l.dtd"> あなたの健康はお金で買えますか・・・? SNSに蔓延するワクチンの「トンデモ話」を調べてみた


SNSに蔓延するワクチンの「トンデモ話」を調べてみた

先日、SNSを通じて、ワクチンと自閉症を関連付ける話題が流れてきた。

言うまでもなく、自閉症は遺伝子に関わる先天性の障がいで、ワクチンとの因果関係を示す証拠はない。真っ当な科学者間の論争で仮に自閉症とワクチンの因果関係があるとの論点が存在するならアリ・ナシは両論併記されるが、これに関しては両論併記はされていない。つまり、因果関係は科学的論争に付け入る隙が微塵もない、というのが実情だ。

これに限らず、ワクチンに関するトンデモ話はSNS上では特に枚挙に暇がない。大抵は取るに足らない内容とスルーするのだが、今回はふと目に留まった。

米国で初となる医学調査が実施され「ワクチン接種を受けた子供は(受けてない子供に比べ)自閉症スペクトラムが3倍以上高かった」という記載があったためだ。こうした全米の医学調査結果は初めて耳にしたし、いったいどういったデータを論拠にしているのか疑問が沸いてきた。

私自身は自閉症の専門家ではないので医学的な知見の部分はさておき、論拠を導くための数値の抽出の仕方や整合性をチェックするのは経済データの見方とも通じるはずだ。

お粗末なオンライン調査

オリジナルとされる論文では、オンラインで実施した匿名での聞き取り調査の回答数から、ワクチン接種した場合に自閉症が多いとしているのだが、そもそものデータ抽出からしてあまりにお粗末としか言えない。

調査では通常、基本属性(性別、年齢、居住地など)が偏らないように回答者の抽出はランダム・サンプリング(無作為の標本抽出)がされるのだが、当該調査は子どもを学校には通わせず自宅で学習させる『ホームスクーリング』団体を通じて実施されている。

論文の中では、申し訳程度に、予備研究の対象はホームスクールの子供のサンプルを得るのが目的ではないとしているが、団体メンバーに匿名オンラインで依頼している状況では純粋なランダム・サンプリングとは言えまい。なお原文では調査はpilot study(予備調査)としており、これはあくまでも試験的研究段階でのいち資料に過ぎないわけだ。

アンケートの取り方からして疑問と疑念が生じたために、論文そのものの内容について医学的見地をインペリアル・カレッジロンドンの小野氏に尋ねたところ、早速「匿名オンライン調査による論文というトンデモ研究に頼る反ワクチン活動」(https://goo.gl/Rdb7qS)という記事を寄稿をしてくれている。

なるべく多くの人の目に小野氏の指摘が触れて欲しいと思っていたところ、閲覧者数がわずか一日で相当数に上ったと聞いている。それだけワクチンについての良質な情報を市井は求めている証左でもあろう。

医療への不信感が原動力に

先天性の障がいを抱える家族を持つ人が全て同じ感想を持つか定かではないが、当事者としてはワクチンが原因だからと言って「so what?(だから何?)」との思いにしかならない。

先天性の障がいをワクチンと結びつける人々は原因がわかったからと言って、解決策や快復策を示すわけでは全くない。警鐘を鳴らすふりをしながら恐怖心や慚愧、憎悪や現代医学への不信感を煽るだけでなく、ともすれば反ワクチン団体への献金を促すなどの印象しか私にはない。

また、こうした情報を拡散するのに尽力している人たちは、自身が医学への強い不信感を抱えているように見受けらる。

インフルエンザの予防接種の意味

不治の病に自身や家族が苦しんだ結果から医学フォビアに陥っている状況も少なからずあるようだ。そうした現代医学ではいかんともしがたい病気や症状を患われた辛さや苦しみは、かつてがんを患ったことがある我が身と幾重にもオーバーラップするので、深く理解もできるし、同情もする。

基本的に私自身は、病気や障がいを抱える家族や当人に対して、本当に心からその人のためになると思うのであれば何を仰っていただいても構わないと考えている。

しかし、自閉症とワクチンを結びつけた情報やその拡散は結局のところ、病気に限らず自身の抱える不満やストレスを、如何ともしがたい症状を抱える他の誰かに転嫁して発散しているだけとしか私からは見えないのだ。少なくとも私と娘のためには何も役立っていない。

ワクチン繋がりでもう1点。かつて娘が心房中核欠損と診断され入院を余儀なくしていた頃(おかげ様で成長とともに今は心臓の壁に開いていた穴は塞がっている)、私は地元の高校で教員をしていた。その高校でインフルエンザが流行したときにはしばらくの間、娘との面会が謝絶になったことがあった。

万が一、私が小児病棟にインフルエンザを持ち込めば、娘だけでなく他のお子さんも重篤な状態に陥る可能性があるからだ。病院側の要請は至極真っ当で、言うまでもなく面会を控えることに同意した(とは言え、看護師さんに抱っこされた娘をガラス越しに見つめるだけで、そのまま帰るしかなかったあのときほど切ないことはなかったのだが)。

もちろん、インフルエンザなどの流行を完全に抑え込むことは不可能だが、ワクチンはより多くの人が摂取することで社会全体での効果が発揮されるものだ。

救える命を救うために

「ワクチンを打ったのにインフルエンザにかかった」「効果が疑わしい」という声もよく聞くが、インフルエンザ・ワクチンは毎年少しずつ違うワクチンを受けることで違うタイプの抗体が身体の中で出来上がり、その結果、様々な型のインフルエンザを予防していく……という根本的な情報が浸透していないために誤解されているようだ。

先述の小野氏曰く「免疫不全の人たちにとっては、どれだけ周囲の人たちがきちんとワクチンを受け、ウイルスを撒き散らさないでいてくれるかどうかが死活問題」だ。

必要以上にワクチン接種を忌嫌することは、本来予防できるはずの病気を予防できないだけでなく、その結果救える命も救えない状況になりかねない。そうしたリスクをもはらんでいる。

恐らく、最初に触れたような自閉症とワクチンを関連付ける内容は専門家からすれば、ばからしくて全く取るに足りない内容と映るのではないだろうか。誰も気にするわけがない、取り沙汰されるようなことがあっても、そのまま放っておけば早晩淘汰されるだろうと思われるかもしれない──。ところが実際には荒唐無稽な内容であればあるほど伝わりやすい側面があり、背びれ尾びれを伴って粘着的に情報が蔓延ってしまう場合が少なからずあるのが実情だ。

そこで最後に、お忙しいのは重々承知の上で医学や科学の専門家の方々へ。こうした偽情報を見かけられたら、たとえ1行でも2行でも構わないので、医学や科学業界の事情を知らない市井に向けて「それは違うよ」という一言とともに正しい情報発信をしていただけないだろうか。社会の中での知識の共有を切にお願いしたい。

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