あなたの健康はお金で買えますか・・・? 高齢夫のED治療を妻たちが歓迎しない理由

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高齢夫のED治療を妻たちが歓迎しない理由

■早々に果ててしまった夫だががっかりしない妻 

「あっ、あ~」

 か細い嘆声が寝室に響いた。声の主は夫・正毅さん(仮名・68歳)。 久々の夜の営みだったが、勃起する前に果ててしまったのだ。

 しばしの静寂の後、妻・直子さん(仮名・58歳)は無言で起き上がり、電気をつけた。漏れ出た体液は早くも透明になり、直子さんの太ももからツーッと水のように冷たく垂れて行く。

「ごめん…」

 うなだれたまま、謝る正毅さん。股間の一物は力なくうなだれ、白髪交じりの陰毛の中に、身を隠すように縮こまっている。

 その姿が、あまりにも気の毒で、直子さんには、かけるべき言葉が見つからない。

 だが、怒りはもちろん、がっかりする気持ちもまったくない。

(もうすぐ70歳だもの、もうセックスは卒業ってことでいんじゃないの。それにしても、EDっていうのは、硬くならないだけかと思っていたけど、勃起も何もしないうちに射精してしまうこともあるのね…)

 淡々としたものだ。

 というのもだいぶ前から、直子さんは性交渉が苦痛だった。月経もこのところ間隔が開くようになり、そろそろ閉経間近であろうことを自覚している。夫への愛情がなくなったわけではないが、エロチックなDVDを見せられたり、卑猥な言葉を耳元で囁かれても、正直興奮しない。むしろ(いい年して…)とおぞましくすらある。

 なんとか自分を励まして交渉には応じてきたが、快感はほぼ皆無に等しく、ただひたすら正毅さんが早く果ててくれることを願い、感じている演技をしてきたのだ。挿入時間の短縮化をはかるべく、積極的に口での愛撫も行った。(なんて淫らなんだ…)正毅さんは悦んだが、そんなんじゃない。気持ちはまったく逆。とにかく、正毅さんを悲しませないために、努力してきたのだった。

夫に頼まれて
EDの名医に夫婦で受診

 ――それから2週間後。直子さんは正毅さんに頼みこまれ、EDの名医が院長を務める泌尿器科クリニックを受診した。

 症状や病歴、薬のアレルギー、生活習慣に関する問診票を記入し、それをもとに診察を受けた。

 医師は正毅さんの話をうんうんと頷きながら聞き、病歴など、正毅さんの記憶があいまいな事柄については直子さんにも確認した後、こう言った。

「うん、加齢から来るEDですね。特に心配はありませんが、お困りでしたらお薬をお出ししますよ」

「お願いします!」と即座に答えたのは正毅さん。

 しかし、医師は直子さんの方に向きなおすと、

「奥さんはどうお考えですか」

 と尋ねてきた。ふいを突かれ、驚いたが、意を決し口を開いた。

「薬はいりません。もうすぐ70歳ですもの、自然に任せて構わないと思うのです。EDといっても、病気ではないんですよね」

ED治療を拒む妻は多い
高齢夫婦の性欲のズレ具合は凄まじい

「この奥さんのように、ご主人のED治療を拒む方は多いですよ。ご主人のいないところで、もう堪忍して下さい、私はいやなんですと。一緒に受診されるくらいですから、仲の良いご夫婦ですがね。なかには80代のご夫婦もいらっしゃいました。奥さんも可哀そうです」

 と名医は言う。

 EDとは、性交時に十分な勃起やその維持ができずに、満足な性交が行えない状態を指す。ストレス、うつ病などの心因性要因、加齢に伴って起こる男性ホルモンの分泌量の低下と陰茎の構造の変化、高血圧、糖尿病などの病気、さらにこれらの病気の治療薬など。さまざまな因子によって引き起こされるが、なんといっても大きいのは加齢の影響だ。

 病気の一種ではあるのだろうが、正毅さんのようにアラウンド70でも、病気と呼んでいいのだろうか。

「70代の7割以上はEDという調査結果もありますから、自然な現象ではあるのですが、それによってご本人が、生活の質が著しく損なわれると自覚し、治療してほしいと希望するのであれば、60代、70代であっても病気と考えていいと思います」

 しかし、妻の気持ちはどうだろう。

 ある調査によると、性行為のさなかに痛みを感じている女性の割合は75%にものぼる。しかも、相手に痛いと伝えているのは、そのうちの30%強。3人中2人は、痛みを我慢している。

 1974年、つまり今から40年以上も前に老人クラブでの会員510人(男261、女249)に調査したデータでは、以下のようなものもある。

 ◎性行為を欲する者
 男性 190人中104人
 女性  96人中 6人

 ◎性行為のある者
 男性 76.7%
 女性 38.3%

 高齢夫婦の性欲のズレ具合は凄まじい。

 セックスからの卒業を望む妻の意に反し、医師が夫にED治療薬を処方したばっかりに熟年離婚に至った夫婦の数は、調査データこそないものの、決して少なくはないはずだ。

「それはあるかもしれませんね、私も心配になりまして、ある時期から、ED治療を望む高齢の患者さんには、ご夫婦で受診されるようお願いしています。治療の目的は、性生活が営めることではなく、夫婦円満ですからね」

EDの陰に大病あり
名医が夫婦での受診を勧めるワケ

 名医が夫婦での受診を勧めるのには、さらにもう1点、理由がある。それは、EDと重大な病気との関係だ。

「EDは血管病の予兆とも考えられます。なぜなら、中高年でEDになった人の約6割が、数年後に心筋梗塞や脳梗塞等になったというデータがあるからです。これらの血管病は動脈硬化が進んだことによって引き起こされるのですが、その進行はまず細い血管から詰まることから始まります。陰茎に血液を送る血管の太さは直径1mmぐらい、対して心臓に血液を送る冠状動脈の血管は直径3mmぐらい。EDになるということは細い血管が詰まってきた証拠、つまり血管病のサインです。なので、奥様には、主人が倒れてしまわないよう、生活習慣を改善し、病気の予防に努めてくださいとお願いしています」

 EDの陰に大病あり。かつて、ED治療の特効薬「バイアグラ」が登場したころ、「腹上死」の話題が飛び交ったことがあったが、その裏には、こんな事情があったのだ。中高年でEDになった人は、心臓ドッグや脳ドックを受診し、将来の重大疾病予防に備えることをおススメする。

性欲の不一致は当たり前
妻は我慢しているかもしれない

 さて、直子さん、正毅さん夫婦はその後、どうなったか。

 名医から、夫婦でよく話し合うよう諭され、帰宅したところで、直子さんは想いを大爆発させた。

「ネットや男性週刊誌では、性交渉がなくなると妻が悲しむとか、怒るとか言ってるけど、私はぜんぜんそんなことありませんからね。あなたが愛読している週刊Gとか週刊Pとかじゃ、『死ぬまで夫婦でセックス万歳』なんて特集してるけど、とんでもない。そんなのは男社会が作り上げた幻想よ。私も、私のお友だちも、手をつないだり、ハグされたり、そんなスキンシップのほうがずっと幸せを感じるの。勃起や挿入ができなければ男じゃないとか、妙なこだわりはもうやめて。そんなことできなくても、私はあなたを尊敬しているし、ずっと一緒にいたいと思っているの」

 一気にまくしたてられ、絶句する正毅さん。

(そりゃあ、男らしさへのこだわりもあるけれど、俺はセックスが好きなんだ。お前を抱きたいんだ! でも、こうまで言うからには、治療薬をもらって勃起できたとしても、相手をしてくれそうもないな。困ったな)

 頭の中で、計算高く考えをめぐらせ、しばらくは黙っていようと決めた。

 長年連れ添った夫婦でも、こんなふうに性欲はすれ違う。

 よく離婚原因に「性欲の不一致」があげられるが、高齢になったらむしろ、一致している夫婦の方が珍しいということを、特に男性には、覚えておいてほしい。

 あなたが気づかないだけで、妻は我慢しているかもしれないということを。

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