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認知症の進行と関係 聴力と視力の衰えには積極的な対応を


和田秀樹【後悔しない認知症】

「コミュニケーションの機会を増やし、情報の入力と出力を途切れさせないこと」

 このコラムではたびたび述べてきているが、認知症の症状の進行を遅らせるためには、これを忘れてはならない。高齢者の場合、円滑なコミュニケーションを阻害する要因のひとつとして「耳が遠くなること」があげられる。この聴覚の不具合も認知症の発症、症状の進行と決して無縁ではない。

 子どもは「聞こえないから話してもムダ」、高齢の親は「余計な雑音が入らなくなってラク」などと軽く考えがちだが、これはいただけない。耳が遠くなれば、入力情報が少なくなり、脳を刺激する機会が減る。結果、「話す」「書く」といった出力の機会も減る。発語の回数や書く言葉を考える機会が減るわけだ。これも脳にとってはいいことではない。新しい情報を入力できなければ、当然のことながら「昔話」に終始することにもなる。いずれにせよ、「脳を悩ます機会」が減る。

これが脳の老化、認知症の進行を招くことになるわけだ。子どもは注意が必要だ。「玄関のチャイムに気づかない」「聞き返すことが多くなった」「テレビの音が大きくなった」「生返事ばかりしている」「首をかしげて話を聞く」「電話などで大きな声で話す」など、親にそんな変化が見られたらすぐに対応すべきだ。

 老化による聴力の衰えを改善することはむずかしいが、進行を遅らせることは可能だ。親に耳鼻科を受診させ、場合によっては補聴器の使用を考えたほうがいい。聴力の衰えはさまざまな問題を引き起こす。「正確なメッセージが伝わらない」「聞き間違いによるトラブルが生まれる」「本人も周囲も話す時の声が大きくなる」などだ。ほとんどの人間は声が大きくなると、本人の感情とは関係なく、声のトーンは怒りのニュアンスを帯びる。笑顔のまま大声で怒るパフォーマンスが可能な俳優の竹中直人さんとは違うのだ。耳の遠い親と声の大きな子どもの会話はしばしば親子ゲンカのようになってしまう。

となると、親子ともども会話がおっくうになり、次第にコミュニケーションの機会が減る。やがて「どうせ、わかってくれない」となり、親子関係に深い溝が生じてしまう。高齢者にとって補聴器は老いの象徴のように思えて、抵抗感が強いかもしれない。子どもは「もっと話がしたい」「わかり合いたい」という気持ちを伝えて優しく諭してみることだ。

 スムーズなコミュニケーションができないということは、人生をつまらなくしてしまう。ひと昔前と違い、補聴器の性能も飛躍的に向上しているし、装着しても目立たないものもある。高齢の親に機嫌よく生きてもらい、円滑な親子関係を紡ぐためにも補聴器の使用をポジティブに考えるべきだろう。

 また、聴力だけではなく、健康な視力もよき人生には欠かせない。視力が衰えれば、新聞や本を読むこともおっくうになる。前述したように、これも脳の老化を進行させることにつながりかねない。高齢の親が見づらそうにしていたら、白内障、緑内障の症状かもしれない。眼鏡に問題があるのかもしれない。速やかに眼科を受診させることだ。聴力にもいえることだが、視力の低下は外出時の事故などのリスクを高めることにもなる。だからといって外出を控えれば、脳の刺激の機会も減る。親の聴力、視力の低下に対して子どもが的確な対応をしなければいけない。

(和田秀樹・精神科医)
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