
気管支ぜんそくを患う女性が常に持ち歩く気管支拡張薬(右)や吸入ステロイド薬
発作的なせきや息苦しさに悩まされる気管支ぜんそく。大人になって発症する人も多く、患者は全国で124万人を超える。完治は難しく、症状を薬で抑えながら生活せざるを得ないが容易ではない。やりたい仕事や趣味を諦める人も多く、孤立感を抱く人も少なくない。
コロナ禍でせき込む人への視線は冷たい。これからの寒い季節、症状は厳しさを増す。患者たちは症状への理解を求めている。
気管支ぜんそくは気道に慢性的な炎症があり、アレルギー物質や気温差などの刺激で発作が起き、気道が狭くなる。せきやたん、呼吸困難などの症状が続き、重くなると死に至ることもある。日頃から粉末状のステロイド薬を吸入するなどして発作を予防したり、抑えたりする。
31歳で発症した会社員女性(44)=福岡市=はわずかな呼吸の乱れも発作の引き金になる。空気が乾燥する冬は「バスに駆け込むだけで苦しい」。バスの車内でせきが止まらず、周囲の不快そうな表情がつらい。常に携帯している薬を吸引するが、効くまでの数分間は「このまま窒息するかも」という恐怖に駆られる。
周囲に迷惑を掛けないよう、慎重に体調管理している。だが話すとせきが出るので、商談や企画発表はできるだけ人に任せる。ランチは1人で出掛け、エアコンの風が当たらない席を選ぶ。カラオケはもう何年も行っていない。「一見すると、たかがせき。事情を説明してもしなくても『面倒くさい人』と思われそう」で、仕事や人付き合いに積極的になれない。
製薬会社ノバルティスファーマ(東京)は昨年7月、発症後10年以上の気管支ぜんそくの患者を対象にインターネットで調査を行った。20~70代の330人が回答。症状のために「仕事や生活に支障が出たり、やりたいことを諦めた」経験がある人は28%に上った。
何を諦めたか複数回答で尋ねると、山登りやスポーツなどの「アクティブな趣味」が47%、「友人や家族との外出」「イベントへの参加」がそれぞれ43%。「やりたかった仕事」を挙げた人も37%いた。
社会からの孤立や疎外感を訴える声(複数回答)もあった。
会議中や映画館など「静かにしなければならない場でせきをしてしまい視線を感じた」60%▽「友人や同僚らとの集まりなどを断ったら、その後誘われなくなった」47%▽「吸入剤を使ったら好奇の目で見られた」40%-などだ。
発作が出ないように薬で制御できているか尋ねたところ、「できている」(46%)と「まあできている」(44%)で9割に達したが、そうなるまでには平均で11・6年を要していた。
気管支ぜんそくと上手に付き合うポイントについて、国立病院機構福岡病院(福岡市)の吉田誠院長は「治療を継続すること」と強調する。症状が落ち着くと薬の使用をやめてしまい、ぶり返す患者が多いからだ。発作を繰り返すと重症化の危険性も高まる。着実に治療を続け、発作を未然に防ぐことが何より重要だ。
ぜんそくのせきは出始めるとなかなか止まらない。だが感染症ではなく、当然ながらせきでうつることはない。吉田院長は「ぜんそくなど肺疾患でせきをする人もいる。苦しい思いをしている患者に周囲は理解を示してほしい」と話した。
電子メール無呼吸症候群(Email Apnea)とは?
眠っている間に呼吸が止まったり浅くなる「睡眠時無呼吸症候群」のように、メールのやり取りなどでスクリーンを見ている時におこる同様の症状です。AppleやMicrosoftの役員を経験したこともある、アメリカのリンダ・ストーン(Linda Stone)が2008年に提唱したもので、スクリーン無呼吸症候群(Screen Apnea)とも呼ばれています。仕事でパソコンやスマホを見ている時だけではなくSNSなど娯楽として使っている時にも起こるので、誰もが経験する可能性があります。
彼女が行った調査では、約80%の人にこの症状が見受けられ、残りの20%の人(症状が起こっていない人)はダンサー、ミュージシャン、トライアスロンなど激しい運動をする人といった、呼吸法で感情やエネルギーをコントロールできている人たちだったそうです(ヨガをする人は含まれていませんでしたが、あてはまるかもしれませんね)。
呼吸が止まっている、浅いとどうなる?
集中力が低下
画面をじっと見ているので一見集中していそうですが、浅い呼吸では酸素が脳に十分に届かず、ボーっとすることがあります。長時間作業をしているわりに生産性を感じない経験をしたことはありませんか?
自律神経の乱れ
呼吸が浅い状態では交感神経が優位になってリラックス状態から離れていきます。精神的なストレスを感じたり、体も緊張することで肩こりや頭痛、またリラックスしている時に活性化する消化器系の働きに影響がでて便秘や下痢につながることもあります。
痩せにくい体になる?
体内に取り込む酸素が減ることと筋肉の緊張で血行不良を起こし、代謝が下がって脂肪が燃焼しづらくなることもあるでしょう。痩せるためにヨガをしようと考える人もいるかもしれませんが、日頃から呼吸が浅いとヨガをする時にいきなり呼吸を深くしようと思ってもなかなかそうはいかないものです。浅い呼吸では体をゆるめること、心をリラックスさせることが難しく、緊張したままポーズをとることになって体が思うように動かないことがあります。
電子メール無呼吸症候群にならないために
一番大切なことは自分の状態に常に気づくことです。自分は今呼吸をしているか、姿勢が崩れていないか、体のどこかに余計な力みや緊張がないのかを気にかけるようにしましょう。そして休憩をこまめにとること。画面を見続けていると時間のことを忘れやすいですが、時間を決めて画面から離れて深呼吸やストレッチをして、自分の心身を意識する機会を作りましょう。ヨガを続けることも自分への気付きに役立つのでおすすめです。
参考:Are You Breathing? Do You Have Email Apnea?
ライター/吉田加代子
オーストラリア・ブリスベン在住。日本とオーストラリアでの会社員生活を経てヨガティーチャーに転身。2012年より在豪日本人やローカルの人たちを対象にヨガクラスをしている他、ヨガアプリ「Down Dog」の日本語翻訳とナレーションを担当。オーストラリアのゆったりした環境の中、ヨガで日々心地よく暮らすことを心掛け、一人でも多くの人にヨガを身近に感じてもらえることを目指して活動中。Instagram:@kayoko_yo
【がんと向き合い生きていく】
「頚部とわきの下が黒くなった」
そう訴える55歳の男性(会社員)が来院されました。痛みはないとのことですが、黒くなっているところの一部は線状になって色素沈着がありました。夏の間、特別に日焼けしたこともなく、何だろうと思って受診されたといいます。血、尿の検査では問題ありません。しかし、胃内視鏡検査で進行した胃がんが見つかりました。まれな例ですが、この男性のように内臓の病気が皮膚に表れてくることがあり、「デルマドローム」と呼ばれています。
食品売り場にさまざまな種類のミカンがたくさん並ぶ季節になりました。北国育ちの私は、冬になると毎年、こたつの中でミカンを一日何個も食べました。高校生の頃、ミカンの食べ過ぎで「体が黄色い」と指摘されたこともありました。黄疸ではないかとの心配もされましたが、黄疸の場合は目の結膜も黄色くなり、尿は黄色く、便は白くなります。
ある外来診察での出来事です。「爪が黄色い」とのことで、皮膚科から60代の女性が紹介されてきました。皮膚や目の結膜は黄色ではなく、肝機能検査も問題なかったので黄疸ではありません。また、貧血もありませんでした。しかし、爪は黄色いのです。下肢に少しむくみがある程度で、ほかに体表には異常なし。3年ほど前に肺炎の既往があり、少し息切れがするとのことでしたが、酸素飽和度は96%とこちらも問題ありませんでした。
聴診の後、胸部X線写真検査を行ったところ、左右の肺に胸水を認めました。特に右が多く、すぐに胸部CT検査となりました。結果は、肺線維症があり、肺結核、肺がんは否定的でした。がんによる胸水(がん性胸膜炎)ではありませんでした。
結局、とてもまれな病気ですが「黄色爪症候群」と診断しました。原因はリンパ系のトラブルではないかと考えられていますが、胸水と黄色い爪の関係は分かっていません。それでも、胸水がコントロールされると黄色い爪の色は良くなるのです。この女性は定期的に呼吸器内科で診てもらうことにしました。
3カ月経って、呼吸器内科を受診した後、その女性が私のところに寄ってくれました。爪の色は変わっていませんでしたが、体調は良好で元気でした。
■抗がん剤の副作用で爪が変色することも
爪は大きな病気をすると、その2、3カ月後に変形することがあります。まれですが、爪そのものにも悪性黒色腫のようながんができる場合もあります。 また、抗がん剤治療を受けている患者では、多くは投与期間が長くなった場合ですが、皮膚とともに爪が黒くなることがあります。表皮基底層や毛嚢、爪の細胞は、細胞分裂が活発であるため、抗がん剤の影響を受けやすいのです。
抗がん剤による手足の皮膚や爪に生じる副作用は、総称で「手足症候群」といわれます。皮膚や爪に障害を起こす可能性のある抗がん剤には、フルオロウラシル(5―FU)、TS―1、カペシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、シタラビンなどがあります。また、分子標的薬でも、皮膚炎、爪囲炎の副作用が見られます。皮膚の症状が進行すると、水疱や潰瘍で歩行困難になる場合もあります。
抗がん剤や分子標的薬による治療を受けていて思い当たる方は、遠慮なく症状の早い時期に担当医に相談されるといいでしょう対策として、抗がん剤投与の加減、保湿剤などのスキンケア、時にはステロイドホルモン外用薬を用います。体調不良、あるいは病気にかかっている場合は、マニキュアなど爪の美容はあまり勧めません。診察の妨げになるためです。
皮膚も爪も体の大切な一部です。新型コロナウイルスの感染対策で、お互いにマスクを装着しながらでも構いません。皮膚でも爪でも、何か変わったことや気になる点があれば、担当医にしっかり話してください。冬は空気が乾燥する時期です。皮膚も爪も、いたわりながら過ごしたいものです。(佐々木常雄/東京都立駒込病院名誉院長)
日本では、65歳になると無料で「肺炎ワクチン」を受けることができる。肺炎の原因となる「肺炎球菌」は、健康な人でも当たり前に持っている常在菌だが、肺炎による死亡率は年齢を重ねるほどに増えていく。
60代の死亡原因の第5位、70代は第4位、90代では第2位となり、死因としてはがんよりも多くなる。
山梨大医学部名誉教授の田村康二氏が言う。
「肺炎は悪化すると死に至る危険な病ですが、自身で抵抗力を上げ、肺炎に感染しそうな場所へ近づかないことで、発症する可能性を下げることができます」
英王立リバプール大学病院の研究者らが、18~45歳の成人被験者40人に肺炎球菌を塗布し、ぬれた手を鼻に近づけ息を吸い込む、乾いた手を鼻に近づけ息を吸い込む、ぬれた手で鼻をほじる、乾いた手で鼻をほじるのいずれかを行ってもらう実験を行った。
その結果、全グループで感染が生じたが、感染しやすかったのは「鼻をほじる」という行為だった。肺炎球菌の感染経路としては、くしゃみや咳を介した「飛沫感染」が知られていたが、初めて鼻と手が接触するだけで肺炎球菌が広がることが確認されたわけだ。
世界では、毎年130万人以上の幼児が肺炎で亡くなっている。治験は、幼児の行為に警鐘を鳴らす意味もあって行われたが、高齢者も乳幼児同様、感染弱者。年をとったら不用意に鼻をほじらないほうがいい。
「最近は耳垢を取る医師も少ない。耳の穴の開口部から鼓膜までつながる外耳道を保護する役割を果たしており、完全に不要な老廃物ではないんです。耳垢は、外耳道の上皮の動きと、咀嚼やあくびの際の顎の動きなどによって、自然に開口部に移動していく。アメリカの学会などでは、耳の掃除をするなら外側を布で拭く程度にとどめ、耳の中にモノを入れるべきではないとしている」(田村氏)
余計なことはしないことである。
エボラ出血熱やデング熱のニュースで感染症への危機感が高まる昨今。実はわれわれ日本人の身近なところにも、多くの感染症が存在する!!
◆化学療法が不可能な例も!? “薬が効かない”結核<多剤耐性結核>
世界人口の3分の1が感染、“世界最大の感染症”と言われる「結核」。かつて“不治の病”と言われたこの病気も、抗結核薬の開発により日本での治癒率は80%以上で、死亡者のほとんどは高齢者。と
ころが、抗結核薬の効かない結核菌が存在するのだという。国立国際医療研究センターの高崎仁医師はこう語る。
「現在、結核の標準的な治療には、3~4種類の抗結核薬が使われています。そのなかで最も強い効果をもつイソニアジド、リファンピシンの両方に耐性を持つ結核菌があるのです。これを『多剤耐性結核』と言います。
これを治療するには、フルオロキノロンや注射薬などを含めて5種類以上の薬が必要。治療はより困難で、治療期間は通常の結核の6~9か月に対し、多剤耐性結核は約2年を要します」
この多剤耐性結核では、患部切除などの外科的治療をした例を含めて治癒率は50%程度になってしまうという。さらに、それ以上に強力な耐性菌も存在する。
「『超多剤耐性結核菌』と言って、フルオロキノロンや注射薬なども効かない病原菌があるのです。化学療法は事実上不可能で、治癒率は30%程度まで下がります」
こうした強力な耐性を持った菌には、どのような経路で感染するのだろうか?
「現在、多剤耐性結核は中国、インド、ロシアなどで多く見られ、日本は結核患者のうち0.5%程度が多剤耐性と言われています。
初めから多剤耐性菌に感染することは稀で、不適切な治療を受けたり途中で治療を中断したりして、体内で生き残った菌が遺伝子変異を起こして耐性化するケースが最も多い。また、最近は外国人保菌者の流入によるものも目立ちます」
多剤耐性結核の発病を防ぐためにはどうすればよいのだろうか?
「幸いにも今の日本で多剤性結核菌に感染することは少ないですが、もし結核にかかった場合は、症状が軽いうちに早期発見すること、専門医の診察を受けて徹底的に治療を完遂することです。とにかく、早い段階で耐性菌増殖の芽を摘むことが必要なのです」
<多剤耐性結核>
●日本人患者数/47人(’13年)
●感染経路/空気感染
●致死率/50%程度
※超多剤耐性含む
夏型過敏性肺炎という日本独特の肺炎があります。梅雨時から秋口にかけて起きる肺炎で、原因はトリコスポロン属のカビ(真菌)です。
■東北より西日本に多い
肺炎には大きく分けて、原因になる細菌やカビなどがヒトの肺に入って増殖して病原性を現すものと、その菌やカビなどに対するアレルギー反応として肺炎様の症状を呈するものとがあります。夏型過敏性肺炎はこのカビに対するアレルギー反応として発病するタイプの肺炎です。従ってこのカビを吸い込んだからといってすべての人が肺炎になるわけではありません。
しかし、アレルギーとして症状が出る場合は、少量の病原体に接しただけでも重篤な症状を呈する可能性があります。夏型過敏性肺炎の症状は、軽い咳や痰、頭痛程度のこともありますが、悪寒、全身倦怠感、体重減少、発熱、著しい呼吸困難、チアノーゼなど重篤な症状になることもあります。
好発年齢は30~50歳代の女性。女性に多い理由は家庭内の滞在時間が長く、カビとの接触時間が他の家族より長いためといわれています。日本独特といっても東北よりも西日本に多い傾向で、高温多湿の環境がカビの増殖を促すからでしょう。
■家にいると症状が出る
専業主婦のSさん(当時52歳)は、カゼをこじらせて息が苦しいとの訴えである病院の外来を受診、ひと通りの検査をして簡単なカゼ薬をもらって帰宅しました。しかし、その日の深夜、呼吸困難が耐えられなくなって救急車で再受診、入院しました。
当直医が昼間撮影した胸部レントゲンを取り寄せて見ると、両肺に1~5ミリの細かい粒状陰影がみられました。動脈血の酸素を測定すると正常の半分くらいまで低下しており、酸素吸入でやっと楽になり眠ることができました。
ところが入院2日目以後は呼吸困難は軽くなり、酸素吸入がなくても動脈血の酸素は正常になり、レントゲンの影も急速に消退したため、病名確定のないまま元気に退院しました。しかしその日の夜、3日前の救急入院した時と同じ状態で、家族に付き添われて病院に戻ってきました。
後日よくよく聞いてみると、前年の夏も咳が出て苦しくなったことがあったとのこと。しかし、ドイツに留学している長男のところに行ったら咳は忘れていたといい、その後京都の大学院に行っている次男のマンションに行っていたので、昨夏は東京にはほとんど居なかったという話でした。
■症状が軽いと単なる夏カゼと判断
どうも東京の家に問題があるようだと気付いた担当医はSさんの自宅を訪ねてみることにしました。
当時、同じような症状所見を呈する原因不明の病気があるようだとの情報が学会でも話題になっていたことから、担当医のカンで家の中の細菌かカビに注目すべきと考え細菌検査室の技師を伴っての訪問となりました。
流しや風呂の排水口、水道蛇口、換気扇、冷蔵庫、エアコン、洗濯機の中、天井や壁の表面、カーペットの裏など目につくあらゆるところから検体を採取して持ち帰りました。
トリコスポロン属のカビは冷蔵庫の蒸発皿から検出されていました。当時の冷蔵庫は冷却器についた霜は庫外に導いて蒸発させる仕組みになっていて、ここの清掃を怠っていたためかカビが生えてしまったのです。
Sさん、その次の年は梅雨時からドイツに避難、最終的にはほとんど建て替えに等しいリフォームをすることになり、その後は清掃に心がける生活をしたため問題はなくなりました。
この病気の診断はトリコスポロン属に対する抗体を血液検査で証明できるといいのですが、症状がない人でも陽性になる場合もあります。
そこで、肺胞洗浄(肺を生理食塩水で洗った液を種々分析する)や肺生検(肺の組織の一部を切り取って顕微鏡で調べる)など他の検査所見を綜合して診断します。
症状が軽いと単なる夏カゼと判断され、今年の夏カゼは長引くネなどと言ってる間に秋になってなんとなく治ってしまっている例も多いと思われます。
■エアコン内部を徹底的に清掃
原因のカビが居なければまたは接触しなければこの病気は発症しないのですから、Sさんのように原因から遠ざかるのもよし、身の回りから原因のカビを消してしまうのもよしでしょう。このカビ、湿気のあるところではどこにでも生息しますが、最近はエアコン(加湿器、除湿機も)の熱交換器の部分の結露に検出されることも多いようです。止めてあったエアコンのスイッチを入れると、中にいたカビが部屋中に撒き散らされるわけですからたまったものではありません。
日常の手入れ法としては、スイッチオフの前に少なくとも15分位は送風運転をして水滴を飛ばしてしまうことを心がけたいものです。そして秋になって空気が乾燥してきた今の時期にエアコン内部を徹底的に清掃し(次亜塩素酸ナトリウムやカビ取り剤、消毒用アルコールなどで)、1時間以上の送風運転で内部を乾燥させて、次シーズンの使用に備えるべきでしょう。
サラリーマンの方は、職場で健康診断を受けていると思います。それが、がん検診も担っていますが、法律に基づく指針がなく、検査方法や対象年齢などにバラつきがあるという問題点が指摘されていました。
そこで厚労省は対応に着手。「がん検診のあり方に関する検討会」を組織。その中に「職域におけるがん検診に関するワーキンググループ」を設置。私もメンバーのひとりとして議論に参加していて、近く「職域におけるがん検診に関するマニュアル」がまとまり、公表予定です。
死亡率を下げるエビデンスを持つがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頚がん、乳がんの5つ。
がん検診を受けた人のうち職場で受けた人の割合は、胃がんは58%、肺がんは63%、大腸がんは55%と男女が関わるがん検診は6割前後をキープしていますが、子宮頚がんは32%、乳がんは36%と、女性は低いのが現状です。
そこで、マニュアルです。エビデンスを持つ公的検診をベースとしながらも、会社で行われている人間ドックなども妨げず、柔軟な運用をする方針です。
■公的検診にないメニューは?
たとえば、胃がんの検診は公的検診だとバリウムが基本でしたが、2年前からは内視鏡も選択肢に加わりました。人間ドックなどでは、公的検診のメニューにないピロリ菌のチェックも行われています。ピロリ菌が陰性なら、胃がんのリスクはほぼなくなりますから、ピロリ菌チェックも有効です。
大腸がん検診は、公的検診だと2回の便潜血です。それを毎年1回きちんと受ければ、8割が早期発見できるとされ、大腸がん検診が普及した米国では、大腸がんで亡くなる人が約5万人と、ピーク時の半分程度に減少したのです。
「便潜血では不安」と人間ドックで大腸内視鏡検査を受ける人もいるでしょう。家系にがん患者がいる人なら、無難な選択だと思います。ただし、そうではなくて、便潜血検査で陰性を続けている人は、大腸内視鏡検査は5年に1回程度で十分でしょう。
それぞれの患者の背景を考慮しながら、個別化した検診を考える時代になっているのです。ですから、公的検診では肺がんのCT検査は推奨されていませんが、ヘビースモーカーには低線量CTの受診も検討すべきと思います。
乳がんの超音波検査も同様です。家系に乳がんの人がいれば、推奨されているマンモグラフィー検査に加えて、超音波検査をプラスするのも十分あり得る選択でしょう。
がん検診の“主戦場”は職場でのがん検診で、女性の就業率が上がっているだけに、女性の受診率アップという点でも、職場でのがん検診はますます重要になります。読者の皆さんも、ぜひ職場でのがん検診を早期発見に役立ててください。
【Q】1週間以上、咳(せき)が続き、夜、布団に入ると咳が出て止まらないので病院に行ったらクラミジア肺炎と診断されました。どんな病気でしょうか?(50代男性)
【A】眠れないほどひどい咳とのこと、なにかの病原体に感染していると考えるのが妥当です。そして「疑い」の患者さんのうち、血液検査すると、およそ7割の方がクラミジア肺炎と診断されます。怪しいなと感じたら、ほとんどクラミジア肺炎で当たりです。あとの2割はマイコプラズマ肺炎、これは耳にされたことがある方も多いでしょう。残り1割は、いわゆる咳ぜんそく、といったところでしょうか。
「重症化や劇症化することはまずなく、抗生物質が非常によく効き、耐性菌などの報告もない」という反面、「放置すれば長期化し、慢性化する。経口の抗生物質が著効するが、最低でも2週間、場合によっては1カ月近く飲み続けねば根治しない」という、厄介な部分もありますので、やはり医療機関でちゃんと診断してもらって、きっちり治す必要のある病気です。
確かに内服の抗菌剤が良く効きますが、長期間、飲んでいただく必要があります。細菌の一種なので、クラミジア肺炎に効く薬は比較的多いのですが、ちゃんと薬を飲むことが絶対条件です。子供は苦い抗生物質の服用を嫌がることが多いので、アイスクリームなどに混ぜたりするといいかもしれません。ちなみにスポーツ飲料で飲むとかえって苦く感じてしまうのでNGです。
クラミジア肺炎は重症化が少なく、学校保健法では登校停止にはなりません。ちゃんと抗菌剤を飲み続ければ治りますが、予防も大切です。飛沫(ひまつ)感染ですので、家族内では親から子供というより、むしろ同世代の人にうつりやすい傾向があります。ご夫婦そろって通院してこられることも多いので、その点も注意して下さい。
◆回答者プロフィール 松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。
<心臓のスーパードクターが語る:東邦大学大橋病院・尾崎重之教授(5)>
心筋梗塞で救急搬送され、緊急手術で治癒したものの、その後、肺炎で亡くなるケースがあります。これは手術をした医師にとっても、実に悲しいものです。
今は心筋梗塞で救急搬送されても、詰まった冠状動脈に新しく血液の流れる道、いわゆるバイパスを作る「バイパス手術」が行われることはほとんどありません。95%以上が緊急であっても「心臓カテーテル治療」での対応です。手首の付け根や肘、太ももの付け根から動脈にカテーテル(細い管)を挿入し、詰まっている冠状動脈をバルーンカテーテルで広げてステントを置き、冠状動脈を広がった状態にする治療です。
しかし、20年くらい前は、バイパス手術が中心でした。70代のC男さんは救急車で運び込まれ、私が担当となり、C男さんの状態を調べ、「すぐに手術をするべき」と判断し、バイパス手術を行いました。当時、私たちはバイパス手術をたくさん行っていたので、手術を担当するグループのチームワークはとれていて、患者さんの手術はスムーズに終了し、集中治療室へ。そして、数日もするとC男さんは一般病棟に戻って、リハビリを行う段階に。C男さんが元気にリハビリを行っている様子を、私も見ていたのです。
安心しきっていた手術後1週間ごろ、C男さんは発熱を起こし、容体が急変したのです。胸部エックス線では肺が白く映っており、肺炎を起こしているのがわかりました。(つづく)
(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)
◆心筋梗塞 心臓には冠状動脈によって血液が送られ、元気に拍動を続けています。その冠状動脈の血液の流れが悪くなるのが「狭心症」、遮断されて流れなくなるのが「心筋梗塞」。血液が不足し、酸欠状態になり生死に関わります。
【Q】地域の自治体から肺炎球菌ワクチンの予防接種に関する案内が来ました。受けた方がいいのでしょうか。(60代男性)
【A】肺炎は日本人の死因の中で、がん・心疾患に続き3番目に多い病気で、亡くなる方は年間約12万人にも達します。どんなに元気な高齢者の方でも加齢とともに免疫力が低下し、肺炎にかかる可能性が高くなるため、死亡する方の約97%が65歳以上となっています。
また、糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、腎不全などの慢性疾患をお持ちの方や、他の疾患の治療により免疫力が低下している方、たばこを吸っている方などは、健康な方よりもさらに肺炎にかかりやすく、重症化しやすい傾向にあります。
肺炎の原因は細菌やウイルスなどが、体に入り込んで感染症を起こすことに由来しますが、その原因菌で最も多いのが肺炎球菌です。肺炎球菌は主に小児の鼻やのどに住み着き、咳(せき)やくしゃみによって周囲に飛び散り、それを吸い込んだ人から人へと順次広がって感染していきます。
肺炎球菌による肺炎は成人肺炎の25~40%を占めますが、肺炎球菌ワクチンの接種により肺炎を予防し、重症化を防ぎます。肺炎球菌には93種類の血清型があり、2014年10月からの定期接種で使用される「ニューモバックスNP(23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン)」は、肺炎球菌感染症の約7割を占める23種類の血清型に効果があるとされています。
予防接種は1年を通して、いつでも可能で、再接種を希望される場合は、5年以上の間隔を空けることになっており、接種してから約3週間で抗体(免疫)ができるとされています。65歳未満でも希望により接種可能ですが、定期接種は65歳以上の方、または60歳以上65歳未満で心臓や呼吸器疾患などの持病のある方が対象です。
また冬になると流行するインフルエンザにかかることで免疫力や抵抗力が弱まると、肺炎を併発しやすくなります。肺炎球菌ワクチンの単独接種だけではなく、インフルエンザワクチンとの同時接種も非常に有効とされています。
◆回答者プロフィール 荒木 正(あらき・ただし)03年、東邦大学医学部卒。東邦大学医療センター大橋病院などに勤務後、16年に東京都江東区に亀戸内科クリニック開設。循環器・糖尿病内科医として地域に密着。総合内科専門医。循環器専門医。
しかし、自他ともに「カビ博士」と認める千葉大学真菌医学研究センターの宮治誠教授は、自著『カビ博士奮闘記 私、カビの味方です』(講談社)の中で、こう述べている。「水虫ならまだましな方で、ときには内臓や脳など、身体の奥深くにまでカビが入り込んでしまうことだってあります」
放っておけば、体内がカビだらけの人が出るということ。加えて同教授は、こうも警鐘を鳴らしている。 「カビは命に関わる場合も少なくない。あまり知られてはいないのですが、体の中で繁殖するカビの病気は、日本の医療現場で、今、非常に深刻な問題になっているのです。カビが体内に侵入する経路は、口から気管、そして肺へというパターンです。
問題なのは、病原性が強い細菌も同じ経路をたどって侵入することです。そのため体力が落ちた病弱な人は、さしずめ細菌性の肺炎に侵されている。命取りになるケースもあるのです」 過去に結核や気管支拡張症などを患い、肺に空洞ができていると、そこにカビの胞子が入り込んで繁殖する。揚げ句、患部は菌球と呼ばれる塊でびっしりと埋め尽くされてしまうのだ。これを取り除くには、当然カビを殺さなければならないが、薬を投与しても成分が浸透しないため、結局は重症化して最悪の事態を招く可能性さえある。
宮治教授は、他にも体の中(肺)に“クモの巣”ができる、と話す。
「肺の中に入り込んだ菌糸は、まるでクモの巣のように急速に広がるところからこの表現になったが、短期間のうちに患者が亡くなることもあるので怖い病気。腎移植の患者にも同じような現象が見られるので注意が必要です」とはいえ、もともと人の体内には、白血球の一種が病原体を運ぶ胞子の処理をする“防御システム”が備わっており、健康である限りは、胞子を吸い込んでも過剰な心配は不要とも言える。
ここまで散々カビを悪者扱いにしてきたが、我々はさまざまな場面でカビの恩恵を受けていることも忘れてはならない。生活圏を見渡せば、アルコールの発酵に欠かせない酵母菌や、パンの製造に欠かせないイースト菌もカビと無関係ではない。また、食卓に欠かせない醤油や味噌、納豆や漬物も、コウジカビなどの働きによって美味しく食べることができる。しかし、一方で有害なカビによって健康を阻害することもあり、知識と対策はしっかりと入手しておくべきだ。
「家庭内でカビが生えやすい場所は、風呂場、洗面所、トイレなどの水回り。換気が悪く、湿度が高くなりやすい下駄箱や、クローゼットの中、家具や家電製品の裏側などにも潜んでいます。気密性の高い近年の住宅は、外気との温度差が大きくなり、湿気の原因となる結露が発生しやすい。基本的には除湿に努め、風通しのよい生活環境を作ることです」(専門家)そして、前述のように、ある一定の場所にいると発生するような咳には要注意。原因をはっきりさせるためにも、まずは医師の診断を仰ぐべきだ。
我々にとってお馴染みのカビは「真菌」と呼ばれる微生物で、酸素と栄養、それなりの温度と湿度がある環境であれば、どこにでも発生する。これから夏に向けてはとくに、真菌などの微生物を吸い込むことが増え、決まって風邪のような症状に悩まされる人が多くなるという。東京都立多摩総合医療センター呼吸器内科の担当医は、こう説明する。
「私が診察した患者さんでは、自宅に水漏れがあったり、日当たりが悪かったり、川が近くにあるといった環境にいる人に罹患者が多く見られました。加えて、ホコリの多い倉庫で仕事をしている人や、古い家電製品を珍しく掃除したときにも、大量のカビを吸い込む。とくに高温多湿の環境の場合は、カビの仲間のトリコスポロンという菌が増えるのですが、これらを吸い込むことで咳や発熱を引き起こし、肺の奥にまで達してアレルギー反応を起こすこともある。肺全体が炎症を起こすため、呼吸困難に陥りやすくなるのです」
自宅を離れるといったん症状が治まり、再び戻るとまた再発する――そんな状態の場合、「夏型過敏性肺炎」と診断される。 トリコスポロンなどのカビは、肉眼では見えない。形で言うなら卵型で、菌糸を伸ばさない酵母の一種(胞子)。腐った木などによく生え、畳やカーペット、寝具などを温床にすると言われ、完璧に避けて生活するのは難しい。しかし、少しぐらいであれば吸い込んでも問題はないものの、吸引を繰り返していると体内に抗体が作られ、前述のようにアレルギー反応を起こし、様々な症状が出る。
都内総合医療クリニックの久富茂樹院長は、そうしたアレルギー性肺炎を起こすカビについて、こう説明する。 「夏型過敏性肺炎は30~50歳代に多く見られ、アレルギー性肺炎を引き起こすカビはトリコスポロン以外にもあります。代表的なものとしては、黒カビの一種(クラドスポリウム)、青カビ(ペニシルウム)、コウジカビ(アスペルギルス)の三つがある。中でも注意が必要なのは、アスペルギルスによるアレルギー性気管支肺炎。自然界で最も一般的に見られ、その胞子は至る所に存在するからです。パンなどの食品にも発生し、それを気付かずに食べてしまうと罹患してしまいます」
別な専門家によると、コウジカビによる症状は、ゼイゼイという喘息、湿った咳、息切れ、微熱などが長く続くが、気管支喘息との区別がつきにくいため、しっかりとした検査が必要だという。 「喘息の症状がある場合、吸入ステロイド、気管支拡張薬、痰を切りやすくする薬を使いながら、抗真菌を併用して体内のカビを減らしていく治療を行います」(専門家)
このカビによる人体への悪影響につては、微生物学研究家の1人がこんな見方を示す。「体にカビが生じて感染症が問題になるのは、健康な人の水虫ぐらいなもの。アレルギーは人間の体が過剰反応しているだけなのです」
肺炎は一気に高熱が出て、空咳、息切れなどに苦しむイメージが強いが、誤嚥性肺炎はそれとは違う。別な専門家は、こう説明する。「通常の肺炎は2~3日で一気に菌が増殖しますが、誤嚥性肺炎では増殖に1週間ほどかかるケースが多く、その後、一気に発症します。高齢者は感覚が鈍くなっていることもあり、いつ発症したのか分からないまま病状が進行しているケースが少なくないのです。治療する側としても“なぜこうなるまで放置しておいたのか”と思うことがしばしばです」
では、どのような症状が出た時に誤嚥性肺炎を疑えばいいのだろうか。専門医が続ける。「まず、食欲がない、元気が出ない、倦怠感があるといった状態になります。また、食事中に咳込むことが多くなった、唾液がうまく呑み込めない、常に喉がごろごろしている…という時も、すでに発症している可能性が高い。以上のような事を感じたら、医療機関の診察を受けてみる必要があります」
ただし高齢者ともなると、うつや不眠などを患い、精神安定剤、睡眠薬などの服用が多くなりがちで、これが誤嚥性肺炎の引き金になる場合があることも頭に入れておかなければならないという。「これらの薬は、呼吸を抑制するばかりではなく、大脳基底核に作用してドーパミンの分泌が減り、“サブスタンスP”と呼ばれる合成物量を低下させます。サブスタンスPとは、食べ物を飲み込んだり、咳をするように神経に働きかけをする物質。そのため、服用している場合は誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなることが分かっています」(健康ライター)
実際、東京都内のある救急病院で誤嚥性肺炎の年齢別患者数を調べたところ、高齢者と同様、若者も多かったという例がある。これらの若者には過度な睡眠薬の服用者も含まれていたという。日本呼吸器学会系クリニックの院長は言う。 「誤嚥性肺炎で厄介な点は、抗菌剤が効いたとしても嚥下機能は回復しないため、すぐに再発してしまうことことにあります。実は、それを防ぐには、日中はとにかくお喋りをして、嚥下に関わる筋肉を鍛えることが効果的です。さらに、寝ている間は雑菌が肺に入らないように枕を高めにすること。そして、肺炎球菌ワクチンを打つことです」
肺炎球菌ワクチンは肺炎全体の2~3割程度にしか効かないと言われるものの、誤嚥性肺炎を抑えられるとの報告もある。さらに、防ぐための注意点を、専門家に聞いた。「口の中の細菌が多いと肺炎になりやすい。口の中を清潔に保つために歯磨きをきちんとする、入れ歯も消毒をきちんとすること。自分で動けない場合は、介護の人や家族に口のケアをしてもらう。また、口内が渇いた状態が続くと細菌が増えるため、水分をたくさん摂ることも大切です」
高齢者にとって誤嚥性肺炎は、致命的になる恐ろしい病でもある。まずは誤嚥を起こさぬようにしっかりと予防し、少しでも普段と違う様子が見られたら早めの呼吸器内科を受診すべきだ。
高齢者の月別死亡率は、冬に高く夏に低い。しかし、がん、心疾患に次いで日本人の死亡原因第3位となる肺炎については季節に関係がない。理由は、死亡する9割以上が高齢者という誤嚥性肺炎が多いためだ。昭和大学病院呼吸器科の担当医は、こう説明する。
「高齢社会になったいま、中高年者はもちろん、若い方も他人事とは考えず、まじめにこの病気のことを考えて欲しいと思います。誤嚥性肺炎は、食べ物が気管に入り込むことで口の中の細菌が肺まで達し、炎症を起こすと考えている人がいますが、正しくはありません。実態は、唾液や痰などの微量な誤嚥が原因で、寝ている間に肺に入り込むことで発症するのがほとんど。認識を高めておく必要があります」
健康な人でも誤嚥は発症するが、咳やむせ返り(咳反射、嚥下反射)によって排菌する。喉には空気の通り道である気管と、食べ物の通り道である食道の2本の管が通っている。これらは隣接しているが、脳の指令でそれぞれうまく振り分けられる仕組みになっている。つまり、ご飯を食べる時に食べ物が喉に入ってくると、脳がそれを感知して気管を閉じる指令を出すようになっている。
しかし高齢になると、この伝達がスムーズにいかず、誤って気管に食べ物を入れてしまうことがある。すると、食べ物や唾液とともに細菌までが肺に入り込み、炎症を起こしてしまうのだ。「元気な人は雑菌が気管や肺に入り込んでも、血液中の貪食細胞(細菌や死んだ細胞などの粒子を消化する能力を持つ細胞)などが退治するため、肺炎は発症しない。
しかし、高齢者は加齢により機能の低下が著しく、咳やむせ返りの動きが抑制されてしまいます。そのうえ、気道の一部が壊れていて、雑菌が定着しやすい。これに、風邪症状を起こす上気動感染や飲酒などの要因が加わることで、自分でも気がつかないうちに誤嚥し、肺炎を起こしてしまうのです」(同)
しかし、その治療法だが、腹を切開して胃に管を通し、直接食べ物を流し込む胃瘻という方法があるが、それでも誤嚥性肺炎は起きる。理由は、そもそも雑菌などに対する抵抗力が落ちているためで、誤嚥性肺炎自体、食べ物が関係しないケースもあるのだ。 誤嚥性肺炎で亡くなった著名人では、直木賞作家の深田祐介さん(享年82歳)、落語家の3代目桂米朝さん(同89歳)、歌舞伎役者の中村梅之助さん(同85歳)、放送作家でタレントの永六輔さん(同83歳)などがいる。
最近では、今年5月15日、日本のミュージカル文化の礎を築いた劇団四季創立メンバーで俳優の日下武史さんが、静養先のスペインで亡くなった(享年86歳)。現地での詳しい事情は分からないが、国民皆保険制度がある日本とは違い、異国の地・スペインでは治療も難しかったのかもしれない。胃瘻処置も勧められず、過剰な延命治療もなく、穏やかな最期を迎えたという話が伝わっている。
■高齢者に誤嚥、そして誤嚥性肺炎が起きやすい理由
日本人の死因で3位の「肺炎」ですが、その多くは高齢者です。高齢者は免疫機能が落ちているから、というのもその通りなのですが、それ以上に食事中の誤嚥(ごえん)、または自分のだ液による誤嚥が肺炎を引き起こすことがあるのです。
なぜなら、高齢者は咽頭蓋(こうとうがい)の筋肉が弱くなっており、しっかり蓋をすることができません。そのため、肺に入ってはいけないはずの食べ物やだ液が肺に入ってしまい、肺が炎症を起こしてしまうのです。これを「誤嚥性肺炎」といいます。
「誤嚥なら普通の人でも時々ありますよね?」と思った人もいるかもしれません。普通の人は、飲み込みに失敗するとむせ込みますが、ひとしきりむせこんだ後、「変なところに入っちゃったみたい」と笑って済むことがほとんどです。
一方、高齢者の場合、むせこむ体力すら残っていないことも多く、介護者が気づかないことも往々にあります。
その場合、むせていないにも関わらず、だらだらと食べ物やだ液が肺に流れ込んでしまい、ひどい肺炎を起こし、突然の高熱が出て、ようやく誤嚥性肺炎だったと気づくこともあります。
また、食べ物は気管と食道の分かれ道に行く前に、いったん喉頭蓋谷(こうとうがいこく)に入りますが、このポケットに食べ物の一部が残ったまま「(全部)飲み込んだ」と反射神経が判断すると、気管が再び開きますので、残った食べ物がじわじわと気管のほうへ流れてしまい、誤嚥性肺炎になってしまうこともあります。
いずれの場合も、高齢者の誤嚥はひどい高熱を出し、重度の肺炎になってから見つかることが多いのです。
誤嚥を起こしやすい状態は摂食・嚥下障害があるといわれます。重症の肺炎を起こしてしまった場合は、抗生剤等で治療を行いますが、最悪の事態が起こってしまうこともあります。
誤嚥性肺炎を防ぐためには、摂食・嚥下障害の有無に関わらず、食事中の誤嚥を防ぐことが大切です。そのためには、提供する食事の状態、高齢者本人の身体の様子、食事を食べるときの姿勢など、食事中に気をつけるべきことがたくさんあります。
また、食事中の誤嚥性肺炎よりも起こる頻度の高い「だ液による誤嚥性肺炎」については、口腔内の雑菌を減らすことが一番の予防策です。
可能な範囲で、歯磨きや舌ブラシを使った「舌苔(ぜったい)」の除去、ぶくぶくうがいなどを行って、口の中を清潔に保つことが大切です。
■ウチのおじいちゃん or おばあちゃんが誤嚥しているかどうかをチェックしよう
摂食・嚥下(食べること・飲み込むこと)の機能が衰えてきた場合に起こりやすい症状を挙げてみます(東京都 多摩立川保健所発行「摂食嚥下障害チェックシート」より)。
1.食事中にむせることがある
2.だ液が口の中にたまっている
3.飲み込むのに苦労することがある
4.固いものがかみにくくなった
5.舌に白い苔のようなものがついている
6.声が変わった(がらがら声や鼻に抜ける声になった)
7.よく咳をする
8.食べる量が減った
9.体重が減った(1カ月で5%以上、半年で10%以上)
以上の症状はほとんどの場合、重複して出てきます。
また、ひとくちに「食事中にむせる」といっても、軽度から重度までいろいろな症状があります。そのほか、さまざまな組み合わせがあり、その症状は人それぞれ異なります。
いろいろな方法を試してみて、その人に最も合った食事の形態、ケアの方法を探していくことが必要になります。
高い熱と全身に赤い発疹。ここ数年、沈静化していた麻疹(はしか)が増えている。国立感染症研究所によると、今年はすでに412件の報告があり(7月16日現在)、昨年1年間の232件を上回った。重篤な場合、肺炎や脳炎などの危険もあり、厚生労働省なども注意を喚起している。
昨年末から今年正月にかけて、フィリピンに渡航していた33歳の女性が帰国後に発熱、翌日に発疹が出て、医療機関を受診したところ麻疹と診断された。この患者の受診した医療機関では即座に、院内での接触者に対する注意喚起とワクチン接種の啓発が行われた。
このように海外から持ち込まれる「輸入はしか」により、全国各地の医療機関や、家庭内で小規模の感染が起きている。
実はアジア各地では、昨年末からはしかが大流行中だ。フィリピンを中心に、ベトナムやインドネシアからの帰国者から感染症が持ち込まれることも少なくなく、国内での感染拡大を防止するため、警戒が続いているのだ。
この夏に海外旅行を計画している人も多いだろう。海外に行く際は、厚生労働省などのホームページで、渡航先で流行している感染症の確認と備えを済ませておく必要がある。
予防接種のなかった時代、はしかは「命定(いのちさだ)め」と言われ、子どもたちの命を脅かす病気だった。
50歳代以上の人は、子どもの頃にきょうだいや家族に次々と感染し、高熱を出して寝込む日が続くなど大変な思いをした人が多いだろう。しかしはしかの脅威はけっして過去のものではないし、子どもだけの病気でもないのだ。
はしかはウイルス性の感染症で感染力が非常に強く、空気感染などで広がる。風邪のような症状のあと、39度以上の高熱と全身に赤い発疹が現れるのが特徴だ。
気管支炎や肺炎などの合併症を起こしやすく、患者千人に0.5~1人の割合で脳炎を発症し、死亡する割合も千人に1人といわれる。一度かかれば生涯、体に免疫ができるが、現在も治療法はなく、予防法ははしかのワクチン(以下、麻疹ワクチン)接種しかない。
日本では、半世紀近く、はしか対策を続けてきた。1966年に麻疹ワクチンが初めて導入され、78年には、子どもへの定期接種が始まった。その後、はしかにかかる人は減少したが、それでも数年に一度は流行を繰り返してきた。
2007年には都内の大学生の間で大流行し休講が相次いだ。事態を重く見た政府は、08年度から12年度までの5年間、就学前に1回接種している中学1年生と高校3年生相当の年齢の人を対象に公費で、2回目の麻疹ワクチン接種を実施した。
1回の接種では、20人に1人免疫がつかない人がいるためで、2回接種は世界的にも有効とされている。
この結果、流行は制圧できたかに見えた。しかし、問題は国内だけではなかった。13年12月から14年3月までの間に、はしかウイルスの検出が報告された135例中50例に海外渡航歴があったのである。
「海外に行く際は、渡航先の最新の感染症情報を入手し必要な予防接種を受けてください。特に東南アジアに行く方には、積極的に麻疹ワクチン接種を勧めます」
と話すのは、国立国際医療研究センター病院国際感染症センター・トラベルクリニックの忽那賢志医師だ。同院では、渡航予定者に予防接種歴を確認し、渡航先や期間、行動計画に応じて、出発前に必要なワクチン接種の計画を立ててくれる。
「渡航先に応じて予防薬が必要な場合はマラリアなどの予防投薬も行いますし、蚊などの虫さされ対策なども指導します」(忽那医師)
海外赴任を控えたビジネスマンが会社からの指示で、ワクチン接種計画を相談に来るケースも多いという。
公的な麻疹・風疹のワクチン接種歴は年齢から推察できるので、確認してみるとよい。
同院では、受診の際「母子健康手帳を確認できますか」と尋ねられる。母子健康手帳は母親が妊娠したときに配布される手帳で、就学前に接種したワクチンが記録されている唯一の資料だ。
「お母さんが保存していることが多いようですが、ワクチンの記録のページの写真を携帯などで撮って本人が持っておくといいでしょう」(同)
トラベルクリニックは、旅行に関する専門外来で全国にある。日本渡航医学会のホームページなどで確認できる。
最近、家にいると咳が止まらない。でも出かけるといつの間にかおさまっている。それはもしかしたら夏型過敏性肺炎かもしれません。夏場をピークに発症するという、この病気について、日本アレルギー学会認定専門医・指導医の清益功浩先生に聞きました。
■長引く夏の咳、カビが原因になっていることも
「梅雨から秋にかけて咳が長引く場合、夏風邪ではなく夏型過敏性肺炎の可能性があります。トリコスポロンというカビの胞子を吸いこむことで起こる肺炎で、6月から10月までのカビが繁殖しやすい時期に発症しやすい傾向があります。外出中や旅先では大丈夫なのに、家に帰ると咳が出る場合は要注意です」(清益先生)
トリコスポロンは20度以上、湿度60%以上の高温多湿な環境を好み、胞子が飛びやすいのが特徴です。木を栄養源とすることが多く、古くなった木や畳、カーペットなどに繁殖しやすいそうです。
「これまでは古い住宅で繁殖することが多かったのですが、最近のマンションは気密性が高いため、例外ではありません。キッチンの流しの周辺、洗面所やバスルームと脱衣所、洗濯機置き場近くの床、北側の押入れや窓のサッシ回り、エアコンの内部など風通しが悪く、湿気が高い場所に用心しましょう。
ただし、トリコスポロンを吸った人が全員発症するわけではありません。反応する人は胞子を吸ってから4~6時間で症状が出ることが多いですね」(清益先生)
治療を行えばいったん治るものの、自宅にトリコスポロンが繁殖しているかぎり、症状を繰り返すそう。そうなると、当然ながら肺に負担をかけることに。
「今はトリコスポロンの抗体が血液検査で測れるようになり、自分がトリコスポロンアレルギーなのか調べることができます。毎年同じような症状が出る方は、病院で検査することもひとつの方法です」(清益先生)
■カビを完全に除去して再び増やさないことが大切
夏型過敏性肺炎を予防するためには、カビを除去し、繁殖しにくい環境をつくることが大切だとか。
「カビには多くの種類があります。そのため、見た目だけでトリコスポロンであるかどうかを見分けるのは非常に難しいです。ただ、どんなカビでも健康に影響を及ぼす可能性があるので、すみやかに除去することをおすすめします」(清益先生)
掃除をする際にはカビの胞子や部屋のホコリを吸い込まないよう、自分の顔のサイズに合ったマスクを着用するといいそうです。
「カビの胞子の大きさはスギ花粉の半分の大きさなので、花粉症用マスクでは通過してしまいます。ウィルスまでブロックするようなマスクがおすすめです」(清益先生)
水洗いできる場所は通常のカビ取り剤などで除去し、乾いてから消毒用アルコールを塗るのがポイント。カビ剤のにおいで気持ち悪くなるのを防ぐためにも、必ず換気します。
「カビを除去した後は再び繁殖させない対策も大切です。キッチンや洗面所などの水回りは、日ごろから水はねをふき取り、湿気を防ぎましょう。バスルームは、入浴後に壁などの湿気をふき取るだけで、カビの発生をおさえることができます」(清益先生)
また、カーテンに隠れた窓辺も、カビの温床になりやすいとか。ホコリや汚れをためないように、こまめに掃除。清潔な環境をキープすることが自分の身を守ることにつながります。
「ときどき窓を開けて風通しをし、エアコンは週に一度は掃除しましょう。季節の変わり目でしばらく使わないときは、最後の日に送風運転などで内部を乾燥させておくと、カビが繁殖しにくくなります」(清益先生)
上手な歯磨き法は知っていても、歯ブラシを清潔に保つ保管法を知らない人は多いのではないか。
いくら歯磨きを頑張っても、細菌だらけの歯ブラシでは、かえって病気を呼び込むことになりかねない。自由診療歯科医師で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。
毎日使っている歯ブラシは想像以上に汚れていて、汚れたスリッパの底や残飯容器の1万倍以上の細菌がいるという。
実際、英国マンチェスター大学の調査によると、歯ブラシに付着している細菌の数は1億以上で、ブドウ球菌なども含まれているという。
「そもそも、口の中に生息している細菌は500種類以上。その数は、よく歯を磨く人で1000億前後、あまり磨かない人でその数倍といわれています。その意味で歯ブラシが汚れているのは当然です」
ならば少々、歯ブラシに細菌が付着したとしても、神経質になる必要はなさそうに思うのだが…。
「それは違います。汚れた歯ブラシを放置すれば、細菌が歯ブラシ上で繁殖、それを使えば口腔内の細菌のバランスが崩れ、歯周病や虫歯などのトラブルを長引かせかねません。新たな種類の細菌を侵入させることで、食中毒など新たな感染症を引き起こす可能性もあるのです」
医学の世界では肺炎や動脈硬化、がんなどあらゆる病気の背景には感染症があるとの見方は根強い。その意味で細菌だらけの歯ブラシは避けた方がいいに決まっている。
では、使用中の歯ブラシはどう保管すればいいのか?
「歯ブラシを徹底的に乾かすことです。使用後にティッシュで拭いたり、水切りして風通しの良い場所に置きましょう。口の中の常在菌は大きく2つある。酸素が必要な好気性菌、逆に酸素を嫌う嫌気性菌です。
とくに体に悪さをする嫌気性菌が問題で、濡れたままの歯ブラシでは表面を好気性菌が覆い、その下で嫌気性菌が劇的に増殖する。乾燥で嫌気性菌が減るわけではありませんが、増殖は抑えられます」
ただし、直射日光やドライヤーで乾かしたり、熱湯で“殺菌”しようとしてはいけない。ブラシの素材を劣化させ、清掃能力を低下させるからだ。
「歯ブラシを使用前と後に洗口剤につけて軽く洗うといいでしょう。細菌数を減らせます」
家族全員の歯ブラシをひとつのコップで保管する家庭も多いが、おすすめできない。
「家族といえども、口腔内にすむ細菌の種類と割合は別。ブラシ部分がくっつくことで各自の口腔内の環境が壊れ、不調の原因になることも考えられます」
■ユニットバスは要注意
トイレとお風呂が一体になったユニットバスに歯ブラシを置いている人は即刻やめるべきだ。
「濡れた歯ブラシに口腔内にいない細菌が付着して増殖することもあるからです。サルモネラ菌や大腸菌などの食中毒、レジオネラ菌や耐性黄色ブドウ球菌などの肺炎を引き起こす菌が代表的です。トイレは使うたびに目に見えない水が飛んでいるものです」
歯ブラシキャップは使い方を気をつけたい。
「濡れたままの歯ブラシをキャップにつけるとキャップ内で細菌が増殖します。キャップは持ち運びのときにのみ、歯ブラシが十分乾いた状態で使いましょう」
なお、歯ブラシは使い続けると清掃能力が低下し、汚れもひどくなる。歯ブラシは1カ月、電動歯ブラシは3カ月を目安に交換することだ。
当然のことだが、歯ブラシスタンドはよく乾燥させ、小まめに清掃しよう。
いよいよ梅雨入りした日本列島。これから1ヶ月以上もジメジメした日が続くわけだが、テンションが下がるだけでなく、健康面でも大いに気をつけなければならない。
その原因は、部屋の中で活性化して大繁殖する機会を狙っている、目には見えないカビの菌糸だ。
「この時期から増えてくるのが、トリコスポロンというカビで、このカビを吸入すると、夏型過敏性肺炎を起こすことがあります。また、この病気が慢性化すると死に至ることもあるんです」
こう警告してくれたのは、呼吸器科・アレルギー科・内科の専門医で東京・池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師。
「夏型過敏性肺炎とは、トリコスポロンを吸うことで、肺の中でアレルギー反応が起こり、微熱が出たり、咳や痰が出たり、体がだるくなったりする病気です。症状的には夏カゼと似ているので、皆さん夏カゼとカン違いしてしまうことが多いんです。
しかし、放っておくと呼吸困難などの重症になる場合があります。
そして、重症になって病院に行ったときに医師も夏カゼだと診断してしまったり、肺炎としても細菌性肺炎と誤診してしまうと、入院して点滴を打ち、症状が良くなったからと数日で家に帰してしまいがちです。
しかし、症状が良くなったのは入院したことでトリコスポロンを吸わなくなったためであって、家に戻るとまたアレルギー反応が出てしまうのです」
また、呼吸困難になるほどではない軽症な人でも、注意が必要だと大谷医師は言う。
「11月ぐらいになってカビが減ると、夏カゼかなと思っていた症状が軽くなります。しかし翌年の5月ぐらいになると、またその症状が出てきてしまう。それを毎年繰り返していると慢性化してしまうんです。
慢性化した過敏性肺炎は、間質性肺炎や肺線維症になって、肺が硬くなり死に至ります。夏型過敏性肺炎は、医師でもなかなか気づきにくく、とても怖い病気なんです」(大谷医師)
では、夏型過敏性肺炎を予防するには、どうしたらいいのだろうか?
「原因となるトリコスポロンは、風呂場や脱衣所、台所など高温多湿になる場所に多く発生するので、そういった所はいつもきれいに掃除して、乾燥させておくことです。特に木材などで増殖しやすいので、風呂場に木製のドア枠などがある家は気をつけてください。
ほかにもカビによる肺炎は、アスペルギルス、カンジダ肺炎、クリプトコッカスなどもあります。アスペルギルスは重篤な基礎疾患のある人だと、死亡率が50%と高くなります。とにかくカビが生えていたら、カビ取りをすることが大切です」(大谷医師)
死ぬことだってある梅雨時のカビ。もう、放っておくなんて選択肢はない。
放っておくと、やがて肺自体が障害されて慢性化
エアコンの欠かせない季節がやって来ました。しかし、小まめにクリーニングをしていないと、匂いやホコリで不快な思いをすることもあるでしょう。
特にエアコンの回路中の湿気とホコリを好むトリコスポロンというカビを何度も吸うと、発熱や咳、呼吸困難を症状とする「夏型過敏性肺炎」を発症することがあり、注意が必要です。
これは、カビに対するアレルギー反応によって肺炎を起こすもので、単なる夏風邪と思って放っておくと、やがて肺自体が障害されて慢性化します。そうなってからでは、いくら治療を施しても完全には元の肺には戻りません。
風邪の症状に呼吸困難を伴なった時は、ためらわずに医療機関で胸部レントゲン写真を撮ってもらいましょう。過敏性肺炎では、肺全体に特徴的な「すりガラス」模様の影が見られ、血液検査で原因物質を特定することができます。
急性期であれば、1~2週間で治る。しかし、重傷例では入院も
急性期であれば、原因となるエアコンを取り換えたり、引越しや旅行で原因物質を吸わないようにすれば、1~2週間で治ります。しかし、重傷例では、入院して副腎皮質ホルモン剤の内服や点滴が必要なこともあります。
予防は部屋の掃除と換気を小まめに行い、エアコンや除湿器のクリーニングをおろそかにしないことが重要です。カビが引き起こす病気には、他にもアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などがあります。
梅雨から夏にかけてが夏型過敏性肺炎発症のピークです。今から家や学校、職場を点検しておきましょう。
■人は喉から衰える!? 「誤嚥性肺炎」で死なないための「10カ条」(下)
いちど罹れば「死」に直結する、「誤嚥性肺炎」という恐怖の病。肺に入り込んだ細菌や胃液が引き起こす肺炎だが、予防法はあるのだろうか。これまで1万人以上の嚥下障害患者を診てきた西山耕一郎医師(西山耳鼻咽喉科医院理事長)によると、鍵は「喉仏」にある。
「人は喉から衰えるというのが私の考えです。触ってみると分かりますが、ごっくんと唾を飲みこむと喉仏が上下しますよね。それは『喉頭挙上筋群』と呼ばれる筋肉が喉仏を引っ張り上げたり下げたりしているから。お年寄りの中には、筋肉が弛み喉仏が下がっている人を見かけますが、こうなると、顕著に嚥下障害が起きやすくなる。自分は若いから大丈夫と思っている人もいるでしょう。でも、喉仏の筋肉は40代から衰え始めているのです」
一般に、喉の機能は女性より男性のほうが衰えやすいと言われている。理由ははっきりしないが、女性におしゃべりなタイプが多く、男性に寡黙な人が多いことが、喉の機能に現れるとも言われている。
ある日、鏡で喉仏が下がっているのを発見し愕然となったとしよう。だが、それでも、「飲みこむ力」は維持できると西山氏は言う。実際、嚥下のできない患者に実践してもらい、回復を遂げた方法を挙げてくれた。
西山氏によると、トレーニングは3つのグループからなっている。まずは「喉の筋トレ」。喉頭挙上筋群を直接鍛える方法だ。
■嚥下おでこ体操、あご持ち上げ体操
「おでこに手根部(掌の下部)をあてて、おでこと手で押し合いをするのです。この状態を5秒間キープして、5~10回繰り返す。またあご下に両手の親指をあてて、これも同じ回数押し合いをするのです」(西山氏)
■シャキア・トレーニング
「アメリカのシャキア医師が考え出し、国際的にも認められたものです。マットなどに枕なしで仰向けになり、頭だけをゆっくり持ち上げて自分のつま先を見る。ここで30秒~1分間停止し、5回から10回繰り返すのです」(同)
■喉E体操
「歯を食いしばり、『E』と言う時の形を作る。そして“イィ~”と発声します。喉仏を意識しながら5~10回行います」(同)
次に「呼吸トレーニング」。その名の通り呼吸機能を鍛えるものだ。
■ペットボトル体操
「高齢の方は500ミリリットルの軟らかいペットボトルを、思いっきり吸ってペシャンコにする。その後、息を吐いてまた膨らませる。これを1日5回ほど繰り返します。慣れてきたら徐々に硬いペットボトルにしてゆきます」(同)
また、オモチャの吹き戻しを膨らませるトレーニングもある。
■スポーツ吹き矢
「5~10メートル離れたところから的を狙う『スポーツ吹き矢』が、最近はやっていますが、これも呼吸機能を鍛え、嚥下機能の維持にもつながります。高齢者でも気軽にできるし、お年寄りの仲間同士でも楽しめます」(同)
そして3グループ目は「発声トレーニング」。嚥下と発声は、ほぼ同じ臓器を使うためである。
■ハイトーンボイス・カラオケ
「カラオケは楽しみながら飲みこむ力をキープする有効な手段です。コツは高い声で歌うこと。初心者向きは石川さゆりの『津軽海峡冬景色』や井上陽水の『少年時代』。慣れてきたら上級者向きの『さくら』(森山直太朗)などがトレーニングに向いています」(同)
■喉仏スクワット
「喉仏は高い声を出せば上がり、低い声では下がる。これを繰り返すことで筋肉を鍛えるのです。学校の演劇部では“アエイウエオアオ”と発声練習しますが、アイエを高く、ウオを低く発音するのです」(同)
9つのトレーニングを挙げたが、すべて実践することはない。「喉の筋トレ」、「呼吸トレーニング」、「発声トレーニング」の中からそれぞれ1つ選んで合計3種類を、できれば毎日3回以上行ってほしいと西山氏は言う。
また、口腔医学に詳しい歯科医師の米山武義氏(米山歯科クリニック院長)によると、発声トレーニングの1つに「パタカラ体操」という方法もある。
「1文字ずつ発音するのですが、できるだけ大きな声で“パパパ”、そして“タタタ”とそれぞれ複数回言ってください。大事なことは唇をしっかりと閉じた状態から発声し、頬と舌を意識的に動かすこと。そして分泌された唾液を“ゴックン”と飲みこんでください。“空嚥下”といって、喉を鍛える訓練になります」
年とともに衰える反射神経を回復させるのは難しい。だが、たとえ60代からでも「飲みこむ力」を鍛え直せば、10年は寿命を延ばせる。
長年、「喉」を研究してきた西山氏は、そう話すのである。
特集「人は喉から衰える!?『勘三郎』『山城新伍』『豊田泰光』共通の死因 『誤嚥性肺炎』で死なないための
『10カ条』」より
師走に入り、急激に寒さが増した。少し熱っぽかったり、多少咳が出たりしたとしても「風邪かな? まァ、放っておけば治る」と思ってそのままにしている人は多いだろう。
そこには「風邪で死ぬ訳じゃあるまいし」という油断がある。確かに風邪は“寝ていれば治る病気”かもしれない。しかし侮ってはいけない。風邪に詳しい大分県済生会日田病院副院長の加地正英氏が指摘する。
「問題は風邪をひくことで引き起こされる合併症、いわゆる『風邪をこじらせた状態』になることです。そのうち副鼻腔炎や中耳炎、扁桃炎などは軽いほうで、それらで死亡することはまずありません。しかし肺炎などの重い合併症は、死に至ることも十分考えられる。特に免疫力の落ちた高齢者は要注意です」
肺炎は年間約12万人が亡くなる、現在、日本人の死因第3位の病気だ。誤って食べ物や唾液を気管に飲み込む「誤嚥(ごえん)」によって起きる「誤嚥性肺炎」が多いが、風邪をこじらせて発症するケースも多数報告されている。加地氏が続ける。
「肺炎がインフルエンザの合併症であることは有名ですが、風邪の場合でも発症します。免疫力の低下した高齢者が特に罹りやすく、肺炎による死亡者のうち約9割は65歳以上が占めているといわれています」
そのため高齢者介護の現場では細心の注意を払っている。介護老人保健施設で働く女性介護士の話。
「高齢者施設は面会者など外部の人の出入りが多いため風邪をひきやすく、かつ入居者は籠もりきりなので誰かがひくと蔓延しやすい。風邪が原因で肺炎になる方は毎年必ずいます。亡くなられたケースも少なくありません」
肺炎の次に医者が恐れる風邪の合併症が「急性咽頭蓋(いんとうがい)炎」だ。
「咽頭蓋とは、食べ物が気管に逆流するのを防ぐために喉にある蓋(ふた)のことです。風邪に罹ると、まれに咽頭蓋が炎症を起こして腫れることがあります。炎症が酷くなると呼吸ができなくなって窒息して死に至る。そのような重篤な症状の場合には気管切開して呼吸できるようにしなければならないが、急に悪化する場合、救急搬送しても間に合わないことのほうが多い」(前出・加地氏)
風邪で喉が痛いくらい誰でも起きることだが、まさか死んでしまうとは思いもしないだろう。見分けることはできないのか。
「扁桃腺よりももっと喉の奥を診なければ急性喉頭蓋炎かどうか分からないので、医者でも診断できないことがある。声帯が腫れるため、話すときに力まないと話しにくい、呼吸しにくいといった異変を感じたら要注意。自己判断せずに直ちに病院に行くべきです」(加地氏)
他にも重症化すれば死に至る合併症としては「急性心筋炎」もある。風邪の原因ウイルスが引き起こすものだ。当初、風邪症状を訴えていた患者が、数日後に突然胸痛に悩まされたり、心不全を起こしたりして、最悪のケースでは死に至る。これはウイルスが心臓を動かす「心筋」に感染した際に生じる。
日本心臓財団の資料によれば、心筋炎の中でも死に至るほど急激に病状が変化する「劇症型心筋炎」は、30年前までは救命もできず、今も救命率は約50%に留まっているという。
また、「慢性的な持病を持つ人は特に要注意です」と加地氏が警告する。
「鼻風邪を引き起こすライノウイルスに感染してしまったばっかりに喘息が重症化することがある。重い発作を起こせば命に関わるでしょう。他にも糖尿病などの慢性疾患、持病がある人は免疫力が落ちているため、一層風邪に気をつけなければいけません」
■マイコプラズマ肺炎とは
マイコプラズマは、正式には「Mycoplasma pneumoniae」という名前の微生物。細菌より小さく、ウイルスより大きく、細菌にもウイルスにもない性質を持っています。ウイルスはヒトの細胞の中でしか増えませんが、マイコプラズマ肺炎はウイルスと異なり、栄養があればヒトの細胞外でも増えていきます。
また、細菌には体を保つために外側に細胞でいう膜のような壁がありますが、マイコプラズマ肺炎には細菌のもつ壁がありません。ペニシリン、セフェム系などを代表とする抗生物質の多くは細菌にある壁を壊して細菌を殺す作用を持ちますが、これらの抗生物質では壁の無いマイコプラズマに対して全く効果がありません。この微生物は、気管や喉などの気道に感染し、主に気管から肺で増殖することが特徴です。
■マイコプラズマ肺炎の症状
マイコプラズマ肺炎は主に気道に感染します。呼吸系に感染すると、上気道炎・咽頭炎・気管支炎・肺炎になります。特に、肺で増殖するので肺炎を起こしやすいのです。肺炎球菌による肺炎とは違うため、「非定型肺炎」「異型肺炎」と呼ばれています。
主な症状は以下の通り。
・ノドの痛み
・鼻水、鼻づまり
・37℃程度の微熱から39℃以上の高熱
・咳、痰のからむ咳(解熱しても1ヶ月近く続く症状)
・喘息があると、喘息の悪化、喘鳴(ゼイゼイ・ゴロゴロ・ヒューヒューといった呼吸)
・呼吸がしにくい呼吸困難
乳幼児に感染した場合は風邪程度で済みますが、学童期頃になると肺炎を起こします。同じように大人が感染した場合も肺炎になります。免疫力が強いほど、肺炎になりやすいのです。
■マイコプラズマ肺炎の感染・潜伏期間
感染から発症までの潜伏期間は1~3週間ぐらいで、4週間に及ぶこともあります。一度流行するとどんどん拡がってしまい、小流行になってしまいます。季節では秋から冬に多いのが特徴です。
発症年齢は8~9歳がピーク。痰や唾液、咳で人にうつる飛沫感染です。そのため、学校や会社など集団生活している環境で感染が拡がってしまいます。年齢的に、小学校や中学校での流行が多いです。大人の場合は何回も罹ることで多少の抵抗力がつきますが、免疫を長くは維持しにくいのが特徴です。そのために何年かごとに流行を繰り返します。
■マイコプラズマ肺炎の診断
血液検査で診断できます。少し専門的ですが、寒冷凝集反応が陽性になったり、白血球も炎症を示すCRPも細菌感染と違って正常か軽度上昇しているにすぎませんので、採取した血液からマイコプラズマ肺炎の抗体を測定します。
血液を使って30分で判る迅速検査もありますが、検査キットを置いていない医療機関もあります。この迅速検査は、感度・特異度(※)がよくありませんので、マイコプラズマ肺炎になっても陰性であったりします。
※「感度」は、病気があるときに、どれくらいの確率で診断できるかを見ます。例えば、感度90%ですと、病気の人を10人検査して9人は陽性になります。また、「特異度」は、病気が無い時に、どれくらいの確率でないと言えるかを見ます。例えば、特異度90%ですと、病気に無い人を10人検査して、1人は陽性になります。
痰を培養する検査もありますが、こちらは1週間以上かかります。遺伝子を増やして診断する遺伝子検査は、実施できる施設が限られるため一般的には検査できませんが、LAMP法という遺伝子検査は保険適用ですので、病院等に設備が無い場合は検査会社に依頼することが可能です。
ノドの奥をしっかりとこすってマイコプラズマ肺炎の菌の成分を調べる迅速検査があります。この検査はその日に判明して、血液の迅速検査より感度と特異度は良いです。咳がひどくないと、肺に居るマイコプラズマ肺炎がノドに付きませんので、咳のひどい時には感度と特異度がよくなります。
また、聴診しても肺炎を疑う音は発生しないため、肺炎かどうかは胸部X線でも診断します。ただ、胸部X線だけではマイコプラズマ肺炎が原因の肺炎か確定することができません。いずれにしても、断定するためには血液検査を行い、マイコプラズマ肺炎に対する抗体を検査するのが確実です。
■マイコプラズマ肺炎と喘息の関係・その他の合併症
もともと気管支喘息がある場合、マイコプラズマ肺炎によって咳がひどくなり、喘息発作を引き起こしてしまうことが多いです。喘息で使用する気管支拡張薬であるテオフィリン(テオドール・テオロング・アミノフィリンなど)は、マイコプラズマ肺炎に効く抗生剤と相互作用を持つため、使用する前に注意が必要。
喘息以外にも、マイコプラズマ肺炎は、肺炎だけでなく、時に脳炎や脳症(2.6-4.8%)、下痢や嘔吐などの消化器症状(8-15%)、肝腫大(8%)、肝機能異常(43.6%)などの肝炎、じんましん、多型滲出性紅斑などの発疹(3-33%)、心筋炎、赤血球が壊れる溶血性貧血などを起こすリスクもあります。
もし以下のような症状が出た場合は注意が必要。
・黄疸
・疲れやすいなどの易疲労感
・けいれん、意識がなくなる意識障害
・盛り上がった赤い発疹、かゆみのある地図のような湿疹
肝炎・脳炎・じんましん・多型滲出性紅斑などの可能性がありますので、医療機関を受診した方がいいでしょう。
■マイコプラズマ肺炎の治療法
マイコプラズマ肺炎に効く抗生剤を使用します。子供にとっては苦い抗生剤であることが多いので、飲むのを嫌がる子が多いようです。アイスクリームなどに混ぜたりするといいでしょう。スポーツ飲料に溶かすとより苦くなるので、注意しましょう。
■抗生物質
・マクロライド系抗生剤(エリスロシン・クラリシッド・クラリス・ジスロマック・リカマイシン・ミオカマイシン・ジョサマイシンなど)
・テトラサイクリン系抗生剤(ミノマイシンなど)
・ニューキノロン系抗生剤
前述の通り、エリスロシン・クラリシッド・クラリスのマクロライド系抗生剤は、喘息の治療薬であるテオフィリンと相互作用で、テオフィリンの副作用を引き起こす可能性があります。
最近問題になっているのが、このマクロライド系抗生剤が効かないマイコプラズマ肺炎が増えていることです。2000年頃は15%程度でしたが、2006年では30%になっています。私自身も、マイコプラズマ肺炎と診断してマクロライド系抗生剤を使っても、通常のように効きがよくない人が増えた実感があります。1
週間以内に限り、テトラサイクリン系抗生剤を使うことが多くなりました。ただし、薬剤耐性マイコプラズマ肺炎で合併症が多くなることはないと言われています。また、マクロライド系抗生剤が効かないマイコプラズマ肺炎は増殖する力は弱いです。
テトラサイクリン系抗生剤は、8歳以下の子供に2週間以上長く使用すると、歯が黄色になったり、骨の発達に影響を及ぼすと言われてます。ニューキノロン系抗生剤も、関節への影響から子供にあまり使用されません。副作用に注意して抗生剤を使う必要があります。
トスフロキサシンというニューキノロン系抗生剤は、マイコプラズマ肺炎に効果がありますが、肺炎と中耳炎のみでの使用になっていますので、マイコプラズマによる肺炎になっている場合には使用が考慮されます。
咳や鼻水・鼻づまりがひどいときには、咳や鼻水を抑える薬や鼻づまりを抑える薬を使います。
効果のある抗生剤で3日程度使用すると、マイコプラズマはかなり減少し、感染力は低下します。
■マイコプラズマ肺炎の予防
マイコプラズマ肺炎は抗生剤で治りますが、予防が重要です。特に流行している時期には人混みを避けて、十分な睡眠と栄養・うがい・手洗いをしましょう。家族内で感染しやすく、子供がマイコプラズマ肺炎と診断された時、付き添いの母親がひどい咳をしている場合はマイコプラズマ肺炎かもしれません。
また、一度罹っても一生免疫力がつくわけでなく、何度も感染することがあります。このマイコプラズマ肺炎は外来でも治療できるので、必ずしも入院する必要はありません。肺炎の中でも、家族の入院負担がまだ少ない肺炎です。
マイコプラズマ肺炎と診断された場合、学校保健安全法によると、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまでの期間の出席停止の措置が必要と考えられています。しかし、適切な治療で、感染力は低下するので、咳が続いていても登校可能なことがあります。
気管支が炎症を起こし、呼吸が苦しくなる気管支喘息。そのなかでも、吸入ステロイド薬の使用を最大量まで増やし補助薬を使っても発作が起こってしまうのが、重症の気管支喘息だ。その治療に対し、新たな補助薬や治療法が健康保険の適用となった。
重症喘息には経口ステロイド薬が処方されることもある。しかし、ステロイド薬を全身に長期に使い続けると、皮膚症状や肥満など、さまざまな副作用が出るおそれがあり、女性の場合は、妊娠や出産への影響も不安材料である。
東京都に住む山本香苗さん(仮名・31歳)はそんな不安を抱える一人。子どものころからの重症喘息で、ステロイド薬を使っても発作を抑えきれずに入退院を繰り返した。ステロイド薬の副作用と思われる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの診断も受けていた。
現住所に転居したのを機に国立病院機構東京病院を紹介され、2年ほど前から通院している。初めて、同院喘息・アレルギーセンター医長の大島信治医師の診察を受けた際には、「ステロイドを減らしたい」と訴えた。
大島医師はステロイド薬に替えて、抗IgE抗体治療を導入した。これで発作の頻度は減り、ステロイド薬をやめることができた。しかし、それでも1カ月に1回ほど、軽い発作による定期外受診を必要とした。
そこで、大島医師は病状のさらなる安定化のために、「気管支サーモプラスティ(BT)」による治療も選択肢であることを伝え、山本さんも受け入れた。
BTは「薬」ではなく、「気管支の加熱」というまったく新しいタイプの喘息治療である。18歳以上の重症喘息患者を対象に、15年4月に健康保険の適用となった。喘息の基本的な治療である吸入ステロイド薬の使用は継続することが条件。
「喘息患者さんの気管支内部の筋肉(平滑筋)は、アレルギー反応で肥大化しており、これが気管支の内部を狭くして発作や息苦しさの原因となっています。BTは、内視鏡(気管支鏡)を使い気管支壁を温めることで肥大化した平滑筋量を減らし、気管支の空気の通りをよくしようという治療です」(大島医師)
治療は3回に分けて実施される。最初は右肺の下部、2回目に左肺の下部、3回目が左右の肺の上部だ。各回の治療は3週間以上間をあけることになっている。
BTの治療を受ける場合、治療3日前からステロイド薬を服用する。加熱による刺激で気管支壁(粘膜)がむくみ、喘息発作が出やすくなるのを抑えるためだ。治療に伴うこの気管支粘膜のむくみは、1週間ほどで解消するという。
全身麻酔で実施する施設もあるが、同院では気管支鏡を使用する前に、のどに局所麻酔をかけ、実際の処置の際には鎮静剤で意識がぼんやりした状態にして実施する。
一人の医師が口から気管支鏡を気道に挿入し、目標とする気管支近くまで気管支鏡先端を到達させる。先端からカテーテルを目標気管支に到達させ、そこで、もう一人の医師が、カテーテルに付いた電極を広げて気管支壁に当て、65度で10秒ずつ通電して加熱。決められた肺のエリア内で、気管支鏡をできるだけきめ細かく移動させて、通電・加熱を40~60回繰り返し、約1時間で終了する。
同院の場合、患者は各回の治療の前日に入院し、通常は治療翌日に退院となる。
BTの実施施設はまだ少なく、同院のほか、近畿大学病院や国立国際医療研究センター病院など全国で13施設(15年9月末現在)。大島医師のもとでは、9月中旬時点で4人が3回の治療を終了し、1人が治療中、という段階だ。
「BTの評価には、一定期間の観察が必要ですが、今のところ、どの患者さんも、発作で緊急受診する頻度は明らかに減っています。このようなBTの効果は、少なくとも5年は維持されることが米国の研究で明らかにされています」(同)
山本さんは3回の治療終了後、発作で緊急受診することはなくなった。今後、抗IgE抗体治療もやめることが検討され、普段の表情も明るくなってきた。
「BTにより、強い薬を減らしたり、やめたりすることができれば、その副作用への不安や、長期的には経済的な負担の軽減にもつながっていくでしょう」(同)
マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」という細菌に感染することによっておこる呼吸器感染症です。
小児や若い人の肺炎の原因として、比較的多いものの1つです。例年、患者として報告されるもののうち約80%は14歳以下ですが、成人の報告も見られます。
●長引く咳に要注意!大人もかかるマイコプラズマ肺炎
日本国内では1984年と1988年に大流行した事もあり、4年おきに大流行する感染症として以前は「オリンピック熱」と呼ばれていました。しかし、現在は年度などを問わず地域的に流行するようになってきており、季節的には秋から春先にかけて流行しはじめ、冬にやや増加する傾向があります。
マイコプラズマ肺炎の症状チェック!
マイコプラズマ肺炎は、「肺炎マイコプラズマ」に感染している人の咳のしぶきを吸い込んだり、身近で接触したりすることにより感染すると言われています。
●マイコプラズマ肺炎はうつる?感染した時の登校について
「肺炎マイコプラズマ」に感染すると、2~3週間の潜伏期間を過ぎて、
・発熱
・全身のだるさ
・頭痛・痰(たん)を伴わない咳
…などの症状が見られます。咳は少し遅れて始まることもあります。
咳は熱が下がったあとも長期にわたり(3~4週間)続くのが特徴です。多くの人はマイコプラズマに感染しても気管支炎ですみ、軽い症状が続きますが、一部の人は肺炎となり、重症化することもあります。
一般に、大人よりも小児のほうが軽く済む、とも言われています。
発作を起こすと激しくせき込み、最悪の場合は呼吸困難に陥り死を招く「ぜんそく」。空気の通り道となる気管支などの「気道」が慢性的な炎症によって狭くなる病気だ。
薬で症状を抑えるのが治療の基本だが、気管支の中を見る「気管支鏡」という内視鏡を使って空気の流れを改善する方法が4月から医療保険適用となり、ぜんそくに苦しむ患者の新たな治療法として注目を集めている。
この治療法「気管支サーモプラスティ」は、鼻や口から気管支鏡を入れて行う。先端から電極の付いたカテーテルを出し、高周波電流で気管支の壁の内部を65度で10秒間加熱する。
これにより、炎症で肥大した内壁の筋肉「平滑筋」の働きを弱め、空気の通り道を広げる仕組み。
右肺の下部(下葉)、左肺下葉、左右の肺上部(上葉)の3回に分けて行い、1回目の治療からそれぞれ3週間の間隔をおく。炎症を抑える吸入ステロイド薬と気管支拡張薬の併用でも発作症状を抑えることが難しい18歳以上の患者が対象だ。
16日にはこの治療法専用の医療機器を扱うメーカー「ボストン・サイエンティフィック ジャパン」(東京都中野区)の主催で「ぜんそく最新治療」のメディア向けセミナーが都内で開かれ、専門医らが期待の声を寄せた。
国立病院機構東京病院の大田健院長は「ぜんそく患者のうち1割程度は薬で症状を抑えることが難しい。『気管支サーモプラスティ』は温熱療法なので患部を焼いたり切ったりせず、負担も小さい。一度の治療で効果が長期間期待できる」と指摘。
近畿大医学部の東田有智教授も「吸入ステロイド薬は副作用が出たり、しっかり強く深く吸えなかったりと患者によって個人差も大きい。『気管支サーモプラスティ』は薬でコントロールできない患者にとって新しい治療のオプションになる。海外の臨床試験データによると約80%に効果がみられた」としている。
慢性的に腰が痛い皆さん、特に、朝起き上がるときには毎日のように痛みがありませんか。鍼灸(しんきゅう)師で太子橋鍼灸整骨院院長の丸尾啓輔(まるお・けいすけ)先生に、その対策法を教えていただきました。
■あおむけのままひざを抱える、ツボを押す
「1日の始まりは腰痛からという患者さんはとても多い」という丸尾先生は、
「いつも腰が痛む人は、がばっと起き上がってはいけません。起床時は筋肉が硬くなっていますから、一気に起き上がると腰に負担がかかって痛みが増すだけです。
目が覚めたらまず、少しの時間でも腰や足をストレッチしてから、横向きになってゆっくり頭から起こしましょう」と説明します。
ではここで、ストレッチの方法を教えていただきましょう。
1.あおむけで足を抱えて腰を伸ばす
目が覚めたらあおむけに寝たまま、両腕で片方の足を抱えて20秒ほど腰を伸ばします。もう一方の足も同様に、呼吸は自然で。
次に、両腕で両足を抱え、胸の方に引き寄せて同様に20秒ほどキープ。このとき、腰が痛むようなら無理をして抱え込まず、「痛気持ちいい」と思うところまでで止めておきます。一度足を伸ばしてからまた抱えることを繰り返すと、少しずつ伸びるようになります。
2.両足の側面をさする
両足を胸のほうに引き寄せて、両手のひらで、ふとももの側面からひざまでを上下に20~50回ほどさすります。 ここは腸脛靱帯(ちょうけいじんたい)が通っているところで、ランニングや自転車などの運動によって炎症を起こす人も多いので、座っているときなど、いつでも行ってください。
3.ツボ「風市(ふうし)」を刺激する
腕を下にまっすぐ伸ばしてふとももの外側につけたとき、中指の先端が触れるところが「風市」です。そこを指や手のひらでひと押し5~20秒ほどを数回繰り返し刺激します。
風市は、腰痛の一つの原因である坐骨(ざこつ)神経痛や股(こ)関節痛、また、下半身のまひのケアなどに効果があります。立っているとき、デスクで座っているときにも指圧してください。
■うつぶせで腰をさするだけで複数の効果あり
4.うつぶせで腰をさする
うつぶせになり、両手で背中の腎臓あたりから腰にかけて、手を上下に動かしながら50~100回ほどさすります。この動きは、単純で簡単なのですが、実はかなり効果があるのでお勧めです。
というのも、うつぶせになることそのものが腰痛緩和になること、手の体温と指圧で腰の筋肉が柔らかくなること、さらに、けんこう骨を同時に動かすことになって肩こりの緩和にも役立ちます。
立ったままやデスクワーク中でもどこででもできるので覚えておいてください。両手でこぶしを握って、腰回りを軽くトントンとたたくのも良いでしょう。
5.うつぶせでカエル足に
「うつぶせになって、片方の足のひざをウエスト位置まで持ち上げます。ウエストとふともも、ひざは各90度に保って20秒ほどキープ。もう一方の足も同様に行います。両足を同時に行うのは難しいので、片方ずつでいいでしょう。股関節を柔らかくして腰痛を改善します。
6.コブラのポーズ
起きているときには腰は、常に前かがみになっています。特に、猫背の人は思い当たるでしょう。体の部位はどこでも、同じ姿勢、じっとしていることはよくありません。よって、いつもと違う方向に伸ばすように心がけてください。
5の後に、両手を肩の下あたりについて、上半身だけを起こします。ヨガでいう、コブラのポーズです。そのまま20秒ほどキーブしましょう。
最後に丸尾先生は、
「朝は体が硬いので、思うように伸びないとか痛みが起こることがありますが、焦らずあきらめず、気長に行いましょう。繰り返すうちに伸びていきます。 全部行っても、3分程度です。この間に全身の血流が促されて目も覚めてきます」とアドバイス。
取材の日から毎朝、実践しています。平日は2~3分、休日はゆっくり繰り返して10~20分ほど行っていますが、筆者の場合は開始したその日から、起き上がるときのあの嫌な痛みはなくなりました。ぜひお勧めします。
監修:丸尾啓輔氏。鍼灸(しんきゅう)師。柔道整復師。太子橋鍼灸整骨院院長。
太子橋鍼灸整骨院:大阪府守口市京阪本通1-3-10 TEL: 06-7176-6289 地下鉄谷町線・今里線太子橋今市駅から徒歩1分 http://www.taisibasi.com/