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心筋梗塞 血液でリスク予測 生活習慣を変えるキッカケに 心筋梗塞・脳卒中のリスク分類

心筋梗塞・脳卒中のリスク分類© zakzak 提供 心筋梗塞・脳卒中のリスク分類

日本人の死因順位は心疾患が第2位、脳血管疾患が第4位で、この2つを合わせた死亡者数は、死因第1位のがんにほぼ相当する。

「心筋梗塞や脳卒中は突然発症することが多く、死に至る確率も大きい。一命を取りとめても要介護状態になり、不自由な生活を強いられる人も多い。心筋梗塞などの発症リスクについて自分は低リスクなのか、高リスクなのかを知れば、その後の人生はがらりと変わるはずです」

カリスマ保健師の清家勝代さんはそう話す。少量の採血で4年以内の心筋梗塞や脳梗塞のリスクを予測するNECグループの「フォーネスビジュアス」という検査が今年から始まり、清家さんら保健師が「コンシェルジュ」として受検者に生活習慣改善のアドバイスをしている。

この検査開始に先立ち、米国の大規模血液検査で発症予測が2016年に発表された。日本人を対象とした血液検査の研究は東北大学病院循環器内科が実施。未来予測に利用できることを示し、大量のタンパク質測定により、心筋梗塞・脳卒中の発症確率について低リスクと高リスクのグループに分けた。

実際に検査で高リスクと出た人、低リスクと出た人のケースを見てみよう。

都内の会社に勤務する50代の男性は、4年以内の心筋梗塞・脳卒中発症リスクが最も高い判定が出た。同時に測定された肝臓脂肪の量は「多」、アルコールの影響も「大」の判定。男性は検査結果にショックを受けたが、その後、「むしろ発症前に高リスクが判明したのは良かったかもしれない」と冷静に受け止めた。

都内で事務職に就いている20代女性は、この検査で4年以内の心筋梗塞・脳卒中発症リスクは「低」の判定。ただし、この女性は同時に測定された耐糖能は「異常の疑い」の判定が出た。

「コロナ禍でテレワークになり、ほぼ歩かない生活をしていたことが一番の原因かと思います。外に出るのは徒歩5分のスーパーに週1で行くくらい。徒歩15分の駅まで歩いただけで全身筋肉痛になるくらいの運動不足でした」(女性)

20代の若さながら、放置すれば、糖尿病発症にもつながる状況に。

清家さんは「少し長い距離を歩き、自宅でもできる運動を考えたらどうか」と助言。さっそく女性は「バランスボールを購入し、テレワーク中はこれに座って仕事をするようにしています。ストレートネックが少し良くなりました。散歩も30分から1時間くらいするようにしました」。改善に向けて動き出した結果、少々歩いても筋肉痛にはならなくなったそうだ。

清家さんは産業カウンセラーなどの資格も持ち、福岡県を拠点として幅広く活動している。豊富な指導経験を踏まえ、「高リスクの人だけでなく、低リスクの人もふだんの生活を見直せば、元気で生き生きと過ごすことにつながる。ぜひとも、健康寿命の延伸を目指してほしい」と呼び掛けている。 (取材・佐々木正志郎) =おわり 【13日(月)から「目からウロコ 眼科治療の新常識」を連載します】

■清家勝代(せいけ・かつよ) 保健師。大分県出身。京都府立保健婦専門学校(現・京都府立医科大学医学部看護学科)卒。1982~2002年大分県佐伯市勤務。企業勤務を経て現在は、フリーで産業保健領域の総合コンサルタントとして活動するとともに、血液から疾病の発症確率を予測する検査サービス『フォーネス ビジュアス』のコンシェルジュとして、受検者にアドバイスをしている。

心筋梗塞 血液でリスク予測 血液検査でデータ可視化 ノンアルに変える涙ぐましい努力で生活習慣改善

働き盛りにとって最も怖い急性心筋梗塞や脳卒中は、冬にかけて死亡件数が急増する。健診や人間ドックで前兆を見つけづらいのが難点で、朝起きたら突然、心筋梗塞などで倒れるケースが後を絶たない。

そうしたリスクを少量の採血で予測する検査が今年始まった。この検査に参画するカリスマ保健師の清家勝代さんに、生活習慣病改善に向けたコツを聞く。

心筋梗塞や脳梗塞は、狭窄(きょうさく)した血管に血栓が飛ぶなどして発症する。その発症リスクを少量の採血でどのように判定するのか。

この画期的な血液検査「フォーネスビジュアス」を手掛けるのはNECグループのフォーネスライフ(東京都)。同社によると、「対象のタンパク質は約7000種類に上り、これを総合的に評価することで、一つ一つを個別に評価するだけでは分からなかった病気の手がかりを予測できる」という。

そして、清家勝代さんら保健師のフォローが欠かせない。都内のIT企業に勤める岡田弘樹さん(仮名=40代後半)の検査例をみてみよう。

岡田さんの検査結果は、4年以内の心筋梗塞・脳卒中発症リスクは2・59%と、2番目に低い判定。メタボの元凶となる内臓脂肪は通常、CT検査等でしか分からないが、これも少量の採血で測定でき、岡田さんは1455グラムで、2番目に多い判定。しかも、アルコールの影響は「大」との判定だった。

この血液検査は結果が出てからが勝負。「フォーネスビジュアス コンシェルジュ」と呼ばれる保健師のフォローがあり、生活習慣改善に向けて動き出す。

保健師の中心的メンバーである清家さんは、「お酒の飲みすぎで内臓脂肪も多いのは典型的な中年のパターン。動脈硬化を経て心筋梗塞などに発展する危険性がある」として週2日の運動と、食生活・飲酒習慣の改善を助言した。

岡田さんは休日などにウオーキングを開始。さらに週に1回、スマホアプリを使ってヨガ(初級~中級20分程度)も始めた。食事面では、野菜から食べ始め(べジファースト)、プチ糖質制限も導入。

課題のアルコールは、毎日2本のビール(500ミリリットル缶)を1本は糖質ゼロに、もう1本は平日だけノンアルコールに変更するという涙ぐましい努力を実践。すると、3カ月後には体重が4キロ減少するなどの変化が現れた。

岡田さんにスイッチが入った要因を清家さんは2つ挙げた。

①血液検査でさまざまなデータが可視化された ②取り組みやすく効果的な生活習慣改善に着手できるようにコンシェルジュの後押しがあった

「好きなものをすべてやめるのは難しい。ビールを一部ノンアルに変えるなどの取り組みは、その気になれば、他の中高年の方もできることかもしれない」と話した。(取材・佐々木正志郎) =あすにつづく

■清家勝代(せいけ・かつよ) 保健師。大分県出身。京都府立保健婦専門学校(現・京都府立医科大学医学部看護学科)卒。1982~2002年大分県佐伯市勤務。企業勤務を経て現在は、フリーで産業保健領域の総合コンサルタントとして活動するとともに、血液から疾病の発症確率を予測する検査サービス『フォーネス ビジュアス』のコンシェルジュとして、受検者にアドバイスをしている。

健康カフェ (胸が痛い…普通ではない狭心症とは

50代後半の男性患者さんが胸の痛みを訴えて受診しました。数カ月前から朝方に時々軽い胸の痛みが出るようになり、最近頻度が増してきていました。その日の朝には強い痛みを感じたため、慌てて受診したそうです。しかし診察時にはすでに胸の痛みは消えており、心電図も胸部レントゲンも特に異常は見られませんでした。喫煙以外、健康診断でも異常は指摘されていないそうです。ただ症状などから狭心症の可能性が否定できないため、すぐに循環器科がある病院へ紹介しました。

胸の痛みと聞くと、多くの方は狭心症や心筋梗塞といった心臓病を思い浮かべるでしょう。典型的な狭心症は、動脈硬化で心臓に栄養分を送る冠動脈の内腔(ないくう)が狭くなることから起こります。心臓の筋肉(心筋)が必要とする分の血流を確保できなくなると、心筋は一時的に血液不足となり、痛みや息苦しさといった症状を引き起こします。また血管が閉塞(へいそく)し、そこから先の心筋が壊死するケースを心筋梗塞と呼んでいます。特に心筋梗塞では早急な治療が必要です。

この男性患者さんは詳しい検査の結果、冠動脈の狭窄(きょうさく)による典型的な狭心症ではなく、冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症という診断に至りました。これは、何らかの刺激に対して冠動脈が縮こまってしまい、心筋への血流が減ってしまうために起こるもので、特に日本や韓国など東アジアの人に多いことが報告されています。また比較的女性に多いともいわれています。症状は夜間から明け方に出ることが比較的多いようです。

攣縮が起こるきっかけとしては喫煙が最も強く関係していると考えられており、ストレスや寒さ、過呼吸、飲酒なども挙げられます。まれに心筋梗塞や致死性不整脈を引き起こしますが、おおむね予後は良好な病気です。ただ胸の痛みや苦しさは不快なものですし、不安をもたらすものでもあるため、生活の質を落としてしまう病気ではあります。

治療は、喫煙する人は何はともあれ禁煙です。また、睡眠不足や過度のストレスを避けることや節酒といった生活習慣の改善も必要です。薬は主にカルシウム拮抗(きっこう)薬という種類の降圧薬を使います。

この男性も入院をきっかけに禁煙し、投薬治療も開始となりました。その後はうそのように症状が出なくなったと喜んでいました。苦しい思いをするきっかけになったと知って、たばこはもう全く吸う気にならないそうです。

(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)

突然胸の痛みが…「狭心症」、放置すれば心筋梗塞や突然死の恐れも

締めつけられるような胸の痛みが突然起こる狭心症。しばらくすると治まり、その後症状がない例も多い。ただ心筋梗塞や突然死につながる可能性はある。もう痛みがないからと放置せず、医療機関を受診しよう。

狭心症では心臓に血液を送って酸素や栄養を届ける冠動脈の一部に異常が起こり、胸の痛みが起こる。冠動脈が狭まって血液が流れにくくなったり、冠動脈に異常なけいれんが起こったりする。

冠動脈に脂質の一種であるコレステロールなどがたまっていくと、「プラーク」と呼ばれる膨らみができる。この状況で運動など負荷がかかって起こるのが「労作性狭心症」だ。進行すると、プラークが裂けるなどして血栓(血のかたまり)ができて、さらに血流が悪くなる。これが「不安定狭心症」。血管が詰まって血流が途絶える心筋梗塞になりやすい状態だ。

脂質異常症や高血圧など生活習慣病が関係しているとされる。昭和大学医学部の木庭新治教授(循環器内科学)は「なかでも不安定狭心症は短期間で心筋梗塞を引き起こす危険性が高い」と説明する。

冠動脈にけいれんが起こる「冠攣(れん)縮性狭心症」は必ずしも運動などに伴って痛みが起こるとは限らない。夜間から早朝に起こる例が目立ち、目が覚めてしまう場合もある。原因は明らかになっていないが、喫煙やストレスなどが関係すると考えられている。

木庭教授は「血管が狭まっている部分がけいれんして心筋梗塞につながる場合がある。危険な不整脈を起こせば、突然死の原因にもなり得る」と強調する。

© NIKKEI STYLE

どのタイプにも共通する主な症状は締めつけられる、圧迫されるような胸の痛み。胸以外に肩や喉、奥歯、背中、みぞおちなどが痛む例もある。労作性狭心症の場合は普段利用する駅の階段や坂道で痛みが出て見つかることが多い。通常は少し休むと痛みが引くが、長引くようになったり、起こる頻度が増したり、安静時にも起こるようになったりしたら、不安定狭心症に進んでいる可能性がある。

循環器を専門とする小岩医院(東京・江戸川)の海老原敏郎院長は「胸痛が30分以上続く場合、ためらわず救急車を呼ぶべきだ。心筋梗塞を起こすとダメージが大きく、その前に治療するのが大切になる」と助言する。

突然死を招く「狭心症」医師が語る“知っておくべきポイント”

がんに次いで死亡率の高い疾患として知られる、心疾患。働き盛りを襲う突然死の半数以上が心臓のトラブルによるものとあり、その主要な原因である「狭心症」の予防は、高齢世帯はもちろん、若年層においても特に注意が必要です。

今回はニューハート・ワタナベ国際病院の渡邊剛(わたなべ ごう)院長が、その症状の概要や、注意すべきリスク因子や検査・治療方法について解説します。

【1】狭心症とはどんな病気?
狭心症とは、心臓を栄養する冠動脈という血管が狭くなり、心臓を動かす筋肉(心筋)に十分な酸素や栄養分が届かなくなる病気です。冠動脈は3本あり、詰まった箇所が多いほど重篤です。

■狭心症と心筋梗塞の違い
狭心症によく似た病気に心筋梗塞があり、違いは表のとおりです。

血管が塞がってしまい酸素と栄養分が届かないと、詰まった先の心筋が壊死してしまいます。壊死した心筋は再生しないので、心筋梗塞のほうがより危険です。また、狭心症ではない人が突然心筋梗塞を起こす場合もあります。

■狭心症の種類
狭心症には大きく3つの種類があります。

1.安定狭心症
階段を上がったり、重いものを持ったり、運動をしたり、心理的なストレスを受けたりしたときに、胸に痛みや圧迫感を感じます。力仕事や運動をしたり、ストレスを感じたりすると、それに応じて、体内にたくさんの血液を送り出そうと心筋が活発に働き始めますが、血管が細っていて血液供給が追いつかず、胸の痛みなどの症状が出るのです。毎回、ほぼ同じ程度の運動やストレスで生じます。

2.不安定狭心症
安定狭心症と違い、痛みが強くなる、発作の回数が増える、少しの動作や安静状態でも発作が起こるといった、痛みのパターンが変化します。それまで症状が安定していた人にそうした変化が現われたら、冠動脈が急速に狭まりつつあることを示している可能性があるので危険です。すぐに救急車を呼ぶか、早くかかりつけの病院を受診してください。

3.異型狭心症
夜、寝ているとき(特に明け方)や、昼間、安静にしているときに、胸痛発作を起こします。多くの場合、冠動脈が一時的に痙攣を起こして収縮し、血流を途絶えさせることによって起こります。大した動脈硬化がないのに起こることがあります。

■狭心症の原因
狭心症の原因は、ほとんどが生活習慣病による動脈硬化です。動脈とは心臓から送り出される血液を全身に運ぶ血管のことで、その動脈が、糖尿病、高コレステロール血症、高血圧などのさまざまな要因で柔軟性を失い、硬くなってしまった状態を動脈硬化といいます。動脈硬化が進むと、血管の厚みが増し、血管を狭めるので、狭心症の原因となります。

また、血管壁にコレステロール等が溜まって、血管壁の内側にコブのようなものができます。こうしたコブが大きくなって破れ、急速に血の塊(血栓)ができて血管が塞がれてしまう状態が、心筋梗塞です。

■狭心症のチェックリスト
狭心症のリスク因子には以下の8つがあり、プラス項目が多い程リスクは上がります。

1.高コレステロール血症(高LDL血症)
2高血圧
3.高尿酸血症
4.糖尿病
5.タバコ
6.肥満
7.ストレス
8.家族歴(心筋梗塞の親族がいる事)
です。

自らの生活習慣を変えることで1~7までのリスクは減らすことができます。

■狭心症の予防と食事・運動
狭心症の予防は、動脈硬化を起こさないための生活習慣の改善が一番です。狭心症の治療をした方でも、動脈硬化を呼ぶような生活習慣を続けていると、いずれ狭心症や心筋梗塞を再発する恐れがあります。

【食事】
バランスの良い食事を心がけましょう。塩分・糖分・脂肪分の取りすぎはよくありません。

【運動】
ウォーキングなど呼吸をしながら行なうような有酸素運動を日課にとりいれましょう。息が切れない、軽く汗をかく程度の運動を、少しでも毎日続けることで動脈硬化は防げます。

【ストレス】
ストレスは動脈硬化を起こしやすいといわれています。ストレスは発作の引き金になる場合もありますので、できるだけ早めに解消できるように工夫しましょう。

【禁煙】
喫煙は、血管を傷つけたり収縮させたりするだけでなく、血圧が上がり脈拍が増えます。また、副流煙は周りにいる人たちにまで健康被害をもたらしますので、喫煙習慣は断ち切りましょう。

■狭心症の症状
狭心症の症状は、主に胸の痛みや、締めつけられるような圧迫感です。一般的に、坂道や階段を上ったり、重い荷物を持ったりした時、心理的なストレスを受けたり、急に寒いところに移動したりと、心臓に負担のかかるような行動をとったときに症状が出ます。

痛む場所は、主に胸の中央部から胸全体にかけてで、重圧感、圧迫感、絞扼感(締めつけれらるような感じ)を伴います。ときには背中や上腹部、左腕の内側などが痛むことがあり、また、まれに首や顎に痛みが出ることもあります。

呼吸が苦しい、冷や汗や脂汗が出る、吐き気がする、胃が痛むといった症状を訴える人もいます。胆石症(胆汁の通り道の胆道に結石ができる病気で、激しい腹痛を起こします)と診断されたのに、実は狭心症だった、というようなケースもあります。

安静にしていれば治まることが多いので、軽く考えて放置してしまう人が少なくありません。胸の違和感や軽い痛み、あるいは胸が締めつけられるような強い痛みが一度でもあったら、狭心症や心筋梗塞の前兆かもしれませんので、医師に相談したほうがいいでしょう。

【2】狭心症の検査方法
狭心症の検査・診断方法としては、以下のようなものがあります。

・心電図検査
心電図とは、心臓の電気活動をグラフの形に記録するものです。胸に電極を付け、安静にしてもらって心電図をとります。この検査をすると、心臓の拍動の状態(収縮・拡張している状態)が把握でき、過去に心筋梗塞を起こしていなかったか、なども分かります。
狭心症では発作が起きてから、病院に行くまでに患者が元の状態に戻ることが多いため、正常に測れないことがあります。そのため、狭心症が疑われる場合は、発作時の状態を調べるために、運動をしてもらって心電図を測る、「運動負荷試験(心電図)」を行うことがあります。

・運動負荷試験
運動をしてもらいながらとる心電図検査です。トレッドミル(ベルトコンベアー状のベルトの上を歩行する器具)や自転車エルゴメータ(スタンド式自転車のペダルをこぐ器具)などを使って運動します。
発作中でない状態では心電図が正常なことがあるため、狭心症が疑われる場合は、運動をしてもらいながら心電図をとります。

・心エコー検査
心エコー検査は、超音波(エコー)を使って心臓の状態を探るものです。超音波というのは、人の耳には聞こえない高い周波数の音波で、これを体に当て、体内の臓器や血液が流れる様子を映し出します。放射線ではないので被曝の心配がなく、妊娠中の女性でも受けられます。

・ホルター心電計
ホルター心電計とは、携行用の小型心電計です。胸に電極を貼り付けたままにして、日常生活における心臓の状態を把握します。これを装着すれば、深夜から早朝までの普段測れない時間帯を含めた、24時間の心電図をとることができます。

・血液検査
血液検査で心筋梗塞を確認することができます。狭心症では血液検査をしても異常は現われないのですが、心筋梗塞では、心筋が壊死する際に心筋細胞から酵素が血液中に漏れ出るので、それを調べます。

・冠動脈造影検査
冠動脈をレントゲン撮影する検査です。股の付け根や手首等から、動脈にカテーテルと呼ばれる細い管を入れ、冠動脈にまで持ってゆき、これを通じて造影剤を注入し撮影します。

・冠動脈CT(コンピュータ・トモグラフィ)検査
最近では、ごく短時間で心臓の断層を撮影し、三次元画像で表わすことが可能になりました。造影剤を注入して撮影する点はカテーテルを使った「冠動脈造影検査」と同じですが、カテーテル検査では動脈をさすので入院が必要なのに対し、こちらは静脈注射だけなので外来で受けられます。

・心筋シンチグラム検査
放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)を体内に注入し、それを標識として心筋の血液の流れを計測するコンピュータ断層撮影です。心臓核医学検査とも言われます。

【3】狭心症の治療方法
1)投薬による治療
薬を服用することで治療する場合は、下記のようなものがあります。

・ニトログリセリン
ニトログリセリンは、狭心症の発作が起きたときに、応急処置として飲む舌下錠です。舌の下に入れて溶かすと、すぐに体内に吸収され、1~2分で発作を抑えます。一時的に血管を拡張させる作用があるからです。ただし、持続性のない救急用の薬なので、治療薬は別に求めなければなりません。また、救急用としても、狭心症には効きますが、血管がつまってしまった心筋梗塞にはあまり効果がありません。

・抗血小板薬
代表的な抗血小板薬はアスピリンです。「抗血小板療法」は血液が固まるのを防ぐことで冠動脈の血流を良くします。また、血管内皮を安定させます。

・硝酸薬・カルシウム拮抗薬
硝酸薬やカルシウム拮抗薬は、冠動脈を拡張させることで血流を改善します。

・交感神経ベータ遮断薬(ベータ・ブロッカー)
交感神経ベータ遮断薬は、心拍数や心収縮力を下げることで心筋酸素消費量を減らすことで、狭心症を改善します。

ごく軽い狭心症では、こうした薬物治療だけでよい場合もありますが、一般的には、薬だけで軽快することは難しく、カテーテル・インターベンションや冠動脈バイパス手術を選択する必要が出てきます。

2)手術による治療
手術方法は、大きく2つの方法があります。内科的治療のカテーテル・インターベンション(PCI)と、外科治療の冠動脈バイパス手術(CABG)です。

1.カテーテル・インターベンション(PCI)
カテーテル(細い管)を冠動脈に挿入して行なう手術です。現在、1枝病変では、カテーテル・インターベンションを行なうことが多くなっています。「冠動脈造影検査」と同様、手や足から動脈にカテーテルを入れ、冠動脈まで持ってゆき、カテーテルの先端に装着したバルーン(風船)やステント(筒状になった網目の金属)を使って血流を改善します。
ステントを使う場合は、バルーンの先端にステントを折りたたんだ状態で装着し、冠動脈の狭まった箇所まで持っていって膨らませます。
バルーンが膨らむと血管が押し広げられます。その状態でバルーンをしぼませ、抜き取ると、血管が押し広げられたままの状態で残ります。こうして血流を改善します。

長所:
・体にメスを入れるわけではないので、外科手術に比べ体の負担が軽い
・数日の入院で手術を済ませることができる

短所:
・ステントの周りに血栓を生じやすい
・血栓ができると、せっかく広げた血管をまた塞いでしまう

1枝病変では力を発揮するが、2枝病変や3枝病変、あるいは他の疾患も合併しているような、より重篤な症状の場合は、外科手術でなければ対応できない。
1か月に1か所しか健康保険が認められないので、月をまたいで1本ずつ治療をするために、一度に治せない不利益もあります。

2.冠動脈バイパス手術(CABG)
冠動脈の、詰まったり狭くなったりした箇所を飛び越えて、新たな血管(バイパス)を繋ぐ手術です。迂回路にする血管を体の別のところから切り取ってきて、一方を大動脈に繋ぎ、もう一方を、詰まったり狭くなったりした箇所の先に縫い付けます。バイパス迂回路用の血管は、以前は足の静脈を用いることが多かったのですが、10年くらいでまた詰まるケースが多いことが分かってきて、現在では胸や胃、上肢の動脈を使うようになりました。

長所:
・新しい血管を設置するので、血流が完全に改善される
・2枝病変や3枝病変、あるいは他の疾患も合併しているような、重篤な症状にも対応できる

短所:
・執刀医の腕が問われ、下手な外科医にかかると命の危険があり、つないだバイパスが閉鎖することもある。
・手術時間が長くなると合併症を起こす危険性が増す。通常2-3時間で終了するのが目安。

同じ冠動脈バイパス手術(CABG)でも、いろいろな手術の方式があります。

麻酔方法 - 冠動脈バイパス手術(CABG)は全身麻酔で行なうのが一般的ですが、局所麻酔で行なう手術方法もあります。

アウェイク手術(CABG)
全身麻酔をかけず、胸部にのみ局所麻酔をかけて行なう手術です。全身麻酔は体に大きな負担をかけるので、重症の呼吸不全や脳梗塞を患っている人、あるいは高齢者では、心臓手術が必要と分かっていても踏み切れないケースがしばしばあるのですが、局所麻酔(硬膜外麻酔)なら体の負担が軽いので、手術することができます。

ただし、麻酔医に高度の腕が要求されます。
手術中、患者に意識があり、医師と言葉が交わせます。「アウェイク」とは覚醒している(目覚めている)ということです。

渡邊剛(わたなべ ごう)
医療法人社団東京医心会 ニューハート・ワタナベ国際病院 院長1984年 金沢大学医学部卒業。
日本の心臓血管外科医、医学博士。ニューハート・ワタナベ国際病院総長、日本ロボット外科学会理事長、日伯研究者協会副会長、自由が丘クリニック顧問、元金沢大学心肺・総合外科教授。傷口の小さいロボット心臓手術を世界で一番執刀している。心臓病治療に悩んでいる方のために、ホームページから無料ネット相談を行っている。

心筋梗塞・狭心症の前触れは?心臓以外にも現れる「見落とせないサイン」

虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)は、心臓を動かすための栄養を送る血管が詰まり、全身に血液を送れなくなる病気です。詰まる場所によって様々な症状が現れますが、一度で死に至ることもある危険な病気です。

ライフスタイルの変化で増えた虚血性心疾患
日本人の死因の第一位はがんですが、それに次いで多いのが心臓の病気です。なかでも虚血性心疾患は、近年増加傾向にあります。虚血性心疾患の要因としては、加齢や遺伝、そしてライフスタイルの変化があげられます。

虚血性心疾患は、心臓の血管(冠動脈)を詰まらせることで起こりますが、その詰まりの原因は“動脈硬化”です。動脈硬化は突然起こるわけではなく、数年をかけて血液中に余分な脂肪がたまり、血管の内側の壁にプラークという塊を作り、それがコブとなって血流を妨げるのです。この動脈硬化を招く最大の原因が、ライフスタイルの変化です。

日本人の食生活は、低カロリー・低脂肪から、欧米のように高カロリー・高脂肪へと変化しました。これによりコレステロール値は増加、余った脂肪が血管でプラークとなります。さらに、車での移動やエスカレーターなど近代化で運動量は減少、情報化社会のなかではストレスも大きな問題です。

ただ、ライフスタイルに大きな原因があるのなら、虚血性心疾患は予防することもできるということ。粗食とまではいかないまでも、カロリーや脂肪、塩分に気をつけて摂る量を加減する。エスカレーターは使わず階段にする。

ストレスはあると感じたら発散し、ためないようにする。これらのことを心がければ虚血性心疾患にかかるリスクを大幅に減らすことができます。また、喫煙は血流を悪くするので、心臓を守るためには禁煙することも必要です。

虚血性心疾患から身を守る見落とせないサイン
動悸や息切れ、胸の痛みなどはわかりやすいサインですが、まれに心臓以外にも異変が現れることがあります。たとえば、肩が痛い・肩が凝る、背中が痛い、みぞおちが痛む、声がかすれる、奥歯が痛い、手足がむくむなど。

これらは放散痛といい、心臓とは関係ないと思われる部分に現れる症状で、特に、左腕や左肩に痛みが出るケースが多くあります。いつもと違う肩凝りや、長引く歯痛の場合には、心臓に異常が隠れているかもしれませんので、早期の専門医受診をおすすめします。

また、痛みが出る前や心臓に負担がかかる前に、定期健康診断で肥満ではないか、血圧は正常か、コレステロール値は高くないか、血糖値は高くないかなどをチェックすることも大切です。40歳をすぎるとリスクも高くなってきますから、十分な健康管理が必要です。

いざという時にはAEDで救命できる
AED(自動体外式除細動器)は、心臓がけいれんを起こして全身に血液を送れなくなった時(心室細動や心室頻拍)、心臓に電気ショックを与えて心臓のリズムを正常に戻すための医療機器です。以前は医療従事者でなければ使えませんでしたが、2004年から一般に使うことが認められるようになり、今では公共機関をはじめとして、多くの施設でAEDが設置されています。

使用制限が緩和され多くの施設に設置された理由は、救命率を上げるためです。心停止してからの救命率は1分ごとに7~10%低下するといわれています。令和2年の総務省の調査では、救急車が到着するまでの時間は平均およそ8.7分。

救急車到着までの間に心臓マッサージと人工呼吸に加えて、AEDを使い心肺蘇生を行えば、救命率は上がります(次段落の図参照)。特に倒れた瞬間に近くの人が心肺蘇生を行った場合の救命率が高くなります。

心肺停止のなかには電気ショックが適応しない場合もありますが、その判断は自動でAEDが行ってくれるので心配することはありません。たとえ妊婦に対してでも使用可能です。音声ガイドや液晶表示、AEDのケースに使用方法の図などの解説もありますから、いざというときにはAEDを積極的に活用したいものです。

なお、子どもの場合は心臓が小さいので、まず人工呼吸をして救急車を手配し、その際に AEDの使用について確認をとることをおすすめします。

一般市民により 除細動(AED)が実施された件数の推移

青の棒グラフ:全症例のうち一般市民により除細動が実施された件数
オレンジの棒グラフ:一般市民により心肺機能停止の時点が目撃された心原性の心肺停止症例のうち、一般市民により除細動が

実施された件数
赤の折れ線グラフ:一般市民により心肺機能停止の時点が目撃された心原性の心肺停止症例のうち、一般市民により除細動が

実施された症例の1か月後の生存率
青の折れ線グラフ:一般市民により心肺機能停止の時点が目撃された心原性の心肺停止症例のうち、一般市民により除細動が

実施された症例の1か月後の社会復帰率
(東日本大震災の影響により、平成22年及び平成23年の釜石大槌地区行政事務組合消防本部及び陸前高田市消防本部のデータは除いた数値により集計)総務省消防庁のホームページより引用

日本のサラリーマン「月曜に心筋梗塞」ほかの曜日より30%も多かった

日曜日夕方6時半と言えば「サザエさん」。そんな光景が日本では45年前から続いている。サザエさんと言えば「ほのぼの」や「温かい」というイメージがあると思うが、それを見ることでネガティブな気持ちになることがある。それが「サザエさんシンドローム」。

決してサザエさんが嫌いなのではなく、サザエさんを見ると、また月曜からの1週間が始まる悲しい気持ちになる状態である。そしてその翌日に迎えるのは「ブルーマンデー」。

今回はそんな「月曜のリスク」について考えてみよう。
□交感神経と副交感神経の働き

1週間の始まりで、少しナーバスになり、気分が落ち込む「ブルーマンデー」。体の中では何が起こっているのだろう。

おそらく自律神経という言葉を聞いたことのない人は少ないだろう。自律神経には、交感神経と副交感神経がある。ざっくりと言うと、副交感神経は体と心を休ませる方に働き、交感神経は、緊張したり頑張ったりしているときに働きやすい。交感神経は「闘争」あるいは「逃走」のシチュエーションで働きやすいと言われている。
□月曜の朝は交感神経が非常に活発になる

通常、夜寝ているときに副交感神経が優位になり、起きているときは交感神経優位になる。ただし、週末には闘争も逃走も必要なく、起きていても副交感神経が優位になることが多い。

月曜の朝はどうだろう。多くの人が、週明けの仕事や人間関係において「闘争」しなければならない。心の中では「逃走」したくてもできない。そんな状況で週末休んでいた交感神経を無理やり働かせることなる。
□月曜は心筋梗塞と脳卒中のリスクが非常に高い

交感神経は「闘争」あるいは「逃走」のために体を準備させるものである。

そのため、血圧が上がり、心臓への負担が大きくなる。特に月曜日は心理的ストレスが大きく、交感神経の活動が強くなる。

そのときのリスクが「月曜のリスク」と言われるものである。実際に、脳卒中の発生リスクはすべての曜日の中で月曜がトップである。また日本のサラリーマンで特に男性では心筋梗塞の発症が他の曜日より30%も高いという報告もある(※1)。

月曜のリスクについては理解してもらえただろうか? 気分が乗らない「ブルーマンデー」だけなら仕方ないが、心筋梗塞や脳卒中になってしまうと大変である。月曜日は特に注意をして、緊張やストレスがたまりすぎないよう予定を調節したり、リラックスグッズなどを準備したりした方がいいかもしれない。病気で倒れて「ブラックマンデー」になってしまわないようにしてほしい。

「左だけ肩こり」は心筋梗塞が原因? 上半身の病気のサイン

上半身に出る体調不良のサイン

上半身に出る体調不良のサイン

写真2枚

 何か体に異変を感じても、面倒くさいからと病院に行かない人も多いだろう。ましてや、新型コロナウイルスの感染拡大で、“院内感染”を恐れて、病院から足が遠のいているというケースもあるかもしれない。だが、「些細な体調不良が、死に至る病のサインであることは少なくない」と話すのは、『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)の著者で循環器内科の名医・秋津壽男氏だ。秋津医師の監修のもと、「絶対に見逃してはいけないSOSサイン」を紹介する。


 年を取ると肩や腕に出る痛みやコリ。痛みが「片側」か「両側」かに注目する。

「左肩にだけコリがあり、治まらないようなら心筋梗塞の可能性があるため、早いうちの受診を勧めます。心臓の痛みは左半身の痛みとして脳に伝わることが多い。肩に出やすいのですが、耳からへそあたりまでの左半身に痛みを感じたら心臓の異変である可能性があります。両肩や二の腕を動かした時にピリピリした痛みを感じたら、胸膜にできた肺がんが疑われます」(秋津医師、以下同)


 意外なサインがあらわれるのが「手の平」だ。

「肝臓の異常を示す黄疸は、まず手に出ます。手の平が黄ばんでいたら肝臓がんの可能性がある。冬場にみかんを食べる人も手の平が黄色くなりますが、見分けるポイントは、黄疸は濁ったオレンジ色になることです」誰にでもある腹痛は「いつ、どの箇所に痛みが出るか」が重要。「油物を食べると右脇腹がシクシク痛む」場合は、胆石症を疑うべきだ。


「油物をよく食べる人は、胆嚢がより多くの胆汁を出そうと収縮する。そのときに胆石が管に入っていくことがあり、管の出口が詰まって胆嚢が破裂すると腹膜炎になってしまう。腹膜に炎症が起きると全身に菌が広がりやすく、敗血症で命を落とすこともある」

※週刊ポスト2020年10月16・23日号

首から上の「体調不良サイン」

首から上の「体調不良サイン」

石原慎太郎も実証!?“耳たぶのシワ”は脳梗塞のサインかも

「自覚症状が出ていなくても、病気のサインは顔に表れています」

こう話すのは『顔を見れば隠れた病気がわかる』(マキノ出版)の著者、「みうらクリニック」の三浦直樹医師だ。

「眉間と目は肝臓、目の下は腎臓、鼻は心臓、頬は肺、唇は胃と腸といった具合に、顔のパーツと内臓には相関関係があります」(三浦先生・以下同)

これらの位置に血色、膨らみ、へこみ、シワ、シミ、吹き出物といった急な変化が見られたら、その関係する内臓に不調が出るという。

自分でチェックできる「顔でわかる病気のサイン」、なかでも重篤な症状につながるものを三浦先生に聞いた。女性はお化粧や外出前などに、鏡を見る習慣があるので、こうした変化に気をつけてみよう。

■肺気腫など肺の疾患

肺の機能が低下すると頬と眉に変化が表れる。

「頬に黒ずみができる人は、姿勢が前かがみになっている人、口呼吸をしている人に多いです。深い呼吸ができず、肺の機能が低下しているからです。喫煙者はなおさらです。太っている人も、胸骨のまわりの脂肪が肺を圧迫して、頬が黒ずんできます。また眉間に横ジワができるのは、肺の下部に悪いものが滞っているしるしです」

ひどくなると、肺炎や肺気腫になるから要注意だ。次のエクササイズを参考に、肋骨を開いて肺の可動域を広げよう。

【エクササイズ】
鎖骨と第2肋骨の間を指でほぐす。さらに第2と第3肋骨の間、第3と第4肋骨の間もほぐしておくと深い呼吸ができるようになる(左右とも)。

■脳梗塞・脳出血

耳で最も特徴的にサインが出るのが耳たぶ。ここにシワがあると動脈硬化が考えられる。特に、遠目から見てもわかるほど深くシワが入っている場合は、脳梗塞や脳出血のリスクが高いので、早急に医療機関で脳ドックの検査をし、血液がサラサラになるような食事や運動、次のエクササイズなど、予防に努める必要がある。

「’15年に石原慎太郎・元東京都知事が脳梗塞で倒れました。その数年前の写真を見たら、耳たぶのシワはそれほどでもなかったのですが、倒れる直前は耳が切れそうなほど深くなっていましたね」

【エクササイズ】
肩のラインの延長線上、腕のつけ根部分のコリコリとした滞りを指でほぐす。耳たぶにシワが現れている側を重点的に。肩甲骨周り、耳の上の側頭部もほぐしておくとよい。

シワの部分をマッサージするのもよいそうだ。

「シワの原因は、どこかで血流が遮断されているからです。シワの部分をマッサージしたり、耳たぶを引っ張ったりすることで血流改善につながるでしょう」

■糖尿病

眉の右寄りに縦ジワができたり、眉間(やや右寄り)が膨らんできたときは、糖尿病を疑おう。次のエクササイズは、インスリンの分泌を促す働きがあるので、ぜひ試してほしい。

【エクササイズ】
右の太ももの内側、膝と鼠径部の中間を指でほぐす。さらに右側頭部の耳の上から額に向かってこすると、インスリンの分泌が促進される。

■腎不全などの腎臓疾患

腎臓は、老廃物を排せつし、解毒のために働いてくれる臓器で、目の下と関係する。目の下に膨らみやたるみが現れたり、クマができると、腎臓の機能が低下しているサイン。腎臓の働きが弱まると、腎臓結石、腎臓肥大、腎不全などを発症する。次のエクササイズのほかに、海藻類を取るようにしたり、腎臓周辺を温めるといい。

【エクササイズ】
太ももの内側、膝から鼠径部までを4等分した最も膝よりの部分を指でほぐす(左右とも)。この部分に「血海」という腎臓の血流改善のツボがある。

顔のサインから、病気を未然に防ごう!

気づいておくべき心筋梗塞や脳卒中の初期症状 胸の痛み、震えに注意

新型コロナウイルスの感染拡大によって、“受診控え”という現象が起きている。外出自粛の生活のなかで、持病や軽い症状があっても病院で受診するのをやめる人が増えているのだ。その結果、重い病気の兆候に気づくことができない可能性もある。


なかには、病院から足が遠のいたがために、心筋梗塞や脳卒中などで命を落とすケースもある。日本生活習慣病予防協会によれば、心筋梗塞を含む心疾患による死者数は20万4837人で、全体の15.3%を占め(2017年)、がんに次ぐ日本人の死因第2位。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんはこう解説する。


「心筋梗塞の初期症状は、経験したことのないような胸の痛みと冷や汗。これが出たらすぐに病院に行ってください。特に高血圧や糖尿病の持病のある人、肥満、コレステロール値が高い人などは普段から注意が必要です」


さらに初期症状として肩や首、歯の痛み、左上半身の痛みなどが出ることもある。日本人の死因第3位で、1年間の死者数10万9880人、率にして8.2%に達するのが脳血管疾患だ(2017年・日本生活習慣病予防協会)。その内訳を見ると、脳梗塞が最多で6万2122人。性別では男性2万9494人に対し、女性が3万2628人と、女性の方が多い。


脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血など、脳の血流が障害されることで神経細胞がダメージを受ける病気を総称して脳卒中と呼ぶ。新潟大学名誉教授の岡田正彦さんはこう語る。「短時間のめまいやろれつが回らない現象を一過性脳虚血発作と呼びます。一過性の名前の通り30分以内で回復しますが、この症状が複数回続いた後に、脳卒中で倒れるケースが多い。症状が重いようなら迷わず病院に行きましょう」

ほかにも次のような症状が出たら、脳卒中を疑う方がいいという。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんはこう語る。


「初期のサインとして、手が震えて箸を落としてしまう、足が震えて歩きにくい、まっすぐ歩けないといった『震え』が起こることがある。めまいや頭が重いというのも脳卒中の初期症状の可能性があります」(一石さん)ステイホームが増え、肥満傾向が強まれば、心筋梗塞や脳卒中のリスクもそれだけ高まるという。コロナ禍のいまだからこそ、「危険なサイン」を見逃さないようにしたい。

※女性セブン2021年4月8日号

ああ

サインは病気によってさまざま

毎日のコーヒーは諸刃の剣、糖質制限減量もやり過ぎ注意

 心疾患(心臓病)は、日本人の死因2位を占める。心臓の機能が低下して、全身に充分な血液を送り出せなくなる症状の総称を「心不全」といい、不整脈や心筋梗塞など、その原因はさまざまだ。

 みなみ野循環器病院院長の幡芳樹さんは「高血圧の人は心疾患になりやすい」と話す。

「高血圧とは、心臓から血液を送り出すために強い力がかかっている状態を指します。それが続くと、筋トレで手足に筋肉がつくのと同じ原理で、心臓の筋肉が厚くなる『心肥大』が起きます。初期は動悸や息切れがする程度ですが、放っておくと、心臓のポンプの働きが弱くなる『心不全』になる。今後、患者数はさらに増えていくと考えられています」(幡さん・以下同)

 実際に、心不全の患者数は全国推定で約120万人。2030年には130万人に達するといわれている。

◆糖質制限すると塩分が増えがち

 近年人気の糖質制限ダイエット。ただし、やりすぎは禁物だ。

 国立国際医療研究センターの2013年の発表によれば、糖質制限を5年以上続けると死亡率が1.3倍に上がるという。

「過度に糖質(炭水化物)を制限すると、たんぱく質・脂質・糖質のバランスが崩れ、体の調節機能が低下して、病気にかかりやすくなる」

 健康のために、厚労省は1日に「野菜350g、果物200g、魚80g」を摂取し、食塩は「男性は8g未満、女性は7g未満」を推奨している。一方で、厚労省の研究班(滋賀医科大学の三浦克之教授ら)の研究によれば、野菜・果物・魚が推奨量の半分以下で、食塩が基準値以上だと、心疾患リスクが2.87倍にも高まると報告されている。

「糖質制限をすると、塩分量が増えがちです。主食の米やパンを減らすので、空腹を満たすために、しょうゆや塩で味つけしたおかずの量が増える。すると高血圧になり、心疾患のリスクも高まります」

 群星沖縄臨床研修センター長で総合内科医の徳田安春さんは「肉の食べすぎにも注意してほしい」と話す。

「赤身肉、特に添加物たっぷりの加工肉には飽和脂肪酸が含まれている。これは血管の壁に脂肪を沈着させ、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化が進んで血栓ができると、心筋梗塞につながる。たばこと同じくらい体によくないと考えるぐらいでいいでしょう。もし、どうしても糖質制限をしたいなら、野菜、豆、ナッツ類をメインに食べてください」

◆毎日のコーヒーは諸刃の剣

 動脈硬化を防ぐことで有名な「ポリフェノール」。ワインやチョコレートだけでなくコーヒーにも含まれるが、たくさんコーヒーを飲めばいいというわけではない。サウスオーストラリア大学の研究で、こんな報告がある。

「1日に1~2杯以上コーヒーを飲む人」に比べて「全くコーヒーを飲まない人」と「1日6杯以上飲む人」は、どちらも心血管疾患リスクが高い傾向にあった。カフェインを過剰摂取すると、心拍数や血圧を上昇させるからだ。

 幡さんは「適度なら、心疾患を予防する効果が期待できる」と話す。

「コーヒーに含まれるポリフェノールには、動脈硬化の進行を抑える作用があるとされています。カフェインには心身のリラックス効果もあるので、1日3~4杯ほどにとどめましょう」

血液検査は正常 それでも心筋梗塞のリスクが高い人は?

新連載【進化する糖尿病治療法】

 最近の糖尿病の患者さんは、糖尿病や血糖値に関して高い意識を持っています。医師も、糖尿病専門医でなくても、やはり意識が高い。そして、テレビ、雑誌、新聞などでは、糖尿病対策に役立つ食事法などの情報があふれています。そういう状況の中で、私たち糖尿病専門医や日本糖尿病学会が大きな目標として掲げているのは、糖尿病患者さんの健康長寿を実現させる治療、そして人生100年時代において寝たきりにならない治療、の2つになります。ところが、これが非常に難しいのです。

 ある50代の患者さんは、2~3カ月に一度、私の外来を受診されていました。数カ月の血糖の平均を示すヘモグロビンA1c、血糖値ともに数値は基準値以内におさまっています。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、総コレステロール、中性脂肪の数値もすべて基準値以内。もちろん、処方した薬の飲み忘れはなく、食事や運動療法にもほどほどに取り組んでおり、コントロールがうまくいっている“いい患者さん”だったのです。

 ところが、急に外来に来なくなってしまいました。何かあったのかと気になっていたところ、2、3カ月ほど経って再び外来を受診されたのです。

「先生、大変でした」

 その患者さんは言います。ワケを聞くと突然、心筋梗塞に襲われ、別の病院に救急搬送され、そのまま入院していたとのこと。あぁ、この患者さんも……。私はそう思いました。このようなケースは、決して珍しいことではないのです。

 この患者さんは、東京慈恵会医大糖尿病・代謝・内分泌内科を受診する前に、2つの病院にかかっていました。最初の病院では糖尿病の治療を受けており、薬の効果もあってある程度数値が下がっていた。その次の病院では脂質異常症の治療を受けており、やはり薬の効果で数値が基準値以内におさまっていた。その過程を経て、私の外来を受診されるようになったのです。つまり、私の外来に来た時には、これまでの糖尿病、脂質異常症の治療の結果が反映され、血液検査だけを見ると“問題なし”。管理栄養士の食事指導も受けていましたから、より血糖コントロールは良くなっていたのです。

 ところが、心筋梗塞……。実はこれに関係しているのが、患者さんの「負の遺産」なのです。

■負の遺産を一生抱えて生きていく

 医学の進歩は著しく、糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病に関していい薬がたくさん出ています。冒頭でも述べたように患者さんの意識も高まってきた。糖尿病をはじめとする生活習慣病に対して正しく認識し、薬を飲むことで、数値は下がりやすくなりました。薬が効きづらい中性脂肪は、数値が食事内容に影響されやすい。管理栄養士の食事指導を参考に、受診日の数日前から食生活に気を付ければ、中性脂肪は下がります。受診は2~3カ月に一度ですから、そう難しいことではありません。

 ところが、今の数値がよくても安心できないのが、糖尿病、ひいては血管を傷める病気の怖いところです。糖尿病、高血圧、脂質異常症などは血管をボロボロにして動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクを高めます。

 要は、血管を傷める行為がどれだけ繰り返されてきたか。50代になってから糖尿病の治療を受け、生活習慣改善に取り組んでも、20~30代の生活が乱れていたり、肥満の過去があったり、悪玉コレステロールや中性脂肪が高い時期が長く続いていたりすると、それらの悪影響は後々まで続く。「負の遺産」として一生抱えていかなければならないのです。

 糖尿病治療の上で考えなければならないのは、現在の状況はもちろん、負の遺産にも目を向け、その患者さんごとに最もいい治療法を考えていくこと。こういった意識を糖尿病専門医が持つようになったのは近年のこと。検査の数値はいいのに突然、心筋梗塞、脳梗塞に襲われる患者さんをたくさん診てきた中で、出てきた考え方なのです。

(坂本昌也/東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科准教授)

その痛み、放っておいて大丈夫!?胸痛でなくも心筋梗塞の痛みかも

 日本人の死因の第1位は悪性腫瘍だが、第2位は心筋梗塞。実は心筋梗塞には予兆ともいえる「放散痛」という症状が起こることがあるのだが、それを見過ごして突然死してしまうこともあるという。脳卒中・循環器病が専門で、神経救急にも詳しい大槻俊輔医師に話を聞いた。

  ◇  ◇

 -心筋梗塞は、どんな時に起こるのでしょうか。

 「心臓病による発作は、トイレに行った時や仕事をしている時など、何かきっかけになる行動を起こした時に起こることが多い。必ずしも、いつも突然発症して死亡するとは限らず『放散痛』という症状が加わることもよくあります」

 -しかし、心筋梗塞というと、急に強烈な胸の痛みを感じるのではないでしょうか。

 「チクッとか、刺すような鋭い痛みではなく、胸のちょうど真ん中あたりになんとも言いようのない不快な感じがする、あるいは、胸のあたりをぎゅーっと締め付けられるような感じがすると訴える方が多い。冷や汗が出て気が遠くなるなどの症状を伴うこともあります」

 -では「放散痛」とは何なのでしょうか。

 「心臓の神経は脳とつながっています。心臓の痛みは脳が感じているのですが、その痛みを感じる回路は、肩やお腹にもつながっているのです。そのため、本当は心筋梗塞が起こっているのですが、左肩の肩こりや痛みを感じる、背中が痛む、お腹が痛む、のどが詰まるような感じがするなど、胸から20~30センチのあたりに症状が出ることがよくある。そうした症状を『放散痛』というのです」

 「ただ、胸の痛みや放散痛を感じているからといって、必ずしも心筋梗塞とは限らない。肺炎など肺の病気のこともあるし、エコノミークラス症候群で肺血栓を起こしていることもあります。お酒の飲み過ぎや逆流性食道炎、胃潰瘍でも同じような症状をきたすことがある。医師は、丁寧に問診して診察します」

 -胸の痛みや放散痛を感じたら、どうしたらいいのでしょうか。

 「まず、その症状が『急に起きたかどうか』が問題です。どうもただことではない、今まで経験したことがないような激烈な胸痛や頭痛を感じる、意識が遠のく、急に息苦しくなった場合には、迷わず救急車を呼びましょう。頭痛というのは、脳卒中の可能性もあるからです。放散痛は、左肩やのど、みぞおち、背中の痛みが比較的短時間のうちに広がります。しかし、真夜中は救急車を呼ぶのをためらうこともあるでしょう。そんな時は、#7119(救急安心センター)に電話してください。看護師か医療知識のある人が、電話口に出て、相談に乗ってくれます」

 -まずは、冷静に判断、対処することが大事ですね

 「多くの人は、日頃『私は病気ではない』と思って生きている。まさか心筋梗塞だとは思わず、翌日のんびり歩いて病院に来られる方もいます。まれに胸痛のない心筋梗塞もありますが、非常に重大な病気です」

 「胸痛や放散痛の経験者は、自分の体に何が起こっているのか分かると思います。問題は、初めて経験する人です。『あれ、なんだかおかしい』『どうもただことではない』と思っても、そのままやり過ごしてしまうことがある。心筋梗塞を実際に経験した患者さんは、『本当に死にそうな気がした』と答えます。もし、そんなふうに感じたのであれば、安静にして休み、何時であろうと救急車を呼んだほうがいい。救急車を呼ぶ場合は、まず家の鍵を開け、目立つように明かりをつけます。固定電話から119番に電話すれば、住所を言えなくても逆探知してくれます」

  ◇  ◇

 心筋梗塞などの心臓病の場合、激しい胸痛を感じるというのは容易に想像できる。しかし、胸痛ではなく、他の部位に、別の病気を思わせる症状が出ることもある。何かいつもと違う、しかし救急車を呼ぶのはためらわれる。そんな時は、#7119(救急安心センター)に電話して相談してみよう。(神戸新聞特約記者・渡辺陽)

◆大槻俊輔(おおつきとしほ)近畿大学医学部附属病院脳卒中センター教授。神戸大学医学部卒業初期研修後、大阪大学医学部、米国国立衛生研究所、国立循環器病センター、広島大学病院をへて現職。脳卒中やてんかんなどの神経救急を専門。

◆渡辺陽(わたなべ・あきら)大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。フェースブック(https://www.facebook.com/writer.youwatanabe)

高齢者に多い心不全 専門医が原因や検査、治療法解説

川崎学園(岡山県倉敷市松島)が倉敷市と共催する市民公開講座の第7回が11月10日、くらしき健康福祉プラザ(同市笹沖)で開かれた。テーマは「心不全―高齢社会の医療問題―」。心臓の機能が低下する「心不全」について、専門医らが症状や原因、検査法を解説するとともに、内科・外科的な治療法や、減塩など食事療法のポイントを紹介した。かかりつけ医による指導の下、症状の悪化を防ぐために生活管理を徹底することも訴えた。

心不全とはどんな病気?
川崎医科大学循環器内科学教授・川崎医科大学附属病院院長補佐・循環器内科部長
上村史朗

 心臓は握り拳ほどの大きさで、全身の内臓に血液を送るポンプの役割を果たしています。成人の場合、心臓の拍動は24時間で約10万回に上り、送り出す血液の量は約7200リットル、約10トン分に達します。この心臓の働きが何らかの原因で悪くなり、血液を十分に送り出せなくなった状態を「心不全」と呼びます。

 心不全は病名ではありません。心臓を動かす筋肉(心筋)に血液を送る冠動脈が狭くなり、血液が流れにくくなる「狭心症」や冠動脈が詰まる「心筋梗塞」、血液の逆流を防ぐための心臓の弁がうまく働かなくなる「心臓弁膜症」、拍動のリズムが不規則になる「不整脈」、心筋そのものに異常が生じる「心筋症」…。これら心臓に関係するさまざまな病気や高血圧が最後にたどり着く“終着点”が心不全です。

 血液の循環がうまくいかなくなるので、階段を上ると息切れや動悸(どうき)がする▽手足が冷たい▽尿量が減る▽むくみ▽疲れやすい▽睡眠時に息苦しくなる―などの症状が起こります。進行すれば、寝起きすることも難しくなってしまいますので、早期発見と早期治療が重要です。気になる人は、同じ年代の健康な友達と一緒に歩いてみることをお勧めします。友達について行けないようなら、心臓の働きが悪くなっている可能性があります。

 心不全では、心臓の働きを低下させたもともとの原因を突き止め、その病気を治療することが必要になります。例えば、狭心症や心筋梗塞が原因であれば、手足の動脈からカテーテルという細い管を入れ、狭くなった血管を広げてやるカテーテル治療や、詰まった血管の迂回(うかい)路を作ってやる冠動脈バイパス術の手術が広く行われています。

 心不全は高齢者に多いことが知られています。高齢化が進む日本では、今後ますます心不全を患う人が増えると予測されます。調子が悪いと感じたら「年のせい」で片付けてしまわず、まずはかかりつけ医に相談してください。

心不全の心電図・エコー検査

川崎医科大学循環器内科学特任講師・川崎医科大学附属病院循環器内科医長
玉田智子

 心不全を治療する上で重要なのが、原因となっている病気を特定することです。診断時にはさまざまな検査が行われます。その中から心電図検査と心エコー検査について紹介します。

 心臓が規則正しく拍動しているかどうかを調べるのが心電図検査です。ほとんどの人が健康診断などで1度は受けたことがあると思います。心臓は拍動時に微量の電気を発生するので、それを記録します。特に、拍動のリズムが不規則になる「不整脈」の診断には欠かせない検査です。

 不整脈の中でも心房細動は、心臓にある部屋の一つの心房がずっと小刻みに震えているような状態で、心不全の原因になるほか、血栓ができやすいことで知られています。その血栓が血流に乗って脳に運ばれると、脳の血管が詰まる脳梗塞を発症します。心房細動を原因とする脳梗塞は重症化しやすく、寝たきりを招いたり、回復しても重い後遺症が残ったりします。

 心エコー検査は、超音波を使って心臓の大きさや動き、血液の流れ、弁の状態などを調べるものです。動いている心臓をリアルタイムで観察できます。心筋梗塞や心筋症、心不全、心臓弁膜症をはじめ、高血圧が長く続いたことで心臓の筋肉が厚くなる「心肥大」などの診断で活用します。

 今まで平気だった坂道や階段で息切れがする。足がむくむ。動悸がある。脈が飛んでいる感じがする…。いつもと違う症状が現れたら、早めにかかりつけ医に相談し、心不全の検査を受けるようにしましょう。

心不全の地域での取り組み

倉敷市連合医師会会長・西原内科循環器科理事長・院長
西原洋浩

 心不全には、心筋梗塞などによって急激に心臓の働きが悪くなる「急性心不全」と、心筋症や高血圧などが原因で長い間にわたって心不全の状態が続く「慢性心不全」があります。

 急性心不全は胸の痛みなど強い症状を伴い、命を失う恐れもあります。「普通じゃない」と思ったらすぐに救急車を呼んでください。治療を早く始めることで大事に至らなくて済みます。

 慢性心不全は通常、徐々に進行するため、症状の悪化に気づかないことが少なくありません。重症化すれば入院が必要になります。

 いずれにしても、心臓の機能はいったん悪くなったら元には戻りません。入院して治療しても、退院後の心臓は入院前より悪い状態です。高齢の患者さんは入退院を繰り返す傾向にあり、そのたびに心臓も悪くなっていきます。

 そうならないためには、再入院が必要になるほど症状を悪化させないよう、かかりつけ医の指導の下、自宅で適切に病気をコントロールすることが欠かせません。医師の指示通りの服薬を守るとともに、減塩に気をつけた食事や禁煙といった自己管理が重要です。定期的に診察も受け、症状を確認するようにしてください。

心不全患者の栄養管理

川崎医療福祉大学臨床栄養学科特任教授 河原和枝

 心不全の患者さんの栄養管理のポイントは、「減塩」と「低栄養状態防止」の2点です。

 減塩に関しては、「心不全診療ガイドライン2017」で塩分摂取の目標が1日6グラム未満とされていますが、厚生労働省の調査では、日本人は平均約10グラムの塩分を取っているのが現状です。国立循環器病研究センター(大阪府)のチェックシート=表参照=を使えば、普段の食生活のどこで塩分を取り過ぎる傾向にあるかが分かります。

手軽に減塩を実現するこつとしては、汁物と漬物を控える▽麺と調理パンの回数を減らす▽食塩の多い食品を控える▽料理に使う調味料を減らす―ことなどが挙げられます。

 最近の加工食品には栄養成分が表示されています。買い物をする際にはまず栄養成分を確認し、塩分含有量が少ないものを選ぶようにしましょう。

 調理の仕方や食べ方も大切です。例えばみそ汁なら、具を多くして汁の量を半分以下にしたり、みそを減らして牛乳でこくを出したりすることで塩分摂取を抑えられます。汁わんを小さいものに替えるだけでも減塩につながります。調味料の代わりに香辛料や香味野菜を使う、たれはかけずに付けて食べるといった工夫もできるでしょう。

 高齢の心不全の患者さんは、食事量が減って十分な栄養を確保できなくなる恐れがあります。低栄養状態が続くと筋力が落ちる「サルコペニア」を招き、要介護状態や寝たきりになりかねません。

 食欲がなく、ご飯とみそ汁だけで済ませるという場合でも、ご飯におかかやしらすを添えたり、食後にバナナを食べたりするなど、少量でも高エネルギー、高たんぱく質になるよう気をつけましょう。間食でゆで卵やヨーグルトを取るのもお勧めです。

 バランスよくエネルギーと栄養素を取れ、しかも簡単にできるお好み焼き=イラスト参照=を考案しましたので、作ってみてください。最近は患者さん向けの宅配食もあります。うまく活用してほしいと思います。

専門医に聞け! Q&A ★副流煙と心房細動のリスク

Q:慢性心房細動と分かって禁煙しました。しかし、妻がタバコを吸います。副流煙が気になりますが、心房細動にはよくないでは。妻にはせめて、私の目の前で吸うのはやめて欲しいのですが、機嫌を損なわれると難儀なので何も言えません。_(52歳。税理士)

A:心房細動は脳梗塞(心原性脳梗塞)を引き起こすことが怖い不整脈です。喫煙と心房細動の発生は関係があります。
 去る9月14日に日本循環器学会のプレスセミナーが開かれ、タバコと心房細動の関係について、さまざまな情報が紹介されました。

 講師の1人、中井俊子・日本大学内科学循環器内科学分野診療教授によると、喫煙と心房細動の発生リスクは、喫煙しない人に比べ、過去に喫煙していた人は1.3倍、現在吸っている人は2倍のリスクがあるとのことです。

 そして、副流煙も心房細動と関係があります。中井教授によると、受動喫煙者は非受動喫煙者の1.3倍のリスクがあるといいます。

●副流煙のほうが有害物質が多い
 タバコの煙には、喫煙者が吸い込む煙(主流煙)、タバコの先端から立ち上る煙(副流煙)、喫煙者が吐き出した煙(呼出煙)の3つがあります。受動喫煙は副流煙と呼出煙から成っていて、受動喫煙の8割が副流煙で、2割が呼出煙です。

 副流煙には主流煙よりも有害物質が多く含まれます。ニコチンは2.8倍、タールは3.4倍、発がん性物質のベンゾピレンは3.4倍、一酸化炭素は4.7倍も含まれます。

 国立がん研究センターによると、受動喫煙者は、非受動喫煙者に比べ、虚血性心疾患が1.2倍、脳卒中が1.3倍、肺がんが1.3倍、それぞれリスクが高まります。

 以上のことから、副流煙が心房細動にいかに悪いかお分かりでしょう。奥様に目の前で吸うのをやめて欲しいとは言いにくいとのことですが、勇気と誠意をもって言うべきです。

 また、奥様の健康を願うなら、禁煙するように説得したほうがよいと思います。

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中原英臣氏(山野医療専門学校副校長)
東京慈恵会医科大学卒業。山梨医科大学助教授、新渡戸文化短期大学学長等を歴任。専門はウイルス学、衛生学。テレビ出演も多く、幅広い知識、深い見解を駆使した分かりやすい解説が好評。

強い心臓を作り突然死を回避する食品は何だ?

 日本では毎年約10万人もの人が心臓性の突然死に見舞われているという。いつ襲ってくるか分からない心臓発作に対策などないと思われがちだが、実は「食生活」で予防できるという。突然死を遠ざける「食べ物」とは。

 突然死は心室細動や心房細動などの「キラー不整脈」によって引き起こされるケースがほとんど。これらを防ぐには、「強い心臓」を作るしかない。心臓血管研究所所長の山下武志医師が指摘する。

「心臓を“エンジン”に喩えると、『強い心臓』とは、大きくて馬力のあるエンジンのことではありません。F1マシンのように早く走れるエンジンであっても、レース中に火を噴いてしまうようでは脆い。

 ゆっくりでも常にスムーズに、効率よく回っているのが理想です。こうした『強い心臓』を作り上げる効果を持つ食材が、近年の研究によって明らかになってきました」

【1日50ミリリットルのオリーブオイル】
 不整脈のリスクを下げる食材の代表格が「オリーブオイル」だ。

「スペインの調査で、エクストラバージンオリーブオイルを1日50ミリリットル以上摂取している人は、全く摂取しない人に比べ、心房細動の発症リスクが約4割低かったという研究結果があります。オリーブオイルに含まれるオレイン酸やポリフェノールには動脈硬化の予防作用があり、これが心疾患のリスクを抑えていると考えられています」(山下医師)

慢性心不全の息切れや呼吸困難 運動能力の低下に原因あり

家族や自分が心筋梗塞を起こした場合、過度な安静は禁物だ。先月「日本心臓リハビリテーション学会学術集会」が行われた。「慢性心不全を心肺運動負荷試験で診る」をテーマに教育講演を行った同学会副会長の榊原記念病院顧問・伊東春樹医師に話を聞いた。

 現在、慢性心不全の患者が急増。団塊世代が80代を迎える2030年には、心不全患者であふれ返る「心不全パンデミック」が到来するだろうといわれている。「心筋梗塞や狭心症など急性期の心臓病に対する治療技術は向上しており、適切に病院へ搬送されれば命を落とすことは少なくなりました。ところが“その後”の治療が行われていない。慢性心不全が増え、本来は期待できた寿命を全うできない結果を招いています」

 心不全とは、心筋梗塞をはじめとする心臓病などで心臓の働きが悪くなり、体の要求を満たせない状態をいう。 急に起こるものが「急性心不全」。それによって「動けない・動かない」が続き、自律神経異常、デコンディショニング(全身の働きの調節異常)、廃用症候群(体を動かさないでいることによる障害)、骨格筋の質・量の変容などが起こる。これを「慢性心不全(症候群)」という。

 慢性心不全になると、速足で歩いたり坂道や階段を上った時、息切れや呼吸困難が生じる。この原因を心臓の機能障害と考えがちだが、必ずしもそうではない。 「関係しているのは運動能力です。米国では、心臓移植のウエーティングリストに載るには運動能力がどれくらい低下しているかが重要。なぜなら、慢性心不全では心機能の悪い人ではなく、運動能力の低い人が早く亡くなるからです」

 運動能力は2つの要素で決まる。1つは「酸素輸送能」といって、心臓からどれだけ骨格筋に酸素を送れるか? もう1つは、送られてきた酸素をどれくらい利用して体を動かせるか?「酸素利用能」という。 「慢性心不全で酸素輸送能が落ちてくると、それをどううまく使うか、つまり酸素利用能が運動能力を左右します。酸素利用能の改善が運動能力アップにつながります。体を動かせるようになり、骨格筋の質と量の向上や、デコンディショニングや廃用症候群の改善になるのです」

■薬では対処不可能

 酸素輸送能を良くするには、強心薬や血管拡張薬などがある。しかし、酸素利用能に関しては、薬はない。唯一の方法が、運動だ。 ところが、薬の処方は日本では熱心に行われているが、適切な運動による酸素利用能の改善にはほとんど力を入れられていないのが現状だ。薬で酸素輸送能は上がっても、運動しないで酸素利用能が低いままでは、慢性心不全であることは変わらず、健康で長生きは困難になる。

「慢性心不全の人は適切な運動が不可欠。ただし、自己流では効果がない。または、心臓に過剰な負担をかけ命取りになる。必ず、その人に応じた運動の種類、強さや量でやるべき」そこで必要になるのが運動処方箋だ。心肺運動負荷試験で有酸素運動の上限や最大運動能力など細かくチェック。専門資格である心臓リハビリ指導士らが運動処方箋を見れば、“その人に応じた運動の種類、強さや内容”が一目瞭然だ。

 病院の「運動処方外来」を受診すれば出してもらえる。ネックは、同外来の数が少ないこと。どこを受診すればいいか分からなければ、心臓リハビリテーションの普及などを目的として設立された「NPO法人ジャパンハートクラブ」に問い合わせるのも手だ。

年間5万人を襲う!「心臓突然死」の前兆

◆「心臓麻痺」による30代俳優の急死報道

報道によりますと、俳優のファン・チャンホ氏が心臓麻痺のため、32歳という若さで急死されたそうです。

実は日本国内だけでも、年間5万人もの方が突然死で亡くなられています。これからを期待されていたファン氏の命を奪った「心臓麻痺」とはどういう病気なのでしょうか。

まずは報道を引用します。

俳優ファン・チャンホ、心臓まひにより32歳で死去
2018年04月30日08時22分 [中央日報/中央日報日本語版]

KBSドラマ『チャン・ヨンシル~朝鮮伝説の科学者~』などに出演した演劇俳優ファン・チャンホが32歳の年齢で死去した。

所属事務所のマラソンエンターテインメントによると、ファン・チャンホは26日明け方に心臓まひで死去した。葬儀室はソウル聖母病院葬儀場に用意された。出棺は28日に行われた。所属事務所関係者は「所属事務所の俳優をはじめとしてファン・チャンホとともにした多くの人々が3日間葬儀室を守った」と伝えた。 (後略)

上記報道でも、死因は「心臓麻痺」と発表されていますが、「心臓麻痺」という病名は医学的には実は存在せず、突然心臓が止まってしまうことに対して一般的に使われている俗語です。

心臓が止まってしまう心停止の状態が3~4分続けば脳死してしまいます。そのため、心臓麻痺=死亡・突然死というイメージで使われているのでしょう。

「突然死」とは、予期していない病気の発生から24時間以内に死亡してしまうことです。実は、日本でも年間5万人が突然死で亡くなられています。

一言で突然死と言っても、その原因、つまり実際に突然死を引き起こした病気は様々です。そして突然死のうち、心臓関係のもの、つまり「心臓突然死」が6割を占めると考えられています。
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◆心臓突然死の原因となる主な病気

今回報道されたケースの場合、情報は少ないですが、それまで元気に活躍されていたということは重い内臓疾患は抱えられていなかったのでしょう。

そして、心臓関係であることから心臓突然死と考えられます。心臓突然死を起こす原因となるのは、次のような病気です。

■虚血性心疾患
いわゆる心筋梗塞などの、心臓の栄養血管が閉塞して起こる病気です。心筋梗塞は中年期かそれ以後に多い病気ですが、ファン氏のようにお若い方にも時に起こるため注意が必要です。

特にコレステロールや中性脂肪が極端に高い場合や、重症の糖尿病などの病気を持っておられる場合は、若年でも心筋梗塞になる場合があります。

■不整脈
様々なタイプがありますが、心臓が正しく拍動せずにピクピク動くだけの状態になり、血圧がほぼゼロになる「心室細動」というものがあります。つまり心臓が実質止まっているような状態で、この場合も突然死が引き起こされます。

この心室細動を引き起こすタイプの病気も怖いのです。たとえばQT延長症候群、ある種の心室頻拍、WPW症候群などが挙げられます。逆に心臓の動きが極端に遅くなり、止まっているのと同様の状態になる病気、たとえば完全房室ブロック、洞不全症候群なども考えられます。

■弁膜症・心筋症
ある種の弁膜症や心筋症でも心臓突然死が起こることがあります。弁膜症では重度の大動脈弁狭窄症つまり大動脈弁が硬く狭くなり開きにくい状態や、心筋症では肥大型閉塞性心筋症(略称HOCM)などが突然死を起こし得る病気として知られています。 

■心筋症や川崎病などがある状態でのスポーツ
これはもちろんスポーツそのものが悪いという意味ではありません。何らかの背景になる病気、たとえば心筋症や川崎病、ある種の弁膜症や冠動脈奇形、その他前述の心臓病などがある状態で、スポーツや激しい運動などによる無理が加わると、心臓の状態が一気に悪化して止まってしまうことがあります。

■心不全
心臓がうまく動けなくなる状態で余裕がないため、何かのきっかけ、たとえばタバコや睡眠不足、過度の飲酒などで命を落してしまうことがあります。ファン氏の場合は急死されるまでお元気であったとのことですので、この心不全は該当しないように思います。

これらの原因疾患に加えて、喫煙や睡眠不足があれば心臓の状態が一気に悪化し、心臓突然死に至る場合があります。若年で健康体であっても、多忙で不規則な生活などの要素がある場合にも、注意が必要と言えます。

◆心臓突然死の前兆・予兆を知る方法

年間5万人もが突然死をされると聞くと、現在健康であっても、ご自身やご家族が大丈夫か不安に感じられる方も多くいらっしゃるでしょう。

心臓突然死の前兆や予兆を知る方法としては、まずは定期検診で上記のような心臓病がないことを確認することが大切です。もし何らかの心臓病が見つかった場合は専門医と相談し、治療や定期検診の予定を立て、大きな問題が起こることを予防することが勧められます。

また、これまでに失神発作やめまい、目の前が真っ暗になるなどの発作経験がある人は要注意です。

それ以外に運動時の息切れや、胸がパクパクと躍るような感じも含めての動悸、胸の痛み、締め付けられる感じなどの経験がある方も注意してください。血縁に突然死や心臓病の方がおられる場合も同じです。

そうした場合は一度心臓の専門医に相談し、心電図、胸部レントゲン写真、心エコー図などの検査を受けられることをお勧めします。結果に応じてさらに精密検査を受けるなり、時間をおいて再検査を受けたりすることは、安全確保に役立つでしょう。
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◆心臓突然死の予防法・対策法・できること

全ての心臓突然死が予防可能というわけにはいきませんが、それぞれの原因疾患に応じて対策はあります。

たとえば虚血性心疾患なら、狭くなっている冠動脈をカテーテル(ステント)で広げるかバイパス手術を受けるという手がありますし、その虚血性心疾患の原因が糖尿病やコレステロールなどにある時はそれらの治療をすればその後の安全性はかなり変わります。

不整脈にはお薬やカテーテル治療、ペースメーカー、ICD(埋め込み型除細動器)などの対処が有効ですし、大動脈弁狭窄症に対してはカテーテル治療(TAVI)や弁置換手術、肥大型閉塞性心筋症(HOCM)にはカテーテル治療や手術などそれぞれに有効な方法があるのです。

もちろん日常生活の中にも原因がある場合は、運動を安全な範囲内にとどめるとか、禁煙する、睡眠不足を解消するといったことも非常に有効です。避けられない病気もありますが、予兆のある病気や対策できる病気で突然に命を失わないよう、できる対策を行っていきたいものです。

“サイン”を医師が解説 動脈硬化リスクを家庭で知る方法

中高年ともなれば誰でも脳梗塞や心筋梗塞といった血管の病気による突然死リスクが高くなる。カギを握るのは「動脈硬化」だ。最近は病院の検査で進行度合いはわかるが、検査に行くのは面倒くさいという人もいるだろう。家庭で知ることはできないのか? 北品川藤クリニック(東京・北品川)の石原藤樹院長に聞いた。

 動脈とは心臓から全身に血液を送り出す血管のこと。動脈硬化は動脈が硬くなることで、その特性であるしなやかさが失われスムーズに血液を流せなくなる。

「そうなると、血管内皮に粥腫が付着して血管の内径が狭くなったり、詰まったりします。ときには粥腫がはがれて血液内を浮遊して、血管の別の場所を詰まらせることもあります」

 むろん、血管が硬くなれば血管はもろく破れやすくなる。その場合の心臓の負担は大きく、高血圧や心不全、心肥大などの心臓病のリスクを上げる。血管が狭くなったり詰まったりすることで脳梗塞や心筋梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症などの病気も起こりやすくなる。血管が破れ、くも膜下出血など脳の病気になる危険も高くなる。

「こうしたさまざまな病気を招く動脈硬化は別名『沈黙の殺人者』と呼ばれるほど危険です。例えば、動脈硬化症が大きな原因とされる脳血管疾患や心疾患を合わせると死因の3割を占めます。これはがんと同じ数です」

 また、寝たきりの4割は脳や心臓病など動脈硬化が原因とされる病気が占めている。動脈硬化は一般の人が想像する以上に怖い病気だ。

 では、動脈硬化のサインを知るにはどうしたらいいのか?

「まぶたに脂肪の塊ができたりアキレス腱が太いと気がついたら要注意です。まぶたの脂肪は黄色腫と呼ばれるもので、高脂血症の合併症のひとつで皮膚にコレステロールがたまる病気です。アキレス腱が太くなるのもこの病気の影響です」

■閉塞性動脈硬化症は5年で2割が歩行不自由に

 耳たぶのシワも動脈硬化のサインとなる。米国・シカゴ大学が8年間研究したところ、耳たぶにシワがある人は心臓病死するリスクが3倍になるという。日本でも心臓病学会で同様の報告がなされ、逆に耳たぶにシワがなかった人は心血管疾患の合併率が低かった。

「柔らかい耳たぶは脂肪組織が多く毛細血管が栄養や酸素を送っています。動脈硬化で毛細血管が詰まると脂肪組織が萎縮、耳たぶにシワができるのだと説明されています」

 動脈硬化が進んだ足は健康な足に比べて血流が悪く、酸素や栄養が十分回らない。そのため自分の左右の足を比べて「張りがない」「色が違う」「冷える」「しびれる」「細い」足は動脈硬化が進んでいる可能性があるといわれている。

「こうした違いは自分ではハッキリとはわからないし、正確でない場合も多い。それなら足の甲に指3本を当て、動脈の脈拍を調べて左右差を調べた方がいいでしょう。そもそもこうした症状が出るまでに足の動脈硬化が進んでいれば、歩くとすぐに足が疲れる、痛みやしびれがあるという閉塞性動脈硬化症の症状が出てくるはずです」

 ちなみに閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患)は喫煙や生活習慣が原因で、主に足の動脈に動脈硬化が起こる病気。足がしびれたり、冷えたりしたあと歩くと痛みが出て、最後は血液が通わなくなって足が腐ってしまう。50代から増えてきて65歳以上の6~15%がかかり、5年経過で約20%が歩行障害を悪化させ、そのうち10%が足の動脈の血流が減少する「重症下肢虚血」となり、数%が足を切断する。

 しかも、閉塞性動脈硬化症の患者の20%が心臓や脳の血管の病気を患い、そのうち15%が亡くなるといわれている。もっと動脈硬化の進み具合を客観的に調べたいという人は、家庭用血圧計で左右の手や足の血圧を測るのも手だ。

「腕の場合、一般的には右の上腕の血圧は左より少しだけ高くなりがちです。大動脈から上腕へ向かう鎖骨下動脈が、右が左より早く分岐するからです。ただし、左右の血圧差が10㎜Hgを超えた場合は注意が必要です」

 その主な原因は高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満、加齢などだが、動脈硬化による鎖骨下動脈狭窄または閉塞、大動脈解離などといった病気が潜んでいる可能性がある。

 なお、足の血圧は腕の血圧より20~40㎜Hg程度高くなるのが普通だ。

高数値はLDLか中性脂肪か 「脂質異常症」治療の違いを知る

心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高める脂質異常症は症状がなく、進行度合いが分かりづらい。慈恵医大病院糖尿病・代謝・内分泌内科の坂本昌也准教授に知っておくべきことを聞いた。

「LDL(悪玉)コレステロール値が高い」「中性脂肪値が高い」「HDL(善玉)コレステロール値が低い」のどれかに該当すれば、脂質異常症と診断される。

「特にLDLコレステロールが高いか、中性脂肪が高いかで、治療の対策が変わります。自分がどのタイプかを知らなくてはなりません」

■LDLコレステロール値が高い
(空腹時採血の値が140(㎎/デシリットル)以上であれば、脂質異常症)

「LDLコレステロールは食事の影響を強く受けません。遺伝的要素が強く、両親のどちらかの値が高ければ、自分もそうなりやすいと考えた方がよい」

 食事の改善で数値が下がりにくいということは、薬に頼るしかない。スタチンは横紋筋融解症などの副作用があるため、服用後2~4週間後の血液検査で問題がないかどうかを調べ、そのまま継続か、違う薬に替えるかを検討する。

 140が境目だが、本当に危険を感じた方がいいのは180以上。

「心筋梗塞、狭心症の冠動脈疾患の発症リスクが極めて高い。スタチンの投薬治療を始めるべき。スタチンには2種類の強さがあり、強い方の薬が必要なケースも」

 140以上で180未満なら、中性脂肪が150以上かどうかに着目だ。

「コレステロールを細胞に運ぶLDLが小型化した『スモールデンスLDL』になり、血管壁に入りやすく、心筋梗塞を起こしやすい。LDLコレステロールが180までいかなくても、スタチンを投与すべきケースがあります」

■中性脂肪値が高い
(150以上が問題)

「LDLコレステロールと異なり、中性脂肪は食事の影響を強く受けます。食生活を改善すれば、すぐに下がります」

 これはもろ刃の剣。食事が元通りになれば、すぐに数値が上昇。検査で数値の低下が確認されても、それ以降、持続できているかは分からない。

「検査では空腹時の数値を調べますが、空腹時は低めなのに、食後に異常に高くなる人もいます」

 つまり、中性脂肪は食事内容や検査タイミングなどの条件で変動する。

「専門家は、中性脂肪とHDLコレステロールの両方を見ます。中性脂肪が高いとHDLコレステロールが低くなり、中性脂肪が下がるとHDLコレステロールが高くなりやすい」

 中性脂肪が下がっていても、HDLコレステロールが前回と比べて上昇していなければ、中性脂肪の低下は一時的なもの。食生活改善や運動を継続できず、中性脂肪のコントロールが難しい人は、フィブラートという薬を使うことになる。

「スタチンとフィブラートの併用は、横紋筋融解症のリスクをより高めるといわれています。LDLコレステロール、中性脂肪両方が高い人は、スタチンを優先して使い、食生活改善と運動で中性脂肪を下げてもらうようにします。ただ、うまくいかなければ、2つの薬を使います」

 医師の管理のもとに薬を投与し、副作用の気配が見られたらすぐに対処する。薬を飲まないリスク(心筋梗塞、脳梗塞)より、飲むリスクの方が小さい。

 なお女性は、閉経以降はLDLコレステロールも中性脂肪も上昇しやすい。

 閉経前に測定したきり、という人は改めて検査を受けるべきだ。

「よくある動悸」と「危ない動悸」、どこが違うの?

◆動悸とは?

診察室では、「どのような動悸ですか?」と良くお聞きします。脈拍が速くなる、バラバラになる、鼓動が強くなる、耳元で心臓の音が聞こえるなどさまざまな答えが返ってきます。果たして、どれが動悸なのでしょうか?

この時、われわれは警察官の如く、動悸が悪いものだと仮定して取調べを進めていきます。特に日本で生まれ育ったある年代以上の人たちは、「動悸、息切れに。キューウシン、キューシン」という、リズムが記憶に刻まれ、「動悸」という言葉に対して親近感があり使いやすい単語になっているのです。とにかく、心臓が騒いだら動悸と捉えてしまうのです。

でも、これはちょっと違います。ここではいったん、動悸とは「心臓の拍動の異常を意識してしまうこと」と定義して話を進めていきましょう。
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◆よくある動悸

■「階段を昇ったらドキドキするんです」
このようにおっしゃる人がいますが、たいていある程度の年をとられた人です。普段から特別に運動をしていない人で、体を動かすことにより心臓の回転数が上がり、それをドキドキすると感じているのですね。このドキドキは、病的でないことは推測がつくことでしょう。もちろん、心臓に病気を持っていないことを前提としています。

■「脈が飛ぶんです」
脈はよく飛びます。手首の動脈、正確には橈骨(とうこつ)動脈といわれる親指側の動脈を触っていると、“間”が抜けるような感じがします。病気を持っていない人でもよく訴える現象です。もし心臓やホルモン系の基礎疾患を有する人でしたら、病的だという判断をすることがありますが、この飛ぶ脈のほとんどは期外収縮(きがいしゅうしゅく)と呼ばれる脈不整で、どんな人にも出ていると考えたほうがよいでしょう。睡眠不足や飲酒や心的ストレスなどが誘引となって、これを多く感じる人がいます。

バラバラでない速い脈、間が抜けるような飛ぶ脈は、「危なくない動悸」に分類されます。心臓に何らかの疾患を抱えている人や甲状腺などのホルモンに異常がある人でない限り、あわてる必要のない動悸です。

◆危ない動悸に関連する病気

■「脳梗塞になったら不整脈があるって言われたんだけど」
動悸が原因で脳梗塞になることがあります。様々ある脳梗塞の中でも、動悸によって心臓の中に血の塊(血栓)ができて、それが脳の血管に飛んで、血管が詰まることで脳細胞が死んでしまうのが、心臓を発端とする脳梗塞です(心原生脳梗塞)。心房細動という動悸が原因で、これはずっと続いている人と発作的に起こる人がいます。いずれの場合もバラバラな脈で、時に心拍数が100以上と速くなることがあり、速いバラバラな脈は心臓の中に血栓をつくってしまうのです。これが脳梗塞になってからようやく見つかる人がいるんですね。

■「気を失ったら不整脈があるって言われたんだけど」
動悸とは、心臓のリズムや鼓動の強さを示す言葉になります。動悸のうち頻脈に分類されるものは、1分間に100回以上の心拍数があります。気を失うほどの速い脈で、特に心臓の心室から連続して起きる心室頻拍は致死的になることがあります。生まれながらその要因がある人、薬の副作用でそうなる人、心臓の疾患によってそうなる人、さまざまな原因がありますが、この動悸こそがAEDなどの電気ショック(除細動)が必要となるのです。また、遅い脈で気を失うこともありますが、これは別の機会にお話しいたします。

身体にやさしいTAVI/ハートで決まる健康長寿

<心臓のスーパードクターが語る:東邦大学大橋病院・尾崎重之教授(40)>

<心臓弁膜症(10)>

 心臓の弁が正常に機能しなくなる心臓弁膜症の中で、手術が最も多い「大動脈弁疾患」。その手術方法として、4つが行われています。「人工弁置換術(機械弁)」「人工弁置換術(生体弁)」「自己心膜を使用した大動脈弁形成術(尾崎式)」の3つは紹介しましたので、今回は4つ目の「TAVI(タビ=経カテーテル大動脈弁留置術)」を紹介します。

 ◆TAVI 2002年にフランスで開発された治療法で、日本では13年から保険適用になりました。4つの手術法の中でTAVIだけが、施設によっては心臓外科が行うのではなく、循環器内科が対応する内科的治療です。

 TAVIの治療は、脚の付け根の大腿(だいたい)動脈からのアタックが多く行われています。留置する生体弁を付けたカテーテル(細い管)を挿入し、問題が生じている大動脈弁の位置まで到達させます。そこでバルーンを膨らませると、生体弁が開いて大動脈弁の場所にセットされます。新しい弁に置き換わるのです。この時点から、TAVIの生体弁は新しい大動脈弁として機能します。あとは、カテーテルを抜き取って、その部分を止血すると治療は終了。身体にやさしいカテーテル治療のひとつです。

 ただ、脚の大腿動脈から、血管が細すぎるなどで挿入できないケースもあります。その場合は胸を小さく切開し、心臓の先端から生体弁を挿入する方法などがとられます。また、TAVIでは、治療後に血栓のできるのを防ぐ抗凝固薬を服用する必要があります。

 このTAVIは、大動脈弁疾患の患者さんであればだれでも対象になるのではありません。「80歳以上の高齢者で手術に耐えられない」「合併症のために手術の適応がない」など、条件を満たしていると、TAVIの適応となります。(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)

息切れやむくみ、だるさ 意外に知らない心不全

 心臓の働きが低下して息切れなどが起こる「心不全」の患者が増えている。命にかかわる重い病気の印象が強いが、症状が出ない「隠れ心不全」のうちに対処するのが重要だ。兆候や症状を知って、予防につなげよう。高齢化を背景に心不全が増えている。どんな状態を指すのか、知っているだろうか。循環器病研究振興財団(大阪府吹田市)が2017年に実施した調査によると、心不全の名前はほぼ全員が知っていたが、症状や内容を理解している人は3割弱。うち半数以上が「心臓病の総称」「すぐ死につながる病」「死亡時の診断名」などの不正確なイメージを持つと分かった。

 国民の理解を促すため、日本循環器学会(東京・千代田)などは17年秋、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める」病態とする新たな定義を発表した。心不全は通常、数十年かけてじわじわと進行する。心臓病の中では死因第1位で、入院患者の5人に1人は退院後1年以内に亡くなっている。ただし「初期は症状が出ず、心不全と気付かない。この『隠れ心不全』の段階から適切に対処し、進行を遅らせるのが重要」と日本医科大学循環器内科の佐藤直樹教授は話す。心不全は進行度でステージA~Dに分類される。将来心不全になる危険性がある段階がステージA。高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある人が該当する。

 特に多いのが高血圧だ。「血圧が高いままにしていると心臓の筋肉が厚くなり、全身に血液を送るポンプ機能が低下して心不全に至る」と佐藤教授。「成人の半数は高血圧。心不全の予備軍は非常に多い」自覚症状がなくても、検査で心臓の肥大や拡張機能低下などの異常が見付かるのがステージBだ。血液検査では「脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)」の値の上昇が認められる。心臓から分泌されるホルモンで、尿を増やしたり血管を広げたりする作用を持つ。心臓に負荷がかかると分泌量が増える。心筋梗塞や心臓弁膜症など心臓病を持つ人もステージBに当てはまる。心筋梗塞が起きると「心臓の一部に障害が生じ、残りの筋肉に負担がかかるため心不全に進みやすい」と北里大学北里研究所病院循環器内科の猪又孝元教授は説明する。

 息切れやむくみ、だるさといった症状が出るのがステージC。日常の動作で息切れが起きたら要注意だ。猪又教授は「階段の昇降や布団の上げ下ろし、犬の散歩で気付く人もいる」と話す。むくみは足に出やすい。「起床時に向こうずねや足首などを押してへこみが残る場合は、心不全によるむくみの可能性が高い」と佐藤教授。ステージDは安静時も苦しい最重症の段階。入退院を繰り返すが、治療法は限られる。心不全は放置すると着実に進行し、改善しない。突然死を招くこともある。「重症化を防ぐには、早期に発見して薬などで治療するのが重要」と猪又教授は強調する。心不全の指標となる血液中のBNPの値を検査で調べてみよう。高血圧など危険因子になる病気の治療は、将来の心不全予防に直結する。

 首に心不全のサインが現れることも。心臓がやりくりできない血液がたまり、首の奥にある頸静脈が膨れて「皮膚が拍動で揺れて見える」(猪又教授)。心当たりがあれば循環器内科を受診したい。日常生活では、塩分や水分の摂り過ぎに注意する。過剰な塩分は血液量を増やし、心臓の負担になる。心不全と気付かずに多量の水分を取り、夜中に突然息苦しくなる例もあるという。肥満や喫煙も高血圧や心筋梗塞のリスクを高めるので気を付けよう。 (ライター 佐田節子)[NIKKEIプラス1 2018年1月20日付]

その痛みは疲れだけではない!? 心臓病に直結する“肩こり”のシグナル(2)

プラークというのは、冠動脈の血管の内膜にコレステロールや脂肪などの物質と血中のマクロファージ(体内に侵入する異物を捕食、消化する清掃細胞)という物質が沈着、血管内部にへばり付いたもの。

 近年、このプラークが崩壊しやすいものと、そうでないものがあることが判明している。プラークが柔らかく、プラークにマクロファージや炎症細胞が多いと崩壊しやすくなる。ただ、どういう人に崩壊しやすいプラークが多いかの詳細は、解明されていない。

 そのため、自分の状態を確かめられないことになるが、急性冠症候群が疑われる症状があれば、すぐに対策を講じる必要がある。

 東京社会医療研究センター理事の丸岡博之氏はこう説明する。

 「私の知り合いで、肩の痛みで心電図を撮ったら心筋梗塞が判明、結果、心臓破裂の重症だったことがあります。急性冠症候群の特徴的な症状は、胸痛や息切れです。

もちろん肩凝り、歯痛、腹痛、腕の痛みなどの症状を訴える人がいますが、今まで感じたことがない痛みがあった場合、循環器科のある病院で診察を受けることをお勧めします」

 また、丸岡氏はもうひとつポイントを挙げる。それは“発汗”だという。冠動脈の狭窄(きょうさく)で、心臓のポンプ作用が弱まると、交感神経が心臓を動かそうとシグナルを出すと、交神経が優位に立ち、激痛がともない汗も出る。

 これは不安定狭心症からくる症状だが、「症状が弱い」「しばらくして治った」という時も油断できないという。この病気は、対処が遅れると心筋梗塞に繋がるし、さらに対処が遅れれば死に至る。

 「心筋梗塞の治療は近年、長足の進歩で技術は向上しています。早い段階で病院に運ばれれば、一命を取りとめる率は高く、病院内の死亡率は6%と低い。つまり、心筋梗塞の死亡の半数以上は“院外死”なのです。

病院には早く行けば行くほどいいということ。心筋梗塞の発症から詰まった血管を再灌流(さいかんりゅう=再開通)するまでの時間によって、治療効果は大きく異なります」(同)

 丸岡氏によると、最近の報告でも、150分の再灌流と90分以内の再灌流では、院内死亡するリスクは150分の再灌流の方が1.7倍も高い。カテーテル治療などによる再灌流は、搬送時間を含め120分以内が理想だと考えられているという。

 「救急車で病院に運ばれても、検査やカテーテル治療、手術の準備などで、120分などは、あっという間に過ぎてしまいます。もちろんこの間に、救急救命士が、血栓溶解薬を静脈内投与し動脈を開こうとすることがありますが、とにかく体に異変を感じたら即通報。これが急性冠症候群から身を守る最高の手段です」

 いずれにしても、冠動脈はコレストロールなどが沈着すると動脈硬化を起こしてしまう。冠動脈が塞がると、心筋の一部への血液供給が大きく減少し、閉塞の位置と量に応じて、不安定狭心症、心臓発作(心筋梗塞)が起きる。

これで冠動脈が血栓によって詰まり、血液が2~3分以上遮断されると心臓の組織が壊死し、死を呼ぶ冠性症候群が引き起こされるわけだ。

 「肩や腰などの痛みが“いつもと違う”と少しでも感じたら、理屈抜きに、病院で検査を受けてほしい」
 と、丸岡氏は重ねて強調する。

その痛みは疲れだけではない!? 心臓病に直結する“肩こり”のシグナル(1)

加齢で誰もがリスク上昇

 肩凝りの原因に、狭心症や心筋梗塞、心臓突然死といった危険な心臓疾患が含まれる場合があることを、ご存じだろうか。専門家はこれらの病を「冠性症候群」と総称するが、一歩誤れば死に直結するだけに、「単なる肩凝り」と油断してはいけない。

 まず、こんな一例を紹介しよう。埼玉県に住む会社員のTさん(49)は、20代の頃から肩凝りがひどく、半分慣れきっていたところもあった。しかしある日、電車に乗るため駅の階段を駆け上がると、左肩が強く痛んだという。

 残業続きだったこともあり、Tさんは「疲れが溜まっただけ。運動不足もあるかもしれない」ぐらいに思っていた。その後も何度か左肩が痛む時があったが、とくに気にせずにいた。しかし3カ月後、Tさんは心筋梗塞を起こしたのだ。

 胸の辺りが痛むようなサインが出たわけではないが、専門医には「放散痛」という説明を受けた。つまり、心臓とはかけ離れた部位に肩凝りの症状が出たというわけだ。

 厚生中央病院循環器内科の担当医は説明する。
 「内臓には、さまざまな神経系統があります。痛みはそこを伝わって生じるので、思わぬ場所に現れることが少なくないのです」

 心筋梗塞の前兆は、狭心症である。Tさんのように、階段を駆け上がるような、ちょっとした動作でも症状が表れるわけだが、本来は胸の中心部辺りに痛みが出るものが、違うところに出ていた。

 「狭心症の場合、左肩や顎などに痛みが出て、心筋梗塞の前兆とも言われます。典型的な訴えは前胸部の真ん中あたりに圧迫感、焼けるような痛み、締め付けられるような感じを受けます。

いずれも胸の周辺で異常を感じるものですが、肩や顎あたりの痛みだと、肩凝りや歯痛と勘違いするケースが少なくありません」(循環器内科担当医)

 狭心症は、高血圧、喫煙者、肥満の人にリスクが高いといわれ、少なくともそれらに該当するなら、左肩の肩凝り、左側の歯痛が起きた場合は要注意。しかし、狭心症の症状は長く続かない。

せいぜい数分から20~30分で症状は消えるが、厄介なのは歩行や階段の上り下りなど負荷の掛かる運動によって、何度も症状が表れることだ。こういった時には、循環器内科の受診をする必要があるという。

 また冒頭で記したように、不安定狭心症や心筋梗塞、心臓突然死などの病は「急性冠症候群」の総称で呼ばれる。病名が違っても原因が同じであれば対策も同じというわけだが、その理由はどこにあるのか。

 「この急性冠症候群は、全ての人にリスクがあり、とくに加齢とともに高まります。さらに喫煙者に加えて、糖尿病や高血圧、脂質異常症の病気を持っている人はリスクがより高い。

加齢で誰もが血管が老い、プラークや血栓ができやすくなります。ですから、喫煙などの要因がゼロでも、リスクはゼロではありません」(前出・循環器科担当医)

声枯れ・胸焼けはご用心!「胃食道逆流症」

最近、声が枯れたり、喉が痛かったり、咳が止まらなかったり、胸焼けが気になったりしませんか? もし食後や起床時に症状が強いなら、胃食道逆流症の可能性があります。

喉や食道に、違和感はありませんか?
少し太り気味のAさんは良く食べ良く飲む生活。カラオケが大好きです。検診でも引っかかった事はなくて健康には自信があります。しかし最近、いくつかの症状が気になっています。カラオケに行ってないのに声がかすれたりするのです。

以下のチェック項目で、あなたにも当てはまるものがありませんか?

□ <声> かすれる・滑りが悪い・高い声が出にくい
□ <喉> 何かが詰まったり、引っかかったりした感じ
□ <喉> ちくちくした感じ・イガイガした感じ・痛い
□ <飲み込み> 物が飲み込みにくい・物を飲み込む時に痛い
□ <胸焼け> 胸やけ・胸が痛い
□ <咳> 咳が続く
□ <その他> 嘔吐しそうになる。
□ <その他> 口の中が酸っぱかったり・苦いことがある。

Aさんの症状は声・喉・胸焼け・咳・口の中などで起きています。Aさんは、これらの症状が一日の中では、食後に強くなる事に気がつきました。また起床時にも強くなる事にも気がつきました。

これらの症状を引き起こすのが胃食道逆流症です。

原因:胃液の逆流で食道が溶けている!

胃には、食物を溜めて置く役割と、胃液中の胃酸で飲み込んだ食物中の細菌を殺す役割があります。

胃自体は粘液で守られているので大丈夫ですが、もし胃液が食道に逆流してしまうと、粘液で保護されていない食道は溶けてしまいます。逆流を防いでいる通常の機能がふとしたことで低下すると、胃液の逆流が起こってしまうのです。

胃液で溶けると食道の動きは悪くなり、場合によっては食道自体が狭くなってしまうこともあります。ですから胸焼けが起きたり、物が飲み込みにくくなったりするのです。

口の中が酸っぱく感じるのは、胃液の逆流が原因です。もし苦く感じるとしたら、十二指腸から苦味がある胆汁が胃に逆流し、それがさらに胃から口まで逆流したためと考えられます。

安倍総理も悩まされた潰瘍性大腸炎とは…症状・治療法

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜がただれて下痢や出血、腹痛をきたす原因不明の病気です。潰瘍性大腸炎とクローン病を包括して炎症性腸疾患と呼びます。炎症の部位は、直腸から連続的に口側に広がり、大腸全体まで及ぶこともあります。症状が良くなる「寛解」と、悪くなる「再燃」を繰り返すことが特徴です。

どの年齢層でも発病する可能性がありますが、10代後半~30代前半に好発します。潰瘍性大腸炎の患者数は1970年以降急激に増加傾向にあり、2011年現在で、潰瘍性大腸炎の特定疾患医療受給者数は13万人と報告されています。

解消性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の原因はまだわかっていません。しかし、最近の研究では、「遺伝的な要因」、「食べ物や腸内細菌、化学薬品などの環境因子」、「免疫の異常」の3つが重なり合って発病すると考えられています。食生活の欧米化もこの病気が増加している要因のひとつとされています。

潰瘍性大腸炎の症状・診断基準

潰瘍性大腸炎では、血便や軟便・下痢、腹痛、発熱などの症状を認めます。このような症状が続いたり繰り返したりする場合は潰瘍性大腸炎が疑われます。

感染性腸炎など他の疾患でも似たような症状がみられることがあるため鑑別診断が必要です。内視鏡検査と組織検査で潰瘍性大腸炎に特徴的な所見があるかを確認します。注腸X線検査を行うこともあります。血液検査なども含めて総合的に診断します。

潰瘍性大腸炎の治療……薬・手術
現在のところ、この病気を完治させる治療法はありません。しかし、適切な治療によって病気をコントロールすることは可能です。活動期には病変範囲と重症度を把握し、それに応じた治療法を選択して速やかな寛解導入を図ります。

1)潰瘍性大腸炎の内科的治療法・主な薬

■5-アミノサリチル酸(ASA)製剤
潰瘍性大腸炎の基本薬です。従来からのサラゾスルファピリジン(サラゾピリン)やその副作用を軽減するために開発されたメサラジン(ペンタサやアサコール)という薬が用いられます。経口薬の他、肛門から腸に直接薬を注入する注入薬があります。軽症ないし中等症の活動期潰瘍性大腸炎の寛解導入に有効です。寛解期の再燃予防にも有効とされています。

■副腎皮質ステロイド薬
経口ASAで効果がない場合は、ステロイド薬の内服や注入療法が用いられます。経静脈的に用いることもあります。活動期潰瘍性大腸炎の寛解導入に有効です。寛解維持には効果がないため、基本的に寛解状態になれば徐々に減量し、最終的に中止します。

■白血球除去療法
潰瘍性大腸炎では、免疫が自分の腸を絶えず攻撃してしまうために、炎症が続いて腸が傷ついてしまうと考えられています。活性化している白血球(攻撃して悪さをしている白血球)を人工透析と同じような方法で体外に取り出し、フィルターにかけて除去し体内に戻します。

■免疫調節剤
6-メルカプトプリン(ロイケリン)、アザチオプリン(イムラン)、最近ではシクロスポリン(サンディミン)やタクロリムス(プログラフ)という薬が用いられます。過剰な免疫反応を調節する薬です。ステロイド薬が無効の患者さんやステロイド薬が中止できない患者さんの治療に用いられます。

■抗TNFα受容体拮抗薬
インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュムラ)という薬が用いられます。炎症を起こすタンパク質(サイトカイン)のひとつTNFαを阻害します。他の治療法では十分な効果が得られない患者さんが対象となります。

2)潰瘍性大腸炎の外科的治療法・手術

潰瘍性大腸炎の大半は内科的治療でコントロールできますが、内科的治療で十分な効果がなく、日常生活が困難になるなどQOLが低下した例、内科的治療治療で重要の副作用が発現、または発現する可能性のある例は手術適応とされています。手術は大腸の全摘が基本になります。最終的に人工肛門になる方はごくわずかです。

潰瘍性大腸炎の食事と薬物療法のポイント

強い炎症が起こっている場合は、絶食になることもありますが、症状が落ち着いている状態であれば、絶対食べてはいけないという食品はありません。ただし、脂っこい食物や香辛料・アルコールなどの刺激物は控えるようにしましょう。暴飲暴食を避け、バランス良く食べることが食生活の基本です。

食事に気を付けることはもちろん必要ですが、食事内容に過度に神経質になるより、薬物治療を確実に行うことがさらに大切です。

潰瘍性大腸炎は症状が落ち着いても、再び症状が現れる、再燃の可能性は常にあります。1/3~1/2の患者さんは1年以内に再燃を起こすと推察されています。薬の服用をやめてしまえば再燃の可能性は高くなりますので、症状がなくても医師の指示通りに薬を飲み続けるようにしましょう。

潰瘍性大腸炎と大腸がんとの関係

病変の範囲が長い潰瘍性大腸炎では、長い年月でみると、大腸がんの発生率が普通の人よりも高くなることが知られています。診断から10年で2%、20年で8%、30年で18%に大腸がんの合併を認めます。

潰瘍性大腸炎に合併するがんは、普通の大腸がんと形が少し異なり見つけにくいこともあります。担当の先生と相談して、定期的に検査をうけましょう。

潰瘍性大腸炎の際の妊娠と出産

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患であるだけで不妊率は増加しません。多くの報告があり一定の見解は得られていませんが、寛解期に妊娠した炎症性腸疾患の再燃率は、非妊娠者と同等です。

ただし、炎症性腸疾患が活動期の妊娠では2/3の患者さんで活動性が持続、うち2/3が悪化するという報告があるため注意が必要です。

炎症性腸疾患では3か月以上の寛解維持期間をおいて妊娠するのがいいでしょう。もしも、妊娠中に悪化しても、治療を受けながら無事に出産することは可能です。主治医に相談し、きちんと治療を受けながら妊娠を継続させましょう。

炎症性腸疾患治療薬の多くは、治療に有効であれば安全に投与できるというのが近年では主流となってきています。主治医とパートナー、家族が話し合って、計画的に出産を行うのが理想的です。


潰瘍性大腸炎の医療費の助成制度

潰瘍性大腸炎は国が指定した「特定疾患治療研究事業」の対象疾患になっています。潰瘍性大腸炎と診断された場合は、所定の申請手続きを行い認可されると、潰瘍性大腸炎に伴う医療費の助成を受けることができます。医療機関や保健所で相談して下さい。

カリスマバイヤー藤巻参院議員襲った「大動脈瘤破裂」の怖さ

結いの党の藤巻幸夫参院議員(享年54)が15日、出血性ショックで死去した。

 伊勢丹のカリスマバイヤーや福助社長などファッション業界で知名度を上げ、12年12月に比例で繰り上げ当選。政治家としてはまだこれからだった。昨年12月のみんなの党分裂劇までは、元気そのもので病気の気配など
全くなかったという。

■年明け以降、国会に姿を見せず

 結いの党関係者がこう言う。
「クリスマスの頃に急性すい炎で倒れ、入院したそうです。以降、国会に顔を見せることはありませんでした。党内で何度か<お見舞いに行こう>と話しましたが、ご家族から<面会できる状態ではないので>とのことでした。

ただ数日前、藤巻さんの秘書が<状態はいいです>と言っていたので、春には復帰できるかと思っていたのですが…」

 死因の出血性ショックを招いたのは大動脈瘤破裂だったようだ。大動脈は、心臓から拍出された血液を全身に届ける血管で、直径2~3センチ。体の中で最も太い血管が破裂するのは、高血圧が原因といわれている。

「血管が高血圧によるプレッシャーを受けていると、劣化するところができてきます。それで、弱くなった部分に、水風船のような瘤(こぶ)ができる。水風船にどんどん水を注入すれば破裂します。

それと同じように、臨界点に達した動脈瘤が破れて出血するのが、大動脈瘤破裂です。瘤が破裂したら致死率は9割に上る。瘤が小さいうちに見つけて、治療できるかが生死の分かれ目です」(東京都健康長寿医療センター・桑島巌顧問=高血圧外来)

■昨年末、急性すい炎で入院

 生活習慣病の一つである高血圧は、暴飲暴食や飲酒、喫煙、過労、睡眠不足、ストレスが悪化要因になる。そのうちのいくつかが重なって、ただでさえ高い血圧が一時的に急上昇すると、大動脈瘤が破裂する。

そこが、臨界点だ。生前の藤巻氏は日焼けして健康そうに見えたものの、メタボ気味だったから、暴飲暴食の気があったかもしれない。それを裏づけるのが、昨年末に急性すい炎で入院したことだ。

「急性すい炎は、脂っこい食事や過度の飲酒を何日も繰り返すと、発症します。大動脈瘤破裂と急性すい炎は、まったく異なる病気ですが、それぞれのリスク因子が重なり合うのです。

12月の入院から“面会謝絶状態”だったそうですから、急性すい炎も重かったと推測できます」(桑島氏)

 藤巻氏が経営するデザイン会社がうまくいっていなかったという話もある。ストレスが頂点に達していたのか。

慢性的な胃の痛み…原因はストレスではない

仕事もプライベートも何かと忙しい30代。しかし、「忙いから」と健康を疎かにしていると、気がついたときには「すでに時遅し」となりかねない病気にかかってしまうことも。

日常生活で見過ごしがちな“体の異変”を察知できるかが大事になるのだ。各分野の専門医の警告と、体が発する“サイン”に耳を傾けるべし!

◆みぞおちや背中に痛みを感じる、ストレスで胃が痛くなる、四六時中、胃薬が手放せない ⇒ 十二指腸潰瘍、胃ガンの可能性

ストレス過多の現代人にとってまず心配したいのは、心労などに過敏に反応しがちな胃や十二指腸の病気。そこで、菅原医院の院長・菅原正弘医師に、これらの臓器の病気について聞いてみた。

「やはり多いのは、食後に胃の痛みが出る胃潰瘍や、空腹時にみぞおちに痛みを感じる十二指腸潰瘍です。空腹時、みぞおちに痛みを感じる人は要注意です。

これは潰瘍部のただれた粘膜を胃酸や食物が刺激することも関係しています。場合によっては背中側に痛みが出たり、食欲不振や胸やけなどを感じることがあります」

 こういった兆候がありながら放っておいて悪化してしまえば、胃や十二指腸に穴が開いてしまうこともある。その場合、激しい痛みや嘔吐が起こり、緊急手術する必要も出てくるのだとか。 

また、胃潰瘍と十二指腸潰瘍は、急性の場合は食生活の改善やストレスの軽減などで治るのだが、慢性となると話は違う。

「慢性的な胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、体内にいるピロリ菌が原因になっていることが多い。その場合、菌を取り除かない限り根本的には治りません」

 と語るのは、消化器病を専門とする麻布医院の院長・高橋弘医師。

「ピロリ菌は、胃の中に生息する菌で、胃の内壁を傷つける性質があります。例えば『ストレスを感じると、胃がすぐに痛くなる人』などは、ピロリ菌の保菌者である可能性が高いんです。実はストレスで胃が痛いのではなく、ピロリ菌のせいで胃が弱くなっていることが考えられます」

 その場合、いくらストレスを減らしても胃の痛みは取れない。そして、潰瘍で済めばまだマシで、場合によってはさらなる恐怖が待ち受けていることも。

「胃ガンです。ピロリ菌保菌者が胃ガンになる確率は1年で1000人に1人程度。しかし、胃粘膜の萎縮が進んだ萎縮性胃炎でピロリ菌保菌者は、1年で400人に1人が胃ガンになる可能性があります。

そして、あまりに萎縮性胃炎が進行すると、胃の粘膜が荒れすぎてピロリ菌すら棲めなくなってしまいます。

そうなると、1年で80人に1人という非常に高い割合で胃ガンになると言われています。でも、一度ピロリ菌を取り除いてしまえば、もうこの菌により胃・十二指腸潰瘍になる可能性はなくなるし、胃ガンになる可能性もぐっと減ります」(高橋医師) 

 ちなみに、ピロリ菌の除去は1週間ほどの投薬で終了するという。すぐ胃が痛くなる人、胃薬が手放せない人は将来のリスクを減らすためにも根本的な治療が必要かも

最新の心臓病治療 (1) 経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)

大動脈弁狭窄(きょうさく)症は、左心室の出口にある大動脈弁が徐々に硬くなって開きにくくなる病気で、高齢者の弁膜症で一番多いと言われています。

心臓が収縮しても出口が十分に開かないので、重症になると血液が全身に行き渡らず、胸痛、息切れ、全身倦怠(けんたい)感、失神などさまざまな症状が出てきます。

ゆっくり進行するので症状が出るまで長い年月がかかるのですが、症状が出始めると急速に病状が悪化し、数年で死に至ると言われる怖い病気です。

 唯一の根本的な治療法は、外科的に開胸して傷んだ弁を人工弁に取り換える大動脈弁置換術で、手術がうまくいけばほとんどの方が元気になります。

そのため高齢の患者さんにも積極的に手術を行っている施設が多く、その成績も良好です。しかし、年齢や合併症のため手術のリスクが高くなり、従来の開胸手術を受けられない患者さんが3割以上いると言われています。

 このように手術の適応にならないハイリスクの患者さんに対して、足の付け根や小さく開けた胸の傷からカテーテル(細い管)を血管内に挿入し、狭くなった大動脈弁を風船で拡張したあと人工弁を留置する経カテーテル大動脈弁治療(TAVI:Transcatheter Aortic Valve implantation)が2002年にヨーロッパで始まり、世界中でこれまで7万人以上に行われてきました。

 日本でもようやくこの秋に保険償還され、健康保険診療下にこの新しい治療を行うことができるようになりました。大きく胸を開き心臓を止めて弁を取り換える従来の手術法とくらべ、TAVIは症例によっては足の付け根の血管に入れたカテーテルを通して全ての操作が終了するので、

体の負担が非常に小さく、これまで手術不可能と診断されたリスクの高い患者さんに対する有効な治療として注目を浴びています。

 さらに欧米では、過去に生体弁による人工弁置換術を受け、生体弁の劣化によって弁の交換が必要になった患者さんに対し、古くなった弁は残したままその内側にTAVIによって新たな人工弁を留置する治療(Valve in Valve)も行われています。

生体弁の耐久性は年齢にもよりますが15年程度といわれていることから、1回目は開胸手術で大動脈弁を植え込み、2回目は胸を切らずにTAVIで弁を入れるという考え方も可能になってくるかもしれません。

 この治療法の対象になるのは、高齢または合併症のため、従来の開胸手術ができないと専門医が診断した重症大動脈弁狭窄症です。

リスクの低い患者さんに対しては、現時点では外科手術による大動脈弁置換術の方が人工弁をしっかり固定できる(人工弁を心臓組織に糸で縫合固定するため)こと、TAVIで植え込んだ生体弁の長期の耐久性がまだわかっていないことなどから、これまでの外科手術が第一選択となります。

榊原病院では通常の胸骨切開による大動脈弁置換術以外にも、胸骨を切らずに右胸の小さな傷から手術を行う低侵襲大動脈弁置換術(ポートアクセス手術)も行っており、これらの手術とTAVIのどちらが安全に行えるか慎重に検討して適応を決定しています。

 近年の医療機器の技術開発のスピードには目を見張るものがあり、狭心症に対するカテーテル治療、大動脈瘤(りゅう)に対する血管内ステントグラフト治療に続いて、弁膜症に対しても血管内治療が可能な時代となりました。

体に優しい治療が今後増えていき、一人でも多くの患者さんが最新の治療の恩恵を受けることができるよう願うばかりです。

最新の心臓病治療(3) 低侵襲心臓手術

低侵襲心臓手術とは、通常大きな胸骨正中切開で行う心臓手術を、できるだけ小さな切開で行うものです。以前は胸骨を3分の2ほど切開して手術する「胸骨部分切開」がメーンでしたが、最近は、肋骨(ろっこつ)と肋骨の間(肋間)を5〜10センチほど切開して手術する「肋間小開胸」での手術が多くなってきました。

 肋間小開胸の手術では胸骨を切らないため、出血が少なく、細菌感染のリスクも激減し、術後の運動制限もほとんどありません。そのため、早期リハビリが可能となり、早期退院、早期社会復帰が可能になります。

また女性では、傷口が乳房に隠れるため、美容的にも非常に満足度の高い手術です。

 心臓病センター榊原病院では肋間小開胸での低侵襲心臓手術を2005年から開始しました。13年には年間100例を突破し、13年末までで420例を超える低侵襲手術を行ってきました。この症例数は、慶応大学病院に次ぐ、本邦第2位の症例数となります。

 2005年に低侵襲心臓手術を開始した時は、美容を目的とした若年女性の先天性心疾患(心房中隔欠損症)手術がメーンでした。

その後僧帽弁疾患まで適応を拡大し、07年には日本で初めて肋間小開胸で大動脈弁疾患の手術を行いました。その後も努力を重ね、10年には日本で初めて大動脈弁と僧帽弁の同時手術も行っています。

 2012年までは、早期社会復帰を目的とした比較的若年者の手術がメーンでしたが、12年9月の新病院移転を機に、高齢者でも積極的に低侵襲手術を行う方針としました。

特に、高齢女性で多い大動脈弁狭窄(きょうさく)症に対しても、「出血や感染などの術後合併症を予防する」ために肋間小開胸で手術を行うことが多くなっています。

実際に新病院移転後は、大動脈弁手術の半数以上が70歳以上の高齢者でした=図2参照。そして、12年末から左肋間小開胸での冠動脈バイパス術(2本以上)も開始し、心臓手術のかなりの部分で低侵襲手術を行う技術がそろいました。

 大変素晴らしい低侵襲心臓手術ですが、なかなか日本全国に広まらないのは理由があります。まず、小さな切開からの手術なので、手術難易度は格段に上がります。

また、術者だけが慣れていても手術にならないので、サポートする外科医、麻酔科医、手術室看護師、人工心肺技師すべてが手術を深く理解しておく必要があります。

そして、ささいな事が大きなトラブルにつながってしまうので、手術中はいつも以上に細心の注意を払わねばなりません。高い技術、深い経験、そして盤石のチームワークがなければ、安全に低侵襲心臓手術を行うことはできません。

心臓病センター榊原病院では、これまでさまざまな工夫を追加し、高齢者でも安全に低侵襲心臓手術を行うことができるようになりました。

 心臓病センター榊原病院でも2013年末から経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)を行えるようになりました。

ただ、カテーテルが通る動脈の損傷、不整脈によるペースメーカー植え込み、人工弁の周囲に隙間ができて血液が心臓に逆流するなどの問題があり、TAVRも完璧な低侵襲治療とは言えません。

人によってはむしろ、通常の人工弁置換術の方が安全な場合もあります。通常の手術、肋間小開胸による低侵襲手術、カテーテルで行うTAVR、どの治療が最も安全なのかを判断し、その人にとってベストの治療法を今後も提供してゆく予定です。

最新の心臓病治療(4) 最近の冠動脈ステント治療

狭心症、心筋梗塞という病名を聞いたことがあるでしょうか。心臓を栄養する血管(冠動脈)に動脈硬化が起こった結果、冠動脈が狭くなったり、閉塞することによって起こる病気です。

現在これらの病気に対して行われる治療方法としては、(1)飲み薬による治療(2)外科的に狭くなった血管の先に新しい血管をつなぐ冠動脈バイパス手術(3)手足の動脈からカテーテルという管を入れて行うステント治療―などがあります。今日はその中で、最も一般的に行われているステント治療について説明します。

 ステントとは金属でできた円筒形の網のことで、材質はステンレス、コバルトクロム合金などが使用されています。直径は2・25ミリから4ミリ、長さは8ミリから38ミリ程度とさまざまなバリエーションがあり、冠動脈の大きさ、長さに合ったものを使用します。


このステントは、治療前には冠動脈を広げるバルーン(風船)の外側に小さく畳んだ状態で装着されていますが、バルーンを広げることでステントも一緒に大きくなって冠動脈を広げるという治療です。

その後、バルーンは冠動脈の中から回収され、ステントのみが冠動脈内に留置されるという仕組みになっています。

 このステント治療が日本で一般的に行われるようになったのは1990年代半ば以降からと比較的最近です。

ステントはバイパス手術に比べて、傷口が小さく、治療時間、入院期間などの患者さんへの負担が非常に少ないこともあって、全世界的に大きく普及することとなりました。しかし、そのステント治療には「再狭窄(さいきょうさく)」といわれる大きな問題点がありました。

 再狭窄とは冠動脈ステント治療後、6〜8カ月くらいの間にステント内側が新生内膜といわれる組織によって覆われ、冠動脈が再度狭くなってしまう現象を指します。

その場合にはバルーン、ステントなどで再度治療を行う必要が出てきますが、この再狭窄はステント治療の20〜30%と比較的高率に起こるため、ステント治療の弱点とされてきました。

その「再狭窄」を克服するために開発され、最近よく使用されるようになってきているのが薬剤溶出ステントです。

 薬剤溶出ステントは従来型ステントの表面に免疫抑制剤が塗られており、その薬の作用でステント内に起こる新生内膜、ひいては再狭窄を予防するという構造になっています。

この薬剤ステントを使って治療を行うと、再狭窄は5〜10%以下と劇的な治療効果があることがわかり、以前にはバイパス手術しか治療の選択肢のなかった重症の狭心症、心筋梗塞にまで薬剤ステント治療が行われるようになってきています。

 しかし、この薬剤ステントを使えば狭心症、心筋梗塞の治療すべてが完了するというわけではありません。その主たるものが飲み薬の継続期間です。

ステント治療後には冠動脈が血の固まり(血栓)で詰まらないようにする予防薬(抗血小板剤)を飲む必要がありますが、薬剤ステントで治療した患者さんの場合は、通常型ステント治療よりも長期間にわたってこれらの飲み薬の継続が必要となります。

再狭窄の減少か、飲み薬の必要な期間か、従来型ステントと薬剤溶出ステントとの選択は、年齢、冠動脈の状態、もともとの病気などをみて総合的に判断する必要があると考えています。

 また、近い将来にはステントの素材自体が生体内で時間とともに溶けてなくなってしまう、生体吸収型ステントも使用可能となる予定で、ステント治療も時とともにより安全で、効果が高いものに変わってきています。

最新の心臓病治療(5) 円熟期を迎えた大動脈瘤ステントグラフト治療

大動脈瘤(りゅう)に対するステントグラフト(SG)治療が保険医療として2007年に認可されてからすでに7年経過しました。その間にSG自体がかなり進化し、さらにSGの種類も増えています。最近は、より安全で確実な治療ができるようになってきました。

それに大きく寄与したのはIT技術の進歩です。具体的には(1)CT(コンピューター断層撮影)技術の進歩(2)ハイブリッド手術室の進化です。

 (1)超高速CTの出現と、コンピューターによる画像処理技術(3D化)の進歩により高解像度3DCT画像を瞬時に作ることができ、より緻密な術前診断がつくようになりました。

 (2)ハイブリッド手術室の進歩は特筆されます。ハイブリッド手術室とは、高性能血管撮影装置を常備した手術室のことをいいます。10年に初期型ハイブリッド手術室システムが発売されましたが、この3年間にかなりな進歩をとげており、3年前とは別物といっていいぐらいです。

X線透視画像と3DCT画像のフュージョン(融合)による3Dナビゲーションシステム、高解像度大型モニターシステムなどにより従来では考えられなかった、ほとんど造影剤を使用しないSG治療も可能です。

さらに2方向透視装置を用いた立体透視の導入により、手術時間の短縮も図れ、手術時間は30分以上短縮して1時間~1時間半程度になりました。

 また、診断、治療技術の向上により、従来なら困難とされた大動脈瘤に対してもSG治療ができるようになってきました。一方、7年経過して、SG治療のトラブル(動脈瘤の再発)も多数発生し、その限界もある程度わかってきました。

 心臓病センター榊原病院においては07年からの7年間で約1600例の大動脈瘤治療を行ってきました。

そのうちの約600例はSG治療、残りの約千例は開胸あるいは開腹での手術(オープン手術)治療となっています。全国でも屈指の治療経験数です。現在、SGとオープン手術の比は2対3程度となっています。

最近になり、SGに対する世界中からの多数の学術論文やわれわれの約15年の経験から、SG治療に適する大動脈瘤の形態、治療効果、再発の有無がある程度わかってきました。

 確かにSG治療はうまくいけば体の負担はかなり小さく、従来のオープン手術を必要としないという点では画期的な技術です。

しかし、たくさんの症例のSG治療を詳細に検討すると、腹部大動脈瘤のSG治療は再発率が20%前後有ること、弓部大動脈瘤に対するSG治療ではオープン手術より明らかに治療時の脳梗塞(合併症)発生率が高いことなど、意外とトラブルの発生率も高いことがわかってきました。

SG治療に適さない患者さんにSG治療を行うと、トラブル発生率が上がり、治療によってかえってQOL(生活の質)を下げることもあります。そのような事実を知って個々の患者さんに最も適した治療方針を決めることは重要です。

 治療経験数や治療設備による施設間の治療成績の格差が存在するのも事実です。経験数の多い施設では医師だけでなく、看護師、技師など医療従事者の経験値も高く、より良い、高度なチーム医療が可能です。

高度なSG治療には外科医、麻酔科医、看護師、臨床工学技士、放射線技師など6~8名が1チームとして治療を行う必要があります。

 治療を自動車レースにたとえると、自動車技術の進化により自動車自体が高性能となりました。しかし、運転するのはドライバーであり、さらにそれを支えるサポートチームが必要です。いくら高性能車であってもそれを乗りこなす技術がないと高速でコーナーは曲がれません。

高性能車(医療機器)と技術の高いドライバー(医師)とサポートチーム(看護師、技師など)がすべてそろっていないと自動車レースでいい成績は残せません。経験と知識とマンパワーが重要だと言えます。(心臓病センター榊原病院 吉鷹秀範上席副院長=心臓血管外科)

最新の心臓病治療(5) 円熟期を迎えた大動脈瘤ステントグラフト治療

 よしたか・ひでのり 高松高、香川医科大(現香川大医学部)卒、同大学院修了。1991~92年の2年間、循環器内科医として約千例の心臓カテーテル検査、治療を経験。その後、大阪の国立循環器病センターで心臓血管外科医としてスタート。96年から心臓病センター榊原病院に勤め、2002年心臓病血管外科部長、05年から副院長、12年から上席副院長。

悩ましい「脳の老化」進行を防ぐ2つの方法とは

患者520万人、予備群まで加えたら1000万人近い人が、さらにその家族まで加えたら数千万人の人が悩み苦しんでいるかもしれないという「認知症」。今からできることはないのか。どうすればいいのか。

2017年1月14日に芝浦工大で行われた「脳の老化ってどんなこと?~からだのサビが認知症を引き起こす!~」と題する福井浩二先生(芝浦工業大学システム理工学部教授)の公開講座には、定員を超える受講生が集まっていた。

■「脳の老化」は切実な悩み

「歳を取ったなあ」とつくづく感じる第一の身体の部分が、目だ。

筆者は新聞の字が読めなくなり、メガネ(もともと近視)を外したほうがよく見えると気がついた。だが、かなり紙面に顔を近づけなければならず、そのうちパソコンの字も見えなくなってきた。これでは仕事にさしつかえると、遠視用のメガネを作った。

顔も老けた。多くの女性たちが鼻の脇から口に向かってのびる「ほうれい線」が濃くなって老け顔に見えると悩んでいるようだが、男もそこは同じ。鼻の脇の陰影は日増しにくっきりとし、すぐ横のほっぺたも垂れ下がり始めた。放っておけば岸信介や佐藤栄作(ぜひGoogleで画像検索してみてほしい)級のブルドッグ顔になってしまう、いや、もうなっていると、慌ててジョギングを始めたが、続かないのが情けない。

これらは目に見える老化だ。自覚症状もある。だが、見えない老化もある。身体の中、とくに脳の老化は目に見えず、自覚も難しい。これだけ高齢者が増え、現実に認知症など「脳の老化」が問題になれば、もう他人ごとではない。

現実に自分の身体はあちこちガタガタだ。頭にガタが来てもおかしくはない。かつては物忘れのひどさを自虐ギャグとして笑い飛ばしていたが、それも若いからできたこと。最近は、まあ大丈夫ですか?と周りの人が真顔で心配してくれる。

そんな現実を直視せねばという一大決心(?)のもと、向かったのが芝浦工業大学の講座「脳の老化ってどんなこと?~からだのサビが認知症を引き起こす!~」(2017年1月)だった。

■老化とは酸化、とくに激しいのが脳の酸化

芝浦工大と聞けば電気や機械の世界を想像するが、教壇に立った福井浩二先生は生命科学科の教授だ。

システム理工学部生命科学科は2008年に設立されたまだ新しい学科で、福井先生も40代の精鋭の研究者だ。「脳の老化」の世界で多くの実績をあげる学者でありながら、ご自分の薄くなってきた頭を笑いのネタにできる尊敬すべき先生だ。定員100名を超える受講者が押しかけ、満杯になった会場で講座は始まった。

福井先生の話をひとことで表現すれば、「老化とは酸化である」ということだ。歳を取るごとに身体の細胞のあちこちが酸化して蓄積していく。それが老化だ。酸化の身近な代表例が金属のサビだろう。「身体がサビ付く」という表現があるが、まさにその通りのことが起こっているわけだ。

中でもサビの一番ひどいところが脳だ。もともと脳の細胞は酸化しやすい物質でできている。それに加え、考えることはもちろん、身体中の機能を司る脳は休みなく働き続け、酸素消費量は身体のどの部位よりも多い。人間の脳は体重の2%だが、酸素消費量は身体全体の4分の1を占める。その結果、他の身体の部位に比べ、脳の酸化は激しくなり、その結果、脳の老化を招くことになる。認知症をはじめ脳の病気の原因になる。

■生理的老化は避けられないが、病的老化は阻止できる

それでは「脳の老化」を防ぐにはどうすれば良いのか。誰でもできる方法が2つあるという。

(1)抗酸化成分の含まれる食事を摂る

抗酸化成分とは、具体的にはカテキン(お茶に含まれる)、ポリフェノール(ウーロン茶、赤ワイン)、そしてビタミンCやビタミンEなどだ。食事をとおしてきちんと摂れば、身体の中で酸化の進行を防ぐことができる。

(2)規則正しい生活をする

もうひとつ大事なのが、規則正しい生活をすること。生活のリズムの乱れは、身体の代謝機能やホルモン、神経のバランスを崩す。食事として摂るべき上記の抗酸化成分以外にも、人間は身体の中に酸化を防ぐ成分がある。それらを存分に働かせるためにも、無理をせず、規則正しい生活することが一番だという。

講義中、福井先生が何度か強調するのが「老化とは避けられないもの」ということだ。ちまたでは「若返り」や「アンチエイジング」が流行り、まるで老化してきた道を逆戻りできるようにも聞こえるが、そんなことはあり得ない。

希望が打ち砕かれるようだが、話には続きがある。「生理的老化」により人間は必ず老化し、寿命を迎える。それはどうしようもない。だが、老化にはもうひとつ「病的老化」がある。これがあるから本来、生きられるのが妨げられ、寿命を縮めてしまう。「病的老化」を防げば、「生理的老化」で定められた寿命を全うできる。

では、「生理的老化」だけならば人間はどれほど生きられるのか。

講義で紹介されたのが、122歳まで生きたフランス人女性の例だ。日本でも1960年代は150人ほどしかいなかった100歳超の人(センテネリアン)が、2016年9月現在では6万5千人まで増えたという。栄養をしっかり摂り、生活環境が良くなったことで「病的老化」が減り、ここまで人の寿命が延びたのだ。

講義の前半では長寿の記録や統計などの事実が地道に積み上げられ、後半では身体(特に脳)が酸化する仕組み、そしてそれを防ぐ方法へと話が移っていくに連れて、初めは「まさか? あり得ないだろう」と思えた100歳超の寿命が現実味を持って迫ってくるから不思議だ。将来、本当に誰もが100歳以上を生きる時代が来るのかもしれない。

抗酸化成分を摂ることや、規則正しく生活することも、決して目新しい話ではない。だが、体系だった福井先生の話により、それがいかに大切なことか、改めて実感できた。

この日、隣の席で受講していた50代の女性は「健康については本当にいろいろな情報があふれていて、何が本当なのかわからず振り回されていました。こうして専門家の先生のお話を伺えると、自分で判断できますね」と語っていた。

心臓や肝機能にも影響 侮れない“冬の便秘”の脅威(2)

 加えて、何らかの要因で肝臓が弱っている場合についてこう述べる。 「便秘が続くと有害物質が血管を通って脳に達し、肝性脳症を起こす危険すらあります。もちろん便秘や“宿便”と言われる現象が続くと、肝臓障害の“終着駅”と言われる肝硬変のリスクが高まり、肝細胞の再生が不能となる。何日間も便が出ないときは1人で悩まず、医療機関の診断を受けるべきなのです」

 人間の腸の中には、驚くことに、普通の人でもただでさえ日常排泄される便以外の“宿便”を3~5キロ持っていると言われるため、注意しなければならない。

 別の専門家は「我々医者は“宿便”という言葉は使いません」と言う。 「近い意味では“滞留便”があります。胃や腸の働きが、生活習慣や食事内容の乱れなどが原因で便が停滞し、腸のぜん動運動が弱まります。そして肛門から出す排泄便が詰まる。これが滞留便であり、宿便という表現になります。ですから、便秘になるとかなりの量の便が溜まっていることになります」

 厄介なのは、この排泄されない滞留便が腸内の悪玉菌を増やし、いわゆるオナラも発生する点だ。オナラは尻から出るだけでなく、腸から血液に吸収され、さらに肺に送られて「口臭」として発せられるほか、「体臭」となって現れるというからショッキングだ。
 こうしたことから、排便をコンスタントにしたいと願い、医者に便秘薬を処方してもらう人も多いが、外出先にも持参しなければならなくなると大きなストレスとなる。

 「そのストレスも体にとってはよくない。交感神経が優位になり、神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されるからです。アドレナリンは心拍数を増加させたり、血流を増やし、血管を収縮させるため、血圧が上昇する。それだけで心臓の負担も増えるし、ウイルス性肝炎やアルコール性肝炎への危険を高める結果となるのです」(専門医)

 そうした流れが、便秘のため腸内発酵で生じる毒素が体外に出なかったり、滞留便による毒素が腸粘膜より吸収されてしまうなど、腸内細菌叢が悪玉菌優位の状態となり、悪玉菌が出す毒素が大量に門脈(胃や大腸、膵臓などで吸収されたものを運ぶ血管)から肝臓に入る。こうして肝臓の働きが低下すると、処理されるはずの毒素が静脈血に入り、全身の細胞代謝に障害を引き起こすという。

 そうならないためにも、まずは便秘を予防すること。対策として管理栄養士の前田和子氏は、「普段から食物繊維が多く含まれる野菜や玄米と言った食品を積極的に摂ってください」と、食生活改善への取り組みを勧める。

 「便秘が増えると言われる冬場なら、シメジやエノキ、シイタケなどのキノコ類や、ゴボウ、白ネギ、春菊、白菜などの野菜をたっぷり使った鍋料理がお勧め。また、乳酸菌が豊富なヨーグルトや納豆などの発酵食品も効果的です。肝臓機能が低下している人は、ビタミン不足になりやすいので、ビタミンと繊維質を同時に摂れるミカン、リンゴなどの果物を毎日食べること。便秘防止と肝機能向上の一石二鳥につながり、有効な手段だと思います」

 さらに便秘と脂肪肝の両方を防ぐ近道は、やはりウオーキングなどの無理のない運動で腸を刺激することだ。

心臓や肝機能にも影響 侮れない“冬の便秘”の脅威(1)

 「寒い日が続くと汗をかかなくなるので、水分を摂取する回数が減る。さらに暖房器具を長時間つけっ放しにしていることも多く、空気も乾燥しているため脱水状態になりやすい。このように体内の水分が減ると、便秘になりやすくなるのです」(健康ライター)
 成人は通常、1日1回の排便があるが、便秘症となると数日に1回程度と少なく、間隔も不規則で水分含有量も低下している。そのような状態で何とか排便しようとトイレでいきむと、心臓に大きな負担がかかるという。軽くいきんだだけで、最大血圧が60~70㎜HG以上アップするという報告もあるため、決して甘く見ることはできない。

 都内で総合クリニックを経営する医学博士・久富茂樹院長はこう言う。

 「冬は普段すごしている場所に比べ、トイレの室温が低い場合が多いので、ただでさえ血圧が上がりやすい。心臓にトラブルがあって、普段から薬を服用している患者さんは、さらに注意が必要です。しかも、心臓の治療に使われる薬には、副作用として便秘を起こすものも多いですからね」

 慢性心不全の治療などで使われる利尿剤は、体内の水分を尿として強制的に排泄させようとする。すると、減少した水分を補うために大腸からの水分吸収が促進され、大腸内の水分が減って便が硬くなり、便秘を引き起こす。

 「加えて、心臓の負担を軽減させるために水分摂取制限が行われている場合も多いので、さらに便秘になりやすい状態に陥る。ただ、便秘といっても症状の現れ方や排便回数には個人差があり、専門家に言わせても明確な定義があるわけではありません」(前出・健康ライター)

 人にもよるが、3日間の便秘でお腹が重く感じ、下剤などを飲む人もいれば、さらに長い人では1カ月便秘という人もいる。その場合、便は黒っぽく、コロコロした便になることが多い。また、排便が2~3日に1回で、それが硬くても軟らかくても何の苦痛も感じない場合もある。

 2008年の日経新聞に、便秘に関してこんな内容の記事が掲載され注目された。

 〈肝機能の低下に、一見関係がなさそうな便秘が拍車をかけることはあまり知られていない。国内に3000万人の患者がいると言われる脂肪肝になると、肝硬変、肺がんなどにつながる恐れもあり、便秘の悪影響を無視するわけにはいかない。肝臓をいたわりながら便秘も防ぐには、食事内容を含め生活習慣をどう改めればよいのか研究する必要があるのではないか〉

 昭和大学病院総合内科の外来担当医がこう説明する。

 「便秘には当然、生活習慣が大きく関わってきます。そのため食事の質や内容、そして運動などについても認識を高める必要がある。また病気に関しても、心臓の病はもちろん、体外に排出されるアンモニアなどの有害物質(毒素)が肝臓に運ばれ、そこに滞留した場合、胃や腸、肝臓に負担をかけることになります」

診断で異常なしでも発症 心筋梗塞「早期発見」のポイント

 前回は、心筋梗塞のリスク要因について紹介した。一方で、心筋梗塞のリスク要因に全く該当していなくても、突然、発症することがある。どんな場合が危険なのか?

 日本人の死因は、第1位ががん、第2位が心筋梗塞を含む心疾患だ。がんについては、「誰もが発症する可能性がある」と認識している人は多いだろう。

 しかし、心筋梗塞については「自分は大丈夫」と思っている人が結構いるのではないか? もしその理由が、「やせている」「健康診断などで数値はいずれも正常」「たばこもアルコールもやらない」といったものなら、その“自信”は撤回した方がいい。

「心筋梗塞には主に4つのリスク要因がありますが、それらは“なりやすさ”を示すもので、該当しないことが“心筋梗塞にならない”の証明にはなりません」

 こう指摘するのは、東海大医学部付属病院循環器内科・伊苅裕二教授だ。

 心筋梗塞のリスク要因は、脂質異常症、糖尿病、高血圧、喫煙習慣の4つだ。脂質異常症にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が関係しているが、心筋梗塞のリスクを上げるのは、LDLコレステロールが高い場合になる。

■動脈硬化のリスク要因がなくても……

 ところが、心筋梗塞を起こした患者には、脂質異常症も糖尿病もなく、血圧は正常範囲で、喫煙習慣もない人がいる。

「こういった人の心筋梗塞は、動脈硬化とは関係ないものだと研究で分かってきました」

 では、何が問題になっているのか?

 ひとつは「冠攣縮性狭心症」だ。狭心症には、階段を上がるなど動いている時に症状がある「労作性狭心症」と、寝ている間など安静時に症状がある「冠攣縮性狭心症」がある。後者は「安静時狭心症」とも呼ばれる。

「労作性、冠攣縮性、ともに心筋梗塞の前兆ですが、『労作性』が4つのリスク要因によって動脈硬化が進行した状態で表れるのに対し、『冠攣縮性』は心臓に酸素などを送る冠動脈が一時的に痙攣を起こして収縮し、血流が途絶えた時に表れます。先に述べたように、動脈硬化とは関係ありません」

 つまり、動脈硬化につながるリスク要因がなくても冠攣縮性狭心症は起こり、それが心筋梗塞につながるケースも少なくないのだ。

■寝ている時に苦しくなる

 これに早く気づくポイントは、「寝ている時をはじめ安静時に胸の苦しさ、重み、息苦しさなどはないか?」になる。ただし、5分ほどで血流が再開通して症状が消えるので、病院で検査しても、画像などでは何も分からない。

「冠攣縮性狭心症で積極的な治療が必要とされるのは、頻繁に症状が出て日常生活に支障が出る場合です。特に失神も起こっているようなら、胸の苦しさが起こってからではなく、すぐに病院で調べてもらった方がいい。患者の訴えから冠攣縮性狭心症を念頭に置き、検査や治療を行います」

 動脈硬化と関係ない心筋梗塞には、もうひとつ「冠動脈解離」がある。冠動脈の中膜が裂けて血流が途絶える。動脈硬化が原因の心筋梗塞は、平均65歳で発症する男性が多いが、冠動脈解離は30~40代の女性に多い。

 こちらは前兆がなく、健康診断の結果からは全く分からない。残念ながら、積極的な予防法がなく、「心筋梗塞らしき症状が出たら、様子を見ないで速やかに病院へ」が重要になる。「こんな年齢で心筋梗塞になるはずがない」という思い込みは禁物だ。

死亡率がぐんと下がる可能性 「心筋梗塞」の正しい予防策

死亡リスクのある心筋梗塞の多くは予防できる。東海大学病院循環器内科・伊苅裕二教授に聞いた。

 心筋梗塞はリスク要因を減らし、症状が見られればすぐに病院を受診することが対策の基本になる。リスク要因は、脂質異常症(特に高LDLコレステロール)、糖尿病、高血圧、喫煙習慣だ。

 しかし、予防策としてまだあまり知られていないことがある。まずは、LDLコレステロールを下げる薬として認可されている「スタチン」の使い方だ。

 日本では、基本的にLDLコレステロールが高くなければ適用外。ところが心疾患が死因の第1位である米国では、「糖尿病があればスタチン」とガイドラインで定められている。

「糖尿病治療でヘモグロビンA1cを基準値以下にしても、心筋梗塞の予防にはなりません。有効なのは、あくまで腎不全などの糖尿病合併症に対してです」

 糖尿病であることそのものが、心筋梗塞のリスクを上げる。そして、これまでの研究で「心筋梗塞のリスクを下げる」と結果が出ているのがスタチンなのだ。

「循環器内科医は、スタチンを『LDLコレステロールを下げる薬』というより『心筋梗塞予防の薬』と考えています」

 これは、心筋梗塞の2次予防にも通じる。

 心筋梗塞を一度起こすと、近いうちに2度目を起こしやすく、死亡率は極めて高い。そのためスタチンの中でも作用の強い薬を用いて、厳格にLDLコレステロールの数値を下げる。

「しかし、LDLコレステロールが基準値よりはるかに低い心筋梗塞患者も珍しくありません。こういった患者への対処が長年の議論でした」

 これに関して、最新の研究では「もともとLDLコレステロールが低い場合も、心筋梗塞の2次予防にはスタチンを用いたほうが再発率が低い」との結果が出ている。

「スタチンを最大量投与しても、LDLコレステロールは50(mg/dl)前後までしか下がらず、身体への影響はありません」

■不安定狭心症はより注意が必要

 あまり知られていない心筋梗塞の予防策の2つ目は、心筋梗塞の前兆である「狭心症」への対処だ。

 狭心症は、心筋(心臓を構成する筋肉)に酸素と栄養素を運ぶ冠動脈の内側が細くなり、心筋への血流が悪くなった状態。症状の出る場所やその強さ、内容は人それぞれだが、「動くと主に胸が苦しくなる(胸ではなく、歯痛、腹痛、胸のむかつきなどと表現する患者もいる)」「休むと5分ほどで治る」が特徴だ。

 狭心症には、安定狭心症と不安定狭心症があり、後者は2割弱が1カ月以内に心筋梗塞を起こす。だから、不安定狭心症はより注意が必要だ。

 不安定狭心症は、狭心症の発作の頻度が増えたり、安静時にも起こすようになった時に疑う。厄介なのは、安定狭心症から不安定狭心症への移行が患者の自己申告でしか判断できない点だ。

「感度の高い検査を行っても、異常なしと出ることは珍しくありません」

 ある狭心症の患者は、「胸が苦しくなる頻度が増えたようだが、問題ない。不安定狭心症ではないと思う」と伊苅教授に言った。狭心症を調べる負荷心筋シンチグラフィーでは異常なし。数日後にCTの予約を入れたところ、その日が来る前に心筋梗塞を起こした。

「狭心症で、少しでも症状に変化が見られれば主治医に伝えてください。検査結果が異常なしでも、不安定狭心症が考えられれば、カテーテルを用いた治療(PCI)を行い、心筋梗塞への移行を防ぎます」

 心筋梗塞に対する知識が徹底すれば、死亡率はぐんと下がると考えられている。

【心臓外科医が解説】エビ中・松野莉奈さんを襲った「致死性不整脈」とは?

■18歳アイドルの急逝…死因は致死性不整脈
「私立恵比寿中学」のメンバーとして活躍中であったアイドルの松野莉奈さんがこの2月8日に急死されました。松野さんの溌剌とした元気さを知る誰もが耳を疑うような出来事でした。その後、死因が致死性不整脈であったことが発表されました。

以下は松野さんの死因を報道する毎日新聞からの抜粋です。

『●松野莉奈さん急死 死因は致死性不整脈の疑い 事務所発表

毎日新聞2017年2月10日 18時18分(最終更新 2月10日 20時01分)

アイドルグループ「私立恵比寿中学」のメンバーで8日未明に死去した松野莉奈(りな)さん(当時18歳)の死因について、所属事務所は10日、致死性不整脈の疑いと発表した。

松野さんは体調不良のため、7日に大阪で開かれたコンサートへの出演を取りやめ自宅で療養していた。8日未明に容体が急変、東京都内の自宅から救急車で搬送されたが、病院で死亡が確認された。

私立恵比寿中学は女性8人組。「ももいろクローバーZ」の姉妹グループとして活動していた。』

18歳という若さで、しかも元気に活躍しておられた松野さんを突然襲った致死性不整脈というのはどういう病気なのでしょうか。詳細はこの記事をお書きした時点では公表されていないため、わかる範囲で考えてみます。

■致死性不整脈とは
そのまま放置すると意識消失から突然死に至る危険性が高く、緊急治療を必要とする不整脈を致死性不整脈と呼びます。多くの場合、心室頻拍や心室細動を指します。

心臓の動きが極端に速くなるか遅くなるタイプの不整脈で、こうなると心臓が脳や全身に血液を送れなくなり、血圧がうんと低くなり、ゼロになることさえあります。血液が行き届かないことで脳の正常なはたらきがやられてしまい、死に至る病気です。致死性不整脈の8割は速くなるタイプで2割が遅くなるタイプと言われています。

■心臓の動きが速くなるタイプの致死性不整脈の種類
心臓の動きが速くなるタイプの致死性不整脈としては、毎分100~200回拍動する「心室頻拍」や毎分300回以上も拍動する「心室細動」が代表的です。

●30秒以上続くと危険な「心室頻拍」
心室頻拍のうち30秒以上続く持続性心室頻拍では、松野さんのような突然死を起こす恐れがあります。しかし30秒は続かない、非持続性心室頻拍でもトルサード・ド・ポアント(Torsade de Pointes)という不整脈などでも、後述の心室細動に移行することで突然死の原因になることがあります。

心室頻拍を引き起こす原因として、心筋梗塞、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心サルコイドーシス、心臓弁膜症、ある種の先天性心疾患、催不整脈性右室心筋症(右室異形成症)、左室緻密化障害、心筋炎、その他が知られています。これらの多くがいのちにかかわる重症です。

こうした原因がない、つまり原因不明の心室頻拍を「特発性心室頻拍」と呼びます。この中に、右室または左室の流出路から信号の出るタイプと、左室の心室中隔側から出るタイプがあります。特発性の多くは比較的良性ですが、それでも数%以下の人たちは突然死しますので油断は禁物です。

●最悪の不整脈である「心室細動」
心臓の動きが速くなるタイプの致死性不整脈のもうひとつのタイプが心室細動です。心室細動は最悪の不整脈です。というのは心室がぴくぴくと高速で動くため、血液を送るという心臓本来の仕事ができなくなるからです。実質、血圧はゼロとなり4分以内に脳死となってしまいます。いきなり心室細動になる場合と、上記の心室頻拍を経て心室細動になる場合があります。

心室細動の原因としては、心筋梗塞や心筋症などが知られています。

しかし今回の松野さんの場合のように、特に目立った異常や持病などがなく、一見健康な状態から心室細動になることもあります。心筋梗塞や肥大型心筋症で心房細動から心室細動へ移行することもあります。

■心室細動に見られる「一過性」と言われるタイプ
前述の30秒続かない心室細動を起こすことで知られているのが「トルサード・ド・ポアント」です。短時間で自然に心室細動が止まるため、意識を失ったり倒れたり、全身の痙攣を起こしても、すぐに元に戻ります。かつてはてんかんと間違われたものです。しかし時に本物の心室細動になり命を落とすため油断できません。

原因としてQT延長症候群があり、生まれつき心筋の異常で起こったり、後天的に薬の副作用やカリウムの低下などでも起こることがあります。

■同様に突然死を引き起こす「ブルガダ症候群」
もうひとつ、同様に突然死を引き起こす心臓の病気として、「ブルガタ症候群」というものもあります。かつてぽっくり病と言われたもので、中年男性が夜中などに心室細動を起こして突然死してしまう怖い病気です。日本人に多い傾向があり、運動時より安静時に起こります。心電図検査である程度わかりますが、これまでに失神発作を起こしたひとや家族に突然死の方がおられる場合は要注意です。

■震災後に増えた「たこつぼ型心筋症」も心室細動の原因に
また、左室がたこつぼのような形になる「たこつぼ型心筋症」は、中年以後の女性に多く、強いストレスが原因のひとつと考えられています。熊本地震後の被災生活中にこの病気が増えたという報道がありました。

これは数か月で治りますが、発症後しばらくは上記のトルサード・ド・ポアントから心室細動、そして突然死に至るリスクがあるため、油断できません。

■心臓の動きが遅くなるタイプの致死性不整脈の種類
代表的なものは「房室ブロック」で、洞不全症候群が続きます。これにより心臓を動かす電気信号が途中で止まり、心臓の動きが極端に遅くなります。つまり心臓が止まってしまうのに準ずる状態です。そこから本当に心臓が止まったり心室細動に移行して死亡してしまったりすることもあります。

房室ブロックの原因として考えられるのは心筋梗塞、先天性心疾患、心筋症、サルコイドーシスその他があります。

■これらの致死性不整脈の治療法
原疾患がある場合はその治療をできるだけ行うとともに、抗不整脈剤を使うことが大切です。専門医の診察を受け、必要に応じて入院、精密検査ののち方針を立てるべきかも知れません。

薬としてはアミオダロン、ソタロールなどのIII群抗不整脈薬がよく使われます。β遮断薬やワソランなども活躍します。副作用に注意しながら使うことも大切です。

薬だけでは効果不十分な場合、ICD(植込み型除細動器)あるいはCRT-D(除細動機能付き両室ペースメーカー)が役に立つことがあります。突然死しやすい状況の方に有用です。たとえば器質性心疾患があって持続性心室頻拍を起こしたときや、非持続性心室頻拍でも心機能低下しているとき、あるいは心室細動発作で救命された方などですね。

ICDやCRT-Dは致死性不整脈を治しても発生そのものを予防できるわけではないためカテーテルアブレーションを使って発生を抑える治療が行われることがあります。これにより特発性の心室頻拍に対しては90%以上治すことができますが、器質性の心室頻拍にはそれほど効きません。この場合は原疾患の治療も必要です。

心臓の動きが遅くなるタイプの致死性不整脈はペースメーカーを装着すれば治ります。脳などがやられるまでに治療すれば元気になることができます。

■結局、松野さんの場合はどうだったのか
公式に発表されている情報が少ないため推察の域を出ませんが、心臓外科医としての経験から考えると、ずっとお元気で失神発作などもなかったのであれば、特発性心室頻拍、あるいはブルガダ症候群などの可能性もあったのかも知れません。

私が一点だけ気になるのは、亡くなる前日に体調不良で自宅で療養しておられたという報道があることです。もしこの時に不整脈が出始めていたのであれば、あるいは心筋炎やその他の急な疾患が起こっていたのであれば、そのタイミングで自宅療養ではなく病院に行っていただいておれば違った結果になったのではないか……という思いも残るのです。しかしこれも結果論でしかありません。ましてそれまで健康に何の不安もなかった方であれば、ご本人も急ぎの受診の必要性を感じるのは難しかったろうとも思います。しかしこのようなケースは誰の身にも起こりうることなのです。いつもと違う不調を感じられた時には、大げさと考えずに受診することを考えていただければと思うのです。

■突然死の悲劇を防ぐ方法は…
前述のように突然死の原因には肉体的ストレスや精神的ストレスが関連するものも含まれるため、不整脈をお持ちの方にはストレスを溜め込まない工夫が有用でしょう。

体調が悪いときにはあまり我慢せずに病院を受診するのも予防に役立つかも知れません。

そして、年齢や性別、持病の有無に関わらず、不整脈が起こることは誰にでもありえます。もしも突然意識がなくなったり心臓が止まるなどの事態が起こった時に、周りができることをしっかりやること。その準備を持つことが、いつ誰の身に起こるかわからない不整脈から、お互いを守ることにつながります。具体的には心肺停止に対するBLS(一次救命処置)講習を受けておくとか、とくにAED(自動体外式除細動器)の使い方を練習しておくなどですね。

そしてご自分が心肺停止になったときに、これらの対策は当然自身に行うことはできません。学校、職場、地域などでお互いを助けるために使える準備をしておくことが、強力な安全策になるでしょう。 最後になりましたが若くして亡くなられた松野莉奈さんのご冥福をお祈りします。

がんよりも怖い 「急性心筋梗塞死」から逃れる3つの方法

1月は心臓の悪い人にとっては危険な季節だ。心臓病で亡くなる人は、1月が最も多く、次いで2月、12月、3月だという。年間数十万人が倒れ、4万人近い命を奪う心筋梗塞はこの時季とくに注意が必要で、その発症率は夏の1.5倍に上る。無事に春を迎えるにはどうすればいいのか? 血管内治療の権威で東邦大学医療センター佐倉病院・臨床生理機能学の東丸貴信教授に聞いた。

■「がんよりも怖い」といわれる理由

「急性心筋梗塞は、心臓を取り巻いて酸素や栄養を送り込む3本の冠動脈のいずれかが詰まり、血流が減ってその先の心筋が壊死する病気です」

 それは強烈な痛みとなって表れる。心臓が締め付けられるような激しい痛みが肩や上腹部、左腕などに広がり、30分以上続く。息苦しさや冷や汗、悪心、発熱を伴うことも。ただ、糖尿病や高齢者の中には痛みを脳に伝える神経が異常をきたしていて無痛のケースもある。

 喉のひきつれ、左肩や胃、奥歯・顎の痛みなどの前触れがあるといわれるが、誰にでも起こるわけではない。発症時の平均年齢は男性が65歳、女性は75歳だが、30代以降は注意が必要だ。

 この病気が「がんよりも怖い」といわれるのは手当てする時間的余裕がなく、死んでしまうからだ。実際、発症1時間以内に半数以上が死亡する。原因のほとんどは心室細動と呼ばれる不整脈だ。

■カギを握るのは「蘇生術」「病院搬送」「狭心症治療」

「心停止から1分以内なら90%以上の確率で蘇生できますが、5分過ぎると50%以下に急落します。119番通報して救急隊員が到着するのに8分ほどかかることを考えれば、普段から病院や消防署、日赤などが主催する講習会などに参加して、人工呼吸や心臓マッサージなどの蘇生術を学んでおくことが大切です」

 そのうえで1時間以内に循環器疾患の専門病院に搬送することが生き残りの絶対条件になる。

「急性心筋梗塞の病院内での14日以内死亡率は5%以下。病院に到着さえすれば助かるチャンスは膨らむので、不安な人は病院を決めて受診しておくことです。発症から完全な治療までの理想時間は30分以内です。それでも発症から2時間以内、遅くとも6時間以内にカテーテルで冠動脈を広げる治療をすれば、少なくとも死亡率を下げることは可能です」

 ただ、地域によって救急医療の体制が不十分なところがあるのは知っておいた方がいい。搬送が遅れることで治療に支障をきたし、言語障害や半身不随など重い後遺症を残してしまうこともある。14日以内死亡率が20%を超える病院もある。

 予防として、日頃から心筋梗塞のリスクを高める「生活習慣病」(高血圧、肥満等)の治療、「暴飲暴食のストップ」「バランスのとれた食事の摂取」に励むのは当然だが、重要なのは狭心症を治すことだ。

「血管が狭くなり、心筋に血流や酸素が送り込まれなくなって発症する『狭心症』は2通りあります。動脈硬化で冠動脈の内腔が狭くなり、坂道や階段など心臓に負担がかかると起きる『労作性狭心症』と、睡眠中や安静時に突然、冠動脈がけいれん発作を起こす『冠れん縮性狭心症』です。急に前者の症状が出たり、回数が増すと、『不安定狭心症』と呼ばれ、『心筋梗塞』に移行する可能性があるのです」

■1分以上続く不穏な胸の痛みがあれば病院へ

 狭心症は締め付けられたり、チクチクするような胸周辺の痛みを伴うが、我慢してはいけない。

「狭心症か否かなんて考える必要はありません。1分以上続く不穏な胸の痛みを覚えたらすぐ病院に行き、診察を受けましょう。それが『心筋梗塞』予防につながります」

 ではこの時季、「心筋梗塞」の発症リスクを下げるにはどんなことに気をつければいいのか?

「寒いと人は体温を維持しようとして血管を収縮させます。急に寒くなると血管は狭窄しやすい細さになるのです。マラソンや散歩、ゴルフなどでいきなり寒い外に飛び出してはいけません。外で運動するときは、事前に十分なウオーミングアップをしましょう。寒いお風呂場はとくに危険です。脱衣場、衣服を脱ぐ前に、ファンヒーターなどで部屋を温めておく。温泉、とくに野天風呂に入るときは要注意です」

 寒ければ体を温め、胸に違和感があれば病院に行く。無理をしないことが命を守ることにつながることを覚えておこう。

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