広まる樹木葬 安価で跡継ぎなしの永代供養が魅力 需要拡大とらえ業者増加
墓石の代わりに樹木や草花を植える「樹木葬墓地」が広がっている。跡継ぎを必要としない永代供養であるため家族に負担をかけなくてすむほか、一般墓と比べ安価で、多くが宗教・宗派を問わないことも注目される理由だ。需要拡大を好機ととらえ、樹木葬を開設・拡張する寺院や石材店など業者が増えている。
「欧州の森の中の庭園をイメージし、霊園らしくない明るい霊園にこだわった」
ガーデニング霊園「やすらぎの花の里 所沢西武霊園」(埼玉県所沢市、海蔵寺所有)は、開発した西武開発(同)の田形幸満会長(西武霊園管理代表取締役)が話すように、公園を散策する感覚で墓参りできる。同霊園は東京ドームのグラウンド1個分を超える広さで、西武新宿線「航空公園」駅から送迎バスで約20分のところにある。
平成30年の開園時からある樹木葬「凜(りん)」は、入り口に設けた「バラのアーチ」をくぐり抜けた好立地に広がる。樹木葬人気が高まると予想し、他の寺院墓地や民間霊園が片隅に設けることが多いのに対し、主力をアピールするため正面にあえて開設した。
バラをシンボルフラワーに、色とりどりの花と緑の芝生の下に遺骨を埋葬する。墓を守る跡継ぎがいない夫婦や未婚者らを対象に個人墓と家族墓(2人用、3人用)を用意した。「無縁墓をつくらない。最後まで面倒を見るので安心して購入できる」と田形氏は強調する。
売れ行きは好調で、完売を見越して「燈(あかり)」を新設した。ここには開園当時は気づかなかった「ペットと一緒に眠りたい」というニーズに応えるため、ペットと共葬できるエリアもある。
「将来的に誰も墓参りに来る人がいなくても花が植えてあるので寂しくないと思った」。子供がいないため夫婦用の樹木葬を購入した女性は、夫を亡くして墓探しをする中で東京・高輪の「正満寺 ふれあいの碑」と出会った。
管理するマサノリ石材(東京都港区)は創業から190年超続く老舗の石材店だ。現在は7代目で、柴田昌嗣取締役社長は「多くの石材店は『樹木葬は安い、もうからない』といって進出しないが、今や時代が違う。変化に柔軟対応してこそ事業を継続できる」と樹木葬への対応にかじを切った。
企画から設計・施工、管理・運営まで責任を持って取り組むのが同社の魅力で、管理を請け負う樹木葬は増えている。「次も計画中」という弟の昌範代表取締役は「核家族化で墓は代々受け継ぐものだけではなくなった。家族に経済的・精神的負担を与えたくないといって樹木葬など永代供養を求める人は増えていく」と指摘する。
終活関連サービスを提供する鎌倉新書が今年1月に実施した調査でも需要増が明らかになった。運営する墓探しの情報サイト「いいお墓」を通じて昨年購入した墓の種類を聞くと、樹木葬が46.5%(前回比5ポイント増)と令和元年の前回調査に続き1位となった。2位の一般墓は26.9%(0.5ポイント減)で、その差は拡大した。
樹木葬が注目を集めるのは少子高齢化の進展だ。跡継ぎがいない、家族に面倒をかけたくないと考える人が増え、墓は家族で入るものから夫婦や個人で入るものに変わりつつある。
また樹木葬は一般墓と違って埋葬スペースが小さく、墓石も建てないため安価だ。鎌倉新書の調査でも一般墓の平均購入価格が約170万円に対し、樹木葬は約71万円だった。樹木や草花に囲まれるので植物好きで自然志向の人も向いている。煩わしさから解放される樹木葬は時代に合っているのかもしれない。
(松岡健夫)