ひざ手術のリスクとは?(イメージ)
ひざ手術のリスクとは?(イメージ)© NEWSポストセブン 提供

 人生の後半戦に差しかかると、身体の節々に不調や痛みが生じる。とりわけ患者が多いとされるのが「ひざ痛」だ。久我山整形外科ペインクリニック院長の佐々木政幸医師が言う。

「厚労省などの資料によると、60歳以上のひざ痛患者は約3000万人。70代以降は2人に1人がひざ痛に悩まされているとのデータもあります。その原因の多くが、歩行時などに体重の数倍の負荷がかかるひざ関節のクッション役である軟骨が、加齢による体重増加や筋力低下などですり減ること。軟骨は、一度傷んでしまうと復活しません」(以下、「 」内は佐々木医師)

 厄介なのは、痛みの自覚があっても、検査でひざの変形など具体的な原因や問題が見つかるわけではない点にある。

「逆に軟骨が変形しても痛みの出ない人もいます。基本的には変形があるから治療というより、痛みがあれば治療となります。まずはひざを支える装具や薬で対処して、効果が薄ければ注射の選択肢が出てくる。それでも痛みが治まらず状況が厳しいようなら、傷んで変形した関節を取り除き、人工関節に置き換える手術を検討するのが基本的な流れです」

 歌手の和田アキ子(73)も、ひざ関節の手術のため入院すると発表したばかり。しかし、手術をしても将来にわたって痛みから解放されるわけではないようだ。むしろ、手術したことを後悔する人も少なくないという。その理由の1つが、人工関節に“寿命”があることだ。

「人工関節に使われる金属の寿命は15?20年のため高齢になって再手術の必要が生じることがある。年齢が若い患者さんや炎症が軽度な患者さんには、医師も手術を勧めたがらないのが実情です」

「和式」の動きができない

 さらに「勘違いが多い」と注意を促すのは、「手術をしてもひざの状態が100%戻るわけではない」ということ。むしろ、リハビリなど術後のケアが重要になるという。

「まず、ひざの人工関節の手術後は正座ができなくなります。手術は痛みを取ることが目的のため、階段の昇り降りや自転車が漕げるくらい、約120度曲がればいいという考え方。ちゃぶ台で食事するなど和式の生活はやりにくくなります。

術後のリハビリは痛みを伴い大変なものですが、それを一生懸命やらないと、本当に曲がらないひざになってしまうんです」

 また稀なケースではあるものの、手術による細菌感染で「車椅子生活」を余儀なくされるパターンもあるという。

「患者さん自身が糖尿病やリウマチなどの持病で免疫力が弱っている場合などは、手術中や抜糸時にどうしても一定の確率で細菌感染が起きてしまいます。人工関節は細菌の温床になりやすく、抗生剤が効かなければ人工関節の除去が必要になることもある。

もう一度人工関節をつけるまでに半年以上はかかるので、その間は動かせずに筋力が落ちてしまい、歩けず曲がらないひざになって、結果として車椅子生活になってしまうパターンです」

 ひざに耐えられない痛みを抱えていると、手術のリスクに耳を傾けない患者もいるという。痛みがあっても、セカンドオピニオンも含めて慎重に検討したい。

※週刊ポスト2023年9月29日号