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この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療に関するさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
世界的に増加傾向がある大腸がん。実は日本では増加してきており、問題視されています。今回はその対策に、食物繊維たっぷりの低脂肪食が効果的というレポートを解説していきます。
●大腸がんは世界で3番目に多いがん
世界的に大腸がんの増加が問題になっています。
世界保健機関(WHO)の付属機関である国際がん研究機関(IARC)が、2008年に世界182カ国で行ったがんの発生・死亡率の調査によると、27種類のがんのうち、大腸がんは男性では3番目(66万3000人、全体の10%)に、女性では2番目(57万人、全体の9.4%)に多いがんでした。
罹患率(一定期間に新たにがんと診断された症例の人口あたりの割合)は、男女比1.4:1で、男性が高かったことも分かっています。また世界における大腸がんによる死亡者は、1年で60万8000人と推定されており、全てのがん死亡者の8%を占めます。
これはがん死亡者中、4番目に高い数字です。罹患率と同じように、死亡率はカリブ海地域を除き、女性より男性が高くなっています。
■参考文献 US National Library of Medicine National Institutes of Health「Estimates of worldwide burden of cancer in 2008: GLOBOCAN 2008.」
●ハワイとカリフォルニアの日本人移民、大腸がん罹患率が世界1位!?
1999年、ハワイ大学のロイック・ル・マルシャン教授は、米国の日本人移民の大腸がんの罹患率が、移民先の住民の罹患率を超えていること、ハワイとカリフォルニアの日本人移民の大腸がん罹患率が世界で最も高いこと、日本においても食生活の欧米化に伴い大腸がんの罹患率が増加していることを示しました。
■参考文献 US National Library of Medicine National Institutes of Health「Combined influence of genetic and dietary factors on colorectal cancer incidence in Japanese Americans.」
ハワイへの日本人移民だけではなく、日本においても、大腸がんは増加して続けています。
厚生労働省のデータによると、日本人男性が大腸がんで死亡する率は上昇し続け、2007年に肝がんを抜き第3位となり、2013年の時点でもさらに上昇傾向にあります。
日本人女性についても同じように大腸がんでの死亡率は上がる一方で、2003年に胃がんを抜き、以降第1位となっています。
■参考文献 厚生労働省「平成27年我が国の人口動態」
こうしたデータから、大腸がんのリスクが、ライフスタイルの欧米化により高まることが懸念されています。
●大腸がんのリスクは、食生活だけが高めるのかを調査
大腸がんの発症には食生活の影響が強いと考えられていますが、例えばタバコ、化学物質、感染症や抗生物質なども、同じように大腸がんのリスクに影響している可能性が指摘されています。
そこでピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)の研究者らが調査したのが、食生活が大腸がんのリスクに与える影響です。研究者らは、2015年4月28日付けの英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)」にその結果を報告しました。
■参考文献 NATURE COMMUNICATIONS「Fat, fibre and cancer risk in African Americans and rural Africans」
彼らが調査対象に選んだのは、米国ピッツバーグに住む健康なアフリカ系米国人20人と、南アフリカの農村部のクワズール・ナタール(KwaZulu-Natal)地域に住む健康なアフリカ人20人(50~65歳)で、調査対象者はランダムに選びました。
大腸がんの罹患率は、農村部に住む南アフリカ人(10万人中5人未満)に比べて、米国に住むアフリカ系米国人(10万人中65人)のほうが非常に高いことが分かっています。
●アフリカ系米国人の食事は南アフリカ人の2~3倍、動物性タンパク質や脂肪が多い
研究者らは、両グループの食事は準備や調理および配膳方法まで基本的に異なっていることを踏まえたうえで、まず日ごろの食事内容と成分を調査。
動物性タンパク質や脂肪の摂取量は、アフリカ系米国人が南アフリカ人より2~3倍高くなりました。
一方、南アフリカ人は、主に難消化性デキストリン(レジスタントスターチ/Resistant Starch:水に溶けにくいでんぷんの1種)の形で、炭水化物と食物繊維を多く摂取していました。
難消化性デキストリンは、水に溶けにくいでんぷんの1種で、小腸では消化や吸収がされにくく、大腸で腸内細菌に利用されます。難消化性デキストリンは最近、大腸がんや糖尿病の治療、予防に対する効果が期待されている成分です。
■参考文献 US National Library of Medicine National Institutes of Health「Resistant starch: a promising dietary agent for the prevention/treatment of inflammatory bowel disease and bowel cancer.」
●アフリカ系米国人の方ががんリスクが高い
次に研究者らは、参加者の大腸内視鏡検査を行い、大腸がんのリスクを示すバイオマーカーの測定や腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)を解析しました。
大腸内視鏡検査では、参加したアフリカ系米国人20人中9人に大腸の腺腫性ポリープが発見されましたが、南アフリカ人は1人もありませんでした。大腸の腺腫性ポリープは、放置すると少しずつ大きくなり、がん化すると考えられています。
がんリスクとなるバイオマーカーは、アフリカ系米国人のグループでより高くなりました。
また、2つのグループの腸内細菌叢の種類と、その量の構成パターンは非常に異なっていました。
南アフリカ人はでんぷんを分解する細菌、炭水化物を発酵する細菌と酪酸を作る細菌が多く、アフリカ系米国人は胆汁酸を分解する細菌が多く存在していました。
これまでの研究で、酪酸には抗炎症作用や抗腫瘍作用があることが分かっており、胆汁酸の代謝産物には発がん性があると示されています。
●食物繊維の多い低脂肪食が大腸がんのリスクの減少
次に、参加者はそれぞれの地域で調査施設に滞在し、2週間、厳密にコントロールされた条件のもと、食事内容を互いにスイッチしました。
具体的には、南アフリカ人は、ふだんのアフリカ式の食事から欧米式の食事(総摂取カロリーのうちの脂質の割合は16%から52%に増加、食物繊維は1日66gから12gに減少)に、アフリカ系米国人は、ふだんの欧米式の食事からアフリカ式の食事(総摂取カロリーのうちの脂質の割合は35%から16%に減少、食物繊維は1日14gから55gに増加)にして、それぞれ2週間摂取したのです。
するとアフリカ系米国人は、2週間後に大腸の炎症、および、がんのリスクとなるバイオマーカーが減少。逆に南アフリカ人は、がんのリスクを示すバイオマーカーが上昇しました。
また腸内細菌も、両グループで劇的に変化し、アフリカ系米国人は酪酸を作る細菌の数が増加し、逆にアフリカ人は胆汁酸を分解する細菌が多くなったのです。
この研究は2週間のみの経過観察なので、長期的な影響は分かっていません。ただし、食物繊維の多い低脂肪食は、短期間で腸内細菌のパターンに影響することが明らかになり、大腸がんのリスクの減少させることが示唆されました。
●最近の日本人は脂肪過多?
では私たち日本人は、どのくらい脂質や食物繊維を摂取しているのでしょうか?
「日本人の食事摂取基準(2010年版)」(厚生労働省)は、総摂取カロリーのうちの脂質の割合の目標量を18~29歳までの男性・女性では20%以上30%未満、30歳以上までの男性・女性では20%以上25%未満としています。
しかし2007年の「国民健康・栄養調査結果」(厚生労働省)によると、20歳以上の日本人男性の20.6%、女性の28.1%は、総摂取カロリーに占める脂質の割合が30%以上だったといいます。
特にバターやラードなど、肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれている飽和脂肪酸の摂取の増加が問題となっています。
動物性食品のとり過ぎには注意が必要です。
■参考文献 農林水産省「脂肪のとりすぎに注意」
●1日約5~6gも食物繊維が足りない!
一方で、「日本人の食事摂取基準(2010年版)」で定められた1日あたりの食物繊維摂取目標量は、18歳以上の男性で19g以上、女性17g以上となっています。
1950年代の日本人は、平均食物繊維摂取量が1日20gを超えていました。ところが最近は食生活の欧米化などに伴い、食物繊維の摂取量が減り、1日約5~6gも足りないと言われています。特に10~40代で、摂取がかなり少ないことが問題視されています。
私たちは食物繊維をもっと積極的に摂取しなければなりません。
食物繊維の多い低脂肪食を2週間摂取しただけでも、変化が認められるわけですから、健康的な食事に変えることが、遅すぎるということはありません。今日からでも、動物性食品を控えめにして、食物繊維たっぷりのヘルシーな食事をとるようにしてみてくださいね。