飲みながら食べると「酒がまずい」と思う人の誤解 お酒は「チビリチビリ」と飲むのがオススメ
満腹で酒を飲んではいけない
食べながら飲むか、飲みながら食べるか──と酒好きに問えば、「むろん飲むのが先、食べるのは後だよ」という人がほとんどかもしれません。しかし、私は、医者の立場から、「食べながら飲んでほしい」と思っています。
お酒を飲む時には、銘柄、種類にまで気を配るのに、何を食べるかとなると、いいかげんになる人が多いものです。
また、飲んでから食べるのか、飲みながら食べるのか──こういったことを真剣に考える人も少ないようです。むろんお酒の飲み方には好みもあるし、胃袋の状態、財布の中身、それに、いっしょに飲む相手が女性か男性かによっても違ってきます。
「食べてから飲むと酔わないから、食事をしてから宴会に出ることが多い」というサラリーマンもいます。もし、会社の忘年会に誘われて、失敗が許されない場合であれば、これもひとつの考え方だと思います。
確かに、満腹の時に飲むと、アルコールの吸収が遅くなるために酔いが回りにくく、アルコールの血中濃度も低くなったように感じられます。しかし、食べものとともに腸に残っているアルコールがたえず少しずつ吸収されるので、血液中のアルコールの濃度が長時間持続されて消えません。
つまり、相当量を飲んでも血中濃度が高まらないので酔いにくいと思いがちですが、それは決していいことではありません。かなりいい気持ちになった頃には、飲みすぎているからです。
吸収が遅れても、飲んだアルコールは必ずすべて吸収されることを忘れてはいけません。
ともすると、「きのうは、飲む前にたっぷり食べたから気持ちよく酔えたのに、朝起きたら頭がガンガンするよ。きのうくらいの程度じゃ、二日酔いするわけないのになあ」といったボヤキにつながってしまうでしょう。
したがって、食後の酒は、原則として避けるべきだと私は考えています。第1に、うまくない。第2に、二日酔いの原因になるからです。
食べながら飲むこと──これがいちばん理想的なのです。
食べることは、栄養のバランスをとることにもつながります。昔から「大酒飲みは、肝硬変になる」と言われていました。聞いたことがある人も多いでしょう。しかし、必ずしも、お酒が肝硬変を引き起こすとは限りません。
むしろその原因は、タンパク質、ビタミンなどの不足をまねく粗食にあるとする考え方が有力です。
酒好きはとかく食べ物をとらない傾向にありますが、これが怖いのです。
酒の肴は、お酒をおいしく飲むために必要なだけではなく、肝臓と体を守り、栄養バランスを保つために必要だと忘れないようにしたいものです。
飲み方の極意はチビリチビリ
お酒はチビリチビリ飲むのがもっともよいとされています。なぜでしょうか。
肝臓のアルコール処理能力は、体重10キロあたり1時間1グラムぐらいのものです。だから「駆けつけ3杯」「遅れ3杯」などというのは、愚の骨頂です。早く酔いたいというならこれもいいのかもしれませんが、肝臓のことを考えたら最悪の飲み方ということになります。
飲んべえだと自認する人のセリフは、おおよそ決まっています。
「肴をあまりとりすぎると酒がまずくなるんだよ。酒さえあれば、何もいらないくらいだ」
こういう人たちが好むものといえば、お新香、塩辛といった類のものばかり。これで一杯というのがたえられないという人が多いのですが、これは血中の塩分量を増し、渇きを誘い、さらに飲む量をふやすだけ。
第一、酒量ばかりがふえて、肴のことを忘れてしまいます。泣いているのは肝臓です。アルコール分だけでは、急激に吸収されて、肝臓を直撃するからです。
これでは、肝臓の処理能力がたちまち臨界に達し、必要以上の負担がかかります。
「わかってはいるんだけど、どうしても肴はねえ……」という方には、酌をする相手をそばにおいて飲むことをおすすめします。笑わせてもよし、悩みを聞いてあげるのもよし、色恋の話でもいいでしょう。
話しながらの一杯は飲むスピードが落ちるので、ゆっくりとアルコールを吸収できます。反対に肴も食べず、酌も受けず、ただひたすら杯を重ねることだけはやめてください。
若い人に多い傾向ですが、食事はインスタントラーメン、飲む時の肴はポテトチップスだけ。こういった生活は、栄養不良とビタミン不足を呼ぶおそれがあります。たくあんやお新香の類、いわゆる低栄養での一杯は、ビタミンB1不足から脚気様症候群を助長する危険もあるのです。
お酒にはカロリーがありますが、栄養はほとんどありません。肴を十分に食べ、話しながらゆっくりと飲む──これが理想的な飲み方なのです。
お酒をガブ飲み、肴は要らぬ、酌をする人などいないほうがいい──こういう飲み方では、アルコールが肝臓の細胞を直撃、タンパク質、ビタミン、ミネラルの不足によって肝臓に障害をもたらすようになります。
ここではまず、タンパク質を中心に考えてみましょう。
体の中で一大化学工場とも言われている肝臓をスムーズに動かすためには、“工場で製品を作り出すための原料”をたっぷりと送り込んでやることが大切です。その原料がアミノ酸をたくさん含んだタンパク質というわけです。
アルコールの高カロリーだけを肝臓に与え続けると、肝臓で分解しきれない余分なアルコールが脂肪に変化し、肝臓にたまります。脂肪肝などの引き金になってしまうのです。
高タンパクおつまみ5選
アルコールは、肝臓の中で、アセトアルデヒド、酢酸、そして最後には炭酸ガスと水に分解されますが、アミノ酸やタンパク質には、アルコール分解を促進する働きがあります。
こうしたことから、タンパク質を多く含んだ食べ物を肴にしながら飲むと、肝臓でアルコールがどんどん分解されて体外に出されるわけですから、体によい結果をもたらします。
飲んべえは、まったく飲まない人よりも、さらに多くのタンパク質を体が必要としていることを忘れてはいけません。
タンパク質を多く含む肴をいくつかあげてみましょう。
〈牛刺し〉──たっぷりとタンパク質を含有。舌ざわりもよく、肴として打ってつけです。
〈すき焼き〉──多くの飲み仲間が集まったら、これに限ります。
〈湯豆腐、冷奴〉──植物性タンパク質として優秀。価格がさほど高くないのも魅力的です。
〈レバー〉──レバーにはビタミンB12が多く含まれています。赤血球の成長を助け、あらゆる病気を防ぐ抗毒素の製造に必要な葉酸も含んでいます。なお、葉酸に富んだ食べ物としては、ナッツ、麦芽、緑の葉の多い野菜。なお、レバーの効用については、次の章でたっぷりと解説します。
〈やきとり〉──安上がりなタンパク源の筆頭。鶏ではなく、豚でもOKです。鶏のナンコツは、ミネラルの補給にも役立ちます。
このように高タンパクの食べ物をおつまみとしてお酒を飲むことが、肝臓を守ることにつながります。肝臓が悪くなったら、大好きなお酒をつつしまなければならないことになる。このことを肝に銘じておくのが酒好きの常識だと知っておきましょう。
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