乳がん手術後の生活の質を上げる「乳房再建術」 2つの主な方法とその費用
そうした悩みを軽減するものの1つに「乳房再建術」がある。がん自体の治療ではないが、心身のケアや治療後の生活の質を上げるために効果的で、乳がん手術をした患者の約4割が行っているというデータもある【*】。
【*東京・がん研有明病院の2015年時のデータより(乳がん手術数962、再建術数358)。週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」より】
再生医療なら片方で70万円以上
手術には自家組織によるものとインプラントによるものがあり(下記詳述)、全摘術を受けた場合や、遺伝性乳がん卵巣がん症候群患者が乳房切除術を受けた場合は、いずれも保険適用となり、高額療養費制度も活用できるため、費用は8万~10万円ほどに抑えられる。
とはいえ、保険適用内の治療法の場合、インプラントなら10年をめどに、中身を入れ替える手術が必要だったり、自家組織なら、大きな傷痕が残るなどのデメリットもある。
入れ替えの必要もなく、傷痕も少なく、かつ自然な形の乳房を希望する場合は、腹部や太ももなどから吸引して培養した脂肪幹細胞を乳房に注入する乳房再建術もある。この方法は体から脂肪を抜く場合も、それを乳房へ移す際も切開手術を行わないので、体への負担は少なくて済むうえ、乳房部分切除術を受けた後の陥没やゆがみも、解消されるという。
しかし、こうした再生医療を行える医療機関は限られており、保険適用外なので、治療費は全額自己負担となり、片方で70万円以上となる。NPO法人「がんと暮らしを考える会」理事長・看護師の賢見卓也さんが言う。
「どの治療法にしても、大切なのは乳房再建術を希望することを、治療前に主治医に伝えておくこと。それによって切除の仕方が変わったりするからです」
乳房再建の主な方法
●自分の体の一部を使う方法
【1】は背中の皮膚、脂肪、広背筋を血管がつながったままの状態で胸部に移動して再建する方法。背中は脂肪が少ないので、比較的小さい乳房の人に向く。
【2】は腹部の皮膚や脂肪を血管付きで採取し、胸部の血管と皮弁(移植する組織や臓器)の血管をつなぐ再建術。腹部は比較的脂肪が豊富なので、乳房の大きな人向き。
●シリコンインプラントを使う方法
【1】乳がん切除後、1回目の手術でティッシュエキスパンダー(組織拡張器)を入れて皮膚を伸展させる。
【2】3~6か月後、2回目の手術で、ティッシュエキスパンダーを取り出して、その空間にシリコンインプラントを入れる。この際に生じたくぼみに、患者の腹部あるいは太ももより吸引した脂肪を注入することもある。
取材・文/上村久留美 イラスト/成瀬瞳
※女性セブン2022年3月31日号