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腎がん 全摘手術ではなく部分切除で機能温存治療が第一選択に

腎がんは女性よりも男性に多く発症し、初期では自覚症状がほとんどなく、進行すると血尿や食欲不振などの症状が現われる。腎臓は9センチ程の臓器で左右2つあるが、1980年代までは初期のがんでも全摘手術が行なわれていた。

 その後、がんが4センチ以下であれば、部分切除でも全摘と変わらない治療結果が得られることがわかり、小さいがんは部分切除で機能を温存する治療が第一選択になっている。 東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科診療部長で副院長の岸本幸一教授に聞いた。

「腎がんの部分切除は腹鏡と開腹手術があります。腎臓は血管が多いため、手術は一時的に血流を遮断し、腎機能保全のために30分以内に手術する必要があり、難しい治療です。

若い方に対しては部分切除を行ないますが、合併症があったり、高齢の場合は、腎機能を温存させる凍結療法を行なっています」

 患者は治療前日に入院し、治療は局所麻酔で1時間半程度で終わる。翌日から食事も普通に摂ることができ、3泊4日で退院できる。2011年に保険承認され、現在までに31人が治療を受けているが、出血の合併症は1人だけで、カテーテルで治癒した。

10年前に実施した治験の患者では3例で、再発があったが手術や追加の凍結療法で対応し、現在も全例が生存している。負担が軽く再発頻度も低い治療と期待されている

胃がん大腸がんより気づきにくい! 注意したい「頭頸部がん」

頭部の鼻から喉にかけて発生するがんは頭頸部(とうけいぶ)がんと総称される。進行した頭頸部がんは5年以内に7割以上が死に至る。治療薬の進歩が乏しかったが、今年3月に免疫療法薬「オプジーボ」が承認され、注目を集めている。

 頭頸部がんは、口の中に発生する口腔がん、舌がん、鼻周辺に発生する鼻腔・副鼻腔がん、喉の周辺に発生する上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がんに分けられる。年間患者数は約4万7千人(厚生労働省患者調査・2014年)と言われ、過去30年で患者数は約3倍に増加している。

 主な原因は飲酒と喫煙。最近では子宮頸がんの原因でもあるヒトパピローマウイルスの感染による中咽頭がんの発生が増加している。初期の症状は声のかすれや飲食時の口や喉の違和感などありふれた症状だ。国立がん研究センター東病院頭頸部内科長の田原信医師はこう話す。

「胃がん、大腸がんのような定期検診もなく、初期症状に気づいても放置している患者さんが少なくありません。結果として初診時には半数以上の患者さんが日常生活に支障をきたす進行がんで見つかるのが実情です」早期では治癒を目指して手術か放射線治療が選択されるが、手術後にしゃべる、食べるという日常生活に不可欠な機能を喪失することもあるほか、患部が顔面付近であるため容貌が著しく変化することもある。

 手術を避けたい、あるいは不能な場合は、プラチナ製剤と呼ばれる抗がん薬・シスプラチンの投与と放射線照射を併用する化学放射線療法がおこなわれる。しかし、約半数が再発し、化学放射線療法では激しい副作用で後に約1割が死亡するとの報告もある。再発時は再度がんを切除することもあるが、それでも約半数は再々発。初期治療で抗がん薬を使わなかった症例では、シスプラチン、フルオロウラシルの2種類の抗がん薬に、抗がん薬の一種である分子標的薬のセツキシマブを加えた3剤併用療法もおこなわれる。

 ただ、シスプラチンなどのプラチナ製剤を含む治療が無効になると、他の抗がん薬を代わるがわる投与しても生存期間は6カ月未満だ。こうしたプラチナ製剤が無効の再発・転移性の頭頸部がんに対して今年3月に承認されたのが、免疫に作用する新たな治療薬のニボルマブ(商品名オプジーボ)である。

 以前からがん細胞に対しては体内の異物を排除する免疫が徐々に無効になることがわかっている。これはがん細胞自身が新たな分子を作り出し、免疫細胞表面の分子と結合して免疫作用を止めてしまうからだ。ニボルマブはこの結合を阻止し、免疫ががん細胞を常時攻撃できる状況を作る。 「再発頭頸部がんを対象におこなった国際臨床試験での1年生存率は、既存治療の16.6%に対し、ニボルマブでは2倍以上の36.0%という結果が得られています」(田原医師)

 千葉県在住で公務員の加藤俊子さん(仮名・31歳)は7年前に上咽頭がんと診断された。初診時は一目で頸部の腫れがわかるほどで、肺への遠隔転移も見つかった。病期は、最も進行しているステージIVだった。

 田原医師の下で化学放射線療法をおこない、いったんは肺転移も含めがんが消失するも約1年後に再発、肺転移も徐々に増大した。その後はフルオロウラシル、シスプラチン、タキソテールなどのさまざまな抗がん薬で代わるがわる治療したが、全て無効になり打つ手なしの状態だった。3月の承認直後にニボルマブを投与すると、肺転移の影響で生じていた息苦しさを感じるほどの咳が止まり、常用していた咳止め薬が不要になった。

「加藤さんの場合、1カ月後の画像診断で肺転移の明確な縮小は認められていませんが、咳の消失からニボルマブが有効である可能性が高いと考えられます」(同) ニボルマブは従来の抗がん薬と違い、がん細胞に直接作用しないため、画像診断でがん縮小が認められるまでに1~2カ月は要するが、いったん効果を発揮すればそれが長く持続する。ただし、注意も必要だ。

「確かに従来の抗がん薬に比べて有効性・安全性に優れ、進行した頭頸部がんが治癒する可能性すらあります。ただし、実際にがんが縮小するのは約10人に1人。過剰な期待は禁物です」(同)従来の抗がん薬はがん細胞だけでなく正常細胞にも作用し、吐き気や気持ち悪さ(悪心)を感じたり、脱毛といった不快な副作用が生じたりすることも多く、治療に不安を感じる患者もいる。ニボルマブではこうした副作用が少なく、これまで抗がん薬による治療を経験してきた患者が副作用の少なさを訝しがることもある。

 神戸大学病院腫瘍センター特命准教授の清田尚臣医師はこう語る。「患者さんが自覚できる副作用としては皮膚のかゆみ、倦怠感、悪心・下痢などの消化管障害などで、これらは概ね投与から3カ月以内に発生することが多いです。また、以前におこなった放射線治療の影響も受けているためか、頭頸部がんでは甲状腺機能低下症が目立ちます。ただし問題は、発生頻度が1%前後ですが、これまでの抗がん薬では経験しないような重篤な副作用が起こることであり、後手に回ると極めて対応が困難になる点です」

 とりわけニボルマブで注意が必要な副作用は、重症筋無力症、劇症1型糖尿病などの自己免疫性疾患である。活性化した免疫細胞が逆に正常細胞を攻撃することで発症するといわれている。自己免疫性疾患も含め、これまで知られている重篤な副作用としては、肝機能障害、大腸炎、複数の末梢神経が障害される「ギラン・バレー症候群」、空咳や息切れを伴い時に命にかかわる危険もある「間質性肺疾患」、視力障害を引き起こす「ぶどう膜炎」など多岐にわたる。

「自己免疫性の副作用は、投与開始から1~2年以降に突如発症することもあります。しかも従来の抗がん薬と違い、主治医だけで対応しきれない副作用も多く、われわれも各診療科の専門医師に相談が必要な場合も少なくありません。つまり医療機関の総合力が求められる治療であり、患者さんも総合病院でこの治療を受けることが望ましいです」(清田医師)

 非常に進行したがんを長期間安定させるというこれまでにない可能性を秘めている半面、未知の危険性もはらんだ治療であり、患者自身も投与中に何気ない症状に気を配り、かかっている病院とよく相談しながら受ける必要がある繊細な治療というのが実態のようだ。

がん看護専門の看護師がいるって知っていますか?

入院しているとき、頼りになるのは医師よりも看護師かもしれない。病気を治療するのは医師だが、ベッドサイドに常にいてくれるのは看護師で、いい看護師が担当になれば患者たちは時に癒され、時に勇気をもらうことができるからだ。幸い、私は健康で、入院経験といったら39歳のとき高齢出産のため帝王切開を受けた1回。公立の総合病院だったが、そこでとても素敵なひとりの看護師と出会うことができた。

看護師には何でも話せる

もう20年も前のことだが、何でも100%知りたがりの私は、自分の体の変化や胎児の様子についての質問が多く、産婦人科の担当医をかなり困らせていた。検査や処置に対し、いちいち聞く私に医師は「あんまり聞かないでよ」と呟いたこともあった。その傍らでいつもニコニコしていたのが看護師の直子さんだった。彼女は私の性格を見抜いて、入院中はベッドサイドでいろんな話をしてくれ、また私が知りたいと思っている情報は可能な限り伝えてくれた。さらに退院前には「友だちとして」と自宅の連絡先まで教えてくれたので、慣れない育児で困ったとき、私は直子さんに連絡してアドバイスをもらうことができたのだ。

時にはがん患者といっしょに泣く

直子さんは、学生時代にがんで他界した親友のナースになるという夢を叶えるべく看護師になったと話してくれた。親友のベッドサイドで「私があなたの代わりにナースの帽子を被るから」と約束したのだそう。そして、そういう辛い経験があったからこそ彼女は患者とその家族に寄り添う看護師になれたのだとも思う。末期がんの患者と夜の病室で、時にはいっしょに涙を流すときもあるそうだ。「ひとりひとりの患者が、どんなときも、これがいい人生だと思えるように、そして、最期はとにかく安らかであるように寄り添うのが私の仕事」と直子さんは言っている。

がん看護の夜明け

『看護職プロフェッションの誕生』(関口恵子・著/学研プラス・刊)は、国立がんセンターの創成期の看護師たちが語った現場の話をまとめた貴重な一冊だ。国立がんセンターは1962年に創設され、そのとき同時に“がん看護”という概念も初めて示されたという。

初代総婦長の石本茂さんはこう言っていたそうだ。

「がんは伝染病ではなく、がん細胞が転移する病気であり、絶対安静とする結核患者の看護とは違う。したがって病態をしっかりと知って、そして患者の活動能力、容態看護に重点をおくことが必要である。患者さんの『患』は医師、『者』は看護婦がみる」

(『看護職プロフェッションの誕生』から引用)

石本さんは主体的な看護実践と患者の身体的、精神的苦痛の軽減という看護理念を掲げ、ベッドサイドケアを重視した。その後、国立がんセンターの婦長たちは、全国的な研修会の講師となり「がん看護」を広めていったのだそうだ。こういった先駆者たちの努力があり、1996年にはがん看護専門看護師が誕生した。さらに、1999年からは、がん化学療法看護、緩和ケア、がん性疼痛看護、乳がん看護、がん放射線療法看護などの認定看護師たちが続々と誕生してきている。

看護とは何かを問い続け

著者の関口さんは看護学校を卒業後の1969年から1975年まで国立がんセンターに看護師として勤務。その現場は苦しむ患者や死亡する患者も多く、辛いことが多かったそうだ。しかし、側にいる人間のもつ力の意味を意識し、体験し、味わうという看護の仕事の充実感も実感できたいう。この本では関口さんが国立がんセンター創成期に活躍した看護師たち、そして看護職を取り巻く医師や事務職員からも、それぞれの体験談を聞き出し、それらを克明に綴っている。

看護職が体験したことを語り、記述することは、客観視でき自分を見つめることである。また様々な気づきが生じ、それが患者を見る眼、患者への接し方、ひいては人間を見る眼を成熟させる。がん患者・家族は特に感性が鋭くなっている。がん看護において看護師自身の内面の成長、成熟度が、患者・家族との信頼関係に直結する。

(『看護職プロフェッションの誕生』から引用)

患者の思いを知り、援助する

がんは日本人の死因の第1位で、その割合は年々増している。が、早期発見で治療を受ければ、その8割は完治できる言われている。とはいえ、「がんは怖い病気」という患者の思いは変わらない。その時、苦しみ、恐怖、孤独、寂しさなどを感じ取ってくれるのはベッドサイドにいる看護師たちだ。もしも、がんになってしまったら、その思いをプロフェッショナルであるがん看護師たちにぶつけてみよう。彼らはきっと、ひとりひとりに適したケアをしてくれるはずだ。

肝がん ラジオ波治療は3センチ以下、3個以内の場合

肝がんの約9割は、B型、またはC型の肝炎ウイルスを持っているために発症する。日本大学板橋病院・消化器外科教授の高山忠利医師はこう話す。

「10年くらい前までは肝炎ウイルスに対する効果的な治療法はありませんでしたが、現在では患者の7割近くはインターフェロンという注射薬で体からウイルスを駆除できるようになりました。

臓器別のがん死亡率では、肺がんや大腸がんなどほとんどのがんが右肩上がりで増えているのに対して、肝がんだけがやや減少傾向にある。これもウイルスが排除できるようになった予防効果が大きいと思います」

 肝がんの主な治療法は「手術(肝切除術)」「ラジオ波燃灼療法」「肝動脈塞栓療法」の三つだ。病巣を切り取る手術に対し、ラジオ波は、腫瘍に直接電極針を刺し、針の先から発生する熱によってがんを死滅させる。

肝動脈塞栓療法は、がんに栄養を運んでいる血管を人工的に塞いで“兵糧攻め”にする方法だ。

 治療方針は「がんの数と大きさ」「肝機能」「年齢」を参考に決定する。

「手術とラジオ波は治療効果に差がないと誤解されることもありますが、がんを最も根治しやすい、つまり生存率が高い治療は手術です。しかし肝炎ウイルスを持つ患者さんは、そもそも肝機能が良くないことが多い。

肝機能が悪かったり、あるいは高齢などで手術に耐えられなかったりする場合には、体への負担が少ないラジオ波を推薦します」(高山医師)

 ただしラジオ波で治療ができるのは、腫瘍が3センチ以下、数が3個以内の場合だ。一方、手術も3個までだが、大きさに制限はない。

「患者さんから『ラジオ波で治療できないか』と言われても、受診してきた段階で3センチを超えていることが多い。また、ラジオ波を適用できるケースでも、治療成績が手術と同等ということはなく、手術が上です。最初に検討すべきは、あくまでも高い生存率を達成できる手術です」と高山医師は話す。

 がんが4個以上の場合は、肝動脈塞栓療法を実施する。患者が初回治療として受ける治療法の割合は「手術30%、ラジオ波30%、肝動脈塞栓療法40%」だという。

 また、肝がんのほとんどはウイルスが原因で肝臓全体ががんになりやすい状態になっているため、同じ肝臓でも、治療をした部位とは別のところに再発する「多中心性発がん」も多い。「取り残しで再発するケースは5%程度。9割以上は多中心性発がんです」(同)

 再発でも、がんが3個までなら再度手術かラジオ波で治療し、4個以上であれば肝動脈塞栓療法をする。

「再手術が難しい場合でも、肝動脈塞栓療法のおかげでかなり長生きができます。また分子標的薬を中心とした化学療法も大きく進歩しています」(高山医師)

 なお最近、腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術を肝がんにも実施しようという動きがある。しかし高山医師はこう話す。

「肝臓は血管が豊富な臓器なので出血の危険があり、腹腔鏡下手術は難しいとされてきました。新しく出てきたものが必ずしもいいわけではありません。これまでの手術法との客観的な比較をし、いい成績が出たときは取り入れていけばいい。『患者さんにとって真に利益になる治療であること』が最も重要なのです」

尿を調べればがんがわかる?

日立製作所と住友商事グループは、尿を使って乳がんや大腸がんの患者を識別する技術を開発し、

今年6月に発表した。健康な人、乳がん患者、大腸がん患者、各15人の尿中から糖や脂質など1300以上の代謝物を取り出して比較。患者かどうかで含有量が大きく異なる物質を200以上見つけ出した。

さらにその中からがんと関連が深いと思われる約10種類を指標(バイオマーカー)として絞り込むことでがんの有無に加え、乳がん・大腸がんの種類の識別にも成功したという。

 日立で開発に当たった基礎研究センタの坂入実チーフサイエンティストはこう話す。

「尿なら簡単に苦痛なく採取できる。検査による被曝もありません」

●簡易な実用化目指す

 現段階では、どの程度の進行具合のがんから見つけられるのかなどはわかっていない。

今後は臨床データの件数を増やし、精度の向上を図る。また、若い女性に多い乳がんと大腸がんから研究をスタートさせたが、特定できるがんの種類も増やしていきたいという。

「将来は、検査キットなど簡易な方法で実用化を進めていく方針です。

受診者が自宅で採った尿を検査機関に送付するだけで正確に診断できる仕組みを確立し、がんの早期診断や早期治療につなげたい。がんを治療したあとの再発の早期発見にも使えるのでは、と考えています」(坂入さん)

がんになりたくないなら 塩分・熱いものはNG やせすぎもリスク大

国立がん研究センターが6月29日に発表したがん罹患率は、都道府県によって大きな差があった。食生活や運動の仕方、ライフスタイルなどでリスクが違う。がんにならないためにはどうすればいいのか。

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 がんは、予防できる。

 国立がん研究センターによれば男性のがんの53.3%、女性のがんの27.8%が、努力次第でがんの予防が可能だという。男女差がこれだけ大きいのは、喫煙や飲酒などがんのリスクとなる生活習慣が、男性のほうに多いからと思われる。

 同センター「社会と健康研究センター」の津金昌一郎センター長はこう話す。

「がんは20~30年かけて発生し、最終的には命を奪うこともあります。若いうちから、がんに罹らない生活習慣を身につけることが大切です」

 がんは遺伝が関係するものは5%程度。ほとんどが食生活や運動などの生活習慣が大きくかかわる。では、どのような生活習慣ががんを防ぐのか。身近な食生活から見ていきたい。

 まずは、塩分。

「日本食は魚介類や野菜を中心とするなど世界的に見ても素晴らしい食生活ですが、唯一の欠点は、高塩分ということ」(津金氏)

 塩分を摂りすぎると、胃酸から胃を保護する粘液を溶かし胃粘膜が炎症を起こしたりするため、胃がんが発生しやすくなる。

 6月29日、国立がん研究センターは全国47都道府県のがんの罹患状況を初めて公表した。2012年のデータを解析し、25種類のがんの罹患率などを、男女別に算出した。

 胃がんは秋田県が最多で、続いて石川県、山形県、富山県など日本海側の地域で高い値が出た。これは日本海側に特徴的な、漬物や干物など塩分の多い食生活が深くかかわっていると考えられる。秋田県の1日あたりの食塩摂取量は11.1グラムと全国平均(10.4グラム)を0.7グラム上回り、全国トップクラス。秋田県では食生活の減塩を奨励しているが、食生活習慣は簡単には改まらない。

 そうした中、県を挙げて「減塩運動」に取り組んできたのが、今や「長寿日本一」で知られる長野県だ。もともと長野は雪国ゆえ塩分摂取量の多い土地柄で、1960年代には脳卒中の死亡率が全国上位だった。そこで官民一体で減塩運動に取り組んだ。

 中心となったのが「食生活改善推進員」、通称「食改さん」だ。松本市に住む三好美恵さん(66)もその一人。食改さん歴約20年。月に1回ほどボランティアで料理教室を開き、塩分を控える食事などの指導をしている。

「理想の食塩摂取量は、何グラムと重さで言ってもわかりません。食べて濃いと思ったら、薄味にしてくださいね」(三好さん)

 こうして長野県の1日の食塩摂取量は、80年は15.9グラムだったのが、13年には10.6グラムと3分の2に減った。食改さんは長野県全体で約3500人。時には家に上がり込んで、味噌汁の塩分濃度を測ることもあるそうだ。

「地道な活動ががんの発生を抑えたりして、長寿の要因となっているのではないでしょうか」(松本市健康づくり課)

 食塩を控える以外に、がん予防に効果がある食生活は何か。同センターはどんな生活習慣ががんのリスクを上げ下げするのかを評価している。

「ほぼ確実」に肝がんのリスクを下げるのはコーヒー。ほとんど毎日飲むと発生率が約50%、1日5杯以上で約70%リスクが減るというデータもある。

 ただ、熱い飲食物は、食道の粘膜を傷つけるので食道がんのリスクを「ほぼ確実」に上げる。熱いお茶やコーヒーが好きな人は、なるべく冷まして飲んだほうががんリスクを下げることになる。熱い茶粥を食べる習慣のある奈良県や和歌山県で、かつて食道がんの罹患率が高かったのはこのためと考えられている。

 ほかにも野菜は胃がんのリスクを下げる「可能性あり」、果物は胃がんと肺がんのリスクを下げる「可能性あり」と評価されている。魚は子宮頸がん、女性が緑茶を飲むと胃がんのリスクを下げる可能性もある。

 ただ、いくら魚はいいとはいってもこげはよくない。こげた部分にはヘテロサイクリックアミンという発がん物質が含まれ、これを化学的に合成して実験動物に与えたところ、発がん性が確認されている。だが、この実験を人間に当てはめると、毎日茶碗1杯もの焼けこげを食べ続けるようなものなので、極端に心配することはなさそうだ。

 それよりも「バランスのいい食事が大事」と津金氏。

「塩分を控え、例えば、魚を食べた翌日は鶏肉にして、その翌日は牛肉にする。こうしてバランスのよい食生活を送ることが、結果的にがんの予防や健康長寿につながります」

■1日1時間の歩行が理想やせすぎもリスクは大

北海道帯広市で今、がん予防で注目されている体操がある。その名は「オビロビ」。「おびひろエアロビクス」の略称で、市が独自に考案した。

 基本は足踏みだが、片足立ちやスクワットなど、音楽に合わせ10分ほど体を動かしつづける。

「一度で50キロカロリー近くを消費できます」

 と、オビロビを考案した、健康運動指導士で市健康推進課主査の長谷川昌二さん(45)。がん死亡率の高い同市は13年から、健康増進計画の重点課題の一つに「がん対策」を掲げた。適正体重を保つ手段として、健康運動指導士を配置しオビロビでがん予防を目指している。

 運動は、がん予防の決め手の一つだ。大腸がんのリスクを「ほぼ確実」に下げ、乳がんリスクも下げる「可能性あり」だ。

 津金氏によれば、体を動かすことで腫瘍増殖を促進する作用があるインスリンの分泌が抑えられるためだという。また、運動で便通を整え、発がん物質が腸管粘膜に触れる時間が短くなる効果などもあると考えられている。

 かと言って、激しい運動はNG。体内に活性酸素などのフリーラジカルを発生させ、逆に細胞を傷つけてしまう可能性がある。理想的な運動は、1日計1時間程度の歩行と、週1回の汗をかく程度の運動だ。

 では、理想的な体形とはどのようなものか。

「肥満は万病の元」などといわれるが、ならば、やせればいいかと思いきや、

「やせすぎている人こそ注意が必要です」(津金氏)

 栄養不足による基礎代謝や免疫機能の低下などが、がんの発生に関与してくるそうだ。とくに男性は、BMI(肥満指数)21未満は、同23~24.9のグループに比べ、がんの死亡リスクは17%高い。女性も若い頃やせているとその後、乳がんの発生リスクが高くなるというデータが報告されている。津金氏が推奨する体形は、中高年では、男性はBMI21~27、女性は同21~25の維持だ。

「普段から体をよく動かし、太りすぎずやせすぎないことが、がんを防ぐために大切なのです」

がんを狙い撃ちするスナイパー登場

放射線治療も進化している。肺がんと診断された男性(78)は、主治医から「手術でも放射線でも治療できる」と言われ、驚いた。放射線治療は手術ができない人が対象だと思っていたからだ。

 放射線治療は切除手術と同じ局所療法だが、臓器の形態や機能を温存でき、体への負担も軽い。高齢や持病で手術はできなくても、放射線治療ならできることも多い。

 しかし放射線ががん周辺の正常組織に当たることによっておきる、炎症などの合併症がネックだった。神奈川県立がんセンター放射線治療科の中山優子医師はこう話す。

「ここ十数年の間に、照射装置が高機能化し、さらに照射範囲を決めるための画像技術も向上したおかげで、正確にがんをしぼりこむことができるようになりました。ひと昔前とは違う、根治を目指すことができる有力な治療手段になっています」

●がんの形に合わせ照射

 以前は四角いビームを1~4方向からがんに照射していたので、周囲の組織にも同じ線量がかかっていたが、ビームをがんの形に合わせて成形し、照射する「三次元原体照射」という技術が開発された。

 それをさらに進化させ、照射範囲の中で線量の強弱をつける「強度変調放射線治療(IMRT)」も登場した。複雑な形の腫瘍にも合わせて照射できるようになり、前立腺がんや頭頸部がんなどの根治治療に利用されている。
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 また、小さい腫瘍の根治に抜群の効果を上げているのが、「定位放射線治療(SRT)」だ。

 ピンポイント照射とも言われ、多方向(6~10方向)から高線量の放射線を数ミリ以内の精度で病巣に集中させて、狙い撃ちする。

 1回の線量が高い分、治療期間も短い。通常の放射線治療では2グレイを30回程度照射しなければならないが、1回12グレイを照射できる定位放射線治療は4回程度で終わるので、患者の通院負担は格段に軽く済む。

 脳腫瘍専用治療装置のガンマナイフがよく知られているが、早期の肺がんや肝臓がんもこの治療単独で根治が期待できる。

 なお、肺や腹部は、照射中に呼吸によって臓器が動き、正確に治療することが難しかったのだが、がんが呼吸によって動く動きにあわせて照射したり、ある範囲に腫瘍が入ってきたタイミングのときのみ照射する技術のおかげで、治療がしやすくなった。

「今後さらに高齢化が進む中で、放射線治療で救われる患者さんは増えていくと予想しています」(中山医師)

ちょっと気になる「がんとコーヒーの関係

■コーヒーとがんの意外な関係
私は、タバコは吸わないのですが、コーヒーは大好きです。朝の目覚めの一杯に始まり、職場でちょっと一息というときに頂く一杯、そして、夕食後に家族で楽しむ一杯と、日によって変化はありますが、1日に3-4杯はコーヒーを頂いています。

私のお気に入りは、大きめのカップに豆乳をたっぷり入れて飲むバージョン。子供たちからすると、「真っ黒くて苦い飲み物に、豆乳を入れるなんて!」というところなのでしょうが、私にとっては、楽しみな習慣になっています。もう、20年以上飲んでいるコーヒーとがんとの関係となると、私もちょっと気になります。ここでは、コーヒーとがんの意外な関係について、データを交えてご説明したいと思います。

■1日3杯以上コーヒーを飲む女性は……
厚労省の研究班(主任研究者:津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)は、40-60歳代の女性約5万9000人に対して、15年間追跡調査を行い、コーヒーを飲むのが週に2日以下というグループに対して、毎日3杯以上のむというグループでは、子宮体がんになるリスクが約6割減少していたという結果が得られたことを発表しました。

ちなみに、毎日1-2杯というグループでも子宮体がんのリスクが、約4割減少していました。

この研究班は、喫煙や食生活とがんの発生との関連を大規模な調査で研究しているグループですが、今までにも、コーヒーを3杯以上飲む女性のグループは、週に2日以下のグループと比較して、浸潤結腸癌になるリスクが約4割になるという研究結果を報告しています。

同じ研究班の調査結果で、肝臓がんとコーヒーとの関係に関するものがあります。この結果では、男女を問わず、コーヒーを飲む習慣がない方に比べ、肝臓がんのリスクは毎日1-2杯のむ方では、約半分に、毎日5杯の方では約1/4に減少することが報告されています。

いずれも、信頼できる機関から発表されているデータですので、コーヒー党でない方にとっても、気になるデータかもしれませんね。

■まずは冷静に考えましょう
実は、話をひっくり返すようですが、前述のような調査結果のほかに、「コーヒーが膀胱がんのリスクを上げた」という結果や、「血圧が上がる」「胃が荒れる」という健康への悪影響を示唆する結果が報告されているのも事実です。

たとえば、肝臓がんの原因であるC型肝炎に罹患しておられる方は、肝機能の影響もあり、コーヒーの飲用を控えている可能性があるということや、喫煙の有無についての影響が完全に排除できているのかということなど、調査の対象となる母集団に様々なひずみがないのか、ということもよく考えなくてはなりません。

それに、コーヒーの銘柄が関係あるのか、ブラックで飲む場合と、砂糖やミルクをどっさり入れる場合の違いは、とか、缶コーヒーとインスタントコーヒーと、ドリップで入れるものとの違いは、などなど、色々な条件が関係するのかどうかも考慮する必要があります。

よって、結果を早急に鵜呑みにせずに、まずは、そういうこともあるのか、というスタンスで、頭の片隅に入れておくというのが、コーヒーに限らず、食べ物とがんとの関連のニュースを見たときには大切だと思います。

■コーヒーを楽しもう!
今後、色々な研究が進むにつれて、コーヒーに含まれている成分ががんの発生や予防に影響を与えることが明らかになっていく可能性は十二分にあります。でも、健康増進のために、コーヒーをがんばって飲むぞ!というのは、ちょっと違うかなぁ、とも思います。

重要なミーティングが終わり、スタッフとともに、カフェで頂くコーヒー。人気のお店で、極上のスイーツといただくエスプレッソ。1日が終わり、ほっとして、ドリッパーにお湯を注いで家族と楽しむソイラテ。コーヒー好きの私にとっては、どれも、生活に彩りを与えてくれる、大切な一杯です。

大切な仲間や家族と笑い、語らいながら頂く一杯。その時間を楽しむことが、実は、最高のがん予防では、と密かに思います。みなさんも、あまり色々と考えずに、楽しいコーヒータイムを!

危ないのはコーヒーじゃなかった! 「温かい飲み物」「マテ茶」に発がんリスク

世界保健機関(WHO)の研究部門である国際がん研究機関(IARC)は、これまで発がんリスクがあるとされていた「コーヒー」にはリスクはほとんどなく、代わりに「マテ茶」や「65℃以上の飲み物」にリスクがあったと発表した。

IARCは人のがん発症リスクを高める環境要因を特定、評価するために、WHOが各国のがん研究専門機関と共同でフランスに設置しているワーキンググループ。

人を対象に、発がん物質の暴露の影響を研究した論文を調査し、リスクの高さに応じて「グループ1(発がん性あり)」から「グループ4(発がん性なし)」に分類しているが、これが発がん性や発症率の高さを意味しているわけではない。

コーヒーは、1991年にIARCが「グループ2B(おそらく発がん性あり)」であると分類したが、その後の疫学研究や追跡調査から、リスクを認めるほどのエビデンスが確認されず、当時の調査結果には矛盾やバイアスがあったとし、グループ4に分類された。

新たにリスクありとされたのは、南米でよく飲まれている「マテ茶」と「65℃以上の温かい飲み物」で、IARCの発表では、どちらもマウスやラットを使った限定的な実験で、食道がんとの関係が示唆されている。

コーヒーのリスクも、温度によって異なっていたことを見落としていたとしており、温かい飲み物は、温度が上がるほどリスクが上昇するとされている。マテ茶は温度に関係なく、リスクが上昇するという。

ただし、一連の発表に対し、米国立衛生研究所などの研究機関は「火傷をさけるためにホットドリンクを冷ますのはともかく、食道がん発症リスクを下げたいのであれば、喫煙や飲酒をやめるべき」とコメントしている。

アメリカに学ぶ なぜ、がん生存者が増えているのか?

アメリカでは、がんを患ったものの治療によって完治した人、完治はしていないが日常生活をきちんと送りながら生活できている人が増えているという。なぜなのだろうか。

アメリカでがん生存者が増加傾向に
 アメリカのがん協会が、がん生存者が2016年に1550万人に達し、今後の10年で2000万人を超える予測を発表した。増えている理由についてがん協会は、がんの発見と治療技術が向上したからとしているが、それとともに人口の増加なども関係しているようだ(※1)。

日本ではがん死亡者が増加
 日本の現状はどうだろうか。国立がん研究センターの統計を見ると、男女ともにがんになる人も、がんで死亡する人も増加し続けている。2013年のがん死亡数は1985年の約2倍にもなっている。人口の高齢化がその主な理由と同センターでは分析している(※2)。

 アメリカと同じ条件で数値化された統計がないので比較がしにくいが、世界保健機関(WHO)が日本・フランス・イタリア・イギリス・アメリカの5カ国のがんの死亡率をまとめたデータがある。男性に限っての傾向にはなるが、日本を除く4カ国では、1980年から1990年の間にピークを迎え減少傾向が認められる一方、日本では、少し遅く、最近になって減少傾向にある(※3)。

35年の後れを取る日本
 日本は減少の傾向が他国より遅い。その理由の一つになるのが、がんに対する国の対策だ。日本では「がん対策基本法」が2006年6月に成立した。一方、アメリカは35年も前の1971年に「米国がん法」を成立させている。このように、国を挙げてがん対策に乗り出したスタート時期が違うのが大きい。加えて、アメリカは世界のがん研究をリードしている国とされている。また、がん患者団体が国に対してがん対策を呼び掛ける動きが盛んで、国を動かす大きな存在となっているから、との指摘もある(※4)。

アメリカで盛んな「代替医療」とは?
 アメリカでがん生存者が増えている背景の一つとして、「代替医療」が積極的に行われていることについても知っておく必要がある。「代替医療」は日本人には、まだまだなじみの少ない言葉だが、外科的手術や化学療法ではなくて、漢方、ハーブ、サメ軟骨、プロポリス、気功…など、普通の病院では行われない医療のことだ(※5)。ハーバード大学の調査では、アメリカ人の3人に1人は何らかの代替医療を受けているそうだ。また、代替医療に関する政府機関まで存在するほどだ(※6)。

サプリメント市場も拡大傾向に
 サプリメントを取ることも代替医療の一つだ。アメリカでは6割の人がサプリメントを服用している。しかも、その3分の1が医師によるアドバイスによるものだという。米国食品医薬品局(FDA)によると、サプリメント市場は年々拡大していて、1994年の81億ドル(約8,200億円)だったのが、2000年には171億ドル(約1兆7,000億円)と6年間で2倍以上の規模になったという(※7)。
 
がんに対する治療は、日本では一般的には、外科的手術や化学療法などが第一選択肢だ。代替療法に効果があるかどうかは別にして、患者にとって治療の選択肢が増えることは良いことであり、もし、がんを克服できるのであれば、それ以上、望むものはないというのが患者の本音だろう。

がん死亡率に「驚きの地域格差」があった!?

シニアにとって無視できないこの病。なんと、住んでいる場所と深い因果関係があるという。徹底リサーチすると!?

 今や、日本人の死因のトップとなった「がん」。国民の死亡総数のうち、なんと3割弱を占めるというこの疾病だが、地域によって死亡率が違うというその順位を最終ページの表で示したので、ご覧いただきたい。国立がん研究所の最新データベースから、人口10万人当たりのがん死亡者数を抽出し、全体および部位別に死亡率の順位をつけたのが同表だ。地域によって差があるのが、分かるだろうか。

 健康雑誌記者が語る。「全国平均を100とした場合、がん全体では死亡率ワースト1の青森県の比率は120以上。一方、47位(最下位)の長野県は約80と、実に1.5倍にもなるのです」

 肺、大腸、胃、膵臓、肝臓の5大がん別に見ると、この差はもっと顕著で、「たとえば肝臓がんの場合、ワースト1の青森県と、47位の滋賀県とでは実に約2.2倍。胃がんは、秋田県と熊本県で同じく約2.2倍にもなります」(前同)

 肝臓や胃ほどではないが、大腸では約1.8倍、肺では約1.7倍、膵臓では約1.6倍と、やはり歴然とした差がある。なぜ、これほどの地域格差が出るのだろうか。「昨年6月号の『中央公論』誌に掲載されたルポによると、地域格差が出る最大の原因は、全国に350か所ある『がん診療拠点病院』が、大都市や県庁所在地などに集中するためだということです。それ以外の地域に住む患者は、一定の水準を満たすがん治療が受けられず、死亡率が高くなるというのです」(同)

 同ルポでは、誰もが受診できるように拠点病院の早急な拡充を提言している。医療ジャーナリストの牧潤二氏が補足する。「ざっくり言えば、現在、かかりたくても拠点病院にかかれない空白地域は、全国で2~3割はあります。北海道や青森県、秋田県、鳥取県など、人口が密集していない地域の死亡率が高い理由の一つは、これでしょうね」

 とはいえ、大都市を抱える地域の中でも、ワースト入りしているところもある。これは、なぜだろうか。「大都市ならではの経済格差が原因かもしれません。残念ながら、いくら拠点病院が近くにあっても、なかなか病院にかかれない貧困層もいますから」(前同)

 なお、最近の研究によると、貧困層は喫煙傾向が強いために肺がんになるリスクが高く、また食事のバランスを考えない傾向も強いので、大腸がんにかかる可能性も高いのだという。

 さて、ここで、それぞれの地域にも注目してみよう。塩分の摂り過ぎは、胃がんの原因とされるが、「特に寒さの厳しい日本海側の東北・北陸地方は、食べ物を塩蔵する文化がありました。いまだに、その塩気の多い物をとる食文化が残っていることも大きな要因でしょう」(前同)

 では、同じ日本海側とはいえ、東北・北陸からかなり離れた鳥取県が、がん全体でワースト3入りしているのは、なぜなのか。「これに関しては、拠点病院の少なさもありますが、同県の飲酒率の高さも考えられますね」(前出の健康雑誌記者)

 厚労省のデータによれば、都道府県別で飲酒習慣者の割合が最も高いのは、青森県(52%)。次いで、鳥取県(49%)が堂々2位なのだ。いくら「百薬の長」でも、飲む量はほどほどにしておいたほうがよさそうだ。

 さらに、西のほうに目を向けてみよう。九州の7県は、全体ではどこもワースト圏内に入ってないどころか、むしろ良い位置につけているところも少なくないのに、なぜか肝臓がんに関しては、佐賀県が3位、福岡県が5位、宮崎県が6位に入っている。

 予防医療学を専門とする、新潟大学名誉教授の岡田正彦医学博士に分析してもらったところ、「がんの発生は、食生活や運動、患者それぞれの個別事情、遺伝などの、さまざまな条件が幾重にも重なっているわけで、一要因で語れるほど単純なものではありませんが……」と前置きした後で、“風土病”の可能性を指摘してくれた。

「かつて、ウイルス性の白血病が沖縄県、鹿児島県、宮崎県などに偏在していたことがあり、風土病とも言われていました。肝臓がんの原因も、約9割はB型、C型肝炎ウイルスですから、その可能性もないとは言えません」

 さらに東北地方については、「個々人の生活習慣や、他の要素もありますが、近年、遺伝子研究が進んだ結果、東北地方のがん死亡率が総じて高いのは、その地方で代々受け継がれてきたDNAが関係している可能性も考えられます」と示唆する。とはいえ、「これからの時代は、人々の交流が活発になり、同じ地域の人以外と交わる機会が増えるでしょうから、都道府県別の格差は次第に少なくなるでしょう」(岡田博士)

 さて、ここまで死亡率の高い都道府県ばかりに目を向けてきたが、逆に低い地域にも触れてみたい。がん全体の死亡率が最低の47位なのが、長野県。全国平均(100)との比率は80弱で、90前後の滋賀県(46位)および福井県(45位)と比べても、飛び抜けて優秀だ。

「長野県はかつて、脳卒中になる患者が多く、寝たきり老人も多かった。それで県民を挙げて減塩運動に取り組んだのです。また、長野は高原野菜の特産地で、一人当たりの野菜摂取量は全国一です。これが胃がんや肝臓がんの予防に、功を奏したのでしょう」(前出の牧氏)

 その結果、長野県は今や都道府県別の平均寿命でも、全国1位なのだ。これに対し、かつて長寿1位だった沖縄県は、がん全体で97.6と、全国平均よりちょっといいだけの位置にランクダウン。大腸がんでワースト2位に落ちたのが、凋落の原因だ。「厚労省データによると、沖縄県は肥満者の割合が45.2%と、全国で1位なのです。大腸がんの大きな要因の一つは食の欧米化と見られていますが、それは沖縄で顕著で、肥満者が多いのも、その結果かも」(健康雑誌記者)

 なお、岡田博士によれば、「さらに多大な時間とコストをかけて、正確なデータを収集しないと、科学的根拠のある地域格差は分からない」のだという。ともあれ、がんで寿命を縮めたくなかったら、次の5つのことを守るべきだろう。

・偏食しない
・塩分を摂り過ぎない
・喫煙は控える
・飲み過ぎない
・適度な運動をする

 47都道府県に共通する鉄則で、がんを防いで健康を心がけたい。

肺がんのサインかも…「咳」を正しく見極めて正しく治す

たばこのフィルターに穴を開けた、いわゆる「軽いたばこ」が、ここ数十年の肺腺がん増加の要因と指摘する論文が英医学誌に掲載された。18日には歌舞伎俳優の中村獅童(44)も肺腺がんを公表。一般的な症状として「治りにくい咳」があるが、どう対処すべきか?

「たかが咳、されど咳」と言うのは、昭和大学病院呼吸器・アレルギー内科の相良博典教授。ありふれた症状ゆえに放置しがちだが、重大病のサインの可能性がある。 まず、専門医を受診するタイミングは「3週間」と覚えておこう。

 咳が続いても3週間くらいまでなら風邪などのウイルス感染がほとんどで、一般のクリニックでも対応できる。しかし3週間を超えると、「肺がん」「咳喘息」「COPD」(慢性閉塞性肺疾患)、呼吸器疾患ではない「逆流性食道炎」などが疑われる。呼吸器内科医でなければ鑑別が難しい。

「ただし咳喘息の診断には注意してください」

 そう相良教授が指摘するのは、咳喘息の誤診が増えているからだ。風邪の後などに気道が狭くなり、もともと持っていたアトピー素因や気道の反応性(気道が狭くなりやすい)が高まり、刺激に過敏になって咳が続くのが咳喘息。3分の1が喘息に移行するといわれるため早期治療が肝要だが、最近は「治らない咳=咳喘息」と安易に診断される傾向があるという。

「咳は、痰が絡む湿った咳とコンコンという乾いた咳に分けられ、咳喘息は後者。確定診断には、症状がいつ起こりやすいかという時間的な特徴、炎症を表す呼気中の一酸化窒素の量を測るNO測定、痰や血液の好酸球の量の測定、気道の反応性などが必要です」 もしこれらが行われておらず、処方薬(気管支拡張薬)を1週間服用しても症状が改善しなければ、咳喘息ではない可能性が高い。

■喘息の薬は進歩が目覚ましい

 咳止め薬(鎮咳薬)をすぐ処方された時も注意が必要だ。 「咳に詳しくない医師は『咳が出たら止める』治療をしがちですが、これが非常に問題。特に痰が絡む咳は、咳が痰を出しやすくしているので、絶対に鎮咳薬を処方してはいけないのです」薬の進歩が目覚ましいのが喘息だ。「発作が起きたら抑える」治療は過去の話で、今は日常的に薬を吸入または服用し、発作を起こさないようにする。正しく治療を受けていれば、喘息を起こさず社会生活を送れる。

「ところが、薬の継続率はかなり低い。喘息は半永久的に治療を続けなくてはなりません。治療の意味をしっかり認識していないため、症状が鎮まれば『治った』と思い、薬をやめてしまう。実際は軽い炎症が続いており、疲労や風邪などちょっとしたきっかけで発作を起こす恐れがあります」

 喘息で使う吸入ステロイドへの抵抗感もいまだ強いが、吸入なので作用は局所的。飲み薬と比較しても量は100分の1と少なく、安全性は保証されている。喘息患者には、正しく薬を飲んでいるのに症状がよくならない高齢者がいる。この場合、喘息の薬である気管支拡張薬が逆流性食道炎を引き起こしているケースもある。

「呼吸器内科医であれば、それも念頭に置いて治療法を考えます」 喫煙者で40歳を越えていれば、咳がひどくなくてもCOPDの検査を受けるべき。長年の喫煙習慣で肺の中の肺胞が壊れ、進行すれば呼吸困難になって寿命を縮める。

「咳や息苦しさなどの症状があるはずですが、その状態に慣れてしまって自覚していない人が大半です。治療を受けている人は3%ほどです」なお、ここで挙げた内容は、「治らない咳」で患者が速やかに受診し、MRIや超音波で肺がんなどがないことを確認していることが大前提だ。

あごにがん転移の麻央、予断許さない状況 海老蔵「本当につらいとひたすら吐露することも」

乳がんで闘病中のフリーアナウンサー、小林麻央(34)。最近では、酸素吸入器を付けた写真を投稿したり、痛みが激しいことなどをブログでつづっていたが、顎に転移したことが明らかになった。一進一退の病状が続いているという。

 夫で歌舞伎俳優、市川海老蔵(39)が28日、舞台の取材会で、麻央がブログでつづったことに触れて、「顎のこととか、いろいろありますけど、栄養をとって免疫を上げていかなければならない」と語り、「一進一退の日々で、本当につらいとひたすら吐露することもある」とも。

 海老蔵は、自ら作った特製スープを病床に届けていることを報道陣から聞かれると「妻は日々、闘っていますから」と語り、「粛々と未来を見つめて私は頑張る。日々、心の強さを学ばされている」と目を赤くした。

 麻央の病状は予断を許さない状況が続いている。今月11日には、よりスムーズに点滴を行えるように、点滴用のポートを鎖骨の下の血管に埋め込んだことを報告。

 22日には酸素吸入器の装着感をよくするため、鼻の中にワセリンを塗ったことを明かし、その写真も投稿。海老蔵も同じ日の自身のブログで、「飲み込めないらしく、粉々に」と砕いた錠剤の写真を掲載していた。

 さらに4月22日に再入院して以降、痛み止めの量を増やしたことを明かしていた麻央だったが、最近では、その痛み止めも飲み薬からテープに変えている。

 そして、今月24日には、痛み止めテープを増やしたことを明かし、そのため、眠気が増していることも報告していた。

6割は手術ができない“肺がん” 副作用少ない新薬で新たな光

 抗がん剤、分子標的薬で、さまざまな薬が開発され、治療の選択肢が増えてきた進行肺がんだが、さらに、延命や根治できる割合の高い免疫療法薬(免疫チェックポイント阻害薬)が登場した。肺がん薬物治療に新たな光が見えた。

 肺がんは、年間13万3800人がかかる。年間死亡者数は7万7300人で、がんのなかで第1位だ(2016年がん統計予測・国立がん研究センター)。ミュージシャンの吉田拓郎さんや俳優の柴田恭兵さんらも患った経験を持つ。根治を目指すには手術が不可欠だが、肺がんは無症状で進行し、転移もしやすいため、6割ほどは手術ができない進行がんで見つかる。その状態になると、1年生存率はわずか3~4割だ。

 そんな難治性のがんだが、近年、肺がんの85%を占める非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)に対する薬が大きな進歩を遂げている。その代表的なものが免疫療法薬、つまり免疫チェックポイント阻害薬だ。

 これまでの薬は、増殖するがん細胞をじゅうたん爆撃のようにたたく「抗がん剤」、または、がんの生存や増殖にかかわる分子を狙ってピンポイントにたたく「分子標的薬」だった。

 しかし、抗がん剤は正常な細胞も攻撃してしまうため副作用が重くなるというデメリットがあり、分子標的薬は遺伝子変異のあるがんにはよく効くが、喫煙者に多い扁平上皮がんなど特定の遺伝子変異がないがんでは使用できなかった。

 一方、免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞そのものをたたくのでなく、自身の持つ免疫力をサポートしてがん細胞を攻撃する。詳しく言うと、がんを攻撃する免疫システムにブレーキをかけるたんぱくの結合に割って入り、免疫システムに元気を取り戻させ、再びがんを攻撃できるようにするのだ。

 このメカニズムを持つ薬を抗PD-1抗体といい、有名なのが、ニボルマブ(商品名オプジーボ)だ。

 14年9月に発売されて以来話題となり、肺がんの免疫チェックポイント阻害薬では唯一の存在だったが、このたび同じ作用を示す新たな“ライバル薬”が登場した。ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)だ。17年2月から保険で使えるようになった。

 では、この二つの違いは何なのか。順天堂大学順天堂医院呼吸器内科教授の高橋和久医師はこう説明する。

「ニボルマブが抗がん剤などを使用した後に使う二次選択薬なのに対し、ペムブロリズマブは、初回治療薬として使うことができます」

 そもそも薬物治療を初回で選択するのは、ステージIVまで進行し手術が不可能な場合だが、このペムブロリズマブを初回で使用できるのは、さらに治療前の組織検査でPD-L1というがん細胞の表面に現れるたんぱくが、50%以上と大量に現れている人に限られる。

「適応となる人は検査を受ける人の25~30%程度ですが、13万人を超す肺がんの患者数から、ほかの治療が適応になる人などを除外して算定していっても、決して少なくない人が恩恵を受けられます」(高橋医師)

 この薬が初回から適応できれば、従来の抗がん剤による髪の毛の抜け落ちや吐き気、そして白血球が減少するなどの重篤な副作用を避けることができる。

 東京都在住の松岡由紀子さん(仮名・59歳)は15年、咳の症状が悪化していたため近所の病院で検査を受けたところ、左肺の入り口に腺がんができており、進行期のステージIVと診断された。腺がんは非喫煙者に起こりやすく、女性のほうが発症率が高い。

 同年4月、高橋医師を紹介され、当時治験中だったペムブロリズマブの説明を受けた。組織検査をしたところ、PD-L1が陽性だったため、この薬での治療を開始。5月から3週間に1度、点滴で投与したところ非常によく効き、わずか2カ月後のCT(コンピューター断層撮影)検査で、がんがほぼ消失していた。計25回、1年4カ月治療を受け、経過は良好だった。

 しかし16年9月、左の首のリンパ節に再発。今は次の治療に備え検査の結果を待っているところだという。

「ペムブロリズマブは使われ始めたばかりですから、効果判定にはもう少し時間の経過をみないと正確なところはわかりません。しかし松岡さんのように明らかに効果が表れている人は多くいます。延命には間違いなく貢献すると言えるでしょう」(同)

 画期的な薬だが、問題点もある。先行のニボルマブと同様、薬価が高額なことだ。年間1400万円ほどかかり、これはニボルマブとほぼ同額だ。患者は高額療養費制度ほかを利用することにより、負担をかなり軽減できるが、国の医療財政に大きな負担がのしかかることを問題視する人もいる。

「今後は、他の薬剤の効果が期待できず、この薬の有効性が期待できる患者さんをいかに選んで投与していくべきかを考える必要があります」(同)

 これまで免疫チェックポイント阻害薬としてリードしていたニボルマブについても触れておこう。ニボルマブは、前述したとおり二次治療で選択することのできる薬だ。

 なぜ初回治療から使えないかというと、二次治療に使う抗がん剤との有効性の比較試験で優れていたが、初期治療の抗がん剤との比較試験では効果が弱かったためだ。ただし、ペムブロリズマブと違い、PD-L1の発現を確認せず使うことができる(非扁平上皮がんのみ、PD-L1の発現率1%以上が推奨)。がん研有明病院呼吸器内科部長の西尾誠人医師はこう話す。

「ニボルマブとペムブロリズマブは、同じ抗PD-1抗体で、メカニズムにほぼ違いはありません。投与条件や投与サイクルなどの違いはありますが、どちらがより有効性が高いのかは今のところわかっていません」

 両方の免疫チェックポイント阻害薬で最も注目すべき点は、効果の持続性だ。

「大きなメリットは、治療の効果が見られた場合、その後、薬をやめても効果が続くのです。実際、ニボルマブでは、治療効果を認めた後、薬をやめて、2~3年再発しない人が出始めています。今後検証していかないとわかりませんが、1~2年で治療をやめて、10年再発なしということになれば、患者さんにとっても医療財政的にも喜ばしいことです」(西尾医師)

 さらなる効果を求めて、今後は抗がん剤や分子標的薬との併用によるさまざまな試験も予定されている。

 免疫チェックポイント阻害薬の選択肢も増えそうだ。がん細胞に現れるたんぱくのPD-L1に作用する薬や、PD-1やPD-L1とは違うたんぱくであるCTLA4に効く薬も臨床試験が進行中だ。初回治療と二次治療の両方で免疫チェックポイント阻害薬が存在するのは心強いことだ。

 今後さらに薬の選択肢が増えれば、進行・再発肺がんが薬物療法で治せる時代が訪れるかもしれない。

1回の投与に36.5万円!話題のがん治療薬「オプジーボ」と抗がん剤の違い

1回の投与に73万円を要し、厚労省による緊急引き下げで半額の36.5万円になった、がん治療薬オプジーボ。報道では、薬価にかかわる話題性が先行し、実際の効果や副作用といった具体情報についてはあまり分からないまま、「こんなに高いのなら夢の特効薬にちがいない」と思い込んでいる人もいるかもしれない。

今回は、オプジーボに詳しい佐々木治一郎教授(北里大学医学部附属新世紀医療開発センター教授・北里大学病院集学的がん診療センター長)の近著『今こそ知りたい! がん治療薬オプジーボ』(廣済堂出版)を参考に、このがん治療薬の実態を紹介したい。

●オプジーボは新機軸の免疫療法

オプジーボは、主流の抗がん剤や分子標的薬とは異なる、免疫療法の薬剤だが、従来型の免疫療法とも異質な面を持っている。がん細胞の中には、天敵となるリンパ球の一種、キラーT細胞からの攻撃を回避する仕組みが備わっているものがある。これはがん細胞の表面にあるPD-L1というたんぱく質が、キラーT細胞の表面にあるPD-1というたんぱく質と結合することで、キラーT細胞を不活性化してしまうというもの。こうなるとキラーT細胞は、がん細胞への攻撃を行わなくなる。

オプジーボには、キラーT細胞のPD-1に先に結合しまうことで、がん細胞のPD-L1との結合を阻害する作用がある。これによりキラーT細胞は、その力を封じ込められることなく、がん細胞を攻撃できる。この薬剤は、がん細胞自体を攻撃するのではなく、がん細胞を攻撃する免疫システムの働きを強化するのもので、新機軸の免疫療法とされる。

●オプジーボの適用対象は?

オプジーボは、当初はメラノーマ(悪性黒色腫)の治療薬として承認された。このがんの想定患者数が非常に少ないことが、薬価が高額になる一因となった。その後、非小細胞肺がん、腎細胞がん、悪性リンパ腫、「再発又は遠隔転移を有する」頭頸部がんへと順次適用が拡大された。これ以外にも目下、様々ながんに対する臨床試験が行われており、適用拡大が進むとみられている。

●オプジーボの投与方法と期間は?

オプジーボは経口薬ではない。静脈への点滴注射で、約1時間かけて投与される。投与は通常は2週間おきになされるが、過去に抗がん剤治療の経験があれば20日おきになることもある。現状、いつまで投与の継続が必要であるか、明確な答えは出ておらず、「やめどき」の特定が急がれている。

●オプジーボの効果は?

発売からの年数が浅いため、がんが消失・寛解した割合や生存率といった大規模統計データの整備はこれからとなるが、臨床試験では効き目の現れた患者の生存期間が延長され、「完全奏功」(画像診断でがんが見られない)したケースもある。抗がん剤よりもがんを小さくする力が強く、また効果が長続きする点で、既存の薬物療法に対し大きなアドバンテージがある。ただし、効果が現れる人もいれば、効果が見えない人もおり、どのような患者に効き目がある・ないのかを解明する必要がある。

●オプジーボの副作用は?

薬の性質上、キラーT細胞が正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患(間質性肺炎、重症筋無力症、大腸炎、1型糖尿病等)のリスクはある。製造元の小野薬品工業によると、投与した患者の約半数になんらかの服作用があり、うち4人に1人の割合で重篤となり、また若干の死亡例も報告されている。そのため、オプジーボの治療が受けられるのは、こうした副作用に対応できる病院に限定されている。

こうしてみるとオプジーボは、一部ネットで流布されているように「副作用もない夢のがん特効薬」とまでは言えないことが分かる。しかし、今までの療法にはない明確なメリット・効果があり、この種の薬剤(免疫チェックポイント阻害薬)の分野で、近いうちにさらなるブレークスルーが起こる期待も大きい。オプジーボの長期的な影響についても未知の部分はあるが、もしもの場合の一つの選択肢として考慮する価値は十分にあるだろう。

(注:本記事は、2017年3月の時点での公開情報に基づいて書かれており、今後効果や副作用などに新たな知見が得られ、情報が古くなる可能性がある。)

がん治療で退院後の「外来リハビリ」…保険適用されず、取り組み遅れる

がん患者は、痛みやだるさ、治療の後遺症など様々な体の不調に襲われる。それを和らげ、生活の質を上げる効果が期待されるのが、がん治療に伴うリハビリテーションだ。だが、退院後のリハビリを支える「外来リハビリ」の取り組みは遅れている。(石塚人生)

■がん拠点病院の4分の1程度で…

 大けがや脳卒中の後、理学療法士ら専門職の指導で適切なリハビリを続けると、体の機能を元の状態に近づけることができる。がんの治療で体に大きなダメージを受ける場合も、同様にリハビリが欠かせない。

 例えば食道がんで胸を切り開く手術を受けると、食べ物がのみ込みにくくなり、体重も大幅に減りやすい。肺活量は、退院直後には手術前の6割程度まで落ちてしまう。肺機能が低下すると肺炎になりやすい。

 そこで治療前後のリハビリが重要になる。手術後の肺活量の落ち込みを少なくし、肺炎を防ぐには、たんの上手な吐き出し方の訓練や、息を深く吸う訓練ができる器具「インセンティブ・スパイロメトリー」を手術の1~2週間前から続けることが望ましい。手術直後は、適度な歩行や軽い筋力トレーニングで体力を取り戻し、スムーズにのみ込みができるよう言語聴覚士らのリハビリを受ける。

 がんで入院中のリハビリは、2010年に保険適用された。今では、地域でがん診療の中心的な役割を果たす全国約400のがん診療連携拠点病院の8割で、行われるようになった。

 だが、退院後は患者の自主的なリハビリに任せられている。入院期間が短くなり、リハビリで体の機能を十分に取り戻す前に退院することも多い。退院後は専門職に教わったリハビリを自分で続けるしかないが、長続きしない人も多い。

 そこで退院後の通院の際、自宅でのリハビリの効果を確かめ、不十分なら再びリハビリを追加・指導する病院が増え始めた。これが「外来がんリハビリ」だが、がん拠点病院の4分の1程度しか行っていない。外来リハビリには保険が適用されず、各病院が独自に実践しているのが現状だ。

■プログラム開発

 昨年度から、効果的な外来がんリハビリのプログラムについて、全国63人の医師で作る日本医療研究開発機構の研究班が開発に取り組んでいる。現在、リハビリの必要性が高い乳がん、呼吸器がんなど4種類のがんを対象としている。今年度中に外来での試験導入が始まる予定だ。

 研究班代表を務める慶応大学リハビリテーション医学准教授の辻哲也さん(51)は「医療の進歩で、がんが転移しても、治療を受けながら元気に暮らす人も増えている。自宅に戻った後のリハビリはより重要になる」と話す。

 外来でのがんリハビリは、自宅で患者自身が行う筋力トレーニング、ウォーキングなどの実施状況を医師が確かめ、足りない部分を専門職が補う形で進められる。患者が定期的な経過観察や検査で外来を受診する際、そのチェックを受けることが基本になる。

 自宅でのリハビリの状況を医師や専門職に評価してもらうことは、リハビリを続ける動機付けにもなる。辻さんは「保険適用になれば外来リハビリはもっと広まる」と期待している。

10年後のがん発症確率。予測はどこまで可能か

10年後のがん発症確率はどこまで予測できるのか
「10年後のがん確率」どうやって算出?

東京海上日動火災保険が、がんなどの10年後の発症確率を予測するサービスを、7月からネット上で始める方針を明らかにしました。この予測サービスは、年齢、身長、体重、飲酒量、喫煙や運動の有無など、約20項目を入力すれば、がんなどになる確率が算出されるとのこと。予測には、国立がん研究センターの研究成果を活用するということで、同センターも以前から、同様のサービスをHP上で提供しています。

では、「10年後の病気発症確率」がわかる研究とは、どのようなものでしょうか。 実は、国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学などが共同で「多目的コホート研究」という大規模な研究を行っています。
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「病気発症の予測」どれくらい信頼できる?

がん・心筋梗塞・脳卒中などの発症には、食事・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣が深く関わっています。そこで、どのような生活習慣が、どんな疾病の発症に関連しているのかを明らかにするために、日本人約10万人の方々を対象に、10年以上の長期にわたって追跡調査しているのが「多目的コホート研究」です。今回の「10年後の発症確率」予測サービスは、その結果という確かな統計結果に基づくものですから、信頼度はかなり高いと考えていいでしょう。
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遺伝子検査でわかる将来の病気の可能性

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子検査を受けたところ、将来、乳がんになる可能性が90%近くと診断され、2013年、両乳房および卵巣と卵管の「予防的乳房切除術」に踏み切りました。遺伝子検査は、特定の染色体や遺伝子について、何らかの変異が起こっていないかを確かめる検査です。乳がんの5~10%は遺伝性で、非常に遺伝性が高い疾患。この遺伝性乳がんのように、遺伝子検査の検査結果が診断や治療方針に影響を与える疾患もあります。
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ネット申し込み「個人向け遺伝子検査」はなぜ安い?

ヒトの遺伝情報は、13年の歳月と30億ドル(約3300億円)以上を費やされ、2003年に全ゲノム解読が完了しました。しかし現在では、DNAの塩基配列を高速で読み取る装置「次世代シークエンサー」の登場で100万分の1にまでコストダウンし、解析時間も短縮しています。こうしたことを受けて、現在日本では様々な民間企業が遺伝子検査を行うようになりました。ネットなどで数千円~数万円の検査キットを購入し、唾液や口腔内の粘膜を検査会社に送るものが多くなっています。

放射性物質の体内投与でがん攻撃 「内用療法」に遅れ

放射性物質を体内に投与し、その放射線でがんを治療する「内用療法」が海外に比べて立ち遅れている。専用設備での厳重な管理が負担となり、近年、不採算とみて取りやめる病院が出ているためだ。学会や患者らが規制の見直しなどを求めた運動を始めた。

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 福島県立医科大学は1月、内用療法に使う専用の病室を稼働した。9床あるのは国内最大規模になる。政府の東日本大震災の復興予算で建設した。織内昇教授は「支援無しで自前で設置するのは難しかった」と話す。内用療法は放射性物質をがん周辺に送り込み、その放射線でがん細胞などを倒す治療法だ。放射性物質にはがんに集まる工夫がしてあり、飲んだり注射したりすると患部で働く。がんの種類によって使う放射性物質は異なり、多くは外来で治療できる。

 甲状腺がんの治療に使われることが多い。甲状腺を全て摘出する手術を受け、転移もあるといった条件のときに欠かせない治療法だ。放射性物質のヨウ素をたくさん飲む治療を受ける場合には、入院が必要になる。年間約3000例の実績がある。

■扉や壁は鉛入り

 福島県立医科大の新病室も甲状腺がんの治療に使う。病室は厳重で、病室の出入り口には前室があり、扉や壁には放射線を通さない鉛が入っている。ヨウ素は体内にとりこまれ、しばらく患者から放射線が出るためだ。その放射線が弱まるまでの数日間、隔離しなければならない。排気や排水でも放射性物質が漏れない構造になっている。

 運用も厳しく、退出時には専用装置で手や衣服の線量を測る。患者が入院中でも家族は中に入れず、モニターを使って会話する。ちり紙など患者が出したゴミは特別に処理する。被ばく防止のために、退院後1週間は空室にする必要がある。放射線医学総合研究所の東達也部長は「施設の建て替えなどのタイミングで内用療法をやめる病院が増えた」と指摘する。この治療は初期投資だけでなく、維持費もかかる。

病室を退院後約1週間あけるのも負担だ。治療期間と合わせると、1つの病床で約2週間で1人しか受け入れられない。病院経営の「お荷物」となっており「ある程度の病床数がないと採算を取ることは難しい」(織内教授)。日本核医学会がまとめた調査によると、2015年の国内の病床数は135。滋賀や奈良など1床もない県もあり「地域格差が大きい」(東部長)。ベッドはフル回転に近い状態だ。

 13年に関係学会が患者にしたアンケート調査では、半数以上が「治療まで1年以上待った」という。半年以上治療が遅れると、死亡リスクが約4倍増えるという報告もあり大きな問題だ。甲状腺がんで内用療法の入院治療を必要とする患者の半数しか受け入れられていないという指摘もある。

 改善に向けて医師や患者団体、企業が連携して動き出した。患者の支援団体や関係する医師が中心となり昨年12月、「核医学診療推進国民会議」を立ち上げた。今年1月に厚生労働省、2月には原子力規制庁に要望書を提出した。

 要望の一つは診療報酬の増額だ。医療機関にとって赤字部門となり病床不足となっていることから、診療報酬を改善して病床を増やす体制作りを訴えた。もう一つは規制の緩和だ。日本は海外に比べて放射性物質の使用の制限が厳しい。専用設備がなくても、一般の病床で治療できるように求めた。

 新薬開発に向けた法整備の必要性も指摘した。海外では、前立腺がんなどで新たな放射性物質の創薬が進む。国内では、海外で未承認の新薬を患者で試す医師主導の臨床試験をする場合、放射線障害防止法の対象になる。この規制に沿う医療施設がほとんど無いという。

■治療求め欧州へ

 企業が製品化に向けて実施する臨床試験は厚生労働省の通知などに従っている。それに沿う病院はあるが病床は甲状腺がんの患者でいっぱいで、臨床試験に病床を用意するのが難しい。核医学診療推進国民会議代表を務める金沢大学の絹谷清剛教授は「病床数が足りないと、新薬の導入も進まない」と警鐘を鳴らす。

 影響は出ている。国内未認可の放射性物質のルテチウムを使った膵臓(すいぞう)や消化管の神経内分泌腫瘍の治療を求めて、ドイツやスイスに行く患者が後を絶たないという。 この薬剤は今年度にも国内で臨床試験が始まる予定だが、対象患者が少なく、実施する企業が長らくいなかったのが現状だ。ほかにも同じような状況の薬があるという。絹谷教授は「不利益を被っている患者がいる。解消に向けて関係省庁は取り組んでほしい」と訴える。
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■独 ベッド数多く 米 規制緩やか

 内用療法を外来で受ける場合の放射性物質の制限は国によって異なる。日本は治療後に帰宅できる基準を1110メガ(メガは100万)ベクレル以下としているが、米国は5倍の5550メガベクレルまで外来で治療可能だ。転移のある患者もほぼ外来で治療できて、専用病室はほぼ必要ない。

 ドイツは日本よりも厳しく250メガベクレルだ。それでも入院できる施設が120以上もあるため人口8万人あたり1床という比率だ。日本は2015年の調査で、入院できる専用病室を持つ機関は52施設、人口94万人あたり1床と少ない。

 国内の過去の調査をもとに専門家の中には「3700メガベクレルまでは外来で投与しても安全」という声もある。日本核医学会は3700メガベクレルまでの緩和を目指した研究を計画している。病床数についても340床以上を目標として掲げており、フランスと同程度の35万人あたり1床にしようと働きかけている。

タトゥーをしていると、ガンの精密検査が受けられない!?

最近はファッションで腕や脚などにタトゥーを入れる方も増えてきましたね。しかし、このタトゥーが原因で、医療機関などで精密検査が受けられず困る場合があるということをご存知でしょうか?

今回はそんなタトゥーとMRIの関係について、医師に詳しく解説していただきました。

■ タトゥーをしていると受けられない精密検査とは?
職場などで定期的に行っている健診には血液尿検査、胸のレントゲン検査、心電図検査、胃のバリウム検査、便の検査などがありますが、これらの検査で異常が指摘されて精密検査を受ける場合、あるいは人間ドックで精密検査を受ける場合がありますね。

タトゥーをしていると受けることができない検査、それはMRI検査です。

■ タトゥーを入れているとMRIで火傷をする?
MRI検査ではCT検査と同様に身体を輪切りにした写真をとることができますが、原理が異なります。CT検査ではレントゲンを使いますが、MRI検査ではこの世の中のすべてのものが持っている磁気の差をもとにして写真を撮ることができます。

レントゲンを使わない点でMRI検査の方がCT検査より身体に優しい、害の少ない検査なのですが、MRI検査ではラジオ波を使うので、問題が起きることがあります。

タトゥーをしているとMRI検査で火傷することがありますので、原則的にはタトゥーをしている人はMRI検査を受けることができません。

■ MRIが受けられないと癌や脳梗塞の診断が遅れる場合も!
MRI検査で使用するラジオ波は極弱いものですが、電子レンジと原理が同じようなものですので、タトゥーで使っている金属と反応して熱を発生して火傷してしまうことがあります。ちょうど電子レンジに金属を入れるとバチバチいうのと同じです。

MRI検査はある種の癌の検査では有用ですので、MRI検査ができないとなると問題が起きることがあります。癌だけでなく、脳梗塞の初期の診断にはMRI検査が必要ですので、この検査ができない時は正確な診断が遅れる可能性があります。

脳梗塞の診断と治療には一刻を争う場合がありますので、MRI検査ができないとなると問題が起きることがあります。

■ 医師からのアドバイス
MRI検査で必ず火傷するわけではありませんし、火傷しても構わなければ、MRI検査を受けることはできますので、相談によっては検査してもらえる場合もあります。

またMRI検査を受ける場所がタトゥーをしている場所と離れていれば、大丈夫なこともあります。

漢方薬、がん治療に活用 副作用和らげ減薬に

伝承されてきた「漢方薬」を西洋医学にうまく取り入れる動きが広がってきた。抗がん剤の副作用や高齢者医療などに効果的に使おうと、国の実行計画や研究会の提言が後押しする。さらに、高齢化が進む日本で過剰な服薬や医療費を抑えようと、漢方の新たな活用法も模索が始まっている。

 都内に住む70代の男性は、消化管の壁にがんができ手術で摘出した。その後、腹部に転移し、抗がん剤治療を受けることになった。だが、体のだるさや下半身の冷えがつらく、「薬を飲み続けられない」と患者は頭を抱えた。主治医の紹介で、がん研有明病院(東京・江東)の漢方サポート科に行くことになった。

■効果をデータ解析

 同病院の星野恵津夫部長は、患者に下半身の冷えに効果がある「牛車腎気丸」など4種類の漢方薬を処方した。副作用は徐々に和らぎ、抗がん剤治療を続けられるようになった。同病院は2006年4月にがんに特化した漢方専門外来をスタート。咽頭がんなどで放射線治療を受け、唾液が出にくくなった患者には「麦門冬湯」を処方し、低下した生活の質を改善している。

 医療用の漢方薬は148処方が薬価収載されている。どの漢方薬を使うかは、副作用の症状や検査結果から決めるが、星野部長もどうしてその漢方が効果があるのか、分からない点があるという。このため、これまでに漢方薬を処方した約2900人分のデータ解析を行い、「漢方薬を処方する際の根拠を明確にしていきたい」と意気込む。

 中国から日本に伝わり、独自の発展を遂げてきた漢方医学。より科学的に有効活用しようという機運が高まってきた。厚生労働省が15年12月に公表した「がん対策加速化プラン」では、がん患者の副作用や後遺症の軽減を目的に、研究推進が明記された。
 16年8月には医学研究者らが「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」を発足した。研究会の会長には、日本医学会の高久史麿会長が就き、今年3月に提言書を公表した。がん患者とその家族に、漢方薬に関する科学的成果を伝えていくことが明記された。

 提言書では、高齢者医療でも漢方が役立つことを強調。中でも、加齢とともに運動機能や認知機能が低下する「フレイル」の予防に有効活用する方針を打ち出した。  「筋肉痛がつらい。どうにかなりませんか」。大阪大病院の萩原圭祐・漢方内科診療科長のもとへ、70代前半の女性が訪れた。 女性の握力や体力は著しく低下していた。休まず歩けるのは数百メートルで、片足で立つこともできない。そこで、体力や気力を高める効果もある牛車腎気丸を処方したところ、握力は10キロ以上、歩ける距離は2~3キロに回復した。

 萩原氏は「漢方の本質は生体の持つ回復力を引き出すこと」と説明する。患者の状態をよく見極めて処方すれば一つの漢方薬で複数の症状を改善することもあり、「ポリファーマシー(多剤併用)からの脱却につながる」(萩原氏)。ただ、そのためには正しい知識に基づいた処方が不可欠だ。日本老年医学会は15年、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」をまとめ、科学的根拠に基づいた高齢者の漢方治療を初めて盛り込んだ。高齢者への処方が増えるなか、専門医以外も安全な治療を行うよう促している。

■コスト抑制も検証

 一方、高齢化に伴って増え続ける医療費の抑制に漢方を役立てられないか。こうした視点に立った新たな研究も始まっている。
 国際医療福祉大の北島政樹副理事長は慶応義塾大の外科学教授の時代に、大腸がんの手術を受けた患者が腸管の働きを活発化する「大建中湯」を服用すると入院日数が短くなることに気づいた。別の研究者が詳しく調べると、1人当たりの入院費は269万円から231万円に下がったという。北島副理事長は「医療費の観点からも、漢方が有効かどうか明らかにしていく必要がある」と話している。
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■全医科大で講義 専門家の指導少なく

 文部科学省が2001年3月に策定した医学教育の指針「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に全ての医学生が卒業までに「和漢薬(漢方薬)を概説できる」が盛り込まれた。これをきっかけに、漢方医学教育が全国的に広まった。文科省は同カリキュラムを3度改訂。漢方に関する記述は、11年3月に「特徴や使用の現状が概説できる」、16年3月に「漢方医学の特徴や主な和漢薬の適応、薬理作用を概説できる」とし、到達目標をより明確にしている。

 現在では全ての医科系大学で漢方に関する講義が行われている。ただ大学教育レベルの差は大きいとみられ、「漢方医学の専門家が教えるケースはまだ少ない」(萩原氏)という。 昨年12月には一般社団法人「日本漢方医学教育振興財団」が設立。専門的な人材の育成などを目的に本格的な活動を始めている。 (辻征弥、鳥越ゆかり)

1分で「がん細胞」を破壊し、副作用もない「光免疫療法」。注目の世界的研究者に単独取材!

オバマ前大統領が、2012年の一般教書演説で世界に誇った革新的ながん治療法「光免疫療法」。その世界的研究者に現地ワシントンで単独取材しました!

がん治療を根底から変革!主導する日本人研究者にすべてを聞く!

ホウドウキョクの水曜夜の人気コーナー【ニュースなヤマイ】で昨年、がんの革新的治療法「光免疫療法」を渡邊千春ドクターが解説したところ、なんと、その研究を主導するアメリカ国立衛生研究所(NIH)の主任研究員である小林久隆先生が、ワシントンで【ニュースなヤマイ】を観ていました!直接お礼のエアメールが届き、さらにNIHへの招待を。渡邊ドクターが早速現地へ赴き、単独取材に成功しました!
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がん細胞だけを極めて『選択的』に破壊

従来のがん治療法である「外科手術」は身体への負担が大きく、「放射線療法」「化学療法」には副作用があります。それらの治療は、がん細胞だけでなく、正常細胞や周囲の臓器も傷つけるからです。一方、「光免疫療法」は、がん細胞だけを極めて『選択的』に攻撃し、破壊します。この治療は、「近赤外線」という光を使ってがんを破壊するものです。「近赤外線」とは、TVのリモコンや赤外線通信などに用いられている無害な光線。さらに、がん細胞だけに特異的に結合する抗体というたんぱく質と、その抗体と対になっているIR700という色素がポイントとなります。

IR700は近赤外線を照射すると、そのエネルギーを吸収し、化学反応する性質を持っています。

小林先生
近赤外線に反応して化学反応を起こすIR700を、がん細胞のところまで抗体に運んでもらうのです。IR700と一体となった抗体を、静脈注射で体内に入れます。すると抗体はがん細胞と結合します。結合した抗体に近赤外線の光を照射すると、IR700が化学反応を起こします。 化学反応で変化したIR700は、がん細胞の膜にあるたんぱく質を変性させ、細胞膜の機能を失わせます。すると1~2分という極めて短時間で、がん細胞は膨張~破壊されるのです。

小林先生
IR700の化学反応で、がん細胞の細胞膜が壊れて膨らんでくる。膨らみ過ぎると破れて、がん細胞が破壊されます。

8~9割のがんに有効!

小林先生
体の奥の方にがんがある場合も、細い光ファイバーを患部に挿し込めば、近赤外線を照射出来ます」「光ファイバーを使うことで、皮膚がんのような身体の表面に近いものだけでなく、食道がん、肺がん、子宮がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんなど、がんの8~9割はこの治療法でカバー出来ると考えています。
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副作用はなく、入院も不要!

小林先生
この治療のための入院は必要ないですね。初日に抗体を注射する、そして翌日に光をあてる、それだけが全てです。動物実験上、臨床治験上では特に副作用というのは見られていません。正常細胞は傷つけないで、がん細胞だけを破壊するからでしょう。
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転移がん・再発がんにも有効!

本来、免疫細胞が機能していれば、がん細胞は免疫細胞が攻撃することで排除されます。しかし、実際にはがん細胞はどんどん増殖していきます。 実は、がん細胞は、免疫細胞の働きを阻害する「制御性T細胞」という細胞を周囲に集めて、免疫細胞を眠らせるのです。免疫細胞からの攻撃がなくなるので、がん細胞は増殖します。

小林先生
がんが出来た局所の免疫を上げてあげれば、ステージ4という段階でも、転移したがんでも治療が望めます。末期がんでも、可能性としては十分あります。IR700を付けた抗体を、今度は免疫細胞の邪魔をしている「制御性T細胞」に結合させます。そして近赤外線を当てて、「制御性T細胞」を破壊します。がん細胞の近くにいる免疫細胞は邪魔者がいなくなるので「眠り」から覚め、数十分のうちに活性化して、がん細胞を攻撃、破壊します。さらに活性化した免疫細胞は、血流に乗って全身を巡り、わずか数時間のうちに転移がんをも攻撃し始めるのです。

小林先生
放射線でも化学療法でも、これ以上は人間の体が耐えられないという限界があります。しかし光免疫療法には抗体の投与量限界も、照射量の限界もありません。がんが再発しても、何度でも治り切るまで出来る治療なのです。
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「光免疫療法」にかかる費用は?

小林先生
IR700を付けた抗体が一番費用がかかる部分ですが、使う量が大したことないので、そんなにお金はかからない。近赤外線は、レーザー1台あればいくら使っても減るものではありません。

保険適用されないとしても、100万円~200万円のレベルになる見込みとのことです。抗がん剤治療で月に数百万円かかることも普通なので、従来のがん治療に比べれば、これは相当に低い額になります。(日本の場合は保険適用されれば、「高額療養費制度」もあるので、患者さん自身の負担額は数万円程度でしょう) 急増する医療費は、各国の大きな課題です。

特に日本の場合、国民の2人に1人ががんに罹患します。がん治療費にかかる社会保障費は、莫大なものになっています。「光免疫療法」が普及すれば、医療費の増加に悩む国の財政にとって、大きなメリットになるでしょう。

楽天・三木谷会長が強力サポート!

「光免疫療法」は、アメリカでは異例の速さで治験が進んでいます。アメリカ国立衛生研究所が治験を委託したベンチャー企業は、楽天の三木谷氏が取締役会長を務めています。

小林先生
三木谷さんは父上ががんを罹患されたこともあり、治療法について大変勉強されていた。その中で光免疫療法のことも知り、私を訪ねていらした。私からご説明して数十分で、サポートを即決されました。私たちはアメリカ政府の公的資金を使って治験を進めようとしていました。しかし、三木谷さんのサポートが始まってから治験のスタートまで、1年半しかかかりませんでした。公的資金であれば、さらに2年程度時間がかかったと思います。

日本での実用化は何年後?!

小林先生
当初はどの程度の患者さんに適用出来るか等はあるが、日本で治療として実現するのは3年~4年後でしょうか。治験自体がアメリカが1年半ぐらい先に進んでいるので、その時間差を埋められるかという点はありますが、三木谷さんは世界同時に実用化したい、と言われています。少しづつですけれども、カバーできるがんを増やしていくかたちを今は考えています。しっかり抗体の数と仕組みを揃えることが出来れば、かなりの方のお役に立つ治療法だと思っています。

■小林久隆先生 監修
アメリカ国立衛生研究所(NIH)の主任研究員

効果と副作用、判断難しい抗がん剤 多職種集う専門チームが必要

チームで支えるがん診療をテーマに、がん専門薬剤師の立場から、倉敷中央病院(倉敷市)薬剤部の石原泰子薬剤師に寄稿してもらいました。

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 「次の薬は、私に合えばいいなぁ…。これがいけんかったら、どうなるんじゃろ」

 胃がんのため、抗がん剤治療を続けていた60代の男性の言葉です。

 男性は、1年半ほど前に胃がんが見つかり、抗がん剤による治療が開始されました。主治医からは、予後は非常に厳しく、「年は越せない可能性もある」と、ご本人にもご家族にも伝えられていました。初めに使った薬では肝機能が悪くなったため、二つ目の抗がん剤が選ばれました。治療開始時には痛みがあり、医療用麻薬(オピオイド)も使っていました。そのような状況で、お薬の説明のため病室を訪ねたときに、薬剤師に向けて発せられた言葉です。

 抗がん剤は、効果と副作用を分けるのが難しいお薬です。そのため、副作用を上手にコントロールしながら、治療を継続していく必要があります。また近年は、抗がん剤の種類や副作用が多岐にわたること、外来での治療が可能になったこと、高額な抗がん剤が増えたことなどにより、患者さん一人ひとりの抱える問題がより複雑になっています。さらに、この男性のように、抗がん剤治療と同時にオピオイドで痛みの治療を行うことも、今では珍しくはありません。そのため、がん治療には多職種が集まった専門的なチームが必要です。

 倉敷中央病院では、薬剤師もそのチームの一員となり、患者さんとさまざまな場面で関わっています。

 入院中、男性に、つらい症状や痛みについて薬剤師が尋ねると、痛みはまだ取りきれておらず、昼間に眠気(副作用)を感じていると話されました。病棟の看護師にも男性の様子を聞いてみると、日中にオピオイドを頓服した後に、特に眠気が出ていることが分かりました。

 一方で、夜間は痛みで目が覚め、オピオイドの頓服をしているという状況でした。そこで、その症状を医師に伝え、痛みを和らげるためにオピオイドを増量するのではなく、別の作用をする痛み止め(NSAIDs=消炎鎮痛剤という種類のお薬)を追加することで、取りきれていない痛みを抑えることができるかもしれない、と相談し、処方してもらいました。その晩からそのお薬の内服が始まりました。

 翌日、薬剤師が男性を訪ねると、「昨日先生が出してくれた新しい痛み止め、よく効いたんよ。寝れたわ」とうれしそうに教えてくれました。このように、薬剤師は時に、医師や看護師と一緒に患者さんの症状やお薬について話し合うこともあります。

 冒頭の男性の言葉「次の薬は…」は、治療を受けられる患者さんが誰でも思うことです。男性の場合、二つ目の抗がん剤は効果があり、外来でオピオイドの量を減らすことができました。

 がん患者さんで、入退院を繰り返す方は少なくありません。外来で治療を行うときや、痛みが急激に増強して入院されたときには、その都度、薬剤師もお話をうかがいました。治療開始から1年近くたった頃、「年越せんって言われとったのに、(年も越して)もう秋になるがなぁ」と、ほほ笑んでおられました。退院するとき、男性はいつも、「またこれからもよろしくお願いします」と言って、自宅に帰って行かれました。

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 いしはら・やすこ 倉敷南高校、神戸薬科大学薬学部卒、神戸薬科大学大学院修士課程修了。2002年から倉敷中央病院勤務。08年9~12月、国立がん研究センター中央病院(東京)にて研修を受けた。日本医療薬学会がん専門薬剤師、日本臨床腫瘍薬学会外来がん治療認定薬剤師、日本病院薬剤師会がん薬物療法認定薬剤師。

【衝撃】やはり「血液型が人の運命を左右する」ことが科学的に判明! B型の評価は死にたくなるレベル

 血液型ほど身近で謎に満ちたものはないだろう。そもそも、人によって異なる血液型を持つ理由さえ未だ分かっていないのだ。「血液型占い」や「血液型性格分類」は非科学的といわれているが、なんとなく「A型の人は几帳面」「AB型の人は天才肌で変わり者」だと思ったり、血液型占いが当たっているように感じられることは無いだろうか?そう、やはり血液型は人の運命を握っていたのだ! この度、血液が持つ驚きの影響力が“科学的に”明らになった。

■性交渉、妊娠、もの覚えから死に方まで

 まず血液型について基本的な情報をおさらいしておこう。実は、血液型は血液の種類を分類するものではない、ということをご存知だろうか? 一般に用いられるABO式血液型では、赤血球の表面抗原の種類で分類している。赤血球の表面にA抗原があるとA型、B抗原があるとB型、AとB両方の抗原があるとAB型、両抗原が無いとO型となるわけだ。ちなみに、日本人の血液型分布は大体、A型40%、O型30%、B型20%、AB型10%となっている。

 英紙「Daily Mail」(3月14日付)によると、日本人で2番目に多いO型が最も幸運な人生を送る可能性が高いようだ。他の血液型に比べ様々なメリットが明らかになっている。 トルコ・オルドゥ大学の研究者らが先週発表した研究によると、O型の男性は他の血液型よりも4倍もインポテンツになるリスクが低いことが分かったそうだ。男性器は人体で最も血液が集まる場所の1つであるため、血液の影響が出やすいと考えられている。しかし、なぜA型男性の方が勃起不全を患い易いかは分かっていない。

 また、O型はアルツハイマーなどの変形性脳疾患になりくいことが、英シェフィールド大学の研究で判明している。英国人189人の脳をスキャンしたところ、O型の人々には情報を処理する「灰白質」が多く見つかったそうだ。研究チームのアナレナ・ヴェネーリ氏によると、O型の人は幼少期に多くの灰白質が生成されるため、老年になってそれが失われても痴呆になりくいということだ。

 デンマークとスウェーデンの研究者が昨年発表した研究では、O型の人は他の血液型よりも30%も血栓ができにくいことが分かっている。一方、B型は再発性血栓塞栓症を極めて患いやすいそうだ。そのため、B型の人々は若く亡くなる可能性が高まるという。O型はマラリアに加え、胃がんや肝臓がんへの耐性もあることも各国の研究で明らかになっている。まとめると、O型の人は

・勃起不全になりにくい
・マラリアが重症化しにく
・アルツハイマーになりにくい
・血栓ができにくい
・がんになりにくい

 O型爆上げの内容になってしまい、A型、B型、AB型の読者に申し訳ないが、ここでO型にも良いことばかりではないことをお伝えしておこう。こと妊娠に関しては、O型よりもA型の方が有利なようだ。2011年、イェール大学の研究では、不妊治療を受けている30代半ばの560人の女性を調べたところ、O型の女性の卵子は質が悪く、A型女性の卵子量の2分の1しかなかったという。O型の女性は若いうちに卵子を消費してしまうため妊娠しにくい傾向があるとのことだ。

 血液型は我々の生老病死に大きく影響を与えている。これほど血液型が健康と密接に関係しているならば、現在のところ科学的には支持されていない「血液型ダイエット」にも何らかの効果があって良さそうなものだ。 ほとんどの日本人は自分の血液型知っていると思うが、イギリス人の成人の半数は自身の血液型を知らないという。もし、読者の中にも自分が何型か分からない方がいたら、これを機に調べてみては如何だろうか? 自分の血液がもたらす不幸な運命から逃れられるかもしれない。

血液がん治療薬、海外の死亡例報告せず

製薬会社セルジーン(東京都千代田区)が販売する血液がん治療薬について、海外で起きた原因不明の死亡事例4573例を副作用として報告しなかったとして、厚生労働省は14日、同社に医薬品医療機器法違反(副作用報告義務違反)に基づく業務改善命令を出した。1カ月以内に副作用報告が正しく行える社内体制を確立するなどの改善計画を厚労省に提出する。

 厚労省によると、報告もれがあったのは同社の血液がん治療薬「レナリドミド」「ポマリドミド」「デキサメタゾン」の3種。国内で販売された平成22年以降、27年までに把握した死亡原因が特定できない海外での死亡事例について、副作用として国に報告しなかった。「原因が特定できない死亡例は報告対象でないと思っていた」と説明したという。医薬品医療機器法は死亡事例は15日以内に報告することと定めている。

 27年12月に他社から移ってきた安全対策部門の社員が指摘したことで発覚。28年9月に厚労省に報告した。厚労省はいずれも病気の進行による死亡の可能性が高いとみている。

がん検診で見つかるガン 放っておいても自然に治る例多数

がん検診を受けると、「命を奪わないガン」をたくさん見つけてしまうことになるのだという。それが最も多いと考えられているのが、「前立腺がん」だ。「PSA(前立腺特異抗原)」という血液を調べる検診が普及した2000年頃から、新規患者が激増した。

 京都大学医学博士の木川芳春氏は、このような命を奪わない病変を「ニセがん」と呼ぶ。

「新規患者がうなぎ上りに増えているのに、死亡者の数が横ばいなのは、命を奪わない『ガンに似た病変』をたくさん見つける『過剰診断』が多いことを意味しています。日本では検診によって『ニセがん』をたくさん見つけることで、新規患者の水増しが行なわれているのです。私は、前立腺がんの半分以上は『ニセがん』だと考えています」

 前立腺がんでは、検診で見つかる早期がんのほとんどが、いわゆる「ニセがん」なので、それで死ぬことはない。つまり、1~3期の10年生存率が100%と異常に高いのは、早期に見つけて治療した成果ではなく、元々命を奪わない「ニセがん」ばかりを検診で見つけている結果といえる。

 こうした「ニセがん」は、「乳がん」「子宮頸がん」「甲状腺がん」などでも多いと指摘されている。これらのがんも、全症例の10年生存率が80~90%台と軒並み高い。数字がよく見えるのは、「早期発見、早期治療によりガンが治った」というよりも、前立腺がんと同様に、命を奪わないニセがんが多く含まれているからなのだ。医師で医療統計が専門の新潟大学名誉教授・岡田正彦氏もこう話す。

「がん検診で見つかるガンの中には、放っておいてもいいガンや、自然に治るガンが、かなりの割合で含まれています。このようなガンばかりを見つければ、当然、生存率は高くなります。昔に比べて生存率が高くなったように見えるのは、治療が進歩したからとは断言できないのです」

 一方、命を奪う「本物のガン」は進行が非常に速いため、定期的にガン検診を受けても、早期で発見することは難しい。そうしたガンは、周囲に広がっている3期や、転移のある4期の状態で見つかることが多いので、必然的に10年生存率が低くなる。

「食道がん」「肝胆膵がん」「肺がん」「卵巣がん」などで全症例の10年生存率が低いのは、進行が速い悪性度の高いガンが多いからだ。これらのガンは早期発見することも、完全に治すことも、まだまだ難しい。

 10年生存率からは、このような厳しい現実も読み取られるべきだろう。

75歳以上の肺がん手術の判断に関わる医療以外の大きな課題とは?

週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」で、高齢者(75歳以上)へのがん手術の実情と各病院の判断基準について、がんの中でもっとも死亡者数が多い肺がんを取材。他のがんでも、術後合併症の肺炎を懸念する医師が多い中、肺がん手術はそのリスクを回避できているのか? 実情を紹介する。

*  *  *
 全国4位となる322例(14年)の肺がん手術をおこなう順天堂大学順天堂医院は、80歳以上の肺がん手術は全体の約7%。平均より少なめだが、同院呼吸器外科教授の鈴木健司医師は、取材日の前週にも80歳と85歳の手術をおこなった。

 鈴木医師は、高齢者独自の基準を設けて手術の適応を決める必要があると話す。

「肺がんというと難治がんという印象がありますが、CT(コンピューター断層撮影)でたまたま発見されるような小さながんの場合、放置しても80、90代の患者さんの余命に関係しないこともある。手術をすべきかどうかを、しっかりトリアージ(ふるい分け)しないといけない。呼吸器外科医の重要な仕事の一つだと考えています」

 同科でも年齢だけで判断せず、全身状態や心肺機能、持病をコントロールできているかなどを総合して手術の適応を決める。また、肺葉をすべて切除する肺全摘は「右肺は70歳、左肺は75歳まで」と決めている。左右で違うのは肺の大きさが違うためだ。大きいほうの右肺を切除すれば、それだけ呼吸機能を失うので、左肺に比べ、適応の年齢を下げている。

 全身状態では、術前評価「パフォーマンスステータス(PS)」を前提にしつつ、診察前の患者の様子も重視している。

「診察室に入ってくる際、元気に歩いてくる患者さんは、多少PSが悪くても手術や術後が順調なことが多い。一方、PSが良くても肩で息をしているような患者さんは、経過が悪いことがあります」(鈴木医師)

 術後の合併症があっても、若い人であれば回復できるが、高齢者は長期生存に影響するという報告もある。鈴木医師が注視する持病は、間質性肺炎だ。肺の間質という組織に炎症が起こる病気で、高齢者に多い。この病気を持つ人が肺の手術をすると、術後合併症のリスクが極めて高くなる。このことから、患者を受け入れる病院は多くない。同科は慎重に手術すべきか判断して受け入れている。

「間質性肺炎を合併する高齢の患者さんの1割は、手術が成功しても何らかのきっかけで急性増悪という状態に陥ってしまいます。そうなると手の施しようがなく、40%は亡くなります。当科では周術期管理と手術の工夫で、手術死亡率を10%から2%にし、全体の死亡率を0.8%まで減らすことができました」(同)

 周術期管理とは、術前から術後までの一連の処置のこと。持病があり、加齢や喫煙などで呼吸機能が落ちている高齢者が、万全な状態で手術に臨むために必要なのが、持病のコントロールや呼吸機能を高める周術期管理だ。手術では、がんの場所によっては標準治療の肺葉切除だけでなく、小さく切る区域切除にする。また手術時間をできる限り短縮させたり、出血量を減らしたりすることで、患者の負担を減らしている。

 東海地方で4位となる191例(14年)の肺がん手術をおこなう聖隷三方原病院(浜松市)は、肺がん手術全体のおよそ1割が80歳以上という。同院の高齢者の肺がん手術の適応について、同院呼吸器センター外科部長の棚橋雅幸医師は、こう話す。

「当院では、からだに負担の少ない胸腔鏡手術を積極的に取り入れているため、以前より高齢者の手術適応は広がっています。基本的に高齢者の手術では、持病の有無、全身状態、認知機能、心肺機能などを重視し、年齢で区切ることはありません。ただ、進行肺がんの場合、体力のある若い人には、完全切除が見込めるなら積極的に手術をするという選択肢を勧めますが、高齢者では手術をせず、放射線治療などを勧める例もあります」

 棚橋医師によると、そもそも呼吸器内科から同科に紹介される高齢者は比較的元気な人たちであるため、ステージIであれば、ほとんどの患者が手術を受けられるそうだ。術前評価としては、やはり肺機能や心機能などを重視する。

「高齢になるほど肺に炎症の痕があったり、肺や血管がもろくなっていたりすることが多い。手術そのものは若い人よりも難しく、時間が長引くこともあります。手術による患者さんのからだへの負担や、QOL(生活の質)がどのようになるかを十分検討し、手術適応を判断しています」(棚橋医師)

 周術期管理については、おのおのの病院が独自のやり方で実施しているが、同科では専門の理学療法士5人が、術前から患者に関わり、呼吸訓練や排痰訓練などの周術期管理に当たる。理学療法士は手術直後にもベッドサイドで声をかけ、翌日から一緒に歩く訓練などを再開する。痩せていて栄養状態が悪い患者には、補助食品などを用いて栄養状態を改善させている。

 15年に同科が80歳以上におこなった手術件数は11件で、合併症は遅発性肺瘻(縫い合わせた気管支と残った肺のくっつきが悪い状態)が1人。治療を受け元気に退院したという。高齢者では傷の治りが遅いため、こういう合併症はまれに起こることがあるそうだ。

「手術で大事なのは元気に帰ってもらうこと。手術は成功したけれど、寝たきりや在宅酸素が必要になったということはあってはならないと考えています」(同)

 課題の一つは、自宅などに戻った患者の支援だ。医療だけでなく、社会全体の仕組みづくりが大事だと棚橋医師は訴える。

「家族や支える人がいればいいですが、独居などで誰の支援もない場合は、いくら手術が成功しても術前のようなQOLを保つことは難しい。患者さんのなかには、『家に帰っても誰もいないから、入院していたい』という高齢者もいます」

 高齢者の手術の在り方については、現在、日本呼吸器外科学会の学術委員会が高齢者の肺がん手術の安全性と有効性を評価する調査研究を開始している。前出の光冨医師は言う。

「今は、ご本人やご家族と相談しながら、最適な治療を常に模索している段階です。患者さんの身体能力やがんの進行度に応じて、少し手術を手控え、肺の切除量を減らす、あるいはリンパ節の切除範囲を狭めるなど、個別に対応することはあります。患者さんやご家族に訴えたいのは、『年齢だけであきらめないでほしい』ということ。手術をして元気に復帰した高齢者もたくさんいます」

 ほかのがんも含めて、医師たちが科学的根拠に基づいて、高齢者に治療法を提案できるよう、今後の研究に期待したい。

がんは遺伝する? 医学的に「がん家系」は実在するのか

◆3つの特徴が当てはまる人は「がん家系」?

「がん」という病気は、成育環境や生活習慣などの生活環境、また加齢でDNAに傷がつくこと、そして遺伝的要因という3つが原因となって発生します。家族や親戚にがんになる人が多い場合、「がん家系」という言い方をすることがあります。実際、がんの中でも大腸がん、乳がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんなどの一部については、遺伝が大きく関連している可能性があると言われています。

遺伝的要因が認められるがんには、「家族性腫瘍」と「遺伝性腫瘍」があります。家族性腫瘍は、原因が環境にあるか遺伝にあるかに関わらず、ある家族に集積して発生したがん(腫瘍)のことをいいます。家族集積を認めるがんは、がん全体の5~10%存在するとされています。

この「家族性腫瘍」のなかでも、遺伝性要素がとくに強いものを「遺伝性腫瘍」といいます。遺伝性腫瘍の家系、つまり医学的に正しい意味でのがん家系には、「家系内に若くしてがんにかかった人がいる」、「家系内に何回もがんにかかった人がいる」、「家系内に特定のがんが多く発生している」という3つの特徴があります。
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◆がん発生とがん遺伝子の関係

人間の体は、およそ60兆個にもおよぶ細胞からできています。細胞の核の中には遺伝情報をうけもつDNAがあり、タンパク質をつくる元になる塩基配列が数万個も含まれています。それが遺伝子と呼ばれるものです。

遺伝子の塩基配列には、ときに変異が起こることがあります。塩基配列のある部分が入れ替わったり別のものになったり、欠けたりするのです。また、細胞が増殖するときにはDNAを複製していますが、そのときにコピーミスをすることがあり、それによって遺伝子変異が起こります。

遺伝子に変異が起こると、遺伝子を元につくられるタンパク質が本来とは異なる性質をもつようになります。さらに変異した遺伝子は、細胞の増殖を促しつづける状態になることが分かっています。このような遺伝子を「がん遺伝子」と呼びます。何年もかけて体内組織で増殖していったがん遺伝子が、体に害を与える「がん細胞」を形成するわけです。

がん細胞をつくりだす遺伝子の変異は、酸化効果や発がん物質、紫外線、ストレスなど、その人を取り巻く外的要因で引き起こされます。こうした要因のひとつに、親から子へと受け継がれた変異遺伝子もあります。しかしその遺伝子を受け継いだからといって、かならずしもがんが発生するわけではありません。

遺伝性腫瘍の中には、遺伝子検査によってみつかるものもあります。しかし、遺伝子検査ができるがんは限られていますし、すべてが説明できるわけではありません。また遺伝は血縁者すべてにかかわる問題を孕んでいるため、検査を受ける場合は細心の注意が必要だといえるでしょう。

◆最も効果的ながん予防法は、生活習慣の改善

家族性腫瘍の診断には医学的な基準があり、なかには遺伝子検査で原因が分かるものもありますが、がんの要因としての遺伝の影響は、それほど多いものではありません。

大腸がんを例にとると、全体のおよそ25%が家族性腫瘍であり、遺伝性と考えられるがんは5%ほどにすぎません。むしろ大多数のがんは、食生活や喫煙、ストレスなどの生活習慣の影響、ウイルスや細菌に感染することで起こります。

またがん遺伝子が発生する要因として、生活習慣などの環境要因が大きくかかわっているのです。そう考えると、いたずらに「がん家系」であることを怖れるのは現実的とはいえないでしょう。

それよりも、禁煙や飲酒を控える、緑黄色野菜や繊維質の豊富な食品をとる、紫外線を浴びすぎないなど、ふだんの生活でできることがたくさんあります。さらに感染症のがんであれば、ワクチン接種や細菌の除去などで直接対処できます。このようながん対策を行うほうが、はるかに有益だといえそうです。

監修:今村 甲彦

芸能人のみなさん、SNSで安易にがん検診を勧めないでください

 芸能人やメディアのみなさんにお願いがあります。ブログやSNS、ネット記事等で、がん検診を安易に勧めないでください。無条件にいいことだと思われていますが、がん検診にはデメリット(害)もあります。よかれと思ってしたことで、かえって多くの人に害を与えてしまうことになるかもしれないのです。

 ここ数年、がんにかかったことを公表する芸能人が相次いでいます。昨年6月9日、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが記者会見を開き、妻でフリーアナウンサーの小林麻央さん(34)が「進行性の乳がん」であることを公表し、大きな衝撃を与えました。この2月18日(土)にも、女優の藤山直美さん(58)に初期の乳がんが見つかったと報道されました。藤山さんは10年前から乳がん検診を受けており、今年1月の検診で要再検査となったそうです。

医療機関に乳がん検診を希望する若い女性が殺到 

 こうした報道があると、必ずと言っていいほどネットでは、がん検診の受診を促すメッセージが盛んに発信されます。北斗晶さんが乳がんを告白したときも、20代、30代の若い女性芸能人が相次いでブログやSNSなどで乳がん検診を呼びかけました。その影響で、医療機関には乳がん検診を希望する若い女性が殺到したそうです。

 芸能人のみなさんも、乳がんで命を落す人が一人でも減るようにと、良心から乳がん検診を呼びかけたのだと思います。ですから、その善意をとがめる気はまったくありません。

 しかし、乳がん検診の推奨年齢に制限があることを、みなさんはご存知だったでしょうか。乳がん検診は現在、乳房専用のX線装置であるマンモグラフィで行われていますが、国のガイドラインによると、マンモグラフィ単独法の推奨年齢は40~74歳、マンモグラフィと視触診の併用法は40~64歳とされています。なお、超音波検査をがん検診(対策型検診)として行うことは、どの年齢でも推奨されていません(国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」)。

 若い女性の乳がん検診は害の方が大きい

 なぜ、20代、30代には、乳がん検診が推奨されていないのでしょうか。それは、乳がん罹患率が高くない若い女性が乳がん検診を受けると、メリットよりもデメリット(害)のほうが大きいと判断されているからです。

 乳がん検診に、どんなデメリット(害)があるのでしょうか。まず挙げられるのが、「放射線被ばく」に伴う発がんリスクです。このリスクは若い女性ほど高いとされていますから、しこりが心配で乳がんの検査を受けるとしても、20代、30代は原則的に、放射線被ばくをするマンモグラフィは受けるべきではありません。

 次にあげられるのが「偽陽性」の害です。偽陽性とは、結果として乳がんではなかったのに、「要精密検査」とされてしまうことを意味します。乳がんの精密検査では、乳房に針を刺して組織の一部を採取する「針生検」が行われていますが、針で痛い思いをするだけではありません。深刻なのは「がんかもしれない」と心配になることで被る精神的な苦痛です。結果が出るまで不眠になってしまう人や、検査後もずっと不安に苛まれる人がいるのです。

米国では発見された「乳がん」の3分の1が過剰診断

 そして、もっとも深刻なのが、「過剰診断」の害です。これは「命を奪わない病変」をがんと診断してしまうことを指します。がんと言えばすべてが命取りになると思われていますが、そうではありません。自然に消えてしまうものや、ずっと大きくならないもの、大きくなっても命取りにならないものなど、さまざまな病変があります。

 乳がんでは、マンモグラフィ検診が普及した結果、「非浸潤性乳管がん(DCIS)」という超早期の病変がたくさん見つかるようになりました。この中には、放置すると周囲に広がって命を脅かすものもありますが、そのままじっとして広がらないものもあるそうです。しかし、現代の医学では、どの人がどちらなのか見分けがつきません。

 そのため、「がん」を見つけてしまった以上は、過剰診断だったとしても放置できないので、ほとんど全員が、手術、放射線、抗がん剤、ホルモン剤などの治療を受けることになります。つまり、無用な治療を受ける可能性を排除することはできないのです。

 実はここ数年、この過剰診断が予想以上に多いことが、欧米の研究で指摘され始めています。2012年に報告された論文では驚くべきことに、米国の検診でこれまでに見つかった乳がんのうち約3分の1が過剰診断で、過去30年間に約130万人もの女性が、無用な治療を受けたと推計されています(N Engl J Med. 2012 Nov 22;367(21):1998-2005.)

世界的に有効性が疑問視され始めている

 日本で、どれだけの過剰診断があるかは不明です。しかし、ある乳がんの専門医は私の取材に、「日本でも10~20%は過剰診断があるかもしれない」と明かしてくれました。現在、日本で乳がんと診断される人は1年に約9万人いますので、毎年9000人~1万8000人もの女性が、無用な治療を受けている可能性があるのです。

 過剰診断の害を被る可能性があるのは若い人だけではありません。高齢者は検診で早期がんが見つかったとしても、がんが進行して命取りになる前に、他の病気で亡くなる可能性があります。それに高齢者では、治療によって被るダメージが若い人より重くなりがちです。こうした理由から、乳がん検診では年齢に上限が設けられているのです。

 それだけではありません。ここ数年、欧米からは乳がん検診に死亡率を下げる効果はないという研究報告も相次いでいます。これを受けて日本乳癌学会も、2015年に改定した「乳癌診療ガイドライン」で、50歳以上のマンモグラフィ検診の推奨グレードをAからBに格下げしました。現在Bに格付されている40代は、今後推奨すらされなくなるかもしれません。

 拙著『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ 』(宝島社新書)にも詳しく書きましたが、偽陽性や過剰診断の急増は乳がん検診だけでなく、前立腺がん検診などでも指摘されています。さらには、どのがん検診にも「命を救う」(寿命をのばす)という確たる科学的証拠はなく、世界的に有効性が疑問視され始めています(BMJ. 2016 Jan 6;352:h6080.)。

乳がん専門医も「そろそろ“がん検診神話”は捨ててほしい」

 こうした事実を知っている芸能人やメディアの方々は、恐らくほとんどいないのではないでしょうか。乳がん検診を推奨するのならば、少なくとも国や学会のガイドラインは踏まえておく必要があると私は思います。

 いまや、やみくもに乳がん検診を推奨する時代ではないのです。昨年12月11日付の「日経ヘルス」で、聖路加国際病院乳腺外科部長の山内英子医師も、次のようにコメントしています。
「そろそろ、必ず検診に行かねばならないという、“がん検診神話”は捨ててほしい。乳がん検診の場合、発症リスクの低い人が検診を受けることで、過剰診断や偽陽性、被曝のリスク、精神的な負担などの不利益が、検診による利益を上回ることも。発症リスクを考慮して、必要な人が、その人に合った方法で検診を受けてほしい」

 山内医師は、日本乳癌学会で理事を務める著名な専門医です。このとおり、がん検診に限界があることは、乳がんの専門医も認め始めています。がん検診を受けてはいけない人がいること、がん検診には深刻なデメリットがあること、そして「寿命をのばす」という確たる科学的証拠はないことを、ぜひ多くの人に知っていただきたいと思います。

がん患者に「第二の我が家」 NPO、ケア施設を開設

自分や家族ががんになったら――。2人に1人ががんにかかるといわれる今、こうした悩みが身近になっている。治癒率の向上や入院日数の短縮でがんを抱えながら家庭や職場で過ごす人も多い。先ごろNPO法人マギーズ東京が「自分を取り戻す居場所」を掲げて施設を開設。病院でも相談支援に力を入れ始めた。

 東京のゆりかもめ「市場前」駅から歩いて3分。東京湾に面した空き地の一画に木造のおしゃれな建物が立っている。昨年10月にオープンしたマギーズ東京だ。大きな窓からは日差しが降り注ぎ、室内にはゆったりしたソファや大きなテーブルが置かれている。長く訪問看護に携わり、マギーズ東京のセンター長を務める秋山正子さんは「家と病院の中間にある場所。患者や家族が自分を取り戻し、これからの生き方を考える第二の我が家を目指す」と話す。

 マギーズセンターの発祥は英国。がんを患った造園家の女性が、生きる希望を育む場所をつくりたいと考えた。1996年に第1号が誕生。彼女自身は完成を見ずに他界したが遺志は受け継がれ、英国内だけでなく海外にも広がっている。施設は寄付で運営され、利用は無料だ。予約もいらない。看護師と話したり臨床心理士、栄養士に相談したり。黙ってお茶を飲み、本を読むだけでもいい。患者や家族など月に約300人が訪れる。

「がんをきっかけに人間関係がぎくしゃくし、孤立感を募らせる人は多い。どう暮らせばいいのか、妊娠はできるのか。心配や愚痴を聞き、前に進む背中を押してあげたい」と秋山さん。各地のがん診療拠点病院でも、患者や家族の支援に力を入れ始めている。千葉県柏市の国立がん研究センター東病院は、3年前に相談支援体制を強化。それまでのソーシャルワーカーに加えて医師や看護師、薬剤師、管理栄養士など多職種が連携したサポーティブケアセンターを立ち上げた。

 「患者の療養生活をあらゆる側面から支援する」(坂本はと恵副センター長)。地域や企業の協力も得て、社会保険労務士による相談、化粧品会社のカバーメーク教室なども行っている。どの段階でどんな支援が必要かの研究もする。昨年は千葉県と組み、企業が医療者に何を望んでいるかアンケートを実施した。1位は「当面の治療期間や通院頻度を知りたい」だった。

 これらをもとにリーフレット「がんと診断されても、すぐに仕事を辞めないで!」を作成し配布を始めた。坂本さんは「がんと言われたらすぐに仕事を辞める人が多いが、それでは生活設計が難しい」と強調する。東京都のがん研有明病院も支援に力を入れる。玄関を入ると、右手にがん相談支援センターの看板、相談ブースがずらりと並ぶ。奥には本や冊子を置いた情報コーナー。「何かお困りの際には、がん相談支援センターに」の案内がある。

 緩和ケアセンタージェネラルマネージャーの浜口恵子さんによれば、専任のソーシャルワーカー1人、専門看護師4人、兼任の医療ソーシャルワーカー7人が相談にあたる。相談件数は昨年で約5000件。花出正美看護師長は「患者、家族は忙しい医師や看護師に遠慮して聞きたいことも聞けないでいる。主治医への相談の仕方、信頼関係の作り方をアドバイスすることが多い」と話す。
 「幼い子どもに話すべきか」「夫に『親に心配させたくないから話すな』と言われたが本当にそれでいいのか」。こうした悩みも寄せられる。「医療は急速に進歩したが、心や生活への支援はこれから」(秋山さん)だ。

■拠点病院にも相談窓口

 厚生労働省は地域がん診療連携拠点病院の指定要件として院内に「がん相談支援センター」を設置することを義務付けている。現在、全国に399ある拠点病院は専従のスタッフを置き、患者や家族、地域住民の相談を受けている。だが周知は不十分なうえ、病院によって内容にも差がある。 医療の進歩で治療しながら働く人が増え、就労への関心も高まっている。昨年10月に内閣府が働き方改革の一環として「治療と仕事の両立」を発表、国が策定するがん対策基本計画でも就労が重点課題になっている。厚労省がん・疾病対策課の小野由布子相談支援専門官は「まず相談窓口を知ってほしい。また一度離職すると再就職は難しい。不本意な離職は避けたい」と話す。

がん治療薬オプジーボ類似薬の「キイトルーダ」発売 100ミリグラム約41万円

 米製薬大手MSDは15日、がん治療薬「キイトルーダ」を発売した。小野薬品工業の「オプジーボ」の類似薬で、肺がんと悪性黒色腫への適用が認められている。薬価は100ミリグラム約41万円で、肺がんの場合、1日当たりの薬価は3万9099円(年1427万円)。

 キイトルーダは患者自身の免疫の力を使う新しいメカニズムで作用するがん治療薬。現在、ホジキンリンパ腫への適用拡大を厚生労働省に申請しているほか、膀胱(ぼうこう)がん、乳がん、胃がん、頭頸部がん、肝がん、多発性骨髄腫、食道がん、腎細胞がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がんなどを対象とした臨床試験も進められている。


都道府県によってかかりやすい「がん」があった! 国立がん研究センターの調査で明らかになった死亡率格差とは?

日本人の2人に1人がかかり、死亡原因のトップである「がん」。最近ではタレントの北斗晶さんが、闘病の末に芸能界復帰を果たすなど、早期発見や高度医療等により、必ずしも死に直結する病ではなくなったが、やはり、できることならばかかりたくはない。

そのがんについて、意外な事実が明らかになった。

 1月7日に発売された『がんで死ぬ県、死なない県(NHK出版新書)』(松田智大/NHK出版)は、がんの罹患や死亡率について、統計結果から「地域差」が存在しているとし、都道府県別にがんをひもといた、本邦初の一冊だ。
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 根拠としたのは、著者である松田智大氏が所属する、国立がん研究センター公表のデータ。各都道府県が実施している「地域がん登録」をもとに、部位別の罹患率、死亡率をまとめたもので、2016年に初めて47都道府県分が出揃ったという。
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この調査が画期的なのは、都道府県によって罹患しやすいがんが異なること、また、罹患後の死亡率にも罹患のしやすさとは異なる地域差があることを明らかにした点です。 例えば、新潟県は食道がん、鳥取県は子宮頸がん、石川県は咽頭がんに、それぞれかかりやすいことがデータの数値から読み取れる。
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 また、がんになる人は突出して多くないものの、全国で最も死亡率が高く「がんで亡くなりやすい」のは青森県、そうかと思えば、全ての部位のがん罹患率が高めにもかかわらず、死亡率は全国トップで低い長野県のような地域もあり、「かかりやすい」=「亡くなりやすい」というわけではないということも分かる。

 一体なぜ、このような格差が生まれるのか。松田氏はこう解説する。

「地域」を見ることは、文化や環境要因を見ることにほかなりません。(中略)文化的な背景を持つ各地特有の要因が、がん罹患と密接に関係しているということなのです。 本書によると、塩分の濃いものを食べる、酒どころで飲酒量が多いなど、その土地固有の習慣は少なからず影響しているという。

食生活に限ったことではない。例えば、乳がんの罹患率が極めて高い東京都は、全国で最も出生率が低い。長期間分泌することで、乳がんリスクを高めるホルモン、エストロゲンが出産や授乳で抑制されることから、実は出生率と乳がんは強い関連性を持っているという。
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 女性の社会進出が目覚しい首都圏では、子供を産まない選択も一般的であることを考えると、がん発症は地域の特徴的なライフスタイルに起因すると言わざるを得ない、と松田氏は解説している。
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 死亡率に関しては、交通機関の不整備で物理的に検診へ行きにくい、がんと診断された患者が迅速に治療を開始できる仕組みが構築されていないなど、地域の行政や医療の課題もあるようだ。
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事や生活習慣の見直しに加えて、本書で居住地のがん傾向を知り、地域の行政と医療へ今以上に関心を持つことが、がんにならないための有効な予防策と言えるだろう。

がん治療薬「年1427万円」で了承 オプジーボ類似薬のキイトルーダ

 厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)は8日、米製薬大手MSDのがん治療薬「キイトルーダ」の薬価を100ミリグラム約41万円とすることを了承した。

肺がんの場合、1日当たりの薬価は3万9099円(年1427万円)で、類似薬である小野薬品工業の「オプジーボ」と同じ。肺がんと悪性黒色腫の患者計7300人が使用し、ピーク時年544億円の売上を見込む。

 キイトルーダは昨年9月に製造販売承認を得ていたが、オプジーボの薬価が100ミリグラム約73万円から約36万5千円に引き下げられるのを待って、ようやく薬価が付けられた。2月中旬にも発売される見込み。

 一方、厚労省は事前に検査薬を用いて効果が見込めるかどうかを調べてからオプジーボ、キイトルーダを使用することなどを定めた適正使用指針を同日の中医協に示し、了承された。

がんに対する新たな免疫療法 有効性の一方で副作用リスクも

 がんと免疫について、岡山赤十字病院(岡山市)の細川忍呼吸器内科副部長に寄稿してもらった。人間の体内は免疫システムによって常に監視されており、体内に存在する異物は排除される仕組みとなっています。微生物をはじめとした非自己の物質だけでなく、本来は自己の細胞であるがん細胞もその対象となります。

 体内では異常をきたした細胞が絶え間なく出現しています。自己の細胞は免疫細胞から攻撃を受けにくいのですが、その細胞に起こった変化を免疫システムが感知して体内から排除します。それを免れた異常細胞は徐々にその悪性度を強めながら、一方で免疫の監視から逃れる力を獲得していきます。そしてがん細胞はどんどん増殖し、体内に広がっていくのです。

 免疫監視からの逃避に重要な働きをするものが免疫チェックポイントと呼ばれる分子です。これは異常な免疫反応、過剰な免疫反応、遷延する免疫反応などが生体にとって不利に働かないように恒常性を維持するためのもので、がん細胞はこの分子を自身の生存のために有効に利用していることがわかりました。

がんに対する免疫療法

 がんに対する免疫力を強め、がんを駆逐しようとする試みが従来の免疫療法です。免疫細胞をいったん体外に取り出した上で賦活化して体内に戻す細胞移入療法や、がんに特異的な抗原をワクチンとして接種することで免疫力を高める腫瘍細胞ワクチンなどです。しかし、満足のいく効果は得られていませんでした。

 今回初めて有効性が示されたのが、先ほど挙げた免疫チェックポイント分子を阻害する薬剤です。薬によってがん細胞に対する免疫のブレーキがはずされ、免疫細胞ががん細胞を攻撃することができるようになるのです。

 日本で承認されているのは、抗PD―1抗体のニボルマブとペンブロリズマブ、抗CTLA―4抗体のイピリムマブで、現時点でニボルマブは悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、ペンブロリズマブは悪性中皮腫と非小細胞肺がん、イピリムマブは悪性黒色腫に対して使用が認められています。この新しい免疫療法は、手術療法、放射線療法、化学療法と同様に、がんの標準治療の一つとなってきています。

免疫チェックポイント、阻害剤の副作用

 免疫療法は、従来から「副作用がない」というイメージがあるかもしれませんが、決してそうではありません。報告では、全般的に副作用の頻度は抗がん剤に比べて少ないとされていますが、過剰な免疫反応によってもたらされる肺障害、大腸炎、肝炎、内分泌障害、神経障害など、今までのがん治療では経験したことのない新たな副作用に直面することとなりました。

 免疫関連有害事象が起こった時には、ステロイドホルモンなど免疫抑制を必要とすることもあるのです。副作用の早期発見と、速やかで適切な治療のために、治療を受ける患者さんにもよく知っておいてもらう必要があり、医療者側もがん治療の専門家のみならず、多くの専門科、多くの職種で対応する必要性がさらに高まってきています。

免疫療法の今後

 有望な治療である一方で、新たな種の副作用のリスクにさらされ、さらに非常に高価な薬剤でもあります。どのような患者さんに対して効果が期待できるか、副作用の危険性が高いのか、治療開始のタイミング、治療の継続期間、また他の治療と併用することで治療効果が高まるのかなど、解明されていない事もまだまだ多く存在します。現在もさらなる研究が日々進行している状況です。

 岡山赤十字病院(086―222―8811)

 ほそかわ・しのぶ 丸亀高校、岡山大学医学部卒。金田病院、国立病院岡山医療センター、岡山大学医学部付属病院などを経て2005年から岡山赤十字病院。15年から現職。日本内科学会認定医、日本呼吸器学会指導医・専門医・代議員、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本呼吸器内視鏡学会指導医・専門医、日本がん治療認定医機構がん治療専門医。医学博士。

性格と長寿の関係、悪口な人は心臓病・肺がんになりやすい

性格と長寿の相関関係をめぐっては多くの研究成果が報告されているが、画期的とされたのが2011年に米国で発表された「長寿プロジェクト(The Longevity Project)」である。この研究が注目されたのは、大規模な対象者集団を幼年期から晩年までの長きにわたって追いかけた「80年追跡研究」だったからだ。

◆「仕事人間」は長生きできる

 追跡研究は日本でも行なわれている。東北大学大学院医学系研究科教授・辻一郎氏の研究グループは1994年、宮城県大崎保健所管内の40~79歳の約5万2000人に対し性格や生活習慣を問うアンケート調査を実施。その後12年間にわたって生存状況を追跡した。

 辻氏らは「日常生活の中で大切なもの」を対象者に聞いた。そこでは、「仕事」と答えた人の死亡率が11%と最も低かった。死亡率が最も高かったのは、「名誉」と答えた人(28%)だ。辻氏は著書『病気になりやすい「性格」』(朝日新書)の中でこう記している。

「仕事に励んだことで『金銭』や『地位』『名誉』も得られるだろうし、それを目標に頑張る人もいるだろう。ところが、その3つが大切だと答えた人の死亡率は高かった」

 金銭や名誉ではなく、目の前の仕事のやりがいに燃える人の方が長生きする可能性が大きいということだ。

がん、心筋梗塞、脳卒中…日本「3大疾患」治療のお値段

■がん

 がん治療は、「手術」「抗がん剤」「放射線」が3本柱。一般的に治療費は100万~200万円といわれる。がんの種類、進行度、手術の難易度や患者の年齢などの条件の違い、治療方法、入院日数、検査・薬の種類によって変わる。

 たとえば大腸がんなら、結腸切除手術を受けて2週間入院した場合の医療費は40万円ほど(3割負担)。術後に抗がん剤治療を6カ月行うことになれば、薬剤の種類によって1カ月あたり「2万5000~10万円(3割負担)」×6カ月分の費用がかかる。

 ただ、保険適用内の治療であれば、公的助成の「高額療養費制度」を利用できる。乳がん治療を経験したファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は言う。

「病院や薬局などへの支払額が1カ月で一定額を超えた場合、超過分が支給されます。自己負担限度額は年齢や収入によって異なりますが、70歳未満で月収28万~50万円であれば、1カ月の限度額は〈8万100円+(医療費-26万7000円)×1%〉です」

 医療費が100万円(3割負担で約30万円)だとしても、月9万円弱+差額ベッド代等で済む。しかし、治療が1年続けば年間100万円強が必要だ。

 保険適用外治療の場合は全額自己負担。一部がんを除く重粒子線治療(平均309万円)、陽子線治療(平均268万円)などの先進医療は高額だし、国内未承認の抗がん剤は月100万円超えが多く、約646万円かかる薬剤もある。

「その場合、先進医療特約などが付帯した民間保険に未加入だと負担は大きい。しかし、加入していたとしても、その治療が保険金の支払い対象になっているかどうかはまちまちです。先進医療に特化した1カ月500円の医療保険もありますが、給付条件の確認が大切です」(前出の黒田氏)

■心筋梗塞

 心筋梗塞は、動脈硬化などによってできた血栓が、冠動脈に詰まって心臓に酸素や栄養が届けられなくなり、心筋の一部が壊死する病気だ。

 血流再開治療の「カテーテル治療」は1週間程度の入院を含めて約30万~40万円。外科治療の「冠動脈バイパス手術」になると、2週間弱の入院で約100万~150万円(いずれも3割負担の場合)。ただ、保険適用されるので高額療養費制度を利用できる。

 最近は、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使った手術が広がっている。小さな穴を開けて内視鏡を使って行われるので、出血や術後の痛みが少ない低侵襲な手術とされる。

「ただ、保険適用外なので全額自己負担。最も簡単なものでも350万円程度かかる。開胸手術と比べて心臓の回復具合が明らかに上回るわけではないので、メリットを見極める必要がある」(心臓外科医)

■脳卒中

 脳卒中の大半を占める脳梗塞は突然起こる。状態に応じてさまざまな治療法があるが、基本的には保険適用の治療だ。

 発症後4時間半以内であれば、血栓溶解療法(t―PA)が検討される。20日前後の入院で、窓口請求額は治療費、入院費含めて約60万円。t―PAで十分な効果が得られない場合は血栓回収術となり約90万円。バイパス手術やステント留置術などになると高額で約120万円(いずれも3割負担の場合)。

「治療費だけでなく後遺症軽減のためにも早期来院早期治療が重要。そのために初期症状を見逃さない」(東京慈恵会医科大学神経内科・井口保之教授)

「ろれつが回らない」「言葉が出ない」「片方の手足に力が入らない、じんじんしびれる」「片方の目が見えない」など、突然こんな症状に襲われたら、様子見せずに救急車を呼ぶ。

 後遺症でリハビリが必要になった場合、慈恵医大では脳に刺激を加えて不自由な部分を動かす「磁気刺激療法」という選択肢がある。開発したリハビリテーション医学講座の安保雅博教授は「2週間の入院で診療費総額は約17万円。筋肉を柔らかくするボツリヌス注射をすることがあり、上肢なら1回で最大約7万5000円」だという。

 それも、毎日の適切なリハビリと組み合わせてこそ効果がある。

胃・大腸・肺 がん手術の有無による5年生存率の違いが判明

〈がんでも受けてはいけない手術〉と題された『週刊現代』6月25日号では、〈一部の医師は古い考えを捨てられず、「とにかく切りましょう」と主張するのだ〉と、安易に手術を選択することに警鐘を鳴らした。その上で、がん手術が失敗した事例、手術をしないで長生きした事例を挙げる。

 抗がん剤の開発などが進み、がん患者にとって手術が唯一の選択肢でなくなったのは確かだ。手術に少なからぬリスクが伴う以上。“切らないで済むならそうしたい”と考えるのは当然である。

 判断材料の一つは、手術するか否かで生存率がどう変わるかのデータだ。

 前出の『週刊現代』では〈手術なしで生存率90%超〉という小見出しが掲げられ、前立腺がんと喉頭がんで、「手術以外の方法を選んだ場合の5年後の生存率」を示している。

 60代でステージIの前立腺がんが見つかり、手術以外の治療を選んだ人の5年生存率は96%。喉頭がんでは95.8%となるとある。一方で、手術した場合の5年生存率は記述がない。五本木クリニック院長の桑満おさむ氏が説明する。

「『現代』に掲載されたのは、千葉県がんセンター研究所がん予防センターが公表している、『全がん協加盟施設の生存率協同調査』に基づいて算出された数字です。元データでは、『手術なし』の場合の5年生存率だけでなく、『手術あり』の数字も調べることができます」

 同データベースを使って、60代の患者が「手術なし」を選んだ場合と「手術あり」の場合の5年生存率をステージごとにまとめると、その違いが明らかになった。

5大がん47都道府県ランキング 「がん対策」ができている県できていない県

胃がんの対策ができている都道府県ナンバーワンは鹿児島、肺がんは長野、大腸がんは宮城。一方で肺がん、乳がん、子宮頸がんで最も対策が遅れているのは北海道──。これは本誌が47都道府県のデータを分析し、独自に算出したがん対策ランキングだ。あなたの地元の結果は?

 専門家の指導の下、本誌がなぜ、47都道府県のがん対策ランキングを算出したのか。まず、この経緯から説明したい。

 きっかけは今秋、高市早苗総務相から塩崎恭久厚生労働相に出された「がん対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」の結果報告書だ。

 日本では2007年に「がん対策基本法」が施行、それを受けて「がん対策推進基本計画(基本計画)」が作られている。

 このがん対策に対し、総務省が出した勧告の一つが、「がんの早期発見のための取り組みの推進」。つまるところ、「がん検診」をもっとしっかりやってよ、と厚労省に訴えたわけだ。

 勧告に先駆けて行われた総務省の調査では、17都道府県52市区のがん検診の取り組み状況をチェック。すると、がん検診の受診率向上で欠かせない、住民に受診を呼びかける「個別受診勧奨(コール)」や「再勧奨(リコール)」が徹底されていない地域や、正しいがん検診を実施するための精度管理ができていない地域などがあることがわかった。

「例えば、北海道のある医療機関では、胃がん検診を受けた人のなかで再検査が必要な『要精密検査(精検)率』が30%台でした。通常は11%以下なので、再検査の不要な住民にまで精検を受けさせている可能性がありました」(総務省行政評価局評価監視官)

 さらに、がん検診の受診率を算定する計算方法も、都道府県や市区町村でまちまちであることも判明した。

 そこで本誌では、がん政策ウォッチャーでNPO法人がん政策サミット理事長の埴岡健一氏(国際医療福祉大学大学院教授)の助言のもと、がん早期発見・早期治療の要であるがん検診の地域格差の実態をつかむべく、独自の調査と分析を試みた。

 詳しくは後述するが、「地域で行うがん検診が、がんの死亡率低下につながっているか」を指標とし、都道府県ごとにランキング。上位と下位各10位までの都道府県を挙げた。

 一般的にがん検診には、対象となる集団の死亡率を下げる「対策型検診」と、個人の死亡リスクを下げる「任意型検診」とがある。市区町村が住民検診の一環として行っているのは前者の対策型検診で、今回の分析もこちらを対象としている。具体的には、胃がんの胃エックス線検査や胃内視鏡検査、大腸がんの便潜血検査、肺がんの胸部エックス線検査、乳がんのマンモグラフィ検査、子宮頸がんの細胞診だ。以前は乳がん検診で視触診も行われていたが、今年度から推奨されなくなった。

 先の基本計画では、16年度末までに「検診受診率50%を達成(胃、肺、大腸は当面40%)」を目標に設定しているが、今も多くの地域が達成できずにいる。

 ちなみに欧米でも一部のがんで検診が行われているが、乳がんの検診受診率はアメリカやイギリスは約70%(国民生活基礎調査によると日本は約34%)、子宮頸がんも約80%(同約33%)。定義が違うので一概に言えないが、日本とは比較にならないほど高い。国立がん研究センター社会と健康研究センター部長の斎藤博氏は、次のように言う。

「ヨーロッパの国々では検診の導入後に乳がんの死亡率が30%以上下がるなど、成果を挙げています」

 欧米の例のように、がん検診でがん死亡率を下げるには、有効ながん検診を正しく実施する必要がある。だが、日本では検診受診率が低いばかりではなく、科学的根拠に基づかない前立腺がんのPSA(前立腺特異抗原)検査などを行う、100%受けるべき精密検査の受診率が低いなど、質の低い検診を行う地域もある。さらに、検診対象者の半数以上を占める職場の検診では、質を管理するしくみさえないという。

「質の悪い検診は不利益が大きく、効果も期待できない」(斎藤氏)

 前出の埴岡氏も言う。

「がん検診を行う市区町村とそれを支援する都道府県のなかには、さまざまな受診率向上策を打ち出しているところがありますが、それがどう早期発見・早期治療に結びついているのか、またそれががんの死亡率低下をもたらしているのか、結果を踏まえて検討、評価していないところが多い。そうした分析が市区町村の行うがん検診対策には不十分です」

 そこで、それをわかりやすく示そうとしたのが、本誌が今回、算出したがん対策ランキングだ。具体的には、国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」の「がん検診受診率」「精検受診率」「都道府県別死亡データ」と、同センターの「都道府県別がん死亡(2014)」を使用。5大がん(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)について都道府県ごとに偏差値を算出した。

 その上で、がん検診受診率と精検受診率の偏差値の平均を計算。この「受診率偏差値」と、死亡率の偏差値から平均を求め、順位づけをした。胃がん、大腸がん、肺がんでは性差があることから、本来は男女別にしたほうが望ましいが、今回は誌面の都合上、男女合わせたものにした。

 ここから見えてくるのは、「がん検診の成果(検診受診率や精検受診率)ががん死亡率低下に貢献しているか」だ。受診率が高くて死亡率が低ければ、がん対策がうまくいっていると推測でき、受診率も死亡率も高ければ対策が不十分と考えられる。一方、受診率も死亡率も低ければ別の要素が寄与している可能性があり、受診率が低くて死亡率が高い場合は、積極的な対策が必要と推測できる。

 この表の見方には次の注意も必要だ。

 がん検診は市区町村で実施しているもので、ある地域が頑張っても、隣の地域が足を引っ張れば結果は相殺されてしまう。地域の取り組みが都道府県の死亡率に反映されにくいという側面もある。また、がん死亡率は検診だけでなく、その地域の医療機関のがん治療の質やがん予防の取り組みなどにも左右される。沖縄県に胃がんが少ないなど、地域性もある。

 そんななかであえてランキングを作成したのには、こういうとらえ方ががん対策には必要だということがわかったからだ。埴岡氏がこう指摘する。

「国内では医療にまつわるさまざまな統計が報告されていますが、今はそれぞれの専門家が統計ごとに分析し、解釈するだけにとどまりがちです。そうしたデータに“横ぐしを通す”ことで、見えてくるものがあります。(このランキングは)100%完璧なものではありませんが、がん対策などの医療対策では本来、こうした分析を進めていくべきです」

 今回のランキングでは、がん検診の受診率だけでなく、精検受診率も加えた。これは、がん検診の受診者がいくら増えても、再検査が必要な人が精密検査を受けなければ、結局、早期発見・早期治療に結びつかないためだ。実際、基本計画の後に策定した「がん対策加速化プラン」でも、精検受診率が重視されている。

 さて、気になる結果を分析してみよう。

 がん対策ができているとトップ10入りしたのは、宮城だ。胃がんの精検受診率は94.8%で全国1位。大腸がん、乳がん、子宮頸がんでもトップだった。同県のがん検診の事情について、国立がん研究センターがん対策情報センターの松田智大氏はこう解説する。

「宮城は、胃がん集団検診の普及に尽力した“がん検診の父”と言われている宮城県対がん協会の黒川利雄医師の影響が大きく、がん検診に熱心です」

 山形、長野は四つのがんでトップ10以内に入った。

「山形は宮城と同様、質の高い検診をしっかり実施している」(松田氏)。がん対策の先進県で長寿県でもある長野は、本調査でも上位に入っていた。

 一方、がん検診の成果が実を結んでいないと考えられるのが、北海道。すべてのがんでワースト10入り。検診受診率、精検受診率ともに低めで、とくに子宮頸がんの精検受診率は43%と、宮城の半分以下。死亡率は3.7%と高くなっている。北海道は先の総務省の結果報告でも問題があった地域として名前が挙がっている。対策が十分でない理由として、「医療従事者の層が薄い、がん検診の専門医が少ない、土地が広いので全体に浸透させるのが難しいという声が上がっている」(総務省)という。

 一方、子宮頸がんを除く四つのがんで下位だった青森だが、前出の松田氏はこうフォローする。

「青森はもともと胃がんが多い地域で、がんに対する危機意識は強いほうです。ただ、ガマン強い県民性と言われていて、症状がないと医療機関を受診しないため、どうしても発見が遅れてしまう。今は市町村単位ではなく県主導で検診の精度管理を行おうとしているので、今後は大きく変わってくると思われます」(本誌・山内リカ、吉崎洋夫)

■5大がん別都道府県ランキングベスト10・ワースト10
【胃がん ベスト10】
1位 鹿児島県、2位 熊本県、3位 宮崎県、4位 長野県、5位 宮城県、6位 沖縄県、7位 山梨県、8位 富山県、9位 新潟県、10位 高知県

【胃がん ワースト10】
1位 和歌山県、2位 青森県、3位 茨城県、佐賀県、5位 秋田県、6位 栃木県、7位 大阪府、8位 三重県、9位 北海道、10位 岐阜県

【乳がん ベスト10】
1位 香川県、2位 鹿児島県、3位 宮崎県、4位 宮城県、5位 滋賀県、6位三重県、7位 山形県、8位 高知県、長野県、10位 鳥取県

【乳がん ワースト10】
1位 北海道、2位 静岡県、3位 佐賀県、4位 東京都、5位 兵庫県、6位 青森県、7位 石川県、8位 埼玉県、9位 京都府、10位 神奈川県

【大腸がん ベスト10】
1位 宮城県、2位 山形県、3位 熊本県、4位 福井県、5位 愛媛県、6位 石川県、7位 滋賀県、8位 長野県、9位 福島県、10位 富山県

【大腸がん ワースト10】
1位 沖縄県、2位 青森県、3位 和歌山県、4位 大阪府、5位 長崎県、6位東京都、7位 福岡県、8位 北海道、9位 神奈川県、10位 京都府

【子宮頸がん ベスト10】
1位 山形県、2位 鳥取県、3位 宮城県、4位 新潟県、5位 香川県、6位 青森県、7位 岡山県、8位 滋賀県、9位 福井県、10位 岩手県

【子宮頸がん ワースト10】
1位 北海道、2位 佐賀県、3位 埼玉県、4位 宮崎県、5位 愛知県、6位静岡県、7位 沖縄県、8位 山口県、9位 福岡県、10位 兵庫県

【肺がん ベスト10】
1位 長野県、2位 山梨県、3位 高知県、富山県、5位 新潟県、6位 熊本県、7位 岩手県、8位 宮城県、9位 宮崎県、10位 山形県

【肺がん ワースト10】
1位 北海道、2位 大阪府、3位 兵庫県、4位 青森県、5位 愛知県、6位 京都府、7位 三重県、8位 東京都、9位 福岡県、10位 奈良県

自治体が今注目する“八王子方式”「がん検診」とは?

日本では2007年に「がん対策基本法」が施行、それを受けて「がん対策推進基本計画(基本計画)」が作られている。このがん対策に対し、総務省が出した勧告の一つが、「がんの早期発見のための取り組みの推進」。つまるところ、「がん検診」をもっとしっかりやってよ、と厚労省に訴えたわけだ。

 では、どんながん検診対策が望ましいのか。

 今、全国各地から視察に訪れ、注目されているのが、東京都八王子市だ。胃がん、肺がん、子宮頸がん、乳がんの四つのがんで精検受診率90%以上を達成した。同市の医療保険部成人健診課は、「人口50万人都市でここまで精検受診率が高いのは、ほかにあまりないのでは」と自信を見せる。

 同市は、もともとがん検診に対する意識が高い医師会と連携。肺のエックス線検査や乳がんのマンモグラフィ検査では見逃しのないよう二重読影が基本だが、医師会内に専門の委員会が設置され、複数の医師が画像を囲む形でチェックしているという。

 そのうえで、再検査が必要な人には医師会から推薦を受けた医療機関が紹介され、受診の結果が把握できない場合は、専属の保健師が直接電話をかけるなどして確認をとる。

 10年からはがん検診に特化したシンクタンクと契約。その助言を受けてコール・リコールを実施。施策は事前に必ず対象となる年代の住民に意見を聞く。

「乳がんや子宮頸がんのがん検診受診勧奨ハガキは、年齢が低い人と高い人でメッセージを使い分けています。若い人はがんと自分が結びつかないので、若干、危険性を訴えるネガティブな内容のほうが受診率アップには有効でした。一方、年齢の高めの人には命を守ることの重要性を訴えた内容にしています」(同)

 こうした施策はすべてデータ化し、結果を評価するのも、八王子市の検診対策の特徴だ。

「基本コンセプトは、『一度検診を受けた方を逃さない』。自治体のがん検診は対象者をつかむことが難しい。ですので、一度検診を受けていただいた方をつなぎ留める。新規の受診者を獲得しつつ、そうやって2回目以降のがん検診受診につなげることが大事だと考えています」(同)

極度の糖質制限は危険 がん患者が取るべき「正しい栄養」

「がん細胞は炭水化物から合成されるブドウ糖を消費して増殖する。一方、人はブドウ糖がなくても緊急用の代替エネルギーである『ケトン体』をつくり出せる。なので、終末期のがん患者は、糖質制限食でがんを兵糧攻めにすべきだ」

 最近、こんながん食事療法が注目されているという。しかし、糖質は“宿主”の人間にとっても重要なエネルギー源。がん患者が制限して大丈夫なのか? 日本静脈経腸栄養学会理事長で藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座の東口髙志教授に聞いた。

■「糖を取らない」ではなく「うまくエネルギーに変える」

「以前からある食事法ですが、動物実験や臨床試験を広く行い、効果や安全性を繰り返し検証し、確かめられたとは聞いていません。何人かの終末期のがん患者さんに効果があったにせよ、全てに当てはまると考えるのは危険と思います」

 東口教授は、それまで平均余命35日だったがん終末期患者の生存期間を、体系的な栄養管理によって50日に延ばした臨床栄養学の第一人者。全国約1500の医療施設で活躍する「全科型栄養サポートチーム」の創設者でもある。

 東口教授によると、がんは自身が生き延びるため、患者本人のタンパクや脂肪を崩壊させてブドウ糖に変換し、それをエネルギーとして使う。

 がんはブドウ糖しかエネルギー源として使用できないので、ブドウ糖を得るためにがん患者の骨格筋や脂肪をどんどん溶かして、高度の“代謝障害”に誘導するという。

「がん細胞は、インスリンや種々のホルモンが正常に作用しないようにして使われない糖を乳酸に変換し、これを元にエネルギーをつくり上げます。この変化はがん患者さんが糖を摂取しなくても起こります」

 要するに糖質制限をする、しないにかかわらず、がん細胞は体の骨格筋や脂肪を崩壊させて、生み出されたエネルギーによりどんどんと増殖するのだ。

「糖はよほどたくさんの量を摂取しない限り、がんの発育を早めることはありません。糖質を過度に制限すると、むしろ正常細胞が必要とする糖を著しく減らすことになります。そのため、がんも正常細胞も糖を得るためにタンパクや脂肪が崩壊され、著しく減少し、患者さん自身ががんより先に滅びてしまうことになります。大事なのは『糖を取らないこと』ではなく、『糖を正常細胞がうまくエネルギーに変えられるか』です」

 食べ物は、体内で炭水化物からブドウ糖に変わる。それが血液とともに全身を巡る間に、インスリンの働きで細胞内に取り込まれ、ピルビン酸に変わる。

「この過程を『解糖系』と呼びます。この時、細胞内が酸素不足、あるいはミトコンドリア内にブドウ糖の代謝産物ピルビン酸が進入できないと、ピルビン酸は疲労物質の乳酸に変わります。この乳酸からエネルギーを産生するのが『嫌気性解糖』です。がん細胞はこの経路でしかエネルギーをつくり出せません」

■終末期の栄養管理のギアチェンジで1割超が蘇る

 一方、細胞内に酸素が十分あり、ピルビン酸が細胞内のミトコンドリアに取り込まれると、「好気性解糖」が始まる。好気性解糖は正常細胞での主なエネルギー生成経路で、「生体のエネルギー通貨」ATPを産生する。

「好気性解糖なら、ATPは嫌気性解糖の18倍も多くつくれますが、酸素が十分あってもがん細胞は好気性解糖を嫌う。ですから、がん細胞が増殖するには、正常細胞の18倍の栄養素が消費されます。そのため、栄養を補給しないと体がどんどんと弱ってしまいます」

 その理由はハッキリしないが、がん細胞が好気性解糖を行うとアポトーシス(細胞死)するという説もある。

「いずれにせよ、がん患者への食事は好気性解糖にプラスになる栄養素を取ればいいのです」

 では、具体的に何を取ったらよいのか?

「『ビタミンB1』はピルビン酸を変身させ、細胞内のミトコンドリア内の代謝経路(TCAサイクル)へ取り込まれる際の補助酵素として働きます。『コエンザイムQ10』はATP生産に必須の補助酵素。『L-カルニチン』は血液中に溶け出した脂肪酸をミトコンドリア内へ誘導することで、エネルギー変換への手助けをします」

 人の体内ではつくれない必須アミノ酸である「分岐鎖アミノ酸」(BCAA:バリン、ロイシン、イソロイシン)は、そのままミトコンドリア内に誘導され、好気性解糖と同様にエネルギーを産生する。「クエン酸」は乳酸をピルビン酸に戻す働きがあり、がん患者の強い疲労感を解消させるのにも役立つ。むろん、がんの種類や治療法の違いで必要となる栄養素は変わるが、共通するのは手術や抗がん剤治療の前に十分な栄養を補給しておくこと。

「血液中のタンパク質量を示す血清アルブミン値が高いほど、手術後30日以内の合併症発生率・死亡率は低くなります。また、栄養状態が良好な人ほど抗がん剤治療での副作用が少なく、治療が完遂されやすくなります」

 ただし、がん患者はエネルギー消費量が落ちてくる「終末期」になると、栄養や水分を減らす「栄養管理のギアチェンジ」が必要だという。

「がんの最終段階では栄養や水を細胞が受け付けなくなり、投与しても腹水や胸水、むくみとなり、患者を苦しめることになるのです。ただ、ここで栄養管理のギアチェンジをすると、患者さんは負担が減り、時にはもう一度、口からご飯が食べられるようになることがある。その段階で再度栄養補給を行うと、自宅に帰れるまで回復するケースも。その数は1割ほどです」

 がん患者の食事法は画期的新薬に匹敵する効果がある。覚えておこう。

がんなどの遺伝性疾患が不安なあなたが受けるべき「診療」

自分に、子どもに重大な遺伝性疾患があるかもしれない。その可能性が分かる技術はすごいが、人の心はそんな進歩に追いついているのだろうか。

 2013年、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査(正確には遺伝学的検査)の結果をもとに、乳がんになる前に乳房を切除したとして話題になった。同じ年には、母親の血液から胎児の染色体異常の疑いを高い精度で見つけることができる血液検査、いわゆる新型出生前検査が臨床研究として、国内の一部の医療機関で受けられるようになった。

 これら遺伝学的検査や出生前検査の技術が向上する一方、その結果をどう受け止めるべきなのか、患者の心のケアへの理解は遅れている。解決策として最近、聞かれるようになったのが「遺伝カウンセリング」だが、そもそも遺伝カウンセリングとは何だろうか。

●あくまでサポート役

「遺伝カウンセリングでは、検査の方法や手順を説明するだけでなく、遺伝とは何か、なぜ病気になるのか、そもそもなぜ検査を受けたいと思うのか。そして、検査を受けた後の選択肢、受けなかった場合の選択肢には何があるのか。そのようなお話をしながら、相談者が意思決定する過程をサポートします」

 こう話すのは、聖路加国際病院の遺伝診療部部長で女性総合診療部医長も務める山中美智子さん。聖路加国際病院で遺伝カウンセリングを受ける相談者は、遺伝性のがんが疑われる人、高齢出産などで胎児の先天性疾患を気にかける人が多い。ここ10年間で遺伝カウンセリングの件数はほぼ右肩上がりだ。

 遺伝カウンセリングは、いわゆるインフォームド・コンセントではない。インフォームド・コンセントは、医師が治療法などを説明して患者が同意することだが、遺伝カウンセリングは相談を通して本人が意思を決めることが大切にされる。検査を受けようか悩んでいる人が遺伝カウンセリングを受けて、検査しないと決断する場合もある。

「私たちが、検査を受けるべき、受けるべきでないと判断することはありません。相談者が抱えるさまざまな不安、疑問を整理するのです」(山中さん)

 実際の遺伝カウンセリングについて、遺伝性がんと出生前検査の二つに分けて紹介しよう。

 遺伝性のがんのうち、聖路加国際病院で多いのは乳がんと卵巣がんだ。これらのがんの5~10%は遺伝的な要因が強いとされている。その中でも多くの割合を占めるのが遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)だ。HBOCは、BRCA1またはBRCA2という遺伝子の変化(変異)が原因で発症する。

 日本HBOCコンソーシアムの資料によると、日本人一般女性が生涯で乳がんになる確率は約9%だが、BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異があると41~90%になる。卵巣がんについても、日本人一般女性の生涯発症率は約1%だが、遺伝子に変異があると8~62%になる。アンジェリーナ・ジョリーが調べたのも、この遺伝子だ。

 HBOCの特徴には、40歳未満で乳がんを発症する▽両方の乳房でがんが発症する▽片方の乳房で複数回発症する▽乳がんと卵巣がんの両方を発症する、などがある。検査でHBOCと診断された場合、例えば現在は乳房の片方だけに腫瘍(しゅよう)があるが、将来的にはもう片方にも腫瘍ができるリスクが高いとして、両方の乳房切除も検討される。

●家族の病歴も徹底調査

 HBOC検査を前にしたカウンセリングでは、最初に家族の詳細な病歴を調べる。親、祖父母、それらのきょうだいについて、乳がんや卵巣がん、あるいは他のがんを発症した人がいるか。発症したのは何歳かなど、できるだけ情報を集める。こうすることで、遺伝的な影響が強いか判断でき、遺伝学的検査を受けるのが妥当か、相談者自身が考えられるようになる。

 さらに、検査結果が陽性(遺伝子に変異があること)の場合にはどのような対策があるかや、陰性でもHBOC以外の遺伝的理由でがんリスクが一般より高かったり、他の家族に陽性の可能性があったりするかもしれないことなども、検査前に説明する。その上で、相談者が検査を受けるか判断する。

 また、乳房や卵巣は女性のアイデンティティーや妊娠に関わるため、それらに対する不安に答えるのも遺伝カウンセリングの目的のひとつだ。

 カウンセリングの時間や料金は施設によって異なるが、聖路加国際病院では1時間半で3千円(予約制)。その後、HBOCの遺伝学的検査を受ければ約20万円。さらに、発症前の乳房を切除する手術には数十万円かかり、いずれも保険が適用されない。

 聖路加国際病院の場合、相談者の平均年齢は45歳。20代や70代の相談者もいる。「家族をがんで亡くしているから自分は遺伝性のがんかもしれないと不安になっている人、治療してから数年後にニュースなどをきっかけに相談に訪れる人もいます」(山中さん)。カウンセリングは基本的に一人で受けるが、希望すれば家族も同席できる。

●中絶阻止が目的でない

 もう一つの出生前検査は、生まれる前の胎児の状態を調べることで、広い意味では妊婦健診でおなじみの超音波検査も含まれる。ここで言う出生前検査では、染色体を調べるなどの遺伝学的検査を指すことが多い。

 その中でも新型出生前検査は妊娠10週から受けられ、比較的精度が高く、流産や感染症のリスクもないとして、海外では11年ごろから実施されてきた。

 しかし、規制がない日本にそのまま導入されると、妊婦が検査内容を正しく理解できずに混乱が広がりかねないとして、専門家団体は、検査前に遺伝カウンセリングを行うことを条件とした。13年から臨床研究として行われている。

 ただ、新型出生前検査でわかるのは、染色体異常の「疑いが高いかどうか」まで。染色体異常かどうかを確定するには、羊水検査を受けなければいけない。

 負担は経済面にも及ぶ。新型出生前検査の費用は約20万円、羊水検査は約10万円。羊水検査でもわかるのは、染色体異常や、先天性風疹症候群など一部の疾患だけで、全ての先天性疾患がわかるわけではない。

 聖路加国際病院の場合、妊婦健診を受ける人全員に出生前検査があることを案内。検査を受けたい人、検査について知りたい人に遺伝カウンセリングを予約してもらうという流れを取っている。新型出生前検査の場合、初回のカウンセリング費用は1万2千円。40歳以上の妊婦の半数近くが遺伝カウンセリングを訪れ、その約8割が何らかの出生前検査を受けるという。

「臨床研究開始後1年間の経過では、新型出生前検査を受け、羊水検査で染色体異常が認められた妊婦の97%は人工妊娠中絶を選んだ」という報道もあるが、この数字を見て単純に「多い」と感じてはいけない。遺伝カウンセリングを受ける妊婦は出生前検査や、その先にある人工妊娠中絶を視野に入れていることが多いからだ。人工妊娠中絶を考えていない妊婦はそもそも、出生前検査を受けることは少ない。

 山中さんは訴える。

「しばしば『検査を受けたほとんどの妊婦が人工妊娠中絶するなら遺伝カウンセリングはいらない』と言われますが、それは違います。私たちの目的は、人工妊娠中絶の阻止ではありません。本人がどうしたいのか、その人の価値観を大切にしながら意思決定のお手伝いをするのです。出産後や中絶後のフォローもしていきます」

●地域的な偏在も課題

 現在、遺伝カウンセリングを受けられるのは大学病院など、都市にある大規模病院がほとんど。学会認定の遺伝カウンセラーが一人もいない県があるなど、地域差もある。山中さんは、「遺伝性疾患をもちながら地域で暮らす人にも、遺伝カウンセリングのニーズがあるはずです。大病院で体制を整えるだけでは不十分で、地域の保健師や看護師にも、遺伝について学べる機会を提供していきたい」と話す。

 遺伝に関する病気の研究が進むにつれて、自分や子どもへの影響について、不安を感じる人はますます増えるだろう。遺伝について、気軽に相談ができる専門家を養成し、一刻も早く全国に行き渡らせることが必要だ。(サイエンスライター・島田祥輔)

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