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「ボトックス」のうつ病治療効果は本物か メーカーが最終段階の臨床試験へ

米製薬大手アラガンは、主力製品のしわ取り剤「ボトックス」がうつ病の治療薬として効果があると見込んでいる。治療薬としての使用の安全性と有効性などを確認するための臨床試験の最終段階、第3相(フェーズ3)を実施する計画を明らかにした。

神経をまひさせることで作用するボトックスは既に、偏頭痛の治療薬としての利用も拡大している。うつ病については、治療に適用できる可能性を最初に指摘したのはアラガンではなく、ドイツとスイス、米メリーランド州にある2つのグループだ。それぞれに小規模な試験を実施したところ、いずれも有効性が高いと見られる結果が得られた。アラガンはこれらの結果を受け、自ら米国内の35か所でより大規模な試験を実施することを決めた。

分かれる見解

アラガンは4月5日、患者258人を対象としたフェーズ2の試験結果のデータを発表。これに基づき、新薬の開発を目指して次の段階に進む方針を決定したと説明した。だが、コロンビア大学精神医学部のジェフリー・リーバーマン教授は、「試験の実施方法について、結果が説得力あるものだと判断するのに十分な説明がなされてない。結果には説得力がない」との考えを示した。データは新薬開発を次の段階に進めるべきと考える根拠にはならないという。

アラガンの臨床試験では、ボトックスの投与量を異なる2単位(30単位と50単位)に設定。それぞれを、プラセボ(偽薬)を投与するグループと比較した。効果は患者の精神状態を詳しく把握するための「モントゴメリー・アスペルグうつ病評価尺度(MADRS)」によって測定した。

試験期間は6週間としたが、終了時点でいずれの投与量についても統計学的に顕著な効果は確認できなかった。だが、少ない単位の投与量のグループでは、わずかながらプラセボ投与グループの結果との間に違いが見られた。

投与量が多い方のグループにより大きな効果が見られなかったことが、リーバーマン教授が結果を信用できない大きな理由の一つだ。だが、アラガンのグローバル開発担当の上級副社長は、うつ病の治療薬として有効である可能性はあると語る。

うつ病の治療薬の臨床試験では、プラセボ投与のグループが予想以上に良好な結果を示す場合もあり、試験中の薬の効果を低く見せることがあるのだという。また、投与量が多い方のグループの結果の中にも、効果を示す兆候はあったという。

アラガンの別の幹部もまた、これまでに実施された全ての試験結果を合わせて考えれば、ボトックスは投与方法によってうつ病の治療効果があると見ることはできると主張。次の段階に進むことへの自信を見せている。

ただし、アラガンが実施した臨床試験については、疑問視すべき点が一つある。対象者を女性のみとしたことだ。同社は次回の試験では男性も含める計画だとしているが、リーバーマン教授は、より大規模でリスクも大きくなる最終段階の臨床試験に移行する前に、小規模な試験を再度実施すべきだと指摘している。

一部ではすでに利用

一方、米国内ではこれまでのボトックスの臨床試験の結果を受けて、既にうつ病の治療として処方する医師も出始めている。抗うつ薬は、利用する患者のおよそ半数にしか効果がない。新たな選択肢は切実に求められている。

どうして? 女性が「うつ」になりやすい理由

■女性の一生はストレスにさらされやすい

 男性より女性のほうが、うつになりやすいことをご存知ですか?

 その原因は、多々あります。たとえば、結婚、出産のように大きなライフステージの変化によって、生活が一変しやすいこと。また、社会的弱者である女性は、ジェンダー(社会的性差)によるストレスにされやすいこともそうです。

 多様な生き方・考え方が認められるようになってきたとはいえ、「女性(妻、母親)はこうあらねばならない」、「女性はこんなことをしてはいけない」というように、まだまだジェンダーによる不自由さを感じている人も多いのが実情です。

 また、女性のほうが男性より一人で何役もこなさなければならない場面が多いのも、うつの要因となります。特に仕事を持つ女性は、家事や育児、介護との両立で心身ともに疲れきってしまう人が少なくありません。

■「主婦症候群」をご存知ですか?

 出産によって仕事をやめ、育児や家事に専念する人もたくさんいますが、主婦はさまざまなストレスの影響を受けて、心のトラブルを抱えてしまうこともあります。こうしたトラブルは、「主婦症候群」などと呼ばれています。

 このトラブルが昂じると、キッチンに立つこともプレッシャーと感じてしまう「キッチン恐怖症」になったり、家族の不在中に飲酒で気分を紛らわす「キッチンドリンカー」になってしまう人もいます。

 主婦症候群は、夫婦のコミュニケーションの不和、縁戚関係のトラブル、家事・育児の負担など、さまざまなストレス要因が複雑に絡み合って起こります。また、日々の生活にやりがいを感じられず、生きる目標を見失ってしまうことも要因となります。

 また、他人と接触する機会の少ない主婦は孤独感に陥りやすく、心の悩みを深めてしまうことも見逃せない要因です。

 こうした社会的な要因だけでなく、ホルモンのバランスが精神に影響してうつになることもあります。

■ホルモンの乱れが関係する“女性特有”のうつとは?

 女性の身体はホルモンのバランスが乱れやすいのも、うつになりやすいことと関係しています。月経周期のほかに、妊娠・出産、更年期など女性の一生はホルモンの変化に大きな影響を受けます。これが、体調の乱れや精神状態の不安定さを引き起こすのです。

 特に、以下の3つはホルモンの乱れが関係する女性特有のうつ病としてあげられています。

□月経前症候群(PMS)

 月経の始まる10日ほど前から、心身が不安定になるトラブル。月経開始後2~3日で落ち着いてきます。このトラブルにより情緒不安定になる人は、全体の2~5割ほどといわれています。排卵・月経によりホルモンのバランスが変化することが要因となります。精神症状がひどくなると、「月経前不快気分障害」と診断されることもあります。

□産後うつ病

 産後2週間目くらいから1年くらいまでの女性が、かかりやすいうつ。産後のホルモンの乱れに加えて、出産と育児の疲れ、今後の育児への不安などが大きく影響します。

 ちなみに「マタニティブルー」とは、産後、3~10日くらいに産婦の半数くらいの人が経験するといわれる軽いうつのこと。これは、ほとんどの場合、1週間ほどで自然に治ります。

□更年期うつ病

 閉経をはさんだ前後5年くらいまでの期間を「更年期」といい、この期間に起こる心身のトラブルを「更年期障害」といいます。のぼせやめまい、多汗、食欲不振、肩こりなどの身体症状とともに、憂うつ感やイライラ、不安がつのることもあります。

 上のようなトラブルに心当たりのある人は、早めに婦人科を受診することをおすすめします。ホルモンバランスを整える薬や精神安定剤などを服用しながら治療していくのが一般的です。また、以下のポイントを参考にしながら、ストレスをためないようにゆとりをもって過ごすことも大切です。

■女性のうつ対策 まずはこの5ポイントを!

 では、女性がうつを避けるためには、日ごろからどんなことに注意したらよいでしょうか? ここでは、まずおさえたい5つのポイントをご紹介しましょう。

□1. 1日に30分でも自分の時間をもつ

 忙しい女性は、なかなかまとまって自分の時間をとれないものです。でも、細切れでもいいので、ちょっとでも時間ができたら、自分の好きなことに没頭しましょう。手がすいたときにすぐに取り掛かれるよう、リビングやキッチンなどに趣味のアイテムをおいておくとよいでしょう。

□2. 周囲の多様な意見に惑わされない

 育児や家事などについて、周りの人があれこれ意見をさしはさむため、どれを信じたらよいのかわからなくなることも多いでしょう。多すぎる情報にさらされているのも、心の負担を増やすもとです。自分がいいと思ったことを信じて、それ以外の「雑音」は聞き流すようにしましょう。

□3. 休めるときにはしっかり休む

 睡眠時間を削ってまで完璧にこなそうとしないこと。「疲れたな~」と思ったら、ゆっくり体を休ませましょう。また、日々の暮らしの中でも、疲れたらちょこっとお茶の時間をとるなど、根を詰めてがんばり過ぎないようにしましょう。

□4. 自分ひとりで抱え込まない

 “がんばり屋さん”ほど、人に頼るのが苦手なものです。なんでも自分ひとりでこなそうとせず、夫や家族、ご近所、友人に「ちょっと手伝って」と声をかけてみましょう。いろいろな人の手を借りることが、周囲とのコミュニケーションを円滑にすることにつながることもあります。

□5. 自分の中で優先事項をしっかりもつ

 「今週はこれとこれをやる」「ほかのことが中途半端になっても、これだけはしっかりやる」など、常に優先事項を決めて取り掛かることが大切です。どんな忙しい人でも、「1日は24時間しかない」ということをいつも心にとどめておきましょう。

認知症 初期症状に気づくための11の質問

認知症とは、病名ではなく、何らかの原因で脳が障害され、記憶力や判断力などの認知機能が低下して「一人暮らしが困難な程度にまで、日常生活に支障が出る状態」を指す。

「認知症の患者さんは、自分が病気だという自覚が少ないので、周りの人が早く気付くことが大切です」とアドバイスするのは群馬大学 教授の山口晴保(やまぐち・はるやす)さん。認知症を見極めるポイントを教えていただいた。

* * *

認知症は、早期に発見して、早期に治療を開始すれば、よい状態を維持することにつながります。また、家族や周囲の人が患者さんとの関わり方を身に付け、早期から対応することが大切です。

しかし、年をとるとともにもの忘れは増えてくるものですし、認知症はゆっくり進むので、それが年相応なのか認知症なのかを判断することは、簡単ではありません。

認知症では、まず生活管理能力が衰えてくるので、「同じことを何回も話したり、尋ねたりする」「計画を立てられなくなった」ことの有無など、生活の様子を11項目の質問にまとめました。

質問項目のうち、3項目以上に該当すれば、認知症が疑われます。実際に認知症と診断された患者さんの場合、6項目程度に該当しているケースが多く見られます。

■家族の理解が大切

これらの質問は、当てはまる数はもちろんですが、「誰が答えたか」が重要です。これらの質問は基本的に、生活の様子を客観的に評価できる家族に答えてもらうためにつくってあります。

本人が評価すると、家族が評価するよりも当てはまる項目が多くなることがあります。そのような人の中には、心配性だったり抑うつの傾向がある場合があります。

また、認知症の一歩手前の状態の人の場合もあります。認知症の手前では、自分の状態を自覚できるからです。

家族が評価した場合、病状が進行するにつれて、該当する項目の数が増えていきます。しかし、認知症では、病状が進行するほど、本人の自覚が薄れてしまう(病識が低い)という特徴があります。

そのため、本人が評価すると、発症までは家族の評価とあまり差はありませんが、軽度の認知症では家族よりも少なく答え、中等度になると、さらに少なくなり、家族の評価との差が広がります。

家族や周囲の人は、認知症の患者さんは、自分の病状について自覚が少ないことをよく理解して関わることが大切です。例えば、本人が「自分はできる」と思っていることを、家族が「できない」と指摘すると、患者さんは不満に思い、場合によっては暴言や暴力などに結び付くことがあります。

■『NHKきょうの健康』2014年5月号より

心の病 休職中の生活守る

うつ病などの精神疾患で働けず、長期間の休職を余儀なくされると、経済的な不安も増す。メンタルヘルスの不調にはどんな生活保障や支援制度があるだろうか。

出費は続く

 精神疾患で勤務先を休むことになっても、急に生活費を抑えることは難しい。また、生命保険や厚生年金の保険料、住民税などは給料が出なくても支払いが必要。ローンや子供の教育費を抱えていればさらに負担は大きい。

 かといって、無理に出社するのは禁物だ。社会保険労務士の池田直子さんは「出ては休むを繰り返すのは本人も勤務先にも良くない。しっかりと治してから復職するのが基本」と話す。

 会社員や公務員などの勤め人が、仕事を休んだ期間の保障として、池田さんは〈1〉会社独自のサポート〈2〉健康保険の傷病手当金〈3〉団体向け所得補償保険の活用〈4〉公的支援制度――を挙げる。順を追って確認しよう。

給料の3分の2出る

 会社を休み始めると、まず有給休暇を消化するのが一般的。日数は企業や勤続年数で異なるが、法律で、勤続半年以上で10日、6年半以上で20日などと最低限の日数は決まっている。有休を使い切っても、期限を過ぎた有休を積み立てて使える積立年休や、欠勤期間の賃金保障制度を設けている会社なら、所定の期間内は給料が出る。

 欠勤が続いて給料が出なくなった場合、健康保険から支給されるのが〈2〉の傷病手当金だ。病気やけがで働けない時の保障制度で、精神疾患も対象。おおむね給料の3分の2相当額が最長1年6か月間、非課税で受け取れる。

 症状が改善せず退職した場合でも、在職中に健康保険に1年以上加入していた人は、手当金の受給を継続できる。

 病気やけがの減収リスクに備える民間の所得補償保険はどうか。実は、個人向けの商品は精神疾患を対象外とするものがほとんど。

 ただ、企業単位で加入する「団体長期障害所得補償保険」(GLTD)は、精神疾患をカバーしているものが多い。日立キャピタル損害保険の商品は、特約で「健康な時の月収の60%」「月額20万円」など設定に応じた額を最長2年間受け取れる。

 同様の保険は大手損保も扱い、会社が窓口となり、従業員の任意加入としている場合もある。勤務先が加入しているか確認してみるといい。

公的支援も

 うつ病などで精神科医から所定の診断を受けた人は、通院医療費や薬代の自己負担が3割から1割に軽減される公的制度がある。また、精神障害の重さによっては、障害基礎年金や障害厚生年金が受け取れる場合もある。

 詳しい支援制度や申請窓口については、厚生労働省の「みんなのメンタルヘルス総合サイト」や、NPO法人地域精神保健福祉機構が制作した小冊子「メンタルヘルス12の福祉サービス」(税込み124円)も参考になる。同機構の桶谷肇事務局長は「支援制度などに関する様々な情報を、患者や家族は知識として持ってもらいたい」としている。

患者95万人15年で2.2倍

 厚生労働省の2011年の患者調査によると、うつ病などの気分障害の患者数は約95万8000人と15年前の2・2倍に増加した。

 同省の別の調査では、11年11月から1年間でメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業、または退職した労働者がいる企業の割合は、規模1000人以上で92%、同500人以上で77%、同300人以上で65%となっている。

 日本生産性本部メンタル・ヘルス研究所のアンケート(12年)では、「心の病」が最も多い年齢層として40代(36%)、30代(35%)を挙げる上場企業が多く、働き盛りのメンタル疾患が社会問題化。政府は、企業が原則年1回、全従業員に対してストレスチェックを行うことを義務化する方針だ。

「歩幅」の狭い人は注意して! 認知症発症リスクとの関係

健康のために、誰もがお金をかけずに始められるウォーキング。特に「速歩」は驚くべき効果があることが、最近の研究からわかってきた。健康寿命を延ばす歩き方のポイントを紹介する。

 長野県松本市のアイさん(仮名・75歳)の日課は、夜の“速歩”。近所のウォーキングコースを30分間かけてスタスタと歩く。氷点下になる同市の真冬でも汗をかくほどの運動量だ。

 速歩を始めたのは今から13年ほど前で、市の健康診断で「問題アリ」と指摘されたことがきっかけだ。一念発起して速歩を始め、毎日の食事を記録するようになったら、体重は当時より8キロ落ち、健康診断の結果も「問題ナシ」となった。

「実は1月に雪道でスッテンって転倒しちゃってね(笑)。念のためにお医者さんに診てもらったけれど、大丈夫でした。ただ、後頭部にたんこぶができて、10日ほどはゆっくりしていましたけれど」

 アイさんはそう言って笑うが、高齢者にとって転倒は骨折や寝たきり、ひいては認知症などにつながる重大なアクシデントだ。それを軽く笑い飛ばすとは、スーパー高齢者でしかない。

 そんなアイさんを「目標の人」とし、速歩を始めて10年目になるのがケイコさん(仮名・69歳)だ。

「速歩って歩き始めはきつくて大変だけれど、途中からは慣れてきて、苦にならなくなる。歩き終わると、汗をかいて気分もサッパリです」(ケイコさん)

 世界的に見てトップレベルの長寿国である日本。だが、その一方で日常生活に制限のない期間を示す「健康寿命」をみると、男性が71.19歳、女性が74.21歳(2013年)で、平均寿命との差は男性で約9年、女性で約12年もある。つまり、約10年もの間、何らかの介護支援が必要になるわけだ。

 ピンピンコロリで人生を終わらせるためには、できるだけこの差を縮めたいところだが──。

「健康寿命を延ばす方法が、近年の研究で次々と明らかになってきました」

 こう語るのは、東京都健康長寿医療センター研究所(板橋区)研究員の谷口優さんだ。気になるその方法とは、“歩行”。実際、歩行と健康寿命の関係を示した研究結果が国内外で報告され、エビデンス(科学的根拠)が蓄積されてきたという。その一つが、今年1月に海外の科学雑誌に掲載されたばかりの超最新研究で、「歩行の状態が将来の認知症の発症リスクと関連する」という報告。谷口さんらが行ったものだ。

 この研究は、群馬県内で毎年実施されている住民の特定健診の受診者が対象。02~14年に受診した高齢者のうち、認知症でない1686人(のべ6509人)について最大歩行速度などの変化と認知症の発症リスクとの関連を調べた。

 研究期間中に認知症を発症した人は、対象者の11.6%にあたる196人。これを、「歩く速度が速く保たれる群」「中程度の歩行の速さの群」「歩行速度がどんどん遅くなる群」に分類したところ、速く保たれる群を「1」とすると、中程度の速さの群では1.53倍、どんどん遅くなる群では2.05倍認知症の発症リスクが高くなっていた。

 また、歩行速度で重要なのは「歩調(歩くテンポ)」より「歩幅」だと判明。今回の研究でも「歩幅がどんどん狭くなる群」のほうが「歩幅が広いままで保たれる群」より認知症の発症リスクが2.8倍高くなる傾向にあった。

「どんな人でも、年齢を重ねると筋肉がやせてきて、歩く速度が遅くなったり、歩幅が狭くなったりします。本研究でわかったのは、通常の加齢変化に比べ明らかに早く歩行機能が衰える人がいて、この変化がみられた数年後に認知症を発症している人が多いということです」(谷口さん)

 参考までに、同研究で歩く速度が「どんどん遅くなる」と分類された群の歩行速度は、男性の70歳が1.76メートル/秒(単位は以下同)、80歳が1.55、90歳が1.34。女性ではそれぞれ1.44、1.18、0.92だった。一方、「歩幅がどんどん狭くなる」と分類された群は、男性の70歳が73.6センチ(単位は以下同)、80歳が62.2、90歳が50.9、女性ではそれぞれ63.8、53.4、43.0だった。

 こうした歩行速度や歩幅について、測定を受けたことのない人もいるだろう。歩幅については次のような方法で自己チェックができるので、やってみよう。

「横断歩道を渡るときに、白線を踏まずにまたぐことができていたら、合格点。横断歩道の白線は約45センチ幅でひかれています。足の大きさを考えると、つま先が白線上にあって、次の一歩のかかとが白線を越えていれば歩幅は約65~73センチになります」(同)

 ところで、なぜ脳からもっとも遠い位置にある足腰の機能が認知症と関連するのだろう。そんな疑問に対し、谷口さんはこう説明する。

「歩くという動作は単純そうですが、実は脳では複雑な処理が行われています。目や足から伝わる情報を脳は瞬時に処理し、次の一歩を踏み出すように筋肉に指令を出します。このとき、障害物や路面の状態、体のバランスに応じた適切な歩幅になるように計算しています。歩行動作は、複雑な脳の情報処理や神経伝達が必要とされる動作なんです」

 こうしたことから近年、認知症と歩行速度との関連が注目され、脳の画像検査や血流検査を用いた研究がさかんになった。そして、歩行動作に脳の多くの部分がかかわっていることがわかってきたという。

共働き家庭は要注意 老親の「孫離れうつ」をどう防ぐか

認知症と並んで高齢者に多い病気のひとつに「老年期うつ病」がある。その引き金には定年退職や失業、配偶者との死別などが挙げられるが、最近目立ってきているのが「孫離れうつ」だ。どんなうつ病なのか、専門医に聞いた。高齢になって発症するうつ病で多いのは「喪失体験」をきっかけとするもの。老年精神医学を専門とする北里大学北里研究所病院・精神科の高橋恵部長は「孫離れうつも、そのひとつのタイプ」と言う。

「両親が共働きする家庭が増えて、保育園の空きもなく、子供の世話を祖父母がしているケースが一定数います。そのような家庭で孫の面倒に生きがいを感じていた祖父母が、孫が成長して役割を失うと、その喪失感からうつ病を発症してしまうことがあるのです」 孫離れの喪失感は、保育園や幼稚園の送り迎えをしていて小学校に入学したことで感じるケース、思春期や反抗期を迎えて「ババア」「うざい」などの暴言を言われて感じるケース、孫が社会人になって家を出ることで感じるケースなど、人によってさまざまだという。

「逆に、うつ病だった高齢者が、孫が大学生になって同居するようになって症状が改善するケースもあります。とはいえ、その同居がストレスになる場合もあるので、人によってプラスにもマイナスにもなります。いずれにしても前の生活と今の生活の落差が激しいと、うつ病発症のきっかけになりやすい。新年度を迎える春は、その転機になるので注意が必要です」

 孫離れうつの予防は、とにかく孫の世話だけにのめり込まないこと。自分の趣味や他者との交流の時間を増やして、孫がいなくなっても孤独にならない生活スタイルを維持しておくことが大切になるという。 「80代くらいになると、だんだん体力的に遠出ができなくなって他人との交流が少なくなり、孤独になる人が多い。ですから隣近所など、60代くらいから自分の住んでいる地域での交流を少しずつつくって、大事にしてもらいたいと思います」

 老年期うつ病は、周囲から見ても認知症なのか、うつ病なのか分かりにくい。しかし、認知症では「抑うつ気分」はあまり強くなく、自分の能力低下をとりつくろう(認めない)傾向がある。記憶障害を強く自覚するようなら、うつ病の可能性が高いという。

 次の症状があるようなら受診した方がいい。

①何をやっても楽しくない
②食欲がなく、体重が減る
③眠れない(高齢者では朝早く起きてしまう睡眠障害が多い)

■認知症リスクが2倍に

 ただ、高齢者は精神科の受診に抵抗感があり、自ら受診しない人が多いのも問題だという。 「70代、80代の方は“気の病”は病気ではないと思っている人が多い。しかし、この世代に起こりやすい腰痛や膝痛などの持病の痛みはうつ病のリスクファクターになります。また、痛みを訴えて検査しても異常がなく、実は心の病が痛みの原因ということも少なくありません」

 孫離れうつでは軽症の場合が多いので、実際に受診しても薬は使わず、環境を整えるだけでよくなるケースもあるという。 たとえば、本人がやりがいを持って参加できる地域ボランティアなどの活動を探す。孫の代わりとなる“生きがい”を見つけるのだ。 「うつ病になった人は、2倍、認知症になりやすいといわれます。運動や他者との交流を積極的に行うことは認知症の予防にもなるのです」

【知れば怖くない認知症介護の実情】副作用出やすい薬漬け「多剤併用」対策 認知症を悪化させることも

 近年、医療分野では「ポリファーマシー対策」がキーワードになっている。ポリファーマシーとは、多量の薬剤が処方された「多剤併用」と呼ばれる状態のことだ。一般的には6種類以上の薬を飲んでいると副作用が出やすくなると言われている。

 さまざまな疾患を抱えて、複数の診療科を受診する高齢患者は少なくない。結果、処方される薬が積みあがる。持病の多い人の中には10~20種類もの薬を飲む人もいる。

 こうした“薬漬け”の状態が、認知症の症状を悪化させることがある。在宅医療で認知症治療に取り組む「たかせクリニック」(東京都大田区)理事長の高瀬義昌医師は、著書『認知症、その薬をやめなさい』(廣済堂出版)のなかで、高齢者は「薬の作用が強く出やすいので、薬の使用法には細心の注意が必要」と警鐘を鳴らす。

 本書では薬の副作用による症状が、薬を減らすことで劇的に改善した症例が多数紹介されている。「せん妄」で夜中に大声を出す87歳の男性。幻覚、抑うつの症状に悩む93歳の女性。それぞれが、不要と思われる薬を変えたり、減らしたりした結果、多剤併用による副作用が抑えられたという。

 ポリファーマシー対策として2015年、日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を作成。薬物による高齢者への有害事象を防ぐため、「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストを示した。

 国が定める調剤報酬では16年度から、多剤併用の患者の処方薬剤数を減らすと医療機関が増収するルールを導入している。

 医師や薬剤師の意識は確実に変容しつつあるが、患者側も薬と上手に付き合う工夫が必要だ。複数の診療科にかかる場合でも、処方薬を受け取る「かかりつけ薬局」を1カ所に決めておけば、薬剤の重複が避けられる。高齢者のみならず、現役世代にもお勧めの対策だ。

 前出の高瀬医師は、「認知症の治療は薬1・5割、ケア8・5割」と指摘する。認知症の人の心身の調子が良ければ、薬を減らせられる。そのためには、家族やケアに関わる人が認知症について理解を深めることが重要だという。要は薬とケアの適正化がポイントなのだ。

 薬を見直せば認知症の症状が穏やかになり、その結果、介護家族の負担も和らぐ-。そんな好循環をつくるためにも、過度な薬頼みの発想は捨てよう。 

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「睡眠不足だと認知症になりやすい」はウソ・ホント?

この記事では、今知っておきたい健康や医療のネタをQ&A形式で紹介します。ぜひ、今日からのセルフケアにお役立てください。

【問題】睡眠不足は脳の働きに大きな影響を与えることが知られていますが、近年、睡眠時間が短い人は、アルツハイマー病の発症率も高いことが分かってきました。これってホント? ウソ?
.
(1)ホント
(2)ウソ

 正解は、(1)ホント です。

徹夜明け、ボーッとしてうまく頭が回らない――。そんな経験はありませんか。睡眠不足は脳の働きに大きな影響を与えます。 「睡眠不足の日が何日か続くと、明らかに記憶力や認知能力が衰えることが分かっています」と話すのは、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック(横浜市港北区)の白濱龍太郎院長です。

■しっかり眠っている人は記憶力が高く、成績も良い

 「記憶を司るのは脳の海馬という部分ですが、睡眠時間が少ない子供はこの海馬の体積が小さくなっています。成人を対象にした研究でも、しっかり睡眠時間を取っている人の方が記憶力が高いというデータが出ています」と白濱院長。例えば、米国で120人の高校生を対象に「睡眠時間と成績の関係」を調べた研究では、成績の良い生徒ほど睡眠時間が長く(7時間半程度)、就寝時刻が早い(22時半ごろ)という結果が得られました(図)。

 さらに、「慢性的な睡眠不足は将来の認知症にもつながる」と白濱院長は警告します。 認知症には「脳血管性認知症」や「レビー小体型認知症」などもありますが、圧倒的に多いのはアルツハイマー病。この病気は「β(ベータ)アミロイド」(アミロイドベータ)というたんぱく質が脳にたまって、脳の神経細胞を破壊することで起こります。

 「たまったβアミロイドは睡眠中に処理されます。年をとるとメラトニンというホルモンの分泌が減り、眠りが浅くなるため、βアミロイドがたまりやすくなる。日中に増えたβアミロイドを消すためには6時間半以上の睡眠が必要です」と白濱院長は話します。睡眠不足が続くと、脳内のβアミロイドを処理しきれず、返せない借金のように、どんどんβアミロイドが増えていき、アルツハイマー病を発症する危険性が高まるというわけです。

 「実際、睡眠時間が短い人はアルツハイマー病の発症率が高いことが分かっている」と白濱院長。2015年には、脳内にβアミロイドが増えると睡眠の質が悪くなり、さらにβアミロイドがたまりやすくなる悪循環を引き起こすことを示唆する研究結果も発表されています(Nat Neurosci. 2015 Jul;18(7):1051-7)。

1999年の画期的な抗鬱剤の日本上陸が鬱病大発生させた原因か

ほんの15年ほど前まで、うつ病は日本人にとってそれほど身近な病気ではなかった。1990年代後半まで、うつ病患者数は40万人前後で、ほとんど増減しなかった。フジ虎ノ門健康増進センター長で精神科医の斉尾武郎氏がいう。

「1990年代後半までは、精神科で治療の対象となる患者は、強い妄想を抱いたり、自殺の恐れがあったり、通常の生活を営むことができない重篤な症状を持つ人だけでした。

だから、研修医を受け入れるような大病院でもうつ病患者は数えるほどしか入院していなかった」

 しかし、2000年代に入ると患者数は右肩上がりで増え、1996年には40万人超だったものが2008年には100万人を突破。それに伴い、日本の抗うつ薬の市場規模も1996年の8倍と爆発的に伸びている。

 最近では、うつ病は深刻な社会問題にまでなっている。精神疾患を抱える人が学校に通えなかったり、会社を長期休養したりするケースが頻発しているからだ。

なぜ、1990年代までは病名さえ一般的でなかったうつ病の患者が、ここまで増えてしまったのか。

 一般的に、日本でうつ病が増えた原因は、「バブル崩壊後の日本経済の停滞」や「非正規労働者の増大」「グローバル競争の苛烈化」など、経済状況や労働環境の悪化の文脈で説明されてきた。

しかし、それだけでは2000年頃から爆発的に増加した理由にはならない。

 パナソニック健康保険組合メンタルヘルス科東京担当部長の冨高辰一郎氏の著書『なぜうつ病の人が増えたのか』(幻冬舎ルネッサンス新書)によると、イギリスやアメリカでは、日本より約10年先行してうつ病患者が増えている。

その増加曲線を経済の好不調に照らし合わせると、不況だからといってうつ病患者が増えるわけではなく、それらの因果関係は薄いという。

 それではなにが原因なのか──。実は1999年、日本に新しい“画期的”な抗うつ薬が上陸したのだが、それがうつ病を大発生させたと見られているのである。

「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」。1999年に初めて日本で認可されたこの薬は、セロトニンの血中濃度を高めることによって、うつ症状を軽減させようというものだ。

現在、フルボキサミン(商品名デプロメール、ルボックス)、パロキセチン(同パキシル)、セルトラリン(同ジェイゾロフト)、エスシタロプラム(同レクサプロ)の4種がSSRI系の抗うつ薬として日本で認可されている。

「これらSSRIの登場によって、日本のうつ病を巡る環境は一変した」と、前出の斉尾氏が語る。

「私うつかも?」って時に絶対やっちゃいけないこと4つ

「もしかして私、うつなのかも?」と思った時に、どう対処するかでその後が変わってきます。

ここでは、セラピストの紀野真衣子さんに教えてもらった“メンタルの調子が優れない時に絶対してはいけないこと”を、4つお伝えします。

普段から以下の傾向がある方は気をつけてくださいね!

■1:自分を責める

「真面目で責任感の強い方がうつになりやすいと言われています。 これくらい出来なくてどうするの!?と自分を責めたり、頑張ればできるはず!と無理してやろうとしたりすると、状態は悪化してしまいます」

できなかったことではなく、これまで成し遂げてきたことを思い出すようにしましょう。

■2:楽しいと思うことを我慢する

「やらなきゃいけないことはできないのに、楽しいことはできる。そんな自分を責めて楽しいと思うことを我慢するのはよくありません。 万が一“何も楽しくない”という状況に陥ったときは、“楽しめることを探す”というステップから始めるのもいい方法です」

自分が好きだったものや、リラックスできる空間を見直してみましょう。

■3:嫌なことに目を背ける

「えっ、嫌なことから目を背けてはいけないの?」「無理したらうつは悪化するんじゃないの?」と思う人もいるかも知れませんが、そうではないと紀野さんはいいます。

「これは“仕事や人間関係から逃げるな、戦え”ということではありません。“嫌だと思うこと”をなかったことにしない、自分をごまかして平気なふりをしないという意味です。 自分が何を嫌だと思っているかを把握しましょう」

自分の気持ちをきちんと整理することが必要です。

■4:薬やアルコールに頼る

安易な解決策はよい結果をもたらさないものです。

「うつ気味になるとどうしても寝付きが悪くなります。 そんなとき、安易に睡眠薬やアルコールに頼ってしまうと薬物依存、アルコール依存などの新しい問題ができてしまいます。リラックス効果のあるCDやアロマなどで眠りにつくようにしましょう」

アロマには眠りを深くする効果があるものがあります。

「精神科にかかったうつ病の患者さんから、“話を聞いてほしいのに薬ばかり出された”という話をよく聞きます。軽度のうつでも、最初のケアを間違えば後々大変なことになってしまいます」と紀野さん。

さらに、「もしうつかも、と思ったら、無料電話相談にかけてみることをおすすめします(いのちの電話、地域の保健福祉センターなど)。“自分で自分を振り返ってみたい……”と思う方は、認知行動療法の本を買って自分でワークするのもよいでしょう」とアドバイスをくれました。

糖尿病になってしまったら……何とか予防したい合併症

糖尿病糖になると糖尿病そのものの症状だけでなく、病気の進行と共にいろいろな合併症が起こってきます。現在の糖尿病治療はとても進歩していますから、今では糖尿病患者の人生を左右するのは合併症の有無、そして、その程度であると言えます。

 人生を全うするには合併症を予防する、あるいは折り合いをつけなければなりません。

■糖尿病の合併症はどこまで予防できるか?

 合併症は予防できますし、初期の症状があっても進行を止めて元に戻すことも可能です。ポイント・オブ・ノーリターンと言って、たとえば飛行機が離陸の際にある速度に達すると、もう飛行中止が出来なくなるポイントがあるように、合併症予防にも超えてはならないポイントがあります。

ただ残念ながら、糖尿病合併症のポイント・オブ・ノーリターンはほとんどが自覚症状がない時点です。だからこそ定期的な検査を守ることが必要なのです。

■糖尿病と糖尿病合併症予防法……WHOによる3段階の予防

□1次予防

 生活習慣を改善して、遺伝的に糖尿病リスクが高い人の発症を阻止する活動です。平成20年度からの特定健診、特定保健指導、いわゆるメタボ検診がそうですが、肝心の糖尿病予防には日本独自のメタボ検診の腹囲やBMIの選定基準を入れてはなりません。

つまり、腹囲が男性<85cm、女性<90cm、BMI<25でも血糖検査をして糖尿病診断の基準に従うべきなのです。腹囲にこだわると、せっかくの早期発見の機会を失うことになります。標準体型でも糖尿病の人はいくらでもいるのですから。

□2次予防

 まだ糖尿病と診断されていない人を早期に発見して適切に治療することと定義されていますが、一般的には糖尿病が原因となって起こる合併症の発症予防を指します。

□3次予防

 合併症がすでに発症している糖尿病において、合併症がさらに進行して重篤な臓器障害を起こさないようにすることです。

■糖尿病の2次予防やケアはどこまで可能か?

 2013年12月にメルボルンで開かれた国際糖尿病連合(IDF)世界会議に合わせて、英国糖尿病協会(Diabetes UK)は糖尿病患者が安心できる生活を送るための15の基本的なチェックケアのリストを発表しました。

なお、英国では制度上は自由に医師を選ぶことが出来ず、診察も医療機関の都合でいつでも先延しされますから、内容によっては日本の現状とあわないことがありますが、その点は含んでお読みください。

1. 血糖測定を少なくとも年1回は受けよう。HbA1c測定はあなたの血糖コントロールを示し、医療チームの判断の元になる

2. 血圧を少なくとも年1回は測定記録して、あなた自身の目標を決めてもらう

3. 毎年、血液中の脂質(コレステロールのような)を測定し、実現可能な数値目標を立ててもらう

4. 糖尿病網膜症の検査を毎年受けること

5. 足の検査を毎年受けること

6. 腎機能の検査を毎年受けること

7. 体重測定をして、減量が必要かどうか、腹囲を計測してもらうこと

8. 喫煙者は禁煙のためのサポートを受けよう

9. 「自分だけの治療計画とアクションプラン」を糖尿病ケアチームと立てる

10. 糖尿病教室やイベントに参加すること

11. もし、あなたが子どもや若者なら、糖尿病専門医のケアを受けるように

12. もし、あなたがいかなる理由で入院するようなことになっても、糖尿病専門チームの配慮があるケアを受けられるように

13. 妊娠/出産を計画しているのなら、糖尿病者の妊娠/出産のスペシャリストのサポートを受けること

14. 糖尿病は全身の病気で生活習慣の改善も必要です。各分野のスペシャリストの協力を得よう

15. 感情や心の問題も、その分野のスペシャリストの支援を受けること。糖尿病と共にある長い年月はつらいことなのです

 糖尿病治療においては、すべての患者が適合すべき最低限の水準があると英国糖尿病協会の責任者が語っています。この15リストの検査項目は、それこそ最低限ですが、糖尿病治療を中断するとこれ以下になり、合併症の2次予防はできません。

また、糖尿病ビギナーは以上のチェックリストを担当医が配慮してくれると思いがちですが、必ずしもそうとは限りません。糖尿病は患者自身が治療チームのリーダーにならないと、合併症予防はとてもできるものではないのです。

■糖尿病の3次予防はどこまで可能か?

 糖尿病があっても、長寿かつ健康な人生を送るための戦略は、なんと言っても合併症が始まる前にストップさせることです。だから、1次予防、2次予防が大きな結果につながるのですが、残念ながら合併症がある場合でも、あきらめてはいけません。

ベストを尽くして進行をストップさせましょう。また、医師や研究者たちも次のような新しい治療法や薬の開発に取り組んでいます。希望を持ちましょう。

■糖尿病合併症としての心血管病

 名前から心臓病と思いがちですが、心臓と脳の血管障害を指します。心臓発作や脳卒中を防ぐには、血圧・コレステロール・血糖を目標レンジに収めることと禁煙ですが、最近は早発性動脈硬化も発見できるようになりました。

米国では心臓発作を起こした人の約50%は冠動脈疾患の前兆がなかったのです。

血液中のマーカーであるC反応性タンパク、フィブリノーゲン、ホモシステイン、リポタンパク(a)などの検査や、電子ビームCT、頚動脈エコー等の進歩があります。

 心臓弁の交換も開胸せずに血管経由でできるようになりましたし、抗血小板剤のプラヴィックスも特定の遺伝子を持つ患者にはよく効くことを研究者は知っています。

■失明につながることも……目に起こる糖尿病合併症

 多くの研究が血糖と血圧のコントロールが糖尿病網膜症の予防になることを証明しています。失明につながる増殖網膜症や黄斑浮腫は自覚症状が出た時は手遅れなのです。

 レーザー光凝固は糖尿病者の目を救ってくれますが、そのタイミングがとても大切なので、くれぐれも治療中断をしないことです。

 網膜の毛細血管の亢進を防ぐため、抗がん剤のベバシズマブ(製剤名アバスチン)を眼球に注入する症例も報告されています。

がん細胞も血流が止まった網膜の細胞も、大量の血液を必要とするために、血管を伸ばすVEGF(血管内皮増殖因子)というタンパク質を分泌するので、それを阻害する薬が同じ作用を持つのです。

この薬は、時々とてもよく効くケースがあると報告されていますが、長期間は効果が続かないようです。同様な薬が開発中とのことです。

 すでに気づかぬ内に網膜症がある患者が、インスリンなどで急激な血糖コントロールをすると網膜症が悪化することがあります。そのメカニズムには諸説ありますが詳細は不明です。

 血糖是正は日本の熊本スタディで明らかにされたように、HbA1c値で1ヵ月あたり0.5~1%ポイント以内が望ましいとされています。網膜症の変化を見ながら徐々に行うのが原則です。

 誰でも知っているように合併症予防は血糖コントロールがなによりも大切です。どうしてもHbA1cが合併症予防の最低ラインの7%を切れないのなら医師を替えることも検討してください。自分の意志の弱さのせいにしてはいけません。

クレプトマニア、認知症…万引を繰り返す「病気」がある

万引犯のニュースを見て「なぜあの人が!」と思ったことはないだろうか? 社会的地位が高かったり、経済的に余裕があったり、万引と本人が結びつきにくい……。そんな場合は、ある病気が関係した万引かもしれない。

 話を聞いたのは、大田区にある大森榎本クリニックの斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)。「クレプトマニア」(窃盗症)への専門治療を行っている。

 クレプトマニアは依存症の一種。依存症ではアルコール依存症や薬物依存症などが知られるが、それらは物質に依存する「物質依存」で、クレプトマニアは行為に依存する「行為・プロセス依存」になる。

「自分の意志の力では窃盗行為をコントロールできない。衝動的に、繰り返し、貪欲にそして強迫的に盗んでしまう」

■「欲しいから」ではなく「窃盗のための窃盗」

「お金がないから」「どうしても欲しいから」盗むわけではない。クレプトマニアの人が求めるのは、人によって違うが、優越感や達成感で気分が変えられるなどなんらかの「メリット」だという。

 斉藤氏が担当したクレプトマニアのケースには、T字カミソリばかりを盗む人がいた。しかし、その人はヒゲを剃る時にT字カミソリをまったく使わない。化粧品やトイレの芳香剤の窃盗を繰り返す人もいたが、経済的にはとても裕福だった。

「社会的損失があっても、反復して盗む。盗むものは安価で、過去に実刑を受け『もう絶対にやらない』と言っていたはずなのに繰り返してしまう。もし家族がそうなら、クレプトマニアという病気が隠れているのではないかと疑ったほうがいいかもしれません」

 クレプトマニアと並んで、高齢期になって窃盗を繰り返すようになった場合、「前頭側頭型認知症」も疑われる。

 認知症だが「物忘れ」などの記憶障害はあまりなく、窃盗など「反社会的な行動」が目立つ場合が少なくない。本人は罪悪感がなく、なぜ盗んでしまったか理解していない。認知症の症状ゆえの窃盗だからだ。

 前頭側頭型認知症の人すべてが反社会的行動を取るわけではないが、世間に「認知症=反社会的行動」との認識が広まっていないので、「あんなことをしたのに、悪びれた様子が見られない」と批判され、実刑判決を受けることもある。

「前頭側頭型認知症であれば責任能力がないとみなされ、執行猶予判決になることもあります。当初はクレプトマニアだと思っていた人が、1審で争っているうち、話が噛み合わないことや感情のコントロールができなくなることが多々見られ、脳画像検査の結果、前頭側頭型認知症が判明したケースもあります」

 クレプトマニアにしても前頭側頭型認知症にしても、生活の中で注意深く接していないと分かりづらい。同居している家族ですら、気づきにくい。窃盗で繰り返し刑罰を受けている人の中には、クレプトマニアや前頭側頭型認知症がかなりの数、含まれているのではないかとの指摘もある。

「クレプトマニアの場合、環境が変わって病的な窃盗行動がいったん収まるかもしれません。しかしまた再発(リラプス)する可能性は高く、再び短いスパンで繰り返す。専門医療機関によるクレプトマニアの治療が不可欠です」

 前頭側頭型認知症は脳の変性が原因で、自然に治るものではない。やはり、生活支援を中心とした治療が必要だ。

 なお、未成年の頃から窃盗を繰り返す場合は、自閉症スペクトラム障害や摂食障害など別の原因も考えられる。

 万引は犯罪だ。病気だから許されるということではなく、病気が隠れているケースを見逃さず、その場合はきちんとした治療を受けることが大切なのだ。

食べる力引き出す口腔ケア 認知症患者、気持ちよさ体感大事

 認知症患者への口腔ケアのポイントについて、万成病院(岡山市)の藤原ゆみ歯科課長・歯科衛生士に寄稿してもらいました。

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 「○○さん。お口をきれいにしてもいいですか?」と認知症の患者さんに問いかけると、「歯みがきは嫌い!」と拒否されたり、厳しい表情をして口を固く閉じてしまわれることがあります。高齢者は口腔(こうくう)内が不衛生だと誤嚥(ごえん)性肺炎をはじめとした生命にも関わる感染症に罹患(りかん)する恐れがあるため、食後の口腔ケアはとても重要です。しかし、認知症の患者さんの多くは清潔に対する感覚が薄れており、セルフケア(患者さん自身で歯みがきをする)はもとよりケアの必要性を理解することも困難な状況にあります。

心が開けば口も開く 

 私たち歯科衛生士は「口のケアをしてもらったらすごく気持ちよかった」と患者さんに思っていただけるよう、心地よい口腔ケアの実践を心がけています。嫌がられる場合は無理強いせず、優しく声をかけながら1本の歯を丁寧に磨くことから始めます。最初は嫌がっていた患者さんも、痛みを感じないのがわかると閉じていた口が自然に開いてきます。強く拒絶される重度認知症の方も、時間は要しますが、「気持ちのよい口腔ケア」を体感するうちに必ず開くようになります。

習慣を呼び覚ます 

 セルフケアができそうな患者さんには、歯みがきの手順を思い出してもらうように働きかけます。歯みがきは細かい動作が多いため、何をどうしてよいかわからずオロオロと、とまどってしまうのです。歯ブラシ、歯磨き粉、コップを順番に渡し、声をかけながら動作を促すことで習慣になっていた身体記憶を呼び覚まします。また、歯みがきを行なう場所も大切で、ベッドの上ではスムーズにできなかった患者さんが洗面所へ移動すると記憶が蘇(よみがえ)り、セルフケアができるようになったケースもあります。麻痺(まひ)などの運動障害があれば動作はより困難になりますが、それでも周りの人たちのサポートによってかなり向上します。

嚥下障害への対策 

 当院には岡山大学病院スペシャルニーズ歯科センター(嚥下専門の診療科)の歯科医師が、月2回来院し、嚥下障害のある方の評価・ミールラウンド(食事観察)、必要に応じて嚥下の精密検査(嚥下内視鏡検査・嚥下造影検査)を行っています。食事のペース、一口食べるときの量、口や舌の機能・動き、飲み込みの状態、姿勢、食事形態などから患者さん一人ひとりに対してどこに問題があるかが指摘されますので、歯科衛生士はそれに対するアプローチの仕方や訓練方法を学び実践しています。

食べる力を引き出す 

 「人生最期のときまで自分の口で食べたい」ということは誰もが望むことだと思います。栄養摂取の面だけではなく、「好きなものを、誰かと一緒に、楽しく食べる」ことは人としての尊厳、より良く生きることにつながります。認知症の方は本来の症状に加え多くの障壁が立ちはだかっていますが、私たちは口腔ケア・摂食嚥下リハビリテーションを主体とする「歯科衛生士の力」を発揮し、口腔衛生とともに患者さんの「食べる力」も引き出したいと考えています。

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 ふじわら・ゆみ 岡山県岡山歯科衛生専門学校卒。歯科医院勤務を経て1992年から万成病院で勤務。2005年から現職。元岡山県歯科衛生士会会長、元日本歯科衛生士会理事。岡山県歯科衛生士会監事。日本老年歯科医学会歯科衛生士関連委員会副委員長、日本歯科衛生士会認定歯科衛生士。

老後も安心! 認知症にならないための眠り方

◆高齢者の20人に1人が認知症による睡眠障害

歳をとるにつれて睡眠の質が悪くなり、不眠症になりやすくなります。不眠症状がある人は、すべての年齢で見ると5人に1人ですが、65歳以上の方では約半数が不眠症状を訴えています。さらに慢性的に不眠に悩む人は、全年齢では10人に1人なのに、65歳以上に限ると5人に1人と倍増します。

高齢者に多い睡眠障害は、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群、周期性四肢運動障害ですが、うつ病や認知症による睡眠障害もよくみられます。認知症による睡眠障害は、65歳以上の高齢者の5%がかかっている、と報告されています。

アルツハイマー型認知症になると、初めのころは記憶を司る脳の部分が主に障害を起こします。認知症が進行すると、脳のほかの部分も異常をきたし、生体リズムの中枢である体内時計が壊れると、睡眠と覚醒のリズムがおかしくなり、睡眠リズム障害を起こします。

また、昼間は眠ってばかりいて夜に目覚めて騒ぎ出す、昼夜逆転の生活になる人がいます。睡眠と覚醒がバラバラに現れる「不規則型睡眠リズム障害」の形をとることもあります。このような認知症の方の睡眠障害は、介護する人の負担を増やし、さらには介護者の睡眠障害を引き起こすことが多く、介護の世界では大きな問題になっています。

まだ聞きなれないかもしれませんが、最近増えている認知症の1つに「レビー小体型認知症」があります。この病気は認知症状のほかに、身体が硬くなるパーキンソン病に似た症状や、実際にはないものが見える幻視があります。

睡眠に関する症状としては、「レム睡眠行動障害」が見られます。健常な人なら、夢の中でとった行動を実際にすることはありません。しかし、レム睡眠行動障害になると、たとえば喧嘩をする夢を見たときに、実際に腕や脚を振り回して隣で寝ている人に危害を加えてしまうことがあります。ごくまれですが、殺人事件に発展してしまうこともあります。
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◆認知症にならないための眠り方

高齢者が一般的な睡眠薬を使うと、翌日まで催眠作用が持ち越されるなど、副作用が起こりやすくなります。そのため、認知症による睡眠障害の治療では、睡眠薬の服用はなるべく控えて、睡眠環境を整えたり生活習慣を良くすることが大切です。

睡眠の状態が悪いと、認知症になりやすいこともわかってきました。習慣的に1時間以上の昼寝をしていた人は、そうでない人に比べて認知症になる確率が2倍になります。一方、毎日30分以内の昼寝をとっていると、認知症になる人を5分の1に減らすことができます。

認知症にならないため、高齢者に勧められている生活習慣や睡眠環境を以下にご紹介します。

□睡眠環境を整える

暗くて静かな部屋で眠りましょう。真っ暗が不安なら、豆電球のフットライトを点けておきます。眠りやすい寝室の温度は16~26℃、湿度は50~60%です。エアコンなどを上手に使って、温度と湿度を調整してください。

□十分に日の光に当たる

光は覚醒度を上げる大切な要因です。日中、明るいところで過ごすと、覚醒と睡眠のリズムにメリハリがついて、夜にはグッスリと眠れます。

□定時の就床と起床を心がける

特に、目覚める時刻を一定にすると、体内時計がきちんと働いてくれます。目覚めて明るい光を見た時刻から14~16時間たつと、睡眠ホルモン・メラトニンが分泌されて、自然に眠くなってきます。

□上手に昼寝する

午後3時までに30分以内の昼寝なら、認知症の予防にもなります。それ以降の長い時間の昼寝は、夜の睡眠の質を悪くするので止めておきましょう。また、ベッドや寝床は、睡眠のためだけに使いましょう。

□定時の食事や運動を心がける

睡眠の目的の1つが、心身の疲労回復です。活動量が少なければ、あまり眠らなくても良いというわけです。日中にしっかり身体と頭を使っておけば、夜には疲れて眠くなってきます。

□夕方以降に水分を摂り過ぎない

熱中症や脱水症の予防のため、必要な水分をとることはとても大切です。しかし、夜中に3回以上もトイレのために目覚めるときには、眠る前の水分量を見直してみてください。

□過眠や不眠の原因となる薬剤に注意

夕食後はカフェインやニコチンを摂らないようにしましょう。降圧薬や副腎皮質ステロイド、パーキンソン病治療薬、抗うつ薬などの中には睡眠障害を起こすものもあります。薬が原因と考えられる場合には、主治医と相談してみてください。

□ 痛みや痒みに十分対処する

ストレスよりも身体の症状のほうが、不眠の原因になりやすいことがわかっています。高齢者に多い関節や首・腰の痛み、身体の痒みは、シッカリ治療しておきましょう。

□アリセプトの午後以降の服薬を避ける

アルツハイマー型認知症を発症したら、治療薬である「アリセプト」はなるべく朝に服用しましょう。この薬は脳を活性化する作用があるので、午後以降に飲むと夜に眠れなくなることがあります。生活習慣や睡眠環境に少し気をつけるだけで、認知症になりにくくなります。また、認知症になっても、グッスリ眠ってスッキリ目覚められれば、穏やかな日々を過ごすことができます。ここにあげた項目のうち、1つでも良いですので、今日から実行してみてはいかがでしょうか。

認知症の原因に? 注意したい薬の重複と飲み合わせ

高齢者の薬の問題で家族がまず心配するのは薬の飲み忘れだが、問題は飲み忘れだけではない。高齢になると持病が増えて、薬が増えてくる。それに伴い、副作用や飲み合わせなど、気を付けなければいけない問題も増えてくる。持病で飲んでいる薬が認知症の原因になる可能性も!そんな高齢者の薬の問題について、前回「その薬の飲み忘れ 『認知症の始まりかも』を考えよう」に引き続き、東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病学)教授の秋下雅弘さんに話を聞いた。

■薬が増えると認知症のリスクも増加!

 高齢者の場合、複数の病気で複数の病院に通院している人も多い。病気の数が増えればその分、飲んでいる薬の数も増えてくる。厚生労働省の「2015年社会医療診療行為別統計」によれば75歳以上の高齢者の約4人に1人が7種類以上の薬を使っているという。 「高齢者では、処方される薬が6種類以上になると、薬の副作用を起こす人が増えることが分かっています」と秋下さんは話す。

 薬の副作用が起こる最も大きな原因は薬の重複だ。複数の病気を抱えている人は、内科、整形外科、耳鼻科など複数の医療機関を受診している場合が多い。そうすると、それぞれの医療機関の医師から薬が処方される。しかし、医師は患者さんが他にどの病気でどの診療科に通っているのか、教えてもらわなければ分からない。当然、どういう薬を飲んでいるのかを知ることもできない。さらに薬をもらう薬局が、それぞれの医療機関の近くにある保険薬局で、お薬手帳もそれぞれの薬局で作ってもらったものを分けて使っているというような場合、薬剤師も患者さんの薬の全貌をチェックすることができない。

 このような状況では、どういうことが起こるのか。例えば、私たちは医師から「かかっている病気以外で他に何か困っていることはありませんか?」と聞かれれば、「最近、胃が痛くて」とか「よく眠れなくて」と話すだろう。そうすると医師は「では胃薬も出しておきましょう」とか「精神が安定する薬を出しましょう」ということになる。

 1つの病院内で複数の科が連携して、患者さんの薬を管理している場合はいいが、内科は市民病院、整形外科は町のクリニックというように、複数の医療機関を受診している場合、患者さんが何も言わなければ、医師は他の医療機関で処方されているとは知らずに、同じ薬を処方してしまう可能性があるのだ。  「重複して処方されやすい薬には、胃薬、便秘薬、鎮痛薬、睡眠薬などが挙げられます」と秋下さん。薬が重複していることに気付かずにすべての薬を飲むと、当然だが副作用は出やすくなる。

■薬の重複で起こりやすい副作用は?

 薬の重複で起こりやすい副作用にはふらつき、転倒、物忘れが多いと秋下さんは言う。他にもうつ、せん妄(興奮したり、ボーっとしたりする症状[注1])、食欲低下、便秘、排尿障害などが起こることもあるという。

[注1]脳の機能が乱れた状態のことで、話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる。

 こうした副作用は認知症の発症や進行の原因につながる。「例えば、高齢者では不眠症はポピュラーな病気で睡眠薬や抗不安薬が処方されることは珍しくないのですが、睡眠薬は脳の活動を抑えて眠りやすくする薬です。適正な量であれば問題はありませんが、薬が重複して過剰摂取すると記憶力が低下して、認知症の発症を後押ししてしまうことになってしまいます」と秋下さん。また、睡眠薬には筋力を低下させる作用もあるので、薬の重複による副作用で転倒して骨折し、それがきっかけで寝たきり生活が始まり、認知機能が著しく低下してしまう可能性もある。

 もう一つ問題になるのが、薬の飲み合わせだ。「他の診療科でどのような薬が出ているのかをそれぞれの科の医師が知らないと、作用がまったく逆の薬が投与されてしまう場合もあります」と秋下さん。

 例えば、アルツハイマー型認知症と診断された場合、認知症の進行を抑えるために、脳のアセチルコリン(神経伝達物質の一種)を増やす薬が使われることがある。一方、花粉症で使われる抗ヒスタミン薬、頻尿の原因となる過活動膀胱(ぼうこう)を抑える抗コリン薬、あるいは胃薬で使われる抗ヒスタミン作用を持つH2ブロッカーという薬、これらは全てアセチルコリンの働きをブロックする薬だ。アセチルコリンを増やす薬と抑える薬を両方同時に飲んでも意味がないことは言うまでもない。
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■「患者力」が多過ぎる薬の副作用を防ぐ!

 薬の重複や飲み合わせの問題は、その人がどういう薬を飲んでいるのか、トータルで医師や薬剤師が管理できれば、容易に解決できる。「そのためには、『患者力』を高めることが大切です」と秋下さん。私たちはまず、医師や薬剤師がなんでもお見通しの超能力者でないことを認識する必要がある。内科で高血圧の治療をしている人が、整形外科で腰痛の治療をしていても、教えてもらわなければ、それぞれの医師には分からないということである。

 つまり、複数の医療機関を受診している場合は、それぞれの医師にどこでどういう病気の治療を受けていて、どういう薬を飲んでいるのか、きちんと伝えることが重要なのである。また、お薬手帳は1冊にまとめること、薬はいろいろな薬局でもらうのではなく、かかりつけ薬局でもらうこと。できればかかりつけ薬剤師を作り、飲んでいるすべての薬を管理してもらうようにすることが大切だ。高齢者で認知機能が低下してきた場合でも、かかりつけ薬局が1つ、お薬手帳も1冊であれば、ご本人もご家族も管理しやすくなるし、薬の増え過ぎや薬の副作用をチェックしてもらいやすくなる。

 「もともと高齢になると、身体の代謝が落ちて薬の効き方が若い頃とは変わってきます。そうした変化を見逃さないようにするためにも、かかりつけ薬剤師がいると安心ですね」と秋下さん。薬とうまく付き合っていく「患者力」を高めることが、身体のためにはもちろん、認知症の発症や進行を予防するためにも大切だ。

秋下雅弘(あきした・まさひろ)さん 東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病学)・教授。東京大学高齢社会総合研究機構・副機構長(兼任教授)、東京大学医学部附属病院副院長。1985年東京大学医学部卒業。2013年東京大学大学院医学系研究科教授に。日本老年医学会副理事長、日本老年薬学会代表理事。老年病の性差、高齢者の薬物療法などを主に研究する。主な著書に

【キレる老人と認知症】「運動+脳トレ」で機能の低下が抑制 ウオーキングしながら引き算、踏み台昇降でしりとり

 認知症予防には、認知症になる手前の「軽度認知障害(MCI=Mild Cognitive Impairment)」の段階で見つけ、適切な対処をすることが有効であることをご紹介してきた。電話で、MCIの検査が受けられるサービス「あたまの健康チェック」(ミレニア (電)03・5695・3028)なども有効だ。

 では、もしMCIの検査を受けた結果、「疑いアリ」と判定されたら、どうすれば良いのか。番町診療所表参道院長の山田正文医師は言う。

 「MCIは認知症ではありません。早期に気づけば、改善可能な、あるいは認知症への移行を遅らせたり、回避できたりする可能性もあります。認知症に移行するのを食い止めるためには、まず糖尿病や高血圧、高脂血症といった、認知症になりやすいリスクファクターの治療をすることが大切です」

 血管に変化が起きて血流が落ちると、脳の機能が落ち、認知症に移行してしまう可能性が高まる。

 メタボリックシンドロームや肥満、いわゆる生活習慣病を持つ人は特に、血管に負担がかかり、動脈硬化を引き起こしやすい。そのため、定期健康診断に加え、脳の機能の検査も早めに受けることが大切だという。

「また、生活習慣病の改善と同じく、普段の生活においては、バランスの良い健康的な食事や定期的な運動を心がけることが大切になります。それと同時に、『頭を使うこと』も大切です」

 こう話す山田医師が、頭を使う方法として、すすめるのが、「計算をすること」だ。

 国立長寿医療研究センターの研究によると、

 〔1〕ウオーキングしながら引き算をする

 〔2〕踏み台昇降運動をしながらしりとりをする

 -といった「運動+脳トレ」で、脳の委縮と認知機能の低下が抑制できたという報告もある。

 「高齢者向けのフィットネスクラブなどでは今、体を動かしながら頭を使うプログラムも増えているようです」

 また、認知機能の低下を防ぐためには、趣味を持つこと、友達と遊ぶことなども良いという。

 ちなみに、認知機能の低下につながる要因には、ストレスや不安、うつ病、アルコール、ビタミンB1、B2の欠乏、喫煙、社会的孤立など、実にさまざまなものがある。

 頭の健康を保つためにも、思い当たる要素がある人は、早めの改善を心がけたいものだ。 

抗うつ薬より向く人も うつ病は「漢方」で治すという選択肢

うつ病をはじめとする精神疾患で医療機関を受診する患者数は、がんや糖尿病をはるかに上回る。ストレスと関連する精神疾患の場合、漢方薬の効果が見られることが、研究でも明らかになってきた。

 過度なストレスでうつ状態になると、心だけでなく体にも不調が強く出てくることがある。

 しかし、病院を受診しても胃薬などの内科薬が処方され、効果が得られないままドクターショッピングを繰り返している人もいる。

「漢方薬は気分と体の両面に作用します。抗うつ薬や抗不安薬で改善されなかった体の症状が、漢方薬で良くなることがあります」

 こう話すのは、筑波大学大学院人間総合科学研究科で、ストレスマネジメント領域を担当する水上勝義教授(日本精神神経学会専門医)。

 病名に対して薬が処方される西洋薬に対し、漢方薬は症状で選ぶ。たとえば、うつ状態でも症状が変われば薬は替わる。さらに、症状への作用機序が西洋薬とは違う。

 不安や焦燥感に効果的な「柴胡加竜骨牡蛎湯」は、慢性的なストレスで副腎から過剰に分泌されるストレスホルモンを低下させ、受容体の働きを回復することで、心身のストレス反応を抑制する。

■抗うつ薬などで消えなかった身体症状がピタリ改善

 一方、抗うつ薬や抗不安薬は、ストレスで分泌が抑制された神経伝達物質のドーパミンやセロトニンに働きかけ、うつや不安などの症状が出ないようにする。

 人がストレスに適応するには、「視床下部―下垂体―副腎系」の働きが重要になるが、慢性ストレス下では、この働きが低下している。

 柴胡加竜骨牡蛎湯と抗うつ薬・抗不安薬の効果を比較した動物実験では、柴胡加竜骨牡蛎湯の投与でこの一連の働きが改善することが明らかになった。

「漢方薬は、ストレスで生じる脳と体両方の反応を改善するので、体の症状にも改善が得られやすいと考えられます」

 抗うつ薬の中には認知機能や運動機能に影響を与えるものもあるが、漢方薬にはそのような影響は見られず、むしろ認知機能に良い効果が報告されているものもある。

 さらに、免疫機能を活性化させたり、消化管の働きが向上して、栄養状態を改善させる作用が漢方薬にあり、これも身体的症状の改善に大いに役立つ。

 漢方薬は胃を保護する作用のものも多い。精神的な疾患には頭痛を伴う場合も珍しくないが、鎮痛薬(西洋薬)は胃を荒らすことがあり、胃弱の人は使いづらい。その点、慢性頭痛や片頭痛に使われる漢方薬、呉茱萸湯は、胃弱の人にも用いることができる。

 不眠においても、注目すべき効果が研究で明らかになっている。

「酸棗仁湯という漢方薬の研究では、服用前に必要だった睡眠薬が半分以下に減り、睡眠の質も大きく改善したということが報告されています」

 抑肝散という、イライラして眠れないときに用いられる漢方薬では、ストレスが強い時は効果を発揮するが、ストレスが弱い時は睡眠効果が弱いという、興味深い研究結果も出ている。

 ただし、いずれも適切に漢方薬が処方された場合の効果だということを忘れてはいけない。また、漢方薬も薬なので副作用が見られることもある。さらに、うつ病と診断される場合には漢方薬だけでは不十分だ。

 ストレスでさまざまな症状に苦しんでいるなら、早めに漢方を扱っている医師に一度相談してはどうか?

うつ病なのによく食べ、よく眠る。若い女性に急増の「非定型うつ」とは?

典型的なうつ病とは異なる「非定型うつ病」が、若い女性を中心に急増しています。

急増する「非定型うつ」は6~7割が女性患者

世界保健機関(WHO)が、世界のうつ病患者数が2015年に、全人口の約4%に当たる推計3億2200万人にのぼったと発表しました。日本では、うつ病の有病率6.5%、15人に1人が生涯に1度はうつ病にかかる可能性があるとされています。患者数は2008年に初めて100万人を突破し、なお増え続けています。

そして「典型的なうつ病とは異なる」という意味から「非定型うつ病」と呼ばれる病型が急増しており、すでに全うつ病の30~40%を占めているという報告があります。一般的にうつ病は女性に多いですが、「非定型うつ病」はさらに多く、女性が6~7割に上ります。中でも、20代から30代の若い女性に多く見られるうつ病です。

「甘え」「わがまま」と誤解受けやすい

「非定型うつ」の最大の特徴は、出来事に反応して気分が変わることです。定型うつ病は、“2週間以上、一日中続く抑うつ気分”という状態が診断条件の1つになります。どんなに楽しいことがあっても気分は晴れません。 一方「非定型うつ病」は気分の変動が激しく、良い出来事には一転して元気が出て、快活になります。しかし長続きはせず、また抑うつ状態に戻る。こうした気分の浮き沈みが繰り返されます。これを「気分反応性」と表現します。

気分反応性は「甘え」や「わがまま」等と、よく誤解される原因となります。しかしこれは「自分自身でも激しい気分の波を制御できない」という「非定型うつ病」の症状なのです。

他者の言葉を極端に悪く受け止める

他人からの侮辱・軽視・批判に対して極度に敏感になる「拒絶過敏性」も「非定型うつ」の症状の1つです。相手は全くそんなつもりはないのに「自分が批判された」「見下された」「軽蔑された」等と否定的に受け止めてしまう傾向が強いのです。 例えば、職場の上司にささいなことで注意されただけでも「自分の全能力を否定された」と過剰反応して、翌日から会社を休んでしまったりします。

出社しても上司の顔を見ただけで、抑うつ状態になります。「今日は頑張っているね」という良い意味での声かけに対しても「いつもは頑張っていないと思われているのか」ととらえてしまったりするのです。拒絶や批判を恐れるため、親密な対人関係を持てなくなったり、職場や学校を休みがちになったりと、社会生活に支障がでてきます。

「眠り過ぎ」に苦しむ

「非定型うつ病」の特徴に、過眠(10時間以上眠る日が週に3日以上)があります。とはいえ「よく眠れる」というよりも、「眠り過ぎ」障害に苦しめられます。 「非定型うつ病」の場合、他者から非難されたと思い込むと気分が落ち込み、併せて眠気が強まります。また「神経性疲労」で、体が鉛のように重く感じてしまうので、起きていられず寝るのです。

よく眠れば気分も落ち着くかというと、そうではありません。熟睡は出来ないので、昼間も眠くて仕方なく、目覚めてもやる気が起きません。そして昼間も寝てしまう傾向があります。睡眠のリズムが崩れ、学校や職場を休みがちになり、日常生活にも支障をきたします。
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甘いものを食べ過ぎて、体重が増加

「非定型うつ病」になると、ほとんどの人が甘いものへの欲求が強くなります。糖分には、抑うつ感を和らげる作用があるといわれており、甘いものを次から次へと食べます。しかし、甘いものの効果は一時的なもので、食べ過ぎによって体重の増加を招きます。女性患者が多いので、太ったことで自己嫌悪に陥り、気分がまた落ち込む悪循環に陥ることもあります。

優しい言葉で、やんわりと励ましを

「非定型うつ病」は抗うつ薬が効きにくいという特徴がありますので、治療では医師や臨床心理士によるカウンセリング等の精神療法をうまく組み合わせます。 定型うつ病では「頑張れ」等の励ましはタブーとされています。一方「非定型うつ病」の場合は、適度な負荷があった方が回復の一助となることが経験的に知られています。時には優しい言葉で、やんわりと励ましを。ただし、厳しい言葉は禁物。不安や焦燥感が強いときは、しっかり見守ることも大切です。

認知症は予備群も入れると1000万人時代に! 認知症の常識を変える「本人の力」とは?

認知症はつい10年前まで「痴呆」と呼ばれ、何もわからなくなる、なったら人生の終わりだ、徘徊で大変だ……といわれてきた。だが近年、本人が思いを語り始め、日本で初めて当事者団体ができ、安倍首相に政策を提言。23年前「痴呆病棟」で取材を始めた朝日新聞記者が、当事者の変化と最先端の「いま」を、『ルポ 希望の人びと ここまできた認知症の当事者発信』で伝えている。著者である生井久美子(いくいくみこ)さんにご寄稿いただいた。

 認知症は予備群(MCI)も入れると、2012年当時で860万人をこえ(厚生労働省研究班推計)、同研究班代表の朝田隆さん(現・筑波大学名誉教授)は、「2017年1月時点ですでに1000万人をこえた」と予想している。認知症になる人の割合(有病率)は、85~90歳では実に半数に迫る。夫婦とも平均寿命まで生きると、どちらかが認知症になる計算だ。

私たちは認知症に向かって生きているといってもいい。「認知症だけにはなりたくない」とおそれる人も多いが、「当事者発信」の取材を続けて、不安は薄れ、希望を感じるようになった。認知症になってからも、新しくよりよく生きることができる。それは夢物語ではない、と実感したからだ。

 認知症の「当事者発信」はどのように広がってきたのか。

 認知症になってからも発信できるのは、「特別な人」と思われがちだが、そうではない。
最初は「人生は終わった」と落ち込み、茫然自失。自殺を思った人もいる。そんな「早期診断→早期絶望」した人が、同じ経験をもちながら前向きに生きる人と出会い、心底話し合い、立ち直ってゆく。つながり、発信を始める。

「支援者」はいっしょに歩む「パートナー」へ。医師や行政まで変え、認知症の常識を変える「当事者の力」!

 39歳でアルツハイマーと診断された丹野智文さんは、「2年で寝たきり」の情報に落ち込んでいたとき、診断後5年たっても明るく元気な竹内裕(ゆたか)さん(恩人、タヌキのおっちゃん)に出会って、わくわくと生きる力を取り戻した。いま、仙台で認知症と診断された本人のための相談窓口「おれんじドア」を開くリーダーだ。

 IT時代、「記憶は残らないけれど、記録は残せる」と、パソコンやiPadを駆使して工夫を発信するのは佐藤雅彦さん。名前は忘れても「フェイスブック」は、顔がわかるから大丈夫。どんどんつながって、丹野さんのフォロワーは1000人を越えた。

 胸打たれたのは、本人が自分の中にある認知症への偏見に気づき、仲間と人間観を語り、「権利」「人権」に思い至る過程だ。そして、力をぬいて、もっと楽しく笑顔で生きよう! 自分たちの声で社会を変えよう! と意志をもち続けていることだ。「進化」し、「深化」する「希望の人びと」の人生の物語。そこにはどんな状況になっても、自分を投げださずに「いま」を生きる、いくつものヒントがあった。

 認知症の当事者発信を追い続けて気づかされたのは、能力主義からの解放の大切さだ。何かが「できる」からよいのではなく、そこに「いる」「存在する」意味と価値の重さである。いま、問われているのは社会の、私たちの人間観だと痛感する。

 本書は、04年、京都で開かれた国際アルツハイマー病協会国際会議に、海外の当事者たちが参加した前後から、10年後日本の当事者団体(JDWG)誕生の軌跡、最先端の「いま」を伝えるものだ。

 ありのままの「その人」と出会っていただけたら、「認知症の常識」はきっと変わる。読者の内面と響き合う「本人の言葉」が、この本の中にきっとあるに違いない、と信じている。

 春一番が吹いた2017年2月17日。東京・有楽町朝日ホールで、認知症本人の視点を重視した厚労省の研究事業(粟田主一代表)の報告会が開かれ、当事者団体の共同代表、藤田和子さん、佐藤さんも登壇。丹野さんたち仙台チームも発表した。そして、この日初めて勇気を出して舞台に立った人たちもいた。

 一方で、この瞬間、心ならずも精神科病院に入院している認知症の人が5万人以上いる。当事者発信の取り組みには地域差もある。だが、いま「希望の人びと」のネットワークは、確実に広がっている。

認知症は予備群も入れると1000万人時代に! 認知症の常識を変える「本人の力」とは?

認知症はつい10年前まで「痴呆」と呼ばれ、何もわからなくなる、なったら人生の終わりだ、徘徊で大変だ……といわれてきた。だが近年、本人が思いを語り始め、日本で初めて当事者団体ができ、安倍首相に政策を提言。23年前「痴呆病棟」で取材を始めた朝日新聞記者が、当事者の変化と最先端の「いま」を、『ルポ 希望の人びと ここまできた認知症の当事者発信』で伝えている。著者である生井久美子(いくいくみこ)さんにご寄稿いただいた。

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 認知症は予備群(MCI)も入れると、2012年当時で860万人をこえ(厚生労働省研究班推計)、同研究班代表の朝田隆さん(現・筑波大学名誉教授)は、「2017年1月時点ですでに1000万人をこえた」と予想している。認知症になる人の割合(有病率)は、85~90歳では実に半数に迫る。夫婦とも平均寿命まで生きると、どちらかが認知症になる計算だ。私たちは認知症に向かって生きているといってもいい。「認知症だけにはなりたくない」とおそれる人も多いが、「当事者発信」の取材を続けて、不安は薄れ、希望を感じるようになった。認知症になってからも、新しくよりよく生きることができる。それは夢物語ではない、と実感したからだ。

 認知症の「当事者発信」はどのように広がってきたのか。

 認知症になってからも発信できるのは、「特別な人」と思われがちだが、そうではない。
最初は「人生は終わった」と落ち込み、茫然自失。自殺を思った人もいる。そんな「早期診断→早期絶望」した人が、同じ経験をもちながら前向きに生きる人と出会い、心底話し合い、立ち直ってゆく。つながり、発信を始める。

「支援者」はいっしょに歩む「パートナー」へ。医師や行政まで変え、認知症の常識を変える「当事者の力」!

 39歳でアルツハイマーと診断された丹野智文さんは、「2年で寝たきり」の情報に落ち込んでいたとき、診断後5年たっても明るく元気な竹内裕(ゆたか)さん(恩人、タヌキのおっちゃん)に出会って、わくわくと生きる力を取り戻した。いま、仙台で認知症と診断された本人のための相談窓口「おれんじドア」を開くリーダーだ。

 IT時代、「記憶は残らないけれど、記録は残せる」と、パソコンやiPadを駆使して工夫を発信するのは佐藤雅彦さん。名前は忘れても「フェイスブック」は、顔がわかるから大丈夫。どんどんつながって、丹野さんのフォロワーは1000人を越えた。

 胸打たれたのは、本人が自分の中にある認知症への偏見に気づき、仲間と人間観を語り、「権利」「人権」に思い至る過程だ。そして、力をぬいて、もっと楽しく笑顔で生きよう! 自分たちの声で社会を変えよう! と意志をもち続けていることだ。「進化」し、「深化」する「希望の人びと」の人生の物語。そこにはどんな状況になっても、自分を投げださずに「いま」を生きる、いくつものヒントがあった。

 認知症の当事者発信を追い続けて気づかされたのは、能力主義からの解放の大切さだ。何かが「できる」からよいのではなく、そこに「いる」「存在する」意味と価値の重さである。いま、問われているのは社会の、私たちの人間観だと痛感する。

 本書は、04年、京都で開かれた国際アルツハイマー病協会国際会議に、海外の当事者たちが参加した前後から、10年後日本の当事者団体(JDWG)誕生の軌跡、最先端の「いま」を伝えるものだ。

 ありのままの「その人」と出会っていただけたら、「認知症の常識」はきっと変わる。読者の内面と響き合う「本人の言葉」が、この本の中にきっとあるに違いない、と信じている。

 春一番が吹いた2017年2月17日。東京・有楽町朝日ホールで、認知症本人の視点を重視した厚労省の研究事業(粟田主一代表)の報告会が開かれ、当事者団体の共同代表、藤田和子さん、佐藤さんも登壇。丹野さんたち仙台チームも発表した。そして、この日初めて勇気を出して舞台に立った人たちもいた。

 一方で、この瞬間、心ならずも精神科病院に入院している認知症の人が5万人以上いる。当事者発信の取り組みには地域差もある。だが、いま「希望の人びと」のネットワークは、確実に広がっている。

その薬の飲み忘れ 「認知症の始まりかも」を考えよう


高齢者で認知機能が低下してくると心配になるのが薬のこと。別々に暮らしている親は薬をちゃんと飲んでいるのだろうか。飲み忘れて病気が悪くなったりしていないだろうか。今回は認知機能が低下してきた高齢者の薬の飲み忘れとその対策について紹介する。

 高齢になると、複数の持病を持つ人が多くなる。そして病気の数だけ処方される薬の数も増えてくる。そこで問題になるのが薬の管理である。「最近、物忘れが増えてきたけど、お父さん、ちゃんとお薬飲んでいるかしら」と心配するのは別々に暮らしている子どもだけではない。

 長年一緒に暮らしていても、薬の管理は本人任せで、どのくらい薬を飲んでいるのか把握していない家族も少なくないだろう。年を取ったからといって急に、「お父さん、今日から私が薬を管理するね」などと言えば、「それくらい自分でできる。ばかにするな」と言われかねない。「物忘れは増えてきたけれど、まだ言動もしっかりしているし大丈夫だろう」と思っていたら、ある日、タンスの奥から飲んでいない薬が大量に見つかったなんてことも珍しい話ではない。

 「薬の飲み忘れに気付くのは、意外と家族ではなく、かかりつけ医院の看護師さんや、いつも行く薬局の薬剤師さんだったりします」と東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病学)教授の秋下雅弘さんは話す。薬を出すときなどに、「この薬、前にもらった分がまだけっこうあるんだよね」と、ぽろっと漏らすことがあるからだ。看護師さんや薬剤師さんはそれを聞いて「あれ? もしかしたら薬が飲めていないのかな」と気付くのである。
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■「単なる飲み忘れ」と、「認知症が疑われる飲み忘れ」の違いは


 こうした薬の飲み忘れが、軽度認知障害や認知症の兆候であることも少なくないという。もちろん、薬を1回や2回飲み忘れても、それは単なる物忘れで心配はない。では、どういう飲み忘れが、認知症かもしれない飲み忘れだろうか。秋下さんによれば、「残っている薬がどのくらいあるのか把握していないような場合は、認知症が疑われます」とのこと。

 「飲み忘れて、まだ1週間分くらい薬が残っているんですよ」と医師に申告できるなら大丈夫。しかし、「ちゃんと飲んでいるつもりなんだけど、薬が減らない」とか「何日分か分からないけど、薬が残ってしまった」というように、薬を飲んだかどうか曖昧で、残っている薬の数も把握できていないという場合は要注意だ。

 薬の飲み忘れに早く気付くためには、1カ月に1回あるいは1~2週間に1回、誰かが残薬を確認することが大事だ。同居していても、そもそも親がどれだけ薬を飲んでいるのか把握できていない場合もある。そういう場合は、例えば病院に行く前日に「お父さん、明日は病院に行く日ですね。薬がまだ残っているか確認してみませんか。もし残っているならその分、次回の薬を減らしてもらえますから、薬代が安くなってお得ですよ」などと話すと、「それなら」と見せてもらいやすい。

 間違っても「ちゃんと薬飲んでる?」と相手を疑うような言い方をしてはならない。もし薬が大量に出てきても「こんなに飲み忘れて大変じゃない!」などと責めないことが大切だ。

 では、薬の飲み忘れが見つかったら、どう行動すればいいのだろうか。

■薬の飲み忘れが見つかったらまずは医師に相談

 薬の飲み忘れが見つかったら、まずは、かかりつけ医に相談することが大事だ。大量の薬が押し入れから出てきたりすると、家族は「こんなに薬を飲んでいなかったなんて」と慌てて、次の日からきちんと薬を飲ませようと管理するが、そうすると薬が効きすぎてしまうことがあるのだ。

 「医師は患者さんが薬をきちんと飲んでいることを前提に薬を出しています」と秋下さん。例えば、血圧の薬を出したのに血圧が下がらない場合、医師は薬の量を増やしたり、強い薬に変えたりする。それでも下がらなければ、さらに薬を増やすなど対応する。しかし、実際には薬を飲んでいないために血圧が下がらなかったので、急にすべての薬を飲んでしまうと、血圧が一気に下がってしまう危険性があるのだ。

 血圧が急激に下がると、ふらふらして転倒の恐れがある。また、血圧が低下することで脳の血流が悪くなり、その結果、認知機能が低下することもあるという。血圧だけではない。糖尿病の人が急に薬を大量に飲むと低血糖の危険性がある。低血糖は認知症の発症や進行の要因にもなる。

 だからといって自己判断で薬を飲んだりやめたりするのはもっと危険だ。「飲み忘れた薬が大量に見つかったら、慌てずに、できるだけ早くかかりつけの医師に相談してください。その際、残っている薬を確認して、どの薬をどのくらいの期間飲んでいなかったのか、分かる範囲でいいので医師に報告してください」と秋下さん。

 医師は患者さんの服薬状況を鑑みて、改めてその患者さんに適した薬を考えていくことになる。場合によっては、血圧や血糖値を安定させ、その後の治療方針を決めることを目的に入院したほうがいい場合もある。同時に、物忘れ外来などで認知機能が低下しないか調べていくことも必要となる。

■薬の飲み忘れを防ぐためにはどうすればいい?

 薬がきちんと飲めていないことが分かった場合、その後、どうやって薬の管理をしていったらよいのだろう。同居している場合は家族が薬の管理をすることもできるが、別々に暮らしている場合は、それも難しい。

 薬を飲み忘れないための工夫としては、薬局にお願いして、薬を一包化してもらう方法もある。また服薬カレンダーやお薬ケースを利用するのも一案だ(図1)。

 「病気によっては、週1回の服用でいい飲み薬や注射薬も最近は出ています。別々に暮らしていて薬の管理が難しければ、医師と相談して、そういった薬に替えてもらうこともできるでしょう。そうすれば、ご家族が週1回行って飲ませたり、あるいは訪問看護師さんに週1回来てもらうなどして飲ませることも可能です」

 また、薬の管理にはお薬手帳が便利だ。「病院、薬局に行く際には、お薬手帳を必ず持って行くようにしてください。複数の医療機関に通院している場合でも、薬を出してもらう薬局は1カ所のかかりつけ薬局に決めて、お薬手帳も1冊にまとめておくことで管理もしやすくなります」と秋下さん。かかりつけ薬局をつくることで、飲み忘れの薬の把握もしやすくなり、また薬の副作用や、複数の医療機関から出ている薬の飲み合わせなども、薬剤師に管理してもらえるようになる。認知機能に影響を与える薬の副作用や飲み合わせについては次回紹介する。

 慢性疾患などで飲んでいる薬は、年を取って認知機能が低下してきたからといって、飲むのをやめることは問題がある。安心して薬が飲めるように、早い段階から、薬の管理方法を見直してみてはいかがだろうか。

 次回、「認知症の原因に? 注意したい薬の飲み合わせ、薬の副作用」に続く。

■この人に聞きました秋下雅弘(あきした・まさひろ)さん 東京大学大学院医学系研究科加齢医学(老年病学)・教授。東京大学高齢社会総合研究機構・副機構長(兼任教授)、東京大学医学部附属病院副院長。1985年東京大学医学部卒業後、同老年病学教室助手、スタンフォード大学研究員、ハーバード大学ブリガム・アンド・ウイメンズ病院研究員、杏林大学医学部高齢医学助教授、東京大学大学院医学系研究科加齢医学助教授などを経て、2013年同教授に。日本老年医学会副理事長、日本老年薬学会代表理事。老年病の性差、高齢者の薬物療法などを主に研究する。主な著書に「薬は5種類まで」(PHP新書)。
(ライター 伊藤左知子)

今すぐ見直して!うつになりやすい「要注意な働き方」3つ

仕事もプライベートも、周囲の期待に応えようと頑張り過ぎていませんか? 頑張ることは大事ですが、何事も限度があります。

忙しくてどうしようもなく、いつも分刻みのスケジュールをこなしている人、要注意です。ひどいと“スーパーウーマン症候群”と呼ばれる心の問題につながり、うつ状態に陥ってしまいます!

そこで、医学博士で認知行動スペシャリストの松代信人先生に、うつになりやすい働き方をお聞きしました。こんな仕事の仕方をしていないか、振り返ってみましょう。

■うつになりやすいので要注意な働き方3つ

松代先生によると、以下のような働き方は避けた方がいいとのこと。

(1)傷つきやすいので、ついつい人を避けて話をしない

(2)納期がきついこともあるが、完全主義なのでついつい終電帰宅となってしまう

(3)周囲の期待が大きく、無理な依頼も引き受けてしまう

多くの人が当てはまってしまうと思いますが、こういった働き方にならないよう調整することも大事な仕事のひとつです。もともと仕事量が極端に多かったり、徹夜が何ヶ月も続いたりという状態は、メンタルには何よりも禁物!

■働き方よりも大きい原因はやっぱり人間関係

働き方以外に、見直した方がいいのはどんなところか? それは、やっぱり“人間関係”!

松代先生によると、うつの引き金を引くのは「“上司にひどいことを言われた”“同僚に無視された”などを始め、職場の対人関係のトラブルが大半」とのこと。

対人関係のトラブルでうつの引き金を引かないことがまず重要! 引き金を引かないためには、周囲の人からの発言の受け止め方を変えることが一番です。

■嫌なことを言われたら”評価しない”ようにする

例えば、あなたの会社にすごく嫌味を言う人がいたとします。

本当は完全に関係を絶ちたいが、仕事を進める上でそうもいかないという場合、松代先生が薦めるのは、”評価しない”という立ち位置。

この立ち位置は、”相手にしない”、”無視する”、”断絶する”、”耳を塞ぐ”、”気にしない”とも異なります。”気にしない”はこちらが受身となりますが、”評価しない”はこちらが主導権をとること。

評価に値しない言動なので”評価しない”なのです。”怒る”や”頭にきた”といった大きなストレスの原因になるような立ち位置でもありません。

この合理的な “評価しない”という思考法では、嫌いな人との間に壁をつくり完全にシャットアウトするのではなく、ガラスの向こうにレベルの低い言動を見ているといったイメージ。

「このような思考の変革の積み重ねが、うつの解消はもちろんのこと、キャリアアップにもつながる」と松代先生は言います。

見方を変えるとストレスがあっさり解決することも少なくありません。人間関係で人知れず悩むことが多い人は、受け止め方を変えてしっかり自己防衛していくことが大切ですね。

産後うつ、産後クライシス…産後のママを取り巻く状況って?

産後うつ、産後クライシスという言葉を聞いたことはありますか?産後うつは、出産後の女性の10~20%がかかるといわれています。また、産後にパートナーとの関係が悪化する現象を産後クライシスと言います。

ここでは、産後のママを取り巻く状況、産後うつ、産後クライシスについてみてみましょう。

◆産後うつとは?どれくらいの人がなるの?

「産後うつ」とはマタニティブルーともいい、ある統計では産後女性の10~20%がかかるといわれています。

原因ははっきりしていませんが、産後に急激に女性ホルモンのバランスが変わること、環境が劇的に変化することが大きく関係しているといわれています。

産まれてすぐの赤ちゃんは、まだ生活リズムが出来ていないため、昼夜、夜間、関係なく泣きます。ママはまともに睡眠時間を確保することができません。

また、自宅の近くで出産し、周りに赤ちゃんをみてくれる人がいない場合、外出することも出来ず、赤ちゃんのお世話におわれ、孤独を感じやすくなるのも事実です。

そんな中で赤ちゃんを見に来る人がいたり、家のこともやらないといけないし…これらの事情が重なり、産後うつを発症すると考えられています。

日本では産後1ヶ月は赤ちゃんを外に出さないのが一般的ですし、こういったことからも産後1ヶ月くらいが一番つらい時期であり、この間に発症することが多いようです。

産後うつは人によって症状は様々です。自分では気づきにくいものですが、気持ちの落ち込みがひどい、涙が止まらないなど、いつもと何か違うと感じたら、早めに医師や周りの人に相談するようにしましょう。

また、最近では出産後のママを支援する産後ケアの施設も増えてきています。 1人でため込まず、そのような施設やサービスをうまく活用しましょう。

◆産後クライシスとは?パートナーとの関係について

産後のママの愛情は、どうしても赤ちゃんに行きがちです。

ある統計では、出産前までは75%あった双方の相手への愛情が、子どもが産まれて2歳になる頃には、ママからパートナーへの愛情は30%近くまで下がるというデータもあります。これが「産後、急速にパートナーへとの仲が悪化する現象=産後クライシス」なのです。

産後クライシスの原因は諸説ありますが、子どもを出産した女性が、産後の旦那さんの育児への関わり方、家事の分担などに強い不満を持つことから起こると考えられています。

厚生労働省の統計から推測すると、産後に離婚する夫婦は年々増えており、特に子供が0~3歳の間に離婚してしまうケースが1/3を占めているそうです。産後の赤ちゃんのお世話は大変なのは事実です。

日本ではこれを母と子の問題として捉えてきましたが、これからは「家族として」の問題として捉える必要があり ますよね。

和田精神科医:家族が認知症になった際の心理的サバイバル

日本の裁判官というのは、社会との接点を持たないためか、一般市民の感覚とはおよそかけ離れた判決を出すことがときどきある。

 これについてのサバイバルといっても、いくら優秀な弁護士をつけても、裁判官の考え方次第というところがあるので、不幸というしかないのだが、私は、重大事件の犯罪者を「市民感覚」で重罪にするより、脱税事件や民事事件についてのほうが、よほど納税者の感覚や市民感覚を取り入れてほしいものだと思う。

■認知症の91歳男性の死亡事故、JR東海が損害賠償請求

 今回、このコラムに取り上げる気になったのは、おそらく多くの人の、まさにサバイバルにかかわる事件であるからだ。2007年12月に起こった、認知症の91歳の男性がJR東海の線路に入り込み、快速電車にはねられた事件だが、これに対して、JR東海が家族に監護義務があるとして損害賠償請求を行った。

 一審では、認知症の男性の妻(当時85歳)に360万円、そして、いちばんその父親の面倒を看ていた長男に360万円の支払いを命じた。

 長男は月に数度、横浜から愛知県の老父母の介護のために訪ねていたし、その嫁にいたっては、夫の老父母のもとに転居している。

 自宅周辺にはセンサーを設置し、この男性が外出するとチャイムが鳴るようにしていた。

 ところが、長男の嫁が簡易トイレを片付け、妻のほうは、おそらくは、介護疲れでうとうとしていた隙に、なんと男性が外出、そして悲劇が起こった。

 この事件は、実は、私が月に1回やっている、認知症の高齢者の家族の会でも問題になった。会に参加した人にとっては切実な問題なのだろう。みんなこの判決を知っていた。

 「ちゃんと看ている人には、賠償責任まで生じるんですね」というのが、同じく男性で老親を介護されている人の言葉だった。実際、この判決では、老親を介護している人には、何か起こったら賠償責任が生じ、介護をろくにしない人だと責任が生じないといわんばかりの判決だ。

■看護する人は居眠りも許されない

 実は、この血も涙もない判決をだした裁判官は、私の東大医学部の先輩で、元精神科医である。その後、司法試験に受かって裁判官になったわけだが、医者のころは、私とは違う生物学的精神医学の教室で研修を受けていた。カウンセリングはいらない、脳を薬などで補正すれば、心の病は治るというような考え方をする人が裁判官になるとこんな判決を下すのかとあきれた。

 そして、二審の判決が4月24日に名古屋高裁で下されたわけだが、さすがに長男の賠償責任は認められなかったが、85歳の妻が、うとうとすることでさえ、見守りや身上監護の義務を怠ったとされて、360万の支払いが命じられた。

 他人事と思われるかもしれないが、2013年現在460万人もの認知症患者が日本にはいる。高齢者全体の15%以上にもなる数だ。米国ボストン郊外の住民調査では、85歳を超えると45%が認知症の診断基準を満たすという。

 女性の場合、7割の人が85歳以上まで生きるので、女性の3人に一人が死ぬまでに認知症になるという計算だ。夫婦で考えた場合、もし夫の両親も、妻の両親も存命であれば、その4人ともが認知症にならないというのは、非常な幸運としかいいようがない。

 そして、今回、その監護責任が問われたわけだが、残念ながら、現在の医学では予防法がないので、将来、ほとんどの人が認知症の監護責任を負うことになる。

 もちろん全員が徘徊するわけではないが、ずっと監視していなければいけない、居眠りも許されない、というのが、この判決の趣旨である。施設に入居させれば、監護責任が施設の側に移るのだが、たとえば特別養護老人ホームでは、入居待ちが40万人、3年待ちが当たり前という現実がその一方である。

■「あいまいな喪失」

 私の監督作品『「わたし」の人生』(モナコ国際映画祭で4冠をいただいた)でも問題にしたように、日本では、介護のために仕事をやめている人が年間10万~15万人もいる。監護責任を押し付けられたら、仕事をやめないといけない人はもっと増えるだろうし、介護うつをはじめとして、心身の変調をきたす人は少なくないだろう。

 私自身、本業が高齢者を専門とする精神科医なので、この判決は本心から許せない。

 そのくらい、家族の懸命な介護の姿と疲弊を、普段見ているからだ。

 介護者のためのメンタルヘルスの本は、いつか書きたいとずっと思っていたのだが、アメリカの本で、たまたまいい本を見つけたので、訳すことにした(別の人が下訳をやってくれたので、私はそれをワード上で直す作業と解説を受けもった)。

 それが、この5月20日に刊行予定の『認知症の人を愛すること』(誠信書房)である。

 著者のポーリン・ボスは、米ミネソタ大学の社会学の名誉教授であり、米ハーバード・メディカルスクールの客員教授も歴任した家族療法と家族社会心理学の第一人者である。

 この人の提唱した概念に、「あいまいな喪失」というものがある。

 もともとは、たとえば韓国の沈没船や、東日本大震災で津波に飲みこまれた人のように、おそらくは亡くなっているのだが、生きている可能性も残されているということで、きちんとした別れや葬式のようなことができない喪失体験について論じていたのだが、認知症については、「いるのにいない」というパラドックスの文脈で論じている。

 まだ死んだわけではないが、もとの夫や妻や父や母でないということだ。生きているのに、もとの頼りになるとか、家事がしっかりできる、父や夫、母や妻はもういない。しかも、いつ正式な別れ、つまり死を迎えるかもわからない。

 これが「あいまいな喪失」である。

■あいまいさに耐える能力が必要になる

 実際、認知症というのは、その人の記憶や知能が徐々に失われていく病気で、もとの自分とは違った記憶体系や知能、そしてパーソナリティまで変化してしまうことは珍しくない。要するに、これまでのその人がいなくなったような状態になるのだが、亡くなったわけではないうえに、もとの知能も記憶も、パーソナリティも、相当重症になるまですっかりなくなるわけではない。

 この白黒はっきりしないシチュエーションが、あいまいとか、答えがないといったことを喜ばないアメリカ人にとっては、ひどく心理をかき乱すことになる。「あれもこれも思考」といって、いることもいないことも認めるという思考パターンを身につけることで、心理的に楽になると提言しているのだが、私もこれには同意する。

 日本人は、あいまいを好むとか、あいまいに耐える能力が高いとされているが、私が『テレビの大罪』などで論じてきたように、おそらくはテレビの影響で、悪い人といい人とか、敵と味方をはっきりわける二分割思考のパターンが強まっている。ということは、それだけ、あいまい状態への耐性が日本人でも弱まっている可能性がある。

 しかし、認知症の人を前にしては、あいまいに耐える能力が必須となる。本当にわかっているのかわかっていないのかとか、通じる時もあれば通じないときもある。そして、生きているのに、かつてのその人はいなくなってしまった。そういうあいまい状態が当たり前なのだ。両方、本当のその人なのだ――。こうした感覚を身につけることが大事だというボスの主張は、非常に重要なサジェスチョンとなる。

 著者のボスは、さらにこう論じる。アメリカという国は、自立が重んじられるのだが、高齢になれば、相互依存が生き延びる鍵になる。人に助けを求めたり、依存したりするのは、恥ずかしいことではなく、望ましいことだ、と。

■超高齢社会に必要な家族的、相互依存的文化

 この考え方の転換は、実は、私がずっと学び続けている、現代アメリカ精神分析学の大家であるハインツ・コフートが提唱し、晩年になるほどその重要性を説いたものだ。自立が神話というのは、この本でも論じられるが、コフートは、高齢者でなくても自立は神話だと説いた。酸素に頼らず生きていく人がいないように、心理的に人間に頼ることなく、人は生きられない。

 アメリカでも進む高齢化の中で、発想の転換が求められているのだ。そして、この本で述べられるように、そういう点ではアジア型の文化のほうが適応的である。

 儒教では、年長者を敬うように説き、仏教は現実を素直に受け入れろと説くし、人間というのはしょせん自分がかわいいものだとも教える。

 ただ、アジア型文化が必ずしも、超高齢社会に適しているかというと、そうとも言えないところがある。親を介護することに対する義務感が強く、ホームに親を入れるということへの偏見はいまでも極めて強い。

 日本人にも発想の転換が求められているのである。

 さらに言うと、日本も長引く不況の中、日本流の家族型経営とか、系列会社へのもたれあいなどが強く断罪され、企業も個人も自立が求められている。昨今の生活保護叩きなどは、この流れに沿ったものだろう。

 でも、超高齢社会では、昔の家族的、相互依存的文化は悪くない。古いものは悪で、新しいものが素晴らしいという価値観だって変えていかないといけない。

■アメリカでも日本でも抱える悩みは同じ

 この本は、そのほかの点でも、高齢者、とくに認知症高齢者、そしてその家族との私の臨床体験から見て、心の持ちよう、考え方のとてもよいガイドラインとなっている。

 あいまいさを受け入れる、介護の共倒れを避けるために素直に人に頼る、同じ悩みを持つつ仲間と心の友になる、介護に過度な罪悪感を持たない、認知症に対する偏見を捨てる、そのためには一般の人への教育や啓蒙も必要だとしている。

 すべて私は同意できる。

 最初に紹介した家族会も同じ文脈で行っているのだ。

 実際、認知症介護のガイドブックは散見されるし、よいものもあるが、家族の心のありようのよい指針は日本ではほとんど見当たらない。そういう点では、手前味噌のようになるが、とてもお勧めの本だと精神科医、老年精神科医の立場から断言しておきたい。この本がアメリカのガイドブックであることに若干の抵抗や偏見を持つ方がいるかもしれない。

 しかし、私がこの本を訳していて痛感したのは、アメリカでも日本でも抱える悩みは似たようなものなのだということだった。そういう点で教えられることが多かった。

■ガイドブックとして手元に一冊置いておきたい

 アメリカでも、やはり介護は女性に押し付けられることが多いし、施設に入れることや人に頼ることへの抵抗感が大きい、嘆いていたら批判されることが多い、ほかの家族が理解してくれない。この普遍性を知ることが私にはもっともためになった。

 認知症介護者の苦悩は洋の東西を問わない。

 身近にわかってくれる人を持つこと、精神科医やかかりつけ医やケアマネージャーのようなよき相談相手を持つことなどが重要なのは当然だが、この手の心の持ちようのガイドブックを一冊持っておくと、いざというときに、義務感に振り回されたり、必要以上に落ち込むことがない。つまり、サバイバルにつながることはぜひ知っておいてほしい。

<認知症女性>7年不明 家族に生活費1000万円超請求か

◇群馬県館林市も苦慮

 東京都台東区の認知症の女性(67)が2007年に群馬県館林市内で保護され、今月12日まで身元不明のまま民間介護施設に入所していた問題で、女性の7年間の生活費が、市から家族に請求される可能性のあることが分かった。

7年間の生活費総額は1000万円を超えるとみられ、市は国や県と協議し慎重に対処するとしている。

 館林市や介護施設によると、07年10月に女性が保護されてから数週間は、一時的な保護措置として市が費用を全額負担した。その後、施設を居住先として仮の名前で市が住民票を作成、生活保護費を支給した。収入や資産、年金給付、親族による援助はいずれもないとみなした。

 女性は保護当時は「要介護3」で、約4年前から寝たきりになり、現在は最も重い「要介護5」と認定されている。しかし介護保険は適用されず、介護費用の全額が生活保護の介護扶助として施設側に支払われてきた。

 関係者によると、女性の生活にかかる費用は保護当初より増え、現在は月額30万円近くとみられる。7年間では総額1000万円以上に上る見通しという。

 館林市の担当者は「本人や家族に資産があることが判明した場合、市が立て替えた費用の返還をお願いするのが原則」と説明する。一方で「前例がなく、我々の対応が今後のモデルになり得る。県や国の指導を仰ぎ、どのように対処すべきか慎重に判断したい」と話している。

 田村憲久厚生労働相は13日の閣議後会見で、この女性の生活費の負担について「どういう解決方法があるのか検討する」と述べた。

群馬県内のある行政関係者は「今回のケースを知って『認知症の家族を見捨てても、行政が金を出して施設が世話をしてくれる』と考える人が出てこないか心配だ」と話す。

 ◇家族が全額はおかしい、国がガイドラインを

 社会的弱者の保護制度に詳しい結城康博・淑徳大教授(社会福祉学)の話 認知症の女性を必死に捜していた家族が、施設入所に要した費用を全額支払うことになるのはおかしい。

認知症の行方不明者が1万人を超えている時代だから、保護した認知症の人の生活費を国や市町村が負担するのは公共サービスの一環だ。

家族に全額請求されるようなことになれば、認知症の人を外出させないようにする流れができてしまうのではないか。国がガイドラインをつくるべきだ。

曖昧な点も多いうつ病。その診断基準や兆候は?

「心の病」という印象の強いうつ病。そのためか、病気として一定の理解を得られつつも、周囲からなかなか理解されなかったり、「甘え」の一言で片づけられてしまったりと、曖昧な部分が多いのが実情だ。

では、どういう症状が出たら「うつ病」として診断されるのか、また、その診断基準はあるのだろうか。

そこで、心に関する著作も多く、カウンセリングスクールなども開催している日本メンタルヘルス協会の心理カウンセラー・衛藤信之先生に、この疑問をぶつけてみた。

「うつ病は、『疾病のように37度以上熱があったら風邪』というような明確な診断基準はないんですよ。どこまでが正常でどこからが異常なのか。その診断ラインを引くことが難しいんです。

診察の際に『2~3週間十分に睡眠が取れない。食欲がなく、苦しくて、落ち込んでいて、何をするにも疲れてしまう』というと、うつ病と診断されるのが現状ですね」

とのこと。やはり、「心の病」というだけあり、明確な診断基準はいまだに確立されていないそうだ。そう前置きしたうえで、うつ病の特徴的な症状、傾向を衛藤先生は解説してくれた。

「典型的な症状は、食欲不振、眠りが浅くすぐに目が覚めてしまう早朝覚醒、理由のわからない不安感、倦怠感、自分に対する無価値感などが挙げられます。また、過去に対するゆがんだ不信感もあります。

つまり『これまでやってこれたのは、ただ単に運がよかっただけだ』という思考になり、たまたまなんとかなってきたのは、運がよかった。

実は自分には能力がないと自己不信を持ち、未来に対しても明るい展望が持てない。こうなってしまうと、いわゆるうつ状態になってもおかしくない」

ほかにも身体的な症状として、緊張からくる肩コリ、冷え性、消化不良からくる胃痛、頭痛なども挙げられるという。つまり、一般的な身体疾患の症状でも、うつ病の可能性があるということだ。

このような身体的な兆候と不安感などの兆候が出始めたら、専門医によるカウンセリングなどが必要になってくるとか。

つまり、明確な診断基準こそないものの、上記のような症状が大きな判断材料になっているのだ。さらに衛藤先生によると「憂鬱な気分や将来への不安、一時的な不眠は誰もが経験するもの。

それが長く続かない限りうつ病ではないので、一時的な気分の落ち込みを過剰に意識すると、さらに、気分が落ち込むので気をつけましょう」とのこと。

誰もが陥ってしまう可能性のあるうつ病だが、兆候を事前につかめば対処も早くできるはず。そんな兆候をチェックできる自己診断項目を、別コラムで紹介するので、気になる人はこちらも読んでみよう。

衛藤信之先生
日本メンタルヘルス協会代表。心理カウンセラー。義理の母の自殺を目にした幼少期を乗り越えカウンセラーの道を目指す。インディアンとの共同生活の経験もあり。人の可能性を見つけ、人を変化させることのエキスパート。

『幸せの引き出しを開ける こころのエステ 夢をかなえるカギはあなたの中にある』(サンマーク出版)ほか、著書も多数。ブログ(http://ameblo.jp/n-etoh/)日本メンタルヘルス協会(http://www.mental.co.jp/)

認知症介護ストレス抱えないで サービスを上手に活用

認知症介護のストレスと対応について、万成病院併設介護老人保健施設・岡山リハビリテーションホーム(岡山市)の宇田昭人介護係長に寄稿してもらった。「同じ事を何回も聞き怒り出す」「鍋を焦がしてボヤになりかける」「外出して迷子になる」「夜中に起きて大声を出す」…。

 認知症の方のケアで心身とも困憊(こんぱい)している家族も多いのではないでしょうか。

専門職でも大変

 介護保険制度が始まって16年が経過した現在、国内には軽度認知障害を含めると、800万人以上の方々が認知症や物忘れと向き合い生活されています。高齢者の認知症に加え、若年性の認知症も深刻な問題になっています。好き好んで認知症になる方はおられません。一度きりの尊い人生を「その人らしく」生活することが重要で、そういう方々に寄り添い、支援していくことを担うのが介護職だと思っています。

 しかし現状は「介護」という専門職を目指していた多くの人々も過密な労働や勤務形態、過剰なストレスによりバーンアウトしてしまう現状も多くみられます。同様に介護職の賃金の安さから、志はありながら生活のために職を辞める人も多く、人員不足はどこの事業所にとっても頭を悩ませる問題になっています。

「やりがい」と「切り換え」

 「介護」という仕事を長く続けるためには、正しい知識を身につけ、認知症を理解し、日々の介護から受けるストレスをコントロールすることが重要だと思います。 仕事にやりがいを感じながら働くことも大切です。日々の関わりの中で利用者の方からかけられる「ありがとう」という言葉に大きな喜びや、やりがいを感じながら働いている介護職員が多いことも事実です。

 ストレスをうまくコントロールするには、「やりがい」や「楽しさ」を実感しながら利用者の方と関わり、そして勤務を終えた後は気持ちを切り換え、仕事モードのスイッチを「OFF」にしてプライベートの時間を楽しみ、新たな気持ちで業務に向かう準備をすることが大切でしょう。

抱え込まない

 在宅介護でもストレスコントロールや疲労をため込まないことが求められます。在宅介護で重要なのは、まず認知症をしっかり理解し向き合うこと。個人や少数の家族で問題を抱え込まず、なるべく多くの方々で要介護者を支えていくという環境を整備すること。気軽にいろいろな悩みを相談できる方を多く作ることが大切です。

 在宅介護は24時間365日続きます。この先の見えない介護のため疲労やストレスは蓄積していきます。日々の介護という課題を決して家族だけのものとして考えず、在宅サービス等の社会資源を上手に活用していただきたいと思います。

介護サービスの利用

 住み慣れた地域で高齢者が安心して生活を送れる環境を作る、地域で高齢者を支えるためにいろいろな介護サービスを利用して、介護する方々も楽しんで熱中できる趣味や時間を定期的に作り、疲労回復やストレス発散につなげることが大切です。最後まで在宅で介護をしたい気持ちは本当に素晴らしいことですし、介護を受ける方にとってもうれしいことでしょう。

 施設への入所、施設での生活を考えると不安になることも分かりますが、現在の施設には専門職が充実し、その方々にあったきめ細かな個別ケアが受けられます。また、医師、看護師も常駐しているところもあり、家庭では難しい医学管理の下、ケアが提供できるということも大きな魅力だと思います。

 万成病院(086―252―2261)

 うだ・あきひと 1994年4月、万成病院併設介護老人保健施設岡山リハビリテーションホームに入職。介護福祉士、介護支援専門員資格を取得後、2004年4月から現職。真庭市出身。

うつ病の「心」の状態とは? 症状以外から説明するうつ病―そもそも「心」イコール「脳」なのか?

誰にとっても身近な病である「うつ病」。症状は、気分の落ち込み、不眠、罪悪感、絶望感、食欲の異常、自殺念慮などなど。発症の引き金にはストレスが影響しているといわれる。

 うつ病は、脳内の神経伝達物質セロトニンの不足が原因とされるが、まだわかっていないことも多い。例えば、患いやすさに個人差はあるのか、あるとしたらその原因は何か、遺伝と環境のどちらが影響するのかといったことだ。現在は、脳科学からのアプローチがさかんだが、その一方で、「心」イコール「脳」なのかという疑問も健在だ。

『脳はいかに意識をつくるのか 脳の異常から心の謎に迫る』(ゲオルク・ノルトフ:著、高橋洋:訳/白揚社)は、医学上の研究や治療効果を認めた上で、心と脳の関係を考え直した本。「心はいかに脳に関係するのだろうか?」という疑問を元に、精神疾患と診断される人たちと、健常者(精神疾患と診断されていない人たち)の脳を比較。その違いからわかってきた心のありようを紹介している。ここでは、うつ病の人の心の状態を、症状以外から表してみよう。
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 うつ病の症状は、冒頭に挙げたようにさまざまだが、個人差がとても大きい。気分の落ち込みは共通するとしても、それ以外の症状の出方は人によってそれぞれだ。だが、同じといっていい部分もある。それは「症状」ではなく、心の向く方向だ。
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健常者の心が「外」を向いているのに対し、うつ病患者の心は「内」に向いている。

 著者のいう二者の差は、どこを意識して生きているかの違いだ。どういうことだろうか。もう少し噛み砕いてみよう。私たちは、仕事や勉強など、何かに集中しているときは、目の前の集中している物について考えている。しかし、それ以外の時間、例えばオフタイムや移動時などは何を考えているのだろうか? その注意はどこを向いているのだろうか?

 その答えが、健常者が自分の外、周囲のものを感じ考えて生きているのに対して、うつ病患者は自分の内について感じ考え生きている、ということだ。これを踏まえ著者は、うつ病は「環境に注意が向けられなくなる」病だと述べている。「環境から切り離され隔離されている」という言い方もしている。

 脳科学に勢いのある今、心という目に見えないものから、つまり感じたり考えたりしている状態そのものから、うつ病を表そうとする著者の試みは、珍しいものであるがゆえに理解されにくい部分もあるだろう。しかし、本書は、うつ病をとらえ直すよいきっかけになるのではないか。患者の周囲の人が、苦しんでいる人の心を理解し、共感を示すことができたのなら、その苦しみは少し和らぐかもしれないではないか。また、著者の態度は、医療の未来にそっと忠告を与えているようにも思う。

 現在、最新の医療現場では、脳内の血流の流れを画像化するなど、新しい技術がさまざまに出てきている。うつ病を客観的に診断できるとして注目されており、治療効果の高まりが期待される。このように、これまで心の病として扱われてきたうつ病が、脳の病として扱われつつある現在、患者にとっては、どう扱われたとしても、状態の改善こそが医者にかかる目的だ。

しかしやはり単純な疑問は抱かざるを得ない。心は脳なのか? うつ病は脳の病なのか? もし今後、うつ病が脳の病として目に見える画像やデータをもとに治療していく方向になるとしたら、診察の際、主観、つまり本人の訴えが置いてきぼりにされる恐れはないのだろうか。不調に陥った際に、言っていることを信じてもらえない、仮病扱いされる、といった涙が流れないことを祈る。
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 とはいえ、著者は脳画像の比較も注視しており、決して現代医療に喧嘩を売っているわけではない。本書は、画像比較の図版も掲載され、科学的な面でも充実した内容だ。ちなみに、うつ病患者の脳は、健常な人なら脳の活動が低くなる安静状態でも、正中線領域という部位が活発に活動をしているそうだ。著者は、「活発に活動している」=「症状を引き起こしている」、ではないとし、遺伝や身体との関係も含めて慎重な姿勢を見せている。これからも注目していきたい研究だ。

記憶力、計算力、言語能力、遂行能力、判断力、それぞれ低下し始めるのはいつ?

介護・医療の情報サービスを提供するエス・エム・エスが、日本最大級の認知症専門サイト「認知症ねっと」において2016年11月より提供を開始した「認知機能チェック」ツールの受検者が、約1か月間で1万人を突破。この受検結果をひろかわクリニック院長である広川慶裕先生に分析を依頼したところ、認知機能は50歳頃より徐々に低下をはじめ、55歳頃から明らかな低下がみられることがわかった。そのため、認知機能低下前の40歳頃から、認知症の予防に取り組むことが大切であると考えられる。

「認知機能チェック」は、認知症の前段階と言われるMCI(軽度認知障害)で起こるとされる認知機能の低下を5分程度でセルフチェックし、認知症の予防を促すことを目的としたもの。認知機能を「記憶力」「計算力」「言語能力」「遂行能力」「判断力」の5つに分類し、それぞれの機能に対応した簡単な問題を解くことで、認知機能の状態を可視化することができる。

■分析結果サマリー

・認知機能は50歳頃には低下を開始
・認知機能の中でも高次な「遂行力」「判断力」がより早期に低下している
・「言語能力」は70歳頃まで比較的機能が保たれる傾向
・「記憶力」のうち「ワーキングメモリ」「遅延再生」の機能は50歳頃から低下が始まるが、「エピソード記憶」機能は70歳頃まで保たれる
・「判断力」のうち「注意力」が、他の機能に比べて早期から大きく低下する傾向がある

テストや検査で異常でも…医者の「認知症診断」増える誤診

認知症が広く知られるようになるにつれ、認知症でないのに認知症と診断されるケースが増えているという。どういうことか。

「別の医療機関で認知症と診断された」「認知症と診断され、薬を飲んでいる」などと来院した患者の中に、少なくない割合で、「認知症以外の患者」がいる――。こう指摘するのは、認知症の専門医である日本医科大学講師の上田諭医師だ。

 85歳のAさんは、突然訳の分からないことを言い出すようになり、トイレ以外の場所で排泄をするようになった。

 受診した病院の担当医はすぐにアルツハイマー型認知症と診断。家族がセカンドオピニオンのつもりで、上田医師の外来をAさんと共に訪れた。すると、検査から「訳の分からないことを言い出す」などの症状は、肝疾患である「肝性脳症」が原因と判明。肝疾患の治療のため、内科病院に入院となった。

 同じくアルツハイマー型認知症と診断された75歳のBさんは、上田医師が行った血液検査で誤診が明らかになった。

 Bさんは1年前から倦怠感が続き、1カ月前から物忘れがひどく、食欲が著しく落ち、救急車で運ばれた病院で認知症の疑いがあると診断されていた。血液検査の結果、認知症ではなく、甲状腺機能低下症と分かり、専門病院での治療が始められた。

 認知症は、記憶障害、日付や場所の間違い、家事ができない、道が分からないなどの「中核症状」と、うつ状態、怒りっぽさ、妄想、幻覚などの「周辺症状」が特徴だ。

 認知症の診断では、問診で中核症状や周辺症状をチェックし、MRIやCTの画像検査、長谷川式など認知症診断のためのテストが行われる。しかし、これらだけで単純に認知症を判断しようとすると、重要な「大原則」が抜け落ちる。

「ほとんどの認知症は、周囲がはっきり分からないうちに症状が顔を出し、非常にゆっくりしたスピードで進行します。本人や周囲が困る症状として少しずつ顕在化する。これが大原則です」

 たとえ、中核症状や周辺症状と似た症状があり、画像検査や長谷川式テストで異常となっても、「大原則」から外れていれば認知症ではないのだ。

「Aさんの場合は、突然症状が出ていた。トイレ以外の場所での排泄は重度の認知症で見られますが、突然、出てくることはあり得ません」

 Bさんの場合も、ある時期から急に物忘れが目立つようになっている。さらに倦怠感や食欲低下も、認知症の初期や中等症では見られない。

 近年、認知症の誤診が増えている。認知症の症状がよく知られるようになり、専門医以外の医師が「この年齢で、この症状なら認知症」と安易に診断するからだ。

 高齢者は、風邪や栄養失調などちょっとした身体的不調でも、認知症にそっくりな記憶障害や妄想などが出ることがある。身体症状が悪ければ、長谷川式テストの結果も悪くなる。だからこそ別のさまざまな身体疾患を想定し、慎重に検査し、診断しなくてはならない。

「認知症の診断は、最終判断であるべきですが、それが抜けている」

 Aさんの場合は、もともと肝機能を患っていたのに、肝臓を調べずに認知症と診断されていた。不幸中の幸いで2人とも認知症治療はまだ始まっていなかったが、認知症と診断されて、薬を処方され、誰もその経緯に疑問を抱かなければ、今でも認知症として治療され続けていたかもしれない。

 私たちが自衛策として知っておくべきなのは、症状の表れ方だ。親と同居していなくても、たとえば「正月に会った時はまったく正常だったのに、ゴールデンウイークには会話がおかしくなっていた」というような場合は、認知症以外の病気が考えられる。

揚げ物好きはうつ病になりやすい?


日本人の食事が西欧化して、食べる機会が増えたものの1つが揚げ物ではないでしょうか。肉、魚にとどまらず、ジャガイモや野菜、スイーツまで、食材を揚げるレシピは日本食に比べ非常に多く、多様です。

 誰しも、揚げ物は高カロリーと知りつつ、週に何回か、またはほぼ毎日食べているのが現状ですが、揚げ物を食べる頻度が高いと、抑うつに対するレジリエンス[注1]が低下し、うつ病になるリスクが高まる可能性が、日本医科大学多摩永山病院(所属は論文投稿時)の吉川栄省氏らの研究で示されました。

[注1] 一般には、逆境に直面した時にストレスに対処し、乗り越える能力を指す。うつ病予防にも大切な能力。参考記事「落ち込んだ気分を回復させる誰でもできる方法」
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■魚が多いとうつ病が減り、揚げ物が多いとうつ病が増える?

 研究グループは、大企業で働く日本人を対象に、揚げ物の摂取頻度と、うつ病の有無、レジリエンスの高低の関係を調べました。

 吉川氏らが揚げ物に注目したのはなぜでしょうか。そもそものきっかけは、魚の摂取頻度が高い集団ではうつ病患者は少ない、という報告と、日本食がうつ病のリスクを低減する可能性を示した複数の報告にありました。魚を食べる機会が多いのは、日本食の特徴の1つです。

 一方で、西欧の食事がうつリスクの上昇に関係することを示した研究も複数あります。日本食との違いの1つが、西欧食には揚げ物メニューが多いことです。

 魚は、オメガ3脂肪酸(長鎖n-3多価不飽和脂肪酸)を多く含み、揚げ物には、オメガ6脂肪酸(長鎖n-6多価不飽和脂肪酸)を含む植物油が使われることが多いのですが、これら多価不飽和脂肪酸は感情の調節に重要な役割を担っており、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の摂取量のバランスが崩れると、感情調節がうまくいかなくなって、うつ病をはじめとする精神疾患が起こりやすくなる可能性がある、と考えられています。

 著者ら自身は先に、魚の摂取量が、抑うつに対するレジリエンスに関係することを明らかにしていました。そこで、揚げ物を頻繁に食べると、魚の場合とは反対に、レジリエンスが低下して抑うつ症状が現れやすくなるのではないかと考えて、その真偽を調べることにしました。

■日本の大企業で働く715人の調査結果

 対象としたのは、都市部の大企業6社で働く715人(平均年齢39.9歳、83.4%が男性、65.2%が既婚者)です。

 抑うつ状態の評価には、うつ病自己評価尺度CES-D(スコア幅は0~60で高スコアほど抑うつが強い)を、レジリエンスの評価には14項目からなるレジリエンス・スケール(RS-14;総スコアは14~98で、高スコアほどレジリエンスが高い)を用いました。

 魚と揚げ物の摂取頻度は、食物摂取頻度質問票を用いて、過去6カ月間の状況を「ほぼ食べない」「月に1~3回」「週に1~2回」「週に3~4回」「週に5~6回」「毎日」の中から選択してもらいました。この結果、715人の平均摂取頻度は、魚が週に1~2回、揚げ物は週に3~4回でした。

 分析を行ったところ、魚の摂取頻度とは無関係に、揚げ物の摂取頻度が高い人ほど抑うつ症状は強く、レジリエンスは低いこと、レジリエンスが低い人はうつ病リスクが高いことが示唆されました。さらに調べると、揚げ物の摂取頻度が直接抑うつ症状を強めるのではなく、レジリエンスを低下させることにより、抑うつリスクを高めていることが明らかになりました。

 揚げ物が好きな人のライフスタイルは、揚げ物をあまり食べない人のライフスタイルとは様々な点で異なっていると考えられます。今回の分析は、そうした違いのごく一部しか考慮できませんでした。また対象となったのは、大企業で働く主に男性で、比較的恵まれた職場環境と報酬を得ており、ストレスは少なめで、うつ病リスクは低かった可能性があります。

 これまでに得られた情報の正しさを確認するためには、毎日の食事で摂取する魚と揚げ物の量を指示する臨床試験を行って、レジリエンスとうつ病発症率にどのような影響が及ぶのかを調べる必要があります。

 論文は、2016年9月15日付の『Lipids in Health and Disease』誌電子版に掲載されています[注2]。

[注2] Yoshikawa, et al. Association between frequency of fried food consumption and resilience to depression in Japanese company workers:a cross-sectional study. Lipids in Health and Disease. 2016;15:156. Published online 2016 Sep 15. doi: 10.1186/s12944-016-0331-3

■大西淳子(おおにし・じゅんこ) 医学ジャーナリスト。大西淳子(おおにしじゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

若かったあの頃の記憶力を取り戻す方法とは?

歳をとるにつれて記憶力がなくなることは常識のように言われていますが、本当なのでしょうか。

記憶のメカニズムと実証実験から紐解きます。

■生涯にわたり再生可能な「海馬」
人間の場合、記憶をつかさどる「海馬」という器官は、生涯にわたって再生できるとわかってきました。

2011年にピッツバーグ大学の研究チームが有酸素運動を続けることで海馬の大きさが約2%大きくなり記憶力が改善するという論文を発表しています。普段座りがちな55~80歳の男女を対象に、ほぼ毎日、1日40分の有酸素運動(ウォーキングやランニング)を6カ月続けて行った結果、海馬の大きさが約2%大きくなり記憶力が改善したそうです。

また、海馬を刺激するためには、軽い運動でも十分であることが、筑波大学大学院人間総合科学研究科・征矢教授の2014年の研究によって明らかになりました。

心拍数で1分間90~100ぐらいの運動でも効果があります。ランニングよりスローペース、速く歩く程度の速さのジョギングを1日10分で構いません。2週間続ければ脳神経が増え、6週間で認知機能自体が向上することがわかったそうです。

多くの経営者やクリエイターが「走るとアイデアが浮かぶ」ということを紹介していますが、適度に走っている時は脳が刺激されるので、その効果もあり新しいアイデアが浮かぶのでしょう。

■記憶の脳内メカニズム
海馬は脳の奥、両方の耳をつないだ線のあたりに、左右にひとつずつあります。その形は名前のとおり「タツノオトシゴ:海馬」にそっくりな脳の器官です。海馬にも数億個の神経細胞があり、その神経細胞からはシナプスと呼ばれる回路状の組織が無数に存在していて、それぞれがネットワークを作っています。

海馬で記憶が作られるメカニズムは割と簡単です。まず、ひとつの記憶に対応する神経細胞の回路ができます。そして、その神経細胞の回路にリアルタイムに細胞の電気信号が流れて記憶するのが短期記憶で、ちょうどコンピュータのランダムアクセスメモリ(RAM)に相当します。

リアルタイムで電気が流れている間は情報を忘れないのですが、流れる電気が消えると二度と思い出せなくなります。また、時間が経ったり用が済んで他の情報が上書きされたりすると、すぐに忘れてしまうのが短期記憶です。

たとえば、相手に聞かれた質問を覚えておくことで質問に答えられることや、読書でも登場人物や前の頁の場面を覚えていることで文脈を理解したりするときに使います。

そして、特定の記憶の回路へ電気信号を流すたびに、神経細胞は電気が流れやすい形態へと変化していき、そのうち、電気が長期にわたって強く継続するようになるのが長期増強(LTP : Long-term potentiation)です。英単語を覚えるときも、繰り返すことで記憶が強くなることは、この長期増強の効果です。

長期増強により電気の強さが一定以上になると、たんぱく質が合成され新しいシナプスのつながりによって新しい神経回路を形成します。これが長期記憶で、いったん長期記憶ができるとほとんど忘れることはありません。この長期記憶はコンピュータのハードディスクに相当します。

海馬をひとつの都市と仮定すると、シナプスは海馬を形成する神経細胞同士を結ぶ道路や交差点に対応します。海馬が大きくなり神経細胞やシナプスが増えることは、都市でたとえると道路や交差点が充分に出来上がることと同じです。車やバスなどの交通がスムーズに流れるように、記憶の情報もスムーズに行き来できることになるわけです。

【参考資料】
・運動トレーニングは海馬のサイズが大きくなりメモリを向上させる 2011年ピッツバーグ大学
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3041121/)

もしかして「プチボケ脳」かも?原因と対策をご紹介します!

これってもしかして「プチボケ脳」?その原因とは

人間誰しもうっかりしてしまうことはあるもの。
だけど、そのうっかりや物忘れが続いてしまったら…気になりますよね。
そんな「プチボケ脳」が20~30代の年代で今、増えつつあるのだとか。
気になる原因やメカニズムについて調べてみました。

【プチボケ脳の原因とは】
プチボケ脳の症状には、同時に2つのことができない、注意力散漫などの特徴が見られるのだそうです。
次の中に当てはまるものが多い方は、注意が必要だと言われています。

・食生活の乱れ
・喫煙(受動喫煙を含む)
・運動不足
・身体が固い
・過度のストレスやプレッシャー等

私たちの脳には「ワーキングメモリー」と呼ばれる部分があります。ワーキングメモリーは前頭葉に存在し、一時的に記憶を保存したり記憶を引き出したりする役割を担っています。ところが生活習慣の乱れなどでワーキングメモリーの働きが鈍くなると、物忘れをしやすくなったり物覚えが悪くなったりするのだそう。また、喫煙などで体内の活性酸素が増加してしまい赤血球の酸化が進むと、脳細胞の劣化や細胞が壊死してしまうのだとも。

ちなみに、身体が固い人も要注意。
脳細胞の情報をキャッチする「スパイン」という部分が少なくなり、柔軟な思考がしにくくなると言われているのです。

「プチボケ脳」にならない為に!今日からできる3つの方法

では、「プチボケ脳」に悩む方にはどのような対策がオススメなのでしょうか。
詳しく見ていきましょう。

【プチボケ脳とサヨナラする3つの方法】
(1)みかんを食べる!酸化してしまった赤血球は、脳細胞のダメージを引き起こします。ですが、みかんに含まれるキサントフィルはその酸化を解消してくれる効果があるのだとか。また、キサントフィルは体内に蓄えられていく成分の為、摂り過ぎても心配はないそうです。黄色い食べ物の中でも、とりわけみかんが豊富な成分を含んでいると言われています。

(2)ストレッチや軽い運動を取り入れる!
柔軟やストレッチなど、身体を動かすことで脳に刺激が届き、脳内スパインを増やしてくれる効果が期待できるのだとか。特に冬の時期は、冷たい風に身体もこわばりがち。お風呂上りにストレッチを取り入れるなど、日常生活の中で身体をほぐす時間を設けましょう。

(3)質の良い睡眠をとる!
脳は、私たちが眠っている間にその日の情報を整理してくれます。海馬と呼ばれる部分が整理整頓を行い、大脳皮質がそれを記憶として定着させるのだそう。ですが、睡眠不足や眠りの浅い状態が続くと、このメカニズムが上手く機能しないというわけです。
上質な睡眠の為に、自分なりの方法を確立することが記憶力向上には大切なんですね。

いかがでしたか?
プチボケ

ランニングは認知能力を向上させる:研究結果

Inc.:ランニングをする人としない人の脳を比較した結果、驚くべきことがわかりました。

集中力や思考能力、認知機能の向上を助けてくれるものといえば、チェスのような深く考える活動を想像するかもしれません。あるいは、もし脳の働きを良くしてくれるスポーツがあるとしたら、走りながらドリブルし、パスを出すサッカーなど、マルチタスクな種目を思い浮かべるでしょう(事実、世界最強のチェスプレーヤーは、サッカーもたしなみます)。

少なくともランニングではなさそうに思えます。ランニングは単純で反復的で、頭を使う必要がないように見えるため、多くの人が心からつまらないと思っていますし、複雑な意思決定や、脳の良好な健康状態と関連付けられるスポーツとは思われないでしょう。しかし最新の研究は、正反対の結論を導き出しています。

アリゾナ大学の研究チームが、長距離走の選手と全く運動しない人の脳を比較しました。すると、長距離選手たちの脳は「計画、抑制、監視、注意の切り替え、マルチタスク、運動制御を含む」認知機能にかかわる領域が非常に活性化されているとわかりました。研究結果は「Frontiers in Human Neuroscience」に発表されています。

この研究では、長距離走の選手をしている大学生11人と、1年前から全く運動していない11人を比較しました。被験者たちが何もせずに座っている6分間、MRIで脳の活動を測定しました。その6分間の観察で、以下のことがわかりました。

ランナーの脳はどう違うのか

「深い思考」にかかわる脳の領域が活性化:高度な思考を必要とする脳の領域で、活発な「やり取り」が行われていました。具体的には、記憶や意思決定、処理にかかわる領域同士がつながっている状態でした。一方、全く運動しない被験者は、これらの領域が活性化していませんでした。

「空想」にかかわる脳の領域が低活性:一方、注意散漫や集中力低下にかかわる脳の領域は、全く運動しない被験者と比べて活性化していませんでした。これはランナーの方が集中力が高いことを示唆しています。

研究に参加した神経科学者のGene E. Alexander氏は「New York Times」の取材に対し、「この研究結果を見る限り、ランニングは単純とはほど遠いのかもしれません」と述べています。一見、頭を使わない活動のようですが、実は複雑なナビゲーションを必要とするそうです。

人は走っているとき、周囲環境や経路、体調などを同時に処理しています。被験者のランナーたちのように、定期的に走っている場合は、過去の走りを思い出しつつ、それをもとに意思決定を行うこともあるでしょう。走りながらコースを変えることもあれば、コースを変えないと決断することもあります。いずれにせよ、文字通り動きながら意思決定を行っているのです。走りながら体を鍛え、同時に頭を鍛えていると言っても良いでしょう。

注意事項

この研究からあれこれと想像する前に、いくつかの留意点を挙げておきましょう。まず、被験者は全員、大学に通う若い男性でした。研究者はしばしば、被験者から女性を除外します。明確な研究結果を得るには、女性の月経周期が妨げになるためです。つまり、今回の研究は多くの研究と同様、人類の50%にしか当てはまらないということです。研究から女性を除外することの問題点をもっと知りたい人は、ポッドキャスト「Freakonomics」の最新エピソード「Bad Medicine, Part 2: (Drug) Trials and Tribulations(悪い薬パート2:臨床試験の苦難)」を聴いてみるとよいでしょう。

次に、今回の研究は、長距離走の選手と1年前から全く運動していない人を比較しています。長距離選手たちの脳は単純に走っていたおかげで健康になったのでしょうか? それとも、持久力を必要とするスポーツを定期的に行っていたおかげでしょうか? 自転車、水泳、トライアスロンなどの長距離競技を行う人の脳を調べても、同じ結果が出るかもしれません。

いずれにしても、今回の研究は多くの研究と同様、さらなる研究を促すような興味深い結果を導き出しています。そして、本格的な冬が訪れた今、外へ走りに出掛けるモチベーションがほしいという人は、ぜひこの研究結果を胸に、思い切って外に飛び出しましょう。

75%のマウスが記憶回復 アルツハイマー治療に大きな進歩

コラム【ニューヨークからお届けします】

 認知症の一種であるアルツハイマー病は、世界に4000万人の患者がいるといわれ、予防や治癒の発見が求められている病気です。それが2017年には大きな進歩を見せるかもしれません。

 最も期待されているのは、約1年前にオーストラリアのクイーンズランド・ブレーン・インスティチュート(QBI)が発表した治療です。

 アルツハイマー病の原因のひとつは、アミロイドというタンパク質の一種が脳内に蓄積することで発生するプラークといわれています。QBIの治療は、超音波による振動で一時的に血液脳関門を開くもの。マウスを使った実験では、プラークを取り除くことに成功。75%のマウスが記憶を回復したと報告され、大きなニュースになりました。

 QBIはいま、人間への臨床実験の準備を進めています。しかし、マウスよりずっと大きな人間の脳に超音波を送り込むためには、出力をずっと高めなければならず、脳細胞を傷つけてしまうリスクがあるため、そう簡単にはいかないようです。

 そこでQBIでは羊の脳と、3Dプリンターで形成した人間の脳を使った実験を行い、その一方でより進化した送波システムの開発も進めています。17年末までに約100人を対象にした臨床実験をスタート。うまくいけば5年後には一般の治療に使うことができるようになると報告されています。

 超音波を利用した治療法は世界中で研究されていますが、注目されているのはマイクロバブル(マイクロサイズの気泡)注射と組み合わせることでより振動効果を高めようとする方法です。

 また、ほかの研究ではこのマイクロバブルを使って注入した薬品を脳内のターゲットエリアだけに運ぶことで、アルツハイマー病やパーキンソン病を治療できる可能性があることも判明。医療関係者から熱い視線を浴びています。
(シェリーめぐみ/ニューヨーク在住ジャーナリスト)

間違えていませんか? 認知症予防の“俗説”ウソとホント

正月休みに帰省すると、親の様子が……。認知症患者は、2025年に700万人を超えると推計され、65歳以上の5人に1人がつらい晩年を送る計算だ。そんな目に遭わないように、認知症予防に努めている人も少なくないだろう。

 認知症予防の俗説のウソ・ホントをまとめたのが別表。その中でも大切なポイントについて、日本認知症学会指導医で「くどうちあき脳神経外科」院長の工藤千秋氏に聞いた。

「認知症の中で予防できるタイプが血管性認知症です。血栓で脳の血流が滞って、その部分の脳機能が衰えて認知症を起こす。いわゆるドロドロ血液になるような食生活や運動不足が続くと、血栓がいくつもできる恐れがあるため、よくないのです」

■目や耳も脳に影響

 心筋梗塞の発症と同じカラクリだから、野菜や魚を中心とした食事がいいのだが、別表の1については補足もある。

「肉一辺倒の食事はもちろんいけませんが、脂身の少ない良質な赤身肉は適量必要です。赤身肉に含まれる鉄は、必須ミネラルのひとつで、脳や細胞に酸素を運ぶ役割があります。実は、鉄の不足によって貧血になると、認知機能が低下しやすいという報告もある。脳の酸素量が不足し、神経が損傷したり、記憶力や思考力が低下したりするためと考えられます。ですから、鉄を補うためにもタンパク源としても、赤身肉が必要なのです」

 それが別表の2と関係する。

「市販のサプリメントは成分の含有量がまちまちで、医科向けのような十分量が含まれていないのです。買うなら医科向けを選び、赤身肉も取るのがベター」

 食事でよく噛むと、脳が刺激される。よく噛めない人は、脳への刺激が減るため、認知症が進みやすい。インプラントは高いと歯周病を放置している人は、保険で入れ歯を作るなどした方がいい。

 同じような理屈が目や耳についてもいえる。「老眼鏡は老けて見える」と裸眼でガンバる人がいるが、見た目はともかく、こと認知症予防に関してはダメ。よく見えるようにメガネをかけた方が、視神経を通じて脳がよく刺激される。

 脳トレは、同じような問題を長時間繰り返しても飽きるから、意味がないのだが……。

「ウオーキングしながら俳句を作るとか、頭を使いながら体を動かすのがいい」

 段取りを考えながら手を動かす料理はうってつけだろう。

認知症疑いの親 運転をやめてもらうコツは

認知症が疑われる高齢者による自動車事故のニュースが増えている。もし自分の親が事故を起こしたらどうしようと心配になる人も少なくないだろう。事故を起こしてしまう前に運転をやめてほしいが、まだしっかりしている人に運転をやめろとは言いにくい。どのタイミングでやめてもらうのがいいのか。また、具体的にどう説得すればいいのか。認知症の人と家族の会全国本部の副代表理事でもある川崎幸クリニック院長の杉山孝博さんに話を聞いた。

■運転をやめてもらうタイミングは?

 「認知症と診断されたら、免許は返上しなければなりません。もちろん、安全のために、認知症の兆候が出た段階で運転はやめてもらう必要があります」と川崎幸クリニック院長の杉山孝博さんは言う。ただし、認知症は今日から認知症と区切れるものではない。徐々に進行していくため、認知症になっても周囲が気付きにくいケースも少なくない。運転をやめさせるタイミングとして、見逃してはならない変化は何だろうか。

杉山さんによれば、次の8項目のうち、ひとつでも当てはまれば、やめさせるタイミングになるという。こうした兆候に注意しつつ、例えば、壁をこすってしまったり、標識を見落としたりなど、本人が運転に不安を感じた時に「危ないから運転をやめようね」と、説得すると比較的うまくいくことが多いそうだ。

■運転をやめさせるコツはあるか

 認知症の疑いがある親に「人身事故でも起こしたらどうするの?もう運転はやめたほうがいいよ」と言っても、「何年運転してきたと思っているんだ。ばかにするな」と聞き入れてもらえないケースも少なくないだろう。どうすればいいのだろうか。「危ないから運転をやめろと言っても、認知症になると頑固になって、特に介護者である身近な家族の言うことはなかなか聞いてくれなくなります」と杉山さんは話す。

 ではどうすればいいのか。
 「家族の言うことに耳を貸さない人でも、友人や医者の言うことは聞いてくれる場合は多いので、友だちや主治医から話してもらうのも一案です」と杉山さん。孫に「心配だから」と言ってもらうことで、やめさせられたケースもあるという。一方、説得してもうまくいかない場合は、車のバッテリーを上げて「故障して動かなくなった」と言い、あとは「修理に出した」と隠してしまうケース、あるいは車のキーが見つからないようにするケースなど、半ば強制的にやめさせることに成功した例もあるという。

 「様々な人に説得してもらっても、聞き入れてもらえない場合には、強制的に車から引き離してしまうのもやむを得ません。無理に運転をやめさせると、認知症が進むのではないかと考えるご家族もいるようですが、認知症はいずれ進むものです。それに、事故は起こしてからでは取り返しがつきません」と杉山さんは話す。

 もちろん、認知症の疑いがあっても高齢者が運転をやめられない理由には、「運転するのが好きだから」だけでなく、「運転できないと生活や仕事が成り立たないから」というものもある。地域によっては車がないと「買い物に行けない」「病院に行けない」「友だちと会うこともできない」となってしまう。そうしたケースを考えると、認知症になった高齢者に自動車の運転を諦めてもらう一方で、それに代わる交通手段といったインフラも、急ぎ整備していく必要がある。

 その話はまた別の機会に譲るが、まとめとして強調したいのは、運転をやめさせるには、認知症の疑いがある高齢者の気持ちを理解して、その人その人にあった対応をすることの大切さだ。これがダメなら、別の方法、それもダメならまた別の方法というように、やめてもらうまで根気よく続けることが重要だ。

【認知症の疑いがある高齢者が免許返納できない主な理由】1.車に乗るのが楽しいから2.生活や仕事に必要だから3.運転に自信があるから4.免許が身分証明書代わりだから

【運転をやめさせるための工夫】1.車がなくても生活に支障がないように整備する2.運転の仕方、事故への不安をさりげなく話して自発的に運転をやめるよう促す3.車を壁にこすってしまったり、標識を見落としたりして、本人が運転に不安を感じた時に、危ないから運転をやめようねと、説得する4.免許を返納すると、「運転経歴証明書」を申請できる。これが身分証明書の代わりとなることを説明する
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■この人に聞きました

杉山孝博(すぎやま・たかひろ)さん 川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院での内科研修を経て1975年川崎幸病院に内科医として勤務。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立し院長に就任、現在に至る。公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。「これでわかる 認知症」(成美堂出版)、「認知症の人のつらい気持ちがわかる本」(講談社)など多数。

そのモノ忘れ、認知症? 目安はヒントで思い出せるか

「知人の名前が思い出せない」という自分の経験や、「財布をどこに置いたか分からない」と言う高齢の親を前に、「認知症かも」と不安になった経験はないだろうか。単なるもの忘れか進行していく認知症なのか、仮に認知症ならどういったタイプなのか。早期に診断し、適切な対処をするために、専門家に見極めポイントなどを聞いた。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症の時代になると厚生労働省は推計している。認知症とは、様々な原因で脳の働きが低下し、生活に支障をきたした状態。「誰でもなる可能性がある。特別なものではない」と横浜市立大学医学部の小阪憲司名誉教授。

■うつ病と誤解も

 認知症にもいろんな種類がある。いわゆる、もの忘れが代表的な初期症状なのが、アルツハイマー型認知症だ。脳に特殊なたんぱく質が溜まり、記憶を司る海馬を中心に神経細胞が死滅し、脳が萎縮していく。認知症患者の半数以上を占める。脳出血や脳梗塞などが原因となるのが血管性認知症。脳の神経細胞に酸素が送られなくなり、脳の一部が壊死(えし)して発症する。もの忘れのほか、手足のしびれや麻痺、頭痛やめまいなどを伴いやすい。一方、うつ病と間違われることの多いのが、レビー小体型認知症だ。小阪名誉教授によると「認知症の約20%がこのタイプで、診断技術の向上と共に年々患者数が増加傾向」。レビー小体という特殊なタンパク質が脳内にできて神経細胞が傷つき、死滅して発症する。

 精神症状が目立つのが特徴。例えば「誰もいないのに人が見えると信じ込む幻視(げんし)や、他人が家に入ってきて悪さをするなどの被害妄想があるなら、レビー小体型認知症の可能性が高い」(小阪名誉教授)。筋肉のこわばりや動作が遅くなるパーキンソン症状が見られる場合も。これらは「三大認知症」と呼ばれ、高齢者の認知症の約9割を占める。アルツハイマー型とレビー小体型ではなぜタンパク質がたまり、神経細胞が死滅するのか「根本原因が不明」(小阪名誉教授)。脳の血流をよくすることで一部の認知症は治療できるが、元に戻すことは今は難しい。

 加齢による自然な脳の働きの衰えで、誰でも記憶力が低下し、もの忘れをするようになる。単なるもの忘れであれば、取り急ぎは心配いらない。もの忘れか認知症かどうかを早く見極められれば、根治はできなくても既存薬で症状を改善させ、進行を遅らせることも可能だという。東京都健康長寿医療センター精神科の古田光部長は「加齢によるもの忘れの場合、細かいことは忘れてもヒントがあるなどすれば思い出せる。認知症では、体験そのものを忘れてしまう」と話す。他人が思い出させようとしても難しいなら、認知症の可能性が高い。

 忘れたことを十分に自覚できなくなるのも認知症の特徴。小阪名誉教授は「日常生活に支障が出るかどうかが目安の一つ」という。忘れたと非難されると落ち込み、抑うつ症状を引き起こすこともある。「抑うつ症状は認知症を悪化させる」(古田部長)ので、認知症と分かっても、周囲がメモに書いて知らせるなど前向きに対処しよう。

■2つの動作並行

 できれば認知症の予防を心がけたい。加齢のほか、大きく影響するのが糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病だ。福岡県久山町での長期間の追跡調査では、糖尿病のある60歳以上の高齢者は認知症になるリスクがそうでない人の約1.7倍高かった。12月は飲酒機会が増えるが「若年性認知症の原因の第5位はアルコール性認知症」(古田部長)。常習的飲酒は記憶障害を引き起こし、アルコールは生活習慣病を悪化させる。アルコールと関連した脳血管障害も認知症を引き起こす。

 生活の仕方も考えたい。「変化を持たせて脳を刺激するのが効果的」(小阪名誉教授)。仕事や趣味に夢中に取り組む、人と積極的に話をするなどだ。「家に閉じこもると関心事も減って危険」と小阪名誉教授。外に出て運動すれば血流もよくなる。毎日20分以上の歩行から始めよう。話しながら歩く、新聞を読みながら筆記するなど「2つ以上の動作を同時に行えばさらに効果的」(小阪名誉教授)。 「40歳になったら認知症予防の意識を。特に生活習慣病の管理は認知症予防につながる」と古田部長。心配ならなるべく早く医療機関を受診、専門医による診断と適切な対処を始めたい。
◇     ◇
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■「もしや…」と思ったら受診を検討

 認知症かもしれないとなったら、もの忘れ外来のほか、精神科や神経内科、脳神経外科、老年科を掲げる医療機関にいく。ただ「全ての医療機関で対応しているわけではない。受診前に認知症の診断をしているか問い合わせた方が良い」(古田部長)。医師会や都道府県のホームページ、地域の保健所や地域包括支援センターに相談してみるのも良いだろう。診察では「どのような変化に、いつごろ気づいたか」「急に起こったのか、いつの間にか始まっていたのか」「気づいたのは本人か、他の人か」「気づいたときと今で変化があるか」といったことのほか、自身や肉親の病歴などが聞かれる。

年末年始はデジタルデトックス? SNSのやり過ぎがうつの原因に!?

『ザ・デイリー ドット(The Daily Dot)』によると、ピッツバーグ大学のメディア・テクノロジー・ヘルス・リサーチ・センターがこのほど、1,700人以上のミレニアル世代の成人を対象に、SNSとうつ病の関係にまつわる調査報告を発表したとのこと。

その調査によると、日常的に7~11のソーシャルメディアを使う人は、同世代の0~2つのSNSしか使わない人たちと比べて、不安神経症又はうつ病になる可能性が3倍に膨れ上がるという結果になったそう。この研究に際して研究者たちは、人種やジェンダー、交際状況なども含めた、憂鬱な気分を引き起こしうる様々な要因も考慮したとのこと。 
 
もっとも、だからと言ってソーシャルメディアから完全にログアウトしなければならないというわけではない。この研究の指導的立案者、ブライアン A・プリマックが解説するように、今後も引き続きさらに多くの綿密な研究がなされる必要があるよう。 
 
「不安神経症やうつ病の症状に苦しむ人たちは、次から次へと広範囲に及ぶSNSを活用する傾向にある。たとえば、複数のソーシャルメディアの中からしっくりくるものを探し出そうとしているのかもしれない。しかし、それらをすべてチェックすることは、不安神経症やうつ病を引き起こす可能性があるということを認識しておくべきだ」とブライアンは警告する。 
 
SNSを完全に絶つ必要はないけれど、スマホの画面にかじり付いた後で気が滅入ることがあれば、それは少しお休みした方が良いというサインかも。

認知症の高齢者が交通事故 家族が監督責任問われることも

高齢になると、本人は「まだまだ運転には自信がある」と思っていても、家族に「危ないから免許は返納してほしい」といわれるケースが増えてくる。

だが、「病院に行く時は車がないと困るし、妻と買い物に行く時だって、重い荷物を持って歩くのは大変」(70代男性)と、年をとればとるほど車を必要とする事情もあり、運転免許を更新するか返納するかはなかなか難しい選択だ。
 
 ただし、現実は高齢者ドライバーには強い逆風が吹いている。

2012年11月には、76歳の男性が運転する軽トラックが路側帯に突っ込み、下校中の小学生を次々にはねる事故が発生。この男性には認知症の症状があったこともあり、高齢者の運転の危険性が問題になった。
 
 高知大学医学部の研究者らが2008年に行なった調査によると、調査対象とした認知症患者約7300人のうち、11%が認知症の診断を受けた後も運転をやめず、うち16%に当たる約130人が人身事故や物損事故を起こしていたという。
 
 さらに警察庁によると、2012年8月までの2年間に高速道路で起きた“逆走”447件のうち、約7割が65歳以上の運転者だった。万が一交通事故を起こし、被害者を出してしまったら、取り返しのつかない事態になる。
 
 民事では「不法行為に基づく損害賠償責任」を負うことになり、人身事故の場合には刑法の自動車運転過失致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性もある。

運転して事故を起こした人が認知症で“責任能力なし”と判断された場合や、本人に損害賠償金を支払う能力がない場合には、家族が“監督責任”を問われることもあるのだ。
 
 最近では、運転免許を返納した人に対し、各都道府県は“特典”まで用意している。

例えば警視庁では運送会社や信用金庫、ホテル、商店、飲食店などと提携し、さまざまな割引サービスを行なっているほか、美術館や公園での優待サービスもある。
 
 とくに車が必要ない人なら、返納するほうがお得なようだ。しかし一方では、高齢者の運転をサポートするような技術も日進月歩で、高齢者が運転を続ける環境も整ってきている。
 
「最近では人や障害物を察知して自動的に止まる機能がついた車も出てきているので、アクセルとブレーキを踏み間違えても危険は少ない。

各自動車メーカーは、高齢者の被験者を使ってドライビングシミュレーターでデータを取り、研究開発を進めているので、高齢者のための対策技術は今後さらに進んでいくでしょう」(自動車ジャーナリストの清水和夫氏)
 
 自分の運転に不安があるという人は、とりあえずは「返納」ではなく、「自粛」という手もありそうだ。

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