前に述べたように、厚労省は今年度から「主治医」制度を推進する方針を明確に打ち出した。日本では保険証1枚で、どの医療機関にも自由にかかることができる。
この結果、軽症者も重症者も地域の中核になる大病院に集中する。これをなくさないと、高齢化で年々増える高齢者と医療費の増加は抑えられないと、厚労省は考えたのだ。
端的に言うと、「ちょっとした症状では、大病院の外来には来るな」ということ。さらに言えば、「主治医を自分でつくり、普段はそこで面倒見てもらえ」ということである。
この主治医制度促進のため、病床数が200床未満の病院や診療所の医師が、高血圧、糖尿病、脂質異常症、認知症のうち2つ以上の病気を抱える患者を継続して診た場合は、この4月から地域包括診療料として診療報酬を月1回あたり1503点(1万5030円)もらえることになった。
これで、町医者も患者を積極的に診るだろうというのだ。ただし、主治医の条件は厳しい。主治医のいる医療機関は、患者には24時間対応、在宅医療も行うことが義務づけられ、介護保険に関する相談などに応じるよう求められた。
しかし、このような制度ができたからといって、一般の人は「主治医」と言われてもよくわからない。近所にかかりつけの町医者がある場合、あるいは長患いをしていて専門医に通院を続けている場合をのぞき、主治医など、いきなりつくれるものではない。
しかも、こういう例もある。ある糖尿病患者は、10年にわたり専門病院に通院して、そこで担当医に診てもらっていた。ところが、不調を訴えたにもかかわらず、その担当医はなにもしてくれなかったので、大病院で検査を受けたところ、
末期の胃がんとの診断。すぐに手術を受けたが、半年で死んでしまった。遺族は「ずっと同じ医者にかかり主治医だと思っていたのに納得がいかない」と言う。
この例が示すのは、単にかかりつけだけでは、主治医とはいえないということだ。病気にかかったときに診察してくれるだけでなく、日頃から健康相談に乗ってくれたり、なにかあれば迅速に専門医を紹介してくれたりしてくれなければ、主治医とは言い難い。
つまり、高齢者は今後のことを考えると、積極的に主治医づくりをしないと、安心できないわけだ。そこで、私はまず近所の町医者に行ったら、その医者の人間性をチェックする。
そして、ある程度信頼できるとなったら、きちんと「私と私の家族の医療問題について、相談に乗ってくれますか?」と申し出ることを勧めている。この申し出に「はい」と答える医師を持つのと持たないのでは、リタイア後の人生は大きく変わる。
さらに、医者を味方につけるには、なんでもいいから褒めまくることである。服装でも身につけているものでいいから褒めることだ。医者はプライドが高いので、もっともおだてに弱い人種である。
また、付け届けも有効だが、これを奨励するのは問題があるので、詳しくは書けない。ただ、医者は贈り物が大好きだということは知っておいたほうがいい。
いずれにせよ、安心して死後へ旅立つための第一歩は、主治医をできる限り早くつくることだ。
■富家孝(ふけたかし) 医師・ジャーナリスト。1947年大阪生まれ。1972年慈恵医大卒。著書「医者しか知らない危険な話」(文芸春秋)ほか60冊以上。
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