中高年のための認知症講座 認知症の非薬物療法は、昔の思い出を語り合う「回想法」が有効 認知症でない人は予防のために、魚介類・きのこ・大豆・コーヒーを多く摂取
認知症の治療法には、薬物療法と非薬物療法がある。とくに非薬物療法は非常に大切で、家族や介護者が困ることの多い、怒りっぽくなったり徘徊(はいかい)したりするといった「行動心理症状」(BPSD)を緩和することが可能だ。
非薬物療法でおもに実施されるのが、心理社会的アプローチだ。「認知刺激療法」「回想法」「音楽療法」「運動療法」などさまざまあり、医療機関やデイサービス等の高齢者施設で行われる。
この中で、昔の写真や音楽など、その人にとって懐かしいものを見たり触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う「回想法」は、良き聞き手が高齢者の過去の語りを傾聴する方法だ。上智大学総合人間科学部心理学科の松田修教授は、タブレットやスマホなど、ICTを活用することもおすすめだという。
実家にある写真アルバムを親と一緒に見て、昔話に話を弾ませるのは基本だ。その上で、松田教授も使っているのが、ネットで無料閲覧できる、NHKの『回想法ライブラリー』や、明治安田生命グループ「MI介護の広場」の『昭和回想メモリーズ(懐かしの動画)』だ。
これらの動画を一緒に見たり、タブレットなどが使える場合はブックマークなどをして、一人でも見られるようにするといいだろう。「ご実家を見たい、という方には、グーグルマップを使うこともおすすめです。絵(写真)は言葉より具体的です」
遠方に住んでいてなかなか親に会えない場合でも、ICTを使ったサービスを使う手もある。どういう写真、あるいはどういう音楽だとその人が笑顔になるかをAIが記録し、その人用の回想法アルバムを作る『Aikomiケア』などもおすすめだ。こうしたサービスは今後増えるだろう。
気をつけたいこともある。「親御さんと〝答え合わせ〟をしないでください。その方のリアリティーを尊重することが大事で、つじつまが合わなくてもご本人の中で合っていればいいのです。自伝的記憶は書き換えられるもので、ご自分にとってその意味は随時変わります。それを尊重しながら聞いてあげてください」
最後に、食事と認知症の関係も大切なので説明したい。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)、もの忘れセンターの佐治直樹副センター長らは、日本食の食事パターンと腸内細菌・認知症との関連を発見したことを以前お伝えした。その研究成果は、世界的な科学雑誌『Nutrition』に、2021年10月29日にオンライン版で公開された。
簡単に説明すると、認知症でない人は認知症の人より日本食スコア(日本食らしい食事内容)が高く、魚介類・きのこ・大豆・コーヒーを多く摂取していた。また、これらの食品摂取が多いと、腸内細菌の代謝産物濃度が低い傾向にあるという。
腸内細菌が代謝により産生する物質は、よいものもあれば悪いものもある。今回の研究では、これらの食品摂取が多いと、アンモニアなどの腐敗産物が低い傾向にあったということだ。
また、「地中海食、DASH食(高血圧予防食)、それらを組み合わせたMIND食(アルツハイマー病予防食)という健康に良い食事を取っている方は、血液脳関門(血液から脳組織への物質の移行を制限する仕組み)も保たれます」(佐治副センター長)など、有益な研究データはどんどん集積してきている。
このように認知症の予防、進行抑制は、どの段階でもできることがある。自分や親のために今できることを知り、お互いのために実行してほしい。
=おわり