「10万円以下」でも医療費控除が受けられる!?
「どうせ10万円を超えないから」と医療費控除をあきらめていない?
医療費控除を申告して税金の還付を受けるには、1年間にかかった医療費控除の明細書を作り、確定申告書に記入する必要があります。この医療費の明細書を作るのがけっこう骨の折れるもの。
▼医療費の明細書© All About, Inc. 医療費控除明細書(出典:国税庁より)
医療費がかかるたび、こまめに入力しておけばいいのですが、領収書・レシートを1年分溜めるだけ溜めて一気に集計するとなるとだいぶ面倒に思えます。「10万円ちょっと超える程度だとわざわざ申告する意味があるのか」なんて考えると、なおさらモチベーションが上がりませんよね。
実は医療費控除、10万円を超えなくても対象となる場合があるのです。
「総所得金額等の5%」か「10万円」のどちらか低いほうが基準になる
10万円を超えなくても対象となる場合があるのは、医療費控除には「10万円」以外の基準があるからです。それは、総所得金額等の5%というもの。総所得金額等という言い方は少し専門的なのですが、会社員やパート・アルバイトといった給与所得だけの人であれば、年収ではなく給与所得控除後の金額を指します。
ここに年収、つまり給与の額面が800万円の人、480万円の人、240万円の人がいるとします。給与所得控除後の金額はそれぞれ以下のとおりです。
800万円⇒610万円
480万円⇒340万円
240万円⇒160万円
610万円、340万円、160万円がそれぞれ課税標準となりますから、その5%を計算すると、以下のようになります。
610万円×5%=30万5000円(>10万円)
340万円×5%=17万円(>10万円)
160万円×5%=8万円(<10万円)
医療費控除の適用基準は、この「総所得金額等の5%」と「10万円」のいずれか低い金額を超えた場合となります。
したがって、給与所得控除後の金額が610万円や340万円といった高・中所得層は、医療費控除が適用できる基準は10万円超です。しかし、160万円といった低所得者は総所得金額等の5%が適用され、10万円を超えなくても医療費控除の申告ができるのです。
年収297万2000円未満だと、10万円以下でも医療費控除が可能
課税標準の金額が200万円の場合、200万円の5%=10万円となります。つまり、課税標準の金額が200万円未満だと「課税標準の5%」のほうが適用されることになります。会社員やパート・アルバイトなど給与所得のみの人で、年収ベースで297万2000円未満だと、給与所得控除後の金額が199万7600円以下となります。そのため、10万円を超えていなくても医療費控除を受けることができるのです。
「体調を崩して入院」「出産準備で退職」「結婚を機に退職」「年の中途から再就職」など、何らかの事由で通常より年収が下がっている場合、「どうせ10万円を超えないから」とあきらめるのは早急かもしれません。少し手間はかかりますが、医療費の領収書をとりまとめて、医療費控除の申告を考えてみましょう。
また、2021年分(2022年3月期確定申告)から確定申告とマイナポータルが連携することにより、医療費控除の手続きがさらに便利になります。具体的には、保険診療分の医療費通知情報について2021年9月から2021年12月までの情報が、2022年2月よりマイナポータルから取得が可能になります。
2022年以降、年間を通した医療費通知情報の取得が可能になるので、興味のある人は国税庁YouTubeチャンネル等で調べてみるのもいいでしょう。
10万円以下でも控除の対象となる新型医療費控除
また、2017年1月1日から2021年12月31日(※)まで10万円以下でも控除が受けられるセルフメディケーション税制といわれる新型医療費控除(正式名称:特定一般用医薬品等を購入した場合の医療費控除の特例)があります。(※)特定一般用医薬品等の見直しを行うなどの措置をした上で、2022年~2026年まで延長することが決定しています。
この制度とは健康の保持増進及び疾病の予防へ一定の取り組みを行っている方で、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の特定一般用医薬品等を購入した場合に、控除を受けられるというものです。
現行の医療費控除が自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合ですから、ポイントとなるのは次の2箇所です。
・健康の保持増進及び疾病の予防へ一定の取り組みを行っている方
・何が特定一般用医薬品等になるのか
健康の保持増進及び疾病の予防へ一定の取り組みを行っている人が該当
健康の保持増進及び疾病の予防への取り組みを行っている方とは、具体的には以下のような人を指します。・定期健康診断……いわゆる会社での健康診断を受けている人
・特定健康診査……いわゆるメタボ健診を受けている人
・人間ドックを受けている人
・市区町村が健康増進事業として行うがん検診
・インフルエンザなどの予防接種を受けた人
健康の保持増進及び疾病の予防への取り組みを行っている人の確認書類として、健康診断やがん検診等の結果通知表や領収書、予防接種の場合は予防接種済証や領収書などが申告書作成時には必要とされています。
しかし、上記の「一定の取り組み」を証する書類ですが、2021年分の確定申告から添付書類としては不要となります。ただし「一定の取り組み」の証明書類は、5年間の保管が義務付けられていますので、「捨ててOK」というわけではありません。
なお、健康の保持増進及び疾病の予防への取り組みを行っているかどうかが重要なので結果通知表は、健診結果部分を黒塗りなどした写しでも差し支えないとされています。普段から保管場所を確保しておくといいでしょう。
特定一般用医薬品等ってなに?
そこで気になるのが、特定一般用医薬品等購入費に該当する医薬品とは何か?ということとなります。医薬品とは医師の処方せんに基づき入手できる医療用医薬品と、薬局やドラッグストアで購入できる市販薬があります。この医療用医薬品のうち市販薬に転用(スイッチ)された一定の医薬品を特定一般用医薬品等(以下、対象医薬品という)として取り扱っています。
ただし、薬局やドラッグストアに行ってみても実際にどれが対象医薬品であるかはなかなか判別がむずかしいものです。
そこで、販売店では、市販薬のうち対象医薬品に該当するものについてはパッケージにマークを付す(画像参照)などがなされています。
詳しくは、厚生労働省ホームページ内にて対象品目一覧が随時更新されているので、そちらを参考にするといいでしょう。
10万円いかなくても適用可能
セルフメディケーション税制は、1万2000円を超えれば8万8000円を限度として適用を受けられるのも特徴です。対象医薬品の合計額が10万円までとおさえておくといいでしょう。たとえば、課税所得400万円の人の対象医薬品の購入額が2万円だった場合、1万2000円を控除した8000円が控除の対象になるといったイメージ図が厚生労働省から公開されています。
まずはセルフメディケーション税制の明細書を入手
この制度の運用は2017年1月1日から2021年12月31日(※)までとされています。医療費控除の特例ですので、確定申告において申告手続きを行うこととなり、2021年分の対象医薬品の合計額について2022年3月期の確定申告において対応するということになっています。(※)特定一般用医薬品等の見直しを行うなどの措置をした上で、2022年~2026年まで延長することが決定しています。
図が、セルフメディケーション税制の明細書となります。税務署にもらいに行くという方法もありますが、国税庁ホームページ等からダウンロードもできるのでそちらを活用するといいでしょう。
記載方法はどのように?
記入欄は薬局などの支払先の名称、医薬品の名称、支払った金額、生命保険や社会保険などで補てんされる金額となっています。よくある相談事例は以下のようなものです。■セルフメディケーション対象商品であるかどうかの判断は?
記載例のように★印を付す、対象商品のみの合計額を分けて記載するなど、レシートの記載内容の中でセルフメディケーション対象商品であるかどうかの記載をしておくよう厚生労働省から事務連絡が出ています。手書きの領収書でもかまわないとされているので、購入段階できちんと確認しておくことが重要です。
■複数商品をまとめて記載してもかまわないのか
記載例にあるようにひとつの薬局で複数の薬品を購入したら、複数行にわけて記載してもいいことになっています。また、領収書に★印が付されている場合には、レシートに予め小計のメモ書き等をしておくと便利でしょう。
■通信販売等で医薬品を購入した場合、自宅のプリンタで出力した領収書等は証明書類になるのか
自宅のプリンタ等で出力した領収書等は証明書類の原本として認められていません。したがって、確定申告に添付するためには通信販売等の会社に対し、改めて証明書類の発行を依頼することとなります。
このように「10万円いかないから医療費控除はムリかも」と最初からあきらめず、「従来の医療費控除」か「新型医療費控除(セルフメディケーション税制)」か、どちらの制度で確定申告するかは選択制となりますが、所得の状況やセルフメディケーション税制の活用などで医療費控除の申告が可能かどうか検討し直してみてください。
文:田中 卓也(マネーガイド)