パワハラされやすい人の2つの特徴
仕事や人間関係…しんどいことが多い、という人にぜひ読んでもらいたいのが、『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語る この世を生き抜く最強の技術』(わび著)だ。著者のわび氏は元幹部自衛官としてエリート街道をひた走っていたが、上司のパワハラと早朝深夜の激務が重なりメンタルダウン。
復職を果たした後、「出世ばかりが人生ではない」「人に認められるためではなく、もっと楽しく生きたい」と思い、転職。現在は外資系企業の社員として活躍している。
自衛隊などの社会人経験で身につけた仕事術、メンタルコントロール術についてツイートした内容が人気を集め、Twitterを開始して2年半でフォロワーは12万人を突破、10万超えいいねを連発し、ネットメディアにもたびたび取り上げられている。
仕事・人間関係で生き抜く知恵が詰まった本書の発売を記念し、今回は特別インタビューを実施。著者・わび氏にパワハラされやすい人の特徴について聞いた。(取材・構成/川代紗生)
パワハラされやすいのは「仕事ができない人」ではない
──まるで自伝を読んでいるかのようにぐんぐんと引き込まれて、あっという間に最後まで読んでしまいました。ひどいパワハラにあい、メンタルダウンして自殺を考える寸前のところまでいってしまう……というストーリーは本当に壮絶で。ただ、意外だったのは、わびさんのように幹部自衛官としてエリートコースを進んでいた人なのに、なぜパワハラされてしまったのだろう、と。
わび:「パワハラされやすいのは、仕事ができない人」という風潮がありますが、実はそうともかぎりません。
運悪くパワハラ上司のもとで働くことになり、心身ともに壊れ、休職したあとで私がようやく気がついたのは、「自分がパワハラのターゲットになってしまったのは、仕事ができないからではなく、『何を言っても反抗しない』と思われていたからなんだ」ということでした。
私自身も、その上司のもとで働き始めたばかりのころは、「指導していただいている」「ありがたい」と思って素直に話を聞いていました。
今振り返ってみると、その真面目すぎる姿勢がよくなかったのかなとも思います。
同期たちの中でトップクラスの成績だった、その地位をキープしたい、というプライドや執着もあったかもしれません。
いずれにせよ、悪い意味で仕事に依存しすぎてしまっていたのだと思います。
──なるほど。
①「何を言っても反抗しない」と思われていないかどうか
② 仕事への依存度が高すぎないかどうか
上司との関係性に悩んでいる人は、日頃からこの2つのチェック項目を持っておくといいかもしれませんね。
部下は否定されすぎると従順になる
──わびさんは、月200時間以上の残業や、上司からの理不尽な指導などを受けていたにもかかわらず、職場で倒れるまで1年半もの間、同じ環境で仕事を続けていました。「辞めよう」「この上司はおかしいかもしれない」と思ったことはありませんでしたか。
わび:不思議なことに、人って否定されまくると従順になるんですよ。一種の洗脳状態になってしまっていたんでしょうね。
立場が上の人に「お前が悪い」と言われ続けると、相手が正しくて自分が間違っていると思い込むようになるんです。
だからこそますます、「仕事ができない自分に対して指導してもらえてありがたい」と、相手の言葉を信じるようになってしまう。
──恐ろしいですね。わびさんは具体的には、どんな言葉を投げかけられていたのでしょうか。
わび:私の場合は、とにかく毎日のように「否定の言葉」をぶつけられていました。
最初は仕事のやり方についてだけだったのが、徐々に、プライベートな出来事についてまで否定されるようになって。
お弁当の中身や、家族や、子どもの名前にまで文句をつけられて。
──お子さんのお名前にまで? たとえば、どんな?
わび:「変な名前やな」とか、あとは、「お前なんかと結婚した嫁さん、可哀想やな」みたいなことも言われましたね。
──客観的にはどう考えてもその上司がおかしいとしか思えませんが、当時はなかなかそうは思えなかったんですよね。
わび:これが不思議なもので、否定されまくればされまくるほど私は従順になって、きちんと職場に行っていました。
どんどん思考がおかしくなっていき、しまいには「どの種類の缶コーヒーを飲むか」すら、決められなくなったくらいです。
「このコーヒーにしたら怒られるんじゃ?」と考えてしまって、自分で決断できない。
「全部、仕事ができない自分が悪いんだ」「迷惑をかけないようにしなくちゃ」と追い込まれて、休むなんてとても考えられませんでした。
「35歳転職限界説」「メンタルダウン不採用説」というウソ
──仕事についても、理不尽な指導を?
わび:仕事も基本的に全否定でした。
「このやり方じゃダメだ」「お前は何回やってもダメなんだ」「前もダメだったよな」「お前のことだから、どうせ次もダメだろう」など、過去・現在・未来のすべてにおいて否定してくるんです。
──過去の失敗について言われるのも嫌ですが、未来の失敗を予言されるのも嫌ですよね……。そういった上司のもとで働くことになってしまった場合、どのように対処すれば良いでしょうか。
わび:一番の方法としては、物理的に距離をとること。
パワハラのターゲットにされてしまったら、私のようにメンタルダウンして、元の状態と同じように働けるようになるまでに1年かかって……なんてこともありえます。
まだ洗脳される前の段階で逃げないと、手遅れになる可能性もある。
──そんなにすぐに転職なんてできないよ! という意見もありそうですが。
わび:そうですね、たしかに、そういうご意見もあると思います。
ただ、もしかしたら、「この会社を辞めたら他に行くところなんてない」という考え方こそが、パワハラ上司に洗脳された結果かもしれません。
「どうせどこに行ってもお前はダメだ」と言われ続けて、自信を失っていないか? 思い込まされていないか? と、あらためて自問自答する時間を持ったほうがいい。
実は私も、インターネットでよく言われている「35歳転職限界説」などを信じ込んで、転職に踏み切れなかったんです。
「メンタルダウンした人は採用されにくい」という話も聞いていたので、休職したあとはよけいに不安でした。
でも、いざ挑戦してみたら、3ヶ月ほどの勉強で、市役所に転職。その後は外資系企業に転職し、今もそこそこの年収でストレスフリーに働けています。
私がこの本を書いたのも、そういった思い込みのせいで、行動する勇気が出ない人の背中を押したかったからなんです。
行動してみたら案外、どうにかなることってたくさんある。
「自分には無理」「ここで働くしかない」という思い込みのせいで、仕事場にしか居場所がないというのが一番よくありません。
重要なのは、「いつでも転職できる状態」をつくっておくこと。
私も今現在も、常に転職活動をしていますが、それは一種の自衛手段なんです。
上司の求める人生ではなく、他人の求める人生ではなく、自分の人生を生きるために、ひとりでも多くの人に「最強の技術」を使っていただけたらと思います。