戦後猛威をふるった性感染症「梅毒」が、国内では2011年から再び急増し始め、昨年は約7000人の患者数が報告されている。
そんな中、世界各国で70年近く梅毒の標準治療薬として使用されている「ペニシリン注射薬(筋肉注射)」が、国内でも製造販売が承認された。まもなく発売され、臨床現場で使われる。
国内の梅毒治療は、これまで「ペニシリン経口薬(一般名アモキシシリン)」を服用する内服治療しか選択肢がなかった。なぜ、国内では注射薬が使われてこなかったのか。日本性感染症学会の梅毒委員会・委員で、「しらかば診療所」(東京都新宿区)の井戸田一朗院長が説明する。
「日本でも以前は梅毒治療にペニシリン筋注を使っていましたが、1950年代にアレルギーによるショック死が起きたことなどから使われなくなったのです。しかし、海外実績があり、患者さんにとってメリットが大きいことから、関連団体が厚生労働省に要望書を提出したのです。その検討の結果、医療上の必要性が高いと評価され、厚労省が製薬会社に開発要請して、再認可という運びになったのです」
梅毒の病原体は、「梅毒トレポネーマ」という細菌の一種で、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入して感染する。感染から1カ月前後で最初の症状(1期)として、感染部位の性器や肛門周辺に痛みのない「しこり」や「潰瘍」ができる。しかし、この症状は治療をしなくても約1カ月で自然に消える。
次に、感染から3カ月後くらいに2期の症状として、全身の皮膚や粘膜に薄い発赤が無数にできる「バラ疹(しん)」が現れる。この症状も半年以内に消え、潜伏梅毒に移行する。この感染から1年未満の1期と2期と潜伏梅毒を「早期梅毒」と呼ぶ。感染から1年以上経つと「後期梅毒」と呼び、3期になると炎症が全身に進行して、臓器障害が起こる場合がある。
治療は、ペニシリン系抗生物質で病原体を駆除するわけだが、注射薬は投与回数・治療期間が非常に短くて済むのが大きなメリットだ。
「経口薬では、早期梅毒で1日3回、4週間の服用が必要です。そのため患者負担が大きく、途中で服用を止めてしまう恐れがあります。一方、注射薬は早期梅毒なら外来で1回の注射で終了です。後期梅毒でも週に1回、計3回注射するだけです」
経口薬も注射薬も注意する副作用にアナフィラキシーが上げられているが、どちらも起こる頻度は極めてまれという。治療効果判定は、治療開始後1カ月ごと(半年以内)に採血による抗体検査を行い、抗体値が半分以下になれば治癒と判断される。(新井貴)
いま梅毒が流行っているらしい。梅毒患者は戦後間もない1940年代には20万人を超えていたが、その後抗生物質のペニシリンなどのおかげで激減、一時は患者数500人を切ったこともあるが、2011年以降増えだし2019年には6000人を超えている。
コロナ禍で以前に比べてよく手を洗うようになり、アルコールを使っての除菌等をするようになってか、風疹、おたふくかぜ、水ぼうそうなど感染症は明らかに減っているおり、インフルエンザや麻疹(はしか)は激減した。しかし性感染症はあまり減っていない。
梅毒はコロンブスとその船員が、新大陸からヨーロッパに運んだと言われている。
ヨーロッパに渡った梅毒は、たちまち広がり、多くは数か月以内に死んだというから恐ろしい。中世ヨーロッパにおいて梅毒は主要な死因の一つでもあった。
そして日本には、コロンブスがアメリカ大陸を発見してわずか20年後に梅毒患者が確認されている。交通機関の発達していない時代に、わずか20年でこの凶悪な性病が地球を一周したというのは、人間がいかにSEX好きな動物かということがわかる。
この梅毒は、かの偉大な哲学者ニーチェの脳を犯し、かのアル・カポネは刑務所に入ったときに悪化し、梅毒に脳をやられたカポネは泣き虫になり、ずいぶんといじめられたそうな。
1906年(明治39)に実質的に東大附属高校とも云われた、第一高等学校の生徒の健康診断をしたところ、実に3分の1が梅毒をはじめとする性病に感染していたという結果が出た。
驚いた全国の有名大学は、入試合格者全員の性器や肛門を調べ、梅毒など性病にかかっているかどうかを検査し、もし罹っていたら入試合格者でも、あるいは完治していたとしても「いかがわしい場所に出入りする者はエリートの資格なし」と、容赦なく落としたという。
この性病検査はなんと東大では1956年(昭和31)まで続けられ、一部の大学では1970年代まで行っていたというから驚く。
プロフィール おぐらおさむ
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、社会問題全般に関心が高く、歴史、時代劇、宗教、食文化などをテーマに執筆をしている。2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。空手五段。
江戸から明治期にかけて、いまでは信じられないほどの梅毒が市中に蔓延していました。それを示すデータが残されています。英国の公使館付医官だったウィリアム・ウィリスが、英国外務省の依頼で日本の売春についての報告を求められた際、作製した文書です。
それには、「日本の遊女の3分の1は身売りの契約期限が切れないうちに梅毒で死亡している」「江戸では遊女の約10%が梅毒にかかっていると見られるが、横浜では少なくともその患者が2倍はいる」「日本の田舎では梅毒はまれだが、都市では30歳の男の3分の1が梅毒に冒されている」などが記されています。
ウィリアム・ウィルスという人は、スコットランドのエジンバラ大学で医学を修めた後、1862年に駐日英国公使館の医官として来日。戊辰戦争や上野戦争の傷病兵の治療にあたっただけでなく、土佐藩藩主・山内容堂の肝臓の治療も担当しました。ほかにも病院の整備や日本人医師の育成にも携わり、幕末から明治維新にかけて日本の近代医学・医療の基礎を築き、発展に貢献しました。
東京大学医学部の前身や鹿児島大学医学部の前身を作ったことでも知られています。そのウィリアム氏が作製した報告書ですから、信頼のおけるものだと考えてよいでしょう。
それだけ梅毒患者が多かったことを考えれば、他の性感染症の患者も多かったはずです。当然、夫から性感染症をうつされた女性も少なくなかったでしょう。じつは1885年に日本で最初に医術開業試験(いまの医師国家試験)に合格した女性もそのひとりです。現在の埼玉県熊谷市出身の荻野吟子氏は、18歳で結婚しますが、3年後に離婚。
その理由は淋病を夫からうつされたからだと言われています。当時の淋病は一生治らない病気とされ、子供が生まれないと言われました。高熱に耐え、腹痛に悩まされた末に離婚を決意したそうです。
幸い、その後治療に成功したものの、診察台に乗って複数の屈強な男性医師に囲まれて行われる診察を経験し、「私のような女性を救ってやろうと決心した」と伝えられています。その時の恥辱が、女性が医師になるという夢すら抱けなかった時代の壁を破る原動力になったのだろうと思います。男性は、女性にそうした大きなエネルギーがあることを知っておくべきでしょう。
ちなみに、荻野吟子医師は埼玉県の三偉人のひとりです。深谷市出身で現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公である渋沢栄一、同じく深谷市出身で江戸時代の全盲の国学者にしてあのヘレンケラーから「人生の目標」と称えられたという塙保己一と共に顕彰されています。
なお、荻野吟子医師が男尊女卑的な試験制度を変えるにあたっては、塙保己一が編纂した平安時代の律令の解説書「令義解(りょうのぎげ)」が大いに役立ったとされています。そこに女医の規程があり、それが荻野吟子医師の医師国家試験受験の突破口になったのです。
その顛末については札幌医科大学出身の外科医で作家の渡辺淳一さんの「花埋み(はなうずみ)」(新潮文庫)に詳しく書かれています。興味がある人は一読されると良いでしょう。
(尾上泰彦/「プライベートケアクリニック東京」院長)
■朝、トイレに行くと排尿痛がする
朝、寝ぼけ眼でトイレに行くと、尿道が滲みるように痛い……。激痛ではないので、気にならないと言えば気にならない。でも、確かにいつもと違う気がする。そのような朝を迎えられたことはありませんか?
もし、その数日前に決まったパートナーとではなく、別の相手やよく知らない相手と性行為や類似の行為(オーラルセックス)、ディープキスをしていたら、性病に感染しているかもしれません。
気のせいかもしれないと思い放置していると、だんだん白っぽい透明な膿(うみ)も出始めてきます。
■クラミジアとは
このような自覚症状があったら、性器クラミジアに感染している可能性があります。
・朝、トイレに行くと排尿痛がする
・性器がむず痒い
・白っぽい透明な膿(うみ)がでる
クラミジアは、Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマチス)に感染することによって発症します。感染場所は、男性の場合は尿道と咽頭、女性の場合は膣内と咽頭になります。
性器クラミジアの場合、男性には症状が現れやすいのですが、女性は症状がおりものが増える程度で、クラミジアに感染していることに気がつかないことがあります。
また、咽頭クラミジアといって、のどに感染していることもありますが、こちらも症状が出にくく、気がつかないまま口から性器へ、性器から口へ感染させてしまうことがあります。
そのためクラミジアは、男性・女性ともに最も感染患者数が多い性病となっています。
■「性病かな?」と思ったらどうすべき?
病院に行って検査を受けましょう。男性の場合は、泌尿器科や性感染症内科(性病科)。女性の場合は、婦人科でも診療できます。
男性の場合は、1時間ほど尿をためた後の尿検査、女性は膣の分泌物を採取して検査を行います。のどを調べる場合は、生理用食塩水でうがいし、そのうがい液で検査をします。一般的には、あまり痛くない検査と言えるでしょう。
検査の種類は、30分程度で判明する即日(迅速)検査。もしくは、2日から1週間程度で結果が判明する精密検査があります。また、病院によっても、病院内で検査を行うのか、検査会社に依頼して検査を行うのかによって、判定日数が異なります。
■クラミジアの治療法
日本性感染症学会によって推奨されている性器クラミジア感染症の薬は、いくつかありますが、現在では1回の飲み薬で完治する薬を勧めています。理由は、1回の服用で十分な効果が得られること。
また、7日間服用するといった薬ですと、飲み忘れや、自身の判断で最後まで薬を飲まない患者もいるためです。
■治癒確認検査も必ず行いましょう
クラミジアに感染後、投薬治療を行ったら、必ず4週間後にPCR法(精密検査)を行うようにしましょう。病原体が確実に感染していない状態にもどっているのか(陰転化)を確認します。
また、4週間は少し長い期間に思われますが、精密検査の精度が良くなっていますので、菌の死骸に反応して偽陽性(感染が疑わしい)と判定されることを防ぐためです。
■ピンポン感染にご注意!
自分が感染していたら、パートナーも一緒に治療するようにしましょう。いわゆる「ピンポン感染」を防ぐためです。
また、治癒確認検査が終わっていないのに性行為や類似する行為を行うと、相手に感染させてしまうことになりますので、こちらも気をつけましょう。
エイズウイルス(HIV)に感染しても、適切な治療を受けていれば、うつすことはない――。最新の研究をもとに、こうした啓発活動が世界で広がっている。12月1日は世界保健機関(WHO)が定める世界エイズデー。
エイズはかつて致死率の高い病気だったが、薬など治療環境が大きく進歩し、平均余命は非感染者とほぼ変わらないほどに改善した。現在は、HIVに感染しても早期に治療を始めれば、エイズの発症や症状を抑えられ、通常の日常生活を送ることができる。
エイズ予防財団の白阪琢磨理事長は「1日1回、1錠の薬を飲めば、ウイルスを血液検査で検出されないレベルに抑えることができる時代になっている」と話す。近い将来、2カ月に1回の注射ですむようになる見込みという。
また近年、薬でウイルス量を抑えていれば、コンドームなしの性交渉でも感染させないことが複数の臨床研究で示された。これを受け、2016年ごろから、「検出されない=Undetectable」と「感染しない=Untransmittable」の頭文字を取った「U=U」を広める啓発活動が世界で広がる。日本エイズ学会なども支持している。
ただ、国内ではエイズに対する理解が進んでいない。内閣府が18年に18歳以上の3千人を対象に行った調査(回収率56%)でエイズの印象について、「死に至る病である」が52%、「原因不明で治療法がない」は34%に上った。
18年に設立したU=Uジャパンプロジェクト代表の井上洋士・順天堂大特任教授は「社会の理解が、治療の進歩に追いついていない現状がある」と危惧する。同プロジェクトでは「HIVの新常識」として、「効果的な治療を続けていれば、HIVは感染しない」といった発信に力を入れる。
厚生労働省によると、19年に報告された新規のHIV感染者・エイズ患者は計1236人。エイズが発症して初めて感染がわかる人が全体の約3割を占める。井上教授は「効果的な治療を受けるために、まずは検査にいくことが重要だ」と強調する。
猫エイズと白血病の共通点
治療法がなく、一度でも発症したら高い確率で命を落とす
猫エイズと猫白血病は、どちらも現段階では治療法がないため、感染し発症した場合は最終的に命を落としてしまいます。
そのため猫エイズ・猫白血病の治療法は、症状に対して抗生物質やインターフェロンの投与などを行う対症療法となります。
白血球数の減少による免疫力の低下・症状
発熱やリンパ節の腫れ、口内炎、下痢、貧血などの症状が猫エイズ・猫白血病の両方とも見られる症状です。またどちらも体を守ってくれる白血球の数が減少し、免疫力が低下します。
そのため末期状態になるとふだんでは自身の免疫力で排除でき、問題とならないはずの細菌やウイルスなどの病原体に負けてしまう日和見感染を起こします。
感染力が弱い
感染し発症すると命を落としてしまう猫エイズと猫白血病ですが、原因となるウイルス自体は感染力が弱いため、空気中に飛び散っているウイルスにより感染する、空気感染などでうつることはありません。
他の猫に感染しないように隔離する必要がある
感染猫との接触により猫エイズや猫白血病に感染します。単独飼育であれば特に問題はありませんが、多頭飼いの場合は同居猫に感染する恐れがあります。
そのため部屋を隔離させたり、食器やトイレも別々に分けたりするなど、感染しないように他の猫との隔離方法をとる対策が必要です。
猫エイズと白血病の違う所
感染経路
猫エイズの感染経路としては原因であるウイルスは、主に唾液や血液に多くあるため感染猫に咬まれる咬傷により感染します。
その一方で猫白血病は猫エイズと同様にウイルスが唾液や血液にありますが、涙や排泄物などにも多く含まれています。
そのため、猫白血病は感染猫による咬傷による感染のほかに、感染猫との舐め合いによるグルーミングや食器の共有などでも感染することがあります。
そのため、多頭飼いの場合は他の猫に感染しないように注意する必要があります。
ワクチンによる予防
死に至る恐ろしい猫エイズと猫白血病ですが、猫白血病に対してはワクチンで予防することができます。
一般的な猫のワクチンは、コアワクチンである猫汎白血球減少症(猫パルボ)・猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症の3つの感染症を防ぐ3種混合ワクチンなため、猫白血病は入っていませんが、4種や5種・7種混合ワクチンに猫白血病が入っています。
猫の白血病はうつるため、同居猫がいる場合は感染させないようにワクチンを接種する必要があります。猫白血病はコアワクチンではないため、獣医師との相談してワクチン接種による予防を行いましょう。
猫エイズにつきましては以前販売されていましたが、強い副作用があるため販売中止になったことがあります。
寿命
命を落とす感染症ですが、猫エイズの場合は発熱やリンパ節の腫れなどが起こる急性期のあと、症状が出なくなる無症状キャリア期に入ります。
潜伏期間が約4〜5年といわれていますが、強い病原体ではないため、中にはその後発症しないまま生涯を過ごすことがあります。
また健康な状態であれば、自身の免疫力で抑え込むことができ、発症するまでの時期もそれぞれ個体差がありますが、感染してから発症後の寿命は短くても5年程といわれています。
猫白血病も病原体が弱いウイルスなので感染しても自己の免疫力でウイルスを排除することができ、軽い初期症状の後の潜伏期間から発症しないケースもあります。
しかし、原因であるウイルスを排除できなかった場合、ほとんどが2〜3年以内に発症し命を落としています。年齢が若いほど発症率が高いですが、特に子猫の場合はほぼ100%発症し亡くなります。
猫エイズと白血病の検査方法
猫エイズや猫白血病に感染しているかどうかは、原因であるウイルスに対する抗体ができているか調べます。
猫の血液を採取し検査キットで調べることができ、猫エイズ・猫白血病一緒に検査できます。ですがそれぞれ、検査するタイミングによって感染しているのにも関わらず「陰性」である場合がありますので、検査する時期に注意する必要があります。
猫エイズの検査方法
猫エイズの場合は、一般的に感染してから約60日以降の検査で抗体の検出することができるといわれています。
抗体ができるまで1か月〜2か月ほどかかるため、感染した直後に検査しても「陰性」になることがあります。
また母猫が猫エイズに感染していた場合、胎盤や母乳により子猫に抗体が移行することがあります。そのため子猫が猫エイズに感染していなくても、陽性反応と出ることがあります。
母親からの母乳を通して子猫に免疫を分け与えるため、その免疫力によって自然消滅するのが生後6か月以降になりますので、子猫に猫エイズ検査を受ける際は、生後6か月以降がベストな時期なのです。
猫白血病の検査方法
猫白血病検査も感染した直後には「陰性」と出てしまい、陽性反応が出てくるまで大体感染してから約4週間かかります。
また、猫エイズと同様に自己の免疫機能でウイルスを排除することができるため、理想としては感染してから1か月以上経ってから検査することです。
検査費用は動物病院によって異なり、私が勤務している病院では3200円ですが、平均的に3000〜4000円くらいです。
検査キットで10分程で結果が分かるため、検査その日に感染しているかどうか知ることができます。しかし、検査時期のタイミングによっては1回の検査で正しい結果が出てくるとは限らず、再検査が必要な場合がありますので、獣医師の指示をよく聞きましょう。
まとめ
猫にかかる感染症はいくつかありますが、その中でも猫エイズと猫白血病は命に関わる代表的な感染症です。
私が飼っている猫も同じですが、日本で飼育している猫の約8割が雑種であり、野良猫を拾ってきたり保護団体から譲り受けたりして飼育しているケースが多いです。
日本にいる野良猫のおよそ10%が猫エイズや猫白血病に感染しているといわれているため、野良猫を拾ってきたり、譲り受けてもらったりした場合はウイルス検査をする必要があります。
この2つの感染症は発熱やリンパ節の腫れ、口内炎など現れてくる症状が似ています。また免疫力が下がってしまうため、やがて体が細菌やウイルスなどの病原体に負けてしまい日和見感染を起こします。
そして残念ながら現段階ではどちらも治療法がないため発症した場合、最終的に命を落としてしまいます。
動物病院にて感染しているかどうか調べることができます。
ほとんどが血液を採取し、検査キットを用いて調べますが、タイミングによっては感染しているのに「陰性」と出たり、逆に感染していないが「陽性」と反応したりと、1回の検査で正確に出てこないことがありますので、獣医師からの指示をよく聞いておきましょう。
治療法がありませんが、病気に対する抵抗力をつけ、負けないように猫にとってストレスのない過ごしやすい環境を整えてあげましょう。
新宿・歌舞伎町近くにある性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」に、20代半ばのサラリーマンがやってきた。朝起きたらペニスの先から黄色い膿が出てきて、オシッコのし始めがえらく痛いという。典型的な「淋菌性尿道炎(淋病)」の症状だ。
どこで何をしたか尋ねると、彼は自信たっぷりにこう答えたという。
「実は5日前にピンクサロンに行きました。でも、先生、セックスはしていませんよ。性病が怖いですからね。だから口だけにしておきました」
尾上泰彦院長は「このようなケースが実に多い」と言う。
「『口だけなら安全……』なんて、とんでもない誤解です。男性の性感染症で最も多いのはクラミジア性尿道炎、次いで淋菌性尿道炎です。その最大の感染源は、ピンクサロンやファッションヘルスなど性風俗店でのオーラルサービスなのです」
つまり、性風俗従事者(女性)の咽頭にクラミジアや淋菌が感染していて、フェラチオによって男性器に感染するパターン。咽頭感染は、のどの発赤や腫れなどの見た目や自覚できる症状がほとんどない。綿棒やうがい液を使って検査しないと感染は分からないので、気づかず他人にうつしてしまうのだ。
特にオーラルサービス専門店では、クラミジアよりも淋病の方がうつされやすい傾向があるという。なぜか。
「咽頭は、淋菌にとってすみやすい環境だからです。口の中は常在菌が無数にいますが、その中にナイセリア属の細菌が何種類もいます。淋菌はナイセリア属なので、性器だけでなく咽頭も感染しやすいのです。しかし、クラミジアの咽頭感染も決して少なくないので、油断は禁物です」
同院では、男女問わず性器淋菌感染者の約30%に、咽頭からも淋菌の検出が見られる。また、男性では性器の淋菌陽性率が咽頭よりも高いのに対して、女性では咽頭の淋菌陽性率が性器より高いという。
その理由は判然としないが、クンニリングスよりもフェラチオの方が、男性器の形の特徴から尿道分泌物が女性の咽頭に直接到達しやすいからだと考えられている。
性器と咽頭の同時感染では、治療で性器の淋菌が消失しても、咽頭淋菌が残存する場合もある。
「咽頭淋菌の治癒率が低いのは、淋菌が咽頭の上皮組織ではなく、粘膜層に存在するからです。投与された薬剤濃度の上昇が少なく、抗菌効果が得られないためと思われます。感染機会がなく再発した場合は、咽頭感染も疑う必要があります」
淋菌、恐るべし。
性感染症最前線】
近年、患者が急増中の「梅毒」(昨年は6700人以上)。しかし、1960年代後半から患者数が減少を続けていたことから、「昔の病気」と思い込んでいる人が多い。それに若い医師は診療経験がほとんどないので、受診しても見落とされやすい。
症状は感染から4週間前後で表れるが、体内に抗体ができるのは6週間後ぐらいなので検査をしても陽性にならないことがある。症状は極めて多彩で「偽装の達人」といわれる。どんな症状に注意するべきなのか。性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が言う。
「見逃してはいけない初期症状(早期第1期)は、性器や肛門周辺の病原体が侵入した部分の『しこり(初期硬結)』や『潰瘍(硬性下疳=げかん)』です。加えて、股間のリンパ節が腫れることがあります。しかし、多くが痛みなどの自覚症状がないので気づきにくいのです」
性感染症を疑うポイントは、「いつ」「どこで」「誰と」「何をしたのか」。受診時に医師にきちんと伝えないと見落とされる可能性がある。尾上院長は過去に、こんなケースがあったという。
30代男性で受診の3日前に、ピンクサロンでオーラルセックスのサービスを受けた。そして、尿道口から黄色い膿(うみ)が出てきたことから受診。最初は「淋菌性尿道炎」と診断がついた。ところが性器診察時の問診で、さらに約3週間前にソープランドで膣性交とオーラルセックスをしていたことが判明した。
「それで患者さんの尿道口を開いてみたら、尿道粘膜に潰瘍が見つかりました。実は、淋病にかかる前に梅毒に感染していたのです。ピンクサロンで淋病にかかっていなければ、本人は梅毒の感染には気づいていません。診療経験の豊富な専門医でないと、このようなケースでは梅毒は見逃されてしまうでしょう」
さらに、この患者の喉を調べると淋菌が検出され「淋菌性咽頭炎」にもなっていた。咽頭に自覚症状はなく、発赤やへんとうの腫れなどの所見もなかった。性感染症は重複感染が少なくないので要注意という。また、梅毒は性器以外の皮膚や粘膜の傷口からも感染する。頻度は2~3%以下と低いが、口唇、手指、乳頭などに潰瘍ができる場合がある。
国内の梅毒の急増を受け、厚労省は今年から医師の届け出内容を変更し、患者の性風俗の利用歴や従事歴を加えるという。
次回は、梅毒の早期第1期に続く、「早期第2期」「後期梅毒(第3期)」の症状を取り上げる。
性感染症の患者数が増えている。国立感染症研究所などによると2018年の梅毒の感染者数は、44年ぶりに5000人を突破。10年から8倍増となった。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者とエイズ患者数の累計は2.7万人を超え、沈静化しているようにみえた性器クラミジア、淋菌も12年以降増加傾向にある。そんな中、眼科医の間で心配されているのが性感染症による目の異変だ。眼科専門医で「清澤眼科医院」(東京・江東区)の清澤源弘院長に聞いた。
■梅毒2期以降でぶどう膜炎を発症することが
「性感染症というと陰部のかゆみやただれ、排尿時の痛みなどが代表的な症状ですが、目に表れることがあります。例えば梅毒による視力低下です。通常はいきなり目に梅毒が感染することはありませんが、初期症状が消えてから1~3カ月後あたりの第2期以降にぶどう膜炎を発症することがあるのです」
梅毒は梅毒トレポネーマという病原菌が原因で起こる性感染症。感染して1週間から10日後に病原菌の侵入場所にコリコリとした硬結や潰瘍ができるが、これは治療しなくても自然と消える。これが第1期。さらに3カ月後には手のひらや足の裏などに赤い発疹ができる場合がある。これが第2期で多くは治療しなくてもやがて症状が消える。
「強力な抗菌薬の登場で梅毒は治療できるようになりました。そのため、かつてのように梅毒による典型的なぶどう膜炎を見ることも少なく、私自身も40年近い眼科医師生活で10例程度です。ただし、梅毒性の虹彩毛様体炎や視神経炎などは増えている印象があります」
虹彩とは黒目の周りにある色のついた部分を言い、その伸び縮みにより光の量を調整する。毛様体は水晶体の厚さを調節してピントを合わせる働きをする。
「虹彩毛様体炎は虹彩にある血管が反応して虹彩とその隣にある毛様体に炎症を起こす病気です。通常は両目に発症します。視神経は、網膜で集められた光を脳に伝える神経線維の集まりを言い、そこに炎症が表れるのが視神経炎です。視神経炎が怖いのは放置するとやがて視神経萎縮が起きて失明するからです」
HIVは、まぶたにみずいぼ、網膜に綿花様白斑および点状出血が表れやすい。
「HIVの網膜病変の初期では通常は視力等には影響せず、見逃されることがあります。ただ、HIVの典型的症状のひとつであるため、HIV感染を自覚していない患者さんが、これらの症状で眼科を受診して、初めてHIV感染が明らかになるケースも報告されています」
■新生児の感染も
クラミジアは患者数が最も多い性感染症で、自覚症状がないことが多い。
「クラミジアが原因の眼病の中でもよく知られてきたのがトラコーマです。最近はトラコーマとは別のクラミジア結膜炎が性感染症でみられます。最初は目の充血や、黄緑色の目やに、まぶたの内側のブツブツなどの症状が表れます」
クラミジア結膜炎には成人型と新生児型とがある。前者は性器クラミジア感染者の分泌物が手や指などから結膜に接触することから感染し、発症する。治療にあたってはアデノウイルスによって発症する流行性角結膜炎との鑑別が必要となる。
一方、クラミジアに感染中の母親から産道感染によって新生児に発症するのが新生児型だ。
「生後約1週間で大人と同じような目やにや結膜充血などがみられます。成人型と同じで呼吸器感染症を併発しやすいことがわかっています」淋菌も成人型と新生児膿漏眼の2通りある。前者は尿道炎や咽頭炎を介して発症するタイプで、後者は母親の産道感染で起こるタイプだ。
「アデノウイルス結膜炎と誤診されることが多く、大量の目やにや、まぶたの腫れ、明らかな結膜充血が表れます。治療が適切でないと角膜上皮に点状のびらんができて、角膜に穴が開くことがあり、最悪失明します。新生児型は生後2~4日後に発症し、成人型同様、治療が遅れると角膜に穴が開き失明します」
ほかにもこれに関連する性関連感染症には、毛じらみが眉毛に寄生してかゆみなどの自覚症状を起こすものや、ヘルペスウイルスによる結膜炎などがある。 「眼科を受診する際、普段とは違う相手と性交渉があれば医師に伝えましょう。パートナーにすでにうつしている場合もあり、その場合は2人で治療しなければなりません。医師は血液検査の際、性感染症の項目を入れることで正しい診察と治療ができます」
恥ずかしがらずに包み隠さず医師に相談する。それこそが健康への道だ。
梅毒の感染者が爆発的に増えている。昨年は年間5000例を超えた。日本性感染症学会副理事長で東京慈恵会医大皮膚科教授の石地尚興医師に聞いた。長く年間1000例を下回っていた梅毒が徐々に増加し始めたのは、2010年。当初は男性が主な感染者だったが、13年以降、10~20代の女性の感染者の増加が目立ってきた。
また、都心部だけでなく、地方都市にも感染が広がっている。
「MSM(男性間性交渉者)といった特定のコミュニティー、風俗営業など特定の感染源から、一般社会の男女間の感染に広がってきている。特定の性的パートナーしかいなくても、その性的パートナーが別の人との性行為で感染し、うつされることもあります。性行為をしている人は、だれでも可能性があると考えた方がいい」
“自分は大丈夫”と思わず、梅毒の知識をしっかり身に付けるべきだ。
■感染経路
母子感染もあるが、圧倒的に多いのは、性行為で梅毒の菌に感染している粘膜や皮膚に接触して、感染するケース。「最初から最後までコンドームを装着していれば、感染のリスクを減らせます。しかし“射精時だけ”では駄目です」オーラルセックス、アナルセックスでも感染する。梅毒の菌の感染力は強く、1回の性行為でも感染する率は高い。要は、梅毒の感染者と1回でも性行為をしたら感染を疑うべき、ということだ。
■症状
「感染して3~4週間後に、性器や唇、肛門など感染部位に“しこり”や“ただれ”が出ます。痛くもかゆくもありません。症状は3週間ほどで消え、3~4カ月後、お腹や全身の皮膚に、バラ疹と呼ばれるピンク色の細かい発疹が出ます。やはり痛くもかゆくもなく、数週間で消えます。性器にじくじくと隆起した扁平コンジローマができることもあります」
症状が消えるのは、体に備わった免疫力で菌が減少するから。しかし、免疫力だけで菌を排除することはできない。治療をしなければ、数年後には皮膚や筋肉に腫瘍が発生したり、感染後10年ほどで大動脈瘤や大動脈炎といった心血管病変、進行麻痺などの神経病変を起こす。
■検査
感染後1カ月くらいから、血液検査で分かる。
「梅毒を疑う症状は出ているのに、検査時期が早いと結果が陰性になることがあります。時間をおいて検査をすれば陽性になると考えられますが、その間に感染を拡大させてしまうかもしれない。感染機会があって、疑わしい症状があれば、検査結果にかかわらず、治療開始が望ましいです」
症状が、非常に軽くしか出ない人がいる。梅毒が珍しい時代が続いたため“実物”を見たことがないという皮膚科医もいるので、「ウイルス感染に伴う発疹」「風邪薬などの副作用」といった診断になることもある。 「医師が梅毒を念頭に置いて、患者に質問をすることが大事。手のひらや足の裏の発疹は梅毒の特徴的な症状なので、疑わしい人にはそれらを確認するとともに、“覚え”がないかを聞きます。性器などの発疹を調べることもあります」
ただし、前述のように「身に覚えがなくうつされた」ケースもある。原因不明のしこりやただれ、発疹があれば、梅毒の血液検査を一度受けた方がいい。
■治療
ペニシリンが効く。海外では筋肉注射1回で治療終了。日本ではかつてショック死の副作用が見られたため、飲み薬のみ。1日3回、2~12週間服用する。腫瘍や大動脈瘤などまでいくと治療困難になるが、発疹までであれば完治する。「感染予防としては、不特定多数の人との性行為をしない。コンドームを適切に使用する。感染拡大予防としては、早期発見・治療が重要です」
【性感染症最前線】
国内の「梅毒」患者の報告数が爆発的に増えている。戦後1940年代後半は年間22万人も報告されていたが、ペニシリン(抗生物質)の登場により約10年で激減。その後、67年の年間約1万2000人をピークに、90年代半ばからは1000人未満で推移。それが2011年以降、急増し始める。15年には2698人、17年は44年ぶりに5000人を突破。昨年(12月2日現在)は6300人以上にもなった。
最近の梅毒の特徴について、性感染症専門施設「プライベートケアクリニック東京」(新宿区)の尾上泰彦院長が言う。
「男性は20代から各世代、幅広く報告があるが、女性はなぜか20代が突出して多い。感染は大都市中心に増加し、それが地方都市にも拡大しています。症状は極めて多彩で『偽装の達人』といわれますが、非典型の経過をたどったり、無症状であることも普通。進行形態が複雑化しています」
梅毒は、風疹などと同じで第5類感染症に分類され、医師に発症届け出(全数報告)が義務づけられている。しかし、「梅毒は昔の病気」と思っている人が多く、若い医師は梅毒の診療経験がほとんどないので、現在の報告数は氷山の一角とみられているという。
病原体は「梅毒トレポネーマ」と呼ばれるらせん状をした細菌の一種で、皮膚や粘膜の微細な傷口から侵入し、感染する。典型的な症状は、感染から通常1カ月前後に最初(早期梅毒第1期)の症状が現れる。性器や肛門周辺などの感染した部位に「しこり」や「潰瘍」ができるのだ。また、同時に股の付け根のリンパ節が腫れることもある。
これらの症状は痛みがないことが多く、治療をしなくても1カ月ほどで自然に軽快する。しかし、体内から病原体が消えたわけではなく、時間をかけて次々と体をむしばんでいく。特に妊婦は要注意という。
「妊婦が感染すると、『先天梅毒』といって胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形などを起こす場合があります。先天梅毒の報告(16年は14件)も梅毒増加に伴って年々増加しています」
では、なぜ近年急増しているのか。届け出の周知が徹底されてきたからという見方もあるが、外国人観光客の急増が影響しているのではないかという指摘もある。たとえば中国で最も猛威を振るっている性感染症は梅毒。中国衛生部の報告によると、16年度の梅毒感染者数は46万4457人で、15年前の15倍以上に増加しているという。
次回は、「偽装の達人」といわれる梅毒の多彩な症状を取り上げる。
久しぶりのカラオケを張り切り過ぎて声がガラガラ。そんな“声がれ”でも、長く続くようなら、声帯(声を出す器官)に何らかの障害が起きている。耳鼻咽喉科の音声外来で診てもらおう。
【1週間続けば要注意】
東京ボイスクリニック品川耳鼻いんこう科の楠山(くすやま)敏行院長が忠告する。
「大声を出し過ぎた声がれの場合、翌日から改善していくのなら心配はありません。しかし、1週間過ぎても元に戻らなければ、声帯に病変ができている疑いがある。原因をはっきりさせることが大切です」
声はのどの左右にある声帯(ひだ)がぶつかり合って出る。ここに少しでも異常があると、声がかれる症状が現れる。
「通常、風邪やカラオケで起こるのは急性声帯炎。一過性の炎症が起きているので、炎症が引けば元の声に戻ります」
しかし、無理をして大声を続けるとダミ声になる。声帯が厚く肥厚する肥厚性声帯炎(慢性声帯炎)の状態だ。
【がんの可能性が怖い】
また、歌手や声を仕事にする人には声帯結節や声帯ポリープができやすい。どちらも声帯にプックリ膨れたでき物ができる。わずか1ミリの病変でも声はかれるという。
「声帯結節は声の使い過ぎの積み重ねでできる声帯の“タコ”です。一方、声帯ポリープは急激な声の使い過ぎでできる“血豆”。ポリープは1度のカラオケだけでもできることがあります」
結節もポリープも良性の病気で、仕事や生活に困らなければ薬や切除手術など治療を急ぐ必要はない。だが、早い原因究明が重要。喉頭がんの可能性もあるからだ。
「声帯にがんができる“声門がん”は、喉頭がんの8割を占める。声がれはがんの症状であることを忘れないでください」
【神経マヒでかすれ声】
さらに細かく声の変化をあげれば、誰でも年をとっていくと、徐々に声帯の筋肉や粘膜がやせて弱い声になる。しかし、声を出そうと思っても、突然、弱い声でかすれるようなら要注意だ。
「声を出したり食事の時は、左右の声帯がピタリついて気道が閉じる。この機能は脳から心臓の近くまで下降後、Uターンして食道、気管、甲状腺の脇を通って声帯に至る反回神経がつかさどっています。反回神経が障害を受けてマヒすると声帯に隙間が空いて、“空気の抜ける”ような、かすれ声になります」
反回神経マヒで疑われる病気には、脳疾患や胸部大動脈瘤(りゅう)、食道がん、甲状腺がんなどがある。
「いずれにしても長引く声の変化には、重篤な病気が隠れている可能性があります。きちんと声の専門医に原因を調べてもらってください」
【声がれが現れる声帯の主な病気】
・急性声帯炎(声帯の一時的な炎症)
・慢性声帯炎(声帯が肥厚、むくむ)
・声帯ポリープ(声帯の血豆)
・声帯結節(声帯のタコ)
・声帯のう胞(声帯に袋状の病変)
・声門がん(喉頭がんの8割)
・逆流性食道炎(胃酸逆流の影響)
・気道アレルギー(気道炎症の波及)
胃がんや胃・十二指腸潰瘍の原因になるピロリ菌。これまでピロリ菌が起こす“胃炎”の除菌治療は保険が利かなかったが、今年2月21日から保険適用になった。さっそく退治しておこう。
【症状なく、放置が怖い】
胃潰瘍の7割、十二指腸潰瘍や慢性胃炎、胃がんではほとんど、ピロリ菌が原因。しかし、症状がなくても安心していられない。感染者で症状が出るのは全体の30%程度だからだ。
ピロリ菌感染症認定医である「あんこうメディカルクリニック」(東京・西池袋)の安康晴博(あんこう・はるひろ)院長が警告する。
「胃がん予防に関して言えば、胃にピロリ菌がいること自体が“問題”。胃の不調で受診した時にはすでに“進行がん”の場合もある。症状が出るまで、除菌をしないでいることは非常に危険です」
感染の疑いが強いのは、昭和30年以前に生まれた世代(80%)という。
【精度高い呼気検査】
ピロリ菌の有無を調べる検査には、内視鏡、血液検査、便検査などがあるが、“尿素呼気試験”の精度が一番高い。検査薬を服用して20分後に専用の袋に息を吐く。機器にかけ、すぐ判定できる。
「内視鏡で粘膜組織を採取して調べる鏡検法より、呼気試験の方が正確なのは、点ではなく、面で調べられるから。ピロリ菌の多さまで分かります。内視鏡の組織検査は、胃がんのリスクを判断するのに有用です」
除菌の流れは、ピロリ菌検査と内視鏡で胃粘膜の状態(胃がんの有無も)を確認する。2種類の抗生物質と胃酸抑制薬の3剤を1週間飲んで除菌。4-8週間、期間を置いて尿素呼気試験で除菌の判定をする。
【耐性菌10年で4倍】
しかし、現在、1回目の除菌成功率は70%弱。耐性菌が増えている。
「2000年に7%だった耐性菌の割合が、10年間で31%に急増。これはクラリスロマイシンに対する耐性で、この薬は風邪などでも処方されています。病気で抗生物質をよく使う人は、除菌に失敗する確率が高い」
抗生物質の組み合わせを変えた二次除菌の成功率は約90%。保険適用はここまで。二次除菌に失敗すると専門外の診療所ではお手上げになる。
「当院には、二次除菌に失敗して行き場のない“耐性菌難民”の患者さんがたくさん来ます。独自に組み合わせた“5剤併用療法”を行うので、三次、四次除菌に失敗して来た方でも、今のところ100%除菌に成功しています」
これまで5剤併用療法での除菌は約800例にのぼるという。
「除菌は早ければ早いほど良い。ただし、除菌後も30%程度胃がんのリスクは残る。その後の定期的な内視鏡検査が重要です」
《ピロリ菌が引き起こす病気》
慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃ポリープ、萎縮性胃炎、胃MALTリンパ腫、胃がん
《除菌薬剤の成功率と内容》
【一次除菌】 成功率⇒70%弱
薬名「ランサップ400・800」
【二次除菌】 成功率⇒90%
薬名「ランピオンパック」
【三次・四次除菌】(保険適用外)薬剤の組み合わせ、成功率は医療機関によって異なる
◆10~20代前半の女性に多い「クラミジア感染症」とは
クラミジア感染症は10~20代前半の女性を中心に増えてきている性感染症。女性の性感染症の中では、HPV感染を除くと最も多く、20代前半の感染者数は性交経験のある人の5~10人に1人と予測されています。
自覚症状がほとんどないために、妊婦健診で検査をしてみて初めて感染に気づくというケースも少なくありません。クラミジアによる卵管炎は不妊症の原因となるため、若い頃の感染が将来弊害をもたらすこともあります。
また、クラミジアに感染していると、HIVへの感染率が3~5倍に増えると言われています。
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◆クラミジア感染症の原因・感染部位・感染経路
クラミジア感染症の原因は、クラミジアトラコマティスという細菌。性交渉によって尿道や子宮頚管、喉の奥にクラミジアが感染します。咽頭感染のように喉への感染もあるため、性器同士の接触がなくても感染する場合があります。
なお、プールや大衆浴場など、性行為以外の場で感染することはありません。
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◆クラミジア感染症の症状……自覚症状が出にくく無症状のことも
男性、女性ともに、感染してもほとんど自覚症状がないのが特徴。そのため、感染に気づかず、パートナーが変わるごとに次々に感染を拡げてしまう危険性があります。
■男性のクラジミアの症状:排尿痛、尿道から膿が出る可能性も
尿道炎を起こすため、排尿時の痛みや尿道の違和感、尿道から膿が出るといった自覚症状が見られることがあります。女性に比べて、男性は症状が現れやすい傾向にあります。
■女性のクラジミアの症状:子宮頚管炎、膀胱炎、卵管炎を発症する恐れも
女性は、子宮頚管炎(子宮の出口の炎症)が起きると水っぽいおりものが増えたり、おりものに少量の出血が混ざったりすることがあります。尿道や膀胱に菌が入ると、頻尿や排尿痛などの膀胱炎症状を引き起こします。炎症がお腹の中まで拡がると、腹痛・発熱などの症状が出る場合もあります。時には炎症が肝臓の周囲まで拡がってしまうことがあり、その場合は右側の肋骨の下の辺りに痛みが出るため、内科の病気と間違われる可能性もあります。
クラミジアによる炎症が卵管に拡がると「卵管炎」を引き起こし、卵管閉塞の原因となります。卵管閉塞になると、将来卵管性不妊や子宮外妊娠のリスクが高くなります。
30代の女性で子宮外妊娠のために緊急手術を行ったら、お腹の中はクラミジア感染を疑う癒着があり、卵管は周囲とくっついてしまっていたというケースもありました。本人が自覚がないままクラミジア感染が進行してしまうと、何年も経ってからこのようなトラブルが起きてくることもあります。
◆クラミジア感染症の検査法……性器感染・咽頭感染の診断法
男性は尿を使うか尿道の細胞を擦り取って検査します。女性は子宮頚管の分泌物を拭い取って検査します。男女ともに、咽頭感染が疑わしい時は、喉の奥を直接こすって検査をするか、うがい液を検査に出します。
血液検査では、抗体検査により「抗体」を調べることもできますが、一度でも感染したことがあれば「陽性」になるため、過去の感染を含めて感染の有無を判定する場合に用います。
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◆クラミジア感染症の治療方法……抗生物質服薬か点滴で治療
男女ともにクラミジアに有効な抗生物質を1日~7日間飲みます。炎症がひどくて腹痛や発熱がある場合は、点滴による治療が必要になることもあります。治療後に再度検査を行い、結果が「陰性」になっていることを確認できれば「完治した」といえます。
パートナーがいる場合は、相手も同時に治療することが重要です。どちらか片方しか治療を行わなかった場合、一度治っても、治療後に性交渉を行えば未治療のパートナーから再度感染することになり、いつまでも完治できません。治療後の検査で再度「陽性」が出た場合は、抗生物質の種類を変えて結果が「陰性」になるまで治療を行います。
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◆非常に感染力が強いクラミジア感染症の予防法
コンドームを、毎回初めから正しく使うことが最も有効な予防法。咽頭感染もあるため、オーラルセックスの時もコンドームを使用するのが理想です。また、パートナーが変わったら、そのたびに定期的な検査を行って、早期発見を心がけることも大事です。
クラミジアは非常に感染力が強く、1回の性交渉でも感染する確率が高いので、一度だけと油断せず、妊娠を目指す時以外は必ずコンドームを使うようにしましょう。
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清水 なほみ(産婦人科医)
新たな突破口です。
テンプル大学の研究者らがHIVをヒトの培養細胞から完全に除去することにはじめて成功しました。
今までもさまざまな治療法が開発されてきましたが、HIVは自身のゲノムをヒトの細胞に埋め込むため、ウイルスの増殖を抑えることはできても、完全に消すことは不可能と考えられていました。
今回研究者らが開発したツールはガイドRNAと呼ばれるRNA鎖と制限酵素。
この2つを一緒に用いるとガイドRNAがHIVウイルスの遺伝子にくっつき、制限酵素がそこを切断するという仕組みです。アイディア自体はとてもシンプルですが、これを本当に実現したことが画期的なんでしょうね。
なお、この治療法はまだ実際のヒトには使われておらず臨床試験に向けて研究を進めているとのこと。
実現すれば世界中のエイズ患者を救うだけでなく、将来の感染を予防することもできるそう。エイズが「治る病気」になる日もそう遠くはないのかもしれません。
昨年10月に肝臓を調べる最新検査機器が保険適用になった。この機会に詳しく調べてみてはどうか。
【肝硬変から肝がんに】
肝臓は“沈黙の臓器”。健康診断などで脂肪肝や肝機能低下を指摘されても自覚症状がない。怖いのは、放置していると“肝硬変”に進行する可能性があることだ。
国立国際医療研究センター、肝炎・免疫研究センターの溝上雅史研究センター長が警告する。
「肝硬変は肝細胞が死滅・線維化して肝臓が硬くなる病気。慢性肝炎から移行する。硬くなればなるほど、肝がんを発症しやすくなります」
肝硬変から肝がんになる確率は、10年以内に約70%と高い。
【下戸の脂肪肝にも要注意】
慢性肝炎の原因は、肝炎ウイルスによるC型、B型肝炎だけではない。飲酒習慣があれば、アルコール性脂肪肝から慢性肝炎を起こす。他にも薬剤性や自己免疫性などの慢性肝炎がある。
「普段、お酒を飲まない人の脂肪肝は、大部分は慢性肝炎になりません。しかし、一部、10%ぐらいが“脂肪性肝炎(NASH)”になることが分かっています。ウイルス感染や飲酒がなくても油断はできません」
肝臓の硬さを診るには、従来では触診や血液検査で血小板の数などから判定されてきた。
「肝硬変の疑いがあれば、肝臓に針を刺して採取した細胞を調べる肝生検(検査入院)が必要になる。そう簡単に肝臓の硬さを詳しく調べられなかったのです」
【肝臓の硬さを即判定】
今回、保険適用になった検査機器“フィブロスキャン”は優れもの。皮膚の上から肝臓に超音波を当てるだけ。振動波の戻り時間から肝臓の硬さが数値で表示され、3-5分で済むという。
「肝臓の線維化(硬さ)の進行程度が細かく分かるだけでなく、脂肪の量も測れます。これまでは肝硬変になった後の肝がんの早期発見に力が注がれてきた。この検査が保険適用になり、今後は、その一歩前の段階から肝がんのリスクが外来で簡単に分かるのです」
特に、数年も前から脂肪肝や肝機能障害を指摘されながらも、大酒や過食をやめられないでいるメタボ(生活習慣病持ち)の人は手遅れになりやすい。
「自分は、まだ大丈夫」と思っていても、肝臓の線維化はジワジワと進行する。肝臓の検査結果には、常に注目しておこう。
《フィブロスキャンの概要》
【検査法】普通の超音波(エコー)検査の要領で肝臓に検査機器を当て、10回測定。その中央値が数字で算出される。
【分かる結果】肝臓の硬さ(線維化)の程度と脂肪量
【所要時間】3-5分程度
【検査費用】3割負担で2190円(原則3カ月に1回)
【設置状況】全国約70カ所の医療機関が導入
電気ショックで心臓の動きを規則正しいリズムに戻す「AED(自動体外除細動器)」の使用が、一般市民に認められて今月で10年。心臓突然死の大半は心室細動という不整脈で起こる。目撃したら一刻も早いAEDの使用が生死を分ける。
【高齢から子供まで】
国内で心臓病が原因で突然、心停止を起こして搬送される人は年間約7万人(毎日約200人)もいる。その心臓病もさまざまだ。「減らせ突然死プロジェクト」実行委員長で、立川病院(東京)の三田村秀雄院長が説明する。
「心停止状態の心室細動の原因になる主な病気は、中高年なら心筋梗塞や心筋症など、若い人では冠動脈奇形や肥大型心筋症など。子供では野球やサッカーなどのスポーツ中に、ボールが胸に当たって起こる心臓震盪(しんとう)があります」
いつどこで突然、心停止を起こして倒れる人がいるか分からないのだ。
【1分1秒が重要】
119番通報から救急隊が到着するまでの時間は年々延びていて、現在の全国平均は8・3分。この短時間で目撃した周囲の人が、いかに早くAEDを使用するかが心停止した人の生死を分ける。
「心停止から電気ショックが1分遅れるごとに、助かる確率が1割ずつ下がります。心停止から通報までに2-3分かかり、さらに救急隊の到着を待っていてはまず助かりません」
統計では、2005-2012年に3775人に現場でのAED(電気ショック)が行われ、1627人が助かっている。
「目撃された心停止の救命率は、119番通報のみでは8・6%(社会復帰4・5%)、心臓マッサージをした場合は14・2%(同9・7%)、AED使用は41・4%(同36%)です」
【すぐに心肺蘇生(そせい)を】
AEDは、駅や学校、公共施設などに現在、約30万台が市民用として設置されている。では、倒れた人を目撃したら、どう対応すればいいのか。
「声掛けをして意識がなく、通常の呼吸をしていなければ、すぐに119番通報とAEDを探してくるように周囲の人に依頼する。間をおかず現場の人は、早急に心臓マッサージをAEDが到着するまでやり続けてください。人工呼吸はしなくても構いません」
心臓マッサージの押す位置は、大まかに乳首と乳首の間の真ん中。硬い骨の部分に手のひら部分を当て、その上にもう片方の手を重ねる。
そして、肘を伸ばし、肩が手の真上にくる姿勢で、5センチ以上沈む強さで1分間に100回以上のスピードで繰り返す。
「AEDの操作は簡単で、ふたを開ければ音声で操作の仕方の指示が流れます。AEDで心室細動が治まっても、救急隊が来るまで心臓マッサージは続けてください」
心肺蘇生の講習会は、日本赤十字や消防署で実施している。
《心肺蘇生の手順》
(1)周囲の人に119番通報とAEDを依頼する
(2)直ちに心臓マッサージを開始する
(3)AEDが来たら、音声に従って電気ショック
(4)すぐに心臓マッサージ再開、2分ごとのAED診断で電気ショック不要と判断されても、救急隊到着まで続行
もう10年以上の付き合いになる、スキあらば性病ばかりに罹りまくる今年38歳の某男性編集者(既婚)と久しぶりに話した際、僕に嬉々としながらこう豪語してきた。
「ゴメスさん! すげー便利な性病科の病院見つけたんスけど!! 今度、ゼヒ使ってみてください!」
どこらへんが“便利”なのか、よくよく聞いてみると、「あおぞらクリニック」という病院のことだとか。最近、話題の新橋にある性病科の病院であるらしい。男にとっては大変ありがたい、まさに「駆け込み寺」的なクリニックであるそうだ。
しかし! まだ性病にかかった経験がない(定期の健康診断でも実証済み)、「気合いがあれば性病はうつらない!」をポリシーとする僕からすれば正直な話、そのありがた度はイマイチ、ピンと来なかったりする……。というわけで、こちらのクリニックの”売り”から、性病患者からどのへんのサービスが有難がられているのか、考察してみた。
◆1:受診したことがバレない!
こちらの病院はオール自費診療なので匿名の受診も可能。ゆえに会社や自宅に診療資料も送付されないらしい。これは既婚者からすれば、たしかに大きなメリットなんだろう。診断資料が届く時期に、ずっとポストの前で待ち構えているわけにもいかないし。
ただ、僕からすれば、たとえば皮膚科と性病科が一緒になっている病院に行けば、嫁にはどうにか言い訳できるような気もするのだが? 診断資料には「なんの治療・検査を受けたか」までは記載されていないのだし。
ちなみに、自費診療なので治療費は保険を使った場合の約3倍とかなり高い。カネかプライバシー、どっちをとるべきなのか……。
◆2:男性専門!
患者さんは男性限定なので、気軽に足を運べる環境が整っている。これはけっこうなアドバンテージなのかもしれない。仮に皮膚科と性病科が一緒になっている病院で女性客と出くわしたりしたら……いくら見ず知らずでも、やっぱ恥ずかしいですから。
ただ、『あおぞらクリニック』は性病科オンリーなので、男性客でさえも目と目が合ったりしたら……やっぱ恥ずかしい。できればラーメン屋の『一蘭』みたいな個人個人の敷居が待合室にもあれば、より一層うれしい。
“同士”としての連帯意識が生まれる可能性もなくはないけど? ちなみに、女性の場合だと性病検査は婦人科でも受けられるので、我々男児のような気恥ずかしい思いをすることはないようだ。
◆3:結果がすぐに出るので再来診が不要!
診察結果を知るために再度、来院する必要がない。診断結果をスマホですぐ確認することも可能らしい。ただこれって、特別なことなのか? ……と思いきや、通常の性病科は結果が出るまで最低でも1週間は待たされ、再来院しなければならないんだとか。
だが、『あおぞらクリニック』では結果がシロならモチロンのこと、クロでもその病気が投薬で治るものだったら、通院は一回だけで済むということだ。そ
りゃあ人情として、この手のスポットには何回も行きたくはないし、性病の不安のある人なら一刻も早く結果を知りたいだろうし……。もしかするとコレが一番デカかったりするのか?
……と、まあ「あおぞらクリニック」の大きな“売り”は以上な感じなんだが、いかがでした?
昨今は、クラミジアや淋病だけではなく、HIVや梅毒の感染率も増加の傾向にあるっぽいので、心当たりのある御仁は……一度、門を叩いてみるのも悪くなかろう。 <取材・文/山田ゴメス>
●あおぞらクリニック新橋院(医療法人社団七海会)●
住所:東京都港区新橋2-16-1 ニュー新橋ビル3F339 電話番号:03-3506-8880
【山田ゴメス】
1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。また『解決!ナイナイアンサー』のクセ者相談員の一人でもある。日刊SPA!ではブログ「50にして未だ不惑に到らず!」(http://nikkan-spa.jp/gomesu)も配信中。著書『クレヨンしんちゃん たのしいお仕事図鑑』(双葉社)も好評発売中!
「やたら眠いのは、季節のせい」と納得したらダメ。裏に“睡眠障害”が隠れている可能性もある。質のいい睡眠がとれているか、振り返ってみよう。
【快適でも寝不足に】
“春”によく眠れるのは、気温が上がり気候的に快適になるから。一方で、睡眠の質を悪くし、昼間の眠気を助長させる要因もある。
睡眠外来「スリープ&ストレスクリニック」(東京・大崎)の林田健一院長が指摘する。
「花粉症の鼻づまりで睡眠が浅くなる、逆に薬の副作用で日中眠い場合もある。また、季節の変わり目で体調を崩しやすいことも。それに新年度に入って職場環境が変わり、ストレス、プレッシャーなどの“心労”も睡眠の質を低下させます」
春の職場の心労は、その後の“五月病”にも続くので注意したい。
【睡眠時無呼吸が怖い】
しかし、見逃せないのは昼間の眠気に睡眠障害が隠れているケース。“季節のせい”にしていたら、発見が遅れる。
「日中に強い眠気が出る睡眠障害で、特に中高年男性に多いのは、睡眠時無呼吸症候群。家族から『ひどいイビキをかく』と注意されていてメタボなら、かなり罹患(りかん)の可能性が高い」
睡眠時無呼吸症候群は、肥満などが原因で気道がふさがれ、睡眠中に何度も無呼吸状態を繰り返す。眠りが浅く、熟睡できないだけではない。怖いのは、呼吸が止まり、酸素が体中に行き渡らないことだ。
「毎晩、低酸素血症の状態になる。それが突然死や心筋梗塞、脳梗塞、高血圧の原因になる。ホルモン分泌にも影響するので、糖尿病や脂質異常も悪化する。うつ状態も引き起こします」
【自覚のない寝不足】
仕事中の居眠りで失敗して受診する患者の中には、絶対的に睡眠時間が足りていない場合もあるという。行動誘発性睡眠不足症候群という。
「慢性的な睡眠不足の病態です。問題は、本人が寝不足に気づいていないこと。今の睡眠時間が普通と、自分はショートスリーパー(短眠者)だと思い込んでいる」
睡眠不足症候群は、寝だめの習慣がある人に起こりやすい。
「平日と休日の睡眠時間に、3-4時間も差があれば疑いがあります」
ただし、健康な人でも眠気にはリズムがあり、昼間は14時-16時がピークになる。20分程度の昼寝なら夜の睡眠に影響しないので、寝不足なら上手にとろう。
「日中の眠気が病的かどうかは、朝スッキリ目覚めているかがポイント。睡眠時間を十分にとっていても、朝つらく、日中の眠気が強ければ、一度、受診を勧めます」
★《睡眠障害の見つけ方》
起きたい時間の7時間前に寝て、朝スッキリ起きられるか。目覚めが悪いなら、30分-1時間延ばす。それでも朝つらいなら睡眠障害の疑いあり。
★《短眠者の睡眠障害対策》
普段5時間程度の睡眠なら、連続2日まで。3日目には1-2時間増やす。短時間睡眠を休日まで連続させない。
この機にセックスレスの原因疾患について取り上げたい。いまやED(勃起障害)は治療薬があるので解決しやすいが、一番問題なのは治療が難しい「性嫌悪症」。98%が心因性で、男性に増加しているから要注意だ。
■男性の最も多い原因
セックスレスとは「特殊な事情がないにもかかわらず、1カ月以上性交がない」状態。問題になるのは、カップルのどちらかが“不満”を悩みとして抱えた場合だ。その原因には別項のような性障害があげられる。
“セックスレス”の名付け親でもある「あべメンタルクリニック」(千葉・浦安市)の阿部輝夫院長は、「当院のケースでは原因の3割強が性嫌悪症で最も多い。他の性障害と違って、性嫌悪症になると全員が必ずセックスレスになる」と話す。
しかも男性に多く、増えているからひとごとではない。国内のED患者が推定1130万人ならば、性嫌悪症の潜在患者は500万人以上いてもおかしくない割合だという。
■愛情が家族愛に変質
男性の性嫌悪症の98%は、「ある時期から」「特定の相手(妻)と」「身体疾患のない心因性」で性交ができなくなる病型。性欲は普通にあってオナニーもする。が、妻から性交を求められると払いのけるほど嫌がる。
「ただし、95%の人は夫婦仲がよく、セックスの話をするとギクシャクするのでお互いが避けている。子作り期の30-40代からはじまることが多い」(阿部院長)
婚外性交はやればできるが、ほとんどの男性は浮気もしないという。
原因について、阿部院長は「交際当時は男女の感情でも、一緒に暮らしているうちに徐々に“家族愛・肉親愛”に愛情の質が変化してしまうのです」と説明する。
■重症化する前に相談
3番目に多い「性欲障害」は、性ホルモンの分泌低下やうつ病などの疾患がなく、心因性で性欲が低下しているケース。原因はマンネリの性交や愛情の変質などが考えられるという。
特徴は性欲が弱く、オナニーは少ない、妻に性交を求められると逃げたいがやればできる。婚外性交はないことが多い。
阿部院長は「性欲障害から性嫌悪症に重症化することが結構ある」と指摘し、違いをこう話す。
「診療室で夫に『これからホテルに行けますか』と尋ねると、性欲障害の夫は『行ってみようか』と答える。性嫌悪症の場合は脂汗を流し、黙り込んでしまう」
性欲障害も性嫌悪症も治療はカウンセリングが中心になるが、「愛情の変質が起きたらなかなか治りにくい」(阿部院長)。
放置したままでは悪化はあっても治ることはない。夫婦間にタブーは作らず、早めに専門医に相談しよう。
■セックスレスの主な原因★性嫌悪症(男女)★勃起障害(男)★性欲障害(男女)★性交疼痛症(女)★性的回避(男)★夫婦間葛藤(ペア)★早漏(男)★腟けいれん(女)★腟内射精障害(男)
※「あべメンタルクリニック」のデータから患者数の多い順に列挙。1500症例で男女割合は2対1。(カッコ)内は発症性別。
食中毒を起こしやすい季節。特に細菌性食中毒の中で最も多いカンピロバクターには要注意。下痢症状が治った後に、ギラン・バレー症候群という別の病気を発症する危険性がある。食中毒には十分気をつけよう。
【抗体が神経を攻撃】
ギラン・バレー症候群は、筋肉を動かす運動神経が障害され、急に手足に力が入らなくなる難病。国内の年間発症数は1300-1400人で、その約7割に細菌やウイルスの先行感染(下痢や上気道炎)がみられるのが特徴だ。
千葉大学医学部付属病院・神経内科の桑原聡教授が、「先行感染で最も多い(約30%)のが、カンピロバクターです」と説明する。
「人は細菌やウイルスに感染すると抗体を作ってそれらを攻撃します。カンピロバクターの表面の一部には運動神経の表面と同じ構造が存在するため、カンピロバクターに対して作られた抗体が間違えて運動神経を攻撃してしまうのです」
現在、数種類の細菌とウイルスの先行感染も原因になることが知られているが、完全に証明されているのはカンピロバクターだけだ。
【下痢の後に症状出現】
ただし、カンピロバクターに感染した人のすべてにギラン・バレーが発症するわけではない。
「カンピロバクターには遺伝子タイプがあり、それに対して人の方にも抗体を作りやすい遺伝子タイプがある。その両方が数百分の1の確率で一致すると発症するのです」
食中毒の下痢は3-4日で治るが、その後も抗体は残る。食中毒症状と入れ替わりで、感染から1-2週間してギラン・バレーの症状が現れる。両手足の筋力低下が起こり、両手足の感覚障害が加わる場合もある。症状は日単位で急速に悪化し、2-3週内でピークを迎え、その後徐々に回復に向かう。
「70%は回復するが、戻るのに1年かかる人もいます。20%は後遺症のために歩行に介助が必要になります。数%は肺炎や肺塞栓を起こして亡くなることもあります」
【予防は食中毒対策】
最重症例では、全身の完全マヒでピーク時に体がまったく動かなくなる恐れもある。運動神経の障害が高度であるほど回復が遅れるので、早期の受診・治療が重要になる。
「治療は、血液中の抗体を除去する血しょう交換療法や抗体の働きを抑える免疫グロブリン大量療法(点滴)を行います。障害された運動神経自体は時間をかけて再生を待つしかありません」
カンピロバクターは加熱不十分の鶏肉から感染するケースが圧倒的に多い。食中毒を防ぐことがギラン・バレー症候群の予防につながる。
「歩けなくなるので整形外科を受診してしまう人もいます。ひどい下痢の後に手足に力が入らなければ、早めに神経内科を受診してください」
《カンピロバクターによるギラン・バレー発症の経過》
(1)カンピロバクターに感染(激しい下痢、腹痛など)
↓〈1-2週間〉
(2)ギラン・バレー症候群発症(両手足の筋力低下)
↓〈2-3週間〉
(3)症状がピークに達する
↓
(4)70%は徐々に回復
戸籍上の性別変更を認めた性同一性障害特例法の施行から、16日で10年。国内で医療機関を受診した性同一性障害(GID)患者は約1万8000人。性別で亡くなった後の戒名も違ってくるので、最高齢では78歳で手術治療を受けた人もいる。
【2重の苦しみ】
GIDは、心の性と体の性が一致しない先天性の障害。国内での頻度は「体は女性、心は男性(FTM)」が5000人に1人、「体は男性、心は女性(MTF)」は1万人に1人の割合だ。
受診者の9割近くが性別に違和感をもつ患者で占める「はりまメンタルクリニック」(東京)の針間克己院長が説明する。
「GIDの苦痛は、自分の本当の性とは反対の体に閉じ込められている苦しみと、周囲から本当の性別で扱われない社会的苦しみがあります」
原因は、体の性別とは一致しない性別への脳の性分化で起こると考えられている。
【専門医をチェック】
例えば、「自分の体が嫌」「自分の性別の服装が嫌」「反対の性別で扱われたい。(反対の)体になりたい」という違和感があればGIDの可能性がある。
「同性愛は自分の性別には嫌悪はなく、好きになる対象が同性なだけ。GIDは好きになる性別は関係ありません。ただ、心の性別は逆なので、同性の人を好きになる場合が多いです」
診療科は精神科になり、体の治療が必要であれば泌尿器科や産婦人科、形成外科などが関わる。
「専門医は日本GID学会所属の医師や、患者団体などに最寄りの医師を紹介してもらったり、医師の評判を聞いて探すのがいいでしょう」
【現行特例法は不十分】
診察では医師から、悩みの現状、過去に悩んできた病歴、そして今後どうしたいかを聞かれる。治療方針の決定には今後の希望が重要になる。
「外見を本当の性別に近づけたいだけなら、定期的に性ホルモンを投与するホルモン療法でもいい。戸籍の性別変更を望むなら、体の性器を性別と一致させる性別適合手術という選択になります」
というのも、現在の特例法では戸籍の性別変更には要件(別項)があり、手術で性器の外見を変えることが必須。治療は保険適用外で、ホルモン療法は1回2000-3000円、手術はMTFで150万円前後、FTMでは数百万円もかかる。経済的理由で戸籍変更をあきらめているGID患者は少なくない。
「戸籍変更できれば結婚もできるし、職場など社会での扱いも違う。『手術までしなくても、戸籍の変更さえできれば』という患者さんもいる。海外では手術しなくても性別を変えられる国が増えています。日本の現行の特例法では、まだ不十分だと思います」
《戸籍上の性別変更の要件》
(1)20歳以上であること
(2)現に婚姻していないこと
(3)現に未成年の子がいないこと
(4)生殖腺がないこと、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
この時期は、“耳鳴り・難聴”に要注意。繰り返すなら“メニエール病”の疑いがある。症状が軽くても早期受診が肝心だ。
【めまいのない蝸牛(かぎゅう)型】
症状の特徴は、突然、激しい回転性のめまいに襲われて、吐き気をもよおす。数分から数時間続く“めまい発作”に合わせて、片耳に耳鳴りや難聴、耳閉感が起こる。
しかし、耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック(東京)の大河原大次(だいじ)院長は、「めまいが出ないメニエール病もある」と警告する。
「強烈なめまい発作のイメージが強いが、最近増えている“蝸牛型メニエール病”はめまいがなく、耳鳴りと難聴だけを繰り返す。メニエール病ではないと思って放置していると、聴力がどんどん悪くなります」
【体調不良が引き金】
めまいを伴う耳鳴り・難聴は“突発性難聴”でも起こるが、違いは繰り返し起こること。頻繁に起こる人もいれば、年に数回の人もいる。初発はほとんどが30-60代の働き盛りの世代。
「過労やストレス、寝不足などが引き金になることが多い。季節の変わり目も体調を崩しやすいので症状が出やすくなります。きちょうめんで神経質なタイプの人に発症しやすい傾向なので、メンタルの影響も大きい」
原因は、内耳のリンパ液が増えて神経を圧迫する。音の信号を脳に伝える蝸牛神経が圧迫されれば耳鳴り・難聴が起こる。圧迫が平衡感覚を脳に伝える前庭神経まで及べば、めまいが起こる。しかし、なぜリンパ液が増えるのかは分かっていない。
「難聴はまったく聴こえないわけではなく、低音難聴で耳が詰まった感じになる。耳鳴りも“ゴー”“ボワン”という低い音がします」
【上手に付き合う工夫】
症状が比較的軽く感じる蝸牛型でも、初発の耳鳴り・難聴があったら早めの治療が肝心になる。
「繰り返すとボディーブローのようにジワジワ聴力が低下する。症状が出たら、その都度、聴力を回復させないと、後で治療しても戻らない。放置すると耳鳴り・難聴が常時残る場合があります」
治療薬は、主にステロイド剤や神経細胞を活性させるビタミンB12などの内服薬が使われる。
「いつ症状が現れるか不安になるストレスも悪い。あまり頻発する人には症状に対する即効作用のある利尿薬を処方して、起こりそうな時に事前に飲んでもらう。薬や体調管理で十分コントロールできる病気であることを理解してもらうことも大切になります」
多忙期のめまいや耳鳴りには注意しておこう。
◆メニエール病の症状の特徴◆
★突然、激しいめまいが起こり、吐き気や嘔吐がある。
★めまい発作が起きている間、耳鳴り・難聴がある。基本的に片側の耳に起こる。
★発作は数分から数時間続くことも。
★発作は繰り返し起こる。間隔は人によって異なる。
★蝸牛型はめまいがなく、耳症状だけを繰り返す。
◆Q.「キスで感染する、性行為感染症があるって本当ですか?」
「キスしただけで、忘れた頃に肝炎になる性行為感染症があると聞きました。本当でしょうか? 思い当たることがあり、パートナーや子どもに感染していたら……と思うと、気が気でなりません。」
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◆A.「あります。」 キスだけでうつる性行為感染症とは? 症状は?
ご質問の通り、キスしただけで肝炎になる性行為感染症はあります。性器ヘルペス・口唇ヘルペス、B型肝炎、咽頭クラミジア、咽頭淋病など、さまざまです。ここでは、病名もそのままの、いわゆる「キス病(Kissing disease)」というものをご紹介します。これは唾液中に病原体が存在するために、キスだけで感染してしまう可能性がある病気です。
より正確に言うと、キス病には「伝染性単核球症」という少し難しい病名がついています。この単核球症は、リンパ球のこと。原因ウイルスである「EBウイルス」がある型のリンパ球に感染すると、そのリンパ球を攻撃する別の型のリンパ球が増加します。最初は発熱から始まり、リンパ節が腫れてきます。ウイルス感染したリンパ球を攻撃する場所が肝臓に及ぶと、肝炎と似た症状が起こります。
症状としては、だるさ、食欲不振など。そして、少しのお酒で酔いが回ることもあります。場合によっては、尿の色や白目の色が黄色または茶色っぽく変わる黄疸(おうだん)を来すことがあります。幸いなことに、キス病のほとんどは自然に治ってしまいます。一部の人が、無症状の状態で唾液中にウイルスを持っていて、次の感染源となります。次に感染した人は、また、忘れた頃に肝炎になる可能性があるので注意が必要です。
子供が幼いうちに親から子供へ感染した場合は、子供の免疫系の応答が弱くて、微熱とリンパ節が腫れる程度で症状が軽くて、肝炎の症状までは起きません。知らないうちに多くの人が垂直感染(親から子供へ感染)していることが多い病気です。しかし、キス病に関しては、本人が感染したことがなく、相手の唾液中にウイルスがあった場合は予防方法がありません。
◆忘れた頃に発病するのは潜伏期間が長いため
なぜキス病(Kissing disease)が、忘れた頃に肝炎と似た症状を引き起すのでしょう?
キス病に限らず、感染症は病原体が体に侵入してから発症するまでに一定の期間があります。この期間を潜伏期間と呼びます。潜伏期間は、病原体の量と毒性、それに対する免疫反応の相互の関係で決まります。同じ病原体でも潜伏期間は一定とはなりません。ですから忘れた頃、数か月経って発病する事が珍しくないのですね。
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◆性行為感染症でもある急性B型肝炎にもご注意!
キス病のように、キスだけで感染するようなことはありませんが、同じように忘れたころに発症する性行為感染症として、B型肝炎についても触れておきたいと思います。B型肝炎もまた、性行為によって感染することがあるため注意が必要です。B型肝炎のウイルスは血液中にありますが、感染しても数か月、もしくはそれ以上の潜伏期間があるので、まさに忘れた頃に発病してしまいます。
急性B型肝炎が発症すると、キス病の症状と同様に、体がだるくなり、食欲も落ちてきます。そのうちに尿の色が濃くなる黄疸(おうだん)の状態となります。この黄疸の段階で受診される方が多いようです。
急性B型肝炎の診断には、血液検査でウイルスがいるかどうかの確認が必要となります。ウイルス(subtype)により、病気の経過についての医学的な見通しが変わります。日本では、重い肝炎(劇症肝炎)や慢性肝炎に移行するウイルスによるB型肝炎が10%程度発症しています。劇症肝炎は時に死に至ることがあります。また、慢性化すると、将来的に肝硬変や肝癌の危険性があります。治癒する型(subtype)でも入院期間は数カ月以上必要です。東南アジアでは、日本とウイルス(subtype)が異なり、慢性化する型が蔓延しています。
幸い、B型肝炎の場合は互いの唇どうしを触れあっただけのキスで感染することはありません。前述のキス病とは違い、コンドームなどの避妊具を使うことである程度予防できます。また、B型肝炎は病院内で業務感染の原因となりますので、医療関係者はワクチン接種を実施しています。 医療関係者以外でもワクチン接種は可能ですが、実費扱いです。通常は採血して既にウイルスに感染しているどうかを確認してからの接種となります。一回では十分な免疫がつかないことが多いので複数回の接種が必要です。
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◆21世紀の今、「性病」は死語です
1948年に試行され1999年に廃止になった性病予防法という法律がありました。ですから法律上は性病という言葉は当の昔に死語になっています。なお、性病予防法での「性病」とは、細菌が原因の梅毒、淋病、軟性下疳(なんせいげかん)とクラミジアが原因の鼠径リンパ肉芽腫(そけいリンパにくげしゅ)の4つの病気を指していました。これらは肝炎の原因とはなりません。肝炎の原因となるのはウイルス性の性行為感染症です。
この記事は、厚生労働省ウェブサイト「梅毒に関するQ&A」http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/qanda2.htmlから引用しています。
◆Q3 どのような経路で感染するのですか?
A3 主な感染経路は、感染部位と粘膜や皮膚の直接の接触です。具体的には、性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口の接触(オーラルセックス)等が原因となります。
◆Q4 梅毒に感染したかどうかについて、どのような検査を行いますか?また検査はどこで受けられますか?
A4 梅毒に感染したかどうかは医師による診察と、血液検査(抗体検査)で判断します。どの医療機関でも検査は可能です。
第1期の最初の数週間は抗体検査をしても陽性反応が出ないことがあるため、感染してから十分な期間(約3週間)をおいて、検査結果を確認する必要があります。地域によっては保健所で匿名/無料で検査をできるところもあります。検査結果を正確に判断するために、感染の可能性がある時期や感染の予防状況(コンドーム使用等)について、医師に伝えましょう。
梅毒に感染していたとわかった場合は、周囲で感染の可能性がある方(パートナー等)と一緒に検査を行い、必要に応じて、一緒に治療を行うことが重要です。
出典:「梅毒に関するQ&A」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/qanda2.html
この記事は、厚生労働省ウェブサイト「梅毒に関するQ&A」http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/qanda2.htmlから引用しています。
【梅毒の発生状況について】
日本では1948年から梅毒の発生について報告の制度*がありますが、報告数は、年間に約11,000人が報告された1967年以降、減少傾向にあります。
*1999年に制度の変更がありました。
近年では2013年に1,228例、2014年に1,671例、2015年に2,697例の報告があり、報告数が増加傾向にあり、引き続き注意が必要です。
<参考> IASR 2015年2月http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/iasr/36/420j.pdf
◆Q1 梅毒とはどのような病気ですか?
A1 梅毒は、性的な接触(他人の粘膜や皮膚と直接接触すること)などによってうつる感染症です。原因は梅毒トレポネーマという病原菌で、病名は症状にみられる赤い発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることに由来します。感染すると全身に様々な症状が出ます。
早期の薬物治療で完治が可能です。検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、長期間の経過で脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。時に無症状になりながら進行するため、治ったことを確認しないで途中で治療をやめてしまわないようにすることが重要です。また完治しても、感染を繰り返すことがあり、再感染の予防が必要です。
出典:「梅毒に関するQ&A」(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/qanda2.html
疲れや仕事のストレスで体調を崩し、熱っぽいだるさや、首周り・耳の下・太ももの付け根などにあるリンパ節に腫れやしこりを感じた経験はありませんか? 疲労が重なり帯状疱疹(たいじょうほうしん)になる人もいるようです。
もちろん明確な理由があっての発熱、だるさであればいいのですが、原因不明で体調不良になっている場合は要注意です。もしかしたら、HIV感染が無症候期(潜伏期)を終えて、今まさにエイズを発症させようとしているサインかもしれません。
そこで今回は、国立感染症研究所のホームページ情報を参考に、エイズ発症直前の諸症状をまとめたいと思います。
■潜伏期間が終わりエイズが発症するサイン4つ
HIVに何らかの形で感染すると、ウイルスが血液の中に侵入し、時間をかけて人の免疫システムを破壊していきます。HIVとはウイルスの名前で、そのウイルスに感染するとエイズが発症します。
ご存じの通り、エイズが発症する前には数年から10年近くの潜伏期間がありますが、その潜伏期間が終わりに近付くと、
(1) 発熱
(2) けんたい感
(3) リンパ節の腫れ
(4) 帯状疱疹(帯状ヘルペス)
が目立ち始めるといいます。帯状疱疹とは、皮膚にチクチクとした痛みが起こり、数日後に帯状の赤いぶつぶつが出る病気です。
単なる疲れや免疫力が低下しただけでも起こるのですが、HIV感染が進み免疫力の低下が続いてエイズ発症間近になった場合も、帯状疱疹が確認されるといいます。
■こんなシチュエーションに心当たりがある方は急いで検査を!
とくに、今まで心配な性交渉を持った経験のある人、風俗サービスを定期的に利用していた、あるいは利用していたパートナーを持った経験のある人で、帯状疱疹など原因不明の体調不良が目立つ場合は、要注意かもしれません。
エイズを発症させてからでは、治療の幅が狭まってしまいます。まずは体調不良の診察目的で病院に出掛けて、HIV感染の可能性を医師に打ち明けてみてください。
以上、後期HIV感染を経てエイズの発症が近付いた時期に出る諸症状をまとめましたが、いかがでしたでしょうか? 発熱やけんたい感、帯状疱疹は単なる疲れや不規則な生活が引き金となって起こる場合もありますが、エイズ発症が迫ったサインであるとも覚えておきましょう。
検査して感染していないと分かればスッキリするのですから、ぜひとも一度保健所(無料)か病院、有料の検査キットでチェックしてみてくださいね。
女子高生とクラミジア
今や性感染症性感染症は他人事ではありません。感染したことに気づかずに複数の相手と行為に及んでしまい、病気を伝染させてしまうこともあります。老若男女を問わず感染は広がっており、日本の女子高生は世界トップクラスの感染率となっているのが現状です。
たとえコンドームをつけたとしても、キスやオーラルセックスで感染する性感染症もあるため、感染を防ぐのは決して簡単ではありません。
■日本で一番感染者が多い性感染症「クラミジア」とは
クラミジアは日本で一番感染者が多いと言われている性感染症で、その数100万人以上ともいわれています。感染して放置すると男性は前立腺炎 や 血精液症、女性は不妊症や子宮外妊娠の原因になります。
この病気の怖い点は自覚症状がでにくいところにあるので、関係ないと思っている人も一度検査をしてみるといいかもしれません。
■クラミジアの検査・治療方法
クラミジアを病院で検査を行うときは、男性は入道の細胞をこすり取り、女性は子宮頸管の分泌物を採取して検査を行います。血液検査で「抗体」があるかどうかを検査することもできますが、現在はかかっていなくとも、過去に感染の経験があると「陽性」という結果がでてしまいます。
検査の結果「陽性」と判断されると、抗生物質を約1週間服用します。治療後に再検査を行って「陰性」と判断されると完治です。決まったパートナーがいるなら2人で完治しなければ、再度感染する恐れがあります。検査・治療は2人で行うことをお勧めします。
■高校生のクラミジア感染
冒頭で記載した通り、日本の高校生、特に女子高生は、世界でもトップクラスの感染率となっています。日本性教育協会(JASE)が高校生を対象にクラミジア感染について調査したところ、男子高校生の6.7%、女子高生の13.1%が感染していることが判明しました。
年齢別には1年生の女子高生は感染率17.3%、経験人数が5人以上と答えた女子高生の約30%が感染しているとのことです。
この結果は先進国の中でも最も高い感染率であり、日本の女子高生は世界でもトップクラスで性感染症にかかっているとも言えます。
■クラミジアの予防
クラミジアを予防する方法で性交渉(キス、オーラルを含む)を一切絶つという方法があります。しかし、これは現実的ではありません。不特定多数の人と関係を持つと当然感染する危険も高まるので、パートナーを限定してコンドームをすることも有効です。
もちろんそれだけで感染を防げるわけではありません。放置すると他の病気を誘発する可能性もあるので、定期的な検査をおすすめします。
みんな「性病をうつされる」可能性がある!
最近、性病にかかる人がとても増えています。その理由は「かかっても自覚症状が出にくいから」。 自分が病気であることを知らずにパートナーとセックスして、その結果パートナーにもうつしてしまうことが少なくないのです。
あなたが彼からうつされる可能性もありますが、逆にあなたが彼にうつすことだってあるかもしれません。 あなたのためにも彼のためにも、「彼や夫がかかるかもしれない性病」についてきちんと知っておきましょう。
今いちばん増えている「クラミジア感染症」
今、日本でいちばん多いといわれている性病は「性器クラミジア感染症」。 感染力がとても強い病気で、オーラルセックスでもうつってしまいます。男女問わず、この病気はかかっていても症状が出にくいのが特徴です。
残念なことに、風俗で安易なオーラルセックスサービスをする店が増えたことが、最近この病気が増えてきた原因のひとつともいわれています。
検査にかかる費用はだいたい3千~5千円程度。治療にもだいたいこれと同額程度がかかります。3割負担ならもっと安くなるでしょう。
自覚症状が確実に出る「淋病」と「梅毒」
根本的な治療が難しい病気として知られているのが「尖圭コンジローマ」。これは性器のあちこちにイボができてしまう病気です。 また、恐ろしい病気として知られている「HIV感染症」も、現在の医学では完治させることはできません。
HIV感染症に関しては、医療が進んで“死に直結する病気”ではなくなってきたものの、発症を抑えるためには一刻も早い治療が必要です。
ケンカの種になりそうな話題だけれど…
男性は女性と違って、性感染症への感覚が違います。 女性の場合は「自分のためじゃなく、将来の赤ちゃんのために予防したい・治療したい」と考える人が多いですが、男性はそうではありません。
生物学上の感覚の差はどうしようもない部分はありますが、それでも夫婦や恋人である以上、あなたにも彼にもお互いの身体を守る責任があります。
ですから、感情的なことは置いておいて、「性感染症になったらどうするか」ということを、一度冷静に話し合っておきましょう。あまり気持ちいい話題ではないけれど、ふたりの愛を確認できる、いいチャンスにもなるかもしれません。
性感染症なんて私には関係ない、なんて思っていませんか?
そんなことはありません。予防のためには「セックスのときにコンドームを絶対忘れない」というのが第一ですが、でも、たとえセックスしていなくてもかかってしまう性感染症は意外にたくさんあります。
ここでは、性感染症について簡単に解説します。
◆みんな誰でもかかる可能性がある、それが性感染症
性感染症には何だか恥ずかしいイメージがありますから、話を聞くことさえ抵抗があるという人もいるかもしれませんが、大切な自分の身体を守るために、正しい情報をきちんと知っておきましょう。
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◆「妊娠しにくいカラダ」になってしまうことも・・・
性感染症がなぜ怖いのかというと「多くの性病は不妊や早産につながる可能性が高いから」。 性感染症にかかったからといってすぐ不妊になるわけではありませんが、症状が進んで卵管や腹膜に炎症を起こってしまうとやっかいです。
いざ「赤ちゃんが欲しい!」と思っても、実際に妊娠できるまでにかなりの苦労することになります。 特に女性の場合は症状が出にくいので注意が必要。心当たりがあるなら即病院へ行きましょう。
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◆セックス以外でうつる性感染症もけっこうあります
冒頭にも書いたように、性感染症の中にはセックス以外が原因で起こるものも少なくありません。
たとえば原虫が原因で起こる「膣トリコモナス症」という性病は、タオルや下着、浴槽や便器を通じてうつることがありますし、カビの一種である「性器カンジダ症」はもともと人間の体内にある菌が原因で起こります。
また、クラミジアや淋菌以外の菌で起こる「非クラミジア・非淋菌性尿道炎」は、大便の拭き方や生理用品の取り扱いが原因になることもあるのです。
ちなみに日本でいちばん多いといわれているのが「性器クラミジア感染症」。確かにこの病気はセックスが感染ルートになることがほとんどですが、オーラルセックスや肛門性交でもうつってしまいます。
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◆「いつもと違う」と感じたらとにかく病院へ
性病の検査にはだいたい3千~5千円ほどかかるのが一般的。治療にかかる金額もだいたいこれと同額程度です。ただしこれは全額負担の場合ですから、3割負担ならもっと安くなります。
しつこいようですが、性感染症は誰でもかかる可能性がありますから、不正出血やおりもの、かゆみなど「何だかおかしいな」と思ったら即病院へ行きましょう。
思い切って病院にいくのはちょっと抵抗があるかもしれませんが、あなたの身体を守れるのはほかの誰でもない、あなただけなんです。あとになって後悔しないためにも、今のうちに自分の身体ときちんと向き合っておきましょう。
ムレムレの革靴の中で水虫が猛威をふるう季節。原因の白癬(はくせん)菌が爪の中に住み着くと、塗り薬では治らない。
治療の基本は飲み薬だが、持病薬との飲み合わせで薬が飲めない、効果が不十分などの場合、レーザー治療という方法もある。自費になるが選択肢の1つだ。
【爪の色や形に注目】
水虫は、皮膚の角質層や爪に多く含まれるケラチンというタンパク質を栄養にして生きている。爪水虫になると、爪が白癬菌の貯蔵庫になるので、足水虫が治らないばかりか、家族などにもまき散らす。
順天堂大学講師で皮膚科「パレスクリニック」(東京・竹橋)の春山喜一院長が説明する。
「塗り薬を使っているのに治らない、治ってもぶり返す。そんなガンコな足水虫に悪戦苦闘していたら、足爪に注目してください。爪甲(そうこう)の白~黄色の濁りや形の変形があれば爪水虫の可能性があります」
爪水虫自体にはかゆみなどの自覚症状がないので、気づかず放置している人が多いという。
【薬が使えない選択肢】
爪水虫の疑いがあれば、皮膚科で感染を調べてもらうことが重要になる。検査は爪を削って顕微鏡で見るだけ。10分程度で結果が分かる。
「爪は硬いので、外用薬を塗っても爪の中まで効力が届きません。ですから爪水虫の治療は、通常、抗真菌作用のある経口薬を3カ月から半年かけて飲む内服薬が使われていて、有効率は80%ほどです。
しかし、中には併用禁忌の持病薬を常用していて内服薬が使えない人、また肝機能障害や腎機能障害などの副作用を起こす可能性があり、通常は月1回の血液検査を行うので内服薬を使うのを嫌う人もいます。
当院では、そのような患者さんを対象にレーザー治療を行っています」
ただし、爪水虫のレーザー治療は欧米では認可されている治療法だが、国内では認可されていないので治療費は保険がきかず自費になる。
【有効率は内服と同じ】
レーザー治療は、「YAG(ヤグ)レーザー」という種類のレーザーを爪の外から照射する。所要時間は爪1本につき5-10分ほどだ。
「美容皮膚科のアンチエイジング治療に使われているレーザーで、皮膚や爪でも7-8ミリの深さまで届きます。このレーザーの熱で爪の中にいる白癬菌を蒸散させます。爪がかなり厚い人は、爪を少し削ってから照射する場合もあります」
これを1-2カ月に1回、5-6回を目安に繰り返す。費用は施設によって価格差が大きく、治療する爪の本数によっても異なるが、同院の場合でいえば1回の治療で1万円前後が必要だ。
「有効率は内服治療と同じで80%ぐらい。レーザー治療の特長はほとんど副作用がないので副作用を気にすることなく、基本的にはすべての爪水虫に適応できる点です」
《爪水虫の症状の特徴》
★爪が白、黄色、茶褐色などに濁っている
★爪がボロボロと欠ける
★爪が厚くなる
★爪には、かゆみや痛みなどの自覚症状はない
6月29日は、48年前、最初で最後の来日を果たした「ビートルズの日」。先月、元メンバーのポール・マッカートニー(71)の公演が中止になり、入院中に腸捻転の手術を受けていたことが分かった。腸捻転とは、どんな病気なのか。
【S状結腸に多い】
腸捻転は、何らかの原因で腸がねじれてしまい、腸の通過障害を起こす病気。それほど発症頻度は高くないが、高齢男性に起こりやすいといわれている。消化器外科専門医で山村クリニック(東京・茗荷谷)の山村進院長が説明する。
「大腸はある程度固定されていますが、圧倒的に多いのはS状結腸に起こる腸捻転です。この部分は固定されてなくブラブラしているので、便秘で便がたまるとその重さで、腸管へ扇状に延びる血管が走っている腸間膜の根元を支点にしてクルリとねじれてしまうことがあるのです」
高齢者は大腸の動きが弱いため便秘を起こしやすく、腸壁も薄くなるので便がたまりやすい。男性は骨盤が狭く、ねじれた腸が自然に戻るスペースが少ないので、女性より起こりやすいと考えられている。
【致命的なケースも】
S状結腸の腸捻転は、腹部の膨満感と嘔吐(おうと)、便秘が主症状になる。
「腸がねじれて血流が止まると、激しい腹部の痛みなどの虚血性の症状が現れます。ただし、高齢者は痛みを感じない人も多い。重症のケースで、血流障害から腸管が壊死(えし)したり、腸管が破裂して腹膜炎を起こすと致命的となる場合があります」
嘔吐や腹痛などの激しい症状が出ていなくても「便秘をしていておなかが張るのに、おならがまったくでない」、そんな異変があれば早期発見のキーワードになる。検査は普通の腹部X線で、すぐに診断がつくという。
【まずは内視鏡で戻す】
腹膜炎や腸管壊死を起こしていないS状結腸の腸捻転の治療は、まず大腸内視鏡を使った減圧・整復が行われる。
「内視鏡の吸引機能でねじれた腸内の内容物を吸い取り減圧し、それからS状結腸を元の位置に戻します。成功率は76-90%で多くは内視鏡で治ります。一方、腹膜炎や腸管壊死を起こした場合の緊急手術症例では手術死亡率(3-27%)が高くなります」
ただし、1度内視鏡で治しても、のびのびになっている腸管の再発率は高い。手術リスクが高くなければ、引き続き根治手術が検討される。
「根治手術は、腸管を20-30センチ切って短くします。高齢者は開腹手術より、術後の負担が少なく、回復が早い腹腔鏡下手術が推奨されます。術後の再発率は5%以下と報告されています」
《S状結腸の腸捻転の特徴》
★高齢男性に起こりやすい
★症状として、腹部膨満感、嘔吐、便秘、激しい腹痛などが現れる
★大腸内視鏡の処置で治るが再発が多い
★根治手術をすれば再発率が5%以下になる
頭痛(片頭痛)持ちの人は、梅雨の時季になると頭痛の頻度が増える。気圧変化が誘因になるからだ。しかし、中には肩や首のこりから起こる緊張型頭痛と思い込んでいる人もいる。自分の頭痛のタイプをよく知っておくことが大切だ。
【天気予報より当たる】
片頭痛は、脳血管が拡張し、炎症が生じて起こると考えられている。痛みの特徴は、こめかみの血管が脈打つように痛み、体を動かすと痛みが悪化する。頭痛に詳しい「山王クリニック」(東京・品川)の山王直子院長が説明する。
「片頭痛を持つ患者さんは、『天気予報より当たる』という人が多い。それは雨が降る前になると気圧変化で血管が拡張するからと考えられています。他にも、ストレス、寝不足、寝すぎ、飲酒など。女性の場合は月経が誘因になります」
寝だめをしようと、平日より長く寝る土日に限って頭痛がする「週末頭痛」の人は、片頭痛の疑いが強いという。
【予兆は肩や首のコリ】
片頭痛は体質的なもので、親にあると半数ぐらいが遺伝する。しかし、内科を受診しても肩・首の筋肉や神経の緊張で起こる緊張型頭痛と診断されたり、自分で「肩こりのせい」と思い込んでいる人も少なくない。
「片頭痛のほとんどの人は頭痛がする前に肩や首がこる予兆があります。緊張型頭痛とは対処法がまったく逆なので、混同しないことが重要です。よく片頭痛の前兆にあげられる『視界にチカチカした光が見える』ケースは、むしろ少数です」
対処法は、片頭痛では痛むこめかみをアイスノンやペットボトル飲料などを当てて冷やすのが基本。緊張型頭痛の場合は、逆にお風呂などで温まると痛みが楽になる。自分の慢性頭痛はどのタイプなのか、頭痛外来の専門医にきちんと診断してもらうことが大切だ。
【薬物乱用に注意】
片頭痛の治療は、生活指導で誘因を避け、頭痛が起きたときに使う薬や予防薬が処方される。
「片頭痛が起きたときには、脳血管の拡張と炎症を鎮めるトリプタン製剤を使います。症状に合わせて内服、注射、点鼻薬があります。頭痛頻度が多い人には予防薬としてカルシウム拮抗(きっこう)薬や抗てんかん薬などがあり、頻度や程度を軽くすることができます」
市販の鎮痛薬を使ってもいいが、月10日以上飲むと「薬物乱用頭痛」を起こす場合があり、薬を止めない限り頭痛が治まらない。上手な頭痛の管理法を専門医に指導してもらった方がいい。
「片頭痛の人は若い時から頭痛持ちを自覚していると思いますが、普段と違う痛みを感じたり、急に頭痛が増えたら要注意です。脳腫瘍や脳血管障害など他の病気の疑いがあるので、必ず早めに受診してください」
《片頭痛の特徴》
★仕事や日常生活に支障をきたす頭痛
★体を動かすと痛みが悪化する
★吐き気やおう吐を伴う
★光がまぶしい
★音や匂いに敏感になる
★入浴すると悪化する
緑内障は、眼球内の圧力(眼圧)が高まり、視神経が圧迫されて損傷する病気。
10年ぐらいかけて視野(見える範囲)が狭くなり、放置すると失明に至る。目の痛みなどが現れる急性緑内障でなければ、通常、初期ではほとんど自覚症状がない。健診での早期発見が重要だ。
【8割が未治療でいる】
失明原因第1位(全体の約25%)の緑内障の発症頻度は、40歳以上では約20人に1人。しかし、眼科を受診している人は約20%にすぎない。井上眼科病院(東京・お茶の水)の井上賢治院長が説明する。
「人は中心視野を使って両目でカバーし合って物を見ているので、初期の段階で視野の欠損に気づく人はほとんどいません。初期のうちに早期発見できるのは検査だけです。会社の健診の眼底検査で異常を指摘されたら、必ず精密検査を受けてください」
一度障害された視神経は元には戻らない。どれだけ早く治療が開始できるかが、失明を免れるポイントになるという。
【家族歴はリスク高い】
目の中は「房水(ぼうすい)」という液体が酸素や栄養を運んでいる。房水は毛様体という部分で作られ、シュレム管という部分で排出されている。流れが途中で妨げられたり、排出口が目詰まりすることで眼圧が上昇するのが緑内障の病態だ。
「しかし、日本人の緑内障の7割は眼圧が正常範囲でも発症する『正常眼圧緑内障』です。これは同じ眼圧でも発症する人、しない人がいるわけですから、視神経が眼圧に対して体質的に弱い眼であることから発症すると考えられています」
緑内障の危険因子のひとつが家族性。国内の疫学調査では、兄弟に緑内障患者がいると3・7倍、両親では2・2倍、いとこでは2・9倍リスクが高いという報告もある。
「家族内に緑内障患者さんがいる人は、40歳を過ぎたら年1回の定期検診をお勧めします」
【点眼薬で眼圧管理】
発見された場合、治療は進行を止める、遅らせることが目標になる。まずは眼圧を下げる点眼薬が第一選択肢になる。
「点眼薬は、房水の産生量を減らしたり、房水の排出を促進させたりするなど作用機序の違うものが数種類あります。持病によっては使えない薬もあり、まず1種類で様子を見て、途中で薬を変更したり、2-3種類を併用してもらう場合もあります」
点眼薬で眼圧コントロールが十分でない場合には、房水の流れや排出を促進させるレーザー治療や手術が検討される。
「検査だけでなく、日常ではカレンダーのマス目などを片目ずつ見て、視野や見え方に異常がないか確認することも早期発見につながります」
《緑内障を調べる主な検査》
★眼圧検査…目の表面に測定機器や空気をあてて測定する
★眼底検査…視神経が障害されていないか眼底を検査する
★視野検査…見える範囲を検査し視野欠損の有無を判定する
★三次元眼底解析検査(OCT)…断層撮影で網膜の厚みなどを測定する
子作りまで可能になった「エイズ」治療の最前線――菊地正憲(下)
かつて「死に至る病」の象徴だったエイズだが、現在、20歳のHIV感染者の平均余命は40~50年ほどまで延びている。その背景にあるのは「科学の発展」と「治療法の変化」。ジャーナリストの菊地正憲氏が、エイズ治療の最前線に迫った。
「HIV感染症は今や医学的には管理可能な慢性疾患になった」
と明言するのは、年間約50人の新規感染者・患者を診察する横浜市立市民病院の立川夏夫医師。
「定期的にインシュリンを打たないといけない糖尿病患者に比べて、エイズを発症していないHIV感染者は闘病がずっと楽です。糖尿病は進行するとカロリーコントロールを毎日やらないといけない。HIV感染者は1日1錠飲めば通常の生活が送れるのです」
90年代前半には、エイズを発症した患者に対して、あまり長い余命が望めなかった。そこで、「貯金があるなら、人生の記念に旅行にでも行ったらどうか」と勧めていたのが通例という。しかし、普通の人とほぼ同じ余命が望めるようになった今は、「年金に入っているか」、「仕事は辞めないように」などと助言するようになった、と話す立川医師。
そして、薬でウイルス量を大幅に減らし、他者に感染しないようにできることから、今では、夫、妻のどちらかが感染者であっても、子供を持つことも可能になったという。
薬を飲んでいれば天寿を全うできるまでに至ったため、研究者は更なる高みを目指している。
薬である限り、飲み忘れの心配は常にある。患者は皆、ピルケースを携帯し、時計などのアラームを利用して備えているが、例えば、急な出張で手元に薬がないという状況もあり得るのだ。
注射方式への転換、医療費は
そこで、次のステップとして、より簡便な注射方式への転換が模索されているという。立川医師が続ける。
「注射自体の痛さや注射量の問題がなければ、服薬から替わる可能性があります。開発は順調に進んでおり、近く1カ月に1回の注射で済む方法が、欧米で認可されるのではないでしょうか」
ひとつだけ心配なのは、これだけ進歩的な治療が生まれれば、それに伴って、医療費も高額になるのではないかということ。しかし、HIV感染症の診療を行う東京都新宿区の「しらかば診療所」の井戸田一朗院長は説明する。
「医療費助成制度などを利用すれば、概ね年間2万~4万円で済みます。今は中・低所得者であっても、安心して治療できる体制になっています」
エイズを発症すれば、障害者認定を得られるケースがほとんどだ。そうなれば、医療費助成を受けられる。また、高額療養費制度も活用できるのだ。
根治は可能か
いかがだろうか。
順調そのものに見えるエイズ治療。今後の課題は何だろうか。ウイルスの増殖を抑えることに成功している今、注目は、予防の可能性、そして完治薬の開発である。
日本のエイズ治療の中核施設である国立国際医療研究センター病院の潟永(がたなが)博之医師は、この2点について次のように説明する。
「ワクチンはまだ完成には至っていませんが、海外では抗HIV薬を予防薬として内服し、効果が認められつつあります。いずれ、ワクチンは出来ると期待しています。一方で、根治については、まだ目途が立っていません」
一方、立川医師は、将来的に感染後の治癒を目指す最新治療として、HDAC阻害剤という薬がいま注目されていると説明した。
「ウイルスの遺伝子は、体内のリンパ球に入り込むとしばらくは眠っているのですが、いずれは絶対に起きる。この時に抗HIV薬が効きやすいのです。HDAC阻害剤は、この眠っているウイルスを起こして、殺すという薬です。優秀な叩く薬はあるのに、起こす薬はなかったので、画期的なアプローチです」
.
啓発の必要性
現在、世界のHIV感染者数は3670万人で、新規感染者数は年間180万人。国内の累計感染者・患者(発症者)数は2万7000人以上とされ、ここ10年間は毎年1500人前後の新規感染者・患者が報告されている。性的接触により感染する例がほとんどで、累積の感染者・患者のおよそ9割は男性。特に男性の同性愛者に多いといわれる。
先の井戸田院長によると、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、〈2020年の時点で、世界中のHIV陽性者の90%が検査を受けてHIVに感染していることを知り、うち90%がHIV治療を受け、さらにそのうちの90%が治療の効果で体内のウイルス量が十分に抑制されている状態〉を目指しているという。
達成されれば、2030年までに、エイズが「公衆衛生上の問題ではなくなる」水準にまで達するという。
日本は現在のところそれぞれ85・6%、82・8%、99・1%と推測される。検査や治療開始の点ではやや目標を下回っており、その数値の底上げが課題だ。
立川医師は、
「若い人にももっと関心をもってほしい」
と強調した。
「最近、私のところには20代ぐらいの若い感染者の来院が目立っています。あまりエイズの知識が伝わっていないとも感じるのです。マスコミの報道も以前と比べれば、ずいぶん減りました。とにかく少しでも気になることがあれば、検査してほしい。保健所では検査を無料で受け付けていて、匿名でも受けられる。通常約2週間後には確定結果が出ます。検査キットを通販で購入し、自分で検体を採取して返送する方法もあります」
もっとも、
「課題は他科の医療機関との連携。口腔疾患やがんなど、HIV感染に関連した病気も多いのですが、なお診療に抵抗を抱く医師も少なくないのです。感染者の側も、そうした医療機関には行きにくくなる。医療機関として感染を理解して受け入れて、各々の得意分野で医療を提供してもらえればと願っています」(井戸田院長)
薬の進歩に比べれば、まだまだ意識の変化は遅れているのが現状か。
医療問題を軸に議員活動を展開する川田龍平・参議院議員(41)氏は、エイズ問題についてのより一層の啓発の必要性も訴えた。
「社会には偏見や差別がまだ残っており、苦しむ感染者も多い。特に余命が延びた分、高齢の感染者が、介護などを他の人と同様にきちんと受けられるかといった問題も生じてきています。感染をこれ以上、増やしてはいけないのです」
これも医学の進歩ゆえに生じる課題だろう。
「死の病」だった時代から30年。エイズ治療は新たな局面を迎えているのである。
菊地正憲(きくち・まさのり)
1965年北海道生まれ。國學院大学文学部卒業。北海道新聞記者を経て2003年にフリージャーナリストに。徹底した現場取材で政治・経済から歴史、社会現象まで幅広いジャンルの記事を手がける。著書に『速記者たちの国会秘録』など。
子作りまで可能になった「エイズ」治療の最前線――菊地正憲(上)
世界中に掲げられたレッドリボン。12月1日、世界エイズデー恒例の光景である。昨年、2017年はエイズ治療薬が世に出て30年。医療は急速な進化を遂げ、「死の病」は、子作りも出来るまでにコントロール可能な病となった。ジャーナリスト・菊地正憲氏による、治療最前線。
***
. 10年間の国会議員生活で、質問は200回超、政府に出した質問主意書は、2017年だけでも17件。
かつて“死の影”を背負っていたその青年は、いま壮年の域に差し掛かり、国会議員として旺盛に活動している。その背中に“暗さ”はまったく感じられない。
「20年以上前は、複数の薬を1日5回も飲んでいました。また、吐き気や下痢、腎臓結石といった副作用にかなり悩まされていましたね。歩くことですら一苦労でした」
と振り返るのは、川田龍平・参議院議員(41)。
川田氏は幼いころに血友病の治療のために使用した非加熱血液製剤によりヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した。薬害エイズ訴訟で被害者救済のシンボルとなったのは、広く知られている。
「しかし、今では薬が飛躍的に進歩して、1日わずか1回で済みます。副作用もなくなり、逆に体調が良すぎる時などは、出張などで飲み忘れてしまいそうになるぐらいです。実は、妻との間に子供を持とうと一時は不妊治療もしていました。以前では考えられなかったことですよ」
今は残存するHIVの増加を抑えるというより、その数を懸命に減らしている状態という。血液中の免疫細胞の数は普通の人と変わらないレベルだ。
もう1人、別の患者の“実感”を聞いてみよう。
HIV感染者(陽性者)たちで作るNPO法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」。
代表を務める高久陽介さん(41)は言う。
「10年前は副作用がほぼ毎日襲ってきて、仕事も手に付かないほどでしたが、今は信じられないほど生活が楽になりました」
同性愛者の高久さんは2001年1月、都内の保健所での検査で感染が見つかった。当時のパートナーからは、事前に感染者であることが告げられていた。もっとも、「自分が(感染者に)なるという心配はあまりしていなかった」と言うが。
「長く生きられるか、勤めていた会社の人に理解してもらえるか、治療費はどれぐらいか……。いざ感染者になってみると、不安を感じるようになりました」
服薬を始めて間もなく、吐き気や下痢のほか眩暈、発疹、さらには不眠といった副作用が出た。出勤も辛くなってきたため、「迷惑をかけてはいけない」と、直属の上司に感染を明かした。
「幸い、上司は理解してくれて、体調が良くない時に遅い時間の出社を認めるなどの配慮をしてくれました。でも、特別扱いされているという負い目もあり、同僚の視線が気になりました」
ところが、そんな生活も、12年に新薬に変えてから一変した。1日2回、計3錠の服薬内容は変わらないものの、副作用がなくなり、免疫細胞の数も正常に戻った。
今は退社し、「ジャンププラス」の活動に専念する。啓発活動や会報の発行、陽性者からの相談などに忙しい日々を送る。
「HIV陽性者のひとりとして、これからは穏やかに、健康に長生きするのが目標。同年代のほかの人と全く同じなのです」
と言う。
「エイズパニック」
かつてエイズは「死に至る病」の象徴だった。
この病は、HIVに感染することから始まる。すると、血液中の免疫細胞「CD4陽性リンパ球」の数が、ウイルスの攻撃により減少し、免疫力が低下していく。その結果、感染症やがんを発症した人を「エイズ(後天性免疫不全症候群)患者」、感染しているものの未発症の人を「HIV感染者(陽性者)」と呼ぶ。発症すると、カポジ肉腫やカンジダ症、ニューモシスチス肺炎といったさまざまな病気に罹患しやすくなる。HIVに感染後、治療しなければ、数年から10年程度の潜伏期間を経た後、確実にエイズを発症し、その後2~3年で死に至る。
この病が世の中に知られるようになったのは、1980年代前半。81年に、米国で同性愛者の男性がエイズ患者として初めて症例報告された。日本では85年、最初のエイズ患者が見つかり、87年には神戸市内で初の女性患者が確認された。マスコミもこぞって報道し、「エイズパニック」と呼ばれる社会現象にまでなった。
しかし、それから30年経った今、冒頭のように、エイズ治療は驚くほど様変わりしている。
その進歩は、「科学の発展」と「治療法の変化」による。
当初、治療法がまったくなかったこの難病に対して、ウイルスを抑制する抗HIV薬が発売されたのは、87年のこと。エイズ研究の草分けのひとりである満屋裕明氏(現・国立国際医療研究センター研究所所長)が「アジドチミジン」という薬に抗HIV作用があることを発見したのが始まりだ。これにより、患者の余命は延びた。
しかし、問題もあった。
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平均寿命70歳
日本のエイズ治療の中核施設である国立国際医療研究センター病院の潟永(がたなが)博之医師は、次のように解説する。
「初期の薬剤開発は、とにかくウイルスの増殖を抑制することに集中していました。HIVは突然変異しやすいため、薬に耐性を持つことがある。簡単に耐性ウイルスが出現しないよう、タイプの違う複数の薬を同時に服用する必要がありました」
「多剤併用療法」という治療法である。その結果、1日に茶碗1杯分と言われるほど、何十錠もの薬を飲む必要があった。それだけ負担が重ければ、「飲み忘れ」や「さぼり」が生まれてくる。すると、薬が効かない耐性ウイルスが出現してくる……。
「これが非常に厄介で、一度現れてしまうと完全な薬効が得られず、本人のウイルス量が抑えられないばかりか、感染者がさらに増えることにもなりかねない。薬はできるだけ飲みやすくした方がよいのです」
メーカーは必死の開発を続けた。そして、必要な成分を複数配合し、効き目の長い合剤の開発に成功。30年弱をかけて、13年、最少で1日1回1錠の服用で済むようにしたのだ。
「生涯にわたって毎日、必ず服薬してHIVの増殖を抑制することが最重要。製薬メーカーが錠数を減らして飲みやすいものを開発したのです。1つの錠剤に複数の薬が入った合剤になっています。いったん発症しても、適切な服薬治療によって免疫機能が戻る人も多いのです」
現在の基本の処方は、主力のキードラッグ1つを選び、さらに補助的な2つの薬を選ぶという、3つの薬の組み合わせとなっている。
薬剤開発の進歩は、患者の負担を軽減した。かつての薬剤に見られたような重篤な副作用も少なくなった。
これらによって、薬を飲んでさえいれば、エイズを発症させないことが可能になった。今では20歳のHIV感染者の平均余命は、40~50年ほどまで延びた。つまり、HIVに感染しても、きちんと治療すれば、発症しないまま平均して60~70歳までは生きられるようになったのである。
ちなみに、現在、最も耐性ウイルスが出現しにくいと言われているのは、同じく満屋氏の開発した「ダルナビル」と、日本の製薬メーカーが関わった「ドルテグラビル」の2つの薬とか。日本の研究は、まさに世界の最先端をいっているのである。
「国内で患者が相次いで確認されはじめて大騒動になったころから考えれば、隔世の感がありますね」
と潟永医師は続ける。
「私が20年ほど前にエイズの診療をしていた病院には、眼科がありませんでした。そこで担当していた患者さんが網膜剥離を起こしたのですが、付近の病院で眼の手術をしてもらおうとしたら、どこも診療拒否なのです。仕方がないので、伝(つて)を頼って遠くの病院にその状態の悪い患者さんを連れて行きました。その病院で、他の患者さんの手術が終わった夕方にようやく手術をしてもらった、ということもありました」
偏見も今以上に強かった時代、患者発見から日が浅い未知のウイルスに対し、医師でさえどう対処してよいか分からなかった。そこから考えれば、治療の進歩は目を見張るべきものがある。
***
(下)へつづく
菊地正憲(きくち・まさのり)
1965年北海道生まれ。國學院大学文学部卒業。北海道新聞記者を経て2003年にフリージャーナリストに。徹底した現場取材で政治・経済から歴史、社会現象まで幅広いジャンルの記事を手がける。著書に『速記者たちの国会秘録』など。
今年3月に国内初となる「便失禁診療ガイドライン」(日本大腸肛門病学会)が発行された。国内の便失禁の推定患者は500万人だが、8割の人が受診していない。その理由として、「はずかしい」「年だから仕方がない」「どこを受診してよいか分からない」などであきらめ、ナプキンや尿漏れパッドを使ってしのいでいる人が多いという。治療すれば症状が改善されることを認識しておこう。
【専門医が少ない】
便が漏れてパンツを汚してしまう「便失禁」。病院を受診する患者の7~8割は女性だが、疫学調査では有症率に男女差はなく、20~65歳で4%、65歳以上では7・5%と高齢になるほど起こりやすい。指扇病院(埼玉県)・排便機能センター長の味村俊樹副院長はこう話す。
「肛門科や消化器科へ行っても、便失禁を専門的に診療できる医師はまだ少ない。しかし、ガイドラインができたことで多くの施設で初期診療ができるようになると期待しています」
これまでも医学部の教科書には、便秘の項目はあっても便失禁の解説はなかったという。
【加齢で肛門ゆるむ】
便失禁には、「切迫(せっぱく)性便失禁」「漏出(ろうしゅつ)性便失禁」の2つのタイプがあり、両症状を併せもつ「混合性便失禁」もある。
「原因として最も多いのは、加齢による内肛門括約筋の機能低下。その他に、肛門の手術や出産による肛門括約筋や関連する神経のダメージ、脊髄損傷などによる神経への影響、過敏性腸症候群などがあるが、複数の原因が複合して起こる場合が多い」
いま困っていれば治療の対象。知らないうちに便が漏れたり、便失禁に不安をもつ人は受診してもらいたいという。
【重症なら外科治療も】
初期診療では、大腸内視鏡検査などで他の疾患の鑑別をし、問診で便失禁の重症度を評価。治療(初期保存的療法)は、薬物療法と食事・生活・排便習慣の指導が中心になる。それでも改善が不十分であれば「専門的診療」へ移る。
「直腸肛門機能検査などでさらに詳しく調べ、専門的保存療法を行います。内容は、弱った骨盤底筋を鍛える『骨盤底筋訓練』、骨盤底筋の活動をモニタリングしながら訓練をする『バイオフィードバック療法』、『アナルプラグ(肛門タンポン)』などがあります」
この保存療法でダメなら外科治療もある。小型の刺激装置をおしりに埋め込み、継続的な電気刺激で症状の改善を図る「仙骨神経刺激療法」だ。
「患者さんの半数は初期保存的療法でコントロールが可能。専門的保存療法でも9割は満足のいく改善が期待できます」
専門的診療のできる施設は「おしりの健康.jp」のホームページで検索できる。
《便失禁の種類と症状》
★切迫性便失禁(約15%)
便意は感じるが、排便を我慢できずにトイレに着く前に便が漏れてしまう
★漏出性便失禁(約50%)
便意がなく、気づかないうちに便が漏れてしまう
★混合性便失禁(約35%)
切迫性便失禁と漏出性便失禁の両方の症状がある
梅毒の感染が全国に広まっている。統計を取り始めた1999年以降、患者数は最も多く、すでに今年は4500人を超えている。国立感染症研究所によると、東京や大阪など大都市圏で患者が多いのは従来通りだが、今年は岡山や熊本、広島など地方で急増しているのが特徴的だ。特に増加しているのが20代の女性で、男性は20~40代が多い。
患者の年齢分布などを考えると、主に性風俗産業に従事している女性と、その相手となる男性のあいだで感染が広がっていると考えられる。だが、それ以外にも若者の性に関するモラル低下も大きな原因となっているようだ。実際にコンドームを使わずに性行為をする人が増えていることや、キスなどオーラルセックスを気軽に相手としてしまうことで、思わぬ感染につながるケースも多いという。
「梅毒はトレポネーマという種類の菌が粘膜などを通して入り込み感染するので、感染ルートは“性的接触”が主になりますが、まれに風呂やサウナなどで感染することもあるので、タオルなど直接肌に触れる物を他人と共有することは避ける必要があります」(都内のクリニック医師)実際に梅毒に感染した場合、進行状況によって第1~4期に分けられる。
【第1期】
感染してから3カ月くらいまで。感染場所に小さなしこりのようなものができるが、痛みなどを感じることは少なく、感染したこと自体分かりにくい場合が多い。
【第2期】
トレポネーマが増殖し、体中のさまざまな部分に血液を通して回っていく。プツプツとした発疹ができるが、この段階ではまだ体調に大きな変化があるわけではない。これらの症状は3カ月から3年ほど続き、自然に消えた後は、無症状が続く。
【第3期】
皮下組織に大きなしこりができる。治療薬もあるので、ここまで病状が進行することはめったにないが、放っておくと神経麻痺や大動脈炎などの症状が出ることもあり、注意が必要。
【第4期】
心臓、血管、神経、視力などに重い障害が出るが、現在ではここまで移行することはほとんどない。かつては“不治の病”といわれた梅毒だが、現代では検査方法の発達や専用の治療薬もあるので、治療や予防も比較的簡単に行える。まずは、感染する可能性の高い性交渉時に、必ずコンドームを使用することを心掛けることが大切だと言えよう。
梅毒に感染したことがきっかけでエイズウィルス(HIV)やクラミジアの感染経路にもなりやすくなる。少しでも感染が疑われる症状が表れたら、他人にうつしてしまう前にかならず病院に足を運ぶことが重要だ。
睡眠を健康的にとるための「睡眠指針」(厚労省)が11年ぶりに改定された。世代別に必要となる睡眠時間の目安などが示されているが、指針には出てこない快眠の条件がまだある。枕が合っていないと不眠の原因になるので注意しよう。
【原因は睡眠姿勢】
毎晩、何気なく使っている枕だが、睡眠の質を大きく左右する。全国でも珍しい「枕外来」をもつ16号整形外科(神奈川県)の山田朱織院長が説明する。
「睡眠姿勢が悪いと、首の神経を圧迫したり、血液循環やリンパ液の流れが悪くなり、不眠や体調不良(肩こりや腰痛など)の原因になります。その睡眠姿勢は、7割が枕、3割は寝台によってほぼ決まります」
つまり、枕が体に合っていないと、寝つけない、夜中に目が覚めてしまうなどの睡眠障害を引き起こす。心身がリフレッシュされず、鬱病などの精神疾患に関わる場合もあるという。これではいくら適切な睡眠時間をとっても台無しだ。
【枕は寝返りが重要】
快眠できる睡眠姿勢を整えてくれる枕のキーワードは「寝返り」。無意識の就寝中に、あおむけと横向きの寝返りが最小限のエネルギーで自然に打てる枕が、その人の体に合った理想の枕になる。
「快眠枕の3大ポイントは、(1)高さ(2)硬さ(3)形状-です。高さは、横向きで寝たときにおでこ、鼻、胸の中心の体軸が一直線になること。
その高さが一晩中維持できるように、硬さは沈んでも5ミリ以内。形状は、真っ平が最もエネルギー消費が少なく楽に寝返りが打てます」
低反発ウレタンのような素材は柔らかくて気持ちいいが、頭が沈み込み固定されるので寝返りの邪魔をする。羽毛やソバガラ、プラスチックチップなども、常に高さが一定ではないので本来、枕には適さないという。
【対策は自家製枕】
そう考えると、市販されている枕選びは結構難しい。山田院長は、患者に自分で作る「玄関マット枕」を勧めている。
「使うのは玄関マット(毛足が短いもの)と、タオルケットやバスタオルです。玄関マットを折って土台にし、その上にタオルケットを使って高さを調節します。
首に当たる部分は直角になるようにそろえます。のどや首筋に圧迫感がなく、スムーズに寝返りが打てるようにミリ単位で微調整してください」
そもそも枕は、その人の体形の変化に合わせて定期的なメンテナンスが大切になるという。自家製枕であれば、それも簡単に修正ができる。
「人生の3分の1は睡眠です。人はその時間を使って心身を回復させています。睡眠を治療として有効に使うためにも、体に合った枕が非常に大切になります」
HIVに感染した献血者の血液が検査をすり抜け、輸血された人が感染した問題。他のウイルスでも同じような感染は起こるのか。検査の現状を検証する。
【『深・裏・斜』読み】
病気や事故の手術の際、患者に輸血する血液を提供する「献血」。11月、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した献血者の血液が、日本赤十字社の安全検査をすり抜けて輸血され、その後患者に感染したことが分かった。
B型肝炎など他のウイルスも検査対象となっているが、今回のような感染は起こりうるのか。献血に対する検査の現状と安全対策を検証した。(道丸摩耶)
◆検査対象は6種
東京都江東区の日赤関東甲信越ブロック血液センター。関東甲信越地方の1都9県で献血された血液の検査と、血液製剤の製造を行う全国最大の施設だ。献血者の36%に当たる年間約190万人分の血液を取り扱っている。
検査は大きく分けて2段階。最初の検査では、血液を媒介して感染するHIV▽B型肝炎▽C型肝炎▽成人T細胞白血病の原因であるHTLV-1▽妊婦が感染すると死産の恐れがあるヒトパルボウイルス(リンゴ病)▽梅毒-の6種の感染の有無を調べる。
ここで感染の可能性があるとされた血液は除かれ、残りの血液は第2段階の検査に回される。感染初期は血中のウイルス量が少なく、通常検査では検出できないことがあり、B型肝炎、C型肝炎、HIVの3種のウイルスについては、
ウイルス特有の遺伝子の一部を人為的に増やし、検出しやすくする検査を行う。NAT(核酸増幅検査)と呼ばれるこの検査では、現在は20人分の血液をまとめて実施しているが、来年からは1人ずつにしてさらに検出感度を上げる。
ただ、NATは3種だけでも、1600人分の検査に4時間40分かかる。そのため「性行為で感染する恐れのあるウイルスを選んでいる」(鈴木雅治・同センター検査副部長)という。
◆無制限にやれず
ここまで安全に気を配っていても感染を完全に防ぐことはできない。
厚生労働省によると、平成23年には検査をすり抜けた血液製剤の輸血によりB型肝炎に感染した例が13件起きた。
検査項目にないウイルスなどが見つかることもある。今年8月には、献血者の中に、重い心臓病などを引き起こす「シャーガス病」に感染した人がいたことが判明。この献血者の血液を輸血された人への感染はなかったが、こうした事態が起こりうる恐れは常にある。
ならばなぜ、6種に絞って検査するのか。厚労省血液対策課は「血液で感染する病気は多いが、技術的にも時間的にもコスト面からも、検査を無制限にはやれない」とする。
6種は血液感染の割合が高いうえ、日本人の有病率が高かったり感染すると重い症状を引き起こしたりする感染症だ。
ただ、状況が変われば検査項目が変わる可能性もある。「海外で新たに流行している感染症など、さまざまな情報を集めながら定期的に厚労省の専門家会議で検討している」(同課)という。
さらに、検査項目外の感染症を予防するため、さまざまな病原体を死滅させる不活化技術の導入も検討されている。病原体混入のリスクは減るものの、血液に薬剤を入れることにより、品質変化が起きる可能性もあり、慎重に検討している。
東京慈恵会医大付属病院輸血部の田崎哲典診療部長は「日本の血液製剤は非常に安全性が高い。とはいえ輸血は感染症以外にもさまざまなリスクがあり、100%の安全はあり得ない。患者への正確な情報提供も大切だ」と話している。
■リスク排除 問診が重要に
現在、必ず検査が行われている感染症は6種だが、それ以外の感染症のリスクを排除するためにも、問診が非常に重要となる。
献血を希望する人は、半年以内に不特定の異性や男性同士の性的接触があったかなどの質問に回答する。3日以内に抜歯など出血を伴う歯科治療を受けた場合や、1カ月以内にピアスの穴を開けた場合などは、ウイルス感染の可能性があるため献血できない。
これ以外にも、例えば今年初めて献血者から確認されたシャーガス病は中南米で流行しており、日赤は中南米出身者や長期滞在者は申告するよう呼びかけている。
また、クロイツフェルト・ヤコブ病予防のため、欧州の流行地域に滞在していた人は、献血を断られる場合もある。
HIVについては特に厳重で、半年間の性的接触について複数回の問診が行われる。献血時に感染の不安を言い出せなかった人のために、後から匿名でかけられる無料電話も設けている。