「皮膚呼吸ができなくて具合が悪くなる」ことってあるの? 皮膚科医が医学的に説明
人間は皮膚呼吸をしているので、全身の皮膚を何かで覆ってしまったら皮膚呼吸ができなくなって危険……。そう思っている人は多いはず。しかし、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は、それに医学的根拠はないと言います。皮膚呼吸について解説します。
* * *
その昔、テレビ番組で全身を金色に塗られた芸人が「皮膚呼吸ができなくて死にそうになった」と面白おかしく訴えたことが話題となりました。
まだ若かった私は笑いながらも「皮膚呼吸ができないのは怖い」と感じたものです。
その後、皮膚科医として20年近くキャリアを積むようになり、皮膚呼吸という言葉をいっさい聞くことなく仕事をしてきました。
確かに、全身の皮膚を覆うようにべっとりと金色の塗料を塗られるのは体に悪そうです。
でも、それだけで具合が悪くなるのだろうか?
そもそも人間に皮膚呼吸はあるのだろうか?
病院で患者さんを診続け、皮膚呼吸ができなくて病気になった人なんて聞いたことがありません。
そこで皮膚呼吸について今回は調べてみました。
みなさんも学生時代に習ったとは思いますが、皮膚呼吸をする生き物は確かにいます。
ミミズやヒルなどの小型の生物は、皮膚を通して酸素と二酸化炭素を交換するだけで生命維持が可能です。
一方、大型の生物は皮膚呼吸では不十分であり、ほとんどの血液の酸素化を肺で行っています。
人間はというと、皮膚呼吸をわずかにしていると考える学説もあるようです。しかし、呼吸と言えるほどのガス交換ではなく、たまたま皮膚で酸素と二酸化炭素を交換しているだけと考えるのが自然でしょう。
つまり、先の芸人のように皮膚がべっとりと覆われてしまっても窒息死することはありません。基本的には肺呼吸が妨げられない限り人間は問題なく生きていけます。全身やけどが命に関わるのは皮膚呼吸の問題ではなく、やけどにより皮膚のバリアーが破綻し体内の水分や栄養がとめどなく漏れ出てしまうためです。
というわけで、皮膚呼吸についてはそれほど深刻に気をつけて生活していく必要はなさそうです。
では、どうして全身に金色の塗料を塗られて芸人は気分が悪くなってしまったのでしょうか? 考えられる理由は、塗料の成分が大量に皮膚から吸収されたためです。
一般的に、塗り薬などは皮膚からの吸収によって病気を治療するわけですが、広い範囲に薬を塗ると血中内の薬の成分濃度が高くなることがあります。
私たち皮膚科医がよく診るケースとして、ビタミンD3が有効成分の塗り薬を広い範囲で使い続けると血中濃度が上がり、高カルシウム血症になる危険性があります。塗り薬を使う際は、塗る範囲や量に気をつけて、全身への副作用が起きないように注意しながら処方をしています。
そもそも体に塗っても害がないものかどうか、塗った場合に血中濃度が上がるかどうか、体内に吸収されても健康被害が起きないかどうか、事前に検査されたものしか皮膚に塗ってはいけません。
SNSなどでは、化粧をする際に皮膚呼吸を気にする人もいるようです。
血液の酸素化という本来の呼吸の意味を考えると、化粧をいくらしても問題はありません。化粧のせいで呼吸が苦しくなる心配はいらないでしょう。
また、化粧の成分が血中に入って体に害を与える可能性も極めて低いと思います。化粧は一般的に顔だけにすることが多く、それくらいの面積であれば大きな問題は起きないでしょう。
まれに、皮膚から吸収された成分が子宮にたまって不妊を起こす、いわゆる「経皮毒」と呼ばれるものを説明されている人もいますが、これはデマなので気をつけてください。
では、化粧をずっとつけっぱなしで大丈夫か、というと話が変わります。
私は患者さんに、家に帰ったらなるべく化粧を落としたほうが良いと指導しています。
理由は二つです。
肌への刺激と、かぶれが起きやすくなるからです。
化粧品の開発が進みいくら肌に優しいものが増えたとはいえ、一日じゅう毛穴を塞ぐのはよくありません。ニキビや湿疹の原因となります。さらに、油性成分のファンデーションはニキビを引き起こしやすいため、ノンコメドジェニック(ニキビになりにくい)テストを済ませている商品を選ぶと良いでしょう。
また、長時間化粧品が肌についている状態がつづくと化粧品に対するかぶれが起きる可能性も増えます。なるべく早めに化粧は落としてあげるのが正解です。
以上のことから、化粧のつけっぱなしはその後の皮膚トラブルにつながるため良くないのです。
皮膚が呼吸をして酸素と二酸化炭素を交換する機能はあったとしてもごくわずかです。「皮膚呼吸ができなくて具合が悪くなる」というのは都市伝説に近いものの、皮膚そのものを守るために、皮膚に塗るものはちゃんとしたものを選ぶのが大切でしょう。
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その昔、テレビ番組で全身を金色に塗られた芸人が「皮膚呼吸ができなくて死にそうになった」と面白おかしく訴えたことが話題となりました。
まだ若かった私は笑いながらも「皮膚呼吸ができないのは怖い」と感じたものです。
その後、皮膚科医として20年近くキャリアを積むようになり、皮膚呼吸という言葉をいっさい聞くことなく仕事をしてきました。
確かに、全身の皮膚を覆うようにべっとりと金色の塗料を塗られるのは体に悪そうです。
でも、それだけで具合が悪くなるのだろうか?
そもそも人間に皮膚呼吸はあるのだろうか?
病院で患者さんを診続け、皮膚呼吸ができなくて病気になった人なんて聞いたことがありません。
そこで皮膚呼吸について今回は調べてみました。
みなさんも学生時代に習ったとは思いますが、皮膚呼吸をする生き物は確かにいます。
ミミズやヒルなどの小型の生物は、皮膚を通して酸素と二酸化炭素を交換するだけで生命維持が可能です。
一方、大型の生物は皮膚呼吸では不十分であり、ほとんどの血液の酸素化を肺で行っています。
人間はというと、皮膚呼吸をわずかにしていると考える学説もあるようです。しかし、呼吸と言えるほどのガス交換ではなく、たまたま皮膚で酸素と二酸化炭素を交換しているだけと考えるのが自然でしょう。
つまり、先の芸人のように皮膚がべっとりと覆われてしまっても窒息死することはありません。基本的には肺呼吸が妨げられない限り人間は問題なく生きていけます。全身やけどが命に関わるのは皮膚呼吸の問題ではなく、やけどにより皮膚のバリアーが破綻し体内の水分や栄養がとめどなく漏れ出てしまうためです。
というわけで、皮膚呼吸についてはそれほど深刻に気をつけて生活していく必要はなさそうです。
では、どうして全身に金色の塗料を塗られて芸人は気分が悪くなってしまったのでしょうか? 考えられる理由は、塗料の成分が大量に皮膚から吸収されたためです。
一般的に、塗り薬などは皮膚からの吸収によって病気を治療するわけですが、広い範囲に薬を塗ると血中内の薬の成分濃度が高くなることがあります。
私たち皮膚科医がよく診るケースとして、ビタミンD3が有効成分の塗り薬を広い範囲で使い続けると血中濃度が上がり、高カルシウム血症になる危険性があります。塗り薬を使う際は、塗る範囲や量に気をつけて、全身への副作用が起きないように注意しながら処方をしています。
そもそも体に塗っても害がないものかどうか、塗った場合に血中濃度が上がるかどうか、体内に吸収されても健康被害が起きないかどうか、事前に検査されたものしか皮膚に塗ってはいけません。
SNSなどでは、化粧をする際に皮膚呼吸を気にする人もいるようです。
血液の酸素化という本来の呼吸の意味を考えると、化粧をいくらしても問題はありません。化粧のせいで呼吸が苦しくなる心配はいらないでしょう。
また、化粧の成分が血中に入って体に害を与える可能性も極めて低いと思います。化粧は一般的に顔だけにすることが多く、それくらいの面積であれば大きな問題は起きないでしょう。
まれに、皮膚から吸収された成分が子宮にたまって不妊を起こす、いわゆる「経皮毒」と呼ばれるものを説明されている人もいますが、これはデマなので気をつけてください。
では、化粧をずっとつけっぱなしで大丈夫か、というと話が変わります。
私は患者さんに、家に帰ったらなるべく化粧を落としたほうが良いと指導しています。
理由は二つです。
肌への刺激と、かぶれが起きやすくなるからです。
化粧品の開発が進みいくら肌に優しいものが増えたとはいえ、一日じゅう毛穴を塞ぐのはよくありません。ニキビや湿疹の原因となります。さらに、油性成分のファンデーションはニキビを引き起こしやすいため、ノンコメドジェニック(ニキビになりにくい)テストを済ませている商品を選ぶと良いでしょう。
また、長時間化粧品が肌についている状態がつづくと化粧品に対するかぶれが起きる可能性も増えます。なるべく早めに化粧は落としてあげるのが正解です。
以上のことから、化粧のつけっぱなしはその後の皮膚トラブルにつながるため良くないのです。
皮膚が呼吸をして酸素と二酸化炭素を交換する機能はあったとしてもごくわずかです。「皮膚呼吸ができなくて具合が悪くなる」というのは都市伝説に近いものの、皮膚そのものを守るために、皮膚に塗るものはちゃんとしたものを選ぶのが大切でしょう。
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