立ちくらみがあり、自立神経障害だと言われました
立ちくらみがあり、自立神経障害だと言われました。詳しく教えてください。(2型糖尿病、66歳、女性)
【回答】
糖尿病神経障害は、三大合併症の一つで、主に末梢(まっしょう)神経が障害されます。糖尿病神経障害には、手足の先に左右対称で現れる多発性神経障害と局所の単神経障害がありますが、頻度が多いのは多発性神経障害です(表)。この障害では、細くて長い神経が障害されやすいので、症状としてまず足先のジンジンとしたしびれや痛み、感覚低下に気付くことが多いと思います。そのほか、温度や振動を感知する神経も障害されやすいことが知られています。一方、運動神経の線維は比較的太いため、脱力・筋萎縮などの運動障害が最初の症状として起こることはほとんどありません。
また、循環器、消化器、呼吸器などの活動を調整するために、休みなくはたらき続けている自律神経も細く、障害されやすい神経です。自律神経が障害されると、起立性低血圧、心臓神経の障害、消化管の運動障害、ぼうこうの機能障害、発汗の異常などの症状が出現します。今回の質問者さんは、この自律神経障害に当たりますので、これらの症状について、詳しくみてみましょう。
(1)起立性低血圧
横になった姿勢から起立した際に血圧の急激な低下(起立後3分以内に最高血圧20mmHg以上、最低血圧で10mmHg以上の低下)がみられるものをいい、立ちくらみの原因となります。入浴中などは、けがをしやすいこともあって特に注意が必要です。
(2)心臓神経の障害
自律神経が正常であれば、血圧低下時や運動時は脈拍が増え、血流不足は起こりません。しかし、自律神経障害がある場合は、このような調整が行われず、起立性低血圧や不整脈、時に突然死の原因となることがあります。また、心筋梗塞でも痛みを感じないため、重症化することがあります(無痛性心筋梗塞)。
(3)消化管の運動障害
胃の運動が不規則になるため、食物の消化吸収の速度が速まって高血糖になったり、逆に食後かなりの時間がたってから、血糖値が上昇するなど、血糖コントロールが難しくなります。また、便秘や下痢も起こります。
(4)ぼうこうの機能障害
排尿をコントロールする末梢神経の障害により、排尿障害が起こります。その結果、ぼうこう炎などの尿路感染症や失禁が起こります。
(5)発汗の異常
汗が出にくくなる場合もありますが、味覚性多汗症になることも知られています。味覚性発汗は、健康な人では熱いものや刺激物を摂取した場合にのみ起こりますが、自律神経障害が強いと、普通の食事中に大量に発汗することがあります。
(6)その他の障害
低血糖になっても胸のドキドキ(動悸〈どうき〉)や発汗などの警告症状が出現せず重症化する無自覚性低血糖も起こります。
自律神経障害の治療については、軽症の場合は、血糖コントロールや生活習慣の改善で軽快する(症状が軽くなる)ことが少なくありません。神経障害の発症機序に関わる薬剤もありますが、障害が軽微なほど、また血糖コントロールが良いほど効果が高いことが分かっています。症状が強い場合は、対症療法が中心となります。また、長期間放置された高血糖を急激に改善すると、治療後に有痛性神経障害を発症することがあるので注意が必要です。
いずれにせよ、症状が出現したら血糖コントロールの改善に努め、早めに専門医に相談する必要があります。
熊本県立大学名誉教授
福島英生(ふくしま・ひでお)
【回答】
糖尿病神経障害は、三大合併症の一つで、主に末梢(まっしょう)神経が障害されます。糖尿病神経障害には、手足の先に左右対称で現れる多発性神経障害と局所の単神経障害がありますが、頻度が多いのは多発性神経障害です(表)。この障害では、細くて長い神経が障害されやすいので、症状としてまず足先のジンジンとしたしびれや痛み、感覚低下に気付くことが多いと思います。そのほか、温度や振動を感知する神経も障害されやすいことが知られています。一方、運動神経の線維は比較的太いため、脱力・筋萎縮などの運動障害が最初の症状として起こることはほとんどありません。
また、循環器、消化器、呼吸器などの活動を調整するために、休みなくはたらき続けている自律神経も細く、障害されやすい神経です。自律神経が障害されると、起立性低血圧、心臓神経の障害、消化管の運動障害、ぼうこうの機能障害、発汗の異常などの症状が出現します。今回の質問者さんは、この自律神経障害に当たりますので、これらの症状について、詳しくみてみましょう。
(1)起立性低血圧
横になった姿勢から起立した際に血圧の急激な低下(起立後3分以内に最高血圧20mmHg以上、最低血圧で10mmHg以上の低下)がみられるものをいい、立ちくらみの原因となります。入浴中などは、けがをしやすいこともあって特に注意が必要です。
(2)心臓神経の障害
自律神経が正常であれば、血圧低下時や運動時は脈拍が増え、血流不足は起こりません。しかし、自律神経障害がある場合は、このような調整が行われず、起立性低血圧や不整脈、時に突然死の原因となることがあります。また、心筋梗塞でも痛みを感じないため、重症化することがあります(無痛性心筋梗塞)。
(3)消化管の運動障害
胃の運動が不規則になるため、食物の消化吸収の速度が速まって高血糖になったり、逆に食後かなりの時間がたってから、血糖値が上昇するなど、血糖コントロールが難しくなります。また、便秘や下痢も起こります。
(4)ぼうこうの機能障害
排尿をコントロールする末梢神経の障害により、排尿障害が起こります。その結果、ぼうこう炎などの尿路感染症や失禁が起こります。
(5)発汗の異常
汗が出にくくなる場合もありますが、味覚性多汗症になることも知られています。味覚性発汗は、健康な人では熱いものや刺激物を摂取した場合にのみ起こりますが、自律神経障害が強いと、普通の食事中に大量に発汗することがあります。
(6)その他の障害
低血糖になっても胸のドキドキ(動悸〈どうき〉)や発汗などの警告症状が出現せず重症化する無自覚性低血糖も起こります。
自律神経障害の治療については、軽症の場合は、血糖コントロールや生活習慣の改善で軽快する(症状が軽くなる)ことが少なくありません。神経障害の発症機序に関わる薬剤もありますが、障害が軽微なほど、また血糖コントロールが良いほど効果が高いことが分かっています。症状が強い場合は、対症療法が中心となります。また、長期間放置された高血糖を急激に改善すると、治療後に有痛性神経障害を発症することがあるので注意が必要です。
いずれにせよ、症状が出現したら血糖コントロールの改善に努め、早めに専門医に相談する必要があります。
熊本県立大学名誉教授
福島英生(ふくしま・ひでお)