膝OAへの関節内ステロイド注射は良い? 悪い?
変形性膝関節症(膝OA)の治療のためのステロイドの関節内注射は、適切に使用する限り安全上の懸念はないとする報告が、「Arthritis and Rheumatology」に11月22日掲載された。米ボストン大学のDavid Felson氏らの研究によるもの。
膝OAに対するステロイドの関節内注射は、短期的な抗炎症効果に優れているものの種々の副作用があることから、高い評価を得た治療法とは言い難い。しかし、今回報告された研究によると、もう一つの膝OAに対する関節内注射薬であるヒアルロン酸に比べてステロイドが、膝の状態の悪化を加速させるようには見えないという。
この研究は、膝OAに関する2件の大規模コホート研究のデータを統合して行われた。研究参加者は合計791人で、そのうち629人がステロイド、162人がヒアルロン酸の関節内注射を用いた治療を受けていた。約7年間の追跡で、重症度(ケルグレン-ローレンスのグレード分類)や関節裂隙の狭小化などの評価指標に有意な群間差は認められなかった。
この結果についてFelson氏は、「本研究はステロイド注射の頻度が比較的低い患者のみを対象としていた。今後、長期的な予後の評価が明らかになるまでは、ステロイドの関節内注射を定期的に繰り返すことに問題はないと判断すべきでない。われわれが知り得たことは、ステロイドの関節内注射が実際に問題を引き起こす確率は、それほど高いものではないということだ」とまとめている。その上で、「例えば3カ月ごとに数年間、関節内注射を継続したとしても問題はないと考えるが、確証はない」としている。
本研究には関与していない、米マウントサイナイ医科大学のMelissa Leber氏は、「ステロイドは、骨が互いに擦れ合うのを防ぐ結合組織である軟骨にとって有害であることが知られている。使いすぎると軟骨にダメージを及ぼしてしまう懸念がある」と解説。2019年には、ステロイドを頻回に注射されていた患者は、一度も注射されたことのない人と比較して、膝OAの進行リスクが3倍高いと報告されているとのことだ。
ステロイドとヒアルロン酸は、関節内で異なる作用を発揮する。前者は抗炎症作用があり、痛みを和らげるのに役立ち、後者は関節に潤いを与える。また後者のヒアルロン酸に関しては、ステロイドと異なり膝OAを進行させるリスクは報告されていない。
ただ、今回報告された研究では前述のように膝OAの進行に有意差は生じなかった。さらに、人工膝関節全置換を要するリスクに関しては、ヒアルロン酸群に比べてステロイド群の方が、有意ではないながら低値だった〔ハザード比0.75(95%信頼区間0.51~1.09)〕。Felson氏は、「膝OA患者へのメッセージは単純明快であり、『過度に怖がらない』ということだ。ステロイドの単回注射はもちろん、数回繰り返したとしても、悪いことは何も起きないだろう。恐れるあまり、効果的な治療を避けるべきではない」と語る。
Leber氏もまた、「ステロイドが全ての患者にとって有害という意味ではなく、ケースバイケースだ。病期が進行していて症状が重い人の痛みのコントロールにステロイドを用いることは、理に適っておりそれほど危険ではない」とする。ただし、「痛みは強いが軟骨のダメージが少ない若年者には、ステロイドを控えめに使用する。全く使わないわけではないが、単回投与に限定している。繰り返しは使いたくない」とのことだ。
一方、Leber氏同様、本研究には関与していない米レノックス・ヒル病院のJeffrey Schildhorn氏は、「どのような状態の患者であっても、ステロイドの関節内注射を頻繁に受けることを期待すべきでないだろう」と述べる。「例えば、1月にステロイドを注射した患者が4月、8月と受診するたびに『またステロイドを打ってほしい』と求めたとしても、その要求には応えられない。そんな頻繁に注射しなければならないということは、その患者の膝OAにステロイド関節内注射は適さない治療である可能性が高い」と同氏は説明している。(HealthDay News 2021年12月21日)