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変わる前立腺の治療 川崎医科大学泌尿器科の永井敦教授に聞く


 伝統が息づく研究室で、先端治療に挑む臨床の最前線で、スタッフを束ねて指揮する新進の医学教授に決意を伺う。6回目は川崎医科大学泌尿器科の永井敦教授に聞く。―近年前立腺がんが急増し、男性の部位別がん罹患(りかん)数ではトップになったとみられています。安全、確実な治療法の確立が課題ですが、川崎医科大学付属病院では、待望のダヴィンチを使ったロボット支援手術が始まりましたね。

 昨年11月21日に1例目を行い、2月中旬までに13例になりました。これまで全くトラブルはありません。

 執刀医が患者さんから離れた位置でコンソールをのぞき込むと、患部が3次元の立体映像で、まるで顕微鏡で拡大したみたいに明瞭に見えます。ロボットの“手”は震えることがありませんし、人間と違って動きに制限がないので、病変の剥離や縫合などの操作もより安全にできます。

 カメラは自由に患部に近づけることができます。患者さんのそばには助手がつきますが、椅子に座っていればいい。立ちっぱなしだった従来の手術と比べて、はるかに楽になりました。慣れてくれば手術時間ももっと短くなるでしょう。

 ―患者にとってもメリットがあるのでしょうか。

 体に与える負担の少ない低侵襲の手術ができるので、術後に起きる尿失禁などの合併症が少なくなります。電気メスを使うと、どうしても勃起神経がやられやすいのですが、ダヴィンチは出血も少ないので電気メスを使う頻度が減ります。勃起神経の細かいところまで丁寧に温存できますから、QOL(生活の質)もよくなるでしょう。メリットは大きいと思います。

 ―教授は低侵襲手術の先駆者で、前立腺がんに腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を導入したのも、岡山では最初でした。

 腹腔鏡は男性不妊症の手術から始まりました。岡山大学泌尿器科に入局して師事した大森弘之教授は「これからは内視鏡の時代になる」とおっしゃって、不妊症を手がけていた私が腹腔鏡チームを立ち上げることになりました。フランスまで行って手術を見学し、すごいと目を見張りました。

 国鉄職員だった父は指先が器用で、工作が得意でした。私も工作好きで、コンピューターを扱う電子工学を志したこともあります。岡山大学泌尿器科時代は、夜遅くまで自分でシミュレーターを操作して腹腔鏡手術を訓練し、学生たちに教えていました。努力だけでなくセンスも求められるので、手先の器用さを生かせたかもしれません。

 ―川崎医大に赴任されてからは、放射線治療のHDR(高線量率組織内照射法)の症例も積み重ねられました。

 腹腔鏡手術では、少ないながら尿失禁のリスクが避けられませんが、HDRは体に傷をつけないので安心感があります。麻酔をして前立腺に針を刺し、2回放射線を照射して半日で終わります。効果を高めるため、体外から放射線を照射する外照射も行いますが、これは通院でできます。

 いかに効率よく針を刺すかが私たちの役割です。放射線の照射は放射線科医と技師が担当し、刺した針の数や位置によってコンピューターで最適な放射線源の動作を計算します。1997年以来約1200例を治療しており、全国トップの実績です。

 ―HDRの適応や治療効果は腹腔鏡手術と同じなのでしょうか。

 治療効果や再発率はほぼ同等です。術後の合併症を考慮して治療法を選ぶことになります。がんが前立腺の外に少しはみ出しているような場合、手術だと取り残しの可能性が出てくる。HDRで放射線をその部分にも当てれば、がんを死滅させることができます。

 ただし、このような局所浸潤がんであっても、ダヴィンチを使えば、リンパ節や隣接する臓器のぎりぎりまで取る拡大手術ができます。修練を積んで挑戦していきたいと思っています。放射線でも合併症の少ない照射法などを考えているので、患者さんはどちらを選んでも低侵襲の治療を受けられると思います。

 ―教室として今後、どのような研究に取り組もうと考えておられますか。

 柱の一つはアンチエイジングです。泌尿器科分野は全身の疾患とつながっています。糖尿病による血管障害で、ED(勃起不全)や蓄尿・排尿障害、神経因性膀胱(ぼうこう)などが起きます。大学院生たちは、泌尿器科で投与する薬によって、同時に血管年齢が若返ってくるといったデータを集めています。基礎研究として、ラットを使った実験もやっています。

 EDは全身疾患の前触れであり、侮ってはいけません。陰茎には非常に細い動脈が流れていて、ここに障害が出てくれば、いずれ心筋梗塞や脳卒中を起こすことになります。通常の薬が効かないEDの方を対象に、特殊な薬を自己注射する治療の臨床研究も行っています。

 ―後進の若き泌尿器科医には何を求めますか。

 入局した人には「どんなことにも必ず『イエス』と言いなさい」と指導しています。「ノー」と言った瞬間に自分の可能性が閉ざされるからです。決して後ろ向きになるな―ということです。最初は無駄だと思っても、コツコツやっていくうちに必ず自分のものになり、将来役立つはずです。

 ながい・あつし 愛光高校(松山市)、岡山大学医学部卒。同大学病院泌尿器科講師などを経て、2006年1月から川崎医科大学泌尿器科教授。同学長補佐。日本泌尿器科学会の代議員で専門医・指導医、日本泌尿器科学会西日本支部理事、日本がん治療認定医機構暫定教育医、日本性機能学会副理事長・性機能専門医、日本泌尿器科学会・日本内視鏡外科学会の泌尿器腹腔鏡技術認定医など。61歳。
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