あなたの健康はお金で買えますか・・・? アレルギーになる原因は「皮膚」にある?最新研究が明かす真実
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アレルギーになる原因は「皮膚」にある?最新研究が明かす真実

食物アレルギーに悩まされている人は多い。

しかしなぜ人はアレルギーになってしまうのか疑問に思ったことはないだろうか。

ちまたにはアレルギーの原因に関する様々な俗説があるが、科学的根拠の全くないものもたくさんある。アレルギーに関しては間違った情報により、間違った治療法を選択し、苦しんでいる患者さんも多い。

近年、アレルギーの研究が進み、徐々に発症の仕組みが分かってきた。

『HEALTH RULES(ヘルス・ルールズ) 病気のリスクを劇的に下げる健康習慣』を上梓した、医師でUCLA准教授の津川友介氏が、最新の研究をもとに解説する。

免疫が間違ってしまう

 新型コロナウイルスの影響もあり、「免疫」という言葉をよく聞くようになった。

 免疫とは、人間の身体を異物から守るための機能のことである。免疫は、細菌やウイルスに対して感染を予防したり、感染してしまったときに体内からこれらを排除するという有益な役割を持っている。

 しかし、残念なことに免疫は万能ではなく、必ずしも有害な異物にのみ反応するわけではない。私たちの身体にとって無害であるはずの食物や花粉などの異物が体内に侵入したときに、免疫機能が過剰に反応してしまい、その結果として、様々な症状を発症してしまうことがある。この現象を「アレルギー」と呼ぶ。

 それでは、なぜ人はアレルギーを発症してしまうのだろうか。

乳幼児期にピーナッツを

食べるとアレルギーになる?

 食物アレルギーは乳幼児に多いことから、これまでは消化機能が未熟なうちに食べることでアレルギーになってしまうと考えられていた。

 このような考えから、母乳や胎盤を介したアレルゲンへの曝露を防ぐ目的で、米国小児科学会は2000年に「妊娠・授乳期の母親は食物アレルギーの原因となりやすい卵やピーナッツなどの食物の摂取を制限し、乳幼児に対しては乳製品、卵、ナッツ類、魚の摂取開始時期をできるだけ遅らせるべきである」という声明を出した。

 これを受けて、日本でも予防的にこれらの食物の摂取開始を遅らせる指導が普及した。

 しかし、このような指導にもかかわらず、ピーナッツアレルギーを持つ子どもの数は減らなかった。それどころか、その後も年々増え続けたのである。

アレルギーを引き起こす真の原因

 2003年、世界的に権威のある医学雑誌である『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に驚くべき研究結果[*3]が報告された。1万3971人のイギリス在住の就学前の子どものデータを解析した結果、ピーナッツオイルを含む保湿剤を肌に塗布していた乳幼児のピーナッツアレルギーになる確率が、そうでない乳幼児より高かったのである。

 一方で、妊娠・授乳期の母親の食事内容は、子どものピーナッツアレルギーのリスクと関係がなかった。食べ物ではなく、皮膚への曝露が食物アレルギーの原因になる可能性を示唆しているということで、驚きをもって受け入れられた。

 ピーナッツアレルギーのある子どもの91%がピーナッツオイルを含む保湿剤を使用していたのに対して、ピーナッツアレルギーのない子どもの中でそのような保湿剤を使用していたのは53~59%にとどまった。

 一方で、ピーナッツオイルを含まない保湿剤の使用率に関しては、ピーナッツアレルギーのある子どもとない子どもで差はなかった。

 保湿剤は、乳児湿疹などで赤ちゃんの肌が荒れているときに、それを改善させる目的で使われていた。そこから、肌荒れなどでダメージがある皮膚から異物が侵入することで、食物アレルギーが引き起こされるのではないかという考え方が生まれたのだ。

気をつけるべき「経皮感作」とは?

 皮膚が正常な場合には、肌に異物が触れてもバリアがきちんと機能しているので問題ない。

 一方で、皮膚がダメージを受け、バリアが破れた状態で異物にさらされると、その異物が肌から体内に侵入してしまう[*4]。その異物にランゲルハンス細胞などの免疫担当細胞が反応し、アレルギーを起こす状態になる(これを感作と呼ぶ)。その結果、その異物に対する食物アレルギーを発症すると現在では考えられている。このように皮膚から異物が侵入することでアレルギーになってしまうことを特に「経皮感作」と呼ぶ。

アトピーになる原因

 また、経皮感作することで引き起こされるのは、食物アレルギーだけではない。アトピー性皮膚炎も、経皮感作が発症に関わっていると考えられるようになっている。皮膚を健康に保ち、バリア機能を維持することで、アトピー性皮膚炎の発症を抑えることができるというエビデンスが出てきているのである。

 例えば、堀向健太氏らが行った研究[*5]では、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高い新生児118人を、1日1回全身に保湿剤(商品名2e[ドゥーエ])を塗布するグループと、乾燥した部分のみにワセリンを塗るグループに無作為に割り付けた実験を実施した。その結果、保湿剤の全身塗布によってアトピー性皮膚炎の発症率が低下することが示された(図4)。

 この研究の追試ともいえる研究[*6]が、2020年に発表されたBEEP(Barrier Enhancement for Eczema Prevention)研究と呼ばれるものである。英国で行われたハイリスクな新生児1394人を対象としたこの研究の結果、新生児期に保湿剤を積極的に利用したグループと、標準的なスキンケアをしたグループで、2歳時点でのアトピー性皮膚炎の発症率に統計的に有意な差を認めなかった。

 しかしこの研究ではいくつかの限界点も指摘されている[*7]。前述の日本の研究では保湿成分が含まれる保湿剤が使われたのに対して、BEEP研究ではエモリエントと呼ばれる保湿成分の含まれない保湿剤が使われたという違いがあった。

 その他にも、標準的なスキンケアをしたグループもそれなりにきちんと保湿していたことで、差が見られなくなったなどの可能性も考えられている。保湿がアトピー性皮膚炎の予防に本当に有効かに関しては今後の研究が待たれるところであるが、子どもの皮膚をしっかり保湿することに対するデメリットはないので、ぜひしっかり保湿してあげてほしいと筆者は考えている。

 また、このような経皮感作は子どもだけでなく、大人でも起こる可能性がある。

 日本では、化粧品会社「悠香」(福岡県)が製造販売する「茶のしずく石鹸」を使用していた人が、小麦に対する食物アレルギーを発症した事件が有名である。合計2111人が食物アレルギーを発症し、25%がアナフィラキシーショック、43%が呼吸困難を経験するなど重篤例も多く含まれていた。[*8]

 この石鹸には、加水分解された小麦のたんぱく質である「加水分解コムギ」(グルパール19S)が含まれており、繰り返し石鹸を使うことで経皮感作を引き起こし、結果として小麦に対する食物アレルギーになってしまったと考えられている。

 アレルギー予防の観点からみると、皮膚に湿疹や傷があるなどバリア機能が失われている状態で異物に触れることは、極力避けたほうが良いと言える。

 またバリア機能を保つためにも、日ごろから保湿などのケアはしっかりしてほしい。また皮膚に異常が場合はインターネットや本で自分で調べるのではなく、ぜひ皮膚科の先生に相談してほしい。

参考文献

*1 Motosue MS et al. National trends in emergency department visits and hospitalizations for food-induced anaphylaxis in US children. Pediatr Allergy Immunol. 2018;29(5):538-544.

*2 Lieberman J et al. Increased incidence and prevalence of peanut allergy in children and adolescents in the United States. Annals of Allergy, Asthma & Immunology. 2018;121(5):S13.

*3 Lack G et al. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. N Engl J Med. 2003;348(11):977-985.

*4 Yoshida K et al. Distinct behavior of human Langerhans cells and inflammatory dendritic epidermal cells at tight junctions in patients with atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):856-864.

*5 Horimukai K et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol. 2014;134(4):824-830. e6.

*6 Chalmers JR et al. Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial. Lancet. 2020; 395(10228):962-972.

*7 小児アレルギー科医の備忘録[https://pediatric-allergy.com/2020/03/09/beep/]を参照。(2020年7月20日アクセス)

*8 Yagami A et al. Outbreak of immediate-type hydrolyzed wheat protein allergy due to a facial soap in Japan. J Allergy Clin Immunol. 2017;140(3):879-881. e7.著者略歴

津川友介(つがわ・ゆうすけ)

医師・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授。

東北大学医学部を卒業後、ハーバード大学で修士号、博士号を取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。

2016年に発表した女性医師の治療成績に関する論文が2017年「世界で影響を与えた科学論文」の3位に選ばれる。

著書に10万部超のベストセラー『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』、『世界一わかりやすい 「医療政策」の教科書』、共著に「週刊ダイヤモンド」の「経済学者・経営学者・エコノミスト111人が選んだ2017年 ベスト経済書」で第1位を受賞した『「原因と結果」の経済学』、『最高のがん治療』などがある。

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