あなたの健康はお金で買えますか・・・? 「総合診療医」は根付くか 専門医指向強い日本医療の地殻変動、育成がカギに
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「総合診療医」は根付くか 専門医指向強い日本医療の地殻変動、育成がカギに

今年も医師国家試験の結果が発表となり、8258人の「医師の卵」が誕生した。2年間の研修を終えた後、彼らの中から初めて養成が始まるのが、「総合診療医」だ。

内科や外科など従来の18領域に加えて新たに設けられ、高齢化や過疎化に対応して各地域に適した診療を幅広く行う医師として期待される。国民皆保険により同じ医療費であらゆる医療機関にかかれる日本では、専門性の高い「専門医」を選びたがる患者が多いといわれる。果たして日本に「総合診療医」は根付くだろうか。

■「若い世代から高齢者までずっと診る医師を目指す」

 厚生労働省によると、現在設置に向けて準備が進められている総合診療医とは、日常的な病気や障害に適切に対応し、継続して医療を行う医師のこと。病気の予防や介護、看取りなど地域の健康に関する幅広い問題に対応することが求められる。

 今年度の医学部卒業生が2年間の臨床研修を終えた平成29年度から養成が始まる予定で、総合診療医を志す医師は3年以上、内科、小児科、救急科などの専門の研修プログラムを受ける。順調に進めば、32年度に初の総合診療医が誕生する計画だ。

 「例えば高齢の患者は眼科、整形外科、内科と多くの疾患を抱え、薬も山のように出る。患者をトータルで診る医師が必要だ」と総合診療医のあるべき姿を語るのは厚労省の担当者だ。

英国などでは、まず家庭医が患者を診察し、必要があれば専門医を紹介する「ゲートキーパー制」を取るが、日本の総合診療医はこれとは少し異なる。

 「受診する医療機関を制限したり、開業を規制したりはしない。若い世代から高齢者までずっと診る医師をめざすということだ」(厚労省)。

 総合診療医の研修プログラムなどを作成する「日本専門医機構」(東京都千代田区)副理事長の有賀徹・昭和大病院長は「地域ごとに医療の課題は異なる。

産科医が不足する地域なら、日常的な妊婦の診察ができるよう産科領域を学ぶことが必要だ。総合診療医には地域で必要な領域を自ら学ぶ力が求められる」と話す。

■すでに「総合診療医」を名乗る離島の院長は…

 すでに、総合診療医の先行例とも言うべき事例もある。日本海に浮かぶ西ノ島(島根県)にある唯一の病院「隠岐島前病院」の白石吉彦院長は、自ら「総合診療医」と名乗り、救急から入院、介護まで幅広くみながら、島民の健康を守る。

 白石院長は「総合診療医には3種類あると思う」と指摘する。

ひとつは、大学病院などがそろう都会にクリニック(診療所)を開いて患者を診る家庭医。もうひとつは、中小病院で幅広く診察する医師。そして3つめは、隠岐島前病院のように医療機関が他にない場所で何でもみる医師だ。

 「例えば都会の総合診療医は内視鏡が使えなくて良い。しかし、山奥の診療所の総合診療医には内視鏡が必要になる」と白石院長。「大事なのは患者に寄り添い、必要とされることのうちできることはやること。よくある疾患については、治療できるように技術を持っていくのが理想だ」という。

 検査をして診断はついても、そこで治療ができなければ患者は困る。「診断と治療の間を埋めるのが総合診療医の役割だ。医師の半分が総合診療医になれば、日本の医療は変わる」と白石院長は期待する。

 ただ、近所のクリニックなどを「かかりつけ医」とする動きがある一方で、患者の中には大学病院などの大病院の診療を望む声も多い。

また、若い頃に外科や内科などの専門領域で大病院に勤めた医師が中高年になって開業することも多く、幅広く診る「かかりつけ医」の水準に差があるとの指摘もある。

総合診療医は若いうちから診療科をまたがって広く学ぶことで、こうした患者の不信を払拭する役割が期待される。

■「専門医」になるための研修制度見直しも課題

 一方、「総合診療医」の誕生とともに、現在は各学会が独自の基準で認めている「専門医」「認定医」などについての見直しも進んでいる。新たな制度では、日本専門医機構が統一した基準で、各領域の専門医を認定することになる。

 2年間の臨床研修を終えた医師は、その時点で内科、外科、あるいは総合診療医など目指す分野を決める。

その後、3年以上かけて専門分野の領域を学び、「専門医」の資格を取得することになる。資格はその後も実績を重ねることで更新されるとみられる。

 ただ、「専門医」の資格を取るための基準や更新の条件が一元化されることには不安の声もある。

仙台厚生病院の森田麻里子医師は「最近は女性医師が増えているが、専門医制度が始まれば、いつ出産するか、復職するかに悩む。女性医師が仕事を継続できるように多様な研修制度を認めてほしい」と訴える。

 医学部を卒業するのは最短でも24歳。2年間の初期研修を受け、27歳から専門分野の研修に入ると、専門医になるころには30歳を過ぎる。

森田医師の専門である麻酔科では、これまでは子育て中の女性医師が週1日などの時短勤務を重ねながらでも、規定の技術を身に着ければ学会の専門医の資格を取ることができた。

しかし、今後は週1日勤務は勤務期間と認めないなど、時間的制約を持つ医師に不利な制度になるといい、専門医制度が始まればこうした画一的な運用がさらに進むことが懸念される。

 日本専門医機構は、総合診療医を含む19の領域の専門医をどういう施設でどういうプログラムで研修するかなどの基準を、27年度中に示す方針だ。現場の医師と患者の双方が信頼できる基準づくりが、「総合診療医」を含む専門医制度成功のカギとなりそうだ。
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