不動産投資ブームの勢いが止まるところを知りません。今や、事故物件でもアッという間に売れちゃう時代なんです……と聞くと、驚かれる方も多いかもしれません。しかし、実際に事故物件が早々に買われるケースは決して珍しくない時代に突入しているのです。
私が実際に見に行ってきた、前の所有者さんが邸内で自殺された物件も、事故物件でありながら、さらに躯体は傷んでいるし、値段も少しお安い程度だったので、「こりゃ当分売れないだろうな~」と放置していたら、3日ほどして不動産屋さんから「あれ満額で売れましたよ」という連絡が来ました。
この背景にあるのは投資用不動産の高騰でしょう。実際に、今まで事故物件を敬遠していた(平均的な)不動産投資家たちが、「割安」という理由で事故物件に手を出し始めているという話はよく耳にします。もちろん以前から、売れることは売れていましたが、スピードのギアが二段階くらい早くなったというのが実感です。
周りでは「不動産投資デビューが事故物件」という人まで出てきました。「オイオイ大丈夫かよ」と思われそうですが、果たしてその実態はどんなものなのでしょうか。
今回はそんな事故物件投資のリアルな現場のレポートと、不動産投資家以外にも影響の大きい「事故物件の告知義務ガイドラインの策定」についてお伝えします!
※この記事で紹介する内容はすべて実話ですが、登場する物件が特定できないよう一部改変を行っています
生き地獄のような不動産投資の現状
まず大前提として、不動産投資界隈の現状をお話ししましょう。
不動産投資に手を染めていない方にはピンと来ないと思うのですが、今、ありとあらゆる不動産が高騰しています。
港区や湾岸のタワマンが大きく値上がりしていることは度々報道されているので、ご存じの方もいるかもしれませんが、ボロボロのワンルームマンションや、再建築できない築古戸建てまで、数年前の“倍”くらいの値段になっているのです。
その証拠の一つに、私が8年前に買った新大久保のワンルームマンションも、気がついたら倍に値上がりしていました。そして8年間分のお家賃もいただいているので、今売ると投下資金が2.5倍くらいになって帰ってくることになります(税引前ですが)。
どうしてこんなに不動産が高くなったのでしょうか。
副業ブームや金余り、株価の高騰が原因だと言われていますが、不動産投資の良い教材が書店で手に入るようになったのも一因としてあるでしょう。
しかし、それだけではありません。
不動産投資セミナーも毎日のように開催されており、ちゃんとしたものから詐欺同然の高額セミナーまで百花繚乱、猫も杓子も不動産投資という世界になっています。興味のある方は不動産投資のポータルサイトなどで検索してみてください……。
しかし投資法をどれだけ勉強しても、元手がなければ話にならないのが不動産投資の世界。そして、元手があるかどうかは人によります。
不動産投資をする人の二極化
そんなわけで現在は「豊富な自己資金と与信をバックに、銀行から億単位の借り入れを起こしてマンションを新築する」というアッパーサイドの不動産投資と、私のやっているような「現金で戸建てや築古アパートをチマチマ買う」というお手頃投資に二極化しかけているのが現状です。もちろん後者のほうが人数が多いです。
そしてこのお手頃投資というのもピンキリで、私のように東京・横浜・埼玉など人口の多いエリアで数百万の戸建てを買っている人もいれば、過疎化の激しい地方都市でゼロ円の家(持ち主が管理しきれなくてタダ同然で売り出されている家がゴロゴロあるのです)を買って、DIYして、客付けして、少資本で不動産投資をやっている人もいます。
投資効率だけで言えば地方都市のほうが良さそうに見えるのですが、ゼロ円住宅をDIYするのはけっこう難易度が高く、地元居住者であったり、DIYの技術や人脈がないと難しい面もあります。
ジモティーで入居者を募集!?
また、過疎地域では不動産屋さんを通さず、ジモティーなどで入居者を探すケースも多く、そうなるとトラブルが発生した際には投資家自らが対応する必要があります。東京都心のハイソな人からすると、「そもそもジモティーで入居者を探すってなんやねん」という話ですが、そういう世界線がマジであるんですよ。
しぜん大多数の人は「都内や横浜でミドルリスク・ミドルリターンを目指そうね」という話になるのですが、同じような人が爆発的に増えたため物件の数が足りません。
まともな物件は出たら即売れる状態で、朝に情報をもらって、昼に買付を出したのでは間に合わないといった塩梅です。それどころか、現場についたらもう売れていた、ということもありました。まあこうなると、そりゃ事故物件でも飛ぶように売れますよね……。
事故物件はお買い得なのか?
事故物件は本当にお買い得なのかという話ですが、無責任ながらも私の肌感覚でお話しすると、「1割から2割くらいお安い」「しかも指値(値切り)が通りやすい」「状態が悪いものだと爆裂お安いのもある」という感じで、単純にモノとして考えれば確かにお買い得なように思います。
冒頭でご紹介した「不動産投資デビューが事故物件」という方が買った都内の戸建てがよい例で、売出し価格は同スペックのものからおおむね2割安。そして売主さんが早く手放したがっていたのか、1割程度の指値まで効きました。
しかし買付価格が安くても、貸し出す際のお家賃が安くては意味がありません。ところが意外なことに、事故物件でも家賃の下がり幅がそこまで大きくならないものがあります。
家賃の下がり幅が小さい「事故物件」とは
一般的に、事故物件になると2割から3割の家賃減額が必要と言われていますが、人気エリアの物件で、かつ軽微な心理的瑕疵であれば、それほどの減額にはならないケースがあるというわけです。
逆に郊外エリアで、同種の物件が供給過剰になっているようなケースでは、相当の減額をしないと決まりにくいのでしょう。
気になる人は不動産ポータルサイトで「告知事項あり」という物件を見つけ出して、似たようなスペックの物件と賃料を比べてみてください。意外にお安くないな…というのがチラホラあるのではないでしょうか(店頭で値切れる可能性はありますが)。
ちなみに先ほどの「不動産投資デビューが事故物件」というケースがどうだったかと言うと、前の所有者さんがご病気で亡くなられたという軽微な心理的瑕疵で、人気エリアの戸建てという希少性があるためか、相場より数千円お安い程度の家賃で入居者がすぐ決まりました。
指値も入れれば買値は3割安くらいのお得感で、かつリフォーム代もかかっていません。これが、どれくらいラッキーな買い物だったのかはご理解いただけるかと思います。しかもこれ、不動産価格が狂い上がっている今年の話ですよ。マジ羨ましい。
つまるところ、事故物件投資は物件価格と家賃の下落幅のギャップを突いた投資法だと言えるでしょうか。物件自体の吟味は必要ですが、やっていること自体は普通の不動産投資と同じなので、投資法というよりは「おぬし勇気があるな」って感じですね。
実際にどんな事故物件が売れているのか?
実際にどんな事故物件が売れているのかというご説明のため、実際に私が内見した事故物件のエピソードをお話ししましょう。
立地は東京近郊の某県で、駅からは徒歩20分。その駅から都内までは30分。高台にある閑静な住宅街に建っており、物件自体も平成築で新耐震基準です。接道もしっかりしており、再建築可能。駐車場もついているというナイスなスペック!
気になるお値段は1100万円で、期待利回りはそれほどではないのですが、不動産屋さんによると、周辺の取引事例と比べたら少しお安いそうです。
投資用不動産をいじっている人には「そのスペックならメチャメチャ安いんやないか?」と思われそうですが、残念なことに平地ではなく崖地です。へばりつくように無理やり建てられた家で、躯体自体もかなり傷んでいます。心理的瑕疵と解体費、擁壁のやりなおし費用なんかも込みのお値段といったところなのでしょう。
崖にへばりついていると書きましたが、具体的には「崖に鉄骨造の土台をまず架けて、その上に家を建てている」という状態です。駐車場部分は擁壁部分をくり抜いて、コンクリートで固めた洞穴のような形になっています。不安定な家だな、というのが第一印象でした。
鬼門の方向に沈んだ家
前の所有者さんが邸内で自殺されたという家なので、中に入る前に「お邪魔させていただきます」と合掌します。
ガチャリ。
玄関を開けてもニオイはありませんが、湿気の強さが気になります。高台の崖にへばりついている家なので、風通しは良いと思ったのですが、窓を開けても風がぜんぜん家に入ってきません。壁のクロスに張り付いたホコリもどことなく粘度があり、廊下も、リビングも、階段も、どこもかもが湿気に侵されているような感じです。
また困ったことに、数分間その場にいるだけで、なんとも言えない違和感に襲われるのです。立っているだけで不安になるような、ふらつくような感じ。よくよく見ると家自体が鬼門の方向にけっこう沈みこんでいます。
一度表に出て、家が乗っかっている架台を見てみると、北東部分の鉄骨がひしゃげていました。このせいで家自体が傾いているんですね。
この時点で「これはきつい。帰りたい。ちょっと修繕費もきついし500万くらいなら買うかも。まあでもとにかく帰りたい」という気分だったのですが、仲間の投資家さんも同行していたので“現場”である3階も見ることにします。
3階ならいくらか湿気はマシだろう……と思ったのですが、不思議なことにこちらのほうが湿気がひどくて驚きました。
ふすま、壁、収納部分の化粧板、すべてが湿気にやられています。それどころか、渦巻のような、龍のような、人面のような模様が出来ていました。布団やクッションの上にドリンクをこぼしたら、乾いたあと気持ち悪い模様が残ることがあるじゃないですか。それがあちこちにあって、人の顔みたいに見えるのです。
個人的にはもうこれでアウト。気持ちが完全に萎えてしまい、写真も撮らずに外に出て、亡くなられた所有者さんに「お騒がせいたしました」と合掌してお詫びをしました。
告知義務ガイドラインの策定で再生事故物件が“熱い投資商品”に!?
安いことは安い物件だったのですが、躯体が架台から沈んでいるので、長く使うつもりならそれなりの修繕費が必要になります。もしくは全てを撤去して新築するかですが、そこまでするような土地でもありません。
事故物件は仕入れの競争がやや易しいのですが、そこから先は普通の不動産投資と同じです。むしろ、客付けのことを考えると、トータルの難易度はさらに困難だといえるでしょう。
個人的にはよっぽどの物件でなければおすすめしたくない投資なのですが、実は、これから事故物件の客付けが少し容易になります。
国交省によって、事故物件の流通を促進するようなガイドラインが策定されたのです。
令和3年10月8日に発表された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」がそれで、いま不動産界隈で話題になっています。要点を挙げると、
★取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよい。
★賃貸借取引の対象不動産・日常生活において通常使用する必要がある集合住宅の共用部分で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死以外の死が発生し、事案発生から概ね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよい。
というもので、つまるところ「自然死や不慮の死であれば客に告げなくても良い」「それ以外でもおおむね3年経過すれば告げなくても良い」ということになります。告知事項が大幅に縮小され、不動産屋さんが扱いやすいよう定義も明確になる感じですね。
※孤独死で特殊清掃が入った場合などはまた扱いが違うので、興味のある方は ガイドライン を読んでみてください。
詳しく読むと「事故があったか一応は調べること」「お客さんに聞かれたら答えること」「大事件の現場とかならちゃんと教えること」というフォローアップの項目もあるにはあるのですが、大まかな方向性としては「事故物件とかあんま気にすんなよ」なのは疑いありません。これからは「知らない間に事故物件に住んでいた」「普通の家賃なのに事故物件だった」ということが多くなるかもしれませんね。
住む側としてはちょっと不気味なガイドラインですが、物件を貸す側や、不動産屋さんからするとありがたい策定なのだろうと思います。
事故物件への敬意を忘れてはいけない
背景には増え続ける空き家や、高齢者が住宅を借りにくくなっているという問題があるので、このガイドラインの功罪を簡単に論ずることはできませんが、個人的には事故物件なら事故物件として、亡くなられた方に手を合わせて、納得して住みたいものです。
余談ですが、仲良しの神職さんによると「空襲や地震があったので、そもそも東京全体が事故物件のようなものです。事件性のない物件であれば、あまり気にしないで良いです」とのことでした。私もそれくらいの気持ちで借りて、住んで、買っていこうと思います!
また、これを読んで事故物件投資をやってみたくなった方がいるかもしれませんが、私は責任を持てませんよ……。あとマジで除霊とか依頼してこないでくださいね……。