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1日250人以上が死亡…コロナ禍でも増加したアメリカ薬物問題の現状【薬物依存症の専門家が解説】


薬物乱用とは……麻薬・覚醒剤だけでなく医薬品への依存症も深刻

薬物乱用とは、薬を正しく使わないことで、大きく次の2種類に分けられます。

・法律で使うことを許されていない薬を不正に使うこと

・本来は病気の治療に使用する医薬品を医療目的以外に使用することや、許されていない用法・用量で勝手に使用すること

いずれも、たとえ1回でも乱用になります。

麻薬や覚醒剤のような法律で規制されている薬物だけではなく、医師からもらった医薬品がきっかけで、依存症に陥ってしまうこともあります。特に麻薬性の鎮痛薬は、がんの痛みに一定の効果があるので緩和医療には欠かせない薬ですが、日常的な痛みに用いると依存症を生じやすいので注意が必要です。

毎日250人以上が死亡するアメリカの深刻な薬物問題

全世界で麻薬などの過剰摂取による直接的な影響によって死亡した人の数は、2015年で約17万人というデータがあります。そのうち最も多い死者を出しているのがアメリカです。

その数は年々増え続け、2017年には7万人を超えました。2018~19年にわずかながら減少傾向に転じたものの、2020年にはコロナ禍の影響で約30%増加し、過去最多の9万3331人となりました。

念のため繰り返しておきますが、上にあげた数字は、死亡した人の数です。1年で9万人以上ということは、1日あたりに換算すると、およそ256人です。想像してみてください。「本日薬物乱用で死んだ方は256人です」というニュースが毎日流れているという状態です。

にわかには信じられないかもしれませんが、これが今のアメリカの現実なのです。今はまだ対岸の火事かもしれませんが、いつ日本が同じ状況になるかわかりません。

日本の未来を守るために、日本ではほとんど伝えられていないアメリカの薬物乱用の惨状を皆さんにも知っておいていただきたく、薬物依存症の専門家として筆をとることにしました。

薬物乱用の惨状の推移……処方増加からコロナ禍による影響まで

下の図は、アメリカの疾病対策センター(CDC)が発表している「薬物過剰摂取による死亡者数」の統計データに基づいて、筆者が作成したものです。この図を見ながら、今のアメリカの惨状がいつから始まったのかを見てみましょう。
アメリカの薬物乱用による死亡者数の年次推移(アメリカ疾病対策センターの統計データに基づき筆者が作成)
© All About, Inc.アメリカの薬物乱用による死亡者数の年次推移(アメリカ疾病対策センターの統計データに基づき筆者が作成)

1970~80年代、麻薬等の過剰摂取による死者数は、年間5000~7000人程度であまり変化なく推移していました。ところが1990年代に入り1万人を超え、2000年代に入り2万人を超えました。

1999年(図の1)で「第一波」ともいえる変化が起きたのは、主にモルヒネやコデインなど従来より使用されてきたオピオイド系鎮痛薬の処方増加を反映したものと考えられています。

皆さんの中には「麻薬」や「オピオイド系鎮痛薬」が何なのかをよく知らないという方もいらっしゃるでしょう。この点については、後続の記事で詳しくご説明したいと思いますが、どちらも病気の治療に用いられている正当な医薬品です。しかしこれらが必要以上に過剰に使用されるようになり、依存症に陥る人たちが増えていったのです。

2010年(図の2)で「第二波」の変化が起きたのは、主にヘロインの使用増加を反映していると考えられています。ヘロインというのは、合成麻薬の一つで、あまりにも有害なので、世界中で医療用としても使うことが禁止されている薬です。それを不正に入手した人々が勝手に乱用するようになったのです。

2013年(図の3)ごろから生じた急激な総死者数の増加は、図中の赤線で示されたフェンタニル及び合成オピオイドの過剰摂取による死亡者数の推移とほぼ一致しており、フェンタニル及び合成オピオイドが関係していることが明白です。

フェンタニルというのは、昔から使われてきたモルヒネを改良した薬で、モルヒネより副作用が少なく強い鎮痛作用が得られるという評判が広がり、近年急激に使用数が増えた薬です。

2020年(図の4)に起きた急激な増加は、コロナ禍を反映したものです。都市封鎖措置や景気後退を受けて、多くの労働者が職を失い、救いを求めるかのように薬物の過剰摂取が増えたと考えられます。

また、隔離措置による孤独をきっかけとしてメンタルヘルスの問題を抱える人が増えたのにもかかわらず、クリニックやカウンセリングといった支援サービスは営業停止あるいはオンライン対応のみとなってしまったため、救われなかった人がたくさんいたものと思われます。事実、自殺未遂の件数も増えたと伝えられています。

薬物過剰摂取による数々のスーパースターたちの訃報

医療の進歩によって、多くの国で人の平均寿命は少しずつ延びています。アメリカもそうでした。ところが、2014年の78.9歳をピークに、アメリカ人の平均寿命は短縮に転じ、2018年には78.6歳となりました。その一因と指摘されるのが、働き盛りの20~40代を中心とした薬物中毒や自殺による死亡件数の増加なのです。

医療の先進国であるはずのアメリカで、「薬の乱用によって寿命を縮めている」ともいえる事態が起きていたなんて知らなかったという方が多いでしょう。しかし、アメリカにおける薬物汚染の惨状を伝えるニュースは、すでに10年以上前から日本にも入ってきていました。

よく記憶をたどってもらうと、数々のスーパースターたちが薬物の過剰摂取が原因で亡くなったという訃報を聞いたことがあるはずです。

例えば、2009年6月には、歌手のマイケル・ジャクソンさんが自宅で心肺停止状態に陥り救急搬送されたものの、間もなく急死しました。原因は諸説あるようですが、不眠を訴えるジャクソンさんに対して、プロポフォールという麻酔薬を医師が6週間にわたり毎晩投与していたそうです。

また、スーパースターゆえのストレスと戦いながら、過酷な仕事をこなすために、鎮痛剤を習慣的に服用していたとも伝えられています。

2012年2月には、歌手のホイットニー・ヒューストンさんが急死しました。自宅でコカイン使用後に心臓発作を起こして浴室の浴槽で溺死したことが直接の死因とされていますが、すでに1990年代から麻薬、処方薬、市販薬、アルコールなど、あらゆる薬物を習慣的に用い、過剰摂取していたとも伝えられています。

2016年4月には、歌手のプリンスさんが急死し、死亡当時の体内から異常に高濃度のフェンタニルが検出されたことから、フェンタニルの過剰摂取が死因と考えられました。2017年10月に急死したロック・ミュージシャンのトム・ペティさんも、同じフェンタニルの過剰摂取が死因とされています。

2015年6月には、トヨタ自動車のアメリカ人女性常務役員が、国際郵便で麻薬を日本国内に持ち込もうとした疑いで逮捕されました。

ケンタッキー州の空港から発送された国際郵便の荷物の中の袋に、半合成の麻薬性鎮痛薬(オピオイドともいう)であるオキシコドンを含む錠剤57錠が隠されているのが、成田空港の東京税関で見つかったのです。

たとえ個人で使用するためだけだったとしても無許可で麻薬を輸入することは禁じられていることは知っていたはずですが、罪の意識が薄れるくらい、麻薬を日常的に使用することが当たり前になってしまっていたのかもしれません。

「薬物問題は怖いから知らなくていい」という考えは危険

日本でも、薬物問題は時々話題になりますが、欧米に比べると日本では安易に違法薬物に手を出す人は少ない方です。しかし、その裏で、薬に対して無知な人も多いです。

皆さんの中にも「自分の周りに麻薬や覚醒剤なんて存在しないので関係ない」とか「怖いものは知らなくていい」という考えの人もいることでしょう。しかし、何も知らないまま、突然自分が被害者になる可能性もあります。

アメリカと同じようなことが日本でも起こらないように、そして自分で自分の身を守るためにも、正しい知識を身につけておくことはとても大切です。

▼阿部 和穂プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

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