湿気をやっつけろ! プロに聞く「エアコン除湿」の正しい使い方
ジメジメとした季節・梅雨。家の中には湿気という大敵が現れる。放置すれば熱中症やカビにともなうアレルギー症状などの、さまざまな健康リスクも。厄介な湿気を退治するためのテクニックの数々を、その道のプロたちに聞いた。
* * *
雨や曇りなどスッキリしない梅雨の季節。特に蒸し暑さが体にこたえる。
「湿度が60%を超えると、人間の体に影響が出てきます。湿度が10%上がると、体感温度は約2度上がるといわれています」
そう話すのは、運動生理学を専門とする横浜国立大学教育学部の田中英登教授だ。天気予報などで使われる「湿度○%」とは、相対湿度という数値のこと。空気中で水蒸気を含むことができる量の限界(飽和水蒸気量)は気温ごとに決まっており、限界までのうち何%含んでいるかを示す。
「人間は気温が高くなると汗をかいて蒸発させ、気化熱で体の熱を奪って体温を下げようとしますが、湿度が60%以上になると蒸発しにくくなります。体温も下がりにくく、より暑いと感じるようになる。熱中症の危険性も高まります」(田中教授)
湿度が高く不快なときは、汗が気化しやすい状況を作るのが一番の対策だ。扇風機などで室内に大気の流れを作れば、蒸発を促進するという。また、冷たい濡れタオルで体や顔を拭くのもいい。
「冷却スプレーは一時的に冷却感を得るときにはいいのですが、多用すると脳が『冷たい』と勘違いし、体温調節のための発汗など、生理的反応を起こしにくくなるので注意しましょう」(同)
もう一つ、忘れてはならないのは水分補給だ。
「湿度が高いほど汗をかくため、水分補給は必須。湿度に体調が左右されにくい体を作るには、タンパク質をしっかりとること。摂取した栄養素をエネルギーに変えるにはクエン酸が必要。酢の物やレモン、梅干しなども意識してとりましょう」(同)
高い湿度は人体だけでなく、住環境にも影響を及ぼす。最たるものはカビの発生だ。NPO法人カビ相談センターの高鳥美奈子さんはこう話す。
「カビには風呂場など湿っぽい所を好む好湿性のクロカビやアカカビ、乾湿を繰り返す所を好む耐乾性のアオカビやコウジカビ、乾燥した所を好む好乾性のカワキコウジカビなど多くの種類があります。湿っぽい=カビではなく、室内、屋外問わず発生します。カビの胞子は、吸い込むと鼻炎やくしゃみなど、アレルギー症状の原因になります」
カビの発生要件には温度、湿度、酸素、栄養があり、逆にこの四つがそろわなければカビは発生しにくくなるという。
「梅雨は湿度70%以上になる日が増える。湿度80%が3日間続くとカビには好都合です。一般的には20~30度がカビの好む温度帯ですが、クロカビは冷蔵庫の中などでも発生します。人の皮脂やアカ、フケ、部屋のホコリなどがカビの栄養になります」(高鳥さん)
人の行き来が少なく空気が滞留し、ホコリがたまりやすい部屋の隅などは、絶好のカビ繁殖地に。
「カビは胞子の状態で、梅雨の前からあちこちにいます。カビが好む湿度の高い場所に胞子が居座ると、菌糸を伸ばして成長し、夏になると新たな胞子を空気中に放ちます。本当は梅雨前から対策が必要ですが、梅雨中でも遅くはありません」(同)
第一の対策は風通しをよくすること。そして、こまめな掃除だ。
「昔は衣類や本などを干す『土用干し』がありましたが、干して風を通すのは有効。押し入れやクローゼット、シューズボックスなども閉めたままにせず、数センチ開けておくといいでしょう。ホコリはカビの好物なので、部屋にホコリをためないことです」(同)
部屋のどこに湿気がたまりやすいかは立地条件によって異なる。住生活ジャーナリストの藤原千秋さんはこう指摘する。
「戸建てだと川や暗渠の近くや高低差がある土地の下のほう、集合住宅はより地面に近い低層のほうが湿気が高くなります。タワーマンションも窓を閉め切りがちなので、実は湿気がたまっています」
取材等でよく個人宅を訪問する藤原さんは、健康を意識して加湿器を使用する人をよく目にするという。しかし、これには注意が必要なようだ。
「乾燥しやすい冬場の加湿は必要ですが、気温と湿度が上がれば必要ありません。家屋や衣類、布団にとって加湿していいことは一つもなく、カビを増やすだけ」(藤原さん)
■肌感覚に頼らず湿度計で確認を
藤原さんは、特に意識したいのは寝室だという。
「カビといえば風呂場を連想します。風呂場もカビ対策は必要ですが、長時間滞在するわけではありません。むしろ5時間以上は過ごす寝室や布団こそ要注意。布団にカビの黒い点々が付いていたご家庭でお子さんがくしゃみをしていたのですが、風邪ではなく、カビかダニのアレルギーの可能性もあります」(同)
布団のカビ対策でも風通しをよくするのが基本。
「起きてすぐベッドメイクせず、むしろ布団をめくったままのほうがカビ対策にはいい。外干しできなくても、椅子に掛けて乾かすだけで違います。布団乾燥機は有効ですが、安くはないので除湿マットがおすすめ。敷布団やベッドマットの下に敷いておくと湿気を吸ってくれ、マットを干せば何回でも使えます」(同)
エアコンの除湿運転も室内の湿気対策に有効だ。空調メーカーのダイキンも、湿度が高い時期の除湿運転をすすめている。
「冷房運転でも除湿されますが、湿気解消にはやはり除湿運転が最適。冷房や除湿運転を行うと、室内機が湿った状態になり、そのままエアコンを停止するとカビや嫌なニオイの発生につながることも。大半のエアコンには室内機内部を乾かす運転を行う機能があります。エアコンを切ったあと、まだ動いていると思って再度停止ボタンを押すとこの乾かす運転も停止してしまうため、注意してください」(ダイキン工業広報・重政周之さん)
もし、壁紙や窓のゴムパッキンなどにカビが生えてきたら、カビが嫌う消毒用アルコールを吹き付けるのが有効という。
「風呂のカビ対策で使う次亜塩素酸ナトリウムは毒性が強く、水で洗い流せる場所でしか使えない。二酸化塩素スプレーもおすすめです」(藤原さん)
湿度が高い状態は肌感覚に頼らず、湿度計で確認することが大切だ。
「湿度は人間の体感が当てになりません。熱中症対策も兼ねて湿度計の設置を。各部屋に設置すると湿度がたまりやすい部屋がわかります」(同)
梅雨が明けても、これらの対策は欠かせない。正しい湿気対策で、カラッと健康になろう。(ライター・吉川明子)
※週刊朝日 2022年7月1日号