「誤診がん」の恐怖 12人に1人が検診で間違われる衝撃調査
がんと診断され、闘病生活を続けた数年後、突然病院から「本当はがんではありませんでした」と告げられたら何を思うか。
がんの不安が消えたことでその瞬間は安堵するかもしれない。だがその後に残るのは、無駄な手術や投薬による副作用や後遺症だけ──そんな悲惨な“誤診”の被害者が、実は少なくないという。
がん患者らの相談に乗り、病院や治療法を紹介する「がんコーディネーター」の藤野邦夫氏は、ある患者の例をこう話す。
「CTやMRIの画像を見ながら、医師が『がんの疑いがあります。様子を見て、改めて検査をしましょう』と言ったため、ショックからうつになり、それ以降、通院をやめ、会社も辞めてしまった方がいました。経済的に困窮し、家庭も崩壊してしまった。ところが、何年経ってもピンピンしているので、不思議に思って別の病院で検査をしたら、実はがんでも何でもなかったのです」
医師は疑いがあるから再検査を勧めたわけだが、それをがん告知と誤解して悲劇が起きたケースだ。
患者にとってもっとも恐ろしいことは、「がんの見落とし」であるのは言うまでもない。だが、逆に、検査や検診の段階でがんでないものを“がんの疑いアリ”としてしまう「偽陽性」判定も、患者に心理的負担を与えるのだ。
◆「がんかもしれません」の意味
では、がん検診において、偽陽性判定はどれくらい起きるのだろうか。青森県は、13年連続でがん死亡率が全国最下位で、罹患率も全国平均より高いため、がん検診受診率の向上を図っている。
県内10町村で2011年度にがん検診者を対象に実施した調査によると、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの検診を受診した計2万1316人のうち、1720人ががんでないのに「要精密検査」と判定されていた。受診者の12人に1人(約8%)が偽陽性の判定を受けていたことになる。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はこう言う。
「青森県と同様、他地域でもがん検診は罹患率の高い胃、大腸、肺、乳、子宮頸がんの5つのがんの有無を調べることが多く、検査方法も同じです。つまり、全国的にがん検診で8%程度の“間違い”が起こっていると言えるでしょう。また、主治医による初期検査もがん検診とほとんど方法は同じなので、そこでも同程度の偽陽性が発見されていると考えられます」
がん検診など初期段階の検査は、「スクリーニング」と呼ばれる多数の人々に大雑把に網をかける方法なので、この段階での偽陽性の判定は仕方がない面もある。問題はそのあとだ。
「がん検診での偽陽性は、精密検査で否定されるケースがほとんどですが、精密検査でもがんと診断されるケースが少なくない。ところが、その後に治ったと言われれば患者は“誤診”を疑いません。
何かに違和感を抱くなどして再検査をしない限り、気付かずに見過ごしてしまうケースが多いのです。だから全国の統計データでは出てこない。実はがん検診が『がんであることを見つける』という目的の他に、『良性のものまで拾い上げる』側面があることを忘れてはいけません」(同前)
現実には、偽陽性による悪影響は小さくない。必要のない手術で、健康な肉体にメスを入れ、放射線治療、抗がん剤治療などを受けて、体に無駄な負荷をかける“悲劇”も起きている。
がんの不安が消えたことでその瞬間は安堵するかもしれない。だがその後に残るのは、無駄な手術や投薬による副作用や後遺症だけ──そんな悲惨な“誤診”の被害者が、実は少なくないという。
がん患者らの相談に乗り、病院や治療法を紹介する「がんコーディネーター」の藤野邦夫氏は、ある患者の例をこう話す。
「CTやMRIの画像を見ながら、医師が『がんの疑いがあります。様子を見て、改めて検査をしましょう』と言ったため、ショックからうつになり、それ以降、通院をやめ、会社も辞めてしまった方がいました。経済的に困窮し、家庭も崩壊してしまった。ところが、何年経ってもピンピンしているので、不思議に思って別の病院で検査をしたら、実はがんでも何でもなかったのです」
医師は疑いがあるから再検査を勧めたわけだが、それをがん告知と誤解して悲劇が起きたケースだ。
患者にとってもっとも恐ろしいことは、「がんの見落とし」であるのは言うまでもない。だが、逆に、検査や検診の段階でがんでないものを“がんの疑いアリ”としてしまう「偽陽性」判定も、患者に心理的負担を与えるのだ。
◆「がんかもしれません」の意味
では、がん検診において、偽陽性判定はどれくらい起きるのだろうか。青森県は、13年連続でがん死亡率が全国最下位で、罹患率も全国平均より高いため、がん検診受診率の向上を図っている。
県内10町村で2011年度にがん検診者を対象に実施した調査によると、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの検診を受診した計2万1316人のうち、1720人ががんでないのに「要精密検査」と判定されていた。受診者の12人に1人(約8%)が偽陽性の判定を受けていたことになる。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏はこう言う。
「青森県と同様、他地域でもがん検診は罹患率の高い胃、大腸、肺、乳、子宮頸がんの5つのがんの有無を調べることが多く、検査方法も同じです。つまり、全国的にがん検診で8%程度の“間違い”が起こっていると言えるでしょう。また、主治医による初期検査もがん検診とほとんど方法は同じなので、そこでも同程度の偽陽性が発見されていると考えられます」
がん検診など初期段階の検査は、「スクリーニング」と呼ばれる多数の人々に大雑把に網をかける方法なので、この段階での偽陽性の判定は仕方がない面もある。問題はそのあとだ。
「がん検診での偽陽性は、精密検査で否定されるケースがほとんどですが、精密検査でもがんと診断されるケースが少なくない。ところが、その後に治ったと言われれば患者は“誤診”を疑いません。
何かに違和感を抱くなどして再検査をしない限り、気付かずに見過ごしてしまうケースが多いのです。だから全国の統計データでは出てこない。実はがん検診が『がんであることを見つける』という目的の他に、『良性のものまで拾い上げる』側面があることを忘れてはいけません」(同前)
現実には、偽陽性による悪影響は小さくない。必要のない手術で、健康な肉体にメスを入れ、放射線治療、抗がん剤治療などを受けて、体に無駄な負荷をかける“悲劇”も起きている。