近年、「大人の発達障害」について各方面で話題になることが多くなりました。脳の特性一つですが、社会生活を送るうえで「生きづらい」と悩んでいる人は少なくありません。不登校新聞編集長の石井志昂さんもその一人でした。石井さんはこのほど、診断を受けたそうです。障害を知ることにどんな意味があるのか、そして実際に診断を受けてみてどんなことを感じ、何に気づいたのか。当事者の言葉でつづります。
40歳を目前にして自分が「発達障害」であることがわかりました。この年になっても「自分に対する発見」をするとは思いもしませんでした。ある程度、自分の好みや性格などは
「わかってきたな」と思っていたからです。しかも、発達障害については断続的に15年間も取材をしてきました。それにかかわらず自分の障害には気がつきませんでした。
発覚してわかりましたが障害について知らないせいで、自分を追い詰めていた部分もあります。一方で知ったことで気が楽になった部分もありました。もしかしたらみなさんのなかにも私と同じように「隠れ発達障害」の人がいるかもしれません。家族や大切な人がそうとは知らずに苦しんでいるかもしれません。
発達障害は自分が「生きづらい」「苦しい」と思ったときにそれらを解明する手段の一つになりえます。今回は発達障害とは何かを説明するとともに、当事者になって初めてわかったことをお伝えしたいと思います。また最後には代表的な症状も記します。もしかしたらと思う方がいましたら、その部分だけでも指針としてご参考ください。
そもそも発達障害とは何か。発達障害とは生まれつきの脳の特性で「できること」と「できないこと」の能力に差が生じ、日常生活や仕事に困難をきたす障害のことを言います。発達障害は、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム)、LD(学習障害)の3種類に大別されます。
かんたんに症状を紹介すると、「ADHD」は、不注意が多い、落ち着きがない、多動・衝動性が強いなど。「ASD」は、コミュニケーション方法が独特、特定分野へのこだわりが強いなど。「LD」は知的発達の遅れがないにもかかわらず、読み書きや計算が苦手など。
3種類のうち「これだけが当てはまる」という人は、ほとんどいません。障害の程度や出方は人それぞれちがうので、苦手なことも個々にちがいます。また、発達障害かそうでないかのちがいについても、あいまいな部分が多いです。医師から発達障害だと診断されなくとも、定型発達とも言い切れない「発達障害のグレーゾーン」という層もあります。そしてグレーゾーンでも生きづらさを抱える人が多いです。
今回の診断で私はADHDの診断を受けました。ASDの特性は弱く、LDは検査していません。ADHDの具体的な特徴と言えば「落ち着きがない」「気が散りやすい」「忘れ物をしやすい」など。私もさんざんにやらかしてきました。すぐに思い出すのが「傘の忘れ物」です。傘を持って出かけても帰るまでに傘を失くしてしまう。
私にとってはそれが通常運転です。小さいころから数えきれないほどの傘を失くしてきました。傘を買ったその日に失くしたこともありますし、地下鉄の駅で傘を購入して電車に乗り込むもその電車に置き忘れたことだってあります。先日は、雨天にもかかわらず傘を持っていくことすら忘れて出勤したので、傘を失くさなくてすんだという日もありました。
このほか、新幹線のなかにコートを置き忘れて震えながら帰ったこともあります。お付き合していた人から貰った財布をなくし、気を失うかと思うほど怒られたこともありました。「気が散りやすい」という特性のせいか、日程調整をしくじってダブルブッキングもよくやらかします。あれは入社1年目の冬、同日同時刻に2つの取材を入れてしまいました。
取材先には何度もお詫びしましたが、再取材はかないませんでした。落ち込む私に心優しい先輩が「ミスは誰にでもあるから、忘れなければ大丈夫だよ」と言ってくれました。あれから20年、最近の私は年に1回のペースでダブルブッキングをやらかしています。忘れないどころか、ハイペースで再生産してしまっています。一つのことに集中すると、ほかのことが目に入らなくならず、遅刻なども頻発しています。
これらの失敗は「自分のポンコツさゆえ」だと思っていましたが、すこし違うようです。傘の忘れ物も「傘を持っていたことが記憶できない」からではありません。注意が散漫になって傘の存在を忘れてしまうのだ、と。
まあ結果は同じなのですが、メカニズムがわかってくると、重ねてきたミスや「できないこと」の理由がわかってきます。「怠慢ではなかったんだ」と思えて気も晴れます。診断が降りてから「気が楽になった」という声は私以外からも聞いてきました。つまり、みんな「できない自分」を責めてきたわけです。
自分が発達障害だと知ることは「自分のトリセツ(取扱説明書)」を得ることかもしれません。もちろん「あなたは発達障害です」と告げられるのは、少なからずショックを受けます。「何年も受けいれられなかった」という声も聞いてきました。それでも生きづらさの解消は「自分自身を正しく捉えることから」とも言われています。そのひとつに発達障害の診断も位置づけられるのだろうと思います。
一方で恐ろしいこともわかりました。正直に言いますと、診断を受けたことで、私自身が発達障害に対する差別意識を持っていることがわかりました。発達障害の診断が降りる直前、すごく悩みました。もしも発達障害だとわかったら、いっしょに働く社員はどう思うだろうか。
「障害を持った編集長とは働けない」「上司だけは『ふつう』であってほしい」「どうやって付き合えばいいかわからない」、そんなふうに思われないだろうか。かなり怖かったんです。しかし、そんな恐怖心こそ差別意識の裏返しです。発達障害の人とは「働きたくない」「ふつうがいい」「付き合い方がわからない」と私が思っていたから怖いのだ、と。
悩んだ結果、診断結果や考えていたことをすべて社員に打ち明けました。みんな快く事態を受け入れてくれました。そして「発達障害の当事者としても発信を」とも言ってくれました。私の差別意識は、発達障害に対する無知ゆえです。無知ゆえに差別し恐れ、長年の取材から慢心していました。しかし素人では見抜けません。発達障害は専門家が複数回の診察と検査によって診断するものです。
一方で、なんでもかんでも本人の特徴を「発達障害」と括ってしまうことにも抵抗があります。発達障害の名前はひとり歩きしている感もありますし、偏見につながることもあります。実際、私も差別意識を持っていました。
ただし、一定の知識は持っておく必要があり、心配だったり、困っていたりすれば受診してみるのもいいかもしれません。また、子どもが発達障害の疑いがあればいっそのこと親子で検査を受けてもいいかもしれません。診断を受けなくても支えるための勉強になるかと思います。私も「自分で受けてみた」というのがとても勉強になりました。
一点だけ注意をいただきたいのは、他人に対して「あなたはおかしいから発達障害の検査を受けなさい」と言うのはおやめください。そう指摘する人が発達障害について学び、理解を深めて、本人との関係を考え直せばいいのです。くり返しになりますが診断を受けるのはレッテルを貼るためではありません。あくまで自分に対する理解を深めるため。生活を楽にするための工夫や支援を受けやすくするためです。
それでは最後にADHDの代表的な症状を紹介します。国立精神・神経医療研究センターによれば、各項目(不注意と多動・衝動性)の9つの症状の中で6項目以上に該当し、それらが6か月以上継続、かつ家庭や学校など2つ以上の環境で、生活や学業に悪影響をきたしているときにはADHDの可能性があります。
■不注意
・学業・仕事中に不注意な間違いが多い。
・課題や遊びの活動中に、注意を持続することが出来ない
・直接話しかけると聞いていないように見える。
・指示に従えず、業務をやり遂げることが出来ない
・課題や活動を順序立てることがむずかしい
・精神的努力の持続を要する課題を避ける、いやいや行う
・失くし物が多い
・他の刺激によって気が散りやすい
・日々の活動の中で忘れっぽい
■多動・衝動性
・手足をそわそわ動かしたり、いすの上でもじもじする
・授業中に席を離れる
・不適切な状況で走り回ったり高いところに登ったりする
・静かに遊べない
・まるでエンジンで動かされているように行動する
・しゃべりすぎる
・質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう
・順番を待てない
・他人の邪魔をする
(国立精神・神経医療研究センターHPより)
© withnews 提供 自身が発達障害であると知り、生きづらさと折り合いをつけるきっかけを得た――。そんな漫画家の体験記です。=ゆめのさん提供人間関係の構築に難しさを感じている、漫画家・ゆめのさん(ツイッター・@yumenonohibi)。最近、人生観が変わる出来事が起こりました。発達障害の当事者であるとの診断を受けたのです。他の人と同じことができず、自責し続ける日々の中で、少しだけ呼吸しやすくなった。そんな体験について、描いてもらいました。
漠然とした不安や落ち込み感じ、病院へ
私は、発達障害なのではないか――。ゆめのさんは長らく、疑問に思ってきました。取り組もうと思っていた作業に集中できず、ついネットサーフィンをしてしまう。出先にスマホを持ち出し忘れる。漢字を書くことや、人付き合いへの苦手意識が強い……。
そんな特性が折り重なり、周囲になじめず、学生時代に不登校を体験するなどの困難を経てきたのです。
そこで発達障害の情報を調べてみると、自分の性格や振る舞いが、当事者の状態に関する説明に、かなりの程度当てはまることに気付きました。
「だけど、ちょっとミスが多くて、コミュ力なくて、勉強できない人なだけかも」。確信が持てない、ゆめのさん。しかし発達障害の専門病院は数が限られています。どこも受診希望者が大挙して訪れ、なかなか予約できそうにありません。
とはいえ、メンタルクリニックにかかることにも、抵抗感がありました。過去にうつ病を疑い相談した医師から、こう言い放たれたからです。
「あなたはうつじゃない。うつは頑張っている人がなるものなの」。その後、心の不調に拍車がかかってしまったのでした。
ところが、ある時期から、漠然とした不安や気分の落ち込みに襲われるように。ついに耐えかねて、以前とは別のクリニックに足を運びます。そして「不安障害」「うつ状態」と診断されました。
医師が見せた予想外の反応
投薬治療を続け、少しずつ不安が和らいできた頃のことです。ゆめのさんは、発達障害の有無を調べたい意向を、主治医に打ち明けます。すると、ある専門病院宛てに、紹介状を書いてもらえることになりました。受診当日。1時間ほどにわたり、生育歴や病歴、日々の悩みなどについて語りました。「診断は今度、精密検査を受けてからかな」。そう予想していたゆめのさんに、医師は意外な反応を示したのです。
「これは……ADHD(注意欠如多動性障害)ですね」
何と、自分の状態を説明しただけで、発達障害であると見抜かれたのでした。「あの……確定のやつですか?」「まぁ、間違いないでしょうね」。ゆめのさんは、急展開に驚きつつも、医師の言葉を受け止めます。
加えて、ASD(自閉スペクトラム症)でもあると判明。不思議と、衝撃はありませんでした。「人と同じようにできなくて悩んでいたけど、元から違ったんだ」。病院からの帰り道、電車に揺られながら、ゆめのさんはひとり得心します。
世界の見え方が、ちょっと変わった気がした――。心の中に、じんわりと安堵感が広がりました。
相性のいい医療機関と巡り合う大切さ
ゆめのさんはこれまで、対人コミュニケーションを中心として、日常での様々な行為に不安を抱いてきました。しかし「これが自分の性格だから」と、ストレスをため込むことしかできず、生きづらさは強まる一方だったそうです。メンタルクリニックに通い、主治医から客観的な診断を下してもらえたことが、こうした状況に風穴を開けました。医療機関に、望ましい形でつながる。その大切さを実感し、医師への不信感を払拭するきっかけにもなったといいます。
この経験について、ゆめのさんは、次のように語りました。
「私自身、以前行ったメンタルクリニックが合わず、病院に対してずっと苦手意識を持っていました。病院、先生とも相性があるので、自分に合った病院に巡り合うことも、適切な治療を受けるために大切なことかもしれません」
◇
ゆめの:マンガ家。著書に『心を病んだ父、神さまを信じる母』(イースト・プレス)。好きなことは寝ること。
グラフィックデザイナーの西出弥加さんと訪問介護の仕事をする光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら結婚。お互いに日常生活において、苦手なことをもっていますが、その克服する方法について教えてもらいました。
© ESSE-online 光さんと弥加さん夫妻この記事のすべての写真を見る
発達障害夫婦の日常。洗顔や洗濯物をたたむこと…苦手なことの克服法
© ESSE-online夫にとって泡がストレスだとは気づきませんでした。メイクの落とし方や洗い方を2人で何度も話しているのに、実践しているのに、いつも汚れや泡が顔に残ったまま…。
© ESSE-onlineそこでオイルタイプのメイク落としが家にあったので勧めてみました。
© ESSE-onlineそしたら夫は急に顔を洗うことが楽になったようでした。
© ESSE-onlineこんな感じで、工夫次第で苦手なことを楽しさに変えています。
●洗濯物をたたむのが苦手な妻の場合…
© ESSE-online一方、私にも苦手なことがありました。私は昔から洗濯物を畳むことができません。気づけば部屋の至るところで服が山積みに。
重なっている服が可哀想です…が、たたもうとするとヘナヘナと気力がなくなっていき、寝てしまったことも…。甘えてはならないと思いつつ、直らないので、私は諦めて服を大幅に減らすことにしました。
© ESSE-onlineそこで、私の弟が話していた2つのコツを実践してみました。
1つ目は「靴下は1種類だけをたくさん買う。洗濯が終わって畳むときに『靴下の片方を探す』という必要がなくなって楽だから」とのことで、私はインナーや靴下は「すべて同じもの」を買いそろえました。
そして2つ目は「服を畳まずに投げ入れる箱を部屋に置く」というものでした。
この2つのコツのおかげで部屋が散らからなくなったのです。
© ESSE-onlineさらに私は毎日ロードバイクに乗って移動し、運動しているので…
© ESSE-onlineこうすることで、たたむ服がほぼなくなりました。ところが、たたまなくてもいいと思った途端、プレッシャーがなくなったのか少しずつたためるようになり、長年、洗濯物であふれていた部屋が今はすっきりするようになりました。
© ESSE-online今後も、「皆できてるのだから、甘えずやらないと」と思ったとき、無理に頑張るのではなく、できるようになるキッカケを見つけて克服していこうと思います。
発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
10万部を突破した『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
今回、本書を元にした東京都・国立市公民館図書室のつどい「発達障害サバイバル」の講演が行われました。第一弾に続いてその内容の一部を、加筆・修正してお伝えします。
「雑談ができない」=「共同体の価値観を掴めない」
発達障害傾向のある人には「雑談ができない人」がとても多いです。
雑談が苦手といっても、実は「話すのが全部ダメ」というわけではありません。講演やスピーチはできるのに(むしろ得意なことも)、雑談はできないという人も少なくない。なぜなら雑談と講演・スピーチは、似て非なるものだからです。言い換えると、講演は「みんなが自分の話を聞いてくれる」関係性がはっきりした場であるのに対し、雑談はそうではないから。たまたま講演がウケて、みんながほめてくれてうれしい。それで「俺って話すのがうまいんだ」と勘違いして、4~5人の雑談の場で独演会をかましている人、あなたのそばにもいませんか? まぁ僕がその典型なんですけど……。
では、雑談とは何か。どうすればできるようになるのか。カギは、家庭や学校、職場……皆さんが普段の生活で所属している集団の「共同体の価値観」にあります。
先日、女子高出身の知人と話していたら、「女子高においては、かわいいとかモテるとかより、面白い人こそが至高の存在だ」という話になりました。おそらく共学あるいは男子校出身者からは、違う意見が聞かれるでしょう。これが共同体の価値観の違いです。そして、価値観の異なる共同体では、雑談で何がウケるかもまた、大きく違うのです。
「共同体の価値観に規定される会話」。これが雑談の正体です。そして、雑談に際し「その共同体で何がウケているのか」を読み取るのが、僕たちはとっても苦手。意識/無意識にかかわらず、何気ない雑談が実にハイレベルなソーシャルスキルの表れであるかということもお分かりいただけるかと思います。
雑談のテクニック1:現象が発生しているなあ視点
それでは、どうすれば共同体の価値観がつかめ、雑談がこなせるようになるのでしょうか。
共同体の価値観というのは、実に様々です。世界には「カラダに開いている穴が一番大きい奴がイケている」なんて部族もあるくらいですから。僕の地元でもピアスの穴はデカい奴がイケてましたし。それでですね、目の前にある共同体の価値観を知るには、これはもう「観察する」以外にありません。その時の視点を、僕は「現象が発生しているなあ視点」とよんでいます。
知らない共同体の様子を観察しようとすると、実にさまざまな情報が飛んできます。その都度理解し、序列をつけるのは大変ですし、ぶっちゃけ疲れます。だから、まずは「ああ現象が発生しているなあ」と一度抽象化して判断を保留することでダメージを最小限にとどめます。人類学者がやるように、いい悪いを判断するのではなく、いったん受け入れることが大事です。そうして自分の中で情報をストックしていくことで、やがてその共同体での支配的な価値観が輪郭を帯びて見えてきます。
雑談のテクニック2:リズム
次に大事なのは「リズム」です。雑談って、流れがありますよね。その流れに乗れず、気まずい思いをしたり、自分の足先を見つめ続けたりした人もいるのではないでしょうか。
実は、世の中で社会性と言われるものの大半に、リズムが関係しています。「おはようございます」と言われたら「おはようございます」と返す。その時、過剰に何かをつけ足して話したらどこか変ですよね。その違和感はリズムのずれから生じるものだと思います。
早口なのか、ゆっくりなのか、一人がどれくらいの分量を話しているのか。これはもう、その場その場の文化で全く違います。まさしく異文化です。「情報をとにかく最速かつ最高精度で交換しろ」って文化もありますし、「しっかり間を取らない会話は下品だ」と怒る人たちもいます。まさしく、文化が違えばリズムが違うのです。
その場のリズムをつかむことができたら、雑談の流れにスムーズに乗れるようになります。少なくとも僕はそうでした。言葉とリズムの関係を掴むには、YouTubeで日本語ラッパーの映像を見たりするのもいいかも。カッコいい言葉、社会性のある言葉、あるいはその反対に好ましくないとされる言葉がリズムの中で躍動する様子は、とても勉強になります。もちろん、雑談のつもりがいつの間にか自分ひとりのフリースタイルラップに、なんてことにならないよう気を付けなくてはいけませんが(笑)。
仕事の会議や友人関係…社会は雑談で回っているといっても過言ではありません。そうでなくても雑談は「できた方が楽しいし便利」なものであり、それが「できない」と自分で認めるのは、なかなか辛いものです。しかし、「できる」は「できない」の延長にあるもので、反対語ではありません。できない自分を認められれば、レベル1はクリアしたようなもの。あとは、どういうときにできないのか言語化しながら、少しずつ「できる」に近づいていきましょう。やっていきましょう。
漫画家 沖田×華さん 42
昨年、自殺した未成年者は777人と4年連続で増加し、新型コロナウイルスの感染拡大は、若者の生活にも大きな影響を与えている。生きづらさを感じ、しんどい思いを抱える「君」に、幼少期から発達障害として生きづらさを経験した漫画家の沖田×華(ばっか)さんは、「生きづらさは一生続くわけではない」と語りかけます。
一人でもがき苦しみ、「戦場のよう」
私は小学4年生の時、学習障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と診断されました。文字は読めても「あ」や「ぬ」が書けず、左右の区別もすぐにつかない。計算はできるのに、学校の算数のテストで問題が理解できなくて、塾でやった算数のテストと同じ答えを書いたこともあります。
心配した母に連れられ、地元の専門機関で検査を受けたのですが、当時は発達障害に対する社会の理解がまだ少なく、障害があると言われても、どうすればいいのか誰も教えてくれない。ピンときませんでした。
しかし、実際の学校生活では周りになじめないし、息をしているだけで先生に怒られるような日々でした。集団行動ができず、班で登校する際には自分で決めたルートを通らないと落ち着かないため、だいたい1時間は学校に遅刻。クラスメートに話しかけられても関係ないことを言い出してしまうなど、うまくコミュニケーションが取れなくて、友達が作れませんでした。
授業も大変でした。聴覚が過敏なため、チョークや鉛筆で文字を書く音、外のスズメの鳴き声などで頭の中がいっぱいになったり、妄想が次々と浮かんできたりして、「聞いていない」と先生に叱られる。宿題もよく忘れて怒られていたのですが、問い詰められて「何かしゃべらなきゃ」と思うと体が固まってしまい、言葉が出てこない。
でも先生の目には、ただボーッとしているようにしか映らなくて、「反省していない」と何度も体罰を受けました。
自分では努力しているつもりでした。つらくて母に訴えてもうまく説明ができず、「あんたが悪いんでしょ」で終わってしまう。「あと数年耐えれば自由になれる」と思って学校に通っていましたが、どうすればいいのか分からず、一人だけ戦場にいて、もがいているような感覚でした。いま振り返っても、当時の自分を納得させてあげられる言葉はないと思います。
逃げ道は漫画
そんな日々の逃げ道になっていたのは漫画でした。「うしろの百太郎」などのオカルト漫画が好きで、よく現実逃避をしていました。中学に進学しても先生に怒られ、体罰を受けることもありました。3年生のときには、アスペルガー症候群だと診断されました。
コミュニケーションの難しさや強いこだわりがあると言われても、自分はそういう性格だと思っていて、発達障害だという認識はこれっぽっちもありませんでした。高校はやりたいことがやれて楽しく過ごせたのですが、社会に出てから、絶望を感じる経験をしました。
親に、「食いっぱぐれない職業」と言われ、高校を卒業後、看護学校を経て看護師になり、病院で働いていたのですが、指示を理解できないし、職場の人間関係も読めなくて不用意なことを言って相手を怒らせ、どんどん仕事がやりづらくなる。「誰も分かってくれない」と追い込まれ、22歳のときに自殺を図りました。
結果的に助かったことで、目が覚め、あらためて人生を考え直しました。「あとの人生はおまけのようなもの。残りの人生は自分の好きなように生きよう」と決めました。病院を辞めて、その後、漫画家でもある、いまの夫にファンレターを送ったことで交流が始まり、漫画を描くように勧められたのがデビューのきっかけです。
学校の授業では大変でしたが、次々と考えが浮かんでくる特性は、漫画家に向いていると思います。発達障害だから生きづらいわけではないと思います。人間関係で大変なケースが多いので、すぐに答えは出なくても、どう折り合いをつけるかを考えたほうがいい。昔に比べれば発達障害への理解も進んでいるので、SNSで吐き出したり、同じ悩みを持つ人を見つけたりするのも、一つの手です。
真面目に捉えすぎないで
発達障害の子の周りにいる人に伝えたいのは、構い過ぎるのはよくないということです。気にはかけてほしいのですが、行動を制限されることが負担になったり、心配がプレッシャーになったりすることもあります。私は症状がひどくなってつらいときは、延々と寝かせてほしい。怠けていると感じるかもしれませんが、休養を許してほしい。
障害を根本的に治すことが難しいなら、仲良く共存していこうと考えています。いまがすごく楽しいし、やりたいこともたくさんある。40歳を過ぎてからが、一番「死にたくない」と思っています。だから、つらいことがたくさんあっても、真面目に捉えすぎないで。 しんどさを感じても、絶望を感じても、とりあえず大人になるまで生きてほしい。
つらい時は現実逃避をしていい。漫画に逃げてもいい。年を重ねれば、感情や見方は変わります。抱えているつらさも「一生、付き合うわけではない」と気がつけたら、肩の力が抜けるようになるし、「ああいうことがあったから、いまの自分があるんだ」と楽しめる日がきっと来ると思います。
おきた・ばっか
1979年、富山県魚津市生まれ。2008年にデビューし、18年には産婦人科を舞台にした「透明なゆりかご」で講談社漫画賞少女部門を受賞。NHKでドラマ化もされた。他の代表作に「蜃気楼(しんきろう)家族」(全6巻、幻冬舎)など。自らの発達障害を題材にした作品も多い。
「どこにしまったのか分からない」…“片づけられない人”が今すぐ部屋からなくすべきモノ から続く
さっきあいさつした同僚に、社内ですれ違った。またあいさつするのも変だけど、無視するのもおかしい気がするし……。人間関係のちょっとしたルールには、発達障害を持つ人も持たない人も頭を悩ましているはず。
『 ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本 』(翔泳社)より、意外と言葉で説明されることが少ない「あいさつのルール」を抜粋します。
事例―「あいさつをしたいが、タイミングやルールがわからない」
あいさつの種類が多すぎてどれを選べば良いのかわからない
あいさつはしなければいけないといつも思っているけれど、どのタイミングですればいいのか、どんなあいさつをすればいいのか、いつも迷ってしまう。
昔、勇気を出して同僚に「こんにちは」とあいさつして怪訝な顔をされたのがトラウマになり、ますます言葉が出てこない。
原因―なぜあいさつのタイミングやルールがわからないのか?
日本語のあいさつの複雑なルール
ASDにはコミュニケーションの苦手や、経験から無意識に学んでいく内容に偏りがあるといった特徴がある。
苦手なことから生じる経験不足に加えて、学習内容の偏りもあいまって、暗黙の了解や明文化されないルールというものを知る機会がとても少ない。
そのうえ、日本語のあいさつや敬語には、この暗黙の了解やルールが多い。体系化して教えてもらえる機会がないと、ルールの内容どころか存在も知らないまま社会に出て、失敗体験につながってしまう。
一方でADHDの場合は、その衝動性からマナーやルール通りに行動できない場合がある。あいさつもなくいきなり本題に入ってしまうなど手順を踏まないで行動してしまい、それが修正されないままでいると自分の手順として固定されてしまう。
解決法―あいさつ選びのパターンを覚えよう
●解決法1―基本的に同僚とだけ接する職場なら、パターンで対応できる
最終的にはあいさつのルールを覚えていったほうが良いのは確かだが、基本的なやりとりを覚えておけば、取りあえずの対応はできる。
ここでは、同じ職場の同僚や上司へのあいさつの仕方を覚えておこう(以下参照)。同僚といってもこの場合、派遣・常駐・フリーなど社外の所属であっても一緒に仕事をしている人はすべて含まれるものとする。
<同僚や上司へのあいさつの仕方>
●出社したら
出社したら元気にあいさつする
●午前中
出社して午前中は、1回目に会う人へのあいさつは「おはようございます」。入室の際のあいさつとは別に、顔を合わせたら一人一人に言う。午後シフトや夜勤などで出社したばかりの人でも、「おはようございます」と言う
●頻繁に顔を合わせる同僚
同じ部屋などで頻繁に顔を合わせる同僚であれば、2回目以降は会釈で良い
●頻繁に会わない相手
そう頻繁に会わない相手であれば、2回目は「お疲れ様です」。3回目以降は会釈だけで良い
●帰るとき
帰りは「お先に失礼します」。全体に向けて言ったあとでも、個別に同僚とすれ違う場合にはその都度「お先に失礼します」とあいさつする
●帰る人に
帰る人には「お疲れ様でした」とあいさつする
●解決法2―同僚以外とも接する仕事なら、使うあいさつの違いを覚える
日本のあいさつや敬語には、「身内のルール」 がある。あいさつなら、身内とそれ以外とで使うあいさつが異なってくる。
これを職場で適用すると、同僚や上司といった社内向けのあいさつと、来客や他社など社外の人向けのあいさつの違いということになる。
よく使われるあいさつを、使う相手別に分類した表を以下に挙げておく。
<使う相手別あいさつの種類>
表でAに分類したものは社内・社外に関係なく使うあいさつ、Bは社内向けのあいさつ、Cは社外向けのあいさつと考えることができる。それぞれ、相手別に使っても良い(○)か、基本的に使わない(×)かも記しておいた。
また、ここでも派遣や常駐・フリーといった、社外の所属でも一緒に仕事をしている人は「同僚」に含めて考えることとする。
これ以外のあいさつについても、A・B・Cいずれに入るのか分類する癖をつけておけば、使い間違いも少なくなるだろう。
<社外の人向けのあいさつを使うタイミング>
対策
○ あいさつ選びのパターンを覚える
○ 同僚以外の人に使うあいさつの違いを覚える
※発達障害の人が会社の人間関係で困らないためのコツは、 ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本 で全文読むことができます。
期限切れの用紙を見つけて「あちゃー」…プロが教える“払込みや引落し、絶対忘れないテクニック” へ続く
(對馬 陽一郎)
ここ数年、“大人の発達障害”という言葉がよく聞かれるようになってきました。著名人によるカミングアウトなど、当事者による発信もその一因といえるでしょう。
【画像】筆者の姫野桂さん
『発達障害グレーゾーン』の大ヒットで知られるライター・姫野桂さんが、自身のさまざまな“生きづらさ”をつづった初エッセイ『生きづらさにまみれて』を刊行しました。本書では、30歳で発覚した発達障害や、コロナの影響でアルコール依存症になったこと、仕事関係者から“都合のいい女”にされてしまった体験などが赤裸々につづられています。
今回は、そんな姫野さんが精神障害者保健福祉手帳を取得するにいたった経緯をつづった章を紹介します(以下、『生きづらさにまみれて』より抜粋、再編集)。
「生きづらさ」に名前がついた
30歳の頃、自分が発達障害であることが判明した。私は発達障害でずっと生きづらい思いをしていたのだ。それまでの私の生きづらさに名前がついたようでホッとした反面、数日間は「障害」という言葉がショックだった。
しかし今は「自分はこういう性質なのだ」と受け入れ、「だからこそ過集中で原稿が書けるのだ」とポジティブに捉えている。
発達障害とは簡単に言うと、得意なことと苦手なことの差が大きい特徴を持つ障害だ。主に不注意や衝動的な言動の多いADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーションに難があったり独特なこだわりやルーティンを好むASD(自閉スペクトラム症)、知能に問題がないにもかかわらず読み書きや計算が難しいLD(学習障害)の三つがある。
その中で私は算数LDと不注意傾向のADHDが顕著に表れていた。そのため私には事務職は厳しかったが、取材をして原稿を書く、言語理解能力は優れていた。発達障害の特性を持つ人は一見ポンコツに見えても、適材適所に配置すると驚くほど能力を発揮する場合がある。それは接客業であったりシステムエンジニアであったり人それぞれだ。それが私の場合ライターという仕事だったのだ。
しかし、事務的な経理作業は相変わらず苦手なため、経理関連は税理士さんにお任せしている。私がフリーライターになったのはある意味必然で、それしか働く方法がなかったのだ。
二次障害としての“双極性障害”
発達障害でつらいのは二次障害だ。元々は二次障害の不眠で病院へ行き、ついでに発達障害の検査をしてもらったら見事にクロだったのだ。今の私には双極性障害II型と摂食障害がある。
双極性障害はその昔、躁うつ病と呼ばれており、うつ状態と躁状態を繰り返す病気だ。双極性障害にはI型とII型があり、I型の方がうつ状態と躁状態の差が激しく「ジェットコースターのようだ」と例える人もいる。
一方II型のほうは差が少ないので一見うつ病と間違えられがちだ。しかし、躁状態のテンションのときにあれやこれやアイデアを思いついてなんでもやり過ぎてしまったり、後先考えずにお金を使ってしまうので、後から疲れがどっと来たり、借金を作ってしまったりする人もいる。
だから、調子が良いときほどエネルギーを使い過ぎないようにと主治医に言われている。逆にうつ状態のときは、昼過ぎまで布団から出られないことがあったり10時間以上眠ってしまうこともある。
ちょっとしたきっかけで「もう自分はダメだ」と希死念慮に襲われることもある。これはもう、薬で調整するしかない。
痩せていないと自分を好きになれない
何よりつらいのが摂食障害だ。痩せていないと自分を好きになれない。私は昔からぽっちゃり体型で父や同級生からデブとからかわれていた。痩せようと頑張ったこともあったが上手くいかなかった。
一時期は過食症のように食べ物を詰め込んでいた。しかし就活が引き金となって拒食症の症状が表れ、突然痩せた。とても気持ちが良くて、みんなに私の痩せた姿を見てもらいたかった。
ところが先にも述べたが、コロナによる自粛太りのため体重が42kgから一時は49kgにまで増えてしまった。鏡に写ったぽっちゃり体型が嫌で、食べた後嘔吐することもある。嘔吐しているときは苦しいのに気持ちが良い。これはリストカットするときの心境にもよく似ている。吐いた後はスッキリするし、食べたことがなかったことになる。
BMIで言うと今は標準体重なのだが、私が目指すのは華奢で痩せ過ぎの女性だ。そんな女性が愛されるような錯覚に陥っている(実際はそうではないことは分かっている)私は「愛されたい病」なのかもしれない。でも、自分を好きになるためにも、早く体重を戻したい。
就活中に起きた“リーマンショック”
2008年の秋、世をリーマンショックが襲った。私は当時大学3年生で、ちょうど就活を始めた頃だった。大学時代、心のどこかで書く仕事がしたいと思っていた私は小さな出版社でバイトをしていた。
ところが、仕事がハード過ぎて校了前は何日も帰れず、女性社員は身体を壊し、男性社員は精神を壊して辞めていくのを目の当たりにして、とてもじゃないけれど私にこの仕事はできないと思い、出版社は一社も受けなかった(バイトはきちんと時間が決まっていて労働環境には恵まれていたし、出版のいろはを学べたのは今につながっている)。
何よりバンギャル(編集部注:ヴィジュアル系バンドの熱狂的な女性ファン)活動を優先したかった私は、9時―17時で帰れて残業の少ない一般職や事務職を中心に就活を始めた。特にやりたい仕事はなかったので、志望動機やエントリーシートを書くのに一苦労した。また、数学が全くダメなため、SPIはどんなに勉強しても数学だけ解けなかった。大手企業はほとんどが入社試験にSPIを取り入れている。そこで私は大手企業を諦め、SPIのない会社を狙い始めた。
バイト先のトイレから心療内科に電話
私は嘘をついたり自分を実物以上に良く見せかけることが苦手だ。だから就活は苦行だった。最初に受けた企業はあっという間に最終選考まで進んだ。なんだ、就活って意外とちょろいじゃないか。そう思った矢先、最終選考で落とされた。
自信満々だったのでショックは大きく、しばらく立ち直れなかった。その直後にリーマンショックがやって来て、どの企業も書類審査で落とされ面接にすらたどり着けない日々が始まった。
就活は心を削られる。なんたって、お祈りメール(編集部注:不採用通知)を開く瞬間に「自分はこの世から必要とされていない」と思い知らされてしまうのだから。私はどの企業からも必要とされていない。そう思うと涙が溢れてきて、食欲が一気に失せて常に微熱が出ていた。
お菓子と発泡酒だけは口にすることができたので、毎日「たべっ子どうぶつ」というクッキー1箱を一日の食事にしていたら1カ月で10kg痩せて、就活用のスーツはガバガバになった。今思うとこれは第一次摂食障害だった(10年後に第二次摂食障害を起こす)。
現実逃避して就活を中断したが、何もしていないことに焦燥感がつのり、涙が溢れてくる。バイト先の出版社のトイレから心療内科に電話して初診の予約を入れた。
心療内科では抑うつ状態だと診断された。しかし今となっては根幹には発達障害があり、その二次障害の抑うつ状態だったと思われる。当時はまだ発達障害について認知が進んでいなかったため、私はこのときちょっとした誤診をされたことになる。
調剤薬局で安定剤と抗うつ薬、睡眠導入剤を処方された私は「メンヘラ」の太鼓判を押され、晴れてメンヘラデビューした。しかし、薬を飲んでも効いているのかどうかよく分からない。ガリガリの身体で毎日「たべっ子どうぶつ」を食べ、発泡酒で精神薬を流し込んでいた。
心の病の医療費助成に、親は大反対した
当時は学生だったので親の扶養の保険証を使って通院していた。ということは、医療費と通院歴の通知書が親のもとへ届く。2週間に一度心療内科に通っていたので、医療費はかなりの額になっていた。その通知書を見た父は「桂は病気なんかじゃない」と私の生きづらさを否定した。
精神疾患の医療費は自立支援医療制度を受ければかなり負担が減る。主治医に診断書を書いてもらい、役所に提出するだけという非常に簡単な手続きで済む。私も当時の主治医に勧められて自立支援医療制度を受けようと、5000円ほど出して診断書を書いてもらった。
自立支援医療制度を受ければ安くなることを母に知らせると、「そんな制度を受けると選挙権がなくなったり人権がなくなったり、生きていく上で不利になる」と大反対された。もちろんそんなことは一切ない。
ところが当時の私は親の言うことは絶対だったので、自立支援医療制度を受けることができなかった。それを主治医に話すと「そんな人権が剥奪されるようなこと、あるわけがない」と鼻で笑われた。
私はこのときもまだ親に言われるがままにしか動けなかったのだ。ちなみに現在は発達障害と双極性障害、摂食障害の治療に自立支援医療制度を利用させていただいている。医療費も薬代もがくんと負担が減ってありがたい限りである。当たり前だが選挙権だってある。
この自立支援医療制度について知らない精神疾患の方は意外と多いので、もっと認知されてほしい。申請して不利になることなんて一つもないのだから。
コロナ禍で襲われた“うつの波”
2年ほど前に自立支援制度を申請した際、主治医に報告すると「そのとき精神障害者保健福祉手帳のことは役所の人から言われませんでしたか?」と聞かれた。確かに聞かれたが、そのときの私は私程度の生きづらさで手帳なんぞ必要ないだろうと思い、手帳の申請を断ったのであった。そう、たしかに当時は何も困っていなかった。
ところが2020年の秋、私はうつの波に飲まれることになる。コロナ禍で人になかなか会えない、仕事が急に暇になって収入が著しく落ちた、タクトさんにも会えない。外出自粛のせいもあり、ベッドとパソコンデスクの間を行き来することが多くなった。私の精神状態は最悪だったが、友人の漫画家・渡辺河童さんとSkypeで長話をして気を紛らわせることが増えていた。
その日も河童さんと、作家の深志美由紀さんと3人でSkypeで長話をした。会話終了後、処方通りの量の薬を飲んでから、大量の発泡酒とチューハイを飲んだ。意識が朦朧としてきた私は自然と「さて、死のう」と思い立ち、クローゼットを開けて安物のベルトを1本取り出した。
タクトさんに「お付き合いしてもらえないなら今から死にます」とLINEを送った。「申し訳ありません。お付き合いはできません。でも生きてください」と返信が来たが、私はタクトさんに会えないと生きている意味がない。そして踏み台を持ってきてその上に乗り、寝室のドアのドアクローザーにベルトをかけ、首を吊った。ここから先の記憶はぷつりと途切れている。苦しいとも思わなかった。
どのくらいの時間が流れたのだろう。気づいたら寝室の床のど真ん中に仰向けで倒れていた。失禁していてお尻が冷たかった。頭や身体をあちこちぶつけたようで全身が痛い。特に痛い頭の部分を触ると血が出ていた。ドアの側にはちぎれたベルトが落ちている。身体は痛いしお尻は冷たい。とりあえず失禁で濡れた床を拭き、濡れたパジャマを脱いでシャワーを浴び、新しいパジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
その後、周囲の人との関わり
翌日、河童さんに自殺未遂をしたことを報告したら「なんで僕と話した後に」と少し怒っていた。実は河童さんも重度のうつ病が原因で何度か自殺未遂をしている(『実録コミックうつでも介護士崖っぷち人生、どん底からやり直してます。』(合同出版)にそのときのことが描かれている)。言ってみれば自殺未遂の先輩だ。本当は主治医のところに行きたかったが、ちょうど土曜日で休診だった。
すると河童さんは「うちにおいで」と言ってくれた。床にぶつけた頭と身体が痛いので、本当は家でじっとしていたかったが、こういうときは人に会ったほうがいいと判断し、お昼前に1時間ほどかけて河童さんの家に遊びに行った。
河童さんは最寄り駅まで車で迎えに来てくれた。途中でコンビニに寄ってサンドイッチを買った。河童さんの家は様々なアニメや漫画のオタクグッズで溢れていて、愛猫のきゅうりちゃんも出迎えてくれた。いろんなフィギュアに囲まれた部屋でサンドイッチを食べながら、河童さんとポツポツと世間話をした。早めに主治医のところに行くよう言われたが、運の悪いことにその日から土、日、月と通院している心療内科が3日連続で休診だった。
しばし河童さんの部屋で過ごした後、また1時間ほどかけて自宅に戻った。前日、首を吊る寸前まで話していた深志さんからも心配のLINEが入っていた。元薬物依存症患者で今は薬物依存症の啓蒙活動や保護司の仕事をしており、精神障害にも詳しい風間暁さんも「できるだけ早く会って話したほうがいい」と言ってくれて、新宿の喫茶店で話を聞いてくれた。
風間さんは虐待サバイバーで元ヤンでもある。だからなのか、生きづらい思いをしている人の話の傾聴がとても上手かった。そして、タクトさんを失ってしまった私に「私、昔バンドやっていて仲の良いバンド界隈の男いっぱいいるから、今度誰か紹介するよ」とも言ってくれた。
“自然と死を選んでしまう自分”に気づく
私には話を聞いてくれる人がたくさんいることに、このとき気づいた。私は一人ではなかった。ちなみに休診日明けにようやく心療内科を受診できたものの、診察はいつもと全く同じで、行く意味があったのかな? とすら思った。
親には自殺未遂したことを言わないでおくつもりだったが、河童さんの強い勧めで母親に話した。それから、本来ならその月の後半に帰省する予定だったのを前半に前倒しし、5日間、何もせずに実家で過ごした。親は特に気を遣い過ぎることもなく、ゆっくり休ませてくれた。
この経験から、私は双極性障害のうつ状態に陥ったとき、自然と死を選んでしまうことに気づいた。そしてうつ状態で働けなくなったときに備え少しでも経済的負担を減らそうと、精神障害者保健福祉手帳を取得することを決意した。
精神障害者保健福祉手帳も、自立支援制度を申請するときと同じように、医師の診断書を役所に提出すれば取得できる。この手帳は1級から3級まで等級があり、級が上がるごとに受けられる支援が増える。そして、病状が快復したときには返納することもできる。これまで取材してきた発達障害当事者は3級を所持している人が多かった。
しかし、3級は障害者雇用で働く上では手帳があることで有利になることはあるものの、受けられる支援は限られている。ここは、充実した支援を受けられる2級を取得したいところだ。
お守りのように持ち歩いている“緑色の手帳”
このとき、一人ではほとんどのことができない精神状態だったので、先輩文筆家の鈴木大介さん夫妻に役所での手続きを手伝ってもらった。鈴木さんは精神障害についても詳しい。昔は2級は取りやすかったけど今は取りにくくなっている、という事前情報も教えてくれた。手帳の申請から交付までは3カ月ほどかかる。自分は何級なんだろうか。
周囲の人のおかげでだんだんと元気になり、仕事も忙しくなってきた2021年2月、手帳交付のお知らせが区から届いた。役所に足を運ぶまで等級は分からないらしい。平日の午前中に窓口に行くと「精神障害者保健福祉手帳2級ですね」と言われ、緑色の手帳が私の手に渡った。3級ではなく2級が取れた。
窓口の人は都営バスが無料になることとタクシーが1割引になることしか教えてくれなかったが、帰宅後に河童さんに聞くと、携帯料金も安くなることを教えてくれた。鈴木さんからは難しいと言われていた2級が取れてよかったという言葉と共に、確定申告に間に合うか分からないけど所得税が安くなることと、私の住んでいる地域では他にも多くの制度が使えることを教えてもらった。
私は発達障害だけど、自分に合った仕事を立派にこなせているから手帳はいらないとずっと思っていた。自分は大丈夫だ、やればできるのだというマッチョ思考も持っていた。しかし、現実の私はそんなに頑丈ではなかった。
この緑色の精神障害者保健福祉手帳は、今まで無意識のうちに強がっていた自分とお別れをさせてくれた。もらってすぐは通帳などの貴重品を入れている引き出しにしまっていたが「しまってちゃ意味がないよ」と河童さんに言われ、今はお守りのように持ち歩いている。
<文/姫野桂 構成/女子SPA!編集部 撮影(著者近影)/Karma>
【姫野桂】
フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei
東京都世田谷区にあるスポーツ教育をうたう認可外保育施設の規則に、「発達障害で園生活に支障があるときは退園してもらうことがある」という趣旨の記載があることが毎日新聞の取材で判明した。障害者の差別的取り扱いを禁じる障害者差別解消法に抵触する可能性があり、監督権限を持つ世田谷区は施設に対し修正するよう助言している。
この保育施設は「バディスポーツ幼児園世田谷校」。運営会社のホームページ(HP)などによると、2~5歳児を対象に、保育のほかスポーツに特化した教育を実施している。この施設のほか、都内と神奈川県に系列園や姉妹園が計7カ所ある。
施設は入所希望の保護者らを対象にした説明会で園の規則を配布している。そこには「園児が自閉症、注意欠陥・多動性障害などの発達障害と診断され、または園児にその恐れがあり、当園にて今後の園生活や体育全般に支障があると判断される時は、子どもの成長、発達を考慮し特別支援教育への移行を促し、退園していただく場合がある」などの記載がある。
施設は2019年10月から始まった幼児教育・保育無償化の対象で、国が定めた認可外保育施設の指導監督基準を満たしているとして区の上乗せ補助も適用されている。区は「立ち入り検査の際、規則の文言が解消法に抵触する可能性があると判断したため口頭で園側に修正を助言した」(保育認定・調整課)と話している。
毎日新聞はこの規則の意図などについて、園の運営会社に書面で取材を申し込んだところ、6月22日に「区と相談しながら内容の修正を行っている」と回答があったが、実際に退園児童がいたかどうかなど詳しい説明はなかった。
16年4月施行の障害者差別解消法は、公的機関や民間事業者に対し障害者の差別的取り扱いを禁じている。今年5月には障害がある人の移動や意思疎通などを無理のない範囲で支援する「合理的配慮」を民間事業者に義務付ける改正法が成立した。
厚生労働省保育課は、発達障害を理由にした退園規則について「これまで確認されたケースはない。認可外保育施設の利用はあくまで個別契約の範囲だが、一般論でいえば障害者差別解消法に抵触するおそれがある」と説明する。
同法に詳しい名城大の植木淳教授(憲法)は「(障害者への)不当な差別的取り扱いに当たる可能性が高い」としたうえで「保育士には障害教育に対する一定の知見が求められていることからすると、発達障害の事実だけで保育に支障をきたすということは通常考えられない」と指摘した。【遠藤大志】
コロナ禍で、発達障害による悩みが顕在化している。エッセイストで、ADHD(注意欠如・多動性障害)の当事者でもある小島慶子さん(48才)も、コロナ禍で困りごとを実感しているという。発達障害をコントロールしながら、前向きに生きるコツを彼女が語った。
「リモートワーク中なのに、気がつくと部屋の模様替えをしていたり、本を手にとってしまい、仕事に集中できず業績が落ちてしまった」「オンライン会議で発言するタイミングが分からず、話の流れを遮ってしまった」「マスクをつけなければいけないのに、いつも忘れてしまう」――これらは、「大人の発達障害」を自覚する人たちが、コロナ禍に打ち明けた悩みだ。
エッセイストという仕事柄、自宅で仕事をすることも多いという小島さんは、こんな悩みを抱えている。
「オンライン取材が増えたのですが、リマインダーやカレンダーなどで工夫をしていても、すっかり開始時間を忘れてしまったり、開始1分前に時計を見て気づき、慌てて着替えたりすることがしばしばありますね……。
ほかにも、ADHDには『気が散ってしまいがち』という特性がある反面、『過集中』という特性もあるんです。コロナ禍で外出する機会がないと、時間の感覚がなくなるほど集中してしまう。水も飲まず、ご飯も食べずに何時間も仕事をしたり、本を読んだりしてしまって、フラフラになることがあります」
近年、耳にする機会が増えた「大人の発達障害」。発達障害とは、生まれつきの脳の特性によって日常生活を上手く送れない状態を指し、大きくはADHD、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(学習障害)の3つに分けられる。かつては子どもの特性と捉えられていたが、近年では大人になってから診断を受ける人が増えている。
青山会関内クリニックの精神科医・石井辰弥氏はこう指摘する。
「発達障害の特性を持つ人が増えたわけではなく、発達障害の認知度が高まり、『自分もそうなんじゃないか』と気づく人が増えたんです。さらに発達障害傾向のある“グレーゾーン”も入れて、診断される人数が増えています。生きづらさの原因が発達障害にあることを知って、楽になる人が多い印象です」
小島さんは40歳を過ぎて「軽度のADHD」と診断された。彼女も戸惑いよりも「なるほどね」と納得する気持ちが強かったという。
「子どもの頃から、いつも自分は“規格外”だと感じていました。ADHDの特徴のひとつに『衝動性』があげられるのですが、思いついたことを空気を読まずにパッと発言してしまう。その結果、場をしらけさせたり、友人を傷つけてしまったり。他にも、大人になってからは事務処理が苦手で、大事な書類なぜか目の前から消えてしまうことも。さっき見たのになぜ?と、魔法にかけられたような感覚です」(小島さん)
なんとか改善しようと、コミニュケーションの上手な人を真似したり、なくし物を減らすために部屋中を完璧に整頓するなど、必死に努力を重ねてきた。
「それでも、期限に間に合わせるとかミスせずに書類に記入するとかいう当たり前のごとが、なかなか上手にできない。『自分はなんてダメ人間なんだ』『生きている価値なんてない』と自己肯定感が下がり、不安障害や摂食障害になったこともありました」(小島さん)
「自分を責めず、薬に頼ってもいい」
小島さんは一度、発達障害の薬を飲んでみたことがあるという。医師から処方された薬を服用し、「普通の人はこんなに静かな世界で暮らしているの?」と驚いたという。
「それまでは、頭の中で絶え間なくいろんな思考や感情が動き続けていたのに、薬を飲んだら、シーンとしているんです。脳のスイッチをオンオフできるような感覚は驚きでした。世界が急に静かになって、脳にかかる負荷が軽くなったように感じました。私は薬が体質に合わず飲み続けることができませんでしたが、服薬するようになって困りごとが軽減したという、同じ障害を持つ知人もいます」
前出の精神科医の石井氏は、発達障害の特性を薬でコントロールできることもあるので、無理をせずに医療機関に相談して欲しいと話す。
「ADHDの場合、ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなど、脳内の神経伝達物質を薬で調整することで、不注意を改善したり、やる気や集中力を上げることができるのです。もちろん、薬なので副作用が起こることもありますし、症状によって服薬する量も違ってきます。保険適応されるので、医師に相談してから服薬してください」
現在は「自分の特性とポジティブに付き合えるようになった」と小島さん。診断結果は、夫と2人の息子にもすぐに伝えたという。
「成長するにつれて、子どもたちも多様な人達と出会うことになる。発達障害を持つ母親が間近にいるのは、いい学びになると思ったんです。夫もすんなりと受け入れて、私を支えてくれています」
自分の経験を話すことが、発達障害を知る参考になれば、と小島さんは笑顔を見せる。
「発達障害の専門家でもないし、何か特別な才能がある芸術家でもない私が、自分のADHDを語る意味があるのかな?と思うこともあったんです。でも、10人いれば10通りの困りごとがあると気づいて。他の人の話でピンとこなかった人が、私の話を聞いて共感することがあるかもしれない。だったら、自分の経験を語るのも無駄ではないかもと思いました。
ADHDだと診断された後、『これは障害だから一生変わらない』と希望を失った時期もありましたが、今はその段階を乗り越えて、自分なりに工夫を凝らし、対策を打てるようになった。今も失敗することはあるけれど、うまくいくときだってある。『私もなかなかやるじゃない』と、自分をポジティブに考えられるようになりました」
「発達障害とともに生きる」ことは可能だ。今、生きづらさに悩んでいる人は、一度専門医に相談して、具体的な対処法を探ってみるとよいだろう。
King & Princeの岩橋玄樹やSexy Zoneの松島聡など、芸能人が相次いで休業した原因に“パニック障害”がある。ストレスなどが関係するため、コロナ禍での不安な日々は、発症しやすい環境といえる。
パニック障害は不安症の1つで、症状が突然起こり、内科などで検査をしても異常が認められないものをいう。
「ストレスを抱えながら不規則な生活をしている人がなりやすいといえます」(市ヶ谷ひもろぎクリニック理事長・渡部芳徳さん・以下同)
厚生労働省の患者調査によると、パニック障害の患者数は1999年から増加傾向にあり、18年間で約10倍に急増している。ストレスが発症原因の1つとなるため、コロナ禍は危険な環境といえる。
「発作が出る直接の原因は、脳内の神経伝達物質の機能異常です。特に神経伝達物質の1つであるセロトニンの減少が大きい。診断が確定したら、薬物療法と同時に、どういう場所や刺激で症状が出るかを探り、あえてその場に身を置いて体を慣れさせる暴露療法を行います」
運動不足や睡眠不足、偏った食事も発症の要因とされ、食事では、たんぱく質やビタミンB群が不足しないように心がける必要がある。
パニック障害をひとりで治すのは難しい。心当たりがある人はすぐに受診を。
パニック障害から立ち直った著名人たち
※()内は、発症や経緯などが報じられた出典元を示す
星野源(40才)
小学3年生の頃、いじめをきっかけに発症。精神科に通院し安定剤を服用したが、高校生になっても治らず、不登校に。(2014年2月23日放送TBS系『情熱大陸』)
中川家・剛(50才)
1998年に発症。先輩芸人・明石家さんまに「パニックマンになってコントを作れ」と言われ、楽になったという。(2019年2月5日放送NHK『クローズアップ現代+』)
長嶋一茂(55才)
プロ野球選手を引退する直前の1996年に発症。自殺衝動もあったが、引退後、極真空手など好きなことに打ち込むうちに症状が改善。(2016年1月22日サンケイスポーツ)
田中美里(43才)
『あぐり』(1997年/NHK)に主演後、23才で発症。五十嵐匠監督の手紙「あなたしかいないのだから、あせらずに」が復帰の糸口に。(2013年3月28日日刊ゲンダイデジタル)
IKKO(59才)
経営するヘアメイク事務所が多忙だった2001年に発症。テレビ出演後、症状が緩和。「どんだけ~」の指振りは手の震えから生まれたという。(2020年1月23日朝日新聞デジタル)
人生を豊かにするライフハック本を多数発表してきた経済評論家の勝間和代氏。発達障害の傾向があることを公表している彼女だが、最新の著書『自由もお金も手に入る!勝間式超スローライフ』(KADOKAWA)でも、ロジカルに考え抜かれた仕事術や料理、健康管理といった自身の実践で「しっかり稼ぐ」と「穏やかに暮らす」を両立させた自宅快適ライフを紹介している。
自身の特性を理解しながら手に入れたストレスフリーなライフスタイルには、すべての人が変化を余儀なくされるアフターコロナ時代を幸福に生きるためのヒントが詰まっている。
■コロナ禍での働き方、リモートワークをサボらない秘訣は?
──本書はいつ頃から、どんなきっかけで書き始められたのですか?
「執筆を始めたのは昨年の4月、ちょうど緊急事態宣言が発令された頃ですね。私自身はそれ以前から自宅で過ごす時間が長く、自宅快適ライフを徹底して整備してきたこともあって、出版社の方から『これからの時代を生きるヒントとして書いてみませんか?』とお声がけいただいたのがきっかけでした」
──コロナ以前から、お仕事もリモートワークが中心だったとか。ご苦労はなかったですか?
「現在は安価に活用できるテクノロジーやサービスが十分に揃っていますから、まったくなかったですね。多くの会社でも非合理的だとわかっていながら昔からの慣習で"なんとなく"続けてきたことは多かったと思うんですよ。それこそ出勤も感染症のリスクはもちろん、移動コスト、環境負荷、都市と地方の格差などさまざまな弊害を生んできたわけですから」
──リモートだとついサボってしまう、という悩みを抱える人も多いようですが。
「サボるという概念が良くないんですよ。出社を含めて8時間かかっていたことが3時間で終われば、残り5時間は好きに使っていい。そういう思考になれば、自分にとってどんな方法が向いているかわかりますよね。また、経営者や管理職は、従業員がタスクを終えても次の仕事を渡さないことが重要です。従業員に働き方や時間の使い方の裁量権を与えることで、生産性は格段に上がります」
──本書で触れられていますが、勝間さんがお仕事をしているリビングには20台の端末があるとか。
「パソコン3台、スマホ3台、タブレット6台などがあります。端末も最近はずいぶん安くなりましたしね。この環境はあくまで私にとっての最適解だったわけで、誰しもが当てはまるとは思いません。ただ『初期設定にお金と時間を投資することで、その後の運用を楽にする』という思考そのものは、すべての方に通じると思います」
──自分にとっての最適解を見つける上で、重要なプロセスとはなんでしょうか?
「自分の特性を知ることは大事ですね。たとえば私は軽度の発達障害の特性として注意欠陥の傾向があるんです。そのため、しょっちゅうモノにぶつかったり、転んだり、モノをなくしたりするんですね。それが自分の大前提だとわかっているため、スマホは片方なくしても大丈夫なように常に2台持ち歩いています。買い物もなるべくネットで。ログが残るので、ダブって買ってしまうこともずいぶんなくなりました」
──発達障害の診断に悩む人もいますが、自分の特性を知れば対処もできるという前向きな捉え方をされているわけですね。
「勘違いされている方も多いんですが、発達障害というのはいわゆる"障害"ではなく、脳の配線が平均よりも偏りがあるだけ。偏りや度合いは人それぞれで、私は軽度なので投薬は必要ないのですが、診断で必要とされたら投薬治療は積極的に受けたほうがいいと思います」
■「発達障害の薬を飲んでいるということを言えないという風潮は変」
──それも自分の体の特性を知り、快適に保つための対処であると。
「そうですね。ちなみに私は10歳のときに盲腸を患って以来、右側の腸がうまく機能していないため、自然排便は一生厳しいと診断されました。そのため、過酸化マグネシウムを毎日飲んでいるんですね。数年前にすごくいい先生に出会えたことで腸内環境がさらに改善され、余計なことでイライラしなくなりました」
──最近、勝間さんの雰囲気が柔らかくなったのは腸内環境のおかげだったんですね。
「人間、お腹の具合が悪いとイライラしがちですからね。──というふうに、腸の治療や投薬をしていることは大きな声で言えるのに、発達障害の薬を飲んでいるということを言えないという風潮は変だと思うんですよ」
──発達障害の認識もアップデートさせていかなければいけないですね。
「発達障害の傾向がある人は意外と多くて、人口の2割くらいと言われているんです。そして、良くも悪くも現状の環境に適応できなかったからこそ、その人たちはイノベーションを起こしてきたんです。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツにもその傾向があると言われていますが、発達障害のないイノベーターを探すほうが難しいのではないでしょうか」
──勝間さん自身も、ご自身のADHDの特性が奏功したと思い当たることはありますか?
「私には注意欠陥の傾向があるんですが、それは常に考え事をしているからなんです。その表裏として、どうやら物事にとらわれない発想をするみたいなんですね。以前、『クイズ・ソモサン・セッパ!』(フジテレビ系)という発想系のクイズが山ほど出る番組でグランドチャンピオンになったことがあるんですけど、『なんで答えがわかるの?』と聞かれても、わかるからわかるとしか言えないんです(笑)。それと同じことで、モノをなくすのも『なくすからなくす』だけ。それに適応したライフスタイルを構築すればストレスはありません」
──自分に適したライフスタイルを構築するためには、まず何から始めることをオススメされますか?
「困ってることがあったら、どんどん質問しましょう。Google検索なども優秀ですから、話し言葉で質問すれば関連記事がずらっと出てきます。友人との雑談ではもちろん、SNSでもどんどんアドバイスを求めればいいんですよ。SNSに不安を感じる人もいるかもしれませんが、もしも変なことを言う人がいたら、すかさずブロックです。変な人が向こうから歩いて来たら、ぶつからないようによけるじゃないですか。それと同じことです。世の中の98%はまともな人であって、2%のおかしな人にストレスを感じるのは損ですよ(笑)」
(文:児玉澄子)
発達障害とは、生まれつきの中枢神経系の機能障害が原因で、ものごとを認知する力やコミュニケーション、注意力などに偏りや問題が生じること。
長年、乳幼児や小学生などの問題として扱われてきたが、実は年齢を重ねても根本的な機能障害にはあまり変化がなく、治療も困難なため、最近では、乳幼児から大人まで、幅広い世代が抱える問題としてクローズアップされるようになってきた。
こうした流れを受けて、今、大学でも発達障害を抱えた学生の支援に向けた取り組みが始まっている。「大学に進学できる学力があるのに発達障害?」という疑問もあるかもしれないが、これは大きな誤解。
例えば、発達障害のためにコミュニケーションに困難があっても試験の成績は優秀といったケースは決して珍しくはないのだ。そのため、大学に進んでから困難にぶつかり、そこで初めて発達障害に気づくこともよくある。
発達障害に詳しい信州大学教育学部の高橋知音(ともね)教授はこう話す。
「日本学生支援機構が2012年に発表した調査によると、大学が把握する発達障害の診断が出ている大学生は1000人以上。発達障害の学生がいる大学は全体の約4割に上ります。しかし、診断を受けていないケースも加えれば、人数ははるかに多いはず。ほぼすべての大学に発達障害を抱えた学生がいるだろうとみています」
では、現実にはどのような問題があり、大学はどのような対策を取っているのか?
「例えば、大学では課題に対して自分の考えをまとめるレポートや自分でテーマを決めて行う研究、さらにディスカッション、グループワークなどが多くなりますが、これらの場面で困難が生じるケースがあります。また、ちょっとした音に気を取られて授業に集中できない、自分で履修計画を立てられないなど、発達障害によって生じる問題は人によってさまざまです。
そのため、大学側も一律の対策は難しい。少なくとも、一人ひとりの問題を把握し、教員などと連携してサポートにあたる専門の支援担当者を配置することが必要です。一部の先進的な大学では取り組みが始まっていますが、全体的にはまだこれからといった段階ですね」(高橋教授)
入学試験、授業方法、成績評価などさまざまな面での支援が必要になるが、もう一つ重要なのが学生仲間の理解。
「例えば、運動音痴とかや歌が下手とか誰にでも苦手なことはありますよね。発達障害は、それがたまたまコミュニケーションなどの面に表れているに過ぎないのです。特別視するのではなく、まずは誰もがもっている個性の一つとして受け入れ、必要なときはさりげなく手を貸すという姿勢が大切です」(高橋教授)
高校でも、大学に進学しても、発達障害は実は身近な問題。仲間として理解・支援をするためにも、まずは知ることから始めてみよう。
状況に合わせた行動や人間関係の築き方がよく分からず、何かに夢中になると他のことができなくなる……それらが原因で日常生活での支障を感じ、大人になってから「発達障害かもしれない」と不安になる方もいるようです。ここでは成人期に診断されることのある発達障害の一つ、「自閉スペクトラム症」の概要を説明します。そして、発達障害の可能性に気づいた時に参考にしていただきたい情報をお伝えします。
求められている言動がわからない…心当たりをセルフチェック
人間関係や社会生活においては、場の雰囲気や他人の気持ちを推測しながら、その都度求められる行動を自分で判断して遂行しなければならない場面が多いものです。しかし、そうした行動をとることがとても難しく、人間関係や社会生活に困難を感じている方もいます。
こうした特性を感じつつも、大きな支障を感じずに日常生活や社会生活が送れているのなら、特段の問題はないでしょう。しかし、周囲から求められていること、やるべきことが分からずに戸惑うことばかりが増え、自信を失っている方もいるかもしれません。
たとえば、次のような状況で困った経験が、たびたび生じていないでしょうか?
•「相手の気持ちを想像してください」「周りに合わせましょう」「相手の顔色を見て判断してください」と言われても、どうすればいいのかよくわからない
•「マナーを守りましょう」「常識で考えてください」「場に応じた行動をしましょう」と言われても、どうすればいいのかよくわからない
•自分の考えを言っただけで、「今ここで、それを言うのはおかしい」とよく注意される
•「今のは冗談だよ」と言われても、何が冗談にあたるのかが分からないことが多い
•「たとえ話」を交えながら説明をされると、意味が分からなくなることが多い
•一つのことに夢中になるとあっという間に時間がたち、やるべきことが手につかないことがよくある
•話したいことを話し始めるとたびたび怪訝な顔をされたり、話を制止されたりする
•自分なりに考えて作業をすると、失敗して注意されることが多い
•人混みや騒音の多い場所にいると、とても苦痛で仕方がなくなる
•「周囲に比べて作業や仕事が進んでいない」と言われることが多い
子どもの頃からこれらの例の多くに心当たりがあり、たびたび困ったことがあったり、今も困っていたりする場合、自分の努力不足のせいではなく、脳の発達の特性に原因がある可能性もあります。
自閉スペクトラム症とは……コミュニケーションが困難でこだわりが強い
たとえば、神経発達に特定の偏りを持つ発達障害の中に「自閉スペクトラム症」(自閉症スペクトラム障害)というものがあります。かつては「アスペルガー症候群」と呼ばれていたものも、ここに含まれます。
自閉スペクトラム症とは、社会的コミュニケーションと対人的相互反応が難しく、行動や興味の限定された反復的な様式を特徴としています。人との会話や非言語的なやりとり、人間関係の発展・維持などが苦手、特定の物事や行動、習慣に強いこだわりがある、感覚が過敏あるいは鈍感、などの顕著な特徴を幼少期の頃から持ち、学校生活や社会生活を送る上で困難が生じるものです。
自閉スペクトラム症では、知的能力障害を伴っていない方も少なくありません。そのため、勉強が得意で学校の中でおとなしく生活してきた方の中には、学校生活や人間関係でのトラブルが目立つことが少ないため、親や教師、そして本人も発達特性に気づかずに成長している方がいます。こうした方の中には、青年期、成人期になって進学先の環境や就職先の環境にうまく適応できないことで初めて、発達障害の特性に気づいていく方もいます。
では、なぜ青年期、成人期になってから発達障害の可能性に気づくことがあるのでしょう? たとえば、大学生活や就職先の環境においては、あいまいな指示や複雑なルールの中からとるべき行動を推測したり、分からないことを周囲の人に尋ねたりしながら、物事を進めていかなければならない場面が、子どもの頃よりも格段に増えていきます。また、状況に応じて臨機応変に対応をしたり、周囲の人との人間関係を築きながら役に立つ情報を入手し、適当な段取りを考えて実行しなければならない場面も格段に増えていきます。
周囲の人はこうした状況に適応しているのに、自分はどのように行動すればよいのかがわからず、学校生活や社会生活を送る上での支障が生じていく。そして成人になってから、親や本人が「そういえば、子どもの頃から似たようなことがたびたびあった。それらも発達特性によるものだったのかもしれない」と気づく場合もあるのです。
まずは情報を集め、医療機関や相談窓口で相談を
発達障害の可能性を感じ、学校生活や社会生活を送ることに困難を感じている場合には、自分の特性が発達障害によるものなのかどうか、自分はどのような行動が得意で何が苦手なのか、といったことを詳しく知ることによって、生活に積極的に取り入れるべき工夫、自分が必要とするサポートに関する情報も知ることができます。
そのためにはまず、自分の年齢に応じた発達障害の診断ができる医療機関を受診するのが有効です。診断できるのは医師のみですので、憶測で判断せず、医療機関で医師の診察と専門的な検査を受けることが重要です。医療機関は、地域の保健センターや保健所に問い合わせて教えてもらってもよいでしょうし、インターネットや口コミで情報を集めて、直接医療機関に問い合わせてもよいでしょう。
また最近では、各年代の発達障害に特化した書物もたくさん発行されていますし、インターネット上には発達障害を理解するためのサイトがたくさん公開されています。そうしたものを利用すると、自分に適した医療機関や相談機関の情報が見つかるかもしれません。
たとえば、国立障害者リハビリテーションセンターの「発達障害情報・支援センター」のサイトでは、発達障害を総合的に理解するための情報が公開されています。
また、地域の障害福祉課などを訪ねると、公的な相談機関・支援機関の情報を入手することができます。また、NPO、市民グループ等によるさまざまな支援活動も増えています。相談できる場所は必ずありますので、まずはぜひ情報を集めてみてください。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
ある日、突然、天井がグルグル回るような激しいめまいに襲われる-。女優の美保純も悩まされた耳の病気。国内の患者数は推定7-10万人といわれるが、特に仕事でストレスを抱える中高年に起こりやすい。
“うつ病”の合併も増えているので早期受診と対策が肝心だ。
【繰り返す“グルグル、ゲロゲロ”の発作】
強い吐き気や嘔吐をもよおす“めまい”は強烈。めまいが起きている間、片側の耳に耳鳴りや難聴を伴うのが典型的な症状の現れ方だ。
しかも、めまい発作は1回だけではない。これを引き金に過労、ストレス、睡眠不足になると何回も繰り返すようになるからたまらない。
めまいに詳しい東京厚生年金病院耳鼻咽喉科の石井正則部長は、「発作は内耳の中を流れる内リンパ液が過剰に作られ、内耳全体が水膨れ状態になるため。しかし、その原因は分かっていません」と説明する。
寒冷前線の通過前後、寒暖の差、高湿度、季節の変わり目など気候や気圧の微妙な変化でも発作が起こりやすくなるのも特徴だ。
【難聴の回復は受診の早さがカギ】
ただ、少し症状の出方が違うタイプもあるので要注意。耳症状にだけ現れる「蝸牛型メニエール病」、めまいだけが現れる「前庭型メニエール病」があり、1-3割程度が繰り返すうちに本格的なメニエール病に移行する。
いずれにしても、メニエール病を未治療のまま放置していると発作のたびに難聴が悪化して元に戻らなくなる。
「とにかく発作から治療を受けるまでの時間が早いほど難聴は治りやすい。遅くても2週間以内がリミットです」
治療では、症状に合わせた薬物療法が基本になる。が、発作を予防するためにはストレス解消や睡眠の管理などセルフコントロールが重要になることはいうまでもない。
【うつ病の合併が増加】
生活習慣の見直しができず、ストレスの回避もできないでいると発作を繰り返すことになる。加えて、「うつ病を合併する中高年が非常に増えている」と石井部長はいう。
そのため、最近では薬物療法とともに運動療法にも重点が置かれるようになってきている。
具体的には1日1回、40分以上のウオーキング。加えて、可能なら自分の好きなスポーツを最低週1回以上、理想は週2-3回やってしっかりガス抜きをすることだ。
ただ、時間に追われるサラリーマンや毎日の運動が難しい人には、自律神経系のバランスを整えるためにも“ヨガ”をすすめている。
「メニエール病は一生の病気といわれるが、ストレスと環境にうまく対応できていれば発作が起こることはありません」
目の回る忙しさでも、息抜きだけは忘れずに。
★「メニエール病」チェックリスト
□突然、周囲がグルグル回転するような激しいめまいが起こるようになり、繰り返す
□回転性のめまいは20分ぐらいから数時間続く
□めまい発作と同時に片耳に耳鳴りや難聴(低音部)を伴う
□強い吐き気や嘔吐を伴う
□首や肩のこり、頭痛、頭重感を伴う □発作の前に片耳に耳閉感があった
3つ以上該当すれば可能性が高い
※東京厚生年金病院耳鼻咽喉科(東京・新宿)/石井正則部長作成
せっかく味覚を台無しにしてしまうのが、この病気の憎いところ。「味が薄く感じる」も症状のひとつ。放置したままでは塩分の取り過ぎから高血圧など生活習慣病の悪化につながる。早期発見で、“美味しい生活”取り戻そう。
【年間24万人が発症】
この病気の症状は、食べ物の本来の味を正確に感じ取れなくなること。患者数は増加を続け、2003年調査の時点では年間24万人。現在では、さらに多くの発症者いると考えられている。
人は甘味や苦味など5種類の味を舌に分布する“味蕾(みらい)細胞”によってキャッチ、神経を通して脳に伝えられ感じ取る。この経路に何らかの障害が起こると味の感覚がおかしくなる。
「原因の30%を占め、最も多いのは偏食による亜鉛の摂取不足」と話すのは、味覚障害に詳しい冨田耳鼻咽喉科医院(東京・練馬)の冨田寛院長。
味蕾細胞は新陳代謝が早く、1カ月ほどで新しく生まれ変わる。が、そのとき欠かせない重要な栄養素が亜鉛なのだ。
【糖尿病、高血圧患者は要注意】
亜鉛は、カキ、ゴマ、レバー、うなぎのかば焼き、アーモンド(種子類)などに多く含まれているミネラル成分。本来、成人男性が1日に取るべき目安は11-12ミリグラムだが、平均値9ミリグラムが現状だ。
さらに体内の亜鉛を減らす原因になるのは常用の薬。
「主に高血圧、高脂血症、糖尿病、前立腺肥大などで処方される240種ぐらいの薬剤が亜鉛と結びつき吸収を阻害することが分かっている」
加えて、多くの加工食品に日持ちをよくするために添加されている「ポリリン酸」や「フィチン酸」にも亜鉛の吸収を妨げる作用がある。
よほど意識して摂取しない限り、気づかず亜鉛不足に陥る要因は身の周りにいっぱいだ。
【「薄味だな」は黄色信号】
また、肝臓、腎臓、甲状腺の病気、糖尿病、うつ病など、基礎疾患の症状の1つとしても味覚障害が現れることがある。他の病気のシグナルとしても見逃せない。
まずは味の異常がどんな原因で引き起こされているのか、味覚の検査をやってくれる専門施設(主に耳鼻咽喉科)で調べてもらうことが大切。放置すると治りが悪くなるだけでなく、塩分や糖分を取り過ぎて知らずに生活習慣病を悪化させる恐れがある。
基礎疾患があれば、その治療が優先だが、単に亜鉛不足だけなら食事指導と亜鉛の投与で7割の人は半年ぐらいをメドに改善するという。
「とくに男性は味に無頓着の人が多い。基本的に外食の味付けは濃いので薄く感じたら要注意です」と冨田院長。
毎日食べている安いランチ、本当はもっと美味しいのかもしれない。
★「味覚障害」チェックリスト
□何を食べても薄味に感じる
□食事をすると砂を噛むような感じがるす
□何を食べても美味しくない、嫌な味がする
□本来の味とは違う味に感じる食べ物がある
□ある特定の味が分からない
□普段から口の中に苦味や渋味を感じる
□日常的に口の中が渇く
□舌がヒリヒリ痛む
1つでも該当すれば疑いがある
※冨田耳鼻咽喉科医院(東京・練馬)/冨田寛院長作成
ウイルス性肝炎の影響で増え続けている肝がん。その治療では、特殊な針を刺してがんを焼灼するラジオ波焼灼療法や、がんにつながる血管を塞ぐ肝動脈塞栓術などが広く普及しているが、かつては外科的手術しか根治できなかった。
また、血管が張り巡らされた巨大な臓器ゆえに、早期の肝がんを見つけるのも困難。それを打破したのが、近畿大学医学部附属病院消化器内科だ。肝がんの早期発見と治療において、世界に先駆けた方法を開発し、リーダーとして君臨している。
「最先端医療を行えば行うほど、問題点がはっきりと見えて、ふとアイデアが浮かぶのです」
こう話す同科の工藤正俊教授は、これまで数々の診断法や治療法を生み出し、標準技術として世に広めている。たとえば、肝硬変が進んだ状態の肝がんを手術で切除する場合には、正常な肝機能をできるだけ残す必要がある。
どこまで切除できるのか。その肝機能の予備力を診断できる方法を見いだし、1989年にノーベル医学賞につながる米国核医学会バーソン・ヤロー賞を受賞した。
また、99年には日本初のラジオ波焼灼療法を成功させ、これまで3000例以上に行っている。肝動脈塞栓術は4000例以上。肝がんの早期発見法として、2007年には新たな造影超音波検査法も開発した。
「5ミリ程度の肝がんは、超音波だけでは見つかりにくい。07年に承認された造影剤を2回用いると、再発したがんだけでなく、小さながんも100%見つかる」(工藤教授)
微小の肝がんを見つける方法はそれまでなかっただけに、学会で発表したところ大反響を呼んだという。今では、その造影剤を使える医療機器があれば、どこの病院でも行える検査法となっている。
新たに見いだした検査法や治療法を瞬く間に広めてしまう“工藤マジック”。昨年には、北米肝臓学会で日本人としては20年ぶりに講演を行うなど、国内外での活動で休む暇もないほど。しかし、工藤教授は、「診断も治療も現状に満足していない」ときっぱりいう。
「今取り組んでいるのは、肝がんに対する分子標的薬です。がん細胞内のシグナル伝達を遮断する化学療法で、余命数カ月の肝がん患者さんを助けることができる。効く人と効かない人を見極めているところです」
治療や診断で壁にぶつかっても、元気になった患者の笑顔を支えに、乗り越え続ける。肝がんで亡くなる人がゼロになるまで、工藤マジックに終わりはない。
<データ>2008年実績
★ラジオ波焼灼療法405件
★肝動脈塞栓療法332件
★動注化学療法102件
★造影超音波検査620件
★インターフェロン治療(新規導入件数)251例
★病床数985床
〔住所〕〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東377の2
(電)072・366・0221
人気歌手・絢香(21)が俳優・水嶋ヒロ(25)との結婚会見で罹患を告白。故・田中角栄元首相も持病だったことで知られ、男性でも少なくない甲状腺の病気。放置したままだと心房細動(不整脈の一種)を起こして心不全や脳梗塞などを招く恐れもあるので要注意だ。
【常にジョギング状態】
「バセドー病」は、喉仏の下に付いている甲状腺の機能が亢進して“甲状腺ホルモン”を過剰に分泌してしまう病気。原因は甲状腺を刺激する抗体が体内に作られるためだが、なぜ作られるのかは分かっていない。
「特に発症のキッカケになる誘因はなく、誰に起きてもおかしくない。ただ、遺伝的な素因も関係するので、橋本病など含めて甲状腺疾患の人が血縁者にいたら注意した方がいい」と話すのは、バセドー病に詳しい「虎の門小澤クリニック」(東京・西新橋)の小澤安則院長。
甲状腺ホルモンは脳、心臓、消化器官、筋肉など全身に作用し新陳代謝を活発にする働きがある。過剰になると、動かなくても常にジョギングしているようなエネルギー消費が激しい状態になるのだ。
【2-3割に眼球“異変”】
田中角栄氏(クリックで拡大) 特徴的なのは、汗をかく、動悸、イライラなどのホルモン過剰で起こる症状の他に、甲状腺が腫れて大きくなる(甲状腺腫)こと。また、すべてではないが2-3割に眼球の突出が目立ってくる。
「眼球の後ろの脂肪組織や筋肉が炎症やむくみで体積が増えるため、眼球が押し出されてくる。物が二重に見えたり、結膜の充血などの症状(バセドー眼症)が現れる」
加えて1-2%だが、男性だけに起こる症状もある。休んだ後に手足が動かなくなり、数時間内に自然と治る発作を繰り返す「周期性四肢マヒ」。目立つほどではないが、胸が女性のように膨らんでくる「女性化乳房」だ。
【放置すると心不全のリスクも】
治療で目指すのはホルモン分泌量を正常値にコントロールし続け、薬がなくても正常域となる「寛解(かんかい)」の状態に持ち込むこと。多くは「抗甲状腺薬の内服」で行うが、副作用や甲状腺が大きい、再発が多いなどの問題があれば「手術(摘出)」や「アイソトープ治療(放射線ヨード内服)」が検討されるのが一般的だ。
この病気で最も怖いのは未治療での放置やコントロール不良。動悸や頻脈は心房細動に発展し、心不全に進むリスクが高まる。また、手術や感染症などの合併があると「甲状腺クリーゼ」という状態になることがある。高熱、激しい頻脈、意識混濁などを起こして致死率も高い。
「他の疾患と間違って治療されているケースもある。鑑別・治療は甲状腺の専門医に診てもらうべき」と小澤院長。
汗かきでじっとしていられないアグレッシブな人、要チェックだ。
【「バセドー病」チェックリスト】
□暑がりで汗を多くかく
□動悸がする、脈拍が早い
□疲れやすく、体がだるい
□便がゆるくなった
□落ち着きがなく、イライラする
□手が震える
□食べているのに痩せてきた
□眼が大きく出てきた
□喉仏の下の辺りが腫れてきた(甲状腺腫)
思い当たる項目が多ければ可能性がある
*虎の門小澤クリニック/小澤安則院長作成
「いまの職場の状況を考えると“頭が痛い”」と嘆いているようなら要注意。皇太子妃雅子さまの診断発表で広く知られるようになった病気だ。が、職場環境が変わりやすいサラリーマンなら誰が罹ってもおかしくない。我慢のし過ぎは禁物だ。
【職場環境の変化から1カ月以内に発症】
症状は“軽症うつ病”に似ていて区別がつきにくい。が、決定的な違いは発症の原因となっているストレス(出来事や生活の変化など)が自分でハッキリと分かっていることだ。
それが職場であれば、内勤と外勤の異動などの「環境の変化」。昇格して部下ができる、降格して後輩と肩を並べるなどの「立場の変化」。異動や転勤して特定の人と反りが合わない、転職で希望の職種に付けなかった場合などのケースがある。
「とくに公務員はまったく業務内容が違う課に異動することがあるので多い。また40代以上ではパソコン操作が強いストレスになる場合もある」と話すのは、日本精神神経科学会理事を務める「池上クリニック」(川崎市)の池上秀明院長。
その環境や業務内容にうまく適応できない、なじめないことで1カ月以内に症状が現れる。
【「異常なし」でも安心できない】
チェックリストは典型的な症状だが、「抑うつ気分」など“心の症状”だけが出ることもあれば、「頭痛」や「下痢」など“身体の症状”だけが強く出るケースもある。
とくに身体症状だけだと、精神科・心療内科以外の診療科を受診しても「異常なし」を告げられる。不定愁訴から自律神経失調症や更年期障害などと診断され、見逃されているケースも少なくないので要注意だ。
「放置したままでは本格的な“うつ病”に移行する。診断基準では症状が6カ月を超える場合や原因を取り除いて6カ月以内に治らない場合には本格的なうつ病と考えられます」
性格的には、真面目で我慢強い人ほど罹りやすいといわれる。
【原因の除去は難しい】
治療で処方される抗うつ薬や抗不安薬を服用していれば症状は軽減する。が、あくまで対症療法なので、根本の原因である“環境”を変えなければ完治することは難しく、症状の再発、うつ病への移行は止められない。
だが、原因が職場にあるような場合には、いくら診断書を提出して担当医が説明しても、1人の社員の病状に合わせて会社側が人事を見直したり、早急に対応して動くことは現実的には難しい。また、それで確実に治るとも言い切れない。
「結局、うまく休養を取り、精神的疲労を癒やしながら様子を見ていくしかない。が、会社にはこの病気を十分理解してもらうことが非常に大切になる」と池上院長。
組織で働く限り、誰にでもリスクはつきまとう。たまには、心の健康管理にも目を向けよう。
★「適応障害」チェックリスト
□憂うつである(抑うつ気分)
□やる気が起きない
□現状の生活に嫌気がさした
□職場が合わないと思っている
□職業選択を間違えたと感じる
□思うように仕事が進まない
□頭がぼんやりする
□頭痛がする
□吐き気がする
□体がだるい(倦怠感)
□下痢が続いている
何かハッキリとした気にかかるストレスがあって、1カ月以内に該当する複数の症状が現れたら疑いがある
*池上クリニック(川崎市)/池上秀明院長作成
「いまの職場の状況を考えると“頭が痛い”」と嘆いているようなら要注意。皇太子妃雅子さまの診断発表で広く知られるようになった病気だ。が、職場環境が変わりやすいサラリーマンなら誰が罹ってもおかしくない。我慢のし過ぎは禁物だ。
【職場環境の変化から1カ月以内に発症】
症状は“軽症うつ病”に似ていて区別がつきにくい。が、決定的な違いは発症の原因となっているストレス(出来事や生活の変化など)が自分でハッキリと分かっていることだ。
それが職場であれば、内勤と外勤の異動などの「環境の変化」。昇格して部下ができる、降格して後輩と肩を並べるなどの「立場の変化」。異動や転勤して特定の人と反りが合わない、転職で希望の職種に付けなかった場合などのケースがある。
「とくに公務員はまったく業務内容が違う課に異動することがあるので多い。また40代以上ではパソコン操作が強いストレスになる場合もある」と話すのは、日本精神神経科学会理事を務める「池上クリニック」(川崎市)の池上秀明院長。
その環境や業務内容にうまく適応できない、なじめないことで1カ月以内に症状が現れる。
【「異常なし」でも安心できない】
チェックリストは典型的な症状だが、「抑うつ気分」など“心の症状”だけが出ることもあれば、「頭痛」や「下痢」など“身体の症状”だけが強く出るケースもある。
とくに身体症状だけだと、精神科・心療内科以外の診療科を受診しても「異常なし」を告げられる。不定愁訴から自律神経失調症や更年期障害などと診断され、見逃されているケースも少なくないので要注意だ。
「放置したままでは本格的な“うつ病”に移行する。診断基準では症状が6カ月を超える場合や原因を取り除いて6カ月以内に治らない場合には本格的なうつ病と考えられます」
性格的には、真面目で我慢強い人ほど罹りやすいといわれる。
【原因の除去は難しい】
治療で処方される抗うつ薬や抗不安薬を服用していれば症状は軽減する。が、あくまで対症療法なので、根本の原因である“環境”を変えなければ完治することは難しく、症状の再発、うつ病への移行は止められない。
だが、原因が職場にあるような場合には、いくら診断書を提出して担当医が説明しても、1人の社員の病状に合わせて会社側が人事を見直したり、早急に対応して動くことは現実的には難しい。また、それで確実に治るとも言い切れない。
「結局、うまく休養を取り、精神的疲労を癒やしながら様子を見ていくしかない。が、会社にはこの病気を十分理解してもらうことが非常に大切になる」と池上院長。
組織で働く限り、誰にでもリスクはつきまとう。たまには、心の健康管理にも目を向けよう。
★「適応障害」チェックリスト
□憂うつである(抑うつ気分)
□やる気が起きない
□現状の生活に嫌気がさした
□職場が合わないと思っている
□職業選択を間違えたと感じる
□思うように仕事が進まない
□頭がぼんやりする
□頭痛がする
□吐き気がする
□体がだるい(倦怠感)
□下痢が続いている
何かハッキリとした気にかかるストレスがあって、1カ月以内に該当する複数の症状が現れたら疑いがある
*池上クリニック(川崎市)/池上秀明院長作成
プロ野球の王貞治前監督、政治家の鈴木宗男氏、夫婦漫才の宮川花子など有名人の罹患も度々。日本で最も多い“がん”(新規患者が年間約10万人)だが、早期なら9割は治療で完治する。とくに40歳を過ぎたら内視鏡検査は必須。ピロリ菌退治にも目を向けよう。
【企業健診で発見増加】
チェックリストにある胃症状は普段の飲み過ぎ食い過ぎでもよく起こる。しかも、もし胃がんが原因で出現しているのなら、すでに“進行がん”の疑いありだ。
「早期で見つかる多くのケースは健診。内視鏡で切除できるがんなら5年生存率95%以上、ほとんど治ります」と定期健診での内視鏡検査の重要性を話すのは、平塚胃腸病院(東京・池袋)の佐藤健副院長。
同院の胃がん手術の70-80%は内視鏡切除。それだけ企業健診での内視鏡検査実施の要望が多くなり、着実に早期発見が増えているという。
とくに男性の罹患率が急速に高まるのが40代から。塩分の多い食事、アルコール、タバコなどの刺激物はリスクになるので要注意だ。
【10倍以上のリスク】
もうひとつ、解明されつつあるのが胃の粘膜に住みつき胃・十二指腸潰瘍の原因になるピロリ菌のリスク。北海道大学が、治療後の早期胃がん患者を除菌した臨床研究で「除菌すれば胃がんの発生が3分の1になる」と発表。九州大学の調査では、ピロリ菌感染に喫煙が加わると胃がんリスクが11倍に跳ね上がることが報告された。
「ピロリ菌が直接がんを発生させるのではないが、長く感染していると胃粘膜ががんのできやすい状態(萎縮性胃炎)に変化してしまう」
乳児期に感染するピロリ菌の感染率は、いまの若い世代は低いが40歳以上になると7割、約5000万人が感染しているといわれる。
【丈夫な胃でも危険】
胃がん予防のための検査・除菌は保険適用外(全額実費)だが、検査は息を吐く呼気検査だけでわかる。陽性なら3種類の薬剤を1週間飲み続ける除菌治療を早めに受けておいた方がいい。
ただ、除菌で将来のリスクは減らせても、胃粘膜が元に戻るわけではなく除菌前に負ったリスクは残るので要注意。
また、自分はピロリ菌検査が陰性、しかも昔から胃は丈夫な方だと思い込んでいる人でも油断は禁物だ。
「ピロリ菌がいない胃にがんが発生する場合には、早い段階で広がる悪性度の高いタイプ(未分化がんなど)ができやすい」と佐藤副院長。
結局、誰でも胃袋を直接のぞく内視鏡での監視が重要。できれば年1回は受けておきたい。
★「胃がん」チェックリスト
□胃もたれやむかつきなどみぞおちに 不快感がある
□胃がチクチク痛むことがある
□食欲不振が続いている
□吐き気が続いている
□塩辛や漬物などしょっぱいものが好 きでよく食べる
□お酒を毎日のように飲んでいる
□喫煙習慣がある
□野菜や果物が嫌いであまり食べない
□親兄弟に胃がんになった人がいる
□40歳以上でピロリ菌の検査を受けて いない、または陽性で除菌治療を受 けていない
該当項目が多いほどリスクが高い。40歳以上なら内視鏡検査を受けておこう
*平塚胃腸病院(東京・池袋)/佐藤健副院長作成
臓器や組織の一部が脱出するヘルニア。食道と胃の間を仕切る横隔膜から胃袋が飛び出すのがこの病気だ。典型的な症状は“胸焼け”だが、がんの症状と重なるところがある。X線や内視鏡で早めの鑑別が重要だ。
【2人に1人は胃脱出】
「食道裂孔(れっこう)」とは、食道を通すために横隔膜に開いた孔(あな)で、本来、食道の括約筋はこの位置にあって胃からの逆流を防止する弁の役目を果たしている。
胃の飛び出し方(食道側へ)には2種類あり、大多数の85%を占めるのが「滑脱型」。食道の括約筋の部分が、そのまま上にあがってしまい胃が飛び出している状態だ。
「最近の日本内視鏡学会の報告では、日本の成人の半数、2人に1人が滑脱型の病態をもち、うち半数に症状がある。つまり、成人の4人に1人が食道裂孔ヘルニアによる何らかの症状をもっている」と話すのは、町田市民病院(東京)の外科部長を務める羽生信義副院長。
もう1つの型は、括約筋は横隔膜の位置にあるが胃だけが風船のように飛び出す「傍(ぼう)食道型」。「滑脱型」は40代から増え、「傍食道型」は高齢女性に多い。
【肥満が最大の原因】
括約筋の閉まりが悪くなるので、症状は胃酸などが逆流する「胃食道逆流症」やびらんや潰瘍ができる「逆流性食道炎」そのもの。主に胸焼け、逆流感。横になって胃酸が喉の辺りにくれば、咳や苦味、声がれなどの症状が出ることもある。
傍食道型の場合には、胸の圧迫感、胃の辺りのつかえ感、出た胃が心臓を圧迫すれば長時間の歩行困難なども起こる。
胃が飛び出す最大の原因とされるのは肥満。過度の腹圧がかかるからだ。
「一種の生活習慣病。20年前は日本人の逆流症や食道炎の頻度は5%以下といわれていた。この間で欧米に追いついた」
男女比も女性が2倍多いといわれたが、いまでは若干男性の方が多い。
【がんの見落とし注意】
といっても、症状がなければ治療の必要はない。治療のケースは症状が強く、生活に支障をきたすとき。滑脱型では、胸焼けなどには胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬の服用、逆流がひどければ手術でヘルニアを治す選択肢もある。
ただ、傍食道型では脱出部分の血流が止まって胃が腐るとショック死や大出血を招く恐れも。
「最も重要なのは、症状があったら早く検査で原因を確認すること。この症状は喉頭、咽頭、食道のがんでも現れる。欧米では食道がんの半数は食道炎を併発しています」と羽生副院長。
ありふれた症状でも頻発したら要注意だ。
【「食道裂孔ヘルニア」チェックリスト】
□胸に痛みや灼熱感がある(胸やけ)
□胃からの逆流感がある
□胸につかえ感がある
□横になるとむせて咳が出る
□朝起きると喉に苦味や違和感がある
□朝起きて声がかれている
□胃の辺りにつかえ感がある
□胸に圧迫感がある
該当する症状がいくつかあれば検査を受けて病気の鑑別をしてもらいましょう
*町田市民病院(東京)・消化器外科/羽生信義部長
生涯にかかる確率は、男女差なく約100人に1人。いまだ原因は解明されてなく、精神疾患の本丸といえる病気だ。本来、20歳前後の青年期の発症が典型的だが、近年は30歳以降の初発が増えてきて珍しくなくなっている。
特有の症状として、幻覚・幻聴や被害妄想などの「陽性症状」が目立つ。が、実際、中核となるのは口数が減り元気がなくなり引きこもりがちになる「陰性症状」だ。
表は自己チェックの目安だが、この病気の自覚は難しい。
当人が項目内容を訴えたり、周囲からみて「ブツブツ独り言をいう」「周囲に怯えている」「作業の低下」「不登校・欠勤」などのサインに気づいたら、とにかく受診させることが重要。
「幻聴や被害妄想に支配されると、死にたくなくても『死ね』と聴こえれば自殺行為をせざるを得ない。
また、自分を守るため『加害者である』と思い込んだ相手に危害を加えてしまうことがある」とクリニック西川・西川嘉伸院長(精神科専門医)は警告する。
発症から数年内であれば治療効果は高く、それだけ社会復帰も早い。治療のポイントは抗精神病薬をしっかり飲み続けること。症状は数カ月で消えてよくなるが、服用を途中でやめると再発率が高い。
治療はじっくり気長に、家族や職場の理解とあたたかく見守るサポートが大切だ。
★「統合失調症」チェックリスト
(1)姿がないのに自分に話しかけてくる声が聴こえる
(2)誰かに監視、盗聴、盗撮、尾行されている
(3)考えていることが声になって聴こえたり、他人に漏れ伝わってしまう
(4)自分の言動が他の力に操作されている
(5)考えがまとまらない
(6)すごく不安で憂うつだ
(7)やらなければ、と思うが行動できない
(8)周りの人が自分を陥れようとする
(9)眠れない、寝てもすぐに目が覚める
(10)食欲がない
3つ以上該当なら精神科専門医への受診が必要
「クリニック西川」(東京・大塚)の西川嘉伸院長作成
罹患者600万人ともいわれ、呼吸器疾患で最も多い病気。その多くは40代からの大人の発症だ。ひとたび発作が起きれば咳や息苦しさで「死ぬのでは…」と恐怖感に襲われる。
重要なのは、糖尿病や高血圧などと同様“慢性疾患”と理解して、病気を上手にコントロールすることだ。
【“止まらぬ咳”で窒息も】
最大の症状は、肺の空気の通り道である枝分かれした気管支の内腔が狭くなって引き起こされる“発作”。息苦しくなって、咳や痰が止まらない。ひどいと窒息さえ起こしかねないから怖い。
発作の引き金になるのは、気道感染(風邪)や花粉症、季節の変わり目の気温差、ストレス、過労などだが、そもそも急に発症する病気ではない。
「喘息の人は、もともと普段から気道に炎症が起きていて過敏状態。そこに誘因が加わることで発作が起こる」と説明するのは、日本呼吸器学会・指導医でもある寺尾クリニカ(東京・新宿)の寺尾一郎院長。
下地になる“気道過敏”の原因は体質の変化。ダニやハウスダストなどによる「アレルギー性」、風邪などを繰り返すことによる「非アレルギー性」に大別される。
【長引くカラ咳も注意】
発作時の特徴的な症状はチェックリストのようなものだが、最近目立って増えているのが「咳ぜんそく」のケース。痰や喘鳴、息苦しさがないところが普通の喘息と違うところだが、とにかく“カラ咳”がひどい。数週間から数カ月も続く。
「発作の誘発因子は同じで、気道過敏の症状だけが強く出る。放置したままだと約30%が本物の喘息に移行するといわれる。咳だけの発作でも早期の受診が大切です」
喘息になってあまり発作を繰り返していると、気管支の基底膜が次第に厚くなる。こうなるといくら治療しても元に戻らなくなる。体質的な病気なので喘息自体は治らなくても、長期にわたって発作をできるだけ抑えることが治療の基本だ。
【「日記」で状態を把握】
内服薬や吸入薬には、起きてしまった発作を抑える「発作治療薬」、普段は発作を起こさせない「長期管理薬」を使う。が、それだけでは不足。実践している人は少ないが、本来は自分の喘息の状態を把握する「喘息日記」を付けながらの管理が最も重要だ。
ピークフローメーターと呼ばれる息を吹く器具を使って毎日数値を記録。ある一定の数値まで低下したら、発作の危険性があるので医師の診察を受ける管理の仕方だ。
「認識が薄いが、喘息は慢性疾患なので糖尿病などと同じで管理しながら上手に付き合っていく病気」と寺尾院長。
大気汚染や居住空間の変化が関係して増加を続けている一種の文明病。誰にいつ発症してもおかしくないのだ。
★「喘息発作」チェックリスト
□咳が止まらない
□咳と同時に痰がからむ
□日中は咳がひどくないが、夜中や朝方に咳が出て目が覚める
□夜になると、咳がひどくて眠れない
□息が吐き出しにくく苦しくなる
□呼吸をするとヒューヒューやゼイゼイ音がする(喘鳴)
□横になると息苦しい症状が強い
□親に喘息の人がいる
□春や秋の季節の変わり目に症状が出やすい
□もともと風邪をひきやすかった
該当が多いほど可能性が高い。発作を繰り返す前に受診しよう
*寺尾クリニカ(東京・新宿)/寺尾一郎院長作成
口腔乾燥症とも呼ばれ、国内の患者は推定800万人。唾液の分泌量が減って口の中がカラカラに乾く現代病のひとつだ。
原因には、膠原病の一種で涙や唾液が出にくくなるシェーグレン症候群や糖尿病など、病気による場合もある。が、近年増加中の大部分は、薬の副作用や生活習慣の変化による現代ならではの要因がいくつも複合して起きているケースだ。
生活習慣病やうつ病の発症増大によって、降圧薬や利尿薬、抗うつ薬や睡眠薬などを常用する人が増えている。これらの薬剤の副作用でも口が乾く。加えてストレスが多いと自律神経の働きが乱れ、唾液の分泌量が減る。
また、ファストフードなどの柔らかい食品を食べる機会が増えたことで咀しゃく回数の減少、噛む筋力の低下などの影響も指摘されている。
通常、唾液の分泌量は1日平均1.5リットル、それが3分の1ほどに。
「唾液は食べ物で酸性になった口腔内を中和し、酵素の力で細菌の増殖を防いでいる。ドライマウスになると虫歯や歯周病、口内炎などの口腔病だけでなく、風邪などの感染症も起こしやすくなる」(福島歯科医院・鍼灸治療院の福島厚院長)
現在、治療は保湿ジェルや人工唾液を使った対処療法を中に行われているが、漢方薬による体質改善でも高い効果が得られている。
★「ドライマウス」チェックリスト
(1)口の渇きが3カ月以上毎日続いている
(2)顎や耳の下が常に腫れている感じがする
(3)睡眠中、口の中が乾いて目が覚める
(4)しょっちゅう水を飲みたくなる
(5)クッキーなど乾いた物を食べると飲み込みにくい
(6)口の中がネバネバして話しにくい
(7)味覚がおかしいと感じることがある
(8)口臭がきつい
(9)義歯で傷つきやすい
(10)舌や頬の内側など口の中が痛む
「該当する項目が多いほど可能性が高い」
(「福島歯科医院・鍼灸治療院」福島厚院長=東京・新橋)
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、成人の10人に1人が診断基準に当てはまるという報告もあるほど身近な発達障害。その特徴と対処法をまとめました。
物忘れや失言はADHD(注意欠陥・多動性障害)の場合が
テレビやニュースでも近年話題になっている大人の発達障害。ADHDは、注意欠陥・多動性障害といわれる、発達障害のひとつです。不注意、じっとしていられない、思ったことを口にしてしまうなどから、職場や家庭において困難なことが起こります。これは生まれつき脳の発達に障害があるため起こっているもので、治療で根本的に治すことはできません。ただし、専門の病院などで診断を受け、まわりの人の支援や理解を受ければ、つらい状況を改善することができます。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人には、このような特徴があります。
◯片付けられない
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、物を分類する、使った物を元に戻す、順番に片付けるといったことが苦手です。職場のデスクや自宅の部屋が汚い人も多く、本人が片付けようと努力しても、できずに自分を責めてしまいます。引き出しだけなど、小さいスペースから片付け始めるとできるようになります。
◯お金の計算ができない
ついつい衝動買いして散財してしまうのも、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴のひとつ。買い物はリストにしておきそれ以外は買わない、クレジットカードや大金は持たないなどの工夫でトラブルを予防できます。家族にお金を管理してもらうのも手です。
◯空気が読めない
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴である「衝動性」は、物事を深く考えずとっさに行動してしまうもの。そのため、人との会話においても、相手を傷つける言葉を言ったり、まわりをしらけさせることを言ってしまったりします。思いついたことは、ひと呼吸おいてから発言するようにすると、改善できます。
◯約束が守れない
順序立てて物事を考えられないのも、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の特徴のひとつです。スケジュールが立てられない、作業を効率良く順序立てて行えない、納期を守れない、アポイントメントを忘れるなどといったことが起こります。予定はまわりの人にチェックしてもらいながら考える、視界に入るところにメモを貼るなどで対策が可能です。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人の快適な働き方とは
もし、病院を受診してADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されたらどうする?
職場の人に自分の特性を理解してもらえれば、お互い快適に働くことができるようになります。例えば、仕事を順序立てて行うのが苦手なら、その部分をサポートしてもらえば、あとは自分で作業することができます。パソコンの「TO DOリスト」やアラーム機能を利用したり、同僚にミスがないかチェックしてもらうだけでも、ずいぶん仕事がスムーズになるはずです。
今の仕事が合わないからと転職すると、さらにストレスになる場合があるので、あまりおすすめはできません。ただし、もしADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されても今の職場で自分がADHD(注意欠陥・多動性障害)だということを伝えるのは勇気がいるかもしれません。全国のハローワークでは障害者のための相談窓口を設け、仕事や働き方の相談も行っています。気になる人は、一度たずねてみましょう。
都市部はヒートアイランド現象で30度超「熱中症」
1分で判明!病気チェック
体温の調節機能が破綻して、最悪では死に至る可能性もある病気。とくに都市部の夏はヒートアイランド現象で気温30度を超える時間が増大している。チェックリストのようなリスクを多くもつ人は、梅雨の時期からの対策が肝心だ。
【梅雨の合間も要注意】
夏の人の体は、自律神経の働きで皮膚に血液を多く集めたり、発汗させて体の熱を外気へ逃して体温調節を行っている。
ところが体調不良や急激な気温上昇で、この熱放出が十分にできないことがある。体に熱がこもってさまざまな症状が現れるのが「熱中症」だ。
「まだ体が暑さに慣れていない時期に起こりやすい。とくに梅雨の合間に突然気温が上昇した日や梅雨が明けたばかりの頃は要注意です」と話すのは、日本医科大学付属病院・高度救命救急センターの川井真准教授。
体が上手に順応するのは、本格的な暑さから3-4日後。そのため、7月中旬にかけてと8月上旬にかけての2回、発症急増のピークがみられる。
【毎年200人以上が死亡】
症状は重症度ごとにみると分かりやすい。
I度は「立ちくらみ」(熱失神)や筋肉の「こむら返り」(熱痙れん)が起こる比較的軽い状態。
II度は、頭痛、吐き気・嘔吐、倦怠感や虚脱感など、体がぐったりする「熱疲労」の状態。
III度では、意識障害や体の痙れん、手足の運動障害、汗をかけずに体が熱い。命に危険が及ぶ「熱射病」の状態だ。
自分で水分が取れないII度やIII度は早急に救急搬送が必要だ。
が、「I度でもIII度に急変する場合がある。糖尿病や心臓病など持病をもつ人は、気分が悪くなった時点ですぐに受診した方がいい」という。
毎年200-400人台の死亡者が出ているが、決して炎天下だけで起こる病気でないことは念頭に置くべきだ。
【熱帯夜が追い打ち】
実際、65歳以上では、半数以上が自宅で発症。末梢の血流量の低下や汗をかきにくい上に、暑さや喉の渇きが感じにくいため水分摂取を十分に取らないことが原因だ。
ただ、このような体温調節機能の低下は、心疾患、糖尿病、精神疾患などがあっても同様。加えて常用薬の副作用で脱水を招いたり、自律神経に影響する場合がある。
また、仕事の疲労やストレスは自律神経のバランスを崩して不眠を招きやすい。さらに熱帯夜(夜間の最低気温25度以上)が追い打ちをかけて悪循環に陥っていくのだ。
「熱帯夜の日数が多いと熱中症死亡数が増えることはデータでも報告されている。夏はちょっとした体調不良でもすべてが熱中症のリスクになる」と川井准教授。
暑さに負けない夏場の体調管理、徹底しよう。
★「熱中症になりやすい」チェックリスト
□朝食を抜いている
□このところ寝不足気味である
□下痢をしている
□二日酔いをしている
□ストレス、疲れがたまっている
□肥満である
□まったく運動習慣がない
□糖尿病や心臓病の持病がある
□精神疾患に罹っている
□利尿降圧剤など、薬を常用している
□仕事柄クールビズスタイルができない
該当が多いほど発症リスクが高いので要注意。
日本医科大学付属病院・高度救命救急センター/川井真・准教授
◆求められている言動がわからない……心当たりをセルフチェック
人間関係や社会生活においては、場の雰囲気や他人の気持ちを推測しながら、その都度求められる行動を自分で判断して遂行しなければならない場面が多いものです。しかし、そうした行動をとることがとても難しく、人間関係や社会生活に困難を感じている方もいます。うした特性を感じつつも、大きな支障を感じずに日常生活や社会生活が送れているのなら、特段の問題はないでしょう。しかし、周囲から求められていること、やるべきことが分からずに戸惑うことばかりが増え、自信を失っている方もいるかもしれません。
たとえば、次のような状況で困った経験が、たびたび生じていないでしょうか?
・「相手の気持ちを想像してください」「周りに合わせましょう」「相手の顔色を見て判断してください」と言われても、どうすればいいのかよくわからない
・「マナーを守りましょう」「常識で考えてください」「場に応じた行動をしましょう」と言われても、どうすればいいのかよくわからない
・自分の考えを言っただけで、「今ここで、それを言うのはおかしい」とよく注意される
・「今のは冗談だよ」と言われても、何が冗談にあたるのかが分からないことが多い
・「たとえ話」を交えながら説明をされると、意味が分からなくなることが多い
・一つのことに夢中になるとあっという間に時間がたち、やるべきことが手につかないことがよくある
・話したいことを話し始めるとたびたび怪訝な顔をされたり、話を制止されたりする
・自分なりに考えて作業をすると、失敗して注意されることが多い
・人混みや騒音の多い場所にいると、とても苦痛で仕方がなくなる
・「周囲に比べて作業や仕事が進んでいない」と言われることが多い
子どもの頃からこれらの例の多くに心当たりがあり、たびたび困ったことがあったり、今も困っていたりする場合、自分の努力不足のせいではなく、脳の発達の特性に原因がある可能性もあります。
◆自閉スペクトラム症とは……コミュニケーションが困難でこだわりが強い
たとえば、神経発達に特定の偏りを持つ発達障害の中に「自閉スペクトラム症」(自閉症スペクトラム障害)というものがあります。かつては「アスペルガー症候群」と呼ばれていたものも、ここに含まれます。自閉スペクトラム症とは、社会的コミュニケーションと対人的相互反応が難しく、行動や興味の限定された反復的な様式を特徴としています。人との会話や非言語的なやりとり、人間関係の発展・維持などが苦手、特定の物事や行動、習慣に強いこだわりがある、感覚が過敏あるいは鈍感、などの顕著な特徴を幼少期の頃から持ち、学校生活や社会生活を送る上で困難が生じるものです。
自閉スペクトラム症では、知的能力障害を伴っていない方も少なくありません。そのため、勉強が得意で学校の中でおとなしく生活してきた方の中には、学校生活や人間関係でのトラブルが目立つことが少ないため、親や教師、そして本人も発達特性に気づかずに成長している方がいます。
こうした方の中には、青年期、成人期になって進学先の環境や就職先の環境にうまく適応できないことで初めて、発達障害の特性に気づいていく方もいます。では、なぜ青年期、成人期になってから発達障害の可能性に気づくことがあるのでしょう? たとえば、大学生活や就職先の環境においては、あいまいな指示や複雑なルールの中からとるべき行動を推測したり、分からないことを周囲の人に尋ねたりしながら、物事を進めていかなければならない場面が、子どもの頃よりも格段に増えていきます。
また、状況に応じて臨機応変に対応をしたり、周囲の人との人間関係を築きながら役に立つ情報を入手し、適当な段取りを考えて実行しなければならない場面も格段に増えていきます。周囲の人はこうした状況に適応しているのに、自分はどのように行動すればよいのかがわからず、学校生活や社会生活を送る上での支障が生じていく。そして成人になってから、親や本人が「そういえば、子どもの頃から似たようなことがたびたびあった。それらも発達特性によるものだったのかもしれない」と気づく場合もあるのです。
◆まずは情報を集め、医療機関や相談窓口で相談を
発達障害の可能性を感じ、学校生活や社会生活を送ることに困難を感じている場合には、自分の特性が発達障害によるものなのかどうか、自分はどのような行動が得意で何が苦手なのか、といったことを詳しく知ることによって、生活に積極的に取り入れるべき工夫、自分が必要とするサポートに関する情報も知ることができます。
そのためにはまず、自分の年齢に応じた発達障害の診断ができる医療機関を受診するのが有効です。診断できるのは医師のみですので、憶測で判断せず、医療機関で医師の診察と専門的な検査を受けることが重要です。医療機関は、地域の保健センターや保健所に問い合わせて教えてもらってもよいでしょうし、インターネットや口コミで情報を集めて、直接医療機関に問い合わせてもよいでしょう。また最近では、各年代の発達障害に特化した書物もたくさん発行されていますし、インターネット上には発達障害を理解するためのサイトがたくさん公開されています。そうしたものを利用すると、自分に適した医療機関や相談機関の情報が見つかるかもしれません。
たとえば、国立障害者リハビリテーションセンターの「発達障害情報・支援センター」のサイトでは、発達障害を総合的に理解するための情報が公開されています。また、地域の障害福祉課などを訪ねると、公的な相談機関・支援機関の情報を入手することができます。また、NPO、市民グループ等によるさまざまな支援活動も増えています。相談できる場所は必ずありますので、まずはぜひ情報を集めてみてください。
発症から2年後に左腸骨(骨盤)にがんが転移し亡くなったロックシンガー・忌野清志郎(享年58)を最初に襲ったのが、この「喉にできるがん」。首から上にできる“頭頸部がん”の中では約3割を占めてトップ。
とくにリスクが高い喫煙者は、“声がれ”に気づいたら要注意だ。
【最初の“異変”は声がれ】
喉の奥には、前側に吸った空気が通る「喉頭(こうとう)」、後側に食べ物が通る「咽頭(いんとう)」がある。喉頭がんは、喉頭にある左右1対の粘膜のヒダが振動して声を作り出している“声帯”周辺にできるがんだ。
「約8割が声門部(声帯)、声門上が約2割、声門下にできるのはごくまれです。声帯はごく微小な病変でも“声がれ”を起こすので、他のがんに比べれば早期発見されやすい」と話すのは、東京逓信病院・耳鼻咽喉科の八木昌人部長。
ただ、残り2割は進行しないと声の症状は出にくく、咽頭に近ければ飲み込むときの「しみるような痛み」や「血痰」。リンパ節への転移があれば「首の腫れ」などが初期症状になる場合がある。
【ロッカーの職業病!?】
海外でも過去に、ロッド・スチュワートやRストーンズのチャリー・ワッツ、元ビートルズの故ジョージ・ハリスンなどが罹った。それを考えるとロッカー特有のシャウトする喉の酷使が誘因になるイメージがある。が、シャウトは声帯ポリープの原因にはなっても、ポリープががん化することはない。
八木部長は「声の使い過ぎががんの発症率を高めることはない」と、リスクをこう説明する。
「最も悪いのはタバコ。発症者の9割は喫煙者で、男女比は10対1。たばこを吸わない女性がなることは非常に少ない。加えてお酒の飲み過ぎは促進因子になります」
タバコ、男性、飲酒。つまりロッカーには、この3大要因をもつ人が多いのが発症を目立たせている真相のようだ。
【声帯残せるかは早期治療がカギ】
一般の人でもカラオケ好きや普段、大声を出すような職業の人で注意したいのは、声がれの原因が声の出し過ぎと思い込み、がんの早期発見を遅らせてしまうことだ。
喉頭がん全体でも5年生存率は約70%と比較的治癒率は高い。が、早期に受診し、いかに声帯を残せるうちに放射線や抗がん剤の併用で治療を開始できるかが、声を失わずに済むかを左右する。
声帯ポリープや風邪の炎症なら、鼻から入れる内視鏡検査ですぐ見分けがつく。がんだった場合、3カ月も放置すると進行がんで声を失う恐れがある。とにかく声がれが表れたら早めに鑑別してもらうことが大切だ。
「早期がんであれば放射線治療だけでも5年生存率90%以上の確率で治ります」と八木部長。
偉大なロッカーの早過ぎる死を無駄にしないためにも、名曲と共にこのがんの存在を忘れずにおこう。
★「喉頭がん」チェックリスト
□1カ月以上も声がれが治らない
□のどに異物感を感じる
□のどがいがらっぽい
□飲み込むときに違和感がある
□飲み込むときに痛みを感じる
□首の付け根(顎の下)に腫れやシコリがある
□血痰が出る
「声がれ」もしくは該当が多ければ疑いがある。とくに喫煙者はリスクが高いので検査を受けよう
*東京逓信病院・耳鼻咽喉科/八木昌人部長作成
「多様化社会」という言葉はそれを支える制度がなくては意味が無い。とある大学教員のブログから、コラムニストののオバタカズユキ氏が大学生の「多様化」を考える。
* * *
特定個人を責める意図はないので、某教員の某ブログにて、と記すにとどめる。先日、そのブログにこんなことが書かれてあった。
ブログ主は大学教員。大学の授業で学生にミニレポートを書かせ、それを出席票のかわりにしていた。するとある日、中身も筆跡もそっくりなミニレポートが複数枚出されていることに気づいた。
これは明らかに「代返」だ。一番たくさんの文字数を書いた太郎君が、二郎君、三郎君、四郎君のものも書いて、そしらぬ顔で自分に提出したのだろうと思った。
次の授業で、そっくりレポートの「提出者」たちに尋ねてみると、教員の読みはアタリ。「提出者」たちはその行為を認めたと言う。それが不正行為であることを教員が説明すると、二郎君以下はきまりの悪そうな顔をしていたとのことだ。
ところが、太郎君ひとりは反論した。「みんなやっているし、他の先生に叱られたこともない」というふうに。教員が、「だからいいという問題ではない。これは不正行為で、学問の世界では問題外だし、出欠を誤魔化したことは教員の私を欺いたことになる」とていねいに諭したら、「初めて教えてもらえた」と礼を言われた。
問題はその先で、「だから、このときの出席は取り消しになる」と教員が学生たちに伝えたところ、それまで“ありがとうモード”だった太郎君が、急に「なぜ?」と食い下がってきた。「不正行為だから」と言っても、「知らなかったことで罰せられるのはおかしい」と反論してきたという。
以上は、元のブログの文を多少アレンジしたものだが、大筋こんなことがおきたらしい。そして、教員は、最後まで納得しなかった太郎君について考えながら、善悪の区別のつかない学生の登場を嘆いていた。人に相対する態度は礼儀正しいのに、常識が通じない。それは、コミュ力の発揮と自己主張の仕方ばかりを形式的に教えてきた大人側の問題なのではないか、と。
このブログのエントリーは、SNSでけっこう拡散し、私の目にも止まることとなった。読んだ人の多くは、「大学の劣化もここまで来たか……」というもの。日本の今の首相の名前を知らない、分数の四則算ができない大学生が増えている……といったお決まりの大学生バカネタと同じ水準で、呆れかえっていた読み手が大半であった。
が、ブログのコメント欄で勤務医と称する人が、「この太郎君の様子はアスペルガー症候群の症状に当てはまる。早期の受診を薦める」といった内容を書きこんでいた。私も素人ながら、この話は、発達障害の観点から考えたほうがいいと思った。
太郎くんの問題は、コニュ力や自己主張の教育云々以前の話だし、いまどきの大学生が劣化しているというよりも、ここまで多様化している、と捉えたほうがベターではないか。多様化した大学生の中には、多様な特性をもつ発達障害者が含まれるのだ。
発達障害をもつ人が増えている、と言われて久しい。原因は、諸説あってまだよく分らない。はっきりしているのは、昔だったら「変人」とか「ダメなやつ」とかで片づけられていた人々(子供たち)が、幼稚園・保育園、小中学校の先生から検査を勧められ、発達に偏りやでこぼこがある、と指摘されるケースがだいぶ前から急増している事実である。潜在していた発達障害が顕在化してきた、という話だ。
そのこと自体の是非は置く。ただ、とても問題なのは、そうした検査をし、ときには専門医が診断を下したりしても、発達に問題があると言われた当人やその親のフォロー体制が、いまだにほとんど確立していないことだ。障害の有無がわかっても、障害をフォローする社会側のシステムがなきに等しい。
今回、読ませてもらったブログ主は、「発達障害ではないか」という読者からの指摘を受け、その方面について取り急ぎ勉強をした様子である。でも、じゃあ、どうしたらいいかという段で頭を抱えていることだろう。
「大人の発達障害」が注目されるなかで、それが疑われる夫を持つ妻たちが孤立や苦悩を訴える“カサンドラ症候群”の存在が明らかになっている。
アスペルガー症候群を含む「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の夫とのコミュニケーションがうまくいかず、その状態を周りにも理解されず、心身に不調をきたした妻のことだが、彼女たちは悩みをこう吐露する。
「夫は口数が極端に少なく、子どものことなどを相談しても、ただ黙っているだけ。私一人で決めるしかなく、うまくいかないと『俺はそれがいいとは言わなかった』と。
確かに夫は何も言っていないので、私のせいなんだと自分を責めるしかない。アスペルガー症候群の話をしたら『人のことを障害者扱いするな!』と怒鳴られ、数少ない言葉を交わす機会も怖くなってしまった。
心身ともにボロボロ、片耳の聴力を失い、内臓にも異常が見つかり働けない状態で、離婚もできない」(50代主婦)
「夫の自閉症スペクトラム障害(ASD)を疑い始めたのは、長年の風俗通いが発覚したから。少し変わってはいるが真面目で正義感が強く、倹約家だと思っていたのに。
泣く私を見て夫は驚き、『傷つくとは思わなかった』とキョトンとした表情。なぜ私が悲しむのかが理解できないため、私自身がとうとうと説明しなければならない」(40代主婦)
夫婦間のコミュニケーション不全をすべて発達障害のせいにするのは、障害差別を助長しかねない。しかし、夫との関係に困り果て、声を上げることさえできずに苦しむ妻が相当数いることは、紛れもない事実だ。
今、妻たちによる自助グループが各地に立ち上がり、インターネットで情報発信している会もある。悩みを打ち明け合う茶話会のような集まりから、妻自らが回復する術を身につけるワークショップ形式の会までさまざま。
一方、未診断の人のパートナーたちが集まってしまった場合、情報や対応策が混乱する恐れもあると指摘する声もある。
成人発達障害の専門外来を設ける昭和大附属烏山病院(東京都世田谷区)では昨年度、厚生労働省の推進事業として「成人期発達障害支援のニーズ調査」を実施し、当事者、家族、医療や行政の関係者にアンケートした。
その結果、家族の7割が「自分たちへの支援が必要」「自分たちを対象とした心理教育や支援のプログラムがあれば参加したい」と答えた。行政機関も本人へのさまざまな支援とともに「家族への支援は必要」との回答が最も多く、8割近くに上っている。
20-50代の働き盛りを中心に年間発症者は約3万5000人。リーマンショックに派遣切り、経済の混迷が続くほど、一層増加が危ぶまれる“難聴”を引き起こす病気だ。歌手の浜崎あゆみ(30、が罹ったことで広く知られたが、放置すると発症2週間で治る望みはほとんどなくなる。“聞く耳”をもって早期の治療が肝心だ。
【兜町はリスク高い】
東京・兜町に近い「耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック」。土地柄、訪れる患者は9割以上が近隣に勤めるサラリーマンやOLで、その多くが証券関係の仕事。聞けば2年前の開業以来、『突発性難聴』の新規患者が1日平均3-4人はいるという。
「やはり一番の発症要因は仕事などのストレス。原因には内耳のウイルス感染説や血液の循環障害説がありハッキリしていないが、おそらくストレスの影響による循環障害だろう」と話すのは、大河原大次院長。
同医師が前勤務(副院長)していた国内有数の耳鼻咽喉科専門病院(神尾記念病院)の疾患比率でみても、このエリアの際立った発症頻度の高さには驚かされたという。
【耳の違和感でも注意】
症状の一番の特徴は、ある日突然、何の前触れもなく発症すること。ほとんどのケースが片耳だ。
“難聴”というと、全然聞こえなくなるイメージがあるが、決してそうではない。軽度の場合も多く、「違和感」「耳閉感」「耳鳴り」という聞こえの悪さでも表現できる。
また、「低音部の難聴」か、「高音部の難聴」かでも違いが出てくる。「低音部難聴のような場合には、聞こえないというより耳が詰まった感じ、塞がった感じがする」
耳鳴りを伴う場合も、「高音部の難聴は『キーン』という高い音、低音部の難聴では『ゴー』や『ボー』の低い音の耳鳴りになる」という。
加えて、難聴の程度が強くなるほど発症時に“めまい”を伴いやすい。
一般的に『耳からくるめまいは回転性』といわれているが、これも感じ方の違いもあり一概にはいえないそうだ。
【治療時期を逃すな!】
治療は薬物療法で、聴力が回復するまで通常、1カ月ぐらいかかる。が、完治するのは約3分の1。あとは、聴力はある程度回復しても難聴や耳鳴りが残る、まったく回復しない、のどちらかだ。
治療成績を大きく左右するのは、「発症時の聴力の低下レベル」と「治療開始時期」。2週間放置すると、ほとんど回復は無理。また糖尿病があると治りにくい傾向がある。
「軽度の人ほど治療時期を逃して難聴が残ってしまう人が多い。2-3日たっても聞こえ方が変なら、すぐ受診すべきです」と大河原院長。
あっても生涯一度切りの発症だが、このご時世、世代に関係なく誰もが予備軍。ストレスには十分注意したい。
★「突発性難聴」チェックリスト
□前触れもなく、ある日突然、片耳の聞こえが悪くなった
□片耳が詰まった感じがする
□片耳に違和感がある
□難聴に耳鳴りを伴っている
□難聴にめまいも伴った
□難聴と同時にフワフワした感じがする
□過去に経験したことがない難聴
□手や口のしびれやマヒを伴わない
□ストレスや疲労が多かった
□難聴が2日以上続いている
片耳に起きて2つ以上該当したら可能性が高い
*耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック(東京・日本橋)/大河原大次院長作成
いまでは輸血によるB型・C型肝炎ウイルスの感染の心配はほとんどなくなった。が、B型は性交感染で急性肝炎を引き起こすことがある。
また、母子感染の一部は慢性肝炎・肝硬変に移行して肝がんになる恐れも。B型の「急性肝炎」と「慢性肝炎」は、まったく性質の違う病気だ。
【急性肝炎=再感染のない一過性感染】
成人になってはじめてB型肝炎ウイルスに感染した場合、1-6カ月の潜伏期間を経て「急性肝炎」を発症する。
が、70-80%の人は症状がみられず自然治癒するので感染に気づかない。しかも免疫ができれば再感染することはない。チェックリストにあるような典型的な肝炎症状が現れるのは、残りの20-30%だ。
「症状が出ても安静にしていれば1-2週間で症状は治まり、数カ月で自然に治るが、怖いのは1%にみられる劇症肝炎への移行。急性肝炎で入院が必要なのは劇症化の対策でもある」と話すのは、表参道内科胃腸科クリニックの大黒学院長。
急激に悪化する劇症肝炎の致死率は高く70-80%。保存的治療の成績が悪いため、最近では早い段階で生体肝移植をするケースが多いという。
C型と違って、感染力の強いB型の特徴は性交でも感染するところ。現在では、急性肝炎を引き起こす一過性感染の原因は主にキャリアとの性交による粘膜感染だ。
【慢性肝炎=ウイルスを保有した持続感染】
一方、出産時に母親から感染した場合、赤ちゃんは免疫機構が未熟なためB型肝炎ウイルスを異物と認識できずに体内にウイルスを保有した“キャリア”となる。
現在、約150万人いるとされ、ほとんどが10-30代に気づかないうちに軽い肝炎を発症して治癒(鎮静期)を迎える。が、約10%はウイルスをうまく抑え込むことができず、そのまま肝炎状態が続く「慢性肝炎」に移行する。
「自覚症状がなく気づいていない人が多いが、放置すると肝硬変、肝がんになりやすい。C型と違って突然、肝がんになる恐れもある。健診で肝機能異常を指摘されたら必ずウイルス検査を受けるべきです」
1986年からは予防接種が制度化され、いまの未成年は母子感染の可能性は低いが、中高年は要注意。とくに母親や母方の兄弟に肝臓の悪い人がいたらシッカリ調べておきたい。
同じB型肝炎でも、急性は劇症化、慢性は肝がんの対策がポイントだ。
【「B型急性肝炎」チェックリスト】
(1)体がだるい(倦怠感)、疲れやすい
(2)発熱が続いている
(3)頭痛が起こるようになった
(4)関節が痛い
(5)悪心(吐き気)がする
(6)食欲がなくなった
(7)右わき腹が痛い
(8)尿がウーロン茶色(濃い褐色)をしている
(9)黄疸(白眼や体の皮膚が黄色くなる)がある
「(1)-(6)の風邪のような症状に加えて、(7)-(9)が1つでもあれば要注意」
*表参道内科胃腸科クリニック(東京・神宮前)/大黒学院長作成
国内の推定患者約1000万人といわれる脚の血管がボコボコと浮き出る病気。良性疾患なので直接生命にかかわることはない。
が、血流が悪く血栓ができやすいので、エコノミークラス症候群の危険因子にもなる。足の疲れやむくみが強いようなら治療を考えた方がよさそうだ。
【“弁”が壊れ血液が停滞】
太ももの内側やふくらはぎの表面を走る血管(静脈)が浮き出てくるのは、心臓に戻る血液がうまく流れず停滞してしまうため。
本来、脚の静脈には重力に逆らって血液が昇って行きやすいように数センチごとに“ハの字状”の逆流防止弁が付いている。その弁が何らかの原因で壊れてしまうのが、この病気の発症メカニズムだ。
「4対1比で女性に多く『妊娠』が発症誘因のひとつだが、男性では『立ち仕事』、『肥満』、それから身内に発症者がいるとリスクが高い」と話すのは、下肢静脈瘤治療の専門施設「東京血管外科クリニック」(東京・水道橋)の横山滋彦院長。
職業的には、調理師、美容師、ガードマン、デパート店員など、とくに1日8時間以上の立ち仕事の人に多いという。
【クモの巣、網目…】
外見上では、血管が浮き出る他、細い血管がクモの巣状や網目状に見える現れ方もある。症状では、足が重い、だるい、疲れやすい、むくむなどが典型的だ。が、日常的なことなので、慣れてしまって自覚していない人が結構多い。
脚の血流が悪くなると、皮膚の新陳代謝が低下してかゆみや湿疹が現れる。また、睡眠中は横になって急に血流がよくなる影響から足がつりやすくなる。足の疲労症状だけでなく、皮膚炎の症状もあれば進行の疑いが強い。
「10年、20年放置しておくと、かき壊した皮膚が治りにくく潰瘍を繰り返す。バイ菌が入ると赤く腫れて痛い『血栓性静脈炎』を引き起こすケースも出てきます」
【肺塞栓症の危険】
もうひとつ注意したいのは血液の停滞で血栓ができやすいこと。詳細なデータはないが、血栓が肺に飛んで発症するエコノミークラス症候群(肺塞栓症)のリスクは健常者よりも確実に高くなる。
早期なら弾力ストッキングの着用で進行を遅らせることも可能。だが、足の疲れが辛い、潰瘍を繰り返すようなら根治手術を検討するべき。
日帰りで手術の所要時間は30分-1時間。ワイヤで血管を引き抜くストリッピング手術は保険適用で片脚5-6万円、レーザー治療は自費診療で片脚約30万円だ。
「足の辛かった人に言わせれば、術後は『雲の上を歩いているみたい』と改善効果は劇的に違う」と横山院長。
たとえデスクワークでも太っていれば静脈の血流を圧迫するので起こりやすい。足の疲れやむくみには要注意だ。
★「下肢静脈瘤」チェックリスト
□足が重い、だるいことが多い
□夕方になると足に疲れがたまってくる
□夜中によく足がつることがある
□足がむくんで靴がきつくなる
□足にかゆみや湿疹がある
□足に黒(茶色)っぽく色がついている
□足がほてる、ピリピリする
□足首やふくらはぎ、太ももの内側の血管が浮き出て、ボコボコしている
□クモの巣のように細かい血管が浮き出て見える
□親族に下肢静脈瘤の人がいる
1つでも該当したら疑いがある。脚をよく観察してみよう
*東京血管外科クリニック(東京・水道橋)/横山滋彦院長作成
★口腔乾燥、カビ菌など症状の原因の鑑別が重要
あきらかな病変がないのに舌など口の中に焼けるような灼熱感、ピリピリやヒリヒリした痛みを感じるといった病気の総称だ。ひどい場合には食事が取りにくくなるケースもある。医療機関で症状の原因を鑑別することが重要だ。
【口腔乾燥が引き金になることも】
灼熱感や痛みの多くは舌の先端や片側、唇の内側など、よく動かす部位に現れる。ところが口腔検査では病的状態がみられないのがほとんどだ。
歯科治療後に症状が現れることも少なくなく、その場合には治療後の歯が当たっているケースも考えられる。しかし、コンパスデンタルクリニック横浜(横浜市)の三幣(みぬさ)利克院長は「必ずしも、それだけとは限らない」と、こう話す。
「歯科治療後は口の中が気になり、舌や口腔の運動が増加して症状が現れる場合がある。とくに義歯を入れると違和感から唾液量が減少する」
このようなケースでは「口腔乾燥(ドライマウス)」が引き金になっているという。
【心配性、神経質な人が感じやすい】
他の原因には、口腔内の常在菌であるカビ菌が異常繁殖して炎症を引き起こす「カンジダ症」、鉄欠乏性貧血や悪性貧血などの「全身疾患」、口腔乾燥を誘発させる高血圧の薬や抗うつ剤などの「薬の副作用」、また脳の神経伝達回路の誤作動が疑われている「舌痛症」などが考えられる。
臨床的には心配性の人、神経質の人に起こりやすい傾向がある。が、三幣院長は「心が先でなく、まず先に痛みがあって精神的な気質が症状の増長に関係する」という。
灼熱感や痛みの程度や感じ方には人によってかなり幅があり、周期的に悪化と緩和を繰り返す傾向がみられるという。
【痛みのシグナルを早めに鑑別】
いずれにしても痛みが強ければ摂食障害を起こす場合がある。歯が口腔粘膜に接触していれば、いずれがん化の恐れも。全身疾患が原因ならば放置は悪化につながる。
「舌や口腔内の痛みは病気のシグナルととらえて、早めに医療機関で原因を鑑別することが重要」(三幣院長)だ。
まず歯科や口腔外科で歯の接触はないか、ドライマウス、カンジタ症などの感染症の疑い、基礎疾患や薬の副作用の影響を調べてもらおう。
三幣院長は「鑑別では舌に表面麻酔を置いて舌表面の痛みかどうか確認する。それでも痛みを感じるなら舌痛症の可能性がある」と話す。
舌痛症の場合には心療内科や心療歯科が診療科になる。治療では三環系の抗うつ薬が使われ、副作用が出やすいので必ず専門医を受診しよう。
【「口腔灼熱症候群」チェックリスト】
□舌など口の中に灼熱感や持続する痛みがある
□灼熱感や痛みは舌の先端や片側に起きている
□唇の内側に灼熱感や痛みがある
□香辛料、熱い飲料、炭酸飲料、濃いお茶やコーヒーなどで口の中や舌の痛みが増す
□口を動かす(咀しゃく)と口の中や舌の痛みが増す
□歯科治療後に口の中の症状が現われるようになった
□持病の薬の服用を始めてから口の中の症状が現れた
※1つでも該当するようなら歯科や口腔外科を受診しよう。
コンパスデンタルクリニック横浜(横浜市)/三幣利克院長作成
40歳を過ぎると大腸の腸管の一部が袋状に膨らむ「大腸憩室(けいしつ)」をもつ人が増えてくる。その袋に便がたまり、炎症(細菌感染)が起こると腹痛などの症状が現れる。放置すると腸管が破れて腹膜炎を起こす恐れもある。早期受診が重要だ。
【腸の内圧でポッコリ】
大腸憩室は、中高年では大腸の内視鏡や注腸検査をすると10人に1人の割合で見つかるといわれる。憩室の数は人によってさまざまで、高齢になるほどできやすい。
本来、欧米人に多かったが、日本人にも増えてきたのは食事の欧米化や食物繊維の摂取減少が原因と考えられている。
憩室のできる理由について平塚胃腸病院(東京・池袋)の佐藤健副院長は「肉食が多く便が硬いと、腸は収縮して押し出す力が必要で腸管内圧が高まる。すると腸壁の血管が通る組織の弱い部分の隙間から腸粘膜が外側にポッコリ飛び出してしまう」と説明する。
憩室をもつ人は腸管が収縮して硬くなるため、狭くなり便が停滞してしまうことがあるという。
【腹痛と発熱が特徴】
大腸検査でたまたま憩室が見つかっても症状がなければ治療の必要はない。治療対象になるのは「出血(血便)」した場合と、「大腸憩室炎」を起こした場合だ。
「憩室をもつ人は便がたまりやすいため細菌感染を起こすことがある。大腸憩室炎の症状は腹痛と発熱が特徴で虫垂炎にも似ているが、超音波検査やCT検査ですぐ診断がつく」(佐藤副院長)
大腸憩室をもつ人が大腸憩室炎を起こす頻度は全体の2-3%で決して高くないが、炎症や出血のリスクがあることを認識しておくことが大切だ。
【最悪、死亡の危険性も】
出血なら大量に血便が出るのでたいていはビックリして病院に駆け込むが、大腸憩室炎は要注意。食当たりや風邪と思い込んで様子を見過ぎると、悪化して腸管に孔(あな)が空く恐れがある。
佐藤副院長は「孔が空いて腹腔内に便が出てしまうと腹膜炎を引き起こす。緊急手術が必要で、ひどい場合は死亡する可能性もある」と受診の遅れを警告する。
治療は入院して絶食が基本。大腸憩室炎には抗生物質の投与、出血には内視鏡で止血の処置が行われる。が、どちらも再発しやすい。
予防のための生活上の注意は、食物繊維の多い食事、水分をよく摂る、便秘しないように排便は我慢しない、排便で長時間息まない、運動習慣で腸の動きを活発にする、肥満解消などで腸管の圧力を上昇させない生活習慣の改善が大切になる。
「まずは40歳を過ぎたら一度は内視鏡検査を受けて、憩室がないか自分の腸の状態を知っておくべき」と佐藤副院長。肉食系中高年は用心しておこう。
【「大腸憩室炎」チェックリスト】
□急に下腹に圧痛が現れた
□高い発熱が出た
□寒気がする
□お腹にしこりが触れる
□最近、周期的に腹痛がある
□最近、下痢と便秘を繰り返している
□以前に受けた大腸検査で「大腸憩室がある」と指摘されていた
※すべて該当すれば可能性がある。
平塚胃腸病院(東京・池袋)/佐藤健副院長作成
多量の空気を飲み込むことでゲップやおならの頻発、お腹の膨満感などの症状が現れる状態を「呑気(どんき)症」、「空気嚥下(えんげ)症」と呼ぶ。その多くは歯の噛みしめ習慣が原因で起きている「噛みしめ呑気症候群」だ。生活に支障があれば治療を考えよう。
【唾液の飲み込み過ぎ】
誰もが忌み嫌うゲップやおならの正体は、唾液や飲食と一緒に飲み込んでいる空気だ。
呑気症治療の第一人者で心療内科「ベイサイドさちクリニック」(横浜市)の小野繁院長は「人は誰でも唾液を1回飲み込むのと同時に3-5ccの空気を飲み込んでいる。
胃の中には常時50ccぐらいの空気が溜まっていて、ゲップで口から出たり、6-7時間かけて大腸に運ばれ排ガスされている」と説明する。
呑気症の人は、普通の人よりも唾液を飲み込む回数が多いのだ。しかし実際、消化器科などで検査しても異常が見られないと腹部膨満・排ガスタイプは「過敏性腸症候群」、ゲップタイプは「非びらん性胃食道逆流症」などと診断されてしまうことが多いのが現状だ。
【肩こりや頭痛も合併】
小野院長は「これらの病気と呑気が併発することはあっても原因とはならない」と話し、「ほとんどの呑気症例に共通するのが歯の噛みしめ習慣、緊張時に起こす唾液嚥下」と、空気を飲み込む回数が無意識に増える理由をこう解説する。
「唾液を飲み込むときは舌を上顎につけ、上下の歯を合わせると嚥下反射が起こる。日常的な噛みしめ習慣の背景には、精神的ストレス、抑うつ状態、PC作業などのうつむき姿勢、鼻炎や後鼻漏などの疾患などさまざまな要因がある」
日常的に噛みしめているため、消化器症状に加えて顎周辺の疲れ、肩や首のこり、頭痛などの頭頸部症状を伴うのも特徴。
小野院長は「噛みしめ呑気症候群」と名付け、10年ほど前から学会などで報告をしてきた。
【マウスピース装着で噛みしめ防止】
数々の診療科を受診しても納得のいく治療が受けられず、ドクターショッピングを繰り返す患者は多いという。悩みを抱えたままでいると、その不安から「おなかが気になって集中できない」「自分のにおいを過度に気にする」などの精神症状が出てくるから厄介だ。
小野院長は効果的な治療法として、歯科との協同でマウスピースを作り、歯にはめるスプリント療法を行っている。前歯、もしくは奥歯の一部に装着して、噛みしめを防止・気づかせる方法だ。
食事と睡眠以外は日常的に装着して改善させていく。
「早い人で1カ月、平均3カ月ぐらいで症状がとれる。スプリントの費用は3割負担で5000円ほど」と小野院長。
無意識に噛みしめていたら要注意だ。
★「噛みしめ呑気症候群」チェックリスト
《消化器症状》
□ゲップがよく出る
□おならがよく出る
□お腹が張る(膨満感)
《頭頸部症状》
□気がつくと歯を噛み合わせていることが多い
□口元や頬に力が入っていて唾液を飲むことが多い
□顎の周辺に疲れや痛みがある
□肩や首のこりが強い
※胃腸の検査で異常がなく、消化器症状1つ以上、頭頸部症状2つ以上該当すれば可能性がある。
ベイサイドさちクリニック(横浜市)/小野繁院長作成
話がかみ合わない、仕事の効率が悪い、単純ミスが多い……。こうした理由で、大人になってから、会社やプライベートでトラブルになることが多く、生きづらさを感じる、もしくは上司や部下がこのタイプで仕事がしづらいといったことはないだろうか。近年、大人になってから発覚する「大人の発達障害」が注目されている。障害といっても、特性をよく理解し、配慮することで、すぐれたパフォーマンスを発揮することもある。発達障害の中でも特に大人になってから多く見られる「注意欠如多動性障害(ADHD)」や「自閉症スペクトラム障害(ASD)」の特徴や治療、付き合い方のポイントについて、昭和大学附属烏山病院病院長の岩波明氏に聞いた。
■「大人になってから新たに発症する発達障害」はない
――一口に発達障害といってもさまざまな種類や症状があると思いますが、定義について教えてください。発達障害とは、「生まれつき脳機能に何らかの偏りがあり、精神的あるいは行動的な特有の症状を示すもの」と定義されています。その症状は実に多様で、分類もさまざまです。大人の発達障害として特に多く見られるのは図の2つです。1つめは、「自閉症スペクトラム障害[注1]」(Autism Spectrum Disorder、以下ASD)、そしてもう1つが「注意欠如多動性障害」(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder、以下ADHD)です。
まずはASDについてお話ししましょう。ASDは、社会的コミュニケーションの障害を生じる発達障害の総称で、いわゆる昔ながらの「自閉症」と、「アスペルガー症候群」などが含まれます。ASDの有病率は、小児も含めて100人に1人いるかどうか、0.5~1%と推測されています。大きな特徴としては、対人関係や社会性における不適応、俗にいう「空気が読めない」という症状です。人との距離感がつかめず、人付き合いが苦手で、生涯友人が1人もいないという人も珍しくありません。
特定の物事に極端に強いこだわりを持つこともASDの特徴です。例えば子どもの頃、男の子ならトラクターのような重機や電車に関心を持つ子が多いのですが、ASDの子どもは、好きな電車を見つけると、何時間でもそこに居続けるという執着を示します。この傾向は、物だけでなく行動も同様で、いつもの行動パターン通りに物事が進まないと気が済まないなど、強いこだわりがあります。興味のあることに対しての集中力はずば抜けて高いことも知られています。ASDの代表例であるアスペルガー症候群は、対人関係が苦手で、他人の感情や非言語によるメッセージをくみ取ることが困難な発達障害です。知的能力や言語発達の障害を伴わないので、「ちょっと変わった人」と思われることが多いのが特徴です。
一方、ADHDは、集中力や注意力の障害、衝動性、多動性(思い立つと後先かまわずすぐに行動に出てしまう)を特徴とする障害で、そのために、社会的な活動や学業の機能に支障をきたします。発達障害といえばASDのほうがよく知られていますが、ADHDの有病率は3~5%と、ASDの約5倍に上ります。
――大人になってから発達障害を発症するのはなぜでしょうか。
[注1] スペクトラム(Spectrum)は、連続体、分布範囲という意味の英語。軽症から重症まで、多様な症状が重なり合う連続体だとする考え方。
発達障害は生まれつきの障害なので、大人になって新たに発症することはありません。大人になってから発達障害と診断されるのは、大人になるまで気がつかなかったということです。
子どもの頃は成長過程の一つと受け止められ、周囲もあまり気にしていなかったのに、卒業・就職し、社会に出て仕事を始めるようになってから不適応が目立ち始め、自分自身も周囲も違和感を覚えて受診に至ることが多いです。子どもの頃は周りの協力も得て何とかこなせたことも、大人になると誰も助けてくれませんので、仕事上でトラブルになったり、能力を否定されることが重なり、ストレスレベルが一気に上がるのです。
例えば、最近受診された新入社員のAさんの例を挙げましょう。Aさんには、「相手の話し声は聞こえるが、話に集中できないので内容がなかなか頭に残らない」という特性がありました。内容が頭に残らないため、言われた通りの仕事ができず、上司から「ちゃんと話を聞いているのか。なぜもっと集中できないのか」と注意され、「もしかして発達障害かもしれないから病院へ行きなさい」と言われ、受診に至りました。この方は、診察の結果、ADHDと診断されました。
その他、受診時の訴えとして多いのは、「対人関係が苦手で周囲になじめない」という悩みです。思ったことをすぐ口に出してしまう、時間管理が苦手で遅刻をしたり納期を守れない、ケアレスミスを繰り返す、書類を紛失する……といった、業務上の問題も目立ちます。仕事中に電話に出たり、新たな指示を受けたりすると混乱するなど、複数の仕事を同時にこなせない人も多くいます。
けれども、発達障害を持っていても、適職につくことで実力を発揮し、成功する人も少なくありません。物理学者のアインシュタインや哲学者のウィトゲンシュタイン、発明王のトーマス・エジソンなど、天才と呼ばれる人も発達障害だったのではないかと言われています。
例えばASDなら、自分が強い興味を持っている研究に従事し、その分野ではずば抜けた才能を持つ人が多くいます。ADHDの場合は、デザイナー、作家など芸術関係の仕事が適職だといわれます。他人とのコミュニケーションや細かい時間管理をあまり必要とせず、自分のペースでできる仕事であれば、能力を存分に発揮できるようです。
いずれにしても、発達障害の「自己診断」は禁物です。当院の発達障害の専門外来には「私は発達障害だと思うので診断してほしい」と言う人がたくさん受診されますが、発達障害と診断されるのはそのうちの3割程度です。インターネットには、「仕事がつまらない」「対人関係がうまくいかない」という悩みをすぐにASDなどの発達障害に結びつけるような情報も溢れていますが、実際に専門の医師の診察を受けてみると、発達障害に該当しないことが多いです。あまり情報に振り回されないようにしてください。
製薬会社のWebサイトには、セルフチェックリストが掲載されているものもあるので[注2]、まずはそちらを試してから受診してもいいでしょう。
■グループ療法で訓練を重ねて改善
――専門外来で、発達障害はどのように診断されるのですか。[注2] 日本イーライリリーWebサイト「大人のADHD症状チェックリスト」など。これは精神科で診る病気全般にいえることですが、脳の形態や機能の問題がないかを調べるためにMRIやCTの検査を行うことがあっても、ほとんどの場合、それによって診断が確定できるということはありません。発達障害の場合、重視するのは問診です。発症に至った経過や症状を詳細にお聞きして、画像検査などの結果も踏まえて総合的に判断します。
発達障害は先天性のものなので、思春期以前、幼少期にさかのぼって、生活習慣や生活態度、行動を知ることが重要なポイントです。そのため、可能であれば小学校時代の通知表を持参してもらい、教師が書いた記録も見るようにしています。本人や家族への問診のほか、初診時は自己記入式のチェックリスト[注3]を用いることもあります。
――発達障害だと診断されたら、どのような治療が行われるのでしょうか。
社会生活に支障が生じるようなときは、投薬を行うこともあります。成人の場合、ADHDの症状を改善させる薬には、コンサータ(一般名:メチルフェニデート)とストラテラ(アトモキセチン)が認可されています(表)。患者さんの中には「世界が違って見える」と話す人がいるほど、劇的に効く場合があります。
この2つの薬が作用する仕組みは違いますが、いずれも集中力を上げたり、衝動性を抑えたりする目的で使われます。ただし効き方は少々異なります。コンサータは効果が表れるのが早く、1日1回、朝の服用で最大12時間の効果が得られます。反対に、ストラテラは、コンサータほどの即効性はありませんが、長期的に使うことで、効果を継続させることができる薬です。
一方、ASDには薬による治療法がありません。ASDには、グループでディスカッションやロールプレイングをするなど、心理社会的療法が有効です。
――薬には副作用がありますか。薬をやめるタイミングはどう見極めるのですか。
副作用がまったくないというわけではありませんが、使い続けても正しく使用していれば、副作用は少なく安全性の高い薬です。薬を使わなくていい状況になったときにやめるという使い方でよいと思います。例を挙げると、会社勤めをしていた事務職のBさんは、結婚して専業主婦になり、会社でさまざまな人と仕事上のコミュニケーションを取る必要がなくなったので、薬の使用を中止しました。
また、営業職のCさんは、重要なプロジェクトに携わり、うっかりミスが許されない立場に立ったとき、注意力・集中力を高めるために投薬を行っています。
――薬以外の治療法、心理社会的療法とはどのような内容なのですか。
当院の発達障害の専門外来では、グループ療法に力を入れ、対人関係を構築したり、社会性を身につけるための訓練を行っています。何か頼まれたときのうまい断り方や、職場で休憩時間に雑談する話題、どうしたらミスを防げるかなど、身近な事例を取り上げ、意見を出し合って解決法を全員で考えます。
例えば、誘いを断るにしても、直接的に「あなたとは行きたくない」とは言わず、「せっかくだけど、仕事が忙しくて行けない」のように、相手に不快感を与えずに自分の意思を伝えるコミュニケーション法を実践で学びます。ケアレスミスが多ければ、ミスをした内容をメモしてデスクなどに貼っておく、上司からの指示は必ず復唱するなど、さりげない対策が周囲との不和を減らすことにつながることなどを理解していきます。
グループ療法は10人程度で、1回3時間ほどのセッションを月2回、半年続けます。他の参加者と接して問題に取り組み、経験を重ねていくことで、その後の社会生活に役立つよう指導します。参加された患者さんは、「みんなの前で話してみて、頭の中を整理できた」「悩んでいるのは私だけじゃないと知って安心した」といった感想を語り、終了後もOB会として集まるグループもあるようです。多くの人は勤務の合間に通っていますが、離職中の人は、グループ療法を経て就労支援プログラムに移行することもあります。
■発達障害という多様性を受け入れる職場づくりを
――発達障害のある同僚に対して、周りはどのように接していけばいいのでしょうか。まずは職場の管理者が、発達障害を抱えるスタッフ自身や周囲の人間が、どんなことに困っているかを把握し、力になろうとする姿勢を見せることが大切です。最近は、管理者や総務部、健康管理部門などの担当者が問題に気づいて、何に配慮すればいいかを知るために、本人と一緒に医療機関を受診することも増えてきました。発達障害であることを職場で公表して対応するかどうかは状況によりますが、上長が配慮しようという姿勢を示せば、部下も自然と、発達障害の特性に対して理解を深めていくのではないでしょうか。
経営者的な立場の方にぜひ知っておいてほしいのは、発達障害のある人には知的能力の高い人が多いことです。ASDの人の中には、驚異的に記憶力が良いなど、天才的な能力・ひらめきがある人がかなり存在します。ADHDの人は、特定のことに一点集中して頑張る特性から、閉塞した状況を一気に変えてしまうような突破力があります。
ASDの人もADHDの人も、職場になじまないこともあるでしょうが、企業にとって財産となる可能性も秘めています。彼らの能力をうまく生かしてほしいですね。 [注3] ASDには50項目からなる自閉症スペクトラム指数(AQ)、ADHDは66項目のカーズ(CAARS)というチェックシートがある。いずれも患者本人が記入するもので、医師の診断の参考にされる。
岩波明さん 昭和大学附属烏山病院病院長・医学部精神医学講座主任教授。東京大学医学部卒業。東京都立松沢病院、東京大学医学部精神医学教室助教授などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。2015年から昭和大学附属烏山病院病院長を兼任。同院の発達障害外来・ADHD外来のほか、昭和大学病院附属東病院精神神経科でも診療を行う。著書に『発達障害』(文藝春秋)など。
「私には友達がいません。今はいらないんです。私はいわゆるガールズトークをしません。できないし、意義を全く見い出せないんです」
そう切り出したのはアスペルガー症候群の診断を受けたCさん(30代)。
前回までは「ADHD(注意欠如多動性障害)」について取り上げました。今回は、発達障害の中でも「自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)」について取り上げます。
◆今は「自閉症スペクトラム障害」と呼ばれる
「自閉症スペクトラム障害」は、以前は「自閉症」「自閉症障害」「広汎性発達障害」「アスペルガー症候群」など、多くの名称が用いられてきました。しかし、現在では、これらを一つの連続体と捉えるようになり、「自閉症スペクトラム障害」という名称が広く用いられています。
この特性としては
1、コミュニケーションの障害
2、社会的なやりとりの障害
3、こだわり行動
の3つがあります。中でも、「アスペルガー症候群」は、知的な遅れがなく、対人関係の障害が比較的に軽度な状態を言います。
また、ADHDと同様に特に女性の場合は特徴が男性ほど目立たない場合が多く、気づかれにくいため、別の診断を受けてしまうことも多いようです。日本自閉症協会「メディア・ガイド」によると、男女比は4:1の割合でみられると発表されています。
「以前、女性のアスペルガー症候群はよく知られていませんでした。診療を続けている中で、自閉症圏の人と共通した要素がある女性が多くいることに気づきました。
例えば、注意欠陥障害、心身症、うつ病などと診断され、なかなか改善しない場合とか、時には統合失調症と診断されていて、多量の向精神薬が使われていても、アスペルガー症候群であると診断し、減量とカウンセリングで回復に導いたこともありました。
また、体の不調の訴えで難治性の心身症と言われた女性をアスペルガー症候群と考え、心理療法や薬物療法、漢方薬などを併用して改善させたこともよくあります」(小児神経精神科医の宮尾益知医師)
◆「最近どう?」って…何を聞かれてるの?
男性と女性の「アスペルガー症候群」の特徴は違うようです。
男性の場合、3歳頃からアスペルガー症候群の特徴である「こだわりが強く、他の子どもと衝突しがち」という症状がみられます。
一方、女性は、幼児期には特徴が目立たず、小・中学生くらいから人間関係での悩みが出てきます。友達とおしゃべりをしていて、話についていけないことが多くなってくるのです。「あの子の話、聞いた?」など、具体性がない曖昧な話についていけなくなるというのです。
「いわゆるガールズトーク、具体的に言えば女の子同士で話をする時、話題はグループごとに違いますよね。会話の中に主語とか目的語とか指示語とかが入りません。入っていないので何のことだかわからない。そこが女性のアスペルガー症候群の1番最初に出てくる悩みなのです。
“1日の間で1番辛い時間帯はいつですか?”と質問をしたところ、“お昼ご飯を食べる時なんです”と答えが返ってきました。“どうしてお昼ご飯を食べる時が辛いのか”って聞くと、”最近どう? っていう話がランチのときに出るから”と答えるのです」(宮尾医師)
Cさんは「最近どう?」と聞かれても、具体的に何を聞かれているか理解できないのです。
毎日、新聞を読んでその日の話題を探して、その質問に答えることができるように知識を持って職場に行きますが、その日のうちに、様々な事件が起こります。大変なことが起こると、当然、話題は変わります。
しかし、Cさんはそういった状況に合わせて答えることができず、“変な人”と言われて、排除されてしまうのです。
◆無理に仲間に入ろうとしなくていい
「診断を受けて、自分の特性を理解してからはトラブルが少しずつ減ってきました」と言うCさん。医師やカウンセラーのアドバイスを聞いて、苦手なガールズトークでは無理をしないようにしていると言います。
「カウンセラーさんから“すごく努力しているから、無理にコミュニケーションを取ろうとしなくていいですよ”と言われたのです。臨床心理士から言われると、私は素直なのでそのまま取ってしまう性質があるらしく、専門の方にそう言われるのなら、確かにしんどいし、もういいかなって、少し吹っ切れたところがあります。
それ以来、カミングアウトもしていないのですが、もう友達はいなくてもいいんだって思っています。そういうところで気を使うのが嫌なんですね」(Cさん)
Cさんは診断を受けるまで、グループに入ろうと努力していました。しかし、自分の特性を自覚してからは、無理に付き合おうとせず、自分を理解してくれる人との関係を大切にしようと思ったといいます。また、一人になると考えが整理でき、気持ちが落ち着くとも言っています。
◆睡眠障害、うつ、胃腸の不調などが起きることも
アスペルガー症候群の人は、様々な特性から生活上の困難が生じやすいため、基本的にストレスの多い生活を送りがちです。適切な理解や支援を受けられずいると、ストレスが積み重なっていき、二次的な障害が起こることがあります。
「男女を問わず多いのは、睡眠障害です。もともと時間の感覚を持ちにくい上に、ストレスによる不眠もあり、生活リズムが崩れがちです。他にうつ病や統合失調症、強迫性障害などの病気も男女ともによくみられます。
また、女性に多い病気として第一に挙げられるのは心身症です。胃腸の不調や貧血、疲労感などにより、何度も内科を受診する人もみられます。他に摂食障害やうつ病、不安障害など心の病気も見られます」(宮尾医師)
社会性が育ちにくいと言うアスペルガー症候群の特性が、人間関係などの悩みにつながり、各種の心の病気に関わってくる可能性もあるのです。上記のような症状や、体調不良を感じたら、発達障害に理解のある心療内科などで専門医に相談してみることをお勧めします。
多量の空気を飲み込むことでゲップやおならの頻発、お腹の膨満感などの症状が現れる状態を「呑気(どんき)症」、「空気嚥下(えんげ)症」と呼ぶ。その多くは歯の噛みしめ習慣が原因で起きている「噛みしめ呑気症候群」だ。生活に支障があれば治療を考えよう。
【唾液の飲み込み過ぎ】
誰もが忌み嫌うゲップやおならの正体は、唾液や飲食と一緒に飲み込んでいる空気だ。
呑気症治療の第一人者で心療内科「ベイサイドさちクリニック」(横浜市)の小野繁院長は「人は誰でも唾液を1回飲み込むのと同時に3-5ccの空気を飲み込んでいる。
胃の中には常時50ccぐらいの空気が溜まっていて、ゲップで口から出たり、6-7時間かけて大腸に運ばれ排ガスされている」と説明する。
呑気症の人は、普通の人よりも唾液を飲み込む回数が多いのだ。しかし実際、消化器科などで検査しても異常が見られないと腹部膨満・排ガスタイプは「過敏性腸症候群」、ゲップタイプは「非びらん性胃食道逆流症」などと診断されてしまうことが多いのが現状だ。
【肩こりや頭痛も合併】
小野院長は「これらの病気と呑気が併発することはあっても原因とはならない」と話し、「ほとんどの呑気症例に共通するのが歯の噛みしめ習慣、緊張時に起こす唾液嚥下」と、空気を飲み込む回数が無意識に増える理由をこう解説する。
「唾液を飲み込むときは舌を上顎につけ、上下の歯を合わせると嚥下反射が起こる。日常的な噛みしめ習慣の背景には、精神的ストレス、抑うつ状態、PC作業などのうつむき姿勢、鼻炎や後鼻漏などの疾患などさまざまな要因がある」
日常的に噛みしめているため、消化器症状に加えて顎周辺の疲れ、肩や首のこり、頭痛などの頭頸部症状を伴うのも特徴。
小野院長は「噛みしめ呑気症候群」と名付け、10年ほど前から学会などで報告をしてきた。
【マウスピース装着で噛みしめ防止】
数々の診療科を受診しても納得のいく治療が受けられず、ドクターショッピングを繰り返す患者は多いという。悩みを抱えたままでいると、その不安から「おなかが気になって集中できない」「自分のにおいを過度に気にする」などの精神症状が出てくるから厄介だ。
小野院長は効果的な治療法として、歯科との協同でマウスピースを作り、歯にはめるスプリント療法を行っている。前歯、もしくは奥歯の一部に装着して、噛みしめを防止・気づかせる方法だ。
食事と睡眠以外は日常的に装着して改善させていく。
「早い人で1カ月、平均3カ月ぐらいで症状がとれる。スプリントの費用は3割負担で5000円ほど」と小野院長。
無意識に噛みしめていたら要注意だ。
★「噛みしめ呑気症候群」チェックリスト
《消化器症状》
□ゲップがよく出る
□おならがよく出る
□お腹が張る(膨満感)
《頭頸部症状》
□気がつくと歯を噛み合わせていることが多い
□口元や頬に力が入っていて唾液を飲むことが多い
□顎の周辺に疲れや痛みがある
□肩や首のこりが強い
※胃腸の検査で異常がなく、消化器症状1つ以上、頭頸部症状2つ以上該当すれば可能性がある。
ベイサイドさちクリニック(横浜市)/小野繁院長作成
脚に異常な不快感が現れて、なかなか寝つけないことはないか。あったら睡眠障害の疑いあり。専門医は週2回以上あるようなら治療を受けた方がいいと忠告する。チェックリストに該当しないか確認してみよう。
【脚が不快で眠れない】
この病気は夕方から夜間にかけて脚がむずむずする、チリチリする、かゆい、痛い、ほてるなどの不快感が現れて、「眠れない」「寝不足で翌日、強い眠気に襲われる」ことが大きな問題になる。
睡眠障害の専門医のスリープ&ストレスクリニック(東京・大崎)の林田健一院長は「不快感は脚の太もも、ふくらはぎ、足裏など、皮膚表面ではなく深部に感じて、筋肉を揉みほぐしたくなる、脚を動かしたくてたまらなくなる」と症状の特徴を説明する。
不快感は両脚、片足だけの場合、また左右差があったりと人によって違う。次第に腹部、背中、腕の方まで広がるケースもあるという。
【脳内物質ドーパミンの分泌低下】
しかし、脚を動かしたり、他の事に注意が引かれていると不快症状はピタリと治まる。いざ寝ようとする(じっとしている)と症状が強く出るから困るのだ。症状は毎日のように現れる重症の人もいれば、ときどき現れる軽症の人もいる。
発症メカニズムはハッキリ解明されてはいないが、「脚の過剰な知覚を抑えている脳内物質のドーパミンの分泌低下。ドーパミンを作る原料になる鉄分の摂取不足。それから体質(遺伝子)の3つが発症に大きく関係していることは分かっている」(林田院長)。
また、腎不全、鉄欠乏性貧血、糖尿病、腰痛症などの病気で二次的に引き起こされる場合もあれば、精神安定剤や抗ヒスタミン薬の副作用で起こる場合もあるという。
【専門医の受診が重要】
罹患率は年齢と共に増えて60代がピーク。国内の罹患者は潜在患者を含め200万人以上と推定されているが、実際に適切な治療を受けている人は意外と少ない。林田院長は「全体の10%程度ではないか」と、その理由をこう話す。
「この病気を知らない医師がまだ多く、整形外科、皮膚科、血管外科などを渡り歩いている患者さんが結構いる。精神神経科医であっても睡眠障害を専門にしていなければ正しい診断は難しい」
以前は、むずむず脚症候群に対する保険適用薬はなかった。が、今年1月からドーパミンの働きを助けるパーキンソン病の治療薬がむずむず脚症候群にも保険適用になった。服用すれば症状は抑えられるという。
睡眠障害の専門医は日本睡眠学会のホームページなどに掲載されている。
ムズムズする人は最寄りの専門医を受診しよう。
★「むずむず脚症候群」チェックリスト
□脚に異常な不快感があり、脚を 動かしたくてたまらない
□脚の不快感は、むずむずする、虫がはっているような感じ、かゆい、痛い、火照るなど
□脚の不快感はじっとしているときに起こる
□脚の不快感は、脚を動かしたり、歩いたりすると楽になる
□脚の不快感は夕方から夜間にかけて強く出る
□脚の不快感でよく眠れない
※すべて該当すれば決定的。スリープ&ストレスクリニック(東京・大崎)/林田健一院長作成