糖尿病治療薬よもやま話 第9回
糖尿病の飲み薬DPP-4阻害薬
今回紹介するDPP-4阻害薬は、2009年に国内で最初の製剤が上市された比較的新しい治療薬です。
とはいえ、発売開始から瞬く間に市場を拡大し、今や使用患者数は300万人を超え、糖尿病薬物治療中の患者さんのおよそ7割がDPP-4阻害薬を服用しているといわれています。
なぜ、この新しい薬の使用頻度がそれほど急速に高まったのでしょうか?その答えを一言で表すなら、従来の治療薬と比べて弱点が少なくて使い勝手が良いからだといえるでしょう。
この薬の特徴として、まず、1日1回ないし2回の服用で低血糖の心配なく血糖値を低下させること、他のどの治療薬と併用してもうまくいくこと、腎機能や肝機能と関係なく使えることなどがあります。
従来の治療薬は、低血糖を起こす心配があったり、腎機能がわるいと使えない、消化器症状が出やすいなどの使用上の注意から、使い勝手が必ずしも良くないという欠点がありました。
その点、DPP-4阻害薬は非常に使いやすい薬といえます。すなわち、有効性、安全性、利便性のいずれにも優れた薬剤という高い評価が、広く支持されている理由になっているのです。
加えて、動脈硬化の進行抑制、インスリンを産生する膵(すい)β(ベータ)細胞の保護、骨代謝の改善、そして最近では認知機能低下の抑制効果など、本来の効果である血糖降下作用以外にも多面的な効果の可能性が期待されています。
では、DPP-4阻害薬はどのようにして多彩な効果を発揮するのでしょうか?そもそもDPP-4とは、体内の種々の生理活性物質(ホルモンなど)を分解する酵素の一つであり、DPP-4によって分解される代表的なものにインクレチンがあります。
インクレチンはGLP-1とGIPという二つのホルモンの総称ですが、いずれも膵臓にはたらいてインスリンの分泌を促すとともに、血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑えるはたらきがあります。
しかもこの作用は、血糖値が正常よりも高いときにだけみとめられます。このようなインクレチンの作用を助けるのが、DPP-4阻害薬です。
前述のように、インクレチンは高血糖のときにだけ作用するので、低血糖を起こすことなく血糖値を下げることができます。
しかし、SU(スルホニル尿素)薬などと併用する場合は低血糖のリスクが一気に高まることがあるため、SU薬の減量などの注意が必要です。
また、治療中に食べすぎによる体重増加があると薬の効果が損なわれることも分かっています。
DPP-4阻害薬は比較的安全で使いやすい薬だといえますが、長期の使用に当たっては、他の薬と同様にライフスタイルを守ってこそ薬の良さが引き出されることを、忘れてはいけません。
加来浩平(かく・こうへい)
川崎医科大学 特任教授
※『月刊糖尿病ライフさかえ 2015年7月号』より
今回紹介するDPP-4阻害薬は、2009年に国内で最初の製剤が上市された比較的新しい治療薬です。
とはいえ、発売開始から瞬く間に市場を拡大し、今や使用患者数は300万人を超え、糖尿病薬物治療中の患者さんのおよそ7割がDPP-4阻害薬を服用しているといわれています。
なぜ、この新しい薬の使用頻度がそれほど急速に高まったのでしょうか?その答えを一言で表すなら、従来の治療薬と比べて弱点が少なくて使い勝手が良いからだといえるでしょう。
この薬の特徴として、まず、1日1回ないし2回の服用で低血糖の心配なく血糖値を低下させること、他のどの治療薬と併用してもうまくいくこと、腎機能や肝機能と関係なく使えることなどがあります。
従来の治療薬は、低血糖を起こす心配があったり、腎機能がわるいと使えない、消化器症状が出やすいなどの使用上の注意から、使い勝手が必ずしも良くないという欠点がありました。
その点、DPP-4阻害薬は非常に使いやすい薬といえます。すなわち、有効性、安全性、利便性のいずれにも優れた薬剤という高い評価が、広く支持されている理由になっているのです。
加えて、動脈硬化の進行抑制、インスリンを産生する膵(すい)β(ベータ)細胞の保護、骨代謝の改善、そして最近では認知機能低下の抑制効果など、本来の効果である血糖降下作用以外にも多面的な効果の可能性が期待されています。
では、DPP-4阻害薬はどのようにして多彩な効果を発揮するのでしょうか?そもそもDPP-4とは、体内の種々の生理活性物質(ホルモンなど)を分解する酵素の一つであり、DPP-4によって分解される代表的なものにインクレチンがあります。
インクレチンはGLP-1とGIPという二つのホルモンの総称ですが、いずれも膵臓にはたらいてインスリンの分泌を促すとともに、血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑えるはたらきがあります。
しかもこの作用は、血糖値が正常よりも高いときにだけみとめられます。このようなインクレチンの作用を助けるのが、DPP-4阻害薬です。
前述のように、インクレチンは高血糖のときにだけ作用するので、低血糖を起こすことなく血糖値を下げることができます。
しかし、SU(スルホニル尿素)薬などと併用する場合は低血糖のリスクが一気に高まることがあるため、SU薬の減量などの注意が必要です。
また、治療中に食べすぎによる体重増加があると薬の効果が損なわれることも分かっています。
DPP-4阻害薬は比較的安全で使いやすい薬だといえますが、長期の使用に当たっては、他の薬と同様にライフスタイルを守ってこそ薬の良さが引き出されることを、忘れてはいけません。
加来浩平(かく・こうへい)
川崎医科大学 特任教授
※『月刊糖尿病ライフさかえ 2015年7月号』より