「家族仲が悪いから、遺産は寄付しよう」は危険!? 寄付トラブルに注意!
大切な人を亡くした後、残された家族には膨大な量の手続が待っています。しかし手続を放置すると、過料(金銭を徴収する制裁)が生じるケースもあり、要注意です。
また国税庁によれば、2019年7月~2020年6月において、税務調査を受けた家庭の85.3%が修正となり、1件当たりの平均追徴課税(申告ミス等により追加で課税される税金)は、なんと641万円でした。税務署は「不慣れだったため、計算を間違えてしまった」という人でも容赦しません。
本連載では「身近な人が亡くなった後の全手続」を、実務の流れ・必要書類・税務面での注意点など含め、あますところなく解説します。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。この度『ぶっちゃけ相続「手続大全」 相続専門YouTuber税理士が「亡くなった後の全手続」をとことん詳しく教えます!』を出版し、葬儀、年金、保険、名義変更、不動産、遺言書、認知症対策と、あらゆる観点から、相続手続のカンドコロを伝えています。刊行を記念して、本書の一部を特別に公開します。
遺産の寄付で思わぬトラブル! 注意点は?
近年「遺産の一部をNPO法人や自分が育った学校に寄付したい」という相談が増えています。日本ファンドレイジング協会の調査によると、40歳以上の日本人の約21%が、人生の集大成として、遺産の一部を寄付してもいいと考えているそうです。
一方で、実際に遺産の寄付を実行する方は1%に満たない状況であり、想いと行動に大きな隔たりが生じています。その原因は一体何かというと、①支援したい団体が明確でない、②手続がわからない、③残された家族の理解が得られない、などが挙げられます。
①と③の問題については、なかなか一筋縄ではいかない問題ですが、②の問題で寄付を諦めてしまうのは大変もったいないことです。ここでは手続の全体像を解説します。
遺産の寄付方法
大きく2つの方法があります。それは①遺言書による寄付と、②相続人による寄付です。
①「私が他界したら、この財産を○○へ寄付します」と遺言書に記載しておく方法を、遺言書による寄付といい、法律用語で遺贈といいます。
②「私が他界したら、この財産を○○へ寄付してくれ」と、生前中に親族等に伝え、相続発生後に、相続人が故人の気持ちに従って寄付をする方法を、相続人による寄付といいます。
一見似たような方法なのですが、実はこの2つ、法律的にも税金的にも非常に大きな違いがあります。
寄付の法律的な位置づけ
遺言による寄付は、法律上、故人の財産が、直接、その寄付する団体に移転すると考えます。一方で、相続人による寄付の場合は、故人の財産を、一度、相続人が相続し、それを相続人の意思によって寄付したと考えます。
そのため、相続人による寄付の場合は、いくら故人が「寄付してほしい」と意思表示をしていたとしても、相続人の中に、寄付することに反対する者が現れた場合は、寄付を実現できなくなるかもしれません。
相続人が寄付に反対する?
実際に、寄付に反対する相続人が多いのは事実です。寄付をされると、自分たちの取り分が少なくなるので、そういった感情が起こりやすいのかもしれません。
そのため、親族が生前中に「あなたが亡くなったら遺産は寄付するわね」と言っていても、亡くなった後に「やっぱり遺産は私がもらうわ!」と約束を反故にされることもありえます。
では、遺言書による寄付であれば、相続人たちの反対を押し切り、確実に寄付することはできるのでしょうか? 答えは、半分正解で、半分不正解です。
遺言書は、相続人全員が同意をすれば、その内容を変更することは可能ですが、遺言書で寄付をする旨が定められている場合には、その寄付を受ける団体の了解がなければ、寄付する意思をなかったことにはできません。
遺留分と寄付の問題
ここで、注意しなければいけないのは、遺留分の問題です。この権利があるため、例えば「全財産を○○団体に寄付する」といった遺言があったとしても、相続人は、その団体に対して「遺留分を返せ!」と請求することが可能なのです。
また遺留分を侵害していなかったとしても、自分の取り分が減ることに憤慨し、その団体に対して、「父をそそのかして、遺言書を無理やり書かせただろ!」と詰め寄るケースも実際にあります。そして、「この遺言書は父の本当の意思ではないため無効」と訴えを起こすのです。
「揉めてほしくないから寄付します」は間違い?
よく「家族が揉めるくらいなら、遺産はすべて寄付します」という人がいますが、実際には、寄付先に対して訴訟を起こすこともできます。相続トラブルを避ける目的で、寄付という手法が有効なわけではないのです。
こういった事態を防ぐためにも、遺言による寄付をする場合には、公正証書遺言によって、公証人からの意思確認を積極的に受けましょう。その点、相続人が兄弟姉妹となる場合(配偶者や子ども、父母がいない場合)には、遺留分を気にする必要はありませんので、ご自身の好きな団体への寄付を検討しましょう。
いずれにしても遺言書による寄付の場合には、あらかじめ家族の理解を得ておくのが無難です。
(本原稿は、橘慶太著『ぶっちゃけ相続「手続大全」ーー相続専門YouTuber税理士が「亡くなった後の全手続」をとことん詳しく教えます!』を編集・抜粋したものです)