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緩いつながり ウィーク・タイズでメンタル不調防げ

「友人が勤める会社では『メンター制度』が導入されているそうで、メンターとの会話が仕事や人間関係などの悩みにヒントをもたらしてくれているという。自社にはメンター制度はないが、メンターのような相談相手を持つにはどうしたらいいだろうか」。これは、製造業の開発職にあるOさんという方からの相談です。メンター制度のメリットやメンターの持ち方について、帝京平成大学現代ライフ学部教授の渡部卓さんに伺いました。
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 「メンター制度」を導入する企業が多くなってきました。厚生労働省でもポジティブ・アクション(女性社員の活躍推進)の一環として「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を作成したり、魅力ある職場づくりを支援する「職場定着支援助成金」の受給条件の1つにメンター制度の導入を加えたりといった動きが進んでいます。

 先のマニュアルによると、メンター制度とは、「経験豊かな先輩社員(メンター)が面談(メンタリング)による双方向の対話を通じて、後輩社員(メンティ)のキャリア形成上の課題解決や悩みの解消を援助し、個人の成長をサポートする役割を果たす制度」とされています。

 メンター制度はメンティのモチベーションの向上やメンタル面のサポートにつながるだけでなく、メンティへの支援を通じて、メンター自身がマネジメントスキルを学んだり、自身のキャリア形成を見つめたりする機会になるなど、双方向にメリットがあります。メンターとメンティの組み合わせや相性など考慮すべき点もありますが、社内でメンター制度がある場合は、活用するといいでしょう。.

■メンターはできれば社外で見つけよう

 自社にメンター制度がない場合は、自分が尊敬できる先輩と、月に1度など定期的にランチをしたり、面談の場を設けたりして、ワーク、ライフ、ソーシャルにまつわる雑談で自由に意見を交わしながら、信頼関係を築いていくといいでしょう。その際、自分と同じ部署の先輩ではなく、他部署や他部門の人など、普段の仕事とは関わりの薄い人の方が、気兼ねなく話せますし、視野を広げることもできます。もっと言えば、同じ会社の人では社内の価値観にとらわれてしまうこともあるので、できれば社外に目を向けてほしいと思います。

 例えば、自分とは違う業界で活躍している学生時代の先輩や、転職した先輩などと定期的に会ってみるのもいいですし、互いの学びを目的とした異業種交流会や趣味のサークルやイベントなどで知り合った人の中から、尊敬できる、信頼できると思える人を見つけて、相談相手になってもらうのもいいでしょう。自分の興味や関心に近い学会に参加してみるのもお勧めです。学会というと一般の人には敷居が高いと思われがちですが、学会が主催するセミナーなどに参加してみると、自分の興味のある分野で尊敬できる人と出会うチャンスに恵まれるかもしれません。

■緩やかな絆でつながる「ウィーク・タイズ」

 メンターだけでなく、社外では「ウィーク・タイズ(Weak Ties)」と呼べる人間関係も広く築いてほしいと思います。ウィーク・タイズという言葉は聞き慣れないかもしれませんが、「緩やかな絆」「弱いつながり」などと訳され、「頻繁には会わないけれど、尊敬し信頼する人との細く長い関係」を意味します。このウィーク・タイズは、米国の社会学者、マーク・グラノヴェッター氏が1970年代に提唱したもので、日本では『ニート』の著書(共著)で知られる東京大学の玄田有史教授によって広く知られるようになってきています。私にとっては玄田教授も、ウィーク・タイズの1人です。

 ウィーク・タイズに対して、家族や恋人、親友、職場の仲間といった強い絆やつながりを持つ関係を「ストロング・タイズ(Strong Ties)」と呼びますが、グラノヴェッター氏は自身の論文[注1]で、そうしたストロング・タイズよりも、ウィーク・タイズの方が、新奇性(目新しさ)のある有益な情報をもたらしてくれる可能性が高いと述べています。例えば、米国のホワイトカラーを対象に実施した転職活動に関する調査では、ストロング・タイズよりもウィーク・タイズから情報を得て転職した人の方が多く、転職に対する満足度も高かったそうです。
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■「ウィーク・タイズ」は客観的な意見をくれる

 私自身の過去の転職や仕事の転機を振り返ってみても、ウィーク・タイズからの情報が大いに役立ち、その言葉に導かれたことも多々ありました。特に印象に残っているのは、企業勤めを辞めて、職場のメンタルヘルスやコミュニケーション、人材育成などを専門として起業を決意したときです。親しい友人の多くは「大手企業を辞めるのはもったいない」「メンタルヘルスで食べていくのは厳しいからやめた方がいい」と強く反対しました。

ところが、ウィーク・タイズの関係にあったある精神科医に話してみると、「メンタルヘルスの世界には精神科医はたくさんいるが、ビジネスに精通した人はほとんどいない。3年くらい邁進すれば、きっと第一人者になれる」と言われたのです。私はその言葉に背中を押され、これまでやってくることができました。ストロング・タイズは関係が近しいだけに、親身になるあまり過干渉になることもあります。しかし、適度な距離感のあるウィーク・タイズなら、客観的な意見をもらえることが多いのです。

 また、ストロング・タイズは自分と似通った環境やライフスタイル、価値観などでつながっていますが、自分とは異なる世界に身を置くウィーク・タイズとの対話は、日常の思考や行動に新たな視点や気づき、刺激をもたらしてくれます。私にもたくさんのウィーク・タイズがいて、仕事以外にもちょっとした相談事をきっかけに、互いの人脈を紹介し合って、喜ばれたり、助けられたりしています。

 メンターよりも気軽なウィーク・タイズは、SNSなどインターネットとの親和性が高く、私もSNSを通じて知り合ったり、コミュニケーションをとっているウィーク・タイズが多くいます。例えば、フェイスブックなどでは、信頼できる友人が共通していることがきっかけになってつながることもありますし、その人のプロフィールや投稿などから「波長が合いそう」と感じられてつながることもあります。

 ただし、ネットワークビジネスなどを目的としてやたらと人脈を広げようとするユーザーも見受けられますので、「信頼できそうか」「波長が合いそうか」といった点を慎重に見極めてほしいと思います。 信頼できるメンターやウィーク・タイズがいる人は、悩みを相談できることで、ストレスへの耐性が高まり、うつなどのメンタル不調を防げることが多いものです。ぜひ、尊敬・信頼を軸にした人間関係を築いてください。

【まとめ】

・社内のメンターはできるだけ他部署や他部門の人を選ぶ
・できれば社外のメンターを作り、視野を広げる
・緩やかな絆でつながるウィーク・タイズとの関係も大切に
・ウィーク・タイズの見極めは信頼感と波長
[注1]Granovetter MS. The Strength of Weak Ties. American Journal of Sociology. 78(6). May 1973.

【渡部卓 働く人の心のコンディショニング術】

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渡部卓 帝京平成大学現代ライフ学部教授、ライフバランスマネジメント研究所代表、産業カウンセラー、エグゼクティブ・コーチ。1979年早稲田大学卒業。米コーネル大学で人事組織論を学び、米ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院でMBA取得。複数の企業勤務を経て2003年会社設立。職場のメンタルヘルス対策、ワークライフコーチングの第一人者。著書に「折れない心をつくる シンプルな習慣」(日本経済新聞出版社)など。
(ライター 田村知子)

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