日本人が歯を失う原因を調べた最新調査で、トップだったのが「歯周病」。全体の約4割を占めていた(8020推進財団調べ)。サイレントキラーの異名を持つ歯周病は、痛みなどの自覚症状がほとんどないまま進行する。そして気づいた時には、治療しても完治できないケースが多い。
歯周病が手強い理由を、元東北大学臨床教授で弘岡歯科医院(スウェーデンデンタルセンター)院長の弘岡秀明氏に聞いた。
「歯周病の原因となるのは、バイオフィルム(デンタルプラーク)という細菌の膜です。これが歯と歯肉の境目や歯周ポケットに付着して、細菌の毒素が炎症を起こす。歯周病の初期段階である『歯肉炎』で適切な処置をすれば、完治させるのは難しくありません。しかし、進行して『歯周炎』になると、歯を支えている歯槽骨が吸収(消失)されてしまい、良くても現状維持、最悪は抜歯です」
歯周病で歯を失わないためには、「歯肉炎」の段階で見つけて適切な治療を受ける、早期発見・早期治療が肝心なのだという。だが、近年はあやしい情報や治療法も氾濫する。そこで注意すべき「罠」を挙げておきたい。
口腔内の除菌で歯周病が治る?
別掲の画像は、口腔内から採取した「細菌」を位相差顕微鏡で撮影したものだ。採取したばかりの「細菌」は、活発にうごめいている。自分の口にいる無数の「細菌」を初めて見た患者は、強い衝撃を受けるはずだ。筆者も、口腔内の細菌を見た時の驚きは、今でも忘れられない。
一部のクリニックでは、口腔内の細菌を「除菌」する、独自の歯周病治療を宣伝している。特別な「除菌水」などを使うと、無数にいた口腔内の細菌が見事に激減してしまうのだ。大半の患者は位相差顕微鏡で、「除菌」の効果を目の当たりにすると、高額な治療費も惜しくないと思うらしい。だが、本当にそんな簡単に治るのだろうか?
「口腔内には約700種類の常在菌がいて、歯周病菌以外に良い菌もいます。『除菌』で細菌を一掃しても効果は短時間だけで、口腔内の細菌は元通りになるでしょう。つまり『除菌』だけで歯周病を治すのは無理です」(弘岡氏)
凄腕の歯医者なら1日で治せる?
歯周病治療の広告を出しているクリニックの中には、たった1日で治せると宣伝しているところもある。軽度の歯周病治療が20万円台、重度は40万円台という強気の費用設定だ。患者は、高い治療技術を持った“名医”だから、治療費も高いのだろうと想像するかもしれない。
だが、自由診療の場合は、経営者の歯科医が勝手に治療費を設定できるので、必ずしもスキルとの相関性はない。

歯周病と健康な状態の比較
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そもそも、たった1日の治療で歯周病を治すことは可能だろうか?
「歯周病を治すためには、クリニックで受けるメインテナンスと同じくらい、患者自身が毎日行なうセルフケアが重要です。患者が歯周病になったのは、セルフケアに問題があったと考えられますので、その根本原因を解決する必要性があります。
たとえ、そのクリニックで時間とお金をかけて治療を受けたとしても、患者のセルフケアが不適切であれば、歯周病の再発は避けられません」(弘岡氏)
レポート/岩澤倫彦(ジャーナリスト)
人間の体には、体内と表面を合わせて100兆個もの細菌が存在するともいわれており、その細菌とうまくかかわっていくことが健康維持に欠かせない。体の中で、腸と並んで細菌が多くすんでいる場所が口の中だ。
腸内細菌は菌の種類ごとに密集して腸壁に生息しており、その様子が“花畑”に似ていることから「腸内フローラ」と呼ばれているが、成人の口腔内にも、およそ700種類ほどの菌がいるといわれ、「口腔フローラ」を形成している。
口の中の菌というと、「虫歯菌」や「歯周病菌」がすぐに思い浮かぶが、これらの菌と人間との歴史は長い。広島大学大学院教授で歯学博士の二川浩樹さんが解説する。
「虫歯は、弥生時代に米作りが始まってから、つまり炭水化物主体の食事を摂るようになった時期から増えたといわれています。歯周病菌はさらに昔、縄文時代の人の口腔内にも存在していた。当時の人体の頭蓋骨を見ると、はっきり痕が見られます。海外でも、古代人の口に残った遺伝子を解析すると、歯周病菌がいたことがわかっています」
有史以前からのつきあいを続けてきた菌だが、研究の進んだ現代では、人の命を奪う原因になるほど危険なことが判明している。東京医科歯科大学大学院で歯周病学分野の助教を務める池田裕一さんは、昨年、歯周病の原因となる細菌の1つが食道がんのリスク因子になることを初めて突き止めた。
「歯周病菌が増えるメカニズムは解明されていませんが、年齢を重ねるほど歯周病になる人の割合が増えてくるのは事実です。夫婦や家族など20年以上一緒に生活していると、よくも悪くも、同じような口腔フローラになりやすいというデータもある。キスをしたり、同じ皿のものを食べたり、唾液を介して細菌が接触する頻度が増えることでうつるのだと考えられます。
つまり、配偶者や家族が歯周病になっている場合、自分も歯周病リスクが高いと考えた方がいい」(池田さん・以下同)
食べ物の「入り口」である口の中の菌は、体内のほかの細菌にも多大な影響を及ぼす。
「歯周病菌によって腸内フローラが乱れるという研究は数多くあります。動物実験では、歯周病菌をのみ込むと腸内フローラが変わってしまい、肥満が進んだり、筋力が低下したり、腸内に発生した毒素が血流にのって全身を巡り、病気につながるといったことが確認されています」
歯磨きは、原因となる菌の数を減らせるため歯周病予防につながる。さらに、歯磨きの補助的な役割として注目されているのが、緑茶などに多く含まれる「ポリフェノール」だ。
「ポリフェノールには抗酸化作用と、菌の増殖や、菌が定着することを抑える効果があることが近年わかってきました。さらに最近は、緑茶に含まれるカテキンの成分を凝縮して、口腔内の細菌を減らす試みも行われています」
一方で、二川さんは口腔フローラを健康に保つ「L8020」乳酸菌を開発。その名称には、「80才になっても20本以上の歯を保とう」という思いが込められている。
「食事は自分でできるけど、歯磨きはできないという障がい者施設の人たちに向けて研究を始めました。歯磨きをしないと多くの人はすぐ虫歯になるのですが、なぜか虫歯にならない人もいたため、彼らの口腔フローラから42種類の乳酸菌を集めました。
その中から歯周病菌、虫歯菌、口腔カンジダ菌を抑えられるものを選び出したのが『L8020乳酸菌』です。この乳酸菌を含むヨーグルトを2週間食べてもらったところ、通常のヨーグルトを食べた場合と比べ、虫歯菌、歯周病菌が減少していました」(二川さん)
食品だけでなく、マウスウオッシュやタブレットなど、L8020乳酸菌はさまざまな形で商品化されているので、ライフスタイルに取り入れやすいものを選ぶといい。しかし、歯周病は、口の中の菌が少なければ絶対に安心とは言いきれない。
「免疫が落ちていると口腔内に悪玉菌が増えやすく、歯周病になりやすい。歯がどんなに汚れていても歯周病にならない人もいれば、ちょっと汚れるだけで歯周病になってしまう人もいます」(池田さん)
口の中だけでなく、生活習慣を整えることも重要だ。
コンビニやドラッグストアで何気なく手にし、毎日使っている歯磨き粉や歯ブラシ。その選び方、使い方の“常識”は、実は間違いだらけだった──。自分の歯を守るために、何が必要なのか。昨年、「やってはいけない歯科治療」シリーズで業界のタブーを暴き、大反響を呼んだジャーナリスト・岩澤倫彦氏がレポートする。
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日本人は80歳までに28本ある歯のうち半分を失い、入れ歯になる人が多い。一方で、同年齢のスウェーデン人は平均20本の歯が残るという。
この差の理由は、日本人の歯についての知識が根本から間違っていたからだと、歯科医の弘岡秀明氏(前東北大学臨床教授・スウェーデンデンタルセンター)は指摘する。
「中高年は、歯周病か虫歯によって歯を失いますが、両方とも口の中にある“バイオフィルム”が原因です。これを理解せず間違った歯磨きや治療を受けて、結局歯を失う人が多いのです」
朝起きて歯を触り、ネバネバした膜が覆っていたら、それがバイオフィルムだ。以前はプラーク(歯垢)と呼ばれていたものと同じと考えていい。その中には歯周病や虫歯などの原因菌が、1g中に約1000億も存在している。
歯周病は、歯と歯茎の隙間にある歯周ポケットに、バイオフィルムが繁殖。歯周病原菌が感染して組織を破壊、重症化すると歯が抜ける。
また、中高年に特徴的なのが「大人虫歯」。加齢で歯茎が下がり露出した歯の弱い根元部分(象牙質)や、昔に治療した銀歯やブリッジの隙間に、バイオフィルムが張り付いて虫歯を作るパターンだ。
そこで歯周病や大人虫歯に悩む世代をターゲットに、ハミガキ剤が続々と発売されている。国内の出荷数は、年間5億個、総額1300億円を超える(平成28年度、日本歯磨工業会調べ)。
これほど種類が多ければ選択に悩むのは当然だが、専門家によると、大半の人が歯磨き粉について誤解しているという。
◆薬用ハミガキで歯周病を治せる?
歯肉の腫れ、出血、むず痒さを感じたら、歯周病の初期症状だ。この時、歯周病予防を謳った薬用ハミガキを買い求め、自己流で治そうとしていないか。
「歯周ポケット内のバイオフィルムは、強力に付着している場合が多く、歯科衛生士が専用器具を使わなければ除去できません。薬用ハミガキで一時的に症状が緩和しても、それは歯周病が治ったわけではないのです。それを誤解して、手遅れになるまで歯周病を進行させる人が多い」(弘岡氏)
薬用ハミガキは「医薬部外品」。医薬品と異なり、厳密な臨床試験による効果の立証は義務付けられていない。入浴剤や栄養ドリンクと同レベルの効果であることを冷静に理解すべきだろう。
厚労省の調査では60代の9割が歯周病だ(平成23年歯科疾患実態調査)。軽い腫れや出血など早期段階の「歯肉炎」と、膿が出たり歯がぐらつくなど重症化した「歯周炎」の二つの段階がある。弘岡氏によると、歯肉炎の段階で適切な治療を受ければ、完治も容易だ。
◆高価な医薬品であれば効果がある?
種々雑多なハミガキ剤が並ぶ中で、数は限られているが、歯周病用の「医薬品」もある。価格も1000円超。シニア世代にアピールするパッケージには、「歯茎の腫れ・うみ・痛み・口臭」などの効能が記されている。
医薬品だから一定の効果は立証されているが、あくまで症状の緩和であり、根本的な解決はできない。さらに、意外な落とし穴もあると歯科医・米畑有理氏(歯の花クリニック・大阪)は注意を促す。
「歯周病用ハミガキ剤の多くには、フッ素が含まれていません。大人虫歯の予防にフッ素は不可欠です。歯周病用でもフッ素配合のものを選ぶか、フッ素配合のハミガキ剤を併用するのがよいでしょう」
何より、歯周病を治すには、歯科クリニックに行くべきだろう。日本歯周病学会の認定医、または専門医であれば、一定の治療水準を満たしているはずだ。また、歯周病を予防するには、後述する正しいセルフケアと同時に、歯科衛生士の半年に1回程度のメンテナンスを受けるのが効果的だ。
「一見それほどでもない症状でも、実は放っておくとこわい症状も少なくないのです。最初は気にもとめないわずかな症状が、放っておくと、取り返しがつかない大病になることもあります」。そう話すのは、テレビでも人気の総合内科専門医・秋津壽男氏だ。体からのSOSサインに気づかず、後悔することになってしまった方をこれまでたくさん見てきたという。
秋津医師の新刊『放っておくとこわい症状大全~早期発見しないと後悔する病気のサインだけ集めました』は、まさにこうした病気で後悔する人を少しでも減らしたいという想いから生まれたものだ。9月16日に発売となった本書の内容を抜粋するかたちで、日々の健康チェックに役立つ情報を紹介していく。
歯ぐきの腫れを放置した先は、病気のオンパレード
疲れがたまると、歯ぐきが腫れることがあります。健康な歯ぐきはピンク色でシュッとしまっていますが、もし赤く腫れてきたなら体の不調のサイン。免疫力の低下が考えられます。
風邪やインフルエンザのほか、新型コロナウイルスや肺炎などの感染症にもかかりやすくなるので、早めの改善が必要です。
また、免疫力の低下を放っておくと、歯槽膿漏になる可能性も高まります。歯周病が起きる原因は、口の中にいる歯周病菌です。赤ちゃんの口の中に歯周病菌はいませんが、親からうつされたり、食べ物を介したりして、ほとんどの人がいずれ歯周病菌保有者になります。
しかし、歯周病菌があるからといって、全員が歯槽膿漏になるわけではありません。それはちゃんと免疫力があるからです。ふだんは細菌、ウイルスをやっつける免疫細胞が働いていて、歯周病菌の攻撃を防いでくれています。それが免疫力が落ちると、歯周病菌が増えて歯槽膿漏になるのです。
歯周病菌がやっかいなのは、歯が抜けるだけではありません。歯周病菌が歯ぐきの傷から血管に入り、心臓や脳の血管の壁で炎症を起こして、狭心症や脳梗塞の原因になるともいわれています。ただの歯ぐきの腫れと放っておくと、命にかかわることになりかねないのです。
(本原稿は、秋津壽男著『放っておくとこわい症状大全』からの抜粋です)
病院は愉快な気持ちで行くところではありませんが、とりわけ「行きたくないな~」と気が重いのは歯科医院。でも、その歯科医院において、逆にあなたのほうこそ「こんな患者さんには来てほしくないな~」と思われているとしたら……!?
歯科医院には日々いろんな患者さんが訪れますが、なかには病院側にとって“ちょっと困ってしまう”方もときどきいるようです。
そこで、ひろた歯科医院(福岡市早良区)の院長・廣田健先生に“歯医者に嫌われちゃう患者の特徴”について率直に語っていただきました。あなたは、以下の3つの特徴に当てはまっていませんか?
■1:体臭のきつい人
「とても足の臭い人がいるのです。たとえば、ブーツで来院されたキレイなお姉様の足が臭ったり、サラリーマンの足から酸っぱい臭いが漂ったり……。
それから、お風呂に入っていないような独特の体臭が、待合室から診察室まで臭ってきたというケースも。他の患者さんにも迷惑になるので、ちょっと気を遣ってほしいですね」
自分ではなかなか気づきにくい体臭ですが、汗をかきやすいこれからの季節には特に注意したいもの。また、体臭を香水でごまかそうとすると、かえって“スメハラ加害者”になりかねないので、香水の使用は避けましょう!
■2:他の歯科医院の悪口を大声で言う人
「受付カウンターで、今まで通院していた病院名を出して“●●歯科はヤブ”と大声で悪口をまくしたてた患者さんがいました。
当院でも納得しなかったら他所で言いふらすのだろう……と思うと診察するのが不安になってしまいます」
もちろん、歯科治療でセカンドオピニオンを求めるのはアリでしょう。しかし、これまでお世話になった医院の悪口を言うようでは、別の医院でも信頼関係を築きにくいかも……。
どういう症状でどういう治療を行ってきたのかを、なるべく主観をまじえずに説明するようにしましょう。
■3:歯科治療以外を指摘してくる人
「治療内容や処置内容では何も言われないのですが、“床の隅が汚れている”、“カウンターに物を陳列しすぎ”、“女性スタッフの化粧が濃い”など、重箱の隅をつつくようなご指摘をいただくことがあります。
小声で指摘してくださるならよいのですが、そういった方は大抵が“大声”。ご指摘いただくのはありがたいのですが、もう少し小声で言っていただけるほうが……」
受付カウンターや待合室で大声で話すのは、他の患者さんにも迷惑ですよね。しかも、内容がクレーマー的なものでは、余計に気分が悪いはず。
わざわざ揚げ足をとるような真似はやめましょう!
以上、“歯医者に嫌われちゃう患者の特徴”3つをお届けしましたがいかがでしたか? 治療は医師側と患者側の信頼関係があってこそ、スムーズに進むものといえるでしょう。
歯医者さんやスタッフの方から「モンスター患者キター!」なんて思われないように、くれぐれも最低限のマナーは守るようにしたいものですね。
歯科医院に通う人はたいてい、「忙しいから、さっさと予約を取って、できるだけ早く通院を終わらせたい」と考えるもの。でも、たいていの場合、予約は数日から1週間くらい先に。なぜ、歯科医院では次の日に予約ができないのでしょうか? テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。
翌日に予約が取れない代表的な理由は主に次のようなものがあります。
(1) つめものやかぶせものなど、補綴(ほてつ)物の完成待ち
(2) 痛みや腫れなどの症状が強く、落ち着くまで次の治療ができない
(3) 歯科医院の予約がいっぱい
(1)については多くの人が納得する理由でしょう。補綴物を歯科技工士に作ってもらうためには一定の日数が必要です。
意外に理解されていないのは(2)の場合でしょう。これは歯科医師としてもぜひ、患者さんに知っていただきたい点です。
具体的にどういうことなのか説明していきます。まず、歯科医院に行く理由の多くは、痛みや歯ぐきの腫れなどがあり、我慢ができなくなったから、だと思います。(2)に相当するのはこうした患者さんのケースです。
痛みや腫れで受診をした場合、初診ではまず、症状をやわらげることが一番の治療目標になります。捻挫などで痛みが出たらまずは冷やしたり、湿布や鎮痛薬を使いますが、それと同じです。
例えばむし歯で激しい痛みが出ている場合、神経に炎症が起こり神経が死んでしまったあとに、膿がたまって内圧が高まり痛みの原因となっていることが多いので、治療では歯の一部に穴を開け、これらを排出させる処置をします。
続いて、神経を取り除く処置や削った後の土台作り、さらに補綴物をかぶせるなどの処置が必要ですが、痛みや腫れがおさまっていないときにはできません。
傷が治っていないところをさらに刺激するようなもので、患者さんにとってもつらいのはもちろん、痛みを抑えるために麻酔をうってもなかなか効かないこともあります。このため、次の予約日は痛みが落ち着き、腫れがひく数日後にしか設定できないのです。
歯周病も同じです。「歯ぐきが腫れて痛い」とやってきた患者さんに、いきなり、歯ぐきと歯の隙間の深さを調べる歯周ポケット検査はできません。まずは腫れを落ち着かせるために歯周ポケットの中を洗浄して菌を取り除き、抗生剤を飲んでもらうなどの処置をするのです。そして腫れがひくのを待って、詳しい検査をして、歯周病の原因であるプラークや歯石を取り除く治療をすることになります。
■有名な歯科医師の場合、予約が取れないことも
人間のからだには自分で病気や傷を修復する自己治癒力があります。適切な処置をした後に安静にしていれば、この自己治癒力が働き、痛みや腫れは自然によくなっていきます。
症状がおさまると、気分も体調もよくなっていきます。この段階で次の治療をおこなうほうが効果もより高まり、患者さんにとってメリットが大きいのです。
ただし、海外に出張予定などがあり、治療が途切れてしまいそうな場合は早めに相談してください。すべての治療を前倒しで行うことはできませんが、「ここまでやっておけばしばらくは受診しなくても大丈夫」というところまで、対処することは可能です。そのために、短期間で複数回の予約を取ることはたいていの歯科医院で可能なはずです。
(3)の予約が取れない、という理由についてですが、確かに有名な歯科医師の場合、そのようなことがあります。1人の歯科医師でやっている歯科医院も予約が取りにくいでしょう。
では、歯科医師がたくさん勤務しており、歯科医師を担当制にしていないクリニックはどうか。確かにこちらは予約が取りやすいですが、歯科医師がしょっちゅう変わることがあり、あまりおすすめできません。
前回の治療を別の歯科医師が引き継ぐ場合、顔を合わせて引き継ぎをすることは基本的になく、カルテから治療内容を判断して引き継ぐことが一般的だからです。
当然、細かいニュアンスまでは伝わりません。このため、歯周病が進んでいる歯を当初は残す予定だったのが、いつの間にか、抜歯になってしまった、ということも起こり得ます。
早く治したいからといって、「焦りは禁物」ということです。
◯若林健史(わかばやし・けんじ)歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演
歯根の中心部には幅0.3mm程度の細い根管が通っているが、虫歯が進行すると、感染が根管内に及んでしまい、最悪の場合は抜歯になる。
それを食い止めるために、感染した歯髄(神経など)を除去して消毒するのが「根管治療」だ。
難易度が高いのに、診療報酬が安いので、一部に手抜き治療が横行している。ある歯科医は治療中に根管の先端に穴を開けてしまったが、患者に告げずに帰した。その日から激痛に見舞われた患者が他院を受診、治療ミスが発覚したという。
精度の高い根管治療の必要条件として、歯科用顕微鏡・マイクロスコープに注目が集まりがちだ。ただし、使いこなすには高度なスキルと誠実さが必要で、中には“オブジェ”と化しているクリニックもある。
歯を残す最後のチャンスを逃さないために、根管治療の終了後、X線画像で説明を求めた方がいいだろう。
◆有効性が立証されていない「塗るだけで歯の神経を守れる特別な薬」
ネットの普及に呼応するように存在が広まった、“魔法のような治療”がある。『虫歯になった歯質を削らずに、特別な薬を塗布して塞ぐ。神経を抜かずに済み、1年間ほど経過すると自然治癒する──』
アメリカで製造販売されている製品と、日本で開発された薬剤の主に2種類が使用されている。いずれも薬機法(旧薬事法)の認可を受けていないが、テレビの情報番組で紹介されたことで、一部の歯科医や患者に熱烈な信奉者がいる。
自由診療扱いなので、クリニックによっては極めて高額な治療費を設定している。ただし、これらの治療法は、比較臨床試験などの科学的な手法で有効性は証明されていない。実際に、治療を受けて、虫歯が悪化した患者の例を歯科医から聞くことが少なくない。的確な根管治療を行なえば、神経を抜いた歯でも長期間使用できることを付け加えたい。
◆抜歯後、「ブリッジ」以外の選択肢を示されない
虫歯が進行して抜歯が避けられない場合、保険診療で一般的なのが「ブリッジ」だ。抜歯した両隣の歯に、橋をかけるように設置する。60代で平均2つのブリッジがある。
だが、詳しい説明をせずに治療を進める歯科医もいるという。強く噛めるし、費用も手軽だ。しかし、両隣の歯は大きく削られてしまう。それが歯の寿命に影響を与えている、という指摘も無視できない。
その他、保険では「入れ歯」や、「歯牙移植(*注)」がある。
【*注/親知らずを抜いて、抜歯した部分に移植する方法】
また、自由診療の「インプラント」も選択肢の一つとなる。「どれが最適なのかは、費用、審美性(見た目)、長期的な影響などが複雑に絡んでいるから、患者ごとに正解は異なる。患者の意思で治療を選択すべきだ。
●レポート/ジャーナリスト・岩澤倫彦(『やってはいけない歯科治療』著者)
女性のみなさん、歯周病の悪化に女性ホルモンが加担していることをご存知ですか?
女性らしい体になり、肌や髪を健康的に保て、妊娠の準備が整うのは女性ホルモンのおかげ。さらに動脈硬化を防ぎ、記憶や学習能力を改善させる働きもあるとか。しかし、残念ながら女性ホルモンのせいで、口の状態は悪化することがあります。
女性ホルモンのバランスが大きく変化するのは、分泌が始まる思春期、妊娠期、そして私たちを苦しめる更年期。思春期には、歯と歯茎の境目などに残っている食べかすやストレスなどで、すぐに歯茎が腫れてきます。頭痛や腹痛、眠気に襲われる生理前に歯茎が腫れるのも女性ホルモンの仕業。実に厄介です。
妊娠中は女性ホルモンが普段の10倍以上になるといわれますが、女性ホルモンを好む歯周病の原因菌が増え、妊娠性歯肉炎を起こしやすくなります。つわりなどで歯磨きが十分に行えず、歯周病の悪化が気掛かりな妊娠中は、特に口の中をきれいに保つよう心掛けたいものです。
子宮が歯周病の原因菌に感染すると、子宮の収縮や子宮頸部の拡張が起こり、早産や低体重児を出産する危険性が高まります。必要な治療を受け、大切なお子さんを守りましょう。
40歳を超えるころから始まる更年期では、女性ホルモンの分泌量が減り、作られる骨より、溶ける骨の量の方が多くなります。次第に骨がもろくなり、骨折しやすくなる「骨粗しょう症」によって顎の骨の質が悪くなると、歯を支える組織も崩れる可能性があります。さらに、更年期には唾液の量が少なくなる「ドライマウス」を訴える人も増加。残念ながら歯周病が進みやすい環境になってしまうのです。
女性ホルモンのこのような働きを知りつつ、私たちは適切にお口の管理を進めていくことが大切ですね。磨きやすい歯ブラシを使う、爽快感が持てるマウスウオッシュで小まめに口をゆすぐなど、ちょっとした工夫で「健口」を保っていきましょう。
◆中塚美智子(なかつか・みちこ)大阪歯科大学医療保健学部准教授。歯科医師、1級キャリアコンサルティング技能士。「歯科医療の発展が日本を元気にする」と信じ、日々未来の歯科衛生士、歯科技工士の養成に携わっている。
日本人が歯を失う原因の第1位である「歯周病」。悪化すれば心筋梗塞や脳梗塞などの全身疾患の危険因子であるとも指摘され始めたことで、興味を覚えた人も少なくないだろう。そもそも歯周病とはどんな病気なのか。早期発見や治療の方法は? 関心が高まる今、その基礎から紹介していこう。
「歯周病」「歯肉炎」「歯周炎」「歯槽膿漏」――。インターネットやテレビCMなどにおける歯周病関連の表現は複数あって分かりづらいが、歯周病はその名の通り、歯の周りの組織(歯周組織)に炎症が起こっている病気の総称。その中に歯肉炎と歯周炎がある。歯肉は歯茎のことで、歯肉炎は炎症が歯肉に留まっている状態を指し、病気が進行して歯を支えている骨(歯槽骨)にまで炎症が及んだ状態を歯周炎と呼ぶ。歯槽膿漏は歯周炎と同じ意味だが、学術的にはもう使われていない。
歯周病は、どのようにして起こるのか。歯周病の診断と治療を専門にする『きぬまつ歯科医院』(千葉市)の衣松高志院長はこう語る。「歯磨きなどによって口の中が十分に掃除されていないと、口の中の細菌が食べかすなどを栄養源にして増え、白いネバネバとした物質(歯垢、プラーク)を作り出します。歯垢は歯の表面で増えていきますが、成長すると歯と歯茎の間(歯周ポケット)まで広がります。歯周ポケットはPg菌などの歯周病の原因菌が好む酸素の少ない環境である一方、人にとっては掃除が難しい部位であるため、放置するとさらに増殖し、炎症を引き起こすのです」
炎症が進むと歯槽骨まで溶けてしまい、歯を抜かないといけなくなってしまう。そんな最悪のケースが想定される一方、「歯周病の影響は口の中に留まらない」と取材した歯科医師は口々に話す。炎症によって破壊された歯肉から細菌が血液に入り込むことで、様々な病気の発症リスクを高めたり、病気の悪化を招いたりするというのだ。
★重い病気の発症リスクが2倍に
まず挙げられるのが、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞。歯周病菌が動脈硬化を促すことでこれらの病気にかかりやすくなると考えられており、東京大学の研究や日本臨床歯周病学会によると、歯周病の患者はそうでない人よりも心筋梗塞が起きる可能性が2倍に、脳梗塞の発症リスクが2.8倍に増えるという。
また、歯周病菌が持つ毒素などによって、血糖値を下げるホルモン(インスリン)への抵抗力が高まり、糖尿病が発症・悪化しやすくなると言われている。さらに、歯周病にかかっている女性が妊娠すると、早産により低体重の子どもが生まれる可能性が高いとも指摘されている。歯周病菌が血中に乗って子宮内の組織や胎児に感染したり、歯周病の炎症によって生み出されたサイトカインと呼ばれるたんぱく質が子宮を刺激したりすることで、早産を促してしまうと考えられているのだ。これらに加えて、歯周病菌は誤嚥性肺炎の要因の1つに挙げられている。
こんな風に、全身にも様々な影響を与え得る歯周病だが、どうすれば予防と早期発見が可能なのか。「丁寧な歯磨きを基本として、フロスや歯間ブラシも活用しながら口の中の細菌を増やさないようセルフケアを継続していくことが最も重要です。しかしながら、自分の力だけで歯垢を十分に落とすのは、私達歯科医師でも難しいことです。歯垢は歯磨きでも落ちますが、唾液や歯周ポケット内の体液が歯垢と共に固まり歯石と呼ばれる硬い状態になってしまうと、歯磨きでは取り除くことができません。ですから、セルフケアに加えて定期的に歯科医院で専門的なケアを行うことが大切です」(衣松院長)
★3~6カ月に1度は検診を
衣松院長によれば、歯周病は自覚症状がないまま進行してしまうことが特徴で、「歯茎が腫れる」「歯がぐらつく」といった症状が出た場合には、歯槽骨が溶ける歯周炎の状態になっている可能性が高いという。歯周病の診断は歯周ポケットの深さを測ったり、レントゲン撮影を行って骨の溶け具合を調べたりすることでなされるが、目安としては歯周ポケットが4ミリメートル以上であれば歯周炎に、6ミリメートル以上であればその重度になっている可能性が高いそうだ。
歯周ポケットが5ミリメートルまでの中等度であれば、セルフケアの向上と歯科医院でのケアによって状態の悪化を防ぐことが可能だが、重度に移行してしまうと進行を抑えることが難しくなってしまうという。これらのことから、早めに見つけて対策を打つことの大切さが分かる。
衣松院長は「健康な人は半年に1度、歯周炎に移行している人は3、4カ月に1度のペースで定期検診を受けることを勧めます」と、アドバイスする。
歯周病の治療は、前述したように自分の口の状態に合ったセルフケアを継続しながら歯科医院で定期的に歯垢や歯石を取り除いてもらうことが基本だ。 その一方で、重度に移行してしまった場合には歯肉を切り開いて感染した歯肉や歯石を直接取り除く方法(フラップ手術)や、溶けてしまった骨を人工的に増やす方法(再生療法)も手立てとしてはある。しかし、「重度になってしまっても大丈夫」とはいかない。
「フラップ手術によって歯肉を開いて閉じると歯茎が下がって歯の根が露出し、虫歯になりやすくなってしまうケースがあります。また再生療法を効果的に行うにはある程度の骨が残っている必要があり、重度に移行してしまうと適応症例が非常に少なくなってしまうのです」(同)
そもそも重度に移行してしまうと進行抑制が難しくなってしまうというから、やはり早期の対策が重要であることに変わりはない。信頼できる歯科医院を見つけ、日頃から歯科医師や歯科衛生士に気になることを相談できる関係を築いていくことが大切だろう。過去に約200人の歯科医師を取材した記者は、(1)よく話を聞いてくれる、(2)患者の口の状態や治療方法、ケアの方法を丁寧に説明してくれる、(3)患者の生活背景や気持ちも考慮して選択肢を提示してくれる―の3点を歯科医院選びのポイントに挙げる。
歯周病に限れば、日本歯周病学会が定める認定医や専門医、日本臨床歯周病学会が定める認定医や指導医を学会のホームページで探してもいいだろう。認定医よりも専門医や指導医のほうが認められるための条件が厳しく、その内容もホームページに掲載されているので参考にしてみてほしい。 歯科医師の発言や治療効果に疑問を持った場合は、別の歯科医師に相談してセカンドオピニオンを頼ることも、患者としては考えたいところだ。
日本人が歯を失う原因の第1位である「歯周病」。悪化すれば心筋梗塞や脳梗塞などの全身疾患の危険因子であるとも指摘され始めたことで、興味を覚えた人も少なくないだろう。そもそも歯周病とはどんな病気なのか。早期発見や治療の方法は? 関心が高まる今、その基礎から紹介していこう。
「歯周病」「歯肉炎」「歯周炎」「歯槽膿漏」――。インターネットやテレビCMなどにおける歯周病関連の表現は複数あって分かりづらいが、歯周病はその名の通り、歯の周りの組織(歯周組織)に炎症が起こっている病気の総称。その中に歯肉炎と歯周炎がある。歯肉は歯茎のことで、歯肉炎は炎症が歯肉に留まっている状態を指し、病気が進行して歯を支えている骨(歯槽骨)にまで炎症が及んだ状態を歯周炎と呼ぶ。歯槽膿漏は歯周炎と同じ意味だが、学術的にはもう使われていない。
歯周病は、どのようにして起こるのか。歯周病の診断と治療を専門にする『きぬまつ歯科医院』(千葉市)の衣松高志院長はこう語る。
「歯磨きなどによって口の中が十分に掃除されていないと、口の中の細菌が食べかすなどを栄養源にして増え、白いネバネバとした物質(歯垢、プラーク)を作り出します。歯垢は歯の表面で増えていきますが、成長すると歯と歯茎の間(歯周ポケット)まで広がります。歯周ポケットはPg菌などの歯周病の原因菌が好む酸素の少ない環境である一方、人にとっては掃除が難しい部位であるため、放置するとさらに増殖し、炎症を引き起こすのです」
炎症が進むと歯槽骨まで溶けてしまい、歯を抜かないといけなくなってしまう。そんな最悪のケースが想定される一方、「歯周病の影響は口の中に留まらない」と取材した歯科医師は口々に話す。炎症によって破壊された歯肉から細菌が血液に入り込むことで、様々な病気の発症リスクを高めたり、病気の悪化を招いたりするというのだ。
★重い病気の発症リスクが2倍に
まず挙げられるのが、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞。歯周病菌が動脈硬化を促すことでこれらの病気にかかりやすくなると考えられており、東京大学の研究や日本臨床歯周病学会によると、歯周病の患者はそうでない人よりも心筋梗塞が起きる可能性が2倍に、脳梗塞の発症リスクが2.8倍に増えるという。
また、歯周病菌が持つ毒素などによって、血糖値を下げるホルモン(インスリン)への抵抗力が高まり、糖尿病が発症・悪化しやすくなると言われている。
さらに、歯周病にかかっている女性が妊娠すると、早産により低体重の子どもが生まれる可能性が高いとも指摘されている。歯周病菌が血中に乗って子宮内の組織や胎児に感染したり、歯周病の炎症によって生み出されたサイトカインと呼ばれるたんぱく質が子宮を刺激したりすることで、早産を促してしまうと考えられているのだ。これらに加えて、歯周病菌は誤嚥性肺炎の要因の1つに挙げられている。
こんな風に、全身にも様々な影響を与え得る歯周病だが、どうすれば予防と早期発見が可能なのか。
「丁寧な歯磨きを基本として、フロスや歯間ブラシも活用しながら口の中の細菌を増やさないようセルフケアを継続していくことが最も重要です。しかしながら、自分の力だけで歯垢を十分に落とすのは、私達歯科医師でも難しいことです。歯垢は歯磨きでも落ちますが、唾液や歯周ポケット内の体液が歯垢と共に固まり歯石と呼ばれる硬い状態になってしまうと、歯磨きでは取り除くことができません。ですから、セルフケアに加えて定期的に歯科医院で専門的なケアを行うことが大切です」(衣松院長)
★3~6カ月に1度は検診を
衣松院長によれば、歯周病は自覚症状がないまま進行してしまうことが特徴で、「歯茎が腫れる」「歯がぐらつく」といった症状が出た場合には、歯槽骨が溶ける歯周炎の状態になっている可能性が高いという。
歯周病の診断は歯周ポケットの深さを測ったり、レントゲン撮影を行って骨の溶け具合を調べたりすることでなされるが、目安としては歯周ポケットが4ミリメートル以上であれば歯周炎に、6ミリメートル以上であればその重度になっている可能性が高いそうだ。歯周ポケットが5ミリメートルまでの中等度であれば、セルフケアの向上と歯科医院でのケアによって状態の悪化を防ぐことが可能だが、重度に移行してしまうと進行を抑えることが難しくなってしまうという。これらのことから、早めに見つけて対策を打つことの大切さが分かる。
衣松院長は「健康な人は半年に1度、歯周炎に移行している人は3、4カ月に1度のペースで定期検診を受けることを勧めます」と、アドバイスする。
歯周病の治療は、前述したように自分の口の状態に合ったセルフケアを継続しながら歯科医院で定期的に歯垢や歯石を取り除いてもらうことが基本だ。
その一方で、重度に移行してしまった場合には歯肉を切り開いて感染した歯肉や歯石を直接取り除く方法(フラップ手術)や、溶けてしまった骨を人工的に増やす方法(再生療法)も手立てとしてはある。しかし、「重度になってしまっても大丈夫」とはいかない。
「フラップ手術によって歯肉を開いて閉じると歯茎が下がって歯の根が露出し、虫歯になりやすくなってしまうケースがあります。また再生療法を効果的に行うにはある程度の骨が残っている必要があり、重度に移行してしまうと適応症例が非常に少なくなってしまうのです」(同)
そもそも重度に移行してしまうと進行抑制が難しくなってしまうというから、やはり早期の対策が重要であることに変わりはない。信頼できる歯科医院を見つけ、日頃から歯科医師や歯科衛生士に気になることを相談できる関係を築いていくことが大切だろう。
過去に約200人の歯科医師を取材した記者は、(1)よく話を聞いてくれる、(2)患者の口の状態や治療方法、ケアの方法を丁寧に説明してくれる、(3)患者の生活背景や気持ちも考慮して選択肢を提示してくれる―の3点を歯科医院選びのポイントに挙げる。
歯周病に限れば、日本歯周病学会が定める認定医や専門医、日本臨床歯周病学会が定める認定医や指導医を学会のホームページで探してもいいだろう。認定医よりも専門医や指導医のほうが認められるための条件が厳しく、その内容もホームページに掲載されているので参考にしてみてほしい。
歯科医師の発言や治療効果に疑問を持った場合は、別の歯科医師に相談してセカンドオピニオンを頼ることも、患者としては考えたいところだ。
糖尿病やその予備群にとって冬は危険な季節だ。体を動かす機会が減るのに飲食を伴うイベントが増えて血糖が上がりやすいからだ。それは糖尿病の病状を進めるだけでなく、体の免疫力を弱めかねない。だからこそ風邪やインフルエンザなどといった感染症への警戒が必要なのだが、同じ感染症で全身の病気と関係している歯周病へのケアを忘れてはいけない。「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。
歯周病は、歯周病菌感染による慢性の炎症性の病気だ。40歳以上の半数がかかり、年齢とともにその割合が増えていく。歯の表面に付着した歯垢(プラーク)の中の菌が歯と歯肉のすき間の歯周ポケットで増殖。歯肉に炎症を起こし、歯を支える歯槽骨を溶かす。普段は自覚症状がないまま支えを失った歯がポロポロと抜けていくため、歯周病は成人が歯を失う最大の原因となっている。
「歯周病は糖尿病の合併症といわれるほど糖尿病と関わりが深い病気です。糖尿病の人はそうでない人に比べ2・6倍も歯周病になりやすい。血糖値が高くなる冬は糖尿病予備群の人が糖尿病を発症する可能性が高まるだけでなく歯周病にもなりやすい季節なのです」
歯周病になると血糖値は上昇する。歯周ポケットの炎症により、歯周病菌の内毒素炎症物質が血管を通して全身にばらまかれ、血糖を下げるインスリンの働きを弱めるからだ。糖尿病を発症したばかりの人でも歯周病を合併すれば血糖値が上がり、糖尿病は一気に悪化する。
「歯周病が怖いのはそれだけではありません。糖尿病やその予備群はすでに脳や心臓の血管病のリスクを抱えていますが、歯周病はそれをさらに高めます。心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす動脈硬化は、肉中心の不適切な食生活やストレス、運動不足などの生活習慣が原因といわれてきました。ところが近年、歯周病菌などの感染に注目が集まっています。感染の刺激により動脈硬化を誘う物質が分泌され、血管内に粥状の脂肪物質が沈着。血液の通り道が細くなるほか、その血管内沈着物がはがれて血栓となって飛び血管を詰まらせるのです」
実際、歯周病のある人は、ない人に比べ2・8倍も脳梗塞になりやすいという。重度の歯周病の人はそうでない人に比べて2・48倍、心筋梗塞になりやすいという米国の報告もある。
■全身の病気に関係
歯周病は胃がん、関節リウマチ、肝硬変や肝臓がんに発展するNASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルツハイマー病などに関係しているほか、高齢者の命取りになる誤嚥性肺炎にも大きくかかわっている。歯周病菌は誤嚥性肺炎の原因菌ともいわれている。
また、歯周病は妊娠中の女性がかかりやすく、胎児に影響を及ぼすこともわかってきた。
「妊娠中の女性が歯周病にかかりやすいのはホルモンのバランスが崩れて歯肉が腫れやすくなるほかに間食も増え嘔吐反射の高進による歯磨きの減少があり、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが特定の歯周病菌の増殖を促すからです。またプロゲステロンというホルモンが炎症のもとになる物質を刺激することもその理由です。いずれにせよ妊娠中の女性が歯周病にかかると早産による低体重の子供が生まれたり流産になったりするリスクが高くなるといわれています。そのリスクは高齢出産やお酒などよりもはるかに高いのです」
では、歯周病を予防するにはどうすればいいのか?
「基本は歯磨きですが、中高年は既に歯周ポケットが深く、そこに歯垢や歯石が沈着している場合は、頑固な歯石には歯磨きだけでは対抗できません。定期的に歯科医院に通い、歯垢や歯石を取ってもらうことです」
歯を磨く前にフロスで歯と歯の間の食べ残しを除去する。その後、歯と歯茎の間をしっかり歯ブラシを入れてブラッシング。睡眠中は唾液の分泌が減り、口腔内の雑菌が多く繁殖する。寝る前の歯磨きは入念に行う必要がある。
洗口液を使う人もいるが、歯根面に付着した歯周病菌は、細菌の塊であるバイオフィルムで覆われている。その上からいくら洗口液を使っても、歯周病が完治するとは思えない。
「バイオフィルムは歯周病菌を守るバリアーの働きをしています。これをまず取り除くには機械的にこすり取らなければ無理。洗口液はあくまでも歯肉の上で効果を発揮するもので、歯周病は治しません」
これからは深酒をして歯を磨く暇がないということがないようにしたいものだ。
【歯科医が解説】歯が痛くて噛めない、歯茎が腫れた、被せ物が取れた、顔まで腫れた……歯のトラブルは様々。我慢できる程度の歯の痛みや腫れはつい先延ばしにしがちですが、自然治癒などを期待せずにすぐに歯科を受診すべき症状があります。治療コストと時間を最小限に抑えるために大切な、すぐに歯科医院に行くべき5つの歯の症状を解説します。
歯が痛む、痛みで噛めない、歯茎が腫れた、被せ物が取れた、物がはさまる、冷たいものがしみる、顔まで腫れてしまった等々、歯のトラブルは様々です。我慢できる程度の症状だとつい先延ばしにしがちですが、早めに歯科を受診しないと悪化し、結果的に治療のコストも時間も多くかかってしまう症状があります。歯科医として臨床の場で見ることが多い歯の症状をもとに、今すぐ歯科を受診していただきたい5つの症状と、それぞれの受診が大切な理由について詳しく解説します。
歯が痛くて噛めない場合は我慢せずにすぐ歯科医院へ
歯は炎症を起こすと、ごくわずかに浮き上がろうとする習性があります。噛んで痛いというのは、浮き上がろうとしている歯を押し込むような力を加えてしまうためです。より強い炎症が起きて浮き上がる量が大きくなると、明らかに歯が一段浮き上がってしまいます。こうなると口を閉じて全部の歯を噛み合わせる前に強い痛みが起こるようになり、口を閉じておくことも苦痛になります。痛くて噛めない状態を放置すると徐々に悪化していくことがあるので、早めに受診をした方がよいでしょう。
歯茎から顔まで腫れた場合もすぐ歯科医院へ
歯が原因で化膿すると、顔まで腫れてしまうことがあります。しかしいきなり腫れることは少なく、多くの場合、少し腫れてもしばらくすると自然に収まることを繰り返すので、違和感があるうちに治療してしまうことが大切です。一度腫れが許容範囲を超えると、腫れの内部に膿が溜まり始めます。こうなると応急処置として歯ぐきを切開して膿を出す必要があります。膿の溜まるスピードが早い場合、自然治癒するどころか、膿がどこかから出るまで腫れ続けるため、朝は少しの腫れだったにも関わらず、夕方になるとパンパンなって口が開けにくくなるほど腫れてしまうことがあるのです。この症状が悪化すると入院治療が必要になることもあるので注意が必要です。すぐに受診しましょう。
歯に物がはさまる場合も放置せずに歯科医院へ
食事の後に歯に物がはさまるのが気になる人も、放置しがちですが注意が必要。物がはさまるたびにすぐに確実に取り除く習慣がない限り、いつの間にかその状態に慣れてしまい、取り除かないままの状態になることが少なくありません。すると歯と歯の間から虫歯が急速に進行して、いわゆるトンネル虫歯が形成されます。その穴にさらに食べカスや虫歯菌が入り込むことで、虫歯の進行が加速してしまうのです。
はさまる量が多くなると歯ブラシや歯間ブラシではしっかり取れないようになってしまいます。実際歯科医院で歯の治療器具を使って取り除くと、どれほど圧縮されて詰まっていたのかと驚くような大量の食べカスが、次から次へと出てくることもしばしばです。繊維状の食べカスが大量にはさまると、歯ぐきの奥の方に次から次へと押し込まれて、虫歯と歯周病が急激に進行するため、そのままでは歯の寿命を極端に縮めることとなり、ひどくなると抜歯になることもあります。歯に物が頻繁にはさまる人は、放置せず歯科を受診するようにしましょう。
歯がズキズキと痛む場合も歯科医院へ
虫歯には、水がしみるなどの初期症状があります。これは歯の内部にある象牙質という部分に虫歯が進行することで、水などの刺激が歯の内部の神経に伝わるためです。この状態で虫歯の治療を行うことができれば、歯の神経を取らず、1~2回の治療で治すことができます。しかし放置すると虫歯がさらに進行して歯の神経が直接細菌に触れるようになり、痛みがさらに強く、ズキズキとした痛みになることがあります。この状態から歯の治療を行っても内部の神経を残せないことが多く、治療期間も長引いてしまいます。
虫歯以外にも、歯の神経を抜いてしばらくしてからも同様の痛みが起こることがあります。歯の内部に残った汚れが原因で、歯の根の先端部分の骨に膿が溜まり、骨に囲まれた空洞に膿の圧力が高くかかることがあるためで、この場合もズキズキする痛みが生じることがあります。この場合は詰め物をすぐに取り外し、歯の内部から膿を出す治療が必要になります。
歯の詰め物・被せ物の金属が取れたら痛みがなくても歯科医院へ
歯の詰め物・被せ物である金属が取れてしまうことは、臨床ではよく見かけるケースで決して珍しいものではありません。しかし金属が取れているにも関わらず、痛みがないからと放置してしまうのは非常に危険。あとで大きな問題になることも少なくありません。金属が取れた状態で放置すると、歯はできた隙間に移動することで、隙間を埋めようとします。この場合、再治療の際に余分に歯を削らなければならなくなります。
さらに外側の硬いエナメル質より柔らかくて虫歯の進行が早い内部の象牙質が露出したままになることが多いため、虫歯の進行が進みやすく、ひどくなると神経を取らなければならない状態になっていたり、抜歯に至ってしまったりすることがあるのです。歯に関しても、いきなり我慢できないような大きなトラブルが襲ってくることは少なく、ちょっとしたトラブルの方が多いものです。通常とは違う小さなシグナルに気づいた段階で、すぐに処置することが、結局一番コストや時間の節約につながります。放置せず、効率的に適切に対処していきましょう。
「Floss or Die」は、20年以上前に米国の歯周病学会が発表したスローガンだ。フロス(糸ようじ)を選ぶか、死を選ぶか――。日本でも今、これが問題視されている。 「死」というのは、「動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳卒中による死」。つまり、冒頭の言葉が意味するのは、フロスで口腔ケアを選ぶのか、それとも将来、心筋梗塞などによる死を迎えるのか、ということだ。
東京・港区で歯科と内科(循環器内科、心療内科)を併設する「欅坂上医科歯科クリニック」を2016年に開いた歯科医師、伊東令華院長の狙いは、「相互関係にある歯科疾患と循環器疾患をひとつのクリニックでケアする」。
「心臓病の患者さんの口腔内を手術前に診ると、口の中がボロボロというケースは珍しくありません。先に歯の治療が必要と判断されると、よほど心臓病の治療が緊急でない限り、手術の日程を遅らせることもあります」(伊東院長)
歯周病治療がおろそかだと、心臓病手術後の経過が悪く、誤嚥性肺炎のリスクも高くなるからだ。歯周病が「口の中だけの問題」という時代は去った。いまや「歯周病は全身の病気に関係する」という考えが、歯科医・医師の間では常識だ。
理由はいろいろあるが例えば、心筋梗塞、脳卒中につながる動脈硬化に関しては、主に3つ挙げられる。まず、歯周病による慢性炎症。これで免疫や炎症に関係があるサイトカインが次々に誘導され、血液を介して全身に運ばれ、特に血管をつくる内皮細胞を攻撃。内皮細胞は病的に変形し、動脈硬化を起こし、血管の内径が細くなる。
次に、歯周病を起こす歯周病原菌が口腔内で繁殖して全身に運ばれると、歯周病原菌は血液を固める作用が強いため、血栓ができる。さらに、繁殖した歯周病原菌を排除するために、マクロファージという細胞が活性化されサイトカインを放出したり動脈硬化を促進する。
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
昨今の研究で、歯周病は動脈硬化のほか、さまざまな病気との関連性が指摘されている。鶴見大学歯学部探索歯学講座・花田信弘教授によれば、糖尿病、がん、関節リウマチ、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルツハイマー病など。
「歯周病が全ての臓器に影響を与えることは疫学的に分かっていましたが、エビデンスが足りませんでした。しかし今、機序も明らかになってきた。歯周病原菌を人間の体から除去しないと、病気の対策はできません」(花田教授)
■症状がなくても問題があるケースも
ところが、一般の人には歯周病対策の重要性がイマイチ伝わっていないのが現状。「歯医者に何年も行っていない」という人も多いのではないか。伊東院長が言う。
「内科医にすすめられて当院を受診した患者さんの中には、60年以上、歯医者に診てもらっていない方もいました。歯周病は『症状がないから問題なし』ではありません。歯周病の症状は、『歯磨きをすると血が出る』『歯茎が腫れる』『歯がグラグラする』『膿が出る』『痛む』などですが症状がある時とない時を繰り返して悪化していきます。また、初期では症状が軽いので放置しがちで、症状を自覚した時には中等度から重度の歯周病になっていることも珍しくありません」
最低でも3カ月に1度は歯科医を受診し、口腔内のチェックとクリーニングをすべき。特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病や心臓血管病のある人は、歯科と循環器科の専門医が連携して治療にあたるクリニックを探してみるとよい。
「Floss or Die」は、20年以上前に米国の歯周病学会が発表したスローガンだ。フロス(糸ようじ)を選ぶか、死を選ぶか――。日本でも今、これが問題視されている。
「死」というのは、「動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳卒中による死」。つまり、冒頭の言葉が意味するのは、フロスで口腔ケアを選ぶのか、それとも将来、心筋梗塞などによる死を迎えるのか、ということだ。
東京・港区で歯科と内科(循環器内科、心療内科)を併設する「欅坂上医科歯科クリニック」を2016年に開いた歯科医師、伊東令華院長の狙いは、「相互関係にある歯科疾患と循環器疾患をひとつのクリニックでケアする」。
「心臓病の患者さんの口腔内を手術前に診ると、口の中がボロボロというケースは珍しくありません。先に歯の治療が必要と判断されると、よほど心臓病の治療が緊急でない限り、手術の日程を遅らせることもあります」(伊東院長)
歯周病治療がおろそかだと、心臓病手術後の経過が悪く、誤嚥性肺炎のリスクも高くなるからだ。歯周病が「口の中だけの問題」という時代は去った。いまや「歯周病は全身の病気に関係する」という考えが、歯科医・医師の間では常識だ。
理由はいろいろあるが例えば、心筋梗塞、脳卒中につながる動脈硬化に関しては、主に3つ挙げられる。まず、歯周病による慢性炎症。これで免疫や炎症に関係があるサイトカインが次々に誘導され、血液を介して全身に運ばれ、特に血管をつくる内皮細胞を攻撃。内皮細胞は病的に変形し、動脈硬化を起こし、血管の内径が細くなる。
次に、歯周病を起こす歯周病原菌が口腔内で繁殖して全身に運ばれると、歯周病原菌は血液を固める作用が強いため、血栓ができる。
さらに、繁殖した歯周病原菌を排除するために、マクロファージという細胞が活性化されサイトカインを放出したり動脈硬化を促進する。
昨今の研究で、歯周病は動脈硬化のほか、さまざまな病気との関連性が指摘されている。鶴見大学歯学部探索歯学講座・花田信弘教授によれば、糖尿病、がん、関節リウマチ、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルツハイマー病など。
「歯周病が全ての臓器に影響を与えることは疫学的に分かっていましたが、エビデンスが足りませんでした。しかし今、機序も明らかになってきた。歯周病原菌を人間の体から除去しないと、病気の対策はできません」(花田教授)
■症状がなくても問題があるケースも
ところが、一般の人には歯周病対策の重要性がイマイチ伝わっていないのが現状。「歯医者に何年も行っていない」という人も多いのではないか。伊東院長が言う。
「内科医にすすめられて当院を受診した患者さんの中には、60年以上、歯医者に診てもらっていない方もいました。歯周病は『症状がないから問題なし』ではありません。歯周病の症状は、『歯磨きをすると血が出る』『歯茎が腫れる』『歯がグラグラする』『膿が出る』『痛む』などですが症状がある時とない時を繰り返して悪化していきます。また、初期では症状が軽いので放置しがちで、症状を自覚した時には中等度から重度の歯周病になっていることも珍しくありません」
最低でも3カ月に1度は歯科医を受診し、口腔内のチェックとクリーニングをすべき。特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病や心臓血管病のある人は、歯科と循環器科の専門医が連携して治療にあたるクリニックを探してみるとよい。
◆若い年齢でも重度歯周病まで進行してしまう原因は?
最近はメディアなどで歯周病の症状や予防法についての情報も普及してきたためか、重度歯周病は減少傾向です。それでも臨床の現場では、まだまだ進行した歯周病の患者さんに出会うことがあります。しかも20代、30代といった若い年齢で重度歯周病になってしまうケースは無視できません。治療開始後に重度歯周病の患者さんが悔やまれることの多い「これが失敗だった……」という経験談で多いものをまとめてご紹介します。
◆自己判断で「まだ軽度ですぐ治る」と思い込んでいた
歯周病症状を自覚しつつも、軽く考えていたのが失敗だった、というのはとてもよく聞く話です。自分が歯周病であるという認識はあるものの、患者さん自身の自己診断は、歯科医師の実際の診断よりも楽観的になっていることが少なくありません。そのため重度歯周病を、まだまだ軽度な状態と誤認して本格的な治療開始が遅れてしまうのです。
インターネットで情報を集めている方でも、まるで奇跡のレアケースをつなぎ合わせたような楽観的診断を繰り返し、かなり重度になっていても、軽度~中程度の歯周病だと考えている方もよくいらっしゃいます。
そのためすでに手遅れで抜歯しなければならないほどの状態になって初めて来院したのにも関わらず、治療方法も簡単な歯石取りとブラッシングですぐに改善すると考えていることもあります。痛みやグラつきが起こり始める前のギリギリまで、症状で進行度を完全に把握することは、難しいため注意が必要です。
.
◆つらい腫れや痛みが自然と治り、受診を見送ってしまった
歯周病はいきなり重度になるケースは、ほとんどありません。多くの場合、軽度の時の腫れや違和感などの症状を繰り返します。そのため症状が改善するたびに我慢できる範囲に収まったため、本格的治療をスルーしているケースです。
そのほかにも歯ぐきが腫れるのは、体調が悪かったからと考えて、体調が良くなれば歯ぐきも治ると思っている人もいます。確かに歯周病菌からの防衛反応は、体調に影響されますが、防衛能力を高める前に感染原因の除去を行うことが原則です。健康な歯ぐきでは、体調によって腫れることはありません。
◆放置ではなくちゃんと応急処置で対処していたつもりだった
全く歯科医院に行ってなかったという人ばかりでなく、実は痛みや腫れのたびに応急処置だけ行っていたというケースもよくあります。応急処置と聞くと短時間の治療でも、まるで裏技のような最大限の成果を生み出す魔法のようなイメージがありますが、原因の治療を行わずに対症療法だけで、症状を落ち着かせているに過ぎません。応急処置は仮の治療であって本当の治療ではないのです。
さらに応急処置は治療としては未完のため、歯が削りっぱなしになっていたり、神経を抜いただけの歯の中が空洞状態のまま放置されてしまうことも多く、虫歯の進行が飛躍的に早まってボロボロになりやすいため、抜歯までの期間が短くなりやすいので注意が必要です。
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◆早期受診せず歯周病を悪化させてしまうケース
やはりこれが一番多いかもしれません。「こんな状態になるまでどうして歯周病治療を遅らせてしまったのか……」と考えてしまいますが、歯を抜きたくなかった、歯科が苦手、時間が取れないなど、人によってさまざまな理由があるようです。しかし歯周病治療を行った人の多くは、もっと早く治療すればよかったと後悔される方がほとんどです。
しっかり噛めない、ときどき歯ぐきが腫れる、噛むたびに揺れる歯に違和感や痛みがあるなど、我慢することが当然の毎日だったものが、治療の結果、たとえ抜歯して、入れ歯になったとしても、大きな我慢を強いられない快適な日常を取り戻すことができます。
歯周病はきちんとした定期検診を行うことで、進行する前に早期発見したり、簡単に回復したりすることができます。もし進行した歯周病が見つかったのであれば、その状況から目を背けずに、しっかりと回復するまで治療を続けられることをおすすめします。
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丸山 和弘(歯科医)
歯周病と心臓に密接な関係
ここで、歯周病菌がリスクを高める疾患をまとめておこう。
【狭心症・心筋梗塞】…心疾患はすでに述べたが、いずれも心臓の冠動脈にできる血栓によって詰まることが原因となる。歯周病が進行していると、これらの心疾患になる確率は3.6倍も高まるといわれている。
【感染性内膜炎】…すでに心臓に病気がある場合、血液に入り込んだ歯周病菌が、人工弁や心内膜などに同菌が付着して増殖、感染性心内膜炎を引き起こす可能性がある。
【糖尿病の悪化】…血管に入り込んだ歯周病菌によって炎症反応が起こり、インシュリン活動に障害が出る。その結果、血糖値のコントロールが制御できず、今度は口の中の歯周病菌が繁殖。ますます糖尿病が進み悪い循環に陥る。
【肺炎】…寝たきりの高齢者などは、誤って唾液を気管に入れてしまうことがあるが、歯周病菌が多く含まれていると、誤嚥性肺炎を起こし、介護生活が長期化する可能性も起きる。
【がん】…歯科学会の報告によると、最近では歯周病によってがんのリスクが高まる研究結果が出ている。
「以前は歯周病菌が全身に影響を与えるなど考えられませんでした。今後も、血管内に歯周病菌が入り込むことで、さまざまな病気に影響を与えることが明らかになってくると思います」
こう語るのは、東京社会医療研究所の村上剛主任である。そしてこんな一例を挙げてくれた。
「日本人の死因の第2位といわれる心臓病。その代表的なものが心筋梗塞です。この病気は動脈硬化が進んだ中高年に多く見られ、高血圧や糖尿病、高ステロールなどが危険因子として挙げられます。
加えて最近では、重度の歯周病にかかっていると心筋梗塞のリスク高まるという研究発表が報告されている。
それを裏付けるように、ある患者を死後に解剖した結果、心臓の血管内から本来あるはずのない歯周病菌が発見され、歯周病が原因の心筋梗塞と診断されたケースがあり、衝撃を受けました。心臓病と歯周病は一見関係ないように思えますが、そうではないことが裏付けられた例です」
ある歯科医師も言う。
「虫歯や歯周病などの口のトラブルは、全身の健康にも大きな影響を及ぼし、命取りにもなることもあります。心筋梗塞などの予防のためにも、日頃から口腔ケアをすることが大切です。歯磨きは丁寧にしっかりと磨き清潔にしてください」
多くの人は、毎日歯を磨く。まして、年齢を重ねれば歯周病や口臭を防ぐために気をつけているはずだが、それでも歯周病になってしまう。口臭や歯茎からの出血などに気付いた時は、歯科医院を受診して治療を受けることが肝要だ。
歯周病は、歯と歯茎の間にある溝、「歯周ポケット」に歯周病菌が溜まって繁殖し、歯茎に炎症を起こす病で、歯磨き不足などが要因とされる。ポケットが浅いうちは菌を歯磨きで掻きだせるものの、深くなると歯ブラシも届かなくなり炎症が進み悪化。歯茎から出血し、口臭も発するようになるのだ。
「歯周病は歯 (しせき=プラーク)を主な原因とする炎症疾患が多いですが、歯 とあまり関係のない疾患も多く存在し、個人差もあります。患いやすさや進行度合いも、人によって異なります」 昭和大学歯科病院歯周病科のベテラン医師はこう語り、さらに説明する。
「歯周病のうち、歯肉に限定した炎症を『歯肉炎』、他の歯周組織にまで炎症が起こっているものを『歯周炎』といって、これらを二大疾患と呼びます。歯科疾患の調査データによると、日本では歯周疾患の目安となる歯周ポケットは、40ミリ以上ある割合は50代の人で約半数、また高齢者だとさらに増え、それに伴い疾患患者も多くなります。
歯周病というのは人類史上で最も感染者数の多い感染症とされていて、ギネス・ワールド・レコーズにも載っているほどです。これでも世界的にいかに罹患者が多いかがわかります」 一般的に歯周病が悪化する主因としては、歯を支える歯茎が歯周ポケット(深さ3ミリ以上)に溜まった歯周菌に侵されるようになり症状がひどくなることが挙げられる。放置していると、歯茎が炎症、腫れとともに膿が溜まるようになる。
この時点で歯はグラつきはじめ、きちっと治療しないでいると、抜歯しなければならない状態に陥る。 都内の会社員Cさん(53)も患った一人だ。 「最初は歯周病と言われたが、何かピンと来なかったんです。虫歯治療くらいにしか思っていませんでしたが、歯茎がむず痒く、歯が浮くような気がした。
医師には即座に『歯の根元に膿が溜まっている』と告げられた。歯を指で押すとグラつく。診察後、飲み薬や塗薬を処方され、歯磨きの仕方も指導されたが改善しない。結局、3年間で計3本の歯を抜いたところで義歯を入れる羽目になりました。しかもその頃は体調もおかしく、風邪を引いたように熱っぽかったので別の医療機関を受診すると、肺炎を引き起こしているというではないですか。それが、歯周病と関係していると言うんです」
耳を疑ったCさんは内科医に詳細を尋ね、さらに自らが歯周病の治療中であることを打ち明けると、初めて歯周病と肺炎の因果関係を知らされ驚愕したという。
前出の昭和大歯科病院歯周病科の医師は、この症状について以下のように説明する。
「歯周病は健康診断では見落とされがちです。それにこの病気は口の中だけの問題だけではなく、最近では全身の至る所に影響することがわかってきているのです。
Cさんの肺炎もその一つです。歯周病の毒素というのは歯茎に炎症や膿をもたらす他、歯茎にある豊富な毛細血管から毒素菌が血管に入り込んだり、唾液に溶け込んで体全体を駆け巡っていきます。
また炎症反応や毒素により、心臓などの冠動脈に血栓ができて血流を詰まらせる原因にもなり、感染性内膜炎や狭心症などのリスクを高めることになるのです」
気が付いたらできている口内炎。一度できると気になってしまい、仕事や勉強に集中できなくなることも。いったい、何が原因なのでしょうか? どうやら、女性ホルモンとの関係もあるようです。また、口内炎ができたときはどのような食事をとればいいのでしょうか?今回は中川駅前歯科クリニックの院長、二宮威重先生に口内炎のできる原因とできてしまった後の食事法について伺いました。
■口内炎ができる原因とは?
口内炎とは、頬の内側や歯ぐきなど、口の中の粘膜にできる炎症のこと。口内炎にはいくつか種類があり、それぞれ色々な原因で起きるといわれています。「口内炎には、とても多くの種類があります。一般的には、主に疲れによって起きる『アフタ性口内炎』と呼ばれるものが多いでしょう。
疲れ、ストレス、睡眠不足、ビタミン不足、偏った食生活、ホルモンバランスの乱れなどのあらゆることが原因で起きるといわれている口内炎です。通常、10日~2週間ほどで自然に治ることが多いので特に気にする必要はありませんが、なかなか治らない場合や強い痛みがある、再発をくりかえす場合はすぐに病院へ行ってください」(二宮先生)
ホルモンバランスの乱れが原因で起きるとは、女性にとって気になります。「女性の場合、月経前や妊娠中などにホルモンバランスが崩れる時期は、特に口内炎ができやすいといわれています。特にこの時期は体が非常に多くのエネルギーを使うので、体力が消耗しやすいことも原因です。
細菌にも感染しやすくなるので、ウイルス系の口内炎になる可能性もあります。また、ホルモンバランスが乱れると唾液量も減るので、口の中が乾燥しやすく、さらに口内炎ができやすい環境にもなります。」(二宮先生)口内炎ができたらまずは原因がどこにあるのかを自分で探してみるのが良さそうです。また、女性にとって、月経前や妊娠中の時期は特に疲れ過ぎないように注意する必要がありそうですね。
■口内炎ができてしまったときの食事法
いざ口内炎ができてしまったら、どうすればいいのでしょうか? 自分でできる対処法と食事の方法を二宮先生に教えてもらいました。「口内炎ができてしまったら、薬で対処することもできますが、治りを早くするためには、普段の食生活にも注意してください。例えば、熱いもの、塩辛いもの、辛いものや、酸味・甘味が強いものなどは粘膜に刺激となり、炎症を悪化させる恐れがあるので避けましょう。かつおや昆布などのだしの旨味を活用して薄味で調理するようにしてみてください。
水分が多い汁物やおかゆ、片栗粉やゼラチンなどでとろみをつけたおかずなども口内炎を早く治すためにはおすすめです。また、ビタミンB1とB2が多く含まれる玄米や豚肉、うなぎ、レバー、納豆などを積極的に摂るようにしましょう。」(二宮先生)薄味で刺激の少ないものにすれば、口内炎ができているときの食べにくさも緩和されそうですね。また、日頃から口内炎ができないように、上手に疲れやストレスのケアをしていきましょうね!
一度できるとなかなか治らないことも多い、口内炎。治ったと思っても、またすぐできてしまったり。食べ物や飲み物がしみたりして、非常に厄介ですよね……。そこで今回は、口内炎ができてしまったときの有効な対処法についてご紹介いたします。
■「ぶくぶくうがい」が効果的
口内炎を治したいときには、口内炎用の薬を使うという人もいるでしょう。軟膏タイプや貼るタイプなど、様々な種類がありますよね。しかし、そうした薬ではなかなか治らなかったり、繰り返し何度も口内炎ができたりすることがあります。
そこでオススメなのが、殺菌成分入りのうがい薬などを使った「ぶくぶくうがい」です。誰にでもできるシンプルかつお手軽な方法ですが、口の中にいる細菌の繁殖を抑えられるので、口内炎を根本から解決する効果を期待できます。
また、早く口内炎が治るだけでなく、口内炎の予防にもなり、まさに一石二鳥です。
■重要なのは、細菌の繁殖を抑えること
口内炎を早く治すには、口の中の細菌をできる限り減らす必要があります。言いかえれば、口内炎がなかなか治らないのは、細菌の繁殖が抑えられていないから、ということになります。市販の薬は、口内炎ができた所に直接塗ったり貼ったりするものが大半。
それでは局所的な効果は得られても、口の中全体の殺菌はできないため、何度もできてしまったりします。しかし、殺菌成分の入ったうがい薬や洗口液で「ぶくぶくうがい」をすれば、口の中全体の最近を大幅に減らすことが可能。
こまめに薬を塗るよりも、1日数回うがいをする方が、よっぽど早く口内炎を退治できるのです。
■疲労やストレスも、口内炎の敵!
睡眠不足が続いたり、日々の疲労が体に蓄積されたりしても、口内炎ができやすくなります。これには「心当たりがある」という人も多いのではないでしょうか。直接的な原因は未だハッキリとはしていませんが、疲労やストレスによって、免疫力や代謝機能が低下するからだと考えられています。
体が弱ると、口の中の粘膜の表面が荒れてきて炎症を引き起こし、口内炎ができやすくなります。それを治すには、睡眠・食事・運動といった、普段の生活習慣を見直すことが大切です。いかがでしたか? 「しょっちゅう口内炎に悩まされている……」という方は、ぜひ上記の内容を参考にしてみてください。治りが早くなるのはもちろん、きっと今よりずっと口内炎のできにくい体になるはずです!
突然ですが、皆さん、歯みがきはどんなものを使っていますか? 何となく安いものを選んでいるという方も多いかもしれませんが、ふとお店の棚を見れば、けっこう高価格のものもありますよね。
そこで今回は、高級歯みがきの実力について、「クリーンデンタルシリーズ」を扱う第一三共ヘルスケア株式会社の広報さんにお聞きしました。
■高級品の実力は薬用成分にアリ
――普通の歯みがきと高級品、一番の違いはどこにあるのでしょうか?
「高級歯みがきが優れている点としては、ただ歯垢(しこう)を落とすだけでなく、歯周ケア・美白ケアなど目的に合った薬用成分が配合されており、その目的に合わせた処方が充実していることが挙げられます。
商品によって容量が異なるので単純に比較はできませんが、安いものでは200円前後のものがある一方、高付加価値品は、同じぐらいのサイズですと1,500円以上の製品が多いようです」
――うーん、けっこうなお値段……。お口のケアに気をつかったほうがいいのは分かるんですが、トラブルがなければそこまでできない気も……。
「本人に自覚がなく、トラブルを抱えているケースもあります。特に歯周病は怖いですね。実は30代以上の約8割の方に、歯石沈着あるいは歯ぐきのはれや出血など歯周病の症状が見られるとの報告があります(2005年:厚生労働省・歯科疾患実態調査)。油断しないで、しっかり予防してください」
――そんなに多くの人が! 実は私も予備軍だったりして……。歯周病を防ぐには、どうしたらいいのでしょう?
「歯周病を防ぐにはスペシャルケアも必要ですが、何より毎日の歯みがきでしっかりケアすることが大事です。
そのために、歯周病予防の効能を持った歯みがきを選ぶこと、充実した処方の製品がおすすめです。
歯周病予防の効能を持った歯みがきはさまざまな薬用成分が配合されており、歯周病を防ぐ処方設計となっています。例えば、『歯ぐきの腫れを抑える』『歯ぐきを引き締める』『歯垢(しこう)の形成を抑える』『殺菌する』などの成分が配合されています」
■口腔(こうくう)ケアのコツ、歯みがき選びのポイントは?
――何か、ケアのコツはあるのでしょうか? 朝と夜とで歯みがきのタイプを変えるとか……。
「基本的には、歯みがきは同じものをお使いいただければ問題ありません。
ただ、寝ている時は唾液(だえき)の分泌量が少なくなるので、より細菌が増殖しやすい状態となります。就寝前は、朝よりもさらに丁寧なケアを心がけていただくといいでしょう。スペシャルケアとして、洗口液などを加えてもいいですね。
最近では使用目的に合わせて、さまざまな高付加価値の歯みがきが店頭に並んでいます。目的や気になる症状などに合った製品の中から、配合成分を比較し、選んでみるとよいでしょう。
繰り返しになりますが、自覚症状がない方でも、本当に歯周病予防には気を使ってほしいです。
歯周病はハッキリとした症状を伴わずに進行するため、『沈黙の病気』と言われていますが、症状が進行すると歯を支える骨(歯槽骨)まで溶かしてしまう恐ろしいものです。
早い時期から充実した処方設計の歯みがきを選び、しっかり歯周ケアをした方がよいと言えます。
また、歯や歯ぐきに異常がないか、自分でこまめにチェックをするのも大切です。歯みがきをすると歯ぐきから出血する、歯肉が腫れている、朝起きて口がネバネバしている……などの症状があれば、歯周病を疑ってください」
――まずは、自分の口の健康に敏感になるところからですね! ありがとうございました。
◆第5位:歯がぐらつく
重度の歯周病になると大量の歯石が付着して、一つの石の塊のようになっていることがあります。本来であれば骨が溶けてしまい、歯が自立するのも難しい場合でも、石のような歯石が歯同士を連結する役割となっているのです。このような場合は意外な感じがしますが、歯石を取ると歯がぐらつくことになります。
ぐらついて抜歯になる結果となっても、これは歯石を取る前に抜歯になるほどの歯周病が進行していたためで、歯石除去が原因で歯周病が悪化したということではありません。
歯石はきれいに取るのが正解なのです。その後、必要に応じて抜歯、ぐらつく歯と歯を樹脂で固定、金属で複数の歯を同時にかぶせて固定する治療が行われます。
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◆第4位:歯がしみる
歯がしみる原因は、白いエナメル質部分ではなく、少し黄色い象牙質部分の露出などによるものです。
歯の表面に付着した歯石は、エナメル質と象牙質の両方に付着します。このため本来は象牙質が露出しているにも関わらず、歯石がまるで象牙質の表面を保護しているような状態になっていることがあります。
歯石除去で表面の歯石が取り除かれると、象牙質が露出した状態になり、一時的にしみるようになることがあります。多くの場合は、しばらくすると落ち着いてきます。たとえ一時的に歯がしみても、歯石を除去することで歯ぐきが健康に戻るため、長い目で見れば、たくさんのメリットがあります。
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◆第3位:前歯の裏がザラザラする
最も歯石が付着しやすいのは下の前歯の裏側ですが、毎日少しずつ大きくなるため、舌が慣れて歯石の大きさや量を感じることは困難です。歯石が大きくなると歯と歯の間に隙間が歯石で埋められた状態になります。
歯と歯の間の歯石を取ると、それまでスムーズに感じられていた歯の裏側に、歯と歯の凸凹が現れるため、舌にザラザラした感触を感じることがあります。そのほかにも歯が削られて小さくなったような感じや、舌先が荒れるような感じになることもありますが、歯としてはそれが健康な形態なのです。舌が感じる違和感は1週間ほどで慣れることがほとんどです。
◆第2位:口臭が減少する
歯ぐきが炎症を起こしていると、多かれ少なかれ口臭が発生します。炎症の原因は、プラークや食べカスなどの腐敗物、歯石表面の細菌の働きによる歯周ポケット内部からの出血や膿などです。そこから硫化水素やアンモニア、アセトンなどの強い臭いが発生します。
歯石を取るときには、歯の周囲のプラークや歯と歯の間に残っている食べカスなどもきれいに取り除かれます。さらに炎症が無くなれば、歯周病の嫌な口臭も押さえることができます。もちろん歯石を取ったあとにしっかりとしたブラッシングを継続しなければ、再び口臭が発生するのはいうまでもありません。
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◆第1位:歯磨きで出血しにくくなる
歯石があるために炎症を起こしている歯ぐきは、ブラッシングなどの弱い刺激でも出血と痛みが起こります。歯石を取る時に出血しやすいと感じるのもこのためです。歯石除去には超音波スケーラーなどを利用しますが、この器具が歯ぐきを傷つけるということではありません。
歯石が取れて炎症が無くなると、それまで出血しやすかった歯ぐきもブラッシング程度の刺激では出血しなくなります。さらに定期的に歯石を取っている場合には、炎症のあまりない状態で歯石除去を行えるため、歯石を取る際の痛みや出血を最小限で抑えることが可能となるのでおすすめです。
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◆早期発見・早期治療で「虫歯による抜歯」は減少傾向に
歯のトラブルとして最も代表的な「虫歯」。実は近年、虫歯の数が減少していることをご存知でしょうか? 厚生労働省が昭和32年から6年ごとに行なっている『歯科疾患実態調査』でも、調査を行うたびに虫歯が減少傾向になっていることが確認できます。
それだけ虫歯予防や虫歯治療技術の向上が進んだとも考えられますが、一方で60歳までに過半数の人が抜歯を経験し、85歳になれば半数が総入れ歯になっているのが現状です。
虫歯が減少しているのに、抜歯する人の割合が未だにここまで多いのはなぜでしょうか? 考えられる原因について解説します。
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◆虫歯が原因の抜歯減少は、正しい虫歯予防知識の広がりから
虫歯が減少している主な原因は、虫歯についての基礎知識が一般に広く普及したことだと考えられます。まず、今や当たり前すぎる知識と思われそうですが、甘いものなどをだらだら間食すると虫歯になりやすいこと、虫歯を予防するために歯磨きが必要であることは、十分に知られていると思います。正しい歯磨きができているかどうかは別としても、歯磨きで虫歯予防ができることは、誰でも知っているでしょう。
しかも虫歯の早期発見のために、保育園や学校、職場、自治体などで歯科検診を行う機会も増加しています。これにより痛みが出る前の初期虫歯の発見ができるようになりました。
そして、虫歯になったとしても、歯科医院はコンビニより多いと言われるような現代、歯科を探す苦労はあまりないでしょうし、基本的な虫歯治療は国民健康保険でカバーされるため、受診のハードルはそれほど高くありません。しかも虫歯治療の技術や材料も進化しているので、以前のようにすぐに抜歯する必要はなく、ギリギリまで自分の歯を持たせることができる治療が浸透しています。
注意したいのは、早期発見時に治療すれば、1回の来院で治療ができることでも、虫歯を放置した後に治療すると、数回から1カ月程度の治療期間がかかってしまうことが多いということです。せっかく歯科医院に通院するのであれば、できるだけ小さい虫歯のうちに治す方が、時間も費用も節約できるためおすすめです。
◆増加する新たな抜歯原因は「歯周病」と「歯根破折」
最近の虫歯治療は、抜歯が極力先送りされるようになりました。たとえ歯の頭部分の形態がほとんど崩壊していても、歯ぐき内部の根の部分がしっかり残っていれば、十分に歯としての機能を取り戻すまで治せる可能性は高くなります。歯ぐきの奥の根の部分が深刻に崩壊しない限り、抜歯は避けられることが多くなってきたのです。
虫歯が原因での抜歯が少なくなる一方、新たな抜歯に至る原因として増加しているのが、「歯周病」と「歯根破折」です。虫歯は主に歯の内部を破壊しますが、歯周病は、歯の周囲の骨を破壊して、グラグラにしてしまうことで、抜歯が必要になるケースを起こします。
歯根破折は、文字通り歯が薪割りのように割れて、即抜歯になるケースです。どちらも歯が残っていなければ、起こることはありません。虫歯を治療して、抜歯せずに歯を残せるようになったことで、これらのトラブルが目立つようになってきたのです。
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◆歯の破折は「即抜歯」、歯周病は工夫で「延命」
歯のトラブルで最も重症なのは「歯の破折」です。歯が縦に裂けるように割れてしまうわけで、人間でいえば即死の状態です。一度完全に割れてしまったら、どんなに治療しようが、もう元に戻すことはできず、抜歯のみが体を守る最後の治療になります。破折は、いきなり衝撃と共に痛みが出ることもあれば、数十年かけてゆっくりとひび割れを起こして、治療しても治らない歯周病のように見えることもあります。
ひび割れが、歯の寿命の最後と言われるのは、たとえひび割れを強力な接着剤で埋めたとしても、上下の歯で噛み合わせる力が掛かると接着した部分が剥がれて割れるか、別の場所が新たにひび割れることが多いからです。
さらに隙間が目で確認できないようなわずかなものであっても、細菌の大きさから見れば、歯から骨につながる大きな裂け目でしかありません。しかもその隙間には歯ブラシの毛先が入り込むこともできないため、細菌がどんどん歯ぐきの奥の骨にまで入り込んで腫れや膿が出て、さらに噛むと痛いなどの症状が現れます。
これに対して歯周病は、虫歯をきちんと治していても、歯の周囲が完全に溶けてしまえば、歯ぐきから歯が剥がれて自然に抜けてしまいます。一般的には歯が骨に固定されている部分が徐々に溶けて失われるため、グラグラしてきたり、噛むと揺れて痛むなどの症状が出ます。
しかし歯の破折と違うのは、抜歯になるまでには最後まで治療によって延命できるということです。さらに原因が歯の周囲のプラークであるため、歯歯磨きと定期的な歯石取りなどを行うことで予防することも可能です。
逆にいうと虫歯や歯周病は、治療と予防をしっかり行えば、歯が破折するまでは延命することも可能なのです。
口腔内の問題は、放置すると全身疾患につながっていくことがある。『やってはいけない歯科治療』著者で、“歯科業界に最も嫌われるジャーナリスト”の異名を取る岩澤倫彦氏が患者に知らされてこなかった重大リスクをレポートする。
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脳梗塞、心筋梗塞、細菌性心内膜炎、腎炎、誤嚥性肺炎、パージャ病、動脈硬化症、アルツハイマー病、糖尿病……。
これらに「歯周病」が関係していると言われても、本気で信じる人は少ない。筆者もそうだったが、国立循環器病研究センターが、心臓疾患の患者に次のような警鐘を鳴らしていることを知って考えが変わった。
「歯周病にかかっている人はそうでない人に比べ1.5~2.8倍も循環器病を発症しやすいことがわかっています。さらに、循環器病の原因となるアテローム性動脈硬化症の程度が、歯周病と関連することがわかってきました」
アテロームとは、コレステロールなどが動脈の内膜に沈着して起きる動脈硬化を指す。東京歯科大学名誉教授・奥田克爾(かつじ)氏は、心臓外科医・南淵明宏氏との共同研究で、心臓の冠状動脈の血管内壁に付着したプラークから、歯周病原菌を検出した。歯周病原菌は、口腔内の血管から入り込み、全身を駆け巡っていたのだ。
「頸動脈の内側に付着したプラークが大きくなって脱落し、それが脳血管を詰まらせると、脳梗塞になると考えられます。歯周病を予防することは、命を守ることになる、というのは決して大げさではありません」
本来なら、国をあげて歯周病の治療や予防が必要なはずだが、十分とはいえない。また過去に歯医者で受けた治療が歯周病の原因になり得ることも、あまり知られていない。
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◆銀歯を入れるのは日本人だけ?
欧米諸国では、美しく白い歯や歯並びの良さはとても価値あるものとされ、社会的なステータスを表すものになっています。歯が汚いことが就職にも影響したり、自己管理できていない人だと思われ、仕事の営業成績にも影響があるぐらいです。
そのため皆が歯を綺麗に健康に保つために、常に高い意識を持っています。
また欧米では、予防や歯のクリーニングのために歯科医院に通う方が98パーセント、治療をするために通う方が2パーセントと言われています。しかし、なんと日本では98パーセントの人が治療のために歯科医院に通います。
「日本人の女の子はとてもかわいいのに、笑うと歯が汚いのはなぜ?」と言われているのです。
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◆銀歯にはリスクがいっぱい
歯医者に行ってなんとなく銀歯になり、また虫歯ができたから銀歯が増えるという悪循環。銀歯以外の詰め物やかぶせものは自費になってしまうから、保険内の治療でいいや……。こんな感じで日本人の口の中は銀歯だらけになってしまっています。
日本で銀歯と呼ばれているものは、金と銀とパラジウムの合金で日本にしかないものです。国民皆保険制度のために最低限の歯の機能の回復ができる、安くて加工しやすい銀歯がその昔うまれましたが、最近はこの銀歯における悪影響が注目されてきています。
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◆銀歯によるリスク1:金属アレルギーを引き起こす
口の中には細菌が何百億と住み、銀歯は日々熱いもの冷たいものそして咬合力を受け、過酷な環境に置かれています。
そのため銀歯は劣化しやすく、傷つきやすくなっており、また銀歯の表面から金属がイオン化されて溶けだし、体の中の蛋白質とくっつくことで金属アレルギーを引き起こす可能性があります。
金属アレルギーは口の中の異常だけに限らず、体全身の異常をきたす可能性があります。手が赤くただれたり、全身にぶつぶつができたりすることもあるのです。
銀歯を入れてすぐに異常が出る場合以外に、何年もしてから体に異常が出てくることも多く、原因不明の皮膚病だと思われることがあります。
とくに銀歯に含まれているパラジウムという物質はアレルギーを引き起こしやすく、パラジウムに対してアレルギー反応を持つ方は100名中20~30名ほどいると言われています。
◆銀歯によるリスク2:被せた歯がまた虫歯になる
銀歯と歯は歯科用のセメントでくっついているのですが、正確にいうとぴったりくっついているわけではありません。銀歯を入れる際に歯との隙間をセメントで埋めて、セメントと銀歯の摩擦力でくっついているだけなのです。
そのため入り込んだ虫歯菌により、また中に虫歯がひろがっていたということは珍しくありません。中のセメントも劣化してくるので、古い銀歯のなかは気づいたら真っ黒になっていたなんてこともよくあります。
銀歯の下の虫歯は発見しづらいですし、レントゲンにも写りにくいのでなかなか発見しにくいのも事実です。
神経がない歯の場合には症状も出にくいので、しばらく歯科医院に行っていなかったら、歯を残せないほどにぼろぼろになっているなんてこともあります。このような状態を避けるためにも、定期検診は重要ですね。
一方、セラミックのかぶせものや詰め物は歯やセメントと相性がよく、ぴったりくっついているため、銀歯に比べて再び虫歯になるリスクは格段に少ないです。
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◆銀歯によるリスク3:歯周病が悪化しやすい
銀歯の表面は傷がつきやすく、その小さい傷に口の中の菌がたくさん寄ってきます。銀歯と歯茎の境目にも歯周病菌他たくさんの菌がたまりやすく、銀歯を入れてから歯周病の進行が早まったりもします。
奥歯に銀歯を入れて数年したら、歯茎が腫れたり歯周病で歯が揺れてきた、という経験がある人もいるかと思います。
銀歯の周りは特に汚れや菌が溜まりやすいので、歯ブラシ以外にも歯間ブラシやフロスを使い綺麗に歯を磨き、定期的に歯科医院での健診やクリーニングを受けていく必要があります。銀歯と歯茎の境目が菌の住処になっていると、口臭の原因にもなります。
保険適用によって日本の歯科の治療は安く、誰でも受けられる利点もありますが、上記のように実は銀歯には様々なリスクもあるのです。
そのリスクをよく理解し銀歯にするかセラミックの治療をするか選択するのも大切ですし、すでに口の中に銀歯がある場合は定期的な歯科検診と毎日の丁寧な歯磨きをすることが必要になってきます。
そしてなにより、虫歯のない健康な口腔内を目指し、予防に力を入れることが最も理想的です。グローバルの時代になり、海外の方と関わる機会の多い昨今「なぜ日本人の口は銀歯だらけなのだろう……」と言われないようにしたいものです。
歯周病菌など口腔内の病原菌は糖尿病や心筋梗塞など全身疾患の原因にもなることが明らかになっている。そこで今注目を集めているのが「3DS除菌療法」だ。
■重症患者もOK
虫歯や歯周病の原因菌(悪玉菌)は、歯や歯茎に集中して繁殖する。そこで、患者の歯形に合わせて作製した密封性の高いマウスピースを装着し、その中に殺菌効果の高い薬剤を注入することで、悪玉菌のみを的確に減らす方法が「3DS(Dental Drug Delivery System)」だ。いわば、薬剤を効率よく患部へ輸送することで、その効果を最大限に発揮させるシステムである。
「重症の歯周病や、高齢などで免疫力が低下し治療効果がなかなか出にくい場合でも、3DSの導入によって従来より短期間で治療成績が上がります」
こう話すのは、5年前から3DSを取り入れている片平歯科クリニック(東京・渋谷区)の片平治人院長。虫歯のリスクが高く、「治療↓再発↓再治療」を繰り返していた患者が、再発頻度が減り、治療のためではなく予防で来院するように変わっていくケースも珍しくないという。
なぜ、3DSがここまで有効なのか? それは、歯の表面に繁殖する悪玉菌(バイオフィルム)と関係する。バイオフィルムはその名の通り、細菌自身を膜で覆い、保護している。
するとどんなに強力な薬剤であっても、バイオフィルムにガードされ、薬剤の効果が悪玉菌まで行き届かない。つまり、悪玉菌がバイオフィルムに守られて生き残る。
このような状況で、もし強いうがい薬でやみくもに口をすすいでしまうと、頬などの粘膜に生息する善玉菌が殺菌され、口腔内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れてしまうリスクがある。
このような背景から、バイオフィルムに対する手だてとして、鶴見大学歯学部の花田信弘教授が1999年、国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)時代に3DSを開発した。
「3DSは治療と予防の両方に使えます」(片平院長)
■3カ月で対象悪玉菌が0%近くに
片平歯科での治療の流れはこうだ。最初に、細菌検査で唾液中の悪玉菌の比率を調べ、リスクを判定する。
3DSが適用となったらまず、歯科衛生士による徹底した口腔内クリーニングで、機械的にバイオフィルムを取り除く。次に、薬剤の入ったマウスピースを5分間装着。さらに自宅で、7~10日間、自宅用薬剤を用いたマウスピースを装着する。自宅用薬剤は、クリニックで使うものとは異なり、市販の歯磨き剤にも使われている低濃度で安全性の高いものだ。
その後の来院時に再度、口腔内クリーニングによる機械的な除菌と、マウスピースによる高濃度薬剤での除菌を行う。治療としての3DSはここで終わりだが、次のステップとして、バクテリアセラピーという善玉菌のタブレットを1カ月間摂取してもらい、口の中の細菌バランスの改善を行う。
2カ月後に再度細菌検査を行い、悪玉菌がリスクのない安全域にまで減少しているか確認する。たいていの場合、対象悪玉菌は0%近くまで減少する。まれではあるが、効果が不十分な場合は再度3DSを行う。
口腔内の状態が安定した後は、必要に応じ自宅での3DSを行いながら、定期的にクリニックでの徹底した口腔内クリーニングを継続。予防管理を行うことが肝要だ。
間違ってはいけないのは、「3DSだけすれば歯周病が治り、全身疾患の予防になる」のではないという点だ。最初の口腔内クリーニングが非常に重要だ。
「3DSは椅子取りゲームのようなもの。口腔内クリーニングと3DSの薬剤で口腔内の悪玉菌を排除し、善玉菌に置き換えていくのです。善玉菌の“椅子”を確保し続けるには、治療による3DSで悪玉菌減少後も、定期的な歯科検診と口腔ケアが不可欠です」(片平院長)
保険適用外。片平歯科クリニックでは、3DSを含めた一連の治療を8万円(税別)で行っている。
【Q】虫歯でもないのに歯がグラグラして抜けそうです(60代男性)
【A】見た目には何も問題ない歯なのに、気付いたらグラグラしていて今にも抜けそう…。焦るし、抜けた後を想像すると恐ろしくなりますね。以前から食べ物が歯に挟まりやすい、かみにくいと感じていらっしゃったかもしれません。
歯がグラグラする原因の一つに、歯を支えている骨(歯槽骨=しそうこつ)が溶け、骨の量が減ったことが挙げられます。年齢から考えると歯周病の可能性が高いでしょう。
歯周病により歯槽骨が溶けると、歯と歯槽骨をつなぐ歯根膜(=しこんまく)と呼ばれる靱帯(じんたい)も断裂してきます。船を岸壁に係留する際、ロープが切れると船は沖に流されますよね。歯も歯根膜が断裂するとやがて抜けてしまいます。
成人の歯周病はゆっくり進行するため、歯磨きを怠ったり歯科医院で治療を受けなかったりすると、意識しないうちに歯の揺れが大きくなっていきます。歯周病が怖いのはこういった点で、やがて痛くてかめなくなり、歯を抜かなければならなくなります。
歯槽骨が溶ける原因は他にも糖尿病、喫煙、骨粗しょう症、ホルモンバランスの乱れ、薬の副作用などが挙げられます。心当たりがあり、最近歯がグラグラすると感じたら、早めに医師に相談することをお勧めします。
歯に強い力がかかった場合も歯がグラグラするようになります。激しい歯ぎしりや食いしばり、歯を強くぶつけた時などに歯根膜が断裂したり、歯が割れたりします。かみ合わせの調整や、割れた部分の接着などで歯を残せる場合があります。
歯が抜けることにより歯並びが崩れる、かむ力や栄養の吸収効率が落ちるといった影響が懸念されます。溶けた骨と抜けた髪は時間がたっても元に戻りません。歯の場合は、抜けてしまう前に一刻も早く歯科医師の診察を受けましょう。
◆回答者プロフィール 中塚美智子(なかつかみちこ)大阪歯科大学医療保健学部准教授。歯科医師、労働衛生コンサルタント。「歯科医療の発展が日本を元気にする」と信じ、日々未来の歯科衛生士、歯科技工士の養成に携わっている。
歯を失う原因は、むし歯だと考えている人は多いでしょう。しかし日本人が歯を抜かなければならなくなる原因のトップは、歯周病です。日本歯周病学会と日本臨床歯周病学会の共著として発刊した書籍『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)から、歯周病の治療法を紹介します。
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歯科医院に通うと「セルフ・ケアも大事ですよ」と言われることが少なくありません。歯周病のセルフ・ケアというのはまず「局所(歯)のケア」、すなわち毎日のブラッシングです。さらに歯周病は全身の健康にかかわる感染症ですから、持病のコントロールや生活習慣の改善といった「全身の健康管理」も不可欠です。
患者さんの中には「歯科医院に通っていれば歯周病は治るだろう」と考えている人がいます。しかし、同じ進行度の患者さんが同じタイミングで歯科医院に通いはじめても、セルフ・ケアを努力している患者さんと歯科医師任せで何もしない患者さんでは、治り方も、通院回数も、治療にかかる費用も、将来歯がどうなっていくかもまったく違ってきます。
■手のひらサイズの炎症を放置できますか?
中等度の歯周病になっている患者さんの場合、歯周ポケット周辺の炎症の総面積は、「手のひらくらいの大きさ」(歯周ポケット5ミリ範囲の炎症×28本=72平方センチ)といわれています。もし顔に手のひらサイズの炎症があれば、普通は放ってはおかないはず。見た目はもちろんのこと、放置して化膿すれば大変なことになりますから、治療をするでしょう。
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ところが歯周病は、歯肉の中の見えにくい部分で炎症が起きているために多くの人が無頓着。放置している間に歯を支える骨が溶けていくだけでなく、全身に感染が広がっていきます。
■化粧品やサプリにお金をかける前に、歯のケアを
高齢化が進み、アクティブシニアが増えている昨今は、アンチエイジングがブーム。「いくつになっても若く美しく健康でありたい」と、外見や体力、脳の老化防止などに関心が集まり、ジムに人があふれ、高額な化粧品やサプリメントが飛ぶように売れています。
ところが意外と歯に気を使う人は少なく、外見は若々しいのに口の中はボロボロで、歯が抜けかかってから歯科医院を受診してくるケースが後を絶ちません。
歯をいい状態に保つことは、外見だけでなく、食べものをしっかり噛んで滑舌よく話すといった機能面、そして全身の健康を維持するという面からも、究極のアンチエイジングといえます。セルフ・ケアを習慣にしてください。
歯を失う原因は、むし歯だと考えている人は多いでしょう。しかし日本人が歯を抜かなければならなくなる原因のトップは、歯周病です。日本歯周病学会と日本臨床歯周病学会の共著として発刊した書籍『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)から、歯周病の治療法を紹介します。
歯周病が進行して歯周組織が破壊されれば、歯を支えきれなくなるので、抜歯は免れません。ここまでは抜歯という事態を避けるための治療の重要性をお伝えしてきたのですが、自覚症状が乏しく早期発見が難しい病気なので、「抜歯になるケースもかなりある」というのが現実です。
患者さんは「抜歯したくない。どうにかならないか」と言われますが、実は早く抜歯したほうがいい場合もあります。その理由を説明しましょう。
歯周病の炎症は、歯石の表面などに付着した歯周病菌などが、毒素を出し体内に入り込もうとするのを防ぐために生じています。さらに歯肉の奥にある骨は、近づいてくる歯周病菌に感染するのを防ぐために、自ら溶けて逃げ、細菌との距離を保とうとするのです。
歯の周囲の骨がすべてなくなった状態は、もう歯が体の一部ではなく「歯周病菌に侵された異物」と判断されたということで、「早く抜いて」のサイン。体が「必要ない」と判断したら、むしろ体のために抜歯する必要もありうるのです。
■抜歯後は「歯を補う治療」が必要
抜歯が避けられなくなって抜いた場合、そのままにしておくと食べ物が噛みづらいだけでなく、スペースを埋めるように隣の歯が寄ってくるのでかみ合わせが悪くなります。また、歯と歯のすき間が広がってむし歯にもなりやすくなります。そのため失った歯を補う治療が必要なのです。
歯を補う治療には、(1)「ブリッジ」(2)「入れ歯」(3)「インプラント」の3つの方法があります。
(1)ブリッジ
失った歯の両隣に残っている歯を削って冠をかぶせ、連結した人工の歯を固定します。残った2本の歯が土台となって橋を架けるようなイメージで、失った歯が1~2本と少ない場合に適した方法です。固定式なので異物感が少なく、見た目も自然です。
ただし、冠をかぶせるために、両脇の最低2本の健康な歯を大きく削らなければならないうえに、歯を失った部分にかかる噛む力も土台となる歯だけで支えるため、負担がかかります。さらにブリッジのかみ合わせや清掃状態が悪いと、歯の寿命が短くなります。
※費用:一般的な材料を用いる場合は健康保険の適用となりますが、健康保険の対象外となる材料や治療法もあります。主治医に確認してください。
(2)入れ歯
入れ歯は、歯がなくなったところに取り外しできる人工歯を入れて、噛めるようにします。1本~数本の歯を補う「部分入れ歯」は、残った歯に金属のバネを引っかけて固定するタイプが主流。バネの代わりに磁石で固定するタイプもあります。
部分入れ歯は残った歯を大きく削る必要はなく、取り外しが簡単なので洗って清潔を保つことができ、かみ合わせに不具合が生じたときは修理することができます。ブリッジに比べて噛む力が劣り、部分入れ歯の位置によってはバネが目立ち、見た目が気になることがあります。さらに、バネをかけた歯の負担が増えるため、口の中の清掃状態が悪いと、歯周病が進行して歯の寿命が短くなる場合もあります。残っている歯をしっかりケアしていきましょう。
一方、歯をすべて失った場合は、義歯床をあごに密着させる「総入れ歯(総義歯)」になります。総入れ歯も、取り外しが簡単、洗って清潔を保てる、かみ合わせに不具合が生じたときは修理することができる、というメリットは部分入れ歯と同じです。しかし、少しずつ歯槽骨や歯肉は痩せていくので、こまめな調整が必要です。調整が不十分だと、はずれやすい、食べかすがはさまって痛む、違和感がある、発音しにくいということも。また口の中全体を覆うことになるので、食べ物の味や温度を感じにくいことがあります。
※費用:一般的な材料を用いる場合は健康保険が適用されます。健康保険の対象外となる材料や治療法もあり、装着感が優れているといった理由で保険外を選ぶ人も少なくありません。
(3)インプラント
インプラントは、あごの骨に金属などで作られた人工歯根を埋め込み、それを土台にして人工の歯(人工歯冠)を取り付ける方法です。あごの骨にしっかりと固定されるため、自分の歯に近い感覚で噛めますし、見た目も変わりません。また、ブリッジのように健康な歯を削らずに済みます。全部歯を失った場合でも、インプラント治療をすることができます。
しかし、人工歯根を埋め込むための外科手術が必要で、あごの骨にしっかりとくっつくまでに3カ月~半年ほどかかります。歯周病で歯槽骨が少なくなった人や全身状態が悪い人は、インプラント治療ができないこともあります。また、歯周病の人がインプラント治療をすると「インプラント周囲炎」を起こしやすいので、注意が必要です。
※費用:インプラントには健康保険が適用されず、全額自費負担です。医療機関によって異なりますが、1本当たり数十万円の高額な治療費がかかります。歯科医師から十分に説明を聞き、納得してから治療を受けてください。
■インプラント周囲炎にご用心
「インプラント(人工歯根)は人工物だから、むし歯にも歯周病にもならない。安心だ」などと考えていませんか?
確かに人工歯根自体はむし歯になることはありませんが、それを埋め込む骨の周辺には歯肉があるので、清掃状態が悪ければ根元にプラークがたまります。たまったプラークや歯石は人工歯根を支えている周りの骨を溶かしていき、最悪の場合は人工歯根が抜け落ちてしまうことも。インプラントを入れても歯周病と同じ状態になるということです。
インプラント治療をする前に歯周病をしっかり治しておくのはもちろんのこと、インプラントを入れたあともブラッシングによるセルフ・ケアを欠かさないようにしましょう。定期的に歯科でメインテナンスしてもらうことも不可欠です。
歯を失う原因は、むし歯だと考えている人は多いでしょう。しかし日本人が歯を抜かなければならなくなる原因のトップは、歯周病です。日本歯周病学会と日本臨床歯周病学会の共著として発刊した書籍『日本人はこうして歯を失っていく 専門医が教える歯周病の怖さと正しい治し方』(朝日新聞出版)から、歯周病ケアのメインテナンスについて紹介します。
歯周病の治療では、根気強く歯科医院に通院して良くなっても、「2カ月後にまた来てください」などと言われます。2カ月後の受診を終えると「じゃあ今度は4カ月後に」――。いったいいつまで治療が続くのでしょうか。
症状が改善したら治療は一段落ですが、それで終わりではありません。歯周病は再発しやすい病気なので、口の中をずっといい状態に維持していくための「メインテナンス(定期健診)」を一生続ける必要があります。
メインテナンスの主な目的は、(1)再発の早期発見、(2)ブラッシングのチェックと指導、(3)リスクコントロール、(4)定期的なクリーニングの4つです。どのくらいの頻度でメインテナンスするかは、口の中の状態や全身状態などによって変わります。通常は治療で歯周ポケットが2~3ミリになったら2カ月後にメインテナンス、状態が良ければ次は4カ月後、さらに次は6カ月後というように間隔を空けていき、そこからは良い状態が続いていても最低6カ月に一度はメインテナンスに通います。糖尿病の人や喫煙者など歯周病のリスクが高い人は、それよりももっと短い間隔でメインテナンスをすることもあります。
■メインテナンスが必要な根拠
<1>再発の早期発見
歯周病の原因は口の中に棲んでいる歯周病菌です。歯周病菌をゼロにするのは難しく、プラークがたまってくれば容易に再発します。重症化を防ぐために、定期的な観察で再発をいち早く発見し、治療につなげることが大切です。
<2>ブラッシングのチェック・指導
正しいブラッシング法の指導を受けた直後はそのとおりに磨けていても、時間が経つにつれて以前のクセが出て、磨き残しが増えてしまうことも少なくありません。定期的に磨き方をチェックし、必要に応じてブラッシングを再度指導します。
<3>リスクコントロール
リスク因子には、かみ合わせの悪さや歯ぎしりのクセ、むし歯など「口の中のリスク因子」と、不適切な食習慣や喫煙、ストレス、全身の病気など「全身的なリスク因子」があります。改善状況を定期的にチェックして、前者には治療、後者には指導や治療勧告をおこなう必要があります。
<4>専門家による定期的なクリーニング
セルフ・ケアでできることには限界があります。ブラッシングのクセによる磨き残しはもちろんですが、適切に磨いていても歯ブラシの毛先は歯周ポケットの奥深くまでは届かず、汚れがたまっていきます。定期的に歯科医院で除去することが必要です。
◆普通の虫歯はエナメル質から始まる
普通の虫歯は、歯の表面に付着したプラークから虫歯菌が酸を出し、最初に歯の白い部分(歯冠)のエナメル質を溶かして穴を開け、そこから穴が内部の象牙質に拡がっていきます。
プラークが付着したエナメル質は、食事をするたびに少しずつ溶けています。しかし唾液の成分がこれを修復します。このサイクルを繰り返していますが、修復には数時間かかるため、ダラダラと間食を続けると虫歯になりやすくなります。
普通の虫歯は、エナメル質に穴を開けたとしても、すぐに神経に達するのではなく、歯冠部分は象牙質の厚み(3~6mm程度)も十分あるため、象牙質を溶かして神経部分に炎症を起こすためには、かなり時間が必要となります。
水がしみるようになったりときどき疼いたりと、よくある虫歯の自覚症状が起こる状態は、この象牙質に虫歯が侵入している期間に起こることがほとんどです。この間に虫歯を治療すれば、神経は保存することが可能です。
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◆困った虫歯は象牙質から始まる
歯ぐきが下がるとエナメル質(歯冠部分)の下の象牙質が露出してきます。いわゆる歯が伸びてきた状態です。この露出部分にプラークが付着し続けたり、唾液が減少して、歯の修復機能が遅れ気味になると、歯根部分が虫歯になります。
エナメル質より柔らかい象牙質(根面)から虫歯の侵入が始まるわけです。この露出した根の部分は、エナメル質がある歯冠部分と違い、歯の神経との距離が近い(2mm程度)ため、比較的早い段階で神経にダメージを与えることがあります。
治療は一般の虫歯と同じ方法ですが、難易度が全く異なります。根面齲蝕は、根の周囲を帯状に虫歯が拡がることもあるので、歯冠部分が健康でも根の周囲をぐるっと削って治療することになります。最悪の場合、虫歯のない健康なエナメル質の白い歯冠部が、ポロリと取れてしまうこともあるのです。
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◆50代以上は要注意の多発性根面齲蝕
これらが多発した状態の根面齲蝕は、主に高齢者(早い人は50代でも)の歯周病患者に多く見られます。歯磨きがきちんと行なわれていない、歯周病が進行して根が露出、唾液分泌が減少し虫歯への抵抗性が低下するなどして、歯ぐきから露出した根の部分に、場合によっては数本~数十本に渡って根面齲蝕が現れます。
歯に被せもののがあっても、その下の根が露出していれば、被せものの根元に根面齲蝕を起こします。歯と歯の間が連続して虫歯になることも多いです。特に奥歯の歯と歯の間に出来た根面齲蝕を治療するには、器具が横から挿入しにくいため、歯冠部分から削ることになり、虫歯が小さくても削る量は多めになりがちです。
予防としては、普通の虫歯予防と同じです。高齢になり唾液が減少するなどした場合は、分泌を増やすというより、原因のプラークの量を出来るだけ減らすといった方向が基本となります。そのためには、デンタルフロスや歯間ブラシなどを上手に利用することも重要です。
根面齲蝕は、早く発見できれば、小さく削って詰めるだけで済むことも多いので、定期検診などでの早期発見を心がけることをオススメします。
師走に入り、初霜、初氷、氷点下の冷え込み、最低気温など、冬の便りが全国各地から届くようになり、インフルエンザ流行 ニュースも耳に入ってくるようになりました。そこで今日は「歯ブラシ」についてのお話をします。なぜなら、口腔内を清潔に保つことがインフルエンザ予防にもつながるからです。いま使っている歯ブラシを交換したのはいつですか? 新年になってから変えようと思っていた人はぜひ、今日から新しい歯ブラシを使ってくださいね。
毎月8日は「歯ブラシ交換の日」。歯ブラシのの寿命は1カ月です
毎月8日は「歯ブラシ交換の日」といわれているのをご存じですか。これはサンスター社が、1カ月に1回は歯ブラシを交換することを推奨するために制定しました。「1カ月に1回」と聞くと多いように感じるかもしれませんが、口の中は約1000~2000億の細菌がいるといわれており、それを掃除する歯ブラシはどんなにきれいに使っていても、菌が付着してしまいます。また、使い古した歯ブラシは毛先の弾力が低下し、細かい食べかすや歯垢(プラーク)などをかき出す力も低下するため、磨き残しが増えてしまいます。しっかり汚れを落とさないと、虫歯や歯周病のリスクも高まります。
歯ブラシの選び方。ポイントはヘッドの硬さと大きさ
交換の必要性がわかったところで、次は歯ブラシを選ぶポイントについてお話します。
●硬さ
やわらかめ…歯周病予防や現在治療中の人
ふつう…歯茎が健康な人
かため…弱い力でしっかり磨きたい人
●ヘッドの大きさ
ヘッドの部分が大きいと、奥まで届きにくく磨き残しの原因となります。
親指の幅、もしくは、前歯2本分くらいの大きさが目安です。
正しい歯磨きはインフルエンザ予防にもなります
虫歯を防ぐには、細菌と歯垢をしっかり除去することが大切です。飲食後40分は虫歯ができやすい状態が続きますので、食べたら歯を磨く習慣をつけましょう。また、口腔内の細菌はインフルエンザウイルスを粘膜に侵入しやすくする酵素(プロテアーゼやノイラミニダーゼ)を出すため、口腔を不潔に保っていると、インフルエンザに感染しやすくなるともいわれています。インフルエンザ予防には、朝起きてすぐの「朝イチ歯磨き」がオススメです。
歯磨きのポイントは以下の3つ
◎1カ所につき20回以上ブラッシングする
◎毛先が広がらない程度の軽い力で動かす
◎5~10mm幅を目安に小刻みに動かす
目安としては5分間。磨き残しがないように順番を決めて磨きましょう。―― 12月は忙しくてつい歯ブラシを交換することを忘れてしまったり、年明けに歯ブラシ交換をする人も多いようです。「歯ブラシ交換してないなぁ」と思った方は、ぜひ今日から新しい歯ブラシで磨いてくださいね。口腔ケアは健康の第一歩。元気に年末年始を過ごしましょう。
口内環境が健康寿命を左右する、ということをご存じだろうか。口は、食べ物の入口であるが、病気の入口にもなりうる。全身の健康を左右する「歯周病」の原因と予防法を知り、健康維持のために日常生活を見直したい。今回は、口内を健康に保つ重要な役割を果たしている“唾液”を増やす【唾液腺マッサージ】の方法をご紹介する。
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唾液には抗菌・浄化作用があり、酸化した口内を中性に戻すなど、さまざまな緩衝作用がある。しかし、加齢や降圧剤・利尿剤など薬の服用によって、唾液の分泌が少なくなることがわかっている。歯科医の野本秀材さん(サクラパーク野本歯科院長)は、次のように指導する。 「唾液の分泌を多くするには、よく噛んで食べること。糖分のないガムもいいでしょう。唾液腺マッサージも即効性があります。また、ストレスは唾液量を減少させ、くいしばりが強くなってしまいますから、ストレスのない生活を心がけることも大切です」それでは唾液の分泌を促す唾液腺マッサージの具体的な方法を教えていただこう。
■1:まずは唾液腺の位置を確認(イラスト参照)
■2:舌下腺への刺激
舌下腺は顎のとがった部分の内側のくぼみにある。ここに両手の親指をそろえて当て、10回くらい上方向にゆっくり押し上げる。喉のどを押さないように気をつけて行なうこと。
■3:顎下腺への刺激
顎の骨の内側のやわらかい部分にある顎下腺。ここに親指を当て、耳の下から顎の下まで、3~4か所に分け、順に押していく。押す回数の目安は、各ポイントをゆっくり5回くらいずつ。
■4:耳下腺への刺激
耳の前(上の奥歯あたり)付近にある耳下腺は、梅干しなど酸っぱい食物をイメージすると唾液が出てくる場所。ここに指数本を当て、前に向かって指全体でやさしく10回ほどなでる。
以上、唾液の分泌を促す【唾液腺マッサージ】の方法をご紹介した。歯周病は生活習慣病。生涯の豊かな生活のために、日々、口元の自己管理を徹底したい。【今回の案内人】野本秀材さん サクラパーク野本歯科院長。昭和31年、東京生まれ。日本口腔インプラント学会専門医。歯と口腔全体をひとつの器官として捉え、統括的な診療活動に努める。予防歯科学分野にも造詣が深い。
※この記事は『サライ』本誌2016年11月号「大人の歯磨き基本のき」より転載しました。記事内の肩書き等は取材時のものです(
◆虫歯予防の進化
■従来の虫歯予防の考え方
虫歯になるまでのプロセスとは、虫歯菌などの塊であるプラークが歯の表面に付着し、歯の表面に穴を開けるというものです。
このまま放置すると歯に穴を開けて虫歯になるため、プラークをなるべく早く歯ブラシでブラッシングして機械的に除去(できれば食事の後3分以内)というものです。歯の表面に付着したプラークをどれだけ取り除けるのかに重点をおいた虫歯予防法です。
■新しい虫歯予防の考え方
従来のプラーク除去法に加えて、口腔環境の時間的経過や変化をふまえて行なう虫歯予防法です。食事をすると口の中や歯の表面のpHが変化するため、このpH変化を虫歯予防に役立てるというものです。歯磨きも食事の後すぐではなく、1時間程度してからのほうがベターといわれています。
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◆口腔内のpH環境をシンプルにまとめると……
口の中は唾液の中和成分の働きで、常に中性付近を保とうとしますが、単純にいうとpHが酸性になると歯の表面からミネラル分が溶け出して歯を溶かし、アルカリ性になるとミネラル分が沈着して歯石が増えるようになります。どちらかに一方的に傾いてしまうと問題が起こりますが、時間とともに唾液が自然に中和してくれます。さらに酸性状態から中性に戻ろうとする場合には溶けた歯の再生が行なわれます。ちなみにエナメル質が溶けるのは、pH5.5以下がおおよその目安といわれています。
酸性で歯が溶けるといっても1日単位では歯の表面がわずかに脱灰される程度。全く心配はいりません。しかし長期間に渡って中性に戻れないような状態が続くと、歯の表面が酸で徐々に溶かされてしまう酸蝕症になります。酸蝕症はプラークが付着していなくても歯が溶けてしまう状態なのです。
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◆食後は酸性のダブルパンチ
酸性の食品を口にすることによって、直接的に歯が溶かされる酸蝕症。でも大事なことを忘れていませんか? それは虫歯の原因プラークです。実はプラークも栄養源となる糖などを元に酸を産生します。この酸で歯に穴を開けて虫歯を作っていくのです。このため食事の後は食品自体のpHと糖などを分解してプラークが作り出す酸によって、歯には過酷な酸性環境に陥りやすくなります。すぐに唾液が中和を開始しますが、一度酸性に傾いた状態を中性まで回復するには数時間必要と考えられています。特にプラーク内部は中和成分である唾液がなかなか入り込むことができないため、酸性状態が続きやすく、プラークが歯に付着していると虫歯になりやすいといわれるのはこのためです。
◆チョコレートより危険な「だらだら食べ」
「唾液」の力によっておこなう再石灰化とは、酸性環境で歯の表面から溶け出してしまったミネラルが補充されて、歯が再生されることです。それは食事と食事の間隔が長いほどしっかりと行なわれますが、再生にかかる具体的な時間は、まだしっかりとしたエビデンスがありません。チョコレートを食べても再生までの時間をしっかり与えれば、問題は起こりませんが、食後の酸性ダブルパンチがいつまでも続くような、ジュースや甘い物、スナックなどの「だらだら食べ」は、歯に酸のダメージが蓄積されてしまいます。しかもだらだら食べた後に歯磨きをすると、酸によって柔らかくなっている歯を歯ブラシの毛先で傷をつけるトリプルパンチとなります。
これからの歯のケアは、目で確認できるプラークのほかに酸の影響もイメージすることをオススメします。
口内環境が健康寿命を左右する、ということをご存じだろうか。口は、食べ物の入口であるが、病気の入口にもなりうる。全身の健康をも左右する「歯周病」の原因と予防法を知り、健康維持のために日常生活を見直したい。
かつて歯槽膿漏と呼ばれていたせいか、歯周病は高齢者特有の病気と捉える人がいる。しかし、歯周病は10代にも見られ、加齢とともに増加の一途をたどる。50代後半ともなると罹患者は5割近くになり、日本人の約7割が罹っているとする統計もある。
80歳になっても自分の歯を20本保とうという運動をする8020推進財団の調査によると、日本人が歯を失う原因の第一が歯周病だ。軽度の症状は、歯ぐき(歯肉)が腫れたり、歯を磨くと血が出たりする程度だが、重度になると歯がぐらぐらして、やがて抜け落ちる。
歯科医師の野本秀材さんは、抜けるまで放置される要因として早期発見の難しさを挙げる。
「虫歯と違い、歯周病には痛みがありません。ゆるやかに進行する“静かなる病気”で、歯が揺れてきたと気づくころには、土台の骨は相当溶けてしまっているのです」
歯周病の原因となるのは、数種類の歯周病菌だ。
「口の中には約400種類の常在菌がいて、その中に歯周病菌がいます。歯を磨かないと、歯の表面に歯周病菌が付着、瞬く間に増殖。プラーク(菌の塊)となって歯ぐきとの境目や歯周ポケット(歯と歯ぐきの溝)の中に落ちていく。歯ブラシの毛先が届きにくくなり磨けず、炎症を起こして歯周病になるのです」
虫歯は、菌の毒素や酸によって歯が溶けるもの。一方、歯周病は、菌が歯や骨を溶かすのではない。歯周病菌を排除しようとする体の免疫反応が高まり、結果的に自分の組織を壊す。初期のうちに原因となるプラークやバイオフィルム(菌の膜)を取り除けば、歯周ポケットもなくなり、改善される。
* * *
さらに歯周病は、全身の健康にも深く関わっていることが明らかになっている(図参照)。
「歯周病は“糖尿病の合併症”のひとつともいわれます。糖尿病になると、免疫細胞の働きが低下して感染症に罹りやすくなるためです。また、歯周病の人は糖尿病を悪化させやすい」
さらに、心疾患や脳疾患など、循環器系の病気との関連もある。
「それは、口の中にいる歯周病菌が全身を巡るためです。たとえば、歯周病の人が歯磨きをすると歯ぐきから血が出ることがあります。歯周病菌が血流にのって心臓まで行くと、心臓の内膜にプラークとして付着する。それが心内膜炎です。また、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。高齢になると、誤嚥をしやすくなるものですが、そこに歯周病菌がいなければ、たとえ肺炎になっても死亡するリスクは少ないといわれています」
野本さんはさらに、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる「健康寿命」と口の健康との密接な関係を指摘する。
「健康であることの大前提は、栄養を口から摂れるということ。口の機能がきちんとしていないと、食べることができません。たとえ病気になって入院しても、口から食べられるかどうかで、回復力が違ってきます。近年、健康寿命が注目されています。歯周病のリスクを減らせば、他の生活習慣病の予防にもつながるでしょう」
さあ、さっそく下の【歯周病チェックシート】で、セルフチェックしてみよう。
●歯周病チェックシート
□ 歯ぐきに赤く腫れた部分がある
□ 口臭がなんとなく気になる。
□ 歯ぐきがやせてきたみたいだ。
□ 歯と歯の間にものがつまりやすい。
□ 歯を磨いた後、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。
□ 歯と歯の間の歯ぐきが鋭角的な三角形ではなく、うっ血していてブヨブヨしている。
□ ときどき歯が浮いたような感じがする。
□ 指でさわってみて、少しグラつく歯がある。
□ 歯ぐきから膿が出たことがある。
以上、いかがだろうか。判定基準は下記のとおり。
●[チェックが1~2個]の方は、歯周病の可能性があります。歯磨きの仕方を見直し、歯科医院で診てもらいましょう。
●[チェックが3~5個]の方は、初期あるいは中等度歯周炎以上に歯周病が進行しているおそれがあります。早めに歯科医師に相談しましょう。
【今回の案内人】野本秀材さん サクラパーク野本歯科院長。昭和31年、東京生まれ。日本口腔インプラント学会専門医。歯と口腔全体をひとつの器官として捉え、統括的な診療活動に努める。予防歯科学分野にも造詣が深い。
※この記事は『サライ』本誌2016年11月号の「大人の歯磨き基本のき」より転載しました。記事内の肩書き等は取材時のものです(取材・文/大津恭子)
実は、歯磨き剤には2種類ある。歯石の沈着や口臭などを防ぐための基本成分のみが入っている“化粧品”と、歯と歯茎の健康を保つための薬効成分が含まれている医薬部外品(薬用歯磨き剤)だ。 歯科医師業界の事情に詳しい、健康ジャーナリストの田口豊氏は言う。
「薬用歯磨き剤には、漢方や消炎剤、ビタミンやプラークを溶解する薬剤が入っているものがありますが、有効成分が吸収できるかどうかの疑問があったり、効果があってもその場限りとしか考えられないものがほとんどなのです」
そんな中、あえて効果を認めるとすれば、“フッ素入り”と“知覚過敏用”だという。 「フッ素入りは子供や歯ぐきが下がって象牙質が剥き出しになった箇所が虫歯になっている中高年には有効で、プラークの中での細菌の活動を抑制し、歯の質を強化して、再石灰化を促す働きがあります。
一方、冷たい水などが歯にしみる知覚過敏用歯磨き剤は、刺激が通る象牙質の細管の入り口を塞ぎ、痛みを止める効果が得られる。ただし、いずれも根本的な治療にはなりません。あくまでも歯科医に行く前の処置として有効だということです」(同)
ところで、日本人の40歳以上の80%以上が歯周病を患っているとされる。歯の磨き方や歯磨き剤の選び方も大事だが、歯周病は歯肉の炎症や歯を支える歯槽骨を破壊するだけでなく、全身疾患の誘因にもなる。その怖さも知っておきたいところだ。歯周病は、細菌感染によって起こる炎症性疾患の一つ。その慢性炎症は歯肉だけにとどまらず、菌や炎症物質が血液中に入り込み、たどり着いた先で炎症を引き起こす。
「この病の原因菌は、歯周病を発症しなくても、歯磨きや、糸ようじ、つまようじの使用、また、咀嚼などの日常的な行為で常に歯肉粘膜下に侵入しています。ただ、それによって炎症が起こるか起こらないかは、免疫力の差で異なる。そのため、歯肉が腫れてき場合は、免疫力に変化があったことを示しているといいます」(同)
ともあれ、自分の細胞によって作られた炎症物質も血液に乗って全身に伝わる。女性の場合、子宮に行けば早産や低体重出産が起こることが証明されているという。 「炎症物質は、血中のインスリンの働きも悪くします。その結果、膵臓が疲弊して糖尿病を悪化させるのです。歯周病を治すと、糖尿病がある程度改善することも分かっていますが、全身の動脈硬化も同じようにして起こります」(歯科医師)
また、歯周病は大動脈瘤で炎症を起こしている部分があると、サイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質)の影響によってさらに炎症が進み、動脈瘤が急激に膨れて突然死を招くケースもあると言われる怖い病気だ。「虫歯や歯周病といった口腔内のトラブルは、心臓疾患の大きなリスク要因といえます。
実際、手術を受けるくらいまで心臓が悪くなってしまった患者さんは、口腔内の健康状態が悪いケースが少なくない。そうした患者さんは、そもそも栄養状態が悪く、口腔内の衛生にまで気が回らない人が多いこともあります」(内科医) 重大病にもつながる歯のトラブルを避けるためにも、いま一度、歯磨きを見直そう。
歯磨きをする際、当たり前のように使っている歯磨き剤。不思議なのは、歯磨きの仕方や歯ブラシの選び方をアドバイスされることはあっても、歯磨き剤について話す歯科医はほとんどいないことだ。 ある歯科医師は、意外にもこんな言い方をする。
「歯磨きで一番大切なことは、歯ブラシの使い方です。歯磨き剤は必要ではなく、人によってはデメリットの方が多いかもしれません。少なくとも私は使いませんし、歯科衛生士も使わない人が多いのではないでしょうか」
そもそも、歯磨きをなぜするのか。歯のトラブルの主な原因は、食べカスなどが歯と歯の間などに残り、放置するとそこに細菌が付着して歯垢(プラーク)を形成するからだ。それを取り除くには、歯ブラシによる除去をしっかり行うことが不可欠。 しかし、その際に歯磨き剤を使うと、磨けていないのに磨けたつもりになり、結果的に虫歯や歯周病のリスクを高めることになるというのだ。
都内のサラリーマンで歯周病の治療を3年にわたり続けている木下修さん(仮名=56)も、自らの体験をこう語る。 「医師に歯磨きの仕方を改めて指導されて以来、歯磨き剤にも凝るようになったんです。でも、自分ではしっかりと磨き込んだつもりだったのですが、実際には磨けてないと指摘されました。あるいは、『磨き過ぎ』と言われたこともあります。
そこで初めて、歯磨き剤の使用が決して歯周病に効果的ではないことを知ったんです」
それでも、この間、歯科医師から歯磨き剤についての良し悪しの具体的な説明はなかったという。
昭和大学歯科病院歯周科担当医は、「歯科医師が歯磨き剤を敬遠する理由の一つに、研磨剤が含まれる点がある」と、次のように説明する。「ホワイトニング専用、ヤニ取りなどを謳っている歯磨き剤には、研磨剤が含まれています。最近、目立って増えているのが、歯ぎしりや食いしばりでくさび状に削れた歯の付け根を、硬い毛の歯ブラシや電動歯ブラシで力任せに横磨きをし、歯をダメにする患者さん。そんな人が研磨剤入りの歯磨き剤を使うと、磨き過ぎに拍車がかかってしまうのです」
歯磨きは、洗剤で皿洗いをするように、歯の表面の汚れを根こそぎ落とす、というイメージを描きがちだが、細菌は歯ブラシでしっかり磨けば十分除去できる。そこでわざわざ歯磨き剤を使う必要はなく、加えて歯磨き剤は口臭予防の効果についても期待できないという。
「口臭については、その原因は、口、鼻、内臓由来の呼気に大別できます。このうち、口が原因の口臭は、虫歯や歯周病、舌苔、唾液量の減少によるドライマウスなどで起こる。歯磨き剤を使っても口臭自体が消えるわけではなく、歯磨きで消えたとしても一時的で、それは香水をかけているようなものなのです」(歯科医師)
実は、歯磨き剤には2種類ある。歯石の沈着や口臭などを防ぐための基本成分のみが入っている“化粧品”と、歯と歯茎の健康を保つための薬効成分が含まれている医薬部外品(薬用歯磨き剤)だ。歯科医師業界の事情に詳しい、健康ジャーナリストの田口豊氏は言う。 「薬用歯磨き剤には、漢方や消炎剤、ビタミンやプラークを溶解する薬剤が入っているものがありますが、有効成分が吸収できるかどうかの疑問があったり、効果があってもその場限りとしか考えられないものがほとんどなのです」
そんな中、あえて効果を認めるとすれば、“フッ素入り”と“知覚過敏用”だという。 「フッ素入りは子供や歯ぐきが下がって象牙質が剥き出しになった箇所が虫歯になっている中高年には有効で、プラークの中での細菌の活動を抑制し、歯の質を強化して、再石灰化を促す働きがあります。一方、冷たい水などが歯にしみる知覚過敏用歯磨き剤は、刺激が通る象牙質の細管の入り口を塞ぎ、痛みを止める効果が得られる。ただし、いずれも根本的な治療にはなりません。あくまでも歯科医に行く前の処置として有効だということです」(同)
ところで、日本人の40歳以上の80%以上が歯周病を患っているとされる。歯の磨き方や歯磨き剤の選び方も大事だが、歯周病は歯肉の炎症や歯を支える歯槽骨を破壊するだけでなく、全身疾患の誘因にもなる。その怖さも知っておきたいところだ。 歯周病は、細菌感染によって起こる炎症性疾患の一つ。その慢性炎症は歯肉だけにとどまらず、菌や炎症物質が血液中に入り込み、たどり着いた先で炎症を引き起こす。「この病の原因菌は、歯周病を発症しなくても、歯磨きや、糸ようじ、つまようじの使用、また、咀嚼などの日常的な行為で常に歯肉粘膜下に侵入しています。ただ、それによって炎症が起こるか起こらないかは、免疫力の差で異なる。そのため、歯肉が腫れてき場合は、免疫力に変化があったことを示しているといいます」(同)
ともあれ、自分の細胞によって作られた炎症物質も血液に乗って全身に伝わる。女性の場合、子宮に行けば早産や低体重出産が起こることが証明されているという。 「炎症物質は、血中のインスリンの働きも悪くします。その結果、膵臓が疲弊して糖尿病を悪化させるのです。歯周病を治すと、糖尿病がある程度改善することも分かっていますが、全身の動脈硬化も同じようにして起こります」(歯科医師)
また、歯周病は大動脈瘤で炎症を起こしている部分があると、サイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質)の影響によってさらに炎症が進み、動脈瘤が急激に膨れて突然死を招くケースもあると言われる怖い病気だ。 「虫歯や歯周病といった口腔内のトラブルは、心臓疾患の大きなリスク要因といえます。実際、手術を受けるくらいまで心臓が悪くなってしまった患者さんは、口腔内の健康状態が悪いケースが少なくない。そうした患者さんは、そもそも栄養状態が悪く、口腔内の衛生にまで気が回らない人が多いこともあります」(内科医)
重大病にもつながる歯のトラブルを避けるためにも、いま一度、歯磨きを見直そう。
歯磨きをする際、当たり前のように使っている歯磨き剤。不思議なのは、歯磨きの仕方や歯ブラシの選び方をアドバイスされることはあっても、歯磨き剤について話す歯科医はほとんどいないことだ。 ある歯科医師は、意外にもこんな言い方をする。 「歯磨きで一番大切なことは、歯ブラシの使い方です。歯磨き剤は必要ではなく、人によってはデメリットの方が多いかもしれません。少なくとも私は使いませんし、歯科衛生士も使わない人が多いのではないでしょうか」
そもそも、歯磨きをなぜするのか。歯のトラブルの主な原因は、食べカスなどが歯と歯の間などに残り、放置するとそこに細菌が付着して歯垢(プラーク)を形成するからだ。それを取り除くには、歯ブラシによる除去をしっかり行うことが不可欠。しかし、その際に歯磨き剤を使うと、磨けていないのに磨けたつもりになり、結果的に虫歯や歯周病のリスクを高めることになるというのだ。
都内のサラリーマンで歯周病の治療を3年にわたり続けている木下修さん(仮名=56)も、自らの体験をこう語る。 「医師に歯磨きの仕方を改めて指導されて以来、歯磨き剤にも凝るようになったんです。でも、自分ではしっかりと磨き込んだつもりだったのですが、実際には磨けてないと指摘されました。あるいは、『磨き過ぎ』と言われたこともあります。そこで初めて、歯磨き剤の使用が決して歯周病に効果的ではないことを知ったんです」 それでも、この間、歯科医師から歯磨き剤についての良し悪しの具体的な説明はなかったという。
昭和大学歯科病院歯周科担当医は、「歯科医師が歯磨き剤を敬遠する理由の一つに、研磨剤が含まれる点がある」と、次のように説明する。 「ホワイトニング専用、ヤニ取りなどを謳っている歯磨き剤には、研磨剤が含まれています。最近、目立って増えているのが、歯ぎしりや食いしばりでくさび状に削れた歯の付け根を、硬い毛の歯ブラシや電動歯ブラシで力任せに横磨きをし、歯をダメにする患者さん。そんな人が研磨剤入りの歯磨き剤を使うと、磨き過ぎに拍車がかかってしまうのです」
歯磨きは、洗剤で皿洗いをするように、歯の表面の汚れを根こそぎ落とす、というイメージを描きがちだが、細菌は歯ブラシでしっかり磨けば十分除去できる。そこでわざわざ歯磨き剤を使う必要はなく、加えて歯磨き剤は口臭予防の効果についても期待できないという。「口臭については、その原因は、口、鼻、内臓由来の呼気に大別できます。このうち、口が原因の口臭は、虫歯や歯周病、舌苔、唾液量の減少によるドライマウスなどで起こる。歯磨き剤を使っても口臭自体が消えるわけではなく、歯磨きで消えたとしても一時的で、それは香水をかけているようなものなのです」(歯科医師)
厚生労働省の調査によると、日本の成人男女の約8割が歯周病にかかっているとか。これは一大事。
歯ブラシで歯の表面をこするだけの歯磨きでは不十分なのだ。今回は、虫歯や歯周病の予防に役立つ便利グッズを集めた。歯磨きに使う道具を工夫するだけで予防効果は大幅にアップする。
虫歯・歯周病予防の基本は毎日の歯磨き。そこで便利なのが、歯の裏用歯ブラシ「トゥースリバースプロ」(サイプラス、実売2052円)。柄がカーブしており、歯の裏側にもブラシがフィットする仕組み。歯の表側も磨けるので、歯磨きはこれ1本あればOK。
回転式ブラシを使った歯ブラシもある。「クルン回転歯ブラシ」(クルン、475円)がそれ。柄の先についた回転式ブラシを通常の歯ブラシの30%程度の力で歯に当てながら、自力でブラシを転がすだけ。
2万本以上の超極細毛が歯の汚れをかき出す。歯の裏側にも当てやすく、歯茎マッサージにも使える。
■歯ブラシ以外にもバラエティー
外食をしたときなどは、「歯みがきシート」(花王、432円)を。ウエットティッシュ状のシートを指に巻きつけ、歯の汚れを拭き取る。
歯ブラシ以外にもある。たとえば口内専用ブラシ「雪繭」(永豊堂、1944円)は、歯茎、舌、頬の裏側をマッサージして汚れやヌメリを取る。
「口内の雑菌は、虫歯や歯周病だけではなく、口内炎や内臓疾患の原因にもなります。雪繭は、群馬県富岡産の生糸を使っており、絹の殺菌作用を利用しています」(永豊堂の担当者)
「エアーフロス」(フィリップス、1万5000円前後)は、時速70キロで水滴を噴射する歯間洗浄の専用器具だ。
「歯ブラシがうまく当たらない歯と歯の間に、取り切れなかった食べ物のカスがたまって炎症が起き、歯周病などに発展するケースも見られます。歯間を洗浄することで、虫歯や歯周病、口臭の予防を助けます」(フィリップスの担当者)
歯磨きの後に使えば完璧だ。
歯磨きが不十分だったり、歯周病が発症すると、口臭がひどくなる。そこで「ブレスチェッカー」(タニタ、4320円)。
息を吹きかけることで、0~5の6段階表示で口臭の強さをチェックできる。
歯磨きや口内洗浄をしても、歯周病菌や雑菌がついたままの歯ブラシを使っていては意味がない。
「MAXSON歯ブラシ除菌器」(テクレッドジャパン、4500円前後)は、ブラシを逆さまにして差し込みスイッチを入れれば、紫外線を照射して自動的に5分で電源が切れる。歯ブラシ最大4本、舌ブラシ最大2本、合計で4本まで同時に除菌できる。
「歯ブラシなどは水洗いでは除菌できず、歯周病菌や雑菌が繁殖してしまいます。ブラシの使用後に除菌することで、次に使う際、ブラシから口内に雑菌が入るのを防ぎます」(テクレッドジャパンの担当者)
旅行などに持ち歩きやすい、歯ブラシ1本用の携帯用タイプ(2500円前後)もある。
各商品は、東急ハンズやロフト、ドラッグストアなどで。「MAXSON歯ブラシ除菌器」は「ケンコーコム」(http://www.kenko.com/)などネット通販で。
仕事の疲れや睡眠不足などで、気が付けば口内炎ができていたという経験、心当たりはありませんか? そして、“すぐに治るから”と、特別な治療をせず放置している人も少なくないはず。
しかし、通常は2週間程度で治るはずの口内炎が、ずっと口の中に残っていたら要注意です。最悪の場合は“口腔(こうくう)がん”だったというケースもあるようです。
そこで今回は江戸川区歯科医師会の運営するホームページ情報を参考に、見過ごしてはいけない“口内炎”の特徴と、その対処法をまとめました。
■口内炎と早期の口腔がんは似ている?
口内炎の経験は誰にでもありますよね。ですが、誰にでもあるからこそ慣れっこになってしまい、治るまで放置していませんか?
しかし、早期の口腔がんと口内炎は似た症状が出る場合も多く、目に見える病気なのにもかかわらず口腔がんの早期発見率は2割を切っているというデータもあるそうです。
このような症状に当てはまったら今すぐ病院へ行ったほうがよいチェック項目を7つ、以下にご紹介します。
(1) 口内炎が“2週間”以上たっても治らない
(2) 口の中に治りにくい傷がある
(3) ほおの内側などに赤や白い斑点がある
(4) 物をかみづらい
(5) 舌にしびれがある
(6) ほおや舌を動かしづらい
(7) 首のリンパ節に腫れがある
とくに、口の中の粘膜が一般的に入れ替わる“2週間”が経過してもなお治らない口内炎は、要注意とのこと。何か口の中に気になる問題があれば、すぐに近くの歯科クリニックや病院で診てもらってください。
■気になる症状がある場合は早めに医師の診察を
早期の口腔がんは口内炎と違って痛みが出ない場合もあるとのことなので、意識的なチェックも大切です。明るい場所で手鏡を用意して、舌の左右の裏側や唇の内側、上あご、前歯・奥歯の歯肉、左右のほおの内側などを確かめてみてください。
何か気になる症状があれば、早めに近くの歯科クリニックや病院へ急いでください。東京都江戸川区や千葉市のように、地元の歯科医師会や自治体が集団検診を行っている場合もあります。お住まい周辺での検診状況を調べて、足を運んでみてもいいかもしれません。
以上、“注意したい長引く口内炎”についてまとめましたが、いかがでしたでしょうか?
口腔がんは発見が遅れれば、舌を半分以上切除したり、首や顔に大きな傷が残ったり、最悪の場合は死に至ったりするといいます。怖い病気なのにもかかわらず認知度はまだ低いので、十分に注意してください。