増えるドライアイ 涙の層を壊す“3つのコン”とは?
日本には、「ドライアイ」のある人が推定で2000万人いるといわれています。身近な環境が影響することから患者数が増加していると考えられています。その症状と原因、そして日常生活の中でできる対策について、東邦大学 教授の堀 裕一(ほり・ゆういち)さんにうかがいました。
* * *
■ドライアイとは
ドライアイは、目の表面を潤す働きが低下して目の表面が乾燥した状態をいいます。生活環境の変化などに伴って、日本では、ドライアイのある人が増え続けていると見られます。
ドライアイには、目が乾く、目がゴロゴロする、目が疲れる、涙が出る、目が痛い、目がかすむ、目を開けていられないなどさまざまな症状があります。これらの症状は、涙の量が減ったり、涙の層が安定しなくなることで起こってきます。
■目は表面を覆う涙で保護されている
目の表面には、角膜と結膜があります。角膜や結膜の外側は粘膜から成り、傷つきやすいため、涙の薄い層が目の表面を覆って保護しています。
涙は内側から液と油の層に分かれており、まばたきによって目の表面に行き渡ります。
液の主成分は水分で、「分泌型ムチン」というぬめりをつくる物質が混ざっています。分泌型ムチンはまばたきをする際のまぶたと目の表面の摩擦を和らげます。
さらに、液の層の内側は、水分を目の表面全体になじませる働きをもつ「膜型ムチン」で覆われています。油の層は涙のいちばん外側にあり、水分が蒸発するのを防いでいます。
■ドライアイの原因
ドライアイの原因は、大きく2つに分けられます。
■原因1 涙の量が減る
涙の量が減る原因の多くは加齢です。涙の水分を分泌する涙腺の働きは、年齢とともに衰えてきます。
涙腺はホルモンの変化にも影響されるので、更年期の女性にはドライアイが多いといわれています。シェーグレン症候群(涙腺と唾液腺を標的として攻撃する自己免疫疾患)という全身の病気からドライアイが起こる場合もあります。
■原因2 涙の層が壊れる
次の原因が考えられます。
◎3つのコン――パソコン、エアコン、コンタクトレンズは“3つのコン”と呼ばれるドライアイの三大要因です。パソコンは、画面を見ているとまばたきが減るので、涙が蒸発しやすくなります。
エアコンは、空気を乾燥させますし、風が目に当たると涙が蒸発しやすくなります。コンタクトレンズは、涙の水分が目の表面に均一に広がるのを妨げるうえ、まばたきをするとレンズとの摩擦で目が傷つきやすくなります。
◎油の分泌不足――涙の水分が蒸発しやすくなります。油を分泌する腺は、上下のまつげの生え際付近にあります。油の分泌は年齢とともに減少しますが、若くても体質的に分泌腺の詰まりやすい人がいます。最近多いのが、まつげの内側の化粧によって分泌腺が塞がれるケースです。
◎ムチンの異常――ムチンが減ると涙の層は安定しません。特に、膜型ムチンが不足すると、涙が目の表面に定着しないので目が乾いてしまいます。
■原因不明のものもある
最近増えているのが、BUT(ビーユーティー/ブレイクアップタイム)短縮型というタイプです。短時間目を開けているだけで痛むのが特徴で、まばたきせずに目を開けていられるのは5秒以下です。原因は不明で、若い人に多いといわれています。
■ドライアイの検査
ドライアイが疑われる場合は、症状などを詳しく聞いたうえで、次のような検査が行われます。
◎涙の量を調べる検査(シルマーテスト)――左右の目尻に専用の濾紙(ろし)を5分ほど挟んで、涙でぬれた長さを測ります。5mm以下の場合はドライアイが疑われます。
◎涙の層が壊れるまでの時間を計る検査(BUT検査)――特殊な検査液を点眼して涙を染色します。5秒以内に色の消える部分が現れた場合は、涙の層が壊れていることを示しており、ドライアイの疑いがあります。
◎目の表面を調べる検査(染色検査)――特殊な検査薬を点眼します。目の表面に傷があると染色されます。染色された場合はドライアイの疑いがあります。
■ドライアイの治療
ドライアイの治療は点眼薬が中心で、これまでは、人工涙液とヒアルロン酸がよく使われてきました。どちらも涙の量を補うのが目的ですが、2010年以降はジクアホソルナトリウムとレバミピドという新しい点眼薬が普及しています。
ジクアホソルナトリウムには、ムチンと水分を増やす作用があります。レバミピドには、ムチンを増やす作用と、目の表面の粘膜の保護・修復をする作用があります。2種類とも、世界に先駆けて日本で初めて使用が認められました。
従来の点眼薬よりドライアイの症状を改善する効果が大きく、これまで点眼薬では治らなかった重症の患者さんにも効果のあることがわかっています。
市販の点眼薬を使う場合は、人工涙液などのドライアイ用の薬を選びます。ただし、頻繁にさすと角膜に影響するので1日6回程度までとされています。ドライアイがひどくて頻繁に使う場合は、防腐剤を含まないタイプを選びます。市販薬で効果がなければ、必ず眼科を受診してください。
■日常生活でも対策をとることが大切
◎3つのコン対策――パソコンを使うときは、積極的にまばたきを行い、画面はやや見下ろすようにします。こまめに休息をとることも大切です。スマートフォンも長時間の使用を避けます。
エアコンは風が目に当たらないようにして、加湿器を使って部屋の湿度を高くします。自動車のエアコンにも注意しましょう。コンタクトレンズは、清潔に保ち、使用時間を短くして眼鏡と併用するとよいでしょう。眼科での定期的な検査も大切です。
◎ストレスをためない――涙は緊張すると出にくくなるといわれているので、できるだけストレスをためないようにしましょう。
◎適度な運動を行う――運動をするとドライアイの症状が軽くなるという報告があります。
◎まぶたを温める――涙の油の成分が分泌されやすくなるため、ドライアイの予防効果があるといわれています。蒸しタオルは、時間がたつと冷えて逆効果になるので、注意して使いましょう。
■『NHKきょうの健康』2014年11月号より
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■ドライアイとは
ドライアイは、目の表面を潤す働きが低下して目の表面が乾燥した状態をいいます。生活環境の変化などに伴って、日本では、ドライアイのある人が増え続けていると見られます。
ドライアイには、目が乾く、目がゴロゴロする、目が疲れる、涙が出る、目が痛い、目がかすむ、目を開けていられないなどさまざまな症状があります。これらの症状は、涙の量が減ったり、涙の層が安定しなくなることで起こってきます。
■目は表面を覆う涙で保護されている
目の表面には、角膜と結膜があります。角膜や結膜の外側は粘膜から成り、傷つきやすいため、涙の薄い層が目の表面を覆って保護しています。
涙は内側から液と油の層に分かれており、まばたきによって目の表面に行き渡ります。
液の主成分は水分で、「分泌型ムチン」というぬめりをつくる物質が混ざっています。分泌型ムチンはまばたきをする際のまぶたと目の表面の摩擦を和らげます。
さらに、液の層の内側は、水分を目の表面全体になじませる働きをもつ「膜型ムチン」で覆われています。油の層は涙のいちばん外側にあり、水分が蒸発するのを防いでいます。
■ドライアイの原因
ドライアイの原因は、大きく2つに分けられます。
■原因1 涙の量が減る
涙の量が減る原因の多くは加齢です。涙の水分を分泌する涙腺の働きは、年齢とともに衰えてきます。
涙腺はホルモンの変化にも影響されるので、更年期の女性にはドライアイが多いといわれています。シェーグレン症候群(涙腺と唾液腺を標的として攻撃する自己免疫疾患)という全身の病気からドライアイが起こる場合もあります。
■原因2 涙の層が壊れる
次の原因が考えられます。
◎3つのコン――パソコン、エアコン、コンタクトレンズは“3つのコン”と呼ばれるドライアイの三大要因です。パソコンは、画面を見ているとまばたきが減るので、涙が蒸発しやすくなります。
エアコンは、空気を乾燥させますし、風が目に当たると涙が蒸発しやすくなります。コンタクトレンズは、涙の水分が目の表面に均一に広がるのを妨げるうえ、まばたきをするとレンズとの摩擦で目が傷つきやすくなります。
◎油の分泌不足――涙の水分が蒸発しやすくなります。油を分泌する腺は、上下のまつげの生え際付近にあります。油の分泌は年齢とともに減少しますが、若くても体質的に分泌腺の詰まりやすい人がいます。最近多いのが、まつげの内側の化粧によって分泌腺が塞がれるケースです。
◎ムチンの異常――ムチンが減ると涙の層は安定しません。特に、膜型ムチンが不足すると、涙が目の表面に定着しないので目が乾いてしまいます。
■原因不明のものもある
最近増えているのが、BUT(ビーユーティー/ブレイクアップタイム)短縮型というタイプです。短時間目を開けているだけで痛むのが特徴で、まばたきせずに目を開けていられるのは5秒以下です。原因は不明で、若い人に多いといわれています。
■ドライアイの検査
ドライアイが疑われる場合は、症状などを詳しく聞いたうえで、次のような検査が行われます。
◎涙の量を調べる検査(シルマーテスト)――左右の目尻に専用の濾紙(ろし)を5分ほど挟んで、涙でぬれた長さを測ります。5mm以下の場合はドライアイが疑われます。
◎涙の層が壊れるまでの時間を計る検査(BUT検査)――特殊な検査液を点眼して涙を染色します。5秒以内に色の消える部分が現れた場合は、涙の層が壊れていることを示しており、ドライアイの疑いがあります。
◎目の表面を調べる検査(染色検査)――特殊な検査薬を点眼します。目の表面に傷があると染色されます。染色された場合はドライアイの疑いがあります。
■ドライアイの治療
ドライアイの治療は点眼薬が中心で、これまでは、人工涙液とヒアルロン酸がよく使われてきました。どちらも涙の量を補うのが目的ですが、2010年以降はジクアホソルナトリウムとレバミピドという新しい点眼薬が普及しています。
ジクアホソルナトリウムには、ムチンと水分を増やす作用があります。レバミピドには、ムチンを増やす作用と、目の表面の粘膜の保護・修復をする作用があります。2種類とも、世界に先駆けて日本で初めて使用が認められました。
従来の点眼薬よりドライアイの症状を改善する効果が大きく、これまで点眼薬では治らなかった重症の患者さんにも効果のあることがわかっています。
市販の点眼薬を使う場合は、人工涙液などのドライアイ用の薬を選びます。ただし、頻繁にさすと角膜に影響するので1日6回程度までとされています。ドライアイがひどくて頻繁に使う場合は、防腐剤を含まないタイプを選びます。市販薬で効果がなければ、必ず眼科を受診してください。
■日常生活でも対策をとることが大切
◎3つのコン対策――パソコンを使うときは、積極的にまばたきを行い、画面はやや見下ろすようにします。こまめに休息をとることも大切です。スマートフォンも長時間の使用を避けます。
エアコンは風が目に当たらないようにして、加湿器を使って部屋の湿度を高くします。自動車のエアコンにも注意しましょう。コンタクトレンズは、清潔に保ち、使用時間を短くして眼鏡と併用するとよいでしょう。眼科での定期的な検査も大切です。
◎ストレスをためない――涙は緊張すると出にくくなるといわれているので、できるだけストレスをためないようにしましょう。
◎適度な運動を行う――運動をするとドライアイの症状が軽くなるという報告があります。
◎まぶたを温める――涙の油の成分が分泌されやすくなるため、ドライアイの予防効果があるといわれています。蒸しタオルは、時間がたつと冷えて逆効果になるので、注意して使いましょう。
■『NHKきょうの健康』2014年11月号より