あなたの健康はお金で買えますか・・・? 「老い」と腸内環境の関係とは?便秘は認知症を悪化させ、がんの要因に
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「老い」と腸内環境の関係とは?便秘は認知症を悪化させ、がんの要因に

高齢になるにつれて、男女を問わず便秘に悩む人が増える。認知症の周辺症状が、便秘と関連して起きることも少なくない(写真はイメージです) Photo:PIXTA© ダイヤモンド・オンライン 提供 高齢になるにつれて、男女を問わず便秘に悩む人が増える。認知症の周辺症状が、便秘と関連して起きることも少なくない(写真はイメージです) Photo:PIXTA

人生100年時代、「老い」はシニア世代だけでなく、その家族にとっても切実な関心事の一つです。腸内細菌と病気の関連について、近年研究が進んでいます。腸内細菌は免疫やがんだけでなく、認知症やうつにも関係していることが分かってきました。バランスのよい腸内環境を保つことは、健康で若々しい体と心にとって重要です。「老いる」と腸内では、どのようなことが起こるのでしょうか?前回に続き、順天堂大学名誉教授・特任教授の佐藤信紘氏、国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長の佐藤和貴郎氏の共著『順天堂大学の老年医学に学ぶ人はなぜ老いるのか』(世界文化社刊)から抜粋・紹介します。

便秘は認知症の症状を悪化させる

「何歳になってもおいしく食べられ、お通じがよく十分眠れる」

 健康的に幸せに老いるための基本です。ところが、高齢になるにつれて、男女を問わず便秘に悩む人が増えています。便秘は、エントロピー(「無秩序」「乱雑さ」「混沌」の度合いを示す指標)の高い物質である“糞便”を体内(腸内)に留め置くのですから、体はエントロピー増大により悲鳴をあげます。そのせいで食欲がなく、おいしく食べられないだけでなく、胸がむかついて吐き気のする人、夜の睡眠に支障の出る人も増えます。

 また、イライラして日中の活動に集中力がなくなるなど、脳の働きにも影響します。慢性便秘は大腸がんの要因の一つでもあり、寿命を縮める要因でもあります。便秘によるいきみで血圧が上昇することもしばしば見られます。

 認知症などの被介護者では、落ち着きがなくなり徘徊が増える、突然怒り出す、中途覚醒などで睡眠リズムが乱れるなど、認知症の周辺症状(BPSD)が、便秘と関連して起きることも少なくありません。

便秘にひそむ腸内フローラの乱れ

 便通が悪くなる原因は様々です。たとえば、高齢になり食が細くなれば、便を作る材料が少なくなり便塊が作られにくくなります。食が細いと水分摂取量も減り、腸内の水分量が減って便が硬くなります。また、家にいて運動量が少なくなると筋肉量が減り、腹筋も弱くなって便を押し出す力が低下します。

 75歳以上の後期高齢者では、6割超が5種類以上の調剤の薬を処方されていますが、こうした薬の副作用も便秘に関係するものが多数あります。様々な理由で便秘が続くと食欲がなくなり、さらに便秘になるという悪循環に陥ります。

 あまりにも日常的な不調なので軽く考えられがちですが、便はそのときの「おなか」の状態を示す重要なサインです。中でも、大きく関係するのは腸内細菌叢(Gut microbiota)の変化です。主に大腸の中に100種類以上の腸内細菌がいて、様々な菌種がお花畑のような集合体を作っていることから、花の女神「フローラ」の名前をとり「腸内フローラ」ともいわれます。

老化した腸の中では腸内フローラのバランスが崩れている

 腸内細菌は、まさにヒトと共生関係を築いている菌です。腸内フローラでは菌同士が互いにバランスをとりながら共生を図り、食物と一緒に大腸に侵入してきた雑菌などの有害物質を排除したり、消化できない食べ物を必要な栄養物質に作り変えたりと、宿主であるヒトが自力ではできないことをしてくれているわけです。

 これまで、一人の糞便には1000種類以上・100兆個の細菌が棲みついていて、人体の細胞数37兆個より断然多いと推測されてきました。しかし最近の遺伝子解析を用いた研究では、一個人の有する腸内細菌の種類は100種類くらい、細菌数は37兆~40兆個と報告されています。

 これら腸内細菌は、一般的には善玉菌と悪玉菌、そのどちらにも属さない日和見菌に分けられます。善玉菌とは人体に有益な働きをする菌群で、少数の乳酸産生菌(以下、乳酸菌)や圧倒的多数のビフィズス菌がその代表です。

 一方の悪玉菌は人体に有害な働きをする菌です。腸内のタンパク質などを腐敗させて有害物質を作り出し、腸内の腐敗や老化を促進し、発がん性物質を作り出すともいわれます。代表的な菌としては、病原性大腸菌、ブドウ球菌、ウェルシュ菌、ディフィシル菌などが挙げられますが、これらの中には無毒な菌もあり、すべてが病原性というわけではありません。

 腸内フローラの中で、これらの細菌たちは連携して働いており、そのためには様々な菌がたくさんいる多様性をバランスよく保つことが重要です。

 善玉菌は腸のバリア機構の一つであり、健康な腸内ではビフィズス菌のような善玉菌が悪玉菌の定着・増殖を抑えています。しかし老化すると、善玉菌の数や働きが低下し毒素の元となる悪玉菌が増えていきます。

腸内細菌が腸に棲みついた理由

 なぜ、腸の中にこれらの細菌が棲みつくようになったのでしょうか。それには、腸の持つ免疫機能が関係しています。

 体内では、血液やリンパ液、唾液、気道や膣の粘膜などにも免疫機能が備わっていますが、中でも腸管は人体最大の免疫器官です。「腸管免疫」の最前線にあるのは小腸で、広げるとテニスコート1面分もの面積があり、全身の免疫の7割に及ぶ免疫細胞や異物と闘う「IgA」という抗体が存在しています。

 免疫には、「自然免疫」と「獲得免疫」があります。自然免疫とは、病原体を体外から侵入させないためのバリア機能で、病原体を排除するために生まれつき備わっている機能です。

 一方、獲得免疫は体内に侵入した病原体の情報を記憶し、同じ病原体に出会ったときに効果的に排除する仕組みです。適応免疫ともいい、サイトカイン(免疫系細胞から分泌されるタンパク質)を作ったり、抗体を作り出したります。

 獲得免疫は、サメやエイのような顎のある脊椎動物から発達したと考えられています。顎があることで様々な食物を取り込めるようになり、同時に異物や病原性の微生物を取り込む危険性も増えました。そこで、脊椎動物は自分と自分でないもの(非自己)をきちんと識別し、役立つものは共生させ、病原体は免疫反応により排除するようになったと思われます。現代の“ウィズコロナ”と同様に、“ウィズバクテリア”という共生生活が古代に始まったのです。

 このほかに、口腔内や皮膚、腟に棲みついて細菌の増殖を抑えるなどの役割を担っている共生細菌もいます。

 この仕組みの中で腸に共生するようになった細菌類が腸内細菌であり、腸の免疫系のみならず栄養源やビタミンの産生などに関わり、健康を大きく左右するようになったと考えられます。

 腸管免疫の中心は小腸ですが、大腸で腸内フローラのバランスが一定に調整されるように、小腸から大腸に続く回腸と盲腸に、免疫関連遺伝子が多く発現することがわかっています。

 この免疫関連遺伝子が免疫をコントロールすることが、花粉症などのアレルギーの抑制や、インフルエンザなどの感染症への抵抗力にもつながるとみられます。

 また、腸内細菌そのものが腸管の免疫細胞や神経細胞に直接働きかけ、生理活性物質や神経伝達物質の産生を介して腸管機能に影響を与え、さらに脳へ信号を伝達して、気分や感情、情緒、さらに最近の研究では高度脳機能、認知機能や筋肉の働きにも影響を与えることがわかってきています。

加齢とともに善玉菌が減り、悪玉菌が増えていく

 腸内フローラの研究は、長い間腸内細菌を分離・培養して調べる手法(培養法)で行われてきました。この手法では、培養できない腸内細菌がいるのも事実で、腸内細菌の機能の全容についてはわからないことも多い状況がありました。

 21世紀に入り、「次世代シークエンサー」が登場しました。これはゲノム配列を高速かつ大量に読むことができます。細菌の「16S rRNA」と呼ばれる遺伝子配列を大量に読むことで、培養できない細菌についても、その種類や量(相対頻度)を算出することができ、腸内細菌の全体像を網羅的に調べることができるようになりました。さらに発展した「メタゲノム解析」と呼ばれる方法では、細菌が持つすべての遺伝子を調べることができます。ビタミン合成酵素やべん毛の遺伝子など、細菌の持つ遺伝子の総数は100万ともいわれ、ヒトの遺伝子数(約2.2万)を遥かに凌駕しています。これにより、腸内細菌叢全体が持つ機能、たとえば炭水化物代謝とかビタミン合成能などを推定することができます。

 高齢者の腸内細菌についてもわかってきました。日本人を年齢別に、100歳以上の超高齢者、63~76歳の高齢者、25~40歳の若年成人に分けてメタゲノム解析を行ったところ、100歳以上の超高齢者では腸内細菌の多様性がなくなり、善玉菌が減って病原性菌を含む細菌群が増加していました。

 また、0歳~104歳までの日本人367人の腸内フローラの調査でも、特に60代以降は善玉菌が減って悪玉菌が増えるようになり、腸内細菌のバランスが加齢とともに大きく変化することがわかっています。

ビフィズス菌の減少により何が起こるのか

 特に、加齢とともに減少が著しいのはビフィズス菌です。ビフィズス菌は善玉菌の代表選手ともいえるもので、授乳期の赤ちゃんの腸内に特に多く存在します。乳汁にはラクトフェリンという糖タンパク質が含まれていて、赤ちゃんの成長を促しますが、この他に乳汁中のオリゴ糖がビフィズス菌を増やし、赤ちゃんの免疫力を高めて病気の感染を防いでいるのです。

 ビフィズス菌は、離乳し普通の食事を摂るようになると次第に減少し、一方でウェルシュ菌などの悪玉菌が増えていきます。そして、超高齢者ではビフィズス菌はほとんどなくなってしまいます。

 ビフィズス菌は、腸内で乳酸、酢酸や酪酸という酸性の物質を産生します。乳汁だけを飲んでいる赤ちゃんの便はすっぱい匂いがしますが、これは大腸内のビフィズス菌が酢酸や酪酸を作ることに関係します。この酢酸や酪酸が体全体のエネルギー源となるだけでなく、非常に強い殺菌作用を持ち、炎症を抑える働きをします。

 これまで見てきたように、老化は炎症によって細胞や組織が傷つくことで進展します。そこでビフィズス菌の減少は便秘を起こすだけでなく、全身の老化や病気の発症、認知機能の低下にも関係していると考えられます。最近私たちは、あるビフィズス菌株を投与することでプレ認知症の改善効果がみられるというデータを得ています。

ディスバイオーシスが現代病を引き起こす

 メタゲノム解析技術の著しい進歩により、ヒトの腸内フローラの全体像が解明され、病気との関係がかなり明らかになってきました。

 潰瘍性大腸炎(UC)は難病であるため、毎年かなり正確に患者数が把握されています。1970年代は1000人単位だったのですが、現代では16万人を超えています。食生活の変化が免疫系を変化させ、病気を起こしやすくなったのではないかと考えられ、研究が進んできました。

 過敏性腸症候群(IBS)は洋の東西を問わず10人に1人が抱えるといわれる、まさに現代病です。腹痛を伴う下痢や便秘などの便通異常が起き、特に高齢期ではこれによる「やせ」も大きな問題となります。精神的ストレスや自律神経失調が原因とされますが、これも腸内フローラの乱れが大きな要因だと考えられます。

 自己免疫疾患の多発性硬化症は、もともと欧米人に多い病気で日本人には少なかったのですが、この20~30年で10~20倍と、潰瘍性大腸炎と同様激増しています。この病も腸内フローラの異常が関係する可能性が報告されています。

 この他、パーキンソン病、自閉症やうつ病、神経性食不振症(過食症、拒食症)などの神経変性疾患や精神疾患も、腸内フローラの乱れと関係があるのではないかといわれてきています。

 健康な人の腸内フローラと比べ、これらの病気を持つ人の腸内フローラは非常に乱れ、「ディスバイオーシス」という状態が起きていることがわかったからです。

 当初は、病気の結果として腸内フローラの乱れが起きているのではないかともいわれました。しかし、腸内を無菌にすると病気が起こらなかったり、無菌動物に病気の腸内フローラを移植するとその病気が出たり、さらには、健常な人の便を用いて糞便移植を行うことで腸炎などの病気が治ったりという検証の積み重ねにより、腸内フローラの乱れが病気の原因であることが認められるようになりました。

(監修/順天堂大学名誉教授・特任教授 佐藤信紘、国立精神・神経医療研究センター神経研究所免疫研究部室長 佐藤和貴郎)

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