【日本の名医】糖尿病治療の名医 インスリン早期投与の安全性を発信★邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)教授 弘世貴久さん(52)
東邦大学医療センター大森病院の糖尿病・代謝・内分泌科教授を務める弘世貴久医師は、糖尿病治療の世界で全国的な知名度を持つ内科医。最初は大学で研究に没頭していたが、市中病院に移って糖尿病患者のあまりの多さに驚き、その治療にのめり込んでいった。
当時、血糖をコントロールするためのインスリン投与は、病気がかなり進行してから、入院して徹底した管理下で行うのが一般的だった。しかし、臨床の最前線で弘世医師はそこに疑問を持つ。
「血糖コントロールは、将来の合併症予防が目的。なのに、当時は合併症が出たり、それが近づいてから治療を始めるのが実情だった。もっと早い段階で血糖コントロールをすべきと考えて、早期での外来インスリン導入の重要性を唱えたんです」
当初は異端視されたが、日本の糖尿病治療の第一人者である順天堂大学の河盛隆造教授に請われて上京。研究と臨床で積み重ねた理論をまとめ、早期インスリン投与の効果と安全性を世界に向けて発信していく。
「国内の患者数を考えれば、糖尿病専門医だけを相手にしても仕方がない。多くの開業医にこの治療法を知ってもらい、実践してもらう必要がある」と、医師向けの啓蒙(けいもう)活動に尽力。
結果、早期インスリン投与の普及が飛躍的に進んでいった。
インスリン投与は患者自身が腹部に打つので、怖がる患者もいる。そんな時、弘世医師は患者の前で自分の腹部に“空打ち”をしてみせる。
「今の注射針は髪の毛ほどの細さなので痛くない。でも、どんなに口でいうよりもお医者さんが自分の体に打って見せたほうが安心感が違うでしょう」と笑う。
NHK、朝の人気ドラマだった「梅ちゃん先生」の舞台・大森で、人情に篤い関西弁の先生の診療が始まっている。地域の糖尿病患者には大きな朗報だ。
■弘世貴久(ひろせ・たかひさ) 1960年、神戸市生まれ。
85年、大阪医科大を卒業し、大阪大学第三内科入局。92年から米国立衛生研究所留学。95年より阪大助手、97年、西宮市立中央病院、2004年、順天堂大学医学部代謝内分泌科講師、07年、同准教授を経て、12年より現職。医学博士。趣味は「2人の息子と行く昆虫採集」。