憶が整理され、定着するという性質があります。寝ている間も脳は働いているわけで、実際、怠けているかどうかはともかく、起きられるかどうかの理由としては、無意識に優先順位があるのかもしれません」
ただし、「楽しみなことがあると早く目を覚ます」人がいる一方で、「楽しみ過ぎると、前夜に寝付けなくなる人」も「気がかりなことがあると、夢に見てしまったり、途中で目覚めてしまったりする人」もいて、それぞれ自覚的ではないだけに、難しいところではある。
そんななか、やっぱり理想は「楽しみで目が覚める」こと。とはいえ、仕事がある日は、なかなかそうもいかないのが現実だ。
「遊びのときだけ起きられるという人は、平日でも、朝にお楽しみを用意するといいかと思います。たとえば、ケーキやデザートなどを用意しておき、『朝起きたら食べる』と決めると、気持ちよく目覚めるかもしれませんよ」
夕食後にデザートをとる習慣がある人も多いが、夜に食べるのは太る原因にもなるし、「朝の楽しみ」にすれば目覚めのきっかけにもなり、一石二鳥だ。
また、金曜の夜などは、翌日仕事が休みだという解放感から、つい夜更かししてしまいがちだが、これは生活のリズムを崩す原因になるそう。
「金曜夜に、録画しておいたビデオなどをまとめて観るという人も多いですが、これも『土曜の朝のお楽しみ』にしてみると良いと思います」
「起きたら〇〇できる」というお楽しみ設定は、寝るモチベーションにもつながる。ぜひ取り入れてみては?
何かと腹の立つことの多い世の中。イライラが体に悪いことなど百も承知で腹を立てざるを得ないのが、ストレス社会に生きるサラリーマンだ。でも、結果として血圧は上がる一方。あわれ血管はボロボロ…。
今回の主人公は、とある中堅企業で課長を務めるUさん(43)。学生時代には合気道部で活躍したというだけあり、常に冷静沈着。実は単に口下手なだけなのだが、周囲が「クールな人」と思ってくれているので、その路線で行くことにしているだけ。
ところが、そんなUさんの部署に昨年配属された課長補佐が問題だった。
常務の縁故で入ったボンクラで、仕事はできないくせにアイデアだけはポンポン思いつく。その大半は現実味に乏しいものなのだが、その斬新さが若い社員たちの心をつかんで離さない。いつしか課の実権は課長代理が握ってしまい、Uさんは“お飾り課長”になってしまっていた。
ボンクラが司令塔では業績は下がるばかりだが、その責任だけはUさんが負うことになる。常務の遠縁だけに強く言えないUさんは、一人歯を食いしばって耐えるのみ。
そんな状況で受けた定期健診。血圧を測ると、「上が190」という、とんでもない数値に跳ね上がっていた。昨年までは130を超えたことのなかった彼にとって、これは驚くべき高値である。
「ストレスが原因の高血圧症でしょう」と分析するのは昭和大学医学部循環器内科講師の木庭新治医師。
精神的なストレスで交感神経が活性化し、血圧が上がることを「ストレス下高血圧」と呼ぶ。これだけでも立派な病気だが、これを放置すると命に関わる危険な状態を招きかねない。
「腹を立てたり落ち着いたりを繰り返すたびに血圧は乱高下します。この“変動”が血管によくない。
通常、血管を流れる血液は固まらないようにできていますが、ストレスは血圧を上昇させ血管に負担をかけるだけでなく、血液凝固因子の働きも高め、血栓ができやすくなるのです」
ストレスは食生活の乱れも助長する。この状況で彼がロースカツ定食の大盛りをヤケ食いでもしようものなら、心臓発作は目の前だ。今こそ合気道の精神で、心を鎮めてほしいところなのだが…。
疲れたりストレスがたまると、舌がねばねばして滑舌(かつぜつ)が悪くなる。人によっては、何を言っているのか分からなくなることも。背景には自律神経の乱れがあるようなのだが、ちょっとした“舌の運動”で改善できるのだ。
Cさん(50)はもともとあまり滑舌がいいほうではないが、ストレスがたまるとその“症状”は一層ひどくなる。特に朝起き抜けの「口のねばつき」はひどく、口角から泡を吹き出しながらモソモソいうばかり。
「ストレスで交感神経が緊張状態になり、唾液の分泌が抑制されるので、口の中がねばつくことがあります」と話すのは、東京都渋谷区にある片平歯科クリニックの片平治人院長。加えて他の原因にも言及する。
「残業続きで体内リズムが後退すると、特に起床時の口腔(こうくう)乾燥感が強まる傾向にあるのです」
不眠やうつ症状で睡眠薬や精神安定剤を服用していると、副作用で口が渇くこともあるという。「心が疲労すると、“口唇封鎖不全”から口が開きやすくなる。そうなると口呼吸の上に呼吸が浅くなり、口のネバつきもひどくなる」
対策として片平院長が勧めるのが“舌上げ”だ。
「まず、舌の先を上の前歯の裏側にある膨らみ(切歯乳頭)に付けます。この状態で唾をゴクッと空飲みすると、口の中が陰圧になり舌が自然に上あごに張り付くようになる。この時、かみしめないように注意します。
その感覚がわかりにくい人は、ミントキャンディーを舌と上あごの間で溶かしてみてもいい。ミントの刺激で気分もスッキリします。舌は下でなく上を意識する。心も上向きになるかもしれません」
他にも、日常的に腹式呼吸を実践することで、副交感神経は活性化され、ストレスの負担軽減につながるという。
口が渇けば口臭もひどくなるし、かぜなどの感染症にも弱くなる。いいことなど1つもない。何より大人のくせに口を開けていると、それだけでばかに見える。
Cさんは考えた末に、夜はマスクをして寝るようになった。口は開けていても、ばかではなかったのだ。 (長田昭二)
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「言った」「言わない」のもめ事はよくあることだ。いずれ証拠が出てくれば解決する。しかし、原因が「健忘症」だとそうもいかない。精神的なストレスが招く健忘症、最近増えているそうです。
Kさん(45)の悩みは「健忘症」。そう話すと、周囲の仲間は「俺もあるある」と同調するが、Kさんとしては「お前らの物忘れとはレベルが違うんだ!」と腹立たしくなってくる。
Kさんはフリーの編集者。最近は本業の仕事が少なく、出版社や編集プロダクションの下請けで、校閲や簡単な翻訳などの仕事もしている。
景気が悪いので、来る仕事は絶対に断らない。たった一人で仕事をしているので、仕事がいくつか重なると、てんやわんやの忙しさとなる。そして健忘症は、決まってそんな時に発症する。
「資料が宅配便で届いて、自分で受け取ってハンコも押しているのに、受け取ったことを忘れてしまうんです。後で『送った』『届いていない』のトラブルに発展し、探してみると古新聞の束の中から出てきたりして…」
仕事に影響が出るような物忘れは心配だ。病院で脳の検査を受けたが、異常はない。「ストレスのせいでしょう」と言われて帰ってきたが…。
「記憶障害を伴う病気はいくつかある中で、最も頻度が高いのが健忘症。Kさんは心因性健忘症と思われます」
大阪厚生年金病院内科の鈴木夕子医師は、そう指摘する。
画像診断で脳に異常があれば別の病気が疑われるが、Kさんの場合はそれが否定されているので、心因性健忘症の疑いが濃いという。
「原因ははっきりしないものの、精神的なストレスで脳の血流が不足して、一時的に脳が栄養不足状態になることで起きる症状。特効薬はないけれど、ストレスが積み重なって起きることが多いので、それを発散することが先決。
睡眠不足も発症要因の一つなので、ぐっすり眠れる睡眠環境を整えることも大事です」と鈴木医師。
ストレス解消には「適度な運動」もオススメだが、きまじめなKさんは「運動しなければ」と新しいストレスを作りかねない性格。少し仕事をセーブして、温泉にでも行ったほうが治りは早そうなのだが、自営業はそれができないんだよね。
世の中には、余計なことをしてストレスを抱え込む人がいる。いわば自業自得なのだが、“苦痛”であることは確かだ。周囲の理解も得られずに、ただもんもんと苦しむ日々。それを人は「自業自得」と呼ぶ。
Yさん(45)は、大手IT企業の部長さん。普段はいい人なのだが、1つだけ悪い癖がある、「女癖」だ。若い頃からほれっぽい性格で、女性と見れば片っ端から口説いて回る。その大半は相手にされないのだが、たまに引っかかる女性もいる。
昨年久しぶりに引っかかったのは人妻だった。人目を忍ぶ逢瀬は楽しかったが、相手の夫にバレた。巨額の慰謝料を請求されて、現在係争中だ。
そんなYさん、最近は体調がすぐれないらしい。弁護士から伝わって来る情報は芳しくないものばかり。そのたびにおなかと背中が痛む。病院に行ったら「十二指腸潰瘍ですね」と診断された。
昔からストレスと十二指腸潰瘍の関係は知られてきたが、そのメカニズムはどんなものなのか。JCHO大阪病院内科の鈴木夕子医師が解説する。
「十二指腸や胃の表面は、胃酸のダメージを受けないための防御機能が備わっていますが、その仕組みが破綻すると、自分の胃酸でやられてしまう。アルコールやピロリ菌などが原因になることもありますが、ストレスも要因の1つです」
鈴木医師によると、みぞおちや背中の痛みが特徴的で、特に空腹時に痛くなって食後は痛みが治まるのが特徴。診断には胃カメラが最適だが、こうした特徴的な症状を訴えていれば、大抵の場合それだけで見当がつくという。
「重症化すると吐血や下血、さらに悪化すると穿孔(せんこう)と言って十二指腸に穴が開くこともある。まあその時には、救急車を呼ぶ騒ぎになりますが」(鈴木医師)
とりあえず胃酸の分泌を抑える薬を処方されて、今はおとなしくしているYさん。しかし、潰瘍が治ればまた悪さをすることがわかっているだけに、周囲の誰も同情してくれない。結果としてヤケ酒を飲んで、またおなかが痛くなる。彼のこの悪循環は、途切れることがなさそうだ。
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