命に関わる「屋内での熱中症」 扇風機だけに頼るのはかえって危険
梅雨も明けていない中、ぐんぐん気温が上昇している。6月24日は横浜で30.6℃と、今年初の真夏日を記録。新潟県では37℃の地点も観測されるなど、さながら夏本番のようだ。熱中症といえば“屋外の炎天下”というイメージがあるが、実は熱中症の死亡者のうち56.5%が「家庭」で発症している(厚労省人口動態統計、2018年)。
【グラフ】大半はエアコンを使用していない… 屋内での熱中症死者のエアコン設置率
安全であるべき自宅での悲惨な事故を防ぐためにはどうすべきか。
まずは熱中症について正しく理解する必要がある。医師の上昌広氏(医療ガバナンス研究所理事長)が解説する。
「熱中症は体温の上昇により作られた体内の熱がうまく放出できなくなっている状態。高温多湿の環境下にいたり、激しい運動をすることで引き起こされます。大量の発汗やめまい、筋肉痛など軽度の症状に始まり、吐き気や頭痛、倦怠感などが起きる。重症化すると高体温や痙攣、意識障害も起こすので、特に高齢者の場合は少しでも違和感があれば医療機関を受診していただきたい」
熱中症に関し特に注意すべきなのが、「脱水」だ。
「人間は汗をかくことで体温を調整しますが、脱水を起こすと熱を逃す働きが弱くなり、体温が下げられずにさまざまな機能障害や循環器不全につながります。高血圧、糖尿病の人は脱水になると血管中の水分が減り、血がドロドロになって血管が詰まりやすくなるので脳梗塞のリスクも上がる。脱水を避けるためのこまめな水分補給は、熱中症対策としても、夏場の脳梗塞・脳卒中予防としても有効です」(同前)
そもそも、高齢になると体温の調整機能や感覚機能が鈍り、暑さや喉の渇きに気がつかないことが多い、と上医師は言う。
「高齢者がエアコンの風を嫌う傾向があるのは、身体が冷え切って初めて“寒い”と気づくから。それを理解して、自分の肌感覚で温度調節をしないこと。室内の温度計を見ながら、常に室温を26~28度に保つことが重要です」
エアコンに頼らず、扇風機を使う人もいるが、使い方には注意が必要だ。
「エアコンと併用して室内の空気を循環させるのはいいが、扇風機だけに頼るのはかえって危険。温風を浴び続けることになり、熱中症になりかねません」(同前)
気象予報士・森朗氏もこう指摘する。
「アスファルトやコンクリートに覆われた都市部では、夜でも日中の熱が冷めにくい。熱帯夜に窓を開けると、夜中でも暑い空気が入ってくる可能性があります」
熱中症の予防ポイントとして、上医師、森氏ともに口を揃えるのが「湿度管理の重要性」だ。
人間の体には、汗が蒸発する際の気化熱で体温を下げる働きがある。湿度が高い環境では汗をかいても蒸発せず、体の中に熱がこもりやすくなって熱中症を発症しやすい。
熱中症危険度は、室温28度の場合、湿度70%で「警戒レベル」、71%以上では「厳重警戒レベル」となるが、湿度50~60%なら危険度は下がる。
「食事の煮炊きでも部屋の湿度は上がります。外が暑いと、窓を開けても温度や湿度は下がりません。そんな時は上手にエアコンを利用してほしいですね」(森氏)
近年は、部屋の温度を下げ過ぎずに除湿ができる「再熱除湿」機能付きエアコンも増えてきた。今年の夏は節電要請などでエアコンを使うことが憚られる状況になると考えられるが、酷暑の室内における熱中症予防には、エアコンと折り合いをつけて付き合うことが欠かせない。
※週刊ポスト2022年7月8・15日号