【日本の病院の実力】中性脂肪の吸収を防ぐメタボ対策で新薬研究 日大医学部附属板橋病院腎臓・高血圧・内分泌内科
近年、メタボリックシンドロームが、心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高めると注意喚起されて久しい。
だが、厚労省の「平成22年国民健康・栄養調査報告」によれば、男性のおよそ30%は肥満で、メタボと疑われる、あるいは、予備軍と考えられる人は約50%。男性の2人に1人は死亡リスクが高いことになる。
もちろん、メタボを後押しする生活習慣病については、さまざまな薬などの治療法は開発され、適切なコントロールができている人もいるが、そうでない人も少なくない。治
療で改善されない肥満や生活習慣病では、身体の中で何が起こっているのか。それを解明すれば、新たな治療の道も開ける。
そんな最先端の研究を行っているのが、日本大学医学部附属板橋病院腎臓・高血圧・内分泌内科。
外来医長を務める上野高浩准教授(51)は、2009年に世界初となるメタボに関わる内臓脂肪型肥満と時計遺伝子の働きに関する研究発表で注目を集めた。
「体内では生体リズムによって、代謝や合成などが行われる仕組みになっています。
時計遺伝子は、その生体リズムに関わるのです。世界的にも時計遺伝子の研究が進み、動物実験で時計遺伝子がないと肥満になるとの報告がありました。
そこで、実際に患者さんの体内で何が起こっているのかを調べてみたのです」
上野准教授は、標準体重と肥満の約80人を対象に、午前9時から午後9時までの時計遺伝子の働きを調査した。
標準体重の人の遺伝子は、朝が活発なのに、肥満の人はあまり変動がない。
一方、体重約83キロから約63キロに減量した男性の遺伝子は、標準体重の人と同じパターンに戻っていたことを明らかにした。
「生体リズムは朝陽を浴びることで整えることができますが、肥満の人は時計遺伝子の働きが悪いので難しい。
その結果、代謝が落ちて、肥満の解消ができにくいのです。減量で時計遺伝子の働きは正常になりますが、無理に急激な減量をすれば、リバウンドしやすい。
それを防ぐには、時計遺伝子の働きを正常に導く食材を食べながら、徐々に減量するのがなによりです。その食材の研究も現在進めています」
さらに上野准教授は、文科省の助成金による「中性脂肪吸収阻害剤」の研究開発にも着手。
中性脂肪が高く、悪玉コレステロール値が高い脂質異常症では、動脈硬化が進行しやすく心筋梗塞や脳卒中に結びつく。
食生活の見直しによる肥満解消が不可欠だが、やはり、体重を落とすには時間がかかる。
その間、動脈硬化を進行させないため、中性脂肪がたまらない新たな薬を開発しようとしているのだ。
「日本人は欧米人と比べて、肥満度が低くても生活習慣病による生命の危機のリスクは高い。
それを回避するには、日本初の新たな治療法が必要だと思っています」と上野准教授。
メタボ患者を救うため、研究と治療に没頭中だ。
<データ>月平均実績
・外来患者数約200人 ・脂質異常症患者数約100人
・肥満外来患者数約20人 ・病院病床数1037床
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