糖尿病の専門医が警鐘「健康にいいから食べる」の落とし穴
「○○○が体にいい」など、さまざまな“健康知識”がテレビや雑誌などで頻繁に取り上げられています。私が感じているのは、「何らかの生活習慣病を抱えている人が、今までの食生活に何かプラスして摂取することで、体がよくなることは基本的にはない」ということです。
たとえば、こんな話もあります。血糖コントロールが良い状態を保っていた患者さんが、急にヘモグロビンA1cの数値が上がった。ヘモグロビンA1cは、過去1~2カ月の血糖値の変動を見る指標です。何か生活が変わることがあったのか聞いても、「特に変わったことはないんですけどね」と首をかしげる。何かを隠している様子もありません。
そこで質問の仕方を変えて、日常生活で普段食べているものなどを一つ一つ聞いていくと、「テレビでヨーグルトがいいって言っていたので、食べ始めたんです!」とおっしゃるのです。
ヨーグルトは各メーカーが研究をし、特有の乳酸菌を発見し、その研究結果を発表しています。確かに、それを見ると体によさそうだ。
しかし、健康体の人は横に置いておいて、血糖値が高い、血圧が高い、中性脂肪が高い……といった人が食べ始めると、単純に考えて摂取カロリーが増える。糖質、脂質などの摂取量も増える場合が多い。厄介なのは、「ヨーグルトがいい」という情報だけに飛びついて、それ以外に意識を回さず、気がつくと砂糖やジャムを加えて食べる人もいることです。
ヘモグロビンA1cが急に高くなった患者さんもヨーグルトは無糖でしたが、手作りのみかんジャムをのせて召し上がっていました。「みかんにはビタミンCが多くて、免疫力を高めて風邪予防にいいって聞いたので!
最初は何も入れていなかったのですが……」と。「無糖ヨーグルトにプラスみかんジャム」を毎日大きなおわんに山盛り食べていたら、明らかにカロリーオーバーです。乳酸菌効果や免疫力アップといったメリットを享受する前に、デメリットの影響を受ける。すぐにやめてもらいました。
ヨーグルトを一例に挙げましたが、これはほかの“健康にいい”と言われる食材においても同様のことが当てはまります。何かをプラスするなら、全体の摂取カロリーや糖質、脂質、タンパク質などのバランスを見て、何かを減らす。特にスナックなどの間食を減らす。これが最低限やっていただきたいことです。
■間違った食習慣が「負の遺産に」
そもそも“健康にいい”食品にすぐに飛びつく人は、栄養に関して正しい知識が乏しいようにも感じます。特定の食品を食べて病気を治せればいいですが、そういった食品はありません。
不飽和脂肪酸であるDHA、EPAは認知症予防に役立つとさまざまな研究で証明されているものの、薬と同程度の効果を得ようと思ったら、かなりの量を食べなくてはならず、食べ過ぎにつながります。だからといってサプリメントで取ればいいというものでもないでしょう。
DHA、EPAをたくさん取ると認知症が少ない――といった研究結果は、魚を日常的に取っている人を長期間にわたって調べたもの。食べるもので一朝一夕の効果を求めるのは間違っています。
せっかく「食」を変えようと思ったなら、①長く続けられる方法で②健康効果がいいという根拠があるものを。小魚をおやつ代わりに取り入れるのはお勧めしませんが、魚がメインの和定食を日常的に取り入れるのは大賛成です。ただし、塩分は控えめに。
どういう食べ方をするか。毎日続き、それがほぼ生きている間続くのですから、体に与える影響は大きいです。突然ヨーグルトを食べ始めても、目に見えて健康にはならないように、普段から規則正しい、バランスのとれた食生活を続けている人が、たまたま同僚に誘われてラーメンを深夜に食べたからといって、高血圧になったり肥満になったりしないでしょう。問題なのは、「深夜にラーメン」「寝る前のスナック」が日常化してしまうことです。
そしてもっと問題なのは、この連載で何度もお話ししていますが、“若気の至り”と思っていた間違った食習慣が、その後きちんと正しても、「負の遺産」として人生に悪影響を及ぼし続けることです。