血糖値対策の意外な一品、「ランチにおにぎり」はいかが? 糖質の吸収を抑え、インスリンの分泌を促す「食べ合わせ」術
お昼に冷めたおにぎりで、でんぷんを分解しにくく
血糖値は血液中に含まれるブドウ糖の量のこと。ブドウ糖が増えた状態が長く続くと糖尿病という病気になります。血糖値を上げないためには、糖質を含む食材をあまり摂らないのが効果的ですが、できれば我慢したくないですよね。そこで、ここで提案するのは同じだけ食べても体内への糖の供給を減らす、つまり、腸での吸収を減らす食べ方です。
糖質は、唾液や小腸の酵素によって、小さくバラバラに分解されてはじめて腸から吸収されます。逆にいうと、それらの酵素に分解されなければ、糖質は大きすぎて腸で吸収されないことになります。そのためにおすすめなのは、ずばり、冷やご飯です。糖質制限ダイエットが注目されたこともあり、白米のご飯を一切食べないという人もいるようですが、意外にも、冷めたご飯は血糖値対策の強い味方になります。
白米にはブドウ糖が数珠つなぎになったでんぷんが多く含まれていて、温かいご飯の場合は、でんぷんが酵素で消化されてブドウ糖として腸から吸収されます。一方、冷めたご飯に含まれるでんぷんは「レジスタントスターチ」と呼ばれ、酵素で分解されないよう「レジスタント(抵抗)」する複雑な形になったでんぷんへと変化しています。そのため、小腸で分解されずにそのまま大腸へ移動しますので、吸収されることはありません。
血糖値を下げるホルモンを短鎖脂肪酸で増やす
大腸へ移動したレジスタントスターチにはさらにうれしいことが。腸内細菌が持っている酵素が、レジスタントスターチから短鎖脂肪酸という物質を作ってくれるのです。
短鎖脂肪酸は、腸の細胞を刺激することで、インクレチンというホルモンを増やす力があります。インクレチンは血糖値を下げるインスリンの分泌を促すので、レジスタントスターチは、糖として吸収されないばかりか、血糖値を下げるホルモンを増やすことにもつながり、血糖値対策に効果的な食べ物といえます。
血糖値対策の食べ合わせ方(1)
また、腸内細菌の酵素は、海藻などの水溶性食物繊維からも短鎖脂肪酸を作ってくれるので、ただの冷やご飯ではなく、おにぎりにしてのりを巻くと効果倍増です! レジスタントスターチはもち麦にも多く含まれていますので、冷めたのはちょっと……という方は、白米の代わりにもち麦を使うのもおすすめです。
さらに効果を高めるコツもあります。それは冷めたおにぎりを「ランチに食べる」こと。じつは、お昼にこれらの食材を食べると、昼食直後だけでなく、がっつり食べがちな夕飯時の血糖値も上げにくくしてくれます。このように、食べたものが次の食事の血糖値にも影響することを「セカンドミール効果」といいますが、友達との外食など、いつもよりたくさん食べそうなときは、ひとつ前の食事にこれらの食材を取り入れたらいかがでしょうか。
「かつお出汁+舞茸」のみそ汁で、二重の効果
冷やご飯は酵素に分解されにくくするという守りの姿勢ですが、より積極的に酵素の邪魔をして、血糖値を上げにくくする食材もあります。それは舞茸(まいたけ)。
糖質はグルコシダーゼなどの酵素によって小さく分解されなければ腸で吸収されず、血糖値は上昇しにくいのですが、きのこ類にはその酵素を働きにくくさせる成分が含まれているので、糖質と一緒にきのこ類を食べると効果的です。
きのこのなかでも舞茸をおすすめするのは、舞茸の食物繊維が熱で壊れにくいためです。食物繊維は短鎖脂肪酸を増やしてくれるので、加熱調理する際は舞茸がおすすめです。
さらに、舞茸などのきのこ類の「よき相棒」として働いてくれるのが、かつお出汁(だし)です。血糖値は下がりすぎてしまうと、低血糖と呼ばれるエネルギー不足の状態になってしまうため、適当なところで「DPP-4」という酵素がインクレチンを分解して働きをストップさせます。
血糖値が高くない人にとっては、エネルギー不足にならないようにする大事な「善玉酵素」といえます。ところが、血糖値が高い人はインクレチンを少しでも「長持ち」させて血糖値を下げる必要があるため、インクレチンを分解してしまうこの酵素は「悪玉酵素」ということになります。
血糖値対策の食べ合わせ方(2)
実際に、この酵素を阻害する薬が糖尿病の治療薬として使われていますが、じつはかつお出汁や納豆などにも、この酵素の働きを抑える成分が入っています(もちろん、薬のような効果は期待しないでください)。ですので、ご飯などの糖質を食べるときは、かつお出汁のみそ汁に舞茸を入れると「悪玉酵素」の働きを悪くさせる成分が二重に入っているので、おすすめです! また、きのこ類以外にも、桑葉やサラシアもその酵素の働きを邪魔するので、桑葉やサラシアを含むお茶を食前や食事中に飲むことも効果的です。
◇ 國澤 純(くにさわ・じゅん)
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 ワクチン・アジュバント研究センター長 1996年、大阪大学薬学部卒業。2001年、薬学博士(大阪大学)。米国カリフォルニア大学バークレー校への留学後、2004年、東京大学医科学研究所助手。同研究所助教、講師、准教授を経て、2013年より医薬基盤・健康・栄養研究所プロジェクトリーダー。2019年より現職。現在、同研究所の腸内環境システムプロジェクトリーダーを兼任。