無職の状態のまま、生活保護の廃止と返還請求【実録・貧困とセーフティネット:その8】
近年、「女性の貧困」の問題がさまざまなメディアで取り上げられていますが、2014年に放送されたNHKの『クローズアップ現代』によると、働く単身女性の3分の1が「年収114万円以下」の低所得で生活することを余儀なくされているそうです。
このシリーズでは実際のケースをもとに、女性の貧困とそこから脱出するための「セーフティネット」について考えていきたいと思います。
(前回からのつづき)福祉事務所の担当者が変わり、新しいケースワーカーのSさんから「生活保護の受給をやめる」ことを強く勧められたEさん(仮名・26歳女性)。
しかし、骨折した足がようやく回復し、まだ歩けるようになったばかりのEさんには、生活保護以外に収入のあてはありませんでした。Eさんは「せめて仕事が決まるまでは生活保護を受けたい」と主張したのですが…
◆「生活保護の廃止」に同意する
結局、ケースワーカーの説得に押し切られるような形で、Eさんは「生活保護の廃止」に同意してしまいました。
この時期のEさんは骨折や自己破産で心身ともに疲れきっており、「押しの強いケースワーカーの言葉に反論する元気がなかった」とのことでした。
また、Eさんが「生活保護の廃止」に同意したのは10月の初旬だったのですが、ケースワーカーは「9月分まで」で生活保護の受給をやめるようにEさんを説得しました。
説得の際にケースワーカーは、「ほかに生活保護が必要な人のために、すこしでも早く受給をやめてほしい」と、Eさんに言ったそうです。
◆生活保護費の返還請求も
ところが、この時点でEさんの口座には、すでに10月分の生活保護費が入金されてしまっていました。このお金がないと、Eさんは家賃や光熱費などのさまざまな支払いができなくなってしまいます。
しかし、「9月分まで」ということで生活保護の廃止に同意したEさんに対して、ケースワーカーは10月分の生活保護費を返還するように通告しました。
ただし、さすがにケースワーカーも、Eさんに生活保護費を「いますぐ返せ」とは言わず、Eさんは分割払いで1か月分の生活保護費を返還していくことになりました。
◆「あと1か月待ってくれていれば…」
ただでさえ苦しい状況のなかで、生活保護費の返還という新たな「借金」まで背負う形になってしまったEさんは、このときとても落ちこんだそうです。
しかし、いまにして思えば、生活保護を打ち切られたことは悪い面ばかりではなく、Eさんが本腰を入れて仕事を探すきっかけになった部分もあるようです。
それでもEさんは、「あのとき、あと1か月だけでも生活保護の廃止を待ってもらえていたら、もうすこしラクに社会復帰できたかもしれない」と、当時を振り返るのでした。
(次回につづく)
※文中のエピソードは実話をもとに構成・脚色を加えて構成しています。実在の人物・団体とはいっさい関係がありません。
<執筆者プロフィール>井澤佑治(いざわ・ゆうじ)コラムニスト
舞踏家/ダンサーとしての国内外での活動を経て、健康法・身体技法の研究、高齢者への体操指導、さまざまな障がいや精神疾患を持つ人を対象としたセラピー、発達障害児の療育、LGBTの支援などに携わる。
このシリーズでは実際のケースをもとに、女性の貧困とそこから脱出するための「セーフティネット」について考えていきたいと思います。
(前回からのつづき)福祉事務所の担当者が変わり、新しいケースワーカーのSさんから「生活保護の受給をやめる」ことを強く勧められたEさん(仮名・26歳女性)。
しかし、骨折した足がようやく回復し、まだ歩けるようになったばかりのEさんには、生活保護以外に収入のあてはありませんでした。Eさんは「せめて仕事が決まるまでは生活保護を受けたい」と主張したのですが…
◆「生活保護の廃止」に同意する
結局、ケースワーカーの説得に押し切られるような形で、Eさんは「生活保護の廃止」に同意してしまいました。
この時期のEさんは骨折や自己破産で心身ともに疲れきっており、「押しの強いケースワーカーの言葉に反論する元気がなかった」とのことでした。
また、Eさんが「生活保護の廃止」に同意したのは10月の初旬だったのですが、ケースワーカーは「9月分まで」で生活保護の受給をやめるようにEさんを説得しました。
説得の際にケースワーカーは、「ほかに生活保護が必要な人のために、すこしでも早く受給をやめてほしい」と、Eさんに言ったそうです。
◆生活保護費の返還請求も
ところが、この時点でEさんの口座には、すでに10月分の生活保護費が入金されてしまっていました。このお金がないと、Eさんは家賃や光熱費などのさまざまな支払いができなくなってしまいます。
しかし、「9月分まで」ということで生活保護の廃止に同意したEさんに対して、ケースワーカーは10月分の生活保護費を返還するように通告しました。
ただし、さすがにケースワーカーも、Eさんに生活保護費を「いますぐ返せ」とは言わず、Eさんは分割払いで1か月分の生活保護費を返還していくことになりました。
◆「あと1か月待ってくれていれば…」
ただでさえ苦しい状況のなかで、生活保護費の返還という新たな「借金」まで背負う形になってしまったEさんは、このときとても落ちこんだそうです。
しかし、いまにして思えば、生活保護を打ち切られたことは悪い面ばかりではなく、Eさんが本腰を入れて仕事を探すきっかけになった部分もあるようです。
それでもEさんは、「あのとき、あと1か月だけでも生活保護の廃止を待ってもらえていたら、もうすこしラクに社会復帰できたかもしれない」と、当時を振り返るのでした。
(次回につづく)
※文中のエピソードは実話をもとに構成・脚色を加えて構成しています。実在の人物・団体とはいっさい関係がありません。
<執筆者プロフィール>井澤佑治(いざわ・ゆうじ)コラムニスト
舞踏家/ダンサーとしての国内外での活動を経て、健康法・身体技法の研究、高齢者への体操指導、さまざまな障がいや精神疾患を持つ人を対象としたセラピー、発達障害児の療育、LGBTの支援などに携わる。