fc2ブログ
       

ドラマから見る 末期がん患者とその家族の生活


"がん"の末期は、肉体的に苦しい状態ですが、それと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、精神的に苦しいものがあります。自分自身のことだけでなく、あとに残る家族のこと、とりわけ、幼い子どもがいたとしたら、残していくことへの精神的苦痛は察するにあまりあります。

ドラマ『ママとパパの生きる理由』では、小学校1年生の長女がクラスメートから自分の両親が"がん"だと聞かされ、学校に行けなくなってしまいます。学校に行っている間に親が居なくなるのではと不安だったからです。

単なる登校拒否ではなく、そんな気持から学校に行けなくなっていたことを知った両親の気持ちは、とても複雑でした。
家族が居なくなるという現実をどう受け入れたらいいのか、とても辛いことですし、簡単にできるものではありません。

でも、両親は一生懸命、娘に伝えます。自分たちは、そう簡単には死なない、頑張っていると。家族がいるから、あなたがいるから、こんな時でも幸せを一杯感じていると・・・。

◆ホスピスってどういうところ?
あなたの親や兄弟など、身近な家族が末期"がん"だったとしたら、あなたはどうしますか?

"がん"である本人の意向が一番大事ですが、自宅で過ごさせたいのか、最後まで治療を続けたいのか、それともホスピスなどで過ごしたほうがいいのか、選択肢はいくつかあります。

もう治療はしたくない、痛みなどなく穏やかに過ごしたいというのならば、ホスピスがお勧めです。

ホスピスは、1967年にロンドン郊外に設立されたのが始まりです。日本では、1973年淀川キリスト教病院でホスピスケアが始まり、その後、聖隷三方ケ原病院にホスピス病棟が開設されています。

それまでは、病院で、最後まで治療を続けるとことのみでした。治癒させる!という方向で、辛くても治療を続けたのです。

病院と違ってホスピスは、治癒が困難な患者が、最後までその人らしく尊厳をもって過ごしていける病棟なのです。多くは、背景にキリスト教がありますが、1992年新潟県長岡市に仏教の「ビハーラ」というホスピスも出来ています。

◆緩和ケアとは?
ターミナル(終末期)ケアに力を入れている病院も最近は増えていますが、「緩和ケア」も進んでいます。

"がん"だとわかったときから、治療中にも「つらさを和らげる=緩和」という視点を取り入れて、医学的な側面だけでなく、その人らしい生活スタイルの確保など、緩和ケアでは、患者さんの生活が保たれるように援助しています。

死に向きあうと、人間は強くなる

ドラマでは、学校に行けなくなった長女に「強くなってほしい!」と、両親が必死に見守る姿に応え、娘は成長していきます。辛い体験ですが、「死」としっかり向かい合うことで、人間は強くなっていくのだと教えてくれます。

最終回、ママはもう亡くなっていますが、生きていた時と同じように日常生活があり、娘は写真のママに話しかけて生活を送っていました。

当事者になるまで遠い様に感じますが決して遠くの存在ではない"がん"。何気ない生活の中に幸せがあることを忘れずに日々を過ごして行きましょう。

【がんへの備え】膵臓がん編(13)「重粒子線治療の適応」 局所進行なら高齢者も対象


 がん組織だけをピンポイントで狙い撃ちして、普通の放射線治療の2~3倍の効果が期待できる重粒子線治療。膵臓(すいぞう)がんでは、どのような患者が治療の対象になるのか。

放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院の山田滋治療室長に説明してもらった。

 膵臓がんは進行が速く、発見されたときに遠隔転移のない割合は約半数。そのうち根治手術ができるのは3分の1といわれる。残り3分の2は、遠隔転移はなくても、膵臓近くの主要血管にがんが広がっているため手術ができない局所進行膵がんだ。

その場合、通常では化学放射線療法または化学療法が行われる。

 「膵臓がんの重粒子線治療の適応は、基本的には遠隔転移や腹膜播種(はしゅ)のない局所進行がんで、がんが胃や腸管から5ミリ以上離れている症例です。体の負担が非常に少ないので、年齢は関係なく高齢者でも受けられます」

 放医研が今年7月22日までの過去14年間に行った膵臓がんに対する重粒子線治療の患者数は、臨床試験と先進医療を合わせて438人(全体の5・3%)。2年前に化学療法との併用が先進医療に認められてからは年間100人弱の膵臓がん患者が受けている。

 「治療は入院で、重粒子線の照射を1日1回、週4回行います。治療の仕方は主に2つがあって、局所進行膵がんの根治を目的とした治療では全12回、3週間の照射をします。

もう1つは、ごく一部ですが手術できる患者さんに対する術後の局所再発を防ぐ目的で行う『術前重粒子線療法』です。この場合、全8回、2週間照射して、その後、手術治療をして根治を目指します」

 膵臓がんは根治手術ができても、術後2年以内に約7割が再発し、そのうち約半数が局所再発になる。術前重粒子線療法をした場合の5年生存率は52%という。

局所進行膵がんの根治を目的とした重粒子線治療と化学療法の併用でも2年生存率(現在、解析中)で50%ぐらいは見込めるという。通常の化学放射線療法の2年生存率は20%前後なので、かなりの違いがある。

 「重粒子線治療は他臓器への影響が非常に少ないのが大きなメリットです。他にも、根治手術した後に局所再発したときの治療や、すでに普通の放射線治療をしている患者さんへの再照射などにも活用できます」

 次回は、実際の重粒子線治療の工程を説明してもらう。

◆アクアクララのキャンペーンです◆

ドラマから見える「がん告知」の現在



FC2 Analyzer最初にがんと診断されたとき、家族だけが病院からそっと呼びだされ、がんを告知され、患者本人には知らせず別の病名を告げるのは、つい15年ほど前まで当たり前でした。当時は、がんの治癒率が低く、「がん=死」だったからでしょう。

突然の告知は、あまりにも本人にショックが大きすぎると考えられていました。けれども今は、本人にはっきり伝えるのが当然になってきています。先ごろ放映されたドラマ『パパとママの生きる理由』でも、パパ本人が告知を受けたあと、ママや家族に伝えていました。

こうした変化の背景には、医学の発達で、がんが即、死へつながるものではなく、病状をしっかり理解して、本人が治療に前向きに取り組むことで、治癒の可能性が高まるということがあるからです。

また、人間の生き方もさまざまで、場合によっては治療を受けないことも含めて、治療方法を選択することが尊重される時代になりました。

◆患者と医療従事者との信頼関係
最近は、医療従事者も、患者との信頼関係を築いて治療に当たることを重要視するようになってきています。お互いに不明な点や不安なことを十分話し合い、納得して治療を続けることが大事なのです。

少しでも隠し事をすると、患者さんには、あらゆることが疑心暗鬼になり、良好な治療が続けられなくなってしまいます。
患者さんの方も、何でも話ができ、「この先生なら任せられる」と思える、医師との関係をつくり、前向きに治療に臨むことが、免疫力アップにもつながります。

◆病気と家族:悲喜こもごも
がん患者の家族だけに限らず、身近な人が大病に直面すると、家族の日常生活が一変します。経済的な面でも出費を強いられます。まして入院していれば、患者のために病院通いになりますから、生活面でも気持ちの面でも、家族の負担は、かなり大きくならざるをえません。

家族や取り巻く人々との人間関係も、さまざまに交錯します。だからこそ、患者の病状をしっかりと理解し、家族内でのチームワークが大事です。親など自分との関係が近いほど、これまでのしがらみがあって、他人から見ると「どうしてそんなことにこだわるの」と言いたくなるようなことにひっかかり、患者との関係が軌道に乗るのに、しばらく時間がかかることもしばしばです。

反面、病気になったからこそ、これまで何でもなかったことに幸せを感じたり、他人の温かみを実感したり、夫婦の絆をあらためて認識できたりもします。そして、子どものために頑張ろう、などという目標ができたら何よりです。病気や看取りは、何が幸せなのかを教えてもくれるのです。

◆サポーターとしての家族
病状が進み、他人の手を借りる必要が多くなってくるほど、家族は連携をしっかりするため、また、経過を把握するためにも、共用ノートなどに記録をするといいでしょう。

進んでいく病状把握や情報収集、家族内での申し送りなどにも役立ちます。何より、患者を支え、気持ちを共有することが大切です。

とくに家族は、患者の意を汲んで、残された時間をどう過ごしたらいいのか、しっかり考えて、後悔のないようサポートしていきたいものです。

【がんへの備え】膵臓がん編(12)「重粒子線の特徴」 放射線の2~3倍の効果


手術できない局所進行膵(すい)がんに対する化学療法と重粒子線治療の併用が、2012年に先進医療に認められた。重粒子線治療とは、どういう治療なのか。放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院の山田滋治療室長に聞いた。

 重粒子線治療は放射線治療の一種。通常の放射線治療と何が違うのか。

 「X線やガンマ線といった一般の放射線はエネルギーの高い光の『光子線』です。重粒子線や陽子線は同じ放射線の一種ですが、粒子を高速に加速させた『粒子線』になります。

重粒子と陽子の違いは重さだけです。重粒子線治療では、炭素原子から電子をはぎ取った炭素イオンを活用しています」

 炭素イオンを1周130メートルある専用加速器で0・7秒に100万回転させて、光の84%の速さまで加速させて、がんのある患部に照射する。そのため重粒子線がん治療装置の面積はサッカー場ほどにもなる。

 一般の放射線治療がこれまで膵臓がんにあまり威力を発揮できなかった理由は、膵臓の位置にある。周囲を胃や腸、肝臓、腎臓など他の正常な臓器に囲まれているため、高い線量がかけられないからだ。その点、重粒子線治療は大きく違う。

 「X線を使う普通の放射線は外部から照射すると体の表面近くが最も線量が高く、体内の奥にいくほど効力が低下します。しかし、重粒子線はがんに届くまで線量が低く、止まる直前でピークとなります。

このピークをがんに一致させるように線量分布が設定できます。他臓器への影響が少なく、がんをピンポイントで狙い撃ちできるので、1度に高い線量が照射できるのです」

 陽子線も同様の線量分布を設定できるが、陽子よりも重粒子の方が重いので、威力は重粒子線の方が強い。その威力の強さも、がんの中でも特にタチの悪い膵臓がんの治療に適している理由だ。

 「放射線治療はがん細胞のDNAを切断して殺しますが、その際の効力には酸素濃度が関係します。

膵臓がんに普通の放射線治療が効きにくいのは、膵臓がんが低酸素濃度の細胞の塊のようなものだからです。そのような抵抗性のがん細胞も叩いてしまう威力があるのも重粒子線治療の大きな特徴です」

 放射線の治療効果を示す生物学的効果比(RBE)という指標で比べると、重粒子線は普通の放射線の2~3倍の効果があるという。

 次回は、どのような膵臓がんに適応になるのか説明してもらう。

日本人はがんになりやすい人種ってホント?


現在日本人の死因第1位はがんです。そのため、がんは日本人に多い病気だと思われるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。世界的な国の死亡率からみると、日本は32位。

がんによる死亡率が高いのは東欧の国が多く、次いでヨーロッパ、アメリカなどが占めています。日本人だけが突出してがんにかかっているわけではなく、がんで死亡する人は世界中にたくさんいるのです。

もちろん死亡率ですので、医療技術の差による影響もあるかもしれませんが、多くの先進国で高い死亡率となっています。しかし部位によっては、日本が非常に高い羅患率を示しているものがあります。

それは胃がんです。世界的に見ても高い数字になっています。逆に前立腺がんや乳がんなどは他の国と比べても、それほど多いというわけではありません。

◆日本でがん罹患率に地域差はあるのか?
がんによる死亡率は、国内でも地域差があります。ここ10年の、都道府県別75歳未満のがん死亡率を見ると、連続で青森県がトップをキープしています。しかもこの調査は、地域的な高齢化の影響はないように調整されている結果です。

純粋にがんになりやすい、もしくはがんになる人が多い地域だといってよいでしょう。逆に最も死亡率が低いのは10年連続で長野県。

死亡率の高い低い、ともに2位以降は毎年変動があるのですが、全体的に東北地方は胃がんが多く、肺がんが多いのは近畿地方、九州や沖縄では白血病の死亡率が高いというデータが出ています。データから見る限り、がん羅患や死亡率の地域差はあると言ってよさそうです。

◆がん罹患率の差は何が原因?
がんの羅患率や死亡率に地域差がある理由ははっきりしていませんが、理由のひとつは生活習慣の違いだと考えられています。たとえば、食道がんはアルコールをたくさんの飲む地域で多く、胃がんは塩分を多く摂取する習慣がある地域に多いことがわかっています。

さらに、大腸がんは保存・加工肉などの摂取が関係していると考えられていますし、肺がんは喫煙習慣があって、緑黄色野菜の摂取量が低いと罹患しやすくなるというデータもあります。

食生活は、地域によってかなり習慣に違いがありますので、それががんの発生に関連していると考えても不思議ではありません。

そのほか、肝炎ウイルスなどによる感染を原因とする肝がんもありますし、遺伝が関係しているケースもあります。がんの原因には、地域性だけでなく、こうしたさまざまな要因が絡んでいるのです。

【がんへの備え】飲食店に“イートバリアフリー”の取り組み提唱 おいしい患者食を★胃がん編「食の変化」



胃切除後、食べ物の好みが変わる人が多い。“食べると気分が悪くなる”後遺症だ。胃がんを体験した永田尚義(たかよし)さん(36)は、飲食店に“イートバリアフリー”の取り組みを提唱している。

 永田さんは、1年半前に胃の5分の4を切除した。「今でも知らない土地では、飲食店に入れませんね」と話す。

 それまで飲食店の情報サイト・ぐるなびの社員として働き、グルメだった食感覚が一変。普通の人ならおいしく感じる“脂分や塩分”の味付けでも体が敏感に反応する。ラーメンやつけ麺、焼き肉などが苦手になった。

 「リハビリ時の粗食に体が慣れて、今でもアッサリした一汁三菜が多いです。野菜、果物をよく食べるようになり、苦手だった納豆が好物になりました。大きく変わったのは“健康にいい食事”がおいしく感じるようになったことです」

 しかし、復職後は他人との会食がとてもつらかったという。

 「同僚とのランチでも同じ量、内容が食べられない。自分に合わせてもらって店を選び、気遣いされながら食べるのが嫌でした。その気遣いが、逆に患者を追い詰めることもあるのです」

 そんな体験を通して、仕事の意欲を駆り立てたのは、“飲食店を変えたい”という思いだ。

 「結局、食事が健康を左右する。でも、外食しないわけにもいかない。だったら、食事制限のある人でも食べられる料理をお店が通常メニューで出してくれればいい。脂分や塩分を減らしても健常者がおいしく食べられる料理なら、健康にもいいし、患者の救いにもなると思ったのです」

 しかし、その考えを普及させるには、1、2店が始めてもダメ。永田さんは会社を辞め、昨年、食事制限者の食生活を支援するベンチャー企業「リデリシャス」を設立。賛同するシェフたちに知識を共有してもらおうと、レストランのコンサルタント業を始めた。

 「食事制限者がどんな料理を求めているのかなど、シェフの方々にセミナーに参加してもらったり、医師や栄養士の声を届けたりしています。少しでも多くの飲食店に“イートバリアフリー”が広まることを目指しています」

 同社では、日本ウオーキング協会とのコラボで「ランチ&ウォーク」のイベントや、提携レストランの“健康食フェア”の開催なども行っている。

 イートバリアフリーに取り組むシェフたちのレストランは、「からだ想いなレストラン検索サイト“rrc”」(rrc-j.com)から検索できる。

 「食の楽しみは生きる活力です。胃を取っても、“あのおいしいを、もう一度”楽しんでもらえたらうれしいですね」

【がんへの備え】生活の質を守ったよりよい療養のため 迷ったら「支援センター」に★セカンドオピニオン編(1)「納得のいく治療」


治療の進め方について主治医とは別に、違う病院の医師に意見を聞く“セカンドオピニオン(第2の意見)”。よく耳にするが、実際、がんになった場合、どういう時に利用すれば役立つのか。がん患者支援団体に聞いた。

 対応してくれたのは、NPO法人「キャンサーネットジャパン」理事で看護師の川上祥子さん。セカンドオピニオンを「納得のいく治療を受けるための確認作業」と説明する。

 「治療に向かう患者さんは、誰でも理想を持っています。ひとつのがんの標準治療でも、療法や術式の組み合わせでいくつも選択肢がある。すべて主治医にお任せなら必要ない。でも、理想に近い“別の治療法”を探したり、確認したい時に大変役立ちます」

 セカンドオピニオンは決して、主治医の意見(ファーストオピニオン)を疑ったり、転院するために受けるものではない。あくまでも、元の病院に戻って来ることが前提。別の治療法が見つかれば選択肢が広がる。同じ治療方針なら、十分納得した上で、治療に臨むことができる。

 「大切なのは、ファーストオピニオンの時点で自分のニーズを把握すること。何に配慮した治療を理想とするのか。きちんと整理できていなければ、結局、ドクター・ショッピングのようになってしまいます」

 整理したいのは、医師には分からない、生活上との兼ね合い。「通院で治療したい」「入院期間が短い」「入院は長くても、この治療法がいい」「髪の毛が抜けない」「お金がかからない」などの希望だ。

 では、どうすれば受けられるのか。

 「主治医にセカンドオピニオンを受けたいことを伝えて、紹介状(診療情報提供書)を書いてもらいます。診断に使った検査結果や画像データなども必要です。詳細は、セカンドオピニオンを受ける病院に問い合わせます」

 セカンドオピニオン外来を設置する医療機関はたくさんある。希望先が決まっていない場合、どう選べばいいのか。

 「迷っているのなら、全国397カ所にあるがん診療連携拠点病院の“相談支援センター”に聞くことを勧めます。地域のがん診療に強い病院のセカンドオピニオン外来を教えてくれます」

 ただし、セカンドオピニオンは自由診療。費用は施設で幅があり、1万-4万円ぐらいかかる。

 「がん保険の付帯サービスでは、無料でセカンドオピニオンが受けられるものもあります。上手に使ってもらいたい」

がん検診「患者にとってデメリットが大きい」と近藤誠医師


いわゆる「がん放置療法」を唱え、がん治療に悩む日本中の患者の救世主となっている慶應義塾大学病院放射線科で著書・『医者に殺されない47の心得』(アスコム刊)は100万部に迫る大ベストセラーになっている近藤誠医師。厚労省や病院はやたらとがん検診を受けるよう宣伝しているが、近藤氏はがん検診は「有害」と言い切る。
 
「検査で小さな“がん”を発見した場合、それは“もどき”の可能性が高い。肺がんの場合は、ごく小さいうちに発見しても“本物”のケースが2割程度まじっていますが、もし“本物”なら臓器転移しているので、どんなに早期発見しても治りません」
 
 がんが大きくなってから見つかり、治療によって治った場合、そのがんは“もどき”だった可能性が高く、治療しなくても問題はなかったことになる。それでも、がん検診や人間ドックがさかんに推奨されることについて、近藤氏は皮肉まじりにこう話す。
 
「医療はビジネスですから、病人をできるだけ増やし、病院に通わせることでやっていける。だから、がん検診は“お客さん”を増やすための格好の手段で、医療関係者の生活を支える糧になっている。

そうして病人を作り出して、しかも命まで縮めてしまうのだから、患者さんにとってデメリットの方が大きい」
 
 それゆえ、検診は受けずに、症状が出たら病院に行けばいいというのが近藤氏の基本的な考え方だ。
 
「実際問題として、がんと診断されてしまうと、無治療で放置するのは心理的にかなり難しいはず。そのため、弊害があると知りながらも、ほとんどの人が治療を受けているのが現状です。

精神不安定もひとつの症状と考えれば、がん治療も正当化できるかもしれない。

しかし、がん治療の結果、後遺症を抱えたり、寿命を縮めることになりかねません。そうしたジレンマに陥らないよう、症状がなく、健康だと感じている人は、医療機関に近づかないほうが賢明です」

がん治療 医者から「新しい薬を試してみましょう」は要注意



抗がん剤を、がん治療の救世主のように思われている人も多いだろう。抗がん剤は、人体の細胞を攻撃することでがん細胞を弱らせる薬物である。

脱毛や吐き気などの副作用が出るのは、それががん細胞だけでなく、正常細胞も同じように攻撃してしまうからである。そこで近年は、がん細胞増殖に関わるタンパク質だけを狙い打ちする「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤が増えている。

 ところが、先日『がんより怖いがん治療』(小学館刊)を上梓した元慶應大学病院のがん治療医、近藤誠氏によると、分子標的薬(がん細胞などの表面にあるたんぱく質や遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬)も含めた抗がん剤は、「急性白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍、睾丸腫瘍、子宮絨毛がんは抗がん剤で治る可能性があるが、それ以外のがんには無意味」というのだ。

 つまり、胃がん、肺がん、食道がん,乳がんなどの固形がんには、まったくと言っていいほど効かないというのだ。なぜ効かないのか。有効性を確認する臨床試験を経て認可されているはずではないのだろうか。

 近藤氏は、その臨床試験における新抗がん剤の「有効」基準そのものが低レベルすぎると言う。同書によると、抗がん剤が「有効」とされる指標は以下の3つ。

【1】がんの大きさが3分の2になる。
【2】その縮小が、1か月持続した。
【3】上記の1と2の該当者が全被験者の10パーセントから20パーセント。

 つまり、医者の言う「抗がん剤が有効」というのは、患者の寿命が延びることではなく、がんが消えることでも、ましてや治ることでもない。

たとえば100人の胃がん患者がいたとして、10人から20人のがん腫瘍の大きさが3分の2以下になり、それが1か月持続しただけということだ。

たとえ被験者が2か月目に亡くなっても、他の8割方の患者に何の効果がみられなくても、その薬は有効のまま。ということは、大部分の患者にとって、効果は期待できないことになる。近藤氏は説明する。

「この試験の目的は、新薬に効果があるかどうかと、副作用の出方を見る、それだけです。本来なら、新薬を使った患者グループと、使わなかった患者グループに分けて比較試験を行うべきです。

薬を使った患者グループの治療成績のほうがよければ、有効と判断する根拠になる。ところが日本では、そうした試験は行わずに、厚生労働省は認可してしまうのです」

 抗がん剤が一部にしか効かないことを認めるがん専門医は、近藤氏だけではない。問題は、「有効」の中身がこれほど頼りないものであることが、あまり世間に知られていないことだろう。近藤氏は抗がん剤の臨床試験を、患者に不利益を与えるだけの人体実験として強く批判している。

「治る見込みのない患者さんを実験台にするんですね。

医者から1パーセントでも治る望みがあると言われれば、多くの患者さんは臨床試験を受けようと思うでしょう。しかしどんな抗がん剤にも、副作用はあります。ほとんどの患者さんにとって、苦しみを増やすだけですよ。患者さんには穏やかに余生を暮らす権利があるはずです。

 臨床試験は、数多くの病院で行われています。抗がん剤を開発したい製薬メーカーと、製薬メーカーから研究費を獲得したい病院側の思惑が合致して、たくさんの患者さんが実験台にされています。医者から新しい薬を使いましょう、と言われたら注意してください」

 抗がん剤が効くのは、一部のがん。これだけは覚えておきたい。

【がんへの備え】納得して治療を 手術延期も選択肢 セカンドオピニオン編(2)


納得のいく治療法を選ぶために、大いに役立つセカンドオピニオン。ただし、使い方やタイミングを誤ると、患者にとってプラスにならないことも。注意点をがん患者支援の関係者に聞いた。

  ◇ 

 NPO法人「キャンサーネットジャパン(CNJ)」理事の川上祥子さんは、「希望するセカンドオピニオン外来(予約制)が混んでいて、待たされることがある」と忠告する。

 「がんと診断されて、最初の治療開始まで、それほど期間がありません。もし、手術で切るべきか悩み、セカンドオピニオンを受けたいと思うのなら、手術日程を延ばしてもらうことです」

 特に、がん診療拠点病院のセカンドオピニオンは非常に混む。1カ月待ちは当たり前という。

 「手術を受けたら後戻りはできません。その後も何年も付き合っていく病気です。がんの状態が許すなら焦らず、十分、納得した上で手術を受けた方がいいと思います」

 神奈川県とCNJの協働事業「ピアサポート(がん相談)」のサポーター(がん体験者)を行っている武岡ひとみさんも、自らの経験から話す。

 「その病院しか知らない時は、主治医の意見がすべてだと思っていました。でも、後から違う意見を知ったり、他人が違う治療法を受けて元気だったりすると、やっぱり後悔しました」

 また、がん患者の家族がセカンドオピニオンを求める場合も注意点がある。家族は「何もしてあげられないので、せめて情報収集はしてあげたい」と一生懸命になる。その「良かれ」とする強い思いが、逆効果に働く場合がある。

 「特に今はインターネットで簡単に情報が得られます。家族が『名医がココにいた、アソコにいた』と、本人の意思とは関係なく、連れ回してしまう傾向があります。あふれる情報の中で患者さんが置いてきぼりにされてしまうことがあります」(武岡さん)

 セカンドオピニオンは患者の理想に近い治療法が選べるように、第2の意見を求めるもの。患者本人が何を望んでいるかが最も大切になる。

 「別の治療法が見つかれば選択肢は広がります。ただし、家族の方は患者ご本人が混乱しないようにサポートしてください」(川上さん)

 次回は、武岡さんのセカンドオピニオン体験を紹介する。

 《セカンドオピニオンの対象外例》
 ★紹介状や検査資料を持参できない
 ★最初から転院を希望している場合
 ★現在の主治医に対する相談
 ★医療事故や医療費などの相談
 ★死亡患者を対象とする相談
 ★本人・家族以外からの依頼

【がんへの備え】がん患者の会社の辞め方…後悔しないタイミングで!


国内の「がんと就労」に関する複数の調査をみると、会社勤めの人が、がんになった場合、大体3人に1人の割合で会社を辞めている。

 初期治療でがんを切除して復職しても、その後の治療や合併症などから、発症前と同じ仕事量をこなすのが時間的、体力的にも難しくなるケースが多いからだ。

 現在、職業紹介事業などで、がん体験者の就労・雇用を支援するキャンサー・ソリューションズを経営する桜井なおみ社長も、8年前に乳がんの発症で勤めていた会社を辞めざるを得なかった経験を持つ。

 「当時は設計事務所の社員。復職は半年後です。でも右脇下のリンパ節も取ったので、リンパ浮腫で夕方になると(パソコンの)マウスを持つ腕がむくんで動かなくなる。それにホルモン療法を続けていたので、不眠や抑鬱など更年期障害のような副作用にも悩まされました」

 役職は「主任」で部下もいる立場。半年仕事を休んで同僚にシワ寄せがいった上に、復職後は2週間に1度は外来に通院しなければならず、重要な会議と重なることも度々あったという。

 「やはり主任の仕事は無理だと思い、ヒラ扱いにしてもらったんです。それでも5年スパンの仕事の立ち上げをメーンで任されたり、上司は何気なく『先のメドの立たないのは雇いにくいんだよね』と、ポツリと言ったりする。帰宅時間も他の人より早いので、次第に職場に居づらくなってしまったんです」

 復職から1年8カ月後、桜井さんは転職のあてもなく、17年間勤めた会社を38歳で依願退職した。

 当時を振り返って桜井さんは「本当は…、もっと上手な辞め方があったんです」と後悔する。

 「主任を降りたので役職手当などが付かず、当然年収は下がりました。その立場で退職したものですから、一番もらっていたときの給料から計算すると退職金がだいぶ減ってしまったんです。

相談できる場所が皆無の時代でしたから、会社の就業規則の存在すら知らなかった。辞める場合にも、その人によって後悔しない会社の辞め方、タイミングがあるのです」

 会社の方も桜井さんが社員でがんになった第1号のケース。もし社員ががんになったらどう対応したらいいのか、分からない会社が多いのが現状だ。

 この経験から桜井さんは再就職を経て、がんと就労の問題に関わっていくことになる。次回は、再就職探しについてアドバイスしてもらう。

血液を調べてがんの状態を知る新しい検査法について考えたこと【がんと向き合い生きていく】


【がんと向き合い生きていく】第247回

一般的にがんの診断は、腫瘍ができている箇所からその組織を生検(バイオプシー)し、病理専門医が顕微鏡で見て行います。

最近、そうした組織からがんを診断する方法のほかに、血液や尿など(リキッド=液体)からがんの状態を知る検査方法、「リキッドバイオプシー」と呼ばれる手法が注目されています。

体のどこかにがんができると、血液の中に特徴的に作られるタンパク質など特定の物質が増えることがあります。このような物質は「腫瘍マーカー」と呼ばれ、採血検査でがんの診断や治療の指標になります。

たとえば、「CEA」という腫瘍マーカーは、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなどで異常に高い値となる場合があります。ただ、同じがん種でも数値が高くならないこともあるうえ、がんがある場所なども腫瘍マーカーの値だけでは確定できないため、画像検査など他の検査の結果も合わせ、医師が総合的に判断します。

今回のリキッドバイオプシーは、この腫瘍マーカーとは違います。腫瘍の組織から血液中に流れ出るがん細胞、血液中のがん細胞の破片、遊離したDNA、エクソソーム(細胞から分泌される膜小胞)、microRNAなどを調べることによって、体の中のがんの状態をリアルタイムに知ることができるというのです。

すでにがんの塊が手術で切除されていて、CTなどの画像検査では見つからない場合でも、血液中のそうした物質から、体内のがんの状態がわかるといいます。たとえば乳がんの患者で手術後に再発した場合、転移巣から遊離したがん細胞が血液の中に存在するかどうかを調べるのです。

ひとつのがん細胞が、血液中にとどまっている時間はとても短いようで、本当に血液中にがん細胞が存在するのかを確認するには、採血した検体で血液中のたくさんの正常細胞を短時間で検査し、その中にがん細胞がどれだけ含まれるかを調べなければなりません。そのためには、検査技法として血液細胞100万個ないし1000万個の中から1個の腫瘍細胞を検出できる能力が必要です。

この検査によって、患者の予後について予測される因子になる、つまり血液中に循環しているがん細胞が多い方が予後不良の傾向にあることが分かっています。また、血液中を循環しているがん細胞の断片化したDNA(ctDNA)を検出する技術は近年著しく進歩しており、その結果によって、手術、放射線治療での根治的治療後の腫瘍残存の評価、再発後の治療方針の決定、さらには薬剤の選択、治療効果の評価などにも使われるようになることも想定されます。実に画期的な検査法といえるでしょう。

■患者の心がよりつらくなるのでは

ただ、心配な点もあります。がんと診断され、さらに「あなたの血液中にがん細胞が流れている」と聞かされた患者さんは、それだけで「血液にがん細胞が見つかったということは、体中をがん細胞が回っていて、それで私は生きていられるのか?」とか、「私は末期がん、全身がんだ」などとよりオーバーに捉え、落ち込むことになってしまうのではないか。より詳しく知ることで、心はよりつらくなってしまうのではないか--。

「私はぴんぴんしているのに、そんなことはありえない」と思う患者さんもおられるかもしれません。とはいえ、こうした近年の検査法の進歩によって、より体のがんの状態を知ることが、さらに次の治療や対策などに役立ってくるのは間違いありません。また、患者さんにとっては採血されるだけの負担で済みますから、繰り返しの検査が可能となります。それくらい簡便な方法でもあります。

その一方、患者さんからは「体をより詳細に知ることができるすごい進歩なのかもしれないが、それよりもがんを完全に治す方法を早く見つけてくれ」と言われてしまうかもしれません。

なお、リキッドバイオプシーの保険適用については、今のところ遺伝子パネル検査など一部のものに限られます。実施を検討する際は、まずは医師に相談してみてください。

(佐々木常雄/東京都立駒込病院名誉院長)

がん電話相談から 膵臓がん治療、狭まる選択肢


Q 50代女性です。昨年8月、背中の痛みがあり精密検査を受けたところ膵(すい)頭部に直径約2センチのがんが見つかり、肝臓にも転移していることが分かりました。胆汁の通り道を確保するためステント(網状の筒)の挿入手術とともに、化学療法を受けましたが、効果がないということでした。今後の治療方針について助言をお願いします。

A 膵臓がん(膵がん)は治療が難しい病気の一つです。外科手術に関して言えば、がんが膵臓内にとどまっていれば昔は手術単独で取り除いていましたが、進行膵がんの場合、残念ながら再発率は約90%と極めて高い状況でした。これは、手術でがんを取り切れたとしても目に見えないがん(微小転移がん)がどうしても残ってしまうためです。膵臓以外に転移していた場合の再発率はさらに高まります。また、膵臓や肝臓のがんは侵襲が高いので手術による体へのダメージも大きく、メリットよりデメリットの方が大きくなってしまいます。微小転移を含めたがんを制御するため、現在は切除可能な膵がんを含め、まずは化学療法で対処することが標準になっています。現在までに受けた化学療法はどのようなものですか。

Q 昨年9月以降、「フォルフィリノックス療法」を受けたものの、腫瘍が増大し新たな肝転移も見つかったため、12月からはゲムシタビンとアブラキサン(一般名・ナブパクリタキセル)の併用療法に切り替えました。一時体調は改善したものの、今年7月の検査で腫瘍増大と新たな肝転移がわかり、効果がなくなったと説明を受けました。

A 4つの点滴薬を併用するフォルフィリノックス療法、ゲムシタビンとアブラキサンの併用療法とも非常に良い治療方法であり、これまで最善の治療を受けていたといえますが、腫瘍が大きくなれば次の治療に移るという判断になります。フォルフィリノックス療法後のゲムシタビン・アブラキサン併用療法は分析疫学の手法である「前向きコホート」で奏功期間が約5カ月といわれており、今回は通常より長く効果を発揮したのだと思います。ただ、この2つの療法の次の療法となると標準治療では選択肢がないのが実情です。仮に治験(新薬開発のための臨床試験)への参加が適格となるのなら選択肢の一つになるでしょう。

Q 分子標的薬投与の可能性を探るため遺伝子パネル検査も受けました。でも、効果のある薬はないとのことでした。

A 膵がんで分子標的治療の対象となる「標的遺伝子」が見つかるのは10~20%以下といわれています。膵がんは「KRAS」と呼ばれる遺伝子の変異が発がん因子の一つで、膵がんでは90%にKRAS変異を認めます。KRAS変異を標的とした治療開発に難渋しているのが現状ですので、膵がんでは分子標的治療の適応となる頻度が少ないのが現状です。

Q 今後は緩和医療を中心にすべきでしょうか。

A 緩和医療というと、ホスピスや緩和ケア病棟という言葉を想像するかもしれませんが、膵がんの場合は痛み止めを服用するなどすでに緩和医療を並行して受けています。一生懸命に治療に向き合うあまり、日常生活で感じる痛みや不眠、気持ちの不調、倦怠(けんたい)感、食欲不振などの相談が後回しになりがちですが、緩和医療は非常に大事です。日々の生活の質を上げる新しい薬も開発されており、こうした問題についても主治医や病院スタッフに積極的に相談すればよりよい日常を過ごせるでしょう。

回答はがん研有明病院・消化器センター肝・胆・膵内科副医長、春日章良医師が担当しました。

「がん電話相談」(がん研究会、アフラック、産経新聞社の協力)は毎週月~木曜日(祝日除く)午前11時~午後3時に受け付けます。電話は03・5531・0110、無料。相談は在宅勤務でカウンセラーが受け付けます。相談内容を医師が検討し、産経紙面やデジタル版に匿名で掲載されることがあります。個人情報は厳守します。

深夜に搬送された病院で「7万円の病室しか空いていない」と言われ…【がんと向き合い生きていく】


【がんと向き合い生きていく】第231回

「先生、お金はいくらかかってもいいですから……治してください!」

 紹介されてきた患者の母親が、食い入るように私を見つめてこう口にしました。それを受け、私は「治療は一番良い方法を行っています。お金で治療法が変わることはありません」と答えました。

 しばらくしてから、私は学生時代に悪性リンパ腫の疑いで入院した時、ベッドの脇で母が漏らした言葉が頭に浮かんできました。

「じぇね(銭)ならなんぼかかってもいいから、先生にお願いして治してもらう」

 その時、私は黙っていましたが、心の中で「わが家にそんなに金があるわけでもないのに」と思ったのでした。

 アメリカと違って、貧富の差があっても、日本ではお金に関係なく高度な医療を受けることができます。日本は国民皆保険制度で、高額療養費制度などもあります。そんな日本の医療制度の中で、お金に関して私が気になっているのは「個室料金(差額ベッド代)」です。差額ベッド代は全額自己負担なのです。

 ある夜、Gさん(38歳・男性)は、酔っぱらって転んでコンクリート塀に頭を打ちつけ、夜11時すぎに救急車で某大学病院へ運ばれました。CT検査では特に問題はなかったのですが、診てくれた医師から「頭のことなので大事をとって一晩入院した方がいい」と言われました。Gさんは「これは親切にありがたい」と入院を了解したのですが、1日7万円の病室しか空いていないと言われました。そこですっかり酔いがさめたそうです。

 翌朝、退院となりましたが、部屋代だけで2日分14万円(午前0時をすぎた時点で1日分を加算される)だったといいます。

■個室料金が高額で転院を希望する患者も

 本来、個室料金を払うのは、本人が個室を希望している場合で、本人の同意が必要です。しかし大部屋に空きがないなどの理由で差額ベッド代の同意書へのサインを求める病院もあるようです。

 以前の出来事ですが、ある大病院で治療を受けていたがんの患者さんが、治療中に転院を希望されてきました。紹介状を見ると、しっかり治療されていて問題はありません。お話を伺うと、「個室料金を払うのが大変だから転院したい」とのことでした。

 この患者さんのがんでは、白血球が少ない時はどうしても個室が必要になってきます。その個室料金が高額なのです。本来、患者の治療上の必要により、あるいは病棟管理の必要性(他の患者に感染する可能性など)から個室に入院させた場合、患者はその差額ベッド代は払わなくてよいのですが、その患者さんはすでに支払いの同意書にサインし、さらに治療は繰り返し長期に及ぶことから、支払うのが大変だというのです。また、サインした同意書を撤回することは勇気がいるので難しいとのことでした。

 繰り返しになりますが、差額ベッド代は患者が希望して個室に入院した場合にかかる費用で、正式には「特別療養環境室料」と呼ばれ、全額が自己負担となります。

 世の中、なんでもカネ、カネなのだろうか? たしかに、ずっと、あらゆるところでお金が幅を利かす世の中ですが、「少なくとも医療では利益を追求することであってはならない」とずっと思ってきましたし、その考えは変わりません。

 しかし、私がそんなことを言っても、差額ベッド代は病院によって大きな差があり、その病院での収入に占める割合は大きいと思われます。「病院経営はそれなりに個室料金を取らないと成り立たない」と言われたこともあります。ただ、もしも個室料金の収入がないと病院経営が成り立たないのであれば、この医療制度自体が間違っているのではないかと思うのです。

 ちなみに、個室料金は病院側で決められますが、都立病院の場合は都議会で審議する必要があり、病院が勝手に決めることはありません。

(佐々木常雄/東京都立駒込病院名誉院長)

20代ほど「がん検診の被曝リスク」が高い理由 健康のために「健康を害する」日本人の盲点


一般的に、がん検診で使用される放射線は身体へのダメージを最小限にするため、だいぶ控えめな設定になっています。そのため特に深刻な健康被害を及ぼす心配はありませんが、これが20代ともなると話は別。若い人ほど「がん検診の被曝リスク」に注意すべき理由とは? 国立がん研究センター検診研究部部長の中山富雄氏による新書『知らないと怖いがん検診の真実』より一部抜粋・再構成してお届けします。

あまりに酷な「がん治療」の現実

 私が医師としてのキャリアをスタートさせたのは、大阪府立成人病センター(現・大阪国際がんセンター)です。

 既存の考えに対して「ほんまかいな?」と投げかける好奇心と、突拍子もない発想や発言を「おもろいやないか」と受け止める度量がある、一風変わった病院でした。自由闊達な空気に満ちた病院で呼吸器内科医としてたくさんの肺がん患者さんを診ることになるのですが、かなり厳しい状態の患者さんが多かったのを鮮明に覚えています。

 今は肺がんによく効く抗がん剤も出てきましたが、当時はそんなものはありませんでした。進行した肺がんの患者さんに対して効果的な治療は皆無に等しかったのです。

 その頃、アメリカのがん専門医にインタビューした調査報告書が発表され、そこでも「自分が進行した肺がんと診断された場合、抗がん剤治療はしない。痛みを取り除くことに専念する」と回答した医師が大多数と記されていたほどです。

 患者さんの苦痛をやわらげることはもちろん大事なことですが、治療らしい治療はなにもできず、「死に水をとるだけの日々やないか」と苦しい思いを抱えていました。

 「患者さんを治すために医者になったんだ。こんなことをするために医者になったんじゃない」

 そう言って同期の二人の呼吸器内科医は診療科を変更しました。若い医師にとっては、あまりに酷な「がん治療」の現実だったのです。

 勤務していた病院は、がんにおいては日本でトップクラス。診断や治療のほか、がん検診の開発や評価もおこなっていて、検診のあり方にも目を向けていました。

 「もっと早く病院に来てもらう=手術できる患者さんを増やす」ためには、治療の導入部に当たる「がん検診」の役割を拡充する必要があるのではないか。がん検診にまつわる情報やデータを整理する研究が必要なのではないか。

 がん検診に焦点を当てた研究に、現状を変える兆しを感じ取るとは、やっぱり変わった病院だったと思います。

 「じゃあ、研究のほうもやってみるか?」と話が進み、私は臨床と研究の二足のわらじを履くことになったのでした。患者さんを診つつ研究も進めるのは体力勝負なところもあり、大変は大変でしたが、2つの領域をつなぐ作業は刺激的なものでした。

 国の施策に関連する研究をしながら、患者さんの急変で夜中に呼ばれることも多々ありました。がん予防やがん検診はがんの入り口、患者さんの看取りや遺族のケアというがんの出口まで対応したのは、今から考えると、よくぞそこまで……と思います。

 でも、臨床と研究の両輪で走ったおかげで検診と治療のつながりが見えるようになり、取り沙汰されることがなかった検診の「不利益」にも意識が及ぶようになったのです。

若い人ほど「放射線被曝」には注意

 検査とは時間がかかるものです。当日の待ち時間もそうですが、結果が出るまでにも日数がかかります。どうやったって「時間」は払わなくてはいけませんが、それは検査の「必要経費」。皆さんも納得できるでしょう。でも、がんを見つけるための検査で、身体や心にダメージを受けるとなると、それが「必要経費」と言えるでしょうか。

 がん検診は職場や自治体、人間ドックで受けることができます。最も基本的なメニューは自治体のがん検診でしょう。

自治体のがん検診には、肺がん、胃がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの5つがあります。このうち放射線被曝のリスクがあるのは次の3つです。

・肺がん検診……胸部X線

・胃がん検診……胃X線

・乳がん検診……マンモグラフィー

 「放射線」や「被曝」という単語は非常にインパクトがあり、ドキッとする方も多いでしょうが、もし、あなたが40代以上であればホッと胸をなで下ろしてください。

 医療現場で用いられる放射線は身体へのダメージを最小限にするため、だいぶ控えめな設定になっているので、残りの人生でX線検査を数年ごとに1回受ける機会があったとしても深刻な健康被害につながることはないからです。

 ただ、20代となると話は違ってきます。放射線は遺伝子を傷つけるということをご存じの方は多いでしょう。最新の研究では放射線を当てられると、わずか5分で細胞に傷ができるということがわかりました。

 ただし、細胞は修復する力があるので時間とともに傷は治っていきます。その修復機能が落ちると傷ついた遺伝子ががんの原因となってしまうのです。

 遺伝子が傷つき、そして修復されていく作業は分単位で起こっているので、年に1回のX線検査の影響がどれほどのことか、実際には判断が難しいところもあります。しかし、将来的になんらかの病気にかかってしまったら、X線検査やCT検査は必須。

 1回1回の線量が少なかったとしても合計してかなりの量の放射線を浴びることは避けられません。そのときに備えて、それまでに浴びる放射線の量を抑えておくのは決して間違いではないのです。

 特に「これは不要」と言ってもいいのが20代での胃部X線検査。「胃バリウム検査」と書いたほうが、「ああ、あのきつい検査」とピンとくるのではないでしょうか。

 自治体の検診では胃がんの検査対象者は50歳以上、検査頻度は2年に1回。40代の胃がん患者は明らかに減少しているので、検査も胃がんのリスクが上がりはじめる50歳以上からでよいだろうとの判断からです。ピロリ菌の感染者が大幅に減り、胃がん患者自体もかなり少なくなったので、近い将来は55歳、あるいは60歳からにしても問題はないと言われています。

 20、30年前までは20代、30代で手術もできない状態の胃がん患者さんが結構いたのですが、ピロリ菌の感染者が激減したためでしょう、10年ほど前からその年代の胃がんは滅多に見なくなりました。32歳で胃がんで亡くなったフリーアナウンサーの黒木奈々さんや、34歳で胃がんを公表した広島カープの赤松真人外野手(当時)のように、時折、若い方の罹患がメディアで話題になりますが、本当にかなり特殊な例です。

人間ドックで大量の放射線を浴びる必要はない

 胃バリウム検査では結構な量のバリウムをグビッグビッと飲んで胃のなかに広げて胃の様子を観察するため、検査の間はずっと放射線を浴びることになります。位置的に卵巣に放射線が当たる可能性も考えられます。

 胃がんのリスクもないのに大量の放射線を浴びる必要などありません。自治体や多くの職場のがん検診では20代は胃バリウム検査の対象外となっているので回避できますが、人間ドックなどは要注意。オプションなどでうっかり選ぶことがないようにしてください。

 現在は医療用の放射線はかなり低めに設定されていますが、昔はかなりきつい放射線を検査で使っていました。

 半世紀以上も前のドイツで結核患者の肺を毎週毎週X線で撮影をしていたところ、乳がんを発症する方が増えたということです。また、若いときに背骨の検査で頻繁にX線検査を受けていた人が後に乳がんを発症したという報告もあります。

 今と比べものにならないほどの量の放射線を撮影に使っていた時代なので、この例から「X線検査を受けたらがんになる!」と受け取るのは早計。

 この例が示しているのは放射線とがんの関係であって、教訓を得るとしたら「放射線は浴びないに越したことはない」という、ごく当たり前の結論です。

 イギリスなどは本当に「ここぞというときしかX線検査はしません」というスタンスで回数を制限する発想ですが、国際的には「医療被曝は仕方ない。被曝の度合いを把握していこう」という流れになっています。

 日本でも医療法施行規則が改正され、X線装置などを備えるすべての病院・診療所に対して患者さんの医療被曝の線量を管理・記録することが義務づけられました(2020年4月1日施行)。

 さて、X線検査が含まれるがん検診について、海外では生涯で受ける検診回数が検討材料として上がっています。がんごとに検診が必要な年齢を何歳から何歳と区切って、間隔も開ける。そうすることで「医療被曝」という検診の不利益を抑えようとしているのです。

 我が国はどうかというと、がん検診の不利益を検討する段階にはまだ到達していません。つまり、検診対象年齢になったら自動的・定期的にX線検査を受け続けることになるわけです。

 X線検査の話ばかりになりましたが、CT検査も被曝リスクがあります。CT検査はX線を使って身体の断面図を撮影するもので、得られる画像は鮮明なのですが、その分、浴びてしまう放射線量も多くなってしまいます。

その検査、本当に必要ですか?

 死亡率を下げるデータがないことから、CT検査は自治体のがん検診ではすすめられていないにもかかわらず、日本は世界で一番CTの数が多い国です。国によっては大学病院など一部の特別な病院だけしか所持できないようにCTの数を制限していますが、日本では街のクリニックでも普通に導入しているので「世界一のCT大国」になってしまいました。これだけCT検査が一般的になると、「よそはあるのに、うちにないのも具合悪いな」と導入してしまうのでしょう。

 皆さんが検診を受けるときにも、「あの人も受けているから自分もCTやっとこう」と流されてしまいそうになるかもしれません。

 でも、ちょっと立ち止まって考えてほしいのです。ご自身の年齢と被曝リスクを秤にかけて「本当に必要な検査か」どうかを判断してください。

薬でがんは予防できるのか アスピリンは大腸がんを抑制する【がんと向き合い生きていく】


 生きたまま体に取り入れることで健康に良い影響を与えるイメージの強い乳酸菌ですが、実は殺菌されていても効果は同じという事実に驚きの声が多数上がっています。これは、北海道で販売されている「乳酸菌入り雪ミク飲料」に「殺菌」の表示があることに疑問を思ったTwitter


この“殺菌された乳酸菌の効果”については、カルピス公式サイトのQ&Aに書かれています。このQ&Aによると、

「カルピス」は、できたてのおいしさを保つために、最後に加熱処理をし、密封しています。

このとき、乳酸菌自体は死んでしまいますが、乳酸菌がつくりだした乳酸の作用により、おなかの環境を整えたり、発酵によってつくられたカラダによい成分や牛乳の成分が、より消化吸収しやすいカタチになっているという特性には、変わりがありません。

 とのこと。生きて腸に届く必要なかった! なんてこったい!

 また、現在販売されている乳酸菌入りの食品や飲料も、その多くが殺菌済みのもよう。Togetterにいろいろな乳酸菌入り商品の「殺菌」表示がまとめられています。

 「生きて腸に届く」は、商品を売るためのキャッチコピーだったわけですね。これからは、生きているかどうかを気にする必要はなさそうです。

コロナ禍のがん 積極的に検診を受けたい


新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、一般の医療にも負の要因となっている。とりわけ懸念されるのは、国民の2人に1人がかかるというがんの治療への影響である。

国立がん研究センターによると、全国のがん診療連携拠点病院などで2020年に新たにがんと診断された人は19年と比べ6万人減った。1施設当たりの減少割合は4・6%だった。

高齢化に伴って、がんと診断される人は増加傾向にある。減少となるのは、07年の集計開始以来初めてのことだ。

新型コロナ患者の対応や院内感染への警戒から、一部医療機関は診療を制限した。市民の間にも感染を恐れて「受診控え」が広がった。これらが診断の減少の主な原因だろう。

昨年はコロナのワクチンがなく、院内感染は全国で多発していた。受診をためらう人が多かったとしても無理はあるまい。とはいえ、コロナ禍が長引いた結果、がんの発見が遅れてしまった人が大勢いることを示唆するだけに、深刻な事態だ。

がんの初期は無症状も多く、がん検診が有効な早期発見の機会となる。集計結果では、胃がんの場合、20年にがん検診で見つかった人は過去4年平均と比較して24・3%も減少した。

九州も例外ではない。九州がんセンター(福岡市)でも20年はがんの診断数が前年より減少し、大腸がんの比較的早期である0~2期の発見は4割近くも減ったという。

がん治療の効果を確実に上げるには、早期の発見と治療開始が有効だ。医療現場には「受診控えなどで診断が遅れ、数年後にがんによる死者が増えるのではないか」といった不安を抱く医師もいるという。

厚生労働省は「がん検診などの受診は、不要不急の外出に当たらない」との見解を示した。まずは、各地の自治体や医師会が積極的に市民に受診を呼びかけることが必要だろう。

無論、医療側の環境整備も欠かせない。感染拡大に備えて新型コロナ患者に対応できる病床を増やすと同時に、万全の感染症対策を講じ、他の疾患の患者にも十分に対応できる体制を整えることを求めたい。

がん専門病院には可能な限り新型コロナ患者の受け入れを要請しないことも、地域の医療機関の役割分担を進めることによって実現できるのではないか。

厚労省によると、日本人の死因のトップはがんで、27・6%に及ぶ。4人に1人ががんで亡くなっていることになる。コロナ禍のあおりで、その数を膨らませるようなことがあってはならない。停滞することなく、がんの検診と治療を進めたい。

末期がんの痛みは「放射線と薬」で解消する 4割は死亡直前まで苦悶


 家族や周りにがん患者がいる人は、気づいているかもしれません。がんの痛みについてです。国立がん研究センターは、2017年にがんで亡くなった患者のうち4割が、死亡する1カ月前に痛みを感じていたとする推計結果を公表しました。痛みに苦しんでいる状況が垣間見え、がん患者さんや周りのつらさを裏付けるデータといえるでしょう。

 調査は、がんのほか心不全や脳卒中などで亡くなった患者の遺族5万人が対象。このうちがん患者の遺族は約2万6000人で、約1万3000人から有効回答を得ています。

 推計によると、亡くなる前の1カ月に痛みがあった割合は40・4%。痛みに加えてだるさや息苦しさなど身体的な苦痛を感じた人は47・2%、心のつらさを感じていた人は42・3%。どちらも、心不全や脳卒中よりも数値が高いのが気掛かりです。

 がんが進行すると、骨に転移しやすい。乳がんと前立腺がんは75%、肺がんは54%といった具合に原発の臓器を問わず、起こり得ます。転移の場所は、首の骨や背骨、肋骨などに多いものの、骨転移はほかの臓器への転移と異なり、生命を脅かすものではありません。


 しかし、骨転移が生じると、痛みやマヒ、骨折などで生活の質が損なわれやすい。抗がん剤などの治療がうまくいっても、そのような症状で外出がままならなくなれば、元も子もありません。治療途中にそうなると、時には治療中断を考慮することもあります。

 ですから骨転移に代表されるがんの痛みは、しっかり取り除くことが大切。それに効果的なのが放射線です。たった1回の照射で骨転移の痛みは8割以上緩和されます。放射線はがんの3大治療のひとつで、骨転移にもとても効くのに、日本ではあまり行われていないのが問題です。

 皆さん、骨転移の時は放射線治療ということを頭に入れておいてください。

 末期がんの痛みは激しいことが多く、モルヒネに代表される医療用麻薬も欠かせません。モルヒネ↓麻薬↓依存性があって危険という連想から、ためらう人もいるでしょうが、医師の指示通り適切に服用すれば、まったく問題なく、痛みの緩和にとても有用です。


 モルヒネを使うと、ほぼ全例に便秘が生じるので下剤を併用。3人に1人は吐き気や嘔吐が見られるので、それを抑える薬を併用すると、服用開始から大体2週間程度で吐き気はほとんど解消されます。

 肺がんで手術ができない進行がんの患者を、通常の抗がん剤を行うグループと、抗がん剤と緩和ケアを行うグループに分けて追跡した有名な研究があります。その結果、緩和ケア併用群は、通常治療群に比べて生活の質が明らかに保たれ、うつ症状も減少。さらには死亡までの生存期間が3カ月も上回っていたのです。生活の質を保って最期を迎えるには、緩和ケアが不可欠なのです。

                       

ステージが進むほど負担増える「がん治療費」 30万円以上を取り戻す手続き


進行すると倍額以上に 「三大がん」の治療費© マネーポストWEB 提供 進行すると倍額以上に 「三大がん」の治療費

 日本人の死因第1位であるがん。もし、がんに罹患した場合に直面するのは、病気や治療による身体的な負担ばかりではない。治療費の問題も重くのしかかる。

 そもそもがんの治療にはいくらかかるのか。自身も乳がんを患った経験をもつファイナンシャルプランナー(FP)の黒田尚子氏が語る。

「がんでかかる治療費の目安は年間100万円くらいとお伝えしています。私ががんになってから12年間でかかった治療関連のお金は、医療費や乳房再建費用、交通費や日用品の購入などを合わせて約365万円でした」

 特にコロナによる受診控えでがん検診を受ける人が減っており、今後は早期発見が叶わず、がんが進行した状態で発見される人が増加すると懸念されている。

 進行がんは早期発見に比べて長い入院期間や高額な治療が必要になることがあり、トータルの治療費は大きな差が生じる。別掲の図は3大がん(胃がん、肺がん、大腸がん)のステージ1とステージ4にかかる平均的な治療費(1年目)の比較だ。

 これを見ると、例えば胃がんのステージ1なら内視鏡治療か手術で約40万~130万円がかかるところ、ステージ4の抗がん剤治療では約260万円と、倍以上の金額がかかることがわかる。

 治療費を算出した「がん治療費.com」を運営するエース・フォースの担当者が解説する。

「治療ガイドラインをもとにステージごとの代表的な治療法を選び、厚生労働省が定める診療報酬から算出しました。治療に際しての検査費用などは含みますが、副作用対策のための薬剤費などは含まれていません」

 ここで算出された治療費はあくまでも「総額」だ。実際の自己負担額は患者が加入する公的保険によって異なり、年齢と所得で1~3割負担となる。

 さらに、患者は医療費の負担を軽減する公的制度を利用できる。FPの加藤梨里氏(マネーステップオフィス代表取締役)が解説する。

「主に『高額療養費制度』と『医療費控除』の2つが利用できます。高額療養費は診療を受けた月ごとに自己負担限度額を定めたもので、加入する健康保険に申請することで、限度額を超えた医療費が戻ってきます。

 医療費控除は、年間の医療費の自己負担が一定額を超えた時に、翌年の確定申告を経て所得税の計算上で所得控除を受けられるものです」

「ベンツSクラス」を売却

 では具体的に治療費はいくら戻るのか。年収500万円、60代男性Aさんのケースで、申請や手続きの流れを図解した(別掲図)。加藤氏が図に沿って解説する。

「まずAさんが払った治療費は1月の手術で30万円、2月と3月の抗がん剤治療でそれぞれ15万円、合計60万円でした。それが高額療養費制度を利用することで自己負担限度額は合計25万2290円となり、差し引き34万7710円が還付されます。

 さらに翌年の確定申告時に医療費控除を利用すると1万5229円が所得税から軽減され、60万円だった窓口での負担額は最終的に約23万7000円に抑えられます」

 申請すればかなりの医療費が戻ってくるが、高額療養費では“月またぎ”に注意したい。

「自己負担額の上限は1か月単位で計算される点に注意が必要です。例えば、先程と同じく年収500万円の人が30日間の抗がん剤治療を行なって自己負担額が15万円のケースです。

 もし治療が2か月にまたがり15日間ずつだった場合、月毎の自己負担額は7万5000円ずつとなり、ひと月の上限(8万2430円)に達しないため還付がない恐れがあります」(加藤氏)

 また、病院窓口で負担した医療費のすべてが申請対象になるわけではない。

「がんの治療では高度な『先進医療』を選択することがありますが、技術料部分は保険適用外です。また、通常の大部屋ではなく人数の少ない部屋(1~4人)に入院した場合は1日数千円の『差額ベッド代』を払わなければなりません。

 そのほか、入院中の食事代の一部や雑費も全額自己負担です。通院時の交通費や診断書の発行、セカンドオピニオンの費用なども含め、全額自己負担となるがんの治療費は思いのほか多いのが実情です」(黒田氏)

 2014年に膀胱がんと診断されたボクシング元世界チャンピオンの竹原慎二氏(49)は、がん治療費についてこう振り返る。

「お金はとにかくかかりました。最初は抗がん剤治療を受け、その後、11時間に及ぶ全摘手術を『ダヴィンチ』というロボット手術で行ないました。当時は(手術を受けた)東大病院でも2例目の最先端治療で保険適用外だったため、手術だけで250万円。2~3か月ほど入院して、トータルで600万円はかかりました。妻が貯金をしてくれていたので助かりましたが、少しでも足しになればと、愛車のベンツSクラスを売却しました」

 昨年3月にがんの診断を受け、『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社刊)を上梓したジャーナリストの金田信一郎氏(会員誌『Voice of Souls』代表)もこう言う。

「コロナ禍のがん治療で重かった負担は、通院時のタクシー代です。平常時なら電車で通えるところを、感染予防のために自宅から病院までタクシーを利用していた。私の場合は東京から千葉県の柏市まで通っていたので往復で4万円かかりました。妻に自家用車で送ってもらうこともありましたが、負担をかけてしまったことも辛かったです。

 放射線治療の際は1か月半にわたって毎日通うので病院近くのホテルに泊まりました。こちらは逆にコロナ禍で値崩れしていて1泊5000円でしたが、長く続けば大きな額になる。交通費や宿泊費のことも考えておかなければと痛感しました」

 いざという時の負担を減らすために、“武器”となる正しい知識を身につけておきたい。

※週刊ポスト2021年12月3日号

退院後の食生活はどうすればいい? 栄養士さんとの面談を希望すると…【鼻腔ガンになった話 Vol.73】


※この記事は筆者の体験談です。今から20年ほど前の出来事で、ガン治療やホスピスについての一般的な考え方・対応は現在とは異なります。

■前回のあらすじ

ガンになったことを報告するため叔父に電話。すると20年以上たった今でも、叔父は叔母のことで後悔し続けているように感じたのでした。

■何を信じていいのかわからなくなってしまい…

長らく生きているとちょいちょいこういうことがあります。わかりやすい例えで言うと「うさぎ跳び」とかそうですよね。昔は運動部の定番のトレーニング方法でしたが、しんどいだけであんまり筋力的にはよろしくないとかで、最近では全く見かけなくなりました。

「運動中水を飲んではダメ」とかもそうですね。当時は当たり前のように言われていたのに、今は逆に「積極的に水分を取らないと!」とか、当時やらされていた身としては、「おーい、真逆じゃん」とツッコミたくなります。

だからこそ偉い人が言ってるからといって盲目的に信じるのではなく、もしかしたら覆るかも、とちょっと疑った気持ちを持つことも大事なのではないかと考えています。でもそうすると今度は何を信じていいのかわからなくなってしまって。結局退院した後にどのように健康状態をキープしたらいいのかわかりませんでした。

そこで、栄養学のプロ=栄養士さんに話を聞こう! という結論に至ったのでした。

■栄養士さんと話したくてストーカー状態

最初は「栄養士さんと今後の食生活について相談したい」と言えば、簡単にできるものだと思っていました。しかし病院の栄養士さんは、入院患者の栄養管理、食べられない人用の食事を考える、などたくさんの仕事がありとても忙しいようでした。

すぐに時間を取ることができないと聞いて諦めようかとも思ったのですが、退院後栄養士さんと話す機会もないだろうし、疑問は解決しておきたいと思い、主治医のK先生に相談しました。

あまり栄養士さんと話したいと言い出す患者はいないようでしたが、ちゃんと話したら理解してもらうことができ、栄養士さんに相談する機会を得ることができました。

※本記事はあくまで筆者の叔母の体験談であり、症状を説明したり、医学的・科学的な根拠を保証したりするものではありません。気になる症状がある場合は医師にご相談ください。

▶︎次の話 世に溢れる健康情報はどれを信じればいい? 栄養士がかけた衝撃的な言葉

それでも、検査→抗がん剤→手術のベルトコンベアに乗るのか?


もしがんになったら、どの病院でどんな治療を受けるか──。それを、あなたは想像できているだろうか。

 食道がんにかかったジャーナリストの金田信一郎氏は、それを調べて考え抜いた。食道がんの場合、多くは食道の全摘出手術を提案される。だが、そのダメージは大きく、「ダンプカーに轢かれたほど」と表現される。それを知った金田氏は、がん手術による体の変化によって取材活動に大きな支障をきたすことに疑問を抱き、様々な文献を読み、医療関係者を訪ね歩き、全く違う治療にたどり着いた。

 当初、金田氏は医師に言われるがまま、外科手術を受けるつもりで抗がん剤治療を受けていた。だが、医療について調べていく過程で病院を転院した上に、転院先での手術を土壇場でキャンセルし、最終的には別の治療法を選択した。自身のがん治療の体験を経て『ドキュメント がん治療選択―崖っぷちから自分に合う医療を探し当てたジャーナリストの闘病記』を上梓した金田氏に話を聞いた。(聞き手:長野 光、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に金田信一郎さんの動画インタビューが掲載されていますので、是非ご覧下さい。

──「現代の患者は、病院側が用意した医療の上に何の疑問も持たずに乗っている。情報は最小限しか患者に伝えられていない。だから、その圧倒的な情報量ギャップによって、患者は判断や選択をする余地があまり与えられない。そして、いったんベルトコンベアに乗ったら、途中で降りることは難しい。すべてが終わると、自分の体は予想だにしていなかった状態に変わっている」と、本書のまえがきに記されています。こういった問題意識はいつからお持ちなのでしょうか。

金田信一郎氏(以下、金田):東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)に入院していた時です。東大病院では、4人部屋に入院しました。それぞれのベッドがカーテンで仕切られているだけなので、医師が他の患者さんに治療方法を説明しているのが聞こえてくる。その内容を聞いていたら、どうも納得できない説明が多かったんですね。

 例えば、私の向かいに放射線治療を受けている患者さんがいました。彼は口から食事することができないので、「胃ろう(胃への導管)」で栄養剤を送り込んでいる状態でした。

 ある日彼が、回診に来た若い医師に向かって、「いつになったら口から食べられるんだ!」と怒っていた。もう自分の口から食べられる程度になっているはずなのに、思ったように回復していない、と。

 怒られた若い医師は主治医に相談しに行って、「先生は、『じゃあバイパス(迂回路)かな』と言ってました」と伝えに来たんです。

「バイパス」と言われて、その患者さんは驚いていました。彼は、以前のように食べられるようになると思っていた。それなのに、口から入れた食べ物をバイパスで胃や腸に送るから、口から食べられるようにはなります、という話だったのですから。

 若い医師が部屋を出て行くと、苛立ってベッドか何かを蹴り上げるような音がしました。要するに、本人が考えていたようには治っていなかった、ということなんでしょう。このやり取りを聞いて、患者の気持ちは置き去りなんだな、と思いました。

 それから、ネットで食道摘出手術の手術映像を見ました。ロボットがパンパーンと食道を2箇所切って引っ張り出す。まるで自動車工場で壊れた車を修理しているようだった。それを見て、自分もこういうベルトコンベアに乗せられた実験台のネズミのように扱われるんだな、と思ったんです。

 先輩記者の吉野源太郎さんから、食道がん手術の後の話を聞いたことも大きかったです。吉野さんは、私が受ける予定だった食道の全摘出手術をされたんですね。「金田、本当に大変なのは手術の後だ。これから壮絶だぞ」と言われて。食べ物が以前のように食べられないから、やわらかい食事を1日5~6回に分けて食べる。それで18キロ痩せた、と。

 食道の全摘出手術後は、「体重が7掛けになる」と言われています。私は体重52キロだから、3割減ったら36キロになってしまう。そんなに痩せたら、体力がないから外出も難しい。食べても食道がないから逆流してしまうし、横になって眠れないから出張にも行けない。もう、思ったように取材活動ができない、ということですよね。

 がんが取り切れたとしても、それで果たして手術が成功した、がんの治療が上手くいったと言えるのだろうか、という疑問を持ちました。

「肋骨を折り、片方の肺を潰す」食道がん手術の壮絶

──最初に金田さんの担当になった東大病院の医師は、抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術を行い、食道を全摘して胃を3分の1に切り取り、胃を引っ張り上げて喉に繋げる、という方法を提案します。これに対して金田さんは、ご自身で治療方法をリサーチし、熟慮の末にロボットを使う方法や胸腔鏡といった低侵襲手術を望みます。そして、さらに調査と熟慮を重ねた結果、最終的に放射線治療を選択します。

金田:食道がんの手術は、食道にメスを到達させるために、まず肋骨を折ってから肺を片方潰さなければなりません。術後は、「ダンプカーに轢かれたほどのダメージがある」と表現されるほどの状態になります。

 また、ロボットアームで胸の下から小さいメスを入れて、食道を切り出す手術方法もあります。この方法だと肋骨を折らず、肺も潰さなくて済みます。でも、手術に使うダヴィンチという機械は大病院にしかなく、持っていたとしても数台しかありません。もちろん食道がん以外の手術にも使われるので、手術の日程が決まらないとロボットが使えるかどうか分からない。

 私の場合、東大病院で抗がん剤治療をした後に検査し、その時点で食道がんが小さくなっていたら手術の日が決まる予定でした。つまり、手術日が決まって、その日にダヴィンチが空いていて、さらに、ローテーションで執刀することになった医師がダヴィンチを操縦できる人であれば手術できる、という話だった。だから、東大病院で自分が胸腔鏡手術を希望しても、それが実現するかどうか、執刀医が誰になるのか、ということがはっきりしなかったんです。

 それで、国立がん研究センター東病院(以下、がんセンター)にセカンドオピニオンを求めました。そうしたら、ロボットで手術する前提で、藤田武郎先生が「ここをこう切ると、こういう風に傷が残ります」と、図を描きながらきちんと説明してくれた。その場で「先生に手術してもらえますか」と聞いたら、「もちろん私がやりますよ」と言ってくれた。

 食道がんやすい臓がんの手術は、がんの中でも難易度が高いと言われています。そのため、手術経験が豊富な病院で手術を受けた方がいい、「ハイボリュームセンター」という考え方があります。しかも、食道がんはリンパ節転移も多いので、リンパ節も同時に切除しないといけないんですが、どこまで切除するのかという判断は胸を開いてみないと分からない。

 藤田先生は、年間100件以上の食道がん手術を行っていて圧倒的な知見と技術力がある。そのことも転院を決めた理由の一つです。

食道がんの「神医」の手術を回避した理由

金田:また、藤田先生は自分が執刀した患者を集めて毎月勉強会を開いているんです。難しいと言われている食道がん手術の後に患者を集めたら、中には予後の悪い人もいて、糾弾大会になりかねません。

 だから、患者を集めて勉強会をするということは、患者との関係や手術の結果に相当な自信がないとできないはずです。しかも、食道がんの手術をするかどうか迷っている人が納得して手術を受けられるように、この勉強会に参加を勧めてもいる。

 こういった情報を踏まえて、がんセンターの藤田先生であれば手術を任せられると思いました。それで、東大病院からがんセンターに転院し、藤田先生にダヴィンチで手術をしてもらうことにしたんです。

 ところが、書籍で書いている通り、私は藤田先生の外科手術をやめて、がんセンターでの放射線治療に切り替えました。

──なぜでしょうか。

金田:抗がん剤治療の3クール目を終える頃、がんセンターの内科医に相談したら、今から放射線治療も「あり」ですよ、と言われたからです。

 私が一番気になっていたことは、外科手術に比べて、放射線治療の5年生存率がどのくらい低いのかということでした。調べてみたら、10年以上前のデータでだいたい5%くらい低い、という結果だった。そこで私は、そもそも外科手術を受けた人と放射線治療を受けた人の母数が違うのではないか、と思ったんです。

 日本では、がんはすべて取り切った方がいいと思われています。だから基本は外科手術で、もし手術ができない場合には放射線治療をする、という発想が多い。だから、10年前に放射線治療をした人は、手術に耐えられないような患者さん、高齢者の方が多いのではないか。そうであれば、放射線治療の5年生存率が5%ほど低いのは当たり前のことで、それは「差」だとは言えないのではないか、と考えました。

 放射線治療は、ここ10年で劇的に進化しています。米シリコンバレーにあるVarian社の高精度放射線治療装置が非常に優れているという話も聞きました。その機械を、がんセンターでも使っていることが分かりました。

 この機械は、呼吸するたびに動く臓器を追尾するように、患部にしっかり放射線を当てられるようになっている。しかも、がんセンターは治療データも積み上がっている。そういうことを考えると、放射線治療の5年生存率が低いという結果は、現在では同程度か、または逆転しているのではないか、と推測したんです。

 結果的に、私の食道がんは寛解しましたし、今は普通に取材活動ができていま

金の延べ棒でがんが治ると信じた友人

──がん治療は、今後ますます放射線治療が増えていくとお考えでしょうか。

金田:私自身は放射線治療を選択しましたが、放射線治療の「信奉者」ではありません。がんには他の治療方法もあるし、将来的には免疫療法や分子標的治療なども広がっていくでしょう。がん治療はもっと大きく変わっていくと思います。

──書籍には、金田さんの親しいご友人で、民間企業から女性能楽師になられたことでも有名な宮内美樹さんが、金田さんと同じタイミングで大腸がんを患った話も登場します。宮内さんが病院での治療から離れ、「金の延べ棒療法」という民間療法に頼っていたという話とともに。こういった民間療法に頼る患者もいるんですね。

金田:民間療法のすべてを否定するつもりはありません。例えば、病院での抗がん剤治療や放射線治療と併せて自然食品を食べ、食事から体を整えて病気を治していきましょう、といった方法は、法外に高額でなければ悪いことではないでしょう。

 しかし、民間療法の中には非常に悪質なものもあります。その商品はたいてい高額ですが、経済的に余裕があるなら試すことは個人の自由です。しかし、それだけでがんが完治すると信じ込むことはどうか。また、商品を売る側が、がんが完治するかのように宣伝することは、極めて悪質な行為だと思います。

金の延べ棒でがんが治ると信じた友人

──がん治療は、今後ますます放射線治療が増えていくとお考えでしょうか。

金田:私自身は放射線治療を選択しましたが、放射線治療の「信奉者」ではありません。がんには他の治療方法もあるし、将来的には免疫療法や分子標的治療なども広がっていくでしょう。がん治療はもっと大きく変わっていくと思います。

──書籍には、金田さんの親しいご友人で、民間企業から女性能楽師になられたことでも有名な宮内美樹さんが、金田さんと同じタイミングで大腸がんを患った話も登場します。宮内さんが病院での治療から離れ、「金の延べ棒療法」という民間療法に頼っていたという話とともに。こういった民間療法に頼る患者もいるんですね。

金田:民間療法のすべてを否定するつもりはありません。例えば、病院での抗がん剤治療や放射線治療と併せて自然食品を食べ、食事から体を整えて病気を治していきましょう、といった方法は、法外に高額でなければ悪いことではないでしょう。

 しかし、民間療法の中には非常に悪質なものもあります。その商品はたいてい高額ですが、経済的に余裕があるなら試すことは個人の自由です。しかし、それだけでがんが完治すると信じ込むことはどうか。また、商品を売る側が、がんが完治するかのように宣伝することは、極めて悪質な行為だと思います。

「金の延べ棒療法」は芸能人の中にも頼っていた人が多く、有名な民間療法の一つです。金の延べ棒は非常に高額なものですが、資産だと割り切って買うならいいのかもしれません。ただ、「金の延べ棒を体にかざしたらがんが治る」ということについて、私は納得できる説明を今まで聞いたことはないし、少なくとも、その方法だけでがんを治そうとすることには賛成できません。

──効果の不確かな治療で「がんが完治する」と謳い、がんが刻々と進行している人からお金を取ることは危険な行為だと思います。このような治療法を取り締まったり、その効果を審査したりする構造にはなっていないのでしょうか。

金田:巧妙なんですよね。医療機関での治療と民間療法を併用して治癒したという事例がHPに載っていることもありますが、どの治療法で治ったのかは証明することが難しい。

 私は宮内さんから、「金の延べ棒をかざすだけでがんが治る、と言われた」と聞いていました。しかし、ホームページにはそこまではっきりと「治ります」とは明示されていないし、もし「治ると言ったのか」と問い質したとしても、「こちらはそんな言い方はしていない」と反論されるだけでしょうね。

放射線治療で最も重要なものは何か?

──金田さんはがん治療に関する調査を重ねて、米Varian社の高精度放射線治療装置にたどり着きます。なぜ金田さんはVarian社の装置を使いたいとお考えになったのでしょうか。

金田:放射線治療にしようと考えていた時、「放射線治療は機械が重要で、米国の最新鋭の機械でないと、なかなか上手くいかないらしい」という話を聞きました。それがVarian社の製造した高精度放射線治療装置でした。

 がんセンターもその装置を持っていたので、自分から「とにかく放射線でやります。家族で話し合って決めました。」と言って、強引に放射線治療にしてもらいました。

 Varian社の高精度放射線治療装置の治療は、一言で言うと、すごく安定していました。私は喉の近くと胸、胃の近くの3箇所にがんがあったので、かなり広い範囲に放射線を当てる必要がありましたが、技師の人たちが試行錯誤している感じが全くなかったので不安はなかったですね。がんセンターの放射線技師3人が1カ月間、継続して担当してくれました。

──本書の巻末で、金田さんが最初に治療を受けたものの、結局その治療の進め方に違和感を覚えて転院することになった瀬戸泰之先生(東大病院病院長)にインタビューされていることに驚きました。その中で金田さんは、ご自分が治療の過程で感じたシステムの問題に関しても触れています。

金田:瀬戸先生が最初に外科手術の詳細や回復の過程、放射線治療といった選択肢について、説明してくれなかったことが転院することになったきっかけです。そのため、その経緯をいつか先生に話さなければいけないと思っていました。そして、瀬戸先生の見解も聞いておきたかったんです。

瀬戸先生は自分のやり方にすごく自信を持っています。とにかくがんだけ、病気だけを見て最適だと思う治療方針を提示する。瀬戸先生の場合は、それが外科手術によって切除をする方法です。

 瀬戸先生は、「金田さんのように『自分で考えて選択したい』という人は少数です。多くの人は『先生にお任せします、少しでも早く手術して下さい』と言う。こちらが選択肢を提示しても、どれを選んでいいのか分からなくて、家族の意見も割れてしまう。だから、この治療方法で行きましょうと推し進めた方が患者さんのためにもいいと考えている」と話していました。私自身はそうした進め方は嫌ですが、一つの考え方として、そういうものもありなのかとは思います。

 ただ、価値観が多様化している若い世代にも通用するのか、大きな疑問を持っています。多くの方に医療について考えるきっかけとしてもらいたいので、私の体験や思いなどを語り続けていきたいと思います。(構成:添田愛沙)

ステージ3食道がん男性が、手術より生存率低い放射線治療を選んだ理由


 がんが見つかった時、患者がまず直面するのは「どの治療を選択するか」という問題だ。がんの「3大治療」といえば「手術(外科治療)」「放射線治療」「化学療法(抗がん剤)」が知られているが、なかでも第一選択肢として医師から提案されることが多いのは「手術」である。

 国立がんセンター中央病院薬物療法部医員を務めたことのある医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、肺がんについて、「初期はとにかく手術する選択が有力」としたうえで、ステージが進んだ場合、どういった手術を選ぶかも重要になると指摘する。

「肺がんのステージ4では開胸手術に比べて胸腔鏡下手術の生存率が大きく上回ります。これは、初回治療で胸腔鏡下手術が可能な患者さんは、ステージ4のなかでも相対的にがんが小さいなど状態が良い“バイアス”の可能性も考えられますが、小さな穴を開けるだけの胸腔鏡下手術は、開胸手術よりも身体への負担や合併症などのリスクが少ないということでもある。負担が少ない=回復が早いので、高齢の患者さんにも手術を行なうことができます」

 一方、肝臓がんや膵臓がんは、ステージが進むごとに腹腔鏡下手術が選ばれるケースが激減する。『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)の著書がある一石英一郎医師(国際医療福祉大学病院教授)が語る。

「肝臓は臓器のなかで最も大きく、膵臓は臓器のなかで最も奥の胃の裏側にあります。病期が進むと内視鏡で体内を見る腹腔鏡下手術では全体を俯瞰的に見るのが困難で、死角が生じやすい。より術野が広くできる開腹手術が選択されます。ただ、発見された時には進行していることの多い膵臓がんは、手術自体が“労多くして益少なし”となることも少なくありません」

 医師に「手術」を提案された時に、患者はどう対処すればいいのか。自身の食道がん闘病について記した『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社)を7月に上梓したジャーナリストの金田信一郎氏(会員誌『Voice of Souls』代表)は、ステージ3の食道がんと診断され東大病院に入院後、“逃亡”し、結局、手術を回避する道を選んだ。金田氏が言う。

「地元のクリニックでがんと言われた時は『まあ、取れるだろ』と考えていました。ところがその後調べると、食道がんの手術は肋骨を折って肺をしぼませて、ようやく手術ができるという。それなのに入院した東大病院では外科手術ありきで治療が進んでいきました。セカンドオピニオンのために転院した先の病院でも他の治療法は提案されませんでした」

 その後、金田氏は職業柄さまざまな資料を読み込み、手術だけでなく放射線治療という選択肢があることを知る。

「生存率では放射線治療のほうが低いことはわかっていましたが、術後の生活のことを考え手術回避を選びました。仮に手術に成功しても、食道という臓器を失って普通の食事ができなくなる。放射線なら、治療が成功すれば何事もなかったかのように生活できます。この10年で放射線治療の技術がかなり向上していること、入院先の国立がんセンターが食道がんの放射線治療で多くの実績があることを知り、土壇場で手術を止めることにしました」(金田氏)

 医師らが手術を勧めるなかで、なぜ自ら「放射線治療」を選ぶことができたのか。

「生き残るだけなら手術のほうが確率は高いかもしれない。でも、調べるうちに手術後の自分の姿が見えたことが大きかった。生活が激変してこれまでの仕事が続けられなくなるなら、リスクがあっても放射線にしようと思ったんです。

 ただ、外科の医師から放射線治療について提案されることは“お手上げ”でない限りありえない。結局、自ら専門家に聞いて回ったことで、やっと決断することができました」(金田氏)

 日本人の2人に1人が罹患するがん。医師との信頼関係を築きつつも自ら冷静な判断を下すことが、がん闘病の成否を分けるのかもしれない。

がんのリハビリテーションとは?…治療前から末期の緩和まで、患者の生活の質を保つ


がんのサポーティブケア 辻哲也・慶応大学リハビリテーション医学教授に聞く
がん患者の闘病を支える「がんの支持療法」について専門家に聞く「がんのサポーティブケア」の第10回は、「がんのリハビリテーション」がテーマです。手術の前から始まるリハビリテーションは、治療中や治療後の患者の生活の質をより良く保つのに役立ちます。

診療ガイドラインづくりに携わり、日本がんサポーティブケア学会がんリハビリテーション部会長も務める慶応大学リハビリテーション医学教授の辻哲也さんに聞きました。(聞き手・田村良彦)

2010年の診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が新設
――手術後のリハビリなど従来個別には行われていたと思うのですが、「がんのリハビリテーション」という体系的な考え方はいつ頃から生まれたのでしょうか。

 私自身ががんのリハビリテーションに本格的に取り組むようになったのは、2002年に開院した静岡県立静岡がんセンターのリハビリテーション科部長として赴任したのがきっかけです。これが国内の先駆けで、当時はまだ、がんのリハビリテーションは一般的なものではありませんでした。

 普及の後押しになったのは、06年のがん対策基本法の成立です。がん患者の療養生活の質の維持向上が、基本的施策の柱の一つとして盛り込まれました。リハビリや緩和医療の取り組みを進め、がん患者の身体、精神面をサポートしていこうという国としての方向性が示されました。

――普及に向けてどんな取り組みが行われたのでしょうか。

 まず人材を養成することが重要であるとして、07年から、厚生労働省の委託事業として、「がんのリハビリテーション研修」がスタートしました。そのうえで、10年の診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が新設され、研修を受けていることが算定要件の一つとされたことが、普及に大きく役立ったと考えています。

 リハビリに関わる医師やセラピストら約4万人以上が、この10年間ほどで研修を受けました。現在では、がん診療連携拠点病院の約9割で、入院中のがん患者に対するリハビリが行われています。

すべてのがん種が保険適用に
――どんながんや症状がリハビリの対象になるのでしょうか。

 基本的にはすべてです。

 がんの時期の違いによる分類としては、「予防的」「回復的」「維持的」「緩和的」の4段階があります。「予防的」は治療前の段階、「回復的」は治療中や手術後に起きる問題に対して、「維持的」は進行中のがんや再発したがんに対する治療中の患者さんに対して、「緩和的」は根治を目的とした治療の段階を過ぎた患者さんに対するものです。それぞれの時期ごとに、リハビリの目的は異なります。

――がんの種類別ではどうですか。

 10年にがんリハビリの診療報酬が新設された時点では、泌尿器科系、婦人科系の手術前後のリハビリは、保険適用から外れていました。しかし、20年の改定で、がんの種類に関係なく、保険適用になりました。在宅復帰を目的とした緩和的なリハビリも対象になりました。

保険適用は入院患者のみ 外来や在宅への適用拡大が課題
――すべてのがん種で保険が適用されるようになったのですね。

 ただし、問題なのは、現状では保険適用の対象が入院中の患者に限られていることです。

 近年では手術での入院期間が非常に短くなりました。退院する時点では術前の体力が戻っていないことが多く、退院後も体を動かし続けることがその後の生活の維持に極めて重要です。

 抗がん剤治療も通院で行うことが増えました。治療中から適切な運動、栄養療法を行うことが大切になります。通院や在宅でも保険でリハビリを受けられるようになることが、これからの課題だと考えています。

――リハビリというと、脳梗塞(こうそく)後のまひや整形外科的な治療後のイメージが強いのですが、がんのリハビリにはどんな特徴がありますか。

 がんの種類や治療の内容、病期によって異なります。たとえば、肺がんや食道がんの手術では、術後に肺炎を起こす恐れがあります。そこで、術前から呼吸リハビリを行ったり、栄養や運動で体力を保ったりすることで、合併症の発生を抑えるように努めます。こういったリハビリは、術前リハビリや治療前リハビリと呼ばれます。

進行がんでも体力の維持に1日30分の有酸素運動を
――手術後のリハビリにはどんなものがありますか。

 たとえば脳や脊髄の手術ではまひを伴うことがありますし、頭頸(とうけい)部のがんではのみ込みや発声の訓練が必要になります。乳がんや婦人科のがんではリンパ浮腫を引き起こしやすいですし、骨肉腫で手足の切断を行えば義手や義足の訓練も必要です。このように、がんの種類や治療によって、特異的なリハビリが行われます。

 一方、「維持的」「緩和的」なリハビリは、がん種による大きな違いはありません。がんが転移した状態で見つかっても、その時点では元気な方が多いのですが、次第にがんの悪液質といって栄養状態が悪化していきます。それを防ぐためにも、しっかり栄養をとるとともに運動をすることが重要です。

――進行がんの状態での運動療法は、具体的にどんなことをやるのですか。

 たとえば、抗がん剤治療中には、副作用のために活動量が減り、倦怠(けんたい)感が生じやすく、気分も落ち込みがちになります。有酸素運動と筋トレを組み合わせて体をしっかり動かしていくことで、それらの症状の改善が期待できます。

 「走る」「速足で歩く」「泳ぐ」「自転車をこぐ」とか、個人の体力に応じて「楽である」から「ややきつい」程度の運動がお勧めです。有酸素運動は、1週間に計150分(30分×5日とか)が目安です。

 筋トレは、筋肉にダメージが残らないように1日おきに週3回程度がよいです。個人の体力によって、重いものを持つ運動でもスクワットでもかまいません。

 ただし、がんの病状や治療内容は患者さんごとに違いますので、運動メニューについては担当医と相談して決めてください。がんばりすぎず、少し物足りないくらいから始めるのが継続するコツです。最初は毎日の近所の散歩から、でもいいです。

がんサバイバー 運動と栄養に留意して適切な体重維持を
――治療が一段落した「がんサバイバー」にとっても、運動は必要ですか。

 とても大事です。サバイバーの活動性の違いによる予後などを調べた研究はたくさんあって、活動性の高いサバイバーのほうが、がんによって亡くなる割合は少ないとの研究結果が出ています。体重を適正に維持すること、活動的な生活習慣、健康的な食生活は、がんサバイバーの予後にとってとても重要です。

 運動療法の有用性を調べる臨床試験は近年多く行われるようになりました。患者にとって害は少なく、生活の質を向上させる利益は大きいことから、診療ガイドラインでも推奨されています。

手探りだった静岡がんセンター時代
――辻先生ご自身が、がんのリハビリテーションに取り組むようになった理由を教えていただけますか。

 先にも述べましたが、静岡県立静岡がんセンターが開院した時にリハビリテーション科の責任者として赴任したのがきっかけです。「患者さんの視点の重視」を理念に掲げた新しいがんセンターとしてリハビリテーション科を作るのにあたって、同センター総長の山口建先生と慶応大学の同期だった木村彰男先生にお話があったと聞いています。私自身にとっては、いわゆる「医局人事」での異動で、がんに特化したリハビリテーションについては未経験でした。

――そうだったのですか。

 当時、がん専門病院に独立したリハビリテーション科をおくこと自体、例がないことでした。日本の教科書はなかったので、アメリカなど海外の教科書を参考にしたのですが、実際の診療経験はなかったので、手探りの毎日でした。

――何もなかったところから作り上げるのですから、ご苦労も多かったのでは。

 スタッフみんなが、初めての経験でしたし、最初の頃は、大言壮語のところもありました(笑)。ただ、初めての取り組みだからこそ、いい結果を出さないと、他の診療科に認めてもらえないという緊張感もありました。試行錯誤する中でも成果を出さなければという気持ちが強かったです。

 そこで積み重ねた経験を基に、がん医療におけるリハビリの重要性を発信し、研修内容を作り上げていったことが、現在につながっています。

各診療科と連携した取り組み
――3年後に大学へ戻られてからも、引き続きがんリハビリの取り組みを。

 各診療科のカンファレンスにお邪魔して、プレゼンしてという取り組みを続けながら、一つ一つ診療科の理解を得ていきました。現在では、診療科が連携して患者さんをみるというチーム医療が、すっかり定着してきたと思います。

――そういった取り組みのなかで、印象に残っている患者さんとのエピソードがあれば教えてほしいのですが。

 20代の大学院生で、進行した病期の乳がんの患者さんがいらっしゃいました。脳転移のために言葉を発するのも大変な状態だったにもかかわらず、プレゼンを頑張るなど最後まで研究を続け、チームの一員として論文に名前を残すことができました。最後まで、運動を続けて何とか体調を保とうと頑張っていたことをよく覚えています。

 患者さん一人一人から、本当に多くのことを学ばせていただいています。その経験をこれから先の診療や研究に生かしていかなければと、日々考えています。

2013年 初の診療ガイドラインを作成
――2013年には、がんリハビリテーションの初めての診療ガイドラインも作成されています。

 13年の時には、そもそもガイドラインってどうやって作るのかというところから始めたわけですが、19年に改訂版を作るにあたっては、患者団体の代表の方にも参加していただき、治療を受ける立場である患者側からのご意見も取り入れて作成することができました。

――普及のうえでは、保険適用になったことがやはり大きかったでしょうか。

 はい。10年に保険適用になったことは大きなインパクトがありました。20年の改定で、がんの種類に関係なく受けられるようになったことも、大きいと思います。

――改めて、今後の課題は何ですか。

 外来でのリハビリと、在宅でのリハビリを、どう組み合わせていくかが重要です。高齢のがん患者をどうサポートするかは、がんのリハビリテーションにおいて、重要な課題です。高齢患者の場合は主に介護保険での訪問リハビリや通所リハビリの対象になるのですが、リスク管理をしながら、効果的に続けていくためには、医師の指導の下での外来でのリハビリと組み合わせながら行うことが大事です。とくに治療中の場合には、医療保険でカバーしながらみるべきだと思います。

――最後に、がん患者がリハビリテーションを受けるにはどうしたらよいか、メッセージをお願いします。

 がんの診療連携拠点病院にかかっていらっしゃる患者さんでしたら、患者相談窓口に相談していただくのがいいと思います。それ以外でしたら、国立がん研究センターの患者相談窓口とか、静岡がんセンターの「よろず相談」などを利用していただくのもよいかと思います。

辻哲也(つじ・てつや)氏
1990年、慶応大学医学部卒業。同大学助手、英国ロンドン大学付属神経研究所リサーチフェローを経て、2002年5月、静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科部長。05年、慶応大学医学部リハビリテーション医学教室専任講師、同准教授を経て、20年8月から現職。

喫煙や飲酒だけじゃない! 生活習慣に潜むがんのリスク【生活習慣の改善でがんを予防する方法】


日本人の2人に1人はがんになるといわれている今、がんは誰にでも起こりうる病気です。

しかし、ただがんの発生におびえながら暮らすのは、一度しかない人生を送る上で得策とはいえません。がんはこれまでの研究から喫煙や飲酒、生活習慣に関わることも多く、健康的な生活を送ることである程度予防できることがわかっています。

そこで、がんを予防する健康習慣について、国立健康・栄養研究所長(元:国立がん研究センターがん予防・検診研究センター長)である津金昌一郎医師にお話を伺いました。

あなたの生活習慣はがん発生のリスクを上げていますか、下げていますか?

がんを予防する5つの健康習慣
「がんの予防法は、これさえしていればいいというものはありません。しかし、『非喫煙』『節酒』『塩蔵品を控える』『適正な身体活動』『適正なBMI値』という『5つの健康習慣』の各項目を1つ実践するごとに、がんのリスクを下げることができます。

例えば、65歳で10年間にがんを発症するリスクは23%ですが、5つの健康習慣をすべて実践すれば、10%ほどに、つまり、5つの生活習慣を何もしない人に比べて半分まで、発症リスクを下げることができるのです。

国立がん研究センター は、今後10年にがんに罹るリスクをウェブで自己チェックできる健診ツール「5つの健康習慣によるがんリスクチェック」を公開しています。

がんとの関係が深い健康習慣について質問に答えると、今後10年でがんにかかる危険度がわかります。また、こちらのページを見ていただくと、リスクチェックの項目がいくつ該当するかで、10年後のがんの疾患確率を知ることができます。あなたの生活習慣によるがんのリスクをチェックしてみてください」

生活習慣を改善すれば、がんのリスクが下げられるというのは朗報ですね。では、具体的にどんなことに注意していけばよいのか、見ていきましょう。

タバコはがんのリスクを高める!受動喫煙にも注意
「タバコは肺がんをはじめとして、口腔がん、咽頭がん、食道がん、胃がん、肝臓がんなど、ほぼ全てのがんの原因となる発がん性物質です。

タバコを吸わない男性を1とした場合、タバコを吸う男性のがん死亡リスクは、肺がんで5倍程度、咽頭がんで3倍程度、腎盂・膀胱がんで5倍程度、食道がんで3倍程度となり、明らかにがんで死亡する率が高いという結果になっています(※1)。

喫煙期間が長く、喫煙量が多い人ほど、がんリスクは確実に高まります。さらに、タバコは循環器系、脳血管系、呼吸器疾患、糖尿病なとのリスクも高めますので、喫煙はデメリットが多い習慣といえます。禁煙をすることで、がん発症リスクやその他の病気にかかるリスクを減らすことができます。

また、喫煙による害は、喫煙者本人だけに及ぶものではありません。喫煙者のタバコの煙や副流煙を周囲にいる人が吸う『受動喫煙』でも、受動喫煙をしない人に比べ、肺がんのリスクは1.3倍にも高まります。周囲の人のためにもタバコをやめる努力をしたほうがよいでしょう」

たばこが強力な発がん性物質であることは間違いありません。喫煙者本人だけでなく、家族など周囲の人のがん発生リスクを上げてしまうのは考えものですね。

飲酒は日本酒でいえば1週間で7合を目安に
「飲酒は口腔がん、咽頭がん、食道がん、肝臓がんなどのリスクを高めるだけでなく、脳出血のリスクも高めます。

国立がん研究センターが40~59歳の男女、7万3000人を9~12年追跡して、飲酒量とがん罹患リスクの関係を調べた調査 では、うち3500人が罹患し、男性については次のような結果が得られました(女性は飲酒者が少なく、明確な傾向が認められませんでした)(※2)。

飲酒量が1日あたり2合未満の人は、ときどき飲む人に比べて発がん率は1.17倍、2合以上3号未満の人は1.43倍、3合以上飲む人は1.61 倍に高まりました。さらに、喫煙者が飲酒をすると、1日2合以上飲む人は1.93倍、3合以上飲む人は2.32倍もリスクが高まります。

とはいえ、飲酒が完全に悪いというわけではありません。適度な量を楽しむ分には大きな問題はありません。適度な量とは、日本酒で1日あたり1合、週に7合程度です。

1日1合とは、焼酎(25度)で0.6合、ビール瓶大1本、ワイングラス2杯、ウイスキーのダブル1杯に相当します。毎日1合で物足りないという場合は、もっと飲んでも大丈夫です。その代わり、休肝日を設けて1週間で7合の帳尻を合わせればいいのです」

飲酒は適度な量を飲む分には大きな問題はないそうです。1週間単位で飲む量を調節して、ほどほどにお酒を楽しみましょう。

出典 ※1 Ktanoda K, et al. J Epidemiol.2008;18:251-64.
出典 ※2 Inoue M, et al. Br J Cancer 2005;92:182-87.

お話を伺ったのは……

津金昌一郎先生
医薬基盤・健康・栄養研究所 理事兼国立健康・栄養研究所 所長

1981年、慶応義塾大学医学部を卒業後、同大学医学研究科にて公衆衛生学を専攻。同大学医学部助手を経て、86年に国立がんセンター(現・国立がん研究センター)に入所。研究所室長、臨床疫学研究部長、がん予防・検診研究センター(2016年より社会と健康研究センター)予防研究部長を経て、2013年にセンター長に就任。2020年に国立健康・栄養研究所所長を併任し、2021年より現在に至る。

主な受賞歴に朝日がん大賞、高松宮妃癌研究基金学術賞、日本医師会医学賞など。主な著書に『がんになる人ならない人』『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』などがある。医師のインタビュー記事は、株式会社おいしい健康が運営するメディア「先生からあなたへ」でもご覧いただけます。

末期がん患者と医師が“理想の最期”を語り合う「人生会議」に密着


 新型コロナによって、日本の医療現場が大きな影響を受けている。終末期のがん患者を受け入れる緩和ケア病棟が、新型コロナ病棟に転用され、行き場を失った患者も少なくない。そこで、いま注目されているのが「在宅医療」だ。

『週刊ポストGOLD 理想の最期』では、ジャーナリスト・岩澤倫彦氏が最期まで自宅で過ごす患者と家族、それを支える医療者の現場をレポートしている。

「おじいちゃん私だよ! 元気にしている?」── タブレットの画面から呼びかける孫娘に、男性患者は右手を少しだけ上げて応えた。その顔には戸惑いと嬉しさが入り混じる。

 進行がんの悪化で男性が入院した病棟は、新型コロナの感染防止のために面会謝絶だった。今回、病院の配慮でタブレット越しに家族と会うことができたが、やはり直接面会するのとは違う。

 新型コロナ禍になって以降、がん終末期の患者が家族や親しい知人と面会できず、病院で孤独に人生の終わりを迎えている。

 去年、日本人の死因トップは、「がん」で約37万8000人。2位は「心疾患」約20万人、3位「老衰」約13万人と続く。一方、新型コロナによる死亡は3466人だ。

 新型コロナ以降、入院中の面会謝絶が原因で、在宅医療を選ぶ人が増えている。

自宅でなら「食べられる」

“食止め(しょくどめ)”という医療者が使っている言葉がある。患者の食事を中止する措置のことだ。 福島県いわき市で、在宅療養の患者を訪問している岩井淳一医師(山内クリニック)は、こう語る。

「病院では、進行がんの患者などが吐血した場合、“食止め”して点滴に切り替えるのがセオリーです。しかし、在宅医療では本人が希望すれば、リスクを納得してもらった上で食事を継続することもあります。好きなものを食べることは喜びになり、元気につながる。甘いものが好きならアイスクリームでもいいんです」

 岩井医師の専門は救急医療で、現在も週2回、いわき市の救命救急センターでの勤務を続けている。その2つの
異なる分野を経験したことで、治療後の患者のことを考えるようになったという。

「高齢者の末期がんで在宅療養を選ぶ人が増えていますが、急変すると家族が動転して救急搬送されるケースが度々あります。その時は、救命できても、元の元気な身体に戻ることはまずありません。

 また、患者が食事をとれなくなると、家族が点滴を希望することが多いです。しかし、食事を受け付けないのは老衰と考えるべき。無理に点滴をすると、むくみや痰を引き起こして、かえって患者は苦しくなります」

 そこで、岩井医師が勤務するクリニックでは、訪問診療を開始する前に、患者と家族、ケアマネジャーを交えて「人生会議」をしている。これは、患者自身が意思表示できなくなった時を想定して、「死に方」を家族や医師を交えて話し合い、共有するものだ。人生会議の一部始終を取材した。

膵臓がん「午後の紅茶」で早期発見!画像ハッキリと


 発見が難しい膵臓(すいぞう)がんに光明です。「午後の紅茶ミルクティー」が早期発見の突破口になるかもしれません。

 ある飲み物が、がんの早期発見に役立つと今、脚光を浴びています。それは“午後ティー”の愛称で親しまれている「午後の紅茶ミルクティー」。膵臓がんが見つかった患者のうち、約7割が早期発見に至ったというのです。

 元大阪国際がんセンター副院長・片山和宏さん:「『午後の紅茶(ミルクティー)』の配分が、この検査に適している可能性はあります。胃の中にミルクティーを入れるとほぼ90%見られるようになります」

 膵臓を撮影した画像。左側は通常の超音波検査、右側が“午後ティーミルク”を飲んだ後の画像です。両方を比較してみると、確かに午後ティーミルクを飲んだ右側の膵臓の方がはっきりと写っていることが分かります。

 膵臓は体の奥の胃の後ろ側にあり、約半分しか見えないため、がんの発見が非常に難しく「暗黒の臓器」とも呼ばれています。

 水分が超音波を通すことに着目した片山医師は…。

 元大阪国際がんセンター副院長・片山和宏さん:「超音波の検査の時に水分としてはミルクティーが非常に良かったと。非常に膵臓がよく見えるので『膵臓がん』早期発見にすごく有力です」

 胃の中に何を入れれば膵臓がよく見えるのか。約10年にわたって膵臓の超音波検査の研究を行ってきた片山医師によりますと、飲み物の中で最適だったのが午後の紅茶ミルクティーだったというのです。

 なぜレモンティーではなくミルクティーなのでしょうか…。

 片山医師によりますと、レモンティーだと胃酸と反応して見えにくいというのです。また、炭酸飲料では細かな泡が邪魔をするというのです。ミルクティーは適度な濁り具合が程よく、超音波を通すのだといいます。

 元大阪国際がんセンター副院長・片山和宏さん:「ちょっとした工夫で非常に大きな成果を出せるというのは、やりがいがあるというか医者冥利(みょうり)といいますか、そういうのに尽きる」

 片山医師によりますと、検査に使うミルクティーは患者本人に買ってきてもらって、ほとんどの人が喜んで検査を受けているといいます。

 膵臓がん早期発見の救世主と期待される午後の紅茶ミルクティー。販売メーカーのキリンホールディングスは…。

 キリンホールディングス:「このような形で『午後の紅茶ミルクティー』が話題になったことには驚いている。ただし、当社としてはこのような活用法を想定して作った商品ではないため、一般的な飲用方法以外での活用は医師の判断を仰いでほしい」

体重が減るのは「がん」のサインって、本当ですか? 医師に聞く、体重減少と病気の関係


何もしていないのに体重が減るのはがんなどの病気の症状か
メタボリックシンドロームという言葉も一般的になり、男女を問わず、健康診断の結果を気にされる方は多いと思います。メタボ対策の中でも、適性体重の維持はやはり大切。移動手段も便利で運動不足気味になる方も多い飽食の時代、どうしても体重がオーバーしてしまいがちなのは、現代人共通の悩みかもしれません。
一方で、「特に気を付けているわけでもないのに体重が減っていく」「食事や運動量も変わっていないはずなのに、周囲に痩せたと言われる」といった場合は、喜んでばかりもいられません。急な体重減少の陰には、何らかの病気が潜んでいる恐れがあるからです。原因不明の体重減少が起こっている時の注意点について解説します。

体重減少は病気が原因で起こることも
生活習慣病予防に大切な「体重コントロール」。しかし、不可思議な体重減少は、がん診療の立場から申し上げると注意が必要です。実際に、医師である私自身が医学部の学生実習で何度も教えられたのは、「がん患者さんの問診では、体重変化をよく聞くように」ということでした。
病気によって体重が減ってしまうのは何故なのか、まずは体重減少とカロリーの関係から説明していきましょう。体重減少のメカニズムは、3つの「カロリー」について考えるとよくわかります。

基礎代謝量とは? 体重が減る理由の理解に必要な「3つのカロリー」
体重を減らすためには、「食べる」カロリーを減らして、「運動」カロリーを消費する。これは誰もが知っているダイエットの鉄則でしょう。確かに、食べてばかりで動かない生活が体重オーバーの原因になることを身をもって体験されている方も多いのではないでしょうか。
そしてこの2つのカロリーの他に、もう1つ体重に関与するカロリーがあります。これが「基礎代謝量」というもので、いうなれば「じっとしていても消費されるカロリー」のことです。

食物で摂取するカロリーよりも、運動で消費するカロリーと基礎代謝で消費されるカロリーの和の方が少なければ、カロリー過剰な状態になり、体重はどんどん増加していくのです。脂肪は、カロリーを最も効率的に蓄えることができるので、内臓脂肪も皮下脂肪もついていくわけです。

つまり、体重減少が起こるということは、摂取するカロリーよりも運動で消費するカロリーと基礎代謝のカロリーの和の方が大きく、1日のカロリーの差し引きがマイナスになる状態が続いているということ。食事の量を減らしたり、運動量を増やした覚えがないのに、体重が減少している場合には、注意が必要です。

がんなどの病気で体重が減る理由
前述した体重とカロリーの関係をもとに、がん診療の立場から体重減少の危険性について考えてみます。身に覚えのない体重減少から考えられるリスクは下記の2点です。
■食べているつもりでも摂取カロリーは少なくなっている

自分ではしっかり食べているつもりでも、痛みや消化器の不調により実際の摂取カロリーが減少している恐れがあります。

消化器系のがんの場合には、みぞおちの痛みや下痢などの消化器症状で、知らず知らずのうちに食事量が減っていることがあり、そのような場合には当然、体重が減少していくのです。

■じっとしていても消費カロリーが増えている

考えられるのは、がん細胞の性質によるもの。がん細胞の存在は、基礎代謝として消費するエネルギーの量を増大させます。がん細胞は、正常の細胞よりも増殖・成長のスピードが速いケースが多いです。すなわち、がん細胞が体内に存在する場合には、それだけ多くのカロリーを、じっとしていても消費していくということになります。

肝臓や肺など、かなり大きくなっても臨床的な症状がでないケースでは、明らかな体重減少を契機に色々と調べてみることで見つかる場合もあります。この場合の体重減少とは、通常は数カ月で10~15%の体重減少を指します。

もちろん、甲状腺機能亢進症のように悪性疾患以外でも基礎代謝量が増大するケースもありますし、疾患とは全く関係のない場合もあります。心配しすぎる必要はありませんが、不可思議な体重減少が認められる場合には、念のため、医療機関を受診しておくのが良いでしょう。

▼狭間 研至プロフィール大阪大学医学部卒。日本外科学会 認定登録医。大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院などで外科・呼吸器外科診療に従事した後、現在は地域医療の現場で医師として診療を行う。ファルメディコ株式会社 代表取締役社長。医療法人嘉健会思温病院理事長。外科医、地域医療、薬局運営の豊富な経験から、医療と患者さんの橋渡しとなる分かりやすい医学情報発信を行っている。

あの商品にも発ガン性物質? 買ってはいけないアレやコレ…あらためて復習が必要かも


商品のラベルを読むのが好きだ。幼い頃、本ばかり読んでいた私を心配した母が私から本を取り上げたところ、ジャムのラベルをずっと読んでいたと聞かされたが、不惑をとうに過ぎたいま、手元に本があってもラベルは必ず読む。

活字中毒のためではなく、何が入っているかわからない商品をつかまされないためである。

食品偽装や原発事故で、国も企業も消費者のほうを向いていないことが露呈した昨今、私にとってはラベルを読まずに買い物することはロシアンルーレットと同義語だ。

 『体を壊す13の医薬品・生活用品・化粧品』(渡辺雄二/幻冬舎)は、「買ってはいけない」シリーズ(金曜日)共著者の科学ジャーナリストによる、警鐘の書。全成分表示に切り替わったおかげで、かえって指定成分が見過ごされやすくなってしまった今日、あらためて発がん性が懸念される化学物質への注意を促している。

たとえば、歯磨き粉に含まれるサッカリン、入浴剤に含まれるタール色素など。厚生労働省がアメリカからの圧力に屈して認可してしまった発がん性物質もある。人工甘味料のアスパルテームなどがこれに当たる。

 コラーゲンに関する章など、危険性に関しては甘味料と重複していて取り上げる必要はなかったのではと思われる箇所もあり、風邪薬・湿布役・止瀉薬など「説明書を読まない消費者にも問題があるのでは…」と思える箇所もあるが、それ以外は非常に参考になる。

私は添加物を気にしていたほうだったのに、それでも気に入っていたシャンプーに界面活性剤が入っていたことを改めて知り、Amazonの定期購入を取りやめた。もしも添加物についてまったく危険性を感じていない人がいれば、即本書を購入し、買い物用バッグにいつも入れておくのがいい。

 添加物は人体にとって有害かもしれないが、害を押さえるべく微量にしてある、との反論もよく耳にする。

しかし、食品や日用品の添加物が怖いのは、長期にわたる使用や複合的使用についてのリスクが、実験では不明な点だ。著者が懸念する通り、国と企業が消費者を使って長期にわたる人体実験をしている可能性が、100%ないとはいえないのだ。

西郷輝彦 最先端がん治療中のシドニーから生出演「私のがんが消えた、この目で見たんです」


 日本では未承認のがんの最先端治療を受けるため4月末にオーストラリア・シドニーに渡航し、治療を続けている俳優の西郷輝彦(74)が22日、日本テレビ「24時間テレビ44」に滞在先のシドニーからリモート出演した。

 番組には、昨年フジテレビ「竜の道 二つの顔の復讐者」で共演した、俳優の遠藤憲一(60)が両国国技館に登場。遠藤はわずかな共演ながらも西郷の姿に感銘を受けたといい、西郷が自ら編集し、配信をするYouTubeも見守っているという。

 西郷は妻の明子さんとともにリモート出演。「おはようございます。(体調は)元気ですよ、この通り。(編集も)好きだからね、全然苦にならなくて」と元気な姿を見せた。

 遠藤はそんな西郷に手紙に「(YouTubeで)闘病生活を映しているのに、まるで楽しんでいるかのようにまたまた驚かされました。人間は心の持ちようで苦しみすら楽しみに変えていく力があるんだと、本当に感動しました。しかし、YouTubeの映像だけではわからない大変なこともいっぱいあると思います。西郷さん、頑張ってください。そして、またいつか、共演しましょう。その日を楽しみに待っていますから」などとしたためた。

 西郷はこの手紙に目を潤ませ、「ありがとう!うれしいです」と感激。遠藤にも「ぜひよろしく。共演したいですね」と声をかけた。最後は「いいこともたくさんあったりしまして、私のがんが消えた、この目で見たんです。消えたんです。これとぜひ、次のYouTubeでご覧いただきたい。奇跡が起こります」と力強くメッセージ。その姿に国技館のメンバーは感心しきりだった。

 西郷は診断されたのは去勢抵抗性前立腺がんで、進行度はステージ4。昨秋に受けたがん健診で、PSA(前立腺特異抗原)というタンパク質の数値が上がっていたため発覚した。西郷は11年に前立腺がんを患い、手術を受けて患部を摘出。17年に再発した際は、放射線と抗がん剤による治療を受けた。主治医と相談し、現在の日本では未承認の治療をシドニーで受けることを決め、4月末にオーストラリア・シドニーに渡航した。渡航と同時に、自身のYouTubeチャンネルを開設し、治療の様子などをアップしている。

 遠藤からの西郷への手紙全文は以下の通り。

「西郷輝彦さんへ。

昨年、コロナ禍の中、初めてドラマで共演させていただきました。

共演時間はほぼ半日ぐらいだったと思います。その短い出会いをきっかけに、西郷さんの言葉と行動から、私の心に希望と力を与えてもらっています。

そんな西郷さんがオーストラリアでステージ4の前立腺がんと戦っていることを知り、驚きました。そして、現在の西郷さんをドキドキしながらYouTubeで拝見しました。なんと闘病生活を映しているのに、まるで楽しんでいるかのようにまたまた驚かされました。人間は心の持ちようで苦しみすら楽しみに変えていく力があるんだと、本当に感動しました。

しかし、YouTubeの映像だけではわからない大変なこともいっぱいあると思います。西郷さん、頑張ってください。そして、またいつか、共演しましょう。その日を楽しみに待っていますから」

がん治療での日本と世界の乖離 日本で「手術」が多く「放射線治療」が少ない背景


国民皆保険という制度により、誰もが平等に、安心して医療を受けられる日本。しかし、その裏で、世界の常識と日本の常識がかけ離れている一面もある。特に、がん治療においては、日本だけが手術の数が圧倒的に多いという不可解な現状があるという──。

 日本人の半数以上が一生に一度は経験するという、がん。家族が患うことも考えれば、もはや、まったくかかわりのない人はいないといっていいだろう。しかし、ひと昔前は“不治の病”といわれていたが、現代では医療の進歩によって通常の生活を取り戻す人もかなり増えてきている。がんに罹患することと、それを治療することは切っても切り離せず、治療法の選択によっては、その後の人生に悔いを残すこともあるようだ。

 千葉県に住む主婦の飯田文子さん(65才・仮名)は、15年前に受けた子宮頸がんの手術について、「いまでも心に引っかかるものがある」と明かす。

「早期の子宮頸がんだとわかり、担当医師からは手術を提案されました。自分なりに調べたところ、放射線治療の方が副作用が少なく、体への負担も軽いと知ったのですが、医師は一方的に治療法を決め、母と夫までもがそろって『放射線治療は危ない』と、原爆の後遺症の恐ろしさを持ち出して頭ごなしに猛反対されました。

 外科手術を受け、その後も元気に暮らしているので結果的によかったですが、患者本人である私の話を誰も聞いてくれなかったことへのショックがいまも残っています」

 もちろん、命が助かること以上の望みはない。しかし、日本では手術が一般的であるのに対し、欧米では早期の子宮頸がんの8割が放射線や抗がん剤による治療だ。年齢や体力、その後の生活を考えたとき、外科手術がつねにベストなのか考慮し、ほかの治療法を検討するのはごく自然なことといえる。

「生存率が下がっても手術は避けたい」の声

 日本では“外科手術至上主義”ともいうべき現状がある。それを示すこんな調査がある。先進国における肺がん(ステージI)の患者が受けた治療を調査したものだ。その数字を目で追うと、不思議なことに気づく。アメリカでは手術が60%に対し放射線治療が25%。イギリスでは手術が53%、放射線が12%。オランダでは手術が47%、放射線が41%などとなっているのに比べ、日本では手術が95%、放射線治療は5%と、出術の割合が大きいのだ。

 諸外国と日本の差について、大船中央病院放射線治療センター長で医師の武田篤也さんが言う。

「それぞれの国で行われている治療法の違いには、各国の健康保険制度の有無や国策なども関係しているのではないかと推測できます。日本における手術の割合がここまで多いのは、唯一の被爆国として知らず知らずのうちに植えつけられた放射線に対する抵抗感が関係しているのかもしれません」

さらに、武田さんは医師の専門分野ごとの気質の差も一因ではないかとし、こう説明を続ける。

「あくまで肌感覚ですが、同じ医師でも外科医、内科医、放射線治療医では性格が違う。すなわち、外科医は体育会系で元気がいいタイプ。内科医は頭がよくて明晰な人が多い。それに対して放射線治療医は、よく言えば患者に寄り添うタイプ、悪く言えば優柔不断な人が多いように思える。それは学会のあり方にも表れており、外科や内科の学会は全国の治療成績を公表しているが、放射線治療科ではそれを行っていません」

 がんが発見され、さまざまな検査を経て病気のステージングを決定するまでは、患者の対応は主に内科医の仕事となる。そこで、手術が最善の治療であると判断されれば、患者は放射線治療医に話を聞く機会すら与えられないことも多いという。

 たとえば、スポーツマン風の外科医に爽やかな笑顔で「切っちゃいましょう」と言われ、そのまま従ってしまう患者もいるだろう。一方、放射線治療医があまりアピールが得意でない場合は、患者に説明する機会が与えられないという可能性もある。あるいは、患者自身が「手術が根治治療、放射線は緩和治療」と考えているケースもある。海外では手術と放射線治療が同等レベルの選択肢として存在しているのに、日本では必ずしもそうではないのかもしれない。

手術の負担の大きさを嫌う人は多い

 とはいえ、放射線治療のメリットは小さくない。先の各国調査でいう「放射線治療」とは、「体幹部定位放射線治療」という治療法を指している。これはピンポイントでがんの部位だけを焼くような手法のことだ。前出の調査の対象となった肺がんに限らず、肝臓がんや前立腺がんなどでも行われ、保険適用である。メスを入れて体の組織を切除するわけではないため、体への負担が少なく、入院も不要なことが多い。

「仕事までの復帰期間も異なります。早期肺がんの体幹部定位放射線治療であれば通院で5回、1回30分程度なので5日ほど会社を半休するくらい。手術の場合はオペ自体が3時間ほど、入院期間は1週間ほど。自宅静養も含めると1か月ほど仕事を休むことになります」(武田さん)

 仕事への支障がここまで減らせるなら、手術は避けたいと考えるのも普通だろう。

「私たちが手術と放射線治療の両方を受けたことがある人を対象に『どちらの治療を受けたいか』とアンケートを行ったところ、生存率が同等ならばほとんどの人が放射線治療を受けたいと回答しました。80才以上にいたっては、『生存率が20%低下したとしても放射線治療を選ぶ』と答えた人が半数を軽く超えており、手術による負担が患者にとっていかに大きいかを考えさせられます」(武田さん)

 患者の本音に耳を傾ければ、こんなにも多くの人が手術を避けたがっていることがわかる。それなのに、これほどまで多くの日本人が手術を受けることを余儀なくされるのはなぜだろうか。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんはこんな見立てをする。

「日本ではいまも外科医が強いという土壌がある。それはがん治療においても同様で、近年でこそ腫瘍内科という専門科ができましたが、歴史的に見れば外科医が抗がん剤治療をしていたくらいです。ですが、最近の医療技術の発達は目を見張るものがあり、薬物療法、放射線や重粒子線など、外科医が片手間でできなくなってきています」

 日本以外の先進国では、「放射線治療は危険」といった意識はなく、むしろ放射線治療に舵が切られ始めている。その理由を室井さんはこう説明する。

「手術は執刀医だけで行えるものではなく、手術の補助、熟練の麻酔医や看護師も必須。手術後のリハビリも必要で、いろいろ人手がかかりコストもかかる。その点において放射線は体を切らない分、人件費を絞りやすい。

 海外では国民皆保険の国は少なく、日本ほど医療費をかけられず、そもそもの手術費用も日本より高い。手術での治療をしたくても日本ほど気軽に受けられないというのも本音なのです」

 武田さんも言い添える。

「放射線治療は比較的安く受けられる治療です。こうしたメリットをアピールできれば、厚労省はもっと放射線治療を推し進める方針を取るかもしれません。

 そもそも標準治療とは“比較試験により生存率が最も高いことが証明された治療法”なわけですが、その比較試験は体力のある患者さんを対象としたもの。患者さんの体調や併せ持つ持病、年齢、嗜好まではあまり考慮されていません。皆保険制度によってベターな選択にはなっていますが、患者個人にとってベストかはまた別、というのが現状です」

QOLを最優先する選択があってもいい

 日本の多くのがん治療では、外科手術が標準治療として推奨され、命が助かるかどうかを基準に考えれば、手術の方が選ばれやすくなるのは否めない。

「ただし、手術を受けた方がQOL(生活の質)が低下することは考えられます。食道を切除した患者さんが食後に横になることもできず、不自由な思いをすることもある。それならば、放射線治療を選んだ方が、自分らしい生き方ができたかもしれない。また、喉頭がんなどでは、切除手術をしたことによって会話ができなくなることもある。がんは、ただ治療すればいいのではなく、本人の生き方に沿う多様性が重要になっています」(室井さん)

 海外では、コストのかかる手術を経済的な理由で受けられない場合があることはすでに論じた。だが、それだけでなく、医師と患者が納得して治療法を決めていることも、放射線治療と手術の割合が拮抗していることに関係すると考えられる。室井さんが言う。

「医師側から患者に病状や治療法を説明する“インフォームドコンセント”ではなく、医師が患者の治療選択を助ける形での意思決定が大事。残念ながら、日本ではアメリカのような“患者による意思決定”ができておらず、手術が選ばれている一面があることは事実です。さらにいうと、日本は国民皆保険なので、医師が患者に説明したからといって医師の収入につながらないという問題もある。

 日本人は“タダ”や“お得”を好む国民ですが、本来、命を左右する医療に関してまでお得さを求めるのは、おかしな話です」

 武田さんも、患者側の問題をこう指摘する。

「最近は、医師と協力して話し合いをした上で決めたいとか、個人的にインターネットなどで情報収集をして意思決定するなどのケースも増えてきていますが、圧倒的に多いのは『治療法は医師に決めてほしい』という、旧来の医師と患者の関係を求める人たちです」

 医師任せにすると、何か問題が起きた場合、後悔や恨みが残ることが多い。とはいえ、自分で選択するとなると、迷いが生じることもある。

「最近は病院にセカンドオピニオンの窓口が準備されていることも多い。治療法を迷った場合、腫瘍内科医などに意見を聞くのもひとつの案です」(室井さん)

 生き方が多様化する現代では、「どう生きたいか」を優先し、自ら治療法を選ぶことも一考すべき時期に来ているといえる。

抗がん剤の点滴治療を受けた日に熱中症に見舞われて…【がんと向き合い生きていく】


朝から日差しが強い暑い日のことです。再発した卵巣がんで治療中のCさん(50歳・女性)は、日傘を持って、帽子をかぶり、マスクをして、朝7時に病院へ向けて自宅を出ました。朝、歯を磨いた時に少し水を飲んだだけで、病院で採血することを考えて食事はとりませんでした。

最寄りのA駅まで20分ほど歩き、電車に乗り、9時前に病院に着いて採血を待つ患者の列に並びました。

採血が終わって約1時間後、担当医から結果を聞いて、予定通りその日に抗がん剤治療ができるかどうか指示が出ます。点滴治療で抗がん剤のほかに吐き気止めの投与もあり、1時間くらいかかります。

問題なく抗がん剤の点滴が終わり、午後3時ごろにA駅まで戻ってきました。駅前にタクシーは見当たらず、強い日差しが降り注ぐ暑い中、Cさんは日傘をさして自宅まで歩くことにしました。

ふと考えてみると、朝、自宅を出てからは水も飲まず、何も食べていません。しかし、抗がん剤治療後の嘔気が気になって、飲食は自宅に帰ってからにしようと思いました。

照り返す日差しは厳しく、風もない中を歩きました。途中、めまいと頭痛を感じましたが、ふらふらしながらそれでも自宅に着きました。

部屋の中もものすごく暑くなっていました。すぐにクーラーをつけたのですが、ベッドに横になった途端に足がつってきました。Cさんは何度も何度も足をさすって、ようやく落ち着いた気がしました。

熱があるように感じて測ってみると36・8度ありました。新型コロナワクチンの接種はまだ1回目が終わったばかりで感染が心配です。がんの持病があってコロナで亡くなった方、ワクチンを接種していても感染した人がいることをニュースで知っていたので、なおさらでした。

そうこうしているうちに、口が乾き、歯ぐきの痛みも出てきました。冷蔵庫の麦茶を飲んで少し楽になったものの、その後でトイレに行くと尿はほんの少ししか出ません。今日は朝に一度行ったきりなのに……。

郵便受けを確認すると、新聞や広告と一緒に宅配便の不在伝票が入っていました。電話で再配達をお願いし、30分ほど目を閉じて横になっていたら、頭の痛みもなくなっていました。

■当日は水分を多めにとる必要がある

夕方5時半ごろになって、昨日、用意していたスープを冷蔵庫から取り出して飲んでいると、宅配便の再配達がやってきました。千葉に住む妹が「びわ」を送ってくれたのです。

びわを2個食べたら、なんだか元気が出てきた気がしました。子供のころに食べていた懐かしい味で、Cさんはうれしくなって妹にお礼の電話をしました。その際、今日の出来事を話したところ、看護師をしている妹から注意されました。

「姉ちゃん、それ熱中症だよ。ペットボトルを持って出かけなきゃ。何も食べず、何も飲まずに出かけたらダメよ。も~なんにも分かってないんだから……。口が乾いたり、頭が痛かったり、ふらふらしたのもみんな熱中症よ。駅で何か食べればいいのに。もし何も食べたくなくても、自販機があるでしょう? 飲み物買って飲んでよ。も~姉ちゃんたら……ひどくなったら救急車だよ。熱中症で命を落とす人もいるのよ。まして姉ちゃんはね、抗がん剤やった日は多めに水を飲む必要があるんだから。おしっこで抗がん剤を体から早く出した方が副作用は少なくて済むのよ。抗がん剤によっては腎臓に良くないものもあって、腎臓が悪くなったら抗がん剤もできなくなるよ。今日はいっぱい水を飲んで! 何か食べるものはある?」

自分を心配してくれる妹に、Cさんは感謝の気持ちでいっぱいでした。

「ありがとう。あなたがいてくれたからよかった。うん、困った時は電話するから」

「うん、絶対電話してね。次の抗がん剤はいつ?」

「3週間後だと思う」

「分かった。3週間後ね」

抗がん剤治療を受けている人はもちろん、そうでなくても、水分をたくさんとって熱中症には十分に気をつけてください。

がん闘病ブログ途絶え大島康徳さんが死去 大腸がん手術を患者はどう選べばいい?


 2017年2月にステージ4の大腸がんを公表し、肝臓に続き肺への転移を告白した野球解説者の大島康徳さん(享年70)が亡くなった。現役時代は中日、日本ハムで活躍し、日ハムの監督に。6月24日に在宅医療へ移行してからブログで闘病を書きつづり、6月29日午後9時の投稿を最後に更新されず心配の声が上がっていた。

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から得た回答結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。また、実際の患者を想定し、その患者がたどる治療選択について、専門の医師に取材してどのような基準で判断をしていくのか解説記事を掲載している。ここでは、「大腸がん手術」の解説を紹介する。

*  *  *

 大腸は、小腸に続いて右下腹部から始まり、腹部を大きく回って肛門につながる1.5~2メートルほどの管状の臓器である。

 ここにできたがんが大腸がんであり、消化された食べ物が通る側の表面の粘膜から発生し、腸壁の奥深くに進み、やがて腸壁を超えて、腸の周辺に広がっていく。

 大きく分けて、小腸から続く結腸にできる結腸がんと、肛門に近い直腸にできる直腸がんの2つがある。日本人には、直腸と結腸の境目の結腸側であるS状結腸のがんと直腸がんが多くみられる。

 がんが粘膜やその下の粘膜下層にとどまっている段階を早期がん(0期、I期)、それ以上、深く進んだがんを進行がんという。

 早期がんのうち、粘膜下層の深くに達している場合は、がんが周辺のリンパ節に広がっている可能性があり、手術でリンパ節も併せて切除する場合がある。

 進行がん(III期など)では、リンパ節に広がっている領域を含めて手術で切除することが第一選択である。手術後、経過観察になる場合もあれば、補助的に抗がん薬を加える場合もある。

 進行がんの中でもがんが肝臓や肺など、他の臓器に転移している段階(IV期)になると、手術をせずに薬物療法、あるいは症状を抑えるための放射線療法などの対症療法となる場合がある。

 大腸がんの手術が決まったら、医師の説明をもとに患者が開腹、腹腔鏡、ロボットといった手術法を選択することになる。その際に注意したいポイントを神奈川県立がんセンターの塩澤学医師はこう話す。

「患者さんにとっては、傷が小さいことが第一になりがちですが、がんを取りきれるかどうかを第一に考え、そのうえで低侵襲ならなおよい、といったスタンスが大切です」

 大腸がんの手術の多くは腹腔鏡手術となっているのが現状である。腹腔鏡手術の一つであるロボット手術との使い分けを関西労災病院の村田幸平医師が説明する。

「ロボットでは狭い骨盤の奥までよく見ることができ、繊細な操作が可能です。肛門に近い直腸がんの手術にはロボットが適しているといえます。ただし、通常の腹腔鏡に比べると触覚がほとんど伝わらないため、病変部の硬さを感じることが難しく、注意が必要です」

■肛門を残せたとしても排便機能は低下することも

 下部直腸にできたがんの場合、がんを取りきるために肛門も含めて切除して永久人工肛門を造設するか、最低限の肛門を残したうえでがんを最大限切除するかを選択することになるケースがある。塩澤医師が言う。

「肛門温存術を選んだ場合、肛門は残せても、手術で直腸を切除することで排便機能は低下します。便をためられずに1日4~5回もトイレに通ったり、漏れたりします。人工肛門なら、こうした問題は回避できるメリットはあります」

 村田医師は、小腸の一部を腹部の外に出して肛門代わりにする、一時的な人工肛門を使う肛門温存も選択肢だという。

「術後は小腸につくった人工肛門から便を出すことで、もともとの肛門の負担を軽減します。がんを取りきることを前提にした場合の、永久人工肛門、一時的人工肛門、肛門温存の可能性をパーセントでお伝えして、患者さんの考えを確認します」

 直腸がんの手術で括約筋を切除して肛門を温存する場合にも、再発リスクに備え、術後に補助的な抗がん薬治療(化学療法)を加える場合がある。

 塩澤医師は一時的人工肛門を造設した人は、この術後化学療法を受けにくいという。

「一時的人工肛門で水分が吸収されていない便が出ることに加え、抗がん薬による下痢の副作用も重なることになり、脱水に注意が必要になるからです」

 村田医師は再発リスクなどのデータを挙げ、術後化学療法を受けるかどうかの選択のポイントを次のように解説する。

「ステージIVなら術後には基本的に化学療法を加えます。しかし、ステージIIなら再発する人は20%、IIIなら30%程度です。70~80%の人には不要な治療になってしまいます。抗がん薬が効かない人もいます。こうしたデータを合わせると、術後化学療法のメリットを得られるのは5~10%の人となります」

「5~10%も効果がある」と考えるなら術後化学療法を選択し、「5~10%しかない」と考えるなら経過観察となる。

 両医師とも「こうした数字を医師によく確認したうえで術後化学療法を受けるかどうかを決めてほしい」と呼び掛けている。

■手術数が多いほど技術的に信頼できる

 病院ごとの手術数の見方では、「症例数が多い病院ほど、技術的にも経験的にも“うまい医者”に出会える確率が高くなるのは間違いないでしょう」と塩澤医師は話す。

 開腹と腹腔鏡の症例数のバランスについて、村田医師は次のようにみている。

「どちらかの症例数が多いほど技術が高いといった関係はありません。病院ごとの方針の違いといえるでしょう。ただ、腹腔鏡を希望するなら、腹腔鏡の症例数が多い病院を選んだほうがいいといえます」

 ランキングの一部は特設サイトで無料公開しているので参考にしてほしい。「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

【医師との会話に役立つキーワード】

《自律神経温存術》

直腸がん手術の課題は排便機能だけではない。直腸の周囲には排尿機能や性機能を調節する自律神経があり、手術後の機能障害が最小限で済むような、自律神経を確認して残す手術が求められる。ロボット手術は神経温存に有利な可能性がある。

《肛門温存》

がんが肛門近くの直腸にある場合に、肛門ギリギリまで直腸を切除して肛門を残すこと。要介護者が肛門温存を選択した場合、頻回の排便や便もれなどで本人のおむつが不衛生な状態になりがち。ケアする側の負担も増大する。

【取材した医師】

神奈川県立がんセンター 消化器外科部長 塩澤 学医師

関西労災病院 副院長 外科部長 村田幸平医師

(文/近藤昭彦)

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より

胆石、腰痛手術、歯列矯正、がんの自費診療…不要を疑うべき治療リスト


【NEWSポストセブンプレミアム記事】


 病院に行って治療を受けても、よくなるはずの体調が変わらないどころか、かえってひどくなる──そんな“不都合な真実”が確かに存在する。専門家たちが語る、受けても意味がない無駄な治療。知らず知らずのうちに、あなたもきっと受けているはず。病院の予約を入れる前に、じっくりお読みください!


 コロナ禍で私たちの生活は一変したが、それは決して悪い変化ばかりではない。神奈川県在住の主婦、大澤加奈子さん(57才・仮名)は体調がよくなったことを実感している。


「これまで、少し血圧が上がった程度でも不安になってすぐに病院に駆け込んでいました。でも、昨年春からは『コロナをもらってしまうんじゃないか』と思ってパッタリと通院をやめた。


体調が悪化するかと心配したけれど、普段から病院に行かなくて済むよう生活習慣に気をつけていたら、むしろよくなっていて。つまり、これまで気軽に受けてきた治療は無駄だったということなんでしょうか……」


 皮肉なことに感染症流行による「受診控え」が、これまでの治療を見つめ直すきっかけになりつつあるのだ。これは日本に限った話ではない。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが解説する。


「アメリカでは、これまで過剰だと指摘され続けてきた精神疾患の薬の処方量が減ったことが報告されているほか、定期的な通院はオンライン診療で充分だとの声も出ている。“無駄な医療”を省く転換期になっているという声も少なくありません」


 実際、医師の9割が「不必要な治療」を実感したという調査もある。コロナ禍のいまこそ、自分の受けている治療を見直す好機なのかもしれない。


無症状の胆石は手術をしない

病院経営者や外科医は手術をしたがる傾向があると指摘するのは血液内科医の中村幸嗣さんだ。「手術は診療報酬の点数が高く、病院経営者にとって利益になりやすい。


また、外科医はその後の患者の生活や揺れる気持ちより“病気そのものの改善”により強い興味を持ちやすく、自己の手術経験も積めることから手術をしたがる傾向にある。


 実際、私が診てきたなかでも高齢者のある種の早期がんや弁膜症など、手術に適しているかどうか総合的にみて、判断が難しいケースであっても積極的に手術することをすすめていることがありました」


 特に貧血気味であったり高齢患者の場合、手術後の回復がうまくいかなくなる可能性もある。医師がすすめる「手術」という選択肢が常に正解だとは限らないようだ。国民皆保険制度の日本とは違い、無駄な医療を排除しようという意識が高い米国は、さらに進んでいる。


「手術に伴う長期の入院も“無駄”の筆頭とされます。実際に、術後は早めに体を動かし、日常生活に戻った方が回復が早いという調査結果もある。また、“画像検査で胆石が見つかっても、無症状ならば手術はしない”がスタンダードになりつつあるなど、過剰医療に対しては厳しい目が向けられるようになっています」(室井さん)


 手術と並んで「無駄」が生じやすいのは、約1000万人もの患者がいるといわれる高血圧や、同220万人の脂質異常症など生活習慣病の治療だ。新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんが解説する。


「高血圧と診断されると、血圧を下げるための降圧剤を処方されることがほとんどですが、ふらつきやめまいなど副作用の方が強いうえ、服薬してもしなくてもその後の寿命はあまり変わらないという研究もある。


高コレステロールの人も同様で、特効薬がもてはやされた時期もありましたが、いまはその治験データの信頼性が失われており、重い副作用の報告も出てきている。また、むしろ高コレステロールの人の方が長生きだというデータもあり、治療をしない方がいい場合も少なくないと考えられます」


腰痛手術は3か月待つべし

 自宅の机やいすでのテレワークや、座りっぱなしのステイホームにより腰痛や関節痛に悩む人は増加傾向だ。しかしその痛みを軽減するための治療も、時と場合によっては“無駄な医療”になりかねない。戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝さんが指摘する。


「患者の中にも腰の手術を何度もやっているのに、よくならないという人は少なくありません。MRIを撮って『ここを治せばよくなる』と言われて手術したにもかかわらず痛みが治まらず、何回も部位を変えて手術しているのです。


結局、これらの手術はすべて意味がない。多くの腰痛の場合、慌てて手術せずに3か月くらいは経過観察をして、それでも改善しなければ手術に踏み切った方がいい」


 なぜ急いで手術してはいけないのか。戸田さんが続ける。

「たとえば坐骨神経痛なら3か月経てば自然治癒することが多い。骨と骨との間のクッションが飛び出して神経を刺激する椎間板ヘルニアも、体が異物だと認識して3か月くらい経つと自然に縮小するケースもあるためです」


 戸田さんによれば、腰痛手術の中でも特に注意すべきものがあるという。

「それは年齢の変化で背骨が曲がる変形性腰椎症にも最近はすすめられるようになった『脊椎インストゥルメンテーション手術』です。


背骨に釘(スクリュー)を打って金属の棒を入れ、まっすぐにする手術なのですが、1本数万円もするスクリューを20本ほど使う大がかりで高額なものです。高額医療還付制度が適用されるとはいえ、腰を伸ばすための手術に高額な社会保険料を投入することに、ぼくは疑問を感じます」


 整形外科で横行する「無駄な治療」は手術だけではない。戸田さんが疑問視するのは、「足底板」の処方だ。


「O脚になった変形性膝関節症の人に、足型をとって作る外側が高くなった採型足底板を処方する場合がありますが、両足で3万5400円(保険3割負担の場合、患者の負担額は1万620円)と高価で社会保険料への負担が大きいです。初めは足の形に合っていて外側が高い足底板も履いているうちに摩耗してきます。


 私も1年間足底板を連続使用した患者と、100円ショップで売られている既製の足底板を毎月買い替えて使用した患者とで治療の効果を比べてみたところ、後者の方がより効果が認められた。安価な代用品で改善できるのなら、高価な足底板は必要ないでしょう」


免疫という言葉に疑いを持つ

 いまや日本人の2人に1人が生涯のうちにかかるといわれるがんも、必ずしも治療することが正解ではない場合がある。中村さんが解説する。


「高齢者の場合、抗がん剤を使うことで副作用に体が耐えきれず状態が悪くなることがあります。例えば血液がんの一種である『悪性リンパ腫』は、100種類以上あるリンパ腫の種類や進行の速さで対応が異なりますが、“すぐに治療を”という病院と“様子を見ましょう”という病院が混在しているのが現状です。


 ガイドラインではどちらも正しいのですが、年齢や全身状態の解釈にあいまいな部分が存在するため、日本国内では対応が定まっていません。このあいまいさのため治療法の選択は、病院や医師個人の判断に一任され、過剰な治療につながってしまうケースもあるのです」


 とくに高齢者における治療法の選択にはさまざまな指標があり、抗がん剤治療をしないほうがむしろ長生きできることもある。担当医と話し合い、本当に治療が必要かどうかを見定めていくことが大事なのだ。


「がん治療で注意すべきは“自費診療”」と言うのは、医療問題に詳しいジャーナリストの岩澤倫彦さん。「例えば一部のクリニックで『高濃度ビタミンC点滴療法』が“副作用もなく、がん細胞だけを殺す先進的医療”だとして行われています。


しかし、『高濃度ビタミンC点滴療法』は、進行がんの治療として有効性は一切証明されていません。試験管内で、がん細胞を死滅させた実験はありますが、人間の体内では再現されていません。米国では普及していると喧伝するクリニックもありますが、複数の米国がん専門医に取材すると否定していました」


 効果が証明されていないのに、高額な治療費がかかる“自費診療”のがん治療は、数多く存在する。代表的なのが「免疫細胞療法」。患者の血液中の“免疫細胞を活性化・増殖させて、がんを死滅させる”とうたわれているが、実態はまったくかけ離れたところにある。


「免疫細胞療法は、大学病院で数多くの臨床試験が実施され、有効性がないと証明されました。ノーベル賞の本庶佑氏が開発した、免疫チェックポイント阻害薬とは“似て非なる”治療です。日本では規制する法律がないために、金儲けが目的だけの “自費診療”が横行していますので、注意が必要です」(岩澤さん・以下同)


コロナで無駄な歯列矯正が横行中

 マスク生活とステイホームにより、口腔内のトラブルも増えている。特に受診控えにより気がつくタイミングを逃し悪化する「コロナ虫歯」の問題は顕著だ。しかしいざ発見し、治療をしようと思ったときに立ちはだかるのは「時代遅れの治療」だ。


日本人の約7割に銀歯があるといわれるほど一般的な虫歯治療だが、新たに銀歯で治療するメリットは少ないと岩澤さんは指摘する。「銀歯の場合、小さな虫歯でも歯を大きく削る必要があるので、結果として歯の寿命を短くしてしまう原因になります。


治療費の負担が少ないため、とりあえず銀歯を選択して後からセラミックにするという人もいますが、“被せもの”の再治療は歯を失うリスクが高まるので、推奨できません」


 さらに歯科業界では、銀歯をめぐる2つの問題が起きているという。

「これまで銀歯に使用されていた、パラジウムという金属が世界的に高騰してしまい、一部の歯科医が患者には何も説明をせずに、質の低い素材を銀歯に使用しているという証言があります。


また、アマルガムという“水銀”を使った銀歯は、アレルギーや肩こり、腰痛などの原因となっている可能性があります」日本人が歯を失う原因の1位は歯周病だが、その治療効果をうたった高額な歯磨き剤も、場合によっては「無駄」になる。


「歯周病は、歯周ポケット内にたまったプラーク(細菌の塊)を、専門の道具を使って除去しなければ治りません。高額な歯磨き剤を使って自己流で治そうとするうちに歯周病が進行してしまい、完治できるタイミングを逃す人が多いと嘆く歯科医は少なくありません。歯周病治療は、早い段階で専門的な治療を受けるべきです」


 また、マスク着用が日常になったコロナ禍の時代。口元が見えないこの時期に、歯列矯正がムーブメントになっているが、「無駄」な歯列矯正も横行しているという。


「注意が必要なのは、マウスピース型の歯列矯正です。特に通販で取り寄せるものの中には、歯科医が介在していない業者もあり、治療効果は期待できません。


 日本矯正歯科学会では、マウスピース型の歯列矯正について、“歯の移動量が少ない症例に限定” “精密な歯の移動は原則として困難”と明確に指摘しています。マウスピース型矯正は、ワイヤー矯正よりも目立たない、簡単に着脱できるので手入れがしやすい、などのメリットもありますが、患者の厳しい自己管理が必要です」


 岩澤さんによると、歯列矯正には知られざるリスクもあるという。

「歯列矯正は見た目を整えるだけではなく、噛み合わせも重要なため、高度な専門性が必要です。しかし、マウスピース型矯正を安易に手掛ける一般歯科医が増えた結果、噛み合わせがおかしくなったなどのトラブルも報告されています」


手術よりも腰割りとねじりを

 自分が受けている医療が「過剰なもの」あるいは「無駄なもの」ではないか──そう感じたとき、どう医師に伝えるべきなのか。岡田さんはこうアドバイスをする。


「多くの医師は、利益だけでなく患者のことを考えて治療方法を決めている。だからいきなり『無駄な治療ではないか』とストレートに言われれば、どうしてもムッとしてしまうし、聞く耳を持とうとしない。たとえば『薬の副作用は大丈夫でしょうか』とか『雑誌にこんな記事があって心配になってしまって』などと質問してみるのがいいでしょう」


 必要な治療をしてくれる医師を見極めるのと並行して取り組みたいのは、健康な体づくりだ。

「高血圧や脂質異常症については、服薬よりも長期間にわたる食事の改善や運動を取り入れることで改善できる。費用がかからないうえに、副作用もありません。


特に中性脂肪が多い人は、薬をのむよりもエネルギー源としてとらえ、運動によって消費してしまえばいいのです」(岡田さん)ほんの少し自分の行動を変えることが、無駄な治療を退けるのだ。戸田さんも声をそろえる。


「腰痛も、体を動かすことで改善するケースは少なくありません。腰の背骨部分の腰椎の動きは骨盤と連動しています。骨盤周辺の筋肉をストレッチすると、骨盤の動きがなめらかになって、腰椎への負担が減らせて腰痛が改善されます。『腰割りねじりストレッチ』を2時間に1回のペースでやってみてください」


 受ける医療が無駄なものになるかどうかは、あなたの知識にかかっている。いまこそ、自分の体を人任せにせず見つめ直してほしい。

「誤診がん」の恐怖 12人に1人が検診で間違われる衝撃調査


がんと診断され、闘病生活を続けた数年後、突然病院から「本当はがんではありませんでした」と告げられたら何を思うか。

 がんの不安が消えたことでその瞬間は安堵するかもしれない。だがその後に残るのは、無駄な手術や投薬による副作用や後遺症だけ──そんな悲惨な“誤診”の被害者が、実は少なくないという。

 がん患者らの相談に乗り、病院や治療法を紹介する「がんコーディネーター」の藤野邦夫氏は、ある患者の例をこう話す。

「CTやMRIの画像を見ながら、医師が『がんの疑いがあります。様子を見て、改めて検査をしましょう』と言ったため、ショックからうつになり、それ以降、通院をやめ、会社も辞めてしまった方がいました。経済的に困窮し、家庭も崩壊してしまった。ところが、何年経ってもピンピンしているので、不思議に思って別の病院で検査をしたら、実はがんでも何でもなかったのです」

 医師は疑いがあるから再検査を勧めたわけだが、それをがん告知と誤解して悲劇が起きたケースだ。

 患者にとってもっとも恐ろしいことは、「がんの見落とし」であるのは言うまでもない。だが、逆に、検査や検診の段階でがんでないものを“がんの疑いアリ”としてしまう「偽陽性」判定も、患者に心理的負担を与えるのだ。

◆「がんかもしれません」の意味

 では、がん検診において、偽陽性判定はどれくらい起きるのだろうか。青森県は、13年連続でがん死亡率が全国最下位で、罹患率も全国平均より高いため、がん検診受診率の向上を図っている。

 県内10町村で2011年度にがん検診者を対象に実施した調査によると、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの検診を受診した計2万1316人のうち、1720人ががんでないのに「要精密検査」と判定されていた。受診者の12人に1人(約8%)が偽陽性の判定を受けていたことになる。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はこう言う。

「青森県と同様、他地域でもがん検診は罹患率の高い胃、大腸、肺、乳、子宮頸がんの5つのがんの有無を調べることが多く、検査方法も同じです。つまり、全国的にがん検診で8%程度の“間違い”が起こっていると言えるでしょう。また、主治医による初期検査もがん検診とほとんど方法は同じなので、そこでも同程度の偽陽性が発見されていると考えられます」

 がん検診など初期段階の検査は、「スクリーニング」と呼ばれる多数の人々に大雑把に網をかける方法なので、この段階での偽陽性の判定は仕方がない面もある。問題はそのあとだ。

「がん検診での偽陽性は、精密検査で否定されるケースがほとんどですが、精密検査でもがんと診断されるケースが少なくない。ところが、その後に治ったと言われれば患者は“誤診”を疑いません。

 何かに違和感を抱くなどして再検査をしない限り、気付かずに見過ごしてしまうケースが多いのです。だから全国の統計データでは出てこない。実はがん検診が『がんであることを見つける』という目的の他に、『良性のものまで拾い上げる』側面があることを忘れてはいけません」(同前)

 現実には、偽陽性による悪影響は小さくない。必要のない手術で、健康な肉体にメスを入れ、放射線治療、抗がん剤治療などを受けて、体に無駄な負荷をかける“悲劇”も起きている。

顔色の変化でわかる大病のサイン 肝臓疾患、心筋梗塞、がんの疑いも


 体調の異変には気づいても、意外と見過ごしがちなのが「顔」に現われる変化だ。「疲れているから」「睡眠不足だから」と放置していたら、思わぬ大病のサインだったということもある。マスク生活が当たり前になった今、毎日鏡を見つめ早期に予兆を発見したい。

「会社で同僚から“最近、顔色が悪くなったのでは?”と言われることが続いたので、約1年ぶりに健診を受けると肝機能の数値が思ったより悪化していた。以前から脂肪肝を指摘されており、医師からは『このままだと肝硬変になる』と言われ、生活習慣を改めるようになりました」

 都内に勤める50代の男性会社員はそう語る。自分自身も、毎日顔を合わせている妻も、顔色の変化には気づいておらず、この男性は「コロナで出社が週1回になっていたから、同僚は変化を感じられたのかもしれない」と振り返る。

 毎日見ている自分の顔の“異変”に気づくのは思いのほか難しい。だが、顔の色ツヤ、状態から“大病の予兆”が分かることがあるので、注意深く観察することが重要だ。

『病気は顔に書いてある!』などの著書があるイシハラクリニック院長の石原結實医師が解説する。

「顔には大量の血管が集まり、大量の血液が流れています。漢方医学に『万病一元、血液の汚れから生ず』という言葉があるように、顔から血液の状態、さらには病気のサインが読み取れることは少なくありません。

 例えば健康な顔色は『薄い紅色』ですが、これが『赤ら顔』になった時は漢方医学で言う“お(やまいだれに「於」)血(おけつ)”の状態。つまり血液中に老廃物やコレステロール、中性脂肪などの余剰物が増え、血液が淀んで汚れた状態であると推測できます。


 お血は放置すると脳梗塞や心筋梗塞、がんなどに罹りやすくなるので、サインが見られたら直ちに生活習慣を改善し、適切な検査を受けることが必要です」冒頭の男性は、顔色が「黒く」なって受診したら、肝臓に異変が生じていたケースだ。


「顔色が黒く変化したら、肝臓や腎臓疾患の疑いがある。いずれも血液中の老廃物を十分に解毒・排泄できずに血液が汚れ、その血液の色を反映して顔色が黒ずんでいくと考えられるからです。肝臓疾患では、肌に褐色のシミやクモ状血管腫(アザ)が出ることもある。また、寝不足でもないのに目の下にクマができる場合は腎臓病を疑います。目の周りは皮膚が薄く、血液の汚れが反映されやすいのです」(石原医師・以下同)

顔にこんなサインが出たら要注意!

顔にこんなサインが出たら要注意!


このほか、顔色が「白く」変化したら気管支喘息や肺がんなどの呼吸器系疾患、貧血が疑われる。「軽度から中度の貧血では、ヘモグロビン不足から顔の赤みが減り白っぽくなります。一方、重度の貧血では顔色から赤みが消えて淡黄色となり、皮膚のカサつきやむくみを伴うことがある。成人の重症貧血は体内で出血している可能性があるので、胃や十二指腸の潰瘍、がんなどの有無を検査したほうがよいでしょう」


 病気の予兆は「顔色」のほか、目や耳、口などからも見つけることができるという。「例えば、片方のまぶたが重い、十分に閉じないという場合は、脳卒中など脳疾患が疑われます。脳に異変が起きて神経の働きが低下すると、左右どちらかのみに症状が現われることがあります」まぶたに手で触れれば分かる、こんな症状も見逃せない。「目を閉じてまぶたを軽く押さえた時に硬さを感じたら、緑内障を疑います。緑内障は進行しても自覚症状が少なく、失明原因のトップでもあるので、少しでも異変を感じたら眼科での検査をお勧めします」

医師の私が「がんで死にたい」と考える理由


中川恵一「がんの話をしよう」
「私は、がんで死にたい」

 そもそも、人間の死亡率は100%。死ななかった人は一人もいません。さて、その死に方ですが、「ピンピンコロリ」が、いまの日本人の理想と言われます。ずっとピンピンと元気で長生きをして、突然コロリと苦しまずに死にたいというわけです。

 実は、最近、がん医療に携わる親しい医者を立て続けに亡くしました。47歳と62歳の若さです(合掌)。 ともに、仕事場での、何の前触れもない突然の死で、おそらく、心筋梗塞(こうそく)と思われます。まさに、「ピンピンコロリ」型の亡くなり方と言えます。

 しかし、私は、心臓発作などで、ある日突然死ぬのは、ゴメンです。やり残したこともありますし、燃やしておかなければならないものも山ほどあります。パソコンのデータはいったいどうなるのでしょうか。遺書だって書いておきたいですね。やはり、人生を整理し、締めくくる時間がほしいです。

がんで死ぬまでには数年の猶予が
がんは治らないと分かってからも、亡くなるまでには数年の猶予があります。そして、死の直前まで、痛みなどの症状をとって、うまくつきあえば普通に生活できる病気です。

 がんは人生の縮図、時計の針の回る速さがアップするだけのことです。つまり、がんで死ぬことは特別なことではないのです。悠久の時の流れのなかでは、しょせん人生はほんの一瞬です。そして、よい人生かどうかは、時間の長さとは関係ないはずです。

 今の日本人は、死なないという錯覚にとりつかれているように思います。しかし、がんは、命には限りがあることを思い出させてくれます。ラテン語に、メメント・モリという言葉があります。「死ぬことを忘れるな」という意味の警句ですが、古代ローマでは、将軍の凱旋(がいせん)のパレードの際にも使われたと伝えられます。将軍は今日絶頂にあるが、いつ死ぬかわからないといさめたのです。

膀胱がんを経験して
現代において、がんは、まさに、メメント・モリの役割を担っています。

 以前も書きましたが、私もがん経験者です。2018年の年末に、膀胱(ぼうこう)がんの「内視鏡切除」を受けました。まだ、2年半くらいしか経っていませんから、経験者というより「がん患者」と呼ぶべきかもしれません。

 日本人男性の3人に2人が、がんになる時代ですから、「がんになることを前提にした人生設計が必要」などと発言してきました。しかし、正直、まさか自分が罹患(りかん)するとは思っていませんでした。私はたばこを吸いませんし、運動は毎日行っていて、体重も若い頃のままです。「なぜ私が」と否認したい気持ちでした。

 しかし、私がこのがんにかかった理由などありません。運が悪かったとしかいえないと思います。

 所詮(しょせん)、生き物である私たちは、自分が死ぬ、あるいは重い病気になるといったことは本能的に考えないようにプログラムされているのかもしれません。ただし、このことは私にとって、まさにメメント・モリ。よい体験をしたと思っています。

がんになって深まった人生
 西行は、「花の下にて春死なむ」と願い、一茶は、「死支度致せ致せと桜かな」と詠みました。かつて、日本人には、死に親しむ伝統があったのですが、いまでは、死は生活にも意識にも存在していません。

 私もそうですが、がんになって人生が深まった、生きることのすばらしさがやっと分かった、がんになって良かったという患者さんは少なくありません。

 やはり、「がんで死にたい」、と心の底から思います。

中川 恵一(なかがわ・けいいち)
東京大学大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。
 1985年、東京大学医学部医学科卒業後、同学部放射線医学教室入局。スイスPaul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院(当時)放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授を経て、現職。2003~14年、同医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。患者・一般向けの啓発活動も行い、福島第一原発の事故後は、飯舘村など福島支援も行っている。

がん治療での体力低下や副作用 改善させる鍵は「頑張りすぎない運動」


働く世代のがん患者が仕事を続けるには、体力の回復・維持、身体機能の改善は大切な要素になる。近年、がんによる身体機能の低下や、手術など治療の過程で起こる障害に対するリハビリテーションが広がってきている。

自身もがんになったライター、福島恵美が、がんになっても希望を持って働き続けるためのヒントを探るシリーズ。日本のがんのリハビリテーションをけん引してきた、慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室の辻 哲也教授に、前編「どんな『がん』でもリハビリ大事 体の機能低下を防ぐ」では、がんリハビリの役割を伺った。後編では治療中・治療後のリハビリの効果や運動の仕方を聞く。

■運動が治療中の倦怠感を軽減する

――私は抗がん剤治療を受けていたときに、強い倦怠(けんたい)感に悩まされました。安静にしていた方がいいと思っていたのですが、2019年に第2版が出された「がんのリハビリテーション診療ガイドライン」[注1]には、化学療法・放射線治療中のリハビリが強く推奨されていて、「知っていれば運動したのに…」と残念な気持ちになりました。辻先生はこの診療ガイドラインの策定に携わられていますが、リハビリが強く推奨される理由をお聞かせいただけますか。

化学療法や放射線治療は、いろいろな病期のがん患者さんが行います。例えば乳がんの患者さんが手術後に根治率を高めるために補助療法として実施したり、進行したがんの患者さんなら延命のために行ったり、骨にがんが転移した痛みを止めるための治療だったりします。いずれにしてもこのような治療では、倦怠感や吐き気などの副作用がよく起こり、患者さんは「治療中だから安静にしないと…」とあまり動かなくなります。動かないと体力が低下し、疲れやすくなるからよけいに動かない、という悪循環が起こります。

しかし、身体機能や活動量をそれほど落とさないようにリハビリの運動療法を行えば、筋力や体力がついて倦怠感の症状がよくなり、体を動かすことで気分転換も図れます。すると、副作用が減り、治療を最後までやり遂げやすくなり、気分が上向きになり、総じて生活の質が上がります。もちろん、吐き気が強くて食べられないようなときに、無理に運動する必要はまったくありません。調子のいいときには体を動かそうと意識づけをし、寝た状態で不活動にならないようにしていくことがとても大事です。治療中は適度に運動し、治療後は社会復帰や元の生活に戻るために、しっかり運動することが重要になります。

[注1]公益社団法人日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン改訂委員会編『がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版』金原出版,2019.

■有酸素運動と筋トレを習慣づけて

――がんで治療中、治療後の患者は、どれくらいの運動をしていくのがいいですか。

がんで治療中の方は、副作用の出方や体力レベルがそれぞれに違いますから、できるときにできることをやっていく、というくらいでいいと思います。とにかくベッドに寝てばかりいないで、座ったり、立ったり、できれば歩くというふうに。入院している方は病院内を歩く、通院治療中なら家の周りを散歩するところから始めます。この時期の運動の目安としては、疲れすぎず翌日も継続して行えるくらいがいいでしょう。調子が悪いときは休みます。そこから少しずつ歩くなどの有酸素運動に加えて筋トレ、ストレッチを組み合わせるのがよく、主治医とも相談して運動を習慣づけます。

治療後やがんの状態が落ち着き、もう少し強度を上げられる方は、中程度の有酸素運動(ウオーキング、ジョギング、エアロバイク、水泳など)を週に150分することが推奨されています。中程度というのは、例えば歩くなら会話はできるけれど、歌は歌えないというくらいです。1日に30分を週に5回、1日20分を毎日でも構いません。筋トレは1日おきに週3回(違う筋肉を鍛えるのなら毎日でも可)、例えばスクワットなら8~12回が目安です。筋トレは最後の1回がややきついと感じる強度を目安にします。このような運動ができる時期なら、スポーツジムなどに通うのも一つの方法です。ただし、運動していいかどうかは主治医に確認しましょう。

検診で「がんの可能性」を指摘されたら…自身もがんを経験した医師が解説


「がんの可能性があります」と言われると、ほとんどの人は大変驚き、ショックを受けます。人によっては気が動転して、何を言われたのか覚えていない、どうやって病院から帰ったのかもわからないということがあります。

医師の田所園子氏は自身もがんの経験者で、「一番にお伝えしたいことは『落ち着いて』ということです。検診でがんが疑われても、まだ“可能性”を指摘された段階にすぎません」と語ります。落ち着いて情報を整理し、何から始めたらよいのか、解説してもらいました。

1.実際に検診で「がん」が見つかる確率は…
がん検診とは、自覚症状がない人に対し、がんがあるかどうかを調べる検査です。一次検診(スクリーニング)で「要精密検査」(異常あり)、または「精密検査不要」(異常なし)を判定し、要精密検査の人は精密検査(二次検診)でがんの有無を詳しく調べます。

ただ、検診でがんの可能性を指摘されても、精密検査を重ねる過程で「がんではない」と判断されることもあります。がん検診で異常ありと判断される確率は10%以下ですが、そのうち実際にがんと診断される割合は5%以下と非常に少ないのです。検診でがんの可能性が指摘されても、慌てず、落ち着いて行動しましょう。

逆に、本当はがんなのに検診で見つからない場合もあることは、気に留めておきたいものです。がんの種類や進行度、発病した場所など様々な理由によって、検診をすり抜けてしまうようなことがあります。

私自身は検診でがんが見つかりましたが、主治医から「あなたのがんが検診で見つかるのは奇跡だ」とも言われました。ですから、私は患者さんに「早期発見のために、がん検診を受けましょう。でも、見つからない、見つかりにくいがんもありますからね。検診で異常なしでも、“真っ白”とは限らないですよ」とお伝えしています。

2.「がんかもしれない」と言われた患者さんの気持ち
私の場合は、何も自覚症状がなく、軽い気持ちで受けたがん検診で「異常あり」と指摘されたので、まさに青天の霹靂でした。「そんなはずはない」「まさか自分が」と事実を否定することから始まり、帰宅してからも数時間前のことが現実とは思えませんでした。

何かしら思い当たる節がある方は、がんの可能性を指摘されて「やっぱり」と感じるかもしれません。でも、ショックを受けることは同じだと思います。ある患者さんは、2カ月も咳が治まらず、「これまで2カ所の診療所に行ったけれど、風邪と言われた。

でも、こんなに治らないなんておかしい」と病院を受診されました。精密検査で肺がんだとわかった時には、「やっぱり風邪ではなかったのですね。もらった薬は全部きちんと飲んだのに全く治らなくて。がんだから風邪薬が効かなかったってことか…」と肩を落としていました。

がんと確定診断がついたあとは、治療方法を決めるために、がんの部位や種類、大きさなどをさらに詳しく検査します。患者さんは、その度にびくびくしながら結果を待つことになり、精神的に疲弊します。仮に、「転移はなかった」という検査結果が出ても、がんであることに変わりはなく、気持ちが晴れるものではありません。

でも、患者さんは次第に変わっていきます。私の場合は、ある時から「こうしている間にも、がん細胞は体の中で自由に動き回っている」と感じるようになりました。目には見えないがんを現実のものとして受け入れ、向き合い始めたのです。がんになっても、ずっと塞ぎ込んだ気持ちだとは限りません。

3.「先生はお忙しいから」と遠慮する必要はない
がんがあるとわかり、医師と治療方法を相談する時は、「すべてお任せします」という姿勢ではなく、自分で自分のがんをよく知ることが大切です。医師から提案された治療法をしっかり聞き、治療によってがんはどうなるのか、自分の身体や生活はどう変わるのかなどを考えましょう。

最近は、インターネットを使って自分で治療法を調べる方が多くなりました。しかし、ネット上には誤った情報も含まれていますし、正しい情報でも自分に当てはまらないこともあります。疑問に思ったことは書き出して、医師や看護師に質問するといいでしょう。知ることは患者さんの権利です。「先生はお忙しいから…」などと遠慮する必要はありません。

もしも、精密検査の結果、「がんではない」と診断されたとしても、医師の説明をよく聞くことは重要です。その時点でがんではないにしても、今後がんになる可能性が高い「前がん病変」のこともあります。次の検査は必要なのか、必要だとするといつ頃かなど、確認しておきたいポイントです。また、検診で異常を指摘されたことをきっかけに、日常生活を見直すことも考えましょう。

4.不安や恐怖は一人で抱え込まないで
検診でがんの可能性を指摘されると、ほとんどの人は戸惑い、不安や恐怖を感じます。人によっては現実逃避し、医師の説明も聞かず、精密検査を受けないことさえあります。そうした気持ちを、身近な人がサポートしてくれると非常にいいと思います。多くの場合、家族がその役割を果たしますが、友人や職場の仲間などが支えてくれることもあります。

私にがんが見つかった時は、まだ子どもが小さく、実家は遠方で話を聞いてくれる人が近くにいませんでした。同じような状況の方は珍しくないでしょうし、心配をかけたくなくてあえて周囲に打ち明けない方も多いと思います。でも、不安や恐怖を一人で抱え込まないようにして下さい。病院の中にある「がん相談支援センター」(がんの相談窓口)を利用するなど、だれかに気持ちを話すことで、落ち着いて行動できるようになることもあります。

田所園子(たどころ・そのこ)

医療法人生寿会 かわな病院/内科、緩和ケア、麻酔科

1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。現在は、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。

知らないとがんになる!自然治癒は0%の「HPV」新事実10


「日本人はHPV(ヒトパピローマウイルス)のことを知らなすぎる。『子宮頸がんウイルス』という間違った言葉が使われているくらいですから。HPVは子宮頸がんだけでなく、咽頭がんや食道がんなどの原因であることは、世界的には常識です。

HPVはワクチンで防げるのにほとんどの人が受けていない。それに、男性器をよく洗うことだけでも、感染リスクはかなり減ります」

そう語るのは、ウイメンズクリニック南麻布院長の清水敬生先生。開業以来、子宮頸がんおよび高度異形成の日帰り手術を年間250件以上行う、国内トップクラスの実績を持つエキスパートだ。

「日本人が知らないHPVの常識」について清水先生が解説してくれた。

■HPVで罹患するのは子宮頸がんだけではない

「HPV感染細胞は、すなわち『異形細胞』。それがやがて子宮頸がんになることはよく知られていますが、実は食道・咽頭・喉頭・肺・舌がんもHPV感染が原因の1つ。これはオーラルセックスなどによって感染すると考えられます」

■セックス前に男性器を石けんで洗うと感染予防に

「HPVは人の性器や粘膜に潜んでいます。石けんでよく洗えばほとんどのHPVは落ちるんです。男性はほかの女性とセックスしたあと、よく洗わずに別の女性と性交渉し、感染するということですね」

■インフルエンザと同じDNA型ウイルス

「ウイルスはDNA型とRNA型に分けられ、HPVはインフルエンザと同じDNA型。粘膜感染だけでなく、極論すると手をつないだだけでもらう可能性があります」

■男性器のコンドーム装着だけでは感染を防げない

「男性器のコンドーム装着だけでは、完全ではありません。指や口を通して体内に入る可能性もあるからです」

■「異形成」は自然に消えることはない

「一度異形成ができたら、軽度であろうと自然に消えることはありません。軽度・中度の異形成の人が『自然に治った』と診断されることがあります。残念ながら、頸部の細胞診の精度は、詳細な研究はないものの、せいぜい60%程度。

軽度異形成の30%はNILMと診断されます。高度異形成でさえNILM(class I)と診断されることもまれではない。細胞診を過信してはいけません」

■HPVは100種以上あり、がんにならない型もある

「HPV感染がわかったら、まずはHPV-DNA型判定(自費診療・ウイメンズクリニック南麻布では1万9,000円)で型を調べること。もっとも悪性の型16、18はよく知られていますが、31、33、35、39、45、51、52、58、59、68、さらに82も悪性度が高いことが判明しています」

■ハイリスク型では1年以内にがん化することも

「ハイリスク型は感染1年以内にがんになることもあります。ローリスク型でがんになることもあるし、ハイリスク型でもならないケースも。異形成は経過観察が重要です」

■保険適用の細胞診は3〜4割が誤判定

「細胞診では、異形成またはがんがあるのに、NILM(異常なし)と出るケースが3〜4割もあります。患者さんは安心してその後検査を受けなくなり、気付けば進行がん、ということも少なくない」

■6、11型は子供の命に係わる危険な型

「がん以外にHPVが引き起こす病気で特に恐ろしいのは尖圭コンジローマ、呼吸器乳頭腫です。この原因となるのは6、11型ですが、現在保険適用のHPV検査では6、11型は検出されません。

この型に感染した場合、経膣出産は避け、帝王切開したほうがいい。経膣出産すると子供の喉に感染し、喉にできたイボで呼吸がつまって窒息死の原因となるからです」

■ワクチンの副作用は因果関係が不明

現在、HPV予防ワクチンによる慢性疼痛やその他の症状などの副作用が問題視され、政府はワクチンの「推奨」を一時中止に。日本のこの判断について、’15年12月17日、WHOが「強く批判する」という声明を出している。

HPVによるがんは、正しい知識で予防できるのだ。

口腔がん、アルコール依存…重病招く女性の“オッサン”習慣


「結婚後も外に働きに出る人が増えたことにより、仕事でのストレスや、ライフスタイル自体の変化、さらに食生活の欧米化など、女性をとりまく社会環境は大きく変わりました。

それとともに、10〜20年ほど前から、おもに男性がかかると思われていた病気になる女性が増えています」

そう警鐘を鳴らすのは、日本生活習慣病予防協会の池田義雄理事長。飲酒に喫煙、仕事上のストレスで、とくに働く女性の毎日が男性化することにより、かかる病気も“オッサン化”しているという。

「診察中に偶然、硬いしこりができている口腔がんを見つけることがありましたが、ほとんど中年男性でした。ところがここ数年、年1〜2回程度ですが、若い女性の口腔がんを確認しています」

こう語るのは、江口歯科・矯正(横浜市)の江口康久万院長。舌がんなどをふくむ、口の中にできる口腔がんは、飲酒や喫煙などの生活習慣の乱れが原因とされ、中高年の男性特有のがんといわれていた。

「年間7,000人が命を落とす口腔がんですが、かつては罹患する割合は男女比3対1。でも、この40年で女性の罹患者が2倍に増加。男女比も3対2と女性の比率が高まり、死亡率も増えています。

女性に増えている要因は、粘膜を傷つけるような歯の放置。致命的になる前に、日ごろのチェックが重要です」(江口先生

また、アルコール依存症も女性に増えている。

「’03年に8万人だったアルコール依存症の女性患者は’13年に14万人。増加のペースは男性患者を超えています」

そう話すのは、アルコール依存症専門クリニック「ひがし布施クリニック」(東大阪市)の辻本士郎院長。クリニックを訪れる患者100人のうち、女性は30人近くにのぼるという。

「女性の肝臓は男性よりも小さく、アルコールを分解する能力が少ない。そのうえ女性ホルモンには分解を遅らせる作用も……。男性と同じ量を飲酒すれば、肝臓に与えるダメージは大きいのです。ところが最新の統計では20代の女性の飲酒率が、同世代の男性よりも高くなっています。

さらにチューハイやカクテルなど女性が好む、甘いお酒も多く売られており、今後もアルコール依存症の女性患者が増える恐れがあります」(辻本先生)

生活習慣病の第一人者である、前出の池田先生によれば、“中年男性の病気だから、女性がなるわけがない”ーーそう考えることが危険だという。

「“男性特有の病気”だと思い込んでしまったことで、疾病の発見・治療が遅れるケースもあります。

これまでは男女差があり、男性に圧倒的に多いといわれてきた病気であっても、社会環境の変化により、女性がかかってしまう可能性があることを、女性の皆さんがしっかり意識しておくことが大切です」
最新記事
★★互助会推薦★★
QRコード
QR
キャンペーン
admax
カテゴリ
ランキング
ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ