あなたの健康はお金で買えますか・・・? 「食べられる口」つくる■入れ歯を修正し、リハビリ本格化  『 霞ヶ関南病院
1

「食べられる口」つくる■入れ歯を修正し、リハビリ本格化  『 霞ヶ関南病院

歯磨き、口の粘膜の手入れ、顔のマッサージなどの口腔(こうくう)ケアが病院や介護施設、在宅などで広がっている。胃ろうなど経管栄養になるのを防ぎ、「食べられる口」をつくるのが狙いだ。しかし、その「質」はまちまち。長年、「合う入れ歯作り」と「口のリハビリ」を進めてきた神奈川県の2人の開業歯科医の取り組みを伝える。(佐藤好美)

 埼玉県の霞ヶ関南病院(伊藤功院長)で昨年末、横浜市の歯科医、加藤武彦医師と、神奈川県茅ケ崎市の黒岩恭子医師による入れ歯作りと口腔ケアの研修会が2日間にわたり、開かれた。

 2日目の実践研修で、「正しい入れ歯作り」のモデルになったのは入院中の高齢女性(81)。夏場に食が細って痩せたせいか、入れ歯が落ちるようになった。同院の歯科医もうまく調整できず、女性は食事どきも入れ歯を外してしまう。以前は調子が良ければすしを食べるほどだったのに、流動食を食べるまでに咀嚼(そしゃく)力が落ちてしまった。

 入れ歯が合わず、食事どきに外してしまう高齢者は少なくないという。加藤医師は「入れ歯は通常、歯ぐきに合わせて作るが、高齢者は歯ぐきが痩せてくるので、入れ歯との間に隙間ができ、落ちやすい」と指摘する。

しかし、外すと、▽かむ力が落ちる▽流動食になる▽栄養状態が悪くなる▽「胃ろう」など、管での栄養摂取になる▽かまないので認知機能が低下する-の悪化の一途をたどる。加藤医師は「かめると脳への血流が増え、脳が覚醒する。要は、ボケッとしていたのがシャキッとするんです」と話す。実際、認知症で話せないと思われていた人が、入れ歯を合わせた途端、話し始めたり、意欲が出てリハビリに取り組み、歩けるようになったりする例を数多く見てきた。

 加藤医師は女性の入れ歯を点検すると、頬、口の裏側、舌との境目など、入れ歯に接する部分全体で入れ歯を包み込む形に調整。一回り大きいサイズに作り直した。

 それを待ちながら、女性がつぶやいた。「本当は(入れ歯が)欲しかったの」。加藤医師は「そうだよ。合う入れ歯なら欲しかったんだよね、

当たり前だよ」と声を掛けた。できあがった入れ歯を女性に入れると、加藤医師は見守る歯科医らに「入れ歯を作る歯科医は、患者が食べるのを見終えるまでが仕事」と言い、女性の試食を見守った。

 これまでほとんど流動食だった女性はよほどうれしかったのか、一般の人と同じ「常食」を口に入れ、もぐもぐと口を動かした。

しかし、しばらく咀嚼・嚥下(えんげ)をしていなかったせいか、口の中に食べかすが残る。それを見て、同院の医療法人の斉藤正身理事長が請け合った。「加藤先生、ここから先は、ぼくらの得意分野ですから」

口腔ケアはチームケア。リハビリ専門職を多く抱える同院が咀嚼・嚥下のリハビリを始める素地が整ったというわけだ。歯科医とリハビリ職、歯科衛生士、栄養士らの連携が問われる。

 ■口腔ケア、歯磨き、マッサージ… 食べる意欲を喚起

 黒岩恭子医師は同じ時間帯に入院病棟で患者の口腔ケアを行った。

 霞ヶ関南病院では、9人の歯科衛生士が入院患者に歯磨きや口腔ケア、マッサージなどを実施する。黒岩医師は、口を開かない患者の口をいかに開くか、片麻痺(まひ)の患者の口腔内のマッサージ、咽頭部のたん吸引、舌や頬のストレッチを実践してみせた。

 黒岩医師の取り組みは口腔ケアというより、口のリハビリに近い。「舌や頬が動く感覚や使い方を、患者さんに思い出してもらう」と言い、頬から食べ物がこぼれる片麻痺の人には、背後から頬を引き上げて咀嚼を助け、舌が落ち込んでかめない患者には、手製の道具で舌や頬をストレッチする。

自身が開発した「くるリーナブラシ」は今や、多くの医療機関や介護施設で口腔ケアに使われている。

声掛けや工夫で患者の食べる意欲も目覚めさせる。鼻から管で栄養を取る男性(81)の口腔ケアを終えると、黒岩医師は男性の唇に棒付きキャンディーを塗った。

男性が震える舌を突き出し、やっと唇に届いた舌でコーラ味を確かめると、スタッフから歓声が上がり、「私たち、口の中をきれいにしていただけだったね」の声も漏れた。

 この日の実践研修には、同法人の医療職や専門職、系列の特別養護老人ホームのスタッフ以外に、地元の開業歯科医ら約15人も参加した。

 同院が地元開業医らを招いたのは、地域全体で口腔・嚥下機能を向上させるのが狙い。口腔ケアで高齢者の発熱や誤嚥性肺炎を減らせることが知られ、取り組みは広がったが、質にはバラツキがある。

医療で「在宅復帰」が課題になり、介護で「地域包括ケア」が求められる中で、地域のどこででも質の高い口腔ケアが提供できれば、家での暮らしも長続きする。

 斉藤理事長は「入れ歯作りと口腔ケアを学ぶ場所を地域に提供することで、医科歯科連携や病診連携のモデルをつくっていきたい。今は、多くの医療機関や施設で口腔ケアが行われているが、質はまちまち。今後、目指す口腔ケアの基準をつくっていく必要もあるだろう」と話した。

関連記事
カテゴリ
最新記事
★★互助会推薦★★
ホテル最安値の簡単検索
比較サイト【トリバゴ】