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米国神経学会がアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブのレビュー結果を発表

アルツハイマー病患者へのアデュカヌマブ使用に関するエビデンスが米国神経学会(AAN)ガイドライン小委員会により報告され、「Neurology」4月12日号に掲載された。

米メイヨークリニックのGregory S. Day氏らは、早期症候性アルツハイマー病患者へのアデュカヌマブ使用について検討された臨床試験データのシステマティックレビューを実施。クラスIと評価された臨床試験1件、クラスIIと評価された臨床試験3件のデータを用いた。

その結果、クラスI研究では、1回用量が30mg/kgまでのアデュカヌマブは安全で、忍容性が高いことが示された。また、クラスII研究の3試験全てにおいて、プラセボ群に比較してアデュカヌマブ群で1年後、脳のPET画像でアミロイド蓄積が減少するというエビデンスが示された。

クラスII研究での有効性データは用量と評価項目によってばらつきが見られたが、アデュカヌマブはClinical Dementia Rating Sum of Boxesスコアの平均変化量で効果なし、またはプラセボ群に比較して悪化が少ない(臨床的重要性は不確か)という結果となった。アミロイド関連画像異常が見られたのは、プラセボ群の10%に対し、アデュカヌマブ群では約40%だった。

Day氏は、「新たな研究データが利用可能になるまでは、現在のデータを集中的に理解することが、医師、患者とその家族がアデュカヌマブによる治療を行うかどうかを議論し決定する上で重要である」と述べている。

なお、数名の著者は、製薬業界および医療業界との利益相反(COI)を開示している。(HealthDay News 2022年3月3日)

https://consumer.healthday.com/report-presents-evidence-for-aducanumab-use-in-early-alzheimer-s-2656751965.html

Abstract/Full Text (subscription or payment may be required)

蛭子能収さんが語った〝つらくない認知症〟 ギャンブルやめて見つけたもの「知らない人と話すのが…好き」


「つらく見せなければいけないかなって思うくらい……それはだめか」。認知症について前向きに語る蛭子能収さん© withnews 提供 「つらく見せなければいけないかなって思うくらい……それはだめか」。認知症について前向きに語る蛭子能収さん

「つらく見せなければいけないかなって思うくらい……それはだめか」。認知症であることを公表している、漫画家・蛭子能収さんから返ってきたのは意外な言葉でした。

2014年に軽度認知障害と診断を受け、2020年7月に放送された健康情報番組の中で、レビー小体型認知症の可能性が高いと診断された蛭子さん。認知症になってからの日々の過ごし方や、介護の様子について、17年間連れ添うマネジャーの森永真志さんに同席してもらい、YouTube「たかまつななチャンネル」で聞きました。

デパートに電車? 幻視や頻尿も自覚なし

――本日は蛭子さんの認知症について、お伺いしたいと思っています。初めて認知症と診断されたときは、どんな気持ちでしたか?

蛭子さん)

認知症って、そんなに大した病気ではないと思っていたんです。1週間もすれば治るんじゃないかな、と。実際は長引く病気だということを、のちに知りました。それから専門の病院に行ったような気がするけど……(マネージャーの森永さんに)行ったかな?

マネージャー)

はい。今も通院していますよ。

――病院にいつ行ったか、なども忘れてしまうことがあるんですね。

マネージャー)

でも、もともと人の名前が覚えられないなど、忘れっぽいところがあります。

蛭子さん)

そう。昔から、人の名前が全然覚えられない。

――認知症としてはどんな症状がありますか。たとえばレビー小体型認知症の場合、実際には見えないものが見える「幻視」の症状が現れることもあると伺ったのですが。

蛭子さん)

俺も見たことがあるんですけど、何を見たのか忘れてしまった。デパートで何かが見えたんですよね。そんな大したものじゃないのかもしれないけど。

マネージャー)「デパートの売り場で、電車が走っているのが見えた」と話していましたよ。

蛭子さん)

電車が見えるって言ったっけ? 本当かな。要するに、ずっとボーッとしているような状態なんですよ。何かが目の前を通ったような気がするんだけど、何が通ったのかがわからない。頭の中に、情報が入ってこないような感覚なんですよね。

マネージャー)他にも、洗濯カゴを奥さんに見間違えたと言っていました。奥さんが倒れているように見えたと。

蛭子さん)

それはあったね。女房が倒れたように見えたんですけど、全然倒れていないんですよ。一緒にいたマネージャーが「違う違う」と教えてくれました。

――幻覚が見えるというのは怖いですね。

蛭子さん)

怖くはないです。幻覚を見ている、と自分で思っていないので。

――過去のインタビュー記事をいくつか読ませてもらったのですが、「レム睡眠行動障害」によって睡眠時に暴れたり、夜間頻尿があったりしたと書いていました。

蛭子さん)

自分ではそういうことがあったとは思わないんです。夜にお手洗いに行ったとかも、全然覚えていないんですけど…。

マネージャー)

一晩で5・6回は行っていましたよ。

蛭子さん)

一晩で? 自分ではわからないんですよね。

パチンコ、麻雀、競艇、全部やめた

――認知症になってから仕事や生活は変わりましたか?

蛭子さん)

仕事…変わったかね?

マネージャー)

変わりました。認知症に関する取材が多くなりましたね。

――奥様との関係性は変わりましたか?

蛭子さん)

どうだっけね。

マネージャー)

すごく変わりましたね。蛭子さんが奥さんのことを「好き好き」という感じで、ずっと奥さんのそばにいます。

蛭子さん)

離れていると、寂しいと思うようになったんですよ。すぐに家に帰りたくなっちゃう。「帰りたい、女房に会いたい」という気持ちがどんどん大きくなっている。だから、常に女房のことを考えています。

――以前は違ったのですか?

蛭子さん)

昔は怒られてばかりでした。俺がギャンブルばかりしていたので。それは間違っていたなと思いますし、今では謝りたい気持ちでいっぱいです。

最近は女房に「ありがとう」と言う回数も増えました。とにかく「ありがとう」とばかり言っています。女房が一番好きですし、本当はいつも一緒に行動したいくらいです。

マネージャー)

昔は照れて「ありがとう」も言えなかったんですよ。

蛭子さん)

言えないとまずいなと思って。

――最近はギャンブルもあまり行かれなくなったのですか。

蛭子さん)

まったく行っていないです。パチンコ、麻雀、競艇、全部やめました。

――それで今、奥様と一緒にいる時間が楽しい、ということなんですね。

蛭子さん)

そうですね。前から楽しかったんだけど、今は特に。これまでと変わらず、ごはんをちゃんと作ってくれますし、おいしいです。ただ、迷惑はすごくかけていますね。

――奥様が介護されているそうですが、自宅での介護は大変ですよね。最近、蛭子さんはショートステイ(短期入所生活介護)にも行ってらっしゃると伺いました。

蛭子さん)

最初からその施設に入っていたんだっけ?

マネージャー)

いや、介護する奥さんの体力を回復するために、行き始めたんですよ。

蛭子さん)

本当はショートステイも乗り気ではなかったんだけど、女房と話して「ちゃんと入らないとだめだ」と言われてね。俺はショートステイが何なのか、そもそも知らなかったんですけど、入ってみたら、いいものなのかなって。

マネージャー)

イラストを描くなど、いろいろなことをやっているみたいです。結構楽しくやっていると、僕は聞いています。

蛭子さん)

俺が家に帰ると、女房がまず「私の名前は分かっている?」と聞くんですよ。忘れちゃうことも昔はあったんですけど、今はなるべく女房の名前を覚えて帰らなきゃ、って思っています。

介護をしている人へ「ありがとう」を言いたい

――自分が認知症だと考えると、つらくなることはありますか?

蛭子さん)

そんなにつらくはないんですよ。もっとつらく見せなければいけないかなって思うくらい……それはだめか。認知症になろうが仕方がない、生きていくことはできる。そんなふうに考えているから、さほどショックを受けてはいないんですよね。

――今日お話を伺っていても、明るく、悲観されていないように見えます。認知症であることも、前向きに受け入れられたのでしょうか。

蛭子さん)

俺、人が思うのとは違うことを言いたくなるんですよ。

――天邪鬼なところがある?

蛭子さん)

よく言われました、天邪鬼って。多分そういう性格だから、深刻になりすぎると笑っちゃうんですよね。

――認知症で苦しんでいる方や、受け入れたくないという方へ、何かメッセージはありますか。「出来事やものを忘れていくのがつらい」と思う方もいらっしゃると思うのですが。

蛭子さん)

俺もそれは思いますけど……何だろうな。これ難しいな。俺は、知らない人を見たり、話を聞いたりすることが好きなんですよ。「この人、おもしろいことをやっているなあ」と人の動きを見るとか。だからそういうのを……あれ、わからなくなってきたな。

マネージャー)

何か楽しみを見つけられるといいですよね。蛭子さんは、公園に散歩しに行くのが好きじゃないですか。子どもたちが遊んでいるのを見るのが好き。

蛭子さん)

そうそう。あとは、若い人の中に、俺みたいなのが好きな人もいるんですよ。若い……人気者で……。

マネージャー)

有吉さん?

蛭子さん)

有吉さんだ。有吉さんとかが気にかけてくれるのは、嬉しいですね。活躍している人たちに俺はついていって、これからも生きていきたいなと思います。

――今、介護をしている人に対して、何かメッセージはありますか。

蛭子さん)

介護をしている人たちには、本当に「ありがとうございます」と思っています。会うたびに「ありがとう」という一言は言いたいです。俺も、女房のことを忘れないようにして、家に帰らなきゃいけませんね。

――蛭子さんのお話を聞くことで、少し病気のことを前向きに捉えられた方もいるんじゃないかと思います。ありがとうございました。

(取材:たかまつなな、監修:精神科医・森隆徳、編集協力:塚田智恵美)

     ◇

〈たかまつなな〉笑下村塾代表取締役。1993年神奈川県横浜市生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


75歳以上では飲酒が認知機能低下を防ぐ?――SONIC研究データの横断解析

75歳以上の日本人高齢者を対象とする研究から、適度な頻度でアルコールを摂取している人の方が、認知機能が高いことを示すデータが報告された。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座の赤木優也氏、樺山舞氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に2月28日掲載された。アルコールの種類別ではワインを飲んでいること、飲酒状況では機会飲酒(宴会等)があることが認知機能の高さと関連しているという。

認知機能低下のリスク因子の一つとして、過度のアルコール摂取が挙げられる。ただし、そのエビデンスは主として壮年~中年期の成人を対象とした研究から得られたものであり、75歳以上の後期高齢者ではどうなのか、よく分かっていない。また、ワインの認知機能保護効果がよく知られているが、その効果を示した研究は地中海諸国で行われたものが多く、食事スタイルの影響を否定できない。加えて、人種的にアルコール耐性が低い日本人での効果は不明であり、さらに日本酒や焼酎の認知機能に対する影響はほとんど知られていない。

そこで赤木氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究「SONIC研究」の参加登録時データを用いて、飲酒頻度、飲酒量、アルコールの種類、機会飲酒の有無と認知機能との関係を横断的に解析した。なお、SONIC研究の参加者の年齢は、75~77歳または85~87歳のいずれかであり、本研究の解析対象(飲酒習慣に関するデータのない人を除外した1,226人)のうち60.6%が75~77歳だった。また、48.5%が男性だった。

飲酒の頻度は、毎日が25.7%、週に1~6日が13.5%、週1日未満が5.4%で、55.5%は飲酒の習慣がなかった。飲酒量は、中程度(純アルコール40g/日未満)が34.8%、中程度を超えて多量未満(同40~60g未満/日)が5.8%で、多量飲酒(60g/日以上)が3.6%だった。アルコールの種類は、ビールが24.3%、焼酎13.1%、日本酒10.8%、ワイン4.4%、ウイスキー2.6%で、一部の人は複数の種類のアルコールを習慣的に摂取していた。

認知機能は、日本語版モントリオール認知評価(MoCA-J)という指標で把握した。MoCA-Jは0~30の範囲でスコア化され、スコアが低いほど認知機能が低いことを表す。本研究の解析対象者は、平均22.7だった。

認知機能(MoCA-Jスコア)に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中の既往、メンタルヘルス状態(WHO-5日本語版で評価)、教育歴、居住形態(同居/独居)、外出頻度、経済状況など〕を調整後、飲酒頻度が週に1~6日の人は、飲酒習慣のない人、および、毎日飲酒する人に比較して、MoCA-Jスコアが有意に高いという結果が得られた。一方、前記の因子で調整後に飲酒量で比較した場合、MoCA-Jスコアとの有意な関係は認められなかった。

重回帰分析の結果、ワインの摂取と機会飲酒があることがMoCA-Jスコアの高さに、それぞれ独立して関連することが明らかになった(いずれもβ=0.09、p<0.01)。一方、ビール、焼酎、日本酒、ウイスキーを飲む習慣は、MoCA-Jスコアとの間に有意な関係がなかった。

適度な飲酒習慣が高齢者の認知機能に対し保護的に働く可能性が示されたことの背景について著者らは、「飲酒関連の行動の一部には社会参加が含まれるため、社会活動による認知機能の保護効果が影響を及ぼしている可能性がある。ただし本研究では、外出頻度や居住形態の影響を調整後にも有意な関連が示された。よって、飲酒に関連する行動パターンそのものが、認知機能に対して保護的に働くのではないか」との考察を加えている。

一方、研究の限界点として、解析対象が後期高齢者のみであるため、元来健康でヘルスリテラシーが高い集団である可能性があることや、生存バイアスの存在が否定できないことなどを挙げている。

以上より著者らは結論を、「毎日ではない中程度の頻度での飲酒とワインの摂取、機会飲酒は、75歳以上の高齢日本人の認知機能の高さと関連していた。この因果関係を明らかにするための縦断研究が望まれる」と総括している。(HealthDay News 2022年3月28日)

補聴器は自分のライフスタイルやどの場面で使うかを考えて選ぶ【認知症を予防する補聴器のすべて】

【認知症を予防する補聴器のすべて】

みなさんは補聴器を購入するとき何を基準に選びますか? デザインや形でしょうか? それとも価格ですか?

補聴器は10万~50万円台と価格幅がとても大きい製品ですが、基本的にデザインや形による価格差はありません。実は価格に一番影響するのはその性能です。性能が優れている補聴器ほど、価格が高くなります。

一方で、性能が優れているからといって、つけて即100%聞こえるようになるものでもありません。何度もこのコラムでお伝えしているように、リハビリのようにある程度の期間をかけて慣れる必要があります。

ではどういった基準で補聴器を選べばいいのでしょうか。それは自分のライフスタイルや、どの場面でどういう使い方をするかを考えて選ぶということが大切です。

仕事をバリバリやっていて会議も多い、いろんな方向から話しかけられることが多い方は、雑音を抑制する機能が強く、さまざまなシーンで聞き取りやすくする機能を備えた高機能の、ある程度高価格帯の機種が向いているでしょう。あまり外に出かけないし、家族としか話さないという方は低価格のものでも、十分にその機能を発揮することもあるでしょう。

また、今まで家に閉じこもりっきりだった人がシンプルな機能の補聴器を購入し、それでも思った以上に聞こえるようになり、散歩に出かけたり、お稽古事を始めてみるなど活動的になったので、その機種では物足りなくなり、もう少し上のランクに買い直したといった実際のケースもあります。補聴器をつけてからのご自分の生活の変化を想像しながら、よく検討して購入することは必要なことかもしれません。

いずれにしても補聴器は毎日、それも一日中つけるもの。我慢して使うのはもったいないお話です。補聴器選びはご自身の生活スタイルに合わせて選びましょう。多くの販売店ではレンタル期間があり、日常生活の中で補聴器を実際に試してから購入することができますよ。

(田中智子/「うぐいすヘルスケア株式会社」代表取締役)

どこからが「うつ病」や「潔癖症」なの? 心の病気と正常の境界線が気になる【医師が解説】

心の病気はセルフチェック可能? うつ病の境界線はどこか

手の洗い過ぎ、ちょっとしたことを気にし過ぎ、戸締りを確認し過ぎ……。日常生活を送る中で、自分や他人の癖やこだわりや傾向に、何かしら違和感を覚えることがあるかもしれません。

その際、どこまでが精神科的な治療などが不要なレベルで、どこからが心の病気の可能性などを考えて受診を検討すべきレベルか、その狭間はなかなか微妙なものです。

ここでは冒頭に挙げたようないくつかの具体的な状況を例に、どのような状況になっていると心の病気の可能性を考慮すべきかを解説します。

手洗いに5分以上かけるのは「強迫神経症」「潔癖症」か

手洗いをしっかりすることは基本的には良い習慣と言えるでしょう。風邪やインフルエンザなどの感染症予防の観点でも大切です。しかし、このように良い習慣であっても、行き過ぎると問題になる場合があります。

例えば、自分も他人も納得できるような理由がなく30分以上も念入りに手洗いを続けないと気が済まないような場合、行き過ぎなのは明らかと判断できるでしょう。精神医学的にも「強迫神経症」などの病気の可能性を疑うケースです。

では、その境界線はどこでしょうか? 具体的には、1回の手洗いに何分かけていれば、こうした心の問題を考えるべきでしょうか。状況が個々人で違うこともあるため、「何分」と時間だけで定義するのは難しいものです。重視すべきポイントは、その手洗い行動によって、日常にどの程度問題が現われているかという点です。

たとえば手洗いに1回5分以上かける場合でも、それが外出先からの帰宅時のみで1日1~2回程度ならば、日常生活にそれほど大きな問題は出ないと思います。平均よりもかなりきれい好きな性格と捉えられるかもしれませんが、困っていなければ、直ちに治療が必要なものとは考えなくてよいでしょう。

反対に1回1分程度の手洗いという場合でも、もし1時間に2~3回以上手洗いをしないと気が済まなくなっているような場合、本来であれば必要のない手洗いのために、日常ですべきことがこなせなくなっている可能性があります。

心の病気の可能性や精神科受診を考えるべき一つの判断の目安は、このように「日常生活にはっきり問題が現われ始めているか」という点です。具体的には手洗いに限らず、自分も他人も納得できないようなことに毎日時間を費してしまう場合、日常生活にも弊害が現われやすくなります。

もしそうした状況にある場合は、精神科や神経科の受診をぜひ考慮してみてください。

先週聞いた悪口で頭がいっぱいなのは「うつ病」か

他人の何気ない一言が心にこたえることや、ふと聞いてしまった悪口がいつまでも頭に残ってしまうことは、誰にでもあることです。こうしたことを気に病むかどうかもまた、かなり個人差があります。その直後はひどくうろたえてもすぐに気を取り直せる人もいるでしょうし、いつまでもひきずって暗い気持ちが続いてしまう人もいるでしょう。

個々人の個性と見なせる面もありますが、手洗い同様、もし行き過ぎている場合は、精神医学的に注意すべき問題が関わっている可能性も考えなくてはなりません。たとえば「うつ病」の場合、自分に自信を持ちにくくなり、他人の評価、特に他人の自分に対するネガティブな評価に対して、必要以上に敏感になることがあるからです。

しかしこのような単一の事柄だけでうつ病と決め付けてはいけません。

例えばこのような問題は、ストレス状況に直面した際の、心理的対処の問題と見ることもできます。心理学用語で「心の防衛機制」と呼ぶものです。

いつまでも悪口が頭に残って気持ちが立て直せない場合、ストレス状況から自分の心を守るメカニズムとしての心の防衛機制がうまく機能しなかったと見ることもできます。心の病気ではなく、成人していても心の防衛機制が充分に成熟したレベルになっていない可能性もある、ということです。

たとえば思春期の若者は、大人よりも、友人からの悪口に深く傷つきやすいものです。成人してからも、思春期同様、必要以上に深く傷ついてしまう可能性はあります。

このような場合、心の防衛機制を成熟させていくことが一つの達成すべき目標とも考えられます。具体的にはユーモアに転化したり、何かに昇華したり、上手に気分転換を図ったり……とそれぞれに合った方法で心の防衛機制を効かせ、悪口のダメージを上手くかわしていきたいところです。

また、もし悪口が自分にも非があったと感じるものであれば、それがよい機会になって自分の悪い点が改まった、と考えることも、心を軽くするのに有効なことがあります。

うつ病の可能性を考えたい状況は、気持ちの落ち込みやイライラ感の原因が単に悪口を言われただけでなく、それがきっかけになって脳内の機能が、治療が必要なほど病的になってしまった状態です。その目安としては症状の深刻さとそれがどのくらい持続しているのかの2点が重要です。

具体的にはもし1週間以上、普段の自分通りに振舞えないようなレベルで問題が持続しているようならば、精神科受診も考慮してみてください。

戸締りを何度も確認してしまうのは「不安症」か

大事なことをしっかり確認することは、慎重で良いことと考えられがちですが、これも程度の問題です。外出時にドアの施錠を10回以上確認してもなお心配で確認を繰り返してしまう……というような行き過ぎた確認行為は、強迫神経症で現われやすい問題の一つです。

このような確認行為が精神医学的に注意すべきレベルと考えるポイントは、先述した手洗いの場合と同様、日常生活に明らかな悪影響が現われているかどうかです。具体的には戸締りチェックが原因で、毎日のように職場に遅刻してしまうといったケースです。

そしてこうした状況になっている場合、自分でコントロール可能かという点も、はっきりさせるべきポイントです。もし、つい何度も確認してしまう癖があるけれども、しっかり考えて納得できれば1回確認しただけでも大丈夫というような場合、精神疾患に関わるレベルとは見なし難いです。

しかし、もし頭でどう考えても不安感が消せず、不合理とわかっていても行動が止められないような場合はやはり注意が必要です。そのような場合は、精神科を受診して相談してみることが最善の解決策になり得ることを、ぜひ頭に置いておいてください。

吐く寸前まで食べてしまうのは「過食症」か

嘔吐したことはないけれど、吐く寸前まで過食してしまう……。もしこれが一回きりのことでなく、毎回続いているような場合は精神医学的に注意したい状況です。過食症は、簡単に表現すれば、食べると言う行為にストップをかけられなくなってしまう状態です。

過食症では食べた後の嘔吐が現れやすい問題ですが、嘔吐を伴わないケースもあります。そのため、吐き癖がついたから過食症、吐いたりはしないから過食症ではない、と嘔吐の有無だけで診断することはできません。

一般に過食症のレベルになると、食べることや食に関する観念がいわば生活の中心になってしまいます。そして摂食障害の大きな問題点の一つとして、当人はその問題をまわりに隠す傾向が強いです。まわりのサポートが得にくく、事態がさらに深刻化していく要因にもなります。

さらにもし過食症のレベルになっていれば、気持ちが落ち込みやすい、飲酒量が増えるといったその他の問題も抱えやすくなります。こうした状況を改善していくためにも、精神科的な対処は一番役立ちます。

嘔吐の有無など一つの問題行動だけで捉えず、総合的な判断、実際にどれくらい日常生活や健康に問題が生じ始めているかを見ることが大切です。

もしご紹介したような内容で、日常生活に支障が出るような行動が自分ではコントロールできなくなっているような場合、精神科受診もぜひ考慮してみてください。

▼中嶋 泰憲プロフィール千葉県内の精神病院に勤務する医師。慶応大学医学部卒業後、カリフォルニア大学バークレー校などに留学。留学中に自身も精神的な辛さを感じたことを機に、現代人の心の健康管理の重要性を感じ、精神病院の現場から、毎日の心の健康管理に役立つ情報発信を行っている。

耳鼻科で耳垢を取ってもらった途端に耳の聞こえが良くなった【認知症を予防する補聴器のすべて】

【認知症を予防する補聴器のすべて】

みなさんは「耳垢(じこう)栓塞」という言葉をご存じでしょうか? 読んで字のごとく、耳垢が過剰にたまって耳の穴を塞いだ状態のことをいいます。耳垢栓塞があると、その状態によっては数デシベル~最大約40デシベルの難聴が生じるともいわれています。

ある報告によると高齢者の1割は耳垢によって聴力が低下している場合があるとのことです。また耳垢は認知機能とも関係があるとされています。難聴によってコミュニケーション能力が低下し、認知機能を悪くする可能性があるからです。

アメリカの高齢者向け施設での調査では、耳垢を取ることで聴力とともに認知機能が改善された人もいたそうです。

以前、耳が聞こえにくいと相談に来られたお客さまがおられ、耳の中を観察したところ、鼓膜が確認できないほどの耳垢! 近くの耳鼻咽喉科を紹介し、受診。耳垢をごっそり取ってもらうと、その途端に聞こえが良くなり、結局、補聴器をつけなくてもよかったなんてこともありました。

このように耳垢がたまり過ぎると難聴の原因になることもありますが、とはいえ、適度な量の耳垢は、細菌に対する防御機能や皮膚表面を保護する作用もあります。それにもともと外耳道には、耳垢を外へ押し出す自浄作用があり、本来なら耳掃除はしなくてもいいともいわれています。ただ、高齢になると、新陳代謝が鈍くなったり、自浄作用が弱まったりし、前述のお客さまのようになるわけなのです。それならやっぱり耳掃除が必要なのでは、と思う方もいるかもしれませんが、必要以上に耳の中をかいてしまって皮膚を傷つけたり、思わぬ出血をしたりして、危険なこともあります。高齢者では、血液がサラサラになる薬を飲んでいる方も多いでしょう。もし血が止まらなくなると怖いですよね。

耳垢がたまりやすかったり、奥にたまった耳垢が気になる場合は、耳鼻咽喉科に相談しましょう。耳垢が詰まっていれば、点耳薬といって、耳垢を軟らかくする薬を処方してもらってから耳垢を取り除くことになるので、痛くはないですよ。1年に1度は耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

(田中智子/「うぐいすヘルスケア株式会社」代表取締役)

「脳トレはほぼ無意味だった」認知症になっても進行がゆっくりな人が毎日していたこと


老年医学の専門家である和田秀樹氏は「40歳こそ老化の始まり。この年代から“足りないものを足す健康法”へのシフトが重要だ」と説く。このたび上梓したセブン‐イレブン限定書籍『40歳から一気に老化する人、しない人』より、その一部を特別公開する──。(第3回/全4回)

※本稿は、和田秀樹『40歳から一気に老化する人、しない人』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

70代こそ肉を食べよう

20代、30代の人がスキーで転倒して足を骨折し、病院のベッドで1カ月寝たきりの生活をしたとしても、退院すればまもなく普通に歩くことができるようになります。

しかし70代ではそうはいきません。寝たきりの生活が続くと筋力が低下し、骨折が治ったあとも、「立つ」「歩く」といった日常生活に必要な動作に支障をきたすようになり、介護が必要になるリスクが高くなってしまいます。

こうした「ロコモ(ロコモティブシンドローム=運動器症候群)」が目立ってくるのも、70代からの特徴です。

70代こそ意識して体を動かす必要があるのですが、前頭葉が萎縮(いしゅく)し、動脈硬化もかなり進行していますから、なかなか動こうとしない人が増えてきます。これは男性に顕著な傾向です。男性ホルモンが減り、行動意欲が失われているからです。

したがって、歳をとればとるほど、毎日の食事を通じて男性ホルモンの材料になる肉やコレステロールを摂取する必要があります。コレステロールは主要な男性ホルモンである「テストステロン」の材料であり、コレステロールが気になるからとこれを減らすのは、ホルモン医学の立場で言えば、まったくの逆効果でしかありません。

女性ホルモン補充で骨粗鬆症予防を

女性の場合、男性ホルモンが増加するので、むしろ元気になる人が多いのですが、その一方で女性ホルモンが減るため、それにともなう問題がないわけではありません。女性ホルモンが減ることの弊害としては、肌つやが悪くなることのほか、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の原因にもなることがわかっています。

骨粗鬆症を防ぐには適度な運動をし、戸外を散歩するなどして日光によく当たること、あるいはビタミンDが多く含まれている食品をとるなど、ごく常識的なことをする心がけが必要です。

日に当たらない生活があまり長く続くとうつになりやすいのは、広く知られているとおりです。日光浴は、うつ病や不眠症を予防し、骨粗鬆症の予防にもなる70代女性にとっての格好の健康法なのです。

また性ホルモンは性別を問わず、ホルモン補充療法で補うことが可能です。

副作用のリスクを心配する方も少なくないでしょうが、更年期に特有の不定愁訴に対しては、苦痛を手っ取り早く取り除き、副作用も比較的少ない療法です。QOL(生活の質)を重視するのであれば、ホルモン補充は効果的な療法だと私は思います。

認知症リスクが大きくなってくる70代

70代になると、いよいよ認知症が他人事ではなくなってきます。

認知症の有病率は、70代前半までは世代人口の5%。70代後半に入ると8~10%弱の人が認知症になります。

日本では認知症患者の6割以上がアルツハイマー病を原因疾患とする「アルツハイマー型認知症」だとされています。アルツハイマー病は、神経細胞の中にアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が蓄積されることによって引き起こされると考えられています。

脳にアミロイドβがたまりやすいかどうかは、遺伝的要因に左右される面がかなり大きく、親がアルツハイマー型認知症の有病者であった場合は、子どももなりやすいといわれています。

「頭」を使って認知症リスクを低減する

実は、2021年に、ついにこのアミロイドβを脳内から除去する作用のある薬がアメリカで認可されました。たしかに朗報ですが、年間650万円もかかることもあり、日本で認可されるのか、あるいはどういう患者さんに保険が利くようになるのかはまだ不透明です。将来には期待できますが、いますぐとはいかないのが実情です。

それでも、昔からいわれる「頭を使っている人はボケにくい」というのは一面の真理です。

脳の萎縮が同じくらい進んでいる2人の認知症患者を比較すると、何もしていない片方の人はかなりボケてしまっているのに、日頃から頭を使う環境にいたもう片方の人はそうでもなく、知能テストをするも明らかに後者のほうが点数が高かった、というケースがままあります。

頭をしっかり使って、認知症のリスクを低減させていきましょう。

「脳トレ」より「人との会話」

近年、「脳トレ(脳力トレーニング)」と呼ばれるトレーニングメソッドが、脳に刺激を与え、ボケ防止に役立つということでブームになっています。

ただ「脳トレ」は残念ながら、認知症予防という観点からはほとんど無意味だということが、最近行われた海外の研究で明らかになっています。

『ネイチャー』や『JAMA』(アメリカの医学会雑誌)のような超一流の医学誌に、この効果にまつわる大規模調査の結果が発表されています。

そのうちの1つ、アラバマ大学のカーリーン・ボール氏による2832人の高齢者に対する研究では、たとえば言語を記憶する、問題解決能力を上げる、問題処理の能力を上げるというようなトレーニングをさせた場合、練習した課題のテストの点だけは上がるのですが、ほかの認知機能がさっぱり上がらないことがわかっています。

つまり、与えられた課題のトレーニングにはなっても、脳全体のトレーニングにはまったくなっていないことが確認されたというのです。

では、いったいどうやって「頭を使う」といいのか。私の経験上、もっとも効果が高いと感じられるのは、人との会話です。

他人とのおしゃべりでは、自分の話したいことに対して相手から反応が返ってきますし、強制的に頭を働かせなくてはいけない局面が増えます。もちろん、仕事や家事も複数の知的作業をともなうので、「頭を使う」ことにつながります。「生涯現役」というスタンスも、有力な脳のトレーニング法といえるでしょう。

認知症の進行は生活環境で大きく変わる

介護保険がまだ導入されておらず、今日の主要な抗認知症薬であるアリセプトも未認可だった1990年代に、私は勤務先である浴風会病院とは別に、茨城県鹿嶋市の病院で月2回、認知症の診察を担当していたことがあります。

鹿嶋市に足を運ぶようになってしばらくして気づいたのが、浴風会病院にやってくる東京都杉並区の認知症患者たちに比べて鹿嶋市の認知症患者の進行がかなり遅く、症状が目立たない、ということでした。

それがなぜなのか、最初はとても不思議でした。しかし、杉並区と鹿嶋市の高齢者が置かれている生活環境を見比べているうちに、おおよその見当がついてきました。

当時はまだ介護保険が始まる前でしたから、杉並区の高齢者たちは、認知症になるとその多くが家に閉じ込められたのに対し、鹿嶋市では、比較的気ままに近所を歩き回らせていることが多かったのです。

それでも、出歩いた認知症高齢者が家に帰れなくなっていると、すぐに近所の誰かが見つけて連れて帰ってくれるので、あまり困った事態になることはありません。

オール・オア・ナッシングで考えない

農業や漁業の従事者に関していえば、認知症が発症しても、それまでと変わりなく仕事を続けている人も少なくありませんでした。

認知症が発見されると、一般的には周囲が先回りして外出や仕事などいろいろなことをやめさせてしまうことが多いのですが、“オール・オア・ナッシング”で考える必要はありません。

「この仕事、この家事は、もうできなくなったからやめる」

「この家事は、できるからしばらくは続けよう」

そういう判断があっていいはずなのです。

70代からは「比べない」

70代ともなると、世代全体の10%が認知症になります。残りの9割は依然として頭がはっきりしており、健康な人とそうでない人の差が、それまでになくはっきりと分かれてきます。

外見の面でも、同級会などで集まれば、みな同い年のはずなのに一見して「え?」と驚くくらいの個人差が容姿の老け具合に出てきます。社会的にも、現役バリバリで社長を務めている人がいるかと思えば、定年退職した人の多くは「無職」という肩書をつけられてしまう現実があります。

だからこそ、なにかと「あいつに比べて自分は……」という引け目を感じやすくなり、人によってはそれが重荷になってくることもあります。

老いを受け入れるとは個人差を受け入れること

同世代の人よりもちょっとだけ早く老いを受け入れざるをえなくなった70代の人にとっては、「老いを受け入れる」ことは「個人差を受け入れる」とほぼイコールの行為でもあります。

この世に同じ人は一人も存在せず、誰もがみんなとちょっとずつ変わっているのですから、自分を他人と比べているかぎりは苦しさから抜け出せません。他人にはできて、自分にはできないことについて思いを巡らせて悶々(もんもん)とするよりは、「いまの自分に何ができるのか」ということを前向きに考えたほうが、ずっと健康的に生きられます。

人と比較するより、自分の生き方を模索するほうが賢明だと、私としては信じています。

---------- 和田 秀樹(わだ・ひでき) 国際医療福祉大学大学院教授 アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

中高年のための認知症講座 認知症の非薬物療法は、昔の思い出を語り合う「回想法」が有効 認知症でない人は予防のために、魚介類・きのこ・大豆・コーヒーを多く摂取

認知症の治療法には、薬物療法と非薬物療法がある。とくに非薬物療法は非常に大切で、家族や介護者が困ることの多い、怒りっぽくなったり徘徊(はいかい)したりするといった「行動心理症状」(BPSD)を緩和することが可能だ。

非薬物療法でおもに実施されるのが、心理社会的アプローチだ。「認知刺激療法」「回想法」「音楽療法」「運動療法」などさまざまあり、医療機関やデイサービス等の高齢者施設で行われる。

この中で、昔の写真や音楽など、その人にとって懐かしいものを見たり触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う「回想法」は、良き聞き手が高齢者の過去の語りを傾聴する方法だ。上智大学総合人間科学部心理学科の松田修教授は、タブレットやスマホなど、ICTを活用することもおすすめだという。

実家にある写真アルバムを親と一緒に見て、昔話に話を弾ませるのは基本だ。その上で、松田教授も使っているのが、ネットで無料閲覧できる、NHKの『回想法ライブラリー』や、明治安田生命グループ「MI介護の広場」の『昭和回想メモリーズ(懐かしの動画)』だ。

これらの動画を一緒に見たり、タブレットなどが使える場合はブックマークなどをして、一人でも見られるようにするといいだろう。「ご実家を見たい、という方には、グーグルマップを使うこともおすすめです。絵(写真)は言葉より具体的です」

遠方に住んでいてなかなか親に会えない場合でも、ICTを使ったサービスを使う手もある。どういう写真、あるいはどういう音楽だとその人が笑顔になるかをAIが記録し、その人用の回想法アルバムを作る『Aikomiケア』などもおすすめだ。こうしたサービスは今後増えるだろう。

気をつけたいこともある。「親御さんと〝答え合わせ〟をしないでください。その方のリアリティーを尊重することが大事で、つじつまが合わなくてもご本人の中で合っていればいいのです。自伝的記憶は書き換えられるもので、ご自分にとってその意味は随時変わります。それを尊重しながら聞いてあげてください」

最後に、食事と認知症の関係も大切なので説明したい。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)、もの忘れセンターの佐治直樹副センター長らは、日本食の食事パターンと腸内細菌・認知症との関連を発見したことを以前お伝えした。その研究成果は、世界的な科学雑誌『Nutrition』に、2021年10月29日にオンライン版で公開された。

簡単に説明すると、認知症でない人は認知症の人より日本食スコア(日本食らしい食事内容)が高く、魚介類・きのこ・大豆・コーヒーを多く摂取していた。また、これらの食品摂取が多いと、腸内細菌の代謝産物濃度が低い傾向にあるという。

腸内細菌が代謝により産生する物質は、よいものもあれば悪いものもある。今回の研究では、これらの食品摂取が多いと、アンモニアなどの腐敗産物が低い傾向にあったということだ。

また、「地中海食、DASH食(高血圧予防食)、それらを組み合わせたMIND食(アルツハイマー病予防食)という健康に良い食事を取っている方は、血液脳関門(血液から脳組織への物質の移行を制限する仕組み)も保たれます」(佐治副センター長)など、有益な研究データはどんどん集積してきている。

このように認知症の予防、進行抑制は、どの段階でもできることがある。自分や親のために今できることを知り、お互いのために実行してほしい。

=おわり

中高年のための認知症講座 行動心理症状のメカニズムを知れば怖くない 「間違っている患者の言動を正さない」


認知症の原因疾患は、認知症患者の7割を占めるアルツハイマー病をはじめ、血管性認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)、レビー小体型認知症などがある。原因疾患によって中核症状(記憶、理解などの認知機能が失われること)が違うように、行動心理症状(BPSD)も変わる。


中核症状によって状況に適応できなくなるために起こる行動や心理症状がBPSDだからだ。そのため「認知症を十把(じっぱ)ひとからげに考えてはいけません。アルツハイマー病にはアルツハイマー病の、血管性、レビー小体型、前頭側頭葉型にはそれぞれのBPSDがあります」と話すのは、認知症治療の第一人者でアルツクリニック東京(千代田区)の新井平伊院長。

新井院長は、BPSDについて知っておきたいポイントを3つ挙げる。

①脳の障害を受けた部位によって症状は違う。原因疾患によって症状が違うのはこのためだ。

②正常な心理状態が関係している。認知症になっても、感情、喜怒哀楽の感覚は正常なので、環境や対人関係で生じた心理状態によってBPSDが悪化することも軽減することもある。

③患者の反社会的に見えたりする行動は、BPSDではなく多くは中核症状である。

昨今、社会問題化している、車のアクセルとブレーキを踏み間違え、高速道路の逆走による事故は、「リモコンをうまく使えないのと同じで、中核症状である実行機能障害(目的遂行のために計画を立てて順番に行うことができなくなること)」が多いという。

これらの3点を理解すると、どうしてそのようなBPSDの症状が現れるのか、また推奨される態度やケア方法の意味がわかるようになる。

「BPSDの治療法には、非薬物療法と薬物療法があります。非薬物療法は、ケアの仕方を工夫することと、その患者さんの健康なところを維持するための、脳機能と身体のリハビリが大切です。中でもケアの仕方は一番大事です」

よく推奨される方法に、「間違っている患者の言動を正さない」がある。たとえば自宅にいるのに「家に帰りたい」と訴える患者がいる。この場合、帰りたい自宅は子供の頃に住んでいた家であることが多く、「ここが家ですよ」「もうあの家はないよ」と言って〝現実の社会〟に戻そうとすると、逆に混乱してしまうそうだ。

「患者さんを現実の世界に戻さなければいけないときは、たとえば腐ったものを食べようとしているときなど、患者さんが危険にさらされる場合です。その場合でも、できるだけ笑顔で優しく話すことが大切。

それ以外では、現実の世界に戻すことは意味がなく、さらにそのときにイライラして怒りながら注意したりすると、その感情が患者さんに影響して、鏡のようにイラ立った反応が返ってきてしまいます」

BPSDの行動には、患者なりの理由がある。患者を観察して、なぜそうしているのかを理解し、夕方など決まった時間に行動が現れることなどがわかれば、家族や介護者に余裕ができる。余裕ができれば、患者の行動をある程度受け入れ、現実の社会に戻そうとせず、患者の思っていることに沿って対応することが患者にとっても介護者にとってもよいことなのだと理解できる。

「家族はとくに感情が入ってしまいますから大変ですが、言ったら逆効果だということを、常々頭に入れておくことが大事です」

あすはBPSDの薬物療法について。


みのもんた語る パーキンソン病との闘い「5分かかってたのが10分、20分」「一番いいのは歩くこと」

 タレントのみのもんた(77)が23日放送のテレビ朝日「徹子の部屋」(月~金曜後1・00)にゲスト出演。自身が患っているパーキンソン病について語った。

 パーキンソン病は、50代以上の中高年に多く見られ、手足のこわばりや震え、徐々に体を動かすことが難しくなってくる脳神経系の病気。司会の黒柳徹子から、「みのさんは数年前からパーキンソン病に」と振られると、みのは「はい。3年前からパーキンソン病と言われました」と語った。

 黒柳に「どうですか。パーキンソン病というものは。朝起きるときに大変なんですって」と問われると、「パーキンソンっていうのは筋肉がなくなるもんですからね。寝返りをうったり、上半身を起こしたり、ベッドから降りる作業が、5分かかってたのが10分、10分が20分みたいになりますね」と明かした。

 「これはパーキンソンで悩んでる方は共通の悩みだと思いますけれども、いかに筋肉を落とさないようにするかって言うのが。それが一番いいのはやっぱ歩くことだそうで」とみの。黒柳は「でもこうやって拝見していると、全然どっか悪いようには見えないわね」と話した。

「パーキンソン病」と闘う当事者たちが発症前の自分に伝えたいこと

「パーキンソン病」とは

「周りからのサポートは受け入れて」

「少しの異変も無視しないで」

「ストレス管理を怠らないで」

「うつ病と併発する可能性もあるから…」

認知症の本人から見た世界とは?お風呂に入りたくない、トイレが間に合わない

認知症の人から見えている世界とは?認知症の「本人」の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた筧裕介さんの『認知症世界の歩き方』(ライツ社)は、認知症の人が経験する出来事を旅形式でまとめています。今回は家族や介護者の多くが戸惑う、「お風呂に入りたがらない問題」や「トイレを思いがけず失敗してしまう問題」を中心に抜粋してお届けします。

「認知症」とは、なにか?
認知症とは、

「認知機能が働きにくくなったために、生活上の問題が生じ、暮らしづらくなっている状態」のこと。

そして認知機能とは、

「ある対象を目・耳・鼻・舌・肌などの感覚器官でとらえ、それが何であるかを解釈したり、思考・判断したり、計算や言語化したり、記憶に留めたりする働き」のことです。

 例として、「わたしたちが外出先でトイレに入るまで」の過程を見てみましょう。

 ある行動に至るまでに、わたしたちはこうしたステップを一瞬で行っています。しかし、認知機能が働きにくくなると、この一連の過程がうまくいかなくなるのです。

たとえば、「お風呂を嫌がる」のはどうしてなのか?
「本人が、お風呂に入るのを嫌がって……」。介護をされる方から、よくお聞きする話です。見方によっては「介護への抵抗」と感じられる、その人の「お風呂に入りたくない理由」は1つではなく、実はその背景には、さまざまな認知機能のトラブルがあると考えられます。

お風呂は、あらゆる感覚のダイバーシティ

 熱い、冷たい、しっとり、ピリリ……。七変化温泉の泉質は、本当に訪れるたびに変化しているのでしょうか?答えは「NO」です。

 変化しているのは、実は、お風呂に入る人間の「身体の感覚」の方なのです。

 季節や朝晩などの時間帯、そして気分や体調によって、自分の周囲を取り巻く環境に対する感じ方、見え方が変わるのは、だれにとってもよくあることです。

 気が乗らない日の朝は、視界がよどんで見えます。親しい人との楽しい食事はなんでも美味しく感じられます。この部屋臭いなあと一度思ったら、ささいな匂いも気になり、どんどん臭く感じてしまいます。

 そしてたいていの場合、こうした感覚は自分だけにしかわからず、周りに伝えるのはすごく難しいことです。

【「認知症世界」の旅人の声】

 わたしが感じている感覚を周りの人には理解してもらえない、と悩んでいることがあります。それはお風呂です。

 あるとき、自宅で入浴中に不思議な体験をしました。いつも通り39度にセットして、お風呂に湯をはったのですが、入ってみると、なんだかいつもと違う触感なのです。

 お湯がどうもヌルヌルします。入浴剤は入れていません。それなのに、何かが身体にまとわりつくようで、とっても気持ちが悪いのです。仕方がないので早めにお風呂から出て、シャワーで身体を流すことにしました。

「お風呂掃除のときの洗剤でも残っていたのかしら?」と思い、直前に入った娘に聞いても、「そんな感じしなかったけど?」と不思議そうに言います。

 翌日のお風呂は、わたしもそんな感じはなかったのですが、また違う日に同じようなヌルヌルを感じたり、またある日は熱すぎたり、逆に冷たいと感じることもあって、「なんか変だなあ」と思っています。お風呂は大好きだったのですが、こんなことが続いてからは、入ることが少し億劫に感じています。

 近頃では、なんとか以前のようにお風呂を楽しめないかと、自分の体調に合わせてお風呂に入るタイミングや方法を変えることにしました。長年、夜にお風呂に入るのが習慣でしたが、「なにも気持ち悪い思いや熱さを我慢してまで、入る必要はないじゃないか」と。

 夜、お風呂に入ったときに気持ちいいと感じなければ、すぐに出て、次の日の朝にお風呂に入ったり、シャワーだけで済ませたりするように切り替えました。

「お風呂に入りたくない」と嫌がる理由
 認知症のある方がお風呂に入るのを嫌がるというのは、介護をしている方からよく聞く話です。

「介護への抵抗」と、ときに感じられるかもしれないその方の「お風呂に入りたくない」の背景には、実にいろいろな理由があるのです。

 身体感覚のトラブルで極度に熱く感じる、浴槽に入るとぬるっとした不快な感覚があるという方もいます。空間認識や身体機能などのトラブルで服の着脱が困難、その介助を受けたくないという思いを持っているのかもしれません。「自分の中ではお風呂に入ったばかりだ」という時間感覚のズレや記憶の取り違えの場合もあります。

 このように、お風呂という1つのシーンをとっても、1人ひとり異なる心身機能の障害、その組み合わせによって困りごとが生じているため、周囲から理解されづらいことも暮らしにくさにつながっています。

【「認知症世界」の旅人の声】

 ある夏の日に、友人とカフェで食事をしていたときのことです。

 お店に入った途端、ものすごく室内が寒く感じて、急いでかばんの中のカーディガンを羽織りました。友人に「なんか、このお店冷房が効きすぎているね」と言うと、友人は「そう? わたしには暑いくらいだけど」と、額の汗をぬぐっています。

 こんなふうに、みんなが「暑い」と言っているときに自分だけ寒さに震えていたり、反対に周りの人が「寒い」と言っているのに、わたしだけ暑く感じて汗をかいていることがたびたびあります。

 ですから今は、暑くても寒くても、すぐに脱ぎ着ができる服を着たり、かばんの中に上着やストールを持ち歩くようにしました。

 そうそう、友人たちとテニスをしていたときなんて、ちょっと熱中症気味になってしまいました。

 ちゃんと水筒は持っていたのですが、「水を飲みたい」とか「喉が渇いた」という感覚がなくていつの間にか水分補給をしないまま、炎天下で運動し続けてしまったのです。目の前がくらくらして、初めて脱水状態になっていることに気づきました。

 友人たちがすごく心配していたので、「最近、喉が渇いたって感じないんだよね」と言ったところ、その次からは、「そろそろ休憩して水分をとろう」と積極的に声をかけてくれるようになりました。

 自分の感じ方が変化するということを自分で理解してからは、そのつど柔軟に対応できるようになりましたし、周囲の人にも伝えておくと、さりげなく配慮してもらえるのでさらに楽になり、困りごとはずいぶん減りました。

 でも、出かけようと家を出て車に乗った途端、急にトイレに行きたくなってしまったときは、少し困ってしまいました。

 ほんの数分前に家を出たばかりだったので、家族には「なんでさっきトイレに行っておかなかったの!」と言われてしまったのですが、数分前まではまったく尿意を感じていなかったのです。

トイレを思いがけず失敗してしまう理由
 トイレに間に合わないのも、身体の中の感覚が鈍感になっていることから起こることがあるようです。

 普段は意識しませんが、人は空腹感や喉の渇き、尿意などを感じる「内臓感覚」を持っています。この感覚がうまく働かないことによって、「そろそろトイレに行きたいかもしれない」という微妙な変化が感じとれず、急に尿意がやってきてしまうのです。水分補給を忘れて熱中症になってしまうのも同じ理由です。

 また、トイレを失敗する原因と考えられるものは、ほかにもたくさんあって、そのどれが当てはまるのかは、人によって異なります。いつトイレに行ったのかを忘れてしまう、早めにトイレに行くことが難しい、扉の向こうがイメージできず場所がわからずに間に合わない、家やショッピングモールなどの空間の中でトイレの場所がわからない、サインが見つけられない、便器と床が白くて便器の場所がわからない。

 原因によって、とることのできる対策も変わってきます。

 この他、本著では「アクセルとブレーキを踏み間違える」「何度も同じ話をする」「お金を盗まれたと思い込む」などのよく聞く話から、「ICカードのチャージ方法や切符の購入方法がわからない」「降車駅や目的地を忘れる・間違える」など、「本人の視点」から認知症を学び、生活の困りごとの背景にある理由を知ることができます。

体育会系の人ほどうつに陥りやすい?環境に潜む大きなリスク

冬はメンタルを崩しやすい季節と言われていますが、うつのリスクは意外なところにもあると言います。 うつメンタルコーチで、公認心理師の川本義巳さんによると、「メンタルが強いイメージがある体育会系の人ほど要注意」と言います。その理由を教えてもらいました。

スポーツをやっている人はうつとは無縁?意外な事実

今年はスポーツ当たり年でしたね。まずなんといっても東京オリンピック・パラリンピックが無事開催されたこと。一時はどうなるか? とさえ言われていましたが、たくさんの感動をいただけたので「やっぱりやってよかったなあ」と今は素直にそう思います。

そしてメジャーリーグでも大谷選手が大活躍しました。私たちが子どものころは「日本人はメジャーでは通用しない」というのが定説でしたが、なんと二刀流での大活躍でした。これもまた夢と希望を多くの人に与えてくれました。最近では日本のプロ野球も日本シリーズで盛り上がりましたね。セパ共に昨年最下位からの躍進は「がんばれば道は開かれる」そう思わせてくれました。

●多くの人が思い込んでしまう「アスリートは強いメンタルの持ち主」

スポーツといえば、一般的に「トップアスリートたちは皆、厳しい練習に耐えてきている」そんなイメージがありますよね。それゆえに「苦境にも強く何より自分を律することができる」といった印象もがあります。それゆえ「スポーツ選手はメンタルが強い」と言われることもあります。じつは数年前に、サポートしていた抑うつの男性からこんなことを言われたことを思い出しました。

「体育会系の人はメンタルが強いからうつにならないのですよね?」

「自分は体育会系ではないからメンタルが弱いと思っています」

それを聞いて私は笑いながらこう言いました。

「そんなことないですよ。現に僕はめっちゃ体育会だったけど、うつになりましたよ」

彼はちょっとびっくりしていましたが、私が元体育会系でうつ病になったのは事実だし、それ以外にも「じつは体育会系だった」というクライアントさんは何人もいらっしゃいました。

一般的に考えられているイメージとは違うわけですね。

実際に現場でクライアントさんと向き合っていると、こういうことがわかりました。

・うつになるのに体育会系か文系かは関係がない。

・メンタルが強い、弱いもあまり関係ない。

・むしろ体育会系の人の方が、リスクが高いかもしれない。

うつは本当に「え? この人が?」と思うような人もなったりします。

それこそすごく元気でアクティブで、なんでも乗り越えられそうな人もなるときはなります。逆に「この人大丈夫かなあ」と思うくらい繊細であったり、ネガティブな人でもならない人はたくさんいます。

うちの母親も結構ネガティブですが、これまでうつっぽくなったことがありません。うつはその人の性格や経験からそうなってしまうと思われがちですが、それよりも自分がうまく対応できない人間関係や環境に出会ったときにそうなる傾向が強いです。いわゆる適応障害のような状態から始まり、その対応できない環境を継続させた結果、うつ状態に変化していったというケースが多いです。そのため、どんな人であれ、対応できない環境に出会ってしまうと、そのリスクは高くなるわけです。

●体育会系ほどうつのリスクが高い理由

では、先ほどのべた「体育会系のリスク」というのはどういうことでしょうか?

これは一言でいうと「逃げるという選択肢が優先されない」ところにあります。体育会系の人は「自分の努力が結果につながる」という経験をたくさんしてきています。それゆえ、自分に起こっている問題は自分の努力で解決しようと試みます。もちろん、自己解決できる課題であれば、それを乗り越えることで自己成長につながりますからむしろ大歓迎なのですが、うつに関してはかなり勝手が違います。

まずスポーツのように明確な採点基準やルールなどがありません。言ってしまえば無限大にいろいろな事象が起こる可能性もあるわけです。そのため、努力しても必ず報われるということはありません。もちろん「逃げる」という選択も有効なのですが、体育会系の人はときに「逃げずに努力する」というモードに入りがちなので、逃げることができる人よりも数段うつになるリスクは高くなります。

これはアスリートだけでなく、「がんばらなければならない」という信念を持つ人はすべて当てはまります。私がサポートした例でいうと、看護師さんや学校の先生などがそうでした。

「自分ががんばらないと迷惑をかけてしまう」そう思い込んでしまっていて、それが原因で追い込んでいるようなところがありました。

こういったパターンの人をサポートするときに、私は「がんばらなかったらどうなるか?」ということを想像してもらうようにします。そしてその結果に対して「それは自分の健康よりも大切なことですか?」という質問をします。

私は世の中には自分の命や健康を犠牲にしてまでがんばらなければならないことは存在しないと思っています。何よりも優先されるのは、その人の命であり健康です。

うつの問題は心を鍛えれば大丈夫というものではありません。ときには逃げることが最も効果的な場合もあります。「逃げる」という言葉に抵抗があるのなら「道順を変える」と考えてもらってもいいと思います。強いメンタルよりも、臨機応変なメンタルがじつは最強だったりします。


ソーシャルメディアユーザーはうつ病を発症しやすい? 米国医師会誌に論文

 ソーシャルメディアの利用が抑うつ症状をもたらす可能性について、これまでに複数の研究データが報告されています。

しかし、ソーシャルメディアを積極的に利用している人では、そもそも抑うつ症状を有している可能性が高いという指摘もあり、両者が因果関係にあるのかよく分かっていません。また、報告されている研究の多くは、若年層を対象とした調査でした。

 そんな中、米国医師会のオープンアクセス誌に、ソーシャルメディアと抑うつの関連を検討した最新の研究論文が、2021年11月1日付で掲載されました。

 この研究は、2020年5月から2021年5月において、米国で毎月実施されたインターネット調査の結果を解析したものです。

初回の調査で抑うつ症状を認めず2回目の調査で抑うつ症状の度合いについて回答を得られた5395人(平均55.8歳)が対象となり、フェイスブック、インスタグラム、リンクトイン、ピンタレスト、ティックトック、ツイッター、スナップチャット、ユーチューブの利用状況と抑うつ症状を有する人の変化が比較されました。  

その結果、スナップチャット、フェイスブック、ティックトックの利用者は、そうでない人に比べて抑うつ症状を有する人がそれぞれ1.53倍、1.42倍、1.39倍、統計的にも有意に増加していました。年齢別に解析したところ、スナップチャットとティックトックの利用は35歳以上で抑うつ症状の増加に関連していましたが、35歳未満では関連性を認めませんでした。

対照的にフェイスブックでは35歳未満で抑うつ症状の増加に関連していましたが、35歳以上では関連性を認めませんでした。

 論文著者らは「ソーシャルメディアの影響を理解するためには、さらなる研究が必要」と結論しています。

青島周一 勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰
2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

誰もがボケない時代がくる? “認知症”治療の最前線「発症する年齢をズラせる」

「人生100年時代」が叫ばれるようになったのも束の間、研究者の間では、「人間が120歳まで生きる」というのはわりと現実的だと考えられているという。世界中で活発化する「老化研究」の最前線とは??。

 加齢に伴う疾患としてまず浮かぶのが認知症だ。’25年には65歳以上の認知症患者が700万人を超えるという予測もある。これほど多くの人が悩む病気なのに、有効な薬が生まれてこなかった。

「大きな原因は、アルツハイマー病は研究者の予想以上に長い時間をかけて進行していく病気だったことです。患者さんの多くは70代以上ですが、実際には10~20年前からアルツハイマー病はゆっくりと進行している。症状が目に見えてわかる段階まで進行してから気づくのでは遅かったのです」

 そう話すのは、東京大学教授の富田泰輔氏だ。

◆実は40代から始まる!? 原因解明で治療法も進化中

 富田氏は40代の若さで教授になるなど、今、認知症研究者のなかでも注目される人物である。

「また、同じ認知症でも『レビー小体型』や『血管型』『前頭側頭型』などがあり、それぞれ原因が違います。そういった個別の違いも原因特定を困難にしていました。しかし、近年は技術革新が進み、ようやく原因に合わせた正しい治療ができるようになってきたのです」

◆認知症治療は新しい局面へ

 そして今年、認知症治療は新しい局面を迎えている。 アメリカにてエーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ(商品名:アデュヘルム)」が販売されたのだ。

「認知症のなかで患者数が一番多いアルツハイマー病の発症原因は、『アミロイドβ』と『タウ』というタンパク物質が、脳内に埃のようにたまることです。それによって認知機能に異常をきたします。『アデュヘルム』はアミロイドβに対する抗体医薬で、投与すると認知機能の低下を緩やかにする効果が見られました。

アメリカでは今後、8年ほどかけて薬効を確かめる必要がありますが、これまで有効薬がなかったなかで画期的な存在になり得ると期待しています」

 さらに違う治療法の研究も日本で進められ、今年4月には富田氏が所属する東大の研究チームが「光認知症療法」を発表した。

「これは脳内に蓄積したアミロイドβに対して、光触媒を使って除去する方法です。今は動物実験の段階ですが、数年以内の治験開始を目標にしています。ほかにも京都大学では認知症の超音波療法を研究したり、東北大学では認知症予防ワクチンの研究が進んでいます。

薬やワクチンなどいろいろなアプローチがありますが、共通しているのはアミロイドβとタウという脳内にたまるタンパク物質をターゲットにしていることです」

◆アルツハイマー病のリスクが高い遺伝子

 また、近年では遺伝子検査などで発症リスクを事前に知り、生活習慣を改善することもできる。


「遺伝子研究では、特異な『アポイー遺伝子』を持っている人の場合、アルツハイマー病のリスクが3~10倍も高い体質だとわかってきました。さらに中年期肥満や糖尿病などの環境要因も大きく関連します。積極的に有酸素運動をしたり、サプリメントを摂取するなど、生活改善がリスク軽減に繋がることも判明しています」

 アルツハイマー病の原因のアミロイドβは加齢とともに代謝が下がり、60代以降からは徐々に脳内に溜まり始めるそうだ。そこで、将来的には健康診断の結果を認知症の予防に繋げられるような研究も進んでいるという。

「体は健康でも脳にアミロイドβがたまっている人は意外に多い。だから血液や尿の検査で脳内にアミロイドβやタウがどれぐらいたまり始めているか数値化できれば、10~20年後の脳の状態を予測して40~50代から予防を始められます。正直、認知症の研究は糖尿病やがんに比べて10~20年は遅れていて、当面は撲滅することは難しい。

ですが、早く対処することで発症する年齢を後ろにズラすことは可能です。もし発症を5年遅らせられれば、多くの人が認知症にならずに老後を過ごせる社会になっても不思議ではないのです」

 研究者の尽力によって、誰もがボケない時代が来るかもしれない。

【東京大学薬学部教授 富田泰輔氏】
東京大学薬学部卒業。40代と若手ながら、アルツハイマー病基礎研究の第一人者として知られる。東大の研究チームで「光認知症療法」の論文を発表した神経科学誌『Brain』が話題に

<取材・文/週刊SPA!編集部>

コロナ禍で注目の「非定型うつ病」、専門医が教える正しい対処法とは

コロナ禍でうつ病になる人が増加しているが、なかでも目立つのが「非定型うつ病」だという。気分が激しく変化しやすい非定型うつ病患者は、周囲からは「わがままな人」と思われてしまうことも多い。なぜ今、非定型うつ病が注目されているのか。パークサイド日比谷クリニック院長で精神科医の立川秀樹氏に聞いた。(清談社 田中 慧)

コロナ禍で注目される

非定型うつ病の特徴

 2020年にOECD(経済協力開発機構)が行った、メンタルヘルス(心の健康)に関する国際調査によると、日本国内のうつ病・うつ状態にある人の割合は17.3%で、前年に比べて2.2倍に増えたという。

 一口にうつ病といってもその種類は多様だ。特に最近注目されているのが非定型うつ病の増加だ。

「一般に知られる定型うつ病は、全てのことにやる気が起こらず悲観的になります。一方、非定型うつ病の場合、趣味などの自分の好きなことに対しては気分が上がり、行動的になれますが、好ましくない状況ではひどく落ち込むと同時に、うまく立ち回れない自分への自己嫌悪に苦しみます。このように、日常の出来事で気分が激しく浮き沈みする『気分反応性』が最大の特徴といえます」(立川氏、以下同)

 特に、非定型うつ病の場合、実際の状況よりも過度に悪い想像をしてしまう傾向もあるという。

「たとえば、起きたときに少しダルさを感じると『自分は重い病気かもしれない』と思い込んで、学校や仕事を休んでしまったり、相手から自分と異なる意見を言われると『自分は拒絶されている』とふさぎ込んでしまったり。ささいなことに過剰に反応して気持ちが低下した結果、職場や知人関係がうまく回らなくなり、最終的に引きこもりになるケースもあります」

 立川氏は、こうした非定型うつ病の症状は、「うつ病というよりも、むしろ双極性障害に近いのではないか」と、持論を展開する。

「非定型うつ病の患者は、ハイテンションのときと気分が落ちているときの、感情の波の幅が非常に大きく、これは双極性障害に近いものです。ただ、非定型うつ病と双極性障害は、気分の波が上下する“きっかけ”に違いがあります。双極性障害の場合、周りの状況に関係なく、定期的な間隔で、なぜかハイになる期間とローになる期間が生まれます。一方、非定型うつ病では、気分の上下の波が一定ではなく、誰かに褒められたり、怒られたりといった対人関係の変化が大きなきっかけとなって、気分が激しく変動します」

 感情の起伏が激しく、その波の変化に対人関係の良し悪しがかなり関与するのが、非定型うつ病の特徴なのだ。

「そのほか、私が臨床の現場で診てきたなかでは、過眠傾向の非定型うつ病患者が特に多かったです。いくら寝ても体が鉛のように重く感じられ、夕方になってやっと起きても、一日を無駄にしてしまった自分を責め、過食や自傷行為、アルコールや他人への依存に発展する事例もあります。また、非定型うつ病は20~30代の女性に多い傾向がありますが、これはPMS(月経前症候群)により、ひと月のなかで気分の波が起きることも影響していると考えます」

リモートワークが

非定型うつ病を重症化

 そもそも非定型うつ病という名称がつけられたのは1959年のことで、最近出てきた病気ではない、と立川氏。

「当時、うつ病傾向のある患者に対する治療法のなかで、効果が高かったのはECT(電気けいれん療法)と三環系抗うつ薬(イミプラミン)でした。しかし、なぜかそれよりもMAO阻害剤という薬によく反応する患者が一定数おり、定形うつには当てはまらないという意味で非定型うつ病と呼ばれるようになりました」

 また、「コロナ禍で非定型うつ病が増えている」という報道もあるが、それは事実とは異なると立川氏は指摘する。

「もともと非定型うつ病の人が一定数いたなか、コロナ禍のストレスにより、生活に支障をきたすほど症状が悪化し、医療機関を受診する患者が増えたという表現が正しいです。したがって、患者数が増えたのではなく、顕在化する患者が増えたといえます。また、精神医学界でも非定型うつ病の認知度が上がり、正しく診断できる医師が増えたことも患者数増加の背景にあります」

 特に、コロナ禍でテレワークが主体になったことが、非定型うつ病の症状を悪化させる原因になっているという。

「コロナ禍で当院を受診した非定型うつ患者のなかで、対面であれば、うまく周囲とコミュニケーションをとって仕事をこなせていた人もいます。たとえば、上司から『もう少し考えてから質問しなさい』と注意を促されたとき、対面であれば上司の表情や声のトーンから、『上司は4割くらい怒っている』と想像がしやすいはずです。しかし、メールやオンラインでの情報だけだと、表情や声のトーンなど、相手の感情やニュアンスを想像するための材料が少ない。そのため、相手の状況を適切にイメージすることが苦手な非定型うつ病の人は、『上司は自分のことを拒絶している』と、極端にマイナスな考えに陥り、落ち込んでしまいます。つまり、相手の感情を適切に見積もることが下手なのです」

非定型うつ病の症状を

緩和する思考法

 周囲とのコミュニケーションを苦手と感じる非定型うつ病の人が症状を改善するためには、状況や相手の感情を正しく把握するための材料となる経験を積み重ねていくことが重要だという。

「こう言われたらこういう言葉で返したらいい」という経験を頭のなかでファイリングし、現状や相手の感情を正しく想像する力をトレーニングすると、症状の改善につながっていく。

「相手の感情は、自分が想像して見積もっているよりも、2割5分引いて考える癖をつけるのも有効です。上司が50%怒っているように感じても、実際は25%くらいしか怒っていないかもしれない。どんなに自分が鋭くても、他人の考えや感情を完璧に察することができるとは思わないほうがいいでしょう。その際、カウンセリングや認知行動療法の本などを活用するのも手段の一つです」

 また、コーヒーによる過度なカフェインの摂取や夜ふかしを控えて不摂生を改善するのも、症状の緩和に効果的だという。「マイナスな側面ではなく、今できていることに目を向け、自分自身を認めてあげましょう」と立川氏はアドバイスする。

 そして、非定型うつ病の周囲の人たちも、気遣うべきポイントがある。

「『このくらい言わなくてもわかるよね』と、不十分な情報しか与えないのはNG行為です。

 経験が豊富な人なら、少ない指示でも過去の経験を材料として、状況を正しく把握し対応できます。しかし、若く経験が浅い人には、イマジネーションを構築するための豊富な経験が足りません。相手が十分に考えるための要素を漏れなく、わかりやすく伝えてあげてください」

 非定型うつ病は、周囲との関わり方が症状の程度を左右する。身近にいる人は、非定型うつ病患者が十分に想像できるように配慮することも重要なのだ。

(監修/心療内科・精神科 パークサイド日比谷クリニック院長 立川秀樹)

【監修】立川秀樹氏 心療内科・精神科 パークサイド日比谷クリニック院長

筑波大学医学部卒業、同大学院博士課程修了。産業医を経て2007年より現職。著書に『「こころの病気」から自分を守る処方せん:こころの健康を取り戻すために』など。

家族が認知症になった場合に備える財産管理 「成年後見制度」か「家族信託」か

「成年後見制度」と「家族信託」の違い© マネーポストWEB 提供 「成年後見制度」と「家族信託」の違い

 準備をせずに迎えると、後々になって様々な問題に直面することもある「相続」。特に、不幸にも親や配偶者が認知症などで判断能力を失った場合、自宅の売却や口座の管理など、財産に関する一切の手続きができなくなるほか、資産が凍結されるおそれもある。

 すると、本人に代わって家族や第三者が財産管理を行う「成年後見制度」を利用する必要がある。すでに認知症などになっている場合は、家庭裁判所の判断で弁護士や司法書士などが「成年後見人」に定められることが多い(法定後見人)。プロに任せられるならと、安心はできない。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが言う。

「後見人には、不動産の管理や処分、介護施設などの入所契約、ATMでの預貯金の管理や生活費の管理など、財産に関するすべての法律行為の代理権が与えられます。ただし、選任された成年後見人が家族ではなく第三者だった場合、赤の他人に毎月報酬を支払わなければなりません」

 財産の総額によって異なるが、例えば資産が1000万円なら、選任までの一時金に10万~20万円、選任された後見人への報酬が月々2万円ほどかかり、これは本人が亡くなるまで続く。

「なかには、不動産を売って財産の総額を増やし、付加報酬を取るように仕向ける、悪質な後見人もいます。基本報酬が月々2万円なら、プラス1万円まで加算されることになります」(三原さん・以下同)

 後見人は本人の意思で選ぶことはできないため、気をつけようがない。一方、本人が元気なうちに、あらかじめ家族などを「任意後見人」に指名しておく方法がある。

「実際にはまず『財産管理等委任契約』を結んで、その後、任意後見契約にする『移行型任意後見』を契約するパターンが多い。弁護士などの専門家に依頼しない限りは、費用は公証役場での契約にかかる2万円程度で済みます。任意後見監督人へ月々1万~2万円支払う必要がありますが、任意後見人自体は無報酬です」

家族信託は遺言書より強い

 もっと自由度の高い財産管理をしたい場合は、「家族信託」がおすすめだ。本人が元気なうちから、家族など信頼できる人に財産の管理を任せることができる。

「任意後見との違いは、株式の売買や資産の組み換え、不動産の活用など、財産を積極的に増やすことも可能です。また、“金融資産は妻に、不動産は長男に”など、資産を特定して誰に管理を任せるかも指定できます」

 さらに「自分が亡くなった後は長男から妻に分配し、妻が亡くなったら長女に相続させる」など、先々の相続や贈与に対しても細かく決めておくことができる。相続実務士で夢相続代表の曽根恵子さんが話す。

「遺産の使い道は遺言書の付言事項に書くこともできますが、家族信託と違って、意思表示にはなっても法的効力はありません。また、遺言書は何度でも書き換えられますが、家族信託は一度契約すれば変更はできません」

 家族信託を契約したうえで遺言書も残せば、確実に自分の意思のとおりに資産を分配・管理してもらえるだろう。ただし、自由度が高い分、契約にかかる費用はやや割高。財産の総額によって異なり、家一軒で数十万円、財産が多ければ数百万円になる。契約後はお金はかからないが、合計で成年後見人の5~10倍の費用がかかるイメージだ。

運用資産がなければ「移行型任意後見」を

 前述のように、法定後見人の選任を待つと、赤の他人にお金を払って財産を牛耳られてしまう。一方、任意後見人を選ぶと、財産管理の自由度が下がり、家族信託をすればお金がかかる。どうやって選べばいいのか。三原さんは、財産の総額と種類を目安にすることをすすめる。

「不動産を複数保有していたり、会社の経営をしていたりと、資産を積極的に運用する必要があるなら、元気なうちに家族信託を検討した方がいい。一方、財産が少ない場合は、かかる費用が少ない移行型任意後見契約が安心です。入退院の手続きといった身上監護も任せることができます」(三原さん)

 どちらを選ぶにせよ、契約は認知症などを発症する前でなければできない。選択肢を失う前に判断しておこう。

※女性セブン2021年12月9日号

家族が認知症になる前に理解したい「成年後見制度」のしくみ。メリット・デメリットは?

© MONEY PLUS

介護などの場面でたまに耳にする「成年後見制度」という言葉。判断力のない人に代わって代理人が契約などをできるようにできるみたいだけど、詳しいことはよく知らない……という人は多いのではないでしょうか。この制度では何ができて何ができないのか。利用することによるメリット、デメリットは? 行政書士が解説します。

「成年後見制度」とは? 何ができるの?

「成年後見制度」とは、認知症、知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分であるために、契約など法律行為の意思決定が困難な人に代わって、定められた人が法律行為を行うことで本人の能力を補う制度です。

「成年後見制度」で代理できる法律行為は、財産に関する法律行為で「財産管理」と「身上監護」を目的とするものです。

「財産管理」とは、例えば預貯金の管理・払い戻し、公共料金の支払い、年金の受け取り、不動産の売買・賃貸契約など重要な財産の管理・処分、遺産分割・相続の承認・放棄など相続に関する財産の処分などです。

「身上監護」とは、日常生活や調印などでの療養看護に関わる法律行為です。例えば日用品の買い物、介護サービスの利用契約・要介護認定の申請・福祉施設への入所契約や医療契約・病院への入院契約などです。また、これらの業務に付随して、収入と支出の管理や帳簿の作成を行います。

なお、「身上監護」と聞くと食事や着替え、入浴などの身の回りのお世話をしてくれるイメージを持つ方がいるかもしれませんが、身体介護などの行為(事実行為)は役割に含まれません。

どんな時に「成年後見制度」が必要になるの?

では、どんな時に「成年後見制度」が必要になるのでしょうか。

例えば、家族が認知症を発症し、施設への入所が決まり、そのための諸費用を入所する本人の預貯金で支払いするとします。このとき、金融機関は、家族であっても預貯金払出や解約にはなかなか応じてくれません。このような場合、「成年後見制度」にしたがって定められた人が金融機関での手続きを行うことができます。このような場面で金融機関から案内を受け、成年後見制度を知り、利用する方が増えています。

また、別の例として、財産が自宅と預貯金が少額の場合で、施設入所の費用を自宅売却して充てる場合です。こちらも、判断能力がなくなってからでは、不動産の売却を行うことができません。売却をするために、成年後見制度を利用し施設入所費用を捻出するということで利用を始める方が増えています。

「成年後見制度」を利用するにあたってのメリット・デメリット

成年後見制度は、例のような日常生活等に支障がある人たちを支援して、判断能力を補い本人の権利を守るということができるのが最大のメリットです。

しかし、成年後見制度を利用し、弁護士、司法書士等の専門家が後見人となる場合、報酬の支払いが必要になります。また、本人の財産を有効に活用しようと思っても、不動産や株式投資などの資産運用は、リスクがあるので基本的に認められません。子や孫への生前贈与などもできない可能性が高くなります。

さらに、一度成年後見人が就くと、本人の判断能力が回復したと認められる場合を除き、途中で成年後見制度の利用をやめることはできません。本人が亡くなるまで後見は続きます。

「成年後見制度」には「法定後見制度」と「任意後見制度」がある

「成年後見制度」には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

「法定後見制度」は、判断能力が低下した人、あるいは判断能力がなくなった人のために、その人に代わって契約ごとや財産の管理をしてくれる人を家庭裁判所に選んでもらい、本人の支援をするものです。つまり、本人の判断能力が低下してから、本人または親族等が家庭裁判所へ申し立てることによって始まります。

これに対して「任意後見制度」は、将来的に判断能力が低下した場合に備え、本人の判断能力が低下する前に、「誰に」「何を」任せるのかを決めておくことができます。任意後見を利用するには、将来後見人となる人と契約(任意後見契約)を結ぶことが必要です。この契約を結んでおくことで、将来判断能力が低下した場合には、契約を結んだ人が後見人となることができるのです。

「成年後見制度」を利用するためには、本人の必要に応じて「任意後見契約」の締結をしておくか、「法定後見制度」を利用するかを判断する必要があります。ただし、本人の想いや願いをより尊重できるよう任意後見制度を利用した後、必要に応じて法定後見制度に移行することも可能になっています。

ただし、「任意後見制度」と「法定後見制度」にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

「任意後見制度」のメリットと注意点

「任意後見制度」は、「法定後見制度」より本人の想いや願いを反映させやすいというメリットがありますが、注意しなければならない点もあります。

・注意点1

「任意後見制度」は、契約に記載した代理権しかありません。例えば、契約時には必要ないと考えていたことや、想定外のことがあった場合、契約に記載がなければ対応ができません。

・注意点2

「任意後見制度」には、取消権がありません。取消権とは、判断能力が低下した被後見人が誤った契約をした場合、その契約を取り消すことができる権限です。例えば、騙されて高額な商品を購入した場合などでも、任意後見制度では取り消すことができません。

法定後見制度は「後見」「保佐」「補助」の3種類に分けられる

契約に記載した代理権しかない「任意後見制度」に対して「法定後見制度」は、代理できることが法律により定められています。その権限は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分けられています。それぞれ、どんな人が対象になるのでしょうか。

●後見

「後見」の対象になるのは、判断能力がほとんどない人です。自分の行動の結果を判断できないため、「後見人」となった人が代わって契約ごとや財産の管理を行い、本人を支援できます。例えば、日常的に必要な買い物も誰かにやってもらう必要があるような人です。このような場合、定められた「後見人」は日常生活に関する行為(簡単な買い物等)を除き、すべての法律行為に関する取消権・代理権を持ちます。

●保佐

「保佐」の対象になるのは、日常的な買い物などは一人でできるけれど、難しい契約ごとはできないような人です。

財産管理に関する判断能力が平均より低いため、特定の法律行為については定められた「保佐人」が同意をすることにより、本人を支援します。例えば、日常的に必要な買い物程度は本人ができるけれど、重要な財産行為(不動産の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等)ができないような場合、「保佐人」は重要な取り引きに関する同意見・取消権を持ちます。ただし、「後見人」とは違い、代理権はありません。

●補助

「補助」の対象になるのは、たいていのことは一人でできるけれど、難しい契約ごとなどはできるかどうか不安がある人です。「保佐」と似ていますが、成年後見制度の基本理念である「自己決定権の尊重」「残存能力の活用」をより実現するため、平成12年の改正により新たに創設された制度です。

元気なうちに家族と話し合っておくことが大切

以上のように、本人や家族の状況により、活用できる効果的な制度はまったく違います。大切なことは「元気なうち」に家族と話をすることです。

・自分は何をしたいのか

・家族は何が心配なのか

お互いの考えていることを聞いてみましょう。そのような場に、専門家に同席してもらい、助言を求めるのは非常に有効です。第三者として、実務や法律上の問題点などもアドバイスをしてもらうことで、より具体的な話ができることでしょう。

特に法律上の制度を利用する場合には、元気な「今」だからできることが多くあります。家族での話し合いは、早いほどできることが増えます。皆さんも年末年始に家族でこのような場を作ってみてはいかがでしょうか。

行政書士:細谷洋貴

寝ながらスマホが認知症発症リスク!20年後あなたの脳はごみだらけ?病気と睡眠の深い関係

「寝ているのがもったいない」と昼も夜もあくせく活動したがる人、多いですよね。実際、日本人の平均睡眠時間は世界で最も短い7時間22分(2018年OECD調査) 。

「今こそそういう生活習慣は改めるべきでしょう」と力を込めて語るのは、睡眠医療のエキスパートである中部大学生命健康科学研究所特任教授の宮崎総一郎先生。認知症の発症と進行に大きく影響する要因として、近年とみに注目を浴びている睡眠について解説していただきました。

認知症と睡眠の関係についてお話してくれるのは……
宮崎総一郎(みやざき・そういちろう)中部大学特任教授、日本睡眠教育機構理事長、放送大学客員教授、日本睡眠学会理事
1954年生まれ、愛媛県宇和島市出身。79年秋田大学医学部卒、85年同大学院博士課程修了。92年国立水戸病院耳鼻咽喉科医長、98年秋田大学医学部耳鼻咽喉科助教授、2004年滋賀医科大学睡眠学講座特任教授(主任)を経て、16年より中部大学生命健康科学研究所。専門は睡眠学教育、不眠症、睡眠時無呼吸症候群。現在、睡眠健康指導士の育成、睡眠障害の包括的医療、睡眠からアプローチする認知症予防プロジェクトに学内外で取り組んでいる。

【繊細な脳は長時間労働が苦手】
睡眠は、「疲れたから寝るか」という単なる消極的な生理機能ではありません。明日をより良く活動するため、記憶を整理して再構築し、さらに脳をメンテナンスする重要な仕事を担っています。

脳は、千数百億もの「ニューロン」と呼ばれる脳神経細胞で構成されています。その細胞と細胞をつないでいる部分(シナプス)が絶えず情報をやりとりしていて、脳を正常に働かせるエネルギーも大量に消費します。でも、脳は繊細なので連続運転には弱く、機能が低下しやすいのですよ。

起床してから16時間以上続けて起きたままでいると、脳の機能はダウンし、酒気帯び運転と同じ程度しか機能しなくなるという研究報告もあります。テスト前日に徹夜で勉強しても、残念ながら逆効果だったのです。

人の脳の重さは体重の約2%(1300~1400g)に過ぎませんが、脳の消費エネルギーは体全体の消費エネルギーの20%を占めます。

私たちが脳を働かせるとタンパク質の老廃物(ごみ)が大量に発生するため、“脳の清掃システム”が働きます。成人では毎日約7gの使用済みタンパク質が排出され、新しいタンパク質と入れ換わるのです。

最も多い認知症のタイプ、アルツハイマー型認知症発症の引き金になるのが、「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質の老廃物で、このごみを清掃する能力が高まるのが、まさに睡眠中なのです。

【脳のゴミ掃除は夜中に行われる】
脳には「グリア細胞」と呼ばれる細胞がニューロンの何倍もあり、ニューロンに栄養を渡すことでその働きをサポートしています。眠っている間はこのグリア細胞が収縮するため、細胞間の隙間が60%も広がると考えられています。ぐんと広くなった隙間に脳の中で作られている脳脊髄液がどんどん流れてくるので、ゴミの排出が活発になります。睡眠中こそ、最高のクリーンアップ・タイムというわけです。

睡眠中の脳の清掃システム

睡眠をおろそかにしているとアミロイドβが蓄積され、20~30年後には脳はゴミ屋敷状態になります。若い時から睡眠を大事にしていれば、脳神経の衰えを防いで、アルツハイマー型認知症の発症リスクを下げられます。

45~75歳の健康な人145名を対象に、睡眠の質とアルツハイマー型認知症の初期段階を調査した研究では、睡眠効率(睡眠時間を寝床で横たわっている“臥床時間”で割った値)が悪くて眠れない時間が長い人は、そうでない人に比べてアミロイドβ沈着の危険性が最大5.6倍も高かったことが確認されました。

また、認知症と睡眠の関係を研究した最近のメタ解析(複数の研究の結果を統合した分析方法)によれば、不眠があると認知症の発症リスクが1.51倍も高くなることがわかっています。

【大いびきが認知症を招く!?】
激しいイビキをかいたり、日中に強い眠気に襲われたり……。そんな人は「睡眠時無呼吸症候群」の恐れがあります。この病気は睡眠中に気道が塞がることで起こり、10秒以上の呼吸停止といびきを繰り返します。脳に、酸素が途切れ途切れにしか届かず、脳血管性認知症を引き起こす要因になります。認知症の発症に大きく影響しているのです。

台湾で行われた研究では、睡眠時無呼吸症候群の人の認知症発症リスクは、 健康な人の約1.7倍、70歳以上の女性では3.2倍高いことが判明しています。

無呼吸症候群は、CPAP(シーパップ)と呼ばれる呼吸器で治療するのが一般的です。アルツハイマー型認知症を研究するアメリカのグループによると、CPAP治療を受けた人は受けていない人に比べて、アルツハイマー型認知症の発症が約5年、軽度認知障害(MCI)の発症は約10年遅くなったとの研究結果が出ています。「いびきぐらいで」と侮ることなく、早めに医療機関にかかることが大切です。

【体内時計を調整して快眠を得る】
睡眠は、認知症発症に備える重要なカギといえそうです。ではどうすれば質の良い睡眠が取れるのでしょうか。基本は体内時計のリズムに合わせて生活することです。

私たちの体には体内時計が備わっており、太陽が登ると体温が上がって活動をスタートさせ、夜には体温が下がって体を休ませる仕組みができています。眠気を調整しているメラトニンというホルモンが、太陽光の明暗に合わせて体内時計をリセットしているのです。

朝、起床したらカーテンを開けて太陽の光を浴びてください。遮光カーテンなら10cmの隙間を開けて寝て、朝日が差し込むようにしておきましょう。睡眠ホルモンのメラトニンは光を浴びてから14~16時間後に分泌される性質があるので、例えば朝7時に光を浴びると夜9~11時頃に分泌が始まり、自然に眠くなります。

朝、太陽光を浴びないとメラトニンは分泌しにくくなり、夜になってもなかなか眠気はやってきません。またメラトニンの分泌は夜の深まりとともに増えていきます。もし夕方から夜に強い日光を浴びると体は昼の時間が延びたと判断し、眠りたくても目が冴えて不眠状態に……。夜勤明けの場合、朝に強い光を浴びると眠れなくなるので、帰宅路はサングラスをかけるのがベターです。

体内時計の働きで、眠気は一定のリズムを刻んでいます。午後2時頃には一時的に眠気が高まります。このタイミングで短い昼寝をすると、脳がすっきりして活発に動くようになり、夜になると自然な眠気が起きて熟睡できますよ。

驚くことに、30分以内の昼寝の習慣がある人は、ない人に比べて認知症の発症率が6分の1になるという研究が報告されています。ただし1時間以上の昼寝を習慣化していると、今度は認知症のリスクが2倍になるそうです。

午後2時頃から強まっていた眠気も夕方4時くらいにはなくなり、夕方5時頃からは元気に活動できる時間がやってきます。再び体温も上がり、運動や仕事には最適。夜に開かれるスポーツ競技では世界記録が出やすいとも言われています。

ある特別養護老人ホームでの睡眠指導を紹介しましょう。入居者S子さんは102歳で要介護2。日中は居室でベッドに横になり、いつもウトウト状態。一晩に20回くらいナースコールを鳴らして職員を呼び出します。睡眠導入剤を使っても効果なし。完全に昼夜逆転した生活です。

そこで睡眠指導によって体内時計をリセットするため、朝9時半頃に、車いすで散歩に出かけてもらうように。午後2時頃は眠気が強い時間なので静かに過ごし、その頃行っていた活動的なレクリエーションは午後3時から午後5時に変更。その後に入浴や夕食。S子さんは就寝時刻の9時頃まで活動することで、ベッドに入るとぐっすり眠るようになりました。4カ月後、夜間のナースコールは20回から2回に激減しました。

この例からも体内時計のリズムに合った睡眠を取ることが、いかに重要かがわかります。睡眠導入剤は上手に使える場合もありますが、まずは体内時計が元気で正確に働くように調整することが先決です。

【寝ながらスマホは要注意】
さて、睡眠時間はどのくらい取ればいいと思いますか?
個人差があり、短い睡眠で元気な人もいれば、長い睡眠が必要な人もいます。アメリカ睡眠財団の調査によると、壮年・中年世代では6~10時間、65歳以上は5~9時間が目安だとされています。でも年齢を重ねてきたら、早起きや睡眠の長さにこだわる必要はありません。

高齢の方に必要なのは、“きょうよう”と”きょういく”。今日用がある、今日行く所があること。起きた時にすっきり目覚められて、日中に眠気なく活動ができれば十分に睡眠が取れています。ただし60歳以上では、高血圧のリスクが最も低いのは睡眠が5~6時間の人で、9時間以上になると反対に高くなります。寝過ぎも要注意ですね。

寝つけないまま寝床で何時間も過ごす人がいますが、これはよくありません。“眠れない場所”として記憶されてしまいます。布団の中で携帯電話を見続けてはいませんか。15分経っても眠れなければ、いったん寝床を出てラジオを聴いたり、読書などをしながら眠くなるまで待ちましょう。布団にいるのは眠る時だけと決めてください。

いい睡眠を得るのに大事なのが、体内時計に加えて“腹時計”です。
食欲は、脳にある「視床下部」が指令を出してコントロールしています。食事をとる時間が不規則になると、腹時計が乱れて睡眠リズムまで乱れます。毎朝決まった時間にしっかり朝食をとれば、体内時計も調整されるのです。

加えて、朝食のメニューは、たんぱく質の豊富な食品、大豆製品や乳製品などがお薦めです。太陽光を浴びるとたんぱく質を原料にセロトニンというホルモンができて、夜にはさらに睡眠を促すメラトニンに変換。よく眠れるようになります。

ちなみにこんな報告もありました。
朝食について中高校生10万人を対象に実施した調査によると、毎朝食べない学生は、毎朝食べる学生に比べて不眠が1.86倍、日中に強い眠気を感じることが1.41倍あるとわかりました。また大手学習塾が行った高校3年生の学力テストでは、毎朝食べる学生と食べない学生とでは、全科目15%近く点数に差が出たそうです。

睡眠不足や睡眠障害、睡眠時無呼吸が認知症発症のリスクを高めることが明らかになっています。あらゆる世代が睡眠の質について正しい知識を身につけ、快適な睡眠生活を送ることが、認知症の予防や発症後の進行を緩やかにすることに繋がります。

認知症ケアQ&A 昔の世界に戻る、誰もいないのに話す…等の対処法

認知症の代表的な症例を知っておく

認知症の代表的な症例を知っておく。『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(文響社刊)より

 家族や親族が認知症になった場合、周りの人間はどう対応すればよいのか? よくある質問について、理学療法士の川畑智氏に聞いてみました。

Q1.認知症には認知機能だけでなく、動きが鈍くなったりすることもあるのでしょうか?

運動機能の低下が顕著になることも

運動機能の低下が顕著になることも。『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(文響社刊)より

A.「レビー小体型認知症」と呼ばれるタイプは立つ・座るという動作や、歩きが緩慢になり、運動機能の低下が顕著になります。これは「鉛管現象」といって、体内に鉛の管が通っているように関節が硬くなり、動きにくい状態になるのです。怠けているわけではないので叱ったりせずに、調子の良いときは歩調を合わせ、ゆっくりと散歩に付き添ってあげましょう。


Q2.引っ越した後に、母の認知症が進んだようですが、影響はあるのですか?


A.住み慣れた家や場所から新しい環境に変わることは、認知症の人にとってかなりの負担を強いる場合もあり、それを「リロケーション・ダメージ」と言います。近所を散歩して、新たな環境に慣れさせてあげるのも良いでしょう。


Q3.「昔の世界」に戻ってしまった認知症の人と共有できる話題を教えてください。

A.キーワードは「かきくけこ」です。
【か】過去や家族のこと
【き】季節、天候のこと
【く】苦労話、ただし暗い話はNG
【け】健康のこと
【こ】子供のこと。
 これらの話題なら会話は弾み、特に過去のことは「長期記憶」を刺激するので有効です。

Q4.母が誰もいないのに話しかけています。何かが見えているのでしょうか?


Q3.「昔の世界」に戻ってしまった認知症の人と共有できる話題を教えてください。

A.キーワードは「かきくけこ」です。
【か】過去や家族のこと
【き】季節、天候のこと
【く】苦労話、ただし暗い話はNG
【け】健康のこと
【こ】子供のこと。
 これらの話題なら会話は弾み、特に過去のことは「長期記憶」を刺激するので有効です。

Q4.母が誰もいないのに話しかけています。何かが見えているのでしょうか?

運転免許をうまく返納させる方法は?

運転免許をうまく返納させる方法は?。『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(文響社刊)より


A.車体の左側にこすったような傷が目立つようになったら、運転を控えることを検討する時期だと考えたほうが良いでしょう。まずは学校の通学時間や夜間、雨の日などを避ける、行き慣れた病院に行く場合というように、運転時間や行先を条件付きにしましょう。


 情に訴えるのも有効な方法です。健康を気遣っていることを理由に、三輪の自転車をプレゼントして、プライドを傷つけることなしに免許返納してもらったという例もあります。

Q6.会話の中に「あれ、それ」が多くて、言っていることがわからないのですが、どう対応したらいいですか?

本人も意思が伝えられず、もどかしい

本人も意思が伝えられず、もどかしい。『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(文響社刊)より

A.頭の中から言葉が消えてしまう、認知症の「失語」という状態です。本人も意思が伝えられず、もどかしい状態であることを理解しましょう。この状態が続くと自信を失い、疎外感を感じるようになります。相手の言葉、特に「あれ、それ」の前後をしっかりと聞き、身振りや手振りにも注意すれば、何を言おうとしているのか理解できるはずです。


認知症の人が見ているのはどんな世界? スケッチと旅行記のスタイルでわかりやすく紹介

『認知症世界の歩き方』筧 裕介,認知症未来共創ハブほか ライツ社


 認知症とは、認知機能が働きにくくなったため生活上の問題が生じ、暮らしづらくなる状態のこと。

 これまでに出版された本やインターネットで見つかる情報は、医療者や介護者からの視点である場合が多く、「肝心の『ご本人』の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた情報が、ほとんど見つからない」というのは、『認知症世界の歩き方』の著者・筧 裕介さん。


 認知症の人に起こっていること、本人が感じていることを、より多くの人に理解してもらいたいという思いから生まれた本書は、認知症の人100名以上にインタビューして作られています。認知症とともに生きる世界をひとつの島にたとえ、「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式でわかりやすく解説しているのが本書の大きな特徴です。


 では、ここで私たちもその世界をのぞいてみましょう。この島を訪れた人は、誰もがさまざまなハプニングを体験することになります。乗っていると記憶をどんどん失ってしまう「ミステリーバス」に、人の顔を識別できなくなる「顔無し族の村」、気づくといつの間にか時間が経っている「トキシラズ宮殿」……。そこには13のストーリーが広がっています。


 たとえば、同じお湯に浸かりながらも寒がっている人、暑がっている人、ピリピリ刺激を感じている人が描かれているのが「七変化温泉」。同じお湯なのにここまで感じ方が異なるなんて、なんだかおかしな話に思えるかもしれません。


 しかし認知症の人がお風呂を嫌がるのはよくあることです。その理由のひとつは、温度感覚のトラブルでお湯が極度に熱く感じたり、皮膚感覚のトラブルでお湯をぬるっと不快に感じたりするためだそうです。また、空間認識や身体機能のトラブルで服の着脱が困難なためにお風呂を拒否したり、時間感覚のズレや記憶の取り違えで「自分はお風呂に入ったばかりだ」と思っていたりと、嫌がる理由もさまざまです。


 こうして見ると、お風呂という一場面だけでも、どんなことに困難を感じているかは一人ひとりで異なることがわかります。「つまり、認知症を『ひとくくり』にしない。それが、とても大切なこと」だと本書は伝えています。それぞれの背景にある理由がわかれば、対応の仕方を変えることもできるし、本人と周囲のやり取りのなかで「わかってくれない」「わからない」といったすれ違いも少なくなってくることでしょう。とはいえ、一筋縄ではいかないのも認知症の大変なところです。


 本書の後半では、その手助けとなるような「認知症とともに生きるための知恵を学ぶ 旅のガイド」も掲載。認知症という旅を歩むのに必要な旅支度や心構え、途中で疲れたときの気分転換の仕方を紹介しています。今のところ医学的に治す方法はない認知症ですが、「『認知症とともにどう生きるか』、つまり、『付き合い方』や『周りの環境』は変えることができる」と本書にはあります。


 超高齢化社会を迎えるなか、自身が認知症になったときにどう生きればよいか、認知症の人たちとともに幸せに生きる未来を作るにはどうすればよいか、本書をきっかけに考えてみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

蛭子さん認知症の薬は?の質問に「飲んでません」 その回答にマネジャーが即ツッコんだワケ

2020年の夏に放送された健康情報番組の中で、アルツハイマー型とレビー小体型の認知症を併発していると診断された漫画家の蛭子能収さん(73)。テレビの仕事はセーブしつつも、今春には書籍を出版しました。二人三脚のマネジャーとの掛け合いで取材現場を和ませながら、柔らかな表情で認知症とともにある日々を語ってくださいました。

──こんにちは。顔色が良くて元気そうに見えます。最近、体調はいかがですか?

蛭子さん すごくいいですよ。もともとお酒とタバコはやらないし、3食ちゃんと食べているし、健康体なんです。

──早寝早起きですか?

蛭子さん けっこう寝るのは早くて、だいたい夕方6時ぐらいかな。日が落ちたら寝るという感じで、朝は 7時半くらいには起きています。

マネジャー 寝すぎですよ。

蛭子さん そう? 寝すぎかな。

──熟睡できていますか?

蛭子さん 熟睡できることのほうが多いです。気持ちよく眠れるのはいいですよね。今日もね、朝起きたらいいお天気で、ラジオを聴いて。

──ラジオがお好きですか?

蛭子さん 普段はテレビを見ることが多いかな。普通にテレビを見たり、動画サイトで昔の自分の映像を見て笑ったりして、時間潰しみたいなことをしています。自分が映っているのは、やっぱりちょっと恥ずかしい。でも自分が笑って見ている人も笑ってくれるなら、すごく嬉しいです。



認知症と診断されても生活は変わらない
──蛭子さんは2020年の夏に初期の認知症と診断されました。その頃、自分で「忘れっぽくなったな」とか何かおかしいと思うことはありましたか?

蛭子さん う~ん、むずかしいな。

マネジャー もともと忘れっぽいというか、昔から人の名前を覚えるのが苦手ですよね。

蛭子さん そうなんだよね。

──たとえば何か不便を感じるなど、診断前と後で生活は変わりましたか?

蛭子さん 自分としては全然変わっていません。不便もあんまり感じないです。(マネジャーに)なんかそういうことあった?

マネジャー いろいろ忘れていることはありますが、ちょっと触りを言えばすぐに思い出して普通に話ができるので、僕もそんなに変化を感じていません。

──認知症になってから嫌な思いをしたことはありますか?

蛭子さんそれもないですね。俺はあんまりいろんなことに怒ったりしないし、たぶんすごくおとなしいほうだと思います。

──今春、出された本『認知症になった蛭子さん~介護する家族の心が「楽」になる本』の中に、「(レビー小体型認知症による幻視で)認知症になったことでいろんなものが見えた」というお話が書いてありました。洗濯物を入れたカゴが、奥様が倒れているように見えたり……

蛭子さん ああ! なんかありましたね。なんでそんなのが見えていたのか不思議でした。

マネジャー デパートの売り場で「電車が走っている」と言ったこともあって、その様子を漫画に描きましたよね。

蛭子さん 知らないことが起きるとすごく興味が湧いてくる。でも最近は(幻視は)ないんですよ。周りの人からよく「もっと描いてよ」って言われるんですけど。

──今は、幻視は治まっているんですね。認知症のお薬は飲んでいらっしゃいますか?

蛭子さん いや、全然飲んでないです。

マネジャー 薬は毎日、昼食後に飲んでいますよ。

蛭子さん ああ俺が知らずに飲んでいる中にあるわけね。

──コロナ禍なので、通院も大変でしょう

蛭子さん そうですね。だから最近はあまり病院に行っていないです。

最近は競艇よりも人間ウォッチング
──蛭子さんといえばギャンブルですが、最近はいかがですか?

蛭子さん 最近あまり遊んでいないんだよね。競艇も行かなくなったし。

──競艇はとてもお好きでしたよね。心境が変化したのはなぜでしょう

蛭子さん 1番の理由は、これまでお金を使いすぎちゃったから。やっぱり負け続けているとね、同じことを繰り返しているだけなのでちょっとまずいなと思います。でも最近は本当にほとんどやってなくて、我慢しているというよりも、それほどしたくなくなっちゃった。したくなくなったと言うと、嘘になるかもしれない。したいんだけどしないで済むような覚悟(=やめる覚悟)はできています。多分、今後どんどん減っていって、そのうち完全にやらなくなるんじゃないかな。

──最近の楽しみは?

蛭子さん 以前は映画もすごく好きで、昔の映画とか不条理な映画っていうか、訳のわからないような映画を見に行っていました。

マネジャー 『砂の女』とかですよね。

蛭子さん そうそう、洋画も邦画も好きで。最近も面白い映画はやっていると思うけど、そんなに見たいと思わないんですよね。コロナ禍が始まってから映画館に行かなくなって。映画から離れていっているような気がします。

──外出するのが億劫になった?

蛭子さん 外に出るのはすごく好きですね。近くに公園があって子どもたちが走ったりしていて、それをベンチに座ってコーヒーを飲みながら見ているのが好きで。以前は人と会うのはあまり好きじゃなかったんですが、最近はそうでもなくて、人の動きを見るのが面白いんだよね。

──ご自宅で過ごす以外にショートステイを利用なさっていると伺いました

蛭子さん (マネジャーに向かって)俺、ショートステイに行ってたっけ?

マネジャー 週2~3日利用しています。

蛭子さん 行ってたんだ。行ってないと思ってた(笑)

※後編に続く

認知症ってどんな病気? 匂いがわからない、出不精は黄色信号。高血圧、糖尿病も高リスク。知って備える6つのQ&A

昨今、さまざまなシーンで「認知症予防に効果あり!」という謳い文句を見聞きします。しかし科学的に信頼性の高い予防法は、まだ限られたものであるのが現実。ここでは、認知症予防研究の第一人者である浦上克哉さんから、基本的な知識を得て、病の全貌を知ることからはじめましょう。(構成=島田ゆかり イラスト=浜野史)

◆Q1. 認知症とはどのような病気ですか

A1.日常生活に支障をきたしたら、すでに症状ははじまっています

認知症とはさまざまな認知機能が低下する病気で、「日常生活に支障がある状態」と定義されます。9つある認知機能──「近時記憶」「見当識」「視空間認知機能」「注意機能」「作業記憶」「計算力」「思考力」「遂行力」「判断力」のうち、多くの人が最初に支障をきたすのが「近時記憶」。水道の流しっぱなし、ガスコンロの消し忘れなどがこれにあたります。

次に「見当識」障害が表れ、時間や場所、人を認識しにくい状態に。そして「視空間認知機能」が低下し、車庫入れ時に車をぶつけたり、椅子に正しく座れなくなったりします。さらに病状が進むと意欲が低下。感情がコントロールできなくなって暴言を吐くことも。徘徊がはじまるケースもあります。

人によって症状の出方や進行のスピードは異なりますが、一般的にこのような段階を踏みながら、徐々に進行していくと思ってよいでしょう。

◆Q2 予防は、いつからはじめるとよいですか

A2.軽度認知障害(MCI)か、その前の段階で予防すれば、発症を遅らせることができます

認知症になる脳が変化をはじめるのは、発症する20~30年も前から。特に患者数の多いアルツハイマー型認知症の場合、「アミロイドβタンパク」というタンパク質の蓄積が原因とされており、脳にゆっくりと溜まっていきます。無症状の時期が続き、アミロイドβタンパクからリン酸化タンパクという物質が出はじめると、脳の神経細胞が壊され認知症を発症。残念ながら、現在の医学では一度発症した認知症を完治させることはできません。

ただ、進行のスピードは環境に左右されます。家族の理解とサポートがあり、認知機能が衰えても安心して暮らせる人は進行が遅く、逆に家族に怒られたりするなど不安の多い環境にいると、早く進行します。また認知症の初期段階で治療をはじめれば、進行をゆるやかにすることができます。

これは予防にも同様のことが言え、認知症リスクが高い生活習慣を改善していけば、発症を抑えたりゆるやかにしたりできるのです。特に私は、認知症の一歩手前の状態である軽度認知障害(MCI)で予防することに力を入れており、この段階での取り組み次第では認知症の発症を遅らせることができると考えています。

◆Q3. 認知症かどうかを見極めるサインはありますか

A3. 出不精になったら、黄信号と考えましょう

加齢によるもの忘れなのか、認知症を発症したのか。家族のことであっても、自分のことであっても、見極めが難しいですね。人の名前が出てこない、3日前の夕飯を思い出せない……といったもの忘れは、誰にでもよくあること。そこで認知症かも、と疑うのは早合点と言っていいでしょう。何かのきっかけで思い出せたなら、加齢によるもの忘れです。

私たちの脳には大きなデータベースがあります。脳内の膨大なデータ(人の名前など)の中からひとつの正解を引っ張り出す作業は、加齢とともに時間がかかるようになるものです。一方、認知症の場合はデータベース自体が不具合を起こしているので、もう引っ張り出すことができません。つまり、思い出すことができないのです。

認知症かどうかを見極めるサインとしてはもうひとつ、「以前に比べて出不精になったか」を意識してみてください。今まで一人で気軽に出かけていたのに電車を乗り間違えたり、まっすぐ帰って来られなくなったりすると、本人は大変しんどい思いをして、次第に出不精になっていきます。これも、認知症の入り口と考えてよいでしょう。

「もしや」と思ったら、かかりつけ医に相談するか、病院の「もの忘れ外来」などの認知症外来を早めに受診することをお勧めします。

◆Q4. 発症に関わる12のリスク対策ほかに、注目されている予防策はありますか

A4.嗅覚を活性化してみてください

認知症の初期症状として最も多い「近時記憶」障害が起こる前に、実は「匂いがわからなくなる」ことが、私の長年の研究でわかってきました。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβタンパクが溜まって脳の神経が変性することで進行しますが、このタンパク質は最初に嗅神経に溜まることがわかったのです。

そこで着目したのが、アロマセラピーでした。嗅神経を活性化すると、最初に起きる神経変性を抑制することができるので、認知症の発症を抑えたり進行をゆるやかにする効果が期待できます。私の研究では、日中にローズマリーカンファーとレモンを配合したもの、夜は真正ラベンダーとスイートオレンジを配合した香りを嗅ぐことが、最も認知症予防に効果がある、との結果を得ています。

化学合成のものではない天然成分のアロマオイルを、正しい配合で使っていただきたいので、「浦上式アロマオイル」として商品化しました。特に夜用のアロマは睡眠の質も上げる効果があります。アミロイドβタンパクは睡眠時に除去されるため、良質な睡眠も認知症予防に効果的です。

◆Q5. 生活習慣病と認知症は、どのような関連性があるのでしょうか

A5. 肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病の人は、認知症も高リスクです

糖尿病や高血圧は、現代人に多く見られる生活習慣病です。これらの持病がある人は、すでに認知症の前段階にあるといっても過言ではありません。

糖尿病はインスリンが働かなくなる病気ですが、インスリンには血糖値を下げるだけでなく、神経を保護する作用もあります。糖尿病の人は脳に運ばれるインスリン量が減ることで脳神経を守る働きが低下するため、認知症の発症リスクが高まるのです。同様に、高血圧や脂質異常症によって血管が破裂すると、「血管性認知症」を発症することも。

逆に言うと、生活習慣病や肥満状態を適切にコントロールすることは、認知症予防にもなるということ。ダイエットのためにも運動を習慣化してください。体を動かすとさまざまな感覚が脳にインプットされます。その刺激により神経細胞が活性化するので、これにも認知症予防効果が期待できます。

◆Q6. 予防のための「運動」や「知的活動」はどのように行うとよいでしょう

A6. 軽度認知障害(MCI)の人を対象にはじめた、「とっとり方式認知症予防プログラム」をお勧めします

私は鳥取県琴浦町の協力のもと、MCIの人を対象に認知症予防教室を開いてきました。15年以上に及ぶその結果をもとに、鳥取県と日本財団の共同プロジェクトの一環として、科学的に効果のある「認知症予防プログラム」を開発したのは2016年のこと。プログラムは「運動」と「知的活動」の2本立てになっています。「運動」はこちらの記事で詳しくご紹介しますので、ぜひご自宅で挑戦してみてください。

「知的活動」は頭と手を同時に使うゲームなどが有効で、認知機能の衰えを防ぐことに意味があります。

前述の9つの認知機能のうち、たとえば「近時記憶」を鍛えるなら暗記を必要とする勉強、「視空間認知機能」を鍛えるなら塗り絵や貼り絵、園芸、「注意機能」を鍛えるなら迷路や間違い探しのようなパズルゲームや手芸、「作業記憶」を鍛えるならクロスワードパズルや料理、「思考力」を鍛えるなら俳句や短歌、「遂行力」を鍛えるなら手芸や折り紙、楽器演奏など。

周囲が無理強いせず、本人が興味の持てるものを継続的に行うとよいでしょう。

(構成=島田ゆかり)

認知症のリスクを減らすためにチェックしておきたい、予防のための5つのヒント

健康をめぐる最新のエビデンスや、様々な情報が各国で報じられています。この記事では、M3 USAが運営する米国医師向け情報サイトMD Linxから、米国医師から特に反響の大きかった健康トピックスを翻訳してご紹介します。

※この記事は、M3 USAが運営する米国医師向け情報サイトMDLinxに2021年4月1日に掲載された記事「5 tips to stave off dementia as you age 」を自動翻訳ツールDeepLで翻訳した記事となります。内容の解釈は原文を優先ください。

認知症は世界的に増加しています。The Lancet誌の報告によると、世界中で約5,000万人がこの病気を患っており、2050年にはその数はなんと1億5,200万人に達すると予測されています。

認知症は世界的に広く普及していますが、脳の健康を守るためにできることはたくさんあります。

このような予測をすると、多くの人が認知症になるのは当然のことのように思えるかもしれません。しかし、良いこともあります。将来、認知症と診断されたとしても、それが確定したわけではありません。実際、神経認知の健康状態は、今日のあなたの決断に大きく左右されます。

BMJ Neurology誌に掲載された論文の著者によると、「加齢、遺伝、医療、生活習慣などの要因が、アルツハイマー病やその他の認知症のリスクにつながっています。認知症患者の約3分の1は、運動不足、喫煙、高血圧などの修正可能な危険因子に起因している」と述べています。認知症の増加と神経保護薬の不足に伴い、生涯にわたる認知症予防戦略に再び注目が集まっています。

ここでは、エビデンスに基づく5つの認知症予防法をご紹介します。

運動量
BMC Public Health誌に掲載された研究によると、運動は認知症予防の重要な手段であり、“長期にわたる運動プログラム(48カ月間)が認知機能に及ぼす影響を検討した初めての試験 “とされています。

著者らは、「生活習慣を改善し、AD(アルツハイマー病)の修正可能な危険因子を減少させることが、認知症のリスクを減少させる有望な方法であることは、いくつかの研究で示されています。運動不足は、ADの7つの潜在的に変更可能な危険因子の1つと考えられており、世界中のAD症例の約13%(約430万人)の事例を解き明かして説明しています。

今回の試験が成功すれば、高齢者の認知症予防プログラムに長期的かつ複数の手段のマルチモーダルな運動介入を用いるためのエビデンスとなるかもしれません。

著者らは、脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生、インスリン感受性の向上、心血管の健康促進、ストレスや炎症の減少など、いくつかの潜在的なメカニズムが運動と認知症リスクの低下との関連性を媒介する可能性を示唆している。これらの因子の効果は、脳の老化に特に重要であると考えられ、将来的には、さまざまな運動療法が認知機能に及ぼす影響を判定するためのバイオマーカーとなる可能性があります」と述べています。

食生活
健康的な食事を心がけることで、認知症のリスクを抑えることができると専門家は指摘しています。

米国国立老化研究所(NIA)が発表した論文によると、「特定の食事をすることで、アルツハイマー病の原因となる酸化ストレスや炎症などの生物学的メカニズムに影響を与える可能性がある」という。

「また、糖尿病、肥満、心臓病など、他のアルツハイマー病の危険因子にも影響を与え、間接的に作用しているのかもしれません。新たな研究対象は、消化器系の小さな生物である腸内細菌と、アルツハイマー病につながる加齢関連プロセスとの関係です。

NIAの専門家は、認知症のリスクを軽減する可能性のある2つの有望な食事として、地中海式食事とMIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)を挙げています。地中海食は、果物、野菜、全粒穀物、豆類、魚、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸を含み、赤身の肉、卵、甘いものを制限した食事です。

一方、MINDダイエットでは、アルツハイマー型認知症の原因となる高血圧を改善する効果があるとされるDASHダイエットを取り入れています。MINDダイエットの対象となる食品群は、葉野菜、その他の野菜、ベリー類、全粒穀物、魚、鶏肉、豆類、ナッツ類、ワイン、オリーブオイルなどです。

高血圧症
高血圧は、認知症をはじめとする多くの慢性疾患の原因となる可能性のある、厄介な疾患です。

今回、Lancet Neurology誌に掲載された強力なメタ解析では、6つの前向き研究(n=31,090)から得られたデータを用いて、55歳以上の認知症を発症していない被験者を対象に、降圧薬の認知症リスクに対する効果を検討しました。

「長期にわたる観察の結果、特定の薬剤群が他の薬剤群よりも認知症リスクの低下に有効であるというエビデンスは得られなかった」と結論づけています。「高血圧の人では、血圧を下げる効果のあるAHMを使用することで、認知症のリスクを下げることができるかもしれません。

これらの知見は、今後の高血圧管理の臨床ガイドラインでは、認知症リスクに対するAHMの有益な効果も考慮すべきであることを示唆しています。

Lancet委員会の報告書によると、40歳以上の人は、中年期に収縮期血圧130mmHg以下を目指すべきであり、降圧剤は認知症予防に有効な唯一の薬剤として知られています。

喫煙
ランセット委員会の調査結果によると、喫煙者は非喫煙者に比べて認知症のリスクが高く、また認知症を発症する可能性のある年齢よりも前に早死にする可能性があります。高齢者であっても、禁煙することで認知症のリスクを減らすことができます。

副流煙の認知症リスクへの影響については、研究が限られていることを指摘しています。しかし、55~64歳の女性では、副流煙への曝露が、用量依存的に記憶力の低下につながることを示したいくつかの研究を紹介しています。注目すべきは、これらの知見は共変量を考慮しても持続するということです。

飲酒
何世紀にもわたって、人々は、過度の飲酒が脳の変化、認知障害、認知症につながることを知っていました。

前述のLancet誌の報告書の著者によると、「アルコールと認知および認知症との複雑な関係について、詳細なコホート研究や大規模な記録に基づく研究など、さまざまな情報源から得られる証拠が増えています。

アルコールは、文化的パターンやその他の社会文化的要因、健康関連要因と強く関連しており、エビデンスベースを理解することは特に困難である」と述べています。

著者らは、認知症の早期発症(すなわち65歳以下)がアルコールの使用と密接に関連していることを示すさまざまな研究結果を取り上げました。また、多量の飲酒は、MRIによる右海馬の萎縮と関連していました。特に、右海馬は記憶の回復に関与しています。

結論
幸いなことに、さまざまな生活習慣の改善により、後年の認知症のリスクを減らすことができます。重要なのは、人生の早い時期にこれらの変化を導入することです。早期発症の認知症とは異なり、後期発症の認知症では遺伝性の要素が不明です。

「早期発症の家族性アルツハイマー病は、常染色体優性遺伝といって、1つの細胞に1つの遺伝子のコピーがあれば発症します。早期発症の家族性アルツハイマー型認知症は、常染色体優性遺伝であり、細胞内に1つの遺伝子があれば発症し、多くの場合、片方の親から遺伝子を受け継ぎます。」

「遅発性アルツハイマー型認知症の遺伝パターンは不明です。APOE e4対立遺伝子を1つ受け継いだ人は発症する可能性が高く、2つ受け継いだ人はさらにリスクが高くなります。重要なことは、APOE e4対立遺伝子を持つ人は、アルツハイマー病を発症するリスクが高いことを受け継ぐのであって、アルツハイマー病そのものを受け継ぐわけではないということです。

アルツハイマー病患者のすべてがe4対立遺伝子を持っているわけではないし、e4対立遺伝子を持つ人のすべてがアルツハイマー病を発症するわけでもありません」と付け加えました。

“よく眠れない”は「うつ」の初期症状? メンタルにいい、夜のルーティン /心理カウンセラー・中島輝

「日本人の5人にひとりが睡眠障害」という研究結果もあるほど、睡眠に悩みを抱えています。問題点は、ただ眠れないということにとどまりません。睡眠障害が進行した結果、「うつ病」を発症することもあると警鐘を鳴らすのは、心理カウンセラーの中島輝さん。

中島さんは「コロナ禍のいまだからこそ、睡眠障害をしっかり予防してほしい」ともいいます。

■コロナ禍による「不安」が、睡眠障害増加の要因

「睡眠障害」とは、「寝つきが悪い(入眠障害)」「睡眠の途中で目が覚めてしまう(中途覚醒)」「起きたい時間より早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)」「ぐっすり眠れたという満足感が得られない(熟眠障害)」など、いくつかの障害をまとめていう総称です。

睡眠障害によって睡眠の質が落ちてしまうと、たくさんの悪影響が「心身」に及びます。なぜなら、睡眠とは身体を休めることだけでなく、脳のなかの情報を整理したり脳自体を休めたりするといった役割も担っているからです。

また、脳と心は一体ですから、睡眠障害は心にも悪影響を及ぼし、「うつ病のリスク上昇」にもつながります。実際、1989年にアメリカで約8000人を対象にした研究では、慢性的に不眠の人はそうでない人に比べてうつ病の発症リスクが40倍にもなるという結果が示されているほどです。

そして、とくにいまは注意が必要なときです。なぜなら、コロナ禍によって多くの人が強い不安を抱えているからです。「自分も感染してしまうかもしれない」といった不安だけでなく、「職を失ってしまうかも」「収入が減ってしまうかも」など様々な不安を抱えているがために、なかなか寝つけなくなり、十分に眠れていない人が増えていると推測します。

これまでと生活様式が大きく変わったことも、睡眠障害を招いているのでしょう。コロナ禍以前であれば、休日には気心の知れた友人との飲み会や自分が好きなレジャーなどを楽しみ、「ああ楽しかった!」と「バタンキュー」でぐっすり眠れていました。でも、そういう楽しみを奪われているいま、そのように気持ちよく眠ることも難しくなっているのです。

■2週間の「睡眠ログ」で、自分の睡眠の質を知る

では、みなさんはきちんと眠れているでしょうか? よりよい睡眠をとるための第一歩は、現時点における自分の睡眠の状態をチェックすることです。そのために、2週間ほどのあいだ、「睡眠ログ」という記録をつけてみてください。

日付の他、「就寝時刻」「起床したい時刻」「実際の起床時刻」「睡眠時間」「目覚めの気分」「日中の眠気」「気になったこと」を書き出していくというものです。そして、「目標」と実際の睡眠のズレをチェックすることで、睡眠の質をある程度推測することができます。

たとえば、翌朝6時に起きねばならず、過去の経験から「十分に眠ったと感じるには7時間は寝たい」という人の場合なら、23時に就寝することになります。ところが、実際にチェックしてみると、ベッドに入っても1時間くらい寝つけず、かつ起床したい時刻である6時より1時間も早い5時に目が覚めてしまいました。

そうなると、「入眠障害」「早朝覚醒」という睡眠障害が疑われます。また、そもそも眠りたかった7時間に睡眠時間が達していませんから、当然ながら睡眠の質は低いと考えられます。もちろん、他にも目覚めの気分や日中に感じた眠気などからも睡眠の質を推測することもできるでしょう。

■睡眠ログは、睡眠の質を上げるためにも有効

この睡眠ログをつけた結果、「自分の睡眠の質はあまりよくないなあ…」と思った人は、うつ病を発症するなんてことにならないように、しっかりと睡眠の質を上げていきましょう。

じつは、睡眠ログはただ睡眠の質をチェックするためのものではありません。睡眠の質を上げるためのメソッドでもあるのです。

なぜなら、睡眠ログによって「睡眠時間をきちんと確保する」という意識が働くようになるからです。わたしたちは、翌日の予定によって起床時刻は決めても、就寝時刻を決めるということはあまりしません。みなさんも、就寝時刻を決めることなどなく、眠くなったらベッドに入るという人がほとんどではないですか?

睡眠ログをつけようと思えば、起床したい時刻を決めると同時に眠りたい時間を「目標」として意識し、就寝時刻を決めるという習慣が身につきます。そうして、自分に必要な睡眠時間を確保しやすくなるというメカニズムです。

また、睡眠ログによって睡眠に意識を向けること自体が、睡眠の質を上げていくことにもつながります。「毎日体重計に乗る人はダイエットに成功する」という話を聞いたことはありませんか? 毎日の体重の変化を知ることが、「昨日より体重が増えちゃったな…。たしかに脂っこいものを食べ過ぎたかもしれない。明日からはもうちょっと摂取カロリーを抑えよう!」というような行動変容を促してくれるからです。

睡眠ログにも、このことと同じ効果が期待できます。睡眠ログによって自分の睡眠の質が低いことを知ったならば、それを上げていこうという意識と行動を自然に導いてくれるというわけです。

■ぐっすり眠るための鍵は、なによりも「安心」であること

では、ここからは睡眠の質を上げる具体的な方法を紹介します。ただ、わたしは医師ではありません。そこで、多くの医師が推奨する方法のなかから、心理カウンセラーの視点で見ても「これはおすすめできる!」と感じた方法を厳選しました。

睡眠欲は食欲や排泄欲と並ぶ、人間にとってもっとも根源的で非常に強い欲求である「生理的欲求」のひとつです。ただ、それと同じくらい強い欲求に、「安全な環境にいたい」「健康状態を維持したい」といった「安全欲求」というものがあります。

では、心理的に安心できない、安全が確保されていない環境でぐっすりと眠ることができるでしょうか。いつ猛獣に襲われるかもわからないジャングルでぐっすり眠ることなどできませんよね? つまり、睡眠の質を上げるためには、自分が安心できる、リラックスできる状態をつくることがなにより重要となるのです。

■リラックス状態を導き、睡眠の質を上げる3つの方法

わたしからおすすめするのは、次の3つの方法です。

1.就寝の1~2時間前までに入浴する

2.就寝の90分前を過ぎたらスマホやテレビは見ない

3.アルコールは控え、最低でも週に2~3日の休肝日を設ける

ひとつ目は「就寝の1~2時間前までに入浴する」。お風呂はリラックスするためにとても有効な習慣です。ただ、就寝直前にお風呂に入ることはやめましょう。体温が上がると、自律神経のうち身体が活動的になっているときに働く交感神経が優位になってしまうからです。リラックスするつもりが、逆に興奮状態を招きかねません。

ふたつ目は「就寝90分前を過ぎたらスマホやテレビは見ない」。とくにコロナ禍のいまは要注意です。ニュースやSNSを通じて不安をあおるような情報が飛び交っていますから、それらを目にすればリラックス状態はぐっと遠ざかってしまいます。

もちろん、ヒーリング番組といったものもありますが、じつはスマホやテレビなどのモニタを見ること自体が睡眠の妨げになります。これらのモニタが発するブルーライトという光が、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌を抑制してしまうからです。

最後が「アルコールは控える」というものです。「お酒を飲めばリラックスできるのでは?」と思った人もいるでしょう。たしかに、お酒は飲みはじめた直後の短時間なら心身をリラックスさせてくれます。ところが、このリラックス状態は長続きしません。

アルコールは、「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンという神経伝達物質の分泌を抑えてしまうからです。幸福ホルモンという呼び名からもイメージできると思いますが、セロトニンは気持ちを穏やかに落ち着かせてくれる、まさにリラックス状態を導いてくれる作用を持つ神経伝達物質です。

長年の習慣でいますぐにはお酒をやめられないという人も、せめて週に2~3日の休肝日を設けてほしいと思います。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/川しまゆうこ


中島輝

なかしまてる 「トリエ」代表。「肯定心理学協会」代表。心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。

【中高年のための認知症講座】脳の神経細胞の老化防止には「対人ゲーム」 推理・判断・決断するトランプや囲碁、将棋

 認知症に至る脳の老化は、次の順番でやってくる。

 (1)身体全体の老化

 (2)脳の血管の老化

 (3)脳の神経細胞の老化

 (4)メンタルの老化

 前回は(1)の予防として、生活習慣病の治療を最優先してほしいと説明した。糖尿病や高血圧、脂質異常症などは、身体全体の血管にダメージを与え、脳を含めた各臓器の老化を促進するからだ。また、全身の血管が老化し、血流が悪くなって血液量が十分でなくなると、脳に十分な酸素が行かなくなる。こうして(1)を経過して(2)が起こると、血管性認知症の原因となる脳卒中が起こりやすくなる。だからこそ、まず身体全体の健康を維持することが、脳にとっても大切なのだ。

 (3)については、正常な老化でも神経細胞の働きは低下し、その数も減っていき、脳も萎縮していく。また、脳にさまざまな老廃物もたまってくることがわかっている。そのような避けがたい老化をカバーする機能が脳にはあると、アルツクリニック東京(千代田区)の新井平伊院長は説明する。

 「神経細胞が減ると、ごくわずかですが新しく生まれる機能もあります。また神経細胞を保護してくれるグリア細胞が増えたり、ダメージを受けた神経ネットワークを補完する別のネットワークも働きます。老化を防ぐためには、こうした代償機能やネットワークの働きを高めることが大切です」

 脳全体の機能を高めることが予防につながるのだ。そのためには「意欲的であることが大切です。神経細胞がたくさん働いている人は意欲が旺盛で、意欲が旺盛であれば代償機能やネットワークも維持されます」。

 そこで(3)の予防にすすめたいのが、トランプや囲碁、将棋などの対人ゲーム。計算ドリルや漢字パズルなどの脳トレやパソコン、スマホでのゲームは脳の限られた部分しか使わず、十分な刺激にならないという。「脳を鍛えるゲームの条件は、相手を推理し、判断して決断することでコミュニケーションツールとなること、繰り返しではないこと、そして楽しめることです」

 脳の神経細胞の老化は、(4)のメンタルの老化にもつながる。その予防のためにも、楽しいと思えて意欲的になれることをして、実際に人とコミュニケーションをとり、脳の広範囲の機能を使い刺激することが大切だ。

 運動も脳の機能を維持するために効果があることは、さまざまな研究から明らかになっている。とくに運動と計算など、同時に2つのことを行うデュアルタスク(二重課題、ながら動作)がよいことがわかっている。

 国立長寿医療研究センターが開発した『コグニサイズ』というプログラムを見聞きした人もいるだろう。新井院長はこれも楽しんで、意欲的に取り組むことが肝心だという。歩きながら歌を歌う、人と会話をするなど、楽しいと思える組み合わせを見つけて実践してほしい。

 睡眠もとても重要だ。睡眠不足は、脳にアミロイドベータを溜め込む原因になる。次の7つのポイントを意識し、睡眠の質を高めてほしい。

 (1)最適な睡眠時間は6・5~7時間

 (2)睡眠リズムを整える

 (3)睡眠環境をつくる

 (4)時間と気持ちの余裕を持つ

 (5)薬の服用も検討

 (6)寝酒はNG

 (7)睡眠時無呼吸症候群は適切に治療する

 (6)の飲酒については、睡眠の質を落とす以上に脳に悪影響を及ぼすという。「脳に限って言うと喫煙より飲酒のほうが悪影響を及ぼします。また、1日に飲む量よりも毎日飲むという習慣のほうが危険。脳の萎縮を着実に進めるからです」。

 次回は食事について。

「うつ病」に効く食べ物や栄養素は?「チョコレートを食べたくなる」って本当?【管理栄養士が解説】

眠気・だるさ・心身の疲労感……やせ願望とうつ症状の関係

過剰なダイエットなど、若い女性の「やせ願望」が問題視されている現代。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、“若年女性はやせの者の割合が高く、平成29年国民健康・栄養調査では18~29歳の女性で20.9%となっている。

若年女性のやせ対策として、より早い年齢からの栄養状況の精査と対応が必要である。”

とされています。最新版の令和元年版も20歳代女性のやせの者の割合は20.7%であり、やせ対策が必要な状況は全く改善されていません。これを受けて、厚生労働省は「健康日本21」のなかで、平成34年(2022年)までに、20代女性のやせの割合を20%まで減少させたいという目標を立てています。

さらに「若年女性の痩身志向が食行動と疲労に与える影響」によれば、肥満体型ではない若い女性にも「やせ願望」を持っている人が多いようです。その背景には、モデルなどが公表している極端にやせた身長と体重に憧れての「誤認識」があるのではないかと考えられています。

また、「やせ願望」を持っている人は、やせ願望のない人よりも「眠気とだるさ」を感じているという報告もあります。この理由としては、単純に睡眠時間の短さだけでなく、ありのままの自分に自信を持つことができず、心身の疲労が蓄積しやすい可能性も指摘されています。

本来であれば、健康な心身の維持に必要ないはずの「やせ願望」が、精神状態にも大きな影響を与えてしまっているのは残念なことです。

若い女性には「新型うつ」も多い? 早期に適切な対処を
「新型うつ」という言葉も一般に浸透してきました。「現代型うつ」と呼ばれることもありますが、「新型」「現代型」という言葉がついているものの、以前から知られていた概念です。

いずれも正式な病名ではないため、病院で診断書の病名欄に「新型うつ」などと書かれることはありません。

ではどのような状態を指すのかというと、朝仕事に行こうとするとどんよりと気分が落ち込み、夕方、仕事が終わって帰る頃になると元気になる……というものです。

「誰にでも少しは当てはまることなのでは?」と感じなくもありませんが、この朝のどんよりとした気分と夕方の元気な気分の差が大きい状態が「新型うつ」の状態だと考えられています。

これには職場の雰囲気や、本人の真面目な性格などに原因があるといわれています。職場で、ひょっとして……と思う人がいたら、適切なサポートをしてあげることが望ましいですので、「いわゆる新型うつの理解と対策は?」なども参考にされるとよいでしょう。

また、「新型うつ」と同時に、不眠や過食を合併する人も多いようです。不眠や過食によって、「やせ願望」が引き起こされることでも、上述のような心身の疲労感を招いてしまうことがあるので、できるだけ早めに適切な対処をする必要があります。

うつ症状に効く食べ物や栄養素はあるのか
このように、若い女性のうつは、
やせ願望と生活習慣の乱れ→不要なストレス→ストレスからくる不定愁訴→健康を損なうという負のスパイラルを形成しているケースが多く見られます。うつ症状に負けないためには、このスパイラルをどこかで断ち切ることが大切です。

では、食べるものや食べ方の工夫で、うつ症状を予防したり、軽減、改善することはできるのでしょうか? うつ病との関連がいわれている食べ物についても見てみましょう。

■チョコレートとうつ病の因果関係は不明

例えば、「チョコレート」はうつ病、特に新型うつの人が食べたがる食品として有名です。実際にうつ症状のある人は、うつ症状のない人よりもチョコレートを多く消費していたという報告もあります。

しかし、チョコレートを食べることが原因でうつ病を引き起こしやすくなるのか、うつ病になることでチョコレートを食べたくなるのかの因果関係は分かっていないようです。

■セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)は軽いうつ症状に効果

サプリメントとしてよく使われているハーブのセイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)は軽いうつ症状にはこれだけで十分な効果があるとされています。

■オメガ3脂肪酸はうつ病予防に有効?

さらに、栄養素では「オメガ3脂肪酸」。オメガ3脂肪酸はEPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)など、魚に多いことが知られています。魚を多く食べている人は産後うつ病の頻度が少なくなるとの研究結果もあります。

■カフェインの摂りすぎはうつ病に関連する可能性

「カフェイン」の摂りすぎもうつ病と関連があるといわれています。カフェインはコーヒー、緑茶、紅茶、栄養ドリンクなどさまざまな飲み物に含まれていますが、アメリカ精神医学会ではコーヒーを1日2杯以上飲むことをカフェイン中毒の診断基準の1つとしています。外出するとすぐにコーヒーを飲みたくなる人は、注意したほうがよいかもしれません。

■飲酒とうつ病の関係

また、女性はうつになると飲酒する人が増えるといわれています。女性は飲酒によって乳がんリスクも上がるといわれていますので、うつ病予防とあわせて飲酒の頻度や量には気をつけたいところです。

■アデノシルメチオニン・葉酸・L-トリプトファンはうつ病に効果

ほかにも「アデノシルメチオニン」「葉酸」「L-トリプトファン」などの栄養素がうつに効果があるといわれています。

そして、栄養素ではありませんが、偏った食生活で栄養状態が悪化して「低コレステロール状態」になると、精神状態に悪影響が出やすいといわれています。一般にコレステロールは悪玉だと考えられていますが、体に必要な成分なので、低ければよいというわけではありません。

やせすぎだけでなく肥満もうつ傾向に…うつ病予防に「標準体重の維持」を!
ここまで、若い女性たちの「やせ願望」がうつ病を招くことを解説してきましたが、一方で、肥満者にもうつ病患者が多いという事実もあります。肥満傾向の人は座っている時間が長く、うつ症状を和らげると考えられている運動習慣などがないことが多く、さらに内臓脂肪の蓄積もうつのリスクを増加させるといわれています。
やせ、肥満ともにうつ病リスクが高いということは、うつ病予防には「標準体重を維持すること」も実は大切なのかもしれません。

精神面のケア方法は多岐に渡りますが、まずは今回ご紹介した栄養面も安定した精神状態を維持するために大切なこととして、ぜひ覚えておいてください。

▼平井 千里プロフィールメタボ研究を行いエビデンスに則ったダイエットを教える管理栄養士。小田原短期大学 食物栄養学科 准教授。女子栄養大学大学院(博士課程)修了。前職の病院での栄養科責任者、栄養相談業務の経験を活かし、現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養の基礎を発信している。

義父と義母の認知症の世話、これ以上無理! 焦る嫁が医師とのやりとりで気づいた“ 3カ条”とは?

義父と義母の認知症が立て続けに発覚。別居しながら介護を試みるライター島影真奈美さんは、「もめない努力は、親の為ならず」を掲げ、愛と笑いのある介護のコツを収集中です。その一部を紹介します。

「なるべく早く、社交ダンスを再開したいんです!」
「いいですね。ダンスは長くやっていらっしゃるんですか」

もの忘れ外来の診察室での義父のやりとりにギョッとしたのは、認知症介護が始まって間もないころのことです。たしか、訪問看護や訪問介護といった介護サービスに慣れ、週1回の通所リハビリ(デイケア)通いを始めた時期でした。

「楽しみは何ですか?」
「困っていることはありますか?」
これら定番の質問の後、医師が「ほかに気になることはありますか?」と尋ねたところで、社交ダンスの話題が飛び出しました。このときの義父は「たとえ反対されても一歩も引かぬ」とでも言いたそうな、硬く険しい表情をしていました。

ところが、医師からは「いいですね」とポジティブな返答。義父はあっけにとられたような顔をしたあと、破顔一笑。

「社交ダンスは間を空けると、ステップを忘れてしまうので問題なんです」
「体力づくりのために通っていたスポーツクラブも早めに再開したい」
「いつから始められますか?」
などなど、矢継ぎ早に質問を始めました。

「ご家族とよく相談して決めるといいですね」と医師が返答するのを義父の隣で黙って聞きながら、私は動揺していました。「ご家族と相談」って何を!? 先生、勝手なこと言わないで!とも正直、思っていました。

義父のやる気や意欲を引き出すためのやりとりなのかなとも思うけれど、“その気”になってしまったあと、どうすればいいのか。介護体制を整えるのに、なんだかんだと1~2週間に1回は実家に足を運んでいるような状態で、この上、社交ダンスやスポーツクラブの付き添いなんて無理! 先生、カンベンして! という言葉が、のどもとまで出かかっていました。

楽しそうな義父に不安が募る
それでも即座に異を唱えることなく黙って聞いていたのは、あまりにも義父が楽しそうだったからです。また、医師にどう切り出していいものかと迷ってもいました。

一緒に暮らしているわけではないことや、こちらにも仕事があることは何度か先生に説明したはずだけど、忘れちゃってるのか。時々、私のことを「娘さん」と呼ぶけど、“同居の娘”と勘違いしているのでは……? など、不安だらけです。

「あの……“家族と相談”というのは、具体的にはどんなことを相談するといいんでしょうか?」

やっとの思いで医師に質問すると、こんな答えが返ってきました。

「お父さまの話では、しばらくダンスに行かれていないということなので、まずは靴の状態を確認していただいたほうがいいですね。お時間があれば、練習の様子などを一緒に見に行かれるといいかもしれません」

それを聞いて、義父はますますご機嫌です。「練習場まではいつも、友人に連れて行ってもらっていました。場所は分かりませんが、彼に聞けば分かるでしょう」なんて言ってます。彼って誰!?

ようやく見えた着地点
際限なく広がっていく風呂敷。やる気を引き出すのはいいけど、そんなに広げてしまって、どうやって畳むのか……。義父と医師のノリノリなやりとりに言葉をはさむ気にもなれず、ぼうぜんと眺めるばかり。ところが、受診が終わる直前にさらなる新展開がありました。

「……というわけで、ダンスに通えるようになるよう、まずは体力をつけていきましょう」
さっきまでニコニコしていた義父の表情が急に真顔になります。

「スポーツクラブには行ってもいいですか?」
「そうですねえ。まずは、通い始めた通所リハビリに慣れるところから始めましょう」
「スポーツクラブのほうが慣れているんです」
「通所リハビリは高齢の方に特化したトレーニングプログラムが組まれていますから、いまの体調に合った、最適な運動ができますよ」
「なるほど……」

しぶしぶという気配はありつつも、義父は医師の説明に納得したようです。ようやく先生の話の着地点が見えて、付き添っていた私のほうも肩の力が抜けました。

本人のやる気を引き出すための、家族の負担は当たり前!?
本人のやる気を引き出すためには「困ってること」ではなく、「やりたいこと」を聞くといい。そんなアドバイスを時折、見かけます。その通りだなと思う反面、家族のプレッシャーは専門職の方々が考えているよりもずっと大きいのではないかとも感じています。

「面倒だからやりたくない」「時間的に難しい」といったことだけではなく、「やりたいことを聞いてしまったからには、実現しないとマズいのでは」と考えてしまうこともあります。真面目で優しく、親孝行したいという気持ちが強い人ほど、悩むのではないかと思います。

だからといって、「下手に聞かないほうがいい」という選択をすると、あとになって「もっと早く聞いておけばよかった」と後悔することになりかねません。また、あれはダメこれはダメと行動を制限することで意欲を奪い、衰えを加速してしまっては本末転倒です。

では、どうすればいいのか。我が家ではこの社交ダンスを巡る医師とのやりとりを参考に、次のような方針を決めました。

(1)親が「やりたいこと」は積極的に聞く
通所リハビリ(デイケア)通いが始まったとき、義父はむしろ積極的に通ってくれているように見えました。しかし、本音を言えば、通いたいのは社交ダンスでありスポーツクラブだった。これは、冒頭の医師との会話がなければ知らないままだったことです。

いま思えば、“義理”の間柄だからこその遠慮や気遣いもあったような気がします。無遠慮に、思うがままをぶつけられたらカチンときたかもしれないので、何がなんでも本音をぶつけあう必要はないとも思います。ただ、親が口に出していることがすべてではない、とも思うし、「納得」の度合いにもグラデーションがあると感じた出来事でもありました。

困りごとを聞いても「大丈夫」「特に困っていない」と答える親も、「やりたいこと」を聞かれると思わぬ本音が飛び出すこともある。そんな気づきがあり、この受診以降は普段の雑談の中で時折「やりたいこと」の話題を振ってみるよう、心がけるようになりました。

(2)「やりたいこと」を家族だけで引き受けない
親に「やりたいこと」を聞いたとき、簡単に実現できそうなものはいいけれど、どうやって実現するのかを考えただけで気が遠くなることもあります。どちらかというと、「それぐらい、お安い御用!」とはならないことのほうが多かったように記憶しています。

ここで重要なのは「やりたいこと」を家族だけで引き受けないことかと思います。「ちょっと頑張れば何とかなりそうなこと」も、積もり積もるといずれ負担に耐えきれなくなる日がやってきます。家族の役目としてはまずはリサーチ。情報収集したらケアマネさんに相談してみるなど、周囲の知恵を借りながら意識的に引き受け手を増やすようにしました。

(3)「空手形」をおそれない
そうは言っても、簡単に「引き受け手」が見つからないことも多々あります。気持ちとしては「やっぱり、家族が頑張るしかないのか」と腹をくくりたくもなりますが、焦りは禁物。

ムクムクと湧き上がってくる「やりたいことを聞いてしまったからには実現しなくてはいけないのではないか」という妙な責任感と真正面から向き合う前に、まずはどれぐらいの負荷がかかるのかを見積もります。

たとえば、年に2回のお墓参りだったら、負担といってもせいぜい1日。レンタカーを借りて一緒にお墓参りに行くくらいなら頑張れそう。でも、日々の買い物に付き合うのは難しい。ただ、これは実際に義父母とやりとりしていて気付いたことですが、実現できなくとも、「やりたいねえ」「やれるといいですね」と話し合うだけでも、親の表情は明るくなり、関係性がよくなっていく手応えがありました。

ちなみに、義父の社交ダンスについては「ダンスシューズ、見に行きたいですね」「練習を見学したいですね」と話していたけれど、どれも実現はしませんでした。実現しなかったことについて、申し訳なかったなと思う気持ちはゼロではありません。

でも、それ以上に「こうしたい」の話をたくさんできて、義父も楽しそうだったので、あれはあれでよかったのかなとも思っています。

実現は難しいなと思っても100%諦めることはせず、実現できる道筋が見つかったらラッキー。でも、何もかも頑張ろうとしない。実現を請け負うのではなく、「実現できるといいですねえ」と一緒に願う側に回ると、結果としてお互いのストレスと後悔を減らせるのではないかと思うのです。

「認知症」の予防は40代から 脳の老化を防ぐ5つのポイント

認知症は40代50代からの予防が重要だ。若い頃からの認知症治療や研究に取り組む医師らの啓発団体「40代からの認知症リスク低減機構」は、8月27日に「脳寿命を延ばす いまの状態を把握し、対策を考える ~脳と腸からはじめる認知症予防の可能性」と題するオンラインメディアセミナーを開催した。

当日は認知症をテーマにした3つの講演があり、それらを3回にわたって掲載する。まず今回は、アルツクリニック東京院長で順天堂大学名誉教授の新井平伊さんに、認知症の早期発見と予防法のポイントを解説していただいた。

■認知機能低下を早期発見しよう

認知症の代表的なものにアルツハイマー型認知症があるが、昔は、健康かアルツハイマー型認知症かの2つの分け方だった。しかし、健康な人がいきなりアルツハイマーになるわけではなく、最近では、認知機能が落ちてきた「軽度認知障害(MCI[注1])」と、さらにその前段階の「主観的認知機能低下(SCD[注1])」があり、4つの段階に分けて考えられているという(下グラフ)。

昔はアルツハイマーか、健康かの2つの段階しかなかないと考えられていたが、最近では、アルツハイマーになる前に、軽度認知障害(MCI)と主観的認知機能低下(SCD)があると考えられている。つまり「未病」にも3つの段階があるという。© NIKKEI STYLE 昔はアルツハイマーか、健康かの2つの段階しかなかないと考えられていたが、最近では、アルツハイマーになる前に、軽度認知障害(MCI)と主観的認知機能低下(SCD)があると考えられている。つまり「未病」にも3つの段階があるという。

認知症は、ある日突然発症するわけではなく、徐々に進行していく。中でも、アルツハイマー型認知症で原因として考えられているのは、ある物質が脳の中にたまっていくからという。

「アルツハイマー型認知症は、アミロイドβタンパクが脳に蓄積し、脳神経に障害を起こして発症すると考えられています。発症の20年くらい前から、アミロイドβは脳の中にたまりはじめます。そのためMCIやSCDの段階で気づいて予防することが大切です」と新井さんは言う。

[注1]MCIは「Mild Cognitive Impairment」の略で、SCDは「Subjective Cognitive Decline」の略。

次のような症状は脳の老化のサインかもしれないので、早めに気づくようにするとよいそうだ。

・なぜかイライラする

・眠れなくなる

・外出がおっくうになる

・趣味に楽しみを感じなくなる

・ど忘れが増える

・同じことを何度も聞くようになる

・頭痛や胃痛がある

自分の脳の老化に気づくためには、認知機能をチェックするのもいい。例えば、「認知症ねっと」では、ウェブ上で無料で認知機能をチェックできる。気になる人は試してみよう。

認知症ねっと

https://info.ninchisho.net/check/ch20

うつ病ではなく甲状腺機能の問題?抑うつ・イライラ

【医師が解説】甲状腺機能低下症や甲状腺機能亢進症など、甲状腺機能の問題が原因で精神的な症状が出ることがあります。気持ちが落ち込んだり、些細なことでイライラしたりといった症状から、うつ病などの心の病気を疑って精神科を受診される方は少なくありません。甲状腺機能の問題によっておこる精神的不調について解説します。


抑うつ感、不安感などの精神的不調……精神科では治療できないことも

 

気持ちが落ち込む、イライラする……。うつ病ではなく、甲状腺機能の問題かもしれません

気持ちの強い落ち込みや、強い不安感など、心の不調を感じて精神科を受診した際に、心の病気ではなく甲状腺に問題が発覚することがあります。精神科に行って甲状腺の話をされると、ちょっと唐突に思われる方もいるかもしれませんが、実は心の不調の原因が甲状腺の問題であることは珍しいことではありません。
 
今回は心の病気の基礎知識として、精神科を受診して甲状腺の問題が判明するケースと、その際によくある症状について、詳しく解説します。
 

3パターンに分類できる心の病気の原因……身体・薬物・それ以外

「うつ病」「過食症」「対人恐怖症」など、心の病気は様々です。そして、もしこれらの病名を全く知らない方がいたとしても、病名からそれぞれの病気の症状を、何となく推測できるのではないかと思います。気持ちがうつになるのが「うつ病」、食べることにストップがかからなくなるのが「過食症」、人と接するのに恐怖感を感じてしまうのが「対人恐怖症」だろうか、と、ごく大まかな症状は想像できるのではないでしょうか。

実際にこれらの病名は、それぞれの病気の「症状」のタイプを表しています。そのため、診断して病名を確定させることは、「現れている症状のタイプ」を明確に見極めることとほぼ同じです。そしてその際、「その症状の原因が何か」という点に関しては、実はあまり重点が置かれていません。それは、心の病気の原因は脳内の機能にあること自体ははっきりと分かっていますが、それぞれの疾患を鑑別できるほどの詳細までは、まだ解明できていないからでもあります。上のように、病名だけで症状のタイプは推測できても、その原因に関してはほとんど何も推測できないことからも分かる通りです。

そして、いくら症状として「心の不調」が現れていても、その原因が全て精神科で対処できる問題ばかりとは限りません。

こう書くと、とても複雑な話に聞こえてしまうかもしれませんね。しかし、精神的な問題を内容ではなく原因で分けると、話はかなりシンプルになります。心の病気の原因は、大きく3つのカテゴリーに分けられます。第1のカテゴリーは、今回解説する甲状腺の問題などを含めた身体的問題によるもの。第2のカテゴリーは、アルコール、ニコチンなど中枢神経系に働く薬物によるもの。そして第3のカテゴリーは簡単に言えば第1でも第2でもないもので、これが精神科で治療・対処していく心の病気という風に分けられます。
 

精神科の血液検査でも見つかる甲状腺機能低下症・亢進症

甲状腺の問題で現れる心の問題は様々です。気持ちが落ち込む、不安感が強くなるといったよくある心の問題だけでなく、頻度は少ないものの、幻覚が現れたり、被害妄想が強まったりといった、かなり深刻な精神症状が現れる可能性もあります。
 
そもそも甲状腺とは、どのような役割を持つ器官でしょうか。甲状腺は喉元にある器官で、蝶が大きく羽を伸ばしたような形をしています。名前の最後に「腺」がつくことからもわかる通り、「内分泌ホルモン」を分泌しています。これが「甲状腺ホルモン」です。
 
甲状腺ホルモンの役割はいくつかありますが、最も基本的なものは体の代謝を調節することと言えるでしょう。そのため、橋本病などが含まれる甲状腺機能低下症になると、血液中の甲状腺ホルモン量が通常よりかなり少なくなってしまいます。反対にバセドウ病などが含まれる甲状腺機能亢進症になると、血液中の甲状腺ホルモン量が通常よりかなり増えてしまいます。それにより、様々な症状が現れます。

いずれの場合も、甲状腺機能に問題があるかどうかは、血液検査を行って血中の甲状腺ホルモンのレベルを見ればすぐに分かります。精神科初診時の血液検査結果で、甲状腺機能に問題があると判明することがあるのはこのためです。精神科で血液検査をする大きな目的は、実は心の病気を見つけるためではなく、こうした精神科以外で対処すべき身体の原因を見逃さないようにするためです。
 

甲状腺機能の異常により現れる症状……むくみ・疲れ・汗・心拍数など

もし気持ちの落ち込みが原因で精神科を受診する場合、その落ち込みの度合いは、日常的な憂うつ感ではないレベルのものとして自覚できると思います。

落ち込みの原因が甲状腺の問題の場合、精神的な問題だけでなく、甲状腺機能低下症・亢進症によるその他の身体症状も現れているはずです。ただそれらの症状の出方には個人差があるため、場合によっては、我慢できるレベルの身体症状に留まり、あまり気にならないケースもあるでしょう。

甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症では、どちらも気持ちの強い落ち込みが現れる可能性がありますが、身体症状の出方は大きく違ってきます。
 
甲状腺機能低下症の場合、甲状腺ホルモンが担う基礎代謝量の低下に関わって問題が現れるため、「体がむくみやすい」「寒さに弱くなる」「疲れやすい」といった症状が出てきます。一方、甲状腺機能亢進症の場合は、「汗をかきやすい」「心拍数があがる」「手指がふるえる」といった自覚症状が出てきます。
 
こうした身体症状の有無は、心の問題の原因が精神科以外で対処すべき病気ではないかを最初の段階で見極める上でも重要なポイントになります。甲状腺の問題は比較的ありがちな問題です。これらの身体症状がないかを精神科の初診問診時に細かく尋ねられることがあるのは、そのためです。
 

「甲状腺の問題=心の不調の原因」と断定できないことにはご注意を

甲状腺機能に何かしらの問題がある場合、心の不調が現れやすいことはここまで述べた通りですが、たとえ問診や血液検査で甲状腺機能に問題があるとわかった場合でも、それが心の不調の原因の全てであるとは断定することはできません。
 
なぜなら、精神科で対処すべきうつ病を発症していて、たまたま同時に甲状腺機能にも問題が生じていることもあるからです。そのため、甲状腺機能に問題があるとわかった場合でも、しばらく経過を見て判断する必要があります。まずは血液検査などで明らかになった甲状腺に対する治療が始まるでしょう。甲状腺機能が正常化した際に、精神的な問題も無事に消失したならば、その心の問題の原因は甲状腺機能の異常だったと、初めて因果関係をはっきりさせることができます。

しかし、甲状腺ホルモンの血中レベルが正常化した後も、気持ちの落ち込みや不安感などの心の問題が変わらず続いていた場合、その心の問題は甲状腺機能の異常のためだけではなく、精神科でのケアも必要なものだということになります。

心の病気は、原因によって3つのタイプに分類できると解説しましたが、境界はややあいまいです。原因が複数であるケースもあり、心の病気を患っていた場合でも、甲状腺機能の問題も、ある程度は影響しているパターンも少なくないからです。甲状腺機能が正常化した際に、それまで問題になっていた精神症状が、完全とは言えないまでもある程度落ち着いた場合、その落ち着きの程度の大きさから、甲状腺の問題がどの程度関わっていたかが初めてわかることも少なくないからです。

以上、今回は甲状腺の問題と心の不調の関わりを詳しく解説しました。甲状腺の病気は、精神科以外で対処すべき心の不調の原因の、代表的なものです。リスクファクターはさまざまですが、男性よりも女性の発症率がかなり高いことも、覚えておかれるとよいでしょう。そして、気持ちの落ち込み等の精神症状に関しては、甲状腺の治療を重点的に受けられている間も、一般に引き続き精神科で対処していくことは、あらかじめ知っておくとよいと思います。

                                                  

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脳内リンパ系の研究が示す「睡眠時間の短さは認知症のリスク」 40代前後から気をつけて

Dr.三島の「眠ってトクする最新科学」

 こんにちは。精神科医で睡眠専門医の三島和夫です。睡眠と健康に関する皆さんからのご質問に、科学的見地からビシバシお答えします。日々の生活で、私たちの体内にはさまざまな老廃物や有害物質が生じます。

たまった老廃物や有害物を体外に排出させるのに一役買っているのがリンパ系です。比較的最近になって、脳にもリンパ系があることが発見されました。脳内リンパ系の働きは睡眠と大いに関係があるようなのです。いったい、どういうことなのでしょうか。

脳内の老廃物を排出するメカニズム
 体内には膨大な数の細胞や組織があり、そこでは日々さまざまなたんぱく質や脂質などが作られ、生体機能を維持しています。その後、不要になったたんぱく質や脂肪、その断片などの老廃物は細胞外に排出されます。老廃物は当初、細胞と細胞の間を満たしている体液(細胞間質液)の中に漂い出ます。

細胞間質液はもともと血管からしみ出した血液成分(血漿 )なので、次から次へと供給されます。そのため老廃物を含んだ細胞間質液は徐々に押し流され、体中に張り巡らされたリンパ管を通って最終的には血管に戻され、腎臓を経て尿や便の中へと排出されます。

 脳内にも神経細胞をはじめとする多数の細胞が存在します。そのため、毎日かなりの量の老廃物が生じます。では、脳の老廃物はどのようにして洗い出されているのでしょうか?

 多くの研究者は、脳の中でもリンパ液に乗せて排出しているのだろうと考えてきましたが、長い間、脳内でそれらしきリンパ管は見つかりませんでした。体のリンパ系は300年以上も前の西暦1600年代にはすでに見つかっているのに対して、脳のリンパ系が発見されたのは2010年代に入ってからのことでした。

 脳内リンパ系の仕組みを簡単にご説明しましょう。脳には大きく分けて「神経細胞」と「グリア細胞」の2種類の細胞があります。そのうちグリア細胞が脳内の動脈の周囲を包み込み、血管の外側に狭い隙間を作っていたのです。

血管の周囲をさらに太い管で取り囲んだイメージです。脳を包む液体(脳脊髄液)がこの隙間を伝って脳の細部に入り込み、神経細胞の周囲にリンパ液としてしみ出して、老廃物を洗い流していたのです。老廃物を含んだリンパ液は、今度はやはりグリア細胞によって静脈の周囲に作られた隙間に沿って脳外へと流れ出るのです。

睡眠中にリンパ液が流れやすくなる
 発見者の米国ロチェスター大学・メディカル・センターの研究チームは、この脳内リンパ系が主にグリア細胞で形作られているため、「グリンパティック・システム(Glymphatic System)」と命名しました。グリンパティックとは、グリア細胞「Glial cell」とリンパ系「Lymphatic System」を合わせた造語です。

 非常に巧妙、精密な実験で発見されたため、他の研究施設でまだ追試(他の研究施設の実験で再確認すること)が行われていませんが、さまざまな傍証から多くの研究者はグリンパティック・システムの存在を信じています。

 さて、冒頭で睡眠と脳内リンパ系の働きが密接に関わっていると書きました。実は、脳は神経細胞やグリア細胞、その他の組織などでみっちりと埋め尽くされているため、なかなかリンパ液が流れにくいのですが、驚くべき事に睡眠中に神経細胞間の隙間が大きく拡がり、脳内リンパ液が流れやすくなることが分かったのです。どうやら睡眠中に細胞の体積が縮むかららしいのですが、詳しいメカニズムはまだ分かっていません。

しっかりと睡眠をとることで
 その後の研究で、深く眠った時に脳波活動が遅くなることや心拍数が低下することが、脳内リンパ液の流れを活発にすることも分かりました。また、認知症の患者さんを対象にした臨床研究で、脳の老廃物の一つ「アミロイドβ(ベータ)」の濃度が、睡眠時間が長いほど高くなることも分かりました。

アミロイドβは、アルツハイマー病の原因物質の一つと考えられています。睡眠時間が長くなることによって脳脊髄液中のアミロイドβ濃度が高くなるということは、それだけ効率よく老廃物を洗い流せていることを意味しています。

 かなり以前より、睡眠時間が短いことが認知症の発症リスクと関連することが数多くの疫学研究で明らかにされていましたが、グリンパティック・システムの発見により、そのメカニズムの一端が明らかになりました。脳内のアミロイドβの蓄積は40代前後から始まると言われています。睡眠習慣を正すのであればできるだけ若い頃から始めるに越したことはありません。

三島和夫(みしま・かずお)
秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授
 1987年、秋田大学医学部卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、スタンフォード大学睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事。著書に『不眠症治療のパラダイムシフト』(編著、医薬ジャーナル社)、『やってはいけない眠り方』(青春新書プレイブックス)、『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(共著、日経BP社)などがある。

徐々に現れていた「認知症の兆し」 介護する家族の後悔とジレンマ

65歳以上の患者が推計およそ600万人(2020年)いるといわれるアルツハイマー型認知症。認知症は顔にできるシミのように、脳に異常なタンパク質がたまり脳の神経細胞を死滅させるもので、誰もがかかる可能性があります。

今回は母親が認知症と確定診断されるまでの道のりから、現在に至るまでの実例手記を紹介します。

段々と現れる認知症の兆し
認知症と診断されてから約10年になる母は、今年で89歳。60歳代の半ばに入り、小さな異変が現れました。孫も大きくなり面倒をみる相手がいなくなったことで、自分の存在意義について考えているようでした。

同時に足がだるい、むくむといって外出しなくなったのです。病院を受診したところ、老人性うつと診断されました。そこで、治療と同時に犬を飼うことに。運動量が必要なビーグルで、当初は面倒を見られないと音 をあげていましたが、自分が世話をしないと生きていけない犬を前に奮起し、うつの症状もだんだん見られなくなりました。

次に異変が現れたのが70歳代に入るころ、「匂いがわからない、味もよくわからない」といいだしたのです。知り合いの大学病院の耳鼻科の先生に診てもらいましたが、「嗅細胞は一度死滅すると戻らない」といわれ、あきらめてしまいました。

この嗅細胞が認知症と大きく関わっていたということを、当時は知る由もありません。痴呆症から認知症へと名称が変更する前の話です。認知症に関する研究もそれほど進んでいませんでした。現在、匂いと認知症には関連があるということがわかっています。

あのとき、脳のCTを撮っておけば何かわかっていたかもしれない、そんな後悔があります。年を重ねれば誰でも五感が鈍くなってきます。しかし、匂いがわからない、味がしないといった場合には、認知症の可能性を踏まえ神経内科で認知機能検査を受けることをお勧めします。

先生との相性で変化した母
当時、兄が二世帯住宅で母と暮らしていましたが、私は1時間ほど離れたところに住んでいました。匂いがしないまま生活するうちに、鍋の火のつけ忘れで部屋が煙で充満することもあり、めっきり自信を失くしたようでした。

70歳の半ばからでしょうか、あれほど一人を満喫していた母が「寂しい」としばしば電話をしてくるようになり、同時に兄や姪から母の不審な言動があるとの相談を受けたのです。

認知症を疑い病院を探して受診すると、やはり脳の萎縮が見られ軽度の認知症と診断され通院が始まりました。
ここでも一つ、後悔があります。

母の住んでいる近隣には、認知症専門医とされる病院が2つありました。一つの病院は週1日専門医が来る予約制の病院、そしてもう一つはいつでも認知症を診ている専門病院。少し迷いましたが、後者のいつでも診ているところに連れて行ったのです。

当初何年かは、何の疑いも抱きませんでしたが、先生がテレビに出演するようになってから、一変しました。患者の顔を見ないいわゆる3分診療になっていったのです。同時に、待合室にいるときの母は、少しでも待つと貧乏揺すりをし出し、鬼の形相で「まだ?」を繰り返し、イライラが爆発しそう。毎回ヒヤヒヤしていました。

そこで、ケアマネージャーに相談し、週1日専門医が来る予約制の病院のほうに移ることにしました。そのころ、認知症のミニメンタルステート(MMSE)検査※の結果は22点。移った先の先生は若いのですが、とても穏やかで母の話に耳を傾けてくれます。最初のころは能面みたいな顔で話していた母もだんだんと 柔らかくなっていき、今では先生に会えるのが楽しみだといいます。

MMSE検査も一時は25点 になり、現在は23点を維持しています。今の先生に変わってから6年になりますが、薬は以前よりも軽いものになり、症状も落ち着いているので、私の母にとっては穏やかな今の先生との相性が良かったようです。

※ミニメンタルステート(MMSE)検査とは、認知症の診断用に開発されたもので、一般的に使われているテスト。11個の質問があり、30点満点。27点以下を軽度認知障害の疑い、23点以下を認知症の疑いとしているが、複合的に判断されるため医師によって判断基準が分かれる傾向がある。

この検査のほかにも、長谷川式スケール、三宅式記銘力テストなど検査の方法は数種類ある。

自分の不倫が原因で妻が「うつ」に… 10年超の罪滅ぼしをし続けた夫が口にした“本音”

 自身の浮気が原因で妻が心を病んでしまったら、夫は後悔してもしきれないだろう。だがそれも長期間にわたると、自分の罪はあるとしても「いつになったら許されるのか」といらだちがわいてきても不思議はないように思う。原因を作ったのは夫ではあるが、そこまでいくと、もう誰が悪いという話でもないのかもしれない。

「僕が悪いんです、そもそもは。それはわかっているし、なんとか責任をとるつもりでがんばってきました。その上で、新たな罪も背負ってしまった。だから白旗を揚げることにしたんです。もうがんばれない……」

 松田和翔さん(47歳・仮名=以下同)は、そう言ってうなだれた。

 高校時代に憧れていた同級生の絢子さんと再会したのは26歳のとき。告白から熱愛を経て、28歳で結婚した。翌年、長女の舞さんが生まれて一気に家庭は賑やかになった。

「ただ、僕はまだ親になる心構えができていなかったんですよ、正直言うと。家庭に縛られるのが怖くなって、仕事と称して飲み歩いたりもしていました。絢子はひとりで舞を育てるのに四苦八苦していたと思う。夜中にときおり『起きて、舞が息をしてない』と叫んだこともありました。もちろんちゃんと息はしてるし、すやすや寝ている。だけど絢子の声で起きて泣き出す。絢子自身が神経過敏になっていたんでしょうね。もともと繊細な女性なんだと思いますが、そこをわかってやれなかった」

 舞さんが3歳になったころ、和翔さんは一度だけ学生時代の後輩と浮気をした。サークルの同窓会があって酔った勢いでそういうことになってしまったのだ。お互いに割り切っていたのだが、朝帰りになった和翔さんを絢子さんは責めた。

「飲み過ぎて電車がなくなって、始発で帰ってきただけだと強調しましたが、第六感が働いたんでしょうか。『女の匂いがする』と言われてドキッとした記憶があります」

 その後、長男も生まれ、家族4人の生活が始まった。第二子となると絢子さんも慣れているし、さすがに和翔さんも束縛を覚えるよりは、自ら家庭人として育児に積極的に関わった。さらに食洗機や衣類乾燥機を購入、妻の家事が少しでも楽になるようにと配慮した。

 ところが長女が小学校に上がったころ、和翔さんはまたも浮気をした。今度は一夜の過ちではなく、本気の恋だった。彼が36歳、仕事関係で知り合った既婚者の夏美さんは6歳年上で、今まで会ったことのないような“素敵な女性”だったという。

「彼女はちゃきちゃきの江戸っ子で、なんとも言えず粋で気っ風がよくて、一緒にいるととにかく気持ちのいい人。本来は『不倫なんてふざけたことはしない』と自分でも言っていました。だけど『和翔は別。運命を感じた』と。僕もそう思っていたから、一気に恋が燃え上がった」

 身も心も彼女にはまったが、ふたりとも「家庭を優先しよう」と話し合った。恋は恋として成就させる、秘密の関係を墓場まで持っていこう、と。

「でも絢子の第六感はすごいですからね。1年たたずにバレました。僕の携帯を見たようです。彼女とのやりとりがスクショされた画面を突きつけられ、『どういうことよ』『私と子どもたちに死ねっていうの?』と。絢子は自分の希望で専業主婦となっていたのに、そのころは僕の前でよく『仕事を続けていればよかった』と愚痴っていました。だから、いきなり『死ねというの?』には、僕としてもちょっとカチンときたんですよ」

 妻は、母としては完璧だった。子どもたちに過干渉なわけでもなく、かといって放任でもなかった。学生時代は児童心理を学び、幼稚園の教諭だった経験が生きていた。ただ、「人としておもしろい人間ではない」と和翔さんは言う。

「いいんですよ、おもしろくなくて。妻はまじめなほうがいいから。でもこういう物言いをすると女性から非難されるとわかっていて言いますけど、子どもの気持ちがわかるだけに、彼女自身も子ども目線なんですよね。たとえば本を読んでも深くは考えない。あらすじを追うだけ。僕が読んでおもしろいと思った本を渡しても、登場人物の心理を深く探ろうとはしない。そこがちょっと物足りなくはあった」

 そこへするりと入り込んできたのが夏美さんだったのだろう。さばさばしているが、彼女の一言には「人間の酸いも甘いもかみ分けたような重さがあった」と彼は言う。


■「地獄のような日々」


 絢子さんにバレたとき、和翔さんは男女の関係はないと言い張った。数日後、帰宅すると真っ暗なリビングで妻が倒れていた。睡眠薬の飲み過ぎだった。慌てふためいて、彼はなぜか夏美さんに電話をかけてしまう。夜は連絡を取り合わないと決めていたのに、焦ったときにとっさに連絡してしまうあたりに、彼が当時どれほど彼女に溺れていたかがわかる。

「夏美にどやされました。早く救急車を呼びなさいって。『大丈夫よ、それじゃ死なないから。だけど誰か子どものめんどうを見てくれる人はいるの?』と聞かれ、誰もいないことに気づいた。夏美は『今すぐ行くから。鍵をどこかに置いておいて』と。その後、救急車を呼びました。長女が起きてしまったので母親の姿を見せないようにするのが大変でしたね」

 そこへタクシーを飛ばして夏美さんが駆けつけてきた。夏美さんは子どもたちを部屋に連れていった。

「おかあさんがちょっと具合が悪いから病院に行くの。おばちゃんがいるから心配しなくていいからねと言っているのが聞こえました」

 夏美さんの言うとおり、絢子さんは命に別状はなく、胃洗浄をして点滴を打っただけですんだが、あと半日ほど様子を見ることになった。自宅に戻ると、夏美さんが朝食を子どもたちに食べさせているところだった。

「すみません。お世話になってありがとうございます、とあえて丁寧な言葉を使いました。上の子が何か違和感を覚えたら困るので。夏美も『いえいえ、困ったときはお互いさまで』と他人行儀にしゃべって、すぐに帰っていきました。玄関で見送りながら手を合わせましたよ。すると彼女『いいって。困ったらいつでも言って』と。彼女自身は朝帰りになったことを家族にどう釈明したのか……」

 絢子さんはすぐに退院し、和翔さんは「彼女は女友だち。絢子が思っているような関係ではないけど、誤解させたのなら申し訳ない」と平謝りした。夏美さんを期せずして家に引き入れてしまったことは内緒にした。これで落ち着くかと思われたが、どうも絢子さんの様子がおかしい。病院に連れて行くとうつ状態だとわかった。家事も育児もほとんどしない。本人も何も食べようとしない。絢子さんは精神科に入院することになった。

「数ヶ月入院して、ようやく落ち着いたんですが、帰宅しても無理はさせられない。それ以降、僕がほとんど家事と育児を担いました。早朝に起きて、妻の食事と夕飯の下ごしらえをして出社、夜はほとんど残業をせず帰宅して夕飯をみんなでとって、その後は子どもたちの宿題を見たり風呂に入れと促したり。数年たって、やっと下ごしらえをしておけば妻が夕飯の支度をしてくれるようになったけど、買い物に行くのは嫌がりましたね」

 地獄のような日々だったと和翔さんは振り返る。睡眠時間は3,4時間。週末もゆっくりと寝ていられない。長女は小学校高学年になると家事を手伝ってくれるようになったし、母親のケアもしてくれようとした。だが、「娘にそこまでさせるのは忍びなかった。娘には自由に楽しい学校生活を送ってほしかったから」自分ががんばるしかないと腹をくくった。

 妻の病状は一進一退で、外出できる日もあれば部屋にこもって鬱々としていることもある。すべては自分のせいだと和翔さんは思っていたが、長女が中学に入学したとき緊張の糸が途切れた。

「あれ以来、ほとんど会わずに、ときおりメッセージのやりとりだけしていた夏美に、久しぶりに会って愚痴をこぼしたんです。夏美は『和翔はがんばってきたよね。すごいと思う』と言って、僕の肩をポンポンと叩いた。それを合図にしたかのように僕は泣き崩れてしまったんですよね、居酒屋で。恥ずかしいけど、本当につらかったし、自分の親にも義父母にも愚痴は言えなかったから」


■「実家に戻ってみないか」


 その日はたまたま妻の母が様子を見に来てくれていたから、和翔さんは時間を気にする必要がなかった。夏美さんに甘えるように「ふたりきりになりたい」と言ってみると、「私が原因でこんなことになったんだから、いいよとは言えないよ」と涙ぐんだ。

「夏美も密かに苦しんでいたんだとわかって、オレたちの人生は何だったんだろうとむなしくなりました。ふたりとも珍しくテンションが下がってしまって。でも6、7年ぶりにホテルに行ったんですよ。やっぱり僕には夏美しかいない。そう思いました」

 長女が高校へ行くようになると、和翔さんは毎日、お弁当作りに励んだ。絢子さんの昼食、自分用を含めて毎日3食分だ。

 そして長女が今年、高校を卒業した。長男は今度、高校を受験する。10年前に比べたら、まったく手がかからなくなった。

「この春、絢子に少し実家に戻ってみないかと言ってみたんです。あちらのご両親は70代ですが、まだまだ元気だし、空気のいいところへ帰ったら少しは気分転換になるとも思ったので。ご両親は一も二もなく賛成してくれました。『和翔さんも休養が必要だよ』と言ってくれて。確かに突っ走り続けた11年でした。このあたりで自分を見つめ直したいし、生活も見直したい。そうしなければ自分が壊れると痛感していました」

 長女の舞さんも賛成してくれた。「お父さん、大変だったね」とねぎらいの言葉をかけられたとき、和翔さんは娘の前で初めて泣いた。父と夏美さんとの関係には気づいていないだろうが、父として後ろめたさはある。母に甘えたいときもあっただろうと思うと、それもせつない。

「ちょっと優しいことを言われると最近、すぐ涙が出てくる。弱っているんでしょうね。夏美は、絢子が実家に帰ってからときどき会ってくれるようになり、ゆるく見守ってくれています。彼女は自分の家庭のことはいっさい言わないんです。『私は要領がいいから大丈夫』と笑っていて。本当はどうなのか気になってはいるんですが」

 妻の病の原因となった夏美さんとの関係が、結局、彼を救っているのだから皮肉な話ではある。

「本当に疲れました。仕事も本当だったら、もっと思い切りやってみたかった。上司には今からでも遅くない、がんばってみろと言ってもらえた。でも最前線でバリバリとはなかなかいきません。自分がいけないのはわかっているけど、本音を言うなら、僕の11年を返してほしい」

 絢子さんは実家に戻って、急速に心身の調子がよくなっているという。本来、一緒にならないほうがよかったふたりなのかもしれないと、和翔さんは寂しそうにつぶやいた。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

子どもの“うつ病”、見逃しがちな理由とは?

「気分がひどく落ち込む、憂うつ」「やる気が出ない」、このような状態が続く気分障害のひとつとされている“うつ病”。現代社会では、心の風邪と言われるほど多く見られ、大人に限らず子どものうつ病患者も珍しくないといいます。

では、子どものうつ病にはどのような特長があるのでしょうか? 児童の精神問題に詳しい、めぐみクリニック院長の皆川恵子さんに話を聞きました。

●子どものうつ病は10歳前後から増える
うつ病は、脳内にある心のバランスを保つ“セロトニン”という物質の分泌が不安定になることで生じると言われています。実際に年齢は関係なく、うつ病になるものなのでしょうか?

「幼少期の頃にはあまり見られず、最近では10歳前後から見られるようになりました。大人は“憂うつ”とか“意欲がわかない”という表現などで症状を説明するのですが、子どもの場合そのように説明できないことがほとんど。

ただ、漠然とイライラしていたり怒りっぽくなる、なんとなく不安がってお母さんの後を追いかけたりするといった行動が目立つようになると要注意です」(皆川先生、以下同)

それだけだと、子どものちょっとした感情の変化かと思い見逃してしまいそう。そんなときに、見極めるべきは感情が移り変わる変化の速度だとか。

「数か月とか半年とかで変わるのではなく、これらの行動は2週間くらいで急激に変化するのが特長です。普段は活発に遊びに行っていた子が外に出たがらず、家にいてもぼんやりしている、

好きなゲームもしないとか、食事の量が減ったり、眠れなくなるなど、特別な原因があるわけではないのに、短期間でこのようなことがどんどん増えてきます。進行すると笑うこともなく、表情に変化もなくなるため親であれば何かおかしいなと気がつくと思います」

●うつ病の治療は投薬が基本
もし、うつ病を疑った場合、どのように対処すればいいのでしょうか?

「まずは児童精神科に連れて行って、速やかに治療を受けさせることをおすすめします。以前、身内が亡くなったショックから、うつ病になってしまったお子さんがいました。

そのようなショックな出来事を受けると、普通はしばらく落ち込むものの、時間とともに活力を取り戻します。

ですが、そのお子さんの場合は、しばらくうつ状態に気付かれず、数か月して症状に気付かれました。症状は重くなっていたものの、抗うつ剤等を処方して治療を行った結果、半年ほどで元気になりました」

ちなみに、子どもだからといって治りが早いということはないそう。セロトニンの分泌が不安定になるのは体質的な影響もあるので、適切な治療で早めの回復をうながすことが肝要のようです。

刺激のある仕事は認知症予防に効果的!?

精神的な刺激がある仕事は認知症予防に効果的だという。イギリスのアルツハイマーズ・リサーチの研究によると、忙しいキャリアに就く人々は、そうでない人々に比べ、加齢による物忘れが3分の1も少なく、同症状に関係した脳内タンパク質へのダメージも減少傾向にあったという。

同研究は様々な職に就く10万7000人以上を対象に実施、自分の仕事が精神的にどれだけ刺激的かを答えてもらい、17年間に及ぶ調査が行われた。

同団体のサラ・イマリシオ博士はこう話す。「どういったタイプの仕事をするかは誰もが選択できるわけではありませんが、この研究は脳を活発化させる行動の重要さを示しています。刺激的な仕事、読書、外国語の学習など自分が楽しめることを見つけるのがカギとなります」

「引きこもり予備軍」の多い男性、認知症進行の要因に…無口な高齢者も「楽しくなる」施設に注目

山口県内では、2025年に約9万人が認知症になるといわれている。65歳以上のおよそ5人に1人にあたり、認知症の進行要因のひとつとされる引きこもりへの対策が急務だ。宇部市に「引きこもり高齢者ゼロ」を掲げる介護施設がある。レクリエーションで外出を促すユニークな取り組みが行われている現場を訪ねた。(田中誠也)

 昨年12月、カジノをモチーフにしたレクリエーションに特化したデイサービス「SOUTH SUN」が宇部市にオープンした。

 「しっかり遊んで、しっかり運動しましょう!」

 ある日の午前9時。フィットネスバイクなどのマシンのそばに将棋や囲碁、マージャンなど様々な「遊び」が用意されたフロアで、南亮平代表(34)が高齢者に声を掛ける。うなずく高齢者たちの表情は楽しそうだ。

 南代表によると、デイサービス利用者は全国的に女性が多数を占める傾向がある。男性は出たがらず、「引きこもり予備軍」が多いという。このため、この施設のレクリエーションは、男性の外出意欲を引き出せるように考えた。現在、1日平均5、6人が利用している。

 朝の体操が終わると、無口な男性(80)が楽しそうにマージャン台に向かった。認知症が進み、施設での記憶は帰宅するとなくなるという。妻(78)は「帰宅後の表情はいつも柔らかい。よっぽど楽しいのでしょうね」と話す。

 妻によると、男性は退職後、認知症が進むと外出をためらうようになった。妻も心配で外出しない日々が続いた。生活を変えようと、施設を何軒か見学したが、夫は行きたがらなかった。しかし、南代表の施設を訪れると、機嫌が良くなった。妻は「夫が行きたいと思ってくれるサービスが見つかってよかった。私も自分の時間が作れている」と喜ぶ。

 南代表は「明日も行きたくなる施設を目指す。高齢者の社会進出の一歩になり、家族の生活の向上にもつなげたい」と意気込む。

 一方、新型コロナウイルス感染拡大が、貴重な高齢者の外出機会を奪っている。

 認知症介護研究・研修仙台センター(仙台市)が昨年、認知症の人や家族らが集う「認知症カフェ」への新型コロナの影響について全国調査を行ったところ、緊急事態宣言発令中に開催したカフェは6%で、多くは休止を余儀なくされた。

 「認知機能の低下があった」「外出先を失い、引きこもり傾向になった」「家族関係が悪化し、家族が疲弊している」との事例が判明。外出自粛が深刻な影響をもたらしている実態が浮かび上がった。

 認知症の人と家族の会県支部代表世話人の川井元晴・山口大大学院教授(神経・筋難病治療学講座)によると、県内でも公共施設を利用するカフェの多くが休止を強いられたという。

 川井教授は「外出や会話の機会が減ると脳への刺激が減り、認知機能が低下する」と指摘。「オンラインでつながりを保つ若者は多いが、高齢者には苦手な傾向がある。感染防止対策を徹底したうえで、人と会える場を設けていく必要があるのではないか」と話している。

■医師に相談、県が支援制度

 県は2年前、高齢者やその家族が、もの忘れや認知症について気軽に医師へ相談できるように、「オレンジドクター制度」を導入した。適切な医療や介護サービスの早期提供につなげたい考えだ。

 相談対応できる医師をオレンジドクターとして登録しており、7月1日現在、271人。さらに、診療支援も行える医師(プレミアム・オレンジドクター)は6月18日現在、79人を登録している。

 近年は、働き盛り世代で発症する若年性認知症への支援も強化。有病者数は約400人と見込まれ、認知症でも希望を持って暮らし続けられる地域づくりに取り組んでいる。

 問い合わせは県長寿社会課(083・933・2788)へ。

血液検査で認知症判定する装置発売 島津製作所の田中耕一さん開発

島津製作所は22日、アルツハイマー病を判定するため、脳内のたんぱく質の蓄積状況を血液検査で推定できる装置を発売したと発表した。少量の血液で検査でき、従来より患者の負担が小さい。同社の田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローが開発し、2002年のノーベル化学賞受賞につながった質量分析の技術が用いられた。1台1億円(税抜き)。

 アルツハイマー病は発症の20年ほど前から、たんぱく質「アミロイドβ(Aβ)」が脳内に蓄積することが知られているが、これまではコストがかかる陽電子放射断層撮影(PET)や、患者の負担が大きい脳脊髄(せきずい)液(CSF)検査で調べるしかなかった。

 同社は18年、国立長寿医療研究センター(愛知県)との共同研究で、血液数滴(約0・5ミリリットル)から微量に漏れ出るAβ関連物質を検出し、脳内の蓄積状況を推定する方法を英科学誌「ネイチャー」に発表。その後、実用化に向け開発を進めていた。医師はこの装置の検査データに画像診断などを組み合わせて、総合的に判断する。

 02年のノーベル賞受賞後、「5年で血液1滴から数百種類の病気の有無を診断してもらえるようにしたい」と語っていた田中氏。京都市中京区の同社で同日、記者会見し、「専門家なら言わないような、とんでもない未来を言ってしまったと思う」と恐縮しつつ、「薬の開発など課題を解決する手法としても使ってもらえるように、まだまだ研究しなければならない」と話した。【福富智】

アルツハイマーの新薬認可されたけれど未承認の薬を使うと治療費が超高額に、役立つ保険がある?

米国の制約会社とエーザイの共同開発したアルツハイマーの新薬が、アメリカのFDA(食品医薬品局)で認可されました。

アルツハイマーの進行を抑える画期的な薬品として注目を集めています。この薬は4週間に1回の投与が必要で、平均的に患者に用いた場合には、5万6,000ドル(約613万円)の費用がかかるそうです。

まだ、条件付の認可ですので、これからの推移が注目されます。かなり先の話になると思いますが、日本でも認可されるようになれば、アルツハイマーで苦しむ人々とその家族の希望となるでしょう。

さて、がん治療も、日進月歩で新しい治療法が開発されています。がんの5年生存率がどんどん延び「がん=死」ではなく、長く付き合っていく病気になっています。とは言っても、日本人の死亡原因の第1位は、やはり「がん」です。

がんと宣告されれば、誰もがいい治療法がないかと考えるのが当然です。がんの治療法として、先進医療を耳にすることが多いと思いますが、最近注目を集めている未承認の抗がん剤、ホルモン剤などは、先進医療ではカバーできないものもあります。自由診療の扱いです。

自由診療になるとかなり高額な費用がかかるため、治療をあきらめることもあります。しかし、自由診療に対応した保険を利用すると、あきらめないで治療を受けることができるかも知れません。今回は、自由診療に対応している保険について解説をします。

国民全員が入っている公的医療保険制度とは
まずは国民全員が原則入っている公的医療保険制度について考えてみます。

公的医療保険制度では、保険証を提示することで一般的に3割の自己負担で保険診療を受けることができます。さらに高額療養費制度を使うことで、年収に応じて自己負担額の上限が下がります。

ほとんどの診療はこの健康保険内での診療で行われています。

自由診療を選ぶと保険診療も全額負担になる
一方、自由診療というのは、公的医療保険の対象外の治療です。たとえば、日本ではまだ未承認だが、海外では承認されている最先端の薬を使う治療法などです。たとえば、がんの治療薬でいうと、乳がんの「アルペリシブ」や急性骨髄症白血病の「エナシデニブメシル酸塩」などは、日本では未承認ですが、アメリカでは承認されています。(民間療法などの、科学的根拠がない治療法もありますが、ここでは除外します)

日本では、保険診療と自由診療の混合診療は認められていません。ですので、一部でもこの自由診療を使うと保険診療が使えなくなり、3割負担だったものが全額自己負担になります。結果、治療費はかなり高額な負担になります。場合によっては、治療費と自由診療と両方で月額100万円ぐらいかかることもあるかも知れません。一般的には負担が大きすぎるため自由診療を選択するのはごく一部の人になります。

がんゲノム医療、がん遺伝子パネル検査とは何か?
「がんゲノム医療」「がん遺伝子パネル検査」を聞いたことがありますか?「がんゲノム医療」は、患者個人の遺伝子をもとに、最適ながんの治療薬を選択することができる検査です。「がん遺伝子パネル検査」は、がんの組織の遺伝子を解析します。どちらも副作用が少なく、効果が期待できる薬を見つけるためのものです。

この治療法は、それぞれ公的医療保険や先進医療でも一部指定されていますが、標準治療(「手術」「化学療法」「放射線治療」など)を終了した人、またはできない人などの条件があります。ですので、誰でも受けることができるわけではありません。もし治療を希望するならば、自費つまり自由診療になってしまうこともあるのです。

これらの方法を使って効果が期待できる薬を見つけることができたとしても、その薬が保険診療に適用している薬ならばいいのですが、認可されていない薬だった場合には自由診療になってきます。

混合診療が認められている療法とは
このように一部でも自由診療が入ると保険診療から外されてしまい全額自己負担になってしまいます。ただし、保険診療と自由診療の併用が認められている療法もあります。それが、「評価療法」「患者申出療法」「選定療法」です。

「評価療法」「患者申出療法」は、保険導入のために評価を行います。「選定療法」は保険導入を前提としないものです。「評価療法」の代表的なものには、先進医療があります。

先進医療とは、公的医療保険の対象にするかどうかを評価する段階の治療なのです。ですので、保険診療と先進医療を併用しても、保険診療は自己負担は3割で、先進医療の部分は自己負担分になります。

「選定療法」とは、差額ベッドや歯科の金合金等の治療で、保険診療と自費との治療が認めれているものです。

先進医療特約の保険料が安い理由は
医療保険やがん保険に、先進医療特約があるので、知っている人もいると思います。先進医療の中で、とくに高額な費用がかかる治療で重粒子線治療、陽子線治療があります。どちらも200万円ぐらいの治療費がかかるのですが、年間実施件数は2,000件超でかなり少ないです。年間100万人ががんに罹患しているので、重粒子線や陽子線の治療を受けられる人は、0.2%ぐらいになります。誰でも受けられるわけではありません。

ちなみに先進医療特約の保険料は月額100円前後で、2,000万円ぐらいの保障が受けられます。なぜこんなにも保険料が安いのかというと、それだけ利用する人が少ないからです。

自由診療の対応している保険とは
がんを宣告されて、ご自分で治療法をいろいろ探したとしましょう。自分の症状に効果かありそうな薬を見つけても、残念ながら未承認の薬で、自由診療の高額な自己負担額を考えると結局のところ、その治療を断念せざるを得ないとしたら残念です。

そんなときに役に立つのが、自由診療に対応した保険です。最近は、この自由診療に対応する保険が増えてきました。

まず、自由診療に完全に対応しているがん保険は2つあります。

SBI損保の「がん保険自由診療タイプ」とセコム損保の「がん保険メディコム」です。

この2つの保険の特徴は、かかった医療費が全額補償されるのです。がん治療のための損害保険と思ってもいいでしょう。治療にかかったお金は、無制限で補償がありますので、がんの治療費の自己負担はゼロ円になります。通院については1,000万円までの補償があります。

その他にも、がんの自由診療に対応している保険が増えてきました。チューリッヒ生命「終身ガン治療保険プレミアムZ」、メディケア生命「メディフィットがん保険」FWD富士生命「FWDがんベスト・ゴールド」などが、自由診療の抗がん剤(ホルモン剤治療も適用される保険もある)を選択した場合、給付金を受け取ることができます。

患者申出療法とは何か
「患者申出療法」とは、未承認の薬などをいち早く使いたい場合、患者の方から医師や関連病院を通じて国に申請を出して、認められれば、保険診療との併用ができる制度です。これに対応している医療保険の特約があります。

治療費の自己負担額はそれほど多くなりませんが、未承認の薬を使うとなると高額な費用がかかることがあります。その薬や治療法によって効果がでる可能性があるなら、あきらめたくはないですね。それに備えるのが保険の役割です。気になる人は一度検討してみるといいかもしれません。

認知症新薬アデュカヌマブ 治験参加の医師が見た「効果と限界」

 6月7日、認知症の新治療薬「アデュカヌマブ」が、米FDA(アメリカ食品医薬品局)で承認された。米バイオジェンとエーザイが共同開発した新薬は、アルツハイマー型認知症の画期的な治療薬になると期待が集まっている。

 アデュカヌマブはこれまでの進行を遅らせる薬とは違い、アルツハイマー型認知症の原因とされる物質に直接作用する初めての治療薬だ。エーザイ社とバイオジェン社の株価が高騰するなど、その期待は高い。ただし、今回米FDAが下したのは「条件付き承認」。効果に懐疑的な意見もあり、追加の臨床試験を求められている。

「治験を行なった4人の患者さんのうち、3人に改善が見られました。軽度認知障害(MCI)の70代の患者さんは、治験後に1人で海外旅行に行くなど普通の生活を送れるようになるまで回復しました。アルツハイマー病の治療において、効果が期待できると考えています」

 そう語るのは、アデュカヌマブの治験に参加した患者を診た認知症専門医の眞鍋雄太氏(神奈川歯科大学附属病院認知症・高齢者総合内科教授)だ。

 現在約600万人といわれる日本人の認知症患者のうち、約5~7割を占める「アルツハイマー型認知症」は、脳に「アミロイドβ」というタンパク質が溜まることで発症すると考えられている。眞鍋氏が解説する。

「“脳のサビ”とも言える『アミロイドβ』が溜まり、放っておくと脳そのものを破壊する『タウタンパク質』が発生するようになります。これが脳の記憶を司る『海馬』に蓄積していくと、記憶力が低下します」

 アミロイドβは脳内で作られ通常は“ゴミ”として排出されるが、加齢や睡眠不足など様々な要因により排出が上手くできなくなると脳内に溜まるようになる。アミロイドβが蓄積すると、「老人斑」として脳に沈着し、神経細胞死を起こして脳が萎縮していく。こうして、認知症が進行していくのだ。

 アデュカヌマブはアミロイドβを除去する働きがあるため、“認知症の根本的な治療薬”といわれるが、その一方、“万能”ではないと眞鍋氏は指摘する。

「アデュカヌマブは、脳萎縮の回復やタウタンパク質には効きません。脳が萎縮したり、海馬が壊れたりした状態でアデュカヌマブを投与しても、記憶力が回復するわけではありません。つまり、タウタンパク質が発生する前に投与するのが望ましいのです」

 早期のうちに投与することが重要になるのだという。それでは、実際にどのような改善効果が見られたのか。眞鍋氏が治験の様子をこう語る。

「アルツハイマーにはステージがあり、Iは症状がない状態を指し、II・IIIは『軽度認知障害(MCI)』に分類されます。MCIは認知症未満の、年齢相応の状態です。IVは『日常生活に支障をきたす行動が時々見られ、介護を必要とする』状態で、このレベルから『認知症』と診断されます。V以上では、徘徊や服の着替えに失敗するなど、『常に介護を必要とする』状態となります。

 私が診ていた治験を行なった患者は4人で、2人がステージIII、残り2人がステージIV(初期の認知症)でした。4週間に1度、3年間にわたって投与を続けた結果、ステージIIIの2人は症状が改善し、ステージIVの1人は認知症が進行せず現状維持、もう1人は効果がみられず、認知症が進んでしまいました。

 4人の中でも認知機能障害の程度が軽くMCIだった患者は1人で海外旅行に行けるほど回復し、ステージIIIからIIへ戻りました。初期であればあるほど効果が期待できると考えられます」

 早めの治療で認知症が回復する一定の道筋が見えたとも考えられるが、アデュカヌマブを日本で利用するにはまだまだハードルがある。バイオジェンが発表した価格は、体重70キロの人に1回70mgの投与を1年間続けると、約610万円(5万6000ドル)。3年間続けると、1830万円という計算になる。

「日本で承認されれば保険適用になると思いますが、非常に高価なので誰でも使えるようになると医療費が膨らみ過ぎてしまう。なので、処方の診断基準が厳格化されるでしょう。

診断基準で必須になるのが、アミロイドβの溜まり具合を検査する『アミロイドPET検査』です。これは現在、保険適用外(約30万円)なので、この検査も保険適用にする必要があり、アデュカヌマブの承認に合わせて動いているという話も聞きます」(眞鍋氏)

 価格以外にも日本での承認がいつになるのかなど、まだまだ不透明な部分が多いのも事実だ。米FDAの承認を受け、日本でも早ければ年内に承認とも言われるが、認知症治療にパラダイムシフトが起こるのだろうか。
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