【日本の病院の実力】杏林大学医学部付属病院 最先端のピロリ菌研究完全除菌へ“最後の砦”
★杏林大学医学部付属病院・消化器内科
胃潰瘍のみならず胃がんとも関係の深いヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の人々の除菌が、2000年に保険適用になって以降、胃炎などにも適用範囲は広がっている。
薬による1次除菌で、ピロリ菌が生き残れば2次除菌が行われ、約97%の人は退治可能。ところが3%の人は、ピロリ菌が生き延びてしまう。過去に風邪などで飲んだ抗生物質に対し、ピロリ菌が耐性を持って薬が効かないこともあるからだ。
そんな難治性ともいうべきピロリ菌の第3次除菌で成果を上げ、さらに、ピロリ菌以外のヘリコバクター属と病気の関連など、最先端の研究に力を入れているのが、杏林大学医学部付属病院消化器内科。
「胃がん予防として、ピロリ除菌は、国際的な常識となっています。
当院は地域の基幹病院のため、他院から2次除菌が成功しなかった患者さんを紹介されることが多いのです。3次除菌で効果的な薬を選択するために、菌を培養するなどの研究によって、成功率を高めています」
こう話す同科の高橋信一教授(64)は、消化器系がんの診断や内視鏡治療を得意とし、ピロリ菌除菌のスペシャリストでもある。
2007年には、北里大学薬学部の中村正彦准教授との共同研究で、胃の中にいるヘリコバクター・ハイルマーニが、悪性リンパ腫の一種、マルトリンパ腫との関連が深いことも世界で初めて明らかにした。
「ヘリコバクター属の菌には、いろいろな種類があります。それがどの病気と関連しているのか、明確にすることで予防に役立つと思っています」
ヘリコバクター属の研究だけでなく、高橋教授は、小腸がんなど国内で患者数が少ない病気についても、診断と治療の研究を進めている。小腸を詳しく見るためのダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡も駆使。
さらに、自分の免疫で肝臓にダメージを与える自己免疫性肝疾患の治療など、守備範囲は広い。
「当科では、食道、胃、小腸、大腸、肝胆膵のそれぞれのエキスパートを揃えています。難治性や希少な病気の患者さんも、数多く来院されるため、たくさんの先端医療を行っているのです」
高橋教授は、内視鏡による身体へ負担の少ない治療にも積極的。また、がんについては、同病院の消化器外科、消化器内科、放射線科、麻酔科、病院病理部などのスタッフが集まり、定期的に意見交換のカンファレンスを行うなど、チーム医療を実現している。
「消化器系がんは早期発見できれば、内視鏡だけで治すことが可能です。
そして、確実性の高い予防を行えば、そもそもがんにはなりにくい。ピロリ除菌はそのひとつです。これからも、早期治療や予防に貢献できるように、研究を進めていきたいと思っています」と高橋教授。難治性の壁を切り崩すべく奮闘中だ。
〈データ〉2012年度実績
・胃潰瘍475人
・胆のう結石/総胆管結石200人
・大腸ポリープ138人
・自己免疫肝疾患56人
・病院病床数1153床
〔住所〕〒181-8611 東京都三鷹市新川6の20の2 (電)0422・47・5511