「ぐらっと来たら火の始末」は時代遅れ?最新の地震火災対策を専門家が解説
5月25日、東京都は首都直下地震の被害想定を10年ぶりに見直した。都が想定した最大の被害では、東京23区の約6割が震度6強以上の揺れに見舞われ、死者数は6148人、建物被害は19万4431棟に達するというーー。
「今後30年以内に、南関東のどこかでマグニチュード7クラスの地震が起こる確率は7割程度といわれています。しっかりと備えることが大切です」
こう語るのは東京都防災会議地震部会部会長で東京大学名誉教授(地震学)の平田直さん。
そんな被害想定で気がかりなのが、6148人と想定される死者のうち、4割にあたる2482人が火災によって命を落とすことだ。
「関東大震災での死者数は約10万5000人で、その9割が火災で亡くなっています。当時はガス灯や台所で薪を使っていたなど今とは状況が違いますが、それでも地震による火災で亡くなる人が多い状況は変わりません」
地震火災で命を落とさないためにできる備えはどのようなものがあるのだろうか? 備え・防災アドバイザーの高荷智也さんが語る。
「かつて火事の原因の多くを占めていたのは、ガスコンロ。それゆえこれまでは『グラッときたら火の始末』が常識でした。しかし、現在のガスコンロは、大きな揺れを感じると、自動的にガスが止まるマイコンメーターが搭載されています。そのため『グラッときたら火元から離れる』がやけどを防ぐためにも正解。防災対策もアップデートする必要があるんです」
もちろん揺れで付近の可燃物が落下すれば燃えてしまうので、コンロの近くには布巾など燃えやすいものは置かないようにしよう。
地震において気をつけたい“火元”には、ストーブ、仏壇のろうそくなどがあるという。
「最近のストーブは転倒すると火が消える装置がついています。しかし、古いストーブを使っている場合には揺れによって倒れた際に、周囲の可燃物に引火してしまうことが。また、仏壇のろうそくも、揺れで倒れると火事のもとですから、その場を離れるときは必ず消すようにしてください」
■停電復旧時にも注意が必要!
さらに近年は、電気が原因で火災が起こることが増えている。
「’11年の東日本大震災では津波によるものを除く、火災の7割は電気が原因だといわれています。古くなった延長コードなどが、建物倒壊や家具の転倒によってショートを起こして出火するのです」
日本配線システム工業会によると、延長コードの寿命は3~5年といわれている。
地震発生後、万が一火が出ても燃え広がらせないことが重要だ。
「火事が起きたときは通常ならば消防車が駆けつけます。しかし、地震のときは同時に複数の火災が発生して消防車が足りなくなったり、建物の倒壊や道路の損壊によって消防車が現場に到着できない可能性もあるのです。そのため、大規模な火災になる前に、自分たちで火を消す初期消火がとても大切。消火器を各家庭で最低1本用意して、リビングや玄関など、家族のだれもがアクセスしやすい場所に置いておきましょう」
赤く目立つ見た目から納戸などにしまいこむ人も多い消火器。近年は、インテリアになじむデザインのものが多数発売されており、「無印良品」などでも購入できる。
都の被害想定では、初期消火率を4割としているが、初期消火率が9割になれば、火災で命を落とす人は300人にまで減少するという。
火災が発生するのは、地震発生直後だけではない。
「停電が発生するような大地震の場合、電気が復旧した際に発生する『通電火災』が起こります」
電気が通った際に、転倒した電気ストーブや照明器具のスイッチが入ったままだと周囲の可燃物に引火したり、ダメージを受けた電気配線がショートして出火する。
「人が避難した無人の家で火が出ると、気づくのが遅れて大規模な被害につながりやすくなります。避難する際は、必ずブレーカーを落とすことが肝心。大きな揺れが起こると、自動でブレーカーを落としてくれる感震ブレーカーを取り付けるのも有効です」
最後に平田さんが語る。
「10年前の被害想定では、火災による死者数は今より多い4100人でした。耐震対策に加え暖房器具が石油ストーブからエアコンに切り替わったり、住宅の建て替えや防火対策が進んだことで死者数が減ったのです。つまり対策をすれば、命を落とすリスクは低くなるのです」
“ウィズ地震”と心得えて、火事で死なない対策を早急に始めよう。
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