Hさん(34)は、最近「手のしびれ」が気になって仕方ない。気になるからしびれるのか、しびれるから気になるのか。どちらにしても気の毒だ。
症状が始まったのは半年ほど前。会社の昇格試験を前に、深夜に勉強していた時だった。
「右の手首から先が、ジーンとしびれた感覚になっていたんです。以来、気が付くとこの症状が続いていて…」
ある日彼は、近所の整形外科を受診する。症状を聞いた医師は首のエックス線撮影をしたが、画像上に特に問題は見当たらない。
さらに精密検査を求めるHさんに対して、医師は「気のせいですよ」と冷たく言って、薬も出してくれなかった。
しかし、Hさんの右手には厳然と症状が残っている。それどころか、自分の訴えを理解してくれない医師への不満から、症状は増してさえいる。
【神経過敏…納得できる説明あれば】
こうした状況を専門家はどう見るか。医療法人高志会の整形外科医、村重良一医師は、「まず心配はいらない」と語る。
「手のしびれの原因を探るために首のエックス線を撮ったのは妥当な選択。糖尿病による末梢神経障害や、正中神経の圧迫で起きる手根管症候群なども考えられるが、頭部や頚椎のMRIなどの検査が必要なかったということは、神経学的な異常が見られなかったことを意味しており、安心していいということです」
ならば、今も残る手のしびれは何なのか。
「Hさんは病気への不安が強い性格のようです。昇格試験に対するストレスで自律神経の調節機能が破綻したことで“しびれ”という症状が出た。すると今度は、その症状に対して神経が過敏になり、次の“しびれ”を招いているのでしょう」
一方で村重医師は、Hさんにも気の毒な一面があると指摘する。
「相談を受けた医師がきちんと話を聞いて、Hさんが納得できる説明をしていれば、症状も消えていた可能性が高い。気のせいならなおのこと、十分な説明と精神面での配慮が大切です」
結局のところ大きな病気でもなかったわけだし、今回の一件で医者選びの大切さを学ぶことができたわけだから、Hさんも「得した!」と思えばいいのに…。まあ、そう思える性格なら、ストレスなんかたまらないか。
小さなイタリアンレストランを経営するRさん(38)。不況のあおりで経営が思わしくない。そのせいか最近、“毛”も思わしくない。伸び悩む売り上げ、伸びる前に抜ける毛髪…。どっちが先に、ギブアップ?
独立開店から数年。妻とアルバイトの3人で切り盛りできる小さな店だが、初めは好調だった。
ところが、この1年ほどで客足はガタ落ち。不況の影は深刻で、以前は会社帰りによく訪れたOLたちも、最近では来てもランチという状況。
店の家賃、食材の仕入れ費に加えて、自宅マンションのローンに子供の学費と、考えただけで頭が痛い。妻はランチが終わってから夜までパートに出るようになったが、現状では焼け石に水だ。
そんな中で、彼の“頭”に異変発生。この半年で急速に薄くなってきたのだ。全体的にではなく、頭頂部から後頭部にかけて、部分的な“完全ハゲ”が散発している。
「洗髪のたび、タオルで拭くたび、そしてブラシでとかすたびに、ごそっと抜け落ちていく。鏡で見えにくい部分なので、最初は無視していたんですが、今では触ると地肌の感触。その面積も日に日に大きくなっているようで…」
なんとも気の毒になる話だ。この状況を水戸済生会総合病院副院長で皮膚科医の飯島茂子医師が解説する。
「典型的な円形脱毛症。頭皮に栄養を送る血管が、ストレスなどが原因で攣縮(収縮)して血流不足に陥ると、その血管が支配する部分の髪の毛が抜け落ちてしまう。これが円形脱毛症。最初は10円玉大で、徐々に大きくなる。
人によってはそれがいくつかでき、一つひとつのハゲが大きくなって、つながってしまうこともあります」
生薬で免疫機能を高めたり、頭皮に刺激を与える治療が行われるが、ストレスを解消しない限り根本的な解決は難しい。
「脱毛という現象自体がストレスになっているので、すぐに治すのは難しい。時間をかけて改善していく姿勢が大切です」と飯島医師。
こういう時は発想の転換。いっそのことスキンヘッドにしてひげでも生やせば、イタリアンのマスターっぽく見えるかも。お金のかからないことから試してみて、悩むなら店のことで悩んでください。そっちが解決すれば、髪はおのずと生えてくるでしょう。
ストレスと疲労を抱えながらも仕事を終えた夜は、酒くらい飲んだってバチは当たらなかろう。ところが、そんな夜に限って変な酔い方をしたりする。ストレスフルなサラリーマンは、酒に逃げることも許されないのか。
雑誌編集者のFさん(47)は最近、かなり疲労困憊(こんぱい)。過労で睡眠時間も短く、目の下はパンダちゃんみたい。でもオジサンだからかわいくはない。
忙しいながらも、飲みには行く。仕事絡みで著者や取材相手と飲むことが多いが、たまに時間ができた夜、仲間と行きつけの飲み屋に行くのは至福の時だ。
大のビール党のFさんは、ひと晩で中ジョッキの生ビールを6-8杯飲む。これは学生時代から変わらない。9杯飲むことはないが、5杯で終わることもないのが彼の自慢だ。何の自慢にもなっていないが…。
ところが、最近この量に変化が出てきた。ひと晩で3杯しか飲めなかったり、2杯で泥酔したりするようになったのだ。明らかに酒に弱くなっている。
当人は「過労とストレスのせい」というのだが、本当なのだろうか。
東京都千代田区の秋葉原駅クリニック院長の大和田潔医師は、「関連はあるだろう」という。その理由はこうだ。
「ストレスは体にさまざまな老廃物質を蓄積させます。また、睡眠不足だと内臓が休む時間も短くなるため、肝臓の余力がなくなりアルコールの分解が遅くなる。結果として、酒に弱くなったように見えるのです」
Fさんの自己診断が当たっていたとは悔しい限り。大和田医師に対策を聞いてみよう。
「暴飲暴食を避けて、よく眠る-に尽きます。“肝臓にいい”というサプリやドリンクに頼るよりも、安静のほうがよほど効果が大きい。肝臓は解毒をしたり、栄養を出したり蓄えたりする臓器なので、何かを食べたり飲んだりすると、仕事量が増えるだけ。
栄養の出し入れを減らして、十分な睡眠で内臓に休息を与えれば、肝臓も元気を取り戻し、アルコール分解能力も回復します」
自分のストレスを発散するには、まず肝臓のストレスを解消してやることが先決だ。
日本の腰痛人口はじつに2800万人。そのすべてとは言わないが、かなり多くの人が、ストレスによって症状を大きくしている可能性がある。腰の痛みを治したければ、まずはストレス対策を講じるべきなのだが…。
Iさん(51)は長年の腰痛持ち。しかし、この半年ほどは、かなり症状が悪化している。
1年ほど前に整形外科を受診した際に、椎間板が少しズレていることが判明したが、手術をするほどではないので「様子見」が続いている。それが悪化したのだろうか。
再び整形外科を訪ねたが、画像診断の結果は「前回と変わらず」。そこで医師が発したのは、「ストレスが原因では?」という一言だった。
東京都医学総合研究所うつ病プロジェクトのリーダーを務める楯林義孝医師は、ストレスと腰などの運動器の痛みの関係をこう解説する。
「ストレスが痛みを発生させるというよりは、もともと痛みを生み出す原因があって、それをストレスが増幅する-ということでしょう。筋力が落ちていたり、Iさんのように椎間板ヘルニアがある人が、ストレスを抱えたりうつ病になると、元の痛みが強くなることは珍しいことではありません」
じつはIさん、腰痛が悪化する直前に、それまで勤めていた会社から関連会社に出向している。あまり社交的ではない彼にとって、50歳を過ぎての異動はつらかった。腰痛だけでなく、食欲不振や不眠など、
精神状態の不安定を暗示する諸症状に悩まされている。腰痛悪化の原因がストレスにあることは十分に考えられる。
「職場のミスマッチがストレス症状を引き起こしたり悪化させたりするケースは非常に多い。精神安定剤などで応急処置をしながらも、根本的な改善を目指すなら、職場の問題を解決することが重要」と楯林医師。問題の根は意外に深そうだ。
無口で人付き合いの苦手なIさんは、腰が痛くても周囲に愚痴をこぼす相手がいない。だから彼が腰痛に苦しんでいることを、誰も知らない。
彼の孤独な闘いはいつまで続くのだろう。
夜寝ていて、突然こむら返りが起きたらどうしよう。まあ、どうすることもできないのだが、そんな不安におびえながら暮らす人がいる。安らかであるはずの眠りを瞬時に打ち砕く激痛。夜明け前、寝室から聞こえてくるうめき声、ああ…。
1日を終えて布団に入る時、普通の人は安堵(あんど)の表情で眠りにつくもの。しかしMさん(49)は違う。恐怖におびえ、冷や汗をかきながら寝る毎日。何と気の毒な睡眠だろう。
Mさんは高校教師。以前は学校の近くのマンションで、奥さんと娘2人と暮らしていたが、痴呆が進んだ奥さんの父親の面倒を見るため、1年前に彼女の実家の近くに引っ越した。
片道2時間。朝の電車は座れるが、帰りはなかなか座れない。剣道部の顧問をしているため、家に着く頃には疲労困憊(こんぱい)。朝は6時前に家を出るので、寝るために帰るようなもの。しかし、その睡眠に恐怖が待っている。
明け方近くになると脚がつる。夢の中で気配を感じ、急いで目を覚ますのだが、何もできない。あっという間にふくらはぎがけいれんして、激痛にのた打ち回る。それでも妻を起こさないよう、ベッドの下に降りてからのた打ち回るあたりは、美しき夫婦愛だ。
「疲労がたまってけいれんが起きているのでしょう」と語るのは、川崎市麻生区にある麻生総合病院スポーツ整形外科部長の鈴木一秀医師。そのメカニズムを次のように解説する。
「脚のけいれんが起きる背景にはいくつかの理由が考えられます。乳酸の蓄積はもちろん、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質の低下でバランスが崩れても、けいれんは起きやすくなる。いずれも“強い疲労”がベースにあるのは明らか」
鈴木医師によると、気温が低い時のほうが起きやすいが、夏でも疲れや発汗、脱水などが原因で起きるという。対策は、脚の血流改善と電解質の補給だ。
「風呂でゆっくり脚を温め、寝る前にストレッチをして脚の血行を良くすると効果的。寝る時は脚を高い位置に上げたり、ふくらはぎを締め付けるストッキングを使ってもいいでしょう。またスポーツ飲料などの摂取も必要です」
いくらストレス社会とはいえ、睡眠中も不安から逃れられないなんて、あんまりだ。
ところで、「眉間を撫でると眠くなる」というのは、ときどき聞く話。子供の寝かしつけのとき、この方法を用いるという人もいるようだけど…どうして眉間を触ると眠くなるの?
ロフテーの快眠スタジオ睡眠改善インストラクター・山尾碧さんに聞いた。
「寝かしつけには、背中、おっぱい、足、おなかの上にのるなど、ボディータッチが多く用いられるという調査結果があります。眉間も、子供に対する安心感を与えるボディータッチの1つではないでしょうか」
また、ロフテーの睡眠文化研究所が行った「現代日本の眠り 小物に関する調査結果」によると、五感刺激とのこんな関連性が見られたのだそうだ。
「いちばん多かったのは、本・雑誌・マンガで、次に多かったのはCDラジカセやラジオなど。次いで、枕・クッションなどという結果が出ています。
特に、枕、クッション、ぬいぐるみ、布団などは、『抱くと安心する』『触ると心地よい』という人が大部分でした」視覚や聴覚に比べ、「触覚」に関するものは、小さい頃から長く使用しているものが多く挙げられていたという特徴もあるのだとか。
つまり、眉間など、顔のあたりに触れるものは、子供の頃から与えられてきた「安心感」でもある。さらに、考えられるのは、視界が遮られるという点。「眉間を触ると、目をあけていられなくなって、目を閉じますよね? 暗いことも眠くなる一因ではないでしょうか」
眉間を触られた反射で目を閉じることによる「適度な暗闇」と、顔の部分に温かくやわらかなモノが触れる「触角」とが、心地よい眠りを与える「眠り小物」になっているのかも。
世界中に3億8000万人、日本だけでも720万人の患者がいるといわれる「糖尿病」。現代人が最も警戒しなければならないこの病気にも、じつはストレスが関与するケースは少なくないのだ。
Mさん(55)は、3年前の健診で「糖尿病予備軍」と指摘されて以降、用心に用心を重ねた節制を続けている。
賛否両論ある「低カロリー」と「低炭水化物」の双方を多少考慮した食生活を送り、以前はバスに乗っていた駅までの1キロ半を歩く努力もしていた。おかげで大過なく過ごせていたのだが…。
今年に入ってから、彼の周囲には“変化”が多発する。同じ部署のパート職員が立て続けに辞めたことで、残業が増えた。
ほぼ時を同じくして、妻の乳房に早期のがんが見つかり、手術のため入院という出来事もあった。
妻の世話は娘と手分けして対応したが、残業はMさんがカバーするしかない。
肉体的にも精神的にも疲労を重ねた末に受けた今年の健診で、彼の血糖値は「予備軍」から「正患者」に昇格していたことが判明する。
「精神的なストレスは血糖値を高めます」と語るのは、大森赤十字病院糖尿病・内分泌内科部長の北里博仁医師。その仕組みをこう解説する。
「ストレスで交感神経が優位になると、副腎からアドレナリンやステロイドホルモンが多く出ます。
これが血糖値を高める働きを持っている。そもそも人間の体で“血糖値を下げる作用”のあるホルモンはインスリンだけ。
その他のホルモンは血糖値を上げるほうに働いてしまうのです」
Mさんの場合、過労もさることながら「妻の入院」が大きく影響していると北里医師は指摘する。
「夫婦のどちらかが入院すると、看病する側の夕食時間が遅くなる傾向が強まります。
病室に食事を持ち込んで、奥さんと一緒に食べられたらよかったのですが…」
ただし、Mさんのケースは、元の生活に戻せれば、一時的な投薬治療でコントロールは可能だと北里医師はいう。
奥さんの手術は成功し、体調も回復傾向だという。あとは仕事をやり繰りして、再び「予備軍」に戻る努力が求められる。
頭痛も腹痛もつらい症状であることに変わりはないが、「胸の痛み」は「心臓の異変」を介して「死」と直結するだけに恐怖感も大きい。そして、やはりここでもしゃしゃり出てくるのがストレスだ。今回は読んでいて、「胸が痛くなる物語」です。
早暁5時。静寂の中を突っ走る救急車に乗っているのはYさん(46)。IT企業の部長さんだ。
異変に気付いたのはN子さん。彼はバツイチの独身で、彼女は人妻。早い話が不倫の間柄だ。
搬送先の病院で検査の結果、「異型狭心症」と診断された。大森赤十字病院心臓血管外科部長の田鎖(たぐさり)治医師が解説する。
「心臓の表面を走る比較的太い冠動脈が、一過性に異常な収縮をすることで起きる狭心痛。一般的な狭心症と比べて予後はいいものの、急性心筋梗塞や突然死の原因になることもある」
田鎖医師によると、症状は一般的な狭心症と同じで、前胸部の激痛や圧迫感が5-15分ほど続くことが多いという。
原因はやはり肥満や高血圧、脂質代謝異常などが挙げられるが、田鎖医師が注意を呼びかけるのが、ストレスだ。
「ストレスで交感神経が優位になると、ノルアドレナリンというストレスホルモンが出て血管を収縮させます。
同時に血小板からセロトニンという神経伝達物質が出て、これが冠動脈を収縮させる働きを示すことも分かっています」と田鎖医師。
では、なぜYさんは異型狭心症を発症したのか。彼には彼なりのストレスがあった。
N子さんの夫は出張が多く、その隙に不貞を働いていたのだが、そこに伴う緊張感が半端ではなかったのだ。こういう時、女は大胆だが男は小心者。おそらく浮気がバレる夢でも見たのだろう。
田鎖医師によると、治療法は「生活習慣の是正」に尽きるとのこと。Yさんも3日間の精密検査の後、内服薬と定期的な通院を言い渡されて退院した。
しかし、1カ月後、彼女の夫の弁護士から「不貞行為に対する損害賠償請求」が届いた。今回の騒動で悪事が露見したのだ。
今度のストレスは大きい。近いうちに「胸の痛み」が再発するはずだが、自業自得だから仕方ない。
スポーツマンの汗は爽やかだし、若い女性の汗には色気が漂う。しかし、サラリーマンのワイシャツの色を変え、頭から湯気さえ伴う大汗には、好意的な印象は持ちにくい。もとより、湯気の発生源である当人の心痛は計り知れない。
Tさん(24)は入社2年目の営業マン。彼の悩みは、緊張すると尋常ならざる大汗をかくことだ。
通い慣れた得意先で通常の注文を取るだけなら問題ないが、クレームを受けた時や、初めて訪問する客先などでは、ほぼ必ず全身から大量の汗が出る。
得意先だけではない。自分の会社でも、仕事のミスで上司から注意されたり、普段顔を合わせることのない上級スタッフと偶然にエレベーターに乗り合わせたりすると、瞬時に滝のような汗が出る。
「精神的な緊張で自律神経のバランスが崩れたことで起きる症状の一つです」と語るのは、世田谷井上病院理事長の井上毅一医師。そのメカニズムをこう解説する。
「人間の体表には200万から500万のエクリン腺という汗腺(穴)があり、気温に応じて体温調節のためにここから汗を出します。
ところが緊張で自律神経のうち交感神経が優位になると、この機能に不調をきたす人がいて、必要以上の汗をかく人がいるのです」
井上医師によれば、この汗は、水分摂取量に関係なく出てくるという。もちろん気温にも関係ないので、真冬だって大汗をかくことになる。
「これとは別に、腋の下や股、足の裏などにはアポクリン腺という別の汗腺がある。ここが分泌する体液は悪臭を伴うのですが、ストレスで大汗をかきやすい人は、アポクリン腺からの分泌も誘引される傾向がある」
井上医師は外国人患者を多く診てきた。元来、欧米人より体臭の薄かった日本人も、食の欧米化により、体臭や汗の臭いも変化してきているようだと指摘する。
症状の出方は個人差が大きく、どんなに緊張しても涼しい顔をしている人もいれば、Tさんのように一瞬にして風呂上りのような「湯気男」になってしまう人もいる。
対策は「緊張しないこと」に尽きるのだが、それが一番難しい。暑くなるこれからの時期。Tさんの試練は続く。
一日の仕事を終えて家に帰り、風呂に浸かる瞬間というのは、えも言われぬ解放感があるもの。しかし、この解放感が新たなる厄介事を引き起こすこともある。今回のテーマは「片頭痛」。
Uさん(23)は今春、大学を出たばかりのフレッシュマン。会社ではまだまだ緊張の連続だ。
そんな彼の唯一の楽しみは“風呂”。日曜日にはスーパー銭湯巡りをするという、少々年寄りクサい趣味の持ち主。
「会社から帰り、自宅の風呂の小さな浴槽に身を沈める時の快感は何物にも替え難い」と、コメントも年寄りクサい。
ところが、そんな彼を悲劇が襲う。疲れて帰宅し、風呂に入ると頭痛に見舞われるようになったのだ。
頭の左側だけに訪れる「ドクン、ドクン」という拍動性の激痛。ひとたび痛み出すと、何もできない。
蛍光灯の灯りまでが頭痛を刺激するので、電気を消した真っ暗な部屋で、布団をかぶって痛みが引くのを待つ。明け方まで眠れないことも珍しくないという。
「典型的な片頭痛ですね」と語るのは、日本赤十字社医療センター脳神経外科の野村竜太郎医師。そのメカニズムを次のように説明する。
「収縮していた脳の血管がストレスから解放されると拡張し、血管周囲の神経が引き延ばされてズキズキと脈打つ頭痛を感じるのが片頭痛。
血管が収縮する原因はいくつかあるが、ストレスもその一つ。
ストレスを抱えている人が、帰宅して風呂に入ると緊張が解けるだけでなく温熱効果で血流もよくなる。それで片頭痛が起きるのは珍しいことではありません」
片頭痛の発症には食事も関係する。赤ワインやチーズ、チョコレートなどは、特に痛みを誘発する危険性があるという。また光の強さ、臭気、寒暖の差、天気なども、片頭痛の要因となり得る。
「発作時には薬で痛みを取ることになるが、市販薬では効果が期待できないこともある。
まだ診断を受けていないなら、まずは専門の医療機関を受診すべきです。
痛みの“前兆”を感じられる場合と、そうでない場合がある。ひと月に何度も痛みを自覚する方は、予防薬を使うことで症状を軽減することも可能です」(野村医師)。
それにしても、ストレス解消法のお風呂が、頭痛という次のストレスを生み出すなんて、考えただけでもアタマが痛くなる話です。
胃や大腸の内視鏡検査が好きだという人はいないだろうが、必要以上に緊張すると、余計な不安が生じることもある。胃カメラを飲んで「高血圧」が見つかったのではシャレにもならないぞ…。
Yさん(38)は胃の内視鏡検査を受けた。2年前にも受けたことがあるが、その時は大学病院だったため、経験の浅い若い医師による検査。麻酔もせず、それはそれは苦しい検査だった。
ただ、慢性的に消化器系の弱いYさん。特にこの数週間は深刻な胃痛と胸やけに苦しんでいた。会社の上司から、無痛検査をやっている内視鏡検査専門のクリニックを紹介されて受診した。
なるほど検査自体はまったく苦痛もなく、半分眠った状態で終えることができた。検査の結果、がんなどは見つからなくてひと安心なのだが、新たな不安が持ち上がった。
検査直前、検査台の上で計った血圧が、上が160、下が90と高かったのだ。それまで120前後で推移していた彼にとって、とてつもない高血圧。一体何なのか。
「白衣高血圧と呼ばれるものでしょう」と語るのは東京都港区にある三好内科クリニック院長で循環器科が専門の三好俊一郎医師。医師の前に出ることで緊張し、一時的に血圧上昇するストレス症状だ。
「個人差はありますが、一般的に自宅にいる時よりも診察室では5~10程度の上昇は見られるといわれています。
手術や、以前、つらい経験をしたことのある検査などでは、さらに上昇することもあるでしょう。明らかに血圧がおかしい時は、心拍数を測定して総合的に判断することもあります」
三好医師は、こうも付け加える。
「胃カメラの検査の直前で160程度であれば、まず問題ないレベルです。むしろ血圧が低すぎると、検査中に脳貧血になる危険性が出てくる。
また検査直前とはいえ220を超えるようだと、今度は検査中にさらに上昇することが考えられるので、先に血圧をコントロールする必要も出てきます」
検査が終わり、胃の炎症の説明を受けながらも、Yさんは血圧のことが頭から離れない。恐らくこの時点で血圧を測れば、いつも通りの正常値に戻っているはずなのだが…。
●胸焼けの原因は消化性潰瘍かも
胸焼けは、「消化性潰瘍」が原因で起こることもあります。消化性潰瘍とは、食べ物を消化するための胃酸や消化酵素によって、胃や十二指腸の粘膜が消化されてただれたり、えぐり取られたりする状態のこと。
潰瘍(粘膜組織の欠損)が起こる場所によって、「胃潰瘍」と「十二指腸潰瘍」に分けられます。
消化性潰瘍の代表的な症状は、上腹部やみぞおちの痛みですが、胃酸が多く出過ぎている場合は、胸焼けやゲップ、吐き気なども見られます。そこで今回は、消化性潰瘍が原因の胸焼け対策をご紹介していきましょう。
●消化性潰瘍が原因の胸焼け対策
ピロリ菌の除菌消化性潰瘍の最大の原因は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)への感染だと言われています。
ピロリ菌は、胃粘膜の表面に棲みつく菌で、アルカリ性のアンモニアをつくり出すことで、胃酸を中和し、強い酸の中でも棲息することができます。
しかし、ピロリ菌がつくり出すこうした物質は、胃の粘膜を傷つけ、潰瘍の原因になってしまうのです。
しかもピロリ菌は、一度感染すると、除菌するまで胃の中で生き続けます。消化性潰瘍による胸焼けを起こしやすい人は、ピロリ菌の検査を受け、必要に応じて除菌をしましょう。
ストレスを溜めないストレスを受け続けると、体のあらゆる機能をコントロールしている「自立神経」が乱れてしまいます。
すると、胃や十二指腸液の血流が悪くなって、抵抗力が弱まり、潰瘍を起こしやすくなってしまうのです。気分転換をしたり、たまにはゆっくり休んだりするなど、ストレスを溜め込まないように工夫しましょう。
●食生活での対策
胃に負担をかけないように、食事は毎日決まった時間に、規則正しく摂るようにしましょう。また、食事の量や回数が増えるほど、消化液が活発に分泌されるので、間食や暴飲暴食を控えることも大切です。
脂肪分やタンパク質の多いもの、辛いもの、熱すぎたり冷たすぎたりするもの、コーヒーや紅茶などのカフェインが多いもの、酸味の強いものなどは、消化液の分泌を促すので、胃などに負担をかけます。
これらの飲食物は、できるだけ控えるようにしましょう。
消化の良い食事は、胃での停滞時間が短いので、粘膜をあまり刺激せずに済みます。
かたい食材や食物繊維が多い食材は、細かく切ったり、すりつぶしたり、やわらかく煮たりするなど、調理方法を工夫して、消化しやすくしましょう。また、食べるときは、しっかりよく噛むようにすれば、消化しやすくなります。
(この記事の監修: 吉井クリニック 院長 / 吉井友季子 先生)
「喘息持ち」の人にとって平穏な生活とは、発作がない毎日。日頃の治療がうまくいっていれば穏やかな日々を送れるが、時に静寂を破って発作が襲い掛かることがある。背後に見え隠れするのはストレスの影…。
若い頃から気管支喘息を患っており、今も定期的に病院に通院中。きちんと服薬しているので、ここ数年は大きな発作もない。
ところがある日、異変が生じた。きっかけは仕事上の大チョンボ。出したつもりの請求書が、数カ月にわたって彼の引き出しの中で眠っていたため、部門の年間の売り上げに影響する額の入金が、期をまたいでしまうことになったのだ。
引き出しから請求書を見つけたMさんは顔面蒼白になり、膝から崩れ落ちると咳き込み出した。
少々芝居がかっている。しかし、その咳たるや、周囲の者が呆気にとられるほど激烈なもの。四つん這いになって、涙とよだれと、鼻水を垂らしながらゲッホンゲッホンする彼を、遠巻きに眺める社員一同…。
同僚が会社の車で病院へ搬送。吸入薬を使ってようやく落ち着きを取り戻した時には、全身が汗びっしょりだった。
「強烈なストレスから気管支が狭まったことでの発作でしょう」と分析するのは、神奈川県立循環器呼吸器病センター呼吸器内科医長の萩原恵里医師。
普段は安定していても、精神的な抑圧から急激な発作に見舞われることがあると説明する。
「気管支の太さは自律神経の支配下にあり、副交感神経と交感神経のバランスが取れていれば安定しています。しかし大きなストレスが加わると、バランスが崩れて気管支が一気に狭まることがある。これが発作の原因です」
普段は治療でコントロールできていても、急激なストレスは発作を誘因する危険性があるということだ。
「病院で使ったのは気管支拡張作用のある吸入薬と思われます。Mさんのような人は、これを携帯すべきでしょう」と萩原医師。
ちなみに彼が抱え込んでいた請求書は、上層部レベルの話し合いで、期内の支払いが認められた。発作を起こす前に、上司に相談すればよかったのに…。
何事も「しっくりする」のはいいものだ。恋愛関係、仕事関係、労使関係…。相対するものが違和感なく調和のとれた関係を構築すると、ストレスは生まれない。
どうやら同じことが、「歯の関係」にも言えるようだ。
Aさん(54)はさまざまな不定愁訴に悩まされてきた。頭痛、腰痛、肩や首のこり、めまい、不眠、そして歯の痛みや歯ぎしり、顎(がく)関節症…。
これらがストレスとなってイライラは募り、深酒する。まさに負のスパイラルだ。
ところが、ひょんなことから、状況は一変する。
ある部分をわずかに修正する治療をしただけで、あらゆる症状が消えてしまったのだ。その「ある部分」とは「歯」だ。
Aさんの不定愁訴の原因は「かみ合わせの悪さ」から来るものだった。
かみ合わせが悪いと、本人は気付かなくても脳はそれをストレスと感じてさまざまな症状を引き起こす。
まさにAさんの諸症状がそれだったのだ。
「人間の脳は、100マイクロメートルのかみ合わせが変化しただけでも違和感を覚えるもの。
わずかなかみ合わせやあごのズレもストレスと感じ、これが続くと全身に影響が及ぶことがある」と語るのは、東京都渋谷区にある片平歯科クリニックの片平治人院長。続けて解説する。
「かむという行動は脳神経と特に深い関係があり、脳の全領域の中で“口の運動や感覚”が占める割合は全体の2分の1近くにも及びます。
そう考えると、かみ合わせの不具合が全身の症状を引き起こすということも納得できるのでは」
これらの問題を解決するには、咬合(こうごう)面をわずかに削るか、反対に専用素材を盛りつけたりしてかみあわせを調整する。
あるいは就寝中にマウスピースを装着してズレたあごの位置を矯正(きょうせい)する方法もある。今回Aさんは、マウスピースを付けて寝るだけで治ってしまった。
歯と脳の関係修復に成功したAさん。
今年は、それより前から冷え込んでいた夫婦関係の改善に乗り出す決意だ。夜ごと隣で眠る妻に、和平実現に向けた協議を呼びかけるAさんだが、今のところ妻の反応はない。
そんな時くらいはマウスピースをはずせばいいのに。
●胸焼けや胃痛が起こるのはなぜ?
一般的に、「胸焼け」や「胃痛」が起こるのは、胃酸の分泌が過剰になって、胃の粘膜が荒れたり、胃液が食道に逆流したりすることが原因です。
これは、暴飲暴食や刺激の強いものの食べ過ぎ、ストレスによる自律神経の乱れなどによっても起こるので健康的な人でも、胸焼けや胃痛がすることは、そう珍しいことではありません。
しかし、ある程度の期間、継続して頻繁に起こる場合は、胃腸の病気の可能性があります。
●胸焼けと胃痛が起こる病気
胸焼けや胃痛が起こりやすい病気には、次のようなものがあります。
【胃潰瘍・十二指腸潰瘍】
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、胃酸や消化酵素によって、粘膜が消化されることによって起こる病気です。
一般的に、胃潰瘍の場合は、食後しばらくしてから胃が痛むことが多く、十二指腸潰瘍の場合は、空腹時や夜間に上腹部が痛むと言われています。
ただし、どちらの場合も、症状が進行していると、食後や空腹時といった時間に関係なく痛むこともあるようです。
【慢性胃炎】
慢性胃炎は、その名の通り、慢性的に胃が炎症を起こしている状態のことで、日本人の成人の約半数がかかっているといわれています。
自覚症状がない人も多いようですが、自覚症状がある場合は、食後に上腹部に鈍い胃の痛みがあったり、胸焼け、ゲップ、胃もたれなどを感じたりすることがあるようです。
【機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)】
胃痛や胸焼け、胃の不快感などの症状が続くにもかかわらず、内視鏡検査で胃の粘膜を観察しても、何も異常が見当たらないことがあり、これを「機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)」といいます。
かつての胃酸過多症や神経胃炎なども、これに含まれます。
主にストレスや過労などによって、自律神経のバランスが乱れ、胃の機能が低下することで起こると考えられています。
●検査で原因をはっきりさせよう
ただし、胃痛が起こる病気は、ほかにもたくさんあり、中には、緊急を要するものもあります。症状が長引いていたり、激しい痛みが起こったりするときは、検査を受けて原因を明確にし、適切な治療を受けましょう。
(この記事の監修: 五本木クリニック 院長 / 桑満おさむ 先生)
前回はストレスが誘発する物忘れについて書いた。今回は「ストレスのせいと思っていたら、じつは違った」というケースの物忘れ。同じ「健忘症」でも、少しばかり深刻な内容だ。
Cさん(34)は、ある精密部品工場で働く臨時のアルバイト作業員。高校は出たものの定職に就くこともなく、この年になった。
途中、何度か警察のご厄介になったこともあるが、今は悪い仲間との付き合いも断ち、真面目に働いている。
そんなCさん、最近、深刻な「物忘れ」に見舞われている。上司から仕事の説明を受けても忘れてしまい、同じことを何度も聞いて煙たがられる。
「メモをしろ」と言われてメモをするのだが、メモしたことを忘れ、また尋ねる。
当人は「疲れのせい」と気にしていなかったが、会社から連絡を受けた親が心配して病院に連れて行かれた。
画像診断では異常は見つからなかったが、問診やテストを受けた結果、「若年性健忘症」と診断された。
「単純作業の人に多く見られる健忘症で、最近増えています」と語るのは、大阪厚生年金病院内科の鈴木夕子医師。その特徴を次のように説明する。
「20-30代で起きる健忘症で、画像上は異常がない点で、心因性健忘症と似ています。
原因として強いストレスもありますが、もう一つ、“頭を使わない”ことも大きな要因とされます。
自分の頭で考えたり計算したりせず、パソコンや電卓任せの仕事をしていると、リスクが高まるようです」
心因性健忘症と同様、若年性の物忘れも決定的な治療法はない。
ただ、頭を使って脳に刺激を与える、つまり「考える」ことは、予防だけでなく症状改善にも役立つ可能性があると鈴木医師は言う。
「本を読む、新聞を読む、そしてわからない言葉があれば人に聞くのではなく辞書で調べる-。
パソコンや携帯電話が普及するまでは当たり前にやっていたことが、若年性健忘症から脳を守ってくれます。
早い話が“人任せ”“機械任せ”が一番危険です」(鈴木医師)
60代後半なら「年のせい」とあきらめもつくが、30代でこんな症状が出たら要注意。
予防のためにも、仕事帰りには新聞を読みましょう。
●胸焼けの薬ってどんなもの?
胸焼けは、胃酸が食道に逆流することで起こりますが、こういった症状が起こる病気を総称して、「胃食道逆流症(GERD)」といいます。この胃食道逆流症の治療に用いられる薬には、2つに大きく分けられます。
胃酸の分泌を抑制して逆流を防ぐタイプと、胃酸が逆流しても粘膜が傷つかないようにするタイプです。そこで、それぞれの薬にどんなものがあるのかを見ていきましょう。
●胃酸の分泌を抑制して逆流を防ぐタイプ
●プロトンポンプ阻害薬(PPI)「プロトンポンプ」とは、胃酸を分泌する壁細胞にあり、胃酸の主成分である塩酸をつくっている分子です。「プロトンポンプ阻害薬」は、このプロトンポンプの働きを阻害することで、胃酸の分泌を抑制します。
胃食道逆流症を治療する第一選択薬として利用され、胃酸分泌抑制薬である「H2ブロッカー」よりも、効果がはるかに高いと言われています。
●H2ブロッカープロトンポンプが塩酸をつくるためには、いくつかの物質からのシグナルが必要になります。そこで、それらの物質の中でも、特に重要な役割を果たす「ヒスタミン」からのシグナルをブロックすることで、胃酸の分泌を抑制します。
H2ブロッカーは、プロトンポンプ阻害薬に比べて効果が弱く、毎日連続して利用していると効果が徐々に低下します。このため、プロトンポンプ阻害薬を補完する薬として用いられることが多いようです。
●逆流しても粘膜が傷つかないようにするタイプ
酸中和剤(制酸剤)胃酸を中和して、胃酸の働きを弱め、食道粘膜が傷害されるのをやわらげる薬です。
速効性がありますが、効果が1時間ほどしか持続しなかったり、便秘や下痢などの副作用が出やすかったりします。このため、プロトンポンプ阻害薬を使用し、たまに胸焼けの症状が現れた場合などに用いられます。
胃粘膜保護薬食道の粘膜を保護することで、逆流してきた胃酸から食道を守る働きがあります。
ですので、胸焼けの症状を一時的に抑えるために用いられることがありますが、胃食道逆流症への有効性が認められていないので、保険は適用されません。
(この記事の監修: 吉井クリニック 院長 / 吉井友季子 先生)
●胸焼けの応急処置に牛乳を
胸焼けは、胃酸が胃から食道へ逆流したときに起きますが、このときの応急処置として、牛乳を飲むという行為が効果的です。
なぜならば、牛乳を飲むことで、逆流した胃酸が洗い流されるだけでなく、食道の粘膜に牛乳の膜が貼れ、胃酸の刺激から食道を守ることができるからです。ただし、牛乳の温度が冷た過ぎたり、熱過ぎたりする飲み物は、食道や胃を刺激してしまいます。なるべく常温で飲むようにしましょう。
食道粘膜を保護する効果はありませんが、食道を洗い流すだけなら、常温の水でも構いません。「だったらお茶でもいいのかな?」と思う人もいるかもしれませんが、お茶には注意が必要です。
お茶の多くには、胃酸の分泌を促進するカフェインが含まれているので、かえって胸焼けが起きやすくなる傾向にあります。麦茶や杜仲茶など、カフェインを含まないお茶もありますが、成分表記が分からない場合は、水を飲んだほうが無難でしょう。
●チューイングガムで胸焼け予防
唾液は、中性の粘液を含んでいる液体なので、胃酸を中和する作用があります。
胃酸の逆流は、食後に起こりやすいので、胸焼けしやすいときは、食後にチューイングガムを噛んで、唾液の分泌を活発にしましょう。唾液の分泌が活発になれば、逆流した胃酸を中和できるだけでなく、食道を洗浄することもできます。
●胸焼けが辛くて休憩したいときは
胸焼けが辛いときは、思わず机に突っ伏したり、横になって休憩したくなったりする人もいるかもしれません。しかし、胸焼けが起こるということは、食道と胃の境目で逆流を防いでいる「下部食道括約筋」がゆるくなっている可能性があります。
そんなときに、前かがみの姿勢になると、胃が圧迫されて、食道への逆流が起こりやすくなります。
また、横になるときも、食道と胃が同じ高さになると、逆流が起こりやすくなるだけでなく、逆流物がそのまま食道の中に停滞してしまいます。横になるときは、背中に座布団などを敷いて、上半身が少し高くなるようにしましょう。
(この記事の監修: 吉井クリニック 院長 / 吉井友季子 先生)
肛門を他人に見せるのが恥ずかしくない人はあまりいない。ましてそこにイボなどがあれば、そっとしておきたいと思う気持ちもわかる。でも、それを気にし過ぎてストレスをためたのでは意味がない。
そのストレスが、イボを育ててしまうこともあるのです。
Rさん(42)が肛門の内部、それも出口の近くに“何か”があることに気付いたのは半年前のこと。排便後に水で洗浄し、紙で拭いたときに指が触った。小指の先ほどの小さな突起物が肛門から顔を出していた。プヨプヨと柔らかく、痛みはない。
しかし、それ以降、Rさんは気になって仕方ない。
「これが世にいうイボ痔(じ)なのか。困ったな…」
心配性のRさんは悩んでしまった。お医者さんにお尻を見せるのは恥ずかしいし、上司が昔イボ痔の手術をして、「死ぬほど痛かった」と話していたことも不安を助長させる。
「怖がることはありませんよ」とやさしく語り掛けるのは、東京・赤坂見附にある「マリーゴールドクリニック」院長の山口トキコ医師。イボ痔とその治療法について、次のように解説する。
「痛みや出血などの症状がなければ、様子を見て大丈夫。ただ、便秘などでいきんだりすると、その反動で出血したり、痛みが出ることもある。それでも薬で対応できることが多いので、まずは受診してみてください」
では、どんな時に手術になるのだろう。
「イボが大きくなって肛門から出てくるようになると、手術が必要になることがあります。
ただ、今は切除するばかりではなく、痔核(じかく)に薬剤を注入して小さくするALTA療法や、ゴム輪でイボを縛って壊死(えし)させる方法など、痛みの小さい治療法があります。切除するにしても、昔に比べると切る範囲が小さくなったので、“死ぬほど痛い”なんてことはありませんよ」
山口医師によると、痔を気にしてストレスをため、それが原因で痔が悪化することもあるという。
そもそも痔の専門医にとって、Rさんの小さなイボなんて珍しくもなんともない。恥ずかしがっていないで、早く診てもらったほうがいいですよ。
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1億総ストレス時代。誰もが心を病んでいる。時には「死にたい」と思うこともある。そんなピンチを乗り越えるには、当人だけでなく、周囲の的確なサポートが大きな役割を果たすことになる。「死」が絡む相談は、するほうも、されるほうも、命がけなのだ。
Iさん(44)は、心療内科のクリニックに通院中。病名は「鬱(うつ)」だ。
2カ月ほど前、彼は大学時代の友人から相談を受けた。居酒屋で会って話を聞くと、仕事がうまくいっていないらしく、会社では冷や飯を食わされているらしい。おまけに奥さんとの関係も悪化しており、会社にも自宅にも居場所がないと嘆く。
「死にたいよ…」とつぶやく友人に、かける言葉も見つからず、「そう言わずに元気出せ」と励まして、その日は別れた。
しかし2日後、友人は本当に自殺してしまった。奥さんと、まだ中学生の娘を残して。
Iさんは自分を責めた。「助けを求めてきたのに、俺は適当にあしらってしまった…」
今度はIさんが「死にたい」とつぶやくようになってしまった。
夕刊フジ月曜連載「心の健康相談室」でおなじみ、横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義医師は、「死にたい」と相談を受けたときの対応を、こうアドバイスする。
「まず、『よく話してくれた』と感謝の意を示す。その上で相手の立場に立って話を聞く、つまり“傾聴”に徹するのです。この時、『そんなこと言うなよ』と否定したり、『死んだら家族はどうなるんだ』などと説教するのはご法度です」
とはいえ、突然相談されたときに、うまく受け答えできるかといわれれば、誰だって自信はないだろう。そんな時には心療内科の受診を勧め、プロの力を借りる方向に導いてあげることが大切だ。
山本医師が24時間無料で行っているメール相談(横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンターのHPから送信可)や、厚労省が運営するサイト「こころの耳」なども役に立つ。
「最後の決断」を下す前に、こうしたサービスがあるということを、まずは知っておきたい。
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ストレスで下痢になる人は多い。その代表格が「下痢型過敏性腸症候群(IBS)」。多くの人は大腸の問題と思い込んでいるが、じつはその手前にある“小腸”が後天的な機能不全に陥っている可能性もあるという。
小腸は、臓器の中でも目立たない存在だ。同じ消化管でも、胃や大腸はストレスがかかるとすぐ悲鳴を上げる。食道なども、飲み過ぎや肥満で胃酸の逆流を受けては救助を求めてくる。そのたびにお父さんは、消化薬を飲んだり制酸薬を飲んだり忙しい。
一方、小腸は全長約6メートルと腸管の中でも最も長いにも関わらず、お父さんに手を焼かせることはない。「生まれてから1度も、小腸のことなど考えたことなどありません」という人は多い。
同様に医療界も、小腸のことを「よくわからないヤツ」と、あまり目をかけないできた。その証拠に、胃カメラは十二指腸まで、大腸内視鏡は大腸の入り口の盲腸あたりまでしか見ない。まん中の小腸については、「あそこはウチの営業範囲じゃないんで…」と、うやむやにしてきたのだ。
そんな不遇の臓器・小腸に、ついに光が当たる時代が訪れた。カプセル内視鏡だ。ごくんと飲めば1秒間に2回閃光(せんこう)を走らせ、隅々まで撮影するこのカメラの登場により、小腸の知られざる苦難が見えてきたのだ。
日本におけるカプセル内視鏡の第一人者、獨協医科大学の中村哲也教授が語る。
「精神的なストレスがかかると、小腸が十分に栄養を吸収できなくなることがあるようなのです。その結果、食べた物の消化が悪くなって下痢になる。下痢型IBSと思われている中には、じつは小腸のストレスによる機能低下が原因となっている可能性があるのです」
従来、小腸にはめったに「がん」はできない-といわれてきたが、カプセル内視鏡の普及で、結構小腸にもがんができることが分かってきたと中村教授は指摘する。
小腸は、長い苦難を耐え忍んできたのだ。小腸に感謝しないと、罰が当たって下痢になりますよ。 (長田昭二)
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仕事や学校があるときには、何度起こされてもなかなか起きられない。また、目覚ましをいくつもかけても、無意識のうちに止めてしまっているし、スヌーズ(再アラーム機能)も効果なし。
にもかかわらず、遊びのときになると、誰に起こされるでもなく、目覚ましもかけず、自然とスッキリ目を覚ますという経験はないだろうか。
「朝が弱い」と言いつつも、遊びのときだけ起きられるのは、結局、普段怠けているだけなのだろうか。ロフテー快眠スタジオの睡眠改善インストラクター・矢部亜由美さんに聞いた。
「脳は寝ている間に記憶が整理され、定着するという性質があります。寝ている間も脳は働いているわけで、実際、怠けているかどうかはともかく、起きられるかどうかの理由としては、無意識に優先順位があるのかもしれません」
ただし、「楽しみなことがあると早く目を覚ます」人がいる一方で、「楽しみ過ぎると、前夜に寝付けなくなる人」も「気がかりなことがあると、夢に見てしまったり、途中で目覚めてしまったりする人」もいて、それぞれ自覚的ではないだけに、難しいところではある。
そんななか、やっぱり理想は「楽しみで目が覚める」こと。とはいえ、仕事がある日は、なかなかそうもいかないのが現実だ。
「遊びのときだけ起きられるという人は、平日でも、朝にお楽しみを用意するといいかと思います。たとえば、ケーキやデザートなどを用意しておき、『朝起きたら食べる』と決めると、気持ちよく目覚めるかもしれませんよ」
夕食後にデザートをとる習慣がある人も多いが、夜に食べるのは太る原因にもなるし、「朝の楽しみ」にすれば目覚めのきっかけにもなり、一石二鳥だ。
また、金曜の夜などは、翌日仕事が休みだという解放感から、つい夜更かししてしまいがちだが、これは生活のリズムを崩す原因になるそう。
「金曜夜に、録画しておいたビデオなどをまとめて観るという人も多いですが、これも『土曜の朝のお楽しみ』にしてみると良いと思います」
「起きたら〇〇できる」というお楽しみ設定は、寝るモチベーションにもつながる。ぜひ取り入れてみては?
何かと腹の立つことの多い世の中。イライラが体に悪いことなど百も承知で腹を立てざるを得ないのが、ストレス社会に生きるサラリーマンだ。でも、結果として血圧は上がる一方。あわれ血管はボロボロ…。
今回の主人公は、とある中堅企業で課長を務めるUさん(43)。学生時代には合気道部で活躍したというだけあり、常に冷静沈着。実は単に口下手なだけなのだが、周囲が「クールな人」と思ってくれているので、その路線で行くことにしているだけ。
ところが、そんなUさんの部署に昨年配属された課長補佐が問題だった。
常務の縁故で入ったボンクラで、仕事はできないくせにアイデアだけはポンポン思いつく。その大半は現実味に乏しいものなのだが、その斬新さが若い社員たちの心をつかんで離さない。いつしか課の実権は課長代理が握ってしまい、Uさんは“お飾り課長”になってしまっていた。
ボンクラが司令塔では業績は下がるばかりだが、その責任だけはUさんが負うことになる。常務の遠縁だけに強く言えないUさんは、一人歯を食いしばって耐えるのみ。
そんな状況で受けた定期健診。血圧を測ると、「上が190」という、とんでもない数値に跳ね上がっていた。昨年までは130を超えたことのなかった彼にとって、これは驚くべき高値である。
「ストレスが原因の高血圧症でしょう」と分析するのは昭和大学医学部循環器内科講師の木庭新治医師。
精神的なストレスで交感神経が活性化し、血圧が上がることを「ストレス下高血圧」と呼ぶ。これだけでも立派な病気だが、これを放置すると命に関わる危険な状態を招きかねない。
「腹を立てたり落ち着いたりを繰り返すたびに血圧は乱高下します。この“変動”が血管によくない。
通常、血管を流れる血液は固まらないようにできていますが、ストレスは血圧を上昇させ血管に負担をかけるだけでなく、血液凝固因子の働きも高め、血栓ができやすくなるのです」
ストレスは食生活の乱れも助長する。この状況で彼がロースカツ定食の大盛りをヤケ食いでもしようものなら、心臓発作は目の前だ。今こそ合気道の精神で、心を鎮めてほしいところなのだが…。
疲れたりストレスがたまると、舌がねばねばして滑舌(かつぜつ)が悪くなる。人によっては、何を言っているのか分からなくなることも。背景には自律神経の乱れがあるようなのだが、ちょっとした“舌の運動”で改善できるのだ。
Cさん(50)はもともとあまり滑舌がいいほうではないが、ストレスがたまるとその“症状”は一層ひどくなる。特に朝起き抜けの「口のねばつき」はひどく、口角から泡を吹き出しながらモソモソいうばかり。
「ストレスで交感神経が緊張状態になり、唾液の分泌が抑制されるので、口の中がねばつくことがあります」と話すのは、東京都渋谷区にある片平歯科クリニックの片平治人院長。加えて他の原因にも言及する。
「残業続きで体内リズムが後退すると、特に起床時の口腔(こうくう)乾燥感が強まる傾向にあるのです」
不眠やうつ症状で睡眠薬や精神安定剤を服用していると、副作用で口が渇くこともあるという。「心が疲労すると、“口唇封鎖不全”から口が開きやすくなる。そうなると口呼吸の上に呼吸が浅くなり、口のネバつきもひどくなる」
対策として片平院長が勧めるのが“舌上げ”だ。
「まず、舌の先を上の前歯の裏側にある膨らみ(切歯乳頭)に付けます。この状態で唾をゴクッと空飲みすると、口の中が陰圧になり舌が自然に上あごに張り付くようになる。この時、かみしめないように注意します。
その感覚がわかりにくい人は、ミントキャンディーを舌と上あごの間で溶かしてみてもいい。ミントの刺激で気分もスッキリします。舌は下でなく上を意識する。心も上向きになるかもしれません」
他にも、日常的に腹式呼吸を実践することで、副交感神経は活性化され、ストレスの負担軽減につながるという。
口が渇けば口臭もひどくなるし、かぜなどの感染症にも弱くなる。いいことなど1つもない。何より大人のくせに口を開けていると、それだけでばかに見える。
Cさんは考えた末に、夜はマスクをして寝るようになった。口は開けていても、ばかではなかったのだ。 (長田昭二)
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「言った」「言わない」のもめ事はよくあることだ。いずれ証拠が出てくれば解決する。しかし、原因が「健忘症」だとそうもいかない。精神的なストレスが招く健忘症、最近増えているそうです。
Kさん(45)の悩みは「健忘症」。そう話すと、周囲の仲間は「俺もあるある」と同調するが、Kさんとしては「お前らの物忘れとはレベルが違うんだ!」と腹立たしくなってくる。
Kさんはフリーの編集者。最近は本業の仕事が少なく、出版社や編集プロダクションの下請けで、校閲や簡単な翻訳などの仕事もしている。
景気が悪いので、来る仕事は絶対に断らない。たった一人で仕事をしているので、仕事がいくつか重なると、てんやわんやの忙しさとなる。そして健忘症は、決まってそんな時に発症する。
「資料が宅配便で届いて、自分で受け取ってハンコも押しているのに、受け取ったことを忘れてしまうんです。後で『送った』『届いていない』のトラブルに発展し、探してみると古新聞の束の中から出てきたりして…」
仕事に影響が出るような物忘れは心配だ。病院で脳の検査を受けたが、異常はない。「ストレスのせいでしょう」と言われて帰ってきたが…。
「記憶障害を伴う病気はいくつかある中で、最も頻度が高いのが健忘症。Kさんは心因性健忘症と思われます」
大阪厚生年金病院内科の鈴木夕子医師は、そう指摘する。
画像診断で脳に異常があれば別の病気が疑われるが、Kさんの場合はそれが否定されているので、心因性健忘症の疑いが濃いという。
「原因ははっきりしないものの、精神的なストレスで脳の血流が不足して、一時的に脳が栄養不足状態になることで起きる症状。特効薬はないけれど、ストレスが積み重なって起きることが多いので、それを発散することが先決。
睡眠不足も発症要因の一つなので、ぐっすり眠れる睡眠環境を整えることも大事です」と鈴木医師。
ストレス解消には「適度な運動」もオススメだが、きまじめなKさんは「運動しなければ」と新しいストレスを作りかねない性格。少し仕事をセーブして、温泉にでも行ったほうが治りは早そうなのだが、自営業はそれができないんだよね。
世の中には、余計なことをしてストレスを抱え込む人がいる。いわば自業自得なのだが、“苦痛”であることは確かだ。周囲の理解も得られずに、ただもんもんと苦しむ日々。それを人は「自業自得」と呼ぶ。
Yさん(45)は、大手IT企業の部長さん。普段はいい人なのだが、1つだけ悪い癖がある、「女癖」だ。若い頃からほれっぽい性格で、女性と見れば片っ端から口説いて回る。その大半は相手にされないのだが、たまに引っかかる女性もいる。
昨年久しぶりに引っかかったのは人妻だった。人目を忍ぶ逢瀬は楽しかったが、相手の夫にバレた。巨額の慰謝料を請求されて、現在係争中だ。
そんなYさん、最近は体調がすぐれないらしい。弁護士から伝わって来る情報は芳しくないものばかり。そのたびにおなかと背中が痛む。病院に行ったら「十二指腸潰瘍ですね」と診断された。
昔からストレスと十二指腸潰瘍の関係は知られてきたが、そのメカニズムはどんなものなのか。JCHO大阪病院内科の鈴木夕子医師が解説する。
「十二指腸や胃の表面は、胃酸のダメージを受けないための防御機能が備わっていますが、その仕組みが破綻すると、自分の胃酸でやられてしまう。アルコールやピロリ菌などが原因になることもありますが、ストレスも要因の1つです」
鈴木医師によると、みぞおちや背中の痛みが特徴的で、特に空腹時に痛くなって食後は痛みが治まるのが特徴。診断には胃カメラが最適だが、こうした特徴的な症状を訴えていれば、大抵の場合それだけで見当がつくという。
「重症化すると吐血や下血、さらに悪化すると穿孔(せんこう)と言って十二指腸に穴が開くこともある。まあその時には、救急車を呼ぶ騒ぎになりますが」(鈴木医師)
とりあえず胃酸の分泌を抑える薬を処方されて、今はおとなしくしているYさん。しかし、潰瘍が治ればまた悪さをすることがわかっているだけに、周囲の誰も同情してくれない。結果としてヤケ酒を飲んで、またおなかが痛くなる。彼のこの悪循環は、途切れることがなさそうだ。
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春眠暁を覚えず-とはいうが、秋になると眠くなる人がいる。「季節性鬱(うつ)病」とよばれるこの病気、一般的な鬱病とは様子が異なるようだ。とはいえ、鬱病であることには変わりない。それが新たなストレスを生み出すことにもなる。
Yさん(43)はこの数年、秋になると気分がふさぎ込む。物思いにふけるというなら「秋だからね」と理解もできるが、そんなレベルではないようだ。どんなに寝ても眠気が取れず、昼間は甘いものが手放せなくなる。当然体重も太るので不健康だ。それがストレスとなり、またヤケ食いに走る。
Yさんのこうした症状は毎年10月頃に始まり、春の訪れを感じる頃には治まっていく。秋冬限定の鬱症状なのだ。
じつはYさん、この症状が「季節性鬱病」という病気によるものだということを知っている。昨年の今頃、あまりに調子が悪いので内科を受診して診断されたのだ。
それにしても聞きなれない病名だ。千葉県野田市にあるキッコーマン総合病院院長代理の三上繁医師に解説してもらおう。
「秋から冬にかけて発病し、春になると自然に治る鬱病です。普通の鬱病が不眠と食欲不振を招くのに対して、“季節性”は過眠と食欲増進という逆の症状を示すことが多いのが特徴。特に炭水化物や甘いものを欲しがる傾向が強く、Yさんのように冬だけ太る人が少なくない」
なぜそんなことになるのか。三上医師が続ける。
「日照時間が短くなるこの時期は、脳内のセロトニンの分泌量が低下し、“冬眠モード”に切り替わるのです。ところが“夏モード”になじんでいる体がこの変化についていけなくなると、そのひずみが“鬱症状”を引き起こす-と考えられています」
一番の治療法は日光浴。特に屋外での運動が効果的だが、重症の人には、高照度光療法という医学的アプローチもあるという。
夕方になると自らオフィスの窓際に陣取り、目に涙を浮かべて西日を浴びるのが日課のYさん。どうせなら頑張って早起きして、朝日を浴びたほうが健康的だと思うのだが…。 (長田昭二)
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「ストレスでめまいなんて当たり前じゃないか!」と怒ってはいけない。1日や2日のめまいならいざ知らず、何日も続けば、それが元で働けなくなることもあるのだ。こうなると立派な病気。「メニエール病」が最たる例だが…。
Mさん(35)の悩みは“めまい”。数カ月前から仕事が忙しくて、早出と残業の連続。土日返上で働いているうちに、目の前がグルグル回る症状に襲われるようになった。
2週間を過ぎても症状は続き、いつも耳鳴りを伴い、最近は聞こえも低下してきたので病院を受診。検査の結果「メニエール病」と診断された。
メニエール病とは、耳の入り口から外耳、中耳と続く一番奥の「内耳」という場所で、内リンパ液という液体が過剰にたまることで起きる病気。なぜこのリンパ液が増えるのかは分かっていないが、その要因の1つとして「ストレス」の存在が指摘されているのだ。
横浜市立みなと赤十字病院耳鼻咽喉科部長で、めまいに関する著書も多い新井基洋医師に聞いた。
「めまいは軽視できない症状。1カ月以上続くとうつ症状が併発することも珍しくなく、生活時間帯に発症すると仕事もできないことにもなります。きちんとした治療を受けるべきです」
メニエール病は国の「難病指定」を受けている病気だが、症状を軽快させる工夫はあると新井医師は言う。それは「水をたくさん飲むこと」だ。
内耳のリンパ液が過剰になって病気が起きているのに、水を飲むなんて逆じゃないか-と考えてしまいそうだが、新井医師はこう説明する。
「水をたくさん飲むと、内リンパ液をためる働きを持つ抗利尿ホルモンの分泌が抑えられ、脳は貯水をしなくていいと判断する。結果として内耳の水ぶくれが治まっていくのです」
男性なら1日に1・5リットル、女性でも1・2リットルの飲水が目標だ。早めに「めまい外来」などの専門外来を受診して、適切な治療を受けることが重要だ。
「めまいくらい…」なんて甘く見ていると、エライ目に遭いますよ。
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心配事で眠れない-。誰にも経験のあることだが、それにだって限度がある。何カ月も睡眠不足が続けば、あちこちに影響が出るのも当然のことだ。放置することなく、早目の診断、治療が必要なのだが…。
Kさん(50)は加工食品メーカーに勤めるサラリーマン。会社はこのご時世、ご多分に漏れず業績が悪く、いつ自分のクビが飛んでもおかしくない状況だ。
高卒で入社して以来、この道一筋で生きてきた。いまさら他の仕事に就いても、やっていける自信などない。それでも確実に忍び寄るリストラの影に、眠れない夜を過ごしているのだ。
半年ほど前から眠れなくなり、かかりつけの内科医に相談すると睡眠導入剤を処方された。
しかし、大学と高校に通う2人の子供や、自分たち夫婦の将来を考えると目は冴えるばかり。連日午前3時や4時まで悶々と過ごすことになる。
当然、日中は眠くて仕方ない。集中力が落ちてミスも起きる。リストラ対象だけにヒヤヒヤものなのだが、夜、布団に入るとまた眠れない。睡眠不足が蓄積されていく…。
「単なる睡眠不足ではなく、“うつ”による症状を疑うべきでしょう」と語るのは、本紙月曜連載「心の健康相談室」でおなじみ、横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長の山本晴義医師。続けて解説する。
「強いストレスで交感神経が刺激され、副交感神経が支配する眠りに入るのを妨げているものと思われます。体は眠りを欲していても、一種の興奮状態にあるのでなかなか眠れないのでしょう」
睡眠導入剤が効かないことについても山本医師は、「うつによる不眠には、睡眠導入剤だけでは効果が不十分のことがある。原因に沿った治療が必要なので、心療内科や精神科などで、うつに対する全般的な治療を受けたほうがいい」と指摘する。
体は疲労困憊なのに眠れずに、さらに疲労を重ねていくという悪循環。放置すれば自殺という最悪の結末だってありえないことではない。悪い流れを断ち切るためにも、まずはメンタルの専門医に相談すべきなのだ。
ふくらはぎに静脈が浮き上がる「下肢静脈瘤(りゅう)」。脚がむくんだり、重く感じられるなど、不快な症状に悩まされることになる。そして、毎度おなじみストレスは、こんな脚の症状まで引き起こすというのだから恐ろしい…。
Yさん(54)はそば屋の経営者。本店と支店の2店舗を構え、忙しい日々を送っている。社長とはいえ、そばも打てばレジにも立つ。零細企業の社長は大変なのだ。
当然ストレスも多い。店の経営や家計の不安もさることながら、妻が更年期を迎えたようで、不機嫌が慢性化しているのだ。家に帰っても会話もない。最近は店が終わると1人行きつけの居酒屋に行っては痛飲する。
そんなYさんのふくらはぎに「瘤(こぶ)」ができた。痛くはないが、気味が悪い。「何だろう?」と妻に見せたら、「病気じゃないの?」と心配してくれた。まだちょっとだけ愛が残っていたようだ。
「病院行ったら?」
わずかばかりの愛情が発した妻の言葉に従って病院を受診すると、即座に「下肢静脈瘤です」と診断された。本当に病気だったのだ。
「下肢静脈瘤とは、脚から心臓に向けて血液を押し上げていくための“弁”が機能不全に陥り、静脈内で血液が鬱滞(うったい)する病態。血管が皮膚の表面に浮き上がったり、脚が重く感じられるなどの症状が出ます」と語るのは、新宿血管外科クリニック院長の阿部吉伸医師。その背景にストレスの存在を指摘する。
「ストレスがかかると血圧が上昇し、動脈硬化が進行しやすくなるため、静脈の“弁”が壊れやすくなるのです。
また、精神的な抑鬱で飲酒過多や喫煙量が増えると脱水から血液がドロドロになりやすく、これも下肢静脈瘤の原因になる。ストレスと静脈瘤は、意外に関係が深いんですよ」
レーザーで血管をふさぐ治療法が主流だが、早期であれば脚を強く締め付けるストッキングで症状を抑えることも可能だ。
「Yさんのような立ち仕事の人は、特にリスクが高いので要注意です」(阿部医師)
手術を受けることになったYさんを、奥さんも心配している。病気の不安よりも、奥さんが親切にしてくれることがうれしくて、そばを打ちながら鼻歌なんか歌っているらしい…。ヘンな人だ。 (長田昭二)
◇
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毎月生理が訪れる女性に「貧血」が多いことは、お父さんだって知っている。しかし、精神的なストレスがかかると貧血のリスクが高まることは、知らないだろう。じつはこれ、女性でも知っている人が少ないようだ。
OLのJ子さん(34)は、日頃から貧血によると思われる症状に悩んでいる。慢性的に疲れが抜けない。化粧でごまかしてはいるが、じつは顔色もよくない。朝、起き抜けの“めまい”はほぼ必発で、大人になってから「スッキリした目覚め」の経験など記憶にない。
女性なので生理に伴う貧血は十分考えられるし、彼女自身その対策には余念がない。好きではないが2日に1度はひじきの煮物を食べ、3日に1度はレバーを食べる。それ以外にもサプリメントで鉄分を補給するなど、かなりの「鉄子」っぷりだ。
それでもストレスがたまると貧血症状は顕著になる。耳鳴り、頭痛、動悸(どうき)、息切れ…。同僚の男性社員も心配はしているのだが、変に心配して声をかけてセクハラ認定を受けるのも怖い。皆、遠巻きに見守るばかりだ。
「長く続くストレスが貧血を増悪させる可能性は、確かにあります」と語るのは、湘南東部総合病院院長の市田隆文医師。その仕組みを解説してもらう。
「急性胃炎での出血による貧血もあるが、慢性のストレスで自律神経のバランスが崩れると、“腸”がダメージを受けます。胃や大腸が不調をきたすことは知られていますが、じつは十二指腸も損傷を受けている。そして、口から摂取した鉄分の大半を吸収するのが、この十二指腸なのです」
ストレスで十二指腸の働きが弱くなり、鉄分を正常に吸収できなくなった結果、貧血を招くこともあり得るという。J子さんのケースがまさにそれなのだ。
市田医師が付け加える。
「むやみにサプリメントなどで過剰に鉄分を補給すると、肝臓に負担がかかって肝障害の原因になる危険性が高まる。とくにC型肝炎の場合は肝硬変やさらに発がんのリスクが大きくなるので、注意が必要です」
J子さんがまずすべきことは、ストレスを解消して、十二指腸の吸収を回復させること。そうすれば、自然に鉄分も補充され、貧血も治まっていくはずだ。その日が1日も早く訪れることを、同僚一同が首を長くして待っている。
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疲れが取れない、集中力が出ない、眠れない…。サラリーマンには当たり前の症状だが、どれもストレスが関係している。しかも、ある栄養成分を補充することで、ウソのように改善することもあるというのだ。
Hさん(31)は、大手不動産会社の財務部に勤務する経理マン。学生時代から成績優秀で、会社に入ってからも周囲から一目置かれる存在だ。
ところが、そんな彼に不幸が襲う。父親が心筋梗塞で急死したのだ。故郷に帰って葬儀を済ませ、落ち込む母を慰めながら、今後のことを妹と話し合った。母も心配だが、相続やら何やら、面倒なことがすべて長男のHさんの身に降りかかってきた。
元来、仕事や学業には積極的になれる彼も、それ以外のことには興味が湧かない。東京に戻ってからも「実家のこと」がストレスとなって苦しむようになった。
寝つきが悪くなり、寝ても夢を見るので眠りが浅い。悪夢を見ることも増え、眠ることが怖くなってしまった。仕事にも集中できず、ミスが増えた。食欲も出ず、休んでも疲労が取れない。どうすればいいのか…。
「ビタミンB群欠乏症の可能性があります」と語るのは、「新宿溝口クリニック」院長の溝口徹医師。急激なストレスで脳を酷使すると体内のビタミンB群が大量に消費され、Hさんのような症状が出ることが多いという。
「健康な人の睡眠は、たまに“いい夢”を見る程度。眠るたびに夢を見たり、頻回に悪夢を見るようであれば、精神的な抑鬱状態と考えるのが自然でしょう」
サプリメントでビタミンB群を補充すれば次第に回復していくが、溝口医師は「豚肉を食べるのが一番です」と話す。豚肉はビタミンB群の宝庫。食事からビタミンB群を取るなら、豚肉の右に出るものはないという。
そういえば最近、食欲不振で食事ものどを通らない日々を送っていたHさん。今夜あたり、トンカツでもショウガ焼きでもいいから、豚肉を食べてみましょうよ。まずは自分の元気を取り戻すことが先決。天国のお父さんもきっと心配してますよ。
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メタボを放置すると、いずれ大変なことになる-。それは分かっていても、なかなか真剣に対処できないのが世のサラリーマンだ。しかし、放っておいたときに大きなストレスに襲われると、取り返しのつかないことにもなりかねない。
メタボは早めに治しましょう。
Sさん(48)は典型的な“メタボ体質”。168センチの身長に対して体重は81キロ。BMI(肥満指数)は28・7と、基準値の25を大きく上回っている。
加えて健診のたびに高血圧を指摘され、中性脂肪や悪玉コレステロールも高値安定だった。
それでも彼が健康管理に真剣にならずにいられたのは「仕事が忙しい」という大義名分があったから。
化学原料の商社に勤める彼はこの数年、まともに有給休暇を取ったことがない。海外出張が多く、長期出張から帰国したら、そのまま会社に戻り、何日も自宅に戻らないこともあった。
そんな生活に嫌気がさし、2年前には妻も出ていった。自暴自棄になり、「健康管理などクソくらえだ」とうそぶいていた彼の心臓を、悲劇が襲う。
会社で残業中に強烈な胸の痛みに襲われ、救急車で病院へ。検査の結果は「心筋梗塞」。急遽(きゅうきょ)心臓カテーテル治療が行われ、一命は取り留めたものの、落命してもおかしくない状況だったのだ。
「もともと動脈硬化があるところにストレスかかると、血圧が急激に高まったり、血管がけいれんすることで心筋梗塞を招くことがある。
メタボの人にとって、ストレスが“トリガー”の役割を果たすことがあるのです」と語るのは立川相互病院副院長で循環器内科医の田村英俊医師。過労死の多くはSさんと同じケースをたどるのだとか。
「Sさんは運よく助かりましたが、発作から90分以内に治療ができるかどうかが生死を分けることになる」と田村医師。周囲に人がいる会社で発作が起きたから救急車を呼べたが、誰もいない自宅だったら、孤独死する可能性が高かったのだ。
退院したSさんは、さすがに反省したらしく、真剣にダイエットに励んでいる。体重も徐々に下がりだし、見た目にもスリムになった。
「痩せると俺も意外にイケるクチだよな…」
鏡に向かってつぶやくSさん。イケるかどうかは知らないが、早く新しい女房をもらったほうがいいですよ、心臓のためにも。
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「歯の痛み」といえば、普通は虫歯を疑うものだ。しかし、虫歯じゃなくても歯が痛くなることがある。精神的な抑圧状態が続くと、なぜか歯が痛くなる人がいる。その不可思議なメカニズムをひもとくと…。
Wさん(33)は1週間ほど前から歯に痛みを感じるようになった。右の奥から3-4本目あたりが痛い。
初めは市販の痛み止めでしのいでいたが、妻から「子供じゃないんだから歯医者さんに行ってきなさい!」と叱られて、渋々会社の近所の歯科医院を受診した。
ところが、虫歯は見つからなかった。見つかったのは、「ファセット」とよばれる“病態”だった。
「ファセットとは、歯にできる“摩耗痕”のこと。強い歯ぎしりをしている人に見られます」と語るのは、Wさんを診察した東京・大田区にある平和島駅前歯科医院の下山忠明院長。Wさんの歯痛の原因を、ストレスではないかと推測する。
「精神的なものも含めさまざまなストレスにより、夜間睡眠中に無意識のうちに食いしばったり、歯ぎしりをする人がいます。これが原因で歯に痛みが生じているのでしょう」
ファセットは歯科医が口の中を見ればひと目でわかるという。ほんのわずか(歯を研磨する程度)の咬合調整でかみ合わせが改善し、症状も改善していくことが多いが、ひどい時には睡眠中にマウスピースを装着することで歯を保護することもある。
ちなみにWさんの歯痛は、下山院長ご推察の通り、ストレスだった。しかし、そのストレスは小欄でよくある会社や家庭でのゴタゴタではない。彼のストレスは「熱帯夜」だったのだ。
少々メタボ気味のWさんは汗っかき。彼にとってこの夏の酷暑は耐え難い苦しみだ。
ところが彼の奥さんは大のクーラー嫌い。うだるような暑さの寝室で、スヤスヤ眠る女房を尻目に、深夜までうちわを駆使してわずかな涼を求めるメタボ亭主。美しい夫婦愛ではあるが、そのストレスが回り回って“歯”に現れたというのだから哀れな話だ。
Wさんは眠れぬ深夜、自分の歯の保護のために「ストップ・ザ・温暖化」を真剣に考えているという。いつか環境庁から表彰されるといいのだが。
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医者の言うことを聞かずに不摂生を続けて病気が悪化したなら自業自得だ。
しかし、言いつけ通りに清く正しく生活してきたのに、数値が悪化したのでは、神も仏もあったものではない。でも、時にストレスはそんないたずらをする。
Yさん(50)は、数年前から糖尿病の治療を受けている。ただ、根がまじめで、医師の言いつけを順守する。
外食は極力避け、妻の作る和食中心の質素な食事に終始する。酒も飲まず、朝は欠かさずウオーキング。誰の目にも「健康的な生活」を実践してきた。
ところが最近、どういうわけだか血糖値が高い日が続いている。
思い当たることと言えばストレスが浮かぶ。最近スタートしたある作業で、得意先から無理難題を押し付けられている。何しろまじめなYさんは、無理とわかっていても手を抜けない。見た目は健康的でも、精神的には疲弊しきっているのだ。
「ストレスは血糖値を高める大きな要因の1つ」と指摘するのは、大阪市淀川区にある糖尿病専門医院「ふくだ内科クリニック」院長の福田正博医師。そのメカニズムをこう解説する。
「人間の体はストレス状態に陥るとアドレナリンが分泌され、体を守ろうとする。この時、別名戦闘ホルモンと呼ばれるアドレナリンは、血圧や心機能を上げて、肝臓を刺激しブドウ糖を血中に放出し筋肉にエネルギーを送ろうとする。
糖尿病状態でインスリンの作用不足のために血中の糖が筋肉に取り込まれにくいので、結果として血糖値が上昇するのです」
ストレスがかかると飲酒量が増えたり、甘い物に手が出がち。これも血糖値を悪くする大きな原因。だが、糖尿病患者としては優等生のYさんのように、仕事のストレスそのもの以外に血糖値上昇の理由は見当たらないケースもよくあるという。
「高血糖が続くようなら一時的にインスリンを投与し、膵臓(すいぞう)を休ませることも視野に入れて考えますが、まずはストレスをなくすべき。現代社会ではなかなか難しいですけどね」と福田医師。
始まったばかりのプロジェクトは秋まで続く。それまでYさんの膵臓(すいぞう)はもつのだろうか…。
ストレス症状というと、胃痛や下痢、肩こりや頭痛など、「つらいけれど、死ぬことはない」というものが多い。しかし、中には生命の危険に直結するストレス症状もあることを忘れてはいけない。
Tさん(52)は会社の部長職。その日は朝から会議に出ていたが、昼少し前に“異変”は起きた。
興奮すると激高するタイプのTさん。その時も議論が白熱し、声も大きくなり始めていたときに、突然椅子から落ちてうずくまった。胸が猛烈に痛いのだ。
尋常ならざる様子を見たスタッフが救急車を呼び、病院に担ぎ込んだ。
緊急CT検査の結果「急性大動脈解離」と診断され、すぐに心臓血管外科に運ばれ手術が行われ、どうにか一命をとりとめることができたのだが…。
そもそも急性大動脈解離とはどんな病気なのか。大森赤十字病院心臓血管外科部長の田鎖治医師に解説してもらう。
「一言でいえば、大動脈の血管壁が裂けてしまう病気です。
先天的な要因から起きることもありますが、多くは高血圧と動脈硬化が原因。そこに強い精神的なストレスが加わると交感神経が刺激され、一気に血圧を高めて血管壁が裂けてしまうことがあるのです」
何とも恐ろしい話だが、症状に特徴はあるのだろうか。田鎖医師が続ける。
「この病気には、心臓に近い上行大動脈から裂ける“A型”と、心臓から比較的離れた大動脈で裂ける“B型”の2種類があり、それぞれ症状に特徴がある。
A型は最初に胸に激痛が走り、徐々に痛みが背中に向けて移っていくのに対して、B型は最初に背中が痛くなり、その後腰に向けて移動していくことが多い」
TさんはA型だった。
田鎖医師によると、裂けるだけ裂けてしまうと、まれに痛みが治まることがあるという。しかし、治療を受けずに48時間放置したときの死亡率は50%。様子を見ている余裕などないのだ。
幸いにも職場復帰を果たしたTさん。医師の言いつけに従って、「怒らない、怒鳴らない、興奮しない」の「三ない運動」を実践しているとか。
それがストレスにならなければいいのだが。
“老い”を感じる瞬間は色々あるが、睡眠不足によるダメージの強さも中高年にはつらいものがある。しかも、影響が“皮膚”に出ることも。今回はそんなオジサンの肌のトラブル・脂漏性皮膚炎についての物語。
今回の主人公はTさん(47)。会社が早期退職者を募る情報もある中、いつ自分の肩がたたかれるのかと戦々恐々の毎日だ。
家に帰れば女房は、そんな疲れ切った亭主の相手をするのはうんざりと言わんばかりに冷たい対応。最近はTさん、寝室からも締め出されて、リビングの隅に布団を敷いて寝させられている。
床暖房もない冷たいフローリングの上に横たわり、夜な夜な涙を流す。眠れない夜が続く。
そんな彼に新たな悩みが加わった。顔が赤くなり、おでこや鼻の周りの皮膚の表面がポロポロと落ちるようになった。席に座っておでこを擦ると、机の上にフケのような皮膚のかけらが舞い落ちる。
ふと気づくと、嫌悪感をあらわにした女子社員が見つめている。彼女の口が「うわっ、きったね~!」と動いたのがわかる。読唇術などできなくても、わかる…。
「恐らく脂漏性皮膚炎でしょう」と語るのは、虎の門病院皮膚科の大原國章医師。中高年の男性に多い症状という。
「皮膚に付着する常在菌が悪さをして炎症を起こす病気。普段は免疫系の働きで問題は起きないが、ストレスで免疫力が落ちると炎症を起こすことがある。睡眠不足は発症要因の中でもメジャーな部類ですよ」
抗炎症薬で炎症を抑えたり、常在菌を攻撃することで菌が悪さをできないようにすることもある。
「まずは強力な薬を使ってガツンとたたくのがコツ。弱い薬を細々と使っても、燃え盛る火事にコップの水をかけるようなもの。かゆいから掻く、掻いて悪化、悪化してまた掻く、という悪循環を断ち切ることが、まずは先決です」
皮膚の症状の悪循環も断ち切りたいが、その元のストレスの負の連鎖も断ち切りたい。しかし、残念ながらその兆候は見られない。女子社員の冷たい視線にさらされ、今日もTさんの机の上には、おでこの皮膚が舞い落ちる。ハラハラと…。
腹が減っては戦はできぬ-とはいうが、腹がいっぱいになっても戦にも行かずに寝ていれば、そりゃ太るのも無理はない。しかし、なんでストレスがたまると食べたくなるんでしょうね…。
フリーライターのAさん(47)は、以前から太り気味だった。しかし6年前、一念発起でマラソンを始めたことからウエートロスに成功。80キロ台中盤だった体重は、「もう少しで60キロ台」とまでに減少した。
ところが、彼には悪い癖がある。仕事が忙しくなると、いわゆる「ドカ食い」をするのだ。
朝から深夜まで仕事をして、寝る前に缶の発泡酒を1本飲む。それくらいは世間も許してくれるだろう。しかしそれではおさまらない。夕食の残りがあればチンして食べる。それがなければカップラーメンを作って食べる。
それもなければ、ご飯を炊いたりスパゲティを茹でたり…。深夜に手の込んだ料理をする中年男は不気味だ。さっさと寝たほうがいい。
「ストレスがたまると、食欲が出るのは仕方のないこと」と話すのは千葉県野田市にあるキッコーマン総合病院院長の久保田芳郎医師。その背景には血糖値とホルモンが関係しているという。
「ストレス状態が続くと副腎から副腎皮質ホルモンが出てストレスと闘おうとします。これが長期に及ぶと副腎皮質ホルモンが枯渇してしまい、免疫力が低下してくる。
一方、ストレスがあると副腎髄質からはアドレナリンが分泌され、エネルギー代謝に影響して血糖値は低下。体は血糖値を上げようとして食欲が高まるのです」
ストレスによる欲求とはいえ、そこで我慢できない心の弱さが、肥満へと後戻りさせるのだ。
「できれば我慢すべきですが、どうしても食べたいのであれば、血糖値が上がるのを待ちながら、ゆっくり食べること。そうすればあまり量を食べないうちに満腹感が訪れて、食べ過ぎることはありません」(久保田医師)
Aさんと付き合いの長い仕事関係者は、彼の体形で「今、忙しいか、そうでないか」の見分けがつくという。ずいぶんわかりやすい体質だが、決して羨(うらや)ましくはない。
短気は損気-というが、腹を立てるのと引き換えに命を失うほど大きな損はない。ストレス解消の方法は人それぞれだが、ケンカでの発散は、やめたほうがよさそうだ。
Kさん(54)には、少し前から会社の階段を駆け足で登った時に胸が詰まるような感じがあった。しかし、すぐに症状は収まるので、仕事の忙しさも手伝って「見て見ぬふり」を決め込んでいた。
その日も夜の9時過ぎまで会議が長引き、デスクに戻ってからも同僚と議論は続いた。話し合いは平行線をたどり、次第にエスカレート、最後には口論にまで発展する。
Kさんは熱くなると止まらなくなるタイプ。両手で机をたたきながら激高したその時、突然、胸に激痛を感じてうずくまった。異変を察した同僚がすぐに救急車を呼び、病院へ。心電図や血液検査の結果、「急性心筋梗塞」と診断された。
「狭心症の人がストレスを引き金に急性心筋梗塞に至る典型的な例」と説明するのは、東京・葛飾区のイムス葛飾ハートセンター・田鎖(たぐさり)治院長。
「急激なストレスは自律神経に作用して血圧を高める。加えて消化器系の吸収が悪化するため、血中コレステロールも上昇する。もともと狭心症なら、悪化して急性心筋梗塞になるリスクは高まる。以前から労作時の胸の症状が見られただけに、狭心症だった可能性は大きい」
すぐに心臓カテーテル治療が行われた。発症から処置室に入るまでにかかった所要時間は1時間15分。
「心筋梗塞の治療は時間との勝負。発症から6時間以内の治療完了が理想だが、早ければ早いほど治療成績はよくなる」(田鎖医師)。Kさんのケースは理想的だった。
カテーテルで冠動脈の狭窄を確認し、その場でバルーンを膨らませて血管を拡張。血流が再開すると、再狭窄を防ぐステント(金網)を装着して治療は無事に終了した。
10日ほどのリハビリを経て退院したKさんは、2週間の自宅療養を経て職場復帰を果たした。
これで一件落着と言いたいところなのだが、一つ問題が残った。Kさんの口論相手である。自分のせいで相手を死のふちに追い込んだことを気にして、憔悴(しょうすい)している。次は彼の心臓が心配だ。
人間に起き得るストレス症状はさまざまあるが、ただでさえ暑いこの時期に勘弁願いたいのが「発熱」だ。電力不足のご時世に、その“熱源”を有効利用できないものだろうか-。
「発熱」「微熱」などという症状は、うら若き乙女がかかってこそ美しいもの。たとえ若くても男の熱は暑苦しいだけで、周囲の同情は得られない。Iさん(24)はまさに、そんな悲劇の主人公。
どういうわけだか、彼は仕事が忙しくなると熱が出る。大した熱ではない。37度をちょっと上回る程度なのだが、平熱が35度台前半の彼にとって、この体温はそれなりの苦痛を伴う。
初めは心配していた同僚も、仕事が立て込むたびに赤い顔をしてふさぎ込む彼に、最近はあきれ顔。あちこちから「都合よく熱を出せるものだ」とか「仮病だろう」というささやき声も聞こえてくる。彼に罪がないだけに気の毒なのだが…。
そんなIさんに「ストレスで発熱することは実際にあります」と助け舟を出すのは、千葉県野田市にあるキッコーマン総合病院の三上繁院長代理。その仕組みはこうだ。
「人はストレスを感じると交感神経の働きが活発になり、体温が上がるようにできています。つまり、感染症などによる発熱とはメカニズムがまったく異なる。抗炎症剤や解熱剤を飲んでも、ストレス性の発熱には効果はありません」
当然、医療機関で血液検査などを受けても異常は見つからない。では、どこで判断するのか。
「炎症による発熱時には悪寒が走りますが、ストレスが原因だとこれがない。また、炎症性の発熱が長引くと食欲不振で眠くなるが、ストレス性の時には逆の症状になることが多い。これも仮病扱いされる原因です」
対処法はあるのか。三上医師は「この症状がストレスによるもの」という事実を受け入れ、適度に休息を入れることで状況は改善するという。
「根がまじめな人に出やすい症状。仕事に対して7割程度の力で取り組む姿勢を持つだけでもだいぶ違います」
一見ペースダウンに見えても、熱で休むよりいい。「これも治療だ」と割り切ることが、克服への第一歩なのだ。