高血圧だと診断され、処方された薬を飲み続けているが、できれば薬に頼らず血圧を下げたいと考える人もいるだろう。その一方で現在飲んでいる薬を「すべてやめるのは不安」という人も少なくないはず。降圧剤で数値をコントロールしている場合、一度にやめると急な血圧上昇などのリスクが伴う。
高血圧治療を専門に行なう坂東ハートクリニック(徳島県)の坂東正章院長は、「正しいプロセスを踏めば、降圧剤は減量することが可能だ」と指摘する。薬の種類や量を減らし、副作用などのリスクを避けて身体への負担を少なくする最良の降圧剤選びはどうすれば実現できるのか。坂東医師が言う。
「それぞれの基礎疾患を考慮し、採血検査や患者さんとの問診の結果を参考に薬を調整します。特段の合併症がない患者さんに対して処方頻度が高く、かつ効果的な降圧剤はノルバスク(カルシウム拮抗薬)だと考えています。動悸や顔の火照りといった副作用が出なければ、基本的にはこの薬の服用を続けるのがいいでしょう」(以下「 」内のコメントは坂東医師)
カルシウム拮抗薬は長く使われている種類の降圧剤で、医師も患者も投与により血圧の降下を認識しやすいという。ただ、その効果には個人差がある。坂東医師は、ノルバスクで効果が出にくい場合は「減らして増やす」処方をする。
「一つの薬を最大量まで使用せず、半分の量で効果がない時は、ほかの作用機序の薬を加えると効果的なことがあります。その際は新たに加える薬も設定されている容量の半量程度にしています。
例えばノルバスクの量を半分にして、プロブレス(ARB)を少量追加すると、血圧がよく下がることがあります。患者さんに投与してどのように反応するかを確認していくことが必要です」
同じカルシウム拮抗薬でより効果が強いアダラートCRも選択肢だが、注意が必要だという。
「ノルバスクより降圧効果が強い反面、動悸や顔の火照りの頻度が高いため、私は最初からはこの薬は使用しません」
一方、降圧作用は少し弱いが、副作用の少ないカルシウム拮抗薬もある。
「アテレック、カルブロックなどは腎保護作用があり、動悸や顔の火照りといった副作用が少ないとされています。私の感覚ではノルバスクに比べるとやや降圧効果が低い印象を持っていますが、腎機能が低下した患者さんには使用しています」
薬の選び方は人それぞれ
坂東医師は、薬の種類を変えたり、量を減らす際には体調や数値の変化をしっかりチェックすることを推奨する。
「カルシウム拮抗薬は“万能”な薬ですが、心筋梗塞後や心機能の低下が見られれば、心筋機能の保護を考えて臓器を守る作用があるとされるARBの開始を検討します。ただし、強い腎機能障害がある時は高カリウム血症などを起こす恐れがあると指摘されているため、最初からARBを使用することはありません。
一つの方法ですべての患者さんに適応できるわけではなく、患者さんの諸臓器の機能や電解質の状態を確認して投薬内容を決めていきます」
坂東医師によれば、降圧剤を減らしていくうえでは患者自身にも「自宅で正確に血圧を測る」「降圧の目標数値を教えてもらう」などが求められる。その際に大事になるのが、適切に血圧を計測することだという。
「降圧の経過を見るうえでも正しい計測をしなければいけませんが、間違った測り方をされている方が実に多いのが現状です。
自宅で計測した家庭血圧が実態に近い数字とされますが、その際も座って正しい姿勢で測ることが必要です。誤差が少ない上腕式血圧計で、朝なら起床後排尿して朝食前、夜なら就寝前の排尿後に測りましょう。よくあるのが、挿入式血圧計を使用し、『今日の私の血圧はどうだろうか?』と前のめりの姿勢になるケースです。前屈みは避け、数値は結果が出てから落ち着いて確認してください」
医師の指導により、家庭血圧が120台前半で維持できるようになれば、「通院の必要なし」と判断できるという。
高血圧は大動脈解離やくも膜下出血、心筋梗塞など突然死を招く病の“引き金”になるリスクもある。今の身体に最適な選択肢は何か、薬を選ぶ際にも自らが責任を持って検討していきたい。
※週刊ポスト2023年3月24日号
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