汗ばむ時期に気になる加齢臭には、さまざまな誤解がある――。におい治療一筋30年、東京都新宿区と大阪市西区にある五味クリニックの院長・五味常明さんが、BS日テレ「深層NEWS」で、加齢臭のメカニズム、予防法、他の病気との関係を明らかにしながら、「加齢臭は臭くない。生きてきた証しだ」と訴えた。(構成 読売新聞編集委員 伊藤俊行)
◆汗は無臭
本来、汗というのは、かきたての時点では無臭です。放っておくと臭くなるのですが、汗をかいただけで、自分がにおっていると思うのは間違いです。ただし、かいたばかりの汗がにおう場合があります。これは問題です。なぜなら、体臭は体の中から出てきます。つまり、体の中の健康を表している部分があるからです。
<番組では、街頭取材で「体とにおい」に関する疑問(1)~(6)を拾い、五味さんに解説してもらった>
(1) 男性と女性の違いはあるのか?
男性と女性のにおいは、やはり違います。ホルモンが異なりますから。違いがあるからこそ、お互い魅力を感じるのです。ただ、男女のにおいに違いはあっても、男性の方が臭いというのは偏見です。
(2) におう汗をにおわない汗があるのか?
本来、汗はかきたての時点では無臭です。それが、ネバネバ、ベトベトしている汗をかく人がいます。濃度の濃い汗は、かきたてから臭い。サラサラしている汗は臭くありませんが、時間がたつと雑菌が繁殖して臭くなります。
現代人は、最初からベトベトした汗をかく人が増えています。それは、汗をかく頻度が減っているからです。まず、運動不足があります。次に、エアコンが普及したために、汗をかく機会が減りました。
汗腺は、汗をかかないでいると衰えてくるのです。そのことによって、ネバネバした汗をかきやすくなるのです。つまり、現代人は臭くなっているのです。
(3) 食べ物と体臭の関係は?
体から出るにおいは全て、摂取した食べ物と関係があります。ニンニクを食べると臭いですよね。動物性のたんぱく質や脂肪は、においの元になりやすい。肉ばかり食べていると、臭くなるということです。肉食の欧米人に対し、日本人は草食中心だったので、日本人の体臭は少ないと言われてきました。アルコールも体臭のもとです。
二日酔いの時に分かると思いますが、アセトアルデヒドがにおいの元になって、呼気だけでなく、体全体から出てきます。また、たばこも、吸って煙の臭いが残って臭くなるというだけではなく、体に成分が吸収され、血液を回って、汗として出てくるので、体中が臭くなります。
(4) なぜ甘いにおいや酸っぱいにおいが出るのか?
甘いにおいや酸っぱいにおいがするのは、においの成分が違うためです。甘いにおいはケトン体が原因です。糖尿病になると、甘いにおいの体臭が出やすくなります。一方、酸っぱいにおいというのは、アンモニアのにおいです。
「甘酸っぱいにおい」と言うと、言葉は甘く響きますが、においとしては言葉で言い表せないような不快なにおいになります。なぜなら、それは糖尿病のにおいだからです。健康な状態でかく汗は「香り」です。体も心地いい。けれども、病気のときのにおいは悪臭になるのです。
(5) 加齢臭は年をとれば必ず出るのか?
加齢臭のイメージは、古い本、ろうそく、枯れ草です(図1)。どれも、落ち着いたにおいです。不快なにおいではありません。「雑巾のようなにおい」などと悪い言葉で表現するのは誤解があるからで、加齢臭に対して失礼ですね。
誰でも年を取ると加齢臭は出てきます。年をとると耳が聞こえにくくなるのと同じで、誰にでも出てくる生理現象、加齢現象です。加齢によるだけのにおいであるうちは、不快ではありません。
においには「イメージ臭」の側面があります。加齢臭が「おやじ臭」などと言われたのは、中高年の男性の行動、例えば、駅でつばを吐いたり、食後に爪楊枝ようじでシーハーしたり、そういう見た目の「おやじ臭さ」と、中高年のにおいというイメージが結びついてしまったのです。「おやじ臭い」イコール「加齢臭」というのでは、加齢臭がかわいそうです。
加齢臭の元であるノネナールは、それほど不快なにおいではありません。ただし、生活習慣病の人、メタボの人から出る加齢臭は、臭いのです。健康で清潔にしている人の加齢臭は、むしろ、いいにおいです。
(6) 加齢臭は予防できるのか?
加齢臭の予防は可能です。ポイントは、「食事、運動、ストレス、入浴・洗髪」です。この点は、あとで詳しく解説します。
◆加齢臭の原因
加齢臭の元になるのは、ノネナールという成分で、皮脂腺という場所から出てきます。皮脂腺は、体毛のあるところにある脂を出す腺です。食用油でも古くなると酸化して臭くなるように、皮脂腺の中でも同じことが起きています。
年をとって中高年になると、皮脂腺の中で脂肪分が酸化されて、過酸化脂質となります。それが脂肪酸を酸化分解すると、この毛穴からノネナールが出てきます。
汗がベトベトしている人は、脂肪酸が多い。ですから、ノネナールが強くなる傾向があります。
毛深い人も、皮脂腺の分泌が盛んですから、加齢臭も相対的に強くなります。男性の方が女性より毛深いということに加えて、男性ホルモンの作用によって、加齢臭が強く出るという側面があります。
皮脂腺の中で脂肪酸がたくさんたまっているということは、体の中でもたまっているということです。血液の中にコレステロールがたまって、それが酸化されると動脈硬化、生活習慣病になるのと同じです。
男性の場合は、40歳から50歳くらいになると、加齢臭が出るようになります。女性の場合は、更年期を過ぎて女性ホルモンが低下すると、相対的に男性ホルモンが強くなって加齢臭が強く出るようになりますので、男性よりは遅いタイミングで始まります。
◆不快な加齢臭はメタボ臭
年齢が若くても、メタボ体形の人からは、ノネナールがいっぱい出ます。
ふつうの人のノネナールは生理現象なので、それほど不快ではありませんが、メタボの人の出すノネナールは不快な強いにおいがします。つまり、不快なにおいというのは、メタボ臭という側面があるということです。
70歳を過ぎると、男性は加齢臭がだんだんなくなってきます。皮脂腺の機能が弱まるために乾燥して脂分がなくなるためです。女性の場合は、肌がしとしとしていることからも分かるように、皮脂の分泌が男性に比べて多いので、加齢臭が男性よりも長く続きます。
その意味では、とくに男性の場合、加齢臭がしているうちが花とも言えます。メタボ臭としての加齢臭は「悪い加齢臭」ですが、そうでない加齢臭は「良い加齢臭」なのです。
◆毛のないところに加齢臭なし
加齢臭が出る部位は、よく、耳の後ろから出ると言われますが、これも誤解です。耳の後ろには毛がありません。毛のないところは皮脂腺がないので、加齢臭は出てきません。耳の後ろがにおうというのは、洗い忘れやすい場所だからです。
枕がにおうのは、寝ているうちに頭や首のにおいが枕カバーに染みこんでしまうからです。
染みこんだにおいの中には、加齢臭以外のにおいも混ざっていますが、加齢臭があるかどうかは、枕カバーのにおいを嗅ぐことで分かります。
◆他のにおいを強くするミドル脂臭と、若い女性でも出る疲労臭
ミドル脂臭というものがあります。30代、40代の男性に多く、「油が腐ったようなにおい」などと表現されています。
ミドル脂臭は、汗から出ます。汗の中に乳酸という疲労物質がある。これが細菌によって分解されると、ジアセチルというにおいの原因になる物質になります。
ジアセチルは、あまり量は出ないのですが、少量でも耐えられないほど臭い。しかも、ジアセチルは他のにおいをより強くします。汗から出たジアセチルが、皮脂から出るにおいと一緒になって、よりにおいを強くする。加齢臭とミドル脂臭が一緒になると、最悪です。
それとはまた別に、汗の中にアンモニアが出ると、酸っぱいにおいになります。これは疲労臭で、年代と関係なく、疲れていると出てきます。
ただ、年を取ってくると、腸の中で食べ物が分解され、アンモニアができやすくなるということはあります。それが、汗にも出てきてしまうので、年を取ると疲労臭が出やすくなるということは言えます。
若い女性でも、忙しく働いているビジネスウーマンで、疲れを蓄積して、お風呂もさっと済ませてしまうような人、一杯飲んで肝臓を疲れさせてしまう人だと、疲労臭は出やすくなります。
緊張しやすい人は、精神性発汗と言って、汗がどっと出ます。そういうケースでは、濃度の濃いネバネバ汗が出やすいのです。
ですから、冷や汗は臭いのです。ゆっくり、じっくり出る汗は、においませんが、一気にどっと出ると、血液のにおい成分が一緒に出てきますから、におうのです。女性が気にする脇の汗も、緊張性の発汗です。
一人でいるときには、脇汗はかかないでしょう。人前に出るとかきやすい。それだけ、回りの人に気遣っているまじめで優しい人だということも言えます。
◆自分のにおいは分からない
嗅覚は、いつも同じにおいを嗅いでいると分からなくなって、慣れてしまい、においを拾わなくなってしまいます。自分のにおいが分からないというのは、そのためです。ペットを飼っている人はペットのにおいが分からなくなっていきますが、来客は分かります。同じように、自分がにおうかどうかは、他人にかいでもらうのが一番です。
もし、自分で確かめたいなら、朝起きてすぐ、枕カバーをビニール袋に閉じこめ、いったん新鮮な空気を吸ってから、嗅いでみるといいでしょう。
自分のにおいは、臭いと思わないものです。自己愛でしょうか。自分のにおいは好きだという人がほとんどですが、他人がそのにおいを好きかどうかは分かりません。
僕の妻は、以前は1週間に1回だった僕の枕カバーの取り換えを、毎日するようになりました。僕の加齢臭のせいだとは言っていませんが、臭いと思ってそうしたのでしょう。暗黙のサジェスチョンです。言いにくい時は、そんなふうにやればいいでしょう。
僕は枕カバーではなく、自分の尿のにおいを嗅ぐようにしています。なぜなら、尿は健康状態を端的に表しているからです。尿のにおいで肺がんを見分けようという研究もされているくらいです。においが強いときは、疲れているということがあります。一目瞭然ならぬ、「一臭瞭然」です。
◆においは病気のサイン
体から出るにおいは、体の中の目撃者です。体の中の状況を表しているのです。分かりやすいのは、甘酸っぱいにおいです。
これは糖尿病です。体から出る前に、尿から出てきますから、いつも自分の尿の臭いを嗅いでいれば、違いが分かります。ふだん、健康であるときのにおいを知っておけば、「このにおいはちょっと違う、おかしいぞ」と気付く識別能力がつきます。
「腐った卵のにおい」は、硫黄のようなにおいです。口と胃腸は連続していますから、口臭もこのにおいです。体臭としても出てきます。胃がんの場合は、においよりもがんの自覚症状が先かもしれません。糖尿病の場合は、においが先に出る場合があります。
肝臓や腎臓が病気になっている場合は、アンモニアが出やすくなります。汗のにおいが強くなって、おしっこのにおいに近くなってきたら、肝臓機能が弱くなっていると考えられます。
肝臓はサイレントでキャパシティの非常に大きな臓器なので、肝臓機能が悪くなるまでは、検査でひっかかりません。そのため、逆に、肝臓機能が弱まっているサインとして、においが先に出てくることがあります。
◆におい気にする患者の7割がにおわず
僕の病院ではまず、問診を行い、どういうにおいを気にしているのかを尋ねます。
次に、耳垢あかをチェックします。耳垢が軟らかいと、脇のにおいが強くなる傾向があるからです。
それから、実際に汗を綿棒で採取して、汗のにおいをかぎます。
においで病気が発見できるという話でいえば、飼い犬が飼い主ににおいの異常を知らせることがあります。がんになると、がんが細胞組織を腐敗させるので、腐敗臭が出てきますから、今までと犬の態度が違ってくるのです。がんを調べる診察犬がいるくらいです。
においの変化に気付いたら、「ちょっとお酒の飲み過で肝臓が疲れているのかな」などと考えて、病院で正確な検査をしにいく。そんなきっかけにすることが大切です。
もっとも、僕のところにくる患者さんの7割は、実はそれほど加齢臭がありません。ある人は、会社務めの間は言われたことがなかったのに、リタイアして家でごろごろし始めたら、妻から「あなた、臭いわよ」と言われて、病院に来たというのです。
加齢臭はイメージ臭という側面があると申し上げましたが、家でごろごろしていると粗大ゴミみたいに鼻につくという要素があったのではないかと思うのです。
また、人間関係も大切で、愛し合っている二人であれば、互いのにおいはむしろ好ましく感じるはずです。夫婦円満の時は、「臭い」なんて言わないじゃないですか。だんだん疎遠になってくると、相手のにおいが鼻についてくるのです。
◆加齢臭予防のポイント
加齢臭を予防するには、
(1) 食事に気をつける
(2) 運動をする
(3) ストレスをためない
(4) 入浴・洗髪をしっかりする
ということがポイントです。
肉を食べると、においになりやい。これに対し、野菜には加齢臭を防ぐような成分が含まれています。加齢臭は活性酸素が酸化してできます。その活性酸素を抑える抗酸化食品、例えばビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどは、パセリなどの緑色野菜や海藻に含まれています。
においの出る食事を少なめに摂取して、においを抑える「消臭食材」を積極的にとることで、加齢臭の予防になります。もちろん、肉をまったく食べないということではいけません。
コレステロールは細胞膜の成分となるので、年を取ったらとくに、肉を食べる必要があるのです。ただ、肉を食べたら野菜も食べるというように、バランスよく食事することです。
運動は、有酸素運動をしてください。しっとりとかく、水に近いさらさら汗はいい汗で、においません。そのことで加齢臭を薄めてしまえばいい。20分程度のウォーキングなどでいいと思います。
筋肉トレーニングは、やり過ぎるとにおいにとっては逆効果です。筋トレは無酸素系の運動ですから、乳酸ができます。乳酸はジアセチルになりやすい。
ストレスは活性酸素をどんどん増やすので、なるべくためこまないようにしましょう。もちろん、ストレスのない社会というのはないでしょうが、少なくともにおいについてストレスをためこまないよう、においを気にしすぎないことです。気にしすぎることでますますストレスがたまり、余計に活性酸素が増えて、余計ににおってくるという悪循環に陥りやすいのです。
◆においは生きている証し
体臭を気にしている人というのは、自分のにおいが嫌で悩んでいるのではなく、自分のにおいで他人を不快にしてしまい、他人がそのことで自分を嫌っていると考える。人間関係の中で悩んでいるのです。
メンタルな部分で、におっていないのに、におっているように思う人もいます。自分の体臭を気にする人は、だんだん人間関係を避けて消極的になってしまい、転職したり、引きこもったりすることにもつながります。そこが問題です。
日本人は清潔好きなので、社会が清潔になればなるほど、「においイコール不潔」というイメージが定着してしまい、余計に悩む人が増えています。現代人はにおいに敏感過ぎる。においを毛嫌いしすぎています。
においとは、生きている証しで、生活臭です。生活臭は互いに受け入れなければいけない。無臭志向に走って自分のにおいを否定するというのは、自分の存在を否定することではないでしょうか。加齢臭も、一生懸命働いて生きてきた証しです。
それを否定すれば、アイデンティティーの否定になってしまう。自分のにおいは嫌だし、他人のにおいも否定するような社会は、人間関係が希薄な社会で、決していいことではありません。
もちろん、においを無視するとか、においに無頓着であることが良いと言っているのではありません。においは体の中の変化を知る大事な要素だからです。
その意味で、におい対策を上手にできる人は、非常にバランス感覚のある人だと言えます。
親しい人には、はっきり「においがする」と言ってあげた方がいいと思います。においがしているのに、誰からも言われないと、自分でも分からなくなってしまう。言われれば対策も立てられます。
スメハラという言葉がありますが、遠慮がちに言うより、明るくあっけらかんと、はっきり言ってあげた方が、「ああ、ちゃんと考えてくれている」と思ってもらえる。こそこそ言うと、「自分はすごくにおっているのではないか」と逆に悩んでしまいます。
においを指摘することで、相手は最初、傷つくかもしれませんが、そこは人間関係でフォローすればいい。人間関係が良好なら、互いに臭くはないのです。
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<2015年7月7日放送の「深層NEWS」をもとに再構成しました。「深層プラスfor YomiDr」は、深層NEWS(月曜日から金曜日の午後10時~11時放送)の医療関係の放送から、反響の大きかったものについて随時、とりあげます>