〈突発性難聴〉芸能人や歌手で発症する人も。とにかく早めに耳鼻科受診を。疲労や糖尿病、飲酒もリスク。ストレスの多い30~60代で発症しやすい
* * * * * * *
目次
● 症状 耳の聞こえ以外の症状を伴う
● 原因 直接の原因は不明。免疫の低下が関係
● 治療 諦めないで人工内耳も視野に
● 予防 ストレスをうまく発散すること
〈症状〉耳の聞こえ以外の症状を伴う
明らかな原因もなく、突然発症する難聴が「突発性難聴」。朝目覚めて片方の耳が聞こえないことに気づき、受診したという方もいます。
片側の耳に起こるのが基本ですが、まれに両方の場合も。また、難聴に加えて「耳鳴り」「耳閉感」「めまい」などを伴うことが多く、「耳鳴り」は90%、登山時に起きるような「耳閉感」は70%、「めまい」は40%程度と高い頻度で起こります。
めまいを伴うと動けなくなるため、患者さんはパニックになり、救急車で脳神経外科や神経内科に運ばれますが、その際、「聞こえない」ということもしっかり訴える必要があります。
・突然の難聴
・耳鳴り、耳閉感、めまいを伴うことがある
・片側性がほとんど(両側性はまれ)
(難聴:100%、耳鳴り:90%、耳閉感:70%、めまい:40%)
〈原因〉直接の原因は不明。免疫の低下が関係
突発性難聴はどの年齢層にも起こる可能性がありますが、好発年齢は30~60代で、ピークは50代。男女差も、難聴の起こる耳の左右差もありません。原因は現時点では解明されていませんが、リスク要因としては「過度のストレス」「睡眠不足」「不規則な生活」「糖尿病」「多量の飲酒」「疲労の蓄積」などがあげられます。このようなリスク要因から以下の3つの原因が推測されています。
●ウイルス感染説:かぜなどのウイルスに感染すると、難聴になることがわかっています。
●内耳血流障害説:内耳にあるカタツムリの形をした蝸牛(かぎゅう)の有毛細胞(音を感知する細胞)にも、血液が栄養と酸素を送っています。そこに何らかの原因で血流障害が起きると、有毛細胞が壊れ始め、難聴を発症すると考えられています。
●免疫低下説:1や2の場合も、それらが原因で難聴が起きるときは、背景に免疫力の低下があると思われます。
・過度のストレス
・睡眠不足
・不規則な生活
・糖尿病
・多量の飲酒
・疲労の蓄積
〈治療〉諦めないで人工内耳も視野に
片側の耳の聞こえが悪いことに気づいても、「ちょっと様子を見ていれば治るだろう」と放っておく方が多いのが現状。しかし、治療を受けるのが早ければ早いほど、治る確率が高くなります。不調に気づいたら、遅くとも数日以内に耳鼻科を受診し、1週間以内に治療を始めるようにしてください。
根本的治療はないものの、より早期に入院して安静を保ち、ステロイド薬の点滴を1週間行うのがゴールデンスタンダード。どうしても入院ができない場合は、ステロイド薬の内服で対応します。ステロイド薬は血流障害による炎症やむくみを改善しますが、「血糖値の上昇」「胃潰瘍」などの副作用が起こることがあるので、十分な注意が必要です。
1週間の治療で治らない場合は、再度同じ治療を行うことがあります。それでも治らない人、また、糖尿病などでステロイドの全身投与ができない人には「鼓室内注入法」があります。麻酔をした鼓膜に針を刺し、中耳にステロイド薬を直接注入する効果の高い治療法です。
1日おきに5回注射をするので、10日間ほどの入院が必要になります。この治療を最初に行っても構いません。薬物療法で改善しない場合は、「高圧酸素療法」や「星状神経節ブロック」などを行うこともあります。ここまでの治療で改善しない場合、聞こえを補う「クロス補聴器」を装用。また、片側だけの難聴ではまだ保険適用されていませんが、先進治療として「人工内耳」を埋め込む手術もあります。
〈予防〉ストレスをうまく発散すること
突発性難聴のベストな予防法は「ストレスを溜めないこと」。病気の原因はわかっていませんが、「ウイルス感染説」「内耳血流障害説」「免疫低下説」の原因すべてにストレスが大きく関係しています。ストレスを解消することこそ、予防として大切です。
それには「静かなところに身を置く」のが重要。都心部では道を歩いていても、電車や自動車に乗っていても、職場で仕事をしていても、騒音に囲まれることが多い。それが60分以上続くと、ストレスが飽和状態に。その場合、5分でもいいので、ちょっと席を外して静かなところに移動し、深呼吸をしましょう。それだけで、実は大きな予防になります。
このほか、大きな音も耳にはよくありません。難聴になるのを予防するためには、「大きな音がするところでは音に対して身構える」こともポイント。「大きな音がするぞ」と事前に意識しておくだけで差が出ます。例えば、ロックコンサートの会場などでは、観客はあらかじめ大きな音がするとわかっていますから、知らず知らずのうちに身構えます。耳の中には小さな筋肉がついていて、大きな音を感知するとギュッと締まり、鼓膜があまり振動しないよう防御します。意識することでまぶしいとき目を細めるように、音に対して対応しているのです。